車両用制御装置
【課題】自動変速機により、アップシフトが行われている際に、ドライバからの制動要求があった場合に、制動要求に応じた制動力を適切に発生させることのできる車両用制御装置を提供すること。
【解決手段】モータジェネレータ20と、前記モータジェネレータと駆動輪54との間に介装され、締結要素の締結解放により複数の変速段を達成する自動変速機40と、摩擦力により制動力を発生する摩擦ブレーキと、を備える車両に対して制御信号を出力する車両用制御装置であって、ドライバからの制動要求に応じて、前記モータジェネレータによる回生制動および前記摩擦ブレーキによる摩擦制動を制御することで、回生協調制御を行う回生協調制御手段と、前記自動変速機により、アップシフトが行われている場合に、前記モータジェネレータによる回生制動を禁止する禁止手段と、を備えることを特徴とする車両用制御装置を提供する。
【解決手段】モータジェネレータ20と、前記モータジェネレータと駆動輪54との間に介装され、締結要素の締結解放により複数の変速段を達成する自動変速機40と、摩擦力により制動力を発生する摩擦ブレーキと、を備える車両に対して制御信号を出力する車両用制御装置であって、ドライバからの制動要求に応じて、前記モータジェネレータによる回生制動および前記摩擦ブレーキによる摩擦制動を制御することで、回生協調制御を行う回生協調制御手段と、前記自動変速機により、アップシフトが行われている場合に、前記モータジェネレータによる回生制動を禁止する禁止手段と、を備えることを特徴とする車両用制御装置を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源として、内燃機関とモータジェネレータとを有するハイブリッド車両が知られている。このようなハイブリッド車両において、モータジェネレータによる回生制動を行いながら、自動変速機の変速段の切り替えを行う技術が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−74886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自動変速機により、アップシフトが行われている際に、ドライバからの制動要求があった場合に、モータジェネレータによる回生制動を行うと、アップシフトに伴い自動変速機の締結要素がスリップしているため、回生トルクがモータジェネレータに充分に伝達されず、そのため、ドライバからの制動要求に応じた制動力を実現することができない場合があるという問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、自動変速機により、アップシフトが行われている際に、ドライバからの制動要求があった場合に、制動要求に応じた制動力を適切に発生させることのできる車両用制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ドライバからの制動要求に応じて、モータジェネレータによる回生制動および摩擦ブレーキによる摩擦制動を制御する回生協調制御を行う際に、自動変速機により、アップシフトが行われている場合には、モータジェネレータによる回生制動を禁止することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、自動変速機により、アップシフトが行われている場合には、モータジェネレータによる回生制動を禁止することにより、アップシフトが行われている場合における制動力を、摩擦ブレーキによる摩擦制動により発生させることがき、これにより、制動要求に応じた制動力を適切に発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、他の実施形態に係るハイブリッド車両のパワートレーンを示す図である。
【図3】図3は、他の実施形態に係るハイブリッド車両のパワートレーンを示す図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る自動変速機の構成を示すスケルトン図である。
【図5】図5は、シフトマップを示す図である。
【図6】図6は、統合コントロールユニット60の制御ブロック図である。
【図7】図7は、目標駆動力マップの一例を示す図である。
【図8】図8は、目標モードマップを示す図である。
【図9】図9は、目標充放電量マップの一例を示す図である。
【図10】図10は、シフトマップの一例を示す図である。
【図11】図11は、本実施形態に係る回生制動禁止処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】図12は、本実施形態に係る自動変速機の変速段のアップシフト動作のタイムチャートである。
【図13】図13は、本実施形態に係る回生制動禁止制御を示すタイムチャートである
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成を示すブロック図である。
【0011】
本実施形態に係るハイブリッド車両1は、複数の動力源を車両の駆動に使用するパラレル方式の電気自動車である。このハイブリッド車両1は、図1に示すように、内燃機関(以下、「エンジン」という)10、第1クラッチ15、モータジェネレータ(電動機・発電機)20、第2クラッチ25、バッテリ30、インバータ35、自動変速機40、プロペラシャフト51、ディファレンシャルギアユニット52、ドライブシャフト53、および左右の駆動輪54を備えている。
【0012】
エンジン10は、ガソリンまたは軽油を燃料として作動する内燃機関であり、エンジンコントロールユニット70からの制御信号に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度や燃料噴射量等が制御される。
【0013】
第1クラッチ15は、エンジン10の出力軸とモータジェネレータ20の回転軸との間に介装されており、エンジン10とモータジェネレータ20との間の動力伝達を断接する。この第1クラッチ15の具体例としては、例えば比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチなどを例示することができる。この第1クラッチ15は、統合コントロールユニット60からの制御信号に基づいて油圧ユニット16の油圧が制御されることで、クラッチ板を締結(スリップ状態も含む。)/解放させる。
【0014】
モータジェネレータ20は、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルが巻きつけられた同期型モータジェネレータである。このモータジェネレータ20には、ロータ回転角を検出するレゾルバ21が設けられている。このモータジェネレータ20は、電動機としても機能するし発電機としても機能する。インバータ35から三相交流電力が供給されている場合には、モータジェネレータ20は回転駆動する(力行)。一方、外力によってロータが回転している場合には、モータジェネレータ20は、ステータコイルの両端に起電力を生じさせることで交流電力を生成する(回生)。また、回生中において、モータジェネレータ20には負のトルクが発生するので、駆動輪44に対して制動機能をも奏する。なお、モータジェネレータ20によって発電された交流電力は、インバータ35によって直流電力に変換された後に、バッテリ30に充電される。
【0015】
バッテリ30の具体例としては、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池などを例示することができる。このバッテリ30には電流・電圧センサ31が取り付けられており、これらの検出結果をモータコントロールユニット80に出力することが可能となっている。
【0016】
第2クラッチ25は、モータジェネレータ20と、左右の駆動輪54との間に介装されており、モータジェネレータ20と左右の駆動輪54との間の動力伝達を断接する。この第2クラッチ25の具体例としては、上述の第1クラッチ15と同様に、たとえば湿式多板クラッチなどを例示することができる。この第2クラッチ25は、トランスミッションコントロールユニット90からの制御信号に基づいて油圧ユニット26の油圧が制御されることで、クラッチ板を締結(スリップ状態も含む。)/解放させる。
【0017】
自動変速機40は、前進7速、後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機である。この自動変速機40は、トランスミッションコントロールユニット90からの制御信号に基づいて変速比を変化させる。なお、第2クラッチ25としては、図1に示すように、専用クラッチとして新たに追加したものである必要はなく、自動変速機40の各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用したものとすることができる。ただし、このような構成に特に限定されず、たとえば、図2に示すように、第2クラッチ25を、モータジェネレータ20の出力軸と自動変速機40の入力軸との間に介装した構成としもよいし、あるいは、図3に示すように、第2クラッチ25を、自動変速機40の出力軸とプロペラシャフト51との間に介装した構成としてもよい。なお、図2、図3は、他の実施形態に係るハイブリッド車両の構成を示す図であり、図2、図3においては、パワートレーン以外の構成は図1と同様であるため、パワートレーンのみを示している。また、図1〜図3においては、後輪駆動のハイブリッド車両を例示したが、前輪駆動のハイブリッド車両や四輪駆動のハイブリッド車両とすることも、もちろん可能である。
【0018】
図4は、自動変速機40の構成を表すスケルトン図である。自動変速機40は、第1遊星ギヤセットGS1(第1遊星ギヤG1、第2遊星ギヤG2)、第2遊星ギヤセットGS2(第3遊星ギヤG3、第4遊星ギヤG4)を備えている。なお、これら第1遊星ギヤセットGS1(第1遊星ギヤG1、第2遊星ギヤG2)、第2遊星ギヤセットGS2(第3遊星ギヤG3、第4遊星ギヤG4)は、入力軸Input側から軸方向出力軸Output側に向けて、この順に配置されている。
【0019】
また、自動変速機40は、摩擦締結要素として複数のクラッチC1、C2、C3、複数のブレーキB1、B2、B3、B4、および複数のワンウェイクラッチF1、F2を備えている。
【0020】
第1遊星ギヤG1は、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、これら両ギヤS1,R1に噛み合う第1ピニオンP1を支持する第1キャリヤPC1と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。第2遊星ギヤG2は、第2サンギヤS2と、第2リングギヤR2と、これら両ギヤS2,R2に噛み合う第2ピニオンP2を支持する第2キャリヤPC2と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。また、第3遊星ギヤG3は、第3サンギヤS3と、第3リングギヤR3と、これら両ギヤS3,R3に噛み合う第3ピニオンP3を支持する第3キャリヤPC3と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。さらに、第4遊星ギヤG4は、第4サンギヤS4と、第4リングギヤR4と、これら両ギヤS4,R4に噛み合う第4ピニオンP4を支持する第4キャリヤPC4と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
【0021】
入力軸Inputは、第2リングギヤR2に連結され、エンジン10からの回転駆動力を入力する。出力軸Outputは、第3キャリヤPC3に連結され、出力回転駆動力を不図示のファイナルギヤ等を介して駆動輪54に伝達する。第1連結メンバM1は、第1リングギヤR1と第2キャリヤPC2と第4リングギヤR4とを一体的に連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第3リングギヤR3と第4キャリヤPC4とを一体的に連結するメンバである。第3連結メンバM3は、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とを一体的に連結するメンバである。
【0022】
第1遊星ギヤセットGS1は、第1遊星ギヤG1と第2遊星ギヤG2とを、第1連結メンバM1と第3連結メンバM3により連結してなり、4つの回転要素から構成される。また、第2遊星ギヤセットGS2は、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4とを、第2連結メンバM2により連結してなり、5つの回転要素から構成される。第1遊星ギヤセットGS1は、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力されるトルク入力経路を有する。第1遊星ギヤセットGS1に入力されたトルクは、第1連結メンバM1から第2遊星ギヤセットGS2に出力される。第2遊星ギヤセットGS2は、入力軸Inputから第2連結メンバM2に入力されるトルク入力経路と、第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に入力されるトルク入力経路とを有する。第2遊星ギヤセットGS2に入力されたトルクは、第3キャリヤPC3から出力軸Outputに出力される。
【0023】
なお、H&LRクラッチC3が解放され、第3サンギヤS3よりも第4サンギヤS4の回転数が大きい時は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4は独立した回転数を発生する。よって、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4が第2連結メンバM2を介して接続された構成となり、それぞれの遊星ギヤが独立したギヤ比を達成する。
【0024】
また、インプットクラッチC1は、入力軸Inputと第2連結メンバM2とを選択的に断接するクラッチである。ダイレクトクラッチC2は、第4サンギヤS4と第4キャリヤPC4とを選択的に断接するクラッチである。H&LRクラッチC3は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4とを選択的に断接するクラッチである。なお、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4の間には、第2ワンウェイクラッチF2が配置されている。フロントブレーキB1は、第1キャリヤPC1の回転を選択的に停止させるブレーキである。また、第1ワンウェイクラッチF1は、フロントブレーキB1と並列に配置されている。ローブレーキB2は、第3サンギヤS3の回転を選択的に停止させるブレーキである。2346ブレーキB3は、第3連結メンバM3(第1サンギヤS1および第2サンギヤS2)の回転を選択的に停止させるブレーキである。リバースブレーキB4は、第4キャリヤPC4の回転を選択的に停止させるブレーキである。
【0025】
図5は、自動変速機40での前進7速、後退1速の締結作動表を示す図である。図5中、「○」は、該当するクラッチもしくはブレーキが締結している状態を示し、空白は、これらが解放している状態を示す。また、図5中、「(○)」は、エンジンブレーキ作用時にのみ締結することを示す。なお、上述したように、本実施形態においては、第2クラッチ25として、自動変速機40内の摩擦締結要素を流用しており、図5中、太い実線で囲まれた摩擦締結要素を第2クラッチ25とすることができる。具体的には、1速から3速まではローブレーキB2が第2クラッチ25に該当し、4速から7速まではH&LRクラッチC3が第2クラッチ25に該当する。
【0026】
なお、自動変速機40として、上述した前進7速、後退1速の有段階の変速機に特に限定されず、たとえば、特開2007−314097号公報に記載されているような、前進5速、後退1速の有段階の変速機を自動変速機40として用いてもよい。
【0027】
図1に戻り、自動変速機40の出力軸は、プロペラシャフト51、ディファレンシャルギアユニット52、および左右のドライブシャフト53を介して、左右の駆動輪54に連結されている。なお、図1において55は左右の操舵前輪である。
【0028】
本実施形態におけるハイブリッド車両1は、第1および第2のクラッチ15,25の締結/解放状態に応じて以下に説明する各走行モードに切り替えることが可能となっている。
【0029】
モータ使用走行モード(以下、「EV走行モード」とする。)は、第1クラッチ15を解放させると共に第2クラッチ25を締結させて、モータジェネレータ20の動力のみを動力源として走行するモードである。
【0030】
エンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」とする。)は、第1クラッチ15および第2クラッチ25をいずれも締結させて、エンジン10を動力源に含みながら走行するモードである。
【0031】
エンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」とする。)は、第1クラッチ15を締結させると共に、第2クラッチ25をスリップ状態として、エンジン10を動力源に含みながら走行するモードである。このWSC走行モードは、特にバッテリ30の充電状態SOC(State of Charge)が低下している場合やエンジン10の冷却水の温度が低い場合、クリープ走行を達成するモードである。
【0032】
なお、EV走行モードからHEV走行モードに移行する際には、解放していた第1クラッチ15を締結し、モータジェネレータ20のトルクを利用することで、エンジン始動を行なうことができる。
【0033】
また、HEV走行モードには、エンジン走行モード、モータアシスト走行モード、および走行発電モードがある。エンジン走行モードでは、モータジェネレータ20を駆動させずに、エンジン10のみを動力源として駆動輪54を動かす。モータアシスト走行モードでは、エンジン10とモータジェネレータ20との両方を駆動させて、これら2つを動力源として駆動輪54を動かす。走行発電モードでは、エンジン10を動力源として駆動輪54を動かすと同時に、モータジェネレータ20を発電機として機能させ、バッテリ30を充電する。
【0034】
なお、以上に説明したモードの他に、停車時において、エンジン10の動力を利用してモータジェネレータ20を発電機として機能させ、バッテリ30を充電したり電装品へ電力を供給する発電モードを備えてもよい。
【0035】
本実施形態におけるハイブリッド車両1の制御系は、図1に示すように、統合コントロールユニット60、エンジンコントロールユニット70、モータコントロールユニット80、トランスミッションコントロールユニット90、およびブレーキコントロールユニット95を備えている。これらの各コントロールユニット60,70,80,90,95は、たとえばCAN通信を介して相互に接続されている。
【0036】
エンジンコントロールユニット70は、統合コントロールユニット60からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(エンジン回転数Ne、エンジントルクTe)を制御する指令を、エンジン10に備えられたスロットルバルブアクチュエータへ出力する。なお、エンジン回転数Ne、エンジントルクTeの情報は、CAN通信線を介して統合コントロールユニット60へ供給される。
【0037】
モータコントロールユニット80は、モータジェネレータ20に設けられたレゾルバ21からの情報を入力し、統合コントロールユニット60からの目標モータジェネレータトルク指令値等に応じて、モータジェネレータ20の動作点(モータ回転数Nm、モータトルクTm)を制御する指令をインバータ35に出力する。また、モータコントロールユニット80は、電流・電圧センサ31により検出された電流値および電圧値に基づいてバッテリ30のSOCを演算および管理する。このバッテリSOC情報は、モータジェネレータ20の制御情報に用いられると共に、CAN通信を介して統合コントロールユニット60に送出される。さらに、モータコントロールユニット80は、モータジェネレータ20に流れる電流値(電流値の正負によって駆動トルクと回生制御トルクを区別している)に基づいて、モータジェネレータトルクTmを推定する。モータ回転数Nm、モータトルクTmの情報は、CAN通信を介して統合コントロールユニット60に送出される。
【0038】
トランスミッションコントロールユニット90は、アクセル開度センサ91、車速センサ92、第2クラッチ25油圧センサ93、および、ドライバの操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチ94からのセンサ情報を入力し、統合コントロールユニット60からの第2クラッチ25制御指令tTc2および目標変速段を達成するように、第2クラッチ25の油圧ユニット26を含む自動変速機40内のソレノイドバルブを駆動制御する。
【0039】
ブレーキコントロールユニット95は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ96と、ブレーキストロークセンサ97からのセンサ情報、および、統合コントロールユニット60からの回生協調制御指令を入力する。そして、例えば、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされた場合に、ブレーキストロークセンサ97により検出されるブレーキストロークから求められる要求制動力に対し、モータジェネレータ20による回生制動トルクだけでは不足する場合、その不足分を摩擦制動トルクで補うように、統合コントロールユニット60からの回生協調制御指令に応じて、各輪(一対の駆動輪54および一対の操舵前輪55)に備えられたブレーキユニットへ制動指令を送出することで、回生協調ブレーキ制御を行なう。各輪に備えられたブレーキユニットとしては、たとえば、摩擦制動力により制動可能なディスクブレーキを備えるものが挙げられる。
【0040】
統合コントロールユニット60は、ハイブリッド車両1全体の消費エネルギを管理することで、ハイブリッド車両1を効率的に走行させるための機能を担うものである。この統合コントロールユニット60は、CAN通信を介して得られたセンサ情報の取得を行う。
【0041】
そして、統合コントロールユニット60は、これらの情報に基づいて、エンジンコントロールユニット70への制御指令によるエンジン10の動作制御、モータコントロールユニット80への制御指令によるモータジェネレータ20の動作制御、トランスミッションコントロールユニット90への制御指令による自動変速機40の動作制御、ブレーキコントロールユニット95への制御指令による回生協調ブレーキ制御、第1クラッチ15の油圧ユニット16への制御指令による第1クラッチ15の締結・解放制御、および、第2クラッチ25の油圧ユニット26への制御指令による第2クラッチ25の締結・解放制御を実行する。
【0042】
次いで、統合コントロールユニット60により実行される制御について説明する。図6は、統合コントロールユニット60の制御ブロック図である。なお、以下に説明する制御は、たとえば、10msecごとに実行される。図6に示すように、統合コントロールユニット60は、目標駆動力演算部100、モード選択部200、目標充放電演算部300、および動作点指令部400を備える。
【0043】
目標駆動力演算部100は、予め定められた目標駆動力マップを用いて、アクセル開度センサ91により検出されたアクセル開度APO、および車速センサ92により検出された車速VSPに基づいて、目標駆動力tFo0を演算する。図7に、目標駆動力マップの一例を示す。
【0044】
モード選択部200は、予め定められたモードマップを参照し、目標モードを選択する。図8に目標モードマップの一例を示す。この図8の目標モードマップには、車速VSPとアクセル開度APOに応じて、EV走行モード、WSC走行モード、およびHEV走行モードの領域がそれぞれ設定されている。
【0045】
図8に示すモードマップにおいて、HEV→WSC切換線またはEV→WSC切換線は、自動変速機40が1速段のときに、エンジン10のアイドル回転数よりも小さな回転数となる車速VSP1よりも低い領域に設定されている。図8中、斜線領域が、HEV走行モードからWSC走行モードに切り換えられる領域であり、図8中、網掛け領域がEV走行モードからWSC走行モードに切り換えられる領域となる。なお、バッテリ30のSOCが低く、EV走行モードを達成できないときには、発進時等であってもWSC走行モードが選択されることとなる。
【0046】
目標充放電演算部300は、予め定められた目標充放電量マップを用いて、バッテリ30のSOCから、目標充放電電力tPを演算する。図9に、目標充放電量マップの一例を示す。
【0047】
動作点指令部400は、アクセル開度APO、目標駆動力tFoO、目標モード、車速VSP、および目標充放電電力tPに基づいて、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクtTe、目標モータジェネレータトルクtTm、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1、目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2、および自動変速機40の目標変速段を演算する。なお、自動変速機40の目標変速段は、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、演算される。図10に、本実施形態で用いられるシフトマップの一例を示す。図10に示すシフトマップにおいては、車速VSPとアクセル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されている。なお、図10中においては、アップシフト線を実線で、ダウンシフト線を破線で、それぞれ示している。
【0048】
また、動作点指令部400は、回生協調ブレーキ制御を行うための回生協調制御部410を備えている。回生協調制御部410は、ブレーキストロークセンサ97により検出されるブレーキストロークから求められる要求制動力に基づき、要求制動トルクを算出し、算出された要求制動トルクに対し、モータジェネレータ20による回生制動トルク(目標モータジェネレータトルク)、および各輪に備えられたブレーキユニットによる摩擦制動トルクを設定する。そして、回生制動トルクは、目標モータジェネレータトルクとして、モータコントロールユニット80に送出され、また、摩擦制動トルクは、回生協調制御指令として、ブレーキコントロールユニット95に送出される。なお、回生協調制御部410は、回生制動トルクおよび摩擦制動トルクを設定する際には、モータジェネレータ20による回生制動を優先し、回生分で賄える限りは、摩擦制動を用いずに、要求制動力を充足できるような回生制動トルクを設定する。また、回生分で賄えない場合には、回生制動トルクを最大とし、不足分を摩擦制動トルクで補うように設定する。
【0049】
そして、目標エンジントルクtTeは、統合コントロールユニット60からエンジンコントロールユニット70に送出され、目標モータジェネレータトルクtTmは、統合コントロールユニット60からモータコントロールユニット80に送出される。また、目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2および目標変速段は、統合コントロールユニット60からトランスミッションコントロールユニット90に送出され、さらに、回生協調制御指令は、統合コントロールユニット60からブレーキコントロールユニット95に送出される。
【0050】
一方、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1については、統合コントロールユニット60が、当該目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1に対応したソレノイド電流を油圧ユニット16に供給する。
【0051】
次いで、本実施形態における、回生制動禁止制御について、説明する。
動作点指令部400からの指令に基づき、トランスミッションコントロールユニット90により、自動変速機40の変速段を、アップシフトさせる制御が行われている際に、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求された場合に、モータジェネレータ20による回生制動トルクを用いて制動を行うと、自動変速機40の締結要素がスリップしているため、制動要求に応じた制動力を実現できない場合がある。なお、アップシフトさせる制御が行われる場面としては、たとえば、図10中において、車速VSP2、アクセル開度APO2にて走行している場合に、アクセルペダルが開放され、アクセル開度がゼロとされた場面などが挙げられる。
【0052】
そのため、本実施形態では、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が行われている場合において、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされたときには、モータジェネレータ20による回生制動を禁止する処理を行なう。そして、このような回生制動禁止制御を実現するために、統合コントロールユニット60は、回生制動禁止制御部420を備える。
【0053】
図11は、回生制動禁止制御部420による回生制動禁止処理の流れを示すフローチャートである。以下に説明する回生制動禁止処理は、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が開始された場合に開始する(ステップS1)。
【0054】
図12に、自動変速機40の変速段のアップシフト動作のタイムチャートを示す。図12に示すように、まず、t1の時点において、アクセル開度APOがゼロにされ、これにより、t2の時点において、動作点指令部400により目標変速段が変更され、現在の変速段CURGPから次変速段NEXTGPに、変速段を切り替える指令が送出されることにより、アップシフト動作が開始される。アップシフト動作が開始されると、t2〜t3において、締結クラッチを締結するための締結油圧を変化させ、締結クラッチが準備状態とされ、また、解放クラッチを解放するための解放油圧を低下させることにより、解放クラッチがスリップ状態とされる。
【0055】
次いで、t3〜t4において、解放クラッチを解放するための解放油圧を徐々に低下させていき、t4の時点において、モータジェネレータ20の目標回転数が、次変速段NEXTGPに応じた回転数に変更される。次いで、t4〜t5において、目標回転数に応じて、モータジェネレータ20の回転数が徐々に低下していき、t5の時点において、締結クラッチを締結するための締結油圧の上昇が開始され、t6の時点において、現在の変速段CURGPが変更され、最後に、t7の時点において、締結油圧が所定圧力P(締結状態における圧力)とされることにより、アップシフト動作が終了する。以上のようにして、自動変速機40の変速段のアップシフト動作は行なわれる。このように、自動変速機40の変速段のアップシフト動作は、自動変速機40を構成する締結要素のスリップを伴う動作となる。
【0056】
図11に戻り、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が開始されると(ステップS1)、ステップS2に進み、回生制動禁止制御部420により、自動変速機40が、アップシフト動作中であるか否かの判定が行なわれる。本実施形態においては、動作点指令部400により、上述した図12に示すように、目標変速段が変更され、次変速段NEXTGPが設定されてから(t2の時点)、現在の変速段CURGPが、目標変速段に変更され(t6の時点)、締結油圧が所定圧力P(t7の時点)とされるまでを、アップシフト動作中とする。また、目標変速段と、現在の変速段CURGPが、2段以上異なる場合には、アップシフト動作を2段階以上行なう必要があるが、このような場合においては、アップシフト動作を2段階以上行い、現在の変速段CURGPが、目標変速段となるまでを、アップシフト動作中とする。そして、アップシフト動作中である場合には、ステップS3に進む。アップシフト動作中でない場合には、ステップS6に進む。
【0057】
ステップS3では、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされているか否かの判定が行なわれる。制動要求がされていない場合には、ステップS2に戻る。一方、制動要求がされている場合には、ステップS4に進み、回生禁止フラグ=1に設定され、回生制動禁止制御部420により、回生制動を禁止する処理が行なわれる。そして、この場合には、回生制動が禁止されているため、回生協調制御部410は、制動要求力に応じた摩擦制動トルクを演算し、これを回生協調制御指令として、ブレーキコントロールユニット95に送出し、各輪に備えられたブレーキユニットにより摩擦制動が行われる(ステップS5)。そして、ステップS2に戻り、アップシフト動作中であり(ステップS2=Yes)、制動要求がされ続けている(ステップS3=Yes)限り、ブレーキユニットによる摩擦制動が継続される。
【0058】
一方で、アップシフト動作が終了すると(ステップS2=No)、ステップS6に進み、回生禁止フラグ=0(回生許可フラグ=1)に設定され、回生制動禁止制御部420により、回生制動を許可する制御が行われる。そして、制動要求が継続している場合には(ステップS7=Yes)、ステップS8に進み、この場合には、回生制動が許可されているため、回生協調制御部410により、制動要求力に応じた回生制動トルクおよび摩擦制動トルクの算出が行われ、これらの結果に基づき、回生協調ブレーキ制御が行われる。すなわち、制動要求力が、回生制動トルクで賄える場合には、回生制動トルクに基づく目標モータジェネレータトルクが、モータコントロールユニット80に送出され、回生制動のみによる制動が行われる。また、制動要求力が、回生制動トルクで賄えない場合には、回生制動トルクに基づく目標モータジェネレータトルクに加えて、摩擦制動トルクに基づく、回生協調制御指令が、ブレーキコントロールユニット95に送出され、回生制動および摩擦制動による制動が行われる。
【0059】
図13は、本実施形態に係る回生制動禁止制御を示すタイムチャートである。なお、図13は、自動変速機40の現在の変速段CURGPが、第1変速段(1速、2速、3速、4速のいずれかの変速段)である場合において、t11の時点において、動作点指令部400により、目標変速段が、第1変速段から3段上の変速段である第4変速段に設定されたときに、自動変速機40のアップシフト動作中のt15の時点において、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされた場面におけるタイムチャートである。
【0060】
まず、t11の時点において、動作点指令部400により、目標変速段が、現在の変速段CURGPである第1変速段から、3段上の変速段である第4変速段に設定されると、これに基づき、t12において、次変速段NEXTGPが、現在の変速段CURGPである第1変速段より1段上の第2変速段に設定される。そして、上述した図12に示すアップシフト動作が実行されることにより、t13の時点において、現在の変速段CURGPが、第2変速段に切り替えられる。
【0061】
次いで、t14の時点において、次変速段NEXTGPが、現在の変速段CURGPである第2変速段より1段上の第3変速段に設定される。そして、上述した図12に示すアップシフト動作が実行される一方で、アップシフト動作中のt15の時点において、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされると、回生禁止フラグ=1に設定され、回生制動禁止制御部420により、回生制動を禁止する処理が行なわれる。そして、この場合には、回生制動が禁止されているため、各輪に備えられたブレーキユニットによる摩擦制動のみによる制動が実行される。
【0062】
そして、t16の時点において、現在の変速段CURGPが、第3変速段に切り替えられ、次いで、t17の時点において、次変速段NEXTGPが、現在の変速段CURGPである第3変速段より1段上の第4変速段に設定され、上述した図12に示すアップシフト動作が実行される。次いで、t18の時点において、現在の変速段CURGPが、目標変速段である、第4変速段に切り替えられ、アップシフト動作が終了すると、回生禁止フラグ=0、回生許可フラグ=1に設定され、回生制動禁止制御部420により、回生制動を許可する処理が行なわれる。そして、t18の時点において、回生制動が禁止から許可に変更されたため、各輪に備えられたブレーキユニットによる摩擦制動のみによる制動から、モータジェネレータ20による回生制動と、摩擦制動との回生協調ブレーキ制御による制動に切り替えられることとなる。なお、図13に示す場面においては、t11〜t18の間(目標変速段が変更されてから、現在の変速段CURGPが、目標変速段に設定されるまでの間)が、回生制動禁止制御部420により、アップシフト動作中であると判断されることとなる。
【0063】
本実施形態によれば、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が行われている場合において、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされた場合に、モータジェネレータ20による回生制動を禁止し、各輪に備えられたブレーキユニットによる摩擦制動により制動を行う。そのため、本実施形態によれば、ドライバからの制動要求に応じた制動力を適切に発生させることができる。特に、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が行われている場合でも、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされた場合にのみ、モータジェネレータ20による回生制動を禁止することにより、回生制動が禁止される場面をなるべく少なくすることができる。そして、これにより、回生制動による燃費向上効果を適切に実現することができる。
【0064】
加えて、本実施形態においては、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が終了した場合には、回生制動を許可し、ブレーキユニットによる摩擦制動のみによる制動から、モータジェネレータ20による回生制動と、摩擦制動との回生協調ブレーキ制御による制動に切り替える。そして、これにより、回生制動による燃費向上効果を適切に実現することができる。
【0065】
特に、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が行われている場合には、自動変速機40の締結要素がスリップしてしまい、モータジェネレータ20による回生制動を行うと、ドライバからの制動要求に応じた制動力を実現できない場合がある。これに対して、本実施形態によれば、上述したような制御を行うことにより、このような問題を有効に解決するものである。
【0066】
なお、上述した実施形態において、統合コントロールユニット60の回生協調制御部410は本発明の回生協調制御手段に、統合コントロールユニット60の回生制動禁止部420は本発明の禁止手段に、それぞれ相当する。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0068】
たとえば、上述した実施形態においては、自動変速機40の変速段のアップシフト動作中であり、かつ、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされている場合に、回生制動を禁止するような構成を例示したが、自動変速機40の変速段のアップシフト動作中においては、制動要求の有無に関係なく、回生制動を禁止するような構成としてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…ハイブリッド車両
10…エンジン
15…第1クラッチ
20…モータジェネレータ
25…第2クラッチ
30…バッテリ
35…インバータ
40…自動変速機
60…統合コントロールユニット
70…エンジンコントロールユニット
80…モータコントロールユニット
90…トランスミッションコントロールユニット
95…ブレーキコントロールユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源として、内燃機関とモータジェネレータとを有するハイブリッド車両が知られている。このようなハイブリッド車両において、モータジェネレータによる回生制動を行いながら、自動変速機の変速段の切り替えを行う技術が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−74886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自動変速機により、アップシフトが行われている際に、ドライバからの制動要求があった場合に、モータジェネレータによる回生制動を行うと、アップシフトに伴い自動変速機の締結要素がスリップしているため、回生トルクがモータジェネレータに充分に伝達されず、そのため、ドライバからの制動要求に応じた制動力を実現することができない場合があるという問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、自動変速機により、アップシフトが行われている際に、ドライバからの制動要求があった場合に、制動要求に応じた制動力を適切に発生させることのできる車両用制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ドライバからの制動要求に応じて、モータジェネレータによる回生制動および摩擦ブレーキによる摩擦制動を制御する回生協調制御を行う際に、自動変速機により、アップシフトが行われている場合には、モータジェネレータによる回生制動を禁止することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、自動変速機により、アップシフトが行われている場合には、モータジェネレータによる回生制動を禁止することにより、アップシフトが行われている場合における制動力を、摩擦ブレーキによる摩擦制動により発生させることがき、これにより、制動要求に応じた制動力を適切に発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、他の実施形態に係るハイブリッド車両のパワートレーンを示す図である。
【図3】図3は、他の実施形態に係るハイブリッド車両のパワートレーンを示す図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る自動変速機の構成を示すスケルトン図である。
【図5】図5は、シフトマップを示す図である。
【図6】図6は、統合コントロールユニット60の制御ブロック図である。
【図7】図7は、目標駆動力マップの一例を示す図である。
【図8】図8は、目標モードマップを示す図である。
【図9】図9は、目標充放電量マップの一例を示す図である。
【図10】図10は、シフトマップの一例を示す図である。
【図11】図11は、本実施形態に係る回生制動禁止処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】図12は、本実施形態に係る自動変速機の変速段のアップシフト動作のタイムチャートである。
【図13】図13は、本実施形態に係る回生制動禁止制御を示すタイムチャートである
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成を示すブロック図である。
【0011】
本実施形態に係るハイブリッド車両1は、複数の動力源を車両の駆動に使用するパラレル方式の電気自動車である。このハイブリッド車両1は、図1に示すように、内燃機関(以下、「エンジン」という)10、第1クラッチ15、モータジェネレータ(電動機・発電機)20、第2クラッチ25、バッテリ30、インバータ35、自動変速機40、プロペラシャフト51、ディファレンシャルギアユニット52、ドライブシャフト53、および左右の駆動輪54を備えている。
【0012】
エンジン10は、ガソリンまたは軽油を燃料として作動する内燃機関であり、エンジンコントロールユニット70からの制御信号に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度や燃料噴射量等が制御される。
【0013】
第1クラッチ15は、エンジン10の出力軸とモータジェネレータ20の回転軸との間に介装されており、エンジン10とモータジェネレータ20との間の動力伝達を断接する。この第1クラッチ15の具体例としては、例えば比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチなどを例示することができる。この第1クラッチ15は、統合コントロールユニット60からの制御信号に基づいて油圧ユニット16の油圧が制御されることで、クラッチ板を締結(スリップ状態も含む。)/解放させる。
【0014】
モータジェネレータ20は、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルが巻きつけられた同期型モータジェネレータである。このモータジェネレータ20には、ロータ回転角を検出するレゾルバ21が設けられている。このモータジェネレータ20は、電動機としても機能するし発電機としても機能する。インバータ35から三相交流電力が供給されている場合には、モータジェネレータ20は回転駆動する(力行)。一方、外力によってロータが回転している場合には、モータジェネレータ20は、ステータコイルの両端に起電力を生じさせることで交流電力を生成する(回生)。また、回生中において、モータジェネレータ20には負のトルクが発生するので、駆動輪44に対して制動機能をも奏する。なお、モータジェネレータ20によって発電された交流電力は、インバータ35によって直流電力に変換された後に、バッテリ30に充電される。
【0015】
バッテリ30の具体例としては、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池などを例示することができる。このバッテリ30には電流・電圧センサ31が取り付けられており、これらの検出結果をモータコントロールユニット80に出力することが可能となっている。
【0016】
第2クラッチ25は、モータジェネレータ20と、左右の駆動輪54との間に介装されており、モータジェネレータ20と左右の駆動輪54との間の動力伝達を断接する。この第2クラッチ25の具体例としては、上述の第1クラッチ15と同様に、たとえば湿式多板クラッチなどを例示することができる。この第2クラッチ25は、トランスミッションコントロールユニット90からの制御信号に基づいて油圧ユニット26の油圧が制御されることで、クラッチ板を締結(スリップ状態も含む。)/解放させる。
【0017】
自動変速機40は、前進7速、後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機である。この自動変速機40は、トランスミッションコントロールユニット90からの制御信号に基づいて変速比を変化させる。なお、第2クラッチ25としては、図1に示すように、専用クラッチとして新たに追加したものである必要はなく、自動変速機40の各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用したものとすることができる。ただし、このような構成に特に限定されず、たとえば、図2に示すように、第2クラッチ25を、モータジェネレータ20の出力軸と自動変速機40の入力軸との間に介装した構成としもよいし、あるいは、図3に示すように、第2クラッチ25を、自動変速機40の出力軸とプロペラシャフト51との間に介装した構成としてもよい。なお、図2、図3は、他の実施形態に係るハイブリッド車両の構成を示す図であり、図2、図3においては、パワートレーン以外の構成は図1と同様であるため、パワートレーンのみを示している。また、図1〜図3においては、後輪駆動のハイブリッド車両を例示したが、前輪駆動のハイブリッド車両や四輪駆動のハイブリッド車両とすることも、もちろん可能である。
【0018】
図4は、自動変速機40の構成を表すスケルトン図である。自動変速機40は、第1遊星ギヤセットGS1(第1遊星ギヤG1、第2遊星ギヤG2)、第2遊星ギヤセットGS2(第3遊星ギヤG3、第4遊星ギヤG4)を備えている。なお、これら第1遊星ギヤセットGS1(第1遊星ギヤG1、第2遊星ギヤG2)、第2遊星ギヤセットGS2(第3遊星ギヤG3、第4遊星ギヤG4)は、入力軸Input側から軸方向出力軸Output側に向けて、この順に配置されている。
【0019】
また、自動変速機40は、摩擦締結要素として複数のクラッチC1、C2、C3、複数のブレーキB1、B2、B3、B4、および複数のワンウェイクラッチF1、F2を備えている。
【0020】
第1遊星ギヤG1は、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、これら両ギヤS1,R1に噛み合う第1ピニオンP1を支持する第1キャリヤPC1と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。第2遊星ギヤG2は、第2サンギヤS2と、第2リングギヤR2と、これら両ギヤS2,R2に噛み合う第2ピニオンP2を支持する第2キャリヤPC2と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。また、第3遊星ギヤG3は、第3サンギヤS3と、第3リングギヤR3と、これら両ギヤS3,R3に噛み合う第3ピニオンP3を支持する第3キャリヤPC3と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。さらに、第4遊星ギヤG4は、第4サンギヤS4と、第4リングギヤR4と、これら両ギヤS4,R4に噛み合う第4ピニオンP4を支持する第4キャリヤPC4と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
【0021】
入力軸Inputは、第2リングギヤR2に連結され、エンジン10からの回転駆動力を入力する。出力軸Outputは、第3キャリヤPC3に連結され、出力回転駆動力を不図示のファイナルギヤ等を介して駆動輪54に伝達する。第1連結メンバM1は、第1リングギヤR1と第2キャリヤPC2と第4リングギヤR4とを一体的に連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第3リングギヤR3と第4キャリヤPC4とを一体的に連結するメンバである。第3連結メンバM3は、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とを一体的に連結するメンバである。
【0022】
第1遊星ギヤセットGS1は、第1遊星ギヤG1と第2遊星ギヤG2とを、第1連結メンバM1と第3連結メンバM3により連結してなり、4つの回転要素から構成される。また、第2遊星ギヤセットGS2は、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4とを、第2連結メンバM2により連結してなり、5つの回転要素から構成される。第1遊星ギヤセットGS1は、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力されるトルク入力経路を有する。第1遊星ギヤセットGS1に入力されたトルクは、第1連結メンバM1から第2遊星ギヤセットGS2に出力される。第2遊星ギヤセットGS2は、入力軸Inputから第2連結メンバM2に入力されるトルク入力経路と、第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に入力されるトルク入力経路とを有する。第2遊星ギヤセットGS2に入力されたトルクは、第3キャリヤPC3から出力軸Outputに出力される。
【0023】
なお、H&LRクラッチC3が解放され、第3サンギヤS3よりも第4サンギヤS4の回転数が大きい時は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4は独立した回転数を発生する。よって、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4が第2連結メンバM2を介して接続された構成となり、それぞれの遊星ギヤが独立したギヤ比を達成する。
【0024】
また、インプットクラッチC1は、入力軸Inputと第2連結メンバM2とを選択的に断接するクラッチである。ダイレクトクラッチC2は、第4サンギヤS4と第4キャリヤPC4とを選択的に断接するクラッチである。H&LRクラッチC3は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4とを選択的に断接するクラッチである。なお、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4の間には、第2ワンウェイクラッチF2が配置されている。フロントブレーキB1は、第1キャリヤPC1の回転を選択的に停止させるブレーキである。また、第1ワンウェイクラッチF1は、フロントブレーキB1と並列に配置されている。ローブレーキB2は、第3サンギヤS3の回転を選択的に停止させるブレーキである。2346ブレーキB3は、第3連結メンバM3(第1サンギヤS1および第2サンギヤS2)の回転を選択的に停止させるブレーキである。リバースブレーキB4は、第4キャリヤPC4の回転を選択的に停止させるブレーキである。
【0025】
図5は、自動変速機40での前進7速、後退1速の締結作動表を示す図である。図5中、「○」は、該当するクラッチもしくはブレーキが締結している状態を示し、空白は、これらが解放している状態を示す。また、図5中、「(○)」は、エンジンブレーキ作用時にのみ締結することを示す。なお、上述したように、本実施形態においては、第2クラッチ25として、自動変速機40内の摩擦締結要素を流用しており、図5中、太い実線で囲まれた摩擦締結要素を第2クラッチ25とすることができる。具体的には、1速から3速まではローブレーキB2が第2クラッチ25に該当し、4速から7速まではH&LRクラッチC3が第2クラッチ25に該当する。
【0026】
なお、自動変速機40として、上述した前進7速、後退1速の有段階の変速機に特に限定されず、たとえば、特開2007−314097号公報に記載されているような、前進5速、後退1速の有段階の変速機を自動変速機40として用いてもよい。
【0027】
図1に戻り、自動変速機40の出力軸は、プロペラシャフト51、ディファレンシャルギアユニット52、および左右のドライブシャフト53を介して、左右の駆動輪54に連結されている。なお、図1において55は左右の操舵前輪である。
【0028】
本実施形態におけるハイブリッド車両1は、第1および第2のクラッチ15,25の締結/解放状態に応じて以下に説明する各走行モードに切り替えることが可能となっている。
【0029】
モータ使用走行モード(以下、「EV走行モード」とする。)は、第1クラッチ15を解放させると共に第2クラッチ25を締結させて、モータジェネレータ20の動力のみを動力源として走行するモードである。
【0030】
エンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」とする。)は、第1クラッチ15および第2クラッチ25をいずれも締結させて、エンジン10を動力源に含みながら走行するモードである。
【0031】
エンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」とする。)は、第1クラッチ15を締結させると共に、第2クラッチ25をスリップ状態として、エンジン10を動力源に含みながら走行するモードである。このWSC走行モードは、特にバッテリ30の充電状態SOC(State of Charge)が低下している場合やエンジン10の冷却水の温度が低い場合、クリープ走行を達成するモードである。
【0032】
なお、EV走行モードからHEV走行モードに移行する際には、解放していた第1クラッチ15を締結し、モータジェネレータ20のトルクを利用することで、エンジン始動を行なうことができる。
【0033】
また、HEV走行モードには、エンジン走行モード、モータアシスト走行モード、および走行発電モードがある。エンジン走行モードでは、モータジェネレータ20を駆動させずに、エンジン10のみを動力源として駆動輪54を動かす。モータアシスト走行モードでは、エンジン10とモータジェネレータ20との両方を駆動させて、これら2つを動力源として駆動輪54を動かす。走行発電モードでは、エンジン10を動力源として駆動輪54を動かすと同時に、モータジェネレータ20を発電機として機能させ、バッテリ30を充電する。
【0034】
なお、以上に説明したモードの他に、停車時において、エンジン10の動力を利用してモータジェネレータ20を発電機として機能させ、バッテリ30を充電したり電装品へ電力を供給する発電モードを備えてもよい。
【0035】
本実施形態におけるハイブリッド車両1の制御系は、図1に示すように、統合コントロールユニット60、エンジンコントロールユニット70、モータコントロールユニット80、トランスミッションコントロールユニット90、およびブレーキコントロールユニット95を備えている。これらの各コントロールユニット60,70,80,90,95は、たとえばCAN通信を介して相互に接続されている。
【0036】
エンジンコントロールユニット70は、統合コントロールユニット60からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(エンジン回転数Ne、エンジントルクTe)を制御する指令を、エンジン10に備えられたスロットルバルブアクチュエータへ出力する。なお、エンジン回転数Ne、エンジントルクTeの情報は、CAN通信線を介して統合コントロールユニット60へ供給される。
【0037】
モータコントロールユニット80は、モータジェネレータ20に設けられたレゾルバ21からの情報を入力し、統合コントロールユニット60からの目標モータジェネレータトルク指令値等に応じて、モータジェネレータ20の動作点(モータ回転数Nm、モータトルクTm)を制御する指令をインバータ35に出力する。また、モータコントロールユニット80は、電流・電圧センサ31により検出された電流値および電圧値に基づいてバッテリ30のSOCを演算および管理する。このバッテリSOC情報は、モータジェネレータ20の制御情報に用いられると共に、CAN通信を介して統合コントロールユニット60に送出される。さらに、モータコントロールユニット80は、モータジェネレータ20に流れる電流値(電流値の正負によって駆動トルクと回生制御トルクを区別している)に基づいて、モータジェネレータトルクTmを推定する。モータ回転数Nm、モータトルクTmの情報は、CAN通信を介して統合コントロールユニット60に送出される。
【0038】
トランスミッションコントロールユニット90は、アクセル開度センサ91、車速センサ92、第2クラッチ25油圧センサ93、および、ドライバの操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチ94からのセンサ情報を入力し、統合コントロールユニット60からの第2クラッチ25制御指令tTc2および目標変速段を達成するように、第2クラッチ25の油圧ユニット26を含む自動変速機40内のソレノイドバルブを駆動制御する。
【0039】
ブレーキコントロールユニット95は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ96と、ブレーキストロークセンサ97からのセンサ情報、および、統合コントロールユニット60からの回生協調制御指令を入力する。そして、例えば、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされた場合に、ブレーキストロークセンサ97により検出されるブレーキストロークから求められる要求制動力に対し、モータジェネレータ20による回生制動トルクだけでは不足する場合、その不足分を摩擦制動トルクで補うように、統合コントロールユニット60からの回生協調制御指令に応じて、各輪(一対の駆動輪54および一対の操舵前輪55)に備えられたブレーキユニットへ制動指令を送出することで、回生協調ブレーキ制御を行なう。各輪に備えられたブレーキユニットとしては、たとえば、摩擦制動力により制動可能なディスクブレーキを備えるものが挙げられる。
【0040】
統合コントロールユニット60は、ハイブリッド車両1全体の消費エネルギを管理することで、ハイブリッド車両1を効率的に走行させるための機能を担うものである。この統合コントロールユニット60は、CAN通信を介して得られたセンサ情報の取得を行う。
【0041】
そして、統合コントロールユニット60は、これらの情報に基づいて、エンジンコントロールユニット70への制御指令によるエンジン10の動作制御、モータコントロールユニット80への制御指令によるモータジェネレータ20の動作制御、トランスミッションコントロールユニット90への制御指令による自動変速機40の動作制御、ブレーキコントロールユニット95への制御指令による回生協調ブレーキ制御、第1クラッチ15の油圧ユニット16への制御指令による第1クラッチ15の締結・解放制御、および、第2クラッチ25の油圧ユニット26への制御指令による第2クラッチ25の締結・解放制御を実行する。
【0042】
次いで、統合コントロールユニット60により実行される制御について説明する。図6は、統合コントロールユニット60の制御ブロック図である。なお、以下に説明する制御は、たとえば、10msecごとに実行される。図6に示すように、統合コントロールユニット60は、目標駆動力演算部100、モード選択部200、目標充放電演算部300、および動作点指令部400を備える。
【0043】
目標駆動力演算部100は、予め定められた目標駆動力マップを用いて、アクセル開度センサ91により検出されたアクセル開度APO、および車速センサ92により検出された車速VSPに基づいて、目標駆動力tFo0を演算する。図7に、目標駆動力マップの一例を示す。
【0044】
モード選択部200は、予め定められたモードマップを参照し、目標モードを選択する。図8に目標モードマップの一例を示す。この図8の目標モードマップには、車速VSPとアクセル開度APOに応じて、EV走行モード、WSC走行モード、およびHEV走行モードの領域がそれぞれ設定されている。
【0045】
図8に示すモードマップにおいて、HEV→WSC切換線またはEV→WSC切換線は、自動変速機40が1速段のときに、エンジン10のアイドル回転数よりも小さな回転数となる車速VSP1よりも低い領域に設定されている。図8中、斜線領域が、HEV走行モードからWSC走行モードに切り換えられる領域であり、図8中、網掛け領域がEV走行モードからWSC走行モードに切り換えられる領域となる。なお、バッテリ30のSOCが低く、EV走行モードを達成できないときには、発進時等であってもWSC走行モードが選択されることとなる。
【0046】
目標充放電演算部300は、予め定められた目標充放電量マップを用いて、バッテリ30のSOCから、目標充放電電力tPを演算する。図9に、目標充放電量マップの一例を示す。
【0047】
動作点指令部400は、アクセル開度APO、目標駆動力tFoO、目標モード、車速VSP、および目標充放電電力tPに基づいて、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクtTe、目標モータジェネレータトルクtTm、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1、目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2、および自動変速機40の目標変速段を演算する。なお、自動変速機40の目標変速段は、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、演算される。図10に、本実施形態で用いられるシフトマップの一例を示す。図10に示すシフトマップにおいては、車速VSPとアクセル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されている。なお、図10中においては、アップシフト線を実線で、ダウンシフト線を破線で、それぞれ示している。
【0048】
また、動作点指令部400は、回生協調ブレーキ制御を行うための回生協調制御部410を備えている。回生協調制御部410は、ブレーキストロークセンサ97により検出されるブレーキストロークから求められる要求制動力に基づき、要求制動トルクを算出し、算出された要求制動トルクに対し、モータジェネレータ20による回生制動トルク(目標モータジェネレータトルク)、および各輪に備えられたブレーキユニットによる摩擦制動トルクを設定する。そして、回生制動トルクは、目標モータジェネレータトルクとして、モータコントロールユニット80に送出され、また、摩擦制動トルクは、回生協調制御指令として、ブレーキコントロールユニット95に送出される。なお、回生協調制御部410は、回生制動トルクおよび摩擦制動トルクを設定する際には、モータジェネレータ20による回生制動を優先し、回生分で賄える限りは、摩擦制動を用いずに、要求制動力を充足できるような回生制動トルクを設定する。また、回生分で賄えない場合には、回生制動トルクを最大とし、不足分を摩擦制動トルクで補うように設定する。
【0049】
そして、目標エンジントルクtTeは、統合コントロールユニット60からエンジンコントロールユニット70に送出され、目標モータジェネレータトルクtTmは、統合コントロールユニット60からモータコントロールユニット80に送出される。また、目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2および目標変速段は、統合コントロールユニット60からトランスミッションコントロールユニット90に送出され、さらに、回生協調制御指令は、統合コントロールユニット60からブレーキコントロールユニット95に送出される。
【0050】
一方、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1については、統合コントロールユニット60が、当該目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1に対応したソレノイド電流を油圧ユニット16に供給する。
【0051】
次いで、本実施形態における、回生制動禁止制御について、説明する。
動作点指令部400からの指令に基づき、トランスミッションコントロールユニット90により、自動変速機40の変速段を、アップシフトさせる制御が行われている際に、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求された場合に、モータジェネレータ20による回生制動トルクを用いて制動を行うと、自動変速機40の締結要素がスリップしているため、制動要求に応じた制動力を実現できない場合がある。なお、アップシフトさせる制御が行われる場面としては、たとえば、図10中において、車速VSP2、アクセル開度APO2にて走行している場合に、アクセルペダルが開放され、アクセル開度がゼロとされた場面などが挙げられる。
【0052】
そのため、本実施形態では、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が行われている場合において、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされたときには、モータジェネレータ20による回生制動を禁止する処理を行なう。そして、このような回生制動禁止制御を実現するために、統合コントロールユニット60は、回生制動禁止制御部420を備える。
【0053】
図11は、回生制動禁止制御部420による回生制動禁止処理の流れを示すフローチャートである。以下に説明する回生制動禁止処理は、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が開始された場合に開始する(ステップS1)。
【0054】
図12に、自動変速機40の変速段のアップシフト動作のタイムチャートを示す。図12に示すように、まず、t1の時点において、アクセル開度APOがゼロにされ、これにより、t2の時点において、動作点指令部400により目標変速段が変更され、現在の変速段CURGPから次変速段NEXTGPに、変速段を切り替える指令が送出されることにより、アップシフト動作が開始される。アップシフト動作が開始されると、t2〜t3において、締結クラッチを締結するための締結油圧を変化させ、締結クラッチが準備状態とされ、また、解放クラッチを解放するための解放油圧を低下させることにより、解放クラッチがスリップ状態とされる。
【0055】
次いで、t3〜t4において、解放クラッチを解放するための解放油圧を徐々に低下させていき、t4の時点において、モータジェネレータ20の目標回転数が、次変速段NEXTGPに応じた回転数に変更される。次いで、t4〜t5において、目標回転数に応じて、モータジェネレータ20の回転数が徐々に低下していき、t5の時点において、締結クラッチを締結するための締結油圧の上昇が開始され、t6の時点において、現在の変速段CURGPが変更され、最後に、t7の時点において、締結油圧が所定圧力P(締結状態における圧力)とされることにより、アップシフト動作が終了する。以上のようにして、自動変速機40の変速段のアップシフト動作は行なわれる。このように、自動変速機40の変速段のアップシフト動作は、自動変速機40を構成する締結要素のスリップを伴う動作となる。
【0056】
図11に戻り、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が開始されると(ステップS1)、ステップS2に進み、回生制動禁止制御部420により、自動変速機40が、アップシフト動作中であるか否かの判定が行なわれる。本実施形態においては、動作点指令部400により、上述した図12に示すように、目標変速段が変更され、次変速段NEXTGPが設定されてから(t2の時点)、現在の変速段CURGPが、目標変速段に変更され(t6の時点)、締結油圧が所定圧力P(t7の時点)とされるまでを、アップシフト動作中とする。また、目標変速段と、現在の変速段CURGPが、2段以上異なる場合には、アップシフト動作を2段階以上行なう必要があるが、このような場合においては、アップシフト動作を2段階以上行い、現在の変速段CURGPが、目標変速段となるまでを、アップシフト動作中とする。そして、アップシフト動作中である場合には、ステップS3に進む。アップシフト動作中でない場合には、ステップS6に進む。
【0057】
ステップS3では、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされているか否かの判定が行なわれる。制動要求がされていない場合には、ステップS2に戻る。一方、制動要求がされている場合には、ステップS4に進み、回生禁止フラグ=1に設定され、回生制動禁止制御部420により、回生制動を禁止する処理が行なわれる。そして、この場合には、回生制動が禁止されているため、回生協調制御部410は、制動要求力に応じた摩擦制動トルクを演算し、これを回生協調制御指令として、ブレーキコントロールユニット95に送出し、各輪に備えられたブレーキユニットにより摩擦制動が行われる(ステップS5)。そして、ステップS2に戻り、アップシフト動作中であり(ステップS2=Yes)、制動要求がされ続けている(ステップS3=Yes)限り、ブレーキユニットによる摩擦制動が継続される。
【0058】
一方で、アップシフト動作が終了すると(ステップS2=No)、ステップS6に進み、回生禁止フラグ=0(回生許可フラグ=1)に設定され、回生制動禁止制御部420により、回生制動を許可する制御が行われる。そして、制動要求が継続している場合には(ステップS7=Yes)、ステップS8に進み、この場合には、回生制動が許可されているため、回生協調制御部410により、制動要求力に応じた回生制動トルクおよび摩擦制動トルクの算出が行われ、これらの結果に基づき、回生協調ブレーキ制御が行われる。すなわち、制動要求力が、回生制動トルクで賄える場合には、回生制動トルクに基づく目標モータジェネレータトルクが、モータコントロールユニット80に送出され、回生制動のみによる制動が行われる。また、制動要求力が、回生制動トルクで賄えない場合には、回生制動トルクに基づく目標モータジェネレータトルクに加えて、摩擦制動トルクに基づく、回生協調制御指令が、ブレーキコントロールユニット95に送出され、回生制動および摩擦制動による制動が行われる。
【0059】
図13は、本実施形態に係る回生制動禁止制御を示すタイムチャートである。なお、図13は、自動変速機40の現在の変速段CURGPが、第1変速段(1速、2速、3速、4速のいずれかの変速段)である場合において、t11の時点において、動作点指令部400により、目標変速段が、第1変速段から3段上の変速段である第4変速段に設定されたときに、自動変速機40のアップシフト動作中のt15の時点において、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされた場面におけるタイムチャートである。
【0060】
まず、t11の時点において、動作点指令部400により、目標変速段が、現在の変速段CURGPである第1変速段から、3段上の変速段である第4変速段に設定されると、これに基づき、t12において、次変速段NEXTGPが、現在の変速段CURGPである第1変速段より1段上の第2変速段に設定される。そして、上述した図12に示すアップシフト動作が実行されることにより、t13の時点において、現在の変速段CURGPが、第2変速段に切り替えられる。
【0061】
次いで、t14の時点において、次変速段NEXTGPが、現在の変速段CURGPである第2変速段より1段上の第3変速段に設定される。そして、上述した図12に示すアップシフト動作が実行される一方で、アップシフト動作中のt15の時点において、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされると、回生禁止フラグ=1に設定され、回生制動禁止制御部420により、回生制動を禁止する処理が行なわれる。そして、この場合には、回生制動が禁止されているため、各輪に備えられたブレーキユニットによる摩擦制動のみによる制動が実行される。
【0062】
そして、t16の時点において、現在の変速段CURGPが、第3変速段に切り替えられ、次いで、t17の時点において、次変速段NEXTGPが、現在の変速段CURGPである第3変速段より1段上の第4変速段に設定され、上述した図12に示すアップシフト動作が実行される。次いで、t18の時点において、現在の変速段CURGPが、目標変速段である、第4変速段に切り替えられ、アップシフト動作が終了すると、回生禁止フラグ=0、回生許可フラグ=1に設定され、回生制動禁止制御部420により、回生制動を許可する処理が行なわれる。そして、t18の時点において、回生制動が禁止から許可に変更されたため、各輪に備えられたブレーキユニットによる摩擦制動のみによる制動から、モータジェネレータ20による回生制動と、摩擦制動との回生協調ブレーキ制御による制動に切り替えられることとなる。なお、図13に示す場面においては、t11〜t18の間(目標変速段が変更されてから、現在の変速段CURGPが、目標変速段に設定されるまでの間)が、回生制動禁止制御部420により、アップシフト動作中であると判断されることとなる。
【0063】
本実施形態によれば、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が行われている場合において、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされた場合に、モータジェネレータ20による回生制動を禁止し、各輪に備えられたブレーキユニットによる摩擦制動により制動を行う。そのため、本実施形態によれば、ドライバからの制動要求に応じた制動力を適切に発生させることができる。特に、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が行われている場合でも、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされた場合にのみ、モータジェネレータ20による回生制動を禁止することにより、回生制動が禁止される場面をなるべく少なくすることができる。そして、これにより、回生制動による燃費向上効果を適切に実現することができる。
【0064】
加えて、本実施形態においては、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が終了した場合には、回生制動を許可し、ブレーキユニットによる摩擦制動のみによる制動から、モータジェネレータ20による回生制動と、摩擦制動との回生協調ブレーキ制御による制動に切り替える。そして、これにより、回生制動による燃費向上効果を適切に実現することができる。
【0065】
特に、自動変速機40の変速段のアップシフト動作が行われている場合には、自動変速機40の締結要素がスリップしてしまい、モータジェネレータ20による回生制動を行うと、ドライバからの制動要求に応じた制動力を実現できない場合がある。これに対して、本実施形態によれば、上述したような制御を行うことにより、このような問題を有効に解決するものである。
【0066】
なお、上述した実施形態において、統合コントロールユニット60の回生協調制御部410は本発明の回生協調制御手段に、統合コントロールユニット60の回生制動禁止部420は本発明の禁止手段に、それぞれ相当する。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0068】
たとえば、上述した実施形態においては、自動変速機40の変速段のアップシフト動作中であり、かつ、ドライバにより、ブレーキ踏み込み操作がされることにより制動要求がされている場合に、回生制動を禁止するような構成を例示したが、自動変速機40の変速段のアップシフト動作中においては、制動要求の有無に関係なく、回生制動を禁止するような構成としてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…ハイブリッド車両
10…エンジン
15…第1クラッチ
20…モータジェネレータ
25…第2クラッチ
30…バッテリ
35…インバータ
40…自動変速機
60…統合コントロールユニット
70…エンジンコントロールユニット
80…モータコントロールユニット
90…トランスミッションコントロールユニット
95…ブレーキコントロールユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータジェネレータと、前記モータジェネレータと駆動輪との間に介装され、締結要素の締結解放により複数の変速段を達成する自動変速機と、摩擦力により制動力を発生する摩擦ブレーキと、を備える車両に対して制御信号を出力する車両用制御装置であって、
ドライバからの制動要求に応じて、前記モータジェネレータによる回生制動および前記摩擦ブレーキによる摩擦制動を制御することで、回生協調制御を行う回生協調制御手段と、
前記自動変速機により、アップシフトが行われている場合に、前記モータジェネレータによる回生制動を禁止する禁止手段と、を備えることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記禁止手段は、前記自動変速機により、アップシフトが行われている場合において、ドライバから制動要求がなされたときに、前記モータジェネレータによる回生制動を禁止することを特徴とする車両用制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用制御装置において、
前記禁止手段は、前記自動変速機により、アップシフトが終了した場合に、前記モータジェネレータによる回生制動の禁止を解除し、前記モータジェネレータによる回生制動を可能な状態とすることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項1】
モータジェネレータと、前記モータジェネレータと駆動輪との間に介装され、締結要素の締結解放により複数の変速段を達成する自動変速機と、摩擦力により制動力を発生する摩擦ブレーキと、を備える車両に対して制御信号を出力する車両用制御装置であって、
ドライバからの制動要求に応じて、前記モータジェネレータによる回生制動および前記摩擦ブレーキによる摩擦制動を制御することで、回生協調制御を行う回生協調制御手段と、
前記自動変速機により、アップシフトが行われている場合に、前記モータジェネレータによる回生制動を禁止する禁止手段と、を備えることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記禁止手段は、前記自動変速機により、アップシフトが行われている場合において、ドライバから制動要求がなされたときに、前記モータジェネレータによる回生制動を禁止することを特徴とする車両用制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用制御装置において、
前記禁止手段は、前記自動変速機により、アップシフトが終了した場合に、前記モータジェネレータによる回生制動の禁止を解除し、前記モータジェネレータによる回生制動を可能な状態とすることを特徴とする車両用制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−91553(P2012−91553A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238160(P2010−238160)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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