説明

半導体装置

【課題】低酸素処理を施したシリコン基板は基板表面層が応力に対して非常にもろくなってしまい、ハンド津愛想うちの製造プロセスの過程でクラックや反りが発生する原因ともなってしまう。
【解決手段】チャネル形成領域に形成された不純物領域に応力を集中させるため、チャネル形成領域に対して人為的かつ局部的に不純物領域を設ける。チャネル形成領域に局部的に添加された不純物元素(炭素、窒素、酸素から選ばれた一種または複数種類の元素)の領域は、低酸素処理を施したシリコン基板の応力を緩和する緩衝領域として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する発明は、SOI(Silicon-On-Insulator)構造を有する絶縁ゲイト
型半導体装置、特に絶縁ゲイト型電界効果トランジスタ(以後、単にIG−FETと略記
する)の構成およびその作製方法に関する。SOI構造を有する絶縁ゲイト型半導体装置
としてはSOS(Silicon-On-Sapphire )基板やSIMOX(Separation-by-Implanted
Oxygen)基板などの上に形成された半導体装置を挙げることができる。
【0002】
特に、チャネル長が0.35μm以下(特に、0.1 μm以下)の微細素子を作製する場合に
おいて効果を発揮する技術である。従って、本発明はIG−FETを集積化して構成され
たIC、VLSI、ULSIなどの様々な半導体集積化回路に応用することが可能である

【0003】
なお、本明細書中における「半導体装置」という言葉は「半導体を利用して活用される
装置」を意味しており、IG−FETの様な半導体素子は言うに及ばず、半導体素子を集
積化した集積化回路、さらにはその集積化回路を組み込んだ電子機器までを「半導体装置
」の範疇に含めるものとする。なお、本明細書中では説明の便宜上、必要に応じて半導体
素子、集積化回路、電子機器等の言葉を使い分けることとする。
【背景技術】
【0004】
近年、VLSIなどの集積化回路は益々微細化の一途を辿る傾向にあり、配線の幅も0.
35〜0.1 μm以下、さらには 0.01 μm以下といったディープサブミクロン領域の加工寸
法が要求される様になってきている。
【0005】
それと同時に低消費電力化が要求される様になり、CMOS形ICの低消費電力特性が
必要不可欠な構成となりつつある。この様なCMOS形ICを微細化するとN型FETと
P型FETとの間で発生するラッチアップ現象が問題となるが、それを解決したのがSO
I構造のIG−FETである。
【0006】
また、基板と素子とが完全に絶縁されるため、そこに生じる寄生容量を大幅の低減する
ことが可能となり、高速動作性も追及することができる。
【0007】
以上の様に、SOI構造を有する半導体装置は次世代の高速素子として極めて注目され
ており、今後、益々需要が高まると予想される。
【0008】
この様な半導体素子の微細化はスケーリング則に従って進められてきており、微細化が
集積化回路の特性向上をもたらすことは一般的に知られていた。しかしながら、サブミク
ロン領域の微細加工となると単純にはスケーリング則に従わない問題が生じる様になる。
【0009】
その様な問題として短チャネル効果という現象が代表的に知られている。短チャネル効
果とは、ゲイト電極の線幅が短くなる、即ちチャネル形成領域が短くなるにつれて、チャ
ネル形成領域の電荷がゲイト電圧だけでなく、ソース/ドレイン領域の空乏層電荷や電界
および電位分布の影響を大きく受ける様になるために引き起こされる現象である。
【0010】
この様子を簡略化して図3に示す。図3はSIMOX基板上に形成された従来の半導体
装置であり、301はシリコン基板、302は酸素注入により形成した埋め込み酸化膜層
である。埋め込み酸化膜層302の上には結晶半導体(単結晶シリコン層)が配置されて
おり、それを利用してソース領域303、ドレイン領域304、チャネル領域305、ゲ
イト電極306である。また、308で示される点線はドレイン電圧Vdが小さい時に形
成される空乏層を表している。
【0011】
通常、チャネル領域305を流れる電流はゲイト電圧Vgのみで制御される。この場合
、308で示される様に、チャネル領域305近傍の空乏層はチャネルに概略平行となり
、均一な電界が形成される。
【0012】
しかし、ドレイン電圧Vdが高くなると、ドレイン領域304近傍の空乏層がチャネル
領域305、ソース領域303の方へと広がり、309で示される実線で表される様に、
ドレイン空乏層の電荷や電界がソース領域303、チャネル領域305近傍の空乏層へと
影響を及ぼす様になる。即ち、オン電流が複雑な電界分布により変化し、ゲイト電圧Vg
のみで制御することが困難な状況となるのである。
【0013】
ここで、短チャネル効果が生じる場合におけるチャネル形成領域周辺のエネルギー状態
を図4を用いて説明する。図4において実線で示す状態図はドレイン電圧が0Vの時のソ
ース領域401、チャネル形成領域402、ドレイン領域403のエネルギーバンド図で
ある。
【0014】
この状態において十分大きいドレイン電圧Vdが印加されると、図4において点線で示
す様な状態へと変化する。即ち、ドレイン電圧Vdにより形成されたドレイン領域403
の空乏層電荷や電界が、ソースおよびチャネル領域401、402の空乏層電荷に影響を
与え、エネルギー(電位)状態はソース領域401からドレイン領域403にかけて連続
的に変化する様になる。
【0015】
そして、このような短チャネル効果が半導体素子、例えばIG−FETに与える影響と
してはしきい値電圧(Vth)の低下やパンチスルーによる素子耐圧の低下等の現象がよく
知られている。また、パンチスルー現象によってドレイン電流に対するゲイト電圧の影響
が低下するとサブスレッショルド特性が悪くなることも知られている。
【0016】
まず、しきい値電圧の低下はNチャネル型FETに対してもPチャネル型FETに対し
ても同様に見られる現象である。また、この低下の度合いはドレイン電圧に依存するばか
りでなく、基板不純物濃度、ソース/ドレイン拡散層深さ、ゲイト酸化膜厚、基板バイア
ス等の様々なパラメータに依存する。
【0017】
しきい値電圧の低下は消費電力を小さくするといった意味では望ましいことであるが、
一般的には集積回路の駆動電圧が小さくなることで周波数特性が高くならないといったデ
メリットが問題となってしまう。
【0018】
また、チャネル長が短くなるとドレイン側の空乏層がソース側の空乏層と繋がる状態を
形成してソース近傍の拡散電位を下げるためチャネルが形成されていなくてもソース/ド
レイン間に電流が流れる様になる。これがパンチスルーと呼ばれる現象である。
【0019】
パンチスルー現象が生じると飽和領域でもドレイン電流が飽和しなくなるためドレイン
電圧の増加に伴って大電流が流れる様になり、ソース/ドレイン間の素子耐圧が大幅に低
下することが問題となっていた。
【0020】
また、パンチスルー現象に伴うサブスレッショルド特性の劣化とはサブスレッショルド
係数(S値)が大きくなる、即ちFETのスイッチング特性が劣化することを意味してい
る。ここでサブスレッショルド特性に及ぼす短チャネル効果の影響を図5に示す。
【0021】
図5は横軸にゲイト電圧Vg、縦軸にドレイン電流Idの対数をとったグラフであり、
501の領域における傾き(サブスレッショルド特性)の逆数がS値である。この図5で
はチャネル長を徐々に短くした時の特性の変化を比較しており、矢印の方向に向かってチ
ャネル長は短くなっている。
【0022】
その結果、チャネル長が短くなるに従って特性の傾きが小さくなる、即ちS値が大きく
なる傾向にあることが確認できる。このことは、チャネル長が短くなるに従ってFETの
スイッチング特性が劣化することを意味する。
【0023】
以上説明した様な短チャネル効果を抑制する手段として様々な技術が提案されてきてい
る。例えば、埋め込み酸化膜で基板と素子とを絶縁するタイプのSOI構造(貼り合わせ
技術やイオン注入技術を利用したもの等)では、埋め込み酸化膜の膜厚を薄くすることが
短チャネル効果の抑制に効果的であることが報告されている。しかし、これだけでは十分
な解決までには至らなかった。
【0024】
また、チャネル長が0.1 μm程度と極めて短いSOI構造の半導体装置は、チャネル領
域における不純物元素の存在確率が極めて小さい(1個乃至数個)という特徴を有してお
り、室温でも電子の移動速度が通常よりも速くなる現象(速度オーバーシュート効果)が
確認されている。(K.Ohuchi et al.,Jpn.J.Appl.Phys. 35, 960(1996). )。
【0025】
さらに、その効果を利用して高速動作性を向上させた高速半導体装置も発表されている
。しかしながら、その様な高速半導体装置においては、前述の様な短チャネル効果による
パンチスルー現象とそれに伴う耐圧の劣化といった諸問題は解決されていないのが現状で
ある。
【0026】
また、短チャネル効果によるしきい値電圧の低下を抑制するための手段としては、チャ
ネル形成領域全体に均一に一導電性を付与する不純物元素を添加して、その添加量でもっ
てしきい値電圧を制御する方法が採られてきた。しかし、この方法では添加した不純物が
キャリアを散乱させる原因となるのでキャリアの移動度を低下させてしまうことが問題と
なっていた。
【0027】
また、SOI基板のマザーサブストレートとなる単結晶シリコン基板の作製方法には、
極めて酸素含有量の低いFZ法と、応力緩和および反り防止のためにある程度の酸素を含
有させたCZ法で形成されたものがある。通常、メモリICやロジックIC用にはCZ法
による単結晶シリコン基板が用いられる。
【0028】
しかし、CZ法で形成された単結晶シリコン基板は酸素含有量が減少するに従って熱履
歴などによる反り量が増加する特徴があり、逆に反り量を十分低減しうるレベルまで酸素
含有量を上げる(通常、 1〜2 ×1018atoms/cm3 程度)と、酸素原子がキャリアの移動を
妨げてしまう様なことが起こりうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
現状の半導体産業においては、極限まで集積化された半導体集積回路が求められており
、個々の半導体素子の微細化をどこまで追求できるかが鍵となっている。しかし、ディー
プサブミクロン領域のファインパターンを形成する技術が開発されたとしても、前述の様
な短チャネル効果の問題が素子の微細化を阻む致命的な障害となっていた。
【0030】
本発明は上記問題点を鑑みてなされたものであり、半導体素子の微細化に伴う短チャネ
ル効果を効果的に抑制するための技術を開示するものである。そして、短チャネル効果に
よって実現が困難であったディープサブミクロン領域の微細素子を形成可能とすることを
課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本明細書で開示する発明の構成は、
絶縁性基板または絶縁層上に形成された結晶半導体を利用して形成されたソース領域、
ドレイン領域およびチャネル形成領域と、
前記チャネル形成領域上に形成されたゲイト絶縁膜およびゲイト電極と、
を少なくとも有するSOI構造で構成される絶縁ゲイト型半導体装置であって、
前記チャネル形成領域はキャリアが移動する領域と、
前記ドレイン領域より前記チャネル形成領域およびソース領域に向かって広がる空乏層
をピニングするために人為的かつ局部的に形成された不純物領域と、
を有し、
前記不純物領域には電子の移動を妨げる方向にエネルギーバンドをシフトさせる不純物
元素が添加されていることを特徴とする。
【0032】
また、他の発明の構成は、
絶縁性基板または絶縁層上に形成された結晶半導体を利用して形成されたソース領域、
ドレイン領域およびチャネル形成領域と、
前記チャネル形成領域上に形成されたゲイト絶縁膜およびゲイト電極と、
を少なくとも有するSOI構造で構成される絶縁ゲイト型半導体装置であって、
前記チャネル形成領域はキャリアが移動する領域と、
前記ドレイン領域より前記チャネル形成領域およびソース領域に向かって広がる空乏層
をピニングするために人為的かつ局部的に形成された不純物領域と、
を有し、
前記不純物領域には正孔の移動を妨げる方向にエネルギーバンドをシフトさせる不純物
元素が添加されていることを特徴とする。
【0033】
また、他の発明の構成は、
絶縁性基板または絶縁層上に形成された結晶半導体を利用して形成されたソース領域、
ドレイン領域およびチャネル形成領域と、
前記チャネル形成領域上に形成されたゲイト絶縁膜およびゲイト電極と、
を少なくとも有するSOI構造で構成される絶縁ゲイト型半導体装置であって、
前記チャネル形成領域はキャリアが移動する領域と、
不純物元素の添加により所定のしきい値電圧に制御するために人為的かつ局部的に形成
された不純物領域と、
を有し、
前記不純物領域には電子の移動を妨げる方向にエネルギーバンドをシフトさせる不純物
元素が添加されていることを特徴とする。
【0034】
また、他の発明の構成は、
絶縁性基板または絶縁層上に形成された結晶半導体を利用して形成されたソース領域、
ドレイン領域およびチャネル形成領域と、
前記チャネル形成領域上に形成されたゲイト絶縁膜およびゲイト電極と、
を少なくとも有するSOI構造で構成される絶縁ゲイト型半導体装置であって、
前記チャネル形成領域はキャリアが移動する領域と、
不純物元素の添加により所定のしきい値電圧に制御するために人為的かつ局部的に形成
された不純物領域と、
を有し、
前記不純物領域には正孔の移動を妨げる方向にエネルギーバンドをシフトさせる不純物
元素が添加されていることを特徴とする。
【0035】
また、他の発明の構成は、
絶縁性基板または絶縁層上に結晶半導体を形成する工程と、
前記結晶半導体を利用してソース領域、ドレイン領域およびチャネル形成領域とを形成
する工程と、
前記チャネル形成領域において人為的かつ局部的に不純物領域を形成する工程と、
前記チャネル形成領域上にゲイト絶縁膜およびゲイト電極とを形成する工程と、
を少なくとも有するSOI構造で構成される絶縁ゲイト型半導体装置の作製方法におい
て、
前記チャネル形成領域はキャリアが移動する領域と前記不純物領域とで構成され、
前記不純物領域には電子の移動を妨げる方向にエネルギーバンドをシフトさせる不純物
元素が人為的かつ局部的に添加されていることを特徴とする。
【0036】
また、他の発明の構成は、
絶縁性基板または絶縁層上に結晶半導体を形成する工程と、
前記結晶半導体を利用してソース領域、ドレイン領域およびチャネル形成領域とを形成
する工程と、
前記チャネル形成領域において人為的かつ局部的に不純物領域を形成する工程と、
前記チャネル形成領域上にゲイト絶縁膜およびゲイト電極とを形成する工程と、
を少なくとも有するSOI構造で構成される絶縁ゲイト型半導体装置の作製方法におい
て、
前記チャネル形成領域はキャリアが移動する領域と前記不純物領域とで構成され、
前記不純物領域には正孔の移動を妨げる方向にエネルギーバンドをシフトさせる不純物
元素が人為的かつ局部的に添加されていることを特徴とする。
【0037】
本発明の主旨は、チャネル形成領域に対して人為的かつ局部的に形成した不純物領域に
より、ドレイン領域からチャネル形成領域に向かって広がる空乏層を効果的に抑制し、短
チャネル効果によって引き起こされるパンチスルー現象、サブスレッショルド特性の劣化
、耐圧の劣化などの諸問題を防止することにある。
【0038】
なお、本出願人はあたかもチャネル形成領域に不純物領域のピンを形成することに似て
いることから、本発明によるデバイスをピニング型半導体装置と呼んでいる。なお、本明
細書中において「ピニング」とは「抑止」を意味しており、「ピニングする」とは「抑止
する」という意味で用いている。
【0039】
即ち、チャネル形成領域に対して局部的に不純物領域を形成し、その領域をエネルギー
的な障壁として利用するものである。そして、不純物領域をエネルギー的な障壁として利
用することでドレイン領域側の空乏層がチャネル形成領域側へ広がるのをエネルギー的に
抑止し、それによってチャネル形成領域に形成される電界がゲイト電圧のみによって制御
される様にする。
【0040】
本発明は上記構成をなすために不純物領域を形成する不純物元素としてキャリアとなる
電子または正孔の移動を妨げる方向にエネルギーバンドをシフトさせる不純物元素を用い
ている。Nチャネル型FETにおいて電子の移動を妨げる方向にエネルギーバンドをシフ
トさせる不純物元素としては13族の元素(代表的にはボロン)を用い、Pチャネル型F
ETにおいて正孔の移動を妨げる方向にエネルギーバンドをシフトさせる不純物元素とし
ては15族の元素(代表的にはリンまたは砒素)を用いれば良い。
【0041】
この場合、添加された不純物元素は高いエネルギー障壁を形成する。例えば、Nチャネ
ル型FETに対してP型を付与する不純物元素であるボロン(B)を添加した場合には、
図6(A)で示す状態であったチャネル形成領域のエネルギーバンドを図6(B)に示す
状態とし、フェルミレベル(Ef)をシフトさせることで障壁ΔE(拡散電位差またはビ
ルトイン電位差と呼ばれる)を形成する。図6(B)の状態におけるビルトイン電位差は
、Nチャネル型FETの多数キャリアである電子の移動を妨げるエネルギー障壁として機
能する。
【0042】
勿論この場合、フェルミレベルをシフトさせることは結果的にチャネル形成領域のエネ
ルギーバンドをシフトさせることに他ならない。また、本発明の特徴である不純物領域は
逆導電性を有し、抵抗値は低いもののエネルギー的には十分障壁となる。
【0043】
同様に、Pチャネル型FETに対してN型を付与する不純物元素であるリン(P)また
は砒素(As)を添加した場合には、図6(C)に示す状態であったチャネル形成領域の
エネルギーバンドが図6(D)に示す状態となる。図6(D)の状態におけるビルトイン
電位差は、Pチャネル型FETの多数キャリアである正孔の移動を妨げるエネルギー障壁
として機能する。
【0044】
また、本発明において「キャリアが移動する領域」が真性または実質的に真性であるこ
とはSOI構造の半導体装置に特有の注目すべき特徴である。なお、本明細書において真
性な領域とは、例えばサファイア基板上にエピタキシャル成長させた単結晶シリコン層の
様な不純物元素を含有しない領域、またはN型やP型を付与する不純物元素および炭素、
窒素、酸素といった不純物元素を意図的に添加しない領域を指している。
【0045】
また、実質的に真性とは、結晶半導体(本明細書では単結晶シリコンを代表例とする)
中において、意図的にN型やP型を付与する不純物元素を添加しなくても生ずる導電型を
相殺した領域、又はしきい値制御が可能な範囲においてソースおよびドレイン領域と同一
導電型を呈する領域を指している。
【0046】
また、実質的に真性な領域において、結晶半導体(結晶シリコン)表面近傍における一
導電性を付与する不純物元素(リンまたはボロン)の濃度は 5×1015atoms/cm3 以下(好
ましくは 5×1014atoms/cm3 以下)であり、酸素濃度は 2×1018atoms/cm3 以下(好まし
くは 1×1017atoms/cm3 以下)である。
【0047】
なお、ここで言う結晶半導体表面近傍とはデバイス素子として機能しうる領域を指して
おり、SOI基板の単結晶シリコン層、もしくは、少なくともキャリアが移動する領域(
反転層)を含む領域を指す。また、本発明の特徴である不純物領域には不純物元素が大量
に含まれていて当然であるので、上記不純物濃度の範囲に当てはまらないことは言うまで
もない。
【0048】
また、本明細書中においては結晶半導体として単結晶シリコンを代表例とするが、この
単結晶シリコンとは現在のIC、LSIレベルで一般的に用いられている水準の単結晶シ
リコンは勿論のこと、さらに高水準の単結晶シリコン(究極的には宇宙空間で作製された
様な理想状態の単結晶シリコン)もその範疇に含まれるものとする。
【0049】
また、SOI構造は大別して2種類があり、一つはSOS基板に代表される様に絶縁性
基板上に単結晶シリコン層を成長させた構造である。もう一つはSIMOX基板やウェー
ハ接合SOIに代表される様に単結晶シリコン基板中に絶縁層を形成させた構造である。
特にSIMOX基板は1986年以降SOI構造の主要な形成技術となっている。
【0050】
本発明はSOI構造の作製方法に関係なく、SOI基板全般に活用することができる。
即ち、半導体装置を作製する際に、どの様な方法でSOI基板を作製するか、もしくはど
の様な方法で単結晶シリコン層を得るかは、作製者が適宜決定することができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明を利用することでチャネル長が短くなった場合に生じる短チャネル効果を防止す
ることが可能となる。具体的には、まずドレイン側空乏層がソース領域やチャネル形成領
域下に広がるのを、チャネル形成領域に局部的に形成した不純物領域で遮り、チャネル形
成領域のエネルギー(電位)状態にドレイン電圧が影響しない構成とする。これによりパ
ンチスルー現象やサブスレッショルド特性の劣化を防止することが可能となる。また、同
時に高いドレイン耐圧を実現することができる。
【0052】
また、短チャネル効果の特徴の一つであるしきい値電圧の低下を狭チャネル効果による
しきい値電圧の増加によって抑制することができる。この狭チャネル効果は、チャネル形
成領域に局部的に不純物領域を形成するという本発明の構成によって人為的に成しうる効
果である。
【0053】
以上の様に、本発明を利用することでチャネル長の極めて短いディープサブミクロン領
域における半導体装置においても、短チャネル効果を引き起こすことなく動作させること
ができる。従って、本発明の半導体装置を利用することで非常に高密度に集積化された集
積化回路を構成することができる。
【0054】
また、本発明ではチャネル形成領域にエネルギー的にスリット状のレーン領域を形成す
ることでキャリアの移動方向を規定し、キャリア同士の自己衝突による散乱を低減するこ
とが可能である。
【0055】
即ち、キャリアの移動度低下を招く原因となる不純物散乱、格子散乱、キャリア同士の
自己衝突による散乱が大幅に低減され、移動度が大きく向上する。即ち、IG−FETに
代表される半導体装置のより一層の性能向上が望める。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】チャネル形成領域の構成を示す図。
【図2】チャネル形成領域の構成を示す図。
【図3】従来の半導体装置を説明するための図。
【図4】チャネル形成領域のエネルギー状態を示す図。
【図5】従来の半導体装置の特性を説明するための図。
【図6】チャネル形成領域のエネルギー状態を示す図。
【図7】絶縁ゲイト型電界効果トランジスの作製工程を示す図。
【図8】絶縁ゲイト型電界効果トランジスの作製工程を示す図。
【図9】不純物領域の形状および配置を説明するための図。
【図10】チャネル形成領域の構成を示す図。
【図11】チャネル形成領域の構成を示す図。
【図12】チャネル形成領域のエネルギー状態を示す図。
【図13】不純物の偏析状態を説明するための図。
【図14】不純物領域の作製工程を示す図。
【図15】チャネル形成領域の構成を示す図。
【図16】チャネル形成領域の構成を示す図。
【図17】チャネル形成領域の構成を示す図。
【図18】半導体装置の構成を示す図。
【図19】半導体装置の構成を示す図。
【図20】半導体装置の構成を示す図。
【図21】半導体装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0057】
ここでSIMOX基板上に形成されたNチャネル型の半導体装置に対して本発明を適用
した場合について図1を用いて説明する。
【0058】
図1(A)に示すのは本発明のIG−FETのソース領域、ドレイン領域およびチャネ
ル形成領域を上面から見た時の状態の模式図である。なお、101がソース領域、102
がドレイン領域、103がチャネル形成領域である。
【0059】
そして、本発明の特徴はチャネル形成領域103内に人為的かつ局部的に不純物領域1
04が形成されている点である。ここでは不純物領域104を線状パターン形状に形成し
た場合を例とするが、不純物領域はドットパターン状に設けることも可能である。
【0060】
なお、不純物領域104をチャネル方向(ソース−ドレイン間を結ぶ方向またはキャリ
アが移動する方向)と概略平行な線状パターン形状に設けた場合、不純物領域が側壁とな
ってキャリアの移動を規定するエネルギー的なレールを構成するため、キャリア同士の衝
突による散乱の発生確率が低減されて移動度が向上するといった利点が生まれるので望ま
しい。
【0061】
また、本出願人はキャリアの移動するパス、即ち不純物領域と不純物領域との間の領域
をポテンシャルスリット領域又はレーン領域と呼んでいる。
【0062】
ここではチャネル形成領域103内の一端から他端に向かって(例えば、ソース領域1
01からドレイン領域102に向かって)チャネル方向と概略平行に線状パターン形状を
有する不純物領域104を形成した場合についての説明を行う。また、添加する不純物と
してボロンを用いた場合を例とする。
【0063】
前述の様に、ボロンを添加することで多数キャリアである電子の移動を妨げる方向にエ
ネルギーバンドをシフトさせられた不純物領域104は、電子の移動に対してエネルギー
的に十分大きな障壁となるビルトイン電位差を形成する。従って、不純物領域104をキ
ャリア(ここでは電子)が移動することはない。
【0064】
特に、図1(A)に示す様にドレイン領域102とチャネル形成領域103との接合部
は最も電界の変化の激しい領域であるので、この位置に不純物領域104を配置しておく
ことが望ましい。また、ゲイト電極による電界がドレイン領域102内にもおよぶ場合は
ドレイン領域102内部に渡って不純物領域104がかかる様にすると良い。逆にソース
領域101内部には不純物領域104が入り込まない様にするのが好ましい。
【0065】
また、本発明は 0.35 μm以下(特に、0.1 μm以下)、さらには0.01μm以下といっ
たディープサブミクロン領域の微細加工を必要とする微細素子を形成する際に極めて効果
的である。従って、チャネル形成領域の長さ(チャネル長またはソース/ドレイン間距離
)も0.01〜0.35μmといった短いものとなるため、不純物領域はさらに細かいパターンを
切らなければならない。
【0066】
例えば、線状パターン状の不純物領域を形成する際にレジストマスクを利用する場合に
はレジストマスクに開孔を設けるパターニングは解像度の問題から通常の露光法を用いる
ことができない。その様な場合においては、KrFやArF等のエキシマレーザーを用い
た露光法、電子(ビーム)描画法、 FIB(Focussed Ion Beam )法等の技術を用いて行う
ことでディープサブミクロン領域の微細パターンを実現すれば良い。
【0067】
また、不純物領域はパターニングにより人為的に配列して形成されるので、図1(A)
の様な配置だけでなく、任意の様々な配置とすることが可能である。
【0068】
次に、図1(A)に示すソース領域/チャネル形成領域/ドレイン領域の構成を有する
絶縁ゲイト型半導体装置(IG−FET)を駆動させた際に、どの様にして短チャネル効
果が抑制されるかを以下に説明する。
【0069】
まず、図1(A)をA−A’で切った断面図を図1(B)に示す。105はシリコン基
板、106は埋め込み酸化膜である。不純物領域104はソース領域101とドレイン領
域102とを繋ぐ様にして形成されているので、A−A’で切った断面では図1(B)の
様に不純物領域104が現れる。
【0070】
また、図1(A)をB−B’で切った断面図を図1(C)に示す。図1(C)はチャネ
ル方向と垂直にチャネル形成領域103を切断した断面を表していることになる。
【0071】
この時、ある不純物領域104の幅はwpi,nで表され、その不純物領域間の間隔(ポテ
ンシャルスリット領域の幅)はwpa,mで表される。ここでn、mはチャネル形成領域10
3内において、wpi,nがn番目の不純物領域の幅であり、wpa,mがm番目のポテンシャル
スリット領域(キャリアの移動するパス)であることを意味している。
【0072】
ここまでの説明は単に構造についての説明であったが、次にその効果についての説明を
行う。ここで図2(A)に示すのは、本発明のIG−FETのチャネル形成領域のみに着
目した模式図である。
【0073】
まず、図1(B)に示す様な構造を有する半導体装置に対してゲイト電圧、ドレイン電
圧を印加した場合には、図2(A)に示す様な状態でソース側空乏層201、チャネル側
空乏層202、ドレイン側空乏層203が形成される。即ち、ドレイン側空乏層203は
不純物領域204が障壁となってソース側への広がりを防止された形となる。なお、20
5は埋め込み酸化膜の一部である。
【0074】
図1(B)では判りにくいが不純物領域204は図1(A)に示す様に配置されており
、チャネル方向から見ると図1(C)の様な状態で配置されている。従って、チャネル形
成領域103を塞ぐ格子状のフィルターでドレイン側空乏層の広がりを抑えているという
モデルで考えれば理解しやすい。
【0075】
従って、本発明による構造の半導体装置においては、図2(A)に示す様に空乏層が実
質的に相互に干渉することなく分断される。即ち、ソース側空乏層201、チャネル側空
乏層202が、ドレイン側空乏層203の影響を受けないで分布することになるので、エ
ネルギー状態は図2(B)に示す状態となる。
【0076】
即ち、図4に示した従来のエネルギー状態図と異なり、チャネル領域のエネルギー状態
は殆どゲイト電圧による電界のみに制御されるので、チャネル領域に対して概略平行な形
状を有する。従って、短チャネル効果特有のパンチスルー現象の様な問題がなく、ドレイ
ン耐圧の高い半導体装置を作製することができる。
【0077】
さらに、図2(A)に示す様に、本発明においてはドレイン電圧が高くなった状態にお
いても空乏層の占める体積が図3に示した様な従来のものと比べて減少しているため、従
来よりも空乏層電荷が小さく、空乏層容量が小さい特徴がある。ここで、S値を導出する
式は次式で表される。
【0078】
【数3】

【0079】
即ち、前述の様に、図5に示すグラフにおいて501で示される領域における傾きの逆
数を表していることが判る。また、数3の式は近似的に次式の様に表すことができる。
【0080】
【数4】

【0081】
数4において、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは電荷量、Cd は空乏層容量、
Citは界面準位の等価容量、Coxはゲイト酸化膜容量である。従って、本発明によれば空
乏層容量Cd が従来よりも十分小さくなるので、S値を85mV/decade 以下(好ましくは70
mV/decade 以下)の小さな値とすることができる、即ち優れたサブスレッショルド特性を
得ることができるのである。
【0082】
また、本発明が目指すところは、空乏層容量Cd および界面準位の等価容量Citを0に
可能な限り近づけることである。即ち、Cd =Cit=0となる理想状態におけるS値(60
mV/decade )に近づけることにある。
【0083】
また、チャネル形成領域が図1(C)に示す構造となっていることは短チャネル効果に
よるしきい値電圧の低下を緩和する上で非常に重要である。なぜならば、図1(C)に示
す構造が意図的に狭チャネル効果を生み出すために必要な構成だからである。
【0084】
この狭チャネル効果とは、元来バルクシリコン上に形成したMOSFETで確認されて
いる現象であり、チャネル幅が狭くなった時に素子を分離するフィールド酸化膜のバーズ
ビークやチャネルストッパーの不純物拡散の影響等を受けてしきい値電圧が増加するとい
う現象である。
【0085】
本発明の構成となる思想の一つは、チャネル形成領域に人為的に不純物領域を形成・配
置することで意図的に狭チャネル効果を生じさせることである。そして、本発明の構成は
不純物領域間の距離(図1(C)におけるwpa,mに相当する)を30〜3000Å( 好ましくは
30〜1000Å) の範囲で精密に制御することでしきい値電圧の制御を行うという思想に基づ
いている。
【0086】
例えば、図1(C)に示す様にある断面に着目すると、チャネル形成領域の幅Wは不純
物領域104によって分断され、実質的に狭いチャネル幅wpa,mを持つ複数のチャネル形
成領域の集合体と見なすことができる。
【0087】
即ち、その複数の狭いチャネル幅wpa,mを有する領域において狭チャネル効果が得られ
ると考えられる。マクロ的に見ると図1(A)に示す様にチャネル形成領域全体にこの様
な狭チャネル効果が得られる領域が存在するので、全体的にも狭チャネル効果が得られ、
しきい値電圧が増加すると考えられる。
【0088】
従って、チャネル長に短くなることで短チャネル効果によってしきい値電圧が低下した
としても、以上の理由により狭チャネル効果によってしきい値電圧を意図的に増加させて
しきい値制御を行うことができるので、結果的にしきい値電圧の変化を緩和することが可
能となる。
【0089】
以上の構成でなる本発明について、以下に記載する実施例でもって詳細な説明を行うこ
ととする。また、これより記載する実施例は、本発明の構成の一例を示すものであり、半
導体装置作製者の必要に応じて様々な応用を実施することが可能である。
【0090】
従って、特許請求の範囲に記載された事項は、以下に記載する実施例以外の応用であっ
ても、本発明の構成をもってなしうる全ての発明をも包含するものと考える。
【実施例1】
【0091】
本発明を用いてSIMOX基板上に絶縁ゲイト型電界効果トランジスタを形成する例を
図7を用いて説明する。なお、本実施例ではNチャネル型FETとPチャネルFETとを
相補的に組み合わせたCMOS回路を形成する場合の例について説明する。
【0092】
まず、弱いN型またはP型導電性を有する単結晶シリコン基板701を用意する。そし
て、 1×1018atoms/cm2 程度のドーズ量で酸素イオンを注入し、800 〜1300℃の範囲内で
加熱処理を行うことで埋め込み酸化膜702を形成する。こうして、厚さ0.05〜0.5 μm
の埋め込み酸化膜702と厚さ100 〜2000Å(好ましくは、200 〜600 Å)の単結晶シリ
コン層703を得る。
【0093】
この際、SOI技術の最も大きな特徴の一つは、得られた単結晶シリコン層703に含
まれる不純物元素(母体となる単結晶シリコン基板701に予め含まれてしまうもの)は
1個乃至数個程度と殆ど皆無に等しく、極めて高純度の真性または実質的に真性な単結晶
シリコン層が得られる点である。
【0094】
また、勿論埋め込み酸化膜702の膜厚や単結晶シリコン層703の膜厚は本実施例で
示す範囲の値に限定されるものではなく、必要に応じて適宜調節することは可能である。
SIMOX基板に関する詳細な説明は、例えば、丸善株式会社,志村史夫著,半導体シリ
コン結晶工学,平成5年9月30日発行,P217以下を参照すると良い。
【0095】
こうして図7(A)に示す様なSIMOX基板が得られる。勿論、SIMOX基板では
なく、ウェーハ貼り合わせ技術を用いて形成したSOI基板、サファイア基板の様な絶縁
性基板上に単結晶シリコン層を成長させたSOS基板、多孔質シリコンの酸化を利用した
FIPOS(Full Isolation by Porous Oxidized Silicon )基板等、他のタイプのSO
I基板を用いても構わない。
【0096】
図7(A)の状態が得られたら、熱酸化処理を施すことにより図示しない薄い熱酸化膜
を形成し、その上に窒化珪素膜でなるマスクパターン704、705を形成する。その際
、マスクパターン704は後のNチャネル型FET上に、マスクパターン705は後のP
チャネル型FET上に配置する。
【0097】
そして、その状態で1000〜1200℃程度の高温で熱酸化を行い、素子分離のためにフィー
ルド酸化膜706を形成する。こうして、Nチャネル型FETの活性層となる領域707
とPチャネル型FETの活性層となる領域708を得る。
【0098】
こうして図7(B)に示す状態が得られたら、マスクパターン704、705および図
示しない熱酸化膜を除去する。そして、P(リン)を添加してNチャネル型FETのソー
ス領域709、ドレイン領域710を形成し、さらにB(ボロン)を添加してPチャネル
型FETのソース領域711、ドレイン領域712を形成する。
【0099】
この際、リンおよびボロンはレジストマスクを用いて打ち分ければ良い。また、この際
に不純物を添加しない領域は真性または実質的に真性な領域であり、Nチャネル型FET
のチャネル形成領域713、Pチャネル型FETのチャネル形成領域714を構成する。
(図7(C))
【0100】
以上の様に、チャネル形成領域を真性または実質的に真性な領域とした場合、半導体装
置の活性層は、Nチャネル型FETを例にすると、N+ (ソース領域)−I(チャネル形
成領域)−N+ (ドレイン領域)の様な構成となる。ここで、N+ は強いN型を示すこと
を意味しており、Iは真性または実質的に真性であることを意味している。
【0101】
この様な構成の他にも、例えばN+ (ソース領域)−N--(チャネル形成領域)−N+
(ドレイン領域)、P+ (ソース領域)−P--(チャネル形成領域)−P+ (ドレイン領
域)の様な構成を採ることも可能である。なお、N--は極弱いN型を、P--は極弱いP型
を示すことを意味している。
【0102】
この様な構成は、移動度が向上する利点を有する反面、耐圧が低下する欠点が問題とな
っていた。しかしながら、本発明を利用することで高い耐圧特性を有する半導体装置を作
製することが可能であるため、高い移動度と高い耐圧とを同時に満たすことができる。
【0103】
次に、図7(C)に示す状態が得られたら、図7(D)に示す様に、Nチャネル型FE
Tのチャネル形成領域713に対してはボロン(B)を、Pチャネル型FETのチャネル
形成領域714に対してはリン(P)または砒素(As)を添加し、空乏層のストッパー
となる不純物領域715、716を形成する。上記不純物元素を添加する領域715、7
16はパターニングにより図示しないレジストマスクに開孔を設けて選択的に設計する。
【0104】
なお、不純物領域715、716は極めて微細な加工寸法で形成する必要があるため精
巧なリソグラフィ技術を必要とする。そのためには、電子ビームを用いる技術(電子描画
法)、イオンビームを用いる技術(FIB 法) 、エキシマレーザーを用いる技術等を用いて
線状パターン形状の露光を行えば良い。
【0105】
またこの時、ポテンシャルスリット領域の幅(wpa,m)は30〜3000Å( 好ましくは30〜
1000Å) の範囲内に制御する。また、全ての間隔(wpa,m)は±20%以内(好ましくは±
5 %以内)に納まる様に制御する。このポテンシャルスリット領域の幅(wpa,m)は狭チ
ャネル効果に直接的に影響を与えるので精密に制御することが重要なのである。
【0106】
なお、ポテンシャルスリット領域の幅の下限界である30Åという値は量子効果が起こら
ない限界値として定めている。本発明ではポテンシャルスリット領域の幅を量子効果の生
じない又は現れない範囲内で制御する様に注意している。
【0107】
従って、図1(A)に示す上面図の様に配置された不純物領域715、716はポテン
シャルスリット領域の幅(wpa,m)が全て揃った状態で形成される。そのため、しきい値
電圧のバラツキ(狭チャネル効果のバラツキに起因する)や発熱のバラツキ(ポテンシャ
ルスリット領域を流れる電流密度のバラツキに起因する)を効果的に抑制することができ
る。
【0108】
また、半導体装置の耐圧を効果的に向上させるためには図7(D)に示す様に不純物領
域715、716をドレイン領域710、712に入り込む様に配置することが有効であ
る。その際、ソース領域は入り込む様に配置してもしなくても良いが入り込まない方が好
ましい(本実施例ではチャネル形成領域の境界を明確にするためソース領域にも不純物領
域が入り込む場合を例とする)。
【0109】
また、チャネル形成領域とソース/ドレイン領域間にLDD領域を設ける構成とする場
合には、LDD領域内部にまで、又はLDD領域を超えてドレイン領域内部にまで渡って
不純物領域を形成することが好ましい。以上の様な構成は、半導体装置の耐圧をより向上
させるために有効である。
【0110】
図7(D)に示す様な状態が得られたら、800 〜1200℃程度の温度範囲による熱酸化処
理を行い100 〜500 Åの熱酸化膜717、718を形成する。この熱酸化処理により形成
された薄い熱酸化膜717、718はそのままゲイト絶縁膜として機能する。また、活性
層/ゲイト絶縁膜界面は界面準位の少ない良好なものとなる。
【0111】
なお、上記熱酸化工程をハロゲン雰囲気で行うことも好ましい。その場合、不純物領域
715、716とポテンシャルスリット領域との界面に偏析したNi(ニッケル)、Cu
(銅)などの重金属をゲッタリング除去することができる。
【0112】
これら重金属は単結晶シリコンの形成過程等において内部に少なからず残留するもので
あり、キャリアの再結合中心となって移動度を低下させてしまう恐れがある。従って、熱
酸化工程をハロゲン雰囲気で行えばハロゲン元素(例えば、塩素、弗素など)による金属
元素のゲッタリング効果を期待することができる。
【0113】
さらに、チャネル形成領域713、714の上方において熱酸化膜717、718上に
ゲイト電極としてポリシリコン膜719、720を形成する。ゲイト電極719、720
は成膜する段階で予め不純物元素を添加しておいて導電性を持たせれば良い。こうして図
8(A)に示す状態が得られる。
【0114】
その後、図8(B)に示す様に、ゲイト電極719、720を覆う様にして窒化珪素膜
を3000Åの厚さに成膜し、エッチバック法を用いてゲイト電極719、720の側面のみ
にサイドウォール721、722を残存させる。この際、ソース/ドレイン領域のゲイト
絶縁膜は同時に除去される。
【0115】
次に、この状態で全面にスパッタ法により図示しないチタン膜を成膜し、加熱、レーザ
ーアニール、ランプアニールなど手段のよるシリサイド形成を行う。この工程により、N
チャネル型FETのソース領域709およびドレイン領域710の表面ならびにゲイト電
極719の表面にはチタンシリサイド723〜725が形成される。
【0116】
また、同時にPチャネル型FETのソース領域711およびドレイン領域712の表面
ならびにゲイト電極720の表面にはチタンシリサイド726〜728が形成される。
【0117】
チタンシリサイド723〜728は極めて低抵抗であるので、後に形成する配線とのオ
ーミック接触を確保する上で好ましい。(図8(B))
【0118】
シリサイド形成が終了したら、層間絶縁膜として窒化珪素膜729を成膜し、コンタク
トホールを形成してNチャネル型FETのソース電極730、Pチャネル型FETのソー
ス電極731およびN/Pチャネル型FET兼用のドレイン電極732を形成する。こう
して図8(C)に示す様なCMOS構造のIG−FETが完成する。
【0119】
図8(C)に示す構造のCMOS回路は本発明のより短チャネル効果を問題としないで
微細化することができるので、極めて集積度の高い集積化回路を構成することが可能であ
る。
【0120】
また、本実施例ではシングルゲイト型のIG−FETを例としているが、SOI構造で
あるので活性層の上面および下面にチャネルを形成するダブルゲイト型FETを作製する
場合にも本発明を適用できる。勿論、パワーMOSFET、MESFET、MISFET
等に適用することもできる。
【0121】
また、本実施例ではIG−FETのチャネル形成領域に線状パターン状に不純物領域を
形成することに特徴があるが、線状パターンの形成にはある範囲の条件を満たす必要があ
る。そのことについて、図9を用いて以下に記載する。
【0122】
図9において、901はチャネル形成領域の一部を示している。チャネル幅はWである
。ここで、チャネル幅Wの内、線状パターン902が占有している幅をWpiと定義する。
Wpiの値としては例えば10〜100 Åもあれば十分である。また、任意の線状パターン90
2の幅をWpi,1、Wpi,2、Wpi,3・・・Wpi,nとすると、Wpiは次式で表される。
【0123】
【数1】

【0124】
但し、本発明の構成を達成するためにはチャネル形成領域の端部以外の領域に、不純物
領域が少なくとも一つ形成されている必要があるのでnは1以上の整数である。
【0125】
また、チャネル幅Wの内、ポテンシャルスリット領域(キャリアの移動するパス)90
3が占有している幅をWpaと定義する。Wpaの値としては量子効果の現れないレベル、即
ち30〜3000Å(好ましくは30〜1000Å)とする。本発明ではWpaをチャネル長(0.01〜0.
35μm)の1/3 〜1/1 程度とすることでVth,nおよびVth,pを 0〜±0.3 Vの範囲に調節
することができる。また、任意のポテンシャルスリット領域903をWpa,1、Wpa,2、W
pa,3・・・Wpa,mとすると、Wpaは次式で表される。
【0126】
【数2】

【0127】
但し、前述の様にチャネル形成領域の端部以外の領域に不純物領域が少なくとも一つ形
成されているので、チャネル形成領域は少なくとも2分されてmは2以上の整数となる。
【0128】
即ち、全チャネル幅WはW=Wpi+Wpa、かつ、n+mは3以上という関係が成り立っ
ている。そして、WとWpi、WとWpaおよびWpiとWpaとの関係は、同時に以下の条件を
満たすことが望ましい。
Wpi/W=0.1 〜0.9
Wpa/W=0.1 〜0.9
Wpi/Wpa=1/9 〜9
【0129】
これらの数式の意味するところは、Wpa/WまたはWpi/Wが0または1であってはな
らないという事である。例えば、Wpa/W=0(Wpi/W=1と同義)の場合、図9(B
)に示す様にチャネル形成領域を完全に不純物領域で塞いでしまうので電流の流れるパス
が存在しない状態となる。
【0130】
逆にWpa/W=1(Wpi/W=0と同義)の場合、図9(C)に示す様にチャネル形成
領域に不純物領域が全く存在しないのでドレイン側空乏層の広がりを抑えることができな
い。
【0131】
以上の理由により、Wpa/WおよびWpi/Wの関係式は0.1 〜0.9 (好ましくは0.2 〜
0.8 )の範囲に収まり、また、同時にWpi/Wpa=1/9 〜9 を満たすことが望ましい。
【0132】
また、本発明において線状パターン形状を有する不純物領域を図1(A)に示す様に配
置することはFETの性能を示す代表的なパラメータである移動度の向上に対して非常に
大きな意味がある。その理由について以下に説明する。
【0133】
移動度は半導体(本実施例ではシリコン基板)中のキャリアの散乱によって決まるが、
シリコン基板における散乱は格子散乱と不純物散乱とに大別される。格子散乱はシリコン
基板中の不純物濃度が低く、比較的高温で支配的であり、不純物散乱は不純物濃度が高く
、比較的低温で支配的である。これらが影響し合って形成される全体的な移動度μは次式
で表される。
【0134】
【数5】

【0135】
この数5で示される式は、全体的な移動度μが、格子散乱の影響を受けた場合の移動度
μl lはlattice を意味する) の逆数および不純物散乱の影響を受けた場合の移動度μ
i iはimpurityを意味する) の逆数の和に反比例することを意味している。
【0136】
ここで、格子散乱ではドリフト電界がそれほど強くなければ音響フォノンが重要な役割
を果たし、その時の移動度μl は、次式の様に温度の-3/2乗に比例する。従って、キャリ
アの有効質量(m*)と温度(T)で決まってしまう。
【0137】
【数6】

【0138】
また、不純物散乱による移動度μi は、次式の様に温度の3/2 乗に比例し、イオン化し
た不純物の濃度Ni に逆比例する。即ち、イオン化した不純物の濃度Ni を調節すること
で変化させることができる。
【0139】
【数7】

【0140】
これらの式によると、従来の様にチャネル形成領域全体に不純物を添加するチャネルド
ープでは不純物散乱の影響を受けて移動度を稼ぐことができない。しかしながら、本発明
では局部的に不純物領域を形成しているので、ポテンシャルスリット領域(Wpaの幅を持
つ領域) には不純物が添加されない。
【0141】
即ち、理論的には数7においてイオン化した不純物の濃度Ni を限りなく0に近づける
ことを意味するため、移動度μi は限りなく無限大に近づいていくことになる。即ち、数
5において1/μi の項を無視することができる程度にまで不純物を減少させることを意
味するので全体の移動度μは限りなく移動度μl に近づいていく。
【0142】
また、キャリアの有効質量(m*)を小さくすることで移動度μl をさらに大きくする
ことも理論的には可能である。これは極低温の領域において、キャリア(特に電子の場合
)の有効質量が結晶軸の軸方位に依存して変化する現象を利用することで成しうる。
【0143】
文献によれば、ソース/ドレイン間を結ぶチャネル方向(キャリアの移動する方向)が
単結晶シリコンの<100>軸方向と一致する様に構成した時、最小の有効質量を得るこ
とができる。
【0144】
例えば、図10に示す様に、(100)面を有する単結晶シリコン基板1001上にソ
ース領域1002、チャネル形成領域1003、ドレイン領域1004が形成されている
とする。この時、チャネル方向1005を[100]とした場合の様な時がこれに相当す
る。但し、この例は4°Kという極低温領域における結果である。
【0145】
また、結晶格子間をうまくキャリアがすり抜けて行ける様に、チャネル方向および不純
物領域707の軸方向(配列方向)と、結晶格子の軸方向とを概略平行(軸方向のずれを
±10°以内に収める)にさせることが望ましい。単結晶ならばシリコン原子は規則正しく
配列しているので、結晶格子の配列方向と平行に移動するキャリアは格子散乱の影響を殆
ど受けないで済む。
【0146】
例えば、単結晶シリコン基板において上記の様な方向における回転軸を0°とすると、
他にも90°、180°、270°の回転軸の場合において同様の効果を得ることができ
る。
【0147】
以上の様に、チャネル形成領域を移動するキャリアはチャネル形成領域内に存在する不
純物領域以外の領域を通る。この様子を図11の模式図を用いて簡単に説明する。
【0148】
図11(A)において、1101で示されるのはチャネル形成領域である。即ち、図1
1(A)はチャネル形成領域を右斜め上方から見た図である。本実施例を実施したチャネ
ル形成領域は、立体的には図11(A)の様に不純物領域1102が形成されている。
【0149】
図11(A)に記載された矢印1103はキャリア(電子または正孔)の進行方向を示
すものである。図11(A)に示す様にチャネル形成領域1101内には複数の不純物領
域1102が配置されており、キャリアはそれら不純物領域1102以外の領域を通過す
る。
【0150】
キャリアの進行方向をチャネル形成領域1101の上面から見ると図11(B)の様に
見える。図11(B)は図11(A)において、ACEFで表される面を見た図である。
図11(B)に示される様に、キャリアが不純物領域1102を避け、不純物散乱のない
領域を移動する。
【0151】
即ち、大部分のキャリアは矢印で示す様に、不純物領域1102の間を通ってソース/
ドレイン間を移動する。勿論、不純物領域がドットパターン形状に設けれている様な場合
には、不純物領域を避ける様にしてジグザグに移動する場合も含まれる。
【0152】
また、図11(C)に示すのは、チャネル形成領域1101を側面から見た図である。
なお、図11(C)は図11(A)において、ABCDで表される面を見た図である。ま
た、1103で示されるのは矢印であり、紙面に向かって手前方向に矢先が向いているこ
とを示している。この図もキャリアが不純物領域1102の間を移動することを示してい
る。
【0153】
また、線状パターン形状を有する不純物領域に挟まれた領域(ポテンシャルスリット領
域)におけるエネルギー状態(電位状態)を模式的に表した分布図は図12(A)の様に
なっていると考えられる。
【0154】
図12(A)において、1201、1202で示される領域は不純物領域のエネルギー
状態を示しており、エネルギー的に高い障壁となっている。そして、不純物領域から離れ
るに従って徐々にエネルギー的に低い領域1203となる。即ち、チャネル領域を移動す
るキャリア(ここでは電子を例にとる)は1203で示されるエネルギー状態の低い領域
を優先的に移動し、1201、1202で示されるエネルギー障壁(不純物領域)は壁の
様な役割を果たす。
【0155】
ここで、チャネル領域を移動するキャリア(電子)のイメージを模式的に図12(B)
で表す。イメージ的には、チャネル領域を移動するキャリア1200は図12(B)に表
す様にまるで雨樋の中を転がる球体の様にその方向性が規定され、ソース領域からドレイ
ン領域に向かってほぼ最短距離を移動する。
【0156】
本出願人は図12(A)の様なエネルギー分布を電気的なスリットとして捉えてポテン
シャルスリット領域と呼んでいる。また、図12(B)の様なモデルからレーンを転がる
球体をイメージしてレーン領域とも呼ぶことがある。
【0157】
また、図12(B)に示す様に、チャネル形成領域には図12(A)に示した様なポテ
ンシャルスリット領域が複数並列に配置されて構成されているが、1201、1202で
示される領域を越えることがないため、隣接するポテンシャルスリット領域との間におい
てキャリアの移動は行われない。
【0158】
以上の理由によりキャリアが他のキャリアと衝突する確率は大幅に減少するため、移動
度が大幅に向上する。即ち、本発明の構成は不純物散乱を低減するのみならず、キャリア
同士の自己衝突による散乱をも低減することで大幅な移動度の向上を実現することができ
る。
【0159】
この様に従来においては常に悪影響を及ぼすとされてきたエネルギー障壁(グレインバ
ンダリーなど)を逆に意図的に形成して利用するという本発明の発想は非常に新しいもの
である。
【実施例2】
【0160】
本発明において、チャネル形成領域に不純物領域を形成する手段として、不純物の偏析
作用を利用した方法をとることもできる。本実施例では、その様な例として熱酸化膜近傍
におけるボロン(B)およびリン(P)の偏析を利用した方法について図13、図14を
用いて説明する。
【0161】
本実施例はその際に不純物領域の周辺(ポテンシャルスリット領域)に含有されていた
不純物元素(ボロンまたはリン)が不純物領域に偏析する現象を利用した技術である。こ
こで、熱酸化工程により熱酸化膜/シリコン界面近傍のボロンまたはリンの濃度がどの様
な分布を示すかを図13を用いて説明する。
【0162】
図13に示す様に、Si中に存在する添加イオン(B、P)は酸化膜が形成されると再分
布する。これは、シリコン(Si)中および熱酸化膜( SiOx )中において添加イオンの溶
解度と拡散速度が異なるために起こる現象である。不純物のSi中における溶解度を [C]
Siとし、 SiOx 中における溶解度を [C] SiOxとする時、平衡偏析係数mは次式で定義さ
れる。
m= [C] Si/ [C] SiOx
【0163】
この時、Si/SiOx 界面近傍の不純物の偏析はmの値に支配される。通常、Si中における
不純物の拡散係数が十分大きいとして、m<1の場合、Si中の不純物は SiOx 中に取り込
まれる(図13(A))。また、m>1の場合、SiO x が不純物を排斥し、その結果とし
てSi/SiOx 界面近傍の不純物濃度が増大する(図13(B))。
【0164】
文献値によると、ボロンのmの値は0.3 程度であり、リンのmの値は10程度である。従
って、本実施例における熱酸化工程後のボロンの濃度分布は図13(A)の様になり、熱
酸化膜中にボロンが取り込まれ、不純物領域の側面(Si/SiOx 界面近傍)におけるボロン
濃度は極めて微量な状態となる。また、逆に形成された熱酸化物中には多量のボロンが含
有される。
【0165】
この様な熱酸化膜中へのボロンの取込み現象は既に知られていたが、本発明の様にエネ
ルギー障壁(不純物領域)を形成するためにこの現象を利用する発想は全く新しいもので
ある。
【0166】
なお、図13(B)に示す様に、不純物元素としてリンを用いた場合には熱酸化膜とシ
リコンとの界面に偏析(パイルアップ)する。この現象もまた、Pチャネル型FETに不
純物領域を形成する際に活用することができる。
【0167】
次に、実際に不純物領域を形成する例について図14を用いて説明する。図14(A)
に示すのはSOI基板の単結晶シリコン層のみを拡大した図である。1401は絶縁層で
あり、1402が単結晶シリコン層である。SOI基板としては、SOS基板、SIMO
X基板、FIPOS基板等を用いることができる。
【0168】
そして、電子ビーム法、FIB法、エキシマレーザー法などの微細リソグラフィ技術を
利用して不純物領域を形成するためのレジストパターン1403をチャネル形成領域上に
配置する。
【0169】
図14(A)に示す状態が得られたら、Ar(アルゴン)をイオン注入法により添加す
る。なお、本実施例ではArを用いるが、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)等の希ガス
を注入するのであっても良い。(図14(B))
【0170】
このイオン注入の目的は、単結晶シリコン層に対してダメージを与えることにあるため
、電気的に不活性な元素を用いる。なぜならば、本実施例で開示する方法は、単結晶シリ
コンを熱酸化した際にダメージを受けた領域が優先的に酸化される性質を利用するものだ
からである。
【0171】
従って、図14(B)においてArが添加された領域1404は、他の領域に比べてダ
メージを受けた、結晶配列の乱れた領域となる。
【0172】
次に、レジストパターン1403を除去した後、図14(C)に示す様に、800 〜1200
℃の温度範囲で加熱処理を行う。本実施例では、1000℃60min の処理の内、最初の30分を
酸化性雰囲気で処理し、残りの時間を窒素(N2 )90%、酸素(O2 )9%、塩化水素
(HCl)1%のハロゲン雰囲気に切り換えて処理を続ける構成とする。
【0173】
即ち、最初の30分間は熱酸化のための加熱処理であり、後の30分間はハロゲン元素によ
る金属元素のゲッタリング効果を狙った加熱処理である。後者の加熱処理を窒素含有量の
多い雰囲気で行うのは、単結晶シリコン層が過剰に酸化されるのを防止するためである。
【0174】
こうして図14(C)に示す様に、単結晶シリコン層には熱酸化膜1405が形成され
る。そして同時に領域1404が優先的に酸化反応が進行して、単結晶シリコン層内部の
まで侵入した不純物領域(この場合、酸化シリコンで成る)1406が形成される。なお
、図14(C)では不純物領域1406が下方の絶縁層1401にまで達していないが、
Arの注入条件によって絶縁層に達する様にする場合もあり得る。
【0175】
また、本実施例は、例えば電子ビームや集束イオンビームを直接単結晶シリコン層に照
射してダメージを与えても実施することができる。
【0176】
以上に様にして形成された不純物領域1406は酸化される過程において、周囲のポテ
ンシャルスリット領域に含有される不純物元素を偏析させる。従って、予めチャネル形成
領域に対して一導電性を付与する不純物元素を添加しておけば、不純物領域1406の内
部に偏析するか(ボロンの場合)、もしくは不純物領域1406の側面に偏析する(リン
の場合)。従って、Nチャネル型FETの作製に際しては、ボロンを酸化物中に偏析させ
、Pチャネル型FETの作製に際しては酸化物側面にリンを偏析させることで、実施例1
に示した様な本発明の構成を得ることが可能となる。
【0177】
また、本実施例ではハロゲン元素による金属元素のゲッタリング効果と、リンやボロン
の熱酸化膜への偏析現象を共に利用する構成としてあるので、真性または実質的に真性な
、キャリアが移動する領域(特に、不純物領域1406の周辺)1407には、不純物散
乱の原因や再結合中心となる不純物元素が存在しない構成となる。
【0178】
このことは、先にも述べた様に数5においてμi が大きくなることに相当するので、全
体の移動度μは理想的にμ=μl に近づいていく。即ち、実質的に格子散乱のみで決まる
極めて大きな移動度を実現しうることを示す。以上により、本実施例に従えば、極めて高
い移動度を有する半導体装置を作製することが可能となる。
【実施例3】
【0179】
本実施例では、チャネル形成領域に形成する不純物領域の形状をドットパターン状とす
る場合の例を示す。説明は図15を用いて行う。なお、説明の便宜上、図1と同じ符号を
併用する。
【0180】
図15に示す半導体装置の構造は、図1において線状パターン形状を有する不純物領域
をドットパターン形状に置き換えたものである。まず、図1と異なるのは図15(A)に
示す様に不純物領域1501が配置される点である。
【0181】
また、図15(A)をA−A’で切断した断面は図15(B)に示す様になり、B−B
’で切断した断面は図15(C)に示す様になる。
【0182】
なお、本実施例ではドットパターン状の不純物領域の例として円形の不純物領域を記載
しているが、楕円形、正方形、長方形などであっても構わない。
【0183】
ドットパターン状に不純物領域を形成した場合、実施例1に示したレーン領域の様な役
割はなくなるが、キャリアの移動しうる実効チャネル面積は増加するので半導体装置に流
せる電流量を増やすことができる。
【実施例4】
【0184】
実施例1および実施例3では、不純物領域の形状として線状パターン形状の場合とドッ
トパターン形状の場合とを最も単純な形状で説明した。本実施例では、不純物領域の形状
の様々なバリエーションについて説明する。
【0185】
図16(A)に示す形状は線状パターン形状の他のバリエーションである。図16(A
)に示す構造は、本発明においてドレイン領域側からチャネル形成領域側へと広がる空乏
層をピニング(抑止)する効果をより確実にし、短チャネル効果に起因するパンチスルー
現象を防止することを第一とした構造である。
【0186】
図16(A)において、不純物領域1601の特徴は、上面から見た場合に線状パター
ン形状の不純物領域の側面に対して凹凸部1602を付与した形となっており、いわゆる
フィッシュボーン形状となっていることである。即ち、側面の凹凸部1602が空乏層の
広がりを効果的に抑止するのである。
【0187】
また、図16(A)の構成をさらに発展させて、よりピニング効果を確実なものとした
例が図16(B)に示す構成である。即ち、交互にかみ合ったフィッシュボーン形状とす
ることで空乏層に対する対向面積を増やし、空乏層の広がりを効果的に防止することがで
きる。
【0188】
この際、図16(B)に示す様に、ある凹凸部(フィッシュボーンの骨に相当する部分
)が、隣の不純物領域の凹凸部と交互に重なり合う様に形成することが望ましい(160
3で示される領域)。
【0189】
ただし、この構造とした場合、キャリアが1604で示される破線の沿って移動するた
め移動距離が長くなることを避けられない。そして、移動距離が長くなるということは、
その分キャリアの散乱確率が増加して移動度を低下させる要因となりかねない。
【0190】
しかし、本発明が効果を発揮する極めて微細な半導体装置においては、チャネル形成領
域が真性または実質的に真性である以上、多少移動距離が長くなっても不純物散乱の影響
は大きく変化しないと考えられる。それよりも微細化にともなう短チャネル効果(特にパ
ンチスルー現象)の影響を抑制することの方が重要であると言える。
【0191】
また、ある一本の不純物領域に着目した場合、隣接する凹凸部同士の間の距離(図中、
Lpaで表される距離)も制御が必要である。即ち、ピニング効果を高めるためには距離L
paを短くし、移動度向上に重きを置くなら距離Lpaを長くすることが好ましい。本発明で
は距離Lpaを70〜3000Å(好ましくは100 〜1000Å)の範囲で制御する。
【0192】
また、図16(B)に示した構造とする場合、不純物領域以外のキャリアが移動する領
域(ポテンシャルスリット領域)1605の幅および長さがキャリアの移動度に影響する

【0193】
また、本発明は線状パターンのみならず、ドットパターン状の不純物領域を形成する場
合においても様々なバリエーションを採りうる。例えば、図16(C)に示す様に不純物
領域1606が交互に配置された構成とすることができる。
【0194】
この場合、ドットパターン状の不純物領域1606間の隙間を隣接する列で補う構成と
なるので、空乏層の広がりを抑止する効果が強くなる。また、この場合もキャリアの移動
経路は破線1607で示す様になるが、前述の様に素子が微細になればさほど問題とはな
らない。
【0195】
また、図16(D)に示す様に、ドットパターン形状の不純物領域1608をチャネル
方向と垂直な楕円形または長方形とすることもできる。図16(D)に示す構成は空乏層
の抑止を最重点課題とした時に有効な構成であると言える。
【0196】
以上の様に、短チャネル効果に起因するパンチスルー現象を効果的に防止するためには
、不純物領域の形状を工夫すれば良い。不純物領域は人為的に形成されるので形状も作製
者の自由に設計できる。
【0197】
特に、本実施例で示した様な図16(A)〜図16(D)に示した形状は、チャネル長
が0.1 μm以下といった様な極めて微細な半導体装置を形成する場合に効果的である。な
ぜならば、その様な微細素子となるとパンチスルー現象による耐圧の低下が致命的な問題
となるため、移動度の向上よりも耐圧の向上に重きを置くべきだからである。
【実施例5】
【0198】
本実施例では、本発明の不純物領域を形成する際に実施例4とは異なる工夫を施した例
を示す。本実施例の説明は図17を用いて行なう。
【0199】
図17(A)に示すのは、不純物領域1701の幅(Wpi)をソース領域1702近傍
とドレイン領域1703近傍とで変化させた例である。具体的には、ドレイン領域170
3近傍に近づくに従い、徐々にWpiが増加していく様な構成とする。
【0200】
図17(A)の様な構成とすると、短チャネル効果に伴うパンチスルー現象の原因とな
るドレイン領域側の空乏層の広がりを効果的に抑制することができる。また、ソース領域
側においてはポテンシャルスリット領域1704の幅(Wpa)が十分に広いのでキャリア
の移動がスムーズに行なわれる。
【0201】
また、この構成は図17(A)の様な構成以外に限らず、例えば図17(B)の様にフ
ィッシュボーン形状を有する不純物領域1705の凹凸部1706の長さを、ドレイン領
域1707に近づくにつれて長くする様な構成としても達成することができる。
【0202】
また、図17(C)に示す様に、ドレイン領域1708近傍において不純物領域160
9を構成する不純物元素の濃度を高くする構成とすることも可能である。この場合、図1
7(C)に示す様に、上面から見た場合にはソース領域1710からドレイン領域170
8に渡って不純物領域1709が形成されている。
【0203】
そして、不純物領域1709を構成する不純物元素の濃度は、ソース領域1710近傍
における濃度よりもドレイン領域1708近傍における濃度の方が高い構成とすることが
できる。(図17(D))
【0204】
なお、図17(D)は不純物領域1709内の不純物元素濃度の変化を表したグラフで
あり、横軸は距離、縦軸は濃度を表している。図17(D)に示した様に、ソース領域1
711近傍の濃度プロファイルとドレイン領域1712近傍の濃度プロファイルを異なる
様にするには、不純物領域1709を形成する際に添加する不純物元素の濃度を調節すれ
ば良い。
【0205】
即ち、不純物元素の濃度プロファイルは図17(D)に示す様な形状にこだわる必要は
なく、作製者の必要に応じて適宜不純物添加工程を調節して濃度プロファイルを決定すれ
ば良い。
【0206】
以上の様に、本実施例に示した様な構成はソース領域およびドレイン領域の位置が特定
されている場合において有効であり、例えば液晶表示装置の画素を駆動する半導体装置の
様にソース/ドレインが充放電に応じて逆転する様な場合には必ずしも有効とは言えない
。液晶表示装置に用いる場合には、周辺駆動回路を構成するインバータ回路などの様にソ
ース/ドレインが特定される用途に用いるべきであると言える。
【0207】
また、本実施例では不純物領域の形状としてチャネル方向に概略平行な線状パターン形
状を有する構成とする例を示したが、本実施例の構成をドットパターン形状に不純物領域
に適用することは容易である。従って、本実施例は一例を示すのみであって、他の様々な
考えうる例は作製者の必要に応じて適宜なされるものであると考える。
【実施例6】
【0208】
本発明の特徴はチャネル形成領域に対して人為的かつ局部的に不純物領域を設ける点に
あるが、チャネル形成領域に局部的に添加された不純物元素(炭素、窒素、酸素から選ば
れた一種または複数種類の元素)は、水素アニール処理を施した低酸素シリコン基板を用
いる場合に有効な効果を示す。
【0209】
従来例で触れた様に、通常のLSI回路を構成する半導体装置(サイリスタを除く)は
CZ法で形成されたシリコン基板を用いており、応力緩和のために所定量の酸素がシリコ
ン基板中に含まれている。しかし、最近ではの酸化膜耐圧の向上、微小欠陥の低減の要求
が強まり、水素雰囲気でのアニールによって表面層5μm位までの酸素濃度を 1×1017at
oms/cm3 以下にまで下げた基板が多く用いられている。
【0210】
その反面、この様な低酸素処理を施したシリコン基板は基板表面層が応力に対して非常
に脆くなってしまい、半導体装置の製造プロセスの過程でクラックや反りが発生する原因
ともなってしまう可能性がある。
【0211】
しかしながら、本発明に低酸素処理を施したシリコン基板を用いるとチャネル形成領域
に形成された不純物領域に応力が集中する様になるので、不純物領域が結晶半導体に発生
する応力を緩和する緩衝領域としての機能を有することになる。
【0212】
この応力を緩和する緩衝領域として機能するという効果は、本発明における不純物領域
の特筆すべき効果の一つである。なお、この効果は不純物元素として酸素を用いた場合に
おいて特に顕著である。
【0213】
従って、低酸素処理を施したシリコン基板を用いて半導体装置を作製する際に製造プロ
セス過程において発生する応力による影響を緩和することができるので、製造歩留りが大
幅に向上する。
【0214】
また、この様なシリコン基板は酸化膜耐圧の向上、微小欠陥の低減の効果以外に、キャ
リアの不純物散乱の影響が低減するといった効果も期待できる。即ち、酸素を低減するこ
とはポテンシャルスリット領域をより真性または実質的に真性な領域に近づけることを意
味しているので、キャリアの移動度を極めて高いものとしうる。
【実施例7】
【0215】
本実施例では、本発明を利用した半導体装置(半導体素子)で構成される集積化回路(
本明細書では半導体装置の範疇に含まれる)について、いくつかの例を挙げて説明する。
説明には図18および図19を用いる。
【0216】
図18(A)に示すのは、Nチャネル型FETとPチャネル型FETとを二階建てに積
層して構成したスタックト型CMOS回路に本発明を適用した場合の例である。一般的に
は動作性能の問題からPチャネル型FETが下層側に形成されることが多い。本実施例も
下層側をPチャネル型FETとしている。
【0217】
図18(A)において、下層は通常のIC技術で形成されたPチャネル型FETであり
、1801はN型シリコン基板、1802はフィールド酸化膜、1803、1804はそ
れぞれソース領域およびドレイン領域である。本実施例では、低濃度不純物領域(ドレイ
ン領域側はLDD領域と呼ばれる)1805、1806を設ける構成とする。
【0218】
また、1807は導電性を有するポリシリコンでなるゲイト電極であり、その直下には
本発明の特徴である不純物領域1808が配置されている。なお、図18(A)では不純
物領域1808の一端は低濃度不純物領域1806の内部にあり、他端はLDD領域18
05を超えてドレイン領域1804の内部にある。
【0219】
上層にはSOI技術を用いてNチャネル型FETが形成されている。Nチャネル型FE
Tの活性層となる単結晶シリコン層は公知のウェハーの貼り合わせ技術を利用することで
得られる。従って、1809で示される層間絶縁膜は下層のFETを覆う層間絶縁膜と、
接合するウェハーの熱酸膜との積層膜で構成され、接合面(点線で示される)を含んでい
る。
【0220】
そして、公知のTFT技術を用いてソース領域1810、チャネル形成領域1811、
ドレイン領域1812を形成する。ここでもチャネル形成領域1811を挟み込む様に低
濃度不純物領域1813、1814が配置される。また、チャネル形成領域1811対し
ては本発明である不純物領域1815を配置する。
【0221】
さらに、ゲイト電極1816を覆って層間絶縁膜1817が成膜され、配線1818、
1819、1820が形成される。なお、配線1818はPチャネル型FETのドレイン
領域1804とNチャネル型FETのドレイン領域1812とに共通の配線となる。
【0222】
以上説明した構造でなる図18(A)に示すスタックト型CMOS回路は素子の占有面
積を低減することができるため、VLSIやULSI回路を構成する際に集積度を向上さ
せることができる。
【0223】
また、本発明を適用することで耐圧を損ねることなく高速動作性を追及することができ
るので、周波数特性の優れたCMOS回路を構成することが可能となる。
【0224】
次に、図18(B)に示すのは、CMOS回路とバイポーラトランジスタとを複合した
Bi−CMOS回路に本発明を適用した例である。ここでは、下層がバイポーラトランジ
スタであり、上層がSOI構造の半導体装置で構成されるCMOS回路である。
【0225】
図18(B)において、1821はP型シリコン基板であり、1822は埋め込みN+
領域、1823はエピタキシャル成長により形成されたpウェルであり、埋め込みN+
域1822上のpウェルはN型にドーピングされてコレクタとして機能するnウェル18
24となっている。また、1825は埋め込みN+ 領域1822からの取り出し電極とな
るDeepN+ 領域である。また、1826は通常の選択酸化法で形成されたフィールド酸化
膜である。
【0226】
バイポーラトランジスタを構成するnウェル1824には活性ベースとなるp- 領域1
827がまず形成され、次いで外部ベースとなるp+ 領域1828、エミッタ領域となる
+ 領域1829が配置される。
【0227】
以上の構成でなるバイポーラトランジスタの上方にはウェハー貼り合わせ技術を用いて
得られた単結晶シリコン層を活性層とする、SOI構造のCMOS回路が構成されている
。1830で示される層間絶縁膜が接合面(点線で示される)を含んでいる。ここでは、
CMOS回路の詳細な説明は実施例1で十分に述べたのでここでは省略する。
【0228】
図18(B)では、Nチャネル型FETの不純物領域1831、Pチャネル型FETの
不純物領域1832共に、ソース領域1833、1834には入り込まず、ドレイン領域
1835、1836のみに入り込む様な配置とする。
【0229】
そして、上層のCMOS回路と下層のバイポーラトランジスタとを配線1837、18
38で接続してBi−CMOS構造を実現することができる。
【0230】
この様にして構成されるBi−CMOS回路はバイポーラトランジスタの高速動作性と
CMOS回路の低消費電力性を有効に併用するための回路構成である。また、本実施例の
様に、CMOS回路とバイポーラトランジスタを積層化する三次元構造とすることで、従
来の問題であった占有面積の大きさを大幅に小さくすることが可能である。
【0231】
次に、図19(A)に示すのは、SOI技術を用いて作製したDRAM(Dynamic Rond
om Access Memory)に本発明を適用した例である。DRAMとは記憶する情報を電荷とし
てコンデンサに蓄える形式のメモリである。コンデンサへの情報としての電荷の出し入れ
は、コンデンサに直列に接続された半導体装置(電界効果トランジスタ)によって制御さ
れる。ここでは、スタックトキャパシタ型のDRAMについて説明する。
【0232】
図19(A)において、1901はシリコン基板、1902は、シリコン基板1901
とその上に設けられる容量蓄積用電極1903とを分離する絶縁膜である。容量蓄積用電
極1903の上方には高誘電率材料でなる絶縁膜1904を介して容量電極1905が設
けられている。本実施例では絶縁膜1904としてTa25 を用いるが、他にもSi34
などを用いることができる。
【0233】
この様な構造によって、容量蓄積用電極1903と容量電極1905との間には大容量
のキャパシタが形成される。図19(A)に示す積層構造において、下層は完全に容量を
蓄積する領域として活用している点が特徴である。そして、その容量に蓄積する電荷の出
し入れはSOI技術を用いて上層部に形成されたIG−FETによって成される。
【0234】
本実施例では上層に配置するデータ信号制御用に半導体装置として、LDD領域を設け
たNチャネル型FETを用いている。活性層となる単結晶シリコン層はウェハー貼り合わ
せ技術を用いて得られるが、レーザー又は電子ビームによるポリシリコン(又はアモルフ
ァスシリコン)の再結晶化技術を用いても良い。なお、図中の点線で示されるのは貼り合
わせの接合界面である。
【0235】
単結晶シリコン層でなる活性層はソース領域1906、ドレイン領域1907で構成さ
れ、チャネル形成領域には本発明の不純物領域1908が配置されている。なお、不純物
領域1908はLDD領域1909を突き抜けてドレイン領域1907の内部にまで入り
込む様にして設けられている。
【0236】
ビット線1910で送られてきたデータ信号は、ワード線1911の電圧を制御するこ
とでドレイン電極1912に伝えられる。そして、その信号は上層のドレイン電極191
2と下層の容量電極1905とを接続する埋め込みプラグ1913を介して下層にキャパ
シタ(容量)に蓄積される。
【0237】
DRAMの特徴は1個のメモリを構成する素子数がIG−FETとキャパシタだけで非
常に少ないので、高集積密度の大規模メモリを構成するのに適していることである。また
、製造コストも低く抑えられるので、現在最も大量に使用されている回路であると言える

【0238】
次に、本発明を利用して作製したFETをSRAM(Static Rondom Access Memory )
に適用した例について説明する。説明には図19(B)を用いることとする。
【0239】
SRAMはフリップフロップ等の双安定回路を記憶素子に用いたメモリであって、双安
定回路のON−OFFあるいはOFF−ONの2安定状態に対応して2進情報値(0また
は1)を記憶するものである。電源の供給がある限り記憶が保持される点で有利である。
【0240】
記憶回路はNMOS回路やCMOS回路で構成される。図19(B)に示すSRAMの
回路はCMOS回路を組み合わせたセルの断面図である。なお、最下層に配置された2つ
のFETはどちらもPチャネル型FETであり、中層の2つのFETはどちらもNチャネ
ル型FETである。従って、説明は基本的に図面に向かって右側の上下FETで構成され
たCMOS回路を中心に説明する。
【0241】
図19(B)において、N型シリコン基板1914にはP型ウェルでなるソース領域1
915ドレイン領域1916が形成され、ゲイト絶縁膜1917を介してゲイト電極19
18が配置される。図面に向かって左右に配置される素子はフィールド酸化膜1919で
分離されている。
【0242】
また、1920で示されるのは本発明の不純物領域である。ここではドレイン領域にの
み入り込む様な配置とし、ソース領域には不純物領域が入り込まない様に構成する。
【0243】
中層のNチャネル型FETの活性層はSOI技術の一つであるレーザー(又は電子)ビ
ーム再結晶化法を用いて形成する。この技術は、平坦化された層間絶縁膜1921上にポ
リシリコン又はアモルファスシリコンを形成して、それをレーザービームや電子ビーム等
で溶融させて再結晶化させるものである。
【0244】
勿論、ウェハー貼り合わせ技術等のSOI技術を用いても構わないのであるが、本実施
例では再結晶化法を用いることで、中層のNチャネル型FETのドレイン領域1922を
直接Pチャネル型FETのドレイン領域1916と接続する構成としている。
【0245】
上記手段によって得られた活性層(単結晶シリコン層)には公知のTFT技術を用いて
ソース領域1923ドレイン領域1922が設けられ、ゲイト絶縁膜1924を介してゲ
イト電極1925が配置されている。そのゲイト電極1925の直下(チャネル形成領域
)には本発明の不純物領域1926がドレイン領域1922のみに入り込む様な構成で設
けられている。
【0246】
Nチャネル型FETのゲイト電極1925は導電性を付与してポリシコンで形成される
が、ゲイト電極1925の形成と同時に同じ材料で接続配線1927を形成する。この接
続配線1927は右側のCMOS回路の出力信号を、左側のCMOS回路のゲイト電極1
928、1929へと伝えるための配線である。なお、図19(B)において、点線で示
したのは図面上では記載されないが接続配線1927と各ゲイト電極1928、1929
とが電気的に接続されていることを示している。
【0247】
そして、最上層にはトランスファゲートとして機能するNチャネル型FETが配置され
る。このFETの活性層はウェハー貼り合わせ技術を用いて得られた単結晶シリコン層で
ある。単結晶シリコン層は島状に加工された後、ソース領域1930、ドレイン領域19
31、本発明の不純物領域1932を形成されて活性層となる。
【0248】
このトランスファゲートとなるNチャネル型FETのドレイン領域1931は接続電極
1933を介して中層に設けられた接続配線1927と電気的に接続されている。そして
、ワード線1934に電圧を印加することでビット線1935からのデータ信号をCMO
S回路へと伝達する。
【0249】
以上説明して様な構成でなるCMOS型SRAMは動作マージンが広い、データ保持電
流が極めて少ないといった長所があり、低電圧のバッテリーバックアップ用に用いられる
ことが多い。また、SRAMは、高速動作が可能で、信頼性が高くシステムへの組む込み
が容易なことなどの特徴もある。
【0250】
以上の様に、本実施例で説明したBi−CMOS回路やSRAM回路等の半導体装置は
、本発明を適用することで短チャネル効果を防止しつつ微細化することができるので、信
頼性(高耐圧特性等)と高速動作特性を同時に追及することが可能となる。即ち、この先
必要となるシステム・オン・チップ構想を念頭に置いた超高集積化回路を実現するために
、本発明は絶大な効果を発揮する技術であると言える。
【実施例8】
【0251】
本実施例では、本発明を利用した半導体装置を製品(電子機器)に組み込んだ場合の一
例を示す。ここでは、ノート型パソコンに組み込まれたIC回路を例にとって説明する。
説明は図20を用いて行う。
【0252】
図20において、3001は本体、3002はフタ部、3003はキーボード、300
4は画像表示部であり、本体3001内には様々な集積回路3005が組み込まれている

【0253】
集積回路3005を取り出してみると、外部はパッケージ3011で覆われて内部の半
導体チップは樹脂等で保護されている。また、内部の半導体チップはリード3012によ
って外部と接続される。通常、目にする集積回路(ICチップ)3005は、外目には黒
色のパッケージ3011とリード3012しか見えないので完全にブラックボックスとな
っている。
【0254】
そのパッケージ3011で保護された半導体チップを取り出して見ると、例えば次の様
な構成となっている。まず、基板3013上には演算部(プロセッサー)3014とメモ
リ部3015が配置されている。なお、3016は半導体素子とリード3012とを接続
するボンディング部である。
【0255】
演算部3014、メモリ部3015はCMOS回路、Bi−CMOS回路、DRAM回
路、SRAM回路など、他にも様々な回路を用いて構成されている。本実施例で示した図
20の様な構成は、同一基板上に演算部3014とメモリ部3015が配置されているこ
とに特徴がある。これは、いわゆるシステム・オン・チップ(システムIC)と呼ばれる
構想である。
【0256】
この様に演算部3014とメモリ部3015とが隣接した構成とすると、演算部301
4とメモリ部3015との間のデータのやりとりが非常に高速で行われる様になるため、
動作速度の速い回路を形成することが可能となる。
【0257】
また、ワンチップ上に必要な回路を全て集積化することも可能であるので、製造コスト
を大幅に低減することも期待できる。さらには、配置面積を減らすことで製品の小型化を
図ることもできる。実施例7で説明した様に、SOI技術は三次元的な集積化回路を構成
することができるので、今後、集積度は益々高密度となるに違いない。
【0258】
加えて、本発明を利用すれば短チャネル効果を問題とせずにIG−FET、さらには集
積化回路の微細化を行うことができるので、上記の様なワンチップ化を実現することで半
導体装置である応用電子機器のさらなる小型化、携帯化が期待できる。
【実施例9】
【0259】
本実施例では、本発明を適用したIG−FETおよびそれを組み合わせて構成される集
積化回路を組み込んだ電子機器の例を示す。なお、前述の様に本明細書中では便宜上、I
G−FET、集積化回路、電子機器等と記載しているが、基本的には全て半導体を利用し
て作製される装置であるので「半導体装置」の範疇に含まれているものとする。
【0260】
本発明を適用しうる半導体装置(電子機器)としては、一般的にIC回路を必要とする
半導体装置全てが含まれる。従って、適用範囲は極めて広く日常の殆どの場面で使用され
る装置が含まれる。
【0261】
具体的には、例えば液晶表示装置、EL表示装置、CL表示装置といったアクティブタ
イプの電気光学装置およびTVカメラ、パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション、
TVプロジェクション、ビデオカメラ、携帯情報端末機器等が挙げられる。携帯情報端末
機器としては、携帯電話やモバイル(モービル)コンピュータといった半導体装置が含ま
れる。以上に挙げた様な半導体装置として代表的な例を図21を用いて簡単に説明する。
【0262】
図21(A)はTVカメラであり、本体2001、カメラ部2002、表示装置200
3、操作スイッチ2004で構成される。本発明は装置内部に組み込まれる集積化回路2
005に適用することができる。
【0263】
図21(B)はカーナビゲーションであり、本体2101、表示装置2102、操作ボ
タン2103、アンテナ2104で構成される。本発明は装置内部に組み込まれる集積化
回路2105に適用することができる。なお、表示装置2102はモニターとして利用さ
れるが、地図の表示が主な目的なので解像度の許容範囲は比較的広いと言える。
【0264】
図21(C)は携帯情報端末機器(本実施例では携帯電話)であり、本体2301、音
声出力部2302、音声入力部2303、表示装置2304、操作ボタン2305、アン
テナ2306で構成される。本発明は装置内部に組み込まれる集積化回路2307に適用
することができる。
【0265】
図21(C)に示す様な携帯電話は高周波動作を必要とする半導体装置であるので、極
めて高速な動作特性を要求される。そこで本発明を適用することで耐圧を損ねることなく
高速動作する集積化回路を組み込むことができる。
【0266】
図21(D)はビデオカメラであり、本体2401、表示装置2402、接眼部240
3、操作ボタン2404、テープホルダー2405で構成される。本発明は装置内部に組
み込まれる集積化回路2406に適用することができる。表示装置2402に映し出され
た撮影画像は接眼部2403を通してリアルタイムに見ることができるので、使用者は画
像を見ながらの撮影が可能となる。
【0267】
以上の様に、本発明の応用範囲は極めて広く、半導体集積化回路を有する様々な半導体
装置(電子機器を含む)に対して適用することが可能である。
【実施例10】
【0268】
本発明による半導体装置の電気特性は非常に優れたものであり、これを用いて構成した
集積化回路は高い周波数特性を実現しうる。本実施例では、本発明を利用した半導体装置
の性能に関する例を示す。
【0269】
本発明を利用して形成された半導体素子単体のデバイス特性(IG−FETの電流−電
圧特性)は非常に優れたものとなり、Nチャネル型FETのしきい値電圧Vth,nは-0.3〜
3.0 V、Pチャネル型FETのしきい値電圧Vth,pは-3.0〜0.3 Vの範囲(代表的には 0
〜±0.3 Vの範囲)で必要とする駆動電圧に合わせて調節できる。また、S値は60〜85mV
/decade 、ともすれば60〜70mV/decade の極めて優れたサブスレッショルド特性が得られ
る。
【0270】
また、実施例1で説明した様な理由により高い移動度(1000cm2/Vs以上)を得ることが
できる。移動度を計算式で求める場合、移動度はチャネル幅Wに反比例するので注意が必
要である。本発明を実施する場合、チャネル形成領域においては不純物領域によって少な
からずチャネル幅が狭くなっているので、実測チャネル幅Wpaを代入しなければ実際の移
動度は得られない。
【0271】
以上の様な優れた電気特性を達しうる本発明の半導体装置で集積化回路を構成すると、
極めて良好な周波数特性を得ることができる。例えば、本発明の半導体装置を用いて9段
のリングオシレータを構成すると、3.3 Vの駆動電圧で2〜10GHzの周波数特性を実
現しうる。
【0272】
また、例えば、高周波電子機器である携帯電話などの様に高い周波数特性を必要とする
電子機器に対しても本発明は有効である。携帯電話の入力部等に用いられる集積化回路は
、I/O 回路やMUX/DMUX回路等に様に2GHz程度(2.4 GHz)の周波数特性を必要とす
るのであるが、本発明はその様な高周波集積化回路に対しても十分に対応することができ
る。
【0273】
また、本発明をSOI構造の半導体装置に適用しているので、従来のバルクシリコン基
板に作製した集積化回路よりも、10%以上も速い動作特性を有し、70%以下の消費電
力で駆動しうる集積化回路を構成できる。
【符号の説明】
【0274】
101 ソース領域
102 ドレイン領域
103 チャネル形成領域
104 不純物領域
105 シリコン基板
106 埋め込み酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低酸素シリコン基板を用いた半導体装置であって、
前記半導体装置はチャネル形成領域を有するトランジスタを有し、
前記チャネル形成領域は局所的に炭素、窒素、酸素から選ばれた一種類または複数種類の元素を有する不純物領域を有し、
前記不純物領域は結晶半導体に発生する応力を緩和することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記低酸素シリコン基板は、表面から5μmまでの酸素濃度が1×1017atms/cm以下であることを特徴とする半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2011−109124(P2011−109124A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3890(P2011−3890)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【分割の表示】特願2010−126644(P2010−126644)の分割
【原出願日】平成8年9月18日(1996.9.18)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】