説明

車両の制御装置およびその制御装置を搭載したハイブリッド車両

【課題】機械式オイルポンプと電動オイルポンプとが備えられた車両に対し、車両が走行可能な状態に至るまでに要する時間の短縮化を図ることが可能な車両の制御装置およびその制御装置を搭載したハイブリッド車両を提供する。
【解決手段】車両停車状態でのハイブリッドシステム起動時、オイル温度が所定温度以上である場合には電動オイルポンプEOPの連続駆動により動力伝達機構の油圧を確保してREADYON許可とする。オイル温度が所定温度未満である場合には、起動要求の所定回数に限り、電動オイルポンプEOPの連続駆動により動力伝達機構の油圧を確保してREADYON許可とし、この所定回数以上の起動要求に対してはエンジン始動に伴う機械式オイルポンプMOPの駆動により動力伝達機構の油圧を確保してREADYON許可とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達機構にオイル(作動油など)を供給するための機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプを備えた車両の制御装置に係る。また、この制御装置を搭載したハイブリッド車両にも係る。特に、本発明は、車両が走行可能な状態になったことが判定されるまでに要する時間の短縮化を図るための対策に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のハイブリッド駆動装置は、例えば下記の特許文献1や特許文献2に開示されているように、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関と、モータもしくはモータ・ジェネレータなどの電動装置とを動力源とするものが一般的である。また、これら内燃機関と電動装置との組合せの形態は多様であり、電動装置の使用数も一台に限らず、複数台使用するものもある。
【0003】
特許文献1や特許文献2に開示されているハイブリッド駆動装置の概略構成について以下に説明する。
【0004】
エンジンと第1モータ・ジェネレータとが、シングルピニオン型遊星歯車機構からなる動力分配機構を介して相互に連結されている。また、この動力分配機構から出力部材(以下、出力軸と呼ぶ場合もある)にトルク伝達可能な構成とし、更に、その出力部材に変速機構(リダクション機構)を介して第2モータ・ジェネレータが連結された構成となっている。これにより、第2モータ・ジェネレータの出力トルクを、所謂アシストトルクとして出力部材に付加する構成となっている。また、上記変速機構は、摩擦係合要素(ブレーキ)の係合・解放を切り換えることにより直結状態と減速状態とが選択できる遊星歯車機構によって構成されている。
【0005】
この種のハイブリッド駆動装置を搭載した車両では、各種条件に基づいて、エンジンおよびモータ・ジェネレータの駆動・停止を制御することにより、エンジンのみを駆動するエンジン駆動モード、モータ・ジェネレータのみを使用しこのモータ・ジェネレータを電動モータとして駆動するモータ駆動モード、エンジンおよびモータ・ジェネレータを共に駆動するエンジン・モータ駆動モードでの走行が切り替え可能である。これにより、燃費の改善、騒音の低減、排気ガスの低減等を図ることができる。また、上記第2モータ・ジェネレータを力行状態あるいは回生状態に制御することにより、正トルクを出力部材に付加し、あるいは負トルクを出力部材に付加することができる。更に、上記変速機構によって減速状態を設定できるので、第2モータ・ジェネレータを低トルク型化あるいは小型化することもできる。
【0006】
また、この種のハイブリッド駆動装置では、エンジン停止状態において、エンジンを始動させる(クランキングさせる)条件が成立した場合は、第1モータ・ジェネレータに電力を供給して電動機として駆動させ、この第1モータ・ジェネレータのトルクを、動力分配機構を経由させてエンジンに伝達する。これにより、エンジン回転数を上昇させるとともに、燃料の供給に伴う気筒内での混合気の燃焼を行い、エンジン回転数が自律回転可能な回転数となった場合に、上記第1モータ・ジェネレータによるクランキングを終了するようにしている。
【0007】
そして、この種のハイブリッド車にあっては、上記モータ駆動モードでの走行中や、信号待ちなどの停車中には、燃費の改善および排気ガスの低減を図るためにエンジンを停止している。そして、このエンジン停止状態になると、このエンジンの駆動力によって作動していた機械式オイルポンプも停止され、この機械式オイルポンプからの油圧供給が停止してしまう。このため、電動モータによって駆動可能な電動オイルポンプを備えさせ、エンジン停止状態であっても、この電動オイルポンプの駆動により、上記変速機構等を含む動力伝達機構へオイル(ATF)を供給し、上記摩擦係合要素を係合させるための油圧を確保し、また、動力伝達機構の各部の潤滑や冷却が十分に行えるようにしている。
【0008】
ところで、これまでのハイブリッド車における停車中のエンジン始動時には、上述した如く第1モータ・ジェネレータを電動機として駆動させてエンジンをクランキングさせる際、第1モータ・ジェネレータからの回転力は動力分配機構を経由するため、この回転力の一部(エンジンをクランキングさせる際の反力)が出力軸に伝達され、この出力軸を逆転させる方向へのトルクとして作用することになる。このため、この出力軸の逆転を阻止して車両の停車状態を維持するべく、上記第2モータ・ジェネレータを駆動させ、上記第1モータ・ジェネレータから出力軸に付加されるトルク(逆転方向のトルク)とは反対方向のトルクを出力軸に付加し、これらトルクを相殺させる必要がある。この第2モータ・ジェネレータのトルクを出力軸に伝達するためには、上記変速機構の摩擦係合要素(ブレーキ)を係合させておく必要があるが、エンジン始動時は機械式オイルポンプからの油圧が確保できないため、電動オイルポンプを駆動させることで上記変速機構の摩擦係合要素を係合させるための油圧を確保せねばならない。
【0009】
そして、このような停車中のエンジン始動時において、オイル(ATF)の温度が十分に高い場合には、オイルの粘度が低く、電動オイルポンプを駆動させるための駆動電流値が低いため、この電動オイルポンプの駆動に要する電力は小さくて済み、また、電動オイルポンプの発熱量も少ない。このため、この電動オイルポンプを比較的長期間に亘って駆動させることが可能(比較的長期間に亘る駆動を許可することが可能)であり、この電動オイルポンプの駆動のみで、上記変速機構の摩擦係合要素を係合させるための油圧を確保することができる。
【0010】
しかしながら、エンジンの冷間始動時などのようにオイルの温度が低い場合には、オイルの粘度が高く、電動オイルポンプを駆動させるための駆動電流値が高いため、この電動オイルポンプの駆動に要する電力は大きくなり、また、電動オイルポンプの発熱量も大きくなって電動オイルポンプの寿命に悪影響を及ぼす可能性がある。このため、このような状況でのエンジン始動時には、電動オイルポンプを長期間に亘って駆動することは避けなければならない。この点を考慮し、エンジン始動時には以下のような制御動作が行われている。
【0011】
ドライバによるスタートボタンのON操作等によるシステム起動要求(所謂STON)がなされると、先ず、電動オイルポンプを駆動して、変速機構の油圧を上記摩擦係合要素が係合可能となる程度まで上昇させ、この油圧が確保された時点で、第1モータ・ジェネレータを電動機として駆動させてエンジンをクランキングさせる。この場合、摩擦係合要素の係合が可能な油圧が確保されているため、摩擦係合要素を係合させると共に第2モータ・ジェネレータを駆動させることにより車両の停車状態は維持される。そして、エンジン回転数が自律回転可能な回転数になると、機械式オイルポンプの駆動に伴って十分な油圧が確保可能な状況となるので、この時点で電動オイルポンプを停止する。つまり、電動オイルポンプの起動後、必要最低限の油圧(摩擦係合要素の係合が可能な油圧)が確保された後、早期に電動オイルポンプを停止させることで、消費電力の削減を図ると共に電動オイルポンプの発熱量を少なく抑えるようにしている。このような過程を経た後、車両の走行が可能な状態(所謂、READYON)になったとし、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み操作に伴って車両の発進を可能にしていた。
【特許文献1】特開2005−206021号公報
【特許文献2】特開2005−207304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、これまでのハイブリッド車において、停車状態でエンジンを始動する際には、「システム起動要求」→「電動オイルポンプの駆動による油圧の確保」→「第1モータ・ジェネレータの駆動によるエンジンのクランキング」→「機械式オイルポンプによる油圧の確保および電動オイルポンプの停止」といった一連の動作を経た後でなければ車両のREADYON状態(車両の発進を可能にする状態)とはならなかった。
【0013】
このため、このREADYON状態となるまでの時間を長く要してしまい、ドライバからのシステム起動要求操作が行われた後、車両の走行が可能な状態となるまでの時間が長くなり、システム起動要求後に直ちに走行を開始したいといったドライバの要求に応えることが難しかった。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、機械式オイルポンプと電動オイルポンプとが備えられた車両に対し、車両が走行可能な状態に至るまでに要する時間の短縮化を図ることが可能な車両の制御装置およびその制御装置を搭載したハイブリッド車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、オイルの温度が低い場合などのように電動オイルポンプを長期間に亘って駆動することを避ける必要がある場合には、この電動オイルポンプの駆動回数または累積駆動時間に制限を設け、この制限の範囲内で電動オイルポンプを駆動して、車両を走行可能な状態とするための起動動作を行い、この電動オイルポンプのみの駆動によりREADYON状態とする。また、上記の制限を超えて車両起動要求がなされた場合には、電動オイルポンプを駆動させることなく、機械式オイルポンプの駆動によって起動のための油圧を確保し、この機械式オイルポンプのみの駆動によりREADYON状態とするようにしている。
【0016】
−解決手段−
具体的に、本発明は、内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプと、電動機によって駆動される電動オイルポンプとを備え、駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対して上記機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされた車両の制御装置を前提とする。この車両の制御装置に対し、連続駆動判断手段および車両走行可能状態判定手段を備えさせている。連続駆動判断手段は、上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を所定の車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断するものである。また、車両走行可能状態判定手段は、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合には、上記車両起動要求に従って電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する。一方、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間は、上記車両起動要求が所定の起動要求制限回数に達するまでは、電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定し、この電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間に上記車両起動要求が上記起動要求制限回数に達した場合には、電動オイルポンプを駆動させることなく内燃機関を起動させて機械式オイルポンプの駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定するものである。
【0017】
この特定事項により、ドライバによるスタートボタンのON操作等による車両起動要求がなされると、連続駆動判断手段は、上記動力伝達機構に供給する油圧を所定の車両起動油圧まで昇圧させるための電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断する。例えば、オイル温度が所定値以上である場合には許容可能な状況であるとし、所定値未満である場合には許容不可能な状況であるとする。
【0018】
そして、電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合には、車両走行可能状態判定手段により、車両起動要求に従って電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態(READYON状態)になったと判定する。これは、例えばオイルの温度が十分に高いことで電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であると判断する場合には、オイルの粘度が低く、電動オイルポンプを駆動させるための駆動電流値が低いため、この電動オイルポンプの駆動に要する電力は小さくて済み、また、電動オイルポンプの発熱量も少なくなる。このため、蓄電装置(バッテリ)の蓄電量が不足する状況が生じ難く、また、電動オイルポンプの寿命に悪影響を及ぼすことも少ない。従って、このような状況では電動オイルポンプの連続駆動を許可し、この電動オイルポンプの連続駆動によって油圧が車両起動油圧に達した時点で、車両が走行可能な状態になったと判定する。これにより、この判定がなされるタイミングを早めることができ、上記車両起動要求がなされてから車両が走行可能な状態になったと判定されるまでの時間を短縮化できる。
【0019】
一方、電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況である場合には、電動オイルポンプの駆動回数に制限を設け、この制限の範囲内で電動オイルポンプを駆動して、車両を走行可能な状態とするための起動動作を行い、油圧が車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する。また、上記の制限を超えて車両起動要求がなされた場合(例えば、オイル温度が上昇することなしに、ドライバによるスタートボタンのON/OFF操作が複数回繰り返された場合)には、電動オイルポンプを駆動させることなく、内燃機関の起動に伴う機械式オイルポンプの駆動によって油圧を確保し、この油圧が車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する。これは、例えばオイルの温度が低いことで電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況であると判断する場合には、オイルの粘度が高く、電動オイルポンプを駆動させるための駆動電流値が高くなるため、この電動オイルポンプの駆動に要する電力は大きくなり、また、電動オイルポンプの発熱量も大きくなる。このため、蓄電装置(バッテリ)の蓄電量が不足する状況が生じる可能性があり、また、電動オイルポンプの寿命に悪影響を及ぼす可能性もある。従って、このような状況では電動オイルポンプの駆動回数に制限を設け、この制限の範囲内での電動オイルポンプの連続駆動により油圧が車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する。また、この制限を超えた場合には機械式オイルポンプを駆動し、油圧が車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する。このような動作により、蓄電装置の蓄電量の不足を招いたり、電動オイルポンプの寿命に悪影響を及ぼしたりすることなしに、車両が走行可能な状態になったと判定されるタイミングを早めることができ、上記車両起動要求がなされてから車両が走行可能な状態になったと判定されるまでの時間を短縮化できる。
【0020】
また、電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況であって電動オイルポンプの駆動に制限を設ける場合、上述したように電動オイルポンプの駆動回数に制限を設けることに代えて、電動オイルポンプの累積駆動時間に制限を設けるようにしてもよい。その場合の構成について以下に述べる。
【0021】
内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプと、電動機によって駆動される電動オイルポンプとを備え、駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対して上記機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされた車両の制御装置を前提とする。この車両の制御装置に対し、連続駆動判断手段および車両走行可能状態判定手段を備えさせている。連続駆動判断手段は、上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を所定の車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断するものである。また、車両走行可能状態判定手段は、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合には、上記車両起動要求に従って電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する一方、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間は、その間における上記電動オイルポンプの累積駆動時間が所定の駆動制限時間に達するまでは、電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定し、この電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間に上記電動オイルポンプの累積駆動時間が上記駆動制限時間に達した場合には、電動オイルポンプを駆動させることなく内燃機関を起動させて機械式オイルポンプの駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定するものである。
【0022】
この特定事項によっても、上述した解決手段の場合と同様に、電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合には、この電動オイルポンプの連続駆動によって油圧が車両起動油圧に達した時点で、車両が走行可能な状態になったと判定する。これにより、この判定がなされるタイミングを早めることができ、上記車両起動要求がなされてから車両が走行可能な状態になったと判定されるまでの時間を短縮化できる。また、電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況である場合には、電動オイルポンプの累積駆動時間に制限を設け、この制限の範囲内で電動オイルポンプを駆動して、車両を走行可能な状態とするための起動動作を行い、油圧が車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する。また、上記の制限を超えて車両起動要求がなされた場合(例えば、オイル温度が上昇することなしに、ドライバによるスタートボタンのON/OFF操作の繰り返しなどによって電動オイルポンプの累積駆動時間が上記駆動制限時間に達した場合)には、電動オイルポンプを駆動させることなく、内燃機関の起動に伴う機械式オイルポンプの駆動によって油圧を確保し、この油圧が車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する。従って、蓄電装置の蓄電量の不足を招いたり、電動オイルポンプの寿命に悪影響を及ぼしたりすることなしに、車両が走行可能な状態になったと判定されるタイミングを早めることができ、上記車両起動要求がなされてから車両が走行可能な状態になったと判定されるまでの時間を短縮化できる。
【0023】
また、上記の目的を達成するための他の解決手段としては以下のものも挙げられる。先ず、駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対し、内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプおよび電動機によって駆動される電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされていると共に、車両停車状態での内燃機関の始動時、上記動力伝達機構に備えられた摩擦係合要素を上記供給されたオイルの油圧により係合させながら内燃機関の始動動作を行うようにした車両の制御装置を前提とする。この車両の制御装置に対し、連続駆動判断手段および車両走行可能状態判定手段を備えさせている。連続駆動判断手段は、上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を上記摩擦係合要素の係合に必要な車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断するものである。車両走行可能状態判定手段は、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合には、上記車両起動要求に従って電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する一方、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間は、上記車両起動要求が所定の起動要求制限回数に達するまでは、電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定し、この電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間に上記車両起動要求が上記起動要求制限回数に達した場合には、電動オイルポンプを駆動させることなく内燃機関を起動させて機械式オイルポンプの駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定するものである。
【0024】
また、駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対し、内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプおよび電動機によって駆動される電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされていると共に、車両停車状態での内燃機関の始動時、上記動力伝達機構に備えられた摩擦係合要素を上記供給されたオイルの油圧により係合させながら内燃機関の始動動作を行うようにした車両の制御装置を前提とする。この車両の制御装置に対し、連続駆動判断手段および車両走行可能状態判定手段を備えさせている。連続駆動判断手段は、上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を上記摩擦係合要素の係合に必要な車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断するものである。車両走行可能状態判定手段は、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合には、上記車両起動要求に従って電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する一方、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間は、その間における上記電動オイルポンプの累積駆動時間が所定の駆動制限時間に達するまでは、電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定し、この電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間に上記電動オイルポンプの累積駆動時間が上記駆動制限時間に達した場合には、電動オイルポンプを駆動させることなく内燃機関を起動させて機械式オイルポンプの駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定するものである。
【0025】
これらの特定事項によっても、上述した解決手段の場合と同様に、蓄電装置の蓄電量の不足を招いたり、電動オイルポンプの寿命に悪影響を及ぼしたりすることなしに、車両が走行可能な状態になったと判定されるタイミングを早めることができ、車両起動要求がなされてから車両が走行可能な状態になったと判定されるまでの時間を短縮化できる。
【0026】
尚、車両起動要求がなされてから車両が走行可能な状態になったと判定されるまでの時間の短縮化が図れるといった効果は、上述した電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合、および、電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している場合のそれぞれにおいて個別に発揮させることができる。
【0027】
つまり、電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合に上記の効果を発揮させるための構成としては以下のものが挙げられる。先ず、内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプと、電動機によって駆動される電動オイルポンプとを備え、駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対して上記機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされた車両の制御装置を前提とする。この車両の制御装置に対し、連続駆動判断手段および車両走行可能状態判定手段を備えさせる。連続駆動判断手段は、上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を所定の車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断するものである。車両走行可能状態判定手段は、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合には、上記車両起動要求に従って電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定するものである。
【0028】
また、電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能可能な状況である場合に上記の効果を発揮させるための構成としては以下の2つのタイプが挙げられる。先ず、第1のタイプとして、内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプと、電動機によって駆動される電動オイルポンプとを備え、駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対して上記機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされた車両の制御装置を前提とする。この車両の制御装置に対し、連続駆動判断手段および車両走行可能状態判定手段を備えさせる。連続駆動判断手段は、上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を所定の車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断するものである。車両走行可能状態判定手段は、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間は、上記車両起動要求が所定の起動要求制限回数に達するまでは電動オイルポンプの連続駆動を行って動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定し、この電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間に上記車両起動要求が上記起動要求制限回数に達した場合には、電動オイルポンプを駆動させることなく内燃機関を起動させて機械式オイルポンプの駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定するものである。
【0029】
また、第2のタイプとして、内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプと、電動機によって駆動される電動オイルポンプとを備え、駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対して上記機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされた車両の制御装置を前提とする。この車両の制御装置に対し、連続駆動判断手段および車両走行可能状態判定手段を備えさせる。連続駆動判断手段は、上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を所定の車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断するものである。車両走行可能状態判定手段は、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間は、その間における上記電動オイルポンプの累積駆動時間が所定の駆動制限時間に達するまでは、電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定し、この電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間に上記電動オイルポンプの累積駆動時間が上記駆動制限時間に達した場合には、電動オイルポンプを駆動させることなく内燃機関を起動させて機械式オイルポンプの駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定するものである。
【0030】
これら解決手段においても同様の効果、つまり、蓄電装置の蓄電量の不足を招いたり、電動オイルポンプの寿命に悪影響を及ぼしたりすることなしに、車両が走行可能な状態になったと判定されるタイミングを早めることができ、車両起動要求がなされてから車両が走行可能な状態になったと判定されるまでの時間を短縮化できるといった効果を発揮することができる。
【0031】
上記連続駆動判断手段として具体的には、オイル温度に基づいて電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断するものであり、オイル温度が所定の連続駆動許容温度以上である場合に電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であると判断する構成としている。
【0032】
これにより、オイル温度の検知といった比較的簡単な検知手法によって、電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断することができ、本発明の実用性を高めることができる。また、オイル温度が十分に高い場合には、上述した如く、オイルの粘度が低いために、蓄電装置の蓄電量が不足する状況が生じ難く、電動オイルポンプの寿命に悪影響を及ぼすことも少ないので、電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況とされる。逆に、オイル温度が低い場合には、上述した如く、オイルの粘度が高いために、蓄電装置の蓄電量が不足する状況が生じる可能性があり、電動オイルポンプの寿命に悪影響を及ぼす可能性もあるので、電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況であるとされる。つまり、電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かはオイル温度による影響度合いが大きく、このオイル温度を検知することで、連続駆動判断手段による信頼性の高い判定動作を行うことができる。
【0033】
尚、上述した各解決手段のうち何れか一つの車両の制御装置を搭載したハイブリッド車両も本発明の技術的思想の範疇である。以下、具体的に説明する。このハイブリッド車両は、上記内燃機関を始動させる際に、この内燃機関に付加する回転力を発生する第1の電動機と、駆動輪に接続される出力軸に向けて駆動力の出力が可能な第2の電動機と、この第2の電動機から駆動輪までの間の動力伝達経路に備えられ且つ摩擦係合要素の係合状態を変更することによって変速動作を行う変速機とを備えている。そして、上記車両起動圧を、上記第1の電動機の回転力を内燃機関に付加する内燃機関の始動時において、上記出力軸に作用する第1の電動機からの回転力を第2の電動機の駆動力によって相殺可能とするための摩擦係合要素の係合力が得られる圧力以上に設定している。
【0034】
このハイブリッド車両では、内燃機関の始動時には、第1の電動機の回転力を内燃機関に付加すると共に、変速機に備えられた摩擦係合要素を係合状態として第2の電動機を駆動させ、出力軸に作用する第1の電動機からの回転力を第2の電動機の駆動力によって相殺させて、車両の停車状態を維持しながら内燃機関を始動させる。この場合に、車両の停車状態を維持するための第2の電動機の駆動力が確実に出力軸に伝達できる摩擦係合要素の係合力が得られるように上記車両起動圧が設定されている。このため、摩擦係合要素の係合力が不十分となって滑りが生じたりすることが回避でき、信頼性の高い内燃機関の始動動作を実現することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明では、電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断し、その判断結果に応じて、電動オイルポンプのみの駆動により車両が走行可能な状態になったと判定する場合と、機械式オイルポンプのみの駆動により車両が走行可能な状態になったと判定する場合とを切り換えるようにしている。このため、蓄電装置の蓄電量の不足を招いたり、電動オイルポンプの寿命に悪影響を及ぼしたりすることなしに、車両が走行可能な状態になったと判定されるタイミングを早めることができ、車両起動要求がなされてから車両が走行可能な状態になったと判定されるまでの時間を短縮化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、2つのモータ・ジェネレータを備え、且つFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車として構成されたハイブリッド車に対して本発明を適用した場合について説明する。
【0037】
−ハイブリッドシステムの全体構成−
図1は、本実施形態に係るハイブリッド車に搭載されたハイブリッドシステムの概略構成を示す図である。また、図2は、ハイブリッドシステムのギヤトレイン(後述する動力伝達機構10)を模式的に示す図である。図1に示した車両HVは、F・R形式のハイブリッド車(以下、単に「車両」と呼ぶ)である。図1において、車両HVは、主駆動力源としてのエンジン(内燃機関)1を備えている。このエンジン1は燃料と空気との混合気を気筒内で燃焼させ、その熱エネルギを回転運動エネルギに変換して出力する周知の動力装置である。
【0038】
このエンジン1として具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどが適用可能であり、スロットル開度(吸気量)、燃料噴射量、点火時期などによって運転状態を制御できるように構成されている。また、その制御は、マイクロコンピュータを主体とする電子制御装置(E−ECU)100によって行われる。
【0039】
上記エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11は、車両HVの前後方向を回転軸として回転可能である。また、クランクシャフト11の後端にはフライホイール12が配設されている。このフライホイール12には、ダンパ機構21を介してインプットシャフト2が連結されている。
【0040】
また、ハイブリッドシステムを収容しているケーシング3の内部には、車両HVの前側から順に、主に発電機として機能する第1モータ・ジェネレータ(MG1:第1の電動機)4、動力分配機構5、主に電動機として機能する第2モータ・ジェネレータ(MG2:第2の電動機)6、2段変速式のリダクション機構(変速機)7が配置されている。
【0041】
上記各モータ・ジェネレータ4,6としては、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼ね備えた同期電動機が用いられている。より具体的には、第1モータ・ジェネレータ4は、動力分配機構5を介してエンジン1の駆動力を受けて第2モータ・ジェネレータ6に給電するための発電を行ったり、エンジン始動時や車両発進時の駆動力発生源として機能する。一方、第2モータ・ジェネレータ6は、車両の走行駆動力のアシストを行ったり、制動時や減速時の回生動作によって発電を行うものとして機能する。これらモータ・ジェネレータ4,6は、ステータ41,61およびロータ42,62をそれぞれ有しており、ステータ41,61は上記ケーシング3の内壁に固定されている。また、各モータ・ジェネレータ4,6は、電力の授受を行うことが可能な蓄電装置8にインバータ81を介して接続されている。この蓄電装置8としては、二次電池、具体的にはバッテリ(ニッケル水素バッテリやリチウムイオンバッテリ等)、キャパシタなどを用いることが可能である。また、各モータ・ジェネレータ4,6は、マイクロコンピュータを主体とする電子制御装置(MG−ECU)101によってインバータ81を制御することにより、力行および回生並びにそれぞれの場合におけるトルクを制御するように構成されている。
【0042】
上記動力分配機構5は、シングルピニオン形式の遊星歯車機構によって構成されている。即ち、この動力分配機構5は、中空シャフト51に形成されたサンギヤ52と、このサンギヤ52と同心状に配置されたリングギヤ53と、これらサンギヤ52およびリングギヤ53に噛合する複数のピニオンギヤ54を保持したキャリヤ55とを備えている。そして、上記インプットシャフト2とキャリヤ55とが回転一体に連結されている。また、インプットシャフト2は中空シャフト51内に配置され、このインプットシャフト2と中空シャフト51とは相対回転可能となっている。
【0043】
上記クランクシャフト11、フライホイール12、インプットシャフト2、動力分配機構5は同軸上に配置されている。また、車両HVの前後方向(クランクシャフト11の軸線方向)において、フライホイール12およびダンパ機構21と、動力分配機構5との間に上記第1モータ・ジェネレータ4が配置され、この第1モータ・ジェネレータ4のロータ42の内部空間を通過するように、上記インプットシャフト2が配置されている。上述した如く、インプットシャフト2の後端に、上記キャリヤ55が連結されているため、このキャリヤ55が動力分配機構5における入力要素となっている。また、上記サンギヤ52に第1モータ・ジェネレータ4のロータ42が中空シャフト51を介して回転一体に連結されているため、このサンギヤ52が所謂反力要素となっている。更に、上記リングギヤ53は後述するアウトプットシャフト(駆動軸)9に回転一体に連結されている。
【0044】
上記リダクション機構7は、ラビニオ式の遊星歯車機構によって構成されている。つまり、このリダクション機構7は、フロントサンギヤ71、このフロントサンギヤ71よりも大径のリアサンギヤ72、ロングピニオンギヤ73、ショートピニオンギヤ74、リングギヤ75、上記ロングピニオンギヤ73とショートピニオンギヤ74とを自転可能に保持するキャリヤ76を備えた構成となっている。
【0045】
フロントサンギヤ71は、その回転を許可または規制する第1ブレーキ(摩擦係合要素)B1に連結されている。この第1ブレーキB1としては油圧制御式の摩擦係合装置が用いられている。
【0046】
リアサンギヤ72は、中空シャフト77によって第2モータ・ジェネレータ6のロータ62に回転一体に連結されている。
【0047】
ロングピニオンギヤ73は、ショートピニオンギヤ74を介してフロントサンギヤ71に噛み合っている。つまり、ショートピニオンギヤ74は、ロングピニオンギヤ73およびフロントサンギヤ71にそれぞれ噛み合っている。また、このロングピニオンギヤ73は、上記リアサンギヤ72およびリングギヤ75にそれぞれ噛み合っている。
【0048】
リングギヤ75は、その内周側がロングピニオンギヤ73に噛み合っている一方、このリングギヤ75の回転を許可または規制する第2ブレーキ(摩擦係合要素)B2に連結されている。この第2ブレーキB2としても油圧制御式の摩擦係合装置が用いられている。
【0049】
上記キャリヤ76にはアウトプットシャフト9が回転一体に連結されている。このアウトプットシャフト9は、上記インプットシャフト2と同軸上に配置されている。また、アウトプットシャフト9の前端は、動力分配機構5のリングギヤ53に回転一体に連結されている。アウトプットシャフト9の外側には上記中空シャフト77が配置されており、アウトプットシャフト9と中空シャフト77とは相対回転可能となっている。この中空シャフト77と第2モータ・ジェネレータ6のロータ62とは回転一体に連結されている。
【0050】
従って、上記リダクション機構7は、リアサンギヤ72が所謂入力要素であり、またキャリヤ76が出力要素となっている。また、第1ブレーキB1を係合させることにより変速比が「1」より大きい高速段が設定され、第1ブレーキB1に代えて第2ブレーキB2を係合させることにより、高速段より変速比の大きい低速段が設定されるように構成されている。この各変速段の間での変速は、車速や要求駆動力(もしくはアクセル開度)などの走行状態に基づいて実行される。より具体的には、変速段領域を予めマップ(変速線図)として定めておき、検出された運転状態に応じて何れかの変速段を設定するように制御される。その制御を行うためのマイクロコンピュータを主体とした電子制御装置(T−ECU)102が設けられている。
【0051】
また、上記アウトプットシャフト9にはパーキングギヤ93が回転一体に取り付けられており、このパーキングギヤ93に対向してパーキングロックポール94が配設されている。このパーキングロックポール94は、運転席近傍に配設された図示しないシフトレバーがパーキング位置に操作された場合に、上記パーキングギヤ93に係合することで、アウトプットシャフト9を回転不能に固定するものである。つまり、車両の移動を強制的に阻止するようになっている。
【0052】
一方、アウトプットシャフト9と、ディファレンシャル91とが、図示しないプロペラシャフトにより連結されている。また、ディファレンシャル91は内部に収容された図示しない差動機構を介してドライブシャフト92,92に連結され、これらドライブシャフト92,92には車輪(駆動輪)T,Tが取り付けられている。
【0053】
以下、各機構5,7の動作について説明する。
【0054】
動力分配機構5の作動として、キャリヤ55に入力されるエンジン1の出力トルクに対して、第1モータ・ジェネレータ4による反力トルクをサンギヤ52に入力すると、出力要素となっているリングギヤ53には、エンジン1から入力されたトルクより大きいトルクが出力として得られる。その場合、第1モータ・ジェネレータ4は、発電機として機能する。また、リングギヤ53の回転数(出力回転数)を一定とした場合、第1モータ・ジェネレータ4の回転数を増減変化させることにより、エンジン1の回転数を連続的に(無段階に)変化させることができる。即ち、エンジン1の回転数を例えば燃費が最も良好な回転数に設定する制御を、第1モータ・ジェネレータ4を制御することによって行うことができる。
【0055】
また、リダクション機構7の作動として、第1ブレーキB1を解放すると共に第2ブレーキB2を係合すれば、第2ブレーキB2によってリングギヤ75が固定される。これにより、低速段Lが設定され、第2モータ・ジェネレータ6の出力したトルクが変速比に応じて増幅されてアウトプットシャフト9に付加される。これに対して第1ブレーキB1を係合すると共に第2ブレーキB2を解放すれば、第1ブレーキB1によってフロントサンギヤ71が固定される。これにより、上記低速段Lより変速比の小さい高速段Hが設定される。この高速段Hにおける変速比は「1」より大きいので、第2モータ・ジェネレータ6の出力したトルクがその変速比に応じて増幅させられてアウトプットシャフト9に付加される。
【0056】
尚、各変速段L,Hが定常的に設定されている状態では、アウトプットシャフト9に付加されるトルクは、第2モータ・ジェネレータ6の出力トルクを変速比に応じて増大させたトルクとなるが、変速過渡状態では各ブレーキB1,B2でのトルク容量や回転数変化に伴う慣性トルクなどの影響を受けたトルクとなる。また、アウトプットシャフト9に付加されるトルクは、第2モータ・ジェネレータ6の駆動状態では、正トルクとなり、被駆動状態では負トルクとなる。
【0057】
上述したハイブリッドシステムは、エンジン1を可及的に効率の良い状態で運転して排ガス量を低減すると同時に燃費を改善させ、またエネルギ回生を行ってこの点でも燃費を改善することを主な目的としている。従って、大きな駆動力が要求されている場合には、エンジン1のトルクをアウトプットシャフト9に伝達している状態で、第2モータ・ジェネレータ6を駆動してそのトルクをアウトプットシャフト9に付加する。その場合、低車速の状態では、リダクション機構7を低速段Lに設定して付加するトルクを大きくし、その後、車速が増大した場合には、リダクション機構7を高速段Hに設定して、第2モータ・ジェネレータ6の回転数を低下させる。これは、第2モータ・ジェネレータ6の駆動効率を良好な状態に維持して燃費の悪化を防止するためである。
【0058】
従って、このハイブリッドシステムでは、第2モータ・ジェネレータ6を動作させている走行中にリダクション機構7による変速動作を実行する場合がある。その変速動作は、上述した各ブレーキB1,B2の係合・解放状態を切り換えることにより実行される。例えば、低速段Lから高速段Hに切り換える場合には、第2ブレーキB2を係合させていた状態からこれを解放させ、同時に第1ブレーキB1を係合させることになる。また、高速段Hから低速段Lに切り換える場合には、第1ブレーキB1を係合させていた状態からこれを解放させ、同時に第2ブレーキB2を係合させることになる。
【0059】
図3(a)は、上記動力分配機構5についての共線図を示している。この図3(a)に示すように、キャリヤ(C)55に入力されるエンジン(E/G)1からのトルクに対して、第1モータ・ジェネレータ(MG1)4による反力トルクをサンギヤ(S)52に入力すると、これらのトルクを加減算した大きさのトルクが、出力要素となっているリングギヤ(R)53に現れる。その場合、第1モータ・ジェネレータ4のロータ42がそのトルクによって回転し、第1モータ・ジェネレータ4は発電機として機能する。また、リングギヤ53の回転数(出力回転数)を一定とした場合、第1モータ・ジェネレータ4の回転数を変化させることにより、エンジン1の回転数を連続的に(無段階に)変化させることができる(図3(a)の各矢印を参照)。すなわち、エンジン1の回転数を例えば燃費が最も良い回転数に設定する制御を、第1モータ・ジェネレータ4を制御することによって行うことができる。
【0060】
さらに、図3(a)に一点鎖線で示すように、走行中にエンジン1を停止させていれば、第1モータ・ジェネレータ4が逆回転しており、その状態から第1モータ・ジェネレータ4を電動機として機能させて正回転方向にトルクを出力させると、キャリヤ55に連結されているエンジン1にこれを正回転させる方向のトルクが作用し、したがって第1モータ・ジェネレータ4によってエンジン1を始動(モータリングもしくはクランキング)することができる(図3(a)の破線を参照)。その場合、アウトプットシャフト9にはその回転を止める方向のトルクが作用する。したがって走行のための駆動トルクは、第2モータ・ジェネレータ6の出力するトルクを制御することにより維持でき、同時にエンジン1の始動を円滑に行うことができる。なお、この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
【0061】
また、図3(b)は、上記リダクション機構7についての共線図を示している。この図3(b)に示すように、第2ブレーキB2によってリングギヤ(R)75を固定すれば、低速段Lが設定され、第2モータ・ジェネレータ(MG2)6の出力したトルクが変速比に応じて増幅されてアウトプットシャフト(出力軸)9に付加される。これに対して第1ブレーキB1によってフロントサンギヤ(S1)71を固定すれば、低速段Lより変速比の小さい高速段Hが設定される。この高速段Hにおける変速比も「1」より大きいので、第2モータ・ジェネレータ6の出力したトルクがその変速比に応じて増大させられてアウトプットシャフト9に付加される。
【0062】
なお、各変速段L,Hが定常的に設定されている状態では、アウトプットシャフト9に付加されるトルクは、第2モータ・ジェネレータ6の出力トルクを変速比に応じて増大させたトルクとなるが、変速過渡状態では各ブレーキB1,B2でのトルク容量や回転数変化に伴う慣性トルクなどの影響を受けたトルクとなる。また、アウトプットシャフト9に付加されるトルクは、第2モータ・ジェネレータ6の駆動状態では、正トルクとなり、被駆動状態では負トルクとなる。
【0063】
−モード切り換え−
本実施形態に係るハイブリッドシステムの具体的なモードとしては、エンジン走行モード、電気自動車(EV)モード、ハイブリッドモードがあり、これらモードが切り換え可能となっている。
【0064】
エンジン走行モードが選択された場合は、エンジン1に燃料が供給されて、エンジン1が自律回転する一方、第2モータ・ジェネレータ6への電力の供給が停止される。エンジン1が自律回転している場合、エンジントルクは、インプットシャフト2、キャリヤ55、リングギヤ53を経由してアウトプットシャフト9に伝達される。アウトプットシャフト9のトルクは、プロペラシャフト、ディファレンシャル91、ドライブシャフト92,92を経由して車輪T,Tに伝達されて、駆動力が発生する。
【0065】
これに対し、電気自動車モードが選択された場合は、第2モータ・ジェネレータ6が電動機として起動され、この第2モータ・ジェネレータ6のトルクがリダクション機構7を経由し、アウトプットシャフト9、ディファレンシャル91、ドライブシャフト92,92を介して車輪T,Tに伝達される一方、エンジン1には燃料が供給されない。
【0066】
また、ハイブリッドモードが選択された場合は、エンジン1が自律回転し、且つ第2モータ・ジェネレータ6に電力が供給され、エンジン1のトルクおよび第2モータ・ジェネレータ6のトルクが、共に車輪T,Tに伝達される。
【0067】
このように、車両HVは、エンジントルクを、動力分配機構5を経由させて、車輪T,Tと第1モータ・ジェネレータ4とに機械的に分配できるとともに、エンジン1または第2モータ・ジェネレータ6のうちの少なくとも一方を駆動力源とすることのできる機械分配式のハイブリッド車である。更に、エンジントルクを動力分配機構5に伝達する場合、エンジントルクの一部が第1モータ・ジェネレータ4に伝達されるとともに、動力分配機構5のサンギヤ52とキャリヤ55とリングギヤ53との差動機能により、第1モータ・ジェネレータ4が反力要素として機能する。従って、上述した如く第1モータ・ジェネレータ4の回転速度を制御することにより、エンジン回転数を無段階に(連続的に)制御することが可能である。つまり、動力分配機構5は無段変速機としての機能をも有している。
【0068】
上記電気自動車モードまたはハイブリッドモードが選択された場合は、リダクション機構7を制御するために、上述した如く2種類の変速モードを選択可能であり、この変速モードに基づいて、リダクション機構7の変速比が制御される。この変速モードは、車速、要求駆動力などに基づいて判断され、低速モードまたは高速モードのいずれかを選択できる。要求駆動力は、例えばアクセル開度センサ等の信号に基づいて判断される。例えば、車速が所定車速以下であり、且つアクセル開度が所定値以上である場合は、低速モードが選択される。これに対して、車速が所定車速を超え、且つアクセル開度が所定値未満である場合は、高速モードが選択される。
【0069】
低速モードが選択された場合は、第1ブレーキB1が解放され、且つ第2ブレーキB2が係合される。この低速モードが選択され、且つ第2モータ・ジェネレータ6のトルクがリアサンギヤ72に伝達された場合は、リングギヤ75が反力要素となり、リアサンギヤ72のトルクが、キャリヤ76、アウトプットシャフト9、ディファレンシャル91を経由して車輪T,Tに伝達される。ここで、第2モータ・ジェネレータ6の回転速度よりも、アウトプットシャフト9の回転速度の方が低速となる。尚、低モードが選択された場合におけるリダクション機構7の変速比は、「ロー(最大変速比)」である。
【0070】
一方、高速モードが選択された場合は、第2ブレーキB2が解放され、且つ第1ブレーキB1が係合される。また、第2モータ・ジェネレータ6が電動機として駆動され、フロントサンギヤ71が反力要素となり、リアサンギヤ72のトルクが、キャリヤ76、アウトプットシャフト9、ディファレンシャル91を経由して車輪T,Tに伝達される。尚、第2モータ・ジェネレータ6の回転速度よりも、アウトプットシャフト9の回転速度の方が低速となる。尚、高速モードが選択された場合におけるリダクション機構7の変速比は「ハイ(小変速比)」であり、上記低速モードが選択された場合に設定されるリダクション機構7の変速比よりも小さい。
【0071】
更に、車両HVが惰力走行する場合は、車両HVの運動エネルギを、車輪T,Tから第2モータ・ジェネレータ6に伝達するとともに、この第2モータ・ジェネレータ6で発生した電力を蓄電装置8に充電することが可能である。
【0072】
ところで、エンジン1への燃料の供給が停止している場合において、エンジン1を始動させる(クランキングさせる)条件が成立した場合は、上述した如く第1モータ・ジェネレータ4に電力を供給して、第1モータ・ジェネレータ4を電動機として駆動させ、この第1モータ・ジェネレータ4のトルクを、動力分配機構5、インプットシャフト2を経由させてエンジン1に伝達して、エンジン回転数を上昇させるとともに、燃料の供給および燃焼を行い、エンジン回転数が自律回転可能な回転数となった場合に、第1モータ・ジェネレータ4によるクランキングを終了する。
【0073】
尚、車両の後退(リバース)時には、第2モータ・ジェネレータ6が逆回転することにより駆動力を得るようになっている。
【0074】
上述したような第2モータ・ジェネレータ6のトルク制御や各ブレーキB1,B2の係合・解放タイミング制御は第2モータ・ジェネレータ6の回転数に基づいたフィードバック制御により実行される。例えば、第2モータ・ジェネレータ6の現在の回転数と、アウトプットシャフト9の回転数等に基づいて求められる変速後の適正な第2モータ・ジェネレータ6の回転数(目標回転数)とを比較し、変速後の回転数が目標回転数に一致するように第2モータ・ジェネレータ6に対する供給電流のフィードバック制御が行われる。また、アウトプットシャフト9の回転数に第2モータ・ジェネレータ6の回転数が同期したタイミングで各ブレーキB1,B2の係合・解放動作が行われるように、これら係合・解放タイミングのフィードバック制御も行われる。
【0075】
−油圧制御装置−
本実施形態に係るハイブリッド車は、上記各ブレーキB1,B2に対して油圧を給排してその係合・解放の制御を行うための油圧制御装置200が設けられている。この油圧制御装置200は、図4に示すように、機械式オイルポンプMOPおよび電動オイルポンプEOPを備えたポンプユニットPUと、これらのオイルポンプMOP,EOPで発生させた油圧をライン圧に調圧するとともに、そのライン圧を元圧として調圧した油圧を上記各ブレーキB1,B2に対して給排し、かつ適宜の箇所に潤滑および冷却のためのオイルを供給する油圧回路201とを備えている。
【0076】
上記機械式オイルポンプMOPは、エンジン1によって駆動されて油圧を発生するポンプであって、例えば上記ダンパ機構21の出力側に同軸上に配置され、エンジン1からトルクを受けて動作するようになっている。
【0077】
一方、電動オイルポンプEOPは、図示しないモータ(電動機)によって駆動されるポンプであって、ケーシング(図示せず)の外部などの適宜の箇所に取り付けられ、バッテリ204(補機用バッテリ)などの蓄電装置から電力を受けて動作し、油圧を発生するようになっている。尚、この電動オイルポンプEOPとしては、専用のモータによって駆動するものに限らず、上記何れかのモータ・ジェネレータ4,6によって駆動されるようになっていてもよい。
【0078】
また、上記油圧回路201は、複数のソレノイドバルブや切換バルブあるいは調圧バルブを備え、調圧や油圧の給排を電気的に制御できるように構成されている。尚、この油圧回路201の回路構成は従来より公知であるため、ここでの説明は省略する。
【0079】
また、各オイルポンプMOP,EOPの吐出側には、それぞれのオイルポンプMOP,EOPの吐出圧が所定圧以上となった場合に開放する逆止弁202,203が設けられている。そして、上記油圧回路201に対して各オイルポンプMOP,EOPは互いに並列に接続されている。また、ライン圧を調圧するバルブ(図示せず)は、吐出量を増大させてライン圧を高くし、これとは反対に吐出量を減じてライン圧を低くする二つの状態にライン圧を制御するように構成されている。
【0080】
−電動オイルポンプEOPの制御系−
次に、電動オイルポンプEOPの駆動を制御するための制御系の概略構成について説明する。図4に示すように、上記油圧制御装置200には電動オイルポンプEOPの駆動を制御するためのポンプ制御部300が接続されている。このポンプ制御部300は各種検知信号を受けて電動オイルポンプEOPに回転指令信号を送信し、この電動オイルポンプEOPの回転数(オイル吐出量)を制御するようになっている。以下、具体的に説明する。
【0081】
上記ポンプ制御部300は、車両の走行速度を検知する車速センサ301、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ302、ポンプユニットPUに貯留されているオイルの温度を検出する油温センサ303、ポンプユニットPUから吐出されるオイルの圧力を検出する油圧センサ304、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ305などが接続されており、これらの各センサ301〜305から検知信号が入力されるようになっている。
【0082】
また、このポンプ制御部300は、上記ライン圧をHI(高圧側)とLO(低圧側)とに切り換え可能とするためのライン圧指令信号を油圧制御装置200に送信するようになっている。
【0083】
−車両停車中のエンジン始動動作−
上述の如く構成された車両における停車中のエンジン始動動作としては、上述した如く第1モータ・ジェネレータ4を電動機として駆動させてエンジン1をクランキングさせる。この際、第1モータ・ジェネレータ4の回転力は動力分配機構5を経由するため、この回転力の一部が、アウトプットシャフト9に伝達され、このアウトプットシャフト9を逆転させる方向へのトルクとして作用することになる。言い換えると、第1モータ・ジェネレータ4を電動機として機能させ、そのトルクを動力分配機構5を介してエンジン1に伝達してクランキング(モータリング)することによりエンジン1の始動を行う際、第1モータ・ジェネレータ4によってサンギヤ52に、これを正回転させる方向にトルクを加えると、リングギヤ53には、これを逆回転させる方向にトルク(反力)が作用する。このリングギヤ53はアウトプットシャフト9に連結しているため、エンジン1の始動に伴うトルクが、車両を後退させる方向のトルクとして作用することになる。
【0084】
このため、このアウトプットシャフト9の逆転を阻止して車両の停車状態を維持するべく、上記第2モータ・ジェネレータ6を駆動させ、上記第1モータ・ジェネレータ4からアウトプットシャフト9に付加されるトルク(逆転方向のトルク)とは反対方向のトルクをアウトプットシャフト9に付加し、これらトルクを相殺させるようにしている。この際、第2モータ・ジェネレータ6のトルクをアウトプットシャフト9に伝達するためには、上記リダクション機構7の第1ブレーキB1または第2ブレーキB2の少なくとも何れかを係合させておく必要がある。本実施形態では、第2ブレーキB2を係合させるようにしている。このため、第2ブレーキB2を係合状態にするための油圧(作動圧)が必要であるので、ポンプユニットPUを駆動させることでこの油圧を確保するようにしている。
【0085】
−ハイブリッドシステムの起動動作−
本実施形態では、上述した車両停車中のエンジン始動動作が行われることを考慮し、このような車両停車中におけるハイブリッドシステムの起動動作に際し、オイル温度に応じてポンプユニットPUの駆動形態を異ならせるようにしている。つまり、オイル温度が比較的高い場合と、オイル温度が低い場合とでポンプユニットPUの駆動形態を異ならせている。
【0086】
より具体的には、オイルの温度が低い場合であって、電力消費量などを考慮すれば電動オイルポンプEOPを長期間に亘って駆動することを避ける必要がある場合には、この電動オイルポンプEOPの駆動回数に制限を設け、この制限の範囲内で電動オイルポンプEOPを駆動して、上記第2ブレーキB2を係合させるための油圧(本発明でいう車両起動油圧)を確保してREADYON状態(車両の走行が可能な状態)とする。そして、上記の制限を超えるような車両起動要求がなされた場合には、電動オイルポンプEOPを駆動させることなく、エンジン1の始動に伴う機械式オイルポンプMOPの駆動によって、上記第2ブレーキB2を係合させるための油圧(車両起動油圧)を確保してREADYON状態とするようにしている。
【0087】
以下、この車両停車中におけるハイブリッドシステム起動時の具体的な制御動作の手順を図5のフローチャートに沿って説明する。この図5に示すシステム起動制御ルーチンは、車両の停車中であって且つエンジン1の停止中において所定時間(例えば数msec)毎に繰り返して実行される。
【0088】
先ず、ステップST1において、ドライバからのスタートボタンのON操作等によるシステム起動要求(STON:車両起動要求)がなされたか否かの判定を行う。システム起動要求がなされておらず、このステップST1でNo判定された場合には、そのまま本ルーチンを終了する。
【0089】
一方、ドライバからシステム起動要求がなされ、ステップST1でYes判定されると、ステップST2に移り、電動オイルポンプEOPの連続駆動が可能な状況であるか(電動オイルポンプEOPの連続駆動を許可できる状況であるか)否かを判断する(ポンプ連続駆動が許容可能な状況であるか否かの連続駆動判断手段による判断動作)。
【0090】
具体的には、上記油温センサ303によって検知されるオイル温度が所定温度(例えば30℃)以上である場合には電動オイルポンプEOPの連続駆動が許容可能な状況であると判断する。
【0091】
詳しくは、オイル温度が十分に高い場合には、オイルの粘度が低く、電動オイルポンプEOPを駆動させるための駆動電流値が低いため、この電動オイルポンプEOPの駆動に要する電力は小さくて済み、また、電動オイルポンプEOPの発熱量も少ない。このため、蓄電装置8の蓄電量が不足する状況が生じ難く、また、電動オイルポンプEOPの寿命に悪影響を及ぼすことも少ない。従って、このようにオイル温度が十分に高い場合には、電動オイルポンプEOPの連続駆動を許可できると判断している。
【0092】
一方、オイル温度が低い場合には、オイルの粘度が高く、電動オイルポンプEOPを駆動させるための駆動電流値が高くなるため、この電動オイルポンプEOPの駆動に要する電力は大きくなり、また、電動オイルポンプEOPの発熱量も大きくなる。このため、蓄電装置8の蓄電量が不足する状況が生じる可能性があり、また、電動オイルポンプEOPの寿命に悪影響を及ぼす可能性もある。従って、このようにオイル温度が低い場合には、電動オイルポンプEOPの連続駆動が許可できない(電動オイルポンプEOPの連続駆動に制限を与えるべきである)と判断している。
【0093】
そして、オイル温度が上記所定温度以上であって、電動オイルポンプEOPの連続駆動が許容可能な状況であると判断され、ステップST2でYes判定された場合にはステップST3に移る。このステップST3では、上記ポンプ制御部300に予め備えられているSTONカウンタのカウント値がクリアされる。このSTONカウンタは、ドライバのスタートボタンのON操作等によるシステム起動要求が行われた回数を積算するためのカウンタであって、このステップST3でクリアされるまでの間は、ドライバからのシステム起動要求が行われる度に「1」ずつ積算(カウントアップ)されていく(後述するステップST4でのカウントアップ動作)。
【0094】
ステップST5では、上記STONカウンタのカウント値が所定値(例えば「4」)以上であるか否かを判定する。この所定値はこれに限定されるものではない。上述した如く、オイル温度が上記所定温度以上であって、電動オイルポンプEOPの連続駆動が許容可能な状況であると判断された場合には、STONカウンタのカウント値はクリアされているため(ステップST3)、このステップST5ではNo判定され、ステップST7に移る。
【0095】
このステップST7では、電動オイルポンプEOPの連続駆動を行って、動力伝達機構10にオイルを供給していき、この油圧が上記第2ブレーキB2を係合させるのに十分な圧力(例えば550kPa)まで上昇した時点で車両が走行可能な状態になったとして、READYON許可と判定する(車両走行可能状態判定手段の判定動作)。つまり、機械式オイルポンプMOPを駆動させることなく(エンジン1を始動させることなく)、電動オイルポンプEOPの連続駆動のみで上記第2ブレーキB2を係合させるのに十分な油圧を得て、READYON許可と判定する。このように、オイル温度が上記所定温度以上である場合には、ドライバからのシステム起動要求が行われる度に上記ステップST7におけるREADYON許可のための動作を行うことになる。
【0096】
一方、上記オイル温度が上記所定温度未満であって、電動オイルポンプEOPの連続駆動を許可できない状況であると判断され、ステップST2でNo判定された場合にはステップST4に移る。このステップST4では、上記STONカウンタのカウント値をカウントアップする。
【0097】
その後、ステップST5に移り、上記STONカウンタのカウント値が上記所定値未満である場合には、上述したステップST7の動作によってREADYON許可の判定動作を行う。つまり、上記電動オイルポンプEOPに与えられている駆動回数の制限の範囲内でのシステム起動要求であるとして、電動オイルポンプEOPのみの駆動により上記第2ブレーキB2を係合させるための油圧を確保するべく、上述したステップST7の動作によってREADYON許可の判定動作を行う(車両走行可能状態判定手段の判定動作)。このようにオイル温度が上記所定温度未満で電動オイルポンプEOPのみの駆動によりREADYONする際には、基本的に長時間の連続動作を許容している状態ではないため、READYONの後、速やかにエンジン1の起動を行うようにしている。また、READYONの後は、油圧を低い状態にしてしまうと、電動オイルポンプEOPの供給能力では油圧の切り替え応答性が遅く、ドライバがアクセルペダルを踏み込んだ際の第2モータ・ジェネレータ6のトルク立ち上がり応答性に追従できない可能性があるので、エンジン1の起動が完了するまでは油圧を高い状態にしておくか、または、第2モータ・ジェネレータ6のトルクに制限を与えておく。
【0098】
一方、上記オイル温度が上記所定値未満である間に、ドライバからのシステム起動要求(スタートボタンのON操作)が複数回行われ、その都度に、上記STONカウンタのカウント値がステップST4においてカウントアップされていくと、上記ステップST5で、STONカウンタのカウント値が所定値以上になったと判定され(Yes判定され)、ステップST6に移る。
【0099】
上記ステップST6では、電動オイルポンプEOPを駆動させることなく、上述したエンジン1のクランキングを行い、エンジン1を起動させ、機械式オイルポンプMOPを駆動させて、動力伝達機構10へのオイル供給動作を行う。そして、この動力伝達機構10に供給されるオイルの油圧が上記第2ブレーキB2を係合させるのに十分な圧力まで上昇した時点で車両が走行可能な状態になったとして、READYON許可と判定する(車両走行可能状態判定手段の判定動作)。つまり、電動オイルポンプEOPを駆動させることなく、機械式オイルポンプMOPの駆動のみで上記第2ブレーキB2を係合させるのに十分な油圧を得て、READYON許可と判定する。
【0100】
このように、オイル温度が上記所定温度未満である間に、ドライバからのシステム起動要求が複数回行われる状況では、その回数を制限してステップST7でのREADYON許可の判定動作を行う。そして、上記の制限を超えてシステム起動要求がなされた場合(例えば、オイル温度が上昇することなしに、ドライバによるスタートボタンのON/OFF操作が繰り返された場合)には、電動オイルポンプEOPを駆動させることなく、エンジン1の起動に伴う機械式オイルポンプMOPの駆動を行ってステップST6でのREADYON許可の判定動作を行うようにしている。
【0101】
尚、上述した如く、電動オイルポンプEOPを駆動させることなくエンジン1のクランキングを行った場合、その初期時(クランキング開始時)には第2ブレーキB2を係合させるだけの油圧が確保できていないため、第2モータ・ジェネレータ6を駆動させたとしても、上記第1モータ・ジェネレータ4からアウトプットシャフト9に付加されるトルク(逆転方向のトルク)とは反対方向のトルクを付加することができない。従って、この場合には、上記パーキングロックポール94がパーキングギヤ93に係合していることで、アウトプットシャフト9は回転不能に固定されているため、これにより車両の移動が強制的に阻止されることになる。この場合、第2モータ・ジェネレータ6への電力供給は停止され、この第2モータ・ジェネレータ6からアウトプットシャフト9へのトルクの付加は行われない。このように、電動オイルポンプEOPを駆動させることなくエンジン1のクランキングを行う場合、そのクランキング時の反力を、パーキングロックポール94がパーキングギヤ93に係合させることや、その他、フットブレーキ等の車両停止手段で受け止め、車両が動かないようにしている。
【0102】
図6は、電動オイルポンプEOPの駆動のみでREADYON許可を行う場合のタイミングチャートを示している。つまり、図5のフローチャートにおいてステップST7での動作の一例を示している。
【0103】
尚、この図6では、上から順に、READYON許可フラグ、電動オイルポンプEOPの回転数、エンジン起動要求信号、第2モータ・ジェネレータ(MG2)トルク制限要求フラグ、エンジン回転数、ライン圧指令信号、トランスミッション油圧値(動力伝達機構10に供給されるオイルの油圧)それぞれの変化を示している。
【0104】
ここで、READYON許可フラグは、このフラグがOFFからONに切り換わった時点でREADYON状態(車両の走行が可能な状態)とされる。エンジン起動要求信号は、エンジン1の始動条件が成立した場合にOFFからONに切り換わる。このエンジン起動要求信号のONに伴い、上記第1モータ・ジェネレータ4を電動機として機能させて、そのトルクを動力分配機構5を介してエンジン1に伝達するクランキングが開始されることになる。第2モータ・ジェネレータトルク制限要求フラグは、このフラグがONである間、第2モータ・ジェネレータ6への電力の供給を禁止するためのものである。つまり、上記第2ブレーキB2を係合させるだけの油圧が確保できていない状態で第2モータ・ジェネレータ6を駆動させると、第2ブレーキB2において滑りが生じ、この第2モータ・ジェネレータ6からアウトプットシャフト9へのトルクの伝達が十分に行えない状況となるため、この第2モータ・ジェネレータトルク制限要求フラグをONにしておくことで、第2モータ・ジェネレータ6の駆動を禁止している。ライン圧指令信号は、上記ライン圧をHI(高圧側)とLO(低圧側)とに切り換え可能とするための信号であって、油圧制御装置200に送信される。このライン圧指令信号としては、電動オイルポンプEOPの駆動時には、トランスミッション油圧を急速に高めるべくHIに設定される。また、電動オイルポンプEOPの駆動時に比べて機械式オイルポンプMOPの駆動時には、要求圧値の上昇に対する応答性が高いので、ハイブリッドシステム起動時において機械式オイルポンプMOPの駆動に伴って油圧が十分に上昇した後には、ライン圧指令信号はLOに設定される。以下、各信号および値の変化状態について説明する。
【0105】
図6において、先ず、タイミングT1で、ドライバによるスタートボタンのON操作によるシステム起動要求(STON)がなされると、電動オイルポンプEOPに通電が行われると共に、上記ライン圧指令信号はHIに設定される。これにより、電動オイルポンプEOPが比較的高速度で回転駆動し、トランスミッション油圧を上昇させていく。また、システム起動要求に伴って第2モータ・ジェネレータトルク制限要求フラグがOFFからONに切り換わり、これにより、第2モータ・ジェネレータ6への電力の供給は禁止される。つまり、第2モータ・ジェネレータ6の駆動は行われない状態にする。
【0106】
その後、上記電動オイルポンプEOPの駆動に伴ってトランスミッション油圧が所定値(上記第2ブレーキB2を係合させるだけの油圧値)まで上昇すると(図中のタイミングT2)、READYON許可フラグがOFFからONに切り換わる。これと同時に、エンジン起動要求信号がOFFからONに切り換わると共に第2モータ・ジェネレータトルク制限要求フラグがONからOFFに切り換わり、第2モータ・ジェネレータ6への電力の供給が許可される。これにより、上記第2ブレーキB2を係合させた状態で第2モータ・ジェネレータ6を駆動させることで、車両の停車状態を維持するためのトルクを第2モータ・ジェネレータ6からアウトプットシャフト9に付加しながら、上記第1モータ・ジェネレータ4を電動機として機能させる上記エンジン1のクランキングが開始される。
【0107】
このエンジン1の始動に伴って機械式オイルポンプMOPが駆動することになり、トランスミッション油圧は更に上昇していく。
【0108】
そして、エンジン回転数が自律回転可能な回転数となった場合に、第1モータ・ジェネレータ4によるクランキングを終了する(図中のタイミングT3)。この際、電動オイルポンプEOPを停止すると共に、ライン圧指令信号をHIからLOに切り換える。
【0109】
このように、電動オイルポンプEOPの駆動のみでREADYON許可を行う場合には、図6におけるタイミングT2でREADYON許可フラグがOFFからONに切り換わり、READYON状態(車両の走行が可能な状態)とされ、このREADYON状態を極めて早期に得ることができる。
【0110】
図7は、機械式オイルポンプMOPの駆動のみでREADYON許可を行う場合のタイミングチャートを示している。つまり、図5のフローチャートにおいてステップST6での動作を示している。
【0111】
尚、この図7でも、上から順に、READYON許可フラグ、電動オイルポンプEOPの回転数、エンジン起動要求信号、第2モータ・ジェネレータ(MG2)トルク制限要求フラグ、エンジン回転数、ライン圧指令信号、トランスミッション油圧値(動力伝達機構10に供給されるオイルの油圧)それぞれの変化を示している。
【0112】
図7において、先ず、タイミングT1で、ドライバによるスタートボタンのON操作によるシステム起動要求(STON)がなされると、電動オイルポンプEOPに通電が行われることなく、エンジン起動要求信号がOFFからONに切り換わると共に、第2モータ・ジェネレータトルク制限要求フラグがOFFからONに切り換わる。また、上記ライン圧指令信号はHIに設定される。これにより、上記第1モータ・ジェネレータ4を電動機として機能させる上記エンジン1のクランキングが開始され、このエンジン1の始動に伴って機械式オイルポンプMOPが駆動することになり、トランスミッション油圧は上昇していく。この場合、上述した如く、エンジン1の始動初期時(クランキング開始時)には第2ブレーキB2を係合させるだけの油圧が確保できていないため、第2モータ・ジェネレータ6を駆動させたとしても、上記第1モータ・ジェネレータ4からアウトプットシャフト9に付加されるトルク(逆転方向のトルク)とは反対方向のトルクを付加することができない。このため、第2モータ・ジェネレータトルク制限要求フラグをONにしておき、第2モータ・ジェネレータ6への電力の供給は禁止される。つまり、第2モータ・ジェネレータ6の駆動は行われない状態にする。そして、この場合には、上記パーキングロックポール94をパーキングギヤ93に係合することで、アウトプットシャフト9を回転不能に固定し、車両の移動を強制的に阻止している。
【0113】
その後、エンジン回転数が自律回転可能な回転数となった場合に、第1モータ・ジェネレータ4によるクランキングを終了する(図中のタイミングT4)。
【0114】
このエンジン回転数の上昇に伴って機械式オイルポンプMOPから吐出されるオイルによるトランスミッション油圧が所定値(上記第2ブレーキB2を係合させるだけの油圧値)まで上昇すると(図中のタイミングT5)、READYON許可フラグがOFFからONに切り換わる。これと同時に、第2モータ・ジェネレータトルク制限要求フラグがONからOFFに切り換わり、第2モータ・ジェネレータ6への電力の供給が許可される。これにより、上記第2ブレーキB2を係合させた状態で第2モータ・ジェネレータ6を駆動させることで、車両の停車状態を維持するためのトルクを第2モータ・ジェネレータ6からアウトプットシャフト9に付加することができる。つまり、上記パーキングロックポール94とパーキングギヤ93との係合による停車維持状態から、第2モータ・ジェネレータ6よりアウトプットシャフト9に付加するトルクによる停車維持状態に移行することになる。また、この際、ライン圧指令信号をHIからLOに切り換える。
【0115】
このように、機械式オイルポンプMOPの駆動のみでREADYON許可を行う場合には、図7におけるタイミングT5でREADYON許可フラグがOFFからONに切り換わってREADYON状態(車両の走行が可能な状態)とされ、電動オイルポンプEOPのみが駆動される期間を設けないことで、このREADYON状態を早期に得ることができる。
【0116】
以上説明したように、本実施形態では、車両停車中のシステム起動時に、オイルの温度が低い場合であって電動オイルポンプEOPを長期間に亘って駆動することを避ける必要がある場合には、この電動オイルポンプEOPの駆動回数に制限を設け、この制限の範囲内で電動オイルポンプEOPを駆動して、上記第2ブレーキB2を係合させるための油圧を確保してREADYON状態としている。そして、上記の制限を超えるような車両起動要求がなされた場合には、電動オイルポンプEOPを駆動させることなく、エンジン1の始動に伴う機械式オイルポンプMOPの駆動によって、上記第2ブレーキB2を係合させるための油圧を確保してREADYON状態としている。このため、蓄電装置8の蓄電量の不足を招いたり、電動オイルポンプEOPの寿命に悪影響を及ぼしたりすることなしに、READYON状態となるタイミングを早めることができ、車両起動要求がなされてから車両が走行可能な状態になったと判定されるまでの時間を短縮化することができる。
【0117】
(変形例)
次に、本発明の変形例について説明する。上述した実施形態では、オイルの温度が低い場合であって電動オイルポンプEOPを長期間に亘って駆動することを避ける必要がある場合には、この電動オイルポンプEOPの駆動回数に制限を設け、この制限の範囲内で電動オイルポンプEOPを駆動していた。
【0118】
本例はそれに代えて、オイルの温度が低い場合であって電動オイルポンプEOPを長期間に亘って駆動することを避ける必要がある場合には、このオイルの温度が低い状態が継続している間における電動オイルポンプEOPの累積駆動時間に制限を設け、この制限の範囲内で電動オイルポンプEOPを駆動するようにしている。
【0119】
つまり、ドライバからのスタートボタンのON等によるシステム起動要求が行われた際の電動オイルポンプEOPの駆動時間を累積していく累積タイマを上記ポンプ制御部300に備えさせ、この累積駆動時間が所定時間(例えば30sec:駆動制限時間)に達するまでは、上述した図5におけるステップST7の動作、即ち、電動オイルポンプEOPのみの駆動によってREADYON許可の判定動作を行う。即ち、上記電動オイルポンプEOPに与えられている累積駆動時間の制限の範囲内でのシステム起動要求であるとして、電動オイルポンプEOPのみの駆動により上記第2ブレーキB2を係合させるための油圧を確保するべく、上述したステップST7の動作によってREADYON許可の判定動作を行う。
【0120】
一方、累積駆動時間が所定時間(例えば30sec)に達した場合には、上述した図5におけるステップST6の動作、つまり、電動オイルポンプEOPを駆動させることなく、上述したエンジン1のクランキングを行ってエンジン1を起動させ、機械式オイルポンプMOPを駆動させて、動力伝達機構10へのオイル供給動作を行う。そして、この動力伝達機構10に供給されるオイルの油圧が上記第2ブレーキB2を係合させるのに十分な圧力まで上昇した時点で車両が走行可能な状態になったとして、READYON許可と判定する。
【0121】
本例においても上述した実施形態の場合と同様に、蓄電装置8の蓄電量の不足を招いたり、電動オイルポンプEOPの寿命に悪影響を及ぼしたりすることなしに、READYON状態となるタイミングを早めることができ、車両起動要求がなされてから車両が走行可能な状態になったと判定されるまでの時間を短縮化することができる。
【0122】
尚、本例の場合、電動オイルポンプEOPの駆動途中(第2ブレーキB2を係合させるための油圧が未だ確保できていない状態)で、その累積駆動時間が駆動制限時間に達した場合の動作としては以下の2つが挙げられる。
【0123】
先ず、第1の動作は、累積駆動時間が駆動制限時間に達した時点で、電動オイルポンプEOPを停止し、同時に、エンジン1のクランキングを行ってエンジン1を起動させるものである。つまり、累積駆動時間が駆動制限時間に達した時点から、機械式オイルポンプMOPの駆動により上記第2ブレーキB2を係合させるための油圧を確保するといった動作である。
【0124】
また、第2の動作は、累積駆動時間が駆動制限時間に達した際のシステム起動動作では、電動オイルポンプEOPのみの駆動によって上記第2ブレーキB2を係合させるための油圧を確保し、次回のシステム起動動作において、未だオイル温度が低い場合には、エンジン1のクランキングを行ってエンジン1を起動させて、機械式オイルポンプMOPのみの駆動により上記第2ブレーキB2を係合させるための油圧を確保するといった動作である。
【0125】
−他の実施形態−
以上説明した実施形態および変形例は2つのモータ・ジェネレータ4,6を備えたハイブリッド車に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、3つ以上のモータ・ジェネレータを備え、そのうちの少なくとも一つが車両の走行駆動力のアシストを行うハイブリッド車に適用することも可能である。
【0126】
また、ハイブリッド車に限らず、エンジンのみを駆動源とする車両であってアイドリングストップ制御を行う車両に対しても本発明は適用可能である。つまり、本発明は機械式オイルポンプMOPと電動オイルポンプEOPとを併用したオイルポンプユニットを備えた車両であれば適用が可能である。
【0127】
また、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)ハイブリッド車ばかりでなく、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)ハイブリッド車、4WD(4ホイールドライブ)ハイブリッド車にも適用可能である。また、ハイブリッドシステムのギヤトレイン構成も上記実施形態のものに限定されることはない。
【0128】
また、上記実施形態において、電動オイルポンプEOPに与えられている駆動制限回数は常に一定の値である必要はなく、状況に応じて適宜変更するようにしてもよい。例えば、オイル温度が低いほど、この駆動制限回数が小さな値となるようにすることで、蓄電装置8の蓄電量の不足や、電動オイルポンプEOPの寿命への悪影響を確実に回避できるようにするものである。同様に、上記変形例において、電動オイルポンプEOPに与えられている制限累積駆動時間も常に一定の値である必要はなく、状況に応じて適宜変更するようにしてもよい。例えば、オイル温度が低いほど、この制限累積駆動時間が短くなるようにするものなどが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】実施形態に係るハイブリッド車に搭載されたハイブリッドシステムの概略構成を示す図である。
【図2】ハイブリッドシステムのギヤトレインを模式的に示す図である。
【図3】図3(a)は動力分配機構についての共線図であり、図3(b)はリダクション機構についての共線図である。
【図4】油圧制御装置の制御系を示すブロック図である。
【図5】停車中におけるシステム起動時の制御動作の手順を示すフローチャート図である。
【図6】電動オイルポンプの駆動のみでREADYON許可を行う場合のタイミングチャート図である。
【図7】機械式オイルポンプの駆動のみでREADYON許可を行う場合のタイミングチャート図である。
【符号の説明】
【0130】
1 エンジン(内燃機関)
4 第1モータ・ジェネレータ(第1の電動機)
6 第2モータ・ジェネレータ(第2の電動機)
7 リダクション機構(変速機)
10 動力伝達機構
HV ハイブリッド車(車両)
MOP 機械式オイルポンプ
EOP 電動オイルポンプ
T 車輪(駆動輪)
B1,B2 ブレーキ(摩擦係合要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプと、電動機によって駆動される電動オイルポンプとを備え、駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対して上記機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされた車両の制御装置において、
上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を所定の車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断する連続駆動判断手段と、
上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合には、上記車両起動要求に従って電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する一方、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間は、上記車両起動要求が所定の起動要求制限回数に達するまでは、電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定し、この電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間に上記車両起動要求が上記起動要求制限回数に達した場合には、電動オイルポンプを駆動させることなく内燃機関を起動させて機械式オイルポンプの駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する車両走行可能状態判定手段とを備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプと、電動機によって駆動される電動オイルポンプとを備え、駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対して上記機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされた車両の制御装置において、
上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を所定の車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断する連続駆動判断手段と、
上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合には、上記車両起動要求に従って電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する一方、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間は、その間における上記電動オイルポンプの累積駆動時間が所定の駆動制限時間に達するまでは、電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定し、この電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間に上記電動オイルポンプの累積駆動時間が上記駆動制限時間に達した場合には、電動オイルポンプを駆動させることなく内燃機関を起動させて機械式オイルポンプの駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する車両走行可能状態判定手段とを備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対し、内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプおよび電動機によって駆動される電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされていると共に、車両停車状態での内燃機関の始動時、上記動力伝達機構に備えられた摩擦係合要素を上記供給されたオイルの油圧により係合させながら内燃機関の始動動作を行うようにした車両の制御装置において、
上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を上記摩擦係合要素の係合に必要な車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断する連続駆動判断手段と、
上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合には、上記車両起動要求に従って電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する一方、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間は、上記車両起動要求が所定の起動要求制限回数に達するまでは、電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定し、この電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間に上記車両起動要求が上記起動要求制限回数に達した場合には、電動オイルポンプを駆動させることなく内燃機関を起動させて機械式オイルポンプの駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する車両走行可能状態判定手段とを備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対し、内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプおよび電動機によって駆動される電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされていると共に、車両停車状態での内燃機関の始動時、上記動力伝達機構に備えられた摩擦係合要素を上記供給されたオイルの油圧により係合させながら内燃機関の始動動作を行うようにした車両の制御装置において、
上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を上記摩擦係合要素の係合に必要な車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断する連続駆動判断手段と、
上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合には、上記車両起動要求に従って電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する一方、上記電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間は、その間における上記電動オイルポンプの累積駆動時間が所定の駆動制限時間に達するまでは、電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定し、この電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間に上記電動オイルポンプの累積駆動時間が上記駆動制限時間に達した場合には、電動オイルポンプを駆動させることなく内燃機関を起動させて機械式オイルポンプの駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する車両走行可能状態判定手段とを備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプと、電動機によって駆動される電動オイルポンプとを備え、駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対して上記機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされた車両の制御装置において、
上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を所定の車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断する連続駆動判断手段と、
上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況である場合には、上記車両起動要求に従って電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する車両走行可能状態判定手段とを備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプと、電動機によって駆動される電動オイルポンプとを備え、駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対して上記機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされた車両の制御装置において、
上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を所定の車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断する連続駆動判断手段と、
上記電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間は、上記車両起動要求が所定の起動要求制限回数に達するまでは、電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定し、この電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間に上記車両起動要求が上記起動要求制限回数に達した場合には、電動オイルポンプを駆動させることなく内燃機関を起動させて機械式オイルポンプの駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する車両走行可能状態判定手段とを備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプと、電動機によって駆動される電動オイルポンプとを備え、駆動輪に駆動力を伝達するための動力伝達機構に対して上記機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプからのオイル供給が可能とされた車両の制御装置において、
上記車両を走行可能な状態とするための車両起動要求に従って行われる車両起動時、上記動力伝達機構に供給する油圧を所定の車両起動油圧まで昇圧させるための上記電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断する連続駆動判断手段と、
上記電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間は、その間における上記電動オイルポンプの累積駆動時間が所定の駆動制限時間に達するまでは、電動オイルポンプの連続駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定し、この電動オイルポンプの連続駆動が許容不可能な状況が継続している間に上記電動オイルポンプの累積駆動時間が上記駆動制限時間に達した場合には、電動オイルポンプを駆動させることなく内燃機関を起動させて機械式オイルポンプの駆動を行い、動力伝達機構に供給された油圧が上記車両起動油圧に達した時点で車両が走行可能な状態になったと判定する車両走行可能状態判定手段とを備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項8】
上記請求項1〜7のうち何れか一つに記載の車両の制御装置において、
上記連続駆動判断手段は、オイル温度に基づいて電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であるか否かを判断するものであって、オイル温度が所定の連続駆動許容温度以上である場合に電動オイルポンプの連続駆動が許容可能な状況であると判断するようになっていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項9】
上記請求項1〜8のうち何れか一つに記載の車両の制御装置を搭載したハイブリッド車両であって、
上記内燃機関を始動させる際に、この内燃機関に付加する回転力を発生する第1の電動機と、駆動輪に接続される出力軸に向けて駆動力の出力が可能な第2の電動機と、この第2の電動機から駆動輪までの間の動力伝達経路に備えられ且つ摩擦係合要素の係合状態を変更することによって変速動作を行う変速機とを備えており、
上記車両起動圧は、上記第1の電動機の回転力を内燃機関に付加する内燃機関の始動時において、上記出力軸に作用する第1の電動機からの回転力を第2の電動機の駆動力によって相殺可能とするための摩擦係合要素の係合力が得られる圧力以上に設定されていることを特徴とするハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−115186(P2009−115186A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288311(P2007−288311)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】