説明

危険回避支援システム

【課題】この発明は、運転者に通常レベルの安全運転を意識させた上で、危険回避時には、運転者の意図する危険回避動作を素早く且つ確実に支援できる危険回避支援システムを提供することを課題とする。
【解決手段】危険回避支援システム1は、前方車両が急ブレーキをかけた場合など、当該車両が危険回避動作を必要とする状況に陥ったことを検知する検知部2を有する。システムの制御部10は、この検知部2を介して危険回避動作が必要であることを検知したとき、当該車両の動作モードを通常モードから最大支援モードに切り換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両を運転中に前方車両が急ブレーキをかけた場合などの緊急時に、当該車両の運転者による危険回避動作をアシストする危険回避支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両走行時における危険回避のための安全装置として、前方を走る車両が急ブレーキをかけたときに、後続の当該車両がこの急ブレーキ(パニックブレーキ)を検知して当該車両のブレーキを自動的に動作させる追突防止装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。つまり、この追突防止装置を搭載した車両は、前方車両の運転者がパニックブレーキを踏んだとき、運転者の意思に関係なく、自車のブレーキを自動的に動作させるため、居眠り運転などの場合でも追突を回避できる効果が期待できる。
【0003】
しかし、このような追突防止装置を搭載した車両を運転する運転者は、その反面、この追突防止装置の機能を過信して気を緩め易い。つまり、多少気を抜いて運転しても前方車両が急ブレーキをかけた場合は車両側で自動的にブレーキをかけるため、追突する可能性が低く安心して運転してしまう傾向にある。このため、追突防止装置が故障していることに気付かずに運転しているような場合には、この装置を搭載していない車両を運転している運転者と比較して、大きな事故を引き起こしてしまうことが予想される。
【特許文献1】特開2005−153833号公報([0017][0030]段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の目的は、運転者に通常レベルの安全運転を意識させた上で、危険回避時には、運転者の意図する危険回避動作を素早く且つ確実に支援できる危険回避支援システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の危険回避支援システムは、走行中の車両が危険回避動作を必要とする状況に陥ったことを検知する検知部と、この検知部で当該車両が上記状況に陥ったことを検知したとき、その後の当該車両の運転者による上記危険回避動作を効果的に支援するため、事前準備として当該車両の危険回避支援システムの動作モードを通常モードから最大支援モードに切り換えるモード切換制御部と、を有する。
【0006】
上記発明によると、例えば前方車両が急ブレーキを踏んだ場合など危険回避を必要とする状況になったとき、当該車両が、運転者による危険回避動作をより効果的に支援するため、当該車両の危険回避支援システムの動作モードを通常モードから最大支援モードに切り換えるようにしたため、通常モードのまま危険回避動作を実行する場合と比較して、素早く且つ確実に危険回避が可能となる。
【0007】
また、本発明によると、危険回避が必要な状況になったときに車両側で自動的にブレーキをかけることがないので、運転者は、常に自身の判断で車両を運転する必要があり、通常レベルの安全運転を意識する必要がある。
【発明の効果】
【0008】
この発明の危険回避支援システムは、上記のような構成および作用を有しているので、運転者に通常レベルの安全運転を意識させた上で、危険回避時には、運転者の意図する危険回避動作を素早く且つ確実に支援できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながらこの発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
図1には、この発明の実施の形態に係る危険回避支援システム1(以下、単に、システム1と称する)の構成ブロック図を示してある。このシステム1は、車両の走行中に危険回避動作を必要とする状況に陥ったとき、例えば、前方を走る車両(以下、前方車両と称する)が急ブレーキ(パニックブレーキ)をかけた場合などの非常時に、後続車両(以下、当該車両と称する)の運転者による危険回避動作を効果的に支援するため、事前準備として当該車両の動作モードを通常モードから最大支援モードに切り換えることを特徴としている。
【0011】
ここで言う“効果的”、および特許請求の範囲で言う“効果的”とは、運転者がとり得る危険回避のための動作に最も即した支援、または運転者による危険回避動作を最もし易くする支援のことを指し、危険回避動作にあまり役に立たない支援を含まないということである。
【0012】
つまり、このシステム1は、あくまでも運転者によってなされる危険回避動作をサポートするためのものであり、当該車両の危険を回避するためにシステム1が自動的に当該車両にブレーキをかけることはしない。
【0013】
図1に示すように、システム1は、このシステム1を搭載した当該車両が危険回避動作を必要とする状況に陥ったことを検知するための検知部2を有する。検知部2は、例えば、図2に示す方向から前方車両100を撮影するカメラを備え、カメラで撮影した画像情報に基づいて前方車両が急ブレーキをかけたことを判断する。
【0014】
例えば、ESS(Emergency Stop lamp System)を装備している前方車両100の運転者が急ブレーキをかけた場合、そのときの車速や減速度に基づいてESSが作動し、前方車両100のハザードランプ、ブレーキランプ102、および/或いはハイマウントストップランプ104が早い周期で点滅する。
【0015】
つまり、前方車両100がESSを搭載していることを前提とすると、後続の当該車両は、この早い周期の点滅を検知部2を介して検知することで、前方車両100のESSが作動していることを判断し、前方車両100が急ブレーキをかけていることを判断することになる。
【0016】
この他に、検知部2の例として、車車間通信によって、前方車両との車間距離が急激に狭まったことを検知したり、わき道から当該車両の走行路線に進入する別の車両を検知したりしても良い。或いは、路車間通信によって危険回避動作が必要な状況に陥ったことを検知する検知部2を採用しても良い。いずれにしても、検知部2は、当該車両が危険な状況になったことを検知できれば良い。
【0017】
また、システム1は、この検知部2を介して当該車両が危険な状況になったことを検知したとき、当該車両の危険回避支援システムの動作モードを通常モードから最大支援モードに切り換える制御部10(モード切換制御部)を有する。
【0018】
制御部10には、当該車両のブレーキアシストシステム24の作動しきい値を変更するためのブレーキアシストしきい値設定部22、電動パワーステアリング34のアシストトルクマップを変更するとともに電動パワーステアリング34のギア比を変更して小さな舵角で車両の向きをより大きく変えられるようにするためのアシストマップ変更部&ギア比制御部32、アクセルペダル44の反力を増加させるためのペダル反力制御部42、ブレーキパッド54をブレーキディスクに近づけて両者の間の隙間を狭めるためのブレーキプレフィルシステム52、サスペンション64のバネ定数を変更するためのエアサスペンション制御部62、ショックアブソーバ74の減衰力を変更するための減衰力可変ショックアブソーバ制御部72、運転席のシートベルト84を巻き上げるための自動巻上げ装置82、運転席のサイドサポート可変装置94を動作させるためのサイドサポート制御部92が接続されている。
【0019】
以下、上記システム1による危険回避動作のサポート方法について、図3に示すフローチャートを参照しつつ説明する。なお、ここでは、前方車両がパニックブレーキを踏んでESSが作動した場合における当該車両のシステム1の動作について説明する。
【0020】
システム1を搭載した当該車両は、前方車両のリア側を常にカメラで撮影して監視し、前方車両のESSが作動したか否かを判断する(ステップ10)。前方車両のESSが作動したことを当該車両の検知部2を介して検知すると(ステップ10;YES)、制御部10は、当該車両の危険回避支援システムの動作モードを通常モードから最大支援モードに切り換える(ステップ20)。
【0021】
このとき、制御部10は、当該車両の制動装置の制動力を高めるブレーキアシストシステム24の作動しきい値を下げ(ステップ21)、パワーステアリング34のアシストトルクマップを変更し(ステップ22)、電動パワーステアリング34のギア比を変更し(ステップ23)、アクセルペダル44の反力を増加させ(ステップ24)、ブレーキパッド54をブレーキディスクに近づけて両者の間の隙間を狭め(ステップ25)、サスペンション64のバネ定数を変更し(ステップ26)、ショックアブソーバ74の減衰力を変更し(ステップ27)、運転席のシートベルト84を巻き上げ(ステップ28)、運転席のサイドサポート可変装置94を動作させる(ステップ29)。ステップ27、28の処理は、助手席やリアシートに適用しても良い。
【0022】
そして、制御部10が当該車両の動作モードを最大支援モードに切り換えた後、当該車両の運転者によって危険回避動作がなされると(ステップ30;YES)、上述したシステム1が運転者による危険回避動作をサポートする(ステップ40)。
【0023】
以上のようにシステム1を動作させることにより以下のような効果が得られる。
つまり、ステップ21のように、危険回避動作の準備として、ブレーキアシストシステム24の作動しきい値を下げておくことで、運転者のブレーキ踏み込みが不十分であってもブレーキアシストを作動させることができ、当該車両を素早く停止させることができる。
【0024】
また、ステップ22のように、電動パワーステアリング34のアシストトルクマップを変更することにより、通常モード時より小さな力でステアリング34を操作することができ、素早いステアリング操作が可能となる。また、ステップ23のように、ステアリング34のギア比を変更することにより、通常モード時より小さな操舵角で車両の方向を大きく変えることができ、車両の姿勢を素早く変化させることができる。
【0025】
また、ステップ24のように、アクセルペダル44の反力を増加させることにより、運転者が足をブレーキペダルに踏み変えようとする動作をサポートできる。つまり、通常の走行状態から危険回避動作へ移行する際には、運転者は、アクセルペダル44に足を置いているが、アクセルペダル44の反力を増加させることで足をアクセルペダル44から離す動作を補助でき、ブレーキペダルに素早く足を移動させることができる。これにより、ブレーキを踏み始めるタイミングを早めることができ、制動開始のタイミングを早めることができ、制動距離を縮めることができる。
【0026】
また、ステップ25のように、ブレーキパッド54とブレーキディスクとの間の隙間を狭めることで、ブレーキの遊びを無くすことができ、その分、制動開始のタイミングを早めることができる。
【0027】
また、ステップ26のように、サスペンション64のバネ定数を増加し、ステップ27のように、ショックアブソーバ74の減衰力を増加することで、制動回避時、操舵回避時の車両姿勢変化を抑制し、その結果、安定した回避行動を可能にできる。
【0028】
さらに、ステップ28のように、運転席のシートベルト84を巻き上げ、ステップ29のように、運転席のサイドサポート可変装置94を動作させることにより、運転者を運転席にしっかりとホールドでき、運転者の姿勢変化を抑制できる。これにより、運転姿勢を安定させることができ、車両の急激な姿勢変化があっても、適切且つ安定した運転が可能となり、当該車両を確実にコントロールできる。
【0029】
以上のように、本実施の形態によると、走行中の車両が危険回避動作を必要とする状況に陥った場合に、当該車両のシステム1が、当該運転者による危険回避動作に備えて、当該車両の危険回避支援システムの状態を予め適切なモードに切り換えるようにしたため、運転者が危険回避動作を実行した際には、素早く且つ確実に運転者の意思を反映して当該車両の危険回避支援システムが反応することになり、通常モードで走行している車両と比較して、当該車両の危険回避性能を高めることができる。
【0030】
特に、本実施の形態のシステム1は、危険を検知して自動的に当該車両を停止させるように動作するものではないので、運転者が気を抜くことがなく、通常レベルの安全運転を意識した上で、このシステム1の効果を享受することになり、より安全性を高めることができる。
【0031】
なお、この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。
【0032】
例えば、上述した実施の形態では、最大支援モードに切り換える際に、ステップ21〜ステップ29の処理を全て実施する場合について説明したが、これに限らず、これら複数のステップのうち少なくとも1つのステップを実施すれば、通常モード時より危険回避性能を高めることができる。
【0033】
また、例えば、最大支援モードに切り換える際に、当該車両の走行速度や走行姿勢などの状態に応じて、適切なステップを選択するようにしても良い。例えば、最大支援モードに切り換えるときに、当該車両の走行速度が40[km/h]を超えているような場合には、ステップ21、25〜29を選択し、40[km/h]を超えない場合には、ステップ22〜24を選択するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施の形態に係る危険回避支援システムを示すブロック図。
【図2】前方車両のESS(Emergency Stop lamp System)の動作について説明するための車両外観図。
【図3】図1のシステムの動作を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
【0035】
1…危険回避支援システム、2…検知部、10…制御部、22…ブレーキアシストしきい値設定部、24…ブレーキアシストシステム、32…アシストマップ変更部&ギア比制御部、34…電動パワーステアリング、42…ペダル反力制御部、44…アクセルペダル、52…ブレーキプレフィルシステム、54…ブレーキパッド、62…エアサスペンション制御部、64…サスペンション、72…減衰力可変ショックアブソーバ制御部、74…ショックアブソーバ、82…自動巻上げ装置、84…シートベルト、92…サイドサポート制御部、94…サイドサポート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による危険回避動作を支援する危険回避支援システムにおいて、
走行中の車両が危険回避動作を必要とする状況に陥ったことを検知する検知部と、
この検知部で当該車両が上記状況に陥ったことを検知したとき、その後の当該車両の運転者による上記危険回避動作を効果的に支援するため、事前準備として当該車両の危険回避支援システムの動作モードを通常モードから最大支援モードに切り換えるモード切換制御部と、
を有することを特徴とする危険回避支援システム。
【請求項2】
上記検知部は、当該車両の前方を走行中の車両が急ブレーキをかけたことを検知することを特徴とする請求項1に記載の危険回避支援システム。
【請求項3】
上記モード切換制御部は、最大支援モード時には、当該車両の運転者がブレーキを踏み始めた直後から上記通常モード時より大きな制動力を発生させるように、当該車両の制動装置のアシスト力作動しきい値を変更することを特徴とする請求項1に記載の危険回避支援システム。
【請求項4】
上記モード切換制御部は、最大支援モード時には、上記通常モード時より小さな力でステアリング操作を可能とするように、電動パワーステアリングのアシストトルクマップを変更することを特徴とする請求項1に記載の危険回避支援システム。
【請求項5】
上記モード切換制御部は、最大支援モード時には、上記通常モード時より小さなステアリング操舵角で進行方向を同じだけ変えることができるように、ステアリングのギア比を変更することを特徴とする請求項1に記載の危険回避支援システム。
【請求項6】
上記モード切換制御部は、最大支援モード時には、当該車両のアクセルペダルの反力を上記通常モード時より強くすることを特徴とする請求項1に記載の危険回避支援システム。
【請求項7】
上記モード切換制御部は、最大支援モード時には、当該車両のブレーキパッドとブレーキディスクの間の隙間を上記通常モード時より狭くすることを特徴とする請求項1に記載の危険回避支援システム。
【請求項8】
上記モード切換制御部は、最大支援モード時には、当該車両のサスペンションのバネ定数を増加させることを特徴とする請求項1に記載の危険回避支援システム。
【請求項9】
上記モード切換制御部は、最大支援モード時には、当該車両のショックアブソーバの減衰力を増加させることを特徴とする請求項1に記載の危険回避支援システム。
【請求項10】
上記モード切換制御部は、最大支援モード時には、車両乗員を座席に拘束するようにシートベルトを巻き上げることを特徴とする請求項1に記載の危険回避支援システム。
【請求項11】
上記モード切換制御部は、最大支援モード時には、車両乗員を座席に拘束するようにシートのサイドサポートを変形させることを特徴とする請求項1に記載の危険回避支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−190686(P2009−190686A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36351(P2008−36351)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】