説明

酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタおよびその製造方法

【課題】オフ特性およびキャリア移動度に優れた、高品質の、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の薄膜トランジスタは、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、酸化物半導体からなる活性層とを備えてなる。そして、活性層とソース電極の間および活性層とドレイン電極の間には、炭素製のバッファ層が設けられてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の半導体材料として、In-Ga-Zn-O(以下、IGZOともいう)なる酸化物半導体が注目されている。このIGZOは、従来使用されてきたアモルファスシリコンと比べて電子移動度が格段に速く、オンオフ(on/off)比も高いことから、薄膜トランジスタ(以下、TFTともいう)として表示デバイス、特に有機EL素子のような電流駆動の表示デバイス、に用いた場合に画質の大幅な向上をもたらすことが期待される。しかしながら、IGZOは酸およびアルカリのいずれにも弱いため、薄膜トランジスタに使用するために、構造やプロセスに種々の工夫がなされてきた。
【0003】
例えば、フォトレジストでIGZOを被覆しておき、必要な成膜工程が完了した後、不要な部分をフォトレジストごと持ち上げて除去するというリフトオフ法が提案されている(特許文献1参照)。このリフトオフ法を使用すれば、IGZO表面にエッチング液による損傷を与えることなく、積層プロセスに付すことが可能となるが、フォトレジストの除去に伴いパーティクルが発生するといった不具合があるため、産業的な量産には適していない。
【0004】
トップゲート型TFTにおいてIGZOを用いる技術も提案されている(特許文献2および3参照)。しかしながら、液晶ディスプレイ(LCD)の場合、バックライトが基板の裏面側より照射されて半導体層に光が当たるため、望ましくない光励起によって抵抗値が変化してしまい、オフ(Off)特性が悪化する。このため、現在使用されているアモルファスシリコンTFTでは、ボトムゲート型の構造が採用されている。
【0005】
このボトムゲート型TFTにおいてIGZOを用いる技術も提案されており、IGZO半導体層上にチャネル保護膜としてa-SiOxによる絶縁層を形成した構造が採用されている(特許文献4参照)。しかしながら、この構造では、製造工程数が増える上、IGZOの特性を向上させるための熱処理効果が得られにくくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−173580号公報
【特許文献2】特開2006−165527号公報
【特許文献3】特開2007−73701号公報
【特許文献4】特開2009−99847号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明者は、今般、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタにおいて、酸化物半導体層(活性層)とソース電極の間および酸化物半導体層(活性層)とドレイン電極の間に炭素製のバッファ層を設けることにより、製造時におけるエッチング等の薬液処理による酸化物半導体の劣化を有効に防止するとともに、オフ(Off)特性およびキャリア移動度に優れた高品質の薄膜トランジスタが得られるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、オフ特性およびキャリア移動度に優れた、高品質の、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタおよびその製造方法を提供することにある。
【0009】
すなわち、本発明によれば、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、酸化物半導体からなる活性層とを備えた薄膜トランジスタであって、
前記活性層と前記ソース電極の間および前記活性層と前記ドレイン電極の間に、炭素製のバッファ層が設けられてなる、薄膜トランジスタが提供される。
【0010】
また、本発明によれば、ボトムゲート型薄膜トランジスタの製造方法であって、
基板上にゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上に酸化物半導体からなる活性層を形成する工程と、
前記活性層上に炭素製のバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層上にソース電極およびドレイン電極用の電極層を形成する工程と、
前記電極層の一部をエッチングにより除去して、ソース電極およびドレイン電極を互いに離間させて形成し、かつ、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間で前記バッファ層を露出させる工程と
前記バッファ層の露出部分を酸素アッシングにより除去して、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間で前記活性層を露出させる工程と
を含んでなる、方法が提供される。
【0011】
さらに、本発明によれば、トップゲート型薄膜トランジスタの製造方法であって、
基板上に酸化物半導体からなる活性層を形成する工程と、
前記活性層上に炭素製のバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層上にソース電極およびドレイン電極用の電極層を形成する工程と、
前記電極層の一部をエッチングにより除去して、ソース電極およびドレイン電極を互いに離間させて形成し、かつ、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間で前記バッファ層を露出させる工程と
前記バッファ層の露出部分を酸素アッシングにより除去して、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間で前記活性層を露出させる工程と
前記ドレイン電極、前記ソース電極、ならびに前記ソース電極および前記ドレイン電極の間で露出した前記活性層の上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と
を含んでなる、方法が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、上記薄膜トランジスタを備えたデバイスも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるボトムゲート型薄膜トランジスタの一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明によるトップゲート型薄膜トランジスタの一例を示す模式断面図である。
【図3A】例1における、本発明によるボトムゲート型薄膜トランジスタの製造工程の前半(工程1〜5)の流れを示す図である。
【図3B】例1における、本発明によるボトムゲート型薄膜トランジスタの製造工程の後半(工程6〜9)の流れを示す図である。
【図4】例2で測定された、各種厚さの活性層(IGZO層)を有する薄膜トランジスタにおける、ゲート電圧Vgとドレイン電流Idとの関係を示すグラフである。
【図5】例3で測定された、非晶質炭素バッファ層がある場合と非晶質炭素バッファ層がない場合とにおける、ゲート電圧Vgとドレイン電流Idとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
薄膜トランジスタ
図1に本発明による薄膜トランジスタの一例の模式断面図を示す。図1に示される薄膜トランジスタはボトムゲート型であるが、本発明はこれに限定されず、トップゲート型にも適用可能である。図1に示されるように、本発明による薄膜トランジスタ10は、ソース電極11と、ドレイン電極12と、ゲート電極13と、ゲート絶縁膜14と、活性層15とを備えてなる。活性層15は酸化物半導体からなる。なお、ソース電極11、ドレイン電極12、ゲート電極13、およびゲート絶縁膜14としては薄膜トランジスタ分野において公知のものを広く採用することができ、特に限定されない。
【0015】
そして、本発明にあっては、活性層15とソース電極11の間および活性層15とドレイン電極12の間には、炭素製のバッファ層16が設けられる。これにより、IGZOのような酸やアルカリに弱い酸化物半導体で活性層を構成した場合であっても、その後のエッチング等の薬剤処理による酸化物半導体の劣化を有効に防止することができる。特に、本発明者の知見によれば、炭素製のバッファ層は酸素プラズマを用いたドライエッチング(以下、酸素アッシングともいう)によってエッチングが可能である。これは、酸化物半導体活性層の構成元素と同じ酸素を利用してエッチングすることになるため、活性層にダメージを与えないばかりか、むしろ酸化物半導体活性層の酸素欠損を補う結果となり、薄膜トランジスタとした場合に諸特性が向上する。その結果、薄膜トランジスタにおいて、高いオンオフ比、デバイス設計上有利な0V近傍の閾値電圧、格段に速いキャリア移動度を実現することができ、表示デバイス、特に有機EL素子のような電流駆動の表示デバイス、に用いた場合に画質の大幅な向上をもたらすことが期待される。
【0016】
したがって、本発明による薄膜トランジスタは、好ましくは6桁以上、より好ましくは8桁以上、さらに好ましくは10桁以上という高いオンオフ比を有することができる。また、本発明による薄膜トランジスタは、好ましくは5cm2/sV以上、より好ましくは10cm2/sV以上、さらに好ましくは12cm2/sV以上という速いキャリア移動度を有することができる。さらに、本発明による薄膜トランジスタは、好ましくは−15〜+5V、より好ましくは−10〜+5V、さらに好ましくは−5〜+5Vというデバイス設計上有利な閾値電圧を有することができる。
【0017】
本発明における活性層は酸化物半導体からなる。酸化物半導体としては薄膜トランジスタとして許容可能な性能を有するものであれば特に限定されず、例えば、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化銅、酸化ランタン、酸化ビスマス、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化イットリウム、およびそれらの二種以上からなる複合酸化物が挙げられる。好ましい酸化物半導体は、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、および酸化ガリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含んでなり、より好ましくは少なくとも酸化亜鉛を含んでなり、さらに好ましくは酸化ガリウムおよび酸化インジウムをさらに含んでなる。最も好ましい酸化物半導体は、In-Ga-Zn-O(IGZO)であり、典型的にはアモルファスIn-Ga-Zn-O(a−IGZO)である。In-Ga-Zn-O(IGZO)の好ましい組成はInxGayZnzOm(ただし、x>0、y>0、z>0、m>0)とした場合、1.0≦m/(x+y+z)≦2.5を満たすモル比であり、より好ましくは1.3≦m/(x+y+z)≦2.0、さらに好ましくは1.3≦m/(x+y+z)≦1.5である。活性層の厚さは、TFTの構造によってはオンオフ(on/off)比に影響を与える可能性があるため、200〜1000Åとするのが好ましく、より好ましくは200〜500Å、さらに好ましくは250〜500Åである。
【0018】
本発明におけるバッファ層は炭素製であり、非晶質炭素、ダイヤモンドライクカーボン等の各種の炭素材料が使用可能である。好ましいバッファ層は非晶質炭素からなり、より好ましくは導電性非晶質炭素からなる。導電性非晶質炭素は、水素濃度が15at%以下であるのが好ましく、より好ましくは12at%以下、さらに好ましくは5at%以下である。なお、水素濃度の下限は特に限定されずゼロであってもよいが、スパッタリング時の成膜環境等に起因する水素の不可避的混入を考慮すると3at%が下限値の目安として挙げられる。なお、バッファ層中の水素濃度の測定は公知の各種方法により行うことができるが、HFS(水素前方散乱:Hydrogen Forward Scattering)により行われるのが好ましい。このように水素濃度を極めて低くすることにより、バッファ層を構成する炭素が水素で終端されることによる導電性の低下ないし絶縁性の発現を回避することができる。したがって、非晶質炭素には炭素および水素以外の不純物が実質的にドープされていないのが好ましい。ここで「実質的にドープされていない」とは何らかの機能を付与するために不純物が意図的にドープされていないとの意味であり、スパッタリング時の成膜環境等に起因して不可避的に混入される不純物は許容される。このような観点から、本発明において導電性非晶質炭素は、0〜300ppmの酸素濃度、0〜1000ppmのハロゲン元素濃度、0〜500ppmの窒素濃度を有するのが好ましい。バッファ層の膜厚は特に限定されないが3〜30nmであるのが好ましく、より好ましくは3〜15nmであり、さらに好ましくは5〜10nmである。このような範囲内の厚さであると、TFT作製プロセスにおけるエッチング等の薬液工程での半導体活性層に対する遮蔽性を十分に確保しながら、厚膜化に伴う膜抵抗の上昇を回避して薄膜トランジスタのオン(On)特性の低下を防止することができる。バッファ層は、スパッタリング、CVD等の公知の手法に基づいて作製することができる。
【0019】
本発明の薄膜トランジスタの構成は、トップゲート型およびボトムゲート型のいずれでもよい。ボトムゲート型の薄膜トランジスタ10は、図1に示されるように、基板17上に、ゲート電極13、ゲート絶縁膜14、活性層15、バッファ層16、ならびに互いに離間して配設されるソース電極11およびドレイン電極12が順次積層されてなる構成を有するのが典型的である。図示例においては、ソース電極11、ドレイン電極12、ならびにソース電極およびドレイン電極の間で露出した活性層15を全て覆うようにパッシベーション層18(絶縁膜)がさらに設けられている。一方、トップゲート型の薄膜トランジスタ20は、図2に示されるように、基板27上に、活性層25、バッファ層26、互いに離間して設けられるソース電極21およびドレイン電極22、ゲート絶縁膜24、ならびにゲート電極23が順次積層されてなる構成を有するのが典型的である。特に、本発明の薄膜トランジスタがボトムゲート型で構成可能であることは液晶ディスプレイ(LCD)用途において有利となる。これは、ボトムゲート型によれば、トップゲート型において基板の裏面側からのバックライトの照射によって引き起こされる、半導体活性層の光励起によるオフ(Off)特性の悪化を回避できるからである。
【0020】
製造方法
本発明による薄膜トランジスタは、以下の通り製造することができる。
【0021】
(1)ボトムゲート型薄膜トランジスタの製造
図1に示されるようなボトムゲート型薄膜トランジスタ10の製造は、以下のようにして行うことができる。まず、基板17上にゲート電極13を形成した後、ゲート電極13上にゲート絶縁膜14を形成し、ゲート絶縁膜14上に酸化物半導体からなる活性層15をさらに形成する。これらの形成工程はいずれも公知の成膜、パターニングおよびエッチング手法に従って行うことができる。
【0022】
そして、活性層15上に炭素製のバッファ層16を形成する。炭素製のバッファ層は、スパッタリング、CVD等の公知の手法に基づいて作製することができる。導電性非晶質炭素からなるバッファ層を得るためには、バッファ層の形成をスパッタリングにより行うのが好ましい。このスパッタリングは、黒鉛、ガラス状カーボン等の炭素系ターゲットを用い、水素ガスを添加しないアルゴンガス雰囲気下で行うことが好ましい。ただし、バッファ層16としての所望の機能を損なわない限りにおいて、微量の炭化水素、水素等の添加ガスをアルゴンガスに混入させることは許容される。例えば、バッファ層を導電性非晶質炭素で構成する場合、添加ガスの量は導電性非晶質炭素膜中の水素濃度が15at%以下となるような量とするのが好ましい。アルゴンガスに対する添加ガスの流量比は0.4容量%以下であるのが好ましく、より好ましくは0.2容量%以下である。炭化水素や水素等の添加ガスが多いと非晶質炭素が水素で終端されるため導電性が低下して絶縁性となりかねないため好ましくない。スパッタリング手法は、DCスパッタリング、DCマグネトロンスパッタリング、RFスパッタリング、RFマグネトロンスパッタリング等の公知の手法であってよく、公知の成膜条件に基づいて行えばよい。
【0023】
次いで、バッファ層16上にソース電極11およびドレイン電極12用の電極層を形成する。電極層の一部をエッチングにより除去して、ソース電極11およびドレイン電極12を互いに離間させて形成し、かつ、ソース電極11およびドレイン電極12の間でバッファ層16をチャネル部として露出させる。これらの形成工程はいずれも公知の成膜、パターニングおよびエッチング手法に従って行うことができる。そして、バッファ層16の露出部分を酸素アッシングにより除去して、ソース電極11およびドレイン電極12の間で活性層15をチャネル部として露出させる。酸素アッシングは、酸素プラズマを用いたドライエッチングであり、公知の手法に従って行うことができる。特に、酸素アッシングは、露出されるべき酸化物半導体活性層の構成元素と同じ酸素を利用してエッチングすることになるため、活性層にダメージを与えないばかりか、むしろ酸化物半導体活性層の酸素欠損を補う結果となり、薄膜トランジスタとした場合に諸特性(特にオフ特性)を向上することができる。したがって、Cl、F系ガスを用いるドライエッチングは、バッファ層をエッチングした結果、チャネル部にCl、Fなどのイオンダメージが入り込み、薄膜トランジスタ特性の劣化を引き起こしうるので望ましくない。引き続き、所望により、ソース電極11、ドレイン電極12、ならびにソース電極11およびドレイン電極12の間で露出した活性層15を全て覆うようにパッシベーション層18(絶縁膜)を形成した後、パッシベーション層18の一部をドライエッチングにより除去してパッド部を形成する。
【0024】
(2)トップゲート型薄膜トランジスタの製造
図2に示されるようなトップゲート型薄膜トランジスタ20の製造は、以下のようにして行うことができる。まず、基板27上に酸化物半導体からなる活性層25を公知の成膜、パターニングおよびエッチング手法に従い形成する。そして、活性層25上に炭素製のバッファ層26を形成する。バッファ層26の形成方法および条件は、上述した(1)ボトムゲート型薄膜トランジスタの場合と同様である。
【0025】
次いで、バッファ層26上にソース電極21およびドレイン電極22用の電極層を形成する。電極層の一部をエッチングにより除去して、ソース電極21およびドレイン電極22を互いに離間させて形成し、かつ、ソース電極21およびドレイン電極22の間でバッファ層26をチャネル部として露出させる。そして、バッファ層26の露出部分を酸素アッシングにより除去して、ソース電極21およびドレイン電極22の間で活性層25をチャネル部として露出させる。ソース電極21、ドレイン電極22、ならびにソース電極21およびドレイン電極22の間で露出した活性層25の上にゲート絶縁膜24を形成し、ゲート絶縁膜24上にゲート電極23をさらに形成する。これらの形成工程はいずれも公知の成膜、パターニングおよびエッチング手法に従って行うことができる。
【0026】
なお、上記(1)および(2)の製造方法において、公知のエッチング手法としては、ドライエッチング、ウェットエッチング、およびそれらの組み合わせ等が挙げられる。また、エッチングすべき領域の画定は、フォトリソグラフィによるパターニング等の公知の手法に基づいて行えばよく、特に限定されない。
【0027】
用途
本発明による薄膜トランジスタは、薄膜トランジスタを使用する各種のデバイスに適用可能である。そのようなデバイスの好ましい例としては、(1)有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、電子ペーパー等の表示デバイス、(2)各種RAM、フラッシュメモリ等の記憶デバイスなどが挙げられる。
【実施例】
【0028】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。
【0029】
例1:薄膜トランジスタの作製
IGZO活性層上に導電性非晶質炭素バッファ層を形成したボトムゲート型薄膜トランジスタを、図3Aおよび3Bに示される手順に従いながら以下の通り作製した。まず、ガラス基板31(コーニング#1737(50mm平方×厚さ0.7mm)上にゲート電極32用の電極層として厚さ2000ÅのAl-Ni-B合金薄膜を形成した。このスパッタリングは、Al-3.2Ni-0.2B (at.%)の組成を有するアルミニウム合金ターゲット(直径203.2×8mm)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマグネトロンスパッタ装置(MSL-464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):1000W(3.1W/cm2)、到達真空度:5×10-5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:100sccm、基板温度:室温の条件で行った。
【0030】
電極層上にフォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行った。まず、ポジ型のレジストとしてTFR-970(東京応化工業社製)を基板上に塗布した。レジストの塗布は、スピンコーターによりレジスト厚さが約1.5μmとなるように、3000rpmの条件で行った。次に、110℃で1.5分間のプリベークをホットプレートで行った後、図3AおよびBに示される素子を形成可能なCrマスクを介して15mJ/cm2の露光量でUV露光を行った。現像液(TMAH 2.38%、23℃)を用意し、ディップ方式(Dip)にて1分間現像処理を行った。脱イオン化(DI)流水で十分に現像液を除去したのち、110℃で3分間のポストベークをホットプレートにて行った。こうして形成されたレジストパターンを介して、電極層の不要部分をウエットエッチングにより除去してゲート電極32の形状を付与した(図3Aの工程1)。このウエットエッチングは、リン酸系エッチング液(関東化学社製)を用い、エッチング液温度:40℃、エッチング時間:1分間の条件で行い、脱イオン(DI)水で3分間濯いだ。次いで、剥離液としてTST-AQ8(東京応化工業社製)を用いてレジストを除去した。剥離は、液温40℃で5分間行い、脱イオン(DI)水を流しながら3分間行った。
【0031】
ゲート電極32上に厚さ3000ÅのSiNx(窒化ケイ素)ゲート絶縁膜33をCVDにより形成した(図3Aの工程2)。このCVDは、TMP+RP(ターボメカニカルポンプおよびロータリーポンプ)が接続されたCVD装置(サムコ社製)を用い、放電有効範囲:φ203.2mm、投入パワー(RF):250W(0.8W/cm2) 、到達真空度:5×10-4Pa、成膜圧力:80Pa、SiH4流量:100sccm、NH3流量:10sccm、N2流量:200sccm、基板加熱:350℃(加熱保持時間:3分)の条件で行った。
【0032】
ゲート絶縁膜33上に厚さ125Å、250Å、500Åおよび1000ÅのIGZO活性層34をスパッタリングにより形成した(図3Aの工程3)。このスパッタリングは、In:Ga:Zn:O=1:1:1:4 (at比)の組成を有するIGZOターゲット(直径203.2mm×厚さ8mm)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマルチチャンバーマグネトロンスパッタ装置(MSL-464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):300W(0.9W/cm2)、到達真空度:5×10-5Pa、スパッタ圧力:0.4Pa、Ar流量:80sccm、O2流量:10sccm、基板温度:室温の条件で行った。このとき、スパッタ時間を0.5分間、1分間、2分間、および4分間と変えることにより、厚さ125Å、250Å、500Åおよび1000ÅのIGZO活性層をそれぞれ形成した。
【0033】
IGZO活性層34上に厚さ70Åの非晶質炭素バッファ層35をスパッタリングにより形成した(図3Aの工程4)。このスパッタリングは、黒鉛粉末を焼結して作製された黒鉛ターゲット(1G-70、東洋炭素社製、直径203.2mm×厚さ8mm)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマルチチャンバーマグネトロンスパッタ装置(MSL-464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):250W(0.8W/cm2)、到達真空度:5×10-5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:100sccm、基板温度:室温の条件で行った。
【0034】
非晶質炭素バッファ層35にソース電極およびドレイン電極用の厚さ1500Åの電極層36をスパッタリングにより形成した(図3Aの工程5)。このスパッタリングは、Al-3.2Ni-0.2B (at.%)の組成を有するアルミニウム合金ターゲット(直径203.2mm×厚さ8mm)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマルチチャンバーマグネトロンスパッタ装置(MSL-464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):1000W(3.1W/cm2)、到達真空度:5×10-5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:100sccm、基板温度:室温の条件で行った。
【0035】
電極層36上にレジストのパターニングを工程1と同様の手法により行った。形成されたレジストパターンを介して、電極層36の不要部分をウエットエッチングにより除去した(図3Bの工程6)。このウエットエッチングは、リン酸系エッチング液(関東化学社製)を用い、エッチング液温度:40℃、エッチング時間:45秒間の条件で行い、脱イオン(DI)水で3分間濯いだ。
【0036】
引き続き、上記レジストパターンを介して、非晶質炭素バッファ層35の不要部分をドライエッチングにより除去した(図3Bの工程7)。このドライエッチングは、ドライエッチング装置(10NR、サムコ社製)を用い、ガス:CF4/O2=50/60sccm、RF:50W、圧力:5Pa、エッチング時間:25秒間の条件で行った。さらに、上記レジストパターンを介して、IGZO活性層34の不要部分をウエットエッチングにより除去した(図3Bの工程7)。このウエットエッチングは、リン酸系エッチング液(関東化学社製)を用い、エッチング液温度:25℃、エッチング時間:1分間の条件で行い、脱イオン(DI)水で3分間濯いだ。次いで、工程1と同様の手法によりレジストパターンを除去した。
【0037】
電極層36上にレジストのパターニングを工程1と同様の手法により行った。形成されたレジストパターンを介して、電極層36におけるチャネル部とされるべき部分をウエットエッチングにより除去して、ソース電極36aおよびドレイン電極36bの形状を付与した(図3Bの工程8)。このウエットエッチングは、リン酸系エッチング液(関東化学社製)を用い、エッチング液温度:40℃、エッチング時間:45秒間の条件で行い、脱イオン(DI)水で3分間濯いだ。引き続き、ソース電極およびドレイン電極間に露出した非晶質炭素バッファ層35のチャネル部とされるべき部分を酸素アッシング(ドライエッチング)により除去した。この酸素アッシングは、ドライエッチング装置(10NR、サムコ社製)を用い、ガス:O2=50sccm、RF:100W、圧力:10Pa、エッチング時間:2分間の条件で行った。次いで、工程1と同様の手法によりレジストパターンを除去した。
【0038】
こうして得られた薄膜トランジスタ積層構造の最上面を覆うように厚さ1500Åのパッシベーション層37(絶縁膜)を反応スパッタリングにより形成した(図3Bの工程9)。この反応スパッタリングは、シリコンターゲット(直径203.2 mm×厚さ8mm)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマルチチャンバーマグネトロンスパッタ装置(MSL-464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):300W(0.9W/cm2)、到達真空度:5×10-5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:80sccm、O2流量:10sccm、基板温度:室温の条件で行った。
【0039】
パッシベーション層37上にレジストのパターニングを工程1と同様の手法により行った。形成されたレジストパターンを介して、パッシベーション層37の一部をドライエッチングにより除去してパッド部(図示せず)を形成した。このドライエッチングは、ドライエッチング装置(10NR、サムコ社製)を用い、ガス:CF4/O2=60/5sccm、RF:100W、圧力:4Pa、エッチング時間:5分30秒間の条件で行った。次いで、工程1と同様の手法によりレジストパターンを除去した。こうして、図3Bに示されるボトムゲート型薄膜トランジスタ30が得られた。得られた薄膜トランジスタは、250℃の温度にて大気中、10分間の熱処理を行った。
【0040】
例2:オン/オフ比およびキャリア移動度の測定
例1で作製された、非晶質炭素バッファ層を有する薄膜トランジスタについて、ゲート電圧Vgとドレイン電流Idの関係を測定した。この測定は、半導体アナライザ装置(B1500A、アジレントテクノロジー社製)を用い、ソース・ドレイン電圧:5V、ゲート電圧:-30〜+20V(0.5V毎にマイナスからプラスに向けて走査)の条件で行った。得られた結果は図4に示される通りであった。得られた結果に基づいて、オン/オフ比とキャリア移動度μ(cm2/sV)を算出した。オン/オフ比の算出は、Vthを基準としてゲート電圧-10Vをオフ(Off)、+15Vをオン(On)とし、オン状態とオフ状態のドレイン電流の比を求めることにより行った。また、キャリア移動度の算出はId-Vg特性線をリニアスケールにより表し、その比例定数を求めることにより行った。結果は、表1に示される通りであった。
【表1】

【0041】
表1に示される結果より、IGZOの膜厚を250Åと薄膜化することで、高速反応が可能なトランジスタが実現できることが分かる。一般的な構造では、プロセスダメージが入るため、IGZOの膜厚を薄くすると、オフ(off)電流が増加する傾向となったが、非晶質炭素膜バッファ層を設けることで、250Åにおいて10桁という極めて高いオン/オフ比を実現することができた。
【0042】
例3:導電性非晶質炭素バッファ層の有無による諸特性への影響
例1で作製された、非晶質炭素バッファ層を有する薄膜トランジスタ(IGZO活性層の厚さ:500Å)について、例2と同様にしてゲート電圧Vgとドレイン電流Idの関係を測定した。得られた結果は図5に示される通りであった。なお、図5において上側の2本のId-Vg特性線が左側の対数スケールに対応し、下側の2本のId-Vg特性線が右側のリニアスケールに対応している。得られた結果に基づいて、閾値電圧Vth(V)とキャリア移動度μ(cm2/sV)を算出した。閾値電圧Vthは、ドレイン電流Idが0Aを超える際のゲート電圧VgをリニアスケールによるId-Vg特性線から読み取ることにより決定した。また、キャリア移動度の算出は、リニアスケールによるId-Vg特性線の比例定数を求めることにより行った。また、比較のため、非晶質炭素バッファ層を有しないこと以外は例1と同様にして作製された薄膜トランジスタのサンプルについても同様の測定を行った。結果は、表2に示される通りであった。
【0043】
【表2】

【0044】
例4:他の組成の導電性炭素バッファ層を用いた薄膜トランジスタの作製および評価
In:Ga:Zn:O=1:1:1:4 (at比)の組成に代えて、In:Ga:Zn:O=2:2:1:7 (at比)の組成を有するIGZOターゲットを使用したこと以外は例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製して、例2および3と同様の評価を行った。その結果、例1で作製された薄膜トランジスタとほぼ同様の結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、酸化物半導体からなる活性層とを備えた薄膜トランジスタであって、
前記活性層と前記ソース電極の間および前記活性層と前記ドレイン電極の間に、炭素製のバッファ層が設けられてなる、薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記酸化物半導体が、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、および酸化ガリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含んでなる、請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記酸化物半導体が、少なくとも酸化亜鉛を含んでなる、請求項1または2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記酸化物半導体が、酸化ガリウムおよび酸化インジウムを含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記酸化物半導体が、In-Ga-Zn-O(IGZO)である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項6】
前記活性層が、200〜1000Åの厚さを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項7】
前記バッファ層が、非晶質炭素からなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項8】
前記非晶質炭素には、炭素および水素以外の不純物が実質的にドープされていない、請求項7に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項9】
前記バッファ層が、3〜30nmの厚さを有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項10】
基板上に、前記ゲート電極、前記ゲート絶縁膜、前記活性層、前記バッファ層、ならびに互いに離間して配設される前記ソース電極およびドレイン電極が順次積層されてなるボトムゲート型である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項11】
基板上に、前記活性層、前記バッファ層、互いに離間して設けられる前記ソース電極およびドレイン電極、前記ゲート絶縁膜、ならびに前記ゲート電極が順次積層されてなる、トップゲート型である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項12】
ボトムゲート型薄膜トランジスタの製造方法であって、
基板上にゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上に酸化物半導体からなる活性層を形成する工程と、
前記活性層上に炭素製のバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層上にソース電極およびドレイン電極用の電極層を形成する工程と、
前記電極層の一部をエッチングにより除去して、ソース電極およびドレイン電極を互いに離間させて形成し、かつ、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間で前記バッファ層を露出させる工程と
前記バッファ層の露出部分を酸素アッシングにより除去して、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間で前記活性層を露出させる工程と
を含んでなる、方法。
【請求項13】
トップゲート型薄膜トランジスタの製造方法であって、
基板上に酸化物半導体からなる活性層を形成する工程と、
前記活性層上に炭素製のバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層上にソース電極およびドレイン電極用の電極層を形成する工程と、
前記電極層の一部をエッチングにより除去して、ソース電極およびドレイン電極を互いに離間させて形成し、かつ、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間で前記バッファ層を露出させる工程と
前記バッファ層の露出部分を酸素アッシングにより除去して、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間で前記活性層を露出させる工程と
前記ドレイン電極、前記ソース電極、ならびに前記ソース電極および前記ドレイン電極の間で露出した前記活性層の上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と
を含んでなる、方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタを備えたデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−108882(P2011−108882A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263054(P2009−263054)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】