説明

基板乾燥装置および方法

【課題】純水内に浸積され洗浄処理が行われた基板を乾燥させる基板乾燥において、上記基板に微細化されたパターンが存在するような場合であっても、確実に上記基板に付着した純水を除去して基板を乾燥させる基板乾燥装置及び方法を提供する。
【解決手段】純水内に浸積された基板を取り出した後、上記基板の表面に液状のイソプロピルアルコールを供給して、上記基板の表面に付着している上記純水を上記イソプロピルアルコールに置き換え、その後、上記基板の表面から上記イソプロピルアルコールを蒸発させることにより上記基板を乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純水内に浸積され洗浄処理が行われた基板を乾燥させる基板乾燥装置および方法に関し、特に基板として、半導体ウェハや液晶パネル用基板などの乾燥処理についての装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板の一例である半導体ウェハの製造工程において、洗浄水として例えば純水などを用いてウェハに対する洗浄処理が行われた後、ウェハの表面に付着している純水を除去するためにウェハを乾燥させる工程が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなウェハの乾燥処理工程の原理を示す模式説明図を図7に示す。図7に示すように、このような従来の乾燥処理工程においては、ウェハ1が浸積された純水2の水面上方の空間に、IPA(イソプロピルアルコール)と不活性ガスであるNガスとの混合ガス3を充填しておき、純水2中からこの空間内にウェハ1を引き上げて、ウェハ1の表面に付着している水滴をIPAに置換して、その後ウェハ1表面のIPAを蒸発させることで、ウェハ1を乾燥させている。このような乾燥方法は、いわゆるマランゴニ効果を利用したものである。具体的には、水面上方の空間内に混合ガス3が供給されていることにより、純水2の水面上にはIPAの一部が溶け込み、IPAが高濃度にて溶け込んだ層であるIPA層4が形成される。IPAは、表面張力が純水よりも低いという特性を有しており、この表面張力差を用いることで、純水2内より上方に引き上げられるウェハ1の表面の純水をIPAに置き換えることで、ウェハ1の表面の純水を取り除いて、乾燥効果が高められている。
【0004】
【特許文献1】特公平6−103686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術等に用いられるウェハにおいては、形成されるパターンの微細化が顕著となっている。例えば、ウェハ表面に形成されるパターンの深さ(高さ)寸法Dに対して、その幅寸法W1の狭小化は著しく、例えば、幅寸法W1に対する深さ寸法Dのアスペクト比は3以上(すなわち、幅W1:深さD=1:3以上)とパターン断面形状の細型化が進んでいる。また、このようなパターン幅の狭小化に伴い、隣接するパターン間に形成される溝部の幅寸法W2も狭小化され、溝部の幅寸法W2に対する深さ寸法Dのアスペクト比も3以上となっている。このようにパターン及び溝部の微細化が顕著となるに従って、従来の乾燥処理方法では、パターン間の溝部内部にまで入り込んだ純水等が残存する場合があり、十分な乾燥ができないという問題が生じている。
【0006】
例えば、図8(A)の模式説明図に示すように、ウェハ表面のパターン1a間の溝部1b内にまで入り込んだ純水2は、そのパターン形状及び溝部形状の高アスペクト比化により、純水内から引き上げられる際に、マランゴニ効果だけではIPAと十分に置き換えられない場合が生じる。このような場合にあっては、純水の表面張力(72.75mN/m)がIPAの表面張力(22.9mN/m)よりも高いという特性により、残存した純水2の表面張力により細型化された隣接するパターン1aが互いに引き寄せられて、パターン倒れが生じる場合があるという問題がある。
【0007】
従って、本発明の目的は、上記問題を解決することにあって、純水内に浸積され洗浄処理が行われた基板を乾燥させる基板乾燥において、上記基板に微細化されたパターンが存在するような場合であっても、確実に上記基板に付着した純水を除去して基板を乾燥させる基板乾燥装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0009】
本発明の第1態様によれば、純水内に浸積された基板を取り出した後、上記基板の表面に液状のイソプロピルアルコールを供給して、上記基板の表面に付着している上記純水を上記イソプロピルアルコールに置き換え、
その後、上記基板の表面から上記イソプロピルアルコールを蒸発させることにより上記基板を乾燥させることを特徴とする基板乾燥方法を提供する。
【0010】
本発明の第2態様によれば、上記純水の上記イソプロピルアルコールへの置き換え処理は、イソプロピルアルコール液内に上記基板を浸積させることにより行い、
上記イソプロピルアルコール液内より上記基板を取り出した後、上記基板の乾燥処理を行う、第1態様に記載の基板乾燥方法を提供する。
【0011】
本発明の第3態様によれば、上記純水の上記イソプロピルアルコールへの置き換えは、上記基板が浸積された上記イソプロピルアルコール液と上記基板とを相対的に移動させながら行う、第3態様に記載の基板乾燥方法を提供する。
【0012】
本発明の第4態様によれば、上記イソプロピルアルコールと上記基板との相対的な移動は、上記基板の表面に沿って上記イソプロピルアルコール液が相対的に流動されるように、その流動の方向を制御して行われる、第3態様に記載の基板乾燥方法を提供する。
【0013】
本発明の第5態様によれば、上記純水の上記イソプロピルアルコールへの置き換えは、上記液状のイソプロピルアルコールを上記基板に吹き付けることにより行い、
その後、上記基板の乾燥処理を行う、第1態様に記載の基板乾燥方法を提供する。
【0014】
本発明の第6態様によれば、上記基板の乾燥処理は、チャンバ内に上記基板を配置して、上記チャンバ内の空間に乾燥処理用気体を供給して、上記基板の表面から上記イソプロピルアルコールを蒸発させるとともに、上記チャンバ内の空間を加熱することにより、上記イソプロピルアルコールの蒸発速度を促進させながら行う、第2態様から第5態様のいずれか1つに記載の基板乾燥方法を提供する。
【0015】
本発明の第7態様によれば、上記基板の乾燥処理は上記チャンバ内部を負圧とした状態にて行う、第6態様に記載の基板乾燥方法を提供する。
【0016】
本発明の第8態様によれば、純水が収容された純水槽を備え、上記純水内に基板が浸積されて洗浄処理が行われる純水洗浄装置と、
上記純水洗浄装置の上記純水槽から取り出された上記基板に対して、その表面に液状のイソプロピルアルコールを供給するイソプロピルアルコール供給部を備え、上記イソプロピルアルコール供給部により上記イソプロピルアルコールを供給することで、上記基板の表面に付着している上記純水を上記イソプロピルアルコールに置き換えるイソプロピルアルコール液供給装置と、
上記イソプロピルアルコール液供給装置にて上記イソプロピルアルコールの供給が行われた上記基板に対して、乾燥処理用気体を供給する乾燥処理用気体供給部を備え、上記気体の供給により上記基板の表面から上記イソプロピルアルコールを蒸発させて上記基板を乾燥させる乾燥処理装置とを備えることを特徴とする基板乾燥装置を提供する。
【0017】
本発明の第9態様によれば、上記イソプロピルアルコール液供給装置は、
上記イソプロピルアルコール液が収容されたイソプロピルアルコール液槽と、
上記基板を保持し、上記イソプロピルアルコール液槽中に上記基板を浸積させる基板保持部とを備え、
上記イソプロピルアルコール液内に上記基板が浸積されることにより、上記純水の上記イソプロピルアルコールへの置き換え処理が行われる、第8態様に記載の基板乾燥装置を提供する。
【0018】
本発明の第10態様によれば、上記イソプロピルアルコール液供給装置は、上記収容されているイソプロピルアルコール液と上記基板保持部とを相対的に移動させる相対移動部をさらに備える、第9態様に記載の基板乾燥装置を提供する。
【0019】
本発明の第11態様によれば、上記相対移動部による相対移動は、上記基板の表面に沿って上記イソプロピルアルコール液が相対的に流動されるように、その流動の方向が制限して行われる、第10態様に記載の基板乾燥装置を提供する。
【0020】
本発明の第12態様によれば、上記乾燥処理装置は、
上記基板がその内側の空間に配置されるとともに、上記乾燥処理用気体供給部により上記気体が上記空間内に供給されるチャンバと、
上記チャンバ内において、上記基板を保持する基板保持部と、
上記チャンバ内の空間を加熱することにより、上記基板保持部に保持された上記基板を加熱して、上記イソプロピルアルコールの蒸発速度を促進させるチャンバ加熱部とをさらに備える、第8態様から第11態様のいずれか1つに記載の基板乾燥装置を提供する。
【0021】
本発明の第13態様によれば、上記乾燥処理用気体供給部は、上記チャンバ内の空間に加圧された上記気体を吹き出して供給する乾燥処理用気体吹き出し部である、第12態様に記載の基板乾燥装置を提供する。
【0022】
本発明の第14態様によれば、上記乾燥処理用気体供給部は、上記チャンバの内外空間を連通して設けられたフィルタと、上記チャンバ内の雰囲気を排気することにより、上記フィルタを通して上記チャンバの外側のエアを上記チャンバ内に導く排気部とを備える、第12態様に記載の基板乾燥装置を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、純水内に浸積された基板が取り出された後、上記基板の表面に液状のイソプロピルアルコールを供給することで、上記基板の表面に付着している上記純水を上記イソプロピルアルコールに置き換えている。すなわち、いわゆるマランゴニ効果を利用することなく、純水内から取り出された後の基板に対して、その表面に液状のイソプロピルアルコールを供給することで、その表面に付着している純水をイソプロピルアルコールに確実に置き換えることができる。従って、基板において、パターンの微細化が成されているような場合であっても、そのパターンの溝部内部にまで入り込んでいる純水をIPAに置き換えて、パターン倒れ等の問題が発生することを確実に防止することができる基板乾燥装置および方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0025】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施形態にかかる基板乾燥装置の一例であるウェハ乾燥処理システムを含んで備えるウェハ洗浄乾燥処理システム101の主要な構成を示す模式構成図を図1に示す。本実施形態のウェハ洗浄乾燥処理システム101は、基板の一例として、半導体ウェハ(以降、「ウェハ」とする。)1に対して洗浄液を用いて洗浄処理を行った後、これらの洗浄液を除去するために純水中へ浸積させ、その後、純水中からウェハ1を取り出して、ウェハ1の表面に付着した純水等の液体を取り除くための乾燥処理を行う装置である。本実施形態のウェハ洗浄乾燥処理システムは、このような洗浄処理および乾燥処理の対象となるウェハとして、例えば、MEMS等に用いられる微細なパターンが形成されたウェハに対する乾燥処理を行うような装置である。このような微細なパターンとして、後述するように、そのパターン幅W1あるいはパターン間の溝部幅W2に対するパターン間の溝部深さDの比、すなわちアスペクト比が3以上のパターンを有するウェハの洗浄処理および乾燥処理に対して本実施形態の洗浄乾燥処理が適用されることで、本実施形態の効果を有効に得ることができる。
【0026】
図1に示すように、ウェハ洗浄乾燥処理システム101は、薬液等の洗浄液を用いてウェハ1に対する洗浄処理が行われる洗浄処理装置10と、洗浄処理が行われたウェハ1を純水中に浸積させることで、付着している洗浄液を洗い流す水洗処理が行われる水洗処理装置(純水洗浄装置の一例)20と、水洗処理が行われたウェハ1をイソプロピルアルコール(以降「IPA」とする。)液中に浸積させて、付着している純水をIPAに置き換えるIPA置換処理を行うIPA置換処理装置(IPA液供給装置の一例)30と、IPA置換処理が行われたウェハ1に付着しているIPAを蒸発させてウェハ1の乾燥処理を行う乾燥処理装置40とを備えている。
【0027】
洗浄処理装置10は、洗浄液11が収容された洗浄槽12を備えている。洗浄槽12内において、例えば複数枚のウェハ1がキャリア13により支持された状態で、キャリア(ウェハ保持治具)13を支持する図示しない保持治具が備えられている。なお、洗浄処理装置10においては、図示しない洗浄液11の供給部や排液部が備えられている。洗浄処理装置10においては、キャリア13により保持されかつ洗浄液11中に浸積された状態のウェハ1に対して、洗浄液による洗浄処理が行われる。
【0028】
水洗処理装置20は、純水2が収容された純水槽21を備えている。純水槽21内において、それぞれのウェハ1を保持するキャリア13を支持する図示しない保持治具が備えられている。水洗処理装置20においては、キャリア13により保持されかつ純水2中に浸積された状態のウェハ1に対して、洗浄液を洗い流すための水洗処理が行われる。なお、水洗処理装置20には、図示しない純水2の供給部や排液部が備えられている。
【0029】
IPA置換処理装置30は、液状のIPAであるIPA液31が収容されたIPA槽32と、IPA槽32に内において、それぞれのウェハ1を保持するキャリア13を支持する図示しない保持治具が備えられている。さらに、IPA置換処理装置30には、キャリア13を例えば、ウェハ1の表面沿いに進退移動させる(例えば上下方向に移動させる)ことで、ウェハ1の表面に形成されたパターンとIPA液31との接触性を高めるキャリア進退移動機構(相対移動部の一例)33が備えられている。なお、IPA置換処理装置30には、図示しないIPA液31の供給部や排液部が備えられている。IPA置換処理装置30では、キャリア13に保持されたそれぞれのウェハ1が完全に浸積されるように、IPA槽32の深さ及び収容されるIPA液31の液量が確保されており、IPA液31中にウェハ1を浸積させることで、ウェハ1の表面に残存している純水をIPAに置き換えることが可能となっている。なお、本第1実施形態においては、IPA槽32が、IPA供給部の一例となっている。
【0030】
ここで、乾燥処理装置40の詳細構成を図2の模式図に示す。図2に示すように、乾燥処理装置40は、乾燥処理用気体として例えば加圧された窒素ガス(Nガス)をウェハ1に対して吹き付けることにより乾燥処理を行う装置である。具体的には、乾燥処理装置40には、その内側の空間を乾燥処理空間として有するチャンバ41と、チャンバ41内の空間へNガスを吹き出して供給するNガスノズル(乾燥処理用気体吹き出し部の一例)42と、チャンバ41内の空間の略中央付近において、キャリア13により保持された状態のウェハ1を支持するキャリア受け台(基板保持部の一例)43と、空間内へのキャリア13の搬入出にための出入口として機能するチャンバ41に取り付けられた蓋部44とを備えている。さらに、乾燥処理装置40には、チャンバ41の外周に取り付けられ、チャンバ41を介してチャンバ41内の空間、特にキャリア13やウェハ1を加熱する加熱装置(チャンバ加熱部の一例)の一例であるプレートヒータ45が備えられている。また、チャンバ41には、チャンバ41内の雰囲気を排気する排気通路と連通された排気部の一例である排気ファン49と、チャンバ41内にて発生したドレンをチャンバ41の外部へ排出するドレン通路46が備えられている。また、それぞれのNガスノズル42には、Nガス供給通路47が接続されており、さらにこのNガス供給通路47の途中には、Nガスを加熱するN加熱器48が取り付けられている。
【0031】
また、ウェハ洗浄乾燥処理システム101においては、洗浄処理装置10に、キャリア13により保持された状態のウェハ1を搬入して、所定の位置に固定支持させる搬入装置の一例であるローダ18と、乾燥処理装置40から、キャリア13により保持された状態のウェハ1を、所定の位置から搬出する搬出装置の一例であるアンローダ19とが備えられている。また、洗浄処理装置10、水洗処理装置20、IPA置換処理装置30、及び乾燥処理装置40のそれぞれの装置間におけるキャリア13の搬送は、図示しないロボット等の搬送装置を用いて行われる。
【0032】
なお、それぞれのウェハ1を保持するキャリア13は、薬液等の耐食性に優れた材料により形成されることが好ましく、かつ、ウェハ1の表面に接触する部分には、傷等が付きにくいような比較的柔軟な材料により形成されることが好ましく、例えば、PFA等のフッ素樹脂材料より形成される。
【0033】
次に、このような構成のウェハ洗浄乾燥システム101において、ウェハ1に対する洗浄処理から乾燥処理までが行われる一連の手順について、図3に示すフローチャートを用いて説明する。
【0034】
まず、図3のフローチャートのステップS1において、ウェハ1に対する洗浄処理が行われる。具体的には、互いの表面を略平行な状態にて配列されてキャリア13に保持された複数のウェハ1を、ローダ18により保持して、洗浄処理装置10の洗浄槽12内に搬入する。洗浄槽12においては、例えば予め所定の洗浄液11が収容された状態とされており、キャリア13に保持されたそれぞれのウェハ1が洗浄液11中に浸積された状態とされる。その後、この浸積状態において、洗浄処理装置10にて所定の洗浄処理が行われる。
【0035】
洗浄処理が完了すると、ステップS2において、洗浄処理装置10の洗浄槽12内からウェハ1を保持するキャリア13が取り出されて、その後、水洗処理装置20の純水槽21内にキャリア13が搬入される。この搬入は、例えば、図示しないロボットにより行われる。純水槽21には予め純水2が収容された状態とされており、このロボットによる搬入により、キャリア13に保持されたそれぞれのウェハ1が純水2内に浸積された状態とされる。このように純水2内にそれぞれのウェハ1が浸積された状態にて、例えば、純水槽21内の純水2が循環される等により、ウェハ1の表面に残留する洗浄液を洗い流す水洗処理が行われる(ステップS3)。
【0036】
水洗処理が完了すると、ステップS4において、水洗処理装置20の純水槽21内からウェハ1を保持するキャリア13が取り出されて、その後、IPA置換処理装置30のIPA槽32内にキャリア13が搬入される。この搬入は、例えば、図示しないロボットにより行われる。IPA槽32には予めIPA液31が収容された状態とされており、このロボットによる搬入により、キャリア13に保持されたそれぞれのウェハ1が、IPA液31内に浸積された状態とされる。IPA置換処理装置30においては、このようにIPA液31内にそれぞれのウェハ1が浸積された状態にて、キャリア進退移動機構33により、キャリア13を例えばウェハ1の表面沿いに進退移動(例えば上下方向の移動)させることにより、ウェハ1の表面とIPA液31との相対的な移動、すなわち流動を制御しながら形成し、両者の接触性が高められた状態にて、IPA置換処理が行われる(ステップS5)。具体的には、ウェハ1の表面に付着している、すなわちウェハ1の表面に形成された微細なパターン間の溝部などに付着している純水2を、IPA液31に置き換える処理が行われる。ここで、シリコンウェハ1の表面は撥水性が強く、純水をはじくという特性を有している。これに対して、IPA液は、シリコンウェハ1の表面に濡れやすいという特性を有している。このような両液体の特性を利用することで、ウェハ1の表面により濡れやすいIPA液31への置換処理が行われる。
【0037】
その後、IPA置換処理が完了すると、ステップS6にて、IPA置換処理装置30のIPA槽32内からウェハ1を保持するキャリア13が取り出されて、乾燥処理装置40内へ搬入され、チャンバ41内のキャリア受け台43上へキャリア13が配置される。この搬入は、例えば、図示しないロボットにより行われる。その後、乾燥処理装置40において、蓋部44が閉止され、それぞれのNガスノズル42より、それぞれのウェハ1に向けて加圧されたNガスが吹き付けられることにより、ウェハ1の表面に付着している、すなわちそれぞれのパターン間の溝部に残存しているIPAの蒸発が促される。NガスはN加熱器48にて所定の温度に加熱された状態で、Nガス供給通路47を通して、それぞれのNガスノズル42へ供給される。また、チャンバ41内において、蒸発したIPAを含む雰囲気は、排気ファン49によりチャンバ41の外部に排気される。また、IPAの液滴等のドレンは、ドレン通路46を通じてチャンバ41の外部に排液される。
【0038】
また、図2に示すように、乾燥処理装置40においては、チャンバ41の外周面を加熱するプレートヒータ45が備えられており、このプレートヒータ45は、略常時加熱状態とされている。そのため、プレートヒータ45の加熱によりチャンバ41が十分に加温された状態とされ、さらに、搬入されたキャリア13やウェハ1も比較的短時間で加温される。このように供給される気体以外に、装置筐体やウェハ1等を加熱する装置が設けられていることにより、ウェハ1の表面に付着して残存しているIPAの蒸発をさらに促進させることができ、その乾燥時間を短くすることができる。
【0039】
ステップS7にて、乾燥処理が完了すると、Nガスの供給が停止され、その後蓋部44が開放されて、ウェハ1を保持するキャリア13がチャンバ41の外部へと取り出される。この取り出しは、例えば、図示しないロボットにより行われ、キャリア13がアンローダ19に受け渡される。これで、ウェハ1に対する洗浄処理、乾燥処理が完了する。
【0040】
ここで、IPA置換処理及び乾燥処理におけるウェハ1のパターン1a間の溝部1bの状態の変化を、図4(A)〜(C)の模式説明図に示す。
【0041】
まず、このウェハ1は、上述したようにMEMS等に使用されるウェハであって、その表面には微細化されたパターン1aが形成されている。このパターン1aは、例えば、その幅寸法W1に対するその溝部1bの深さ寸法Dの比であるアスペクト比が3以上として形成され、さらに隣接するパターン1a間の溝部1bの幅寸法W2に対する深さ寸法Dの比であるアスペクト比が3以上として形成されている。すなわち、図4(A)に示すように、幅方向に細い形状の断面を有するようにそれぞれのパターン1aと、このパターン1a間に幅方向に細い形状を有する溝部1bが形成されている。
【0042】
図4(A)に示すように、純水による水洗処理が行われて純水2内から取り出された状態のウェハ1のパターン1a間の溝部1b内には、純水2が残存して付着した状態とされている。このような状態のウェハ1をIPA液31内に浸積させ、さらにIPA液31とウェハ1の表面との間の相対的な移動を行うことにより、図4(B)に示すように、溝部1b内の純水2をIPA液31に置き換えることができる。このように、パターン1a間の溝部1b内に入り込んだ純水2をIPA液31に確実に置き換えた状態にて、IPA液31内からウェハ1を取り出して、図4(C)に示すように、IPA液31の蒸発、乾燥処理を行うことで、パターン倒れが発生することを防止することができる。すなわち、IPA液31は、純水2に比較して低い表面張力を有しているため、表面張力によるパターン倒れが生じる可能性を著しく低減することができる。よって、微細化されたパターンを有するウェハ1に対する確実な洗浄処理および乾燥処理を実現することができる。
【0043】
また、仮に、溝部1b内の純水2の一部がIPA液により完全に置換されず、一部純水2が残存するような場合であっても、乾燥処理装置40においては、Nガスを加熱された気体として供給するだけでなく、チャンバ41自体をプレートヒータ45により加温していることにより、ウェハ1の表面を短い時間で加温することができ、付着残存しているIPA液31及び一部純水2を短時間で蒸発させて乾燥させることができる。従って、一部純水2が残存しているような場合であっても、その乾燥時間を短くすることができるため、パターン倒れを起こり難くすることができるとともに、純水の残存によりウォータマークの形成をも抑止することができる。
【0044】
(第2実施形態)
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、本発明の第2実施形態にかかるウェハ洗浄乾燥システムが備える乾燥処理装置60の模式図を図5に示す。図5に示すように、本第2実施形態の乾燥処理装置60においては、上記第1実施形態の乾燥処理装置40の構成に加えて、乾燥処理用気体として、チャンバ外部のエアをも吸引して利用する装置である。なお、上記第1実施形態の構成部材と同じ構成部材には同じ参照番号を付してその説明を省略する。
【0045】
図5に示すように、チャンバ41に装備される蓋部64には、チャンバ41の内外を連通する開口部が形成され、この開口部を埋めるようにHEPAフィルタ69が取り付けられている。このようにHEPAフィルタ69が取り付けられていることにより、排気ファン49によりチャンバ41内部の雰囲気を排気することで、チャンバ41内を負圧状態とすることができる。その結果、HEPAフィルタ69を通して、チャンバ41外部のエアを清浄化した状態にて、チャンバ41に導くことができ、Nガスとともにエアを乾燥処理用気体として利用することができる。
【0046】
このような構成を採用することにより、チャンバ41内部の空間を負圧に保つことができ、ウェハ1の表面に付着したIPA液31の蒸発速度を速めることができる。さらに、コスト的にも高いNガスの使用量を低減することが可能となる。
【0047】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態にかかるウェハ洗浄乾燥処理システムに用いられる乾燥処理装置70の模式図を図6に示す。本第3実施形態の乾燥処理装置70は、IPA置換処理装置としての機能をも合わせ持つ乾燥処理装置となっている。なお、図6の乾燥処理装置70において、上記第1実施形態の乾燥処理装置40と同じ構成部材には同じ参照番号を付してその説明を省略する。
【0048】
図6に示すように、乾燥処理装置70においては、チャンバ13に保持されたそれぞれのウェハ1に対して、IPA液を吹き付けるIPAノズル(IPA供給部の一例)79と、このIPAノズル79にIPA液を供給するIPA供給通路78が備えられている点において、上記第1実施形態の乾燥処理装置40とは異なる構成となっている。
【0049】
このような本第3実施形態の乾燥処理装置70では、水洗処理装置20にて水洗処理が行われたウェハ1をチャンバ41内に搬入して、蓋部44を閉止した後、それぞれのIPAノズル79よりIPA液をウェハ1に対して吹き付ける。このIPA液の吹き付けにより、ウェハ1の表面に付着している純水がIPAに置換される。このIPA液の吹きつけは、ウェハ1に形成されているパターンの微細化の度合いに応じて、その吹き付け速度や処理時間が調整される。その後、IPA液の吹き付けを停止して、IPA置換処理が完了する。次に、上記第1実施形態と同様に、Nガスノズル42よりNガスを吹き付けるとともに、プレートヒータ45により加熱しながら、ウェハ1の表面に残存して付着しているIPA液の蒸発、乾燥処理が行われる。なお、このようなIPA液の吹き付け量としては、例えば、1〜10L/min程度の範囲の流量が採用される。なお、本第3実施形態においては、乾燥処理装置70が、IPA液供給装置及び乾燥処理装置の一例となっている。
【0050】
なお、上記それぞれの実施形態の説明においては、乾燥処理装置40等において、プレートヒータ45をチャンバ41の外周面に配置されるような構成を例として説明したが、このような場合についてのみ限定されるものではない。このような場合に代えて、プレートヒータをチャンバ41の内側に設置するような場合であってもよい。プレートヒータとして、キャリア13やウェハ1等を加温できるように、チャンバ41内部の空間を加熱することができれば、その設置場所はいずれであってもよい。ただし、プレートヒータ45のメンテナンス性の観点からは、チャンバ41の外周面にヒータが設置されていることが好ましい。
【0051】
また、上記それぞれの実施形態の説明では、乾燥処理用気体として使用される加圧された気体がNガスであるような場合について説明したが、このような場合に代えて、清浄化されたエアを加圧状態として乾燥処理用気体として使用することもできる。
【0052】
また、上記それぞれの実施形態の説明においては、基板が、半導体ウェハであるような場合を例として説明したが、これ以外にも基板が液晶パネル用基板であるような場合にも本発明を適用することができる。
【0053】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるウェハ洗浄乾燥処理システムの模式図
【図2】第1実施形態の乾燥処理装置の模式図
【図3】第1実施形態のウェハ洗浄乾燥処理の手順を示すフローチャート
【図4】第1実施形態の水洗処理から乾燥処理までのそれぞれの処理におけるウェハのパターン内の状態の変化を示す模式説明図
【図5】本発明の第2実施形態にかかるウェハ洗浄乾燥処理システムが備える乾燥処理装置の模式図
【図6】本発明の第3実施形態にかかるウェハ洗浄乾燥処理システムが備える乾燥処理装置の模式図
【図7】従来のマランゴニ効果を用いた基板乾燥方法の原理の模式説明図
【図8】従来のマランゴニ効果を用いた基板乾燥方法におけるウェハのパターン内の状態の変化を示す模式説明図
【符号の説明】
【0055】
1 半導体ウェハ
1a パターン
1b 溝部
2 純水
3 混合ガス
4 IPA層
10 洗浄処理装置
11 洗浄槽
13 キャリア
20 水洗処理装置
21 純水槽
30 IPA置換処理装置
31 IPA液
32 IPA槽
40 乾燥処理装置
41 チャンバ
42 Nガスノズル
45 プレートヒータ
101 ウェハ洗浄乾燥処理システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水内に浸積された基板を取り出した後、上記基板の表面に液状のイソプロピルアルコールを供給して、上記基板の表面に付着している上記純水を上記イソプロピルアルコールに置き換え、
その後、上記基板の表面から上記イソプロピルアルコールを蒸発させることにより上記基板を乾燥させることを特徴とする基板乾燥方法。
【請求項2】
上記純水の上記イソプロピルアルコールへの置き換え処理は、イソプロピルアルコール液内に上記基板を浸積させることにより行い、
上記イソプロピルアルコール液内より上記基板を取り出した後、上記基板の乾燥処理を行う、請求項1に記載の基板乾燥方法。
【請求項3】
上記純水の上記イソプロピルアルコールへの置き換えは、上記基板が浸積された上記イソプロピルアルコール液と上記基板とを相対的に移動させながら行う、請求項2に記載の基板乾燥方法。
【請求項4】
上記イソプロピルアルコールと上記基板との相対的な移動は、上記基板の表面に沿って上記イソプロピルアルコール液が相対的に流動されるように、その流動の方向を制御して行われる、請求項3に記載の基板乾燥方法。
【請求項5】
上記純水の上記イソプロピルアルコールへの置き換えは、上記液状のイソプロピルアルコールを上記基板に吹き付けることにより行い、
その後、上記基板の乾燥処理を行う、請求項1に記載の基板乾燥方法。
【請求項6】
上記基板の乾燥処理は、チャンバ内に上記基板を配置して、上記チャンバ内の空間に乾燥処理用気体を供給して、上記基板の表面から上記イソプロピルアルコールを蒸発させるとともに、上記チャンバ内の空間を加熱することにより、上記イソプロピルアルコールの蒸発速度を促進させながら行う、請求項2から5のいずれか1つに記載の基板乾燥方法。
【請求項7】
上記基板の乾燥処理は上記チャンバ内部を負圧とした状態にて行う、請求項6に記載の基板乾燥方法。
【請求項8】
純水が収容された純水槽を備え、上記純水内に基板が浸積されて洗浄処理が行われる純水洗浄装置と、
上記純水洗浄装置の上記純水槽から取り出された上記基板に対して、その表面に液状のイソプロピルアルコールを供給するイソプロピルアルコール供給部を備え、上記イソプロピルアルコール供給部により上記イソプロピルアルコールを供給することで、上記基板の表面に付着している上記純水を上記イソプロピルアルコールに置き換えるイソプロピルアルコール液供給装置と、
上記イソプロピルアルコール液供給装置にて上記イソプロピルアルコールの供給が行われた上記基板に対して、乾燥処理用気体を供給する乾燥処理用気体供給部を備え、上記気体の供給により上記基板の表面から上記イソプロピルアルコールを蒸発させて上記基板を乾燥させる乾燥処理装置とを備えることを特徴とする基板乾燥装置。
【請求項9】
上記イソプロピルアルコール液供給装置は、
上記イソプロピルアルコール液が収容されたイソプロピルアルコール液槽と、
上記基板を保持し、上記イソプロピルアルコール液槽中に上記基板を浸積させる基板保持部とを備え、
上記イソプロピルアルコール液内に上記基板が浸積されることにより、上記純水の上記イソプロピルアルコールへの置き換え処理が行われる、請求項8に記載の基板乾燥装置。
【請求項10】
上記イソプロピルアルコール液供給装置は、上記収容されているイソプロピルアルコール液と上記基板保持部とを相対的に移動させる相対移動部をさらに備える、請求項9に記載の基板乾燥装置。
【請求項11】
上記相対移動部による相対移動は、上記基板の表面に沿って上記イソプロピルアルコール液が相対的に流動されるように、その流動の方向を制御して行われる、請求項10に記載の基板乾燥装置。
【請求項12】
上記乾燥処理装置は、
上記基板がその内側の空間に配置されるとともに、上記乾燥処理用気体供給部により上記気体が上記空間内に供給されるチャンバと、
上記チャンバ内において、上記基板を保持する基板保持部と、
上記チャンバ内の空間を加熱することにより、上記基板保持部に保持された上記基板を加熱して、上記イソプロピルアルコールの蒸発速度を促進させるチャンバ加熱部とをさらに備える、請求項8から11のいずれか1つに記載の基板乾燥装置。
【請求項13】
上記乾燥処理用気体供給部は、上記チャンバ内の空間に加圧された上記気体を吹き出して供給する乾燥処理用気体吹き出し部である、請求項12に記載の基板乾燥装置。
【請求項14】
上記乾燥処理用気体供給部は、上記チャンバの内外空間を連通して設けられたフィルタと、上記チャンバ内の雰囲気を排気することにより、上記フィルタを通して上記チャンバの外側のエアを上記チャンバ内に導く排気部とを備える、請求項12に記載の基板乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−10256(P2009−10256A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171790(P2007−171790)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(390005050)東邦化成株式会社 (14)
【Fターム(参考)】