説明

ハイブリッド自動車およびその制御方法

【課題】変速処理を模した動作やアクセル操作に対する出力の応答性を高める運転モードの選択を可能とするハイブリッド自動車において、走行に要求される要求駆動力や内燃機関の運転ポイントをより適正に設定する。
【解決手段】ハイブリッド自動車20では、シフトポジションや運転モードに関連した所定条件が成立したときに、走行状態に応じた仮想シフト段が仮目標シフト段SPtmpとして設定され(S471,S472)、仮目標シフト段SPtmpと上下限値Srtとに基づいて値1よりも小さい変化量で緩変化するよう実行用シフト段SP*が設定され(S473)、実行用シフト段SP*の直下および直上の仮想シフト段に対応した仮の要求トルクTra,Trbや仮回転数Nea,Nebに基づいて実行用シフト段SP*に対応した要求トルクTr*と目標回転数Ne*とが設定される(S474〜S476)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジン、第1のモータおよび車軸に接続された遊星歯車機構と、当該車軸に接続された第2のモータと、第1および第2のモータと電力をやり取り可能なバッテリとを備え、シフトポジションSPに拘わらず任意の運転ポイントでエンジンを運転可能なハイブリッド自動車が知られている(例えば、特許文献1参照)。このハイブリッド自動車は、シフトレバーにより設定可能なシフトポジションとして、ドライブポジション等の一般的なシフトポジションに加えてシーケンシャルシフトポジションとアップシフト指示ポジションとダウンシフト指示ポジションとを含み、シフトレバーを用いてシーケンシャルシフトポジションを選択した後にアップシフト指示ポジションやダウンシフト指示ポジションを選択することにより、車速に対するエンジン回転数の回転数比を複数段階に変更することができる。また、この種のハイブリッド自動車としては、スポーツ走行モードが選択された状態でアクセルペダルが踏み込まれているときに、下限エンジン回転数マップを用いて車速に応じた下限エンジン回転数を求め、エンジンの回転数が下限エンジン回転数より高くなるようにエンジンを制御するものも知られている。これにより、このハイブリッド自動車では、スポーツ走行モードを選択すればエンジンの回転数が下限エンジン回転数以上に保たれるので、エンジンにより増減可能なトルクの幅を拡大すると共にエンジンからのトルクを迅速に増減させることができる。
【特許文献1】特開2006−321458号公報
【特許文献2】特開2005−124182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、本来エンジンからの動力を第1および第2のモータを用いたトルク変換により無段階に変速して出力可能なハイブリッド自動車に対して、エンジンからの動力を有段自動変速機により変速して出力する一般的な自動車における変速処理を模した動作を可能とする機能や、運転モードの選択機能を適用することにより、ユーザの多様なニーズに応えることが可能となる。ただし、これらの機能を適用したハイブリッド自動車の制御に関しては、なお改善の余地がある。
【0004】
そこで、本発明は、一般的な自動車における変速処理を模した動作を可能とするハイブリッド自動車において、走行に要求される要求駆動力や内燃機関の運転ポイントをより適正に設定することを目的の一つとする。また、本発明は、アクセル操作に対する動力の出力の応答性を高める傾向をもった運転モードを選択可能なハイブリッド自動車において、アクセルオフ状態における動力の出力特性をより適正なものとすることを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるハイブリッド自動車およびその制御方法は、上述の目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0006】
本発明によるハイブリッド自動車は、
内燃機関と、
所定の車軸と前記内燃機関の機関軸とに接続されて電力と動力との入出力を伴って前記内燃機関の動力の少なくとも一部を前記車軸側に出力可能な電力動力入出力手段と、
前記車軸または該車軸とは異なる他の車軸に動力を入出力可能な電動機と、
前記電力動力入出力手段および前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、
走行に要求される要求駆動力を設定するための駆動力設定制約と前記要求駆動力に対応した前記内燃機関の運転ポイントを設定するための機関運転ポイント設定制約とを含む運転制約を複数の仮想シフト段間で該駆動力設定制約と該機関運転ポイント設定制約との少なくとも何れか一方が異なるように該仮想シフト段ごとに記憶する運転制約記憶手段と、
所定条件が成立したときに、前記複数の仮想シフト段の中から所定の変速制約に基づいて走行状態に応じた仮想シフト段を仮目標シフト段として設定する仮目標シフト段設定手段と、
前記設定された仮目標シフト段と所定の緩変化制約とに基づいて値1よりも小さい変化量をもって緩変化するように実行用シフト段を設定する実行用シフト段設定手段と、
前記設定された実行用シフト段の直下および直上の仮想シフト段に対応した運転制約を用いて求められる仮の要求駆動力と仮の内燃機関の運転ポイントとに基づいて前記実行用シフト段に対応した要求駆動力と前記内燃機関の運転ポイントとを設定する実行用運転条件設定手段と、
前記設定された運転ポイントで前記内燃機関が運転されると共に前記設定された要求駆動力に基づく動力が得られるように前記内燃機関と前記電力動力入出力手段と前記電動機とを制御する制御手段と、
を備えるものである。
【0007】
このハイブリッド自動車では、走行に要求される要求駆動力を設定するための駆動力設定制約と要求駆動力に対応した内燃機関の運転ポイントを設定するための機関運転ポイント設定制約とを含む運転制約と仮想シフト段とがそれぞれ複数定められている。複数の運転制約は、複数の仮想シフト段間で駆動力設定制約と機関運転ポイント設定制約との少なくとも何れか一方が異なるように運転制約記憶手段により仮想シフト段ごとに記憶されている。従って、このハイブリッド自動車では、仮想シフト段を変化させると共に当該仮想シフト段に基づく制御を実行することにより一般的な自動車における変速処理を模した動作を実行することができる。そして、このハイブリッド自動車では、所定条件が成立したときに、複数の仮想シフト段の中から所定の変速制約に基づいて走行状態に応じた仮想シフト段が仮目標シフト段として設定されると共に、当該仮目標シフト段と所定の緩変化制約とに基づいて値1よりも小さい変化量をもって緩変化するように実行用シフト段が設定される。更に、当該実行用シフト段の直下および直上の仮想シフト段に対応した運転制約を用いて求められる仮の要求駆動力と仮の内燃機関の運転ポイントとに基づいて実行用シフト段に対応した要求駆動力と内燃機関の運転ポイントとが設定され、設定された運転ポイントで内燃機関が運転されると共に設定された要求駆動力に基づく動力が得られるように内燃機関と電力動力入出力手段と電動機とが制御される。このように、上記運転制約に対応づけられた複数の仮想シフト段をもったハイブリッド自動車では、所定条件が成立したときに、走行状態に応じた仮想シフト段と上記緩変化制約とに基づいて緩変化するように実行用シフト段が設定されると共に当該実行用シフト段の直下および直上の仮想シフト段に対応した運転制約を用いて実行用シフト段に対応した要求駆動力と内燃機関の運転ポイントとが設定されることから、仮想シフト段に対応づけられた複数の運転条件を用いながら走行用の動力や内燃機関の運転ポイントを緩やかに変化させることができる。これにより、一般的な自動車における変速処理を模した動作を可能とするハイブリッド自動車において、走行に要求される要求駆動力や要求駆動力に対応した内燃機関の運転ポイントの段階的変化と緩変化とを使い分けることが可能となるので、走行に要求される要求駆動力や内燃機関の運転ポイントをより適正に設定することが可能となる。なお、このハイブリッド自動車において、要求駆動力には負の駆動力すなわち制動力も含まれる。
【0008】
また、上記ハイブリッド自動車は、通常走行用の第1のシフトポジションと、前記複数の仮想シフト段に対応づけられた第2のシフトポジションとの選択を運転者に許容すると共に、前記第2のシフトポジションが選択されているときに前記複数の仮想シフト段の中から任意の仮想シフト段の選択を運転者に許容するシフトポジション選択手段を更に備えてもよく、前記所定条件は、前記第2のシフトポジションが選択されており、かつ運転者により前記仮想シフト段の変更がなされていないときに成立するものであってもよい。すなわち、第2のシフトポジションが選択されており、かつ運転者により仮想シフト段の変更がなされていない場合には、要求駆動力や内燃機関の運転ポイントの段階的変化が要求されていないとみなすこともできる。従って、このような場合に、走行状態に応じた仮目標シフト段と上記緩変化制約とに基づいて緩変化する実行用シフト段に基づいて走行用の動力や内燃機関の運転ポイントを緩やかに変化させれば、要求駆動力や内燃機関の運転ポイントを走行状態に応じてより適正に設定しながらスムースな走行を実現することが可能となる。
【0009】
更に、上記ハイブリッド自動車は、車速を検出する車速検出手段を更に備えてもよく、前記複数の仮想シフト段のそれぞれに対応づけられた前記運転制約は、アクセルオフ状態での車速と前記要求駆動力との関係を規定する駆動力設定制約と、前記アクセルオフ状態での車速と前記内燃機関の目標回転数との関係を規定する機関運転ポイント設定制約とを含み、前記複数の仮想シフト段間では、前記駆動力設定制約と前記機関運転ポイント設定制約との双方が異なっていてもよい。これにより、所定条件が成立すると共にアクセル操作の状態がアクセルオフ状態であるときに、アクセルオフに基づく要求駆動力(制動力)や内燃機関の運転ポイントを走行状態に応じてより適正に設定しながらスムースな走行を実現することが可能となる。
【0010】
また、上記ハイブリッド自動車は、車速を検出する車速検出手段を更に備えてもよく、前記複数の仮想シフト段のそれぞれに対応づけられた前記運転制約は、アクセルオン状態での車速と前記要求駆動力との関係を規定する駆動力設定制約と、前記アクセルオン状態での車速と前記内燃機関の下限回転数との関係を規定する機関運転ポイント設定制約とを含み、前記複数の仮想シフト段間では、前記機関運転ポイント設定制約が異なっていてもよい。これにより、所定条件が成立すると共にアクセル操作の状態がアクセルオン状態であるときに、内燃機関の回転数を滑らかに変化させてスムースな走行を実現することが可能となる。
【0011】
更に、上記ハイブリッド自動車は、通常走行用の第1の運転モードと該第1の運転モードに比べてアクセル操作に対する動力の出力の応答性を高める傾向をもった第2の運転モードとの何れかを選択するための運転モード選択手段と、前記第1または第2の運転モードに対応した駆動力設定制約を用いて前記アクセル操作に応じた要求駆動力を設定する要求駆動力設定手段を更に備えてもよく、前記所定条件は、前記第2の運転モードが選択されており、かつ前記アクセル操作の状態がアクセルオフ状態であるときに成立するものであってもよい。この場合、前記第2の運転モードに対応した駆動力設定制約は、前記第1の運転モードに対応した駆動力設定制約に比べて同一のアクセル操作量に対する前記要求駆動力を大きく設定する傾向を有するものであってもよい。これにより、アクセル操作に対する動力の出力の応答性を高める傾向をもった第2の運転モードが選択されている際にアクセル操作の状態がアクセルオフ状態になったときに、アクセルオフ状態における動力の出力特性すなわち要求駆動力(制動力)や内燃機関の運転ポイントを第1の運転モードのものとは異なり、かつ走行状態に応じたより適正なものとして設定することが可能となる。特に、かかる構成は、上述のような第1および第2のシフトポジションの選択を運転者に許容するシフト選択手段を備えたハイブリッド自動車に対して上述のような運転モード選択手段を適用する場合に極めて有利なものとなる。すなわち、かかるハイブリッド自動車においては、上記第2のシフトポジション用の仮想シフト段およびそれらに対応した運転制約を用いることにより、第2の運転モードの選択時におけるアクセルオフ状態での動力の出力特性を容易に第1の運転モードとは異なるものに設定することができるので、第2の運転モードの選択時におけるアクセルオフ状態での動力の出力特性を別途用意する必要がなくなる。
【0012】
また、前記緩変化制約は、前記実行用シフト段の上昇側と下降側とにおける変化量をそれぞれ値1よりも小さく制限する制約であってもよい。これにより、走行状態に応じて実行用シフト段が上昇側と下降側との何れの方向に変化する場合であっても、実行用シフト段をより適正に緩変化させることが可能となる。
【0013】
更に、前記変速制約は、運転者によるアクセル操作の状態と車速と前記仮想シフト段との関係を規定する変速線図であってもよい。これにより、仮目標シフト段を走行状態に応じてより適正に設定することが可能となる。
【0014】
そして、前記電力動力入出力手段は、動力を入出力可能な発電用電動機と、前記車軸と前記内燃機関の前記機関軸と前記発電用電動機の回転軸との3軸に接続され、これら3軸のうちの何れか2軸に入出力される動力に基づく動力を残余の軸に入出力する3軸式動力入出力手段とを含むものであってもよい。
【0015】
本発明によるハイブリッド自動車の制御方法は、内燃機関と、所定の車軸と前記内燃機関の機関軸とに接続されて電力と動力との入出力を伴って前記内燃機関の動力の少なくとも一部を前記車軸側に出力可能な電力動力入出力手段と、前記車軸または該車軸とは異なる他の車軸に動力を入出力可能な電動機と、前記電力動力入出力手段および前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、走行に要求される要求駆動力を設定するための駆動力設定制約と前記要求駆動力に対応した前記内燃機関の運転ポイントを設定するための機関運転ポイント設定制約とを含む運転制約を複数の仮想シフト段間で該駆動力設定制約と該機関運転ポイント設定制約との少なくとも何れか一方が異なるように該仮想シフト段ごとに記憶する運転制約記憶手段とを備えたハイブリッド自動車の制御方法であって、
(a)所定条件が成立したときに、前記複数の仮想シフト段の中から所定の変速制約に基づいて走行状態に応じた仮想シフト段を仮目標シフト段として設定するステップと、
(b)ステップ(a)にて設定された仮目標シフト段と所定の緩変化制約とに基づいて値1よりも小さい変化量をもって緩変化するように実行用シフト段を設定するステップと、
(c)ステップ(b)にて設定された実行用シフト段の直下および直上の仮想シフト段に対応した運転制約を用いて求められる仮の要求駆動力と仮の内燃機関の運転ポイントとに基づいて前記実行用シフト段に対応した要求駆動力と前記内燃機関の運転ポイントとを設定するステップと、
(d)ステップ(c)にて設定された運転ポイントで前記内燃機関が運転されると共にステップ(c)にて設定された要求駆動力に基づく動力が得られるように前記内燃機関と前記電力動力入出力手段と前記電動機とを制御するステップと、
を含むものである。
【0016】
この方法によれば、所定条件が成立したときに、走行状態に応じた仮想シフト段と上記緩変化制約とに基づいて緩変化するように実行用シフト段が設定されると共に当該実行用シフト段の直下および直上の仮想シフト段に対応した運転制約を用いて実行用シフト段に対応した要求駆動力と内燃機関の運転ポイントとが設定されることから、仮想シフト段に対応づけられた複数の運転条件を用いながら走行用の動力や内燃機関の運転ポイントを緩やかに変化させることができる。従って、この方法を採用すれば、一般的な自動車における変速処理を模した動作を可能とするハイブリッド自動車において、走行に要求される要求駆動力や要求駆動力に対応した内燃機関の運転ポイントの段階的変化と緩変化とを使い分けることが可能となるので、走行に要求される要求駆動力や内燃機関の運転ポイントをより適正に設定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明の実施例に係るハイブリッド自動車20の概略構成図である。同図に示すハイブリッド自動車20は、エンジン22と、エンジン22の出力軸であるクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された車軸としてのリングギヤ軸32aに連結された減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、ハイブリッド自動車20の全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」という)70等とを備えるものである。
【0019】
エンジン22は、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料の供給を受けて動力を出力する内燃機関であり、エンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24による燃料噴射量や点火時期、吸入空気量等の制御を受けている。エンジンECU24には、エンジン22に対して設けられて当該エンジン22の運転状態を検出する各種センサからの信号が入力される。そして、エンジンECU24は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号や上記センサからの信号等に基づいてエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0020】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。機関側回転要素としてのキャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、車軸側回転要素としてのリングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、動力分配統合機構30は、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側とにそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構37およびデファレンシャルギヤ38を介して最終的に駆動輪である車輪39a,39bに出力される。
【0021】
モータMG1およびモータMG2は、何れも発電機として作動すると共に電動機として作動可能な周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介して二次電池であるバッテリ50と電力のやり取りを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2の何れか一方により発電される電力を他方のモータで消費できるようになっている。従って、バッテリ50は、モータMG1,MG2の何れかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになり、モータMG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されないことになる。モータMG1,MG2は、何れもモータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や、図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流等が入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号等が出力される。モータECU40は、回転位置検出センサ43,44から入力した信号に基づいて図示しない回転数算出ルーチンを実行し、モータMG1,MG2の回転子の回転数Nm1,Nm2を計算している。また、モータECU40は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号等に基づいてモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0022】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧、バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流、バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からのバッテリ温度Tb等が入力されている。また、バッテリECU52は、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッドECU70やエンジンECU24に出力する。実施例のバッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量SOCを算出したり、当該残容量SOCに基づいてバッテリ50の充放電要求パワーPb*を算出したり、残容量SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50の充電に許容される電力である充電許容電力としての入力制限Winとバッテリ50の放電に許容される電力である放電許容電力としての出力制限Woutとを算出したりする。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、バッテリ温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定すると共に、バッテリ50の残容量(SOC)に基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定可能である。
【0023】
ハイブリッドECU70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に各種処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッドECU70には、イグニッションスイッチ(スタートスイッチ)80からのイグニッション信号や、シフトレバー81の操作位置であるシフトポジションSPを検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ87からの車速V等が入力ポートを介して入力される。加えて、ハイブリッドECU70には、ハイブリッド自動車20の運転モードの選択を可能とするモードスイッチ88からのモード信号が入力される。実施例において、モードスイッチ88は、図示しない車室内のスイッチパネル等に配置されており、動力性能よりも燃費の向上を優先させながらハイブリッド自動車20を走行させるノーマルモード(第1の運転モード)と、燃費の向上よりも動力性能を優先させながらハイブリッド自動車20を走行させるパワーモード(第2の運転モード)との選択を運転者に対して許容する。運転者がモードスイッチ88を介してノーマルモードを選択したときには、所定のパワーモードフラグFpmが値0に設定されると共にエンジン22を効率よく運転して燃費を向上させることができるようにエンジン22、モータMG1およびMG2が制御される。また、運転者がモードスイッチ88を介してパワーモードを選択したときには、上記パワーモードフラグFpmが値1に設定されると共にノーマルモード選択時に比べて車軸としてのリングギヤ軸32aに出力するトルクを高めて運転者によるアクセル操作に対するトルク出力の応答性が向上するようにエンジン22、モータMG1およびMG2が制御される。そして、ハイブリッドECU70は、上述したように、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52と各種制御信号やデータのやり取りを行なう。
【0024】
また、実施例のハイブリッド自動車20では、シフトレバー81のシフトポジションSPとして、駐車時に用いる駐車ポジション(Pポジション)、後進走行用のリバースポジション(Rポジション)、中立のニュートラルポジション(Nポジション)、通常の前進走行用のドライブポジション(Dポジション:第1のシフトポジション)の他に、それぞれ整数の段数をもった複数の仮想シフト段SP1〜SP8からの任意の仮想シフト段の選択を可能とするシーケンシャルシフトポジション(Sポジション:第2のシフトポジション)、アップシフト指示ポジションおよびダウンシフト指示ポジション等が用意されている。シフトポジションSPとしてDポジションを選択すると、実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22が効率よく運転されるように運転制御される。また、シフトポジションSPとしてSポジションを選択すれば、車速Vに対するエンジン22の回転数の比を例えば8段階(SP1〜SP8)に変更することが可能となる。実施例では、運転者によりシフトレバー81のシフトポジションSPとしてSポジションが選択されると、その際の車速V等に応じて仮想シフト段SP1〜SP8の中の何れかが初期段として設定され、以後、シフトレバー81がアップシフト指示ポジションにセットされると仮想シフト段が1段ずつ上げられる(アップシフトされる)一方、シフトレバー81がダウンシフト指示ポジションにセットされると仮想シフト段が1段ずつ下げられ(ダウンシフトされ)、シフトポジションセンサ82は、シフトレバー81の操作に応じて現在の仮想シフト段の段数(SP1〜SP8の何れか)をシフトポジションSPとして出力する。
【0025】
更に、ハイブリッド自動車20の運転席近傍には、図1に示すようなメータ表示ユニット90が配置されている。実施例において、メータ表示ユニット90は、液晶表示パネルとして構成されており、シフトポジションセンサ82により検出されるシフトポジションSPに対応したマーク(P,R,N,DおよびS)を点灯表示させるシフトポジション表示部91や、Sポジション選択時に仮想シフト段SP1〜SP8のうちの運転者により選択されている段数を表示させる段数表示部92、運転者によりパワーモードが選択されているときに点灯されるパワーモードマークのモード表示部93、車速センサ87により検出される車速Vを表示させるスピードメータ部(図示省略)、積算走行距離を表示させるオドメータ部(図示省略)、燃料タンク内の燃料残量を表示させるフューエルゲージ部(図示省略)等を含む。そして、メータ表示ユニット90は、メータ用電子制御ユニット(以下「メータECU」という)95により制御されており、このメータECU95もハイブリッドECU70等と通信しており、ハイブリッドECU70等との間で必要なデータの送受信を行っている。
【0026】
上述のように構成された実施例のハイブリッド自動車20では、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動輪たる車輪39a,39bに連結された車軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*が計算され、この要求トルクTr*に対応する動力がリングギヤ軸32aに出力されるようにエンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御モードとしては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや、要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2から要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するように運転制御するモータ運転モード等がある。
【0027】
次に、実施例のハイブリッド自動車20の動作について説明する。ここでは、まず図2〜図10を参照しながら運転者によるアクセル操作の状態がアクセルオン状態であるときの動作について説明し、その後、図11および図12等を参照しながら運転者によるアクセル操作の状態がアクセルオフ状態であるときの動作について説明する。図2および図3は、運転者によるアクセル操作の状態がアクセルオン状態であるときに、ハイブリッドECU70により所定時間(例えば数msec)ごとに繰り返し実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0028】
図2等に示す駆動制御ルーチンの開始に際して、ハイブリッドECU70のCPU72は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accやシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP、車速センサ87からの車速V、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2、充放電要求パワーPb*、バッテリ50の入出力制限Win,Wout、パワーモードフラグFpmの値といった制御に必要なデータの入力処理を実行する(ステップS100)。ここで、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、モータECU40から通信により入力するものとした。また、充放電要求パワーPb*や入出力制限Win,Woutは、バッテリECU52から通信により入力するものとした。更に、パワーモードフラグFpmは、運転者によるモードスイッチ88の操作状態に応じてハイブリッドECU70により設定されて所定の記憶領域に保持されているものである。
【0029】
ステップS100のデータ入力処理の後、入力したパワーモードフラグFpmの値に基づいてハイブリッド自動車20の運転モードがノーマルモードとパワーモードとのうちの何れとされているかを判定する(ステップS110)。パワーモードフラグFpmが値0であって運転モードとしてノーマルモードが選択されている場合には、ステップS100にて入力したアクセル開度Accと駆動力設定制約としてのノーマルモード時アクセル開度設定用マップとを用いて制御上のアクセル開度である実行用アクセル開度Acc*を設定する(ステップS120)。また、パワーモードフラグFpmが値1であって運転モードとしてパワーモードが選択されている場合には、ステップS100にて入力したアクセル開度Accと駆動力設定制約としてのパワーモード時アクセル開度設定用マップとを用いて制御上のアクセル開度である実行用アクセル開度Acc*を設定する(ステップS130)。ノーマルモード時アクセル開度設定用マップは、図4に示すように、0〜100%の範囲でアクセル開度Accに対して実行用アクセル開度Acc*が線形性をもつように予め作成されてROM74に記憶されている。図4に例示するノーマルモード時アクセル開度設定用マップは、アクセル開度Accをそのまま実行用アクセル開度Acc*として設定するように作成されたものである。一方、パワーモード時アクセル開度設定用マップは、図4に示すように、低車速時における車両の飛び出し感を抑制すべく任意の低アクセル開度領域にあるアクセル開度Accに対してはノーマルモード時アクセル開度設定用マップにより設定されるものと同一の値を実行用アクセル開度Acc*として設定し、低アクセル開度領域以外の100%までのアクセル開度Accに対してはアクセル操作に対するトルク出力の応答性を向上させるべくノーマルモード時アクセル開度設定用マップにより設定されるものよりも大きな値を実行用アクセル開度Acc*として設定するように作成されてROM74に記憶されている。
【0030】
ステップS120またはS130にて実行用アクセル開度Acc*を設定したならば、実行用アクセル開度Acc*とステップS100にて入力した車速Vとに基づいて車軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*を設定した上で、エンジン22に要求される要求パワーPe*を設定する(ステップS140)。実施例では、実行用アクセル開度Acc*と車速Vと要求トルクTr*との関係が予め定められて要求トルク設定用マップとしてROM74に記憶されており、要求トルクTr*としては、与えられた実行用アクセル開度Acc*と車速Vとに対応したものが当該マップから導出・設定される。図5に要求トルク設定用マップの一例を示す。図5に例示する要求トルク設定用マップは、運転者によるアクセル操作状態がアクセルオン状態(Acc*>0%)にあるときにはシフトポジションSPがDポジションおよびSポジション(仮想シフト段SP1〜SP8)の何れであっても同一の制約のもとで実行用アクセル開度Acc*と車速Vとに応じた要求トルクTr*を設定するように作成されている。ただし、アクセルオン状態(Acc*>0%)についての要求トルク設定制約(要求駆動力設定制約)をDポジションおよびSP1〜SP8とのうちの少なくとも何れか2つの間で異なるものとしてもよいことはいうまでもない。このような処理が実行される結果、運転者によりパワーモードが選択されているときに実行用アクセル開度Acc*がノーマルモードの選択時に比べて大きく設定されると、それに応じて、要求トルクTr*がノーマルモードの選択時に比べて大きく設定されることになる。また、実施例において、要求パワーPe*は、設定した要求トルクTr*にリングギヤ軸32aの回転数Nrを乗じたものと充放電要求パワーPb*とロスLossとの総和として計算される。なお、リングギヤ軸32aの回転数Nrは、図示するようにモータMG2の回転数Nm2を減速ギヤ35のギヤ比Grで除するか、あるいは車速Vに換算係数kを乗じることによって求めることができる。次いで、要求パワーPe*に基づいてエンジン22の仮の目標運転ポイントである仮目標回転数Netmpと仮目標トルクTetmpとを設定する(ステップS150)。実施例では、エンジン22を効率よく動作させるための動作ラインと要求パワーPe*とに基づいてエンジン22の仮目標回転数Netmpと仮目標トルクTetmpとを設定するものとした。図6に、エンジン22の動作ラインと回転数NeとトルクTeとの相関曲線とを例示する。同図に示すように、仮目標回転数Netmpと仮目標トルクTetmpとは、上記動作ラインと要求パワーPe*(Ne*×Te*)が一定となることを示す相関曲線との交点として求めることができる。エンジン22の仮目標回転数Netmpと仮目標トルクTetmpとを設定したならば、ステップS100にて入力したシフトポジションSPがDポジション、仮想シフト段SP1〜SP8の何れであるかを調べ(ステップS160)、シフトポジションSPがDポジションである場合には、仮目標回転数Netmpをエンジン22の目標回転数Ne*として設定すると共に仮目標トルクTetmpをエンジン22の目標トルクTe*として設定する(ステップS170)。
【0031】
ステップS170にてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定したならば、目標回転数Ne*とリングギヤ軸32aの回転数Nr(Nm2/Gr)と動力分配統合機構30のギヤ比ρ(サンギヤ31の歯数/リングギヤ32の歯数)とを用いて次式(1)に従いモータMG1の目標回転数Nm1*を計算した上で、計算した目標回転数Nm1*と現在の回転数Nm1とに基づく次式(2)に従ってモータMG1に対するトルク指令Tm1*を設定する(ステップS180)。ここで、式(1)は、動力分配統合機構30の回転要素に対する力学的な関係式である。動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図を図7に例示する。図中、左側のS軸はモータMG1の回転数Nm1に一致するサンギヤ31の回転数を示し、中央のC軸はエンジン22の回転数Neに一致するキャリア34の回転数を示し、右側のR軸はモータMG2の回転数Nm2を減速ギヤ35のギヤ比Grで除したリングギヤ32の回転数Nrを示す。また、R軸上の2つの太線矢印は、モータMG1にトルクTm1を出力させたときにこのトルク出力によりリングギヤ軸32aに作用するトルクと、モータMG2にトルクTm2を出力させたときに減速ギヤ35を介してリングギヤ軸32aに作用するトルクとを示す。モータMG1の目標回転数Nm1*を求めるための式(1)は、この共線図における回転数の関係を用いれば容易に導出することができる。そして、式(2)は、モータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(2)中、右辺第2項の「k1」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「k2」は積分項のゲインである。
【0032】
Nm1*=Ne*・(1+ρ)/ρ-Nm2/(Gr・ρ) …(1)
Tm1*=-ρ/(1+ρ)・Te*+k1・(Nm1*-Nm1)+k2・∫(Nm1*-Nm1)dt …(2)
【0033】
モータMG1に対するトルク指令Tm1*を設定したならば、要求トルクTr*とトルク指令Tm1*と動力分配統合機構30のギヤ比ρと減速ギヤ35のギヤ比Grとを用いてモータMG2から出力すべきトルクの仮の値である仮モータトルクTm2tmpを次式(3)に従い計算する(ステップS190)。更に、バッテリ50の入出力制限Win,WoutとステップS180にて設定したモータMG1に対するトルク指令Tm1*とモータMG1,MG2の現在の回転数Nm1,Nm2とを用いてモータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tm2min,Tm2maxを次式(4)および式(5)に従い計算する(ステップS200)。そして、モータMG2に対するトルク指令Tm2*をトルク制限Tm2min,Tm2maxで仮モータトルクTm2tmpを制限した値として設定する(ステップS210)。このようにしてモータMG2に対するトルク指令Tm2*を設定することにより、車軸としてのリングギヤ軸32aに出力するトルクをバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内に制限したトルクとして設定することができる。なお、式(3)は、図7の共線図から容易に導出することができる。こうしてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*、モータMG1,MG2に対するトルク指令Tm1*,Tm2*を設定したならば、エンジン22の目標回転数Ne*および目標トルクTe*をエンジンECU24に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に、ステップS100にて入力したシフトポジションSPをメータ表示ユニット90に表示させるためのシフトポジション表示指令をメータECU95にそれぞれ送信し(ステップS220)、再度ステップS100以降の処理を実行する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを得るための制御を実行する。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*に従ってモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*に従ってモータMG2が駆動されるようにインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。更に、シフトポジション表示指令を受信したメータECU95は、当該シフトポジション表示指令に従ってシフトポジション表示部91や段数表示部92等における表示状態を制御する。
【0034】
Tm2tmp=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr …(3)
Tm2min=(Win-Tm1*・Nm1)/Nm2 …(4)
Tm2max=(Wout-Tm1*・Nm1)/Nm2 …(5)
【0035】
一方、ステップS160にてシフトポジションSPが仮想シフト段SP1〜SP8の何れかであってSポジションに設定されていると判断された場合には、運転者によりシフト操作すなわちアップシフト指示ポジションまたはダウンシフト指示ポジションの設定が実行された直後であるか否かを判定し(ステップS230)、運転者によりシフト操作がなされた直後であれば、ステップS100にて入力したシフトポジションSPを制御上のシフトポジションSPである実行用シフト段SP*として設定する(ステップS240)。更に、車速Vと実行用シフト段SP*とに基づいてエンジン22の回転数Neの下限値である下限エンジン回転数Neminを設定する(ステップS250)。ここで、実施例のハイブリッド自動車20では、シフトポジションSPとしてSポジションが選択されているときに、基本的に車速Vと仮想シフト段の段数(SP1〜SP8)とに応じて下限エンジン回転数Neminを定めることとしており、下限エンジン回転数Neminは、同一の車速Vに対して仮想シフト段の段数が大きくなるほど(SP1からSP8に至るほど)小さな値に設定される。そして、実施例では、車速Vと仮想シフト段の段数と下限エンジン回転数Neminとの関係が予め定められて図8に例示するような下限エンジン回転数設定用マップとしてROM74に記憶されており、下限エンジン回転数Neminとしては、与えられた車速Vと実行用シフト段SP*とに対応したものが当該マップから導出・設定される。すなわち、ハイブリッド自動車20において、仮想シフト段SP1〜SP8には、アクセルオン状態について、それぞれ異なるエンジン22の運転ポイント設定制約(目標回転数設定制約)が対応づけられている。ステップS250にて下限エンジン回転数Neminを設定したならば、仮目標回転数Netmpと下限エンジン回転数Neminとの大きい方をエンジン22の目標回転数Ne*として設定すると共に、ステップS160にて設定した要求パワーPe*を目標回転数Ne*で除することによりエンジン22の目標トルクTe*を設定する(ステップS260)。そして、上述のステップS180〜S220の処理を実行する。
【0036】
また、ステップS230にて運転者によりシフト操作がなされた直後ではないと、すなわち、シフトポジションSPとしてSポジションが設定されていても運転者によりアップシフト指示ポジションやダウンシフト指示ポジションの設定を介して仮想シフト段の変更がなされていないと判断された場合には、ステップS270にて下限エンジン回転数Neminを設定する。この場合には、図3に示すように、まずステップS100にて入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて仮想シフト段SP1〜SP8の中からハイブリッド自動車20の走行状態に応じた仮目標シフト段SPtmpを設定する(ステップS271)。仮目標シフト段SPtmpの設定に関し、実施例では、運転者によるアクセル操作の状態を示すアクセル開度Accと車速Vと目標シフト段との関係を規定する図9に示すような変速線図が予め作成されてROM74に記憶されている。そして、ステップS271では、ハイブリッド自動車20が加速状態にあれば、図9において実線で示すアップシフト線に基づいてアクセル開度Accと車速Vとに対応した目標シフト段が仮目標シフト段SPtmpとして設定され、ハイブリッド自動車20が減速状態にあれば、図9において破線で示すダウンシフト線に基づいてアクセル開度Accと車速Vとに対応した目標シフト段が仮目標シフト段SPtmpとして設定される。なお、図9に示すような変速線図としては、仮想シフト段の段数と同一の段数を有する有段自動変速機の変速線図を用いることができる。ステップS271にて仮目標シフト段SPtmpを一旦設定したならば、設定した仮目標シフト段SPtmpとステップS100にて入力した車速Vに応じて定まる下限シフト段SPmin(V)とのうちの大きい方を仮目標シフト段SPtmpとして再設定する(ステップS272)。
【0037】
次いで、ステップS272にて設定した仮目標シフト段SPtmpと、制御上のシフトポジションSPである実行用シフト段SP*の前回値と、実行用シフト段SP*の所定時間(ここでは本ルーチンの実行間隔)あたりの変化量の上限値および下限値となる上下限値Srtとに基づいて実行用シフト段SP*を設定する(ステップS273)。すなわち、ステップS273では、次式(6)に示すように、実行用シフト段SP*の前回値から上下限値Srtを減じた値とステップS272で設定した仮目標シフト段SPtmpとのうちの大きい方と、実行用シフト段SP*の前回値に上下限値Srtを加えた値とのうちの小さい方を実行用シフト段SP*として設定する。ここで、実施例では、上下限値Srtが値1よりも小さい正の小数値とされており、それにより、実行用シフト段SP*は、主として帯小数の形をとりながらハイブリッド自動車20の走行状態(アクセル開度Accおよび車速V)に応じた仮目標シフト段SPtmpと緩変化制約としての上下限値Srtとに基づいて緩変化するように設定される。すなわち、ハイブリッド自動車20では、仮想シフト段SP1〜SP8自体が仮想的なものであることから、一般的な有段自動変速機を備えた車両とは異なり、実行用シフト段SP*として帯小数の値をとることができる。こうして実行用シフト段SP*を設定したならば、実行用シフト段SP*の整数部Sを抽出した上で(ステップS274)、当該整数部SとステップS100にて入力した車速Vと図8の下限エンジン回転数設定用マップとを用いて実行用シフト段SP*に対応した下限エンジン回転数を仮下限回転数Nmintmpとして設定する(ステップS275)。実施例において、ステップS275では、図8の下限エンジン回転数設定用マップから車速VおよびシフトポジションSP=Sすなわち実行用シフト段SP*の直下の仮想シフト段に対応した下限エンジン回転数を仮回転数Neaとして求めると共に車速VおよびシフトポジションSP=S+1すなわち実行用シフト段SP*の直上の仮想シフト段に対応した下限エンジン回転数を仮回転数Nebとして求めた上で、整数部Sと実行用シフト段SP*と仮回転数Nea,Nebとに基づく次式(7)に従い、図10に示すような線形補完を実行して仮下限回転数Nmintmpを設定する。そして、運転者により選択されている仮想シフト段(段数表示部92に表示される段数に対応した仮想シフト段)を実行用シフト段SP*の上限として下限エンジン回転数Neminを設定すべく、図8の下限エンジン回転数設定用マップからステップS100にて入力した車速VおよびシフトポジションSPに対応した下限エンジン回転数を制限値Nlimとして求めた上で、仮下限回転数Nmintmpと制限値Nlimとのうちの大きい方を下限エンジン回転数Neminとして設定し(ステップS276)、上述のステップS260,S180〜S220の処理を実行する。
【0038】
このように、実施例のハイブリッド自動車20では、アクセルオン状態かつ運転者によりシフトポジションSPとしてSポジションが選択された状態で仮想シフト段の変更がなされないときには、運転者により選択されている仮想シフト段に拘わらず(段数表示部92における仮想シフト段の段数に拘わらず)、複数の仮想シフト段SP1〜SP8の中から変速線図を用いて走行状態に応じた仮想シフト段が仮目標シフト段SPtmpとして設定されると共に、当該仮目標シフト段SPtmpと上下限値Srtとに基づいて値1よりも小さい変化量をもって緩変化するように実行用シフト段SP*が設定される(ステップS271〜S273)。更に、下限エンジン回転数設定用マップを用いて求められる実行用シフト段SP*の直下および直上の仮想シフト段に対応した仮回転数Nea,Nebに基づいて実行用シフト段SP*に対応したエンジン22の下限回転数Nemin(エンジン22の実質的な運転ポイント)が設定され(ステップS274〜S276)、設定された下限エンジン回転数Neminに基づく運転ポイントでエンジン22が運転されると共に(アクセルオン状態ではシフトポジションSPが何れのものであっても同一の制約のもとで要求トルクTr*が設定されることから)実質的に実行用シフト段SP*に対応した要求トルクTr*に基づくトルクが車軸としてのリングギヤ軸32aに出力されるようにエンジン22とモータMG1およびMG2とが制御される(ステップS180〜S220)。
【0039】
SP*=min(max(SPtmp,前回SP*-Srt),前回SP*+Srt) …(6)
Nmintmp=(S-SP*+1)・Nea+(SP*-S)・Neb …(7)
【0040】
引き続き、図11および図12等を参照しながら、運転者によるアクセル操作の状態がアクセルオフ状態であるときのハイブリッド自動車20の動作について説明する。図11および図12は、運転者によるアクセル操作の状態がアクセルオフ状態であるときに、ハイブリッドECU70により所定時間(例えば数msec)ごとに繰り返し実行されるアクセルオフ時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0041】
図11等に示すアクセルオフ時駆動制御ルーチンの開始に際して、ハイブリッドECU70のCPU72は、図2のステップS100と同様にして、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accやシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP、車速センサ87からの車速V、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2、バッテリ50の入出力制限Win,Wout、パワーモードフラグFpmの値といった制御に必要なデータの入力処理を実行する(ステップS300)。次いで、ステップS300にて入力したシフトポジションSPがDポジション、仮想シフト段SP1〜SP8の何れであるかを調べ(ステップS310)、シフトポジションSPがDポジションである場合には、更にパワーモードフラグFpmの値に基づいてハイブリッド自動車20の運転モードがノーマルモードとパワーモードとの何れとされているかを判定する(ステップS320)。パワーモードフラグFpmが値0であって運転モードとしてノーマルモードが選択されている場合には、ステップS300にて入力したアクセル開度Acc(=0%)と車速VとシフトポジションSP(=D)と上述した図5の要求トルク設定用マップとを用いて運転者により要求されている要求トルクTr*を設定する(ステップS330)。ここで、図5に例示するように、実施例の要求トルク設定用マップは、アクセル開度Accが0%(アクセルオフ)のときには例えば仮想シフト段SP8からSP1へと段数が小さくなるほど同一の車速Vに対する駆動力を小さく(制動力として大きく)設定するものとして(ただし、図5の例においてDポジションとSP8との間では同一)予め作成されている。すなわち、実施例のハイブリッド自動車20において、アクセルオフ状態(アクセル開度Acc=0%)については、仮想シフト段SP1〜SP8に、それぞれ異なる要求トルク設定制約(要求駆動力設定制約)が対応づけられる。このような要求トルク設定用マップを用いることにより、運転者によるアクセル操作の状態がアクセルオフ状態であると共に車速Vがある程度高い場合には、図5からわかるように、要求トルクTr*が制動トルク(負のトルク)として設定されることになる。ステップS330にて要求トルクTr*を設定したならば、エンジン22の目標回転数Ne*を所定の自立回転数Ne0に設定すると共に(ステップS340)、エンジンECU24に対してエンジン22が実質的にトルクを出力することなく自立回転数Ne0で自立運転されるように自立運転指令を送信する(ステップS350)。なお、自立回転数Ne0としては、例えばアイドル時の回転数を用いることができる。そして、モータMG1に対するトルク指令Tm1*を値0に設定した上で(ステップS360)、上述した図2のステップS190〜S210と同様のステップS370〜S390の処理を実行し、更にモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信すると共にシフトポジション表示指令をメータECU95に送信する(ステップS400)。
【0042】
一方、ステップS320にて、パワーモードフラグFpmが値1であって運転モードとしてパワーモードが選択されていると判断された場合には、更に運転者によるアクセル操作がアクセルオン状態からアクセルオフ状態へと変更された直後であるか否かを判定する(ステップS410)。そして、運転者によるアクセルペダル83の踏み込みが解除された直後であると判断された場合には、ステップS300にて入力したアクセル開度Accと車速Vと図9の変速線図とを用いて仮想シフト段SP1〜SP8の中からハイブリッド自動車20の走行状態に応じた実行用シフト段SP*を設定する(ステップS420)。かかるステップS420の処理は、図3のステップS271の処理と同様のものであり、例えば降坂路の走行中にアクセルペダル83の踏み込みが解除されてハイブリッド自動車20が加速状態にあれば、図9において実線で示すアップシフト線に基づいてアクセル開度Accと車速Vとに対応した目標シフト段が実行用シフト段SP*として設定され、ハイブリッド自動車20が減速状態にあれば、図9において破線で示すダウンシフト線に基づいてアクセル開度Accと車速Vとに対応した目標シフト段が実行用シフト段SP*として設定される。次いで、図5の要求トルク設定用マップからステップS300にて入力したアクセル開度Acc(=0%)と車速Vと実行用シフト段SP*とに対応した要求トルクTr*を導出・設定し(ステップS430)、更に図8の下限エンジン回転数設定用マップからステップS420にて設定した実行用シフト段SP*とステップS300にて入力した車速Vとに対応した下限エンジン回転数を導出してエンジン22の目標回転数Ne*として設定する(ステップS440)。そして、エンジンECU24に対してエンジン22に対する燃料供給を停止させるための燃料カット指令を送信した上で(ステップS450)、図2のステップS180と同様にして得られるモータMG1の目標回転数Nm1*等に基づく次式(8)に従ってモータMG1に対するトルク指令Tm1*を設定し(ステップS460)、上述のステップS370〜S400の処理を実行する。なお、式(8)中、右辺第2項の「k10」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「k20」は積分項のゲインである。これにより、実施例のハイブリッド自動車20では、運転モードとしてパワーモードが選択されているときに運転者によるアクセル操作状態がアクセルオン状態からアクセルオフ状態へと変化すると、モータMG1のモータリングにより燃料カットした状態のエンジン22のクランクシャフト26が目標回転数Ne*で回転すると共に要求トルクTr*に基づくトルク(制動トルク)が車軸としてのリングギヤ軸32aに出力されるようにエンジン22とモータMG1およびMG2とが制御されることになる。そして、このようにモータMG1により燃料カットした状態のエンジン22をモータリングすることにより、エンジン22のフリクショントルクを車軸としてのリングギヤ軸32aに出力することが可能となる。
【0043】
Tm1*=前回Tm1*+k10・(Nm1*-Nm1)+k20・∫(Nm1*-Nm1)dt …(8)
【0044】
また、ステップS410にて運転者によるアクセルペダル83の踏み込みが解除された直後ではないと判断された場合には、ステップS470にて要求トルクTr*とエンジン22の目標回転数Ne*とを設定する。この場合には、図12に示すように、まず図3のステップS271およびS272と同様の処理であるステップS471およびS472の処理を実行して仮目標シフト段SPtmpを設定すると共に、図3のステップS273と同様の処理であるステップS473の処理を実行して実行用シフト段SP*をハイブリッド自動車20の走行状態(アクセル開度Accおよび車速V)に応じた仮目標シフト段SPtmpと緩変化制約としての上下限値Srtとに基づいて緩変化するように設定する。実行用シフト段SP*を設定したならば、実行用シフト段SP*の整数部Sを抽出した上で(ステップS474)、当該整数部SとステップS300にて入力した車速Vと図5の要求トルク設定用マップとを用いて実行用シフト段SP*に対応した要求トルクTr*を設定する(ステップ475)。実施例において、ステップS475では、図5の要求トルク設定用マップから車速VおよびシフトポジションSP=Sすなわち実行用シフト段SP*の直下の仮想シフト段に対応した要求トルクを仮要求トルクTraとして求めると共に車速VおよびシフトポジションSP=S+1すなわち実行用シフト段SP*の直上の仮想シフト段に対応した要求トルクを仮要求トルクTrbとして求めた上で、整数部Sと実行用シフト段SP*と仮要求トルクTra,Trbとに基づく次式(9)に従って実行用シフト段SP*に対応した要求トルクTr*を設定する。更に、整数部SとステップS300にて入力した車速Vと図8の下限エンジン回転数設定用マップとを用いて実行用シフト段SP*に対応したエンジン22の目標回転数Ne*を設定する(ステップS476)。実施例において、ステップS476では、図8の下限エンジン回転数設定用マップから車速VおよびシフトポジションSP=Sすなわち実行用シフト段SP*の直下の仮想シフト段に対応した下限エンジン回転数を仮回転数Neaとして求めると共に車速VおよびシフトポジションSP=S+1すなわち実行用シフト段SP*の直上の仮想シフト段に対応した下限エンジン回転数を仮回転数Nebとして求めた上で、整数部Sと実行用シフト段SP*と仮回転数Nea,Nebとに基づく次式(10)に従って仮下限回転数Nmintmpを設定する。なお、式(9)および(10)は、図3のステップS275にて式(7)に従い図10に示すような線形補完を実行する場合と同様にして求められる関係式である。こうして要求トルクTr*とエンジン22の目標回転数Ne*を設定したならば、上述のステップS450およびS460,S370〜S400の処理を実行する。これにより、運転モードとしてパワーモードが選択されると共に運転者によるアクセル操作状態がアクセルオフ状態であるときに、一旦ステップS420〜S460およびS370〜S400の処理が実行された後には、複数の仮想シフト段SP1〜SP8の中から変速線図を用いて走行状態に応じた仮想シフト段が仮目標シフト段SPtmpとして設定されると共に、当該仮目標シフト段SPtmpと上下限値Srtとに基づいて値1よりも小さい変化量をもって緩変化するように実行用シフト段SP*が設定される(ステップS471〜S473)。更に、要求トルク設定用マップを用いて求められる実行用シフト段SP*の直下および直上の仮想シフト段に対応した仮要求トルクTra,Trb等に基づいて実行用シフト段SP*に対応した要求トルクTr*が設定されると共に下限エンジン回転数設定用マップを用いて実行用シフト段SP*の直下および直上の仮想シフト段に対応した仮目標回転数Nea,Nebに基づいて実行用シフト段SP*に対応したエンジン22の目標回転数Ne*が設定され(ステップS474〜S476)、モータMG1のモータリングにより燃料カットした状態のエンジン22のクランクシャフト26が目標回転数Ne*で回転すると共に要求トルクTr*に基づくトルク(制動トルク)が車軸としてのリングギヤ軸32aに出力されるようにエンジン22とモータMG1およびMG2とが制御される(ステップS450〜S460,S370〜S400)。
【0045】
Tr*=(S-SP*+1)・Tra+(SP*-S)・Trb …(9)
Ne*=(S-SP*+1)・Nea+(SP*-S)・Neb …(10)
【0046】
更に、ステップS310にてステップS300にて入力したシフトポジションSPが仮想シフト段SP1〜SP8の何れかであると判断された場合には、更に運転者によるアクセル操作がアクセルオン状態からアクセルオフ状態へと変更された直後であるか、あるいは運転者によりシフト操作すなわちアップシフト指示ポジションまたはダウンシフト指示ポジションの設定が実行された直後であるか否かを判定し(ステップS480)、運転者によりアクセルオフ操作やシフト操作がなされた直後であれば、ステップS300にて入力したシフトポジションSPを制御上のシフトポジションSPである実行用シフト段SP*として設定し(ステップS490)、上述のステップS430〜S460およびS370〜S400の処理を実行する。これにより、実施例のハイブリッド自動車20では、シフトポジションSPとしてSポジションが選択されているときに運転者によるアクセル操作状態がアクセルオン状態からアクセルオフ状態へと変化したり、運転者により仮想シフト段が変更されたりすると、モータMG1のモータリングにより燃料カットした状態のエンジン22のクランクシャフト26が運転者により選択されている仮想シフト段に対応した目標回転数Ne*で回転すると共に運転者により選択されている仮想シフト段に対応した要求トルクTr*に基づくトルク(制動トルク)が車軸としてのリングギヤ軸32aに出力されるようにエンジン22とモータMG1およびMG2とが制御されることになる。
【0047】
また、ステップS480にて運転者によりアクセルオフ操作やシフト操作がなされた直後ではないと判断された場合には、上述のステップS470にて要求トルクTr*とエンジン22の目標回転数Ne*を設定した上で、上述のステップS450〜S460,S370〜S400の処理を実行する。これにより、運転者によりシフトポジションSPとしてSポジションが選択されると共に運転者によるアクセル操作状態がアクセルオフ状態であり、かつ運転者によりアップシフト指示ポジションやダウンシフト指示ポジションの設定を介して仮想シフト段の変更がなされていないときには、運転者により選択されている仮想シフト段に拘わらず(段数表示部92における仮想シフト段の段数に拘わらず)、複数の仮想シフト段SP1〜SP8の中から変速線図を用いて走行状態に応じた仮想シフト段が仮目標シフト段SPtmpとして設定されると共に、当該仮目標シフト段SPtmpと上下限値Srtとに基づいて値1よりも小さい変化量をもって緩変化するように実行用シフト段SP*が設定される(ステップS471〜S473)。更に、要求トルク設定用マップを用いて求められる実行用シフト段SP*の直下および直上の仮想シフト段に対応した仮要求トルクTra,Trb等に基づいて実行用シフト段SP*に対応した要求トルクTr*が設定されると共に下限エンジン回転数設定用マップを用いて実行用シフト段SP*の直下および直上の仮想シフト段に対応した仮目標回転数Nea,Nebに基づいて実行用シフト段SP*に対応したエンジン22の目標回転数Ne*が設定され(ステップS474〜S476)、モータMG1のモータリングにより燃料カットした状態のエンジン22のクランクシャフト26が目標回転数Ne*で回転すると共に要求トルクTr*に基づくトルク(制動トルク)が車軸としてのリングギヤ軸32aに出力されるようにエンジン22とモータMG1およびMG2とが制御される(ステップS450〜S460,S370〜S400)。
【0048】
以上説明したように、実施例のハイブリッド自動車20では、走行に要求される要求トルクTr*を設定するための要求トルク設定制約とエンジン22の運転ポイント設定制約(目標回転数設定制約)とを含む運転制約と仮想シフト段とがそれぞれ複数定められている。複数の運転制約は、複数の仮想シフト段SP1〜SP8間で要求トルク設定制約とエンジン22の運転ポイント設定制約との少なくとも何れか一方が異なるように要求トルク設定用マップや下限エンジン回転数設定用マップとして仮想シフト段SP1〜SP8ごとにROM74に記憶されている。また、ハイブリッド自動車20は、通常走行用のDポジションと、複数の仮想シフト段SP1〜SP8に対応づけられたSポジションとの選択を運転者に許容すると共に、Sポジションが選択されているときに複数の仮想シフト段SP1〜SP8の中から任意の仮想シフト段の選択を運転者に許容するシフトレバー81を有している。従って、ハイブリッド自動車20では、運転者により設定される仮想シフト段SP1〜SP8に基づく制御を実行することにより一般的な自動車における変速処理を模した動作を実行することができる。そして、ハイブリッド自動車20では、シフトポジションSPとしてSポジションが設定されると共に運転者により仮想シフト段の変更がなされていないときや、パワーモードが選択されると共に運転者によるアクセル操作の状態がアクセルオフ状態であるとき(条件成立時)に、複数の仮想シフト段SP1〜SP8の中から変速制約としての図9の変速線図に基づいて車速V等の走行状態に応じた仮想シフト段が仮目標シフト段SPtmpとして設定されると共に(図3のステップS271,S272、図12のステップS471,S472)、当該仮目標シフト段SPtmpと緩変化制約としての上下限値Srtとに基づいて値1よりも小さい変化量をもって緩変化するように実行用シフト段SP*が設定される(図3のステップS273,図12のステップS473)。更に、要求トルク設定用マップや下限エンジン回転数設定用マップから求められる実行用シフト段SP*の直下および直上の仮想シフト段(SP=S,S+1)に対応した仮の要求トルクTra,Trbやエンジン22の仮回転数Nea,Nebに基づいて実行用シフト段SP*に対応した要求トルクTr*とエンジン22の目標回転数Ne*とが設定され(図2のステップS140,図3のS274〜S276および図2のS260,図12のS474〜S476)、設定された目標回転数Ne*でエンジン22が運転されると共に設定された要求トルクTr*に基づくトルクが車軸としてのリングギヤ軸32aに出力されるようにエンジン22とモータMG1およびMG2とが制御される(図2のステップS180〜S220,図11のステップS450,S460、S370〜S400)。このように、上記運転制約に対応づけられた複数の仮想シフト段SP1〜SP8をもったハイブリッド自動車20では、走行状態に応じた仮目標シフト段SPtmpと上下限値Srtとに基づいて緩変化するように実行用シフト段SP*が設定されると共に当該実行用シフト段SP*の直下および直上の仮想シフト段に対応した運転制約を用いて実行用シフト段SP*に対応した要求トルクTr*とエンジン22の運転ポイントとが設定されることから、上記条件成立時に、仮想シフト段SP1〜SP8に対応づけられた複数の運転条件を用いながら走行用のトルク(制動トルクを含む)やエンジン22の運転ポイントを緩やかに変化させることができる。これにより、一般的な自動車における変速処理を模した動作を可能とするハイブリッド自動車20において、走行に要求される要求トルクTr*や要求トルクTr*に対応したエンジン22の運転ポイントの段階的変化と緩変化とを使い分けることが可能となるので、走行に要求される要求トルクTr*やエンジン22の運転ポイントをより適正に設定することが可能となる。
【0049】
すなわち、シフトポジションSPとしてSポジションが選択されると共に運転者により仮想シフト段の変更がなされていない場合には、要求トルクTr*やエンジン22の運転ポイントの段階的変化が要求されていないとみなすこともできる。従って、このような場合に、走行状態に応じた仮目標シフト段SPtmpと上下限値Srtとに基づいて緩変化する実行用シフト段SP*に基づいて走行用のトルクやエンジン22の運転ポイントを緩やかに変化させれば、要求トルクTr*やエンジン22の運転ポイントを走行状態に応じてより適正に設定しながらスムースな走行を実現することが可能となる。また、上記実施例のように、複数の仮想シフト段SP1〜SP8間で要求トルク設定制約とエンジン22の運転ポイント設定制約との双方が異なるように仮想シフト段SP1〜SP8のそれぞれにアクセルオフ状態用の運転制約を対応づけすれば、シフトポジションSPとしてSポジションが選択されると共に運転者により仮想シフト段の変更がなされておらず、かつ運転者によるアクセル操作の状態がアクセルオフ状態であるときに、アクセルオフに基づく要求トルクTr*(制動トルク)やエンジン22の運転ポイントを走行状態に応じてより適正に設定しながらスムースな走行を実現することが可能となる。更に、上記実施例のように、複数の仮想シフト段SP1〜SP8間でエンジン22の運転ポイント設定制約が異なるように仮想シフト段SP1〜SP8のそれぞれにアクセルオン状態用の運転制約を対応づけすれば、シフトポジションSPとしてSポジションが選択されると共に運転者により仮想シフト段の変更がなされておらず、かつ運転者によるアクセル操作の状態がアクセルオン状態であるときに、エンジン22の回転数Neを滑らかに変化させてスムースな走行を実現することが可能となる。ただし、アクセルオフ状態用およびアクセルオン状態用の運転制約は、複数の仮想シフト段SP1〜SP8間で要求トルク設定制約とエンジン22の運転ポイント設定制約との少なくとも何れか一方が異なるように仮想シフト段SP1〜SP8のそれぞれに対応づけられればよい。更に、例えば仮想シフト段を2段としてこれらの仮想シフト段間で少なくとも要求トルク設定制約を異ならせ、一方を通常走行用のDポジションに対応づけすると共に他方(好ましくはアクセルオフ時の要求トルクを制動力として大きく設定するもの)を例えばブレーキポジションといったシフトポジションに対応づけしてもよい。
【0050】
また、実施例のハイブリッド自動車20は、モードスイッチ88を介して通常走行用のノーマルモード(第1の運転モード)と当該ノーマルモードに比べてアクセル操作に対するトルク出力の応答性を高める傾向をもったパワーモード(第2の運転モード)との何れかを選択可能とするものであり、運転モードとしてパワーモードが選択された場合には、運転者によるアクセル開度Accとパワーモード時アクセル開度設定用マップとに基づいて制御上のアクセル開度である実行用アクセル開度Acc*が設定され(図2のステップS130)、それにより要求トルクTr*がノーマルモードの選択時に比べて基本的に大きく設定されることになる(図2のステップS140)。このような運転モードの選択を可能とする場合、アクセル開度Accが0%となるアクセルオフ状態には、パワーモード時アクセル開度設定用マップを用いてもアクセルオフ状態での動力の出力特性を変化させることができない。このため、パワーモードが選択されると共に運転者によるアクセル操作の状態がアクセルオフ状態になるときの動力の出力特性をノーマルモードのものと異ならせるためには、ノーマルモードの選択時におけるアクセルオフ状態での動力の出力特性とは異なるパワーモード選択時におけるアクセルオフ状態での動力の出力特性を別途用意する必要が生じる。これに対して、上記実施例のように、パワーモードが選択されており、かつアクセル操作の状態がアクセルオフ状態であるときに、Sポジション用の仮想シフト段SP1〜SP8に対応づけられた複数の運転制約を用いた図11のステップS470(図12のステップS471〜S476)の処理が実行されるようにすれば、パワーモードが選択されると共に運転者によるアクセル操作の状態がアクセルオフ状態であるときの動力の出力特性すなわち要求トルクTr*(制動トルク)やエンジン22の運転ポイントをノーマルモード選択時のものとは異なり、かつ走行状態に応じたより適正なものとして設定することが可能となる。
【0051】
更に、実施例のハイブリッド自動車20では、緩変化制約としての上下限値Srtを用いて実行用シフト段SP*の上昇側と下降側とにおける変化量をそれぞれ値1よりも小さく制限している。これにより、ハイブリッド自動車20の走行状態に応じて実行用シフト段SP*が上昇側と下降側との何れの方向に変化する場合であっても、実行用シフト段SP*をより適正に緩変化させることが可能となる。すなわち、このようにして実行用シフト段SP*を設定すれば、Sポジションやパワーモードの選択時に例えばアクセルオフ状態が継続されたり、Sポジションの選択中にアクセルオン状態のままアクセルペダル83が踏み戻されたりして車速Vが低下する場合には、実行用シフト段SP*が緩やかにダウンシフト側に変化することになるので、それにより要求トルクTr*を緩やかに制動側に増加させたり、エンジン22の回転数Neを緩やかに高めたりしながらスムースな走行を実現することが可能となる。また、例えばSポジションやパワーモードの選択時かつ降坂路の走行中にアクセルオフ状態が継続されて車速Vが増加するような場合には、実行用シフト段SP*が緩やかにアップシフト側に変化することになるので、それにより制動トルクとしての要求トルクTr*の減少やエンジン22の回転数Neの低下を抑制し、アクセルオフに基づく制動力を良好に確保すると共にエンジン22からのフリクショントルクを取り出し易くすることが可能となる。ただし、上下限値Srtは、アクセルオン状態とアクセルオフ状態とで異なるものであってもよい。更に、緩変化制約は、実行用シフト段SP*の上昇側および下降側との何れか一方における変化量を値1よりも小さく制限するものであってもよく、緩変化制約として所定の時定数を用いたいわゆるなまし処理を用いてもよい。また、上記実施例のように、図9に例示するような運転者によるアクセル操作の状態と車速Vと仮想シフト段SP1〜SP8との関係を規定する変速線図を用いれば、仮目標シフト段SPtmpを走行状態に応じてより適正に設定することが可能となる。
【0052】
なお、上記ハイブリッド自動車20は、通常走行用のDポジションと、複数の仮想シフト段SP1〜SP8に対応づけられたSポジションとの選択を運転者に許容すると共に、Sポジションが選択されているときに複数の仮想シフト段SP1〜SP8の中から任意の仮想シフト段の選択を運転者に許容するシフトレバー81を有するものであるが、本発明の適用対象はこれに限られるものではない。すなわち、本発明によるハイブリッド自動車は、上述のような仮想シフト段を有するものであれば、当該仮想シフト段の任意の選択を運転者に許容しない形式のものであってもよい。また、実施例のハイブリッド自動車20では、車軸としてのリングギヤ軸32aとモータMG2とがモータMG2の回転数を減速してリングギヤ軸32aに伝達する減速ギヤ35を介して連結されているが、減速ギヤ35の代わりに、例えばHi,Loの2段の変速段あるいは3段以上の変速段を有したモータMG2の回転数を変速してリングギヤ軸32aに伝達する変速機を採用してもよい。更に、実施例のハイブリッド自動車20は、モータMG2の動力をリングギヤ軸32aに接続された車軸に出力するものであるが、本発明の適用対象はこれに限られるものでもない。すなわち、本発明は、図13に示す変形例としてのハイブリッド自動車20Aのように、モータMG2の動力をリングギヤ軸32aに接続された車軸(車輪39a,39bが接続された車軸)とは異なる車軸(図13における車輪39c,39dに接続された車軸)に出力するものに適用されてもよい。また、実施例のハイブリッド自動車20は、エンジン22の動力を動力分配統合機構30を介して車輪39a,39bに接続される車軸としてのリングギヤ軸32aに出力するものであるが、本発明の適用対象は、これに限られるものでもない。すなわち、本発明は、図14に示す変形例としてのハイブリッド自動車20Bのように、エンジン22のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と車輪39a,39bに動力を出力する車軸に接続されたアウターロータ234とを有し、エンジン22の動力の一部を車軸に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えたものに適用されてもよい。
【0053】
ここで、上記実施例および変形例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明しておく。すなわち、上記実施例および変形例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、モータMG1および動力分配統合機構30の組み合わせや対ロータ電動機230が「電力動力入出力手段」に相当し、モータMG2が「電動機」に相当し、モータMG2と電力をやり取り可能なバッテリ50が「蓄電手段」に相当し、走行に要求される要求トルクTr*を設定するための要求トルク設定制約と要求トルクTr*に対応したエンジン22の運転ポイントを設定するための機関運転ポイント設定制約とを含む運転制約を複数の仮想シフト段SP1〜SP8間で要求トルク設定制約とエンジン22の運転ポイント設定制約との少なくとも何れか一方が異なるように仮想シフト段SP1〜SP8ごとに記憶するROM74が「運転制約記憶手段」に相当し、図2のステップS230や図11のステップS410,S480にて否定判断がなされたときに、図3のステップS271,S272や図12のステップS471,S472の処理を実行するハイブリッドECU70が「仮目標シフト段設定手段」に相当し、図3のステップS273や図12のステップS473の処理を実行するハイブリッドECU70が「実行用シフト段設定手段」に相当し、図2のステップS140や図3のステップS274〜S276、図12のステップS474〜S476の処理を実行するハイブリッドECU70が「実行用運転条件設定手段」に相当し、図2のステップS180〜S220、図11のステップS450〜S460,S370〜S400の処理を実行するハイブリッドECU70やエンジンECU24、モータECU40が「制御手段」に相当する。また、通常走行用のDポジションと、複数の仮想シフト段SP1〜SP8に対応づけられたSポジションとの選択を運転者に許容すると共に、Sポジションが選択されているときに複数の仮想シフト段SP1〜SP8の中から任意の仮想シフト段の選択を運転者に許容するシフトレバー81が「シフトポジション選択手段」に相当し、車速Vを検出する車速センサ87が「車速検出手段」に相当し、通常走行用のノーマルモードと当該ノーマルモードに比べてアクセル操作に対するトルク出力の応答性を高める傾向をもったパワーモードとの何れかを選択するためのモードスイッチ88が「運転モード選択手段」に相当し、図2のステップS120〜S140の処理を実行するハイブリッドECU70が「要求駆動力設定手段」に相当し、モータMG1が「発電用電動機」に相当し、動力分配統合機構30が「3軸式動力入出力手段」に相当する。
【0054】
なお、「内燃機関」は、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料の供給を受けて動力を出力するエンジン22に限られず、水素エンジンといったような他の如何なる形式のものであっても構わない。「電力動力入出力手段」は、所定の車軸と内燃機関の機関軸とに接続され、内燃機関からの動力の少なくとも一部を用いて発電可能であると共に電力の入出力を伴って車軸に動力を入出力可能なものであれば、モータMG1および動力分配統合機構30の組み合わせや対ロータ電動機230以外の他の如何なる形式のものであっても構わない。「電動機」や「発電用電動機」は、モータMG1,MG2のような同期発電電動機に限られず、誘導電動機といったような他の如何なる形式のものであっても構わない。「蓄電手段」は、バッテリ50のような二次電池に限られず、電力動力入出力手段や電動機と電力をやり取り可能なものであればキャパシタといったような他の如何なる形式のものであっても構わない。「制御手段」は、設定された運転ポイントで内燃機関が運転されると共に設定された要求駆動力に基づく動力が得られるように内燃機関と電力動力入出力手段と電動機とを制御するものであれば、ハイブリッドECU70とエンジンECU24とモータECU40との組み合わせに限られるものではなく、単一の電子制御ユニットのような他の如何なる形式のものであっても構わない。「シフトポジション選択手段」は、通常走行用の第1のシフトポジションと、複数の仮想シフト段に対応づけられた第2のシフトポジションとの選択を運転者に許容すると共に、第2のシフトポジションが選択されているときに複数の仮想シフト段の中から任意の仮想シフト段の選択を運転者に許容することができるものであれば、シフトレバー81以外の他の如何なる形式のものであっても構わない。「車速検出手段」は、車速を検出可能なものであれば、如何なる形式のものであっても構わない。「運転モード選択手段」は、通常走行用の第1の運転モードと当該第1の運転モードに比べてアクセル操作に対する動力の出力の応答性を高める傾向をもった第2の運転モードとの何れかを選択可能とするものあれば、モードスイッチ88以外の他の如何なる形式のものであっても構わない。「要求駆動力設定手段」は、第1または第2の運転モードに対応した駆動力設定制約を用いてアクセル操作に応じた要求駆動力を設定可能なものであれば、車速Vを用いることなく要求駆動力を設定するもの等、如何なる形式のものであっても構わない。何れにしても、これら実施例および変形例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施例はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0055】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例に係るハイブリッド自動車20の概略構成図である。
【図2】実施例のハイブリッドECU70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】実施例のハイブリッドECU70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】ノーマルモード時アクセル開度設定用マップとパワーモード時アクセル開度設定用マップとを例示する説明図である。
【図5】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図6】エンジン22の動作ラインと目標回転数Ne*と目標トルクTe*との相関曲線とを例示する説明図である。
【図7】動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を例示する共線図である。
【図8】下限エンジン回転数設定用マップの一例を示す説明図である。
【図9】アクセル開度Accと車速Vと目標シフト段との関係を規定する変速線図の一例を示す説明図である。
【図10】整数部Sと実行用シフト段SP*と仮回転数Nea,Nebとに基づいて仮下限回転数Nmintmpを設定する手順を示す説明図である。
【図11】実施例のハイブリッドECU70により実行されるアクセルオフ時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図12】実施例のハイブリッドECU70により実行されるアクセルオフ時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図13】変形例のハイブリッド自動車20Aの概略構成図である。
【図14】変形例のハイブリッド自動車20Bの概略構成図である。
【符号の説明】
【0057】
20,20A,20B ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、37 ギヤ機構、38 デファレンシャルギヤ、39a〜39d 車輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(ハイブリッドECU)、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、87 車速センサ、88 モードスイッチ、90 メータ表示ユニット、91 シフトポジション表示部、92 段数表示部、93 モード表示部、95 メータ用電子制御ユニット(メータECU)、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ、234 アウターロータ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
所定の車軸と前記内燃機関の機関軸とに接続されて電力と動力との入出力を伴って前記内燃機関の動力の少なくとも一部を前記車軸側に出力可能な電力動力入出力手段と、
前記車軸または該車軸とは異なる他の車軸に動力を入出力可能な電動機と、
前記電力動力入出力手段および前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、
走行に要求される要求駆動力を設定するための駆動力設定制約と前記要求駆動力に対応した前記内燃機関の運転ポイントを設定するための機関運転ポイント設定制約とを含む運転制約を複数の仮想シフト段間で該駆動力設定制約と該機関運転ポイント設定制約との少なくとも何れか一方が異なるように該仮想シフト段ごとに記憶する運転制約記憶手段と、
所定条件が成立したときに、前記複数の仮想シフト段の中から所定の変速制約に基づいて走行状態に応じた仮想シフト段を仮目標シフト段として設定する仮目標シフト段設定手段と、
前記設定された仮目標シフト段と所定の緩変化制約とに基づいて値1よりも小さい変化量をもって緩変化するように実行用シフト段を設定する実行用シフト段設定手段と、
前記設定された実行用シフト段の直下および直上の仮想シフト段に対応した運転制約を用いて求められる仮の要求駆動力と仮の内燃機関の運転ポイントとに基づいて前記実行用シフト段に対応した要求駆動力と前記内燃機関の運転ポイントとを設定する実行用運転条件設定手段と、
前記設定された運転ポイントで前記内燃機関が運転されると共に前記設定された要求駆動力に基づく動力が得られるように前記内燃機関と前記電力動力入出力手段と前記電動機とを制御する制御手段と、
を備えるハイブリッド自動車。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド自動車において、
通常走行用の第1のシフトポジションと、前記複数の仮想シフト段に対応づけられた第2のシフトポジションとの選択を運転者に許容すると共に、前記第2のシフトポジションが選択されているときに前記複数の仮想シフト段の中から任意の仮想シフト段の選択を運転者に許容するシフトポジション選択手段を更に備え、前記所定条件は、前記第2のシフトポジションが選択されており、かつ運転者により前記仮想シフト段の変更がなされていないときに成立するハイブリッド自動車。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハイブリッド自動車において、
車速を検出する車速検出手段を更に備え、
前記複数の仮想シフト段のそれぞれに対応づけられた前記運転制約は、アクセルオフ状態での車速と前記要求駆動力との関係を規定する駆動力設定制約と、前記アクセルオフ状態での車速と前記内燃機関の目標回転数との関係を規定する機関運転ポイント設定制約とを含み、前記複数の仮想シフト段間では、前記駆動力設定制約と前記機関運転ポイント設定制約との双方が異なっているハイブリッド自動車。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載のハイブリッド自動車において、
車速を検出する車速検出手段を更に備え、
前記複数の仮想シフト段のそれぞれに対応づけられた前記運転制約は、アクセルオン状態での車速と前記要求駆動力との関係を規定する駆動力設定制約と、前記アクセルオン状態での車速と前記内燃機関の下限回転数との関係を規定する機関運転ポイント設定制約とを含み、前記複数の仮想シフト段間では、前記機関運転ポイント設定制約が異なっているハイブリッド自動車。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載のハイブリッド自動車において、
通常走行用の第1の運転モードと該第1の運転モードに比べてアクセル操作に対する動力の出力の応答性を高める傾向をもった第2の運転モードとの何れかを選択するための運転モード選択手段と、
前記第1または第2の運転モードに対応した駆動力設定制約を用いて前記アクセル操作に応じた要求駆動力を設定する要求駆動力設定手段を更に備え、
前記所定条件は、前記第2の運転モードが選択されており、かつ前記アクセル操作の状態がアクセルオフ状態であるときに成立するハイブリッド自動車。
【請求項6】
前記第2の運転モードに対応した駆動力設定制約は、前記第1の運転モードに対応した駆動力設定制約に比べて同一のアクセル操作量に対する前記要求駆動力を大きく設定する傾向を有している請求項5に記載のハイブリッド自動車。
【請求項7】
前記緩変化制約は、前記実行用シフト段の上昇側と下降側とにおける変化量をそれぞれ値1よりも小さく制限する制約である請求項1から6の何れかに記載のハイブリッド自動車。
【請求項8】
前記変速制約は、運転者によるアクセル操作の状態と車速と前記仮想シフト段との関係を規定する変速線図である請求項1から6の何れかに記載のハイブリッド自動車。
【請求項9】
前記電力動力入出力手段は、動力を入出力可能な発電用電動機と、前記車軸と前記内燃機関の前記機関軸と前記発電用電動機の回転軸との3軸に接続され、これら3軸のうちの何れか2軸に入出力される動力に基づく動力を残余の軸に入出力する3軸式動力入出力手段とを含む請求項1から8の何れかに記載のハイブリッド自動車。
【請求項10】
内燃機関と、所定の車軸と前記内燃機関の機関軸とに接続されて電力と動力との入出力を伴って前記内燃機関の動力の少なくとも一部を前記車軸側に出力可能な電力動力入出力手段と、前記車軸または該車軸とは異なる他の車軸に動力を入出力可能な電動機と、前記電力動力入出力手段および前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、走行に要求される要求駆動力を設定するための駆動力設定制約と前記要求駆動力に対応した前記内燃機関の運転ポイントを設定するための機関運転ポイント設定制約とを含む運転制約を複数の仮想シフト段間で該駆動力設定制約と該機関運転ポイント設定制約との少なくとも何れか一方が異なるように該仮想シフト段ごとに記憶する運転制約記憶手段とを備えたハイブリッド自動車の制御方法であって、
(a)所定条件が成立したときに、前記複数の仮想シフト段の中から所定の変速制約に基づいて走行状態に応じた仮想シフト段を仮目標シフト段として設定するステップと、
(b)ステップ(a)にて設定された仮目標シフト段と所定の緩変化制約とに基づいて値1よりも小さい変化量をもって緩変化するように実行用シフト段を設定するステップと、
(c)ステップ(b)にて設定された実行用シフト段の直下および直上の仮想シフト段に対応した運転制約を用いて求められる仮の要求駆動力と仮の内燃機関の運転ポイントとに基づいて前記実行用シフト段に対応した要求駆動力と前記内燃機関の運転ポイントとを設定するステップと、
(d)ステップ(c)にて設定された運転ポイントで前記内燃機関が運転されると共にステップ(c)にて設定された要求駆動力に基づく動力が得られるように前記内燃機関と前記電力動力入出力手段と前記電動機とを制御するステップと、
を含むハイブリッド自動車の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−247073(P2008−247073A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87961(P2007−87961)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】