説明

キャパシタ素子、半導体装置、およびキャパシタ素子の製造方法

【課題】信頼性が良好であって容量密度が大きなキャパシタ素子、当該キャパシタ素子を有する半導体装置、および当該キャパシタ素子を製造するキャパシタ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】組成が(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となるとともに、結晶の面内歪みεが、−0.4<ε<0.4である誘電体層と、前記誘電体層を上下に挟持する上部電極および下部電極と、前記上部電極、下部電極、および誘電体層が設置される基板と、を有することを特徴とするキャパシタ素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体層を有するキャパシタ素子、当該キャパシタ素子を有する半導体装置、および当該キャパシタ素子を製造するキャパシタ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自発分極性を有する強誘電体層は、例えば、デカップリングキャパシタを構成するキャパシタ素子や、または、DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)などの半導体装置を構成するキャパシタ素子において広く用いられている。
【0003】
しかし、上記のキャパシタ素子を微細化する場合には、強誘電体層が占める面積を小さくする必要がある。例えば、メモリに蓄積できる電荷の量はキャパシタ素子の面積に比例するため、メモリの微細化や、または大容量化を考えた場合には、誘電体層の比誘電率を大きくして誘電体層の容量密度を大きくすることが必要となる。
【0004】
例えば、キャパシタ素子の強誘電体層を構成する金属酸化物としては、バリウムストロンチウムチタネート(BaSrTiO)のようなペロブスカイト構造を有する誘電材料が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
上記の強誘電体層の比誘電率を大きくするためには、強誘電体層の結晶性と、薄膜状に形成された強誘電体層の応力(ストレス)を制御することが重要な要素となる。強誘電体層の結晶性を改善するためには、例えば強誘電体層を形成する場合の処理温度を高くすればよい。
【特許文献1】特公平8−18867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、強誘電体層の処理温度を高くすると、以下に示すように様々な問題が生じてしまう場合があった。例えば、処理温度を高くした場合には、強誘電体層の誘電損失が大きくなる場合があった。また、強誘電体層のリーク電流が増大する場合があり、キャパシタ素子の信頼性が低下してしまう問題が生じる場合があった。
【0007】
また、処理温度が高い場合には、例えばSiよりなる基板と強誘電体層の熱膨張の違いによって、強誘電体層に大きな引っ張り応力がかかり、結晶に大きな面内歪みが生じてしまう場合があった。このように強誘電体層を構成する結晶の面内歪みが大きくなると、比誘電率の低下やリーク電流の増大など、強誘電体層の電気的な特性の劣化が生じてしまう。
【0008】
例えば、上記の強誘電体層に発生するストレスは、強誘電体層を構成する結晶と格子整合のとれた結晶を有する基板を選択することにより、緩和することが可能である。しかし、基板を選択することによって強誘電体層のストレスを緩和しようとする場合には、強誘電体層の形成に用いることが可能となる基板が制限されてしまい、この方法をとることは現実的には困難である。
【0009】
そこで、本発明では、上記の問題を解決した、新規で有用なキャパシタ素子、当該キャパシタ素子を有する半導体装置、および当該キャパシタ素子を製造するキャパシタ素子の製造方法を提供することを統括的課題としている。
【0010】
本発明の具体的な課題は、信頼性が良好であって容量密度が大きなキャパシタ素子、当該キャパシタ素子を有する半導体装置、および当該キャパシタ素子を製造するキャパシタ素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点では、上記の課題を、組成が(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となる誘電体層と、前記誘電体層を上下に挟持する上部電極および下部電極と、前記上部電極、下部電極、および誘電体層が設置される基板と、を有することを特徴とするキャパシタ素子により、解決する。
【0012】
また、本発明の第2の観点では、上記の課題を、半導体材料よりなる基板に形成された半導体素子と、組成が(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となる誘電体層が、上部電極および下部電極に上下に挟持されてなる、前記半導体素子と接続されるキャパシタ素子と、を有することを特徴とする半導体装置により、解決する。
【0013】
また、本発明の第3の観点では、上記の課題を、基板上に下部電極を形成する工程と、前記下部電極上に、組成が(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となる誘電体層を形成する工程と、前記誘電体層上に上部電極を形成する工程と、を有することを特徴とするキャパシタ素子の製造方法により、解決する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、信頼性が良好であって容量密度が大きなキャパシタ素子、当該キャパシタ素子を有する半導体装置、および当該キャパシタ素子を製造するキャパシタ素子の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明によるキャパシタ素子は、誘電体層(強誘電体層)と、前記誘電体層を上下に挟持する上部電極および下部電極と、前記上部電極、下部電極、および誘電体層が設置される基板と、を有している。
【0016】
上記の誘電体層(強誘電体層)を構成する結晶は、ペロブスカイト構造を有している。ペロブスカイト構造は、例えば、一般式ABOで表現される。ペロブスカイト構造は、理想的には立方晶系の単位格子を有し、立方晶の各頂点に金属Aが、体心に金属Bが、金属Bを中心として酸素Oが立方晶の各面心に配置される。また、上記の構造は容易に転移することが知られている。
【0017】
本発明の発明者は、ペロブスカイト構造を有するバリウムストロンチウムチタネートにScを添加して特定のSc変性組成で誘電体層を構成した場合、当該誘電体層の比誘電率が大きくなって、容量密度を大きくすることが可能となることを見出した。また、この場合に誘電体層のリーク電流が小さくなるとともにtanδ(誘電正接)が小さくなり、構成されるキャパシタの信頼性が良好をなることを見出した。
【0018】
本発明によるキャパシタ素子の誘電体層は、組成が(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となるように構成されることが特徴である。
【0019】
Scは、一般式ABOで示されるペロブスカイト構造の格子に含まれるドーパントである。例えば、ScはABOで示されるペロブスカイト構造のAサイト、またはBサイト、もしくはAサイトとBサイトの双方を置換する可能性があると考えられる。
【0020】
例えば、A/B<1((Ba+Sr)/Ti<1)である場合、Scは、おもにAサイトを置換し、一方、A/B>1((Ba+Sr)/Ti>1)である場合、ScはおもにBサイトを置換する。また、A/B=1の場合には、ScはAサイト、Bサイトの双方を同程度に置換する。
【0021】
なお、A/B<1の場合であっても、必ずしもScはBサイトを全く置換しないとは限らない。同様に、A/B>1の場合であっても、必ずしもScはAサイトを全く置換しないとは限らない。
ペロブスカイト格子に含まれるScの原子価はSc+3であり、そのため、A/B<1である場合、Scはドナー型のドーパントとなり、A/B>1である場合、Scはアクセプタ型のドーパントとなる。
【0022】
本発明の発明者は、上記のScのドープにおいて、A/B>1の場合であって、Scがおもにアクセプタ型のドーパタントとなり、ScがおもにTiを置換する場合に誘電体層の電気特性の改善(比誘電率の増大、リーク電流の減少、tanδの減少)が生じることを初めて見出した。また、A/B>1の場合、すなわち、ScがおもにTiを置換する場合には、上記の誘電体層の組成を示す一般式において、z≦yとなる。
【0023】
バリウムストロンチウムチタネートにScを添加する場合であって、かつ、ScがおもにTiを置換する場合(((Ba+Sr)/Ti>1)である場合)に、上記の電気特性が改善される理由としては、以下のことが考えられる。
【0024】
例えば、Scが上記の条件で添加されることで、結晶のセルボリュームが大きくなる(単位格子体積が大きくなる)と考えられる。結晶の単位格子体積が大きくなると、キューリーポイントが大きくなり、比誘電率が大きくなる効果を奏する。
【0025】
また、単位格子体積が大きくなることで、誘電体層には圧縮応力が生じることになる。例えば、Siよりなる基板上にバリウムストロンチウムチタネートよりなる誘電体層を形成する場合、誘電体層には基板からみて引っ張り応力が生じることが一般的である。特に処理温度が高い場合には、誘電体層の引っ張り応力が大きくなり、このことが誘電体層を構成する結晶の面内歪みを誘起して、誘電体層の電気特性の劣化を生じさせる場合があった。
【0026】
本発明の発明者は、誘電体層にScを添加することによって上記の問題を解決可能であることを見出した。誘電体層にScが添加されると、誘電体層を構成する結晶の単位格子体積が大きくなり、誘電体層が本来有している基板に対する引っ張り応力が緩和される。このため、結晶の面内歪みを小さくすることができる。したがって、Scの添加によって、例えば誘電体層の比誘電率を増大させるなど、誘電体層の電気的な特性を良好とすることが可能となる。
【0027】
また、例えば上記のScと同様にして、バリウムストロンチウムチタネートにYを添加してもよい。Yの原子価はY+3であり、バリウムストロンチウムチタネートにYを添加した場合においても、誘電体層を構成する結晶の単位格子体積を大きくし、比誘電率を大きくする効果を奏する。
【0028】
しかし、ScとYはイオン半径が異なるため、上記の単位格子体積を大きくする程度が異なる。Scのイオン半径はYのイオン半径に比べて小さいため、単位格子体積を大きくする効果はYに比べて小さくなる。例えば、誘電体層に発生する引っ張り応力は、成膜条件(処理温度)によって大きく異なる。また、形成される基板によっても誘電体層の応力は大きく異なることになる。このため、上記の成膜条件や用いられる基板によっては、Yを用いた場合には単位格子体積を大きくする効果が強すぎて、比誘電率を大きくする所望の効果が得られない場合がある。このような場合には、添加する元素としてYよりもScを選択した場合に、比誘電率を大きくする効果が大きくなる。
【0029】
図1は、バリウムストロンチウムチタネート(Sc添加無し)と、バリウムストロンチウムチタネートにScを添加したもの(Sc添加有り)の、それぞれの格子パラメータを、XRD(X線回折)による測定によって求めた結果を示す図である。上記のXRDの測定においては、X線の入射角が所定の角度(例えば測定面に対して垂直方向)における測定結果から求められる格子パラメータと、当該所定の角度(垂直方向)からχだけ傾けた角度におけるXRDによる測定を行う。上記の測定によって、実質的に応力を受けている場合の格子パラメータ(ストレスド格子パラメータ)と、実質的に応力を受けない場合の格子パラメータ(アンストレスド格子パラメータ)が求められる。このような分析方法をsinχ分析と呼ぶ場合がある。これらの格子パラメータから、それぞれの場合の面内歪みが算出される。
【0030】
上記の場合において、Sc添加無しの場合には、強誘電体の組成は、(Ba0.63,Sr0.37)Ti1.03であった。この場合、Tiの構成比率は50.7原子%であり、僅かにTiリッチとなっている。また、Sc添加ありの場合は、強誘電体の組成は、(Ba0.63,Sr0.37)Ti0.77Sc0.01であった。この場合、Tiの構成比率は43.4原子%であり、Scの構成比率は1原子%であった。
【0031】
図1を参照するに、Sc添加無しの場合の面内歪みが0.00535(5.35%)であるのに対して、Scを添加した場合(Scが1原子%)、面内歪みは、0.0016(1.6%)となっている。すなわち、Scを添加したことで、結晶の面内歪みが小さくなっていることが確認された。上記のScの添加によって、誘電体層を構成する結晶の面内歪みεは、−0.4<ε<0.4とすることができる。
【0032】
また、図2は、バリウムストロンチウムチタネートにScを添加する場合に、Scを添加する割合を、0原子%(添加無し)、0.4原子%、1.7原子%とした場合のBa,Sr,Tiの構成比(原子%)をXRF(蛍光X線分析)によって測定した結果を示したものである。
【0033】
図2を参照するに、Scの添加量が多くなるに従い、Tiの構成比率が小さくなっていることがわかる。すなわち、添加されるScはおもにTiを置換していることがわかる。
【0034】
また、図3は、バリウムストロンチウムチタネートにScを添加する場合に、Scを添加する割合を、0原子%(添加無し)〜3原子%に変化させた場合の誘電体層の比誘電率を測定した結果を示したものである。
【0035】
図3を参照するに、Scの添加無しの場合には比誘電率が230程度であったものが、Scの構成比が0.5原子%の場合には比誘電率が250に増大していることがわかる。また、Scの構成比率が2%程度までは、Scの添加量(Scの構成比率)が増大するにしたがって誘電体層の比誘電率が増大していることがわかる。すなわち、Scの添加によって誘電体層の比誘電率を大きくし、容量密度の大きなキャパシタ素子を形成することが可能となることが確認された。
【0036】
また、図4は、バリウムストロンチウムチタネートにScを添加しない場合(Sc0%と表記)と、バリウムストロンチウムチタネートに、構成比率が1.7原子%となるようにScを添加した場合(Sc1.7%と表記)の、それぞれの場合の印加電圧に対する比誘電率の挙動を示した図である。
【0037】
また、図5は、バリウムストロンチウムチタネートにScを添加しない場合(Sc0%と表記)と、バリウムストロンチウムチタネートに、構成比率が1.7原子%となるようにScを添加した場合(Sc1.7%と表記)の、それぞれの場合の印加電圧に対する誘電正接(tanδ)の挙動を示した図である。
【0038】
図4、図5を参照するに、Scを添加しない場合には、印加電圧が正の場合と印加電圧が負の場合において、印加電圧に対する比誘電率の挙動が大きく異なっていることがわかる。また、印加電圧が正の場合と印加電圧が負の場合において、誘電正接の値が大きく異なっていることがわかる。すなわち、Scを添加しない場合には、印加電圧に対する電気特性の挙動が不安定であり、また、誘電損失の値の変動が大きいことがわかる。
【0039】
一方で、Scを添加した場合には、印加電圧が正の場合と印加電圧が負の場合において、印加電圧に対する比誘電率の挙動が対象となっている。また、印加電圧を変化させた場合の誘電正接の値が安定していることがわかる。
【0040】
また、図6は、バリウムストロンチウムチタネートにScを添加しない場合(Sc0%と表記)と、バリウムストロンチウムチタネートに、構成比率が1.7原子%となるようにScを添加した場合(Sc1.7%と表記)の、それぞれの場合の印加電圧に対するリーク電流の挙動を示した図である。
【0041】
図6を参照するに、Scを添加しない場合に比べて、Scを添加した場合には、リーク電流の値が減少していることがわかる。このように、バリウムストロンチウムチタネートにScを添加すると、印加電圧に対する電気特性の挙動が安定するとともに、リーク電流が減少し、信頼性の高いキャパシタ素子を構成することが可能となることが確認された。
【0042】
次に、上記の誘電体層を用いたキャパシタ素子のさらに具体的な構成例について、図面に基づき、以下に説明する。
【実施例1】
【0043】
図7は、本発明の実施例1によるキャパシタ素子100を模式的に示した断面図である。図7を参照するに、キャパシタ素子100は、誘電体層(強誘電体層)103と、誘電体層103を上下に挟持する上部電極104および下部電極102と、上部電極104、下部電極102、および誘電体層103が設置される基板101と、を有している。
【0044】
本実施例によるキャパシタ素子100においては、上記の誘電体層103が、組成が一般式(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となる材料により構成されていることが特徴である。上記の誘電体層103を用いたことで、キャパシタ素子100は、先に説明したように、信頼性が良好であって容量密度が大きくなっている。
【0045】
また、誘電体層103は、特に厚さが限定されるものではないが、薄膜状に形成されるものであり、例えば厚さが1nm乃至10000nmとなるように構成される。また、キャパシタ素子100を、例えば半導体装置のデバイスに用いる場合、誘電体層103の厚さは、例えば、10nm乃至300nmの厚さとなるように形成される。
【0046】
また、誘電体層103は、上記の一般式に記載された元素を成分として含む他に、他の元素を含んでいてもよい。例えば、誘電体層103は、Al,Fe,Mn,Ni,Co,Mg,Lu,Er,Y,Ho,Dy,Gd,およびTmのうちの少なくともいずれか1つを、1000ppm以上含むように構成されてもよい。
【0047】
基板101は、例えばSiなどの半導体材料により構成されるが、これに限定されるものではない。例えば、基板101は、Ge,SiGe,GaAs,InAs,InPよりなる群より選択される材料により構成されてもよい。また、基板101は、上記の元素または化合物以外であって、周期律表の第III族及び第V族の元素から誘導された化合物により構成されていてもよい。
【0048】
また、下部電極102は、例えば、Ptを主成分として構成されるが、下部電極102を構成する材料はこれに限定されない。例えば、下部電極102は、Pt,Pd,Ir,Ru,Rh,Re,Os,Au,Ag,Cu,PtO,IrO,およびRuOの少なくともいずれか1つを含むように構成してもよい。
【0049】
また、上部電極104は、例えば、IrOを主成分として構成されるが、上部電極104を構成する材料はこれに限定されない。例えば、上部電極104は、Pd,Ir,Ru,Rh,Re,Os,Au,Ag,Cu,PtO,IrO,RuO,SrRuO,およびLaNiOの少なくともいずれか1つを含むように構成してもよい。
【0050】
また、下部電極102と基板101の間には、例えば、SiOよりなる絶縁層105が形成されていてもよい。また、絶縁層105はSiOに限定されず、例えば、金属の酸化物、金属の窒化物、金属の酸窒化物、高誘電率の金属酸化物、キセロゲル、有機樹脂、又はこれらの組み合わせ、もしくは混合物により形成してもよい。また、絶縁層105は、実質的に単層で形成してもよく、また、2層以上の多層構造で形成してもよい。
【0051】
また、下部電極102と絶縁層105の間には、例えば、TiOよりなる密着層106が形成されていてもよい。上記の密着層106を形成することで、絶縁層105と下部電極102の結合強度を増加させることが可能となる。例えば、密着層105は、貴金属、貴金属を含む合金、貴金属の導電性酸化物、金属酸化物、金属窒化物の少なくともいずれか1つを含むように構成してもよい。また、具体的には、密着層105が、Pt,Ir,Zr,Ti,TiO,IrO,PtO,TiN,TiAlN,TaN,およびTaSiNの少なくともいずれか1つを含むように構成してもよい。また、密着層106は、実質的に単層で形成してもよく、また、2層以上の多層構造で形成してもよい。
【0052】
また、上部電極104上には、例えばSiN,SiOなどよりなる保護層(パッシベーション層)が形成されていてもよい。
【0053】
上記のキャパシタ素子100は、例えば、直列に複数接続したり、または並列に複数接続するなど、様々に接続、配置して用いることが可能である。また、上記のキャパシタ素子100を用いて、例えば、フィルタ回路を構成したり、または、半導体装置のデバイス(例えばDRAMなど)を構成することも可能である。キャパシタ素子100を半導体装置に用いた例については図10で後述する。
【実施例2】
【0054】
図8は、本発明の実施例2によるキャパシタ素子100を模式的に示す断面図である。ただし、先に説明した部分には同一の符号を付し、説明を省略する(以下の図、実施例についても同様)。
【0055】
図8を参照するに、本実施例によるキャパシタ素子100Aでは、実施例1のキャパシタ素子100の上部電極104に相当する上部電極104Aが、複数の層より形成されていることが特徴である。上記の上部電極104Aは、例えば、誘電体層104に接する金属酸化物層を含む第1の上部電極104aと、第1の上部電極104a上に積層される第2の上部電極104bを含むように構成されている。
【0056】
上記の第1の上部電極104aは、例えば、IrOを主成分として構成されるが、第1の上部電極104を構成する材料はこれに限定されない。例えば、第1の上部電極104aの主成分である金属酸化物は、IrO,SrRuO,PtO,およびAuOの少なくともいずれか1つを含むように構成してもよい。
【0057】
また、第2の上部電極104bは、例えば、Ptにより形成されるが、これに限定されるものではない。第2の上部電極104bは、Pt,Pd,Ir,Ru,Rh,Re,Os,Au,Ag,およびCuよりなる群より選択される金属を主成分として構成してもよい。上記のように上部電極を複数の層よりなる積層構造とすることで、キャパシタ素子の信頼性を良好とすると共に、上部電極の抵抗値を低くすることが可能となる。
【0058】
すなわち、Pt,Pd,Ir,Ru,Rh,Re,Os,Au,Ag,およびCuなどの抵抗値の低い金属材料を上部電極として用いる場合には、当該金属材料と誘電体層103の間に、IrO,SrRuO,PtO,およびAuOなどの金属酸化物層を挟むことで、キャパシタ素子の信頼性を良好とすることができる。
【実施例3】
【0059】
次に、キャパシタ素子の製造方法について、図7に示したキャパシタ素子100の場合を例にとり、以下に説明する。
【0060】
図9A〜図9Cは、先に説明したキャパシタ素子100の製造方法を手順を追って示す図である。
【0061】
まず、図9Aに示す工程において、シリコンよりなる基板(例えばシリコンウェハ)101上に熱酸化により、SiOよりなる絶縁層105を形成する。次に、絶縁層105上に、RFマグネトロンスパッタリング法より、酸化チタンTiOよりなる密着層106と、Ptよりなる下部電極102を順次成膜する。例えば、密着層106は、厚さが20nmとなるように、下部電極102は、厚さが100nmとなるように成膜する。
【0062】
次に、図9Bに示す工程において、RFマグネトロンスパッタリング法により、下部電極102上に、組成が(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となる誘電体層103を成膜する。上記の誘電体層103の成膜においては、所望の薄膜組成と同じ組成のターゲットを用いる。また、成膜条件は、例えば、基板温度500℃、RFパワー100W、圧力0.1Paとし、ArガスとO2ガスの流量比は、4/1とする。例えば、誘電体層103の厚さは、70nmとなるように成膜を行う。
【0063】
また、必要に応じて、上記の成膜の後に、誘電体層103を、100℃乃至900℃の酸素雰囲気中でアニールする工程を設けてもよい。誘電体層103をアニールすることで、誘電体層103の電気特性がさらに良好となる効果を奏する。
【0064】
次に、図9Cに示す工程において、RFマグネトロンスパッタリング法により、誘電体層103上に、例えばIrOよりなる上部電極104を、膜厚が100nmとなるように成膜する。
【0065】
このようにして、図7に示したキャパシタ素子100を形成することができる。また、誘電体層103は、スパッタリング法に限定されず、他の方法によって成膜してもよい。例えば、ゾル・ゲル法、CVD法などの方法を用いてもよい。
【実施例4】
【0066】
次に、上記のキャパシタ素子を備えた半導体装置の一例について説明する。図10は、上記のキャパシタ素子100に相当する構成を備えた半導体装置10を模式的に示した断面図である。図10を参照するに、本図に示す半導体装置10は、例えばシリコンなどの半導体材料により構成される基板11上に形成される。基板11には、例えばSTI(シャロー・トレンチ・アイソレーション)などによって素子分離絶縁膜12が形成され、素子分離絶縁膜12によって画成される素子形成領域には、例えばMOSトランジスタよりなる半導体素子20が形成されている。
【0067】
半導体素子(MOSトランジスタ)20は、素子形成領域に形成されたチャネル21と、チャネル21上に形成されたゲート絶縁膜22上と、ゲート絶縁膜22上に形成されたゲート電極23とを有している。また、ゲート電極23の側壁には、側壁絶縁膜24が形成されている。また、ゲート電極23の両側の基板11には、基板11(チャネル21)と異なる導電型となる不純物領域25,26(ソース領域またはドレイン領域)が形成され、MOSトランジスタが構成されている。
【0068】
また、MOSトランジスタ20を覆うように絶縁層(層間絶縁層)d1が形成され、さらに絶縁層d1上に、絶縁層(層間絶縁層)d2,d3,d4が順に積層されている。また、不純物領域26(不純物領域25)に接続される、プラグp1が、絶縁層d1を貫通するように形成されている。さらに、プラグp1の不純物領域26に接続される側の反対側には、パターン配線m1が接続されている。絶縁層d2は、パターン配線m1を覆うように形成されており、パターン配線m1に接続されるプラグp2が、絶縁層d2を貫通するように形成されている。
【0069】
さらに、絶縁層d2上には、下部電極31と上部電極33の間に誘電体層32が形成されてなるキャパシタ素子(メモリ素子)30が形成されている。下部電極31は、プラグp2に接続され、上部電極33は、キャパシタ素子30を覆うように形成された絶縁層d3を貫通するプラグp3に接続されている。
【0070】
また、絶縁層d3上には、パターン配線m2が形成され、絶縁層d4がパターン配線m2上に形成されている。また、絶縁層d4上には、電極パッドPdが形成され、半導体装置10が構成されている。上記の半導体装置10においては、MOSトランジスタ20によって、キャパシタ素子30のスイッチングが行われる構成になっている。
【0071】
また、上記の構成において、プラグp1,p2,p3は、例えばWよりなるが、Cuを用いて構成してもよい。また、パターン配線m1,m2は、例えばAlよりなるが、Cuを用いて構成してもよい。また、キャパシタ素子に接続される多層配線の層数は、様々に変更することが可能である。
【0072】
上記の構成において、下部電極31は、実施例1の下部電極102に相当し、同様に、誘電体層32は誘電体層103に、上部電極33は上部電極104に相当する。すなわち、誘電体層32は、組成が(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となるように構成されている。このため、上記の半導体装置10が備えるキャパシタ素子30は、信頼性が良好であって容量密度が大きな特徴を有する。
【0073】
また、本発明によるキャパシタ素子は、半導体装置に限定されず、他の様々な電子部品・電子機器などに用いることが可能であることは明らかである。
【0074】
以上、本発明を好ましい実施例について説明したが、本発明は上記の特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した要旨内において様々な変形・変更が可能である。
(付記1)
組成が(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となるとともに、結晶の面内歪みεが、−0.4<ε<0.4である誘電体層と、
前記誘電体層を上下に挟持する上部電極および下部電極と、
前記上部電極、下部電極、および誘電体層が設置される基板と、を有することを特徴とするキャパシタ素子。
(付記2)
前記上部電極は複数の層よりなり、該複数の層は前記誘電体層に接する金属酸化物層を含むことを特徴とする付記1記載のキャパシタ素子。
(付記3)
前記金属酸化物層を構成する金属酸化物は、IrO,SrRuO,PtO,およびAuOの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする付記2記載のキャパシタ素子。
(付記4)
前記基板と前記下部電極の間に形成された密着層をさらに有し、前記密着層が、貴金属、貴金属を含む合金、貴金属の導電性酸化物、金属酸化物、および金属窒化物の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項記載のキャパシタ素子。
(付記5)
前記密着層が、Pt,Ir,Zr,Ti,TiO,IrO,PtO,TiN,TiAlN,TaN,およびTaSiNの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする付記4記載のキャパシタ素子。
(付記6)
前記下部電極が、Pt,Pd,Ir,Ru,Rh,Re,Os,Au,Ag,Cu,PtO,IrO,およびRuOの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする付記1乃至5のいずれか1項記載のキャパシタ素子。
(付記7)
上部電極が、Pt,Pd,Ir,Ru,Rh,Re,Os,Au,Ag,Cu,PtO,IrO,RuO,SrRuO,およびLaNiOの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする付記1乃至6のいずれか1項記載のキャパシタ素子。
(付記8)
前記誘電体層が、Al,Fe,Mn,Ni,Co,Mg,Lu,Er,Y,Ho,Dy,Gd,およびTmのうちの少なくともいずれか1つを、1000ppm以上含むことを特徴とする付記1乃至7のいずれか1項記載のキャパシタ素子。
(付記9)
半導体材料よりなる基板に形成された半導体素子と、
組成が(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となるとともに、結晶の面内歪みεが、−0.4<ε<0.4である誘電体層が、上部電極および下部電極に上下に挟持されてなる、前記半導体素子と接続されるキャパシタ素子と、を有することを特徴とする半導体装置。
(付記10)
基板上に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極上に、組成が(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となるとともに、結晶の面内歪みεが、−0.4<ε<0.4である誘電体層を形成する工程と、
前記誘電体層上に上部電極を形成する工程と、を有することを特徴とするキャパシタ素子の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、信頼性が良好であって容量密度が大きなキャパシタ素子、当該キャパシタ素子を有する半導体装置、および当該キャパシタ素子を製造するキャパシタ素子の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】Scの添加の有無による結晶の面内歪みの違いを示す図である。
【図2】強誘電体層のXRFによる分析結果を示す図である。
【図3】Scの添加による強誘電体層の比誘電率の変化を示す図である。
【図4】Scの添加の有無による比誘電率の挙動の違いを示す図である。
【図5】Scの添加の有無によるtanδの挙動の違いを示す図である。
【図6】Scの添加の有無によるリーク電流の挙動の違いを示す図である。
【図7】実施例1によるキャパシタ素子を模式的に示した図である。
【図8】実施例2によるキャパシタ素子を模式的に示した図である。
【図9A】実施例3によるキャパシタ素子の製造方法を示した図(その1)である。
【図9B】実施例3によるキャパシタ素子の製造方法を示した図(その2)である。
【図9C】実施例3によるキャパシタ素子の製造方法を示した図(その3)である。
【図10】実施例4による半導体装置を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0077】
10 半導体装置
11 基板
12 素子分離絶縁膜
20 半導体素子
100,100A,30 キャパシタ素子
101 基板
102 下部電極
103 誘電体層
104,104A,104a,104b 上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となるとともに、結晶の面内歪みεが、−0.4<ε<0.4である誘電体層と、
前記誘電体層を上下に挟持する上部電極および下部電極と、
前記上部電極、下部電極、および誘電体層が設置される基板と、を有することを特徴とするキャパシタ素子。
【請求項2】
前記上部電極は複数の層よりなり、該複数の層は前記誘電体層に接する金属酸化物層を含むことを特徴とする請求項1記載のキャパシタ素子。
【請求項3】
前記金属酸化物層を構成する金属酸化物は、IrO,SrRuO,PtO,およびAuOの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項2記載のキャパシタ素子。
【請求項4】
前記基板と前記下部電極の間に形成された密着層をさらに有し、前記密着層が、貴金属、貴金属を含む合金、貴金属の導電性酸化物、金属酸化物、および金属窒化物の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のキャパシタ素子。
【請求項5】
前記密着層が、Pt,Ir,Zr,Ti,TiO,IrO,PtO,TiN,TiAlN,TaN,およびTaSiNの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項4記載のキャパシタ素子。
【請求項6】
半導体材料よりなる基板に形成された半導体素子と、
組成が(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となるとともに、結晶の面内歪みεが、−0.4<ε<0.4である誘電体層が、上部電極および下部電極に上下に挟持されてなる、前記半導体素子と接続されるキャパシタ素子と、を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
基板上に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極上に、組成が(Ba1−x,Sr)Ti1−zSc3+δ(但し、0<x<1,0.01<z<0.3,0.005<y<0.02,−0.5<δ<0.5)となるとともに、結晶の面内歪みεが、−0.4<ε<0.4である誘電体層を形成する工程と、
前記誘電体層上に上部電極を形成する工程と、を有することを特徴とするキャパシタ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−210955(P2008−210955A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45550(P2007−45550)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】