説明

窒化ガリウム単結晶基板

【課題】高輝度発光素子等の高電力印加素子用基板として、素子内部に蓄積される熱を減らし素子の寿命を増加させることができる高熱伝導の窒化ガリウム単結晶基板の製造方法を提供する。
【解決手段】ハイドライド気相成長法により、ファイア基板上に窒化ガリウム単結晶膜を成長させる際に、ケイ素(Si)、酸素(O2)、ゲルマニウム(Ge)および炭素(C)で成される群から選択された一つ以上の物質をドーピングし、n−ドーピング濃度を0.7×1018ないし3×1018/cm3とすることにより、常温(300K)で少なくとも1.5W/cmKの均一かつ優れた熱伝導度を有する窒化ガリウム単結晶膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム単結晶基板に関し、より詳細には、優れていながらも均一な熱伝導度を有することで、発光素子の製造時に有用である窒化ガリウム単結晶基板に関する。
【0002】
発光素子(LED、light emitting diode)の輝度は、内部量子効率および光抽出効率の増加、印加電力の増加などによって向上することができるが、印加電力の増加と同時に素子の全体的な光変換効率が大きく向上しない場合には、蓄積される熱によって素子内部の温度が上昇するようになり、物質および構造によって差はあるが、一定水準以上の温度になると、劣化(degradation)ないしは熱破損(thermal breakdown)を介して素子性能の低下が起こるようになる。
【0003】
このような側面から、素子内部の温度上昇を抑制するための熱放出設計が素子の信頼性向上の側面において次第に重要になっており、熱伝導度が優れた基板を適用して素子の熱放出特性を高めるために、最適のパッケージ(PKG)材料選定および構造設計などに対して重点的な研究が進行されている。発光素子構造において、発光層(emitting layer)から発生した熱を効果的に放出するための素子部位別の熱伝導度の関係を図1に現した。図1から、効率的な熱放出のためには、基板からパッケージと関連した下部構造に下がっていくほど熱伝導度が増加しなければならないことを知ることができる。これは、ある一部分の熱伝導度が低くなって熱の流れが円滑に遂行されなくなると、素子内部に熱が蓄積される可能性があることを意味する。
【0004】
このように、高電力駆動素子において熱伝導度が高い基板が絶対的に要求されることを考慮する時、c−軸方向に0.35W/cmKおよびa−軸方向に0.32W/cmK程度の熱伝導度を有するサファイア単結晶基板に比べて単一成長(homo−epitaxy)が可能であり、相対的に熱伝導度が優れている窒化ガリウム(GaN)単結晶基板を適用することが有利である。
【0005】
窒化ガリウム単結晶基板は、理論的には常温で3.36ないし5.40W/cmK水準の熱伝導度を有するものと予想されるが、現在まで報告された窒化ガリウムテンプレート(template)および窒化ガリウム自立基板(freestanding substrate)の熱伝導度は、常温で約1.3ないし2.2W/cmKの値を示し、転位密度(dislocation density)、n−ドーピング(doping)濃度および成長法などによって大きく変わる(文献[(1)E.K.Sichel et al.,J.Phys.Chem.Solids,38,330(1977);(2)J.Zou et al.,J.Appl.Phys.,92(5),p.2534(2002);(3)D.I.Florescu et al.,J.Appl.Phys.,88(6),p.3295(2000);(4)A.Jezowski et al.,Solid State Communications,128,p.69(2003);(5)C.Y.Luo et al.,Appl.Phys.Lett.,75(26),p.4151(1999);(6)D.I.Florescu et al.,Appl.Phys.Lett.,77(10),p.1464(2000);(7)V.M.Asnin et al.,Appl.Phys.Lett.,75(9),p.1240(1999);および(8)D.Kotchetkov et al.,Appl.Phys.Lett.,79(26),p.4316(2001)])。
【0006】
特に、窒化ガリウム単結晶基板の熱伝導度は、ドーピング濃度に大きく依存するが、前記文献中の文献(2)は、ドーピング濃度が1017から1018/cm3に10倍増加する場合、熱伝導度が常温(300K)基準1.77W/cmKから半分の水準である0.86W/cmKに減少することを示している。また、文献(3)は、ドーピング濃度が7×1016から1018/cm3に増加する場合、熱伝導度が常温(300K)基準1.95W/cmKから1.38W/cmKに減少することを開示している。このように、窒化ガリウム単結晶基板の熱伝導度がドーピング濃度増加によって減少するにもかかわらず、窒化ガリウム基板を適用した発光素子の場合、図2に現わしたようにn−電極が窒化ガリウム基板の下側にオーム接触(ohmic contact)される垂直型の素子で製作されるため、窒化ガリウム基板全体的に一定濃度以上のn−ドーピング特性が要求される。すなわち、人為的にドーピングしない場合、1016ないし1017/cm3程度のn−ドーピング濃度を有する窒化ガリウム基板が得られるが、このような水準のドーピング濃度を有する基板を垂直型発光素子に適用すると、発光層に注入されるn−キャリア(carrier)の不足によって電流密度に比べて発光性能が減少するという問題が発生するため、実際、素子に適用可能でありながらも熱伝導度の低下を最小化させることができる水準のn−ドーピング濃度の設定が要求される。
【0007】
ドーピング濃度以外にも、転位密度が窒化ガリウム単結晶基板の熱伝導度に影響を与える因子であることが詳記された文献(2)、(6)および(8)などを介して報告されているが、これらの相関関係を具体的に糾明した実験結果などは今まで報告されたことがない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、優れていながらも均一な熱伝導度を有することで、半導体素子、特に1W以上の印加電力を要求する高輝度発光素子の製造時に有用な窒化ガリウム単結晶基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明においては、0.7×1018ないし3×1018/cm3のn−ドーピング濃度および常温(300K)で少なくとも1.5W/cmKの熱伝導度を有する窒化ガリウム単結晶基板を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明による窒化ガリウム単結晶基板は、常温(300K)で少なくとも1.5W/cmKの熱伝導度を均一に現わし、半導体素子、特に1W以上の印加電力を要求する高輝度発光素子の製造時に有用であり、高電力印加時でも素子内部に蓄積される熱を減らすことで素子の寿命を著しく増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に対してより詳しく説明する。
【0012】
本発明による窒化ガリウム単結晶基板は、発光素子の製作が可能な水準で最小化されたn−ドーピング濃度を有しながら転位密度または特定範囲を満たすことで、常温(300K)で少なくとも1.5W/cmK以上、好ましくは少なくとも1.7W/cmK以上の極大化された熱伝導度を有することができる。
【0013】
本発明において、製造しようとする窒化ガリウム単結晶基板のn−ドーピング濃度は、0.7×1018ないし3×1018/cm3、好ましくは1×1018ないし2×1018/cm3範囲で調節される。基板のn−ドーピング濃度が0.7×1018/cm3より低ければ発光素子への適用時に発光量が減少し過ぎるし、3×1018/cm3より高ければ相対的に熱伝導度が低下して発光素子への適用時に素子の劣化を起こすようになる。
【0014】
前記ドーピングは、ケイ素(Si)、酸素(O2)、ゲルマニウム(Ge)および炭素(C)で成される群から選択された一つ以上の物質を窒化ガリウム単結晶膜の成長時に混入させることで達成される。
【0015】
また、本発明において、製造しようとする窒化ガリウム単結晶基板は、前記したn−ドーピング濃度範囲において7×106/cm2以下の転位密度を有するように調節される。このような転位密度範囲は、n−ドーピング濃度と連係して実験的に決定されたものであって、基板の転位密度が7×106/cm2を超過する場合でも、相対的に熱伝導度が低下して発光素子への適用時に素子の劣化を起こすようになる。
【0016】
本発明による窒化ガリウム単結晶基板は、通常のハイドライド気相成長法(HVPE)を用いて製造することができる。具体的には、HVPEを用いて900ないし1100℃で加熱されたサファイア単結晶基材上に窒化ガリウム単結晶膜を10ないし100μm/hrの速度で成長させることで窒化ガリウムテンプレートを得ることができ、成長した窒化ガリウム単結晶膜を追加で前記基材と分離して片面または両面を研磨処理することで窒化ガリウム自立基板を得ることができる。
【0017】
本発明の方法においては、ハイドライド気相成長反応槽内にガリウム元素を位置させ、温度を600ないし900℃で維持しながらここに塩化水素(HCl)気体を流して塩化ガリウム(GaCl)気体を生成し、更に異なる注入口を介してアンモニア(NH3)気体を供給することで、塩化ガリウム気体とアンモニア気体との反応を介して目的とする窒化ガリウムを生成する。この時、塩化水素気体およびアンモニア気体は1:2〜6、好ましくは1:3〜4の体積比で供給することができる。前記塩化水素とアンモニア気体の体積比および成長する窒化ガリウム膜の厚さを適切に調節し、本発明において目的とする転位密度を達成することができる。
【0018】
本発明による窒化ガリウム単結晶基板は、少なくとも200μm以上の厚さおよび少なくとも10mm×10mmの大きさを有することができ、このような厚さおよび大きさ全体に渡って0.7×1018ないし3×1018/cm3のn−ドーピング濃度および常温(300K)で少なくとも1.5W/cmK、好ましくは少なくとも1.7W/cmKの熱伝導度を10%以下の差で均一に現わす。更に、本発明による窒化ガリウム単結晶基板は150arcsec以下、好ましくは100arcsec以下のX線回折(XRD)振動曲線(rocking curve)によるFWHM(full width at half maximum)値を有することができる。
【0019】
また、前記窒化ガリウム基板は、結晶成長条件が適切に調節されることで、窒化ガリウム基板全体に渡って実質的に均一な転位分布を有することが好ましい。
【0020】
従って、このような本発明による窒化ガリウム単結晶基板は、半導体素子、特に1W以上の印加電力を要求する高輝度発光素子の製造時に有用であり、高電力印加時でも素子内部に蓄積される熱を減らすことで素子の寿命を著しく増加させることができる。すなわち、本発明による窒化ガリウム単結晶基板、発光層、およびp−型およびn−型電極層を含む半導体素子は、優れた発光特性および寿命特性を現わす。
【0021】
以下、本発明を下記実施例および比較例に基づいてより詳細に説明する。但し、下記実施例は本発明を例示するためだけのものであり、本発明の範囲がこれによってのみ制限されるものではない。
【実施例1】
【0022】
10mm×10mmの大きさを有するサファイア単結晶基材をハイドライド気相成長(HVPE)反応槽に装入した後、反応槽のガリウム容器に過量のガリウムを積載して位置させ、この温度を600ないし900℃で維持しながら、ここに塩化水素(HCl)気体を流して塩化ガリウム(GaCl)気体を生成した。更に他の注入口を介してアンモニア(NH3)気体を供給して塩化ガリウム気体と反応させることで、厚さ420μmの窒化ガリウム(GaN)単結晶膜をサファイア単結晶基材上に成長させた。窒化ガリウム単結晶膜の成長時にケイ素気体を3.5sccmの流量で流してケイ素でのドーピングを遂行した。この時、成長温度を1000℃で、成長速度を60μm/hrで、塩化水素気体およびアンモニア気体を1:4の体積比で供給した。
【0023】
成長した窒化ガリウム厚膜を355nmQ−スィッチされたNd:YAGエキシマ・レーザを用いてサファイア基材から分離した。続いて、分離した厚膜の表面をウエハラッピングおよび研磨装置を用いて研磨処理し、1.3×1018/cm3のn−ドーピング濃度および3.6×106/cm2の転位密度を有する厚さ287μmの窒化ガリウム自立基板を得た。前記転位密度およびn−ドーピング濃度はそれぞれ、マイクロ−PLマッピング(micro−PL mapping、50×50μm2)および常温でホール効果(hall effect)測定器を用いて測定した。
【0024】
得られた窒化ガリウム単結晶基板に対し、XRD振動曲線(rocking curve)を介し、FWHM(full width at half−maximum)値および3次−調和(3ω)電気法(third−harmonic electrical method)(文献[C.Y.Luo et al.,Appl.Phys.Lett.,75(26),p.4151(1999)]参照)を用いて熱伝導度を測定し、その結果を下記表1に現わした。
【実施例2】
【0025】
前記実施例1と同一の方法で、厚さ360μmの窒化ガリウム(GaN)単結晶膜をサファイア単結晶基材上に成長させた。窒化ガリウム単結晶膜の成長時にケイ素気体を3.5sccmの流量で流してケイ素でのドーピングを遂行した。この時、成長温度を1000℃で、成長速度を50μm/hrで、塩化水素気体およびアンモニア気体を1:3の体積比で供給した。
【0026】
成長した窒化ガリウム厚膜を355nmQ−スィッチされたNd:YAGエキシマ・レーザを用いてサファイア基材から分離した。続いて、分離した厚膜の表面をウエハラッピングおよび研磨装置を用いて研磨処理し、1.0×1018/cm3のn−ドーピング濃度および6.4×106/cm2の転位密度を有する厚さ251μmの窒化ガリウム自立基板を得た。前記転位密度およびn−ドーピング濃度はそれぞれ、マイクロ−PLマッピングおよび常温でホール効果測定器を用いて測定した。
【0027】
得られた窒化ガリウム単結晶基板に対し、XRD振動曲線を介してFWHM値および3次−調和(3ω)電気法を用いて熱伝導度を測定し、その結果を下記表1に現わした。
【0028】
[比較例1]
前記実施例1と同一の方法で、厚さ50μmの窒化ガリウム(GaN)単結晶膜をサファイア単結晶基材上に成長させ、0.9×1018/cm3のn−ドーピング濃度および1.0×108/cm2の転位密度を有する窒化ガリウムテンプレートを得た。窒化ガリウム単結晶膜の成長時にケイ素気体を3.5sccmの流量で流してケイ素でのドーピングを遂行した。この時、成長温度を1000℃で、成長速度を40μm/hrで、塩化水素気体およびアンモニア気体を1:2の体積比で供給した。
【0029】
得られた窒化ガリウム単結晶基板に対し、マイクロ−PLマッピングおよび常温でホール効果測定器を用いて前記転位密度およびn−ドーピング濃度をそれぞれ測定し、3次−調和(3ω)電気法を用いて熱伝導度を測定し、その結果を下記表1に現わした。
【0030】
【表1】

【0031】
前記表1から、本発明によるn−ドーピング濃度および転位密度をいずれも満たす実施例1および2が、本発明の範疇から逸脱する比較例1に比べて優れた常温(300K)熱伝導度を現わすことを知ることができる。
【0032】
更に、前記実施例1、2および比較例1で製造された窒化ガリウム単結晶基板の温度を80Kの極低温から400Kまで上昇させながら、各温度における基板の熱伝導度を測定して図3に現わした。図3から、実施例において製造された窒化ガリウム基板が測定温度範囲の全体に渡って優れた熱伝導度を現わすことを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】発光素子構造において、発光層から発生した熱を効果的に放出するための素子部位別の熱伝導度の関係を現わした図である。
【図2】窒化ガリウム基板を適用した垂直型窒化ガリウム系素子の構造を現わした図である。
【図3】実施例1、2および比較例1で製造された窒化ガリウム単結晶基板の80ないし400K温度における熱伝導度の測定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.7×1018ないし3×1018/cm3のn−ドーピング濃度および常温(300K)で少なくとも1.5W/cmKの熱伝導度を有する窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項2】
常温(300K)で少なくとも1.7W/cmKの熱伝導度を有することを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項3】
7×106/cm2以下の転位密度を有することを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項4】
1×1018ないし2×1018/cm3のn−ドーピング濃度を有することを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項5】
X線回折(XRD)振動曲線によるFWHM値が150arcsec以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項6】
サファイア単結晶基材上に成長させて得たことを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項7】
サファイア基材上に成長した後、基材と分離して研磨処理されたことを特徴とする請求項6に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項8】
ハイドライド気相成長法で成長させて得たことを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項9】
少なくとも200μmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項10】
少なくとも10mm×10mmの大きさを有することを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項11】
発光素子の製造時に自立基板として用いられることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項12】
窒化ガリウム単結晶基板の全体に渡って実質的に均一な転位分布を有することを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項13】
請求項1の窒化ガリウム単結晶基板、発光層、およびp−型およびn−型電極層を含む半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−315949(P2006−315949A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133116(P2006−133116)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(501379281)三星コーニング株式会社 (16)
【Fターム(参考)】