説明

回転機の制御装置

【課題】永久磁石を備えるモータジェネレータ10の減磁の有無を判断するための処理手段を適合するに際し、その工数が多くなること。
【解決手段】モータジェネレータ10は、クラッチC1を介して駆動輪14に機械的に連結されて且つクラッチC2を介してエンジン16に機械的に連結されている。車両の起動スイッチがオンされた直後、クラッチC1,C2を解除した状態において、電流フィードバック制御によってモータジェネレータ10のトルクを制御し、この際の実際のトルクが要求トルクを下回ることに基づき、永久磁石の磁束が減少したと判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石を備える回転機の制御量を制御する回転機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置にあっては、例えば下記特許文献1に見られるように、永久磁石の磁束が減少するいわゆる減磁の有無を判断するものも提案されている。詳しくは、3相モータに対する要求トルクに応じた指令電流となるように電流フィードバック制御をするための操作量として指令電圧を操作するに際し、この指令電圧と基準値との差に基づき減磁の有無を判断する。ここで、基準値は、3相モータの回転速度とトルクとのそれぞれについて複数の値のそれぞれ毎に値が定められたマップによって算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4223880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記基準値を求めるためのマップの適合には多大な工数を要する。また、過渡時においては減磁の判断精度が低下するおそれもある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、永久磁石を備える回転機の減磁の有無を好適に判断することのできる新たな回転機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、永久磁石を備える回転機の制御量を制御する回転機の制御装置において、前記回転機のトルクをゼロよりも大きい絶対値を有する指令値に制御するトルク制御手段と、前記回転機に加わる負荷トルクに関する情報を取得する負荷トルク取得手段と、前記取得される負荷トルクに関する情報を入力とし、前記トルク制御手段による制御時における前記回転機の実際のトルクに関するパラメータに基づき、前記永久磁石の磁束の減少の有無を判断する減磁判断手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、負荷トルクに関する情報を用いることで回転機の実際のトルクを高精度に把握することができる。このため、実際のトルクに関するパラメータを負荷トルクに応じて高精度に算出したり、実際のトルクに関するパラメータとの大小比較対象となる判定値を負荷トルクに応じて高精度に算出したりすることが可能となり、ひいては永久磁石の磁束の減少の有無を好適に判断することができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記回転機は、車載主機であり、前記回転機と駆動輪との間の動力の伝達を遮断する駆動輪側遮断手段をさらに備え、前記負荷トルク取得手段は、前記駆動輪側遮断手段を操作して前記回転機と前記駆動輪との間の動力の伝達を遮断することで前記駆動輪側から前記回転機に付与される負荷トルクがゼロである旨の情報を取得するものであり、前記減磁判断手段は、前記駆動輪側遮断手段によって前記回転機と前記駆動輪との間の動力の伝達が遮断された状態における前記実際のトルクに関するパラメータに基づき前記永久磁石の磁束の減少の有無を判断することを特徴とする。
【0010】
上記発明では、駆動輪側から回転機に負荷トルクが付与されない状態とすることで、回転機の実際のトルクを容易に把握することができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、当該制御装置の搭載される車両は、車載主機として前記回転機に加えて内燃機関を備えて且つ、これら回転機と内燃機関との間の動力の伝達を遮断する機関側遮断手段を備え、前記負荷トルク取得手段は、前記機関側遮断手段を操作して前記回転機と前記内燃機関との間の動力の伝達を遮断することで前記内燃機関側から前記回転機に付与される負荷トルクがゼロである旨の情報を取得するものであり、前記減磁判断手段は、前記機関側遮断手段によって前記回転機と前記内燃機関との間の動力の伝達が遮断された状態における前記実際のトルクに関するパラメータに基づき前記永久磁石の磁束の減少の有無を判断することを特徴とする。
【0012】
上記発明では、内燃機関側から回転機に負荷トルクが付与されない状態とすることで、回転機の実際のトルクを容易に把握することができる。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記回転機のトルクの値であることを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記回転機の回転角度の変化に関する情報を入力として前記回転機のトルクを推定するトルク推定手段をさらに備え、前記減磁判断手段は、前記回転機の実際のトルクに関するパラメータとして前記トルク推定手段によって推定されたトルクを用いることを特徴とする。
【0015】
トルクは、角加速度を生じさせる要因となる。このため、回転角度の変化を用いることで、力学的にトルクを推定することができる。上記発明では、この点に鑑み、トルク推定手段の入力パラメータを選定した。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記トルク推定手段は、前記回転機の回転軸およびこれと連動して回転する回転体の慣性モーメントに前記回転機の回転加速度を乗算した項を有する力学モデルであることを特徴とする。
【0017】
上記発明では、力学モデルを用いることで、回転機に連結される部材についての慣性モーメント等の値を取得するのみでトルク推定手段を構成することができることから、トルク推定手段の構築が容易となる。
【0018】
請求項7記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記回転機のトルクを検出するトルク検出器の出力であることを特徴とする。
【0019】
上記発明では、トルク検出器の出力を取得することで、実際のトルクに関するパラメータの取得にかかる演算負荷を低減することができる。
【0020】
請求項8記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記回転機の回転速度の変化速度に関するものであることを特徴とする。
【0021】
トルクは、角加速度を生じさせる要因となる。このため、回転速度の変化速度は、実際のトルクに関する情報となりうる。
【0022】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記回転機の角加速度であることを特徴とする。
【0023】
請求項10記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記トルク制御手段による前記トルクの制御の開始から所定時間経過時における前記回転機の回転速度であることを特徴とする。
【0024】
上記発明では、所定時間経過時の回転速度を用いることで、角加速度を算出するための微分演算処理等を回避しつつも、角加速度相当の情報を取得することができる。
【0025】
請求項11記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記トルク制御手段による前記トルクの制御の開始後、前記回転機の回転速度が規定速度となるまでに要する時間であることを特徴とする。
【0026】
上記発明では、回転速度が規定速度となるまでに要する時間を用いることで、角加速度を算出するための微分演算処理等を回避しつつも、角加速度相当の情報を取得することができる。
【0027】
請求項12記載の発明は、請求項8〜11のいずれか1項に記載の発明において、前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記回転機の回転角度の検出器の出力または前記回転角度の推定器の出力を用いたものであることを特徴とする。
【0028】
請求項13記載の発明は、請求項1〜12のいずれか1項に記載の発明において、前記トルクに関するパラメータについて、前記回転機に対するトルクの指令値に応じた判定値を設定する設定手段をさらに備え、前記減磁判断手段は、前記実際のトルクに関するパラメータと前記判定値との大小比較に基づき、前記永久磁石の磁束の減少の有無を判断することを特徴とする。
【0029】
請求項14記載の発明は、請求項13記載の発明において、前記設定手段は、前記減磁判断手段による判断に用いられる前記実際のトルクに関するパラメータの取得された際の前記回転機の温度に応じて前記減磁判断手段によって用いられる前記判定値を可変設定することを特徴とする。
【0030】
永久磁石の磁束は、温度に応じて変化しうる。上記発明ではこの点に鑑み、温度に応じて判定値を可変設定することで、磁束の減少の有無の判断精度を向上させることができる。
【0031】
請求項15記載の発明は、請求項13または14記載の発明において、前記設定手段は、前記回転機の初期使用時において前記トルク制御手段による制御のなされている際の前記実際のトルクに関するパラメータに基づき前記判定値を設定することを特徴とする。
【0032】
上記発明では、磁束の減少が生じていないと想定されるときにおける実際のトルクに関するパラメータによって判定値を設定することで、判定値の設定のために要する工数を低減することなどができる。
【0033】
請求項16記載の発明は、請求項1〜12のいずれか1項に記載の発明において、前記減磁判断手段は、前記実際のトルクに関するパラメータの変化速度に基づき、前記永久磁石の磁束の減少を判断することを特徴とする。
【0034】
永久磁石の磁束が無視し得ないレベルで減少する事態は、通常、回転機の制御破綻時等において急激に生じる。上記発明では、この点に鑑み、実際のトルクに関するパラメータの変化速度を利用する。
【0035】
請求項17記載の発明は、請求項1〜16のいずれか1項に記載の発明において、前記回転機は車載主機であり、前記回転機は、電力変換回路を介して電力供給源から電力を受け取るものであり、前記電力変換回路と前記電力供給源との間にはリレーが接続されており、前記減磁判断手段は、前記リレーが接続された状態で前記トルク制御手段によってトルクが制御されている際における前記実際のトルクに関するパラメータに基づき前記永久磁石の磁束の減少の有無を判断することを特徴とする。
【0036】
リレーが接続された状態では、回転機の出力を大きくしやすいため、回転機に生じさせるトルクを大きくすることができる。このため、磁束の減少の有無の判断精度を向上させることができる。
【0037】
請求項18記載の発明は、請求項1〜17のいずれか1項に記載の発明において、前記回転機は、突極性を有するものであり、前記トルク制御手段は、前記回転機の電流を指令値に制御することで前記回転機のトルクをその指令値に制御するものであって且つ、前記電流の指令値は、d軸方向の電流値がゼロとなることを特徴とする。
【0038】
突極性を有する回転機の場合、マグネットトルク以外にリラクタンストルクが生じるため、マグネットトルクの減少を高精度に検出するためには、リラクタンストルクを高精度に把握しておく必要が生じる。上記発明では、この点に鑑み、d軸方向の電流をゼロとすることで、リラクタンストルクをゼロとしつつ減磁の判断処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態の減磁判断処理に関するブロック図。
【図3】上記減磁判断処理の手順を示す流れ図。
【図4】第2の実施形態にかかる減磁判断処理に関するブロック図。
【図5】第3の実施形態にかかる減磁判断処理の手順を示す流れ図。
【図6】第4の実施形態にかかる減磁判断処理の手順を示す流れ図。
【図7】第5の実施形態にかかる減磁判断処理の手順を示す流れ図。
【図8】第6の実施形態にかかる減磁判断処理の手順を示す流れ図。
【図9】第7の実施形態にかかる減磁判断処理の手順を示す流れ図。
【図10】上記各実施形態の変形例にかかるシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる回転機の制御装置を車載主機としての回転機の制御装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0041】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。
【0042】
図示されるように、モータジェネレータ10は、車載主機としての3相の電動機兼発電機であり、駆動輪14に機械的に連結されている。すなわち、モータジェネレータ10の回転軸10aは、電子制御式のクラッチC1およびトランスミッション12を介して駆動輪14に機械的に連結されている。なお、本実施形態では、モータジェネレータ10として、埋め込み磁石同期機(IPMSM)を想定している。
【0043】
モータジェネレータ10の回転軸10aは、さらに電子制御式のクラッチC2を介して内燃機関(エンジン16)に機械的に連結されている。上記クラッチC1は、湿式のものであり、クラッチC2は、乾式のものである。そして、これらクラッチC1,C2やトランスミッション12には、オイルポンプ18によって潤滑油(オイル)が供給される。オイルポンプ18は、モータジェネレータ10の回転軸10aの動力を駆動源とするものである。
【0044】
制御装置30は、エンジン16の制御量やモータジェネレータ10の制御量、さらにはトランスミッション12の制御量を制御すべくこれらを操作する。詳しくは、モータジェネレータ10の制御量を制御すべくパワーコントロールユニット20を操作する。また、制御装置30は、クラッチC1,C2の締結操作および解除操作を行う。
【0045】
図2に、モータジェネレータ10およびパワーコントロールユニット20と、制御装置30の行う処理の一部とを示す。
【0046】
図示されるモータジェネレータ10の各相は、インバータIVを介してコンデンサ22に接続されており、また、インバータIVと、リレーSMR1,SMR2,SMR3とを介して、直流電源としての2次電池(高電圧バッテリ24)に接続されている。ここで、高電圧バッテリ24は、端子電圧が例えば百V以上となるものである。
【0047】
インバータIVは、スイッチング素子S*p,S*n(*=u,v,w)の直列接続体を3組備えており、これら各直列接続体の接続点がモータジェネレータ10のU,V,W相にそれぞれ接続されている。これらスイッチング素子S*p,S*nとして、本実施形態では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられている。そして、これらスイッチング素子S*#(#=p,n)にはそれぞれ、ダイオードD*#が逆並列に接続されている。
【0048】
本実施形態では、モータジェネレータ10やインバータIVの状態を検出(推定)する手段として、以下のものを備えている。まずインバータIVの入力端子間の電圧を検出する電圧センサ25を備えている。また、モータジェネレータ10の各相を流れる電流iu,iv,iwを検出する電流センサ26を備えている。また、モータジェネレータ10の備える永久磁石の温度を検出する温度センサ27を備えている。
【0049】
さらに、モータジェネレータ10の電気角(回転角度θ)に関する情報を取得する手段として、角度情報出力部28を備えている。この角度情報出力部28は、例えばレゾルバ等の回転角度検出器であってもよい。また例えば、モータジェネレータ10の電気的な状態量に基づき回転角度を推定する回転角度推定器等であってもよい。この推定器は、モータジェネレータ10の高回転速度領域においては、例えば「突極型ブラシレスDCモータのセンサレス制御のための拡張誘起電圧オブザーバ 平成11年電気学会全国大会 No.1026」に記載されているオブザーバであってもよい。また、モータジェネレータ10の低回転速度領域においては、例えば特開2009-148017に記載されているように、電気角周波数よりも高い高調波信号を重畳した際の電流の応答に基づき回転角度を推定する手段であってもよい。
【0050】
次に、制御装置30の行うモータジェネレータ10の制御量の制御に関する処理について説明する。
【0051】
dq変換部31は、電流センサ26によって検出される各相の電流iu,iv,iwを、回転座標系の電流であるd軸の電流idとq軸の電流iqとに変換する。指令電流設定部32は、要求トルクTrに基づき、回転座標系(dq座標系)におけるd軸上の指令電流idrとq軸上の指令電流iqrとを設定する。ここで、指令電流idr,iqrは、最小の電流で最大のトルクを実現する最小電流最大トルク制御を行うためのものであることが望ましい。
【0052】
フィードバック制御部34は、比例制御器および積分制御器によって、d軸の電流idを指令電流idrにフィードバック制御するための操作量として、d軸の指令電圧vdrを算出する。一方、フィードバック制御部36は、比例制御器および積分制御器によって、q軸の電流iqを指令電流iqrにフィードバック制御するための操作量として、q軸の指令電圧vqrを算出する。
【0053】
3相変換部38は、角度情報出力部28の出力する都度の回転角度θに基づき、指令電圧vdr、vqrを、3相の固定座標系の指令電圧であるU相の指令電圧Vur,V相の指令電圧Vvr、およびW相の指令電圧Vwrに変換する。PWM変調部40は、インバータIVの3相の出力電圧を、指令電圧Vur,Vvr,Vwrを模擬した電圧とするためのPWM信号を生成する。ここでは、例えば、指令電圧Vur,Vvr,Vwrを電圧センサ25によって検出されるインバータIVの入力電圧によって規格化したものと三角波形状のキャリアとの大小比較結果をPWM信号とすればよい。これによって生成されるPWM信号が、インバータIVのスイッチング素子S*#(*=u,v,w;#=p,n)を操作する操作信号g*#である。
【0054】
上記指令電流設定部32では、要求トルクTrを満たすように指令電流idr,iqrが設定される。ここでは、IPMSMのトルクTが、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq、d軸の電流id、q軸の電流iq、電機子鎖交磁束定数φおよび極対数Pを用いると、以下の式(c1)となることが利用される。
【0055】
T=P{φiq+(Ld−Lq)id・iq} …(c1)
ただし、永久磁石の磁束が減少するいわゆる減磁が生じる場合には、電機子鎖交磁束定数φが、指令電流設定部32の設定において想定されたものに対して減少する。このため、モータジェネレータ10を流れる電流を指令電流idr,iqrに制御できたとしても、モータジェネレータ10の実際のトルクが要求トルクTrよりも小さくなる。そしてこの実際のトルクの低下が顕著となる場合には、モータジェネレータ10の効率が低下する等、様々な問題が生じる。そこで本実施形態では、図示されるように減磁判断部52を備え、モータジェネレータ10の永久磁石の磁束が減少すると判断される場合にその旨を外部に通知する。詳しくは、減磁判断部52では、角度情報出力部28の出力する回転角度θに基づき速度算出部50によって算出される回転速度ωと、温度センサ27によって検出される温度THとを入力とし、減磁の有無を判断する。
【0056】
図3に、減磁判断部52の行う処理の手順を示す。この処理は、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0057】
この一連の処理では、まずステップS10において、車両の起動スイッチがオン状態に切り替えられたか否かを判断する。ここで、起動スイッチは、ユーザが車両の走行を許可する旨および禁止する旨の意思表示を示す手段であればよく、必ずしもユーザによる手動の操作がなされるものでなくてもよい。すなわち、例えば携帯用無線装置と車両との距離が規定の距離以上となることで起動スイッチがオフされたと判断されるものであってもよい。
【0058】
上記ステップS10において肯定判断される場合、ステップS12において、先の図1に示したクラッチC1,C2の解除状態を継続しつつ、リレーSMR1およびリレーSMR2を閉操作してコンデンサ22を充電する。そしてコンデンサ22の充電が完了する場合(ステップS14:YES)、リレーSMR2を開操作して且つリレーSMR3を閉操作し、ステップS16に移行する。ステップS16においては、モータジェネレータ10のトルクを要求トルクTrに制御すべく、モータジェネレータ10を流れる電流を指令電流idr,iqrにフィードバック制御する。ただし、この際、d軸の指令電流idrについては、これをゼロとする。これは、モータジェネレータ10に実際に生じるトルクについて、要求トルクTrからのずれの要因を永久磁石の減磁に特定するための設定である。すなわち、本実施形態ではモータジェネレータ10としてIPMSMを用いているために、これに生じるトルクは、上記の式(c1)の右辺第2項に示すリラクタンストルクが含まれうる。そして、このリラクタンストルクは、モータジェネレータ10のd軸インダクタンスLdおよびq軸インダクタンスLqに応じて定まるものであるため、これらの値が制御装置30の想定する値からずれる場合には、これが、モータジェネレータ10の実際のトルクが要求トルクTrからずれる要因となる。このため、モータジェネレータ10のリラクタンストルクをゼロとすべく、d軸の指令電流idrをゼロとする。
【0059】
続くステップS18においては、回転速度ωを取得する。そして、ステップS20においては、モータジェネレータ10のトルクTmを推定する。ここでは、以下の式(c2)に示す力学モデルを用いる。
【0060】
Tm=(Jl+Jm)(dω/dt)+Tl …(c2)
上記式(c2)においては、クラッチC1,C2が解除された状態において回転軸10aともに回転するクラッチC1,C2側の部材の慣性モーメントJlと、回転軸10aの慣性モーメントJmと、オイルポンプ18等によって回転軸10aに加わる負荷Tlとを用いている。
【0061】
続くステップS22においては、推定されたトルクTmが基準トルクTsを下回る量が閾値Tth(<0)の絶対値よりも大きいか否かを判断する。この処理は、減磁の有無を判断するためのものである。ここで、基準トルクTsは、基本的には要求トルクTrとしてもよいものである。ただし、モータジェネレータ10の永久磁石の磁束が永久磁石の温度に応じて変化することに鑑み、ここでは、基準トルクTsを、永久磁石の温度THが高いほど小さくなるように温度THに応じて可変設定している。なお、閾値Tthは、モータジェネレータ10の個体差や経年変化として許容できる範囲や、トルクTmの推定誤差に基づき設定される。すなわち、トルクTmの推定誤差を差し引き、さらに許容される個体差や経年変化の影響を差し引いてもモータジェネレータ10の実際のトルクが要求トルクTrへの制御時に不足しているか否かを判断できるように設定されている。
【0062】
そしてステップS22において肯定判断される場合、ステップS24において、モータジェネレータ10の永久磁石の磁束が減少する減磁が生じている旨判断する。そして、ステップS26において、その旨を外部(ユーザ)に通知する。ここでは、例えばユーザが視認可能な警告ランプ等を点灯させればよい。
【0063】
なお、上記ステップS10,S14,S22において否定判断される場合や、ステップS26の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0064】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0065】
(1)モータジェネレータ10のトルクを要求トルクTrに制御するために行なわれる指令電流idr,iqrへのフィードバック制御に際し、モータジェネレータ10の実際のトルクが基準トルクTsを下回る量が閾値Tth(<0)の絶対値よりも大きい場合、モータジェネレータ10に減磁が生じていると判断した。これにより、減磁の有無を好適に判断することができる。
【0066】
(2)クラッチC1を解除した状態においてモータジェネレータ10の永久磁石の磁束の減少の有無を判断した。これにより、モータジェネレータ10の回転軸10aに駆動輪14側から負荷トルクが付与されない状態におけるモータジェネレータ10の実際のトルクを把握すればよいため、実際のトルクの把握が容易となる。
【0067】
(3)クラッチC2を解除した状態においてモータジェネレータ10の永久磁石の磁束の減少の有無を判断した。これにより、モータジェネレータ10の回転軸10aにエンジン16側から負荷トルクが付与されない状態におけるモータジェネレータ10の実際のトルクを把握すればよいため、実際のトルクの把握が容易となる。
【0068】
(4)力学モデルによってトルクTmを推定した。これにより、モータジェネレータ10に機械的に連結される部材についての慣性モーメント等の値を取得するのみでトルク推定手段を構成することができることから、トルク推定手段の構築が容易となる。
【0069】
(5)モータジェネレータ10の永久磁石の温度THに応じて基準トルクTsを可変設定した。これにより、磁束の減少の有無の判断精度を向上させることができる。
【0070】
(6)リレーSMR1,SMR3が接続された状態でモータジェネレータ10のトルクが制御されている際においてモータジェネレータ10に実際に生じるトルクに基づき、減磁の有無を判断した。これにより、モータジェネレータ10のトルクを大きくすることができるため、磁束の減少の有無の判断精度を向上させることができる。
【0071】
(7)d軸の指令電流idrをゼロとしつつモータジェネレータ10のトルクを制御した際にモータジェネレータ10に実際に生じるトルクに基づき、減磁の有無を判断した。これにより、リラクタンストルクをゼロとしつつ減磁の判断処理を行うことができ、ひいては減磁の有無の判断精度を向上させることができる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0072】
図4に、本実施形態にかかるモータジェネレータ10およびパワーコントロールユニット20と、制御装置30の行う処理の一部とを示す。なお、図4において、先の図2に示した処理に対応する部材や処理については、便宜上同一の符号を付している。
【0073】
図示されるように、本実施形態では、モータジェネレータ10のトルクを検出するトルク検出器60を備え、これによって検出されるトルクを用いて減磁の有無が判断される。ここで、トルク検出器60は、クラッチC1,C2が解除された状態において適切なトルクを検出できるように予め調節がなされたものである。
【0074】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(3),(5)〜(7)の各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0075】
(8)トルク検出器60によって検出されるトルクを用いることで、減磁の有無を判断する処理の演算負荷を低減することができる。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0076】
本実施形態では、モータジェネレータ10の実際のトルクを推定する代わりに、実際のトルクと相関を有するパラメータを用いる。
【0077】
図5に、本実施形態にかかる減磁判断部52の行う処理の手順を示す。この処理は、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図5において、先の図3に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0078】
図示されるように、本実施形態では、ステップS18の処理の後、ステップS20aにおいて、トルクと相関を有するパラメータとして角加速度(dω/dt)を算出する。ここで、角加速度は回転速度ωの1階微分値である。ただし、実際には、回転速度ωの差分演算によって算出してもよい。
【0079】
続くステップS22aにおいては、角加速度(dω/dt)が基準加速度Asを下回る量が閾値Ath(<0)の絶対値よりも大きいか否かを判断する。この処理は、モータジェネレータ10の実際のトルクが大きいほど角加速度も大きくなるというように両者の間に正の相関があることを利用して減磁の有無を判断するためのものである。ここで、基準加速度Asは、モータジェネレータ10の温度THが高いほど小さい値に設定される。
【0080】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態に準じた効果を得ることができる。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0081】
本実施形態では、モータジェネレータ10の実際のトルクを推定する代わりに、実際のトルクと相関を有するパラメータを用いる。
【0082】
図6に、本実施形態にかかる減磁判断部52の行う処理の手順を示す。この処理は、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図6において、先の図3に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0083】
図示されるように、本実施形態では、ステップS16の処理によるトルク制御の開始後、計時動作を開始し(ステップS28)、所定時間待機する(ステップS30)。そして、所定時間が経過すると(ステップS30:YES)、ステップS18において回転速度ωを取得し、ステップS22bにおいて、回転速度ωが基準速度ωsを下回る量が閾値ωth(<0)の絶対値よりも大きいか否かを判断する。この処理は、モータジェネレータ10の実際のトルクと角加速度との間に正の相関があるために、所定時間経過後の回転速度ωはトルクが大きいほど大きくなることを利用して減磁の有無を判断するためのものである。ここで、基準速度ωsは、モータジェネレータ10の温度THが高いほど小さい値に設定される。
【0084】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(3),(5)〜(7)の各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0085】
(9)トルクの制御の開始から所定時間経過時におけるモータジェネレータ10の回転速度ωを用いることで、角加速度を算出するための微分演算処理等を回避しつつも、角加速度相当の情報を取得することができる。
<第5の実施形態>
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0086】
本実施形態では、モータジェネレータ10の実際のトルクを推定する代わりに、実際のトルクと相関を有するパラメータを用いる。
【0087】
図7に、本実施形態にかかる減磁判断部52の行う処理の手順を示す。この処理は、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図7において、先の図3に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0088】
図示されるように、本実施形態では、ステップS16の処理によるトルク制御の開始後、計時動作を開始し(ステップS28)、モータジェネレータ10の回転速度ωが規定速度ω0となるまで待機する(ステップS32)。そして、規定速度ω0となると(ステップS32:YES)、ステップS22cにおいて、トルク制御の開始からの経過時間が基準時間を上回る量が閾値時間(>0)よりも大きいか否かを判断する。この処理は、モータジェネレータ10の実際のトルクと角加速度との間に正の相関があるために、規定速度ω0となるまでに要する時間はトルクが大きいほど短くなることを利用して減磁の有無を判断するためのものである。ここで、基準時間は、モータジェネレータ10の温度THが高いほど大きい値に設定される。
【0089】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(3),(5)〜(7)の各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0090】
(10)トルクの制御を開始してからモータジェネレータ10の回転速度ωが規定速度ω0となるまでに要する時間を用いることで、角加速度を算出するための微分演算処理等を回避しつつも、角加速度相当の情報を取得することができる。
<第6の実施形態>
以下、第6の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0091】
本実施形態では、モータジェネレータ10の永久磁石の磁束の減少速度が大きい場合に、減磁が生じたと判断する。これは、減磁の有無を高精度に判断することを狙ったものである。すなわち、減磁は、通常、モータジェネレータ10の制御が破綻する等した場合に生じるものである。このため、永久磁石の磁束についての検出対象とするような異常な減少は、急激に生じることとなる。ここで、第1の実施形態に例示したように、基準値(基準トルクTs)との比較に基づき減磁の有無を判断する場合、上述したようにトルクTmの推定誤差やモータジェネレータ10の個体差や経年変化の影響を差し引いても磁束が減少したことが判断可能なように基準トルクTsや閾値Tthを設定することとなる。ただし、経年変化による永久磁石の磁束の減少の許容最大値を考慮して基準トルクTsや閾値Tthを設定すると、例えば経年変化による磁束の減少を無視できる時期にモータジェネレータ10の制御破綻等によって検出すべき磁束の減少が生じたとしても、これを検出する精度が低下する懸念がある。
【0092】
図8に、本実施形態にかかる減磁判断部52の行う処理の手順を示す。この処理は、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図8において、先の図3に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0093】
図示されるように、本実施形態では、ステップS20の処理の完了後、ステップS22dにおいて、推定されるトルクTmが基準トルクTsを下回る量が閾値Tth(<0)よりも大きいか否かを判断する。そして、ステップS22dにおいて否定判断される場合、減磁が生じていないと判断されることから、ステップS34において、基準トルクTsを今回推定されたトルクTmとする。これにより、次回のステップS22dにおいては、今回のステップS34において更新された基準トルクTsが用いられることとなる。
【0094】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0095】
(11)推定されるトルクTmの変化速度に基づき、モータジェネレータ10の永久磁石の磁束の減少の有無を判断した。これにより、モータジェネレータ10の制御破綻等によって生じる異常な磁束の減少の有無の判断精度を向上させることができる。
<第7の実施形態>
以下、第7の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0096】
本実施形態では、制御装置30が先の図1に示したシステムに搭載される前においては、基準トルクTsに関する情報を有することなく、搭載当初において推定されるトルクTmに基づき基準トルクTsを設定する。
【0097】
図9に、本実施形態にかかる基準トルクTsの設定に関する処理の手順を示す。この処理は、制御装置30によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図9において、先の図3に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0098】
この一連の処理では、まずステップS40において基準値取得フラグがオンとなっているか否かを判断する。この基準値取得フラグは、オンである場合に基準トルクTsを取得済みであることを示し、オフである場合に基準トルクTsが未だ取得されていないことを示す。そして、ステップS40において否定判断される場合、先の図3に示したステップS10〜S20の処理を行う。そしてステップS20の処理が完了する場合には、ステップS42において、推定されたばかりのトルクTmを基準トルクTsとするとともに、基準値取得フラグをオンとする。
【0099】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0100】
(12)モータジェネレータ10の初期使用時において推定されたトルクTmに基づき基準トルクTsを設定した。これにより、基準トルクTsの設定のために要する工数を低減することなどができる。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0101】
「トルク制御手段について」
電流フィードバック制御手段としては、先の図2等に例示したものに限らない。例えば周知の非干渉項や誘起電圧補償項等のフィードフォワード項をさらに有するものであってもよい。また、PWM制御を行うものにも限らず、例えば瞬時電流値制御やモデル予測制御を行うものであってもよい。
【0102】
トルク制御手段としては、要求トルクTrに応じた指令電流idr,iqrに制御する手段にも限らず、例えば実電流id,iqから推定されるトルクを要求トルクTrにフィードバック制御するトルクフィードバック制御手段であってもよい。この場合であっても、実電流id,iqに基づくトルク推定器は、永久磁石の電機子鎖交磁束定数が当初(減磁前)の値であることを前提としてトルクを推定するため、減磁が生じることでモータジェネレータ10の実際のトルクが減少する。このため、実際のトルクを推定するなどすることで、減磁の有無を判断することができる。なお、トルクフィードバック制御手段としては、例えば矩形波制御手段等の周知技術がある。
【0103】
ちなみに、上述した内容は、いずれもトルク制御手段の入力パラメータとしてのモータジェネレータ10の電気的な状態量が電流となるものであるが、固定子側の磁束であってもよい。この場合であっても、要求トルクTrへの制御に際しては、永久磁石の磁束についての想定値を前提とするため、上記態様にして減磁の有無を判断することができる。
【0104】
「トルク推定手段について」
力学モデルとしては、上記第1の実施形態において例示したものに限らない。例えば、モータジェネレータ10等にダンパ作用を有する部材(トルクコンバータ等)が機械的に連結された状態についてのトルクを推定するなら、ダンパ項D・ω(D:定数)を加えたモデルであってもよい。また、オイルポンプ18が機械的に連結されていないなら、負荷Tlの項を削除したモデルであってもよい。もっとも、負荷Tlについては、基準トルクTsに反映させることで、力学モデルから削除することもできる。すなわち、例えば要求トルクTrから負荷Tlを減算したものを基準トルクTs等とする場合、これと比較するトルクは、モータジェネレータ10の実際のトルクではなく、これから負荷Tlを削除したものとすることが適切である。
【0105】
なお、力学モデルからトルクを推定することができることは、回転速度ωや角加速度dω/dtが入力パラメータであって且つトルクの推定値が出力パラメータであるマップを構成可能なことを意味する。このため、力学モデルに限らず、マップを備えてトルク推定手段を構成してもよい。なお、ここでマップとは、入力パラメータについての離散的な複数の値のそれぞれ毎に出力パラメータの値が記憶された記憶手段のこととする。
【0106】
「負荷トルク取得手段について」
負荷トルク取得手段としては、駆動輪14やエンジン16とモータジェネレータ10の回転軸10aとの機械的な連結を解除する処理を行うものに限らない。例えば、車両の走行中、すなわち駆動輪14とモータジェネレータ10とが機械的に連結された状態における負荷トルクに関する情報を取得するものであってもよい。この情報としては、例えば車両の重量や、走行路面の傾斜角、走行路面の摩擦係数、周囲の風速および風向き等がある。すなわち、これらの情報に基づき駆動輪14に加わる負荷トルクを推定することができ、ひいてはモータジェネレータ10の回転軸10aに加わる負荷トルクを推定することができる。また、例えばクラッチC2が締結状態となっているときにおける負荷トルク情報を取得するものであってもよい。これは、例えば、エンジン16の燃焼制御を停止した状態においてクランク軸の回転に伴う負荷トルクの平均値等に関する情報を記憶した手段を備えることで実現することができる。
【0107】
「駆動輪側遮断手段について」
駆動輪側遮断手段としては、湿式の電子制御式クラッチに限らず、例えば乾式の電子制御式クラッチであってもよい。
【0108】
「機関側遮断手段について」
機関側遮断手段としては、乾式の電子制御式クラッチに限らず、例えば湿式の電子制御式クラッチであってもよい。また、電子制御によって一対の回転軸を締結状態および解除状態に制御可能な締結手段にも限らない。例えば、入力側の回転速度よりも出力側の回転速度の方が大きくならない限り動力を伝達させるワンウェイクラッチやワンウェイベアリング等の一方向伝達機構であってもよい。この一方向伝達機構を先の図1に示したシステムに適用する場合、モータジェネレータ10側を出力側とすればよい。
【0109】
「設定手段について」
上記第1〜第5の実施形態において、基準値を温度に応じて可変設定することなく固定値としてもよい。ただし、この場合、減磁と判断するための条件に十分なマージンを設けることが望ましい。このマージンの設定手法としては、例えば先の図3のステップS22の処理に関して言えば、閾値Tthの設定値を調節したり、基準トルクTs自体を高温時のものにしたりすることで行うことができる。
【0110】
また、上記第6の実施形態において、基準トルクTsや閾値Tthを温度に応じて可変としてもよい。
【0111】
また、上記第7の実施形態において、基準トルクTsが取得された後、これを減磁判断処理時と基準トルクTs取得時とのそれぞれにおけるモータジェネレータ10の温度差に応じて補正して用いてもよい。
【0112】
なお、基準値に負荷Tl等の負荷トルクに関する量を含め得ることついては、「トルク推定手段について」の欄に記載したとおりである。
【0113】
ちなみに、例えば先の図3のステップS22の左辺第2項を右辺に移項すれば、「Tm<Ts+Tth」となり、トルクTmが判定値(Ts+Tth)よりも小さいか否かを判断することと等価となる。このため、基準値と閾値とを判定値として一元化し、トルクTmと基準トルクTsとの減算処理を実際には行なわないようにしてもよい。
【0114】
「実際のトルクに関するパラメータの変化速度に基づく減磁判断について」
上記第6の実施形態のように、都度推定されるトルクTmによって基準トルクTsを更新するものに限らず、例えば車両の発進回数が規定の複数回となる毎に推定されるトルクTmによって更新してもよい。
【0115】
また、基準値(基準トルクTs)を更新するものに限らず、都度の推定トルクTmを記憶しておき、今回と前回との推定トルクTmの差の絶対値が過去2回の推定トルクTmの差の絶対値の規定数(>2)倍以上となることで減磁と判断してもよい。
【0116】
なお、変化速度の定量化対象となるパラメータは、推定トルクTmに限らず、例えば角加速度等であってもよい。
【0117】
「要求トルクTrについて」
上記各実施形態では、要求トルクTrをゼロよりも大きくすることによるモータジェネレータ10の力行運転時において減磁の有無を判断したが、これに限らない。例えば要求トルクTrを負とすることによるモータジェネレータ10の回生運転時において減磁の有無を判断してもよい。これは、例えば先の図1に示したシステムにおいて、起動スイッチがオフ操作された際に行うことができる。すなわち、先の図1に示したシステムの場合、駆動輪14が停止した場合であっても、クラッチC1,C2やトランスミッション12にオイルを供給すべくクラッチC1,C2を解除した状態でモータジェネレータ10が駆動される。このため、起動スイッチがオフされた直後には、モータジェネレータ10が回転しているため、これを回生制御した際のトルクTm(<0)等の推定に基づき減磁の有無を判断してもよい。もっとも、こうしたシステムでなくても、駆動輪14との間の動力の伝達を遮断する駆動輪側遮断手段を備えるなら、起動スイッチのオフ直後やオン直後にモータジェネレータ10を力行運転し、次に回生運転する際のトルクに関するパラメータに基づき減磁の有無を判断することもできる。
【0118】
ちなみに、回生運転を利用するなら、リレーSMR1〜SMR3が開状態であったとしてもトルクの絶対値を大きくしうる。
【0119】
「減磁の有無の判断処理の実行条件について」
起動スイッチのオン直後に限られないことは、「負荷トルク取得手段について」の欄の記載や「要求トルクTrについて」の欄の記載の通りである。
【0120】
「システムについて」
パラレルハイブリッドシステムとしては、先の図1に例示したものに限らず、例えば図10に示すものであってもよい。なお、図10において、先の図1に示した部材に対応する部材については便宜上同一の符号を付している。図10では、トランスミッション12a,12bが並列に設けられて且つ、これらのそれぞれとモータジェネレータ10の回転軸10aとがクラッチC1a,C1bのそれぞれによって締結状態および解除状態とされるいわゆるデュアルクラッチトランスミッション(DCT)を備えるシステムである。この場合、クラッチC1a,C1bの双方を解除状態とすることで減磁判断処理を行うことが望ましい。
【0121】
ハイブリッドシステムとしては、パラレルハイブリッドシステムに限らず、例えばシリーズハイブリッドシステムやパラレルシリーズハイブリッドシステムであってもよい。
【0122】
また、ハイブリッドシステムに限らず、内燃機関を備えることなく車載主機として回転機のみを備える電気自動車等であってもよい。
【0123】
なお、いずれのシステムを採用する場合であっても、駆動輪側遮断手段を備えて駆動輪と回転機との間の動力の伝達を遮断した状態において減磁判断処理を行うことが望ましい。また、パラレルシリーズハイブリッドシステム等にあっては、機関側遮断手段を備えて内燃機関と回転機との間の動力の伝達を遮断した状態において減磁判断処理を行うことが望ましい。
【0124】
「そのほか」
・突極性を有する回転機としては、突極機に限らず、例えば逆突極機であってもよい。また、永久磁石を備える回転機としては、突極性を有するものにも限らず、例えば表面磁石同期機(SPM)等であってもよい。
【0125】
・減磁判断処理のための指令電流としては、d軸電流がゼロとなるものに限らない。例えばSPM等を対象とする場合には、d軸電流を流すことによる減磁判断精度の低下は、IPMSMと比較すると生じにくいと考えられる。もっとも、IPMSM等の突極性を有する回転機を対象とする場合であっても、d軸電流の絶対値をゼロよりも大きくしてもよい。
【0126】
・電力供給源としては、高電圧バッテリ24(2次電池)に限らず、燃料電池であってもよい。
【符号の説明】
【0127】
10…モータジェネレータ、52…減磁判断部、IV…インバータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を備える回転機の制御量を制御する回転機の制御装置において、
前記回転機のトルクをゼロよりも大きい絶対値を有する指令値に制御するトルク制御手段と、
前記回転機に加わる負荷トルクに関する情報を取得する負荷トルク取得手段と、
前記取得される負荷トルクに関する情報を入力とし、前記トルク制御手段による制御時における前記回転機の実際のトルクに関するパラメータに基づき、前記永久磁石の磁束の減少の有無を判断する減磁判断手段とを備えることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項2】
前記回転機は、車載主機であり、
前記回転機と駆動輪との間の動力の伝達を遮断する駆動輪側遮断手段をさらに備え、
前記負荷トルク取得手段は、前記駆動輪側遮断手段を操作して前記回転機と前記駆動輪との間の動力の伝達を遮断することで前記駆動輪側から前記回転機に付与される負荷トルクがゼロである旨の情報を取得するものであり、
前記減磁判断手段は、前記駆動輪側遮断手段によって前記回転機と前記駆動輪との間の動力の伝達が遮断された状態における前記実際のトルクに関するパラメータに基づき前記永久磁石の磁束の減少の有無を判断することを特徴とする請求項1記載の回転機の制御装置。
【請求項3】
当該制御装置の搭載される車両は、車載主機として前記回転機に加えて内燃機関を備えて且つ、これら回転機と内燃機関との間の動力の伝達を遮断する機関側遮断手段を備え、
前記負荷トルク取得手段は、前記機関側遮断手段を操作して前記回転機と前記内燃機関との間の動力の伝達を遮断することで前記内燃機関側から前記回転機に付与される負荷トルクがゼロである旨の情報を取得するものであり、
前記減磁判断手段は、前記機関側遮断手段によって前記回転機と前記内燃機関との間の動力の伝達が遮断された状態における前記実際のトルクに関するパラメータに基づき前記永久磁石の磁束の減少の有無を判断することを特徴とする請求項2記載の回転機の制御装置。
【請求項4】
前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記回転機のトルクの値であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項5】
前記回転機の回転角度の変化に関する情報を入力として前記回転機のトルクを推定するトルク推定手段をさらに備え、
前記減磁判断手段は、前記回転機の実際のトルクに関するパラメータとして前記トルク推定手段によって推定されたトルクを用いることを特徴とする請求項4記載の回転機の制御装置。
【請求項6】
前記トルク推定手段は、前記回転機の回転軸およびこれと連動して回転する回転体の慣性モーメントに前記回転機の回転加速度を乗算した項を有する力学モデルであることを特徴とする請求項5記載の回転機の制御装置。
【請求項7】
前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記回転機のトルクを検出するトルク検出器の出力であることを特徴とする請求項4記載の回転機の制御装置。
【請求項8】
前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記回転機の回転速度の変化速度に関するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項9】
前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記回転機の角加速度であることを特徴とする請求項8記載の回転機の制御装置。
【請求項10】
前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記トルク制御手段による前記トルクの制御の開始から所定時間経過時における前記回転機の回転速度であることを特徴とする請求項8記載の回転機の制御装置。
【請求項11】
前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記トルク制御手段による前記トルクの制御の開始後、前記回転機の回転速度が規定速度となるまでに要する時間であることを特徴とする請求項8記載の回転機の制御装置。
【請求項12】
前記回転機の実際のトルクに関するパラメータは、前記回転機の回転角度の検出器の出力または前記回転角度の推定器の出力を用いたものであることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項13】
前記トルクに関するパラメータについて、前記回転機に対するトルクの指令値に応じた判定値を設定する設定手段をさらに備え、
前記減磁判断手段は、前記実際のトルクに関するパラメータと前記判定値との大小比較に基づき、前記永久磁石の磁束の減少の有無を判断することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項14】
前記設定手段は、前記減磁判断手段による判断に用いられる前記実際のトルクに関するパラメータの取得された際の前記回転機の温度に応じて前記減磁判断手段によって用いられる前記判定値を可変設定することを特徴とする請求項13記載の回転機の制御装置。
【請求項15】
前記設定手段は、前記回転機の初期使用時において前記トルク制御手段による制御のなされている際の前記実際のトルクに関するパラメータに基づき前記判定値を設定することを特徴とする請求項13または14記載の回転機の制御装置。
【請求項16】
前記減磁判断手段は、前記実際のトルクに関するパラメータの変化速度に基づき、前記永久磁石の磁束の減少を判断することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項17】
前記回転機は車載主機であり、
前記回転機は、電力変換回路を介して電力供給源から電力を受け取るものであり、
前記電力変換回路と前記電力供給源との間にはリレーが接続されており、
前記減磁判断手段は、前記リレーが接続された状態で前記トルク制御手段によってトルクが制御されている際における前記実際のトルクに関するパラメータに基づき前記永久磁石の磁束の減少の有無を判断することを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項18】
前記回転機は、突極性を有するものであり、
前記トルク制御手段は、前記回転機の電流を指令値に制御することで前記回転機のトルクをその指令値に制御するものであって且つ、前記電流の指令値は、d軸方向の電流値がゼロとなることを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−90361(P2012−90361A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232165(P2010−232165)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】