説明

結晶成長方法

【課題】凹凸を有する基板上に均一な結晶を成長させる結晶成長方法を提供する。
【解決手段】凹凸が設けられた主面を有する基板の前記主面に窒化物半導体の結晶を成長させる結晶成長方法であって、前記主面に、GaAl1−xN(0.1≦x<0.5)を含み、厚さが20ナノメートル以上50ナノメートル以下のバッファ層を、0.1マイクロメートル/時以下の速度で堆積し、前記バッファ層の上に、前記バッファ層の堆積における前記基板の温度よりも高い温度で、窒化物半導体を含む結晶を成長させる。このように、バッファ層の堆積レートRtとバッファ層の平均の厚さTを適切に管理することにより、バッファ層の上に形成された窒化物半導体結晶の表面モフォロジーの良好な平坦性が実現できるとともに、結晶欠陥であるピット発生数Npをきわめて小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)などの半導体発光素子に用いられる窒化物半導体は、例えば、サファイア基板上に有機金属化合物気相成長法(以下、「MOCVD法」という。)を用いて結晶成長される。半導体発光素子の発光特性の向上には、窒化物半導体の結晶性を向上させることが重要である。
【0003】
一方、凹凸を有する基板を用いることで、半導体発光素子における光取り出し効率を向上する方策が提案されている。(例えば特許文献1参照)
【0004】
しかし、凹凸を有する基板上に窒化物半導体の結晶を成長させると、ピットなどの欠陥が生じやすく、均一に結晶を成長させることは困難である。凹凸を有する基板の上に均一な窒化物半導体を結晶成長させるための特別の技術が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−254175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、凹凸を有する基板上に均一な結晶を成長させる結晶成長方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、凹凸が設けられた主面を有する基板の前記主面に窒化物半導体の結晶を成長させる結晶成長方法であって、前記主面に、GaAl1−xN(0.1≦x<0.5)を含み、厚さが20ナノメートル以上50ナノメートル以下のバッファ層を、0.1マイクロメートル/時以下の速度で堆積し、前記バッファ層の上に、前記バッファ層の堆積における前記基板の温度よりも高い温度で、窒化物半導体を含む結晶を成長させることを特徴とする結晶成長方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、凹凸を有する基板上に均一な結晶を成長させる結晶成長方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】結晶成長方法に関する実験結果を示すグラフ図である。
【図2】結晶成長方法が適用される半導体発光素子を示す模式的断面図である。
【図3】結晶成長方法を示すフローチャート図である。
【図4】結晶成長方法に関する実験結果を示す顕微鏡写真図である。
【図5】結晶成長方法に関する実験結果を示す模式的平面図である。
【図6】結晶成長方法に関する実験結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0011】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施形態に係る結晶成長方法に関する実験結果を例示するグラフ図である。
図2は、本発明の実施形態に係る結晶成長方法が適用される半導体発光素子の構成を例示する模式的断面図である。
図3は、本発明の実施形態に係る結晶成長方法を例示するフローチャート図である。
図4は、結晶成長方法に関する実験結果を例示する顕微鏡写真図である。
まず、図2を用いて本発明の実施形態に係る結晶成長方法が適用される半導体発光素子の構成の例について説明する。
【0012】
図2に表したように、実施形態に係る結晶成長方法が適用される半導体発光素子110は、窒化物半導体を含むn型半導体層10と、窒化物半導体を含むp型半導体層20と、n型半導体層10とp型半導体層20との間に設けられた発光部30と、を有する。発光部30は、例えば複数の障壁層(図示しない)と、複数の障壁層のそれぞれの間に設けられた井戸層(量子井戸層、図示しない)と、を有する。
【0013】
本具体例では、n型半導体層10は、n型GaNコンタクト層11を含む。p型半導体層20は、p型GaNコンタクト層22と、p型GaNコンタクト層22と発光部30との間に設けられたp型AlGaN電子障壁層21と、を含む。また、本具体例では、発光部30とp型半導体層20との間には、AlGaN層などの中間層40がさらに設けられている。
【0014】
n型半導体層10には、n側電極71が設けられ、p型半導体層20にp側電極81が設けられる。n側電極71とp側電極81との間に電圧を印加することで、発光部30において、正孔と電子との再結合により光が放出される。
【0015】
図1に例示したように、n型半導体層10、発光部30及びp型半導体層20は、サファイアなどの基板5の上に結晶成長される。
【0016】
基板5の主面5aには、凹凸5pが設けられる。この凹凸5pにより、発光部30から放出された光の進行方向が変更され、光の取り出し効率が向上する。
【0017】
凹凸5pは凸部5tと、凸部5t以外の部分である凹部5bと、を含む。凸部5tとして、例えば、直径が3マイクロメートル(μm)で、高さが1μmの円柱状の凸部5tが、配設ピッチが例えば5μmで、基板5の主面5aに複数設けられる。ただし、本実施形態に係る結晶成長法はこれに限らず、基板5の主面5aに設けられる凹凸5p(凸部5t及び凹部5b)のパターン形状、サイズ(高さや深さ)、配設ピッチなどは任意である。例えば、光取り出し効率の観点から、凹凸5pの高さ(または深さ)は0.5μm以上2μm以下程度とされ、幅は、0.5μm以上5μm以下とされ、配設ピッチは1μm以上8μm以下程度とされる。ただし、本実施形態はこれには限定されない。
【0018】
このような凹凸5pを有する基板5の主面5aに窒化物半導体の結晶を成長させる際に、本実施形態に係る結晶成長方法は以下を行う。
すなわち、図3に表したように、基板5の主面5aに、GaAl1−xN(0.1≦x<0.5)を含み、厚さ(例えば平均の厚さ)が20ナノメートル(nm)以上50nm以下のバッファ層6を、0.1マイクロメートル/時(μm/h)以下の速度(以下、堆積レートともいう)で堆積する(ステップS110)。
【0019】
そして、バッファ層6の上に、バッファ層の堆積における基板5の温度よりも高い温度で、窒化物半導体を含む結晶を成長させる(ステップS120)。
この場合の窒化物半導体を含む結晶は、下地層7となるノンドープGaN層を含む。
【0020】
このように、バッファ層6は、低温成長バッファ層である。バッファ層6の結晶成長の温度(基板5の温度)は、例えば800℃よりも低く、例えば600℃程度以下である。さらに具体的には、バッファ層6の結晶成長の温度は、500℃程度である。
【0021】
一方、このような低温で成長したバッファ層6の上に、バッファ層6の成長温度よりも高い温度で、窒化物半導体の結晶(例えば下地層7となるノンドープGaN層)が成長される。
すなわち、バッファ層6の上で行われる結晶成長の際の温度(基板5の温度)は、例えば800℃以上である。
【0022】
なお、上記の窒化物半導体の結晶には、下地層7となるノンドープGaN層の他に、既に説明したn型半導体層10、発光部30、p型半導体層20、及び、中間層40等の少なくともいずれかを含むことができ、さらに、この他にも、任意の窒化物半導体の結晶層を含むことができる。
【0023】
バッファ層6の堆積及び窒化物半導体の結晶の成長には、例えば、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法が用いられる。バッファ層6の堆積及び窒化物半導体の結晶の成長は、例えば、同一の反応室内で、連続して(基板5を反応室から取り出さないで)実施されることができる。
【0024】
GaAl1−xN(0.1≦x<0.5)を含むバッファ層6を、厚さが20nm以上50nm以下で、0.1μm/h以下の堆積レートで堆積することで、窒化物半導体の結晶におけるピットなどの結晶欠陥の発生を抑制できる。すなわち、本製造方法によれば、凹凸を有する基板上に均一な結晶を成長させることができる。
【0025】
実施形態に係る上記の結晶成長の条件は、以下のような実験結果から導出された。
発明者は、凹凸5pとして、直径が3μmで、高さが1μmの円柱状の凸部5tが、5μmの配設ピッチで複数設けられたサファイアの基板5の主面5a上に、バッファ層6の堆積条件を変えて堆積させ、そのバッファ層6の上に形成された窒化物半導体の結晶のピットを調べた。
【0026】
この実験では、まず、有機洗浄及び酸洗浄によって処理した基板5をMOCVD装置の反応室内のサセプタ上に載置した。基板5は、高周波によって加熱されるサセプタにより加熱される。次いで、常圧の水素ガス雰囲気下で、1100℃の温度まで約10分間かけて昇温することにより、基板5の主面5aに気相エッチングを施し、10分間保持することで表面に形成された自然酸化膜を除去した。
【0027】
次いで、基板5の温度を500℃まで降温した後、反応室内に原料ガスを導入しバッファ層6を堆積させた。このとき、アンモニアガスの流量を9.5slm(standard liter / min)、水素ガスの流量を15.5slm、窒素ガスの流量を5.0slmで一定とし、トリメチルガリウム(TMG)ガスの流量、及び、トリメチルアルミニウム(TMA)ガスの流量を変えて、堆積レートを変えてバッファ層6を堆積させた。
【0028】
すなわち、TMGガスの流量を7.65sccm(standard cc /min)とし、TMAガスの流量を40sccmとする条件と、TMGガスの流量を15.3sccmとし、TMAガスの流量を80sccmとする条件と、TMGガスの流量を19.1sccmとし、TMAガスの流量を100sccmとする条件、の3種のガス流量比が用いられた。
【0029】
なお、このときのTMGガスの分圧は、それぞれ、0.00025、0.00051及び0.00063となる。
【0030】
そして、TMGガスの流量が7.65sccm、15.3sccm及び19.1sccmの条件のときのバッファ層6の堆積レートは、それぞれ0.1μm/h、0.2μm/h及び0.25μm/hである。そして、この時のバッファ層6の厚さは50nm一定とした。すなわち、この時の堆積時間は、それぞれの堆積レートに応じて異なる。
【0031】
さらに、バッファ層6の堆積レートを0.1μm/hで一定とし、堆積時間を変えることで、バッファ層6の厚さ(平均の厚さ)を、20nm、35nm、50nm及び80nmと変えた。
なお、このようにして形成して堆積されるバッファ層6は、多結晶である。
【0032】
そして、上記のような種々のバッファ層6を堆積させた後、基板5の温度を1100℃まで昇温させた後、TMGガスを60sccmの流量で供給して、下地層7となるアンドープGaN層を厚さ3μmで形成した。
【0033】
そして、さらに、TMGガスをそのままの条件で供給しつつ、SiHを20sccmでさらに供給することで、n型半導体層10に含まれるn型GaNコンタクト層11を4μmの厚さで形成した。半導体発光素子を形成する場合は、この後、n型GaNコンタクト層11の上に、発光部30、p型半導体層20(必要に応じて中間層40など)を順次形成するが、この実験においては、n型GaNコンタクト層11を形成した状態の試料を評価した。
【0034】
図4(a)は、バッファ層6の堆積レートRtが0.1μm/hで、バッファ層6の厚さが50nmの条件210aのときの窒化物半導体の結晶の微分干渉顕微鏡写真図であり、図4(b)は、バッファ層6の堆積レートRtが0.25μm/hで、バッファ層6の厚さが50nmの条件219bのときの窒化物半導体の結晶の微分干渉顕微鏡写真図である。なお、これらの図は、200μm×200μmの面積の観察像である。
【0035】
図4(b)に示したように、堆積レートRtが0.25μm/hの条件219bのときには、窒化物半導体の結晶中に多くのピット91(図中の暗い点)が発生している。
【0036】
一方、図4(a)に示したように、堆積レートRtが0.1μm/hの条件210aのときには、ピット91は観測されず、ピット91は実質的に発生していない。このように、ピット91の発生は、バッファ層6の堆積レートRtに大きく依存することが判明した。
【0037】
図1は、上記のようにバッファ層6の形成条件を変え、そのバッファ層6の上に形成された窒化物半導体の結晶のピットを調べた実験結果を示している。図1(a)の横軸は、バッファ層6の堆積レートRtであり、縦軸は、基板5の主面5aに平行な平面内の400μm×400μmの面積において観測されたピット91の発生数Npを表している。図1(b)の横軸は、バッファ層6の平均の厚さTであり、縦軸は、400μm×400μmの面積において観測されたピット91の発生数Npを表している。
【0038】
図1(a)に表したように、バッファ層6の堆積レートRtが0.25μm/hである条件219bのときのピット91の発生数Npは、300個以上であり、非常に多い。また、バッファ層6の堆積レートRtが0.20μm/hである条件219aのときのピット91の発生数Npは、60個程度であり以上であり、条件219bに比べて少ないものの、ピット91の発生の抑制は不十分である。
【0039】
これに対し、バッファ層6の堆積レートRtが0.1μm/hである条件210aのときのピット91の発生数Npは、実質的に0である。このように、バッファ層6の堆積レートRtを低くし、具体的には、0.1μm/h程度にすることで、ピット91の発生を抑制できる。このように、堆積レートRtを0.1μm/h程度に低くすることで、表面モフォロジーの良好な平坦性が実現できる。
【0040】
一方、図1(b)に表したように、バッファ層6の堆積レートRtが0.1μm/hにおいて、バッファ層6の平均の厚さTを変えた場合、厚さTが80nmと大きい条件218aにおいて、ピット91の発生数Npは200個以上になっている。
【0041】
これに対し、厚さTが50nmの条件210a、及び、厚さTが35nmの条件210bにおいては、ピット91の発生数Npは実質的に0である。そして、厚さTが20nmの条件210cにおいては、ピット91の発生数Npは、10個以下であり、この場合も発生数Npは非常に小さい。
【0042】
また、バッファ層6の厚さが、20nmよりも薄い場合は、バッファ層6が基板5の上に不均一に堆積している状態であると推測され、このような不均一なバッファ層6の上に成長させた結晶においては、ピット91が発生し易い。
【0043】
図1(a)及び図1(b)に例示したように、ピット91の発生を効果的に抑制するためには、バッファ層6の堆積レートRtと、平均の厚さTと、の両方を適切に管理する必要があることが判明した。本実施形態の結晶成長方法の条件は、この新たに見出された実験事実に基づいている。
【0044】
すなわち、本実施形態においては、GaAl1−xN(0.1≦x<0.5)を含むバッファ層6を、厚さTが20nm以上50nm以下で、0.1μm/h以下の堆積レートRtで堆積する。これにより、窒化物半導体の結晶におけるピット91などの結晶欠陥の発生を効果的に抑制できる。
【0045】
実施形態に係る結晶成長方法を用いることで、基板5の凹凸5pを均一な品質のバッファ層6で被覆し、ピット91の発生が抑制された窒化物半導体の結晶を成長することができる。もし、バッファ層6による基板5の凹凸5pの被覆性が悪く、均一に被覆できない箇所が存在すると、その部分では他の部分に比べて結晶が成長し難く、バッファ層6上に形成する例えばアンドープ窒化ガリウム層やn型コンタクト窒化ガリウム層などの窒化物半導体によってこの箇所を埋め込み成長して平坦性を確保しなければならず、結果として窒化物半導体の結晶性が劣化する。実施形態に係る結晶成長方法によれば、基板5の凹凸5pの表面を均一なバッファ層6で良好に被覆し、表面モフォロジーの平坦性が良好な、結晶性が高い窒化物半導体の結晶を得ることができる。
【0046】
なお、堆積レートRtが過度に小さいと、バッファ層6の堆積に要する時間が長くなり、生産性が劣化することがあるため、堆積レートRtは生産性の観点で適切に定められる。堆積レートRtは、例えば、0.03μm/h以上0.1μm/h以下程度とされる。
【0047】
図5は、結晶成長方法に関する実験結果を例示する模式的平面図である。
すなわち、図5(a)及び図5(b)は、比較例である条件219a(堆積レートRtが0.20μm/h)及び条件219b(堆積レートRtが0.25μm/h)で成長された結晶を微分干渉顕微鏡で観察したときのピット91の発生状態を例示している。
【0048】
図5(a)に表したように、堆積レートRtが0.20μm/hの時は、ピット91は、基板5の凹凸5pの凸部5tと凹部5bの境界の段差部分から発生し易い。
一方、図5(b)に表したように、堆積レートRtが0.25μm/hの時は、ピット91は、基板5の凹凸5pの凸部5tの上面や凹部5bの底面においても発生する。
なお、ピット91は六角形の境界を有している。
【0049】
このように、堆積レートRtが0.25μm/hと非常に高い場合は、バッファ層6が不均一に形成され、バッファ層6内に粗な部分と密な部分とが発生すると考えられ、バッファ層6による基板の被覆状態が不均一であると考えられる。これにより、凸部5tの上面や凹部5bの底面においても、核が形成されにくく、バッファ層6に形成される多くの不均一な部分を起点にして窒化物半導体の結晶にピット91が発生するものと考えられる。その結果、表面モフォロジーの極めて悪い窒化物半導体の結晶が形成されるものと考えられる。
【0050】
一方、堆積レートRtが0.20μm/hと低くなると、バッファ層6における不均一な部分が抑制され、凸部5tと凹部5bとの境界の段差部分に限定的に不均一な部分が発生するものと推測される。その結果、凸部5tと凹部5bとの境界の段差部分にピット91が局在するものと考えられる。
【0051】
さらに、本実施形態の場合においては、堆積レートRtが0.1μm/hと低いため、凹凸5pがある基板5の上においてもバッファ層6が均一に形成でき、不均一な部分が発生し難い。このため、ピット91の発生が抑止される。このように、バッファ層6における均一性を確保するために、堆積レートRtは小さい方が好ましく、0.1μm/h以下が好ましい。
【0052】
一方、堆積レートRtが0.1μm/hにおいてバッファ層6の平均の厚さTが80nmと大きい条件218aにおいて、ピット91の発生数Npが多くなる理由は、基板5の凸部5tと凹部5bとにおけるバッファ層6の厚さの差異が大きくなることが原因であると考えられる。
【0053】
すなわち、平均の厚さTが80nmの条件218aにおいては、凸部5tにおけるバッファ層6の厚さは、凹部5bにおけるバッファ層6の厚さよりも約10nm大きい。そして、平均の厚さTが50nmの条件210aにおいては、凸部5tにおけるバッファ層6の厚さは、凹部5bにおけるバッファ層6の厚さよりも約7nm大きい。そして、平均の厚さTが35nmの条件210aにおいては、凸部5tにおけるバッファ層6の厚さは、凹部5bにおけるバッファ層6の厚さよりも約2nm大きい。そして、平均の厚さTが20nmの条件210aにおいては、凸部5tにおけるバッファ層6の厚さは、凹部5bにおけるバッファ層6の厚さと実質的に同じとなる。
【0054】
なお、バッファ層6の平均の厚さTが50nmで堆積レートRtが0.20μm/hの条件219aにおいては、凸部5tにおけるバッファ層6の厚さは、凹部5bにおけるバッファ層6の厚さよりも11nm大きかった。
【0055】
このように、バッファ層6の平均の厚さTが大きくなると、基板5の凸部5tと凹部5bとにおけるバッファ層6の厚さの差異が大きく、これにより、形成されるバッファ層6の性質が凸部5tと凹部5bとで異なってくると考えられ、このことがバッファ層6の平均の厚さTが大きい時にピット91は発生し易いことの原因の1つであると考えられる。
【0056】
図6は、結晶成長方法に関する実験結果を例示するグラフ図である。
すなわち、図6(a)及び図6(b)は、バッファ層6の形成条件と、窒化物半導体の結晶の結晶性との関係を測定した結果を示している。図6(a)及び図6(b)の縦軸は、結晶のX線回折ロッキングカーブの半値幅WRC−FWHMを示している。そして、図6(a)の横軸は、バッファ層6の堆積レートRtを示し、図6(b)の横軸は、バッファ層6の平均の厚さTを示している。これらの図においては、GaN層(0002)対称面における半値幅WRC−FWHMが四角印によって示され、(10−11)非対称面における半値幅WRC−FWHMが丸印によって示されている。
【0057】
図6(a)に表したように、バッファ層6の平均の厚さTが50nmのときに、バッファ層6の堆積レートRtを0.25μm/h、0.20μm/h及び0.1μm/hと低くすると、半値幅WRC−FWHMが若干増大し、半値幅WRC−FWHMで評価される結晶性が若干低くなっている。
【0058】
一方、図6(b)に表したように、バッファ層6の堆積レートRtが0.1μm/hのときにおいては、バッファ層6の平均の厚さTが50nmのときに、半値幅WRC−FWHMが大きい。そして、厚さTが80nmの条件218aでは、半値幅WRC−FWHMは減少している。そして、厚さTが35nmの条件210a、及び、20nmの条件210cでは、半値幅WRC−FWHMは、厚さTが50nmのときによりも減少している。すなわち、厚さTが50nm以下の領域においては、厚さTが小さくなるに従って半値幅WRC−FWHMが減少し、結晶性が向上する。
【0059】
このため、ピット91の抑制と同時に、良好な結晶性を得るためには、バッファ層6の堆積レートRtを0.1μm/h以下とし、バッファ層6の平均の厚さTを50nmよりも小さく、例えば35nm程度に設定することが最も望ましいと考えられる。
【0060】
なお、基板5の凹凸5pにGaN層を埋め込んで、表面が平坦なGaN層を成長させるために、GaN層の結晶成長条件(ガス種、成長圧力及び、成長温度など)を適正化する方法が考えられる。すなわち、GaN層の結晶成長条件を制御することによりファセット面を形成し、主面5aに対して平行な方向に沿って(横方向に)主に成長を促進する方法を採用することが考えられる。
【0061】
例えば、ガス種に関しては、窒素ガスを主に含む雰囲気下にてGaN層を成長することで、横方向の成長を促進させ、凹凸5pを有する基板5の主面5aに、平坦な埋め込み層であるGaN層を形成することが考えられる。しかし、横方向成長のGaN層の表面モフォロジーは、基板5の凹凸5pの影響を受け易く、GaN層においてマクロな凹凸が発生し易く、GaN層の表面モフォロジーが極めて悪くなる傾向がある。これに対し、本実施形態に係る結晶成長方法を適用することで、窒素ガスを主に用いる場合に比べて、GaN層が横方向に成長し難い水素ガスを主に含む雰囲気下でGaNを成長させることで、基板5の凹凸5pを平坦に埋め込み易くなる効果もある。
【0062】
既に説明したように、本実施形態に係る結晶成長方法を適用した場合、バッファ層6の凹凸5pの凸部5tにおけるバッファ層6の厚さと、凹部5bにおけるバッファ層6の厚さとの差が小さい。すなわち、本実施形態が適用された半導体発光素子は、凸部5tと凹部5bとを有する凹凸5pが設けられた主面5aを有する基板5と、基板5の主面5aに設けられ、GaAl1−xN(0.1≦x<0.5)を含み、平均の厚さが20ナノメートル以上50ナノメートル以下で、凸部5tにおける厚さと凹部5bにおける厚さとの差が7ナノメートル以下のバッファ層6と、バッファ層6の上に設けられた窒化物半導体を含む結晶(n型半導体層10と、p型半導体層20と、n型半導体層10とp型半導体層20との間に設けられた発光部30と)を備える。
【0063】
この半導体発光素子においては、凹凸を有する基板を用いつつピットの発生が抑制され、均一な結晶が得られ、光取り出し効率が高い、良好な発光特性を得ることができる。
【0064】
なお、本実施形態に係る結晶成長方法には、MOCVD法の他、例えば、ハイドライド気相成長法(HVPE:Halide Vapor Phase Epitaxy)、及び、分子線気相成長法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)など、窒化物半導体を成長させるために用いられる任意の方法が採用できる。
【0065】
また、原料としては、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)を用いることができ、ガス原料としては、アンモニア(NH)、シラン(SiH)を用いることができ、キャリアガスとして水素及び窒素を用いることができる。ただし、上記に限定されず、窒化物半導体を結晶成長させる任意の材料を適用できる。例えばトリエチルガリウム(TEG:Tri Ethyl Gallium)を用いることも可能である。
【0066】
また、本実施形態において、基板5には、サファイア以外にも、GaN、SiC及びZnOなどの任意の基板を用いることもできる。また、基板5の主面5aの面方位は、C面に限定されず、非極性面としても良い。
【0067】
(実施例)
以下、実施形態に係る結晶成長方法が、半導体発光素子110の作製に応用される実施例について説明する。
【0068】
既に説明したように、直径が3μmで、高さが1μmの円柱状の凸部5tが、5μmの配設ピッチで複数設けられたサファイアの基板5を、有機洗浄及び酸洗浄によって処理した後、MOCVD装置の反応室内のサセプタ上に載置した。
【0069】
次いで、常圧の水素ガス雰囲気下で、1100℃の温度まで約10分間かけて昇温することにより、基板5の主面5aに気相エッチングを施し、10分間保持することで表面に形成された自然酸化膜を除去した。
【0070】
次いで、基板5の温度を500℃まで降温した後、反応室内に原料ガスを導入し、アンモニアガスの流量を9.5slm、水素ガスの流量を15.5slm、窒素ガスの流量を5.0slm、TMAガスの流量40sccm、TMGガスの流量を7.65sccmとして(TMGガスの分圧は、0.00025)、堆積レートRtが0.1μm/hで、20nmの厚さのバッファ層6を堆積させた。
【0071】
次いで、基板5の温度を1100℃まで昇温させた後、TMGガスを60sccmの流量で供給して、下地層7となるアンドープGaN層を厚さ3μmで形成し、その後、TMGガスをそのままの条件で供給しつつ、SiHを20sccmでさらに供給し、n型GaNコンタクト層11を4μmの厚さで形成した。
【0072】
次いで、TMGガス及びSiHガスの供給を停止して基板5の温度を800℃まで降温した。そして、発光部30となる以下の層を形成した。
まず、キャリアガスを窒素のみに切り替え、アンモニアガスを30slm、TMGガスを8sccmで導入し、GaN障壁層を5nmの厚さで形成した。そして、TMIガスを30sccmの流量でさらに供給し、InGaN量子井戸を2.5nmの厚さで形成した。上記のGaN障壁層の形成と、InGaN量子井戸層の形成と、を交互にさらに7回繰り返して実施して、最後のInGaN量子井戸層の形成の後に、GaNキャップ層を5nmの厚さで形成した。これにより、多重量子井戸構造を有する発光部30が形成された。
【0073】
次いで、TMGガスの供給をそのままにした状態で、TMAガスを4sccmの流量で供給することで、AlGaN層の中間層40を1nmの厚さで形成した後、TMGガス及びTMAガスの供給を停止して、窒素ガスとアンモニアガスの供給はそのままの状態で、1030℃まで昇温した。
【0074】
次いで、温度を1030℃で保持し、窒素及び水素を含む雰囲気下で、アンモニアガスを4slmの流量に切り替え、その中にTMGガスを10sccm、TMAガスを約14sccm、CpMgガスを50sccmで、約2分間供給し、p型AlGaN電子障壁層21を厚さ10nmで形成した。
【0075】
次いで、このままの状態からTMAガスの供給のみを停止し、TMGガスを90sccmの流量に切り替えて供給することにより、p型AlGaN電子障壁層21を厚さ100nmで形成した。
【0076】
次いで、このままの状態からCpMgガスの流量を500sccmに切り替えて供給することで、p型GaNコンタクト層22を厚さ10nmで形成した。
【0077】
そして、有機金属原料の供給を停止し、キャリアガスのみ引き続き供給して、基板5の温度を自然降温した。但し、アンモニアガスの供給は、基板5の温度が500℃に達した際に停止した。
【0078】
次いで、上記の多層構造体の一部を、n型GaNコンタクト層11に達するまでドライエッチング法により除去し、露出したn型GaNコンタクト層11に、Ti膜/Pt膜/Au膜の積層膜を含むn側電極71を形成した。また、p型GaNコンタクト層22の上に、Ni膜/Au膜の積層膜を含むp側電極81を形成した。
これにより、半導体発光素子110が得られる。
【0079】
半導体発光素子110のI−V特性(電流−電圧特性)を測定した。リークすることなく良好なオーミック接触が得られた。また、エピタキシャル層の表面は非常に平坦な表面モフォロジーが得られていることが確認された。この半導体発光素子110においては、電流が20mA(ミリアンペア)の時の動作電圧は3.2V(ボルト)〜3.4Vであり、光出力は、15mW(ミリワット)であった。また、発光される光においては、波長中心が450nmのピークが確認された。
【0080】
実施形態に係る結晶成長方法を適用することで、基板5の凹凸5pをバッファ層6によって良好に被覆することで、ピット91の発生が抑制され、表面平坦性を確保した結晶性が良好な窒化物半導体の結晶を有する半導体発光素子を製造することができる。製造される半導体発光素子においては、リークがなく、動作電圧が良好であり、高効率な発光が得られる。
【0081】
(比較例)
なお、堆積レートRtを0.2μm/hとし、厚さ20nmのバッファ層6を形成し、他の構成を上記の実施例と同様とした比較例においては、窒化物半導体の結晶において、ピット91が発生し、表面モフォロジーが悪かった。このような方法で製造された比較例の半導体発光素子のI−V特性においては、低電流領域にてリークが発生し、良好なオーミック接触が得られなかった。また、電流が20mAの時の動作電圧は、3.3V〜3.5Vであり、光出力は12mWであった。
【0082】
なお、本明細書において「窒化物半導体」とは、Bx1Iny1Alz1Ga1−x1−y1−z1N(0≦x1≦1,0≦y1≦1,0≦z1≦1,x1+y1+z1≦1)なる化学式において組成比x1、y1及びz1をそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含むものとする。またさらに、上記化学式において、N(窒素)以外のV族元素もさらに含むものや、導電型などを制御するために添加される各種のドーパントのいずれかをさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
【0083】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、結晶成長方法に用いられる装置、ガス原料、キャリアガス、基板、処理条件などに関して当業者が各種の変更を加えたものであっても、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0084】
その他、本発明の実施の形態として上述した結晶成長方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての結晶成長方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0085】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0086】
5…基板、 5a…主面、 5b…凹部、 5p…凹凸、 5t…凸部、 6…バッファ層、 7…下地層、 10…n型半導体層、 11…n型GaNコンタクト層、 20…p型半導体層、 21…p型AlGaN電子障壁層、 22…p型GaN層、 30…発光部、 40…中間層、 71…n側電極、 81…p側電極、 91…ピット、 110…半導体発光素子、 210a、210b、210c、218a、219a、219b…条件、 Np…発生数、 Rt…堆積レート(速度)、 T…厚さ、 XRC−FWHM…半値幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸が設けられた主面を有する基板の前記主面に窒化物半導体の結晶を成長させる結晶成長方法であって、
前記主面に、GaAl1−xN(0.1≦x<0.5)を含み、厚さが20ナノメートル以上50ナノメートル以下のバッファ層を、0.1マイクロメートル/時以下の速度で堆積し、
前記バッファ層の上に、前記バッファ層の堆積における前記基板の温度よりも高い温度で、窒化物半導体を含む結晶を成長させることを特徴とする結晶成長方法。
【請求項2】
前記バッファ層の堆積は、分圧が0.00025以下のトリメチルガリウムガスを用いることを含むことを特徴とする請求項1記載の結晶成長方法。
【請求項3】
前記バッファ層は、多結晶であることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶成長方法。
【請求項4】
前記バッファ層の堆積における前記基板の前記温度は、600℃以下であり、
前記窒化物半導体を含む前記結晶の成長における前記基板の温度は、800℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の結晶成長方法。
【請求項5】
前記基板は、サファイア基板であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の結晶成長方法。
【請求項6】
前記窒化物半導体を含む結晶の成長は、前記バッファ層の上にノンドープGaN層を形成し、前記ノンドープGaN層の上にSiを含有するGaN層を形成することを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の結晶成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−176130(P2011−176130A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39174(P2010−39174)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】