説明

半導体装置及びその製造方法

【課題】N型シリコン層上に優れた耐熱性を持つNiシリサイド層を形成できるようにする。
【解決手段】ゲート電極4の上及びソース・ドレイン拡散層7の上にAl膜8及びNi膜9を順次堆積した後、熱処理を実施し、ゲート電極4及びソース・ドレイン拡散層7を構成するN型シリコン層の上部にAl含有Niシリサイド層10を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及びその製造方法に関し、特にシリサイド層の構造及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にMOS(metal-oxide semiconductor )トランジスタでは、コンタクト抵抗及び配線抵抗などの寄生抵抗を低減することが動作速度を向上するための重要な要素である。これらのトランジスタの寄生抵抗の低減は、一般にソース・ドレイン領域及びゲート電極のそれぞれの上部をシリサイド化することにより行われている。
【0003】
大規模な半導体集積回路装置(LSI)の集積度を上げるためには、横方向寸法を縮小するだけではなく、縦方向寸法の縮小化も必要である。縦方向寸法の縮小化の1つとして、ソース・ドレイン領域の不純物拡散層の接合深さを浅くする必要がある。しかしながら、半導体基板内の拡散層の厚さを薄くすると、拡散層の抵抗が高くなり、半導体装置の動作速度が低下するという問題がある。これに対しては、拡散層の表層に金属シリサイド層を形成し、それによってソース・ドレイン抵抗を下げることが有効である。金属シリサイド層を形成する方法としては、シリコン基板上及びゲート電極となるポリシリコン上に金属膜を堆積し、当該金属膜に熱処理を加えることにより、シリコンと金属とを反応させ、それによってソース・ドレイン領域及びゲート電極のそれぞれの上部をシリサイド化する方法が従来から用いられてきた。尚、ソース・ドレイン領域の不純物拡散層を浅接合にする場合には、シリサイド層を形成する材料として、シリサイド化反応時のシリコン消費量を低減できる材料を用いる必要がある。
【0004】
シリコン消費量を低減することが可能な材料として低抵抗なモノシリサイドを形成するニッケル(Ni)を用いたシリサイド形成技術が開発されている。
【0005】
ところが、Niシリサイドのダイシリサイド相であるNiSi2 は、シリコンの格子定数に非常に近い格子定数を有するため、後工程の高温熱処理や不適切なプロセス条件に起因して逆ピラミッド状の界面を形成することが知られている。また、シリサイド膜は凝集によって高抵抗化することも知られている。従って、後工程の高温熱処理の温度に対する耐性(耐熱性)を向上させ、それによって安定にNiシリサイドを形成する方法が必要となる。このような方法として、シリサイドを合金化する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。この先行技術において、低抵抗モノシリサイド相であるNiSiに添加することによってNiSiを安定化させる効果を奏する元素として、Ge、Ti、Re、Ta、N、V、Ir、Cr及びZrが挙げられている(例えば非特許文献1参照)。また、Zrと良く似た物理化学的性質を示す元素であるHfについても、同様の効果が得られることを示唆する報告がなされている(例えば非特許文献2参照)。さらに、Mo、Ir、Co及びPtなどについても、同様の効果が得られることを示唆する報告がなされている(例えば非特許文献3〜5参照)。
【特許文献1】米国特許第6689688号公報(“Method And Device Using Silicide Contacts For Semiconductor Processing”, Paul Raymond Besser, 2004/Feb/10)
【非特許文献1】Min-Joo Kim, Hyo-Jick Choi, Dae-Hong Ko, Ja-Hum Ku, Siyoung Choi, Kazuyuki Fujihara, and Cheol-Woong Yang,“High Thermal Stability of Ni Monosilicide from Ni-Ta Alloy Films on Si(100)”, Electrochem. Solid-State Lett. 6, 2003年, G122
【非特許文献2】項端飛(東工大)、“Hfを添加したNiシリサイドの形成“、第65回応用物理学会学術講演会−講演予稿集、2004年秋季9月1日〜4日、p.708(講演番号2P−M−10)
【非特許文献3】Young-Woo Ok, Chel-Jong Choi, and Tae-Yeon Seong, “Effect of a Mo Interlayer on the Electrical and Structural Properties of Nickel Silicides”, J. Electrochem. Soc. 150, 2003年, G385
【非特許文献4】Jer-shen Maa, Yoshi Ono, Douglas J. Tweet, Fengyan Zhang, and Sheng Teng Hsu, “Effect of interlayer on thermal stability of nickel silicides”, J. Vac. Sci. Technol. A 19, 2001年, p.1595
【非特許文献5】D. Mangelinck, J. Y. Dai, J. S. Pan, and S. K. Lahiri, “Enhancement of thermal stability of NiSi films on (100)Si and (111)Si by Pt addition ”, Appl. Phys. Lett. 75, 1999年, p.1736
【非特許文献6】E. Horach, J.E. Fischer, and J.Von. der Spiegel, “Nb/Ni and Ni/Nb bilayers on Si:Rapid thermal processing, phase separation, and ternary phase formation”, J. Appl. Phys. 69, 1991年, p.7029
【非特許文献7】R.N. Wang and J.Y. Feng, “Comparison of the thermal stabilities of NiSi films in Ni/Si, Ni/Pd/Si and Ni/Pt/Si Systems”, J. Phys.:Condens. Matter 15, 2003年, p.1935
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者らは、Niシリサイドの耐熱性向上を目的として、上記各種文献に記載されている元素を用いた場合の効果を検討してみた。
【0007】
まず、非特許文献6及び7に示されているNi金属膜と他の金属膜との積層膜を形成してそれらを合金化する方法に関し、他の金属膜をHf、Zr、Pt、Ta及びV等により構成した場合の効果を検討してみたところ、著しい耐熱性向上を示す元素を見つけることができなかった。また、上記金属膜の積層方法として、他の金属膜をNi金属膜とシリコン層との界面に挿入する方法、他の金属膜をNi金属膜表面に堆積する方法、又は第1のNi金属膜と第2のNi金属膜との間に他の金属膜を挿入する方法を試みたが、いずれの場合にも耐熱性向上効果は得られなかった。
【0008】
また、本願発明者らがさらに実験を進めた結果、Ni単層膜を用いて形成したNiシリサイド層、又はNi膜とHf、Zr、Pt、Ta若しくはV等の他の金属膜とを堆積して形成した他金属含有シリサイド層では、下地基板の注入不純物種(N型不純物、P型不純物)によってNiシリサイドの耐熱性が異なり、下地基板の注入不純物がN型である場合、当該不純物がP型である場合と比較して、耐熱性が大きく劣化するという新規な課題を見出した。具体的には、以下に詳細に説明するように、実験では、下地基板の注入不純物がN型である場合と当該不純物がP型である場合とで、耐熱性に約100℃以上の差が確認された。
【0009】
図6は、従来の半導体装置の一例としてのMOSトランジスタの断面構成を示している。図6に示すように、シリコン基板101にはMOSトランジスタ同士を電気的に分離する分離絶縁膜102が設けられている。シリコン基板101における分離絶縁膜102に囲まれたトランジスタ形成領域の上には、ゲート絶縁膜103を介して、ポリシリコン膜からなるゲート電極104が形成されている。シリコン基板101におけるゲート電極104の両側にはLDD(lightly doped drain )層105が形成されている。ゲート電極104の両側面にはサイドウォール絶縁膜106が形成されている。シリコン基板101におけるゲート電極104から見てサイドウォール絶縁膜106の外側にはソース・ドレイン拡散層107が形成されている。ゲート電極104及びソース・ドレイン拡散層107のそれぞれの上部にはNiシリサイド層111が形成されている。
【0010】
一般的に、LSI(large scale integrated circuit)を形成する場合にはCMOS(complementary metal-oxide semiconductor )構造を用いるため、MOSトランジスタとしてN型MOSトランジスタ及びP型MOSトランジスタの両方を形成する。図6は、当該CMOS構造の一部であるN型MOSトランジスタの断面構造を示したものである。
【0011】
また、図6に示したMOSトランジスタのNiシリサイド層111は、Ni単層膜を堆積した後に低温の熱処理を行うことによって得られたNiシリサイド層である。一般的に、500℃程度の低温熱処理によって形成されたNiシリサイドはNiモノシリサイド(NiSi)である。
【0012】
ところで、以上のように低温熱処理によって形成された図6に示すNiシリサイド層111は、その後の工程においても熱処理を受けることになる。このとき、後工程の熱処理温度が高いと、Niシリサイド層111がダイシリサイド相(NiSi2 )に変化したり、又は凝集を生じて断線し、その結果、Niシリサイド層111、つまりシリコン層上部に形成されたシリサイド層のシート抵抗値が非常に大きくなる。
【0013】
図7は、従来の半導体装置におけるシリコン層上に形成されたNiシリサイド層の耐熱性(具体的にはシート抵抗の熱処理温度依存性)を示す図である。尚、図7においては、シリコン基板にN型不純物が導入されてなるN+ 型ソース・ドレイン拡散層(図6のソース・ドレイン拡散層107に相当)の上又はN+ 型ポリシリコンからなるゲート電極(図6のゲート電極104に相当)の上に形成されたNiシリサイド層のシート抵抗の熱処理温度依存性と、シリコン基板にP型不純物が導入されてなるP+ 型ソース・ドレイン拡散層の上又はP+ 型ポリシリコンからなるゲート電極の上に形成されたNiシリサイド層のシート抵抗の熱処理温度依存性とを比較して示している。ここで、いずれのNiシリサイド層も厚さ12nmのNi単層膜を用いて形成したものである。
【0014】
図7に示すように、従来の半導体装置においては、N型シリコン層上に形成されたNiシリサイド層の耐熱性は、P型シリコン層上に形成されたNiシリサイド層の耐熱性と比較して約100℃低くなっており、今後のメモリ・ロジック混載型の半導体装置の製造プロセス等における500℃を超える高温熱処理において問題が生じることが予想される。尚、本願発明者らは、上記各種検討と同時に、Ni金属膜と他の金属膜との積層膜を形成してそれらを合金化する方法を、他の金属をHf、Zr、Pt、Ta及びV等として、N型シリコン層上でのNiシリサイド層の形成に適用してみたが、N型シリコン層上のNiシリサイド層の耐熱性を向上させることができる元素を見つけることができなかった。
【0015】
前記に鑑み、本発明は、下地基板等の注入不純物種(N型不純物、P型不純物)によってNiシリサイドの耐熱性が異なり、下地基板等の注入不純物がN型である場合にP型である場合と比べて耐熱性が大きく劣化するという問題を解決すること、つまり、N型シリコン層上に優れた耐熱性を持つNiシリサイド層を形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の目的を達成するために、本発明に係る半導体装置は、半導体基板上に形成されたゲート電極と、前記半導体基板における前記ゲート電極の両側に形成されたソース・ドレイン領域とを有するトランジスタを備えた半導体装置であって、前記ゲート電極及び前記ソース・ドレイン領域との少なくとも一方は、V族元素が不純物として導入されたN型シリコン含有層であり、前記シリコン含有層の上部に、アルミニウム、ガリウム又はタリウムの少なくとも1つである III族元素を含有するニッケルシリサイド層が形成されている。
【0017】
本発明の半導体装置において、前記 III族元素がアルミニウムである場合、前記ニッケルシリサイド層中のアルミニウムは、主として前記ニッケルシリサイド層の表面部に分布していてもよいし、又は前記ニッケルシリサイド層中のアルミニウムは、前記ニッケルシリサイド層における前記シリコン含有層との界面近傍にも分布していてもよい。
【0018】
また、本発明の半導体装置において、前記ニッケルシリサイド層中の III族元素は、前記ニッケルシリサイド層のグレインバウンダリにも分布していてもよい。
【0019】
さらに、前記の目的を達成するために、本発明に係る半導体装置の製造方法は、半導体基板上に形成されたゲート電極と、前記半導体基板における前記ゲート電極の両側に形成されたソース・ドレイン領域とを有するトランジスタを備えた半導体装置の製造方法であって、前記ゲート電極及び前記ソース・ドレイン領域との少なくとも一方は、V族元素が不純物として導入されたN型シリコン含有層であり、前記シリコン含有層の上に、アルミニウム、ガリウム又はタリウムの少なくとも1つである III族元素を含有する第1の膜を形成する工程と、前記第1の膜の上に、ニッケルを含有する第2の膜を形成する工程と、前記第1の膜及び前記第2の膜に対して熱処理を実施し、それによって、前記シリコン含有層の上部に、前記 III族元素を含有するニッケルシリサイド層を形成する工程とを備えている。ここで、本発明の半導体装置の製造方法は、トランジスタ間を分離する分離絶縁膜を形成する工程、ゲート電極の側面にサイドウォール絶縁膜を形成する工程、ゲート電極又はソース・ドレイン領域となるN型シリコン含有層の表面を清浄化する工程、及び、シリサイド層形成後に未反応の第1の膜( III族元素含有膜)及び第2の膜(ニッケル含有膜)を除去する工程等をさらに備えていてもよい。
【0020】
本発明の半導体装置の製造方法において、前記第1の膜がアルミニウム膜であり、前記第2の膜がニッケル膜である場合、前記ニッケル膜の膜厚に対する前記アルミニウム膜の膜厚の比率は2.5%以上で且つ25%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
従来の半導体装置においては、N型シリコン層上に形成されたNiシリサイド層の耐熱性は、P型シリコン層上に形成されたNiシリサイド層の耐熱性と比較して約100℃低くなるという問題が生じていたのに対して、本発明によると、N型シリコン層上に形成されたNiシリサイド層の耐熱性を、P型シリコン層上に形成されたNiシリサイド層の耐熱性と同程度まで向上させることができるという優れた効果が得られる。従って、Niシリサイド層形成後の後工程で高温プロセスが必要となる場合においても、半導体装置の耐熱性の劣化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る半導体装置について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る半導体装置の一例としてのMOSトランジスタの断面構成を示している。図1に示すように、シリコン基板1にはMOSトランジスタ同士を電気的に分離する分離絶縁膜2が設けられている。シリコン基板1における分離絶縁膜2に囲まれたトランジスタ形成領域の上には、ゲート絶縁膜3を介して、例えばポリシリコン膜からなるゲート電極4が形成されている。シリコン基板1におけるゲート電極4の両側にはLDD層5が形成されている。ゲート電極4の両側面にはサイドウォール絶縁膜6が形成されている。シリコン基板1におけるゲート電極4から見てサイドウォール絶縁膜6の外側にはソース・ドレイン拡散層7が形成されている。ゲート電極4及びソース・ドレイン拡散層7のそれぞれの上部にはNiシリサイド層10が形成されている。
【0024】
本実施形態の特徴は、Niシリサイド層10に、 III族元素であるアルミニウムが添加されていることである。
【0025】
一般的に、LSIを形成する場合にはCMOS構造を用いるため、MOSトランジスタとしてN型MOSトランジスタ及びP型MOSトランジスタの両方を形成する。本実施形態においても、図1は、当該CMOS構造の一部であるN型MOSトランジスタの断面構造を示したものである。すなわち、ゲート電極4は例えばリン(P)又はヒ素(As)等のV族元素が不純物として導入された高濃度N型(N+ 型)ポリシリコン膜からなり、ソース・ドレイン拡散層7は例えばP又はAs等のV族元素が不純物としてシリコン基板1に導入されてなる高濃度N型(N+ 型)シリコン層からなる。
【0026】
図2は、図1に示す半導体装置におけるAl含有Niシリサイド層10、ソース・ドレイン拡散層7及びシリコン基板1を、図1の矢印方向(AからA’へ向かう方向)にオージェ(AES:Auges electron spectroscopy )分析し、それにより得られた各元素のプロファイルを示している。尚、図2の横軸は表面はく離のためのスパッタリングの経過時間を示し、縦軸はオージェ電子のエネルギー強度を示している。ここで、Al含有Niシリサイド層10は、厚さ1.2nmのAl膜及び厚さ11nmのNi膜を順次堆積して熱処理を行うことにより得られたものである。また、図2に示す結果は、Al含有Niシリサイド層10の形成後に後工程で650℃の熱処理を実施することにより得られたものである。
【0027】
図2に示すように、後工程の650℃の熱処理を実施した後においては、Niシリサイド層10に含まれるアルミニウムは、主としてNiシリサイド層10の最表面部に分布している。
【0028】
すなわち、本実施形態のNiシリサイド層10は、ソース・ドレイン拡散層7上に最初に厚さ1.2nmのAl膜を堆積した後、厚さ11nmのNi膜を堆積し、その後、熱処理を行うことによってシリサイド化されたものであるにも関わらず、最表面部にAlが再分布する(含有される)という特徴を有する。
【0029】
図3は、上記本実施形態のAl含有Niシリサイド層におけるシート抵抗の熱処理温度依存性を、N+ 型シリコン層(図中ではN+ 基板)及びp+ 型シリコン層(図中ではP+ 基板)のそれぞれの上に形成された、Alを含有しない純粋なNiシリサイド層と比較して示した図である。ここで、純粋なNiシリサイド層は、シリコン基板上に厚さ12nmのNi膜を堆積した後、熱処理を行うことによってシリサイド化されたものである。
【0030】
図3に示すように、第1の従来例であるp+ 基板上のNiシリサイド層のシート抵抗(図中■)が700℃を超えてから上昇するのに対して、第2の従来例であるN+ 基板上のNiシリサイド層のシート抵抗(図中▲)は、それよりも約100℃低い625℃程度から上昇する。すなわち、第2の従来例であるN+ 基板上のNiシリサイド層の耐熱性は、第1の従来例であるp+ 基板上のNiシリサイド層の耐熱性よりも悪い。それに対して、本実施形態のAl含有Niシリサイド層(N+ 基板上のAl含有Niシリサイド層)のシート抵抗(図中●)は、第1の従来例であるp+ 基板上のNiシリサイド層のシート抵抗(図中■)とほほ同様の傾向を示しており、本実施形態のAl含有Niシリサイド層の耐熱性が、p+ 基板上のNiシリサイド層の耐熱性と同程度まで向上していることが分かる。
【0031】
本願発明者らは、Al膜をNi膜とシリコン層との間に挿入することによって、熱処理に起因するNiのシリコン中への拡散が防止されてNiシリサイドへの相変化やNiシリサイドの凝集が遅れることが、本実施形態のAl含有Niシリサイド層の耐熱性が向上する理由であると推測している。また、本願発明者らは、本実施形態のAl含有Niシリサイド層に対して600℃から725℃までの範囲の熱処理を加えた場合には、前述のように、Alが最終的にNiシリサイド層の最表面部に分布することを確認している。
【0032】
以上に説明したように、本実施形態によると、N型シリコン層上のNiシリサイド層に、 III族元素であるAlを含有させることによって、N型シリコン層上のNiシリサイド層の耐熱性(具体的にはシリサイド形成後の後工程での(プロセス上の)耐熱性:以下同じ)、つまりN型MOSトランジスタの耐熱性を、P型シリコン層上のNiシリサイド層の耐熱性つまりP型MOSトランジスタの耐熱性と同程度まで改善させることができるという優れた効果が得られる。従って、Niシリサイド層形成後の後工程で高温プロセスが必要となる場合においても、例えばCMOS構造を使用したLSI等の半導体装置の耐熱性の劣化を防止することができる。
【0033】
尚、本実施形態において、N型シリコン層上のNiシリサイド層に III族元素としてアルミニウムを含有させたが、これに代えて、ボロン(B)及びIn(インジューム)を除く他の III族元素、例えばガリウム(Ga)又はタリウム(Tl)等を含有させてもよい。もちろん、B及びInを除く III族元素を2種類以上含有させてもよい。また、B及びInを除く III族元素が少なくとも1種類含有されていれば、当該元素と共にB及びInの少なくとも一方が合わせて含有されていてもよい。
【0034】
また、本実施形態においてCMOS構造を採用する場合、P型MOSトランジスタに含まれるNiシリサイド層(P型シリコン層上のNiシリサイド層)については、Al等の III族元素を含有させてもよいし、又は含有させなくてもよい。
【0035】
また、本実施形態において、600℃から725℃までの範囲の熱処理を実施した後ではAlがNiシリサイド層の最表面部に分布することを説明したが、その他の温度範囲の熱処理の実施後においては、AlがNiシリサイド層におけるシリコン層との界面近傍にも分布する場合がある。さらに、微視的に見た場合、Niシリサイド層にAl等の III族元素を含有させると、当該元素は、Niシリサイド層のグレインバウンダリ(結晶粒界)にも分布する。本願発明者らは、これによってNiシリサイド層の凝集が抑制され、その結果、シート抵抗の熱処理温度依存性が改善されると推測している。
【0036】
また、本実施形態において、ソース・ドレイン領域及びゲート電極となるシリコン層上にNiシリサイド層を形成したが、Niシリサイドの形成が可能であれば、シリコン層に代えて、例えばシリコンゲルマニウム層等のシリコン含有層をNiシリサイド層の下地として用いてもよい。また、ソース・ドレイン領域及びゲート電極のいずれか一方の上のみにNiシリサイド層を形成してもよい。
【0037】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法、具体的には、第1の実施形態に係る半導体装置の一例であるMOSトランジスタの形成方法について、図面を参照しながら説明する。
【0038】
図4(a)〜図4(h)は第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法の各工程を示す断面図である。尚、図4(a)〜図4(h)はそれぞれ、N型MOSトランジスタ及びP型MOSトランジスタの両方を有するCMOS構造のうちのN型MOSトランジスタの断面構造を示している。
【0039】
まず、図4(a)に示すように、シリコン基板1上に、MOSトランジスタ同士を電気的に分離する分離絶縁膜2を形成する。次に、図4(b)に示すように、シリコン基板1における分離絶縁膜2に囲まれたトランジスタ形成領域の上に、ゲート絶縁膜3及び例えばポリシリコン膜を順次堆積した後、当該ポリシリコン膜をパターニングしてゲート電極4を形成する。
【0040】
次に、図4(c)に示すように、ゲート電極4をマスクとしてイオン注入を行うことにより、シリコン基板1におけるゲート電極4の両側にLDD層5を形成する。ここで、LDD層5に代えて、エクステンション(Extention )拡散層を形成してもよい。続いて、ゲート電極4上を含むシリコン基板1上に絶縁膜を堆積し、その後、当該絶縁膜に対してドライエッチングを行うことにより、ゲート電極4の両側面にサイドウォール絶縁膜6を形成する。
【0041】
次に、図4(d)に示すように、ゲート電極4及びサイドウォール絶縁膜6をマスクとしてイオン注入を行うことにより、シリコン基板1におけるゲート電極4から見てサイドウォール絶縁膜6の外側にソース・ドレイン拡散層7を形成する。ここで、ソース・ドレイン拡散層7を形成するために注入した元素は例えばAsであり、注入条件については、エネルギーが例えば30keV、ドーズ量が例えば4×1015cm-2である。これは、濃度に換算すると、5×1020cm-3であり、一般的に、1×1020cm-3以上の濃度を高濃度としている。すなわち、ソース・ドレイン拡散層7は高濃度N型(N+ 型)の拡散層である。また、上記イオン注入により、ゲート電極4を構成するポリシリコン膜もN+ 型となる。
【0042】
次に、ゲート電極4及びソース・ドレイン拡散層7のそれぞれのシリコン露出表面に対して、例えば希釈フッ酸を用いて清浄化処理を行った後、図4(e)に示すように、ゲート電極4の上を含むシリコン基板1の上に、例えばスパッタリング装置を用いて厚さ1.2nm程度のAl膜8を堆積する。続いて、図4(f)に示すように、Al膜8の上に厚さ11nm程度のNi膜9を堆積する。
【0043】
次に、Al膜8及びNi膜9に対して、例えばRTP(rapid thermal processing)装置を用いて、約300℃から約500℃までの温度範囲でアニールを行う。これにより、Ni膜9がAl膜8を挟んでシリコン層(つまりゲート電極4及びソース・ドレイン拡散層7)と接触している箇所でシリサイド化反応が生じ、図4(g)に示すように、Al含有Niシリサイド層10が形成される。このとき、分離絶縁膜2上及びサイドウォール絶縁膜6上には、シリサイド化されていない未反応のAl膜8及びNi膜9が金属状態のまま残存する。そこで、その後、例えば選択ウェットエッチングを用いて、分離絶縁膜2上及びサイドウォール絶縁膜6上の上記未反応金属を除去する。
【0044】
ところで、本実施形態においては、前述の図4(a)〜図4(h)に示す工程によってMOSトランジスタの形成が一応完了し、その後の後工程で熱処理として例えば400℃程度以下の低温熱処理のみを用いてLSIを完成させることができる場合もある。しかしながら、製造プロセスによっては、その後の後工程で高温熱処理を用いてLSIを完成させなければならない場合もあり、後工程でのNiシリサイド層10の耐熱性向上が望まれる。
【0045】
図2は、前述の図4(a)〜図4(h)に示す製造方法により形成された図1に示す半導体装置におけるAl含有Niシリサイド層10、ソース・ドレイン拡散層7及びシリコン基板1を、図1の矢印方向(AからA’へ向かう方向)にオージェ分析し、それにより得られた各元素のプロファイルを示している。尚、図2の横軸は表面はく離のためのスパッタリングの経過時間を示し、縦軸はオージェ電子のエネルギー強度を示している。また、図2に示す結果は、Al含有Niシリサイド層10の形成後に後工程で650℃の熱処理を実施することにより得られたものである。
【0046】
図2に示すように、後工程で650℃の熱処理を実施した後においては、Niシリサイド層10に含まれるアルミニウムは、主としてNiシリサイド層10の最表面部に分布する。
【0047】
図5は、上記本実施形態のAl含有Niシリサイド層におけるシート抵抗の熱処理温度依存性(耐熱性)を、N+ 型シリコン層(図中ではN+ 基板)及びp+ 型シリコン層(図中ではP+ 基板)のそれぞれの上に形成された、Alを含有しない純粋なNiシリサイド層と比較して示した図である。尚、図5においては、本実施形態のAl含有Niシリサイド層として、N+ 基板とNi膜との間に厚さ0.3nm、0.6nm、1.2nm及び2.4nmのAl膜をそれぞれ堆積して得られたAl含有Niシリサイド層の耐熱性を示している(上記図4(e)に示す工程ではAl膜の厚さを1.2nmに設定している)。ここで、Ni膜の厚さについては、Ni膜とAl膜との合計厚さが約12nmになるように調整している。但し、Al膜の厚さが0.3nm又は0.6nmと薄い場合にはNi膜の厚さを12nmに設定した。
【0048】
図5に示すように、第1の従来例であるp+ 基板上のNiシリサイド層のシート抵抗(図中■)が700℃を超えてから上昇するのに対して、第2の従来例であるN+ 基板上のNiシリサイド層のシート抵抗(図中▲)は、それよりも約100℃低い625℃程度から上昇する。すなわち、第2の従来例であるN+ 基板上のNiシリサイド層の耐熱性は、第1の従来例であるp+ 基板上のNiシリサイド層の耐熱性よりも悪い。
【0049】
それに対して、図5に示すように、本実施形態のAl含有Niシリサイド層(N+ 基板上のAl含有Niシリサイド層)のシート抵抗(図中●)は、第2の従来例であるN+ 基板上のNiシリサイド層のシート抵抗(図中▲)よりも低く抑制されている。すなわち、本実施形態のAl含有Niシリサイド層の耐熱性は、p+ 基板上のNiシリサイド層の耐熱性に大きく近づいている。
【0050】
また、図5に示す結果からも分かるように、N+ 基板とNi膜との間に挿入するAl膜の厚さを増大させるに従って、本実施形態のAl含有Niシリサイド層の耐熱性が向上し、p+ 基板上のNiシリサイド層の耐熱性により近くなる。しかしながら、Al膜の厚さが2.4nmの場合には、600℃付近でのシート抵抗が12Ω/□程度となり、他のAl膜の厚さの場合のシート抵抗が7Ω/□程度であるのと比較して高くなっている。すなわち、Al膜の厚さを2.5nm程度よりも大きくすると、正常なNiシリサイド層が形成されなくなる可能性がある。
【0051】
以上のことから、本実施形態のAl含有Niシリサイド層による耐熱性向上効果を確実に得るためには、Ni膜の膜厚に対するAl膜の膜厚の比率を2.5%程度(例えばNi膜=12nm、Al膜=0.3nm)以上で且つ25%程度(例えばNi膜=10nm、Al膜=2.5nm)以下に設定することが好ましい。
【0052】
以上に説明したように、本実施形態によると、N型シリコン層上のNiシリサイド層に、 III族元素であるAlを含有させることによって、N型シリコン層上のNiシリサイド層の耐熱性(具体的にはシリサイド形成後の後工程での(プロセス上の)耐熱性:以下同じ)、つまりN型MOSトランジスタの耐熱性を、P型シリコン層上のNiシリサイド層の耐熱性つまりP型MOSトランジスタの耐熱性と同程度まで改善させることができるという優れた効果が得られる。従って、Niシリサイド層形成後の後工程で高温プロセスが必要となる場合においても、例えばCMOS構造を使用したLSI等の半導体装置の耐熱性の劣化を防止することができる。
【0053】
尚、本実施形態において、N型シリコン層上のNiシリサイド層に III族元素としてアルミニウムを含有させたが、これに代えて、ボロン(B)及びIn(インジューム)を除く他の III族元素、例えばガリウム(Ga)又はタリウム(Tl)等を含有させてもよい。もちろん、B及びInを除く III族元素を2種類以上含有させてもよい。また、B及びInを除く III族元素が少なくとも1種類含有されていれば、当該元素と共にB及びInの少なくとも一方が合わせて含有されていてもよい。
【0054】
すなわち、本実施形態において、ソース・ドレイン領域及びゲート電極となるシリコン層と、シリサイド形成用のNi膜との間にAl膜を挿入したが、これに代えて、例えばAlとGa又はTl等との合金膜等の III族元素含有膜を挿入してもよい。また、シリサイド層の下地として、シリコン層に代えて、例えばシリコンゲルマニウム層等のシリコン含有層を用いてもよい。さらに、シリサイド形成用の金属膜として、Ni膜に代えて、例えばHf、Zr、Pt、Ta又はV等とNiとの合金膜を用いてもよい。
【0055】
また、本実施形態において、ソース・ドレイン領域及びゲート電極となるシリコン層上にNiシリサイド層を形成したが、これに代えて、ソース・ドレイン領域及びゲート電極のいずれか一方の上のみにNiシリサイド層を形成してもよい。
【0056】
また、本実施形態においてCMOS構造を採用する場合、P型MOSトランジスタに含まれるNiシリサイド層(P型シリコン層上のNiシリサイド層)については、Al等の III族元素を含有させてもよいし、又は含有させなくてもよい。すなわち、P型MOSトランジスタ形成領域においては、ソース・ドレイン領域又はゲート電極となるシリコン層と、シリサイド形成用のNi膜との間に、Al膜等の III族元素含有膜を形成してもよいし、又は形成しなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、シリサイド層を有する半導体装置及びその製造方法として、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る半導体装置の断面図である。
【図2】図2は、図1に示す半導体装置におけるNiシリサイド層、ソース・ドレイン拡散層及びシリコン基板をAA’方向にオージェ分析した結果を示す図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施形態に係る半導体装置による耐熱性向上効果を示す図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法の各工程を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法による耐熱性向上効果を示す図である。
【図6】図6は従来の半導体装置の断面図である。
【図7】図7は従来の半導体装置の耐熱性を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 シリコン基板
2 分離絶縁膜
3 ゲート絶縁膜
4 ゲート電極
5 LDD層
6 サイドウォール絶縁膜
7 ソース・ドレイン拡散層
8 Al膜
9 Ni膜
10 Al含有Niシリサイド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に形成されたゲート電極と、前記半導体基板における前記ゲート電極の両側に形成されたソース・ドレイン領域とを有するトランジスタを備えた半導体装置であって、
前記ゲート電極及び前記ソース・ドレイン領域との少なくとも一方は、V族元素が不純物として導入されたN型シリコン含有層であり、
前記シリコン含有層の上部に、アルミニウム、ガリウム又はタリウムの少なくとも1つである III族元素を含有するニッケルシリサイド層が形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記 III族元素はアルミニウムであることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体装置において、
前記ニッケルシリサイド層中のアルミニウムは、主として前記ニッケルシリサイド層の表面部に分布することを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の半導体装置において、
前記ニッケルシリサイド層中のアルミニウムは、前記ニッケルシリサイド層における前記シリコン含有層との界面近傍にも分布することを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記ニッケルシリサイド層中の III族元素は、前記ニッケルシリサイド層のグレインバウンダリにも分布することを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
半導体基板上に形成されたゲート電極と、前記半導体基板における前記ゲート電極の両側に形成されたソース・ドレイン領域とを有するトランジスタを備えた半導体装置の製造方法であって、
前記ゲート電極及び前記ソース・ドレイン領域との少なくとも一方は、V族元素が不純物として導入されたN型シリコン含有層であり、
前記シリコン含有層の上に、アルミニウム、ガリウム又はタリウムの少なくとも1つである III族元素を含有する第1の膜を形成する工程と、
前記第1の膜の上に、ニッケルを含有する第2の膜を形成する工程と、
前記第1の膜及び前記第2の膜に対して熱処理を実施し、それによって、前記シリコン含有層の上部に、前記 III族元素を含有するニッケルシリサイド層を形成する工程とを備えていることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1の膜はアルミニウム膜であり、
前記第2の膜はニッケル膜であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体装置の製造方法において、
前記ニッケル膜の膜厚に対する前記アルミニウム膜の膜厚の比率は2.5%以上で且つ25%以下であることを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−324187(P2007−324187A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149763(P2006−149763)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】