説明

同期回路

【課題】小面積で広帯域特性及び低位相雑音特性を得ることが可能な同期回路を提供する。
【解決手段】位相検出器11は、参照信号と帰還信号との位相差を検出する。電圧生成器12,13は、位相検出器の出力信号に基づき電圧を発生する。パルス発生器16は、参照信号に基づきパルス信号を生成する。電圧制御発振器14は、パルス信号に同期して、発振信号を発振する。分周器15は、電圧制御発振器からの信号を分周し、帰還信号を生成する。電圧制御発振器14は、電圧発生回路から供給される電圧レベルをシフトするレベルシフト回路14cと、電圧発生回路からの電圧とレベルシフト回路からのレベルシフトされた電圧により駆動される複数のインバータ回路14a、14bからなるリング発振器とにより構成され、インバータ回路の1つにパルス信号が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体集積回路に適用される注入同期型リング電圧制御発振器(VCO)を用いた同期回路に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化に伴う無線通信回路のコスト増大を防ぐため、回路面積を縮小可能なスケーラブルアナログ回路の実現が期待されている。例えば無線通信回路に適用される位相同期回路(PLL)に用いるVCOは、インダクタ(L)と容量(C)の共振特性を利用した回路が多く用いられている。LC回路のQ値を高く設定することで周波数精度が高く、位相雑音特性の低い性能を実現できる。このため、近年、集積回路上にLC共振回路を用いたVCOが多く用いられている。
【0003】
しかし、半導体集積回路の微細化に伴い、トランジスタ回路部が小面積化されるのに対して、LC共振回路部は、回路定数が決まっているため小面積化できない。したがって、チップコストを制限してしまう状況になっている。また、LC共振型回路は、0.1μm未満のプロセスを適用した場合、システムの位相雑音の仕様を満たすことが難しくなってきている。
【0004】
このため、LC共振回路を用いた発振回路に代わる回路技術として、リング発振回路が注目されている。しかし、現状のリング発振回路は、本質的に位相雑音が大きい。このため、リング発振回路を用いた高性能PLL回路の研究開発が精力的に進められており、例えば非特許文献1,2のような研究成果が報告されている。
【0005】
非特許文献1は、リング発振回路の位相雑音特性を改善するため、リング発振回路を要素回路とするPLLシンセサイザ回路の構成法を提案している。この文献1に開示された技術は、位相雑音のプリ増幅技術を用いて、ループ帯域内のノイズをフィードバックすることにより位相雑音を抑制している。この文献1の技術は、発振周波数から0.6MHz離調した周波数における位相雑音が、−124dBc/Hzと、LC共振回路を用いたVCO並みの位相雑音特性を0.07mmの小面積で達成している。
【0006】
非特許文献2も文献1と同様に、PLLシンセサイザのループ帯域を最適化し、位相雑音特性を改善している。この文献2の技術は、110MHz−180MHzの周波数範囲で、発振周波数から10kHz離調した周波数における位相雑音が、−90dBc/Hzであり、これを0.64mmの小面積で達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cao, et al. “A 04 ps-RMS-Jitter 1-3GHz Ring-Oscillator PLL Using Phase Noise Preamplification”, IEEE Journal of Solid-State Circuits, vol. 43, No. 9, pp.2079-2089, Sep., 2008.
【非特許文献2】T. Morie, et al. “A -90dBc@10kHz Phase Noise Fractional-N Frequency synthesizer with Accurate Loop Bandwidth Control Circuit”, IEEE Symposium on VLSI Circuits Digest of Technical Papers, pp.52-55, 2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記文献1及び2は、ループ帯域内のノイズをフィードバックして抑制したり、PLLシンセサイザのループ帯域を最適化し、位相雑音特性を改善したりするものである。
【0009】
一方、発振回路を含むPLL回路全体の構成により低位相雑音化を図るには、ループ帯域を広く設定する必要がある。しかし、ループ帯域を広く設定した場合、フィードバックがかかりにくくなり、安定した位相同期動作が困難となる。このため、位相同期動作の安定性とのトレードオフにより、広いループ帯域を安定に実現し、位相雑音特性を向上することが困難であった。
【0010】
本発明は、小面積で広帯域特性及び低位相雑音特性を得ることが可能な同期回路を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、同期回路の第1の態様は、参照信号と帰還信号との位相差を検出する位相検出器と、前記位相検出器の出力信号に基づき電圧を発生する電圧生成器と、前記参照信号に基づきパルス信号を生成するパルス発生器と、前記パルス発生器から供給されるパルス信号に同期して、前記電圧生成器から供給される電圧に基づき発振信号を発振する電圧制御発振器と、前記電圧制御発振器から供給される前記発振信号を分周し、前記帰還信号を生成する分周器と、を具備し、前記電圧制御発振器は、前記電圧発生回路から供給される電圧のレベルをシフトするレベルシフト回路と、前記電圧発生回路から供給される電圧と前記レベルシフト回路から供給されるレベルシフトされた電圧により駆動される負荷回路を有する複数のインバータ回路からなるリング発振器と、により構成され、前記複数のインバータ回路の1つに、前記パルス発生器から供給されるパルス信号が供給されることを特徴とする。
【0012】
本発明は、同期回路の第2の態様は、参照信号を遅延検波する第1の遅延検波器と、信号を遅延検波する第2の遅延検波器と、前記第1の遅延検波器の出力信号から電圧を生成する第1の電圧発生回路と、前記第2の遅延検波器の出力信号から電圧を生成する第2の電圧発生回路と、前記第1、第2の電圧発生回路から供給される電圧の差電圧を出力する差動増幅器と、前記参照信号に基づきパルス信号を生成するパルス発生器と、前記パルス発生器から供給されるパルス信号に同期して、前記差動増幅器から供給される電圧に基づき発振信号を発振する電圧制御発振器と、前記電圧制御発振器から供給される前記発振信号を分周し、前記帰還信号を生成する分周器と、を具備し、前記電圧制御発振器は、前記差動増幅器から供給される電圧のレベルをシフトするレベルシフト回路と、前記差動増幅器から供給される電圧と、前記レベルシフト回路から供給されるレベルシフトされた電圧とにより駆動される複数のインバータ回路からなるリング発振器と、により構成され、前記複数のインバータ回路の1つに、前記パルス発生器から供給されるパルス信号が供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、小面積で広帯域特性及び低位相雑音特性を得ることが可能な同期回路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る位相同期回路を示す構成図。
【図2】図1に示すリングVCOの一例を示す構成図。
【図3】図2に示すリングVCOを構成する差動インバータ回路の一例を示す回路図。
【図4】図3に示すインバータ回路の一例を示す回路図。
【図5】図5(a)は図2に示すレベルシフタの動作を示す図、図5(b)は、図4に示すPチャネルMOSトランジスタの抵抗値を示す図。
【図6】図2に示すレベルシフタの一例を示す回路図。
【図7】図7(a)は、第1の実施形態に係る同期回路を含む半導体集積回路を示す顕微鏡写真、図7(b)は、リングVCOの発振特性を示す図、図7(c)は、リングVCOのスプリアスレベル、位相雑音特性を示す図、図7(d)は、第1の実施形態に係るリングVCOの位相雑音特性を他の位相雑音特性と比較して示す図。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る周波数及び位相同期回路を示す図。
【図9】リングVCOの変形例を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る位相同期回路(PLL回路)を示している。第1の実施形態は、位相同期動作と注入同期型リングVCOを用いた注入同期動作を同時に行うことにより、低位相雑音の同期信号を生成可能としている。
【0017】
図1において、位相検出器(位相比較器)11の一方入力端には、参照信号refが供給され、他方入力端には分周器15から出力される帰還信号が供給される。参照信号は、例えばデューティ比が50%の矩形波である。しかし、矩形波に限定されるものではなく、正弦波でもよい。位相検出器11は、参照信号refと帰還信号との位相差を検出する。この位相検出器11の出力信号は、チャージポンプ回路(CP)12に供給される。
【0018】
チャージポンプ回路12は、例えば電源VDDが供給されるノードと接地間に直列接続されたPチャネルMOSトランジスタ(以下、PMOSトランジスタと称す)P1と、NチャネルMOSトランジスタ(以下、NMOSトランジスタと称す)N1とにより構成されている。チャージポンプ回路12は、位相検出器11の出力信号に応じてパルス信号を発生し、このパルス信号をPMOSトランジスタP1とNMOSトランジスタN1の接続ノードから出力する。この接続ノードには、低域通過フィルタ(LPF)13が接続されている。
【0019】
LPF13は、例えば接続ノードと接地間に直列接続された抵抗R1とキャパシタC1、及び接続ノードと接地間に接続されキャパシタC2とにより構成されている。LPF13は、チャージポンプ回路12から供給されるパルス信号を積分し、直流の制御電圧biasを生成する。この制御電圧biasは、リングVCO14に供給される。このリングVCO14は、注入同期型リングVCOであり、パルス信号が注入される注入同期端子を有している。
【0020】
一方、参照信号refは、パルス発生器16に供給される。このパルス発生器16は、参照信号refから、参照信号refと同一周波数で、デューティ比が例えば10〜20%のパルス信号を生成する。パルス発生器16から出力された立ち上がり、立ち下りの早いパルス信号は遅延回路17を介してリングVCO14の注入同期端子に供給される。
【0021】
遅延回路17は、リングVCO14に対するパルス信号の注入タイミングを調整するものである。すなわち、遅延回路17は、参照信号refが位相検出器11に供給されてからリングVCO14にbiasが供給されるまでの時間(ΔT)だけ、パルス発生器16から出力されたパルス信号injを遅延する。本構成では、PLLによる同期動作とVCOへの信号注入による同期動作を競合させている。PLLのみで位相雑音特性を改善するには、PLLのループ帯域(利得)を大きく取る必要があるが、動作が不安定になってしまい実現が難しい。そこで、本構成では、PLLのループ帯域を狭め、ラフな位相同期をPLLに担わせ、参照信号を直接VCOへ注入することにより低位相雑音特性の実現を可能としている。遅延回路17は、PLLのラフな位相同期状態のVCOの位相に注入信号の位相を合わせ、注入同期を効果的に行うためのものである。これにより、PLL動作とパルス信号の注入同期動作との競合を避け、安定な低位相雑音動作を可能としている。
【0022】
リングVCO14は、遅延回路17から供給されたパルス信号injに同期して発振し、発振周波数がLPF13から供給される制御電圧biasにより制御される。リングVCO14から出力される発振信号は、バッファアンプ18を介して出力されるともに、分周器15に供給される。分周器15は、発振信号を1/Nに分周し、帰還信号を生成する。この帰還信号は、位相検出器11の他方入力端に供給される。
【0023】
図2は、リングVCO14の一例を示している。リングVCO14は前述したように、注入同期型リングVCOであり、I/Q出力を可能とすること、及び電源電圧範囲において低位相雑音化を図るため、遅延セルとして2つの差動インバータ回路14a、14bを用いている。さらに、電源電圧範囲において、広帯域特性を有するリングVCO14を実現するため、差動インバータ回路14a、14bを構成するインバータ回路の負荷抵抗を制御するバイアスレベルシフタ14cを有している。
【0024】
差動インバータ回路14a、14bは直列接続され、差動インバータ回路14bの出力端out3、out4が差動インバータ回路14aの反転入力端、非反転入力端にそれぞれ接続され、正帰還がかかるように構成されている。
【0025】
差動インバータ回路14aは、注入同期端子14a−1を有し、この注入同期端子14a−1に遅延回路17から出力されたパルス信号injが供給される。差動インバータ回路14aは、パルス信号injの注入に同期して発振する。
【0026】
バイアスレベルシフタ14cは、VCOの発振周波数を制御するための回路であり、LPF13から供給される制御電圧biasをスルーするとともに、制御電圧biasからレベルシフトされた制御電圧biasnを生成し、これらbias、biasnを差動インバータ回路14a、14bにそれぞれ供給する。リングVCO14は、制御電圧bias、biasnに基づき、発振周波数が可変される。
【0027】
図3は、図2に示すリングVCOの遅延セルとしての差動インバータ回路14aの一例を示している。差動インバータ回路14aは、例えば4つのインバータ回路I1、I2、I3、I4と、NMOSトランジスタN11とにより構成されている。インバータ回路I1の入力端には信号out4が供給され、インバータ回路I2の入力端には信号out3が供給される。
【0028】
インバータ回路I1、I2の出力端間には、インバータ回路I3、I4により構成されたラッチ回路LTが接続されている。
【0029】
さらに、インバータ回路I1、I2の出力端間には、NMOSトランジスタN11の電流通路が接続されている。このNMOSトランジスタN11のゲートは、注入同期端子14a−1に接続され、この注入同期端子14a−1にパルス信号injが供給されている。NMOSトランジスタN11は、パルス信号injが注入されると、オンとされ、インバータ回路I1、I2の出力端間は一瞬短絡される。このため、遅延セルとしての差動インバータ回路14aは、パルス信号injに同期してリセットされ、発振動作を開始する。
【0030】
尚、差動インバータ回路14bは、例えば差動インバータ回路14aでNMOSトランジスタN11を省略した同様の構成を採用している。
【0031】
図4は、差動インバータ回路14a、14bを構成するインバータ回路I3の一例を示している。インバータ回路I4もインバータ回路I3と同一構成とされている。インバータ回路I1、I2は、例えば通常のCMOSインバータ回路である。
【0032】
インバータ回路I3は、CMOSインバータを構成するPMOSトランジスタP21とNMOSトランジスタN21、及び負荷回路を構成するPMOSトランジスタP22、P23とにより構成されている。PMOSトランジスタP22、P23は、電源電圧VDDが供給されるノードと、PMOSトランジスタP21の電流通路との間に並列接続されている。PMOSトランジスタP22、P23のゲートには、バイアスレベルシフタ14cから出力された制御電圧bias、biasnがそれぞれ供給されている。
【0033】
図5(a)は、制御電圧bias、biasnの関係を示している。電圧baisは、電源電圧と同様に0Vから単調に増加する電圧である。これに対して、電圧baisnは、電圧baisが、例えばPMOSトランジスタの閾値電圧Vthpを越えた時点から増加する電圧である。
【0034】
図5(b)は、制御電圧bias、biasnと、PMOSトランジスタP22、P23のソース・ドレイン間の抵抗値(resistance)の関係を示している。PMOSトランジスタP22の抵抗値は、制御電圧biasの増加に従って増加する。biasがPMOSトランジスタの閾値電圧Vthpより大きくなると、PMOSトランジスタP22はオフし、抵抗値は一定となる。このため、PMOSトランジスタを制御電圧biasのみにより制御した場合、biasがPMOSトランジスタの閾値電圧Vthpより大きくなってもリングVCO14の発振周波数の増加は望めない。
【0035】
しかし、PMOSトランジスタP23のソース・ドレイン間の抵抗値は、制御電圧biasがPMOSトランジスタの閾値電圧Vthp以下である場合変化せず、biasがPMOSトランジスタの閾値電圧Vthpより大きくなると、制御電圧biasnにより増加し始める。つまり、リングVCO14の発振周波数は、制御電圧biasが閾値電圧Vthpを越えた場合、制御電圧biasnに従って増加する。すなわち、PMOSトランジスタP22、P23のトータルの抵抗値totalは、制御電圧biasが0VからPMOSトランジスタの閾値電圧Vthpまでは、PMOSトランジスタP22の抵抗値に従って増加し、制御電圧biasがPMOSトランジスタの閾値電圧Vthpを越えると、PMOSトランジスタP23の抵抗値に従って増加する。このため、CMOSインバータの負荷抵抗の値は、制御電圧baisが0Vから電源電圧、例えば1.8Vの間でほぼ単調に増加する。したがって、リングVCO14は、LPF13から供給される直流の制御電圧biasの0Vから電源電圧1.8Vの変化に対して発振周波数を広帯域に変化させることができる。
【0036】
また、インバータ回路を用いて発振信号を接地電位から電源電圧までのフル振幅での制御(Rail to Rail制御)ができる。このため、発振信号の周波数変化を大きくすることが可能となり、より広帯域な動作が可能となる。また、発振信号もインバータ回路を用いているため、接地電位から電源電圧までのフル振幅出力となる。位相雑音は大振幅ほど小さくなるため、低位相雑音化にも有効となる。すなわち、第1の実施形態に係る注入同期型リングVCOによれば、広帯域特性が良好で、低位相雑音を実現することができる。
【0037】
図6は、バイアスレベルシフタ14cの一例を示している。このバイアスレベルシフタ14cは、制御電圧biasからシフトされた制御電圧biasnを生成する回路であり、NMOSトランジスタN31〜N38と、定電流源I31及び抵抗R31により構成されている。
【0038】
すなわち、NMOSトランジスタN31の電流通路の一端は、電源電圧VDDが供給されるノードに接続され、電流通路の他端は、NMOSトランジスタN32、N33を介して接地されている。また、NMOSトランジスタN31のゲートには、LPF13から出力される制御電圧biasが供給される。
【0039】
NMOSトランジスタN31、N32の接続ノードは、NMOSトランジスタN34のゲートに接続されている。NMOSトランジスタN34の電流通路の一端は電源電圧VDDが供給されるノードに接続され、電流通路の他端はNMOSトランジスタN35、N36を介して接地されている。NMOSトランジスタN34、N35の接続ノードからbiasnが出力される。
【0040】
定電流源I31及び抵抗R31、NMOSトランジスタN37、N38は、バイアス回路を構成している。NMOSトランジスタN38のゲートには電源電圧VDDが供給され、NMOSトランジスタN37のゲートには、抵抗R31とNMOSトランジスタN37の接続ノードの電圧が供給されている。
【0041】
NMOSトランジスタN32、N33、及びN35、N36は、それぞれカスコード接続型の定電流源回路を構成している。NMOSトランジスタN33、N36のゲートには、電源電圧VDDが供給され、NMOSトランジスタN32、N35のゲートには、抵抗R31とNMOSトランジスタN37の接続ノードの電圧が供給されている。
【0042】
上記構成において、NMOSトランジスタN31は、ゲートに供給される制御電圧biasに応じてN31のソース電圧が制御され、NMOSトランジスタN34は、NMOSトランジスタN31とN32の接続ノードの電位がPMOSトランジスタの閾値電圧以上となった場合、baiasnの電位が発生するように設定されている。このため、図5(a)に示す電圧特性を得ることができる。
【0043】
尚、バイアスレベルシフタ14cは、図6に示す回路に限定されるものでははい。
【0044】
上記構成において、図1に示す参照信号refが位相検出器11に供給され、分周器15から供給される帰還信号と比較される。位相検出器11は、参照信号refと帰還信号との位相差を検出し、検出信号を出力する。チャージポンプ回路12は、位相検出器11から供給された検出信号に基づき電圧を発生する。LPF13は、チャージポンプ回路12から供給される電圧を平滑し、直流の制御電圧biasを出力する。リングVCO14は、遅延回路17から供給される注入同期パルス信号injに同期して発振が開始され、制御電圧biasに応じた周波数の信号を出力する。すなわち、制御電圧biasが差動インバータ回路14a、14bを構成するインバータ回路I3、I4の負荷としてのPMOSトランジスタP22、P23の閾値電圧Vthp以下である場合、PMOSトランジスタP22のソース・ドレイン間の抵抗値が変化して発振し、制御電圧biasがPMOSトランジスタP22、P23の閾値電圧Vthpを越えた場合、PMOSトランジスタP23のソース・ドレイン間の抵抗値が変化して発振する。リングVCO14の出力信号は、分周器15によって分周され、帰還信号として位相検出器11に供給され、発振が継続される。
【0045】
上記第1の実施形態によれば、位相同期回路を構成するリングVCO14を差動インバータ回路14a、14b、及びバイアスレベルシフタ14cにより構成している。このため、位相同期回路は、従来のように、インダクタを含まないため、チップ面積の増大を防止できる。
【0046】
図7(a)は、第1の実施形態に示す位相同期回路を含むチップの一例を示している。このチップには、図1に破線Aで示す範囲の位相検出器11、チャージポンプ回路12、LPF13、リングVCO14、分周器15が含まれている。このチップは、インダクタを含まないため、例えば0.1mmの小面積により位相同期回路を実現している。
【0047】
また、第1の実施形態に係る位相同期回路は、インダクタを含まないため、集積回路の微細化がさらに進んだ場合においても、設計変更が容易である。すなわち、インダクタを含む回路の場合、集積回路の最小寸法が縮小された場合、インダクタに対する仕様を満たすため、回路設計をやり直す必要がある。しかし、インダクタを含まない第1の実施形態に係る位相同期回路は、集積回路の最小寸法が縮小された場合においても基本的な回路設計の変更が不要である。
【0048】
さらに、リングVCO14は、差動インバータ回路14a、14b、及びバイアスレベルシフタ14cにより構成され、差動インバータ回路14a、14bを構成するインバータ回路I1〜I4のうち、インバータ回路I3、I4のPMOSトランジスタにより構成された負荷回路がバイアスレベルシフタ14cから供給される制御電圧baisと、baisから電圧の変化範囲がシフトされた制御電圧biasnとにより制御されている。このため、LPF14から出力されるbiasの広い変化範囲において、発振動作が可能である。
【0049】
図7(b)は、図7(a)に示す試作したリングVCO14の特性を示している。試作したチップは、0.18μmのCMOSプロセスにより製造されている。このため、電源電圧VDDは、例えば1.8Vである。図7(b)から明らかなように、発振動作の制御範囲は、制御電圧biasが0Vから電源電圧1.8Vの範囲であり、電源電圧の全範囲において発振動作が可能であることが分かる。
【0050】
また、発振周波数の範囲は、例えば1.65GHz〜0.65GHzであり、広周波数帯域の発振が可能であることが分かる。
【0051】
さらに、図7(b)から明らかなように、バイアスレベルシフタ14cによってインバータ回路I3、I4のPMOSトランジスタP22、P23のソース・ドレイン間の抵抗値を制御することにより、制御電圧biasが0Vから1.8Vに変化する範囲において、発振周波数の変化をほぼ一定とすることができる。具体的には、リングVCO14の周波数の変化を微分した値、つまり、リングVCO14の変換利得(VCOのゲイン)としてのKVCOの値を−380〜−640という比較的狭い範囲に収めることができる。
【0052】
PLLを構成する際、理想的にはKVCOの値が一定であることが好ましい。第1の実施形態に示す回路によれば、KVCOの値が−380〜−640という比較的狭い範囲に収まっているため、電源電圧0V〜1.8Vの範囲において安定した発振動作が可能である。
【0053】
図7(c)は、参照信号refの周波数(90〜50MHz)に対する高調波(スプリアス)信号と、位相雑音特性の関係を示している。図7(c)から分かるように、高調波信号は、参照周波数91MHz〜50MHzの範囲(制御電圧のモニタ範囲0.25V〜1.55V)において、−30dBc〜−40dBcの範囲であり、位相雑音は、参照周波数91MHz〜50MHzの範囲(制御電圧のモニタ範囲0.25V〜1.55V)において、ほぼ−110dBc一定である。具体的には、例えば発振周波数1.44GHz、参照信号周波数90MHz(N=16分周)において、高調波信号−30dBc、位相雑音−105dBcという特性が得られていることが分かる。
【0054】
このように、ループ帯域内において位相雑音と高調波信号成分が一定に保持されることが分かる。
【0055】
また、リングVCO14は、第1の実施形態のように、注入同期動作により、PLL動作のみの場合に比べて位相雑音を改善することができる。
【0056】
すなわち、図7(d)は、離調(オフセット)周波数に対するVCO単体の位相雑音特性(free−runnig)、注入同期を行わないリングVCOを用いたPLL回路の位相雑音特性(PLL)、注入同期を行なったリングVCOを用いたPLL回路の位相雑音特性(PLL+inj)、参照信号の位相雑音特性(ref.(90MHz))を示している。図7(d)から明らかなように、第1の実施形態に係る注入同期を行なったリングVCOを用いたPLL回路の位相雑音は、0.2MHzのオフセット周波数において−122dBc/Hz@0.2MHzであり、注入同期を行わないリングVCOを用いたPLL回路の位相雑音−108dBc/Hz@0.2MHzに対して−14dBcほど改善されている。図7(d)に示すように、0.2MHz以上のオフセット周波数において、位相雑音−122dBcという値は、例えば携帯電話などの電子機器に好適な値である。
【0057】
(第2の実施形態)
図8は、第2の実施形態を示すものであり、図1と同一部分には、同一符号を付し、異なる部分についてのみ説明する。
【0058】
第1の実施形態は、位相同期回路に本発明を適用した場合について説明した。これに対して、第2の実施形態は、周波数同期回路に本発明を適用した場合について示している。
【0059】
図8において、参照信号refは、例えば矩形波であり、この参照信号refは、遅延検波回路21に供給される。この遅延検波回路21は、例えば遅延回路と排他的論理和回路により構成され、参照信号refと、参照信号refを遅延した信号refdとの排他的論理和をとる回路である。この遅延検波回路21の出力信号はLPF23に供給される。このLPF23は、遅延検波回路21の出力信号を例えば積分し、直流電圧を生成する。
【0060】
また、分周器15から出力される帰還信号は遅延検波回路22に供給される。この遅延検波回路は、遅延検波回路21と同様の構成であり、帰還信号と、遅延された帰還信号の排他的論理和をとる回路である。この遅延検波回路22の出力信号はLPF24に供給され、直流電圧が生成される。
【0061】
LPF23、24の出力電圧は差動増幅器25に供給される。差動増幅器25は、LPF23、24から供給された直流電圧の差電圧を検出する。この差動増幅器25の出力電圧はLPF26を介してリングVCO14に供給される。このリングVCO14は、LPF26の出力電圧を制御電圧biasとして周波数に同期した発振動作を行う。この際、リングVCO14の発振動作は、遅延回路17から注入されるパルス信号injに同期される。すなわち、リングVCO14は、参照信号refの位相に同期して発振する。このため、リングVCO14は、周波数と位相に同期して発振する。
【0062】
第2の実施形態によれば、周波数同期型回路を構成するVCOとして注入同期型リングVCO14を設けている。このため、この周波数同期回路は、参照信号refの位相にも同期し、低位相雑音特性を実現することが可能である。
【0063】
また、第2の実施形態の周波数同期回路は、インダクタを使用せず、CMOS回路により構成されているため、チップの占有面積を低減することができる。
【0064】
しかも、リングVCOは、差動インバータ回路により構成され、この差動インバータ回路を構成するインバータ回路の負荷回路を構成する2つのPMOSトランジスタは、制御電圧bias、及びbaisからシフトされたbiasnにより制御されている。このため、電源電圧VDDの広い範囲において、発振動作が可能であり、広い周波数帯域を得ることができる。
【0065】
(変形例)
図9は、リングVCOの変形例を示している。第1、第2の実施形態において、リングVCO14は、差動インバータ回路により構成した。しかし、差動インバータ回路に限定されるものではなく、シングルリングVCOにより構成することも可能である。
【0066】
図9は、変形例に係るシングルリングVCO31を示している。このリングVCO31は、奇数個、例えば3個の直列接続されたインバータ回路I21、I22、I23と、NMOSトランジスタN41と、により構成されている。インバータ回路I23の出力端は、インバータ回路I21の入力端に接続され、正帰還ループが形成されている。インバータ回路I21とI22の接続ノードと、例えば接地間には、NMOSトランジスタN41の電流通路が接続されている。このNMOSトランジスタN41のゲートにはパルス信号injが供給されている。
【0067】
このリングVCO31は、パルス信号injがNMOSトランジスタN41のゲートに注入されると、NMOSトランジスタN41がオンとされ、インバータ回路I22の入力端が一瞬接地される。このようにして、参照信号refと同期されて発振が開始される。
【0068】
尚、NMOSトランジスタN41の接続位置は、インバータ回路I21とI22の接続ノードと接地間に限定されるものではなく、インバータ回路I21とI22の接続ノードと電源電圧VDDが供給されるノードとの間に設けることも可能である。
【0069】
上記変形例によっても、低位相雑音でチップに対する占有面積を削減した同期回路を構成することが可能である。
【0070】
また、各インバータ回路I21、I23、I23を、図4に示す構成とすることにより、接地電位から電源電圧の広い範囲に亘り安定した制御が可能となり、広帯域な発振を実現できる。
【0071】
その他、本発明は、第1、第2の実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変えない範囲において、種々変形実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0072】
11…位相検出器、12…チャージポンプ回路、13…LPF、14…注入同期型リングVCO、15…分周器、16…パルス発生器、17…遅延回路、14a、14b…差動インバータ回路、14c…バイアスレベルシフタ、I1〜I4…インバータ回路、N11…NチャネルMOSトランジスタ、P22、P23…PチャネルMOSトランジスタ、21、22…遅延検波回路、23、24…LPF、25…差動増幅器、31…シングルリングVCO。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照信号と帰還信号との位相差を検出する位相検出器と、
前記位相検出器の出力信号に基づき電圧を発生する電圧発生器と、
前記参照信号に基づきパルス信号を生成するパルス発生器と、
前記パルス発生器から供給されるパルス信号に同期して、前記電圧発生器から供給される電圧に基づき信号を発振する電圧制御発振器と、
前記電圧制御発振器から供給される前記信号を分周し、前記帰還信号を生成する分周器と、
を具備し、
前記電圧制御発振器は、
前記電圧発生回路から供給される電圧のレベルをシフトするレベルシフト回路と、
前記電圧発生回路から供給される電圧と前記レベルシフト回路から供給されるレベルシフトされた電圧により駆動される負荷回路を有する複数のインバータ回路からなるリング発振器と、により構成され、
前記複数のインバータ回路の1つに、前記パルス発生器から供給されるパルス信号が供給されることを特徴とする同期回路。
【請求項2】
参照信号を遅延検波する第1の遅延検波器と、
信号を遅延検波する第2の遅延検波器と、
前記第1の遅延検波器の出力信号から電圧を生成する第1の電圧発生回路と、
前記第2の遅延検波器の出力信号から電圧を生成する第2の電圧発生回路と、
前記第1、第2の電圧発生回路から供給される電圧の差電圧を出力する差動増幅器と、
前記参照信号に基づきパルス信号を生成するパルス発生器と、
前記パルス発生器から供給されるパルス信号に同期して、前記差動増幅器から供給される電圧に基づき信号を発振する電圧制御発振器と、
前記電圧制御発振器から供給される前記信号を分周し、前記帰還信号を生成する分周器と、
を具備し、
前記電圧制御発振器は、
前記差動増幅器から供給される電圧のレベルをシフトするレベルシフト回路と、
前記差動増幅器から供給される電圧と、前記レベルシフト回路から供給されるレベルシフトされた電圧とにより駆動される複数のインバータ回路からなるリング発振器と、
により構成され、
前記複数のインバータ回路の1つに、前記パルス発生器から供給されるパルス信号が供給されることを特徴とする同期回路。
【請求項3】
前記リング発振器は、出力信号が入力端に正帰還される直列接続された複数の差動インバータ回路により構成され、
前記複数の差動インバータ回路の1つに前記パルス信号が供給されることを特徴とする請求項1又は2記載の同期回路。
【請求項4】
前記差動インバータ回路は、
入力信号が供給される第1のインバータ回路と、
反転された前記入力信号が供給される第2のインバータ回路と、
前記第1、第2のインバータ回路の出力端間に接続され、前記第1、第2のインバータ回路の出力信号をラッチする第3、第4のインバータ回路により構成されたラッチ回路と、
前記第1、第2のインバータ回路の出力端間に接続され、ゲートに前記パルス信号が供給される第1導電型の第1のトランジスタと、
を具備することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の同期回路。
【請求項5】
前記第3、第4のインバータ回路のそれぞれは、
第2導電型の第2のトランジスタと、
ゲート及び電流通路が前記第2のトランジスタのゲートと電流通路に共通接続された第1導電型の第3のトランジスタと、
電流通路が前記第2のトランジスタの電流通路に接続され、ゲートに前記電圧発生回路の出力電圧が供給される第2導電型の第4のトランジスタと、
電流通路が前記第2のトランジスタの電流通路に接続され、ゲートに前記レベルシフト回路から出力されるレベルシフトされた電圧が供給される第2導電型の第5のトランジスタと、
を具備することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の同期回路。
【請求項6】
前記レベルシフト回路は、
前記電圧生成器の出力電圧が前記第2導電型の第4、第5のトランジスタの閾値電圧を越えてから電源電圧まで前記レベルシフトされた電圧を出力する構成とされていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の同期回路。
【請求項7】
前記パルス発生器は、前記参照信号に基づき、前記参照信号のデューティ比より、小さいデューティ比のパルス信号を発生することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の同期回路。
【請求項8】
前記パルス発生器から出力されたパルス信号を遅延する遅延回路をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の同期回路。
【請求項9】
前記リング発振器は、
出力信号が入力端に正帰還される直列接続された複数のインバータ回路と、
前記複数のインバータ回路の1つの出力端と第1の電源との間に電流通路が接続され、ゲートに前記パルス信号が供給される第1導電型の第6のトランジスタと、
を具備することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の同期回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−239226(P2011−239226A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109475(P2010−109475)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(396023993)株式会社半導体理工学研究センター (150)
【Fターム(参考)】