説明

GaN系電界効果トランジスタおよびその製造方法

【課題】低抵抗・高耐圧で電流コラプス現象の影響の小さいGaN系電界効果トランジスタおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】GaN系電界効果トランジスタ(MOSFET)100は、基板101上に、p−GaNからなるチャネル層104、電子供給層106、電子供給層よりもバンドギャップエネルギーが小さい表面層107を順次積層し、電子供給層および表面層の一部をチャネル層に到る深さまで除去してリセス部108を形成したものである。表面層上には、リセス部を挟んでソース電極109およびドレイン電極110が形成され、表面層上およびチャネル層表面を含むリセス部内表面上にゲート絶縁膜111が形成され、さらにリセス部においてゲート絶縁膜上にはゲート電極112が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーエレクトロニクス用デバイスや高周波増幅デバイスとして用いられる窒化物系化合物半導体からなるGaN系電界効果トランジスタおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
III−V族窒化物系化合物半導体に代表されるワイドバンドギャップ半導体は、高い絶縁破壊耐圧、良好な電子輸送特性、良好な熱伝導度を持つので、高温環境用、ハイパワー用、あるいは高周波用の半導体デバイスの材料として非常に期待されている。たとえば、AlGaN/GaNヘテロ構造は、ピエゾ効果によって、界面に2次元電子ガスが発生している。この2次元電子ガスは、高い電子移動度とキャリア密度を有しており、高周波用デバイスとしてすでに実用化されている。また、AlGaN/GaNヘテロ構造を用いたヘテロ接合電界効果トランジスタ(HFET)は、低いオン抵抗、および速いスイッチング速度を持ち、高温動作が可能である。これらの特徴は、ハイパワー用スイッチング素子としての応用に非常に好適である。
【0003】
通常のAlGaN/GaN HFETは、ゲートにバイアスが印加されていないときにドレイン電流が流れ、ゲートに負電圧を印加することによってドレイン電流が遮断されるノーマリオン型デバイスである。一方、ハイパワー用スイッチング素子においては、デバイスが壊れたときの安全性確保のために、ゲートにバイアス(正電圧)が印加されていないときには電流が流れず、ゲートに正電圧を印加することによって電流が流れるノーマリオフ型デバイスが好ましい。
【0004】
ノーマリオフ型デバイスを実現するためには、MOS構造を採用する必要があり、いくつかの研究機関で検討が進められている(例えば非特許文献1)。非特許文献1の構造では、ゲート・ドレイン間のn型層をイオン注入によって形成している。しかしながら、現状の技術ではイオン注入によって形成したn型層の抵抗を低くすることが困難であり、低抵抗と高耐圧の両立が困難であった。
【0005】
一方、特許文献1には、AlGaNなどからなる電子供給層をゲート部分においてチャネル層までエッチングし、チャネル層のエッチング表面上に絶縁層を形成してMOS構造とした電界効果トランジスタ(MOSFET)が開示されている。この構造では、ゲート−ドレイン間をAlGaN/GaNからなるヘテロ接合構造で形成しており、このヘテロ接合構造によって発生する2次元電子ガスは電子移動度が高いため、高耐圧を維持するために必要な低いシートキャリア密度であっても、オン抵抗の増大を防ぐことができる。すなわち、高耐圧と低オン抵抗の両立を実現するのに適した構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 03/071607号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Huang W, Khan T, Chow T P: Enhancement-Mode n-Channel GaN MOSFETs on p and n- GaN/Sapphire substrates. In: 18th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD) 2006 (Italy), 10-1.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、AlGaN/GaNヘテロ接合構造は、印加電圧に対してドレイン電流が経時的に変化する「電流コラプス」と呼ばれる現象の影響を受け、ゲート−ドレイン間に高電圧をかけたあとのオン抵抗の増大、順方向通電時のオン抵抗の増大などの問題があった。
【0009】
電流コラプスの原因としては、HFETのAlGaN層と表面保護膜の間の界面準位や、素子を構成する半導体層内の深いエネルギー準位が影響していると考えられている。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、低抵抗・高耐圧で電流コラプス現象の影響の小さいGaN系電界効果トランジスタおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、基板と、前記基板の上に形成されたp型またはアンドープのGaN系化合物半導体材料からなるチャネル層と、前記チャネル層上に形成され、前記チャネル層よりもバンドギャップエネルギーが大きいGaN系化合物半導体材料からなる電子供給層と、前記電子供給層上に形成され、前記電子供給層よりバンドギャップエネルギーが小さいGaN系化合物半導体材料からなる表面層と、前記表面層上、および前記表面層と前記電子供給層の一部を除去して表出させた前記チャネル層の表面を底面とするリセス部の内表面上に形成された絶縁膜と、前記リセス部の前記絶縁膜上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極を挟んで形成され、前記チャネル層と電気的に接続されたソース電極及びドレイン電極と、を備えることを特徴とするGaN系電界効果トランジスタである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記電子供給層と前記チャネル層との間に、前記電子供給層よりもバンドギャップエネルギーが小さく、前記チャネル層より不純物濃度の低いp型またはアンドープのGaN系化合物半導体材料からなるドリフト層を備えていることを特徴とするGaN系電界効果トランジスタである。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記表面層がn型またはアンドープのGaNであることを特徴とするGaN系電界効果トランジスタである。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記表面層がAlxGa1-xNであり、前記電子供給層がAlyGa1-yN(ただし、x<y)であることを特徴とするGaN系電界効果トランジスタである。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記電子供給層がAlGa1-zN(0≦z<1)であり、Al組成比zが表面側に行くにつれて小さくなり、前記電子供給層の最表面において前記n型またはアンドープのGaNからなる表面層となることを特徴とするGaN系電界効果トランジスタである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、GaN系化合物半導体からなる半導体層と絶縁膜との間の表面準位密度を低減することができるため、電流コラプス現象の影響の少ない高耐圧・低抵抗のGaN系電界効果トランジスタを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態に係るMOSFETの模式的な断面図である。
【図2】図1に示すMOSFETの製造方法の一例を説明する図である。
【図3】図1に示すMOSFETの製造方法の一例を説明する図である。
【図4】図1に示すMOSFETの製造方法の一例を説明する図である。
【図5】図1に示すMOSFETの製造方法の一例を説明する図である。
【図6】図1に示すMOSFETの製造方法の一例を説明する図である。
【図7】第2実施形態に係るMOSFETの模式的な断面図である。
【図8】第3実施形態に係るMOSFETの模式的な断面図である。
【図9】第4実施形態に係るMOSFETの模式的な断面図である。
【図10】第5実施形態に係るMOSFETの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して本発明に係るGaN系電界効果トランジスタおよびGaN系電界効果トランジスタの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るGaN系MOS型電界効果トランジスタ(以下、「MOSFET」という。)の模式的な断面図である。このMOSFET100は、サファイア、SiC、Siなどからなる基板101上に、GaN層とAlN層とを交互に積層して形成したバッファ層103と、p−GaNからなるチャネル層104が形成されている。チャネル層104上には、アンドープGaN(u−GaN)からなるドリフト層105と、ドリフト層105のGaN系半導体材料よりバンドギャップエネルギーが大きいAlGaNからなる電子供給層106と、u−GaNからなる表面層107を順次積層し、ドリフト層105、電子供給層106および表面層107の一部をチャネル層104に到る深さまで除去して開口部を設け、リセス部108を形成したものである。
【0020】
表面層107上には、リセス部108を挟んでソース電極109およびドレイン電極110が形成されている。表面層107上とチャネル層104の表面104aを含むリセス部108の内表面上とには、SiOなどからなるゲート絶縁膜111が形成され、さらにリセス部108におけるゲート絶縁膜111上にはゲート電極112が形成されている。なお、図面上ではリセス部108内におけるチャネル層104の表面104aはチャネル層104の上面近傍に位置しているが、その表面104aの深さについてはチャネル層104内で適宜設定することができる。また、ゲート絶縁膜111の表面層107上の部分は、表面保護膜に相当する。
【0021】
このように、MOSFET100では、電子供給層106は、ゲート絶縁膜111直下のチャネル層104、ゲート絶縁膜111およびゲート電極112で構成されるMOS構造のゲート部を挟んで互いに離隔された第1の電子供給層106aと第2の電子供給層106bとを有する。チャネル層104と第1の電子供給層106aの間、およびチャネル層104と第2の電子供給層106bとの間には、チャネル層104よりも不純物密度の低いp型またはアンドープのGaN系化合物半導体材料からなるドリフト層105がそれぞれ形成されている。
【0022】
このMOSFET100では、ゲート部の左右のドリフト層105の表面には、第1の電子供給層106a,第2の電子供給層106bがそれぞれヘテロ接合しているため、界面近傍には2次元電子ガス層130が形成される。そのため、2次元電子ガス層130がキャリアとなってドリフト層105は導電性を示すようになる。この2次元電子ガス層130によって、チャネルの抵抗、即ちMOSFET100のオン抵抗を小さくすることができる。
【0023】
また、このMOSFET100では、チャネル層104のゲート電極112直下の領域では、電子供給層106が存在しないため、2次元電子ガス層が形成されていない。ゲート電極112に閾値以上の正電圧を印加すると、ゲート電極112直下のチャネル層104に反転層140が形成される。この反転層140が、ゲート部の左右に形成された2次元電子ガス層130と連結されてドレイン電流が流れるようになっている。このようにして、ノーマリオフ型の電界効果トランジスタの動作が得られる。
【0024】
つぎに、このMOSFET100の製造方法について説明する。図2〜6は、MOSFET100の製造方法の一例を説明する説明図である。なお、以下では、有機金属気相成長(MOCVD)法を用いた場合について説明するが、特に限定はされない。
【0025】
はじめに、図2に示すように、(111)面を主表面とするSiからなる基板101をMOCVD装置にセットし、濃度100%の水素ガスをキャリアガスとして用い、トリメチルガリウム(TMGa)とトリメチルアルミニウム(TMAl)とNHとを、それぞれ導入し、成長温度1050℃で、基板101上に、バッファ層103、p−GaNからなるチャネル層104を順次エピタキシャル成長させる。なお、チャネル層104に対するp型のドーピング源としてビスシクロペンタディエニルマグネシウム(CpMg)を用い、Mgの濃度が1×1017cm−3程度になるようにCpMgの流量を調整する。
【0026】
つぎに、TMGaとNHとを、それぞれ導入し、成長温度1050℃で、チャネル層104上にアンドープGaNからなるドリフト層105をエピタキシャル成長させる。つぎに、TMAlとTMGaとNHとを、それぞれ導入し、ドリフト層105上にAl組成が25%程度のAlGaNからなる電子供給層106をエピタキシャル成長させる。つぎに、TMGaとNHとを、それぞれ導入し、電子供給層106上に表面層107をエピタキシャル成長させる。
【0027】
なお、上記において、バッファ層103は、厚さ200nm/20nmのGaN/AlN複合層を8層積層したものとする。また、AlN層102、チャネル層104、ドリフト層105、電子供給層106、表面層107の厚さは、それぞれ100nm、500nm、100nm、20nm、20nmとする。
【0028】
つぎに、図3に示すように、プラズマ化学気相成長(PCVD)法を用いて、表面層107上に、アモルファスシリコン(a−Si)からなるマスク層120を厚さ500nmで形成し、フォトリソグラフィとCFガスを用いてパターニングを行い、開口部120aを形成する。
【0029】
つぎに、図4に示すように、マスク層120をマスクとして、Clガスを用いてチャネル層104、ドリフト層105、電子供給層106および表面層107の一部をエッチングにより除去して、底面がチャネル層の表面近傍に達するリセス部108を形成する。
【0030】
つぎに、図5に示すように、マスク層120を除去し、SiHとNOを原料ガスとしたPCVD法を用いて、表面層107上と、チャネル層104の表面104aを含むリセス部108の内表面とにSiOからなる厚さ60nmのゲート絶縁膜111を形成する。
【0031】
つぎに、図6に示すように、リセス部108の左右の表面層107に対応する部分のゲート絶縁膜111の一部をフッ酸で除去し、リフトオフ法を用いて表面層107上にソース電極109およびドレイン電極110を形成する。なお、ソース電極109、ドレイン電極110は、いずれも厚さ25nm/300nmのTi/Al構造とする。また、金属膜の成膜は、スパッタ法や真空蒸着法を用いて行うことができる。そして、ソース電極109、ドレイン電極110を形成後、600℃、10分のアニールを行なう。
【0032】
つぎに、リフトオフ法を用いて、リセス部108にTi/Al構造のゲート電極112を形成し、図1に示すMOSFET100が完成する。
以上の工程によって本発明の第1実施形態に係るMOSFET100を製造することができる。
【0033】
本発明の第1実施形態に係るMOSFET100は、以下の作用効果を奏する。
電子供給層106上に、電子供給層106のGaN系半導体材料よりバンドギャップエネルギーが小さいGaN系化合物半導体材料からなる表面層107が形成され、この表面層107上に絶縁膜(ゲート絶縁膜111の表面層107上の部分)が形成されている。このため、電子供給層106上に絶縁膜が直接形成されている場合と比べて界面準位密度が低減され、電流コラプスの発生を抑制することができる。従って、耐圧が高く、オン抵抗が低く、電流コラプスによる特性変動の影響を受けにくい電界効果トランジスタを実現できる。
【0034】
また、表面層107と電子供給層106の一部を除去して表出させたチャネル層104の表面を底面とするリセス部の内表面上に絶縁膜(ゲート絶縁膜111)を形成しているので、ゲート部分の両側では、電子供給層106とチャネル層104のヘテロ接合界面直下に高濃度の2次元電子ガス層130が形成され、チャネルの抵抗、即ち電界効果トランジスタのオン抵抗を小さくする効果がある。また、ゲート電極112直下のチャネル層104には、電子供給層106とのヘテロ接合構造が形成されないため、2次元電子ガス層が形成されていない。このためゲート電極112に正電圧が引加されていない場合、ゲート部分の両側に形成された2次元電子ガス層130は、互いに接続されていないため、ドレイン電流が流れることはない。ゲート電極112に順方向に閾値以上の電圧を印加すると、ゲート電極112直下のチャネル層104に反転層140が形成される。この反転層140が、ゲート部分の両側のチャネル層104に形成された2次元電子ガス層130と連結されてドレイン電流が流れるようになっている。これにより、ノーマリオフ型の電界効果トランジスタの動作が得られる。
【0035】
また、MOSFET100は、電子供給層よりもバンドギャップエネルギーが小さく、チャネル層より不純物濃度の低いp型またはアンドープのGaN系化合物半導体材料からなるドリフト層が電子供給層とへテロ接合し、ドリフト層の表面近傍に、高濃度の2次元電子ガス層が形成される。ここで、ドリフト層は、チャネル層よりもp型の不純物濃度が低いため、チャネルの抵抗、即ち電界効果トランジスタのオン抵抗を更に小さくすることができ、低いオン抵抗と、高速のスイッチング動作とを実現できる。
【0036】
(第2実施形態)
つぎに、本発明の第2実施形態に係るMOSFETについて説明する。図7は、本発明の第2実施形態に係るMOSFETの模式的な断面図である。図7に示すように、MOSFET200では、表面層207はn型GaNからなっている。MOSFET200のその他の構成はMOSFET100と同様である。このような表面層207を得るためには、エピタキシャル成長にあたって、n型のドーピング源としてSiHを用い、表面層207中のSiの濃度が1×1018cm−3程度となるようにSiHの流量を調整する。
【0037】
本発明の第2実施形態に係るMOSFET200は、第1実施形態に加え、以下の作用効果を奏する。
MOSFET200は、絶縁膜111が形成される表面層207をn型にドーピングされたGaN層とすることによって、ソース電極109またはドレイン電極110と表面層207との間のオーミック接触抵抗を低減することができる。
【0038】
(第3実施形態)
つぎに、本発明の第3実施形態に係るMOSFET300について説明する。図8は、本発明の第3実施形態に係るMOSFET300の模式的な断面図である。このMOSFET300では、表面層307がAlGaNからなっており、表面層307のAl組成比は、AlGaNからなる電子供給層306のAl組成比よりも小さくなっている。MOSFET300のその他の構成は、第1実施形態のMOSFET100と同様である。このような表面層307を得るためには、ドリフト層105上にAl組成比が25%のAlGaNからなる電子供給層306をエピタキシャル成長させ、さらに、電子供給層306上にAl組成比が5%のAlGaNからなる表面層307をエピタキシャル成長させる。
【0039】
本発明の第3実施形態に係るMOSFET300は、第1実施形態に加え、以下の作用効果を奏する。
表面層307として電子供給層306よりもAl組成比が小さいAlGaNを用いることで、表面層307とゲート絶縁膜111間の界面準位が低減され、電流コラプスを低減することができる。表面層307として用いるAlGaNのAl組成比は、0%より大きく、15%以下が好ましい。
【0040】
(第4実施形態)
つぎに、本発明の第4実施形態に係るMOSFET400について説明する。図9は、本発明の第4実施形態に係るMOSFET400の模式的な断面図である。図9に示すように、MOSFET400では、電子供給層406が基板101側から徐々にAl組成比が小さくなるAlGaNからなっており、電子供給層406の表面側は表面層を兼ねている。つまり、電子供給層406がAlGa1-zN(0≦z<1)であり、Al組成比zが表面側に行くにつれて小さくなり、電子供給層406の最表面においてn型またはアンドープのGaNからなる表面層となっている。電子供給層406のAl組成比zは、基板101側では、15〜25%であり、表面側では、0〜15%であることが好ましい。このような電子供給層406は、成長時の原料ガスの流量を調整する、具体的には、経時的にTMAlの流量を減少させることで得ることができる。
【0041】
このような構成とすることで、電子供給層406は、基板101側ではドリフト層とヘテロ接合構造を構成して2次元電子ガス層を発生させ、表面側では表面層をかねることで絶縁膜(ゲート絶縁膜111)との間の界面準位密度を低減することができる。
【0042】
(第5実施形態)
つぎに、本発明の第5実施形態に係るMOSFETについて説明する。図10に示すように、第5実施形態に係るMOSFET500では、ソース電極509およびドレイン電極510が形成される部分の表面層507が除去されて電子供給層506に達するリセス部が形成されている。ソース電極509およびドレイン電極510は、表面層507に形成されたリセス部内の電子供給層506表面に形成されているが、MOSFET500のその他の構成は第1実施形態のMOSFET100と同様である。
【0043】
このような構成とすることで、ソース電極509およびドレイン電極510は直接電子供給層506に接しているので、ソース電極およびドレイン電極のオーミック接触抵抗を低減するのに有利である。
また、本実施形態で記載したリセスオーミック構造を、上記第1〜4実施形態で記載した表面層構造と組み合わせることもできる。
【0044】
また、ソース電極509およびドレイン電極510を形成するリセス部の深さは、少なくとも電子供給層506の表面に達していれば良いが、ドリフト層105まで達していても良い。この場合、ドリフト層105は、電子供給層506と比較してバンドギャップエネルギーが小さいため、各電極とオーミック接触を取りやすく、かつ、2次元電子ガス層130に近接して電極を形成することができるため、接触抵抗を更に低減することができる。
【0045】
本発明のGaN系電界効果トランジスタは、上記の構成に制限されず、従来用いられている様々な構成と組み合わせることができる。例えば、第5実施形態では、表面層をエッチングすることによって電子供給層に直接オーミック電極を形成し、接触抵抗を低減していたが、イオン注入法、拡散法、選択成長法等の方法によって表面層に高濃度のn型コンタクト領域を形成し、コンタクト領域上にソース電極およびドレイン電極を形成してもよい。
【0046】
なお、この発明は以下のように変更して具体化することもできる。
本発明の各実施形態においては、ドリフト層と電子供給層の組み合わせとしてAlGaN/GaNを例にとって記載したが、これ以外にも、AlInGaN/GaN、GaN/InGaN、GaN/GaNAs、GaN/GaInNAsP、GaN/GaInNP、GaN/GaNP、AlGaNInNAsP/GaN、または、AlGaN/AlInGaNなどの材料系の組み合わせを適用することが可能である。
【0047】
また、上記各実施形態では、チャネル層104がp−GaNからなる場合について説明したが、これに限らず、アンドープのGaNからなる場合であっても同様の効果を得ることができる。なお、チャネル層104をアンドープのGaNによって形成した場合、不純物をドーピングしないため反転層140が形成される部分のキャリア移動度を高く保つことができるという顕著な効果を奏する。
【0048】
また、チャネル層104、およびドリフト層105がいずれもアンドープのGaNの場合、ドリフト層105のカーボン濃度をチャネル層104のカーボン濃度よりも高い、所定の濃度にするように設定する。すなわち、チャネル層104のカーボン濃度は、移動度を高くするために、できるだけ低くすることが望ましい。一方、ドリフト層105のカーボン濃度は、ドリフト層105に形成される2次元電子ガスのキャリア濃度が、ゲート・ドレイン間の電界集中緩和のための最適値になるように設定する。GaN層中のカーボン濃度は、成長圧力を調整することによって、適宜設定することができる。
【0049】
上記各実施形態において、2次元電子ガス層の移動度を向上させるため、ドリフト層と電子供給層間に例えばAlNからなるスペーサ層を導入してもよい。
また、各実施形態においては、ゲート絶縁膜としてSiOを例にとって記載したが、絶縁膜の材料としてはSiO以外にもAlN、Al、Ga、TaO、SiN、またはSiONなどを用いることができる。さらにSiOの成膜方法としてはPCVD法を例にとって記載しているが、APCVD法、スパッタ法、ECR-スパッタ法などの手法を用いることができる。
【0050】
上記第1実施形態では、チャネル層104と第1の電子供給層106aおよび第2の電子供給層106bとの間に、チャネル層104よりも不純物密度の低いp型またはアンドープのGaN系化合物半導体からなるドリフト層105がそれぞれ形成されているが、本発明はこれに限定されない。つまり、上記各実施形態で説明したドリフト層が無く、p型GaN系化合物半導体からなるチャネル層104上に直接、第1の電子供給層106aおよび第2の電子供給層電子供給層106bがそれぞれ形成されている構成のMOSFETにも本発明は適用可能である
【符号の説明】
【0051】
100〜500 MOSFET
101 基板
103 バッファ層
10 チャネル層
104a 表面
105 ドリフト層
106、306,406,506 電子供給層
107、207、307、507 表面層
108 リセス部
109、509 ソース電極
110、510 ドレイン電極
111 ゲート絶縁膜
112 ゲート電極
120 マスク層
120a 開口部
130 2次元電子ガス層
140 反転層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に形成されたp型またはアンドープのGaN系化合物半導体材料からなるチャネル層と、
前記チャネル層上に形成され、前記チャネル層よりもバンドギャップエネルギーが大きいGaN系化合物半導体材料からなる電子供給層と、
前記電子供給層上に形成され、前記電子供給層よりバンドギャップエネルギーが小さいGaN系化合物半導体材料からなる表面層と、
前記表面層上、および前記表面層と前記電子供給層の一部を除去して表出させた前記チャネル層の表面を底面とするリセス部の内表面上に形成された絶縁膜と、
前記リセス部の前記絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極を挟んで形成され、前記チャネル層と電気的に接続されたソース電極及びドレイン電極と、
を備えることを特徴とするGaN系電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記電子供給層と前記チャネル層との間に、前記電子供給層よりもバンドギャップエネルギーが小さく、前記チャネル層より不純物濃度の低いp型またはアンドープのGaN系化合物半導体材料からなるドリフト層を備えていることを特徴とする請求項1に記載のGaN系電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記表面層がn型またはアンドープのGaNであることを特徴とする請求項1または2に記載のGaN系電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記表面層がAlxGa1-xNであり、前記電子供給層がAlyGa1-yN(ただし、x<y)であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のGaN系電界効果トランジスタ。
【請求項5】
前記電子供給層がAlGa1-zN(0≦z<1)であり、Al組成比zが表面側に行くにつれて小さくなり、前記電子供給層の最表面において前記n型またはアンドープのGaNからなる表面層となることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のGaN系電界効果トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−166027(P2010−166027A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267566(P2009−267566)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】