対象物洗浄方法及び対象物洗浄システム
【課題】水蒸気と水とを組み合わせて照射する洗浄方法において、水分子の浸透時間に制限されず対象物を傷めることなく確実に洗浄する方法の提供。
【解決手段】水蒸気供給部A、純水供給部B、水蒸気流体調整部C、混相流体照射部D、ウェハ保持・回転・上下機構部Eを有する構成であって、混相流体照射部Dの混合部144は、照射ノズル141の上流側に設置されており、該混合部144及び照射ノズル141は内壁面が略連続的な曲面を形成するとともに、該混合部144内壁面の一部に水導入部を有し、該照射ノズル141は、ノズル上流側からノズル出口へと向かうに従って縮径し、更に、最小断面積となるのど部を境に、拡径する末広構造を有し、前記混合部144内を流動する水蒸気に水を混合して、前記ノズル141の出口から混相流体として噴射することにより、対象物に液滴が衝突する際のキャビテーションを制御する。
【解決手段】水蒸気供給部A、純水供給部B、水蒸気流体調整部C、混相流体照射部D、ウェハ保持・回転・上下機構部Eを有する構成であって、混相流体照射部Dの混合部144は、照射ノズル141の上流側に設置されており、該混合部144及び照射ノズル141は内壁面が略連続的な曲面を形成するとともに、該混合部144内壁面の一部に水導入部を有し、該照射ノズル141は、ノズル上流側からノズル出口へと向かうに従って縮径し、更に、最小断面積となるのど部を境に、拡径する末広構造を有し、前記混合部144内を流動する水蒸気に水を混合して、前記ノズル141の出口から混相流体として噴射することにより、対象物に液滴が衝突する際のキャビテーションを制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板/ガラス基板/レンズ/ディスク部材/精密機械加工部材/モールド樹脂部材等を対象物(特に表面上にアルミニウム配線等のアルミニウム素材を有する半導体基板)として、その対象物の所定部位又は所定面を処理する方法及びそのシステム(例えば、対象物洗浄方法及び対象物洗浄システム)に関するものであり、より具体的には、部位又は面の洗浄、そこにある不用物の除去や剥離、対象物表面の磨きや加工等を行う方法及びそのシステム(例えば、レジスト剥離装置、ポリマー剥離装置及び洗浄装置のような半導体製造装置、プリント基板洗浄装置、フォトマスク洗浄装置等における処理方法)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の前処理工程においては、1枚のウェハに対して、50〜100回もの洗浄が繰り返される。その洗浄の対象は、デバイス信頼性に影響を与えるレジスト膜やポリマー膜等の有機物やパーティクル等である。この洗浄工程では、通常、アルカリ洗浄液と酸洗浄液の組合せやその他硫酸過水等の薬品を使用し、また、その残留物を除去するためのリンス工程では、大量の純水を使用する。その他、レジストの除去には、プラズマアッシング装置を用いるのが一般的であるが、その後の残留物や不純物の洗浄は別の洗浄装置が使用されている。また、ポリマー膜の除去には、アミン系の有機溶剤が多く使用されている。この薬液は、レジストの除去にも使用される場合がある。ここで、上記に示した従来技術の洗浄や薄膜除去に使われる薬液は、1)高価である、2)環境負荷が大きく特別な排水処理設備が必要である、3)作業者の安全衛生の確保のため装置が大型化する、薬液を使用した洗浄では、薬液を洗い流すために大量の純水が必要である、4)1台の装置では薄膜除去から洗浄までをカバーできない、といった欠点をもつ。
【0003】
また、薬液を使用しない洗浄工程に限定すれば、下記の主な技術が既存する。まず、超音波洗浄装置は、現在最も広範囲に使用されている洗浄技術で、純水のみでなく各種洗浄液と組合せられるときがある。欠点は、キャビテーション(後述するように本発明のキャビテーションとは作用機序が異なる)により軟質材料、脆性材料や微細パターンへのダメージが懸念されることである。そのため、周波数を高くする等の対応がなされているが、洗浄力とのトレードオフが起きている。次に、水ジェット洗浄装置は、比較的大型系の洗浄物に適用されている。欠点は、高圧力(数MPa〜20MPa)が必要であることであり、微細パターンを有する対象物には不適である。次に、ブラススクラブ洗浄装置も、純水のみでなく各種洗浄液と組み合わされるときがある。欠点は、深い溝や穴がある表面には不適であることである。加えて、対象物表面とブラシが直接接触するため、発塵やスクラッチ傷発生の可能性がある。
【0004】
また、水蒸気のみを照射する洗浄装置が存在する。この装置も薬液を使用していないという面から環境負荷が非常に小さくなっている。但し、この装置は、1)液滴を利用していないため、ウェハ上のフォトレジストや異物のように比較的強く接着している対象物には効果が少ない、2)蒸気発生器の圧力が唯一のパラメータのため、対象物による最適条件を調整できない、といった欠点をもつ。
【0005】
そこで、近年、水蒸気と液体微粒子とを組み合わせて照射する洗浄装置が提案されている(特許文献1)。当該技術においては、まず気化した水(水蒸気体)がレジスト膜中に浸潤してレジスト膜と対象物表面との界面に達し、この界面におけるレジスト膜の接着力を弱め、レジスト膜を対象物表面から浮き上がらせる(リフトオフ)。次いで、所定の噴射圧力をともなった液状水微粒子を含む霧状の水(水ミスト体)がリフトオフしたレジスト膜に物理的に作用して界面から剥離させる、というものである。そして、特許文献1の段落番号0019には、当該技術の基本原理として熱効果現象を利用してのキャビテーションが記載されている。具体的には、常温の純水と高温の水蒸気とを混合すると、これらの熱交換によってある程度の周波数(10KHz〜1MHz)を有する振動が発生する。そして、この振動によって、水分子が水素イオンと水酸化物イオンに分解し、これら不安定なイオンが再び水分子に戻る際に生じる高エネルギーを機械的衝撃に変換する、というメカニズムである。
【特許文献1】WO2006/018948
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されるような水蒸気と水とを組み合わせて照射する洗浄装置を用いる場合、第一に、水分子の浸透という、反応にある程度の時間が必要な現象と、霧状のミストがレジスト膜やパーティクルに直接衝突して膜や汚れを除去するというリアルタイムの現象とを利用しているため、水分子の浸透時間に処理時間が制限されてしまうという問題や、第二に、洗浄力が不十分で対象物の汚れが十分に除去できなかったり、逆に、洗浄力が強すぎて対象物を傷めつけてしまう事態がしばしば発生するという問題がある。このようなときには、例えば、前者の場合には、噴出圧力を高め、後者の場合には、噴出圧力を下げる、といった方策を講じてきた。このように、流体力学的作用(衝突力等)のみを利用し、洗浄力の調整を行ってきたのが現状である。しかしながら、この場合、前者においては、噴出圧力を高めることから蒸気温度が高くなってしまい耐熱性の低い材料を対象に出来なくなったり、衝突力が強くなりすぎて対象物へのダメージが生じたりするという懸念が存在する。他方、後者においては、低い噴出圧力のため対象物を傷め付ける事態は回避できても対象物の洗浄が不十分であるという問題がある。そこで、本発明は、水分子の浸透時間に制限されず対象物を傷め付けることなく確実に洗浄する手段を提供することを第一の目的とする。
【0007】
更に、本発明者らは、水と水蒸気との混相流で半導体基板を洗浄した場合、当該半導体基板表面に形成されたアルミニウムが早期に腐食されることを経験的に見出した。このように、次の処理が施される前にアルミニウムが腐食されてしまうと、半導体デバイスとして機能しなくなることがあり、歩留まりが悪くなる事態をも招く。そこで、本発明は、水と水蒸気との混相流で半導体基板を洗浄した場合であっても、当該半導体基板表面に形成されたアルミニウムが長期間腐食され難くする手段を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述したこれまでとは全く作用機序の異なるキャビテーションに着目し、対象物上での当該キャビテーションの程度をコントロールすることにより、対象物に適合した処理を有効かつ容易に実施できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0009】
更に、本発明者は、洗浄力を高めるために、気体の圧力でなく混相流体に含まれる液滴の速度に着目し、当該速度を高めようと鋭意研究を重ねた。すると、ある特定のノズルを用いて液滴速度を高めた場合には、前記のように対象物の割れや表面パターンの崩壊を招くことなく、対象物に付着した除去対象物を十分な衝撃力をもってして除去可能であること発見し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明(1)は、水蒸気と水とを混合部にて混合することにより生成する、連続相の水蒸気と分散相の水滴とを含む混相流体をノズルを介して照射する工程を含む、対象物を洗浄する方法において、
前記混合部が前記ノズルの上流側に設置されており、内壁面の一部が開口した水導入部を有し、
前記ノズルが、超高速ノズルであり、
前記混合部の内壁面とノズルの内壁面が略連続的な曲面を形成し、
前記混合部内を流動する前記水蒸気に対して前記混合部の内壁面から水を混合して、前記混合部の内壁面から前記ノズルの内壁面に水をつたわせて、前記ノズルの出口から前記混相流体を噴射することを特徴とする方法である。
【0011】
本発明(2)は、前記ノズルが、ノズル上流側からノズル出口へと向かうに従って縮径し、更に、最小断面積となるのど部を境に、拡径する末広構造を有する、前記発明(1)の方法である。
【0012】
本発明(3)は、前記混合部が、筒状である、前記発明(1)又は(2)の方法である。
【0013】
本発明(4)は、前記水滴の速度を100〜600m/sの範囲とする、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの方法である。
【0014】
本発明(5)は、前記混相流体の対象物到達時の温度が50℃以上であり、前記混相流体の対象物到達時のpHが7〜9の範囲である、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの方法である。
【0015】
本発明(6)は、更に、前記混相流体噴射出口と対象物の距離が、30mm以下である、前記発明(5)の方法である。
【0016】
本発明(7)は、前記対象物が、アルミニウム配線等のアルミニウム素材を表面に有する半導体基板である、前記発明(1)〜(6)のいずれか一つの方法である。
【0017】
本発明(8)は、水蒸気を供給する水蒸気供給手段{例えば、水蒸気供給部(A)}と、液体の水を供給する水供給手段{例えば、純水供給部(B)}と、混相流体を照射するノズルと、を有する、水蒸気と水滴とを含む混相流体をノズルを介して照射することにより対象物を洗浄するシステムにおいて、
前記混合部(例えば、混合部144)が前記ノズルの上流に設置されており、流動する前記水蒸気に対して内壁面から水を混合可能である、内壁面の一部が開口した水導入部(例えば、144a)を有し、
前記ノズルが、超高速ノズル(例えば、ノズル141)であり、
前記混合部の内壁面とノズルの内壁面が略連続的な曲面を形成していることを特徴とするシステムである。
【0018】
本発明(9)は、前記ノズルが、ノズル上流側からノズル出口へと向かうに従って縮径し、更に、最小断面積となるのど部を境に、拡径する末広構造を有する、前記発明(8)のシステムである。
【0019】
本発明(10)は、前記混合部が、筒状である、前記発明(8)又は(9)のシステムである。
【0020】
以下、本明細書における各用語の意義について説明する。まず、「水滴」とは、例えば、水由来の水滴のみならず、湿り飽和水蒸気由来の微小な水滴をも含む概念である。「混相流体」とは、2流体や3流体等複数の流体成分を有する流体であり、例えば、1)飽和水蒸気と沸点以下の純水液滴、2)加熱水蒸気と沸点以下の純水液滴、3)前記1)又は2)に更に不活性ガス又は清浄高圧空気を組み合わせたもの、を挙げることができる。但し、対象物の酸化や化学反応が気にならない用途に使用される場合は、酸素ガスやその他活性ガスを用いることもある。また、アルミニウムの腐食防止の観点からは、水と水蒸気のみの二相流であるかこれらと不活性ガスとを組み合わせたものを使用することが好適である。「対象物」とは、特に限定されず、例えば、電子部品、半導体基板、ガラス基板、レンズ、ディスク部材、精密機械加工部材、モールド樹脂部材を挙げることができる。「処理」とは、対象物に施されるものである限り特に限定されず、例えば、剥離、洗浄、加工を挙げることができる。「水」とは、半導体装置製造の洗浄工程等、対象物上での微小異物や金属イオン等の汚染が気になる用途には、純水或いは超純水として使用されている程度の特性の水を指し、対象物上での微小異物や金属イオンなどの汚染が気にならない用途には、更にグレードの低い水道水まで包含される。「システム」とは、各構成要素を一体的に収納している「装置」のみならず、各構成要素が物理的に離隔した位置に配されていたり(例えばプラント)、各構成要素同士が情報伝達可能に接続されていない場合も、請求の範囲に規定された機能を有する構成要素を全体として備えている限り、当該システムに該当する。「超高速ノズル」とは、液滴を音速以上に加速可能なノズルを意味する。
【0021】
ここで、図を参照しながら、対象物処理に係る当該分野で既知であった他の作用機序のキャビテーションとの相違を明確にすべく、本発明に係る液滴衝突時キャビテーションを詳述する。尚、ここで記載した作用機序は、あくまで予測に過ぎない。したがって、本発明は当該作用機序に何ら限定されるものではない。
【0022】
まずは、キャビテーションの一般的な概念について以下に説明する。
通常は液体の温度が、その圧力における飽和温度より高くなると沸騰が開始するが、液体の圧力が、その温度における飽和圧力より低くなっても、液体は沸騰を開始する。すなわち蒸気泡が液体中に生成する。このように温度変化によるものではなく、減圧効果により沸騰し発生する気泡は通常キャビテーション気泡と呼ばれている。この気泡が収縮し、崩壊することによって高圧が生じ、壊食・騒音等が発生する。この現象もキャビテーションと呼ばれることがある。
【0023】
従来から洗浄に用いられてきた超音波洗浄装置においては、以下のような作用機序により、キャビテーションが発生する(図24)。
1.超音波発生器により媒液中に音波が伝搬する。
2.音波は激しい周期で圧縮と減圧を繰り返して媒液中を進行する。
3.圧縮から減圧に移る過程で、局所的に飽和水蒸気圧以下にまで減圧する。
4.そこで気泡の成長(常温沸騰)が開始する。
5.また、成長蒸気気泡に媒液中に溶解している不凝縮気体も混入する。
6.気泡がさらに成長する。
7.気泡は次の圧縮力を受けて断熱的に圧縮され高いエネルギーをもつ。
8.気泡は、ついに押しつぶされて崩壊する。
9.押しつぶされるとき、局所的に極めて大きな衝撃エネルギーとなって、周囲にある汚れを解離する。
10.音波は、通常媒液中を進行する進行波と液面で反射する反射波によって定在波が生じる。
11.この場合キャビテーションは最大音圧体に沿って媒液中に縞状に発生する。
【0024】
続いて、本発明に係る方法により、発生する液滴衝突時キャビテーションについて、考えられる発生メカニズムについて、過去に報告された例を参考に説明する(Martin Rein,"Drop-Surface Interactions (Cism International Centre for Mechanical Sciences Courses and Lectures)" pp.39-102, Martin Eein ed., Springer-Verlag, 2002,)。
【0025】
1.液滴がある速度で固体境界面に衝突すると、液滴の運動エネルギーが圧力エネルギーに変換されて、液滴と固体境界面との接触面において、高圧が発生する(図25)。
2.発生した圧力は圧力波(圧縮波)として液滴内部を上方に伝播し、液滴と周囲気体との境界面、すなわち自由界面に到達する(図26)。
3.水の音響インピーダンスは周囲気体の音響インピーダンスに比較して圧倒的に大きいためインピーダンスミスマッチングとなり、圧力波はほぼ100%反射する。すなわち、圧力波の周囲気体へと伝播は非常に小さくなるため、結果として自由界面上での圧力変化は小さく抑えられる(図27)。
4.自由界面上での圧力変化が小さくなるのは、圧縮波を打ち消す膨張波、すなわち周囲より低い圧力波が発生し、液体内部へと伝播するからである。
5.液滴内部へと伝播した膨張波は、液滴内部の圧力を低下させる。液滴の温度が30℃程度であれば、約0.04気圧、60℃程度であれば約0.2気圧、80℃程度であれば約0.5気圧まで低下すれば沸騰が開始し、気泡が発生・成長する(図28、29)。
6.発生した蒸気泡は、成長しながら液体中の不凝縮気体も取り込み、さらに大きくなる。
7.十分成長した気泡は成長限界に達し、リバウンドすなわち収縮を開始する。収縮過程は膨張過程に比較して急激に起こるため、気泡は激烈に収縮し、気泡内部圧力は成長開始時よりも極端に高い圧力にまで達しうる。この高圧力は気泡崩壊時圧力と呼ばれている。
8.気泡崩壊は気泡周囲条件の擾乱によっても誘起される。また、気泡は必ずしも単一で崩壊せず、むしろ気泡が集積した気泡群として崩壊する。そのような場合の気泡崩壊圧力は単一気泡崩壊圧力の数100倍程度以上であることが報告されている。
9.液滴内部で発生した気泡崩壊圧力は、圧力波(圧縮波)として液滴内部を伝播して、液滴と固体面との接触面に到達し、固体面上に非常に大きな圧力を発生させる。これが、液滴衝突時に発生するキャビテーションの崩壊圧力であり、この圧力を利用して洗浄を行っている。
【0026】
本発明において本質的に重要なのは、液滴周囲の熱環境が水蒸気によって、十分高温に保たれている、もしくは液滴よりの熱の漏れを防いでいることである。そのため、液滴内部の膨張波による圧力低下が激烈なものでなくても十分気泡が発生しうる条件となっていることである。この特性があるために、他の発明にあるように液滴が激烈な速度を有して固体表面に衝突しなくても、ある程度の圧縮波を発生させることのできる速度であれば十分である。
【0027】
他の発明に比較すると2桁程度低い圧力で発生させた速度を有する液滴によって、キャビテーションを発生させる点が、本発明の最も特異な点である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、噴出圧力の調整(流体力学的作用)により対象物への衝撃力をコントロールしてきた従来法と異なる、対象物表面に液滴が衝突することにより発生する液滴衝突時キャビテーションを利用して対象物を処理するよう構成されているので、噴出圧力の高低に起因した従来の問題、具体的には、衝突力が強くなりすぎて対象物へのダメージが生じたりするという懸念や、低い噴出圧力のため対象物を傷め付ける事態は回避できても対象物の洗浄が不十分であるという問題、を解消することができるという効果を奏する。更に、この液滴衝突時キャビテーションには、衝突時における液滴の温度が大きく関与するため、液滴の温度を変更することにより当該キャビテーションの程度(発生の有無やその程度)を容易にコントロールすることが可能である。加えて、低噴出圧力下でも、液滴温度を高くすれば効率的に対象物の処理を実行することができるので、高い噴出圧力に起因した問題を回避することも可能である。更には、気体が水蒸気である場合には、当該水蒸気から他の媒体に熱移動する事態を招いたときであっても、水蒸気の潜熱から利用される結果、系全体の温度が低下する事態を回避ことができる。
【0029】
本発明のより具体的な作用・効果は以下の通りである。(1)液滴衝突後に発生する高速サイドジェットや気泡崩壊による衝撃波、衝撃波による連鎖反応の衝撃力(キャビテーション)で膜の剥離のきっかけとなる膜上の亀裂や孔を発生させる。(2)液滴によるジェットや衝撃波、衝撃波による連鎖反応、及び高速サイドジェットを発生させ、(1)で記した亀裂や孔を起点にして膜をめくりあげ剥離する。(3)大きな熱温度エネルギーを持った水である蒸気により対象物材料を脆性化させたり、応力を発生させ対象物と下地との界面での密着力を弱める。(4)対象物に応じ、これらの機能の組合せを変化させることにより、洗浄対象・除去対象を広げることも出来る。(5)不純物を取り除くだけでなく、エッチング工程やイオン注入工程後の不用フォトレジストの除去やエッチング工程後の不用ポリマーの除去の用途にも本発明を応用することが出来る。
【0030】
また、本発明(1)〜(4)及び(8)〜(10)によれば、超高速ノズルを用いることにより、水滴の速度が速くなる。そのため、液滴が細分化されて液滴径が小さくなる。従って、ウェハの割れやパターンの崩れの原因となる大きな径を有する液滴が生成されにくく、圧力を上げても当該問題が発生しにくくなる。
更に、超高速ノズルを用いた場合、水蒸気と水滴を噴射する混相流体と、空気と水滴との混相流体では、下記の二点の特異な挙動を示すことが観測された。
第一に水蒸気と水の混相流体を超高速ノズルを用いて噴射することにより、ノズル内の出口付近に圧力波のようなものが観測されることが明らかとなった(例30)。これにより、ノズル内で液滴が更に細分化され液滴径が小さくなるため、圧力を上げても、ウェハの割れや、表面パターンの崩れといった問題を起さないという効果を奏する。
第二に気体圧力と液滴速度及び/又は平均粒径との関係である。気体圧力を高めた場合、空気と水との混相流体では、圧力が高まるにつれて液滴速度も高くなるのに対して、水蒸気と水の場合、所定の圧力までは計測可能であったが、所定圧力をこえると計測不可能になる(例28)。また、気体圧力と水滴の平均粒径の関係を観察すると、空気と水の混相流体では気体圧力にその粒径は依存しないが、水蒸気と水の場合、所定圧力を超えると平均粒径のデータが信憑性のないものとなってしまうことがわかった(例29)。これは、空気と水の混相流体では測定可能であるが、水蒸気と水の混相流体では測定不可能となる領域の圧力があることを意味する。即ち、当該圧力において、水蒸気と水の混相流体は、空気と水の混相流体とは少なくとも何らかの異なる挙動を示していることを意味する。当該挙動の相違点については明らかではないが、測定不可能となる要因としては、液滴速度が速すぎる又は液滴径が小さすぎるといったことが考えられる。
ノズル上流側で、前記水蒸気に対して前記混合部の壁面から水を混合することにより、壁面に水膜を形成してノズル出口から噴出して、水滴と水蒸気の混相流体を噴出する。噴出された液滴は、対象物表面に衝突することにより、先述の作用機序により液滴内に局所的に低圧部が発生して、対象物表面でキャビテーションを発生させることが可能となる。
また、照射に使用するノズルが、ノズル上流側からノズル出口へと向かうに従って縮径し、更に、最小断面積となるのど部を境に、拡径する末広構造を有するため、前記混合部において混合された水によってノズル内壁に水膜が形成されて、水蒸気がノズルの中心部分を通過して噴出される。この際、水蒸気はのど部からノズル出口の間で加速される。更に、当該加速された水蒸気に引きずられるように水が加速する。
【0031】
また、本発明(5)によれば、上記のキャビテーションにより得られる十分な衝撃に加えて、水と水蒸気との混相流で半導体基板を洗浄した場合であっても、当該半導体基板表面に形成されたアルミニウムが長期間腐食され難いという効果を奏する。例えば、アルミニウムのドライエッチング後、本発明(5)に係る方法で、対象物上のレジストを剥離すれば、次の工程までの時間でアルミニウム配線が腐食されないという効果がみられる。
【0032】
本発明(6)によれば、混相流体噴射出口と対象物の距離が短いので、混相流体が大気中の二酸化炭素を取り込みにくくpHが酸性に偏りにくくなるため、アルミニウム腐食防止効果を更に良好に発揮するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、最良形態として、対象物処理装置として「ウェハ洗浄装置」を例に採り、本発明を具体的に説明することとする。尚、本最良形態はあくまで最良的な例示に留まり、本発明の技術的範囲を何ら限定するものでは無い。
【0034】
混相流体の構成
まず、本最良形態での混相流体は、水蒸気と水とを混合することにより生成する、連続相の水蒸気と分散相の水滴を含む。ここで、「水滴」は、化学薬品を嫌う材料からなる対象物を処理するのに好適である純水からなる(加えて、湿り度の高い水蒸気の一部)。また、前記の混相流体は、任意でアルゴン、窒素等の不活性ガス、清浄高圧空気を含んでいてもよい。但し、アルミニウムの腐食防止の観点からは、任意ガスはアルゴンか不活性ガスであることが好適である。
【0035】
ここで、水蒸気を使用する理由は、比熱が高いことに加え、潜熱を利用することができ、流体の圧力の変化に伴い液滴の持つ熱量が奪われるような状況下においても、温度がほとんど低下しない点で有利であるからである。水滴と気体が、流体混合部において混合された際に、水滴と気体の間で熱移動が起こったり、水滴と混合部や配管等の内壁との間で熱移動が起こったりする。また、ノズル部で加速され大気に放出される際に減圧膨張が起きる為、気体の温度が下がる。この際に、水滴の温度が低下するか否かは、気体の潜熱により決定される。潜熱を多く含まない気体、例えば、不活性ガスや清浄高圧空気と純水を混合した場合、気体の温度は低下し温度制御が困難となる。一方、気体が水蒸気である場合には、所定量の潜熱を有するため、比較的低温の水滴と混合した場合にも、配管の内壁に熱を奪われた場合にも熱の移動により気体の温度が低下しにくくなり、温度の制御が容易になる傾向がある。しかし、水蒸気の潜熱が充分でなければ、水蒸気の一部が液化することに伴い液滴が生成し、これが処理対象物表面で発生する衝撃波に影響を及ぼすこととなる。また、この混相流体が最終的にノズルのノド部で加速されるとき、流体の運動エネルギーを得る為に、流体の温度が低下するが、水蒸気の持つ潜熱で、流体の温度が低下することを低減できる。
【0036】
対象物処理装置の全体構造
図1は、本発明の一実施形態による対象物処理装置100の全体図である。本装置100は、水蒸気供給部(A)、純水供給部(B)、水蒸気流体調整部(C)、混相流体照射部(D)、ウェハ保持・回転・上下機構部(E)を有する構成である。以下、各部を詳述する。
【0037】
(A)水蒸気供給部
水蒸気供給部(A)は、純水を供給するための水供給管111と、所定温度D1(℃)以上に加温して水蒸気を発生させ、水蒸気の発生量を制御して水蒸気を所定値C1(MP)に加圧する蒸気発生器112と、蒸気の供給及びその停止を司る開閉可能な水蒸気開閉バルブ113と、蒸気発生器112から下流に供給される水蒸気の圧力を計測するための圧力計114と、蒸気供給圧力を所望の値に調整するための水蒸気圧力調整バルブ115と、供給水蒸気内の微小液滴量を調整する温度制御機構付き加熱蒸気生成器兼飽和蒸気湿り度調整器116と、安全装置としての圧力開放バルブ117と、から構成される。
【0038】
(B)純水供給部
純水供給部(B)は、純水を供給するための水供給管121と、純水に熱エネルギーを持たせるための純水温度制御機構付加熱部122と、純水の供給の停止及び再開を司る純水開閉バルブ123と、純水の流量を確認するための純水流量計124と、2流体の場合に下流への純水の供給の停止及び再開を司る2流体生成用純水開閉バルブ125と、から構成される。
【0039】
(C)水蒸気流体調整部
水蒸気流体調整部(C)は、水蒸気流体の温度や飽和水蒸気の湿り度を調整するための水蒸気流体温度制御機構付加熱部131を有している。
【0040】
(D)混相流体照射部
混相流体照射部(D)は、対象物に対して混相流体を照射するための、前後左右方向(図1のX軸ノズルスキャン範囲又はY軸ノズルスキャン範囲)に移動可能な照射ノズル141と、ノズルの移動を円滑に行うためのするためのフレキシブル配管142と、混相流体のノズル直前の圧力を計測するための圧力計143と、純水を蒸気配管に対して壁面に水膜を形成するように導入する気液混合部144と、純水が気体配管内に円滑に導入されるためのオリフィス145から構成される。ここで、ノズル141は、超高速ノズルである。「超高速ノズル」とは、液滴を音速以上に加速可能なノズルであれば、特に限定されないが、例えば、ソニックノズルが挙げられる。図30は、本最良形態に係るソニックノズル及び混合部の断面図である。ソニックノズルの形状は、特に限定されないが、ノズルの内部が、図面上方のノズル上流側から図面下方に位置するノズル出口へと向かうに従って急激に縮径し、更に、最小断面積A3となった位置(のど部)を境に、流体が内壁から剥離しないよう比較的ゆるやかに拡径し、ノズル出口で断面積がA2となる、末広ノズル構造を有する。のど部の断面積A3は、流量を音速で割り算して算出する。のど部の断面積A3は特に限定されないが、例えば、3.0〜20.0mm2である。また、ひろがり率(A3/A2)は、下記の式1で示される式により算出される。
【数1】
ここで、κは気体の比熱比(定圧比熱/定容比熱)であり、P1はノズルのど部の圧力であり、P2はノズル出口における圧力である。当該、ひろがり率とのど部の断面積A3により、ノズル出口の断面積A2が求められる。ここで、ノズル出口の断面積A2は、特に限定されないが、例えば、7.0〜28.0mm2である。また、ノズルの長さは、ノズルの材料、粗度、流速(レイノルズ数)等の各種のパラメータを考慮に入れて、適宜値を設定可能である。また、拡径の程度は、粘度、密度、流速等の各種パラメータを考慮に入れて、適宜値を設定可能である。ノズル出口の形状は、特に限定されないが、円形であってもよい。また、混合部の内壁面とノズルの内壁面は、略連続的な曲面を形成している。混合部は、筒状体としてノズル上流に接合されていてもよいし、ノズル内の上流部に形成されていてもよい。混合部壁面とノズル壁面が接合されている場合、当該接合部分は、混合部により水膜を形成しながら壁面をつたって到達した液体が、ノズル壁面でも水膜を形成して流れるように形成されていることが好適であり、特に限定されないが、配管の継ぎ目などがあってもよいが、これにより液体が液面から剥離する程度の障害物とならない程度になだらかに一体化していることが好適である。尚、混合部144については、後で詳述する。
【0041】
(E)ウェハ保持・回転・上下機構部
ウェハ保持・回転・上下機構部(E)は、対象物(ウェハ)を搭載・保持可能なステージ151と、ステージ151を回転させるための回転モーター152と、ステージ151を上下方向に移動させることによりノズル141の出口とウェハとの距離を調整可能なウェハ上下駆動機構153と、対象物(ウェハ)を冷却する冷却水を供給するための冷却水管154と、冷却水の供給を停止及び再開するための開閉可能な冷却水開閉バルブ155と、冷却水の流量を調整するための冷却水流量調整バルブ156と、冷却水の流量を計測するための冷却水流量計157と、から構成される。
【0042】
以上で、本最良形態に係る対象物処理装置の全体構成を概説したので、次に、混相流体照射部(D)における混合部144について詳述することとする。混合部144は、ノズル上流側で、水蒸気に対して前記水蒸気の進行方向を基準として90度以下の角度で前記混合部の壁面から水を混合可能である、内壁面の一部が開口した水導入部144aを有する(図30)。混合部は円筒形であることが、好適であり、混合部ノズルと接合される断面の内径は、前記ノズルの入口の内径と同一であることが好適である。
【0043】
ここで、図2は、当該混合部144を温度制御機構付混相流体気液混合部とした場合の詳細構成を示した図である。混合部144においては、混合部内壁で水蒸気の液化や水の気化という相変化現象の発生を最小化することが重要である。このため、図2に示すように、当該混合部144は、下記のような構造を採ることが好適である。
【0044】
1)混合を安定にするために気体及び液体の各流体の方向が混合部で90度未満の角度を有すること。
2)液体流体の配管径又は配管に装着されたオリフィスが混合部で気体流体の流路の断面積に比較して十分小さいこと。
3)混合部にヒーターを組み込むことによって、混合部の内壁温度を以下の条件に適合するよう制御する。より内壁の温度が、混合部内の圧力下においてその液体の飽和温度から大きく外れないこと(±20%以内)。また、より内壁の温度が、混合部内の圧力下においてその気体の飽和温度から大きく外れないこと(±20%以内)。尚、時間経過により、混合部の内壁は流体の飽和温度に近づいてくるので、混相流の状態が安定するまでの時間が気にならない用途には、混合部の保温が十分に施されていることを条件下で、このヒーターによる加熱機能を外すことができる。
【0045】
液滴と気体を混合した混相流体により対象物を処理する装置では、当該装置を起動した時点では、流体混合部は常温である。そして、当該部分と水蒸気の温度差がある場合には、当該液体混合装置の内部に温度のムラができ、これにより、一部の蒸気が水滴に相変化する等で混相流体の吐出圧力が不安定になり、処理対象物表面上に一定の衝撃波を安定して与えることが困難となるため、装置が安定して動作するまでに時間がかかる。即ち、混相流体調整部にヒーターを設置すると、流体混合部を、起動当初から、水蒸気の温度と同じ温度に設定することができ、混合部内での気液相変化を起こりにくくして装置が、対象処理面に対して、安定した衝撃波を与えることが出来るようになる。
【0046】
キャビテーション制御の原理(気泡崩壊関連パラメータ)
本最良形態に係る洗浄装置は、気体圧力、混相流体内の水混合流量、気体温度、混合される水の温度、ノズル形状、ノズル出口から対象物への距離、対象物の温度、ノズルと対象物間の相対的移動時間を調整することにより、液滴の温度、液滴の流速、液滴の大きさ、液滴の数、処理対象物表面の温度、単位時間当たりの混相流体照射面積を制御する機能を有する。これら気泡崩壊関連パラメータのうち、特に液滴の流速、温度、液滴密度が重要である。これらのパラメータを制御することにより、処理対象物表面上で、液滴によるジェットや気泡崩壊による衝撃波、前記衝撃波による連鎖反応の衝撃力を得ることができ、洗浄等において効果的な処理を行うことが出来る。流速は液滴が衝突時の液滴内の気泡の崩壊による衝撃波の発生に寄与し、温度は液滴内の気泡の発生に寄与する。また液滴密度が多いほど衝撃波の起きる確率が高まる。例えば、液滴の数が零であれば、液滴の衝突による衝撃波は生じない。但し、液滴の数が密になり過ぎても、混相流体の速度低下や温度低下をもたらして衝撃波発生確率が低下してしまう可能性がある。ここで、液滴密度とは、混相流体内の単位体積・時間当たりの総ての液滴数を示すが、高速で移動するμオーダーの微小液滴を正確に測定する測定器は未だ開発されていないため、混相流体に導入された純水量で代用するものとする。
【0047】
キャビテーション測定手段
本発明に係るシステムは、ある条件で混相流を対象物又は測定用サンプルに照射した上で、当該条件でどの程度のキャビテーションが発生しているかを測定するための測定手段を備えている。ここで、現在の技術では、キャビテーション(衝撃波)の大きさ(キャビテーションのマグニチュード)と密度(単位面積・時間当たりの発生数)をモニターしながら剥離・洗浄プロセスを行うことは不可能である。したがって、本システムでは、あらかじめの実験でキャビテーションの発生に関与するパラメータを変化させて、プロセス処理を行い、その結果得られた以下のデータからキャビテーションの大きさを判断する手法を採用している。
【0048】
(1)対象物又は測定用サンプルの物理的変化を定量的に測定する物理的変化測定手段
・金属表面に混相流体を照射したときの、金属表面の凸凹度
・レジスト表面に照射したときのレジスト剥離面積及び残渣の少なさ
・ウェハ全面に付着させた異物の除去率
(2)キャビテーションノイズの大きさを感知可能な音響的測定手段
・音響センサーで感知したキャビテーションノイズの大きさ
(3)対象物又は測定サンプルの視覚的変化を定量的に測定する視覚的変化測定手段
・高速度カメラで撮影したレジスト剥離過程の映像データ
【0049】
例えば、混相流体温度とそれが照射された金属表面の凸凹度とのデータは図9のように確認されている。また、レジスト剥離性能と、各パラメータとの相関関係は、過去3年間で積み上げた多くのデータにより確認されている。その1例として図8のデータがある。例えば、混相流体のノズルからの噴出圧力を上げれば、レジスト剥離面積は広がりまた残渣も少なくなる。但し、噴出圧力を上げ過ぎると対象物への物理ダメージが懸念され、本装置の特徴である低圧でのプロセスという優位性を損なってしまう。したがって、本装置ではノズルからの最大噴出圧力を0.3MPaとしている。これは、特別な耐高圧部品を使用しなくてもよいという結果も生みだし、容易に安価で安全な装置の製造が可能になる。ノズルの種類、ノズルと対象物間の距離を一定にしたときは、図21、図22、図23のような結果になる。ただし、前述のように、高速で衝突する液滴によって生じる衝撃波の大きさを表す特定の単位はなく単位なしの相対値として表現される。
【0050】
尚、従来技術(例えば特許文献1)においても、超高速ノズルを使用する点以外は、装置的には本最良形態と大きくは相違しない構成を採る。しかしながら、従来技術においては、対象物の処理に際し「衝撃波」という物理力には全く着目しておらず、したがって、対象物上で衝撃波を発生させる・発生させないといったコントロールが全く行われていなかった。そして、従来技術における条件下では、「キャビテーション」は、専ら先端が先細りテーパー状となったノズル内で発生し、当該発生した衝撃波は、極めて短命であり対象物に到達する前に消滅する。具体的には、ノズル内を流れる混相流体はノズル先端部に差し掛かると流速を上げる。そして、当該流速が上がったことに起因して減圧状態となる結果、液体がキャビテーション現象を起こして衝撃波が発生する。加藤洋治著、槇書店出版の「キャビテーション」によると、液体衝撃波管内の水素気泡の崩壊持続時間は2〜3μ秒である。流速400m/秒の流体の3μ秒間の移動時間はわずか1.2mmでありノズルノド部からノズル出口までの間で気泡崩壊現象は消滅してしまう。また、ノズル出口で気泡崩壊が発生したとしても、対象物距離を1.2mm以下に設定するのは機構的に困難である。他方、本発明においては、ノズルは混相流体を加速するか照射面積を広げる機能が中心である。そして、キャビテーションの発生に関連した気泡崩壊関連パラメータは、対象物上でのキャビテーションに着目している限りにおいては、基本的にどこで調整してもよく、例えば、ノズル手前の流体配管の任意の個所の流体混合部で行ってもよい。具体的には、図1のαで示す矢印の範囲内(蒸気発生器からノズル出口までの間)であればどこで制御してもよい。後ほど、主要な気泡崩壊関連パラメータを詳述する。
【0051】
アルミニウム腐食防止
本最良形態に係る対象物洗浄方法は、上記の衝撃力と共に、アルミニウム腐食防止効果を有する。ここでも、気体温度、混合される水の温度、ノズル形状、ノズル出口から対象物への距離、対象物の温度、ノズルと対象物間の相対的移動時間を調整することにより、腐食防止効果を制御することが可能である。これら関連パラメータのうち、特に、混相流体の対象物到達時の温度と、混相流体の対象物到達時のpHが重要である。これらのパラメータを制御することにより、アルミニウム表面上に、腐食防止効果を奏する特殊な保護膜を形成させることができる。以下、主要な気泡崩壊関連パラメータと共に、アルミニウム腐食防止に関連するパラメータについて詳述する。
【0052】
(イ)流体の温度
当該衝撃波は、液滴が処理対象物表面に衝突した際に生じるキャビテーションとキャビテーションの崩壊により発生するものが主であると考えられる。キャビテーションは、水等の液体の一部に低圧部分が発生した際に生じる空洞であり、気体および液体の温度が高ければ高いほど発生しやすくなる傾向にある。即ち、液滴の温度が高ければ高いほど、水滴内での気泡が発生しやすくなり、それに伴い、処理対象物表面上では大きなエネルギーの衝撃波の基になる気泡崩壊が多く発生し、例えば、当該処理方法をレジスト膜の除去に用いる場合には、比較的強く接着しているレジスト膜や異物等を取り除くことができる。一方、混相流体や水滴の温度を低く設定すれば、それに伴い、処理対象物表面上では衝撃波の発生が抑えられ、比較的強度の弱い対象物の洗浄を行うことができる。但し、対象物の耐熱性による制限等で設定出来る温度の高さに制限が生じる。また、温度が高すぎる状態で対象物との距離が長くなると液滴内の気体成分が抜けてしまい気泡核が発生し難くなることが予想されるが、ノズル出口から対象物の距離が2〜30mmくらいの距離では無視できるものとする。尚、ノズル内に供給する水蒸気の温度は、50〜120℃が好適であり、80〜115℃がより好適であり、90〜110℃が更に好適である。また、前記水蒸気に対して混合する水の温度は0〜40℃が好適であり、10〜35℃がより好適であり、20〜30℃が更に好適である。
【0053】
ここで、特に、混相流体の対象物到達時の温度は、50℃以上が好適であり、80℃以上がより好適であり、90℃以上が更に好適である。尚、混相流体の温度の測定は、実施例記載の方法により行うものとする。当該範囲とすることにより、対象物表面上のアルミニウムに、腐食防止効果を奏する特殊な膜が形成される。
【0054】
(ロ)液滴の速度
液滴の速度は、高ければ高いほど処理対象物表面に液滴が衝突した際の衝撃が大きくなるため、内部圧力差が発生しやすくなり、結果として気泡崩壊が生じキャビテーションが発生しやすくなる。即ち、液滴の速度を高く設定すれば、それに伴い、処理対象物表面上では大きなエネルギーの衝撃波が発生し、例えば、当該処理方法をレジスト膜の除去に用いる場合には、比較的強く接着しているレジスト膜や異物等を取り除くことができる。一方、液滴の速度を低く設定すれば、それに伴い、処理対象物表面上では衝撃波の発生が抑えられ、比較的強度の弱い対象物の洗浄を行うことができる。また液滴の速度を高めることにより、混相流体はより空気に曝される時間が短くなるので、大気中の二酸化炭素を取り込みにくく、酸性に偏りにくくなるのでより好適に腐食防止効果が発揮される。液滴の速度は、100〜600m/sであり、より好適には200〜500m/sであり、更に好適には250〜350m/sである。当該範囲の流体速度とすることにより、キャビテーションによる衝撃力を得ることができる。尚、液滴の速度は、流体の速度とほぼ一致するものとして、[流量]/[ノズル断面積]とする。尚、ここで、流量は水蒸気流量(m3/s)であり、ノズル断面積は、ノズル出口の断面積(m2)とする。
【0055】
(ハ)その他パラメータ
まず、ノズルに関しては、先述のように超高速ノズルを用いる。このノズルを用いることにより流体の流速が変わり衝撃波の大きさも変わる。原則として、流速の大きなノズルを使うと衝撃波を得やすくなる。また、水蒸気と水滴を含む混相流体を超高速ノズルを用いて照射することにより、水蒸気の圧力と、水滴の速度及び径との関係で、特殊な挙動が観測される。水蒸気圧は、0.05〜0.25MPaであれば特に限定されないが、特に、水蒸気圧が0.15MPa以上の条件では、水蒸気と水滴の混相流体は、空気と水滴の混相流体と大きく異なる挙動を示す。次に、ノズル出口から対象物への距離に関しては、通常の適応値は2〜30mmの範囲(最適範囲2〜10mm)であり、5mm以下が好適であり、3mm以下がより好適であり、2mmがより好適である。ノズルの出口からウェハまでの距離を縮めていけば同様にレジスト剥離性能が向上するが、最適距離が存在し近づきすぎると剥離性能が低下する。逆に剥離性能・洗浄性能を抑えたい場合は最適距離から遠ざけていけばよい。また、ノズル出口から対象物への距離が近ければ近いほど、大気中の二酸化炭素を取り込みにくくなり、酸性に偏りにくくなる。
【0056】
その他、特に高い衝撃力を得ようとする場合、液滴が対象物に衝突する際に、周囲が水蒸気で覆われていることが重要である。ここで、水蒸気の流量は、水蒸気の質量流量で0.083〜1.0kg/minが好適であり、0.025〜0.75kg/minがより好適であり、0.33〜0.50kg/minが更に好適である。また、気液混合比(液/気)は、0.00018〜0.01が好適である。液滴径は、2〜25μmが好適である。液滴径は、大きくなれば表面積が小さくなるので、大気中の二酸化炭素を取り込む量が少なくなるため、酸性に偏りにくくなる。尚、液滴径はTSI社製の機器を用いて、PDA(Phase Doppler Anemometry:位相ドップラ法)により、特段記載がない場合には、ノズル出口から5mmの位置で測定するものとする。流体流量/噴出口断面積は、0.5〜32.0kgcm−2min−1が好適である。
【0057】
水が壁面に水膜を形成するようにするため、水を混相流体に混合する際には、例えば、水に対してかける圧力を、水蒸気の圧力により水が逆流しない程度とすることが好適である。水に対してかける圧力は、特に限定されないが、例えば、導入水蒸気圧力以上であって、水が噴射されない程度の圧力をかければ導入することができる。より具体的には、水導入の圧力は次式を満たしていることが望ましい。
(水蒸気の圧力+0.02MPa)<(水導入の圧力)<(水蒸気の圧力+1.0MPa)
水導入の圧力が低すぎると、水は脈流で導入され、流体の特性が不安定になる。また、圧力が高すぎると、ノズル直径方向の中心部まで水が飛散するようになり、一様な水膜の形成が困難になるとともに、蒸気の加速も阻害される。また、噴射方向に加圧しないことが、壁面で水膜を形成するという観点から好適であり、水蒸気の進行方向に対して垂直方向から供給することが更に好適である。
【0058】
混相流体の対象物到達時のpHは、7.0〜9.0が好適であり、7.0〜8.0がより好適であり、7.0〜7.5が更に好適である。当該範囲のpHとすることにより、対象物表面上のアルミニウムに特殊な膜が形成されるため、アルミニウムの腐食防止効果が得られる。尚、pH測定方法は、実施例記載の方法によるものとする。
【実施例】
【0059】
混相流体の対象物到達時の温度の測定方法
図31は、混相流体の対象物到達時の温度測定を行う装置の概略図である。直径6インチ、厚さ0.625mmのシリコンウェハWの上にテープTAで熱電対TH(アルメル−クロメル熱電対 JIS C1602)を貼り付けて、ノズル141の流体噴射出口と対象物の距離や、水蒸気圧力や、純水流量等の諸条件を対象物処理時と同じ値に設定し1分間熱電対に対して照射を行い、定常状態になった際の温度を混相流体の対象物到達時の温度とする。
【0060】
混相流体の対象物到達時のpHの測定方法
図32は、混相流体の対象物到達時のpHの測定を行う装置の概略図である。ノズル141の噴出口を、配管Pを介して冷却管C(例えば、グラハムタイプの陀管冷却管)に接続し、凝集した水を容器Rに回収し、当該水のpHをJIS Z 8802の方法により測定した。尚、前記の凝集作業は空気に触れないようにして行う。
【0061】
例1
以下の条件下、アルミ表面に混相流体(気体として蒸気を用いた場合と空気を用いた場合)を10分照射した。処理の前後におけるAFM写真を図3に示した。図5に表面粗さのデータを示した。尚、本例において表面粗さは、AFM付属のプロファイル分析の方法で測定した。
蒸気の圧力:0.2MPa
蒸気の温度:130℃
純水の流量:300cc/min
純水の温度:20℃
GAP:5mm
ノズルスキャン:固定
【0062】
例2
例1と同条件の下で、鋼表面に混相流体(気体として蒸気を用いた場合と空気を用いた場合)を10分照射した。処理の前後におけるAFM写真を図4に示した。図6に表面粗さのデータを示した。
【0063】
例3
特許文献1に示された蒸気洗浄技術は、蒸気の化学反応と噴流の機械的作用によりレジストを剥離するものであるため、レジストの剥離には分オーダの時間を必要とする。本手法も同様のメカニズムなのかを確認するため、高速度ビデオによる可視化を行った。ノズルスキャン速度が100mm/secであること以外は例1と同条件で、混相流体を照射し、石英ウェハの下部より観察した、i線ポジレジストが剥離する際の経時変化の様子を図7に示す。図に示されるように、レジストは、剥離した領域が徐々に広がりながら非常に高速に剥離した。
【0064】
例4
ノズルスキャン速度を40mm/secとした点以外は例1と同条件で、高濃度イオン注入後のシリコンウェハに対して混相流体を照射し、i線ポジレジスト剥離の経時変化の様子を観察した。結果を図8に示した。
【0065】
例5〜8
以下の条件下、混相流体の気体及び温度を変化させて、アルミニウム表面に対して混相流体を10分照射した。処理の前後におけるAFM写真を図9に示した。図10に表面粗さのデータを示した。尚、照射前の処理対象のアルミニウムの表面は、Raが34.9nmであった。
気体圧力:0.2MPa
液体流量:300cc/min
Gap:10mm
【0066】
低温空気(20℃)と低温純水液滴(20℃)からなる混相流体を照射した結果、Raが30.5nmの表面を得ることが出来た。表面のAFM写真を図9(a)に、表面粗さのデータを図10(a)に示した(例5)。次に、高温空気(130℃)と低温純水液滴(20℃)からなる混相流体を照射した結果、Raが96.4nmの表面が得られた。表面のAFM写真を図9(b)に、表面粗さのデータを図10(b)に示した(例6)。次に、高温空気(130℃)と高温純水液滴(60℃)からなる混相流体を照射した結果、Raが86.3nmの表面が得られた。表面のAFM写真を図9(c)に、表面粗さのデータを図10(c)に示した(例7)。(c)の表面粗さは若干(b)よりも小さくなっているが、荒れている部分の密度は(b)よりも大きいので(c)は(b)よりも衝撃波の影響が多くみられる。次に、水蒸気と低温純水液滴(20℃)からなる混相流体を照射した結果、Raが257nmの表面が得られた。表面のAFM写真を図9(d)に、表面粗さのデータを図10(d)に示した(例8)。以上の結果から、温度が上昇するにつれて衝撃波は大きくなり、特に、気体に水蒸気を用いた場合、処理対象表面に対して最も大きい衝撃波を与えることが明らかになった。
【0067】
例9〜10
Raが348.8nmのAlアルマイト表面に対して、例5〜8と同条件で、混相流体の気体及び温度を変化させて照射した。20℃の空気と20℃の純水液滴からなる混相流体を照射した結果、Raが380nmの表面を得ることが出来た。表面のAFM写真を図11(a)に、表面粗さのデータを図11(c)に示した(例9)。次に、130℃水蒸気と20℃の純水液滴からなる混相流体を照射した結果、Raが440nmの表面が得られた。表面のAFM写真を図11(b)に、表面粗さのデータを図11(d)に示した(例10)。
【0068】
例11
Raが8.1nmのSUS表面に対して、例5〜8と同条件で、混相流体の気体及び温度を変化させて照射した。130℃の水蒸気と20℃の純水液滴からなる混相流体を照射した結果、Raが19.9nmの表面が得られた。表面のAFM写真を図12(a)に、表面粗さのデータを図12(b)に示した(例11)。
【0069】
例12
Raが75.5nmのチタン表面に対して、例5〜8と同条件で、混相流体の気体及び温度を変化させて照射した。130℃の水蒸気と20℃の純水液滴からなる混相流体を照射した結果、Raが98nmの表面を得ることが出来た。表面のAFM写真を図13(a)に、表面粗さのデータを図13(b)に示した(例12)。チタンでは、目視にて干渉縞が見られた。表面に酸化皮膜形成された可能性もある。
【0070】
例13
Raが1.9nmのシリコン表面に対して、例5〜8と同条件で、混相流体の気体及び温度を変化させて照射した。130℃の水蒸気と20℃の純水液滴からなる混相流体を照射した結果、Raが7.6nmの表面を得ることが出来た。表面のAFM写真を図14(a)に、表面粗さのデータを図14(b)に示した(例13)。
【0071】
例14〜25
例14〜25では、レジスト塗布条件による剥離の様子に差があるか否かを検討した。HMDSの有無、Bake温度を90℃、110℃と変化させて、当該条件変化の影響を観察した。処理後の表面プロファイルは、下地処理HMDSに依存しないと考えられる結果が得られた。実験は以下の条件で行った。
使用サンプル:I線レジスト
照射時間:目視で剥離が観察されるまで
気体圧力:0.2MPa
液体流量:300cc/min
ノズルスキャン:固定
Gap:10mm
【0072】
HMDS無し、Bake90℃の条件でレジスト膜を塗布し、当該サンプルを上記の条件にて照射した後に、処理剥離境界面を顕微鏡にて観察した様子を図15(a)〜(c)、AFMで観察した様子を図15(d)〜(f)に示した。図15(a)は、20℃の空気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図15(d)は、対応するAFM写真である(例14)。図15(b)は、130℃の空気と90℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図15(e)は、対応するAFM写真である(例15)。図15(c)は、130℃の水蒸気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図15(f)は、対応するAFM写真である(例16)。
【0073】
HMDS無し、Bake110℃の条件でレジスト膜を塗布し、当該サンプルを上記の条件にて照射した後に、処理剥離境界面を顕微鏡にて観察した様子を図16(a)〜(c)、AFMで観察した様子を図16(d)〜(f)に示した。図16(a)は、20℃の空気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図16(d)は、対応するAFM写真である(例17)。図16(b)は、130℃の空気と90℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図16(e)は、対応するAFM写真である(例18)。図16(c)は、130℃の水蒸気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図16(f)は、対応するAFM写真である(例19)。
【0074】
HMDS有り、Bake90℃の条件でレジスト膜を塗布し、当該サンプルを上記の条件にて照射した後に、処理剥離境界面を顕微鏡にて観察した様子を図17(a)〜(c)、AFMで観察した様子を図17(d)〜(f)に示した。図17(a)は、20℃の空気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図17(d)は、対応するAFM写真である(例20)。図17(b)は、130℃の空気と90℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図17(e)は、対応するAFM写真である(例21)。図17(c)は、130℃の水蒸気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図17(f)は、対応するAFM写真である(例22)。
【0075】
HMDS有り、Bake110℃の条件でレジスト膜を塗布し、当該サンプルを上記の条件にて照射した後に、処理剥離境界面を顕微鏡にて観察した様子を図18(a)〜(c)、AFMで観察した様子を図18(d)〜(f)に示した。図18(a)は、20℃の空気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図18(d)は、対応するAFM写真である(例23)。図18(b)は、130℃の空気と90℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図18(e)は、対応するAFM写真である(例24)。図18(c)は、130℃の水蒸気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図18(f)は、対応するAFM写真である(例25)。
【0076】
例26
液滴径及び流速の関係を図19に示した。水蒸気圧力を一定(0.2MPa)として、様々な純水流量で、液滴の流速、液滴径を測定した。結果を図19に示した。PDAで計測した液滴速度v・径dの関係を示す。vとdは共に正規分布に近く、その平均はそれぞれ、280m/sと10μm程度であった。
【0077】
例27
図20に純水の流量q=100mL/minの場合のvとdに関して、蒸気圧力pおよびノズルとの距離hをパラメータとした際の結果を示す。また比較のため、空気と液滴の混合噴流の結果も点線にて示す。図より対象としている液滴速度は200〜300m/s程度、液滴径は10μm程度であることがわかる。
【0078】
例28(気体圧力と液滴速度の関係)
水蒸気と水の混相流体と、空気と水の混相流体とを、水の流量を200cc/minとして、気体の圧力を0.05、0.1、0.2MPaと変化させてソニックノズルを用いて噴射し、LDA(Laser Doppler Anemometry:レーザドップラ流速計)にてその液滴の速度を噴出口から5、10mmの位置で測定した(図33)。尚、LDAの計測は、TSI社製のLDAにより行い、10000個の液滴のデータが取得できたら計測を終わりとし、各条件で3回測定した。水蒸気と水の混相流体を用いた場合には、5mmの位置よりも、10mmの位置の方が液滴の速度が高いことが観測された。また、空気と水の混相流体の場合、空気の圧力を高めれば高めるほど、液滴の速度が高くなる傾向がみられた。一方、水蒸気と水の場合、原因は不明であるが、水蒸気の圧力を高めれば、所定値までは液滴の速度が高くなることが観測されたが、0.2MPaでは、測定値によれば液滴速度が低くなった。しかし、これはエラーではないかと推測される。他の条件において、計測は10秒かからない程度であったが、水蒸気と水の混相流体で水蒸気圧0.2MPaの条件でのみ、計測に数分要した。従って、当該条件においてはほとんどノイズが観測されたものと推測できる。
【0079】
例29(気体圧力と液滴径の関係)
水蒸気と水の混相流体と、空気と水の混相流体とを、水の流量を200cc/minとして、気体の圧力を0.05、0.1、0.2MPaと変化させてソニックノズルを用いて噴射し、PDAにてその液滴の径を噴出口から5、10mmの位置で測定した(図34)。尚、PDAの計測は、10000個の液滴のデータが取得できたら計測を終わりとし、各条件で3回測定した。空気と水の混相流体の場合、空気の圧力を変化させても、液滴の速度はほとんど変化しなかった。一方、水蒸気と水の場合、原因は不明であるが、水蒸気の圧力を高めれば、所定値までは液滴の径の変化はほとんど見られないが、0.2MPaにおいては、液滴の径が急激に小さくなるという現象が観測された。しかし、これはエラーではないかと推測される。他の条件において、計測は10秒かからない程度であったが、水蒸気と水の混相流体で水蒸気圧0.2MPaの条件でのみ、計測に数分要した。従って、当該条件においてはほとんどノイズが観測されたものと推測できる。
【0080】
例30(ノズル内の圧力波)
水蒸気圧0.1、0.2MPaの条件下で、純水流量を100cc/minとして、水蒸気と水の混相流体を石英ノズルを用いて噴射した。すると石英ノズルの先端に圧力波が観測された。その様子を図35に示した。尚、図35(a)は0,1MPaの条件での噴射の様子であり、図35(b)は0.2MPaの条件での噴射の様子である。また比較のため、気体圧力0.1、0.2MPaの条件下で、純水流量を100cc/minとして、空気と水の混相流体を石英ノズルを用いて照射した。しかし、石英ノズル先端には圧力波は観測されなかった。この様子を図36に示した。尚、図36(a)は0.1MPaの条件での噴射の様子であり、図36(b)は0.2MPaの条件での噴射の様子である。
【0081】
実施例1〜36
最良形態に係るソニックノズル(図30)を有する洗浄装置を用いて、以下の条件の下で、対象物に水蒸気と水の混相流体を噴射して、その洗浄効果、物理破壊及び配線の耐腐食性を評価した(表1,2)。尚、対象物として、i線ネガレジスト(東京応化THMRip3300)を1μmの厚さで塗布し、90℃で120minベイクした後、365nmで20秒露光し、室温でTMAH([N(CH3)4]+OH―)により現像した、アルミニウム配線を有するシリコンウェハを使用した。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
比較例
比較例1は流体温度が低すぎる場合である。流体温度が低すぎるとポリマーは除去されるが、10日後には配線が腐食された。
比較例2,比較例3は液滴速度が遅すぎる場合と速すぎる場合である。遅すぎるとポリマーが残存し、速過ぎると配線の物理的破壊がみられた。
比較例4,比較例5はpHが低すぎる場合と高すぎる場合である。pHが低すぎると保護膜が生成せず、10日後に配線の腐食がみられた。pHが高すぎるとpHが高いことによる配線の腐食が発生した。
【0085】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、強度の大きい材料から強度の小さい材料まで、極めて広範囲な対象物に亘り様々な加工についてその適用が可能である。例えば、半導体デバイス、液晶、磁気ヘッド、ディスク、プリント基板、カメラ等のレンズ、精密機械加工部品、モールド樹脂製品等についての不用物除去・洗浄・磨き等の処理や、シリコンプロセス技術を用いたマイクロ構造体、モールド加工等の分野におけるバリ取り処理等にも、本発明を活用することができる。更に、本発明はとりわけ化学薬品を嫌う材料の処理には好適である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、本最良形態に係る処理装置の全体の構成を示した図である。
【図2】図2は、本最良形態に係る処理装置の温度制御機構付混相流体気液混合部の概略図である。
【図3】図3は、例1における、アルミ表面に混相流体を照射10分後の表面観察AFM写真を示した図である。
【図4】図4は、例2における、鋼表面に混相流体を照射10分後の表面観察AFM写真を示した図である。
【図5】図5は、例1における、アルミ表面に混相流体を照射10分後の表面粗さのデータを示した図である。
【図6】図6は、例2における、鋼表面に混相流体を照射10分後の表面粗さデータを示した図である。
【図7】図7は、例3における、透明ウェハに塗布したレジストに混相流体を照射しながら、裏面からレジスト剥離過程を高速度カメラにて観測した結果を示した図である。
【図8】図8は、例4における、高濃度イオン注入後の混相流体照射によるレジスト剥離データを示した図である。
【図9】図9は、例5〜8の結果を示した図である。
【図10】図10は、例5〜8の結果を示した図である。
【図11】図11は、例9〜10の結果を示した図である。
【図12】図12は、例11の結果を示した図である。
【図13】図13は、例12の結果を示した図である。
【図14】図14は、例13の結果を示した図である。
【図15】図15は、例14〜16の結果を示した図である。
【図16】図16は、例17〜19の結果を示した図である。
【図17】図17は、例20〜22の結果を示した図である。
【図18】図18は、例23〜25の結果を示した図である。
【図19】図19は、例26の結果を示した図である。
【図20】図20は、例27の結果を示した図である。
【図21】図21は、混相流体の熱エネルギーの違いによる、衝撃波の大きさの変化を示した図である。
【図22】図22は、混相流体の速度の違いによる、衝撃波の大きさの変化を示した図である。
【図23】図23は、混相流体の密度の違いによる、衝撃波の大きさの変化を示した図である。
【図24】図24は、超音波によるキャビテーション発生のメカニズムを示した図である。
【図25】図25は、液滴衝突時に発生するキャビテーションのメカニズムを示した図である。
【図26】図26は、液滴衝突時に発生するキャビテーションのメカニズムを示した図である。
【図27】図27は、液滴衝突時に発生するキャビテーションのメカニズムを示した図である。
【図28】図28は、液滴衝突時に発生するキャビテーションのメカニズムを示した図である。
【図29】図29は、液滴衝突時に発生するキャビテーションのメカニズムを示した図である。
【図30】図30は、ソニックノズル及び混合部の構造を示した図である。
【図31】図31は、混相流体温度の測定装置の概略図である。
【図32】図32は、混相流体のpHの測定装置の概略図である。
【図33】図33は、気体圧力と水滴速度の関係を示した図である。
【図34】図34は、気体圧力と水滴径の関係を示した図である。
【図35】図35は、石英ノズル内で発生する圧力波の様子を示した図である。
【図36】図36は、石英ノズル内で圧力波が発生していない様子を示した図である。
【符号の説明】
【0088】
100:対象物処理装置
111:水供給管
112:蒸気発生器
113:水蒸気開閉バルブ
114:圧力計
115:水蒸気圧力調整バルブ
116:温度制御機構付き加熱蒸気生成器兼飽和蒸気湿り度調整器
117:圧力開放バルブ
121:水供給管
122:純水温度制御機構付加熱部
123:純水開閉バルブ
124:純水流量計
125:2流体生成用純水開閉バルブ
131:水蒸気流体温度制御機構付加熱部
141:照射ノズル
142:フレキシブル配管
143:圧力計
144:温度制御機能付混相流体気液混合部
145:オリフィス
151:搭載・保持可能なステージ
152:回転モーター
153:ウェハ上下駆動機構
154:冷却水管
155:冷却水開閉バルブ
156:冷却水流量調整バルブ
157:冷却水流量計
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板/ガラス基板/レンズ/ディスク部材/精密機械加工部材/モールド樹脂部材等を対象物(特に表面上にアルミニウム配線等のアルミニウム素材を有する半導体基板)として、その対象物の所定部位又は所定面を処理する方法及びそのシステム(例えば、対象物洗浄方法及び対象物洗浄システム)に関するものであり、より具体的には、部位又は面の洗浄、そこにある不用物の除去や剥離、対象物表面の磨きや加工等を行う方法及びそのシステム(例えば、レジスト剥離装置、ポリマー剥離装置及び洗浄装置のような半導体製造装置、プリント基板洗浄装置、フォトマスク洗浄装置等における処理方法)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の前処理工程においては、1枚のウェハに対して、50〜100回もの洗浄が繰り返される。その洗浄の対象は、デバイス信頼性に影響を与えるレジスト膜やポリマー膜等の有機物やパーティクル等である。この洗浄工程では、通常、アルカリ洗浄液と酸洗浄液の組合せやその他硫酸過水等の薬品を使用し、また、その残留物を除去するためのリンス工程では、大量の純水を使用する。その他、レジストの除去には、プラズマアッシング装置を用いるのが一般的であるが、その後の残留物や不純物の洗浄は別の洗浄装置が使用されている。また、ポリマー膜の除去には、アミン系の有機溶剤が多く使用されている。この薬液は、レジストの除去にも使用される場合がある。ここで、上記に示した従来技術の洗浄や薄膜除去に使われる薬液は、1)高価である、2)環境負荷が大きく特別な排水処理設備が必要である、3)作業者の安全衛生の確保のため装置が大型化する、薬液を使用した洗浄では、薬液を洗い流すために大量の純水が必要である、4)1台の装置では薄膜除去から洗浄までをカバーできない、といった欠点をもつ。
【0003】
また、薬液を使用しない洗浄工程に限定すれば、下記の主な技術が既存する。まず、超音波洗浄装置は、現在最も広範囲に使用されている洗浄技術で、純水のみでなく各種洗浄液と組合せられるときがある。欠点は、キャビテーション(後述するように本発明のキャビテーションとは作用機序が異なる)により軟質材料、脆性材料や微細パターンへのダメージが懸念されることである。そのため、周波数を高くする等の対応がなされているが、洗浄力とのトレードオフが起きている。次に、水ジェット洗浄装置は、比較的大型系の洗浄物に適用されている。欠点は、高圧力(数MPa〜20MPa)が必要であることであり、微細パターンを有する対象物には不適である。次に、ブラススクラブ洗浄装置も、純水のみでなく各種洗浄液と組み合わされるときがある。欠点は、深い溝や穴がある表面には不適であることである。加えて、対象物表面とブラシが直接接触するため、発塵やスクラッチ傷発生の可能性がある。
【0004】
また、水蒸気のみを照射する洗浄装置が存在する。この装置も薬液を使用していないという面から環境負荷が非常に小さくなっている。但し、この装置は、1)液滴を利用していないため、ウェハ上のフォトレジストや異物のように比較的強く接着している対象物には効果が少ない、2)蒸気発生器の圧力が唯一のパラメータのため、対象物による最適条件を調整できない、といった欠点をもつ。
【0005】
そこで、近年、水蒸気と液体微粒子とを組み合わせて照射する洗浄装置が提案されている(特許文献1)。当該技術においては、まず気化した水(水蒸気体)がレジスト膜中に浸潤してレジスト膜と対象物表面との界面に達し、この界面におけるレジスト膜の接着力を弱め、レジスト膜を対象物表面から浮き上がらせる(リフトオフ)。次いで、所定の噴射圧力をともなった液状水微粒子を含む霧状の水(水ミスト体)がリフトオフしたレジスト膜に物理的に作用して界面から剥離させる、というものである。そして、特許文献1の段落番号0019には、当該技術の基本原理として熱効果現象を利用してのキャビテーションが記載されている。具体的には、常温の純水と高温の水蒸気とを混合すると、これらの熱交換によってある程度の周波数(10KHz〜1MHz)を有する振動が発生する。そして、この振動によって、水分子が水素イオンと水酸化物イオンに分解し、これら不安定なイオンが再び水分子に戻る際に生じる高エネルギーを機械的衝撃に変換する、というメカニズムである。
【特許文献1】WO2006/018948
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されるような水蒸気と水とを組み合わせて照射する洗浄装置を用いる場合、第一に、水分子の浸透という、反応にある程度の時間が必要な現象と、霧状のミストがレジスト膜やパーティクルに直接衝突して膜や汚れを除去するというリアルタイムの現象とを利用しているため、水分子の浸透時間に処理時間が制限されてしまうという問題や、第二に、洗浄力が不十分で対象物の汚れが十分に除去できなかったり、逆に、洗浄力が強すぎて対象物を傷めつけてしまう事態がしばしば発生するという問題がある。このようなときには、例えば、前者の場合には、噴出圧力を高め、後者の場合には、噴出圧力を下げる、といった方策を講じてきた。このように、流体力学的作用(衝突力等)のみを利用し、洗浄力の調整を行ってきたのが現状である。しかしながら、この場合、前者においては、噴出圧力を高めることから蒸気温度が高くなってしまい耐熱性の低い材料を対象に出来なくなったり、衝突力が強くなりすぎて対象物へのダメージが生じたりするという懸念が存在する。他方、後者においては、低い噴出圧力のため対象物を傷め付ける事態は回避できても対象物の洗浄が不十分であるという問題がある。そこで、本発明は、水分子の浸透時間に制限されず対象物を傷め付けることなく確実に洗浄する手段を提供することを第一の目的とする。
【0007】
更に、本発明者らは、水と水蒸気との混相流で半導体基板を洗浄した場合、当該半導体基板表面に形成されたアルミニウムが早期に腐食されることを経験的に見出した。このように、次の処理が施される前にアルミニウムが腐食されてしまうと、半導体デバイスとして機能しなくなることがあり、歩留まりが悪くなる事態をも招く。そこで、本発明は、水と水蒸気との混相流で半導体基板を洗浄した場合であっても、当該半導体基板表面に形成されたアルミニウムが長期間腐食され難くする手段を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述したこれまでとは全く作用機序の異なるキャビテーションに着目し、対象物上での当該キャビテーションの程度をコントロールすることにより、対象物に適合した処理を有効かつ容易に実施できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0009】
更に、本発明者は、洗浄力を高めるために、気体の圧力でなく混相流体に含まれる液滴の速度に着目し、当該速度を高めようと鋭意研究を重ねた。すると、ある特定のノズルを用いて液滴速度を高めた場合には、前記のように対象物の割れや表面パターンの崩壊を招くことなく、対象物に付着した除去対象物を十分な衝撃力をもってして除去可能であること発見し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明(1)は、水蒸気と水とを混合部にて混合することにより生成する、連続相の水蒸気と分散相の水滴とを含む混相流体をノズルを介して照射する工程を含む、対象物を洗浄する方法において、
前記混合部が前記ノズルの上流側に設置されており、内壁面の一部が開口した水導入部を有し、
前記ノズルが、超高速ノズルであり、
前記混合部の内壁面とノズルの内壁面が略連続的な曲面を形成し、
前記混合部内を流動する前記水蒸気に対して前記混合部の内壁面から水を混合して、前記混合部の内壁面から前記ノズルの内壁面に水をつたわせて、前記ノズルの出口から前記混相流体を噴射することを特徴とする方法である。
【0011】
本発明(2)は、前記ノズルが、ノズル上流側からノズル出口へと向かうに従って縮径し、更に、最小断面積となるのど部を境に、拡径する末広構造を有する、前記発明(1)の方法である。
【0012】
本発明(3)は、前記混合部が、筒状である、前記発明(1)又は(2)の方法である。
【0013】
本発明(4)は、前記水滴の速度を100〜600m/sの範囲とする、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの方法である。
【0014】
本発明(5)は、前記混相流体の対象物到達時の温度が50℃以上であり、前記混相流体の対象物到達時のpHが7〜9の範囲である、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの方法である。
【0015】
本発明(6)は、更に、前記混相流体噴射出口と対象物の距離が、30mm以下である、前記発明(5)の方法である。
【0016】
本発明(7)は、前記対象物が、アルミニウム配線等のアルミニウム素材を表面に有する半導体基板である、前記発明(1)〜(6)のいずれか一つの方法である。
【0017】
本発明(8)は、水蒸気を供給する水蒸気供給手段{例えば、水蒸気供給部(A)}と、液体の水を供給する水供給手段{例えば、純水供給部(B)}と、混相流体を照射するノズルと、を有する、水蒸気と水滴とを含む混相流体をノズルを介して照射することにより対象物を洗浄するシステムにおいて、
前記混合部(例えば、混合部144)が前記ノズルの上流に設置されており、流動する前記水蒸気に対して内壁面から水を混合可能である、内壁面の一部が開口した水導入部(例えば、144a)を有し、
前記ノズルが、超高速ノズル(例えば、ノズル141)であり、
前記混合部の内壁面とノズルの内壁面が略連続的な曲面を形成していることを特徴とするシステムである。
【0018】
本発明(9)は、前記ノズルが、ノズル上流側からノズル出口へと向かうに従って縮径し、更に、最小断面積となるのど部を境に、拡径する末広構造を有する、前記発明(8)のシステムである。
【0019】
本発明(10)は、前記混合部が、筒状である、前記発明(8)又は(9)のシステムである。
【0020】
以下、本明細書における各用語の意義について説明する。まず、「水滴」とは、例えば、水由来の水滴のみならず、湿り飽和水蒸気由来の微小な水滴をも含む概念である。「混相流体」とは、2流体や3流体等複数の流体成分を有する流体であり、例えば、1)飽和水蒸気と沸点以下の純水液滴、2)加熱水蒸気と沸点以下の純水液滴、3)前記1)又は2)に更に不活性ガス又は清浄高圧空気を組み合わせたもの、を挙げることができる。但し、対象物の酸化や化学反応が気にならない用途に使用される場合は、酸素ガスやその他活性ガスを用いることもある。また、アルミニウムの腐食防止の観点からは、水と水蒸気のみの二相流であるかこれらと不活性ガスとを組み合わせたものを使用することが好適である。「対象物」とは、特に限定されず、例えば、電子部品、半導体基板、ガラス基板、レンズ、ディスク部材、精密機械加工部材、モールド樹脂部材を挙げることができる。「処理」とは、対象物に施されるものである限り特に限定されず、例えば、剥離、洗浄、加工を挙げることができる。「水」とは、半導体装置製造の洗浄工程等、対象物上での微小異物や金属イオン等の汚染が気になる用途には、純水或いは超純水として使用されている程度の特性の水を指し、対象物上での微小異物や金属イオンなどの汚染が気にならない用途には、更にグレードの低い水道水まで包含される。「システム」とは、各構成要素を一体的に収納している「装置」のみならず、各構成要素が物理的に離隔した位置に配されていたり(例えばプラント)、各構成要素同士が情報伝達可能に接続されていない場合も、請求の範囲に規定された機能を有する構成要素を全体として備えている限り、当該システムに該当する。「超高速ノズル」とは、液滴を音速以上に加速可能なノズルを意味する。
【0021】
ここで、図を参照しながら、対象物処理に係る当該分野で既知であった他の作用機序のキャビテーションとの相違を明確にすべく、本発明に係る液滴衝突時キャビテーションを詳述する。尚、ここで記載した作用機序は、あくまで予測に過ぎない。したがって、本発明は当該作用機序に何ら限定されるものではない。
【0022】
まずは、キャビテーションの一般的な概念について以下に説明する。
通常は液体の温度が、その圧力における飽和温度より高くなると沸騰が開始するが、液体の圧力が、その温度における飽和圧力より低くなっても、液体は沸騰を開始する。すなわち蒸気泡が液体中に生成する。このように温度変化によるものではなく、減圧効果により沸騰し発生する気泡は通常キャビテーション気泡と呼ばれている。この気泡が収縮し、崩壊することによって高圧が生じ、壊食・騒音等が発生する。この現象もキャビテーションと呼ばれることがある。
【0023】
従来から洗浄に用いられてきた超音波洗浄装置においては、以下のような作用機序により、キャビテーションが発生する(図24)。
1.超音波発生器により媒液中に音波が伝搬する。
2.音波は激しい周期で圧縮と減圧を繰り返して媒液中を進行する。
3.圧縮から減圧に移る過程で、局所的に飽和水蒸気圧以下にまで減圧する。
4.そこで気泡の成長(常温沸騰)が開始する。
5.また、成長蒸気気泡に媒液中に溶解している不凝縮気体も混入する。
6.気泡がさらに成長する。
7.気泡は次の圧縮力を受けて断熱的に圧縮され高いエネルギーをもつ。
8.気泡は、ついに押しつぶされて崩壊する。
9.押しつぶされるとき、局所的に極めて大きな衝撃エネルギーとなって、周囲にある汚れを解離する。
10.音波は、通常媒液中を進行する進行波と液面で反射する反射波によって定在波が生じる。
11.この場合キャビテーションは最大音圧体に沿って媒液中に縞状に発生する。
【0024】
続いて、本発明に係る方法により、発生する液滴衝突時キャビテーションについて、考えられる発生メカニズムについて、過去に報告された例を参考に説明する(Martin Rein,"Drop-Surface Interactions (Cism International Centre for Mechanical Sciences Courses and Lectures)" pp.39-102, Martin Eein ed., Springer-Verlag, 2002,)。
【0025】
1.液滴がある速度で固体境界面に衝突すると、液滴の運動エネルギーが圧力エネルギーに変換されて、液滴と固体境界面との接触面において、高圧が発生する(図25)。
2.発生した圧力は圧力波(圧縮波)として液滴内部を上方に伝播し、液滴と周囲気体との境界面、すなわち自由界面に到達する(図26)。
3.水の音響インピーダンスは周囲気体の音響インピーダンスに比較して圧倒的に大きいためインピーダンスミスマッチングとなり、圧力波はほぼ100%反射する。すなわち、圧力波の周囲気体へと伝播は非常に小さくなるため、結果として自由界面上での圧力変化は小さく抑えられる(図27)。
4.自由界面上での圧力変化が小さくなるのは、圧縮波を打ち消す膨張波、すなわち周囲より低い圧力波が発生し、液体内部へと伝播するからである。
5.液滴内部へと伝播した膨張波は、液滴内部の圧力を低下させる。液滴の温度が30℃程度であれば、約0.04気圧、60℃程度であれば約0.2気圧、80℃程度であれば約0.5気圧まで低下すれば沸騰が開始し、気泡が発生・成長する(図28、29)。
6.発生した蒸気泡は、成長しながら液体中の不凝縮気体も取り込み、さらに大きくなる。
7.十分成長した気泡は成長限界に達し、リバウンドすなわち収縮を開始する。収縮過程は膨張過程に比較して急激に起こるため、気泡は激烈に収縮し、気泡内部圧力は成長開始時よりも極端に高い圧力にまで達しうる。この高圧力は気泡崩壊時圧力と呼ばれている。
8.気泡崩壊は気泡周囲条件の擾乱によっても誘起される。また、気泡は必ずしも単一で崩壊せず、むしろ気泡が集積した気泡群として崩壊する。そのような場合の気泡崩壊圧力は単一気泡崩壊圧力の数100倍程度以上であることが報告されている。
9.液滴内部で発生した気泡崩壊圧力は、圧力波(圧縮波)として液滴内部を伝播して、液滴と固体面との接触面に到達し、固体面上に非常に大きな圧力を発生させる。これが、液滴衝突時に発生するキャビテーションの崩壊圧力であり、この圧力を利用して洗浄を行っている。
【0026】
本発明において本質的に重要なのは、液滴周囲の熱環境が水蒸気によって、十分高温に保たれている、もしくは液滴よりの熱の漏れを防いでいることである。そのため、液滴内部の膨張波による圧力低下が激烈なものでなくても十分気泡が発生しうる条件となっていることである。この特性があるために、他の発明にあるように液滴が激烈な速度を有して固体表面に衝突しなくても、ある程度の圧縮波を発生させることのできる速度であれば十分である。
【0027】
他の発明に比較すると2桁程度低い圧力で発生させた速度を有する液滴によって、キャビテーションを発生させる点が、本発明の最も特異な点である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、噴出圧力の調整(流体力学的作用)により対象物への衝撃力をコントロールしてきた従来法と異なる、対象物表面に液滴が衝突することにより発生する液滴衝突時キャビテーションを利用して対象物を処理するよう構成されているので、噴出圧力の高低に起因した従来の問題、具体的には、衝突力が強くなりすぎて対象物へのダメージが生じたりするという懸念や、低い噴出圧力のため対象物を傷め付ける事態は回避できても対象物の洗浄が不十分であるという問題、を解消することができるという効果を奏する。更に、この液滴衝突時キャビテーションには、衝突時における液滴の温度が大きく関与するため、液滴の温度を変更することにより当該キャビテーションの程度(発生の有無やその程度)を容易にコントロールすることが可能である。加えて、低噴出圧力下でも、液滴温度を高くすれば効率的に対象物の処理を実行することができるので、高い噴出圧力に起因した問題を回避することも可能である。更には、気体が水蒸気である場合には、当該水蒸気から他の媒体に熱移動する事態を招いたときであっても、水蒸気の潜熱から利用される結果、系全体の温度が低下する事態を回避ことができる。
【0029】
本発明のより具体的な作用・効果は以下の通りである。(1)液滴衝突後に発生する高速サイドジェットや気泡崩壊による衝撃波、衝撃波による連鎖反応の衝撃力(キャビテーション)で膜の剥離のきっかけとなる膜上の亀裂や孔を発生させる。(2)液滴によるジェットや衝撃波、衝撃波による連鎖反応、及び高速サイドジェットを発生させ、(1)で記した亀裂や孔を起点にして膜をめくりあげ剥離する。(3)大きな熱温度エネルギーを持った水である蒸気により対象物材料を脆性化させたり、応力を発生させ対象物と下地との界面での密着力を弱める。(4)対象物に応じ、これらの機能の組合せを変化させることにより、洗浄対象・除去対象を広げることも出来る。(5)不純物を取り除くだけでなく、エッチング工程やイオン注入工程後の不用フォトレジストの除去やエッチング工程後の不用ポリマーの除去の用途にも本発明を応用することが出来る。
【0030】
また、本発明(1)〜(4)及び(8)〜(10)によれば、超高速ノズルを用いることにより、水滴の速度が速くなる。そのため、液滴が細分化されて液滴径が小さくなる。従って、ウェハの割れやパターンの崩れの原因となる大きな径を有する液滴が生成されにくく、圧力を上げても当該問題が発生しにくくなる。
更に、超高速ノズルを用いた場合、水蒸気と水滴を噴射する混相流体と、空気と水滴との混相流体では、下記の二点の特異な挙動を示すことが観測された。
第一に水蒸気と水の混相流体を超高速ノズルを用いて噴射することにより、ノズル内の出口付近に圧力波のようなものが観測されることが明らかとなった(例30)。これにより、ノズル内で液滴が更に細分化され液滴径が小さくなるため、圧力を上げても、ウェハの割れや、表面パターンの崩れといった問題を起さないという効果を奏する。
第二に気体圧力と液滴速度及び/又は平均粒径との関係である。気体圧力を高めた場合、空気と水との混相流体では、圧力が高まるにつれて液滴速度も高くなるのに対して、水蒸気と水の場合、所定の圧力までは計測可能であったが、所定圧力をこえると計測不可能になる(例28)。また、気体圧力と水滴の平均粒径の関係を観察すると、空気と水の混相流体では気体圧力にその粒径は依存しないが、水蒸気と水の場合、所定圧力を超えると平均粒径のデータが信憑性のないものとなってしまうことがわかった(例29)。これは、空気と水の混相流体では測定可能であるが、水蒸気と水の混相流体では測定不可能となる領域の圧力があることを意味する。即ち、当該圧力において、水蒸気と水の混相流体は、空気と水の混相流体とは少なくとも何らかの異なる挙動を示していることを意味する。当該挙動の相違点については明らかではないが、測定不可能となる要因としては、液滴速度が速すぎる又は液滴径が小さすぎるといったことが考えられる。
ノズル上流側で、前記水蒸気に対して前記混合部の壁面から水を混合することにより、壁面に水膜を形成してノズル出口から噴出して、水滴と水蒸気の混相流体を噴出する。噴出された液滴は、対象物表面に衝突することにより、先述の作用機序により液滴内に局所的に低圧部が発生して、対象物表面でキャビテーションを発生させることが可能となる。
また、照射に使用するノズルが、ノズル上流側からノズル出口へと向かうに従って縮径し、更に、最小断面積となるのど部を境に、拡径する末広構造を有するため、前記混合部において混合された水によってノズル内壁に水膜が形成されて、水蒸気がノズルの中心部分を通過して噴出される。この際、水蒸気はのど部からノズル出口の間で加速される。更に、当該加速された水蒸気に引きずられるように水が加速する。
【0031】
また、本発明(5)によれば、上記のキャビテーションにより得られる十分な衝撃に加えて、水と水蒸気との混相流で半導体基板を洗浄した場合であっても、当該半導体基板表面に形成されたアルミニウムが長期間腐食され難いという効果を奏する。例えば、アルミニウムのドライエッチング後、本発明(5)に係る方法で、対象物上のレジストを剥離すれば、次の工程までの時間でアルミニウム配線が腐食されないという効果がみられる。
【0032】
本発明(6)によれば、混相流体噴射出口と対象物の距離が短いので、混相流体が大気中の二酸化炭素を取り込みにくくpHが酸性に偏りにくくなるため、アルミニウム腐食防止効果を更に良好に発揮するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、最良形態として、対象物処理装置として「ウェハ洗浄装置」を例に採り、本発明を具体的に説明することとする。尚、本最良形態はあくまで最良的な例示に留まり、本発明の技術的範囲を何ら限定するものでは無い。
【0034】
混相流体の構成
まず、本最良形態での混相流体は、水蒸気と水とを混合することにより生成する、連続相の水蒸気と分散相の水滴を含む。ここで、「水滴」は、化学薬品を嫌う材料からなる対象物を処理するのに好適である純水からなる(加えて、湿り度の高い水蒸気の一部)。また、前記の混相流体は、任意でアルゴン、窒素等の不活性ガス、清浄高圧空気を含んでいてもよい。但し、アルミニウムの腐食防止の観点からは、任意ガスはアルゴンか不活性ガスであることが好適である。
【0035】
ここで、水蒸気を使用する理由は、比熱が高いことに加え、潜熱を利用することができ、流体の圧力の変化に伴い液滴の持つ熱量が奪われるような状況下においても、温度がほとんど低下しない点で有利であるからである。水滴と気体が、流体混合部において混合された際に、水滴と気体の間で熱移動が起こったり、水滴と混合部や配管等の内壁との間で熱移動が起こったりする。また、ノズル部で加速され大気に放出される際に減圧膨張が起きる為、気体の温度が下がる。この際に、水滴の温度が低下するか否かは、気体の潜熱により決定される。潜熱を多く含まない気体、例えば、不活性ガスや清浄高圧空気と純水を混合した場合、気体の温度は低下し温度制御が困難となる。一方、気体が水蒸気である場合には、所定量の潜熱を有するため、比較的低温の水滴と混合した場合にも、配管の内壁に熱を奪われた場合にも熱の移動により気体の温度が低下しにくくなり、温度の制御が容易になる傾向がある。しかし、水蒸気の潜熱が充分でなければ、水蒸気の一部が液化することに伴い液滴が生成し、これが処理対象物表面で発生する衝撃波に影響を及ぼすこととなる。また、この混相流体が最終的にノズルのノド部で加速されるとき、流体の運動エネルギーを得る為に、流体の温度が低下するが、水蒸気の持つ潜熱で、流体の温度が低下することを低減できる。
【0036】
対象物処理装置の全体構造
図1は、本発明の一実施形態による対象物処理装置100の全体図である。本装置100は、水蒸気供給部(A)、純水供給部(B)、水蒸気流体調整部(C)、混相流体照射部(D)、ウェハ保持・回転・上下機構部(E)を有する構成である。以下、各部を詳述する。
【0037】
(A)水蒸気供給部
水蒸気供給部(A)は、純水を供給するための水供給管111と、所定温度D1(℃)以上に加温して水蒸気を発生させ、水蒸気の発生量を制御して水蒸気を所定値C1(MP)に加圧する蒸気発生器112と、蒸気の供給及びその停止を司る開閉可能な水蒸気開閉バルブ113と、蒸気発生器112から下流に供給される水蒸気の圧力を計測するための圧力計114と、蒸気供給圧力を所望の値に調整するための水蒸気圧力調整バルブ115と、供給水蒸気内の微小液滴量を調整する温度制御機構付き加熱蒸気生成器兼飽和蒸気湿り度調整器116と、安全装置としての圧力開放バルブ117と、から構成される。
【0038】
(B)純水供給部
純水供給部(B)は、純水を供給するための水供給管121と、純水に熱エネルギーを持たせるための純水温度制御機構付加熱部122と、純水の供給の停止及び再開を司る純水開閉バルブ123と、純水の流量を確認するための純水流量計124と、2流体の場合に下流への純水の供給の停止及び再開を司る2流体生成用純水開閉バルブ125と、から構成される。
【0039】
(C)水蒸気流体調整部
水蒸気流体調整部(C)は、水蒸気流体の温度や飽和水蒸気の湿り度を調整するための水蒸気流体温度制御機構付加熱部131を有している。
【0040】
(D)混相流体照射部
混相流体照射部(D)は、対象物に対して混相流体を照射するための、前後左右方向(図1のX軸ノズルスキャン範囲又はY軸ノズルスキャン範囲)に移動可能な照射ノズル141と、ノズルの移動を円滑に行うためのするためのフレキシブル配管142と、混相流体のノズル直前の圧力を計測するための圧力計143と、純水を蒸気配管に対して壁面に水膜を形成するように導入する気液混合部144と、純水が気体配管内に円滑に導入されるためのオリフィス145から構成される。ここで、ノズル141は、超高速ノズルである。「超高速ノズル」とは、液滴を音速以上に加速可能なノズルであれば、特に限定されないが、例えば、ソニックノズルが挙げられる。図30は、本最良形態に係るソニックノズル及び混合部の断面図である。ソニックノズルの形状は、特に限定されないが、ノズルの内部が、図面上方のノズル上流側から図面下方に位置するノズル出口へと向かうに従って急激に縮径し、更に、最小断面積A3となった位置(のど部)を境に、流体が内壁から剥離しないよう比較的ゆるやかに拡径し、ノズル出口で断面積がA2となる、末広ノズル構造を有する。のど部の断面積A3は、流量を音速で割り算して算出する。のど部の断面積A3は特に限定されないが、例えば、3.0〜20.0mm2である。また、ひろがり率(A3/A2)は、下記の式1で示される式により算出される。
【数1】
ここで、κは気体の比熱比(定圧比熱/定容比熱)であり、P1はノズルのど部の圧力であり、P2はノズル出口における圧力である。当該、ひろがり率とのど部の断面積A3により、ノズル出口の断面積A2が求められる。ここで、ノズル出口の断面積A2は、特に限定されないが、例えば、7.0〜28.0mm2である。また、ノズルの長さは、ノズルの材料、粗度、流速(レイノルズ数)等の各種のパラメータを考慮に入れて、適宜値を設定可能である。また、拡径の程度は、粘度、密度、流速等の各種パラメータを考慮に入れて、適宜値を設定可能である。ノズル出口の形状は、特に限定されないが、円形であってもよい。また、混合部の内壁面とノズルの内壁面は、略連続的な曲面を形成している。混合部は、筒状体としてノズル上流に接合されていてもよいし、ノズル内の上流部に形成されていてもよい。混合部壁面とノズル壁面が接合されている場合、当該接合部分は、混合部により水膜を形成しながら壁面をつたって到達した液体が、ノズル壁面でも水膜を形成して流れるように形成されていることが好適であり、特に限定されないが、配管の継ぎ目などがあってもよいが、これにより液体が液面から剥離する程度の障害物とならない程度になだらかに一体化していることが好適である。尚、混合部144については、後で詳述する。
【0041】
(E)ウェハ保持・回転・上下機構部
ウェハ保持・回転・上下機構部(E)は、対象物(ウェハ)を搭載・保持可能なステージ151と、ステージ151を回転させるための回転モーター152と、ステージ151を上下方向に移動させることによりノズル141の出口とウェハとの距離を調整可能なウェハ上下駆動機構153と、対象物(ウェハ)を冷却する冷却水を供給するための冷却水管154と、冷却水の供給を停止及び再開するための開閉可能な冷却水開閉バルブ155と、冷却水の流量を調整するための冷却水流量調整バルブ156と、冷却水の流量を計測するための冷却水流量計157と、から構成される。
【0042】
以上で、本最良形態に係る対象物処理装置の全体構成を概説したので、次に、混相流体照射部(D)における混合部144について詳述することとする。混合部144は、ノズル上流側で、水蒸気に対して前記水蒸気の進行方向を基準として90度以下の角度で前記混合部の壁面から水を混合可能である、内壁面の一部が開口した水導入部144aを有する(図30)。混合部は円筒形であることが、好適であり、混合部ノズルと接合される断面の内径は、前記ノズルの入口の内径と同一であることが好適である。
【0043】
ここで、図2は、当該混合部144を温度制御機構付混相流体気液混合部とした場合の詳細構成を示した図である。混合部144においては、混合部内壁で水蒸気の液化や水の気化という相変化現象の発生を最小化することが重要である。このため、図2に示すように、当該混合部144は、下記のような構造を採ることが好適である。
【0044】
1)混合を安定にするために気体及び液体の各流体の方向が混合部で90度未満の角度を有すること。
2)液体流体の配管径又は配管に装着されたオリフィスが混合部で気体流体の流路の断面積に比較して十分小さいこと。
3)混合部にヒーターを組み込むことによって、混合部の内壁温度を以下の条件に適合するよう制御する。より内壁の温度が、混合部内の圧力下においてその液体の飽和温度から大きく外れないこと(±20%以内)。また、より内壁の温度が、混合部内の圧力下においてその気体の飽和温度から大きく外れないこと(±20%以内)。尚、時間経過により、混合部の内壁は流体の飽和温度に近づいてくるので、混相流の状態が安定するまでの時間が気にならない用途には、混合部の保温が十分に施されていることを条件下で、このヒーターによる加熱機能を外すことができる。
【0045】
液滴と気体を混合した混相流体により対象物を処理する装置では、当該装置を起動した時点では、流体混合部は常温である。そして、当該部分と水蒸気の温度差がある場合には、当該液体混合装置の内部に温度のムラができ、これにより、一部の蒸気が水滴に相変化する等で混相流体の吐出圧力が不安定になり、処理対象物表面上に一定の衝撃波を安定して与えることが困難となるため、装置が安定して動作するまでに時間がかかる。即ち、混相流体調整部にヒーターを設置すると、流体混合部を、起動当初から、水蒸気の温度と同じ温度に設定することができ、混合部内での気液相変化を起こりにくくして装置が、対象処理面に対して、安定した衝撃波を与えることが出来るようになる。
【0046】
キャビテーション制御の原理(気泡崩壊関連パラメータ)
本最良形態に係る洗浄装置は、気体圧力、混相流体内の水混合流量、気体温度、混合される水の温度、ノズル形状、ノズル出口から対象物への距離、対象物の温度、ノズルと対象物間の相対的移動時間を調整することにより、液滴の温度、液滴の流速、液滴の大きさ、液滴の数、処理対象物表面の温度、単位時間当たりの混相流体照射面積を制御する機能を有する。これら気泡崩壊関連パラメータのうち、特に液滴の流速、温度、液滴密度が重要である。これらのパラメータを制御することにより、処理対象物表面上で、液滴によるジェットや気泡崩壊による衝撃波、前記衝撃波による連鎖反応の衝撃力を得ることができ、洗浄等において効果的な処理を行うことが出来る。流速は液滴が衝突時の液滴内の気泡の崩壊による衝撃波の発生に寄与し、温度は液滴内の気泡の発生に寄与する。また液滴密度が多いほど衝撃波の起きる確率が高まる。例えば、液滴の数が零であれば、液滴の衝突による衝撃波は生じない。但し、液滴の数が密になり過ぎても、混相流体の速度低下や温度低下をもたらして衝撃波発生確率が低下してしまう可能性がある。ここで、液滴密度とは、混相流体内の単位体積・時間当たりの総ての液滴数を示すが、高速で移動するμオーダーの微小液滴を正確に測定する測定器は未だ開発されていないため、混相流体に導入された純水量で代用するものとする。
【0047】
キャビテーション測定手段
本発明に係るシステムは、ある条件で混相流を対象物又は測定用サンプルに照射した上で、当該条件でどの程度のキャビテーションが発生しているかを測定するための測定手段を備えている。ここで、現在の技術では、キャビテーション(衝撃波)の大きさ(キャビテーションのマグニチュード)と密度(単位面積・時間当たりの発生数)をモニターしながら剥離・洗浄プロセスを行うことは不可能である。したがって、本システムでは、あらかじめの実験でキャビテーションの発生に関与するパラメータを変化させて、プロセス処理を行い、その結果得られた以下のデータからキャビテーションの大きさを判断する手法を採用している。
【0048】
(1)対象物又は測定用サンプルの物理的変化を定量的に測定する物理的変化測定手段
・金属表面に混相流体を照射したときの、金属表面の凸凹度
・レジスト表面に照射したときのレジスト剥離面積及び残渣の少なさ
・ウェハ全面に付着させた異物の除去率
(2)キャビテーションノイズの大きさを感知可能な音響的測定手段
・音響センサーで感知したキャビテーションノイズの大きさ
(3)対象物又は測定サンプルの視覚的変化を定量的に測定する視覚的変化測定手段
・高速度カメラで撮影したレジスト剥離過程の映像データ
【0049】
例えば、混相流体温度とそれが照射された金属表面の凸凹度とのデータは図9のように確認されている。また、レジスト剥離性能と、各パラメータとの相関関係は、過去3年間で積み上げた多くのデータにより確認されている。その1例として図8のデータがある。例えば、混相流体のノズルからの噴出圧力を上げれば、レジスト剥離面積は広がりまた残渣も少なくなる。但し、噴出圧力を上げ過ぎると対象物への物理ダメージが懸念され、本装置の特徴である低圧でのプロセスという優位性を損なってしまう。したがって、本装置ではノズルからの最大噴出圧力を0.3MPaとしている。これは、特別な耐高圧部品を使用しなくてもよいという結果も生みだし、容易に安価で安全な装置の製造が可能になる。ノズルの種類、ノズルと対象物間の距離を一定にしたときは、図21、図22、図23のような結果になる。ただし、前述のように、高速で衝突する液滴によって生じる衝撃波の大きさを表す特定の単位はなく単位なしの相対値として表現される。
【0050】
尚、従来技術(例えば特許文献1)においても、超高速ノズルを使用する点以外は、装置的には本最良形態と大きくは相違しない構成を採る。しかしながら、従来技術においては、対象物の処理に際し「衝撃波」という物理力には全く着目しておらず、したがって、対象物上で衝撃波を発生させる・発生させないといったコントロールが全く行われていなかった。そして、従来技術における条件下では、「キャビテーション」は、専ら先端が先細りテーパー状となったノズル内で発生し、当該発生した衝撃波は、極めて短命であり対象物に到達する前に消滅する。具体的には、ノズル内を流れる混相流体はノズル先端部に差し掛かると流速を上げる。そして、当該流速が上がったことに起因して減圧状態となる結果、液体がキャビテーション現象を起こして衝撃波が発生する。加藤洋治著、槇書店出版の「キャビテーション」によると、液体衝撃波管内の水素気泡の崩壊持続時間は2〜3μ秒である。流速400m/秒の流体の3μ秒間の移動時間はわずか1.2mmでありノズルノド部からノズル出口までの間で気泡崩壊現象は消滅してしまう。また、ノズル出口で気泡崩壊が発生したとしても、対象物距離を1.2mm以下に設定するのは機構的に困難である。他方、本発明においては、ノズルは混相流体を加速するか照射面積を広げる機能が中心である。そして、キャビテーションの発生に関連した気泡崩壊関連パラメータは、対象物上でのキャビテーションに着目している限りにおいては、基本的にどこで調整してもよく、例えば、ノズル手前の流体配管の任意の個所の流体混合部で行ってもよい。具体的には、図1のαで示す矢印の範囲内(蒸気発生器からノズル出口までの間)であればどこで制御してもよい。後ほど、主要な気泡崩壊関連パラメータを詳述する。
【0051】
アルミニウム腐食防止
本最良形態に係る対象物洗浄方法は、上記の衝撃力と共に、アルミニウム腐食防止効果を有する。ここでも、気体温度、混合される水の温度、ノズル形状、ノズル出口から対象物への距離、対象物の温度、ノズルと対象物間の相対的移動時間を調整することにより、腐食防止効果を制御することが可能である。これら関連パラメータのうち、特に、混相流体の対象物到達時の温度と、混相流体の対象物到達時のpHが重要である。これらのパラメータを制御することにより、アルミニウム表面上に、腐食防止効果を奏する特殊な保護膜を形成させることができる。以下、主要な気泡崩壊関連パラメータと共に、アルミニウム腐食防止に関連するパラメータについて詳述する。
【0052】
(イ)流体の温度
当該衝撃波は、液滴が処理対象物表面に衝突した際に生じるキャビテーションとキャビテーションの崩壊により発生するものが主であると考えられる。キャビテーションは、水等の液体の一部に低圧部分が発生した際に生じる空洞であり、気体および液体の温度が高ければ高いほど発生しやすくなる傾向にある。即ち、液滴の温度が高ければ高いほど、水滴内での気泡が発生しやすくなり、それに伴い、処理対象物表面上では大きなエネルギーの衝撃波の基になる気泡崩壊が多く発生し、例えば、当該処理方法をレジスト膜の除去に用いる場合には、比較的強く接着しているレジスト膜や異物等を取り除くことができる。一方、混相流体や水滴の温度を低く設定すれば、それに伴い、処理対象物表面上では衝撃波の発生が抑えられ、比較的強度の弱い対象物の洗浄を行うことができる。但し、対象物の耐熱性による制限等で設定出来る温度の高さに制限が生じる。また、温度が高すぎる状態で対象物との距離が長くなると液滴内の気体成分が抜けてしまい気泡核が発生し難くなることが予想されるが、ノズル出口から対象物の距離が2〜30mmくらいの距離では無視できるものとする。尚、ノズル内に供給する水蒸気の温度は、50〜120℃が好適であり、80〜115℃がより好適であり、90〜110℃が更に好適である。また、前記水蒸気に対して混合する水の温度は0〜40℃が好適であり、10〜35℃がより好適であり、20〜30℃が更に好適である。
【0053】
ここで、特に、混相流体の対象物到達時の温度は、50℃以上が好適であり、80℃以上がより好適であり、90℃以上が更に好適である。尚、混相流体の温度の測定は、実施例記載の方法により行うものとする。当該範囲とすることにより、対象物表面上のアルミニウムに、腐食防止効果を奏する特殊な膜が形成される。
【0054】
(ロ)液滴の速度
液滴の速度は、高ければ高いほど処理対象物表面に液滴が衝突した際の衝撃が大きくなるため、内部圧力差が発生しやすくなり、結果として気泡崩壊が生じキャビテーションが発生しやすくなる。即ち、液滴の速度を高く設定すれば、それに伴い、処理対象物表面上では大きなエネルギーの衝撃波が発生し、例えば、当該処理方法をレジスト膜の除去に用いる場合には、比較的強く接着しているレジスト膜や異物等を取り除くことができる。一方、液滴の速度を低く設定すれば、それに伴い、処理対象物表面上では衝撃波の発生が抑えられ、比較的強度の弱い対象物の洗浄を行うことができる。また液滴の速度を高めることにより、混相流体はより空気に曝される時間が短くなるので、大気中の二酸化炭素を取り込みにくく、酸性に偏りにくくなるのでより好適に腐食防止効果が発揮される。液滴の速度は、100〜600m/sであり、より好適には200〜500m/sであり、更に好適には250〜350m/sである。当該範囲の流体速度とすることにより、キャビテーションによる衝撃力を得ることができる。尚、液滴の速度は、流体の速度とほぼ一致するものとして、[流量]/[ノズル断面積]とする。尚、ここで、流量は水蒸気流量(m3/s)であり、ノズル断面積は、ノズル出口の断面積(m2)とする。
【0055】
(ハ)その他パラメータ
まず、ノズルに関しては、先述のように超高速ノズルを用いる。このノズルを用いることにより流体の流速が変わり衝撃波の大きさも変わる。原則として、流速の大きなノズルを使うと衝撃波を得やすくなる。また、水蒸気と水滴を含む混相流体を超高速ノズルを用いて照射することにより、水蒸気の圧力と、水滴の速度及び径との関係で、特殊な挙動が観測される。水蒸気圧は、0.05〜0.25MPaであれば特に限定されないが、特に、水蒸気圧が0.15MPa以上の条件では、水蒸気と水滴の混相流体は、空気と水滴の混相流体と大きく異なる挙動を示す。次に、ノズル出口から対象物への距離に関しては、通常の適応値は2〜30mmの範囲(最適範囲2〜10mm)であり、5mm以下が好適であり、3mm以下がより好適であり、2mmがより好適である。ノズルの出口からウェハまでの距離を縮めていけば同様にレジスト剥離性能が向上するが、最適距離が存在し近づきすぎると剥離性能が低下する。逆に剥離性能・洗浄性能を抑えたい場合は最適距離から遠ざけていけばよい。また、ノズル出口から対象物への距離が近ければ近いほど、大気中の二酸化炭素を取り込みにくくなり、酸性に偏りにくくなる。
【0056】
その他、特に高い衝撃力を得ようとする場合、液滴が対象物に衝突する際に、周囲が水蒸気で覆われていることが重要である。ここで、水蒸気の流量は、水蒸気の質量流量で0.083〜1.0kg/minが好適であり、0.025〜0.75kg/minがより好適であり、0.33〜0.50kg/minが更に好適である。また、気液混合比(液/気)は、0.00018〜0.01が好適である。液滴径は、2〜25μmが好適である。液滴径は、大きくなれば表面積が小さくなるので、大気中の二酸化炭素を取り込む量が少なくなるため、酸性に偏りにくくなる。尚、液滴径はTSI社製の機器を用いて、PDA(Phase Doppler Anemometry:位相ドップラ法)により、特段記載がない場合には、ノズル出口から5mmの位置で測定するものとする。流体流量/噴出口断面積は、0.5〜32.0kgcm−2min−1が好適である。
【0057】
水が壁面に水膜を形成するようにするため、水を混相流体に混合する際には、例えば、水に対してかける圧力を、水蒸気の圧力により水が逆流しない程度とすることが好適である。水に対してかける圧力は、特に限定されないが、例えば、導入水蒸気圧力以上であって、水が噴射されない程度の圧力をかければ導入することができる。より具体的には、水導入の圧力は次式を満たしていることが望ましい。
(水蒸気の圧力+0.02MPa)<(水導入の圧力)<(水蒸気の圧力+1.0MPa)
水導入の圧力が低すぎると、水は脈流で導入され、流体の特性が不安定になる。また、圧力が高すぎると、ノズル直径方向の中心部まで水が飛散するようになり、一様な水膜の形成が困難になるとともに、蒸気の加速も阻害される。また、噴射方向に加圧しないことが、壁面で水膜を形成するという観点から好適であり、水蒸気の進行方向に対して垂直方向から供給することが更に好適である。
【0058】
混相流体の対象物到達時のpHは、7.0〜9.0が好適であり、7.0〜8.0がより好適であり、7.0〜7.5が更に好適である。当該範囲のpHとすることにより、対象物表面上のアルミニウムに特殊な膜が形成されるため、アルミニウムの腐食防止効果が得られる。尚、pH測定方法は、実施例記載の方法によるものとする。
【実施例】
【0059】
混相流体の対象物到達時の温度の測定方法
図31は、混相流体の対象物到達時の温度測定を行う装置の概略図である。直径6インチ、厚さ0.625mmのシリコンウェハWの上にテープTAで熱電対TH(アルメル−クロメル熱電対 JIS C1602)を貼り付けて、ノズル141の流体噴射出口と対象物の距離や、水蒸気圧力や、純水流量等の諸条件を対象物処理時と同じ値に設定し1分間熱電対に対して照射を行い、定常状態になった際の温度を混相流体の対象物到達時の温度とする。
【0060】
混相流体の対象物到達時のpHの測定方法
図32は、混相流体の対象物到達時のpHの測定を行う装置の概略図である。ノズル141の噴出口を、配管Pを介して冷却管C(例えば、グラハムタイプの陀管冷却管)に接続し、凝集した水を容器Rに回収し、当該水のpHをJIS Z 8802の方法により測定した。尚、前記の凝集作業は空気に触れないようにして行う。
【0061】
例1
以下の条件下、アルミ表面に混相流体(気体として蒸気を用いた場合と空気を用いた場合)を10分照射した。処理の前後におけるAFM写真を図3に示した。図5に表面粗さのデータを示した。尚、本例において表面粗さは、AFM付属のプロファイル分析の方法で測定した。
蒸気の圧力:0.2MPa
蒸気の温度:130℃
純水の流量:300cc/min
純水の温度:20℃
GAP:5mm
ノズルスキャン:固定
【0062】
例2
例1と同条件の下で、鋼表面に混相流体(気体として蒸気を用いた場合と空気を用いた場合)を10分照射した。処理の前後におけるAFM写真を図4に示した。図6に表面粗さのデータを示した。
【0063】
例3
特許文献1に示された蒸気洗浄技術は、蒸気の化学反応と噴流の機械的作用によりレジストを剥離するものであるため、レジストの剥離には分オーダの時間を必要とする。本手法も同様のメカニズムなのかを確認するため、高速度ビデオによる可視化を行った。ノズルスキャン速度が100mm/secであること以外は例1と同条件で、混相流体を照射し、石英ウェハの下部より観察した、i線ポジレジストが剥離する際の経時変化の様子を図7に示す。図に示されるように、レジストは、剥離した領域が徐々に広がりながら非常に高速に剥離した。
【0064】
例4
ノズルスキャン速度を40mm/secとした点以外は例1と同条件で、高濃度イオン注入後のシリコンウェハに対して混相流体を照射し、i線ポジレジスト剥離の経時変化の様子を観察した。結果を図8に示した。
【0065】
例5〜8
以下の条件下、混相流体の気体及び温度を変化させて、アルミニウム表面に対して混相流体を10分照射した。処理の前後におけるAFM写真を図9に示した。図10に表面粗さのデータを示した。尚、照射前の処理対象のアルミニウムの表面は、Raが34.9nmであった。
気体圧力:0.2MPa
液体流量:300cc/min
Gap:10mm
【0066】
低温空気(20℃)と低温純水液滴(20℃)からなる混相流体を照射した結果、Raが30.5nmの表面を得ることが出来た。表面のAFM写真を図9(a)に、表面粗さのデータを図10(a)に示した(例5)。次に、高温空気(130℃)と低温純水液滴(20℃)からなる混相流体を照射した結果、Raが96.4nmの表面が得られた。表面のAFM写真を図9(b)に、表面粗さのデータを図10(b)に示した(例6)。次に、高温空気(130℃)と高温純水液滴(60℃)からなる混相流体を照射した結果、Raが86.3nmの表面が得られた。表面のAFM写真を図9(c)に、表面粗さのデータを図10(c)に示した(例7)。(c)の表面粗さは若干(b)よりも小さくなっているが、荒れている部分の密度は(b)よりも大きいので(c)は(b)よりも衝撃波の影響が多くみられる。次に、水蒸気と低温純水液滴(20℃)からなる混相流体を照射した結果、Raが257nmの表面が得られた。表面のAFM写真を図9(d)に、表面粗さのデータを図10(d)に示した(例8)。以上の結果から、温度が上昇するにつれて衝撃波は大きくなり、特に、気体に水蒸気を用いた場合、処理対象表面に対して最も大きい衝撃波を与えることが明らかになった。
【0067】
例9〜10
Raが348.8nmのAlアルマイト表面に対して、例5〜8と同条件で、混相流体の気体及び温度を変化させて照射した。20℃の空気と20℃の純水液滴からなる混相流体を照射した結果、Raが380nmの表面を得ることが出来た。表面のAFM写真を図11(a)に、表面粗さのデータを図11(c)に示した(例9)。次に、130℃水蒸気と20℃の純水液滴からなる混相流体を照射した結果、Raが440nmの表面が得られた。表面のAFM写真を図11(b)に、表面粗さのデータを図11(d)に示した(例10)。
【0068】
例11
Raが8.1nmのSUS表面に対して、例5〜8と同条件で、混相流体の気体及び温度を変化させて照射した。130℃の水蒸気と20℃の純水液滴からなる混相流体を照射した結果、Raが19.9nmの表面が得られた。表面のAFM写真を図12(a)に、表面粗さのデータを図12(b)に示した(例11)。
【0069】
例12
Raが75.5nmのチタン表面に対して、例5〜8と同条件で、混相流体の気体及び温度を変化させて照射した。130℃の水蒸気と20℃の純水液滴からなる混相流体を照射した結果、Raが98nmの表面を得ることが出来た。表面のAFM写真を図13(a)に、表面粗さのデータを図13(b)に示した(例12)。チタンでは、目視にて干渉縞が見られた。表面に酸化皮膜形成された可能性もある。
【0070】
例13
Raが1.9nmのシリコン表面に対して、例5〜8と同条件で、混相流体の気体及び温度を変化させて照射した。130℃の水蒸気と20℃の純水液滴からなる混相流体を照射した結果、Raが7.6nmの表面を得ることが出来た。表面のAFM写真を図14(a)に、表面粗さのデータを図14(b)に示した(例13)。
【0071】
例14〜25
例14〜25では、レジスト塗布条件による剥離の様子に差があるか否かを検討した。HMDSの有無、Bake温度を90℃、110℃と変化させて、当該条件変化の影響を観察した。処理後の表面プロファイルは、下地処理HMDSに依存しないと考えられる結果が得られた。実験は以下の条件で行った。
使用サンプル:I線レジスト
照射時間:目視で剥離が観察されるまで
気体圧力:0.2MPa
液体流量:300cc/min
ノズルスキャン:固定
Gap:10mm
【0072】
HMDS無し、Bake90℃の条件でレジスト膜を塗布し、当該サンプルを上記の条件にて照射した後に、処理剥離境界面を顕微鏡にて観察した様子を図15(a)〜(c)、AFMで観察した様子を図15(d)〜(f)に示した。図15(a)は、20℃の空気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図15(d)は、対応するAFM写真である(例14)。図15(b)は、130℃の空気と90℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図15(e)は、対応するAFM写真である(例15)。図15(c)は、130℃の水蒸気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図15(f)は、対応するAFM写真である(例16)。
【0073】
HMDS無し、Bake110℃の条件でレジスト膜を塗布し、当該サンプルを上記の条件にて照射した後に、処理剥離境界面を顕微鏡にて観察した様子を図16(a)〜(c)、AFMで観察した様子を図16(d)〜(f)に示した。図16(a)は、20℃の空気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図16(d)は、対応するAFM写真である(例17)。図16(b)は、130℃の空気と90℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図16(e)は、対応するAFM写真である(例18)。図16(c)は、130℃の水蒸気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図16(f)は、対応するAFM写真である(例19)。
【0074】
HMDS有り、Bake90℃の条件でレジスト膜を塗布し、当該サンプルを上記の条件にて照射した後に、処理剥離境界面を顕微鏡にて観察した様子を図17(a)〜(c)、AFMで観察した様子を図17(d)〜(f)に示した。図17(a)は、20℃の空気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図17(d)は、対応するAFM写真である(例20)。図17(b)は、130℃の空気と90℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図17(e)は、対応するAFM写真である(例21)。図17(c)は、130℃の水蒸気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図17(f)は、対応するAFM写真である(例22)。
【0075】
HMDS有り、Bake110℃の条件でレジスト膜を塗布し、当該サンプルを上記の条件にて照射した後に、処理剥離境界面を顕微鏡にて観察した様子を図18(a)〜(c)、AFMで観察した様子を図18(d)〜(f)に示した。図18(a)は、20℃の空気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図18(d)は、対応するAFM写真である(例23)。図18(b)は、130℃の空気と90℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図18(e)は、対応するAFM写真である(例24)。図18(c)は、130℃の水蒸気と20℃の純水からなる混相流体を照射後、表面を顕微鏡にて観察した様子であり、図18(f)は、対応するAFM写真である(例25)。
【0076】
例26
液滴径及び流速の関係を図19に示した。水蒸気圧力を一定(0.2MPa)として、様々な純水流量で、液滴の流速、液滴径を測定した。結果を図19に示した。PDAで計測した液滴速度v・径dの関係を示す。vとdは共に正規分布に近く、その平均はそれぞれ、280m/sと10μm程度であった。
【0077】
例27
図20に純水の流量q=100mL/minの場合のvとdに関して、蒸気圧力pおよびノズルとの距離hをパラメータとした際の結果を示す。また比較のため、空気と液滴の混合噴流の結果も点線にて示す。図より対象としている液滴速度は200〜300m/s程度、液滴径は10μm程度であることがわかる。
【0078】
例28(気体圧力と液滴速度の関係)
水蒸気と水の混相流体と、空気と水の混相流体とを、水の流量を200cc/minとして、気体の圧力を0.05、0.1、0.2MPaと変化させてソニックノズルを用いて噴射し、LDA(Laser Doppler Anemometry:レーザドップラ流速計)にてその液滴の速度を噴出口から5、10mmの位置で測定した(図33)。尚、LDAの計測は、TSI社製のLDAにより行い、10000個の液滴のデータが取得できたら計測を終わりとし、各条件で3回測定した。水蒸気と水の混相流体を用いた場合には、5mmの位置よりも、10mmの位置の方が液滴の速度が高いことが観測された。また、空気と水の混相流体の場合、空気の圧力を高めれば高めるほど、液滴の速度が高くなる傾向がみられた。一方、水蒸気と水の場合、原因は不明であるが、水蒸気の圧力を高めれば、所定値までは液滴の速度が高くなることが観測されたが、0.2MPaでは、測定値によれば液滴速度が低くなった。しかし、これはエラーではないかと推測される。他の条件において、計測は10秒かからない程度であったが、水蒸気と水の混相流体で水蒸気圧0.2MPaの条件でのみ、計測に数分要した。従って、当該条件においてはほとんどノイズが観測されたものと推測できる。
【0079】
例29(気体圧力と液滴径の関係)
水蒸気と水の混相流体と、空気と水の混相流体とを、水の流量を200cc/minとして、気体の圧力を0.05、0.1、0.2MPaと変化させてソニックノズルを用いて噴射し、PDAにてその液滴の径を噴出口から5、10mmの位置で測定した(図34)。尚、PDAの計測は、10000個の液滴のデータが取得できたら計測を終わりとし、各条件で3回測定した。空気と水の混相流体の場合、空気の圧力を変化させても、液滴の速度はほとんど変化しなかった。一方、水蒸気と水の場合、原因は不明であるが、水蒸気の圧力を高めれば、所定値までは液滴の径の変化はほとんど見られないが、0.2MPaにおいては、液滴の径が急激に小さくなるという現象が観測された。しかし、これはエラーではないかと推測される。他の条件において、計測は10秒かからない程度であったが、水蒸気と水の混相流体で水蒸気圧0.2MPaの条件でのみ、計測に数分要した。従って、当該条件においてはほとんどノイズが観測されたものと推測できる。
【0080】
例30(ノズル内の圧力波)
水蒸気圧0.1、0.2MPaの条件下で、純水流量を100cc/minとして、水蒸気と水の混相流体を石英ノズルを用いて噴射した。すると石英ノズルの先端に圧力波が観測された。その様子を図35に示した。尚、図35(a)は0,1MPaの条件での噴射の様子であり、図35(b)は0.2MPaの条件での噴射の様子である。また比較のため、気体圧力0.1、0.2MPaの条件下で、純水流量を100cc/minとして、空気と水の混相流体を石英ノズルを用いて照射した。しかし、石英ノズル先端には圧力波は観測されなかった。この様子を図36に示した。尚、図36(a)は0.1MPaの条件での噴射の様子であり、図36(b)は0.2MPaの条件での噴射の様子である。
【0081】
実施例1〜36
最良形態に係るソニックノズル(図30)を有する洗浄装置を用いて、以下の条件の下で、対象物に水蒸気と水の混相流体を噴射して、その洗浄効果、物理破壊及び配線の耐腐食性を評価した(表1,2)。尚、対象物として、i線ネガレジスト(東京応化THMRip3300)を1μmの厚さで塗布し、90℃で120minベイクした後、365nmで20秒露光し、室温でTMAH([N(CH3)4]+OH―)により現像した、アルミニウム配線を有するシリコンウェハを使用した。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
比較例
比較例1は流体温度が低すぎる場合である。流体温度が低すぎるとポリマーは除去されるが、10日後には配線が腐食された。
比較例2,比較例3は液滴速度が遅すぎる場合と速すぎる場合である。遅すぎるとポリマーが残存し、速過ぎると配線の物理的破壊がみられた。
比較例4,比較例5はpHが低すぎる場合と高すぎる場合である。pHが低すぎると保護膜が生成せず、10日後に配線の腐食がみられた。pHが高すぎるとpHが高いことによる配線の腐食が発生した。
【0085】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、強度の大きい材料から強度の小さい材料まで、極めて広範囲な対象物に亘り様々な加工についてその適用が可能である。例えば、半導体デバイス、液晶、磁気ヘッド、ディスク、プリント基板、カメラ等のレンズ、精密機械加工部品、モールド樹脂製品等についての不用物除去・洗浄・磨き等の処理や、シリコンプロセス技術を用いたマイクロ構造体、モールド加工等の分野におけるバリ取り処理等にも、本発明を活用することができる。更に、本発明はとりわけ化学薬品を嫌う材料の処理には好適である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、本最良形態に係る処理装置の全体の構成を示した図である。
【図2】図2は、本最良形態に係る処理装置の温度制御機構付混相流体気液混合部の概略図である。
【図3】図3は、例1における、アルミ表面に混相流体を照射10分後の表面観察AFM写真を示した図である。
【図4】図4は、例2における、鋼表面に混相流体を照射10分後の表面観察AFM写真を示した図である。
【図5】図5は、例1における、アルミ表面に混相流体を照射10分後の表面粗さのデータを示した図である。
【図6】図6は、例2における、鋼表面に混相流体を照射10分後の表面粗さデータを示した図である。
【図7】図7は、例3における、透明ウェハに塗布したレジストに混相流体を照射しながら、裏面からレジスト剥離過程を高速度カメラにて観測した結果を示した図である。
【図8】図8は、例4における、高濃度イオン注入後の混相流体照射によるレジスト剥離データを示した図である。
【図9】図9は、例5〜8の結果を示した図である。
【図10】図10は、例5〜8の結果を示した図である。
【図11】図11は、例9〜10の結果を示した図である。
【図12】図12は、例11の結果を示した図である。
【図13】図13は、例12の結果を示した図である。
【図14】図14は、例13の結果を示した図である。
【図15】図15は、例14〜16の結果を示した図である。
【図16】図16は、例17〜19の結果を示した図である。
【図17】図17は、例20〜22の結果を示した図である。
【図18】図18は、例23〜25の結果を示した図である。
【図19】図19は、例26の結果を示した図である。
【図20】図20は、例27の結果を示した図である。
【図21】図21は、混相流体の熱エネルギーの違いによる、衝撃波の大きさの変化を示した図である。
【図22】図22は、混相流体の速度の違いによる、衝撃波の大きさの変化を示した図である。
【図23】図23は、混相流体の密度の違いによる、衝撃波の大きさの変化を示した図である。
【図24】図24は、超音波によるキャビテーション発生のメカニズムを示した図である。
【図25】図25は、液滴衝突時に発生するキャビテーションのメカニズムを示した図である。
【図26】図26は、液滴衝突時に発生するキャビテーションのメカニズムを示した図である。
【図27】図27は、液滴衝突時に発生するキャビテーションのメカニズムを示した図である。
【図28】図28は、液滴衝突時に発生するキャビテーションのメカニズムを示した図である。
【図29】図29は、液滴衝突時に発生するキャビテーションのメカニズムを示した図である。
【図30】図30は、ソニックノズル及び混合部の構造を示した図である。
【図31】図31は、混相流体温度の測定装置の概略図である。
【図32】図32は、混相流体のpHの測定装置の概略図である。
【図33】図33は、気体圧力と水滴速度の関係を示した図である。
【図34】図34は、気体圧力と水滴径の関係を示した図である。
【図35】図35は、石英ノズル内で発生する圧力波の様子を示した図である。
【図36】図36は、石英ノズル内で圧力波が発生していない様子を示した図である。
【符号の説明】
【0088】
100:対象物処理装置
111:水供給管
112:蒸気発生器
113:水蒸気開閉バルブ
114:圧力計
115:水蒸気圧力調整バルブ
116:温度制御機構付き加熱蒸気生成器兼飽和蒸気湿り度調整器
117:圧力開放バルブ
121:水供給管
122:純水温度制御機構付加熱部
123:純水開閉バルブ
124:純水流量計
125:2流体生成用純水開閉バルブ
131:水蒸気流体温度制御機構付加熱部
141:照射ノズル
142:フレキシブル配管
143:圧力計
144:温度制御機能付混相流体気液混合部
145:オリフィス
151:搭載・保持可能なステージ
152:回転モーター
153:ウェハ上下駆動機構
154:冷却水管
155:冷却水開閉バルブ
156:冷却水流量調整バルブ
157:冷却水流量計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気と水とを混合部にて混合することにより生成する、連続相の水蒸気と分散相の水滴とを含む混相流体をノズルを介して照射する工程を含む、対象物を洗浄する方法において、
前記混合部が前記ノズルの上流側に設置されており、内壁面の一部が開口した水導入部を有し、
前記ノズルが、超高速ノズルであり、
前記混合部の内壁面とノズルの内壁面が略連続的な曲面を形成し、
前記混合部内を流動する前記水蒸気に対して前記混合部の内壁面から水を混合して、前記混合部の内壁面から前記ノズルの内壁面に水をつたわせて、前記ノズルの出口から前記混相流体を噴射することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ノズルが、ノズル上流側からノズル出口へと向かうに従って縮径し、更に、最小断面積となるのど部を境に、拡径する末広構造を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記混合部が、筒状である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記水滴の速度を100〜600m/sの範囲とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記混相流体の対象物到達時の温度が50℃以上であり、前記混相流体の対象物到達時のpHが7〜9の範囲である、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
更に、前記混相流体噴射出口と対象物の距離が、30mm以下である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記対象物が、アルミニウム配線等のアルミニウム素材を表面に有する半導体基板である、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
水蒸気を供給する水蒸気供給手段と、液体の水を供給する水供給手段と、混相流体を照射するノズルと、を有する、水蒸気と水滴とを含む混相流体をノズルを介して照射することにより対象物を洗浄するシステムにおいて、
前記混合部が前記ノズルの上流に設置されており、流動する前記水蒸気に対して内壁面から水を混合可能である、内壁面の一部が開口した水導入部を有し、
前記ノズルが、超高速ノズルであり、
前記混合部の内壁面とノズルの内壁面が略連続的な曲面を形成していることを特徴とするシステム。
【請求項9】
前記ノズルが、ノズル上流側からノズル出口へと向かうに従って縮径し、更に、最小断面積となるのど部を境に、拡径する末広構造を有する、請求項8記載のシステム。
【請求項10】
前記混合部が、筒状である、請求項8又は9記載のシステム。
【請求項1】
水蒸気と水とを混合部にて混合することにより生成する、連続相の水蒸気と分散相の水滴とを含む混相流体をノズルを介して照射する工程を含む、対象物を洗浄する方法において、
前記混合部が前記ノズルの上流側に設置されており、内壁面の一部が開口した水導入部を有し、
前記ノズルが、超高速ノズルであり、
前記混合部の内壁面とノズルの内壁面が略連続的な曲面を形成し、
前記混合部内を流動する前記水蒸気に対して前記混合部の内壁面から水を混合して、前記混合部の内壁面から前記ノズルの内壁面に水をつたわせて、前記ノズルの出口から前記混相流体を噴射することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ノズルが、ノズル上流側からノズル出口へと向かうに従って縮径し、更に、最小断面積となるのど部を境に、拡径する末広構造を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記混合部が、筒状である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記水滴の速度を100〜600m/sの範囲とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記混相流体の対象物到達時の温度が50℃以上であり、前記混相流体の対象物到達時のpHが7〜9の範囲である、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
更に、前記混相流体噴射出口と対象物の距離が、30mm以下である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記対象物が、アルミニウム配線等のアルミニウム素材を表面に有する半導体基板である、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
水蒸気を供給する水蒸気供給手段と、液体の水を供給する水供給手段と、混相流体を照射するノズルと、を有する、水蒸気と水滴とを含む混相流体をノズルを介して照射することにより対象物を洗浄するシステムにおいて、
前記混合部が前記ノズルの上流に設置されており、流動する前記水蒸気に対して内壁面から水を混合可能である、内壁面の一部が開口した水導入部を有し、
前記ノズルが、超高速ノズルであり、
前記混合部の内壁面とノズルの内壁面が略連続的な曲面を形成していることを特徴とするシステム。
【請求項9】
前記ノズルが、ノズル上流側からノズル出口へと向かうに従って縮径し、更に、最小断面積となるのど部を境に、拡径する末広構造を有する、請求項8記載のシステム。
【請求項10】
前記混合部が、筒状である、請求項8又は9記載のシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【公開番号】特開2010−141251(P2010−141251A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318464(P2008−318464)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【特許番号】特許第4413266号(P4413266)
【特許公報発行日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(503187073)アクアサイエンス株式会社 (13)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【特許番号】特許第4413266号(P4413266)
【特許公報発行日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(503187073)アクアサイエンス株式会社 (13)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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