説明

窒化物半導体電界効果トランジスタ

【課題】通常の極性面上(すなわちc軸方向)に形成するエンハンスメント型の窒化物半導体電界効果トランジスタとして、高い密度のドレイン電流を実現することが可能にする。
【解決手段】窒化物半導体からなるチャネル層半導体6の上方の極性面方向に、チャネル層半導体6よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体からなる障壁層半導体5が積層され、ゲート電極2の下方に存在する素子領域のうち少なくとも一部の素子領域を覆う第1領域21内に存在する障壁層半導体5の層厚が、第1領域21以外の素子領域を覆う第2領域22内に存在する障壁層半導体5の層厚よりも薄く形成されるか、または、第1領域21内には障壁層半導体5が存在しない状態で形成されるとともに、第2領域22内に存在する障壁層半導体5中に、障壁層半導体5よりもバンドギャップが小さい単一層の量子井戸7または多重層の多重量子井戸を挿入した量子井戸構造が形成される構造にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体電界効果トランジスタに関し、特に、高温・高出力・高耐圧のエンハンスメント型の高周波窒化物半導体電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET:Field Effect Transistor)(ヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET:Heterostructure Field Effect Transistor)を含む)は、次世代の高温・高出力・高耐圧の高周波トランジスタとして非常に有望であり、実用化に向けて現在盛んに研究が行われている。
【0003】
窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)(ヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET)を含む)は、通常、極性面方向(すなわち+c面((0001)面)方向)に形成され、ヘテロ界面に大きな分極電荷が存在するために、一般に、キャリア供給のためのドーピング処理が施されていなくても、伝導に寄与するキャリアが、チャネル電子(2次元電子)としてチャネルに誘起される。
【0004】
かくのごとき窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)(ヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET)を含む)の特徴は、大電流が得られ易いという有利な面がある一方、一般に、デバイス動作としては、閾値が負の、いわゆるデプレション型(あるいは、ノーマリーオン型)のデバイス動作に向いている。つまり、ゲート電極に電圧を印加しない状態(すなわちゲート電圧がゼロの時)であっても、ドレイン電圧の印加によってドレイン電流が流れ、ゲート電極に負の電圧を印加することによって、ドレイン電流がゼロになる(すなわちピンチオフする)というトランジスタ動作に向いている。
【0005】
このため、これと相反するデバイス動作、すわなち、閾値が正の、いわゆるエンハンスメント型(あるいはノーマリーオフ型)のデバイス動作は、非特許文献1のM.Asif Khanらによる“Enhancement and depletion mode GaN/AlGaN heterostructure field effect transistors”(Appl. Phys. Stat. Lett. 68(4),1996.1)に記載されているように、GaN系のヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET)においては実現可能ではあるものの、一般的な窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)(ヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET)を含む)としては、実現することが困難である。つまり、ゲート電極に電圧を印加しない状態(すなわちゲート電圧がゼロの時)においては、ドレイン電圧の印加によっても、ドレイン電流が流れず、ゲート電極に正の電圧を印加することによってドレイン電流が流れるというトランジスタ動作のデバイス動作は、一般的な窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)(ヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET)を含む)にとっては不利である。
【0006】
さらに、また、いわゆるエンハンスメント型のデバイス動作では、ドレイン電流の大きさと正の閾値の大きさとの間は、一般に負の相関関係にあり、高い正の閾値を得るための工夫を施すと、ドレイン電流が低下してしまう、という問題点がある。
【0007】
しかし、特に、電力応用においては、デプレション型のデバイス動作と同時に、エンハンスメント型のデバイス動作を、高い密度のドレイン電流とともに実現することが必須である。このため、通常の極性面上(すなわちc軸方向)に形成するエンハンスメント型のデバイスにおいて、高い密度のドレイン電流が実現可能な電界効果トランジスタ(FET)を開発することが強く望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Asif Khan al.,“Enhancement and depletion mode GaN/AlGaN heterostructure field effect transistors”,Appl. Phys. Stat. Lett. 68(4),pp514−516(1996.1).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、従来のエンハンスメント型の窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)においては、ドレイン電流の増加を図ることが困難な状況にある点について、図5ないし図7を用いてさらに説明する。
【0010】
図5は、従来型のエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)の層構造および電極配置の典型例を模式的に示した断面図である。
【0011】
図5に示すように、半導体基板の極性面である+c面上すなわち(0001)面上に、チャネル層半導体6、障壁層半導体5のへテロ構造が形成され、障壁層半導体5の上に、ソース電極1、ドレイン電極3が配置され、さらに、ソース電極1、ドレイン電極3間には絶縁膜4が配置され、絶縁膜4の上にゲート電極2が配置されて、電界効果トランジスタが構成されている。ここで、ゲート電極2の下方に存在する障壁層半導体5の層厚を、チャネル電子の空乏を得るために、一般に薄く形成することが、エンハンスメント型の窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)の特徴になっている。
【0012】
図5の構造においては、高いゲート耐圧を得るために、前述のように、ゲート電極2と障壁層半導体5の間には、絶縁膜4が挿入された、いわゆる絶縁ゲート構造あるいはMIS(Metal-Insulator-Semiconductor)構造が用いられており、かかる絶縁ゲート構造においては、ゲート電極2の下方の領域に存在する障壁層半導体5の層厚は、より高い閾値を得るために、ゼロであっても構わないが、その場合には、一般に、チャネル界面の品質が劣化するため、キャリアとしてチャネル層半導体6を流れるチャネル電子の速度も低下し、ドレイン電流の低下が起こってしまう。
【0013】
また、図5の構造においては、低いソース抵抗(ソース電極1からゲート電極2の下方の領域に存在するチャネル電子へのアクセス抵抗)を得るために、ソース電極1・ゲート電極2間およびゲート電極2・ドレイン電極3間における障壁層半導体5の層厚が、ゲート電極2の下方の領域に存在する障壁層半導体5の層厚に比べて厚い、いわゆるリセスゲート構造が用いられており、かかるリセスゲート構造を採用することも、典型的なエンハンスメント型の窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)の特徴になっている。
【0014】
図6は、図5の従来型のエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)におけるチャネル電子の有無の様子を模式的に示した断面図である。
【0015】
図6に示すように、チャネル層半導体6には、ゲート電極2の下方の領域においては、キャリアとなる電子が空乏した電子空乏領域12が存在し、それ以外の領域においては、キャリアとして2次元電子12が存在する状態になっている。
【0016】
図7は、図6に示されている、図5の従来型のエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)におけるチャネル電子の有無の様子を、電子分布の形で、窒化物半導体層の層構造のポテンシャル形状(チャネル・ポテンシャル形状)とともに模式的に示した説明図である。図7(A)は、ゲート電極2の下方の領域におけるチャネル電子の有無の様子を窒化物半導体層の層構造のポテンシャル形状とともに示し、図7(B)は、ゲート電極2の下方以外の領域におけるチャネル電子の有無の様子を窒化物半導体層の層構造のポテンシャル形状とともに示している。
【0017】
図7(A)のゲート電極2の下方の領域および図7(B)のそれ以外の領域のいずれの領域においても、障壁層半導体5・チャネル層半導体6間のへテロ界面に正の分極電荷が存在する結果として、障壁層半導体5のポテンシャル形状は一般に高い傾きを有している。
【0018】
しかし、図7(A)に示すように、ゲート電極2の下方の領域においては、障壁層半導体5の層厚が薄いために、チャネル層半導体6のポテンシャル位置がフェルミ準位の下方にまで充分には押し下げられることがないために、チャネル電子が空乏して電子空乏領域12が存在するようになる。これに対して、図7(B)に示すように、ゲート電極2の下方以外の領域においては、障壁層半導体5の層厚が充分に大きいために、チャネル層半導体6のポテンシャル位置がフェルミ準位の下方に充分に押し下げられて、2次元電子ガスとして2次元電子12が誘起されている状態になる。
【0019】
一般に、エンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)のドレイン電流を増大させるためには、ゲート電極2の下方以外の領域に存在する2次元電子12の電子濃度を増大させ、ソース抵抗を低減させることが有効である。
【0020】
しかしながら、そのための障壁層半導体5に対する通常の工夫には限界があるのが現状である。例えば、AlGaN/GaNヘテロ構造(AlGaN:障壁層半導体5を形成する半導体材料、GaN:チャネル層半導体6を形成する半導体材料)において、ソース抵抗を低減させるために、Al組成の増大およびAlGaN層厚の増大を図ることは、ヘテロ界面における2次元電子濃度を増大させることに或る程度までは有効である。しかし、同時に、AlGaNからなる障壁層半導体5の障壁効果が増大してしまうので、ソース電極1から垂直方向の2次元電子12までのアクセス抵抗も増大してしまうことになり、結局、ソース抵抗の低減には限界がある。
【0021】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)(ヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET)を含む)に関して、通常の極性面上(すなわちc軸方向)に形成するエンハンスメント型のデバイスにおいて、高い密度のドレイン電流を実現することが可能な電界効果トランジスタを提供することを、その目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、前述の課題を解決するために、窒化物半導体を用いた窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET:Field Effect Transistor)(ヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET:Heterostructure Field Effect Transistor)を含む)において、ゲート電極の下方の少なくとも一部の素子領域を覆う第1領域には、エンハンスメント動作を得るために必要な、チャネル電子の空乏が実現されている領域が存在し、前記第1領域以外の素子領域を覆う第2領域においては、障壁層半導体中に、単一層あるいは多重層の量子井戸構造が形成されている電界効果トランジスタとすることを特徴としている。
【0023】
而して、複数のヘテロ界面(障壁層半導体とチャネル層半導体および単一層あるいは多重層の量子井戸それぞれとの間のヘテロ界面)に、分極効果に由来する電子がそれぞれ誘起される結果、前記第2領域内の素子領域における電気抵抗の大幅な低減が実現され、その結果として、高い密度のドレイン電流を得ることが可能となる。
【0024】
具体的には、以下のごとき各技術手段から構成されている。
【0025】
第1の技術手段は、キャリアを流すためのチャネル層半導体に窒化物半導体を用いた窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記チャネル層半導体の上方の極性面方向に、前記チャネル層半導体よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体からなる障壁層半導体が積層され、ゲート電極の下方に存在する素子領域のうち少なくとも一部の素子領域を覆う第1領域内に存在する前記障壁層半導体の層厚が、前記第1領域以外の素子領域を覆う第2領域内に存在する前記障壁層半導体の層厚よりも薄く形成されるか、または、前記第1領域内には前記障壁層半導体が存在しない状態で形成されるとともに、前記第2領域内に存在する前記障壁層半導体中に、該障壁層半導体よりもバンドギャップが小さい単一層の量子井戸または多重層の多重量子井戸を挿入した量子井戸構造が形成されていることを特徴とする。
【0026】
第2の技術手段は、前記第1の技術手段に記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記第2領域内に存在する前記障壁層半導体の上方の極性面方向にソース電極とドレイン電極とが形成され、少なくとも前記第1領域が存在する前記障壁層半導体の上方の極性面方向には絶縁膜を介して前記ゲート電極が形成されていることを特徴とする。
【0027】
第3の技術手段は、前記第2の技術手段に記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記第1領域内に存在する前記障壁層半導体の層厚が、0nm以上10nm以下の範囲のいずれかの厚みであり、前記絶縁膜の層厚が、1nm以上100nm以下の範囲のいずれかの厚みであることを特徴とする。
【0028】
第4の技術手段は、前記第1ないし第3の技術手段のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記量子井戸構造を形成する単一層の前記量子井戸の層厚または多重層の前記多重量子井戸の各量子井戸の層厚が、2nm以上10nm以下の範囲のいずれかの厚みであり、量子井戸障壁層として前記多重量子井戸の各量子井戸の障壁層を形成する前記障壁層半導体の層厚が、1nm以上10nm以下の範囲のいずれかの厚みであり、単一層の前記量子井戸、または、前記多重量子井戸の各量子井戸のうち最上層の量子井戸、の上方の極性面方向に存在する前記障壁層半導体の層厚が、1nm以上50nm以下の範囲のいずれかの厚みであることを特徴とする。
【0029】
第5の技術手段は、前記第1ないし第4の技術手段のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記障壁層半導体/前記チャネル層半導体それぞれの半導体材料の組み合わせとして、AlGa1−XN/GaN(0<X≦1)、AlX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2≦1)、AlX1Ga1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2<1、X1>X2)、GaN/InGa1−XN(0<X≦1)、InX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0<X2≦1、X1<X2)、InAl1−XN/GaN(0≦X<0.5)、InX1Al1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0≦X1<0.5、0≦X2<1、X1+X2<1)、InX1Al1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0≦X2≦1)のうち、いずれかの半導体材料の組み合わせを用いて形成されていることを特徴とする。
【0030】
第6の技術手段は、前記第1ないし第5の技術手段のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、量子井戸障壁層として単一層の前記量子井戸の障壁層を形成する前記障壁層半導体/単一層の前記量子井戸それぞれの半導体材料の組み合わせとして、AlGa1−XN/GaN(0<X≦1)、AlX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2≦1)、AlX1Ga1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2<1、X1>X2)、GaN/InGa1−XN(0<X≦1)、InX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0<X2≦1、X1<X2)、InAl1−XN/GaN(0≦X<0.5)、InX1Al1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0≦X1<0.5、0≦X2<1、X1+X2<1)、InX1Al1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0≦X2≦1)のうち、単一層の前記量子井戸構造の形成が可能ないずれかの半導体材料の組み合わせを用いて形成されていることを特徴とする。
【0031】
第7の技術手段は、前記第1ないし第5の技術手段のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、量子井戸障壁層として前記多重量子井戸の各量子井戸の障壁層を形成する前記障壁層半導体/前記多重量子井戸の各量子井戸それぞれの半導体材料の組み合わせとして、AlGa1−XN/GaN(0<X≦1)、AlX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2≦1)、AlX1Ga1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2<1、X1>X2)、GaN/InGa1−XN(0<X≦1)、InX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0<X2≦1、X1<X2)、InAl1−XN/GaN(0≦X<0.5)、InX1Al1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0≦X1<0.5、0≦X2<1、X1+X2<1)、InX1Al1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0≦X2≦1)のうち、多重層の前記量子井戸構造の形成が可能ないずれかの半導体材料の組み合わせを用いて形成されていることを特徴とする。
【0032】
第8の技術手段は、前記第5ないし第7の技術手段のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記チャネル層半導体がGaN、前記障壁層半導体がAl0.3Ga0.7N、単一層の前記量子井戸または多重層の前記多重量子井戸の各量子井戸がGaNを用いて形成されていることを特徴とする。
【0033】
第9の技術手段は、前記第1ないし第8の技術手段のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、単一層の前記量子井戸および量子井戸障壁層として単一層の前記量子井戸の障壁層を形成する前記障壁層半導体の少なくとも一部の領域に、または、前記多重量子井戸の各量子井戸および量子井戸障壁層として前記多重量子井戸の各量子井戸の障壁層を形成する前記障壁層半導体の少なくとも一部の領域に、ドーピング処理が施されていることを特徴とする。
【0034】
第10の技術手段は、前記第1ないし第9の技術手段のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記チャネル層半導体の下方側にバッファー層半導体をさらに追加した構造とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明の窒化物半導体電界効果トランジスタによれば、窒化物半導体を用いた窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET:Field Effect Transistor)(ヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET:Heterostructure Field Effect Transistor)を含む)として、ゲート電極の下方に存在する素子領域のうち少なくとも一部の素子領域を覆う第1領域内に存在する障壁層半導体の層厚を、前記第1領域以外の素子領域を覆う第2領域内に存在する障壁層半導体の層厚よりも薄く形成することにより、エンハンスメント動作を得るために必要な、チャネル電子が空乏する電子空乏領域を実現するとともに、前記第2領域内に存在する障壁層半導体中に、単一層の量子井戸あるいは多重層の多重量子井戸を挿入する構造を採用しているので、以下のごとき効果を奏することができる。
【0036】
すなわち、ゲート電極の下方の前記第1領域内に電子空乏領域を形成することにより、エンハンスメント動作を実現するとともに、前記第2領域内に存在する障壁層半導体中に量子井戸構造を形成することにより、複数のヘテロ界面を形成することができ、それぞれのヘテロ界面には分極効果に由来する2次元電子を誘起することができるので、前記第2領域内の素子領域における電気抵抗の大幅な低減が実現され、その結果として、従来技術に比して非常に高い密度のドレイン電流を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明によるエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタの基本構造の一例を模式的に示した断面図である。
【図2】図1の本発明によるエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタにおけるチャネル電子の有無の様子を模式的に示した断面図である。
【図3】図2に示されている、図1の本発明による高電流エンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタにおけるチャネル電子の有無の様子を、電子分布の形で、窒化物半導体層の層構造のポテンシャル形状とともに模式的に示した説明図である。
【図4】本発明によるエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタの基本構造の異なる例を模式的に示した断面図である。
【図5】従来型のエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタの層構造および電極配置の典型例を模式的に示した断面図である。
【図6】図5の従来型のエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタにおけるチャネル電子の有無の様子を模式的に示した断面図である。
【図7】図6に示されている、図5の従来型のエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタにおけるチャネル電子の有無の様子を、電子分布の形で、窒化物半導体層の層構造のポテンシャル形状とともに模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、本発明に係る窒化物半導体電界効果トランジスタの好適な実施形態について、その一例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0039】
(本発明の特徴)
本発明の実施形態の説明に先立って、本発明の特徴についてその概要をまず説明する。本発明は、キャリアを流すためのチャネル層半導体に窒化物半導体を用いた高電流エンハンスメント型の電界効果トランジスタ(FET)またはヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET)に関するものである。チャネル層半導体の上方の極性面方向(すなわち+c面方向)には、チャネル層半導体よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体からなる障壁層半導体が積層され、ゲート電極の下方に存在する素子領域のうち少なくとも一部の素子領域を覆う第1領域内に存在する障壁層半導体の層厚が、前記第1領域以外の素子領域を覆う第2領域内に存在する障壁層半導体の層厚よりも薄く形成されるか、または、前記第1領域内には障壁層半導体が形成されていない状態にするとともに、前記第2領域内に存在する障壁層半導体中には、該障壁層半導体よりもバンドギャップが小さい単一または多重の量子井戸層を挿入した量子井戸構造が形成されていることを主要な特徴としている。
【0040】
かくのごとき構造を採用することによって、高い密度のドレイン電流の実現が可能になる。
【0041】
(本発明の実施形態)
次に、本発明に係る窒化物半導体電界効果トランジスタの実施形態について図1ないし図3を用いてまず説明する。
【0042】
図1は、本発明によるエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)の基本構造の一例を模式的に示した断面図であり、電界効果トランジシタの層構造および電極配置の一例を示している。
【0043】
図1に示すエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)の構造は、ゲート電極2の下方に存在する素子領域(絶縁膜4、障壁層半導体5、チャネル層半導体6)のうち、少なくとも一部の素子領域を覆う第1領域21(すなわち、絶縁膜4、障壁層半導体5、チャネル層半導体6それぞれの一部の領域を上下方向に覆っている領域)に関しては、図5において説明した従来型のエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタにおけるゲート電極2の下方の構造と全く同様であり、エンハンスメント型のデバイス動作を実現するために、チャネル電子が空乏する電子空乏領域が存在するように、障壁層半導体5の層厚を、第1領域21以外の素子領域を覆う第2領域内に存在する障壁層半導体5の層厚よりも薄く形成するとともに、ゲート電極2と障壁層半導体5との間に絶縁膜4を介在させた構造としている。
【0044】
一方、第2領域内の素子領域においては、図5において説明した従来型のエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタとは異なり、障壁層半導体5中に、障壁層半導体5よりもバンドギャップの小さい窒化物半導体が、量子井戸7として挿入されて、量子井戸構造が形成されている。また、量子井戸構造が形成された障壁層半導体5の上方の極性面方向には、図5の場合と同様、ソース電極1とドレイン電極3とが形成されている。
【0045】
図2は、図1の本発明によるエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)におけるチャネル電子の有無の様子を模式的に示した断面図である。
【0046】
図2に示すように、チャネル層半導体6には、ゲート電極2の下方に存在する第1領域21においては、図6に示した従来型のエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)の場合と同様、電子が空乏した電子空乏領域12が存在し、それ以外の第2領域22においては、2次元電子12が存在している。しかし、本発明によるエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)においては、図6の従来型のエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)とは異なり、さらに、第2領域22内に存在する障壁層半導体5中に挿入されている量子井戸7(小バンドギャップ窒化物半導体)にも2次元電子12が存在する状態になっている。
【0047】
図3は、図2に示されている、図1の本発明によるエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)におけるチャネル電子の有無の様子を、電子分布の形で、窒化物半導体層の層構造のポテンシャル形状(チャネル・ポテンシャル形状)とともに模式的に示した説明図であり、図7の従来型のエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタのチャネル電子の有無の様子とは異なる様相を呈する領域すなわち第2領域22内の素子領域におけるチャネル電子の有無の様子を、窒化物半導体層の層構造のポテンシャル形状とともに示している。
【0048】
図3に示すように、第2領域22内の素子領域においては、障壁層半導体5に量子井戸7(小バンドギャップ窒化物半導体)を挿入しているので、下層側の障壁層半導体5・チャネル層半導体6間のへテロ界面のみならず、量子井戸7・上層側の障壁層半導体5間のヘテロ界面にも、正の分極電荷が存在する結果、チャネル層半導体6のポテンシャル位置のみならず量子井戸7のポテンシャル位置もフェルミ準位の下方に大きく押し下げられて、チャネル層半導体6、量子井戸7のいずれのヘテロ界面にも、2次元電子ガスとして2次元電子12が誘起されている状態になる。
【0049】
したがって、第2領域22内に存在する障壁層半導体5に量子井戸7を挿入した図1に示すエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)の構造においては、チャネル層半導体6と量子井戸7との2層の2次元電子12が存在することによって、チャネルに平行な方向の抵抗が減少すると同時に、チャネルに垂直な方向の抵抗も減少し、その結果として、ソース抵抗を低減することができ、ドレイン電流を増大させることができる。
【0050】
図1に示す本発明によるエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)においては、障壁層半導体5には、単一層の量子井戸7が挿入されている例を示したが、図4に模式的に示すように、多重層構造の多重量子井戸を用いることによって、2次元電子ガスとして2次元電子12が誘起されるヘテロ界面の層数をさらに増加させ、ドレイン電流を増大させるという本発明の効果をさらに拡大させることも可能である。
【0051】
図4は、本発明によるエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)の基本構造の異なる例を模式的に示した断面図であり、第2領域22内に存在する障壁層半導体5に、図1の単一層の量子井戸7の代わりに、第1量子井戸8a〜第3量子井戸8cと量子井戸障壁層を形成する第1障壁層半導体5a〜第3障壁層半導体5cとからなる多重層(図7の例では3重層)の多重量子井戸8を挿入して多重量子井戸構造を形成している例を示している。
【0052】
なお、障壁層半導体5内に単一層構造の量子井戸7または多重層構造の多重量子井戸8が存在する構造においては、多層の2次元電子12が誘起されるので、一般に、かくのごとき構造をゲート電極2の下方の第1領域21内の素子領域にも用いることは、デバイス動作上としては適切でない。
【0053】
しかし、図1や図4に示すように、本実施形態におけるエンハンスメント型電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)においては、ゲート電極2の下方の第1領域21内に存在する障壁層半導体5は、量子井戸構造が形成されていない薄層の障壁層半導体5のみから構成されており、第2領域22内に存在する障壁層半導体5についてのみ、前述のような単一層または多重層の量子井戸構造を障壁層半導体5中に挿入した構造を採用している。したがって、ゲート電極2の下方の第1領域21内の素子領域には単一層の2次元電子12しか存在しない状態であり、デバイス動作上の問題はない。
【0054】
かくのごとく、窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)として、ゲート電極2の下方の第1領域21内の素子領域においては、エンハンスメント動作を得るために必要な、チャネル電子の空乏が電子空乏領域12として存在しており、一方、第2領域22内の素子領域においては、障壁層半導体5中に、単一層の量子井戸7または多重層の多重量子井戸8が挿入されることにより、複数のヘテロ界面が形成され、複数のヘテロ界面それぞれに、分極効果に由来する2次元電子12が誘起されて、第2領域22内の素子領域における抵抗の大幅な低減が実現されるので、その結果として、高い密度のドレイン電流を得ることが可能となる。
【0055】
(実施例1)
次に、図4に示したエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)の具体的な構造例について、実施例1としてさらに説明する。
【0056】
図4に示したエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)においては、ゲート電極2の下方の第1領域21内の素子領域(すなわち、チャネル電子の空乏が電子空乏領域12として実現されている領域)において、トランジスタのキャリアが走行するチャネル層半導体6の上面には、層厚(膜厚)が0nm以上10nm以下の範囲のいずれかの厚みであって、チャネル層半導体6よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体からなる障壁層半導体5が積層されており、かつ、少なくとも第1領域21内に存在する障壁層半導体5の上面には、層厚(膜厚)が1nm以上100nm以下の範囲のいずれかの厚みの絶縁膜4が堆積されている。
【0057】
ここで、第1領域21内の素子領域において、積層される障壁層半導体5の層厚が10nmを超えると、ゲート電極2に電圧を印加していない状態(すなわちゲート電圧がゼロの時)であっても、チャネル層半導体6のチャネルに2次元電子が発生してしまい、エンハンスメント動作が得られなくなってしまうので、当該領域の障壁層半導体5の層厚は10nm以下とすることが必要である。
【0058】
また、当該第1領域21内に存在する障壁層半導体5の層厚がゼロ、すなわち、障壁層半導体5が存在することなしに、チャネル層半導体6の直上に絶縁膜4が積層されている場合であっても、ゲート電極2に電圧を印加しない状態(すなわちゲート電圧がゼロの時)においては、チャネル層半導体6のチャネルに2次元電子は発生しないので、エンハンスメント動作のデバイスとして用いることができる。
【0059】
したがって、第1領域21内の素子領域においては、トランジスタのキャリアが走行するチャネル層半導体6の上に積層される障壁層半導体5の層厚は、0nm以上10nm以下の範囲のいずれかの厚みであることが必要である。
【0060】
一方、第2領域22内の素子領域においては、すなわち、エンハンスメント動作を得るために必要な、チャネル電子の空乏が電子空乏領域12として実現されている第1領域21以外の領域を覆っている素子領域においては、チャネル層半導体6の上方に、チャネル層半導体6よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体からなる障壁層半導体5が、第1領域21内に存在する障壁層半導体5の層厚よりも厚く形成される。さらに、第2領域22内に存在する障壁層半導体5には、該障壁層半導体5よりもバンドギャップの小さい窒化物半導体層からなる第1量子井戸8a〜第3量子井戸8cの各量子井戸と、各量子井戸の障壁層を形成する第1障壁層半導体5a〜第3障壁層半導体5cの各量子井戸障壁層と、が多重層の量子井戸構造となるように多重に挿入され、多重量子井戸8が形成されている。また、ソース電極1およびドレイン電極3は、多重量子井戸構造の最上層の第3障壁層半導体5c上に形成される。
【0061】
ここで、第2領域22内の素子領域すなわち多重量子井戸構造が形成されている領域においては、多重量子井戸8を形成する第1量子井戸8a〜第3量子井戸8cの各量子井戸の層厚が2nm以上10nm以下の範囲のいずれかの厚みであり、量子井戸障壁層として多重量子井戸8の各量子井戸の障壁層を形成する第1障壁層半導体5a〜第3障壁層半導体5cの各層の層厚が1nm以上10nm以下の範囲のいずれかの厚みである。ただし、最上層の第3量子井戸8cの障壁層を形成するために極性面方向(+c面方向)の最上層に存在する障壁層半導体すなわち第3障壁層半導体5cの層厚は1nm以上50nm以下の範囲のいずれかの厚みである。
【0062】
つまり、第2領域22内の素子領域すなわち多重量子井戸構造が形成される領域においては、多重量子井戸8を形成する第1量子井戸8a〜第3量子井戸8cの各量子井戸に2次元電子12を存在させるために、各量子井戸の層厚は2nm以上の厚みが必要であるが、各量子井戸の層厚が10nmを超えると、2次元電子12に対する垂直な方向の抵抗が高くなってしまうため、多重量子井戸8を形成する第1量子井戸8a〜第3量子井戸8cの各量子井戸の層厚は2nm以上10nm以下の範囲のいずれかの厚みとすることが必要である。
【0063】
一方、多重量子井戸構造が形成される領域における多重量子井戸8の各量子井戸の障壁層を形成する第1障壁層半導体5a〜第3障壁層半導体5cの各層の層厚は、第1量子井戸8a〜第3量子井戸8cの各量子井戸に2次元電子12を閉じ込める量子井戸障壁層として機能させるために、1nm以上の厚みが必要であるが、各層の層厚が10nmを超えると、2次元電子12に対して垂直な方向の量子井戸の抵抗が高くなってしまうため、多重量子井戸8の障壁層を形成する第1障壁層半導体5a〜第3障壁層半導体5cの各障壁層半導体の層厚は1nm以上10nm以下の範囲のいずれかの厚みとすることが必要である。
【0064】
ただし、多重量子井戸8の上方すなわち極性面方向(+c面方向)の最上層に存在する障壁層半導体すなわち第3障壁層半導体5cの層厚は、第2領域22内の素子領域すなわち多重量子井戸構造が形成される領域におけるチャネル層半導体6の2次元電子12の濃度を増大させたり、素子の耐圧を増大させたりするために、10nmを超える厚みにすることが必要な場合がある。しかし、如何なる場合であっても、50nmを超える必要はない。したがって、当該最上層に存在する障壁層半導体すなわち第3障壁層半導体5cの層厚は1nm以上50nm以下の範囲のいずれかの厚みで充分である。
【0065】
以上のような検討結果から、本実施例1においては、図4の各層の層厚および半導体材料について、ゲート電極2の下方に存在する第1領域21の素子領域においては、層厚3nmのAl0.3Ga0.7Nからなる障壁層半導体5が、層厚3μmのGaNからなるチャネル層半導体6の上に積層されている。また、第2領域22内の素子領域(多重量子井戸構造が形成される領域)においては、層厚3μmのGaNからなるチャネル層半導体6の上に、下層側から順番に、層厚6nmのAl0.3Ga0.7Nからなる障壁層半導体5、層厚4nmのGaNからなる第1量子井戸8a、層厚6nmのAl0.3Ga0.7Nからなる第1障壁層半導体5a、層厚4nmのGaNからなる第2量子井戸8b、層厚6nmのAl0.3Ga0.7Nからなる第2障壁層半導体5b、層厚4nmのGaNからなる第3量子井戸8c、層厚10nmのAl0.3Ga0.7Nからなる第3障壁層半導体5c、が積層されている。
【0066】
すなわち、第2領域22内の素子領域(多重量子井戸構造が形成される領域)においては、層厚4nmのGaNからなる第1量子井戸8a〜第3量子井戸8c、層厚6nm(最上層は層厚10nm)のAl0.3Ga0.7Nからなる第1障壁層半導体5a〜第3障壁層半導体5cが3重の層構造に形成された多重量子井戸8が、層厚6nmのAl0.3Ga0.7Nからなる障壁層半導体5の上方に挿入されることにより、多重量子井戸構造を形成している。なお、量子井戸障壁層を形成する最上層の第3障壁層半導体5cの層厚については、他の第1、第2障壁層半導体5a,5bの層厚と同一の6nmとして、残りの4nmは上層側の障壁層半導体5を構成するものと解釈して、層厚4nmの上層側の障壁層半導体5と層厚6nmの下層側の障壁層半導体5との間に、層厚4nmの第1量子井戸8a〜第3量子井戸8c、層厚6nmの第1障壁層半導体5a〜第3障壁層半導体5cからなる多重量子井戸8を挿入していると看做すこともできる。
【0067】
かくのごとき多重量子井戸構造は、c面サファイア基板あるいはSiC基板あるいはSi基板等の半導体基板上に、層厚3μmのGaNからなるチャネル層半導体6、および、それぞれが層厚4nmのGaNからなる第1量子井戸8a〜第3量子井戸8cとそれぞれが層厚6nm(最上層は層厚10nm)のAl0.3Ga0.7Nからなる第1障壁層半導体5a〜第3障壁層半導体5cとが3層に形成された多重量子井戸構造を含むAl0.3Ga0.7Nからなる障壁層半導体5を、有機金属気相成長法(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)等の結晶成長法によって成長させた後、ドライエッチング法等の従来のプロセス技術によって成形して作製することができる。
【0068】
しかる後、多重量子井戸構造が形成されている領域の障壁層半導体すなわち第3障壁層半導体5c上にソース電極1、ドレイン電極3の電極金属を蒸着させて形成した後、図4におけるゲート絶縁膜として、層厚30nmのAl膜からなる絶縁膜4を、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)等の堆積方法によって第3障壁層半導体5cの上に堆積し、さらに、絶縁膜4上にゲート電極2の電極金属を蒸着させて形成することによって、多重量子井戸構造を有するゲート長2μmの窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)を作製した。
【0069】
作製した窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)について、+3Vなる閾値を有するエンハンスメント型のデバイス動作を行ったところ、2.0A/mmという高いドレイン電流密度を得ることができた。
【0070】
ここで、比較のために、従来型の窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)として、ゲート電極2の下方に存在する第1領域21内の素子領域の構造は図4と同一であり、第2領域22内に存在する障壁層半導体5には多重量子井戸が挿入されていない図5と同様の構造からなる窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)を作製して、同様に、+3Vなる閾値を有するエンハンスメント型のデバイス動作を行った。作製した従来型の窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)におけるデバイス動作結果としては、ドレイン電流密度は0.7A/mmしか得ることができず、図4のごとき多重量子井戸構造を有する窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)とすることによって、従来型の窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)に比して、ドレイン電流の大幅な増加が得られていることが分かった。
【0071】
なお、本実施例1においては、チャネル層半導体6としてGaN、障壁層半導体5としてAl0.3Ga0.7Nを用いたが、本発明による窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)は、かかる半導体材料のみに限るものではない。障壁層半導体5/チャネル層半導体6の組み合わせとして、障壁層半導体5よりもバンドギャップが小さい窒化物半導体をチャネル層半導体6として用いている限り、如何なる窒化物半導体を用いても良い。
【0072】
例えば、障壁層半導体5/チャネル層半導体6それぞれを形成する半導体材料の組み合わせとして、AlGa1−XN/GaN(0<X≦1)、AlX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2≦1)、AlX1Ga1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2<1、X1>X2)、GaN/InGa1−XN(0<X≦1)、InX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0<X2≦1、X1<X2)、InAl1−XN/GaN(0≦X<0.5)、InX1Al1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0≦X1<0.5、0≦X2<1、X1+X2<1)、InX1Al1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0≦X2≦1)、等の如何なる組み合わせであっても良い。
【0073】
また、本実施例1においては、多重量子井戸8を形成する第1量子井戸8a〜第3量子井戸8cの各量子井戸層および第1障壁層半導体5a〜第3障壁層半導体5cの各量子井戸障壁層(各量子井戸の障壁層を形成する障壁層半導体)の半導体材料として、それぞれ、チャネル層半導体6と同じ材料のGaNおよび障壁層半導体5と同じ材料のAl0.3Ga0.7Nを用いたが、本発明による窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)は、多重の量子井戸構造が障壁層半導体5中に形成されることが可能である限り、かかる半導体材料のみに限るものではなく、チャネル層半導体6および障壁層半導体5の材料と一致している必要はない。
【0074】
例えば、各量子井戸障壁層/多重量子井戸8の各量子井戸それぞれを形成する半導体材料の組み合わせとして、多重量子井戸8の各量子井戸が各量子井戸障壁層よりもバンドギャップが小さい半導体材料であれば、障壁層半導体5/チャネル層半導体6の半導体材料と一致させることなく、AlGa1−XN/GaN(0<X≦1)、AlX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2≦1)、AlX1Ga1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2<1、X1>X2)、GaN/InGa1−XN(0<X≦1)、InX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0<X2≦1、X1<X2)、InAl1−XN/GaN(0≦X<0.5)、InX1Al1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0≦X1<0.5、0≦X2<1、X1+X2<1)、InX1Al1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0≦X2≦1)、等の如何なる組み合わせであっても良い。
【0075】
一例として、ゲート電極2の下方に存在する第1領域21内の素子領域においては、層厚3nmのAl0.3Ga0.7Nからなる障壁層半導体5が、層厚3μmのGaNからなるチャネル層半導体6の上に積層されている本実施例1において、第2領域22内の素子領域すなわち多重量子井戸構造が形成される領域においては、障壁層半導体5/チャネル層半導体6とは異なる半導体材料からなる多重量子井戸8の各層の組み合わせとして、層厚3μmのGaNからなるチャネル層半導体6の上に、下層側から順番に、層厚(4+2)nmのAl0.3Ga0.7Nからなる障壁層半導体5、層厚4nmのIn0.1Ga0.9Nからなる第1量子井戸8a、層厚6nmのAl0.4Ga0.6Nからなる第1障壁層半導体5a、層厚4nmのIn0.1Ga0.9Nからなる第2量子井戸8b、層厚6nmのAl0.4Ga0.6Nからなる第2障壁層半導体5b、層厚4nmのIn0.1Ga0.9Nからなる第3量子井戸8c、層厚10nmのAl0.4Ga0.6Nからなる第3障壁層半導体5c、が積層されている構造であっても良い。
【0076】
すなわち、第2領域22内の素子領域(多重量子井戸構造が形成される領域)においては、層厚4nmのIn0.1Ga0.9Nからなる第1量子井戸8a〜第3量子井戸8c、層厚6nm(最上層は層厚10nm)のAl0.4Ga0.6Nからなる第1障壁層半導体5a〜第3障壁層半導体5cが3層に形成された多重量子井戸8が、層厚(4+2)nmのAl0.3Ga0.7Nからなる障壁層半導体5の上方側に挿入された多重量子井戸構造になっていても良い。
【0077】
かくのごとき層厚の半導体材料を用いて構成する場合、多重量子井戸構造として、多重量子井戸8の最上層の第3障壁層半導体5cは、層厚10nmではなく、第1障壁層半導体5a、第2障壁層半導体5bと同様、層厚6nmのAl0.4Ga0.6Nの量子井戸障壁層として形成されており、一方、多重量子井戸8の最下層となるチャネル層半導体6に最も近い第1量子井戸8aの下方側には層厚2nmのAl0.3Ga0.7Nが量子井戸障壁層として存在しているものとし、かくのごとき構造の多重量子井戸8を、上層側が層厚4nmのAl0.4Ga0.6Nからなり、下層側が層厚4nmのAl0.3Ga0.7N(上層側とは異なる成分比)からなる障壁層半導体5の中に挿入された構造と解釈しても良い。
【0078】
以上のように、障壁層半導体5/チャネル層半導体6とは異なる半導体材料を用いて多重量子井戸構造を形成する場合であっても、多重層の量子井戸構造が障壁層半導体5中に形成されている限り、本実施例1において前述した構造の場合と同様、ドレイン電流の増大を図ることができ、本発明による窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)としての効果を奏することができる。
【0079】
また、多重量子井戸8を形成する第1量子井戸8a〜第3量子井戸8cの各層の量子井戸の構造が同一の構造であったり、多重量子井戸8を形成する第1障壁層半導体5a〜第3障壁層半導体5cの各量子井戸障壁層が対称であったりする必要もない。すなわち、構造の異なる量子井戸、非対称の量子井戸障壁層が含まれている多重量子井戸8の場合であっても、多重層の量子井戸構造が障壁層半導体5中に形成されている限り、本実施例1において前述した構造の場合と同様、ドレイン電流の増大を図ることができ、本発明による窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)としての効果を奏することができる。
【0080】
なお、本実施例1においては、多重層の量子井戸構造を形成する多重量子井戸8に対して不純物のドーピング処理を行っていないが、第1量子井戸8a〜第3量子井戸8cの各量子井戸、第1障壁層半導体5a〜第3障壁層半導体5cの各量子井戸障壁層の少なくとも一部の領域に、ソース抵抗をさらに低減するために、例えばシリコン(Si)などを添加したドーピング処理が施されていても良く、かかるドーピング処理を行った場合においても、本実施例1において前述した構造の場合と同様、ドレイン電流のさらなる増大を図ることができ、本発明による窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)としての効果を奏することができる。
【0081】
さらには、本発明による窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)の構造的な特徴は、障壁層半導体5とチャネル層半導体6との間のヘテロ界面よりも上方側の構造に関するものであるので、チャネル層半導体6の下方側の構造は如何なる構造であっても構わない。つまり、本実施例1においては、チャネル層半導体6として層厚3μmのGaNを用いた、AlGaN/層厚3μmのGaNからなるシングル・ヘテロ構造を採用している例を説明したが、本発明は、かかる場合に限るものではない。
【0082】
例えば、チャネル層半導体6の層厚を40nmに薄くし、層厚1.5μmのAlGaNからなるバッファー層半導体を該チャネル層半導体6の下方側にさらに追加して、層厚40nmのGaNのチャネル層半導体および層厚1.5μmのAlGaNのバッファー層半導体を用いた、AlGaN/層厚40nmのGaN/層厚1.5μmのAlGaNからなるダブル・ヘテロ構造を採用する場合であっても、GaNからなるチャネル層半導体6のヘテロ界面よりも上方側の構造に本発明による特徴的な構造を適用している限り、本実施例1において前述した構造の場合と同様、ドレイン電流の増大を図ることができ、本発明による窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)としての効果を奏することができる。
【0083】
(実施例2)
次に、図1に示したエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)の具体的な構造例について、実施例2としてさらに説明する。
【0084】
本実施例2のエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)は、図1に示すように、図4の実施例1において、第2領域22内の素子領域(多重量子井戸構造が形成される領域)において障壁層半導体5に挿入した多重層の多重量子井戸8の代わりに、障壁層半導体5に単一層の量子井戸7を挿入している構造であり、それ以外の構造については、図4の実施例1の場合と全く同じである。
【0085】
本実施例2のエンハンスメント型窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)を実施例1の場合と比較すると、実施例1の場合の多重量子井戸構造よりも2次元電子12の総数が減少する結果として、一般に、ソース抵抗が増大するという不利な点を有するが、構造がより単純になる結果として、結晶成長およびデバイスプロセスがより簡便になるという、素子作製上の有利な点を有している。
【0086】
実際に、本実施例2において、実施例1においては第2領域22内の素子領域に第1量子井戸8a〜第3量子井戸8cという3重層の量子井戸が障壁層半導体5に挿入されている電界効果トランジシタ(FET)構造に対して、単一層の量子井戸7を形成するために、層厚3μmのGaNからなるチャネル層半導体6の上に、下層側から順番に、層厚6nmのAl0.3Ga0.7Nからなる障壁層半導体5、量子井戸数を1層のみとして層厚4nmのGaNからなる第1量子井戸8aと層厚10nmのAl0.3Ga0.7Nからなる第1障壁層半導体5a(なお、層厚10nmを層厚(4+6)nmとして、層厚4nmのAl0.3Ga0.7Nからなる第1障壁層半導体5aすなわち量子井戸障壁層と層厚6nmのAl0.3Ga0.7Nからなる上層側の障壁層半導体5との2つの障壁層として解釈するようにしても良い)を積層して、単一層の量子井戸構造を有する窒化物半導体電界効果トランジシタ(窒化物半導体FET)を作製した。
【0087】
作製した窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)について、+3Vなる閾値を有するエンハンスメント型のデバイス動作を行ったところ、ドレイン電流は、1.5A/mmと、多重量子井戸構造を備えている実施例1の場合よりも低下するものの、量子井戸構造を備えていない従来型の窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)に比して、ドレイン電流の大幅な増加が得られていることが分かった。さらには、実施例2においては、単一層の量子井戸構造を形成する製造工程を用意すれば良いので、実施例1の場合よりもより簡便な結晶成長およびデバイスプロセスにより素子作製を行うことができ、より簡便に、本発明による窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET)としての効果を奏することができる。
【0088】
なお、本実施例2においても、本発明の範囲内となる条件等は、実施例1の場合と全く同様である。すなわち、障壁層半導体5/チャネル層半導体6の組み合わせとして、障壁層半導体5よりもバンドギャップが小さい窒化物半導体をチャネル層半導体6として用いている限り、如何なる窒化物半導体を用いても良い。
【0089】
また、量子井戸構造が障壁層半導体5中に形成されることが可能である限り、量子井戸7および該量子井戸7の障壁層を形成する量子井戸障壁層(つまり上層側の障壁層半導体5)の半導体材料がチャネル層半導体6および下層側の障壁層半導体5の材料と一致している必要はない。
【0090】
例えば、量子井戸障壁層(上層側の障壁層半導体5)/量子井戸7それぞれを形成する半導体材料の組み合わせとして、量子井戸7が前記量子井戸障壁層よりもバンドギャップが小さい半導体材料であれば、下層側の障壁層半導体5/チャネル層半導体6の半導体材料と一致させることなく、AlGa1−XN/GaN(0<X≦1)、AlX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2≦1)、AlX1Ga1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2<1、X1>X2)、GaN/InGa1−XN(0<X≦1)、InX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0<X2≦1、X1<X2)、InAl1−XN/GaN(0≦X<0.5)、InX1Al1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0≦X1<0.5、0≦X2<1、X1+X2<1)、InX1Al1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0≦X2≦1)、等の如何なる組み合わせであっても良い。
【0091】
また、本実施例2においても、量子井戸7の少なくとも一部の領域に、ソース抵抗を低減するために、例えばシリコン(Si)などの不純物を添加したドーピング処理が施されている場合であっても良い。さらには、チャネル層半導体6の下方側の構造が如何なる構造であっても構わなく、例えば、チャネル層半導体6の下方側にバッファー層半導体をさらに追加したダブルへテロ構造を採用した構造であっても良い。
【0092】
(実施形態の効果)
以上に詳細に説明したように、本発明に係る実施形態における窒化物半導体を用いた窒化物半導体電界効果トランジスタ(窒化物半導体FET:Field Effect Transistor)(ヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET:Heterostructure Field Effect Transistor)を含む)においては、以下のような効果を奏することができる。
【0093】
すなわち、ゲート電極2の下方に存在する素子領域のうち少なくとも一部の素子領域を覆う第1領域21内に存在する障壁層半導体5の層厚を、第1領域21以外の素子領域を覆う第2領域22内に存在する障壁層半導体5の層厚よりも薄く形成することにより、エンハンスメント動作を得るために必要な、チャネル電子が空乏する電子空乏領域12を実現するとともに、第2領域22内に存在する障壁層半導体5中に、単一層の量子井戸7あるいは多重層の多重量子井戸8を挿入することにより、複数のヘテロ界面を形成することができ、それぞれのヘテロ界面には分極効果に由来する2次元電子12を誘起することができるので、第2領域22内の素子領域における電気抵抗の大幅な低減が実現され、その結果として、従来技術に比して非常に高い密度のドレイン電流を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0094】
1…ソース電極、2…ゲート電極、3…ドレイン電極、4…絶縁膜、5…障壁層半導体、5a…第1障壁層半導体、5b…第2障壁層半導体、5c…第3障壁層半導体、6…チャネル層半導体、7…量子井戸、8…多重量子井戸、8a…第1量子井戸、8b…第2量子井戸、8c…第3量子井戸、11…電子空乏領域、12…2次元電子、21…第1領域、22…第2領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアを流すためのチャネル層半導体に窒化物半導体を用いた窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記チャネル層半導体の上方の極性面方向に、前記チャネル層半導体よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体からなる障壁層半導体が積層され、ゲート電極の下方に存在する素子領域のうち少なくとも一部の素子領域を覆う第1領域内に存在する前記障壁層半導体の層厚が、前記第1領域以外の素子領域を覆う第2領域内に存在する前記障壁層半導体の層厚よりも薄く形成されるか、または、前記第1領域内には前記障壁層半導体が存在しない状態で形成されるとともに、前記第2領域内に存在する前記障壁層半導体中に、該障壁層半導体よりもバンドギャップが小さい単一層の量子井戸または多重層の多重量子井戸を挿入した量子井戸構造が形成されていることを特徴とする窒化物半導体電界効果トランジスタ。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記第2領域内に存在する前記障壁層半導体の上方の極性面方向にソース電極とドレイン電極とが形成され、少なくとも前記第1領域が存在する前記障壁層半導体の上方の極性面方向には絶縁膜を介して前記ゲート電極が形成されていることを特徴とする窒化物半導体電界効果トランジスタ。
【請求項3】
請求項2に記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記第1領域内に存在する前記障壁層半導体の層厚が、0nm以上10nm以下の範囲のいずれかの厚みであり、前記絶縁膜の層厚が、1nm以上100nm以下の範囲のいずれかの厚みであることを特徴とする窒化物半導体電界効果トランジスタ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記量子井戸構造を形成する単一層の前記量子井戸の層厚または多重層の前記多重量子井戸の各量子井戸の層厚が、2nm以上10nm以下の範囲のいずれかの厚みであり、量子井戸障壁層として前記多重量子井戸の各量子井戸の障壁層を形成する前記障壁層半導体の層厚が、1nm以上10nm以下の範囲のいずれかの厚みであり、単一層の前記量子井戸、または、前記多重量子井戸の各量子井戸のうち最上層の量子井戸、の上方の極性面方向に存在する前記障壁層半導体の層厚が、1nm以上50nm以下の範囲のいずれかの厚みであることを特徴とする窒化物半導体電界効果トランジスタ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記障壁層半導体/前記チャネル層半導体それぞれの半導体材料の組み合わせとして、AlGa1−XN/GaN(0<X≦1)、AlX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2≦1)、AlX1Ga1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2<1、X1>X2)、GaN/InGa1−XN(0<X≦1)、InX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0<X2≦1、X1<X2)、InAl1−XN/GaN(0≦X<0.5)、InX1Al1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0≦X1<0.5、0≦X2<1、X1+X2<1)、InX1Al1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0≦X2≦1)のうち、いずれかの半導体材料の組み合わせを用いて形成されていることを特徴とする窒化物半導体電界効果トランジスタ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、量子井戸障壁層として単一層の前記量子井戸の障壁層を形成する前記障壁層半導体/単一層の前記量子井戸それぞれの半導体材料の組み合わせとして、AlGa1−XN/GaN(0<X≦1)、AlX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2≦1)、AlX1Ga1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2<1、X1>X2)、GaN/InGa1−XN(0<X≦1)、InX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0<X2≦1、X1<X2)、InAl1−XN/GaN(0≦X<0.5)、InX1Al1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0≦X1<0.5、0≦X2<1、X1+X2<1)、InX1Al1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0≦X2≦1)のうち、単一層の前記量子井戸構造の形成が可能ないずれかの半導体材料の組み合わせを用いて形成されていることを特徴とする窒化物半導体電界効果トランジスタ。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、量子井戸障壁層として前記多重量子井戸の各量子井戸の障壁層を形成する前記障壁層半導体/前記多重量子井戸の各量子井戸それぞれの半導体材料の組み合わせとして、AlGa1−XN/GaN(0<X≦1)、AlX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2≦1)、AlX1Ga1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0<X1≦1、0≦X2<1、X1>X2)、GaN/InGa1−XN(0<X≦1)、InX1Ga1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0<X2≦1、X1<X2)、InAl1−XN/GaN(0≦X<0.5)、InX1Al1−X1N/AlX2Ga1−X2N(0≦X1<0.5、0≦X2<1、X1+X2<1)、InX1Al1−X1N/InX2Ga1−X2N(0≦X1<1、0≦X2≦1)のうち、多重層の前記量子井戸構造の形成が可能ないずれかの半導体材料の組み合わせを用いて形成されていることを特徴とする窒化物半導体電界効果トランジスタ。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記チャネル層半導体がGaN、前記障壁層半導体がAl0.3Ga0.7N、単一層の前記量子井戸または多重層の前記多重量子井戸の各量子井戸がGaNを用いて形成されていることを特徴とする窒化物半導体電界効果トランジスタ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、単一層の前記量子井戸および量子井戸障壁層として単一層の前記量子井戸の障壁層を形成する前記障壁層半導体の少なくとも一部の領域に、または、前記多重量子井戸の各量子井戸および量子井戸障壁層として前記多重量子井戸の各量子井戸の障壁層を形成する前記障壁層半導体の少なくとも一部の領域に、ドーピング処理が施されていることを特徴とする窒化物半導体電界効果トランジスタ。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、前記チャネル層半導体の下方側にバッファー層半導体をさらに追加した構造とすることを特徴とする窒化物半導体電界効果トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−114320(P2012−114320A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263271(P2010−263271)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】