説明

コンパレータ回路

【課題】フォールデッドカスコード接続の差動増幅段を有するコンパレータにおいて、オフセットの温度依存性を減らし検出精度を向上させる。
【解決手段】ソース共通接続された一対の差動MOSトランジスタを有する差動入力段(11)と、差動MOSトランジスタのドレイン端子にフォールデッドカスコード接続されたカスコード段(12)と、差動入力段とカスコード段に共通に接続された電流回路(Mn11〜Mn13,Mn21〜Mn23)と、カスコード段の出力ノードに接続された出力段(13)とを備えたコンパレータ回路において、前記電流回路は、カスコード段のMOSトランジスタのキャリア移動度の温度特性に起因する動作点の変動をキャンセルするような温度特性を付与された電流を流すように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォールデッドカスコード型のコンパレータ回路における入力オフセットの温度依存性を抑制する技術に関し、例えばDC−DCコンバータのような直流電源装置において逆流防止のために同期整流用MOSトランジスタのドレイン・ソース間電圧などを検出するコンパレータ回路に利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング・レギュレータには、コイルに駆動電流を流し込むスイッチングトランジスタがオフされている期間にコイルに電流を供給する整流用ダイオードの代わりにMOSFET(電界効果型トランジスタ:以下MOSトランジスタと称する)を用いた同期整流型のレギュレータがある。同期整流型のレギュレータにおいては、同期整流用のトランジスタをオフさせるタイミングを正確に検出して同期整流用のトランジスタをオフさせることで、オフタイミングが遅れて逆流が流れるのを防止するために、同期整流用MOSトランジスタのドレイン・ソース間を検出するコンパレータが設けられることがある。
【0003】
このコンパレータの検出誤差はレギュレータの電力効率に比較的大きな影響を与えるため、電位差を高精度に検出する必要がある。そのため、コンパレータの特性として、低オフセットでしかもオフセットの変動の少ないことが要求される。しかしながら、半導体集積回路においては、プロセスのばらつき等に起因してコンパレータにおけるオフセットの発生は避けることができない課題である。そこで、従来、プロセスに起因してコンパレータに発生するオフセットのばらつきを低減するため、トリミング回路を設けることが行なわれている。
【特許文献1】特開2006−060977号公報
【特許文献2】特開平10−079651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トリミング回路を設けたコンパレータにおいては、トリミングによってプロセスに起因して発生したオフセットを低減することはできる。しかしながら、トリミング回路を設けたコンパレータであっても、温度変動によってオフセットが変化し検出精度が低下するという課題がある。
【0005】
なお、従来、逆流検出用のコンパレータを設けたレギュレータにおいて、温度変化による検出ポイントのずれを補正するため、コンパレータの入力オフセットに温度依存性を持たせるようにした発明がある(特許文献1)。しかしながら、この先願発明はコンパレータの入力オフセットに温度依存性を持たせるもので、コンパレータの入力オフセットが温度変動で変化しないようにするという本願発明とは、目的および課題の解決の仕方が異なっている。また、コンパレータのオフセットの温度特性を改善するようにした発明(特許文献2)もあるが、この先願発明はオフセットの補償の仕方が本願発明とは異なっている。
【0006】
本発明の目的は、フォールデッドカスコード接続の差動増幅段を有するコンパレータにおいて、オフセットの温度依存性を減らし検出精度を向上させることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、ソース共通接続された一対の差動MOSトランジスタを有する差動入力段と、前記差動MOSトランジスタのドレイン端子にフォールデッドカスコード接続されたカスコード段と、前記差動入力段と前記カスコード段に共通に接続された電流回路と、前記カスコード段の出力ノードに接続された出力段と、を備えたコンパレータ回路において、前記電流回路は、前記カスコード段のMOSトランジスタのキャリア移動度の温度特性に起因する動作点の変動をキャンセルするような温度特性を付与された電流を流すように構成したものである。
【0008】
上記構成によれば、定電流用トランジスタに流れる電流によって、MOSトランジスタのキャリア移動度の温度特性に起因する動作点の変動を抑えることができるため、温度変動に伴うコンパレータの入力オフセットの変化を抑制することができる。
【0009】
ここで、望ましくは、前記電流回路は、並列接続され所定のバイアス電圧がゲート端子に共通に印加される複数のMOSトランジスタと、これらのMOSトランジスタと各々直列に接続された複数のヒューズ素子とを備え、該ヒューズ素子を適宜切断することにより流れる電流が調整可能に構成され、前記バイアス電圧が温度に応じて変化されることで前記電流回路が流す電流に前記温度特性が付与されるようにする。これにより、製造ばらつきでコンパレータに生じた入力オフセットを低減するような電流のトリミングを行なうことができる。
【0010】
また、前記バイアス電圧は、MOSトランジスタのキャリア移動度の温度特性に起因する動作点の変動をキャンセルするような温度特性を付与された電流を生成する定電流源と、該定電流源からの電流を電圧に変換する電流−電圧変換手段を有するバイアス回路とによって生成するように構成することができる。
【0011】
また、望ましくは、前記電流−電圧変換手段は、ゲート端子とドレイン端子が結合されたダイオード接続のMOSトランジスタからなり、該MOSトランジスタと前記複数のMOSトランジスタとがそれぞれカレントミラー回路を構成するようにゲート共通接続とする。
【0012】
さらに、望ましくは、前記定電流源は、温度依存性のない定電圧を発生する定電圧回路と、該定電圧回路により発生された定電圧をゲート端子に受ける第1導電型の第1MOSトランジスタと、該第1MOSトランジスタと直列に接続された第1導電型の第2MOSトランジスタおよび第2導電型の第3MOSトランジスタと、前記第3MOSトランジスタとカレントミラー接続された第2導電型の第4MOSトランジスタと、前記第2MOSトランジスタとカレントミラー接続された第1導電型の第5MOSトランジスタと、前記第4MOSトランジスタとカレントミラー接続された第2導電型の出力用の第6MOSトランジスタと、を備え、前記第4MOSトランジスタと第5MOSトランジスタが電源電圧端子と接地点との間に直列に接続され、前記第2MOSトランジスタは、前記第5MOSトランジスタと同一サイズのMOSトランジスタが複数個並列接続されてなるように構成する。
【0013】
これにより、比較的簡単な回路で、MOSトランジスタのキャリア移動度の温度特性に近似した温度特性を有する定電流を生成し、それによって温度変動に伴うコンパレータの入力オフセットの変化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、フォールデッドカスコード接続の差動増幅段を有するコンパレータにおいて、オフセットの温度依存性を減らし検出精度を向上させることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明を適用して好適なフォールデッドカスコード型のコンパレータ回路の一実施例を示す。フォールデッドカスコード型のコンパレータ回路は、差動入力段にカスコード段を接続することで負荷のインピーダンスを高くして電圧ゲインを高めることができる回路として知られている。
【0017】
本実施例のコンパレータ回路は、差動入力段11とフォールデッドカスコード段12と出力段13とバイアス回路14とからなる。差動入力段11は、ソース共通接続された一対のPチャネル型の差動MOSトランジスタMp1,Mp2と、Mp1,Mp2の共通ソースと電源電圧端子VDDと間に接続された定電流用MOSトランジスタMp3とを備え、Mp1,Mp2のゲート端子がコンパレータの入力端子Vin1,Vin2に接続されている。
【0018】
フォールデッドカスコード段12は、Pチャネル型MOSトランジスタMp4,Mp5からなるカレントミラー回路と、Mp4,Mp5と各々直列に接続され、ゲート端子に定電圧Vbが印加されることでゲート接地型のトランジスタとして動作するように構成されたNチャネル型MOSトランジスタMn1,Mn2とを備え、Mn1,Mn2のソース端子が差動入力段11のMp1,Mp2のドレイン端子に接続されている。そして、Mn1とMp1の接続ノードN1と接地点との間、およびMn2とMp2の接続ノードN2と接地点との間に、フォールデッドカスコード段12にバイアス電流を流すと共に差動入力段11の負荷として機能する並列形態の複数のNチャネル型MOSトランジスタMn11,Mn12,Mn13とMn21,Mn22,Mn23が、それぞれ接続されている。
【0019】
さらに、上記MOSトランジスタMn11,Mn12,Mn13およびMn21,Mn22,Mn23と接地点との間には、ポリシリコンなどからなるトリミング用のヒューズ素子F11,F12,F13およびF21,F22,F23が接続されており、これらのヒューズ素子を切断またはそのままにしておくことで、差動入力段11とカスコード段12に流す電流を調整してプロセスのばらつきで生じる入力オフセットを低減できるように構成されている。なお、Mn11,Mn12,Mn13(Mn21,Mn22,Mn23)は、電流値が2のn乗の重みを持つように、サイズを1:2:4……のように設計しておくことができる。これにより、少ない数のヒューズ素子で調整幅を大きくとることができる。
【0020】
出力段13は、電源電圧端子VDDにソース端子が接続されゲート端子にカスコード段12のMOSトランジスタMp5とMn2の接続ノードN3の電位が印加されるMOSトランジスタMp6と、電源電圧端子VDDと接地点との間にMp6と直列をなすように接続されゲート端子にノードN3の電位が印加されるNチャネル型のMOSトランジスタMn8とからなるインバータとして構成されている。図1ではMn8のゲート端子にMp6と同じノードN3の電位が印加されインバータとして動作するように構成された出力段が示されているが、バイアス回路14からのバイアス電圧をMn8のゲート端子に供給して定電流源として動作させるようにしたソースフォロワ型出力段として構成しても良い。
【0021】
バイアス回路14は、カレントミラー回路やダイオード接続のMOSトランジスタなどからなり定電流源CS0からの電流を受けて上記入力段11の定電流用MOSトランジスタMp3のゲート電圧Vaやカスコード段12のトランジスタMn1,Mn2のゲートバイアス電圧Vb、トリミング可能な電流用MOSトランジスタMn11,Mn12,Mn13およびMn21,Mn22,Mn23のゲートバイアス電圧Vcなどを生成する。
【0022】
フォールデッドカスコード型のコンパレータにおいて、入力オフセットを補正するためMn1,Mn2に流れる電流を調整する方法としては、本実施例のように電流源(Mn11〜Mn13,Mn21〜Mn23)の電流を調整する方法以外にも、例えばMp4,Mp5と直列にそれぞれ抵抗を接続してその抵抗値をトリミングで調整する方法も考えられる。しかし、抵抗を使用するとその製造ばらつきや温度特性の影響を受け易いという不具合がある。
【0023】
これに対し、本実施例のように電流源の電流を調整することにより製造ばらつきの影響を受けにくくなるという利点がある。ただし、図1のコンパレータのような構成であっても、オフセットが温度の変動で変化するという不具合がある。高精度のコンパレータを実現するには、このオフセットの温度依存性を補正する必要がある。以下、図1のコンパレータにおいてオフセットが温度依存性を有する理由およびその補正の仕方について説明する。
【0024】
一般に、飽和領域で動作するようにバイアスされたMOSトランジスタのドレイン電流Idは、次式(1)
Id=(1/2)・μCox・(W/L) ・Veff2・(1−λVds) ……(1)
で表わされる。ここで、μはキャリア移動度、Coxは単位面積あたりのゲート容量、Wは実効ゲート幅、Lは実効ゲート長、λはチャネル長変調係数、Vdsはドレイン・ソース間電圧、Veffはゲート・ソース間電圧Vgsとしきい値電圧Vthとの差すなわち次式(2)
Veff=Vgs−Vth ……(2)
で表わされるオーバードライブ電圧である。
【0025】
上記式(1)内において、IdとVeffとVds以外はプロセスによって決まる固定値である。従って、回路内の飽和状態にあるすべてのMOSトランジスタは、バイアス状態に応じてIdとVeffとVdsが変化して式(1)を満たす点で動作することになる。つまり、電流値(Id)を調整すればVgsとVdsを調整できることが分かる。このことから、電流値(Id)を調整することでオフセットの補正が可能であるといえる。
【0026】
コンパレータのオフセットの定義を、同相入力すなわちVin1=Vin2のときの出力Voutと電源電圧Vddの1/2の電位との差とすると、図1のコンパレータにおいて、MOSトランジスタMn2とMn21〜Mn23に着目し、Mn2のドレイン・ソース間電圧をVdsM0、Mn21のドレイン・ソース間電圧をVdsMtとおくと、同相入力のときに出力Voutが次式(3)となるように、電流値を調整することでオフセットをなくすことができる。
【0027】
Vout=Vdd/2=VdsM0+VdsMt ……(3)
しかし、この関係は周囲温度(チップ温度)が一定という条件下で成り立つもので、温度が変化するとこの等式は崩れてしまう。それは、キャリア移動度μが温度依存性を有しており、温度が変化するとμが変化してしまうためである。このように、μが温度変化に応じて変化すると、MOSトランジスタはそれを補うようにIdとVeffとVdsが変化して式(1)の関係を保とうとする。図1の回路では、回路の構成上、ドレイン電流Idは固定されているため、VeffすなわちVgsとVdsが変化して式(1)の関係を保とうとする。μの変化を考慮して式(1)を書き直すと、式(4)のようになる。
【0028】
Id=(1/2)・μμ0Cox・(W/L)・(a・Veff)2・(1−λb・Vds) ……(4)
上記式(4)において、aはμの温度変化分μ0に対するVeffの補正値、bはμの温度変化分μ0に対するVdsの補正値である。式(4)より、回路に同相入力が印加されたとしても、VdsM0とVdsMtは、温度ごとに異なる動作点を持つことが分かる。その結果、回路にオフセットが生じてしまう。つまり、オフセットが温度依存性を呈することとなる。
【0029】
従って、温度が変化しても回路のオフセットが増加しないようにするには、温度が変化してもμが変化しなければよいが、μはプロセスによって決まるパラメータであるため、回路構成の変更でμの温度特性を直接キャンセルすることはできない。そこで、本発明者らは、MOSトランジスタMn1,Mn2のドレイン電流を温度変化に応じて変化させることでμの温度特性をキャンセルすることを検討した。式(5)に、μの温度特性をキャンセルするのに必要な電流式を示す。
【0030】
Id・μ0=(1/2)・μμ0Cox・(W/L)・Veff2・(1−λVds) ……(5)
ドレイン電流に式(5)に示すような特性を持たせることによって、温度が変化してもVgsとVdsが変化せずに式(1)の関係を保つことができる。つまり、オフセットの温度依存性をキャンセルすることができる。なお、MOSトランジスタのしきい値電圧Vthも温度依存性を有しており、その変化分を補うようにVgsとVdsが変化するが、しきい値電圧Vthの変化はMn1,Mp4,Mp5等他のトランジスタでも生じるため、相殺されてオフセットを生じさせる要因にはならない。
【0031】
次に、MOSトランジスタMn1,Mn2に流れる電流を温度変化に応じて変化させる回路の実施例について説明する。本実施例では、バイアス回路14に供給される定電流I0に所定の温度特性を持たせることで、コンパレータのオフセットの温度依存性を低減するようにしている。具体的には、定電流源CS0を、図2に示すような回路で構成することとした。
【0032】
図2の実施例の定電流源回路は、電源電圧端子VDDと接地点との間に直列に接続された分圧用の抵抗R1,R2と、R1,R2で分圧された電圧Veが非反転入力端子に印加される差動アンプAMPと、該アンプの出力電圧がゲート端子に印加されソース端子が接地点に接続されたNチャネルMOSトランジスタMn3と、電源電圧端子VDDとの間に該Mn3と直列に接続されたNチャネルMOSトランジスタMn4およびPチャネルMOSトランジスタMp7と、Mp7とカレントミラー接続されたMOSトランジスタMp8、Mn4とカレントミラー接続されたMOSトランジスタMn5、Mp7のゲート電圧と同一の電圧がゲート端子に印加されたPチャネルMOSトランジスタMp9、Mp9と直列に接続されたNチャネルMOSトランジスタMn6,Mn7とを備えている。Mn6とMn7はそれぞれゲートとドレインが結合されたいわゆるダイオード接続とされ、Mn6のゲート電圧が図1の回路のMn1,Mn2のゲート端子にバイアス電圧として印加され、Mn7のゲート電圧が図1の回路のMn11〜Mn13,Mn21〜Mn23のゲート端子にバイアス電圧として印加されて所定の電流が流されるように構成されている。
【0033】
また、Mn4とMn3の接続ノードの電位が差動アンプAMPの反転入力端子に印加され、差動アンプAMPの持つイマジナリーショートの作用で、トランジスタMn3のドレイン・ソース間電圧Vkが抵抗R1,R2で分圧された電圧Veと同一になるように動作される。さらに、図示しないが、MOSトランジスタMn4はMn5と同一のサイズのMOSトランジスタをm個並列に接続することで、Mn5に流れるドレイン電流のm倍の電流を流す能力を持つように構成されている。
【0034】
この実施例の定電流源回路は、MOSトランジスタMn4とMn5の数(サイズ)を変えることによって電流能力に差をつけて、温度が変化してもMn4とMn5に流れる電流IM4,IM5間にIM4=IM5の関係が成り立つようにしている。この実施例では、Mn4とMn5のゲート端子に同一の電圧が印加され、Mn4はMn5のm倍の数(サイズ)に設計されているため、Mn5のドレイン電流のm倍の電流を流す能力を持つが、Mp7とMp8のカレントミラーによって、Mn4のドレイン電流IM4はIM5に制限される。
【0035】
そのため、Mn4はIM5を流すこととなり、式(1)より、Mn4とMn5のオーバードライブ電圧Veff M4とVeff M5との間には、次式(6)で示される関係
Veff M4=(1/√m)・Veff M5 ……(6)
が成り立つ必要がある。その結果、Mn4とMn5に流れる電流IM4,IM5は、
M4=m・(1/2)・μCox・(W/L)・{(1/√m)・VeffM5}2 ……(7)
M5=(1/2)・μCox・(W/L)・VeffM52 ……(8)
となる。なお、簡単化するため二次効果は無視した。また、このときMn4とMn5のゲート電圧は同一であり、
VgsM4+Vk=VgsM5 ……(9)
であることから、Mn4が電流IM5を流すためには、Vkは式(9)と式(2)より、VthM4=VthM5とみなせるので、
Vk=Veff M5−Veff M4 ……(10)
となる必要がある。これに式(6)を代入すると、
Vk=Veff M5−(1/√m)・Veff M5 ……(11)
となる。従って、トランジスタMn3のドレイン・ソース間電圧Vkを式(11)の電圧に固定することにより、IM4=IM5の電流を作り出せることが分かる。
【0036】
また、図2の回路においては、差動アンプAMPでMn3のドレイン・ソース間電圧Vkを、電源電圧Vddを抵抗R1,R2の比で分圧した電圧Veに固定しており、抵抗R1,R2はそれ自身が温度依存性を有していても、温度変動で抵抗R1,R2の抵抗値が変化したとしても、抵抗比はほとんど変化しないため、Vkを温度変動にかかわらずほぼ一定にすることができる。一方、mは並列接続するMOSトランジスタの数であり温度とは無関係のパラメータである。
【0037】
そのため、式(11)からVkとmが温度変動にかかわらず一定であれば、Veff M5も温度変動にかかわらず一定つまり温度が変化してもVeffM5は変化しない。従って、図2の回路は温度変動に関係なくVeff M5を一定に保つように動作することが分かる。よって、温度変動に対してIM4=IM5となる電流は、式(5)より、
M5・μ0=(1/2)・μμ0Cox・(W/L) ・Veff M52 ……(12)
となる。ここで、図2の回路ではトランジスタMp8とMp9がカレントミラーを構成しており、Mp8とMp9が同一サイズであれば出力電流IoutはIM5と同一電流となるので、出力電流Ioutにμ0の温度特性を持たせることができる。そして、この温度特性を有する出力電流Ioutを、MOSトランジスタMn7とカレントミラー接続されたMn11〜Mn13,Mn21〜Mn23に流すことで、カスコード段のMOSトランジスタMn1,Mn2にμ0の温度特性を有する電流を流し、温度変動があってもオフセットが変化しないコンパレータとして動作させることができる。
【0038】
なお、上記実施例では、MOSトランジスタMn3のドレイン・ソース間の電圧Vkを温度変動にかかわらず一定にするため、抵抗R1,R2とからなる分圧回路と差動アンプAMPを用いるようにしているが、温度依存性のない定電圧を発生するものであればどのような定電圧回路を使用するようにしても良い。また、図2の定電流源回路では、電源電圧Vddが変動すると出力電流Ioutも変動してしまうが、本発明者らが適用を考えている同期整流型のスイッチング・レギュレータでは安定した電源電圧を発生して供給することができるので、図2の定電流源回路における電源電圧Vddの変動による出力電流Ioutの変動はそれほど心配する必要はない。
【0039】
次に、上記実施例のコンパレータを使用して好適なシステムの一例として図3に示すスイッチング電源装置について説明する。
【0040】
図3のスイッチング電源装置20は、フライバック方式の電源装置であり、一次巻線N1および極性が反転された二次巻線N2を有するトランスT1と、一次巻線N1に断続的に入力電圧Vinを印加するスイッチング素子(例えばNチャネルパワーMOSFET)SW1と、このスイッチング素子SW1のオン・オフ制御を行う一次側制御回路21と、入力電圧Viを平滑する平滑コンデンサC1と、二次巻線N2に流れる電流を整流する同期整流素子(例えばNチャネルパワーMOSFET)SW2と、出力電圧Voを平滑する平滑コンデンサC2と、同期整流用MOSトランジスタSW2のソース・ドレイン間電圧を検出するコンパレータ22と、同期整流用MOSトランジスタSW2のオン・オフ制御を行う制御回路23等を備えている。
【0041】
一次側制御回路21は、図示は省略するが、例えば二次側に出力電圧の検出回路を設けてフォトカプラを介してフィードバックされる信号を受けたり、或いは、トランスT1に補助巻線を設けて補助巻線の電圧から出力電圧Voを検出して、出力電圧Voが一定となるようにスイッチング素子SW1をオン・オフ制御する。
【0042】
同期整流素子SW2は、二次巻線N2に流れる電流を一方向に制限するものであり、例えば、一次側のスイッチング素子SW1がオンされてトランスT1のコアにエネルギーを蓄積する期間にオフされて、二次巻線N2の電流を停止させる。また、一次側のスイッチング素子SW1がオフの期間には、同期整流用MOSトランジスタSW2がオンされるか或いはボディダイオードを介して整流方向に電流を流す。整流時に同期整流用MOSトランジスタSW2オンされることで、整流素子としてダイオードを使用するものに比べて電力損失を減らしてスイッチング電源装置20による電圧変換の高効率化を図ることができる。
【0043】
二次側制御回路23は、図示しない同期整流用MOSトランジスタSW2のオンタイミングを検出する回路やオフタイミングを検出する回路から検出信号を受け、これらの検出信号に基づいて同期整流用MOSトランジスタSW2をオン・オフ制御するものである。同期整流用MOSトランジスタSW2のオンタイミングは、例えば一次側のスイッチング素子SW1がターンオフして同期整流用MOSトランジスタSW2のドレイン電圧が低下した状態をオンタイミングとして検出することができる。
【0044】
また、同期整流用MOSトランジスタSW2のオフタイミングは、この実施例では、SW2のソース・ドレイン間電圧をコンパレータ22によって監視して検出し、ドレイン電流がゼロになった時点でSW2をオフする制御を行なうようにしている。このコンパレータ22として、図1および図2を用いて説明したような構成を有するコンパレータを使用することで温度変動があったとしても精度の高い検出が可能となる。
【0045】
そのため、同期整流用MOSトランジスタをオフさせるタイミングを正確に検出することができ、それによって同期整流用MOSトランジスタをオフさせるタイミングが遅れることで逆流が流れてしまうのを防止することができるようになる。特に限定されるものではないが、コンパレータ22は、二次側制御回路23とともに1つの半導体チップ上に半導体集積回路として形成される。
【0046】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態のコンパレータでは、PチャネルMOSFETを差動入力トランジスタとしている差動増幅回路を示したが、差動入力トランジスタにNチャネルMOSFETを使用し、負荷MOSFETにPチャネルMOSFETを使用した差動増幅回路、すなわち図1や図2の回路において、電源電圧VDDと接地電位GNDの関係を逆にするとともに各トランジスタの導電型を逆にした回路にも適用することができる。
【0047】
また、図2の実施例では、MOSトランジスタMp8のゲート電圧を図1のMp3のゲート端子に供給してバイアスを与えるように構成したものを示したが、Mp3のバイアス電圧は、図2のMn7の電流を折り返すカレントミラーと、折り返された電流を電圧に変換するダイオード接続のトランジスタを設け、該トランジスタと図1のMp3をカレントミラー接続してMp3のゲートバイアス電圧を与えるように構成しても良い。同様に、図1のカスコード段のMOSトランジスタMn1,Mn2のゲートバイアス電圧Vbも、図2のMn7とカレントミラーを構成するトランジスタで折り返された電流を電圧に変換するダイオード接続のトランジスタを設けて生成するように構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上の説明では、本発明をDC−DCコンバータを構成する同期整流用MOSトランジスタのドレイン・ソース間電圧などを検出するコンパレータ回路に適用ことを想定して説明したが、本発明のコンパレータはそのような用途に限定されるものではなく、2つの電圧を比較する精度の高いコンパレータを必要とする半導体集積回路に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明を適用して好適なフォールデッドカスコード型のコンパレータ回路の一実施例を示す回路図である。
【図2】図1のコンパレータ回路のカスコード段に流す電流を生成する定電流源回路の一例を示す回路図である。
【図3】実施例のコンパレータを使用して好適なシステムの一例としてのスイッチング電源装置の構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0050】
11 差動入力段
12 カスコード段
13 出力段
14 バイアス回路
AMP 差動アンプ
Mn11〜Mn13,Mn21〜Mn23 電流用MOSトランジスタ
F11〜F13,F21〜F23 ヒューズ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソース共通接続された一対の差動MOSトランジスタを有する差動入力段と、
前記差動MOSトランジスタのドレイン端子にフォールデッドカスコード接続されたカスコード段と、
前記差動入力段と前記カスコード段に共通に接続された電流回路と、
前記カスコード段の出力ノードに接続された出力段と、を備えたコンパレータ回路であって、
前記電流回路は、前記カスコード段のMOSトランジスタのキャリア移動度の温度特性に起因する動作点の変動をキャンセルするような温度特性を付与された電流を流すように構成されていることを特徴とするコンパレータ回路。
【請求項2】
前記電流回路は、並列接続され所定のバイアス電圧がゲート端子に共通に印加される複数のMOSトランジスタと、これらのMOSトランジスタと各々直列に接続された複数のヒューズ素子とを備え、該ヒューズ素子を適宜切断することにより流れる電流が調整可能に構成され、前記バイアス電圧が温度に応じて変化されることで前記電流回路が流す電流に前記温度特性が付与されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のコンパレータ回路。
【請求項3】
前記バイアス電圧は、MOSトランジスタのキャリア移動度の温度特性に起因する動作点の変動をキャンセルするような温度特性を付与された電流を生成する定電流源と、該定電流源からの電流を電圧に変換する電流−電圧変換手段を有するバイアス回路とによって生成されることを特徴とする請求項1または2に記載のコンパレータ回路。
【請求項4】
前記電流−電圧変換手段は、ゲート端子とドレイン端子が結合されたダイオード接続のMOSトランジスタからなり、該MOSトランジスタと前記複数のMOSトランジスタとがそれぞれカレントミラー回路を構成するようにゲート共通接続されていることを特徴とする請求項3に記載のコンパレータ回路。
【請求項5】
前記定電流源は、
温度依存性のない定電圧を発生する定電圧回路と、
該定電圧回路により発生された定電圧をゲート端子に受ける第1導電型の第1MOSトランジスタと、
該第1MOSトランジスタと直列に接続された第1導電型の第2MOSトランジスタおよび第2導電型の第3MOSトランジスタと、
前記第3MOSトランジスタとカレントミラー接続された第2導電型の第4MOSトランジスタと、
前記第2MOSトランジスタとカレントミラー接続された第1導電型の第5MOSトランジスタと、
前記第4MOSトランジスタとカレントミラー接続された第2導電型の出力用の第6MOSトランジスタと、を備え、
前記第4MOSトランジスタと第5MOSトランジスタが電源電圧端子と接地点との間に直列に接続され、前記第2MOSトランジスタは、前記第5MOSトランジスタと同一サイズのMOSトランジスタが複数個並列接続されてなることを特徴とする請求項3または4に記載のコンパレータ回路。
【請求項6】
前記定電圧回路は、電源電圧端子と接地点との間に直列に接続された分圧用の抵抗と、該分圧用の抵抗により分圧された電圧が非反転入力端子に入力され前記第2MOSトランジスタと前記第1MOSトランジスタとの接続ノードの電位が反転入力端子に入力され出力が前記第1MOSトランジスタのゲート端子に供給される差動アンプと、からなることを特徴とする請求項5に記載のコンパレータ回路。
【請求項7】
一次巻線と二次巻線とを有するトランスと、オン・オフ動作により前記一次巻線に断続的に電圧を印加するスイッチング素子と、該スイッチング素子を制御する一次側制御回路と、前記二次巻線の電流を整流する同期整流MOSトランジスタと、該同期整流用MOSトランジスタを制御する二次側制御回路とを備えたスイッチング電源装置において、
前記同期整流用MOSトランジスタのソース・ドレイン間電圧を請求項1〜6のいずれかに記載のコンパレータによって検出して前記二次側制御回路に供給し、該二次側制御回路は前記コンパレータの検出信号に基づいて前記同期整流用MOSトランジスタを制御することを特徴とするスイッチング電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−273073(P2009−273073A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124217(P2008−124217)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000006220)ミツミ電機株式会社 (1,651)
【Fターム(参考)】