説明

表面処理装置

【課題】処理対象物の表面の損傷を抑制して表面処理の高効率化を図ることができる表面処理装置を提供する。
【解決手段】電子ビーム照射部10の窓14から出力された電子ビームは、薄膜27を通過して配管24内の処理溶液80に照射され、その処理溶液80を活性化する。その活性化された処理溶液80は、溶液タンク23に注がれ、その溶液タンク23の中に入れられた処理対象物90の表面処理に使われる。処理溶液80が酸またはアルカリを含む場合、その処理溶液80に電子ビームが照射された後でも、その処理溶液80の活性化状態は充分に長い時間に亘って持続する。したがって、電子ビームが照射されて活性化された処理溶液80が処理対象物90の表面に供給される場合にも、その処理対象物90の表面処理の効率化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象物の表面を処理する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
処理対象物の表面を処理する技術としては種々のものが知られている。例えば、特許文献1に開示された発明は、処理対象物の表面に塗布した処理溶液に電子ビームを照射して処理溶液を活性化し、この活性化した処理溶液により処理対象物の表面を処理するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−053646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された発明では、処理対象物の表面上に処理溶液を所定の厚さで均一に塗布することが困難である。処理対象物の表面上の処理溶液が薄いと、電子ビームが処理対象物の表面に到達して、その表面が損傷する場合がある。一方、処理対象物の表面上の処理溶液が厚いと、その処理溶液の上層部分で電子ビームが消費されて、処理対象物の表面の近傍にある処理溶液が電子ビームによって活性化されず、表面処理の効率が悪い場合がある。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、処理対象物の表面の損傷を抑制して表面処理の高効率化を図ることができる表面処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る表面処理装置は、処理対象物の表面を処理する装置であって、処理対象物の表面を処理する酸またはアルカリを含む処理溶液に電子ビームを照射して処理溶液を活性化する電子ビーム照射部と、電子ビーム照射部により電子ビームが照射された処理溶液を処理対象物の表面に供給する処理溶液供給部と、を備えることを特徴とする。この表面処理装置では、電子ビーム照射部により、処理対象物の表面を処理する酸(例えば硫酸やフッ酸等)またはアルカリ(例えばアンモニア水等)を含む処理溶液に電子ビームが照射されて、その処理溶液が活性化される。そして、電子ビーム照射部により電子ビームが照射された処理溶液は、処理溶液供給部により、処理対象物の表面に供給される。これにより、処理対象物の表面が処理される。
【0007】
本発明に係る表面処理装置では、処理溶液供給部が、電子ビーム照射部による電子ビームの照射の前または後に処理溶液を蒸気または噴霧の状態とし、この蒸気または噴霧の状態とした処理溶液を処理対象物の表面に吹き付けることが好適である。処理溶液供給部が、処理溶液を供給するとともに不活性ガスを処理対象物の表面に向けて流すことが好適である。処理溶液供給部が、蒸気または噴霧の状態とした処理溶液とともに不活性ガスを処理対象物の表面に吹き付けることが好適である。
【0008】
また、本発明に係る表面処理装置では、電子ビーム照射部が、処理溶液供給部により処理溶液の蒸気または噴霧が処理対象物の表面に吹き付けられている部分に電子ビームを照射することが好適である。処理溶液供給部が、電子ビーム照射部により電子ビームが照射された処理溶液とともに他の処理溶液を処理対象物の表面に供給することが好適である。処理溶液供給部が、処理溶液の温度を50℃〜400℃の範囲内として処理溶液を処理対象物の表面に供給することが好適である。電子ビーム照射部から出力され処理溶液を透過した電子ビームおよび該電子ビームが処理溶液と相互作用することにより発生したX線を吸収するシールド部を更に備えることが好適である。
【0009】
また、本発明に係る表面処理装置は、処理対象物に超音波振動を与える超音波素子を更に備えるのが好適である。この場合には、超音波素子により処理対象物に超音波振動を与えることにより、処理対象物の表面からレジストを剥離する際や有機物を分解する際に、発生するレジスト剥離残渣や有機物残渣を速やかに処理対象物の表面から除去することができ、表面処理の効率を向上させることができる。
【0010】
また、本発明に係る表面処理装置では、処理対象物が、レジストをコートした半導体であり、レジストを剥離するのが好適である。また、処理対象物が、固体触媒であり、固体触媒を製造するのが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、処理対象物の表面の損傷を抑制して、表面処理の高効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係る表面処理装置1の構成図である。
【図2】第2実施形態に係る表面処理装置2の構成図である。
【図3】第3実施形態に係る表面処理装置3の構成図である。
【図4】第4実施形態に係る表面処理装置4の構成図である。
【図5】第5実施形態に係る表面処理装置5の構成図である。
【図6】第6実施形態に係る表面処理装置6の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
先ず、第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る表面処理装置1の構成図である。この表面処理装置1は、酸またはアルカリを含む処理溶液80により処理対象物90の表面を処理するものであって、電子ビーム照射部10、ポンプ21、溶液タンク22、処理タンク23、配管24、配管25、配管26、薄膜27および超音波素子52を備える。ポンプ21、溶液タンク22、処理タンク23、配管24、配管25および配管26は、電子ビーム照射部10により電子ビームが照射された処理溶液80を処理対象物90の表面に供給する処理溶液供給部を構成する。
【0015】
電子ビーム照射部10は、真空容器11、カソード12、高電圧発生部13および窓14を含む。電子ビーム照射部10では、真空容器11内に入れられたカソード12に対して高電圧発生部13により負の高電圧(50kV〜150kV)が印加されて、カソード12から電子が放出される。そのカソード12から放出された電子Eのうち窓14を通過して外部15に出たものは、電子ビームとして配管24内の処理溶液80に照射される。窓14は、Be、Si、T1、Alなどの薄い箔で構成されている。外部15は、大気圧の不活性ガスで充填されているのが好適である。
【0016】
ポンプ21と溶液タンク22との間は配管25により接続されている。溶液タンク22と処理タンク23との間は配管26により接続されている。ポンプ21と処理タンク23との間は配管24により接続されている。また、配管24の一部は薄膜27となっている。薄膜27は、処理溶液80に対して耐食性を有する材料からなる。
【0017】
本実施形態では、溶液タンク22内の処理溶液80は、配管25を経てポンプ21により汲み上げられ、配管24を経て処理タンク23に注がれる。また、処理タンク23内の処理溶液80は、配管26を経て溶液タンク22に注がれる。処理対象物90は、処理タンク23内に置かれ、処理溶液80で覆われている。処理溶液80は酸またはアルカリを含む。
【0018】
電子ビーム照射部10の窓14から出力された電子ビームは、薄膜27を通過して配管24内の処理溶液80に照射され、その処理溶液80を活性化する。その活性化された処理溶液80は、溶液タンク23に注がれ、その溶液タンク23の中に入れられた処理対象物90の表面処理に使われる。また、配管24内の処理溶液80のうち電子ビームが照射される部分は、処理溶液80の流れに直角な方向に長くなっている形状であってもよい。
【0019】
処理溶液80が酸またはアルカリを含む場合、その処理溶液80に電子ビームが照射された後でも、その処理溶液80の活性化状態は充分に長い時間に亘って持続する。したがって、本実施形態のように、電子ビームが照射されて活性化された処理溶液80が処理対象物90の表面に供給される場合にも、その処理対象物90の表面処理の効率化を図ることができる。また、本実施形態では、処理対象物90の表面に電子ビームが照射されることがないので、表面の損傷が回避され得る。
【0020】
また、本実施形態では、超音波素子52によりにより処理対象物90に超音波振動を与えることにより、処理対象物90の表面からレジストを剥離する際や有機物を分解する際に、発生するレジスト剥離残渣や有機物残渣を速やかに処理対象物の表面から除去することができ、表面処理の効率を向上させることができる。
【0021】
次に、第2実施形態について説明する。図2は、第2実施形態に係る表面処理装置2の構成図である。この表面処理装置2は。酸またはアルカリを含む処理溶液80により処理対象物90の表面を処理するものであって、電子ビーム照射部10、ポンプ21、溶液タンク22、処理タンク23、配管24、配管25、配管26、配管28、配管29および隔離室30を備える。ポンプ21、溶液タンク22、処理タンク23、配管24、配管25、配管26、配管28および配管29は、電子ビーム照射部10により電子ビームが照射された処理溶液80を処理対象物90の表面に供給する処理溶液供給部を構成する。
【0022】
隔離室30は、電子ビーム照射部10により電子ビームが照射される配管24内の処理溶液80の部分と電子ビーム照射部10との間に設けられる。この隔離室30は、その内部31に不活性ガスが配管32により導入される。ポンプ21と処理タンク23との間の配管24は、第1実施形態の場合の如く薄膜27を有していない。したがって、電子ビーム照射部10の窓14から出力された電子ビームは、隔離室30の内部31を通過して、配管24内の処理溶液80に直接に照射される。また、ポンプ21と処理タンク23との間の配管24には、不活性ガスを導入する配管28と、この導入された不活性ガスを排気する配管29と、が設けられている。
【0023】
本実施形態でも、溶液タンク22内の処理溶液80は、配管25を経てポンプ21により汲み上げられ、配管24を経て処理タンク23に注がれる。また、処理タンク23内の処理溶液80は、配管26を経て溶液タンク22に注がれる。処理対象物90は、処理タンク23内に置かれ、処理溶液80で覆われている。処理溶液80は酸またはアルカリを含む。
【0024】
電子ビーム照射部10の窓14から出力された電子ビームは、隔離室30の内部31を通過して配管24内の処理溶液80に直接に照射され、その処理溶液80を活性化する。その活性化された処理溶液80は、溶液タンク23に注がれ、その溶液タンク23の中に入れられた処理対象物90の表面処理に使われる。また、配管24内の処理溶液80のうち電子ビームが照射される部分は、処理溶液80の流れに直角な方向に長くなっている形状であってもよい。
【0025】
処理溶液80が酸またはアルカリを含む場合、その処理溶液80に電子ビームが照射された後でも、その処理溶液80の活性化状態は充分に長い時間に亘って持続する。したがって、本実施形態のように、電子ビームが照射されて活性化された処理溶液80が処理対象物90の表面に供給される場合にも、その処理対象物90の表面処理の効率化を図ることができる。また、本実施形態では、処理対象物90の表面に電子ビームが照射されることがないので、表面の損傷が回避され得る。
【0026】
また、本実施形態では、隔離室30の内部31に不活性ガスが導入され、また、配管24内に不活性ガスが導入されることにより、電子ビーム照射部10の窓14が腐食ガスなどにより腐食することが抑制される。
【0027】
次に、第3実施形態について説明する。図3は、第3実施形態に係る表面処理装置3の構成図である。この表面処理装置3は、酸またはアルカリを含む処理溶液80により処理対象物90の表面を処理するものであって、電子ビーム照射部10、処理溶液タンク41、配管42、不活性ガスタンク43、配管44、配管45、モータ51および超音波素子52を備える。処理溶液タンク41、配管42、不活性ガスタンク43および配管44は、電子ビーム照射部10により電子ビームが照射された処理溶液80を処理対象物90の表面に供給する処理溶液供給部を構成する。
【0028】
処理溶液タンク41に容れられた処理溶液80は、配管42を通って配管44に達し、この配管44に接続された不活性ガスタンク43から供給される不活性ガスGにより噴霧され液滴81とされる。配管44から出た処理溶液80の液滴81は、電子ビーム照射部10の窓14から出力された電子ビームが照射領域Aにおいて照射される。この電子ビーム照射により活性化された処理溶液80の液滴81は、モータ51により回転させられている処理対象物90の表面に吹き付けられる。これにより、処理対象物90の表面に処理溶液80の層が形成され、処理対象物90の表面が処理される。
【0029】
また、本実施形態では、処理溶液80の液滴81を噴霧する配管44の周囲または一方側に配管45が設けており、この配管45から不活性ガスGが吹き付けられることで、処理溶液80の液滴81が電子ビーム照射部10の窓14に当たって窓14が損傷することが防止される。このガスGは、液滴81の噴霧方向を処理対象物80の表面に向けるという作用をも奏する。
【0030】
なお、不活性ガスタンク43に替えて蒸気発生器が設けられて、その蒸気が不活性ガスGの代わりに使用されてもよい。また、このような噴霧される処理溶液が複数種類設定されて、これら複数種類の処理溶液の混合物に電子ビームが照射されてもよい。また、複数の噴霧溶液に電子ビームが照射された後に、活性化の必要がない他の溶液の液滴が混合されてもよい。
【0031】
また、本実施形態では、超音波素子52によりにより処理対象物90に超音波振動を与えることにより、処理対象物90の表面からレジストを剥離する際や有機物を分解する際に、発生するレジスト剥離残渣や有機物残渣を速やかに処理対象物の表面から除去することができ、表面処理の効率を向上させることができる。
【0032】
次に、第4実施形態について説明する。図4は、第4実施形態に係る表面処理装置4の構成図である。この表面処理装置4は、酸またはアルカリを含む処理溶液80により処理対象物90の表面を処理するものであって、電子ビーム照射部10、処理溶液タンク41、配管44、配管45およびモータ51を備える。処理溶液タンク41および配管44は、電子ビーム照射部10により電子ビームが照射された処理溶液80を処理対象物90の表面に供給する処理溶液供給部を構成する。
【0033】
本実施形態では、処理溶液タンク41で処理溶液80の蒸気82(温度100℃〜200℃)が生成される。その処理溶液80の蒸気82は、配管44を通って外に出て、電子ビーム照射部10の窓14から出力された電子ビームが照射領域Aにおいて照射される。この電子ビーム照射により活性化された処理溶液80の蒸気82は、モータ51により回転させられている処理対象物90の表面に吹き付けられる。これにより、処理対象物90の表面に処理溶液80の層が形成され、処理対象物90の表面が処理される。
【0034】
本実施形態では、電子ビームは処理対象物90の表面に向けて照射される。このように電子ビームが照射されても、処理対象物80の表面に損傷が起こらない場合には、このような配置であってもよい。また、処理対象物80の表面に損傷が起こる場合でも、蒸気82の中のガスによって全ての電子ビームが消費されるように蒸気82の量を調節すればよい。また、電子ビームが照射される部分が、蒸気82が配管44から出た直後であり、しかも電子ビームが処理対象物80の表面に照射されないような構成であってもよい。
【0035】
また、本実施形態では、処理溶液80の蒸気82を噴霧する配管44の周囲または一方側に配管45が設けており、この配管45から不活性ガスGが吹き付けられることで、処理溶液80の蒸気82が電子ビーム照射部10の窓14に当たって窓14が損傷することが防止される。このガスGは、蒸気82の噴霧方向を処理対象物80の表面に向けるという作用をも奏する。
【0036】
次に、第5実施形態について説明する。図5は、第5実施形態に係る表面処理装置5の構成図である。この表面処理装置5は、酸またはアルカリを含む処理溶液80により処理対象物90の表面を処理するものであって、電子ビーム照射部10、ノズル60およびモータ51を備える。ノズル60は、電子ビーム照射部10により電子ビームが照射された処理溶液80を処理対象物90の表面に供給する処理溶液供給部を構成する。電子ビーム照射部10とノズル60とは一体化されていることが好ましい。
【0037】
ノズル60は、電子ビーム照射部10の窓14から出力された電子ビームを通過させる貫通孔を中央部に有し、また、この貫通孔に側方から繋がる配管61,配管62および配管63を有する。ノズル60の中央の貫通孔には、配管61により圧力ガスGが供給され、その下流に配管62により蒸気Gが供給され、また、配管63により処理溶液80が供給される。
【0038】
配管63により供給された処理溶液80は、配管61により供給された圧力ガスGにより噴霧されて液滴82となって、配管62により供給された蒸気Gと混合される。このように混合された処理溶液80の液滴82および蒸気Gは、電子ビーム照射部10の窓14から出力された電子ビームが照射されて、多数のイオンやラジカル等を発生させる。これらのイオンやラジカルは、他の分子と相互作用して消滅することが少ないので、モータ51により回転させられている処理対象物90の表面に効率よく到達して、各種の処理を行うことができる。
【0039】
ここで、電子ビーム照射部10における電子ビームの加速エネルギーと、窓14から処理対象物90までの距離とを適当に設定することで、電子ビームが蒸気Gや液滴82の中で消費されてしまって処理対象物90の表面に到達しない状態にすることができる。また、電子ビームの加速エネルギーを大きくして、たとえば、150kVにして、窓14から処理対象物80までの距離を2cm〜3cmにすれば、電子ビームが蒸気Gや液滴82と相互作用したあとも生き残り、処理対象物90の表面に到達するようにすることもできる。
【0040】
また、ノズル60における蒸気Gや液滴82が出る出口や蒸気Gの注入部分が、ヒータ64によって保温されているのが好適である。このようにすることにより、蒸気Gや液滴82のしずくが付かないようになり、蒸気Gや溶液82の温度を低下させないようにすることができる。
【0041】
なお、上記の例では、蒸気Gを使用しているが、これに替えて他の処理溶液の噴霧に変更してもよい。すなわち、ノズル60は、複数の処理溶液の噴霧もしくは蒸気の噴き出し口、または、その両方を有していてもよい。
【0042】
次に、第6実施形態について説明する。図6は、第6実施形態に係る表面処理装置6の構成図である。この表面処理装置6は、酸またはアルカリを含む処理溶液80により処理対象物90の表面を処理するものであって、電子ビーム照射部10、ノズル70およびモータ51を備える。ノズル70は、電子ビーム照射部10により電子ビームが照射された処理溶液80を処理対象物90の表面に供給する処理溶液供給部を構成する。電子ビーム照射部10とノズル70とは一体化されていることが好ましい。
【0043】
ノズル70は、電子ビーム照射部10の窓14から出力された電子ビームを通過させる通路と、この通路に側方から繋がる配管71および配管72と、この通路の下方に設けられたシールド部74と、このシールド部73の側方に設けられた配管73とを有する。ノズル70の中央通路には、配管71により不活性ガスGが供給され、その下流に配管72により処理溶液80が供給される。配管71により供給される不活性ガスGにより、配管72により供給される処理溶液80は、窓14へ向うことが抑制され、電子ビーム照射部10の窓14から出力された電子ビームが照射されて活性化され、モータ51により回転させられている処理対象物90の表面に効率よく到達することができる。
【0044】
電子ビーム照射部10の窓14から出力された電子ビームはシールド部74に到達する。配管72から放出される処理溶液80と電子ビームとが相互作用した後のエネルギーが低下した電子ビームがシールド部74で吸収される。シールド部74は、SUS等の電子ビームを吸収する金属物質からなる。また、シールド部74は、その厚みを厚くすることで、電子ビームが相互作用したことから発生するX線をシールドすることもできる。このシールド部74と電子ビームとが相互作用することで発生する不純物ガスGは、配管73により排気される。
【0045】
以上に説明した本実施形態の表面処理装置1〜6それぞれでは、電子ビーム照射部10の窓14から出力された電子ビームは、処理溶液80(または、処理溶液80の液滴81もしくは蒸気82)に照射され、その処理溶液80を活性化する。その活性化された処理溶液80は、処理対象物90の表面に供給されて、処理対象物90の表面処理に使われる。処理溶液80が酸またはアルカリを含んでおり、その処理溶液80に電子ビームが照射された後でも、その処理溶液80の活性化状態は充分に長い時間に亘って持続する。したがって、電子ビームが照射されて活性化された処理溶液80が処理対象物90の表面に供給される場合にも、その処理対象物90の表面処理の効率化を図ることができる。
【0046】
本実施形態に係る表面処理装置1〜6の何れかを用いることで、例えば以下のような表面処理を行うことができる。
【0047】
例えば、本実施形態に係る表面処理装置を用いることにより、半導体(処理対象物)へのp型またはn型の高イオン注入(イオン注入量が1015atms/cm2以上)の際にレジスト剥離処理を行うことができる。Siウェハの表面ダメージによりアッシャ装置が使用できない状況下では、硫酸の電気分解水を使ったり、硫酸と過酸化水素水との混合水を使ったりして、レジスト剥離処理を行っている。ところが、硫酸の電気分解水を使用する場合には、電極がダイアモンド電極であり、高価であるという問題があり、また、硫酸と過酸化水素水との混合水を使用する場合には、活性な状態が10分間くらいしかもたないという問題があった。これに対して、本実施形態に係る表面処理装置では、処理溶液80として高温(100℃〜300℃)の硫酸が使用され、電子ビームが硫酸に照射されることで、極めて活性なラジカルやイオンが発生する。これらは極めて活性であるので、高イオン注入された半導体のレジストも容易に剥離され得る。
【0048】
また、例えば、本実施形態に係る表面処理装置は、硫酸の固体触媒に適用することが可能である。すなわち、特許第4041409号公報に開示されているような固体触媒の元となる粉末(処理対象物)の表面にHSO基を容易につけるために、本実施形態に係る表面処理装置が用いられる。このとき、固体触媒のもととなる粉末に最初に電子ビームを照射して活性化した後に高温硫酸にしてもよく、また、高温硫酸にした固体触媒の元となる粉末の全体に電子ビームを照射してもよい。
【0049】
また、例えば、本実施形態に係る表面処理装置を用いて、電子ビームを照射して希釈フッ酸を活性化し、この活性化したフッ酸によりシリコン基板(処理対象物)の表面のSiO膜のエッチングや金属不純物の除去をすることができる。本実施形態では、希釈フッ酸がきわめて活性な状態となり、従来のフッ酸濃度の数分の1の濃度で同等の効果が得られ、環境負荷のより少ない処理となった。
【0050】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本実施形態に係る表面処理装置において、蒸気や溶液を噴霧する部分が長手方向に多数ならんでいてもよいし、また、電子ビーム照射部10の窓14が長方形であって、その長方形のかたちに電子ビームが外部に照射されるような構造であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1〜6…表面処理装置、10…電子ビーム照射部、11…真空容器、12…カソード、13…高電圧発生部、14…窓、21…ポンプ、22…溶液タンク、23…処理タンク、24,25,26…配管、27…薄膜、28,29…配管、30…隔離室、31…内部、32…配管、41…処理溶液タンク、42…配管、43…不活性ガスタンク、44,45…配管、51…モータ、52…超音波素子、60…ノズル、61,62,63…配管、64…ヒータ、70…ノズル、71,72,73…配管、74…シールド部、80…処理溶液、81…液滴、82…蒸気、90…処理対象物。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物の表面を処理する装置であって、
前記処理対象物の表面を処理する酸またはアルカリを含む処理溶液に電子ビームを照射して前記処理溶液を活性化する電子ビーム照射部と、
前記電子ビーム照射部により電子ビームが照射された前記処理溶液を前記処理対象物の表面に供給する処理溶液供給部と、
を備えることを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記処理溶液供給部が、前記電子ビーム照射部による電子ビームの照射の前または後に前記処理溶液を蒸気または噴霧の状態とし、この蒸気または噴霧の状態とした前記処理溶液を前記処理対象物の表面に吹き付ける、ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記処理溶液供給部が、前記処理溶液を供給するとともに不活性ガスを前記処理対象物の表面に向けて流す、ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記処理溶液供給部が、蒸気または噴霧の状態とした前記処理溶液とともに不活性ガスを前記処理対象物の表面に吹き付ける、ことを特徴とする請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記電子ビーム照射部が、前記処理溶液供給部により前記処理溶液の蒸気または噴霧が前記処理対象物の表面に吹き付けられている部分に電子ビームを照射する、ことを特徴とする請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記処理溶液供給部が、前記電子ビーム照射部により電子ビームが照射された前記処理溶液とともに他の処理溶液を前記処理対象物の表面に供給する、ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記処理溶液供給部が、前記処理溶液の温度を50℃〜400℃の範囲内として前記処理溶液を前記処理対象物の表面に供給する、ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項8】
前記電子ビーム照射部から出力され前記処理溶液を透過した電子ビームおよび該電子ビームが前記処理溶液と相互作用することにより発生したX線を吸収するシールド部を更に備える、ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項9】
前記処理対象物に超音波振動を与える超音波素子を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項10】
前記処理対象物が、レジストをコートした半導体であり、前記レジストを剥離することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の表面処理装置。
【請求項11】
前記処理対象物が、固体触媒であり、固体触媒を製造することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の表面処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−199125(P2010−199125A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39154(P2009−39154)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】