説明

運転支援システム

【課題】運転者が煩わしさを感じることがなく、しかも、簡単な制御で走行車線内での車両の走行を維持する。
【解決手段】運転集中状態にない時に車両1に横ずれが生じた場合、車両1のずれ量に応じてアクチュエータ15が動作されて車両1が走行レーンの内側に傾斜され、走行レーンの内側に移動する力を車両1に発生させ、車両1を走行レーンの内側に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行車線内での車両の走行維持を行なう運転支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の運転を支援するシステムとして、車両の走行レーン(走行車線)内での走行を維持させる車線逸脱防止技術が実用化されている。車線逸脱防止技術では、白線認識等の技術により自車の走行レーン内での走行状況を把握し(横ずれ量を検出し)、車線を逸脱する虞が生じた場合に、アクチュエータにより操舵力を発生させて走行レーンの所定位置での車両の走行を維持するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
アクチュエータにより操舵力を発生させて走行を維持させる技術では、運転者の操舵意思に拘わらずアクチュエータ側からの操舵力がステアリングホイールに伝わる。このため、状況によって、運転者はステアリングホイールから反力を感じて煩わしく不快を感じることがあった。
【0004】
一方、車線逸脱防止技術として、車線逸脱を回避する方向にヨーモーメントを発生させ、走行レーンの所定位置での車両の走行を維持する技術が種々提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。これらの技術では、車輪の制動力を制御して目標のヨーモーメントを発生させ、車両の走行を所定位置に維持させるものとなっている。
【0005】
ヨーモーメントの発生により車両の走行を維持する場合、ステアリングホイールからの反力により運転者が煩わしさを感じることはない。しかし、車両の走行状態や駆動形式等によりヨーモーメントを的確に演算する必要があり、多数のセンサ類や機器類を必要とし、複雑な制御が強いられることが避けられない。このため、車線逸脱技術は、一部の高価な車両に対しては導入しやすい技術であるが、全ての車両に対して容易に適用できる技術とはなっていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−104850号公報
【特許文献2】特許第3826758号公報
【特許文献3】特開2005−153717号公報
【特許文献4】特開2006−182173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、運転者が煩わしさを感じることがなく、しかも、簡単な制御で走行車線内での車両の走行維持を行なうことができる運転支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の運転支援システムは、車両の走行車線を認識することで走行レーンを把握する車線認識手段と、前記車両の車輪と車体との間に備えられ車高を調整する車高調整手段と、前記車線認識手段による認識結果に基づいて走行レーンに対する前記車両のずれ度合いを認識すると共に前記ずれ度合いに応じて前記車両が前記走行レーンの内側に傾斜するように前記車高調整手段を動作させ、前記車両の車輪の状態を、前記車両が前記走行レーンの内側に移動する状態にする制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項1に係る本発明では、ずれ度合いに応じて車高調整手段が動作されて車両が走行レーンの内側に傾斜されるので、傾斜外側の前輪がトーインになり、傾斜外側の後輪がトーアウトになると共に、傾斜内側の前輪がトーアウトになり、傾斜内側の後輪がトーインになり、車両を走行レーンの内側に移動させる作用が生じる。これにより、運転者が煩わしさを感じることがなく、しかも、簡単な制御で走行車線内での車両の走行維持を行なうことができる。
【0010】
そして、請求項2に係る本発明の運転支援システムは、請求項1に記載の運転支援システムにおいて、前記車両には、前記運転者の運転集中度合いを検出する運転者状態検出手段が備えられ、前記制御手段は、前記運転者状態検出手段により前記運転者の運転集中度合いが低下したことを条件に前記車高調整手段を動作させることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る本発明では、運転者の運転集中度合いが低下したことを条件に車高調整手段が動作されるので、運転集中状態にない時にだけ車両を傾斜させて車両を走行レーンの内側に移動させることができる。このため、運転集中度合いが高い時には運転者の意思によらず車両が移動することがなく、運転に集中している時には運転者の意思に反した挙動が生じることがない。
【0012】
また、請求項3に係る本発明の運転支援システムは、請求項2に記載の運転支援システムにおいて、前記制御手段では、車速、ハンドル角及びヨーレイトに基づいて前記ずれ度合いを求め、前記制御手段は、前記走行レーンの所定範囲内で、前記車高調整手段に傾斜動作を出力して前記車両を傾斜させることで、傾斜外側の前輪をトーインにし、後輪をトーアウトにすると共に、傾斜内側の前輪をトーアウトにし、後輪をトーインにし、前記車両を前記走行レーンの内側に移動させることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る本発明では、車速、ハンドル角及びヨーレイトに基づいてずれ度合いを求めることで、走行軌跡を予測して将来的なずれ度合いを加味した状態の横ずれ度合いを求めることができ、予測される走行軌跡に応じて、傾斜外側の前輪をトーインにし、後輪をトーアウトにすると共に、傾斜内側の前輪をトーアウトにし、後輪をトーインにすることで、車両を走行レーンの内側に移動させる力を生じさせることができる。
【0014】
即ち、車両が右側にずれた際には、右車輪側の車高を高くして左方向にロールさせ、右前輪をトーインにし、右後輪をトーアウトにすると共に、左前輪をトーアウトにし、左後輪をトーインにし、車両を走行レーンの左側(内側)に移動させる。逆に、車両が左側にずれた際には、左車輪側の車高を高くして右方向にロールさせ、左前輪をトーインにし、左後輪をトーアウトにすると共に、右前輪をトーアウトにし、右後輪をトーインにし、車両を走行レーンの右側(内側)に移動させる。
【0015】
因みに、上述した特許文献3に記載した技術には、サスペンションを調整する事項が開示されているが、特許文献3の技術は、車線逸脱回避のために制動力を調整し、サスペンションの制御により、制動力の調整で生じるロールモーメントを相殺するものである。このため、車線逸脱回避に伴ってサスペンションを制御する技術ではあるが、車両を傾斜させるために車高調整を行う本願発明とは、全く異なる技術である。
【0016】
また、請求項4に係る本発明の運転支援システムは、請求項2に記載の運転支援システムにおいて、前記制御手段では、車速、ハンドル角及びヨーレイトに基づいて前記ずれ度合いを求め、前記制御手段は、前記走行レーンの所定範囲内で、前記車高調整手段に傾斜動作を出力して前記車両を傾斜させることで、傾斜外側の前輪をトーインにし、傾斜内側の前輪をトーアウトにして、車両を前記走行レーンの内側に移動させることを特徴とする。
【0017】
請求項4に係る本発明では、車速、ハンドル角及びヨーレイトに基づいてずれ度合いを求めることで、走行軌跡を予測して将来的なずれ度合いを加味した状態の横ずれ度合いを求めることができ、予測される走行軌跡に応じて、傾斜外側の前輪をトーインにし、傾斜内側の前輪をトーアウトにすることで、車両を走行レーンの内側に移動させる力を生じさせることができる。
【0018】
また、請求項5に係る本発明の運転支援システムは、請求項3に記載の運転支援システムにおいて、前記制御手段は、前記走行レーンの所定範囲内でずれ度合いが所定の範囲を越えた際に、傾斜外側の後輪をトーアウトにし、傾斜内側の後輪をトーインにして前記車両を内側に移動させるように、前記車高調整手段に傾斜動作を出力することを特徴とする。
【0019】
請求項4に係る本発明では、ずれ度合いが所定の範囲を越えた際に、傾斜外側の後輪をトーアウトにし、傾斜内側の後輪をトーインにすることで、車両を内側に移動させることで、車両を走行レーンの内側に移動させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の運転支援システムは、運転者が煩わしさを感じることがなく、しかも、簡単な制御で走行車線内での車両の走行を維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態例に係る運転支援システムを備えた車両の概略構成図である。
【図2】車高調整手段を説明する概念図である。
【図3】運転支援システムのブロック構成図である。
【図4】運転支援システムの動作フローチャートである。
【図5】運転支援システムの動作概念図である。
【図6】本発明の他の実施形態例に係る運転支援システムの動作フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1には本発明の一実施形態例に係る運転支援システムを備えた車両の概略構成、図2には車高調整手段を説明する概念、図3には運転支援システムのブロック構成、図4には運転支援システムの動作概念、図5には運転支援システムの動作フローを示してある。
【0023】
図1に示すように、車両1(例えば、ルームミラー)には前方カメラ2が備えられ、前方カメラ2により前方の道路画像が連続的に撮影される。前方カメラ2からの撮像情報はコントローラ3に入力され、コントローラ3では所定の画像処理が施されて走行レーンが把握され、車両1の走行レーンに対する状況が認識される(車線認識手段)。
【0024】
車両1には、車速を検出する車速検出手段としての車速センサ4と、車両1の操舵角を検出するハンドル角センサ5と、車両1のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ6が備えられている。車速センサ4、ハンドル角センサ5及びヨーレイトセンサ6の検出情報はコントローラ3に入力される。コントローラ3では、車両1の走行軌跡を予測し、前方カメラ2からの撮像情報に基づいて車両1の走行レーンに対するずれ度合い(将来的なずれ量を加味したずれ度合い)を認識するようになっている。
【0025】
また、車両1には、車両1が走行レーンの所定の範囲を外れて走行していることを認識した際に運転者に警報を発する警報手段8が備えられている。警報手段8は、音により警報を発する手段や、視覚及び音により警報を発する手段等が適用される。また、車両1には運転者の状況を撮影して運転集中度合いを検出する運転者状態検出手段としての監視カメラ9が備えられている。監視カメラ9では、運転者の注意力に対する指標(脇見の状況等)を監視し、運転に集中しているか否かにより運転集中度合いを検出するようになっている。
【0026】
尚、運転者状態検出手段としては、運転者の瞳孔等を撮影して覚醒度合いを検出する手段や、ハンドル操作の状況等を検出して覚醒度合いを検出する手段等、運転者の集中度合いに連動する指標を検出する手段であれば、監視カメラ9に限らず種々の検出手段を適用することが可能である。
【0027】
一方、図1、図2に示すように、車両1の前輪11a、11b及び後輪12a、12bのサスペンションには車高調整手段としてのアクチュエータ15がそれぞれ備えられ、アクチュエータ15が個別に動作されることにより車両1の車高(車輪と車体との関係)が左右、前後で個別に調整される。アクチュエータ15にはコントローラ3から動作指令が出力され、車両1の走行レーンに対するずれ量(ずれ度合い)に応じて車両1が傾斜されるようになっている。
【0028】
尚、ずれ度合いとして、ずれ量そのものを用いているが、ずれの変化率やずれの割合等を用いることも可能である。
【0029】
図3に示すように、前方カメラ2の画像情報はコントローラ3の走行レーン認識部21に送られ、走行レーン認識部21で走行レーンの認識(白線認識処理等)が行なわれて車両1の走行レーンに対するずれ量が認識される。車速センサ4、ハンドル角センサ5及びヨーレイトセンサ6の検出情報はコントローラ3の横ずれ量演算部22に送られ、また、走行レーン認識部21からの走行レーンの認識情報が横ずれ量演算部22に送られる。横ずれ量演算部22では、車速、ハンドル角及びヨーレイトに基づいて走行軌跡を予測し、将来的なずれ量を加味した状態の横ずれ量が求められる。
【0030】
監視カメラ9の情報はコントローラ3の運転集中状態認識部23に送られ、運転者の運転の集中度合いが認識される。例えば、脇見をしていないか、充分な覚醒状態にあるか等、運転に対する集中度合いが認識される。横ずれ量演算部22で求められた横ずれ量及び運転集中状態認識部23で認識された運転の集中度合いは、車高制御/警報制御判定・出力部24に送られる。
【0031】
尚、監視カメラ9による運転者の運転の集中度合いを検出しない制御を実施することも可能である。即ち、運転者が運転集中状態にあるかないかに拘わらず以下に具体的に示す本実施形態例の制御を実施することも可能である。
【0032】
車高制御/警報制御判定・出力部24は、横ずれ量が走行レーンの所定範囲内にあり、運転者の運転の集中度合いが低い場合に、横ずれ量演算部22で求められた横ずれ量(ずれ度合い)に応じて車両1が走行レーンの内側に傾斜するようにアクチュエータ15を動作させる(車高制御判定・出力)。
【0033】
車両1が右側にずれた際には、左方向にロールさせることで(走行レーンの内側に傾けることで)、傾斜外側の前輪である右前輪11bがトーインになり、右後輪12bがトーアウトになると共に、傾斜内側の前輪である左前輪11aがトーアウトになり、左後輪12aがトーインになり、走行レーンの左側(内側)に移動する力が車両1に発生する。
【0034】
逆に、車両1が左側にずれた際には、右方向にロールさせることで(走行レーンの内側に傾けることで)、傾斜外側の前輪である左前輪11aがトーインになり、左後輪12aがトーアウトになると共に、傾斜内側の前輪である右前輪11bがトーアウトになり、右後輪12bがトーインになり、走行レーンの右側(内側)に移動する力が車両1に発生する。
【0035】
このため、運転集中状態にない時に車両1に横ずれが生じた場合、車両1が走行レーンの内側に移動し、運転者が煩わしさを感じることがなく、しかも、簡単な制御で走行車線内での車両1の走行維持を行なうことができる。
【0036】
尚、上述した実施形態例では、傾斜外側の前輪をトーインにし、後輪をトーアウトにし、傾斜内側の前輪をトーアウトにし、後輪をトーインにしているが、傾斜外側の前輪をトーインにし、傾斜内側の前輪をトーアウトにして走行レーンの内側に車両1を移動させることも可能である。
【0037】
横ずれ量が走行レーンの所定範囲を超えた場合、車高制御/警報制御判定・出力部24は、警報手段8を動作させ、警報ブザー、警報表示等により運転者に車線逸脱を認識させる(警報制御判定・出力)。
【0038】
この場合、傾斜外側の後輪をトーアウトにし、傾斜内側の後輪をトーインにすることで、車両1を内側に移動させ、速やかに車両1を走行レーンの内側に移動させることも可能である。
【0039】
尚、運転者の運転の集中度合いが高い場合、走行レーンからのずれに対する制御を停止したり、ずれ量に応じて警報を発する等、適宜の状況に設定することができる。
【0040】
図4、図5に基づいて上述した運転支援システムの具体的な動作を説明する。
【0041】
図4に示すように、ステップS1で前方カメラ2の画像が取り込まれ、ステップS2で画像処理・白線認識が実施されて走行レーンが認識される。ステップS3で座標変換処理により走行レーンの位置が認識されて車両1に対する走行レーンの状況が把握され、ステップS4で車速センサ4、ハンドル角センサ5及びヨーレイトセンサ6の検出情報が読み込まれる。ステップS5で車両1の進路が推定演算され、ステップS6で横ずれ量が演算される。
【0042】
車両1の進路は、車速センサ4、ハンドル角センサ5及びヨーレイトセンサ6の検出情報に基づいてカーブの状況を含めて推定され(走行軌跡予測)、将来的なずれ量を加味した状態の横ずれ量が求められる。例えば、車速をV、ハンドル角をθH、ヨーレイトをγとした場合、カーブR(走行軌跡)は、次式で表される。
R=F{a・R1(V、θH)+b・R2(V、γ)}
但し、a、bは定数、Fはローパスフィルターである。
【0043】
カーブR(走行軌跡)が演算されて横ずれ量が演算されると、ステップS7で運転者が運転に集中していないか否か(運転集中状態にないか否か)が判断される。ステップS7で運転に集中している(運転集中状態にある:NO)と判断された場合、エンドとなりずれを戻す制御が停止される等の所定の処理が実行される。
【0044】
ステップS7で運転集中状態にないと判断された場合、ステップS8で車両1が走行レーンの所定範囲内にあるか否かが判断される。即ち、ステップS8では、図5(b)に示すように、横ずれ量が−B2(左側の最大ずれ量)とB2(右側の最大ずれ量)の間(車線維持領域)にあるか否かが判断される。ステップS8で横ずれ量が−B2とB2の間にあると判断された場合、ステップS9でずれがB方向であるか否か、即ち、ずれが右方向であるか否かが判断される。
【0045】
ステップS9でずれがB方向であると判断された場合、図5(b)に示すように、右方向のロール角が小さくなるように(左方向にロール角が大きくなるように)車両1を傾斜させる。つまり、ステップS10で右車輪11b、12b(前輪11b、後輪12b)側が伸長する状態にアクチュエータ15に動作指令が出力されてエンドとなる。これにより、車両1が右方向にずれた場合、走行レーンの内側である左方向に車両1が傾斜される。この時のアクチュエータ15の動作速度は、運転者の乗り心地を妨げないように、緩やかな速度に制限されている。
【0046】
右側へのずれ量に応じて車両1が走行レーンの内側に傾斜されることで、図5(a)に示すように、傾斜外側の前輪である右前輪11bがトーインになり、右後輪12bがトーアウトになると共に、傾斜内側の前輪である左前輪11aがトーアウトになり、左後輪12aがトーインになり、走行レーンの左側(内側)に移動する力が車両1に発生する。この結果、車両1を走行レーンの左側(内側)に移動させることができる(車両1のずれが修正される)。
【0047】
一方、ステップS9でずれがB方向ではない、即ち、ずれが−B方向であると判断された場合、図5(b)に示すように、左方向のロール角が小さくなるように(右方向にロール角が大きくなるように)車両1を傾斜させる。つまり、ステップS11で左車輪11a、12a(前輪11a、後輪12a)側が伸長する状態にアクチュエータ15に動作指令が出力されてエンドとなる。これにより、車両1が左方向にずれた場合、走行レーンの内側である右方向に車両1が傾斜される。この時のアクチュエータ15の動作速度は、運転者の乗り心地を妨げないように、緩やかな速度に制限されている。
【0048】
左側へのずれ量に応じて車両1が走行レーンの内側に傾斜されることで、図5(a)に示すように、傾斜外側の前輪である左前輪11aがトーインになり、左後輪12aがトーアウトになると共に、傾斜内側の前輪である右前輪11bがトーアウトになり、右後輪12bがトーインになり、走行レーンの右側(内側)に移動する力が車両1に発生する。この結果、車両1を走行レーンの右側(内側)に移動させることができる(車両1のずれが修正される)。
【0049】
従って、車両1がずれた際に、走行レーンの内側に車両を傾斜させることで、車両1を走行レーンの中央側に移動させてずれを修正することができる。このため、運転集中状態にない場合に、運転者が煩わしさを感じることがなく、しかも、簡単な制御で走行車線内での車両1の走行を維持することが可能になる。
【0050】
ステップS8の処理に戻り、横ずれ量が−B2とB2の間にはない、即ち、車線維持領域を外れて車両1が走行レーンの所定範囲外にあると判断された場合、ステップS12で、図5(c)に示すように、警報がONにされて警報ブザー、警報表示等により運転者に車線逸脱が知らされる。
【0051】
図6に基づいて運転支援システムの他の実施形態例の処理を説明する。図6には本発明の他の実施形態例に係る運転支援システムの動作フローを示してある。尚、図4に示した処理と同一処理については同一のステップ番号を付して重複する説明は省略してある。
【0052】
図に示すように、ステップS6で横ずれ量を演算した後、ステップS31で運転者が運転集中状態にあるか否かが判断される。ステップS31で運転集中状態にないと判断された場合、ステップS8で車両1の横ずれ量が−B2とB2の間にあるか否かが判断される。横ずれ量が−B2とB2の間にあると判断された場合、ステップS24で車両1を走行レーンの内側に傾斜させる処理を実行し(図4に示したステップS9〜ステップS11の処理に相当)、横ずれ量が−B2とB2の間にはないと判断された場合、ステップS25で警報を発する処理(図4に示したステップS12の処理に相当)を実行する。
【0053】
一方、ステップS31で運転者が運転集中状態にあると判断された場合、ステップS21で車両1の横ずれ量が−A2とA2の間にあるか否かが判断される。横ずれ量の−A2及びA2は、図5に示した横ずれ量−B2、B2と同じであり、車線維持領域となっている。ステップS21で横ずれ量が−A2とA2の間にあると判断された場合、ステップS22で車両1を走行レーンの外側に傾斜させる処理を実行し、横ずれ量が−A2とA2の間にはないと判断された場合、ステップS23で警報を発する処理を実行する。
【0054】
車両1が走行レーンの外側に傾斜されることで、運転者に対する走行レーンの視覚が、ずれ方向と逆方向に傾いた状態で認識される。
【0055】
例えば、車両1が走行レーンの右側にずれた場合、外側である右方向のロール角が大きくなり車両1は右側に傾斜される。車両1が右側に傾斜されると、運転者に対する走行レーンの視覚が左側に傾いた状態で認識される。これにより、運転者は車両1を左側に旋回させるように(ずれを修正するように)操舵することになり、車両1のずれを修正する状態に運転者に操舵を促すことができる。
【0056】
また、車両1が走行レーンの左側にずれた場合、外側である左方向のロール角が大きくなり車両1は左側に傾斜される。車両1が左側に傾斜されると、運転者に対する走行レーンの視覚が右側に傾いた状態で認識される。これにより、運転者は車両1を右側に旋回させるように(ずれを修正するように)操舵することになり、車両1のずれを修正する状態に運転者に操舵を促すことができる。
【0057】
上述した運転支援システムでは、車両1がずれた際に、運転者が運転集中状態にある場合、車両1を走行レーンの外側に傾斜させるように、アクチュエータ15に傾斜動作を出力するので、運転者に視覚的に横ずれを強調して認識させることができ、早めの修正操舵を促すことが可能になる。このため、運転者が運転に集中している時に、煩わしさを感じることがなく、しかも、簡単な制御で走行車線内での車両1の走行を維持することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、走行車線内での車両の走行維持を行なう運転支援システムの分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 車両
2 前方カメラ
3 コントローラ
4 車速センサ
5 ハンドル角センサ
6 ヨーレイトセンサ
8 警報手段
9 監視カメラ
11 前輪
12 後輪
15 アクチュエータ
21 走行レーン認識部
22 横ずれ量演算部
23 運転集中状態認識部
24 車高制御/警報制御判定・出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行車線を認識することで走行レーンを把握する車線認識手段と、
前記車両の車輪と車体との間に備えられ車高を調整する車高調整手段と、
前記車線認識手段による認識結果に基づいて走行レーンに対する前記車両のずれ度合いを認識すると共に前記ずれ度合いに応じて前記車両が前記走行レーンの内側に傾斜するように前記車高調整手段を動作させ、前記車両の車輪の状態を、前記車両が前記走行レーンの内側に移動する状態にする制御手段とを備えた
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援システムにおいて、
前記車両には、前記運転者の運転集中度合いを検出する運転者状態検出手段が備えられ、
前記制御手段は、前記運転者状態検出手段により前記運転者の運転集中度合いが低下したことを条件に前記車高調整手段を動作させる
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項3】
請求項2に記載の運転支援システムにおいて、
前記制御手段では、車速、ハンドル角及びヨーレイトに基づいて前記ずれ度合いを求め、
前記制御手段は、前記走行レーンの所定範囲内で、前記車高調整手段に傾斜動作を出力して前記車両を傾斜させることで、
傾斜外側の前輪をトーインにし、後輪をトーアウトにすると共に、傾斜内側の前輪をトーアウトにし、後輪をトーインにし、前記車両を前記走行レーンの内側に移動させる
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項4】
請求項2に記載の運転支援システムにおいて、
前記制御手段では、車速、ハンドル角及びヨーレイトに基づいて前記ずれ度合いを求め、
前記制御手段は、前記走行レーンの所定範囲内で、前記車高調整手段に傾斜動作を出力して前記車両を傾斜させることで、
傾斜外側の前輪をトーインにし、傾斜内側の前輪をトーアウトにして前記車両を前記走行レーンの内側に移動させる
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項5】
請求項3に記載の運転支援システムにおいて、
前記制御手段は、前記走行レーンの所定範囲内でずれ度合いが所定の範囲を越えた際に、傾斜外側の後輪をトーアウトにし、傾斜内側の後輪をトーインにして前記車両を内側に移動させるように、前記車高調整手段に傾斜動作を出力する
ことを特徴とする運転支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−158933(P2010−158933A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1190(P2009−1190)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】