説明

エンジン異常燃焼時の停止制御方法

【課題】異常燃焼によってエンジン回転数が制御できなくなった場合にエンジンの停止を行うことができるエンジン異常燃焼時の停止制御方法を提供する。
【解決手段】エンジン10の吸気系に電動過給器11が接続された車両で、燃焼室18内にオイルや燃料が異常流入して異常燃焼が生じ、エンジン回転数が制御できなくなった際にエンジン10の停止を行うエンジン異常燃焼時の停止制御方法であって、異常燃焼が生じたとき、電動過給器11のモータ14をブレーキ制御してタービン回転を停止するエンジン停止制御を行う方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動過給器を備えた車両で、異常燃焼によってエンジン回転数が制御できなくなった場合にエンジンの停止を行うエンジン異常燃焼時の停止制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車において、異常燃焼によってエンジン回転数の制御ができなくなり、アクセル開度が0%であるにもかかわらず、エンジン回転数が定格回転数以上に上昇し、しばらくエンジン回転数が下がらないといった現象が生じる場合がある。
【0003】
その原因は、エンジン筒内の燃焼室にオイル(エンジンオイルなど)や燃料が溜まり、その溜まったオイルや燃料が燃焼し続けるためである。その要因として以下の(1)〜(7)に示す場合が考えられる。
【0004】
(1)オイルミストを大量に含むブローバイガスが吸入空気路に戻され、これがエンジン筒内に吸入される場合。
【0005】
(2)過給器の潤滑油が軸シール不良などで吸入空気経路に漏れ、これがエンジン筒内に吸引される場合。
【0006】
(3)エンジンオイルがヘッド側よりバルブステムシールを通して燃焼室内に漏れてくる場合。
【0007】
(4)過回転や排気ブレーキの使用によりクランクケース内圧が上がり、オイルが筒内に進入してくる場合。
【0008】
(5)燃料噴射インジェクタの故障などにより大量の燃料がエンジン筒内に噴射される場合。
【0009】
(6)後処理添加剤用に多量の燃料を膨張行程中間から終了付近に噴射し、それが排気されずエンジン筒内に残留した場合。
【0010】
(7)規定量以上のエンジンオイルを入れてしまい、そのエンジンオイルが燃焼室に流入してきた場合。
【0011】
これらを要因として燃焼室内にオイルや燃料が溜まった結果、異常燃焼が起こり、燃料無噴射にもかかわらずエンジン回転数が上昇してしまうことがある。燃焼室内に溜まったオイルや燃料に一旦火がつくと、その燃料が無くなるか、燃焼に必要な酸素が無くなるまでエンジンは異常燃焼を続け、エンジン回転数は下がらない。このとき、エンジンの破損を最小限にし、車両暴走を抑えるためには、エンジン回転数を速やかに下げなくてはならない。
【0012】
そのため、異常燃焼を判定する方法やエンジンを停止させる方法などが提案されてきた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−107458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来の過給器搭載エンジンでは、異常燃焼時に排気温度が上昇し、その排気エネルギにより過給器のタービンが仕事をしてしまい、新規吸入空気が更に増加して異常燃焼が停止しにくい状態になってしまうという問題があった。
【0015】
そこで、本発明の目的は、異常燃焼によってエンジン回転数が制御できなくなった場合にエンジンの停止を行うことができるエンジン異常燃焼時の停止制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的を達成するために創案された本発明は、エンジンの吸気系に電動過給器が接続された車両で、燃焼室内にオイルや燃料が異常流入して異常燃焼が生じ、エンジン回転数が制御できなくなった際にエンジンの停止を行うエンジン異常燃焼時の停止制御方法であって、異常燃焼が生じたとき、電動過給器のモータをブレーキ制御してタービン回転を停止するエンジン停止制御を行うエンジン異常燃焼時の停止制御方法である。
【0017】
異常燃焼が生じているか否かの判定は、指示燃料噴射量、エンジン回転数、電動過給器のタービン回転数、新規吸入空気量、排気温度をそれぞれ設定した閾値と比べて行うと良い。
【0018】
異常燃焼が一定時間以上継続したときにエンジン停止制御を行うと良い。
【0019】
エンジン停止制御では、更に、燃料噴射を停止し、噴射圧力を0MPaにし、吸気弁を閉じ、VGTベーンの開度を閉じると良い。
【0020】
エンジン停止制御後、エンジンの停止を判定し、エンジンが停止した場合は通常制御に移行し、エンジンが停止していない場合はエンジン停止制御を継続すると良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、異常燃焼によってエンジン回転数が制御できなくなった場合にエンジンの停止を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の対象となるエンジンの一例を示す概略図である。
【図2】本発明の対象となる燃料噴射系の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の対象となるエンジン回転数領域を示す図である。
【図4】異常燃焼の判定を説明する図である。
【図5】本発明に係るエンジン異常燃焼時の停止制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0024】
図1は、本発明の対象となるエンジンの一例を示す概略図であり、図2は、本発明の対象となる燃料噴射系の一例を示す概略図である。
【0025】
図1に示すように、本発明の対象となるエンジン10は、吸気系に電動過給器11が接続されており、排気エネルギにより電動過給器11のタービン(排気タービン)12を駆動させてコンプレッサ(吸気コンプレッサ)13により過給するようになっている。
【0026】
電動過給器11は、モータ14によって同一軸上のタービン12とコンプレッサ13を回転させることができ、排ガスの流速によらず任意の回転が得られるものである。
【0027】
コンプレッサ13で圧縮され高温となった空気は、チャージエアクーラ15にて一気に冷却され、吸気スロットル16で吸気量が調整された後、吸気弁17を介して燃焼室18に供給されて燃焼に使用される。未燃焼の混合ガス、即ち、ブローバイガスは、リターンパス19を通じて吸気側に環流される。
【0028】
その後、燃焼に使用された排ガスは、排気弁20を介して排気され、その排気エネルギによってタービン12を駆動する。タービン12の前段には、エンジン回転数に応じてタービンブレードの開口面積を可変させることで排ガスの流量を変化させ、過給効率や排気圧力を調節するVGTベーン21が設けられている。
【0029】
排気の際には、排気の一部を吸気に戻すことにより、排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)を行うようになっている。EGRを行うことでNOXの排出量を低減することができる。
【0030】
EGRでは、高温の排気を直接吸気すると吸気温度が上昇して、吸気充填効率の低下を招いてしまうことから、排ガスはEGRクーラ22で一旦冷却されてから吸気に投入される。EGRクーラ22の後段には、EGRバルブ23が設けられており、その開度を制御することにより、EGR量を調節できるようになっている。
【0031】
エンジン10の制御を行うためのECU(Engine Control Unit)24には、吸気流量を検出するためのエアフローセンサ25、吸気スロットル16、燃焼室18に燃料を噴射するための燃料インジェクタ26、VGTベーン21、排気温度を検出するための排気温度センサ27、ピストン28に接続されたクランクシャフト29のクランク角度を検出するクランク角度センサ30、電動過給器11のモータ14などが接続されている。
【0032】
図2に示すように、本発明の対象となる燃料噴射系は、複数気筒のコモンレール噴射系であり、エンジン回転数によらず任意の噴射圧力を得られるものである。
【0033】
コモンレール31に蓄圧した燃料を噴射ノズルである各燃料インジェクタ26に供給するようになっている。そのため、コモンレール31に燃料を所定の圧力に加圧して圧送する高圧ポンプ32が設けられている。つまり、このコモンレール噴射系では、噴射圧力はコモンレール31に蓄えられる圧力に依存する。
【0034】
通常はコモンレール31の実圧力を圧力センサ33によってモニタ(フィードバック)しながら、高圧ポンプ32の吐出量制御バルブ34を制御してその吐出量を制御している。
【0035】
さて、本発明は、エンジン10の吸気系に電動過給器11が接続された車両で、燃焼室18内にオイルや燃料が異常流入して異常燃焼が生じ、エンジン回転数が制御できなくなった際にエンジン10の停止を行うエンジン異常燃焼時の停止制御方法である。
【0036】
具体的には、異常燃焼が生じたとき、電動過給器11のモータ14をブレーキ制御してタービン回転を停止することで、排気圧力を増加させてポンピング損失を増やし、これにより新規吸入空気量を少なくして異常燃焼を抑える方法である。
【0037】
このエンジン異常燃焼時の停止制御方法を実行するに際し、異常燃焼を判定する必要がある。異常燃焼の判定について図3を用いて説明する。
【0038】
図3は、エンジン停止制御を実行する運転領域のイメージを示す図である。
【0039】
図3に示すように、エンジン始動により燃料噴射量が一気に上昇した後、燃料噴射量が落ち着くアイドル運転領域Aに突入し、次いで、通常運転領域Bに突入する。この図は、全負荷燃料ラインを示す図であり、平地を走行している場合においては、ここで示す回転数a(例えば、4600rpm)が設計上、設定上限のエンジン回転数となる。そのため、エンジン回転数が回転数aより大きくなったときを異常燃焼と判定する。
【0040】
ところが、車両重量が大きい場合や下り坂をエンジンブレーキで降りるときはエンジン回転数が回転数aよりも大きくなることがあり、この場合異常燃焼は生じていないのでエンジン停止制御を行う必要がない。
【0041】
そこで、本発明においては、異常燃焼が生じているか否かの判定は、エンジン回転数に加えて、指示燃料噴射量、電動過給器のタービン回転数、新規吸入空気量をそれぞれ設定した閾値と比べて行うようにし、異常燃焼時とそれ以外の状態とを区別できるようにした。なお、これらの検出値は、ECU24によって参照される。
【0042】
つまり、図4に示すように、異常燃焼時には、指示燃料噴射量が0mm3/stであるにもかかわらず、電動過給器11のタービン回転数や新規吸入空気量、排気温度が上昇するため、これらの検出値が全て異常燃焼の検出閾値を超えたときに異常燃焼と判定するようにした。
【0043】
以下、エンジン異常燃焼時の停止制御方法の詳細を図5のフローチャートを用いて説明する。
【0044】
図5に示すように、エンジン停止制御を行うに先立ち、異常燃焼が発生しているか否かの判定を行う(S101)。この判定は、(1)指示燃料噴射量、(2)エンジン回転数、(3)電動過給器のタービン回転数、(4)新規吸入空気量、(5)排気温度の各条件を参照して行う。
【0045】
指示燃料噴射量は、ドライバーが燃料噴射を意図しているか否かを確認するためのパラメータであり、その検出値が0mm3/stとなっているときに条件(1)を満たす。
【0046】
エンジン回転数は、過回転やエンジンブレーキで下り坂を降りている状態か否かを確認するためのパラメータであり、その検出値が前述の回転数aより大きいときに条件(2)を満たす。
【0047】
電動過給器のタービン回転数は、エンジン負荷の確認、即ち、タービン12の仕事量を大まかに推定するためのパラメータであり、その検出値が設定した検出閾値より大きいときに条件(3)を満たす。
【0048】
新規吸入空気量は、エンジン負荷の確認、即ち、筒内で燃焼しているか否かを確認するためのパラメータであり、その検出値が設定した検出閾値より大きいときに条件(4)を満たす。
【0049】
排気温度は、エンジン負荷の確認、即ち、筒内で燃焼しているか否かを確認するためのパラメータであり、その検出値が設定した検出閾値より大きいときに条件(5)を満たす。
【0050】
これら(1)〜(5)の全ての条件を満たしたときに異常燃焼が発生していると判定する。
【0051】
ここで異常燃焼が発生していないと判定された場合には、通常制御に移行し(S105)、エンジン異常燃焼時の停止制御を終了する。
【0052】
一方、異常燃焼が発生していると判定された場合には、異常燃焼が一定時間継続されているか否かを判定する(S102)。この判定により、データハンチングによる誤検出を防止することができる。継続時間として、数秒(例えば、5秒)程度の検出閾値を設定すると良い。
【0053】
ここで継続時間が検出閾値以下の場合には、データハンチングによる誤検出のおそれがあるので、通常制御に移行し(S105)、エンジン異常燃焼時の停止制御を終了する。
【0054】
一方、継続時間が検出閾値より長い場合には、エンジン停止制御を行う(S103)。異常燃焼時にエンジン10を停止させるには、燃焼に必要な新規吸入空気量を減らし、失火させる手段が有効である。そのため、エンジン停止制御においては、燃料噴射を停止して制御的に燃料噴射をストップさせ、噴射圧力を0MPaにして物理的に燃料噴射をできないようにし、吸気スロットル16を閉じて燃焼に必要な酸素量を減らす。更に、電動過給器11のモータ14をブレーキ制御してタービン回転を停止させ、異常燃焼で電動過給器11が仕事をしないようにして、新規吸入空気量を下げ、VGTベーン21の開度を閉じてEGRバルブ23の開度を閉じ排気圧力を上げてポンピング損失を大きくして新規吸入空気量を更に下げる。
【0055】
そして、このエンジン停止制御後、エンジン回転数を参照してエンジン10が停止したか否かを判定する(S104)。ここでは、エンジン回転数が0rpmとなっているときにエンジン10が停止したと判定する。
【0056】
エンジン10が未だ停止していない場合には、エンジン停止制御を継続し(S103)、エンジン10が停止した場合には、エンジン停止制御を終了して通常制御に移行し(S105)、エンジン異常燃焼時の停止制御を終了する。
【0057】
このようにエンジン異常燃焼時の停止制御方法では、異常燃焼時であってもタービン回転数を任意に設定、即ち、停止させることができる電動過給器11を利用することによって、排気圧力を増加させてポンピング損失を増やし、これにより新規吸入空気量を少なくして異常燃焼を抑えることができる。
【0058】
以上要するに、本発明によれば、エンジン異常燃焼時の停止制御方法の実施により素早く新規吸入空気量を少なくすることができ、異常燃焼を速やかに止めることができる。これにより、エンジン停止までの時間を大幅に短縮することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 エンジン
11 電動過給器
12 タービン
13 コンプレッサ
14 モータ
15 チャージエアクーラ
16 吸気スロットル
17 吸気弁
18 燃焼室
19 リターンパス
20 排気弁
21 VGTベーン
22 EGRクーラ
23 EGRバルブ
24 ECU
25 エアフローセンサ
26 燃料インジェクタ
27 排気温度センサ
28 ピストン
29 クランクシャフト
30 クランク角度センサ
31 コモンレール
32 高圧ポンプ
33 圧力センサ
34 吐出量制御バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気系に電動過給器が接続された車両で、燃焼室内にオイルや燃料が異常流入して異常燃焼が生じ、エンジン回転数が制御できなくなった際にエンジンの停止を行うエンジン異常燃焼時の停止制御方法であって、異常燃焼が生じたとき、電動過給器のモータをブレーキ制御してタービン回転を停止するエンジン停止制御を行うことを特徴とするエンジン異常燃焼時の停止制御方法。
【請求項2】
異常燃焼が生じているか否かの判定は、指示燃料噴射量、エンジン回転数、電動過給器のタービン回転数、新規吸入空気量、排気温度をそれぞれ設定した閾値と比べて行う請求項1に記載のエンジン異常燃焼時の停止制御方法。
【請求項3】
異常燃焼が一定時間以上継続したときにエンジン停止制御を行う請求項1又は2に記載のエンジン異常燃焼時の停止制御方法。
【請求項4】
エンジン停止制御では、更に、燃料噴射を停止し、噴射圧力を0MPaにし、吸気弁を閉じ、VGTベーンの開度を閉じる請求項1〜3のいずれかに記載のエンジン異常燃焼時の停止制御方法。
【請求項5】
エンジン停止制御後、エンジンの停止を判定し、エンジンが停止した場合は通常制御に移行し、エンジンが停止していない場合はエンジン停止制御を継続する請求項1〜4のいずれかに記載のエンジン異常燃焼時の停止制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−92788(P2012−92788A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242529(P2010−242529)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】