説明

エンジンの制御装置

【課題】 アイドリングストップ等のエコラン制御において、エンジンの停止開始から再始動可能になるまでの時間を短縮する。
【解決手段】 本発明の一形態に係るエンジンの制御装置は、吸気通路内を閉止可能で且つ吸気弁の開閉と同期して開閉可能な吸気制御弁と、所定の停止条件が成立したときにエンジンの停止制御を実行する停止制御手段とを備え、停止制御が、エンジンへの吸気量が制限されるように吸気制御弁を制御することを含むことを特徴とする。吸気絞り弁に代わって吸気制御弁が、エンジンの停止要求時t0から即座に吸気量を制限する。エンジン停止時に必要であった準備的制御としての吸気絞り弁の閉弁制御が不要となり、エンジン停止時間を短縮し、以てエンジンの停止開始t0から再始動可能になるまでの時間Δt3を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの制御装置に係り、特に、アイドリングストップ等を実施するためのエコラン制御を実行可能な車両用エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両運転時、信号待ちなどの状況下でアイドリング運転中のエンジンを自動停止し、燃費の向上を図る技術が既に知られている(例えば特許文献1参照)。この場合、エンジンの自動停止後、所定の再始動操作を行ったとき、たとえばスロットルペダルを踏み込んだとき、エンジンが再始動され、車両が発進可能となる。
【0003】
【特許文献1】特開2003−65104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなアイドリングストップに代表されるエコラン制御において、エンジンの停止時にエンジンの振動を抑制したいという要請がある。このため、エンジンの停止要求があった時から燃料噴射を停止するまでの間に、吸気絞り弁を閉じるなどの準備的制御が行われる。また、エンジンの再始動時にも、燃料噴射の開始に先立って、始動時の空気量を確保するために吸気絞り弁を開くなどの準備的制御が行われる。
【0005】
こうした準備的制御が介在するために、エンジンの停止開始から再始動可能になるまでの時間が短縮できないという問題がある。即ち、現実には、エンジン停止開始後すぐに再始動したい場合があり、かかる時間をできるだけ短縮したいという要請がある。特に、エンジンの停止要求があった時からエンジンが実際に停止するまでの停止時間をできるだけ短縮させたいという要請がある。
【0006】
そこで本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、エンジンの停止開始から再始動可能になるまでの時間を短縮可能なエンジンの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の一形態に係るエンジンの制御装置は、吸気弁の上流側の吸気通路に設けられ、該吸気通路内を閉止可能で且つ前記吸気弁の開閉と同期して開閉可能な吸気制御弁と、所定の停止条件が成立したときにエンジンを停止させるための所定の停止制御を実行する停止制御手段とを備え、該停止制御が、エンジンへの吸気量が制限されるように前記吸気制御弁を制御することを含むことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、吸気絞り弁に代わって吸気制御弁がエンジンへの吸気量を制限するので、エンジン停止時における振動を抑制することができる。また同時に、吸気制御弁がエンジンの停止要求があった時から即座に吸気量を制限できるので、エンジンの停止要求があった時から即座に吸気量を制限し、燃料噴射を停止することができる。これにより準備的制御に要していた時間は省略可能となり、エンジンの停止開始から再始動可能になるまでの時間を短縮することができ、特にエンジンの停止に要する時間を短縮することができる。
【0009】
かかる観点から、好ましくは、前記停止制御がエンジンへの燃料噴射を停止することを含み、前記停止制御手段が、前記所定の停止条件が成立したと同時に燃料噴射を停止し、且つ前記吸気制御弁の制御を開始する。
【0010】
また、好ましくは、前記吸気制御弁の上流側の吸気通路に設けられた制御可能な吸気絞り弁をさらに備え、前記停止制御が、前記吸気絞り弁が閉弁側の所定開度にあるときに相当する吸気量となるように前記吸気制御弁を制御することを含む。これによりエンジン停止時における吸気量が確実に制限され、エンジン停止時における振動の抑制に好適である。
【0011】
また、前記停止制御が、排気・吸気行程におけるポンピングロスと、圧縮・膨張行程における負の仕事との和が最大になるように前記吸気制御弁を制御することを含んでもよい。これによりエンジンの停止時間を短縮することができる。
【0012】
また、好ましくは、前記停止制御の開始後に所定の再始動条件が成立したときにエンジンを再始動させるための所定の再始動制御を実行する再始動制御手段をさらに備え、該再始動制御が、エンジンへの吸気量が増加されるように前記吸気制御弁を制御することを含む。
【0013】
この構成によれば、エンジンの再始動時に吸気制御弁によって吸気量が増加されるので、吸気絞り弁の開度が十分でなくても始動に要する吸気量を確保できる可能性がある。これにより、再始動時における吸気絞り弁の開度の影響を少なくし、再始動可能となる時期を早めることができる。
【0014】
また、本発明の別の形態に係るエンジンの制御装置は、吸気弁の上流側の吸気通路に設けられ、該吸気通路内を閉止可能で且つ前記吸気弁の開閉と同期して開閉可能な吸気制御弁と、所定の停止条件が成立したときにエンジンを停止させるための所定の停止制御を実行する停止制御手段と、前記停止制御の開始後に所定の再始動条件が成立したときにエンジンを再始動させるための所定の再始動制御を実行する再始動制御手段とを備え、該再始動制御が、エンジンへの吸気量が増加されるように前記吸気制御弁を制御することを含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明のさらに別の形態に係るエンジンの制御装置は、吸気弁の上流側の吸気通路に設けられ、該吸気通路内を閉止可能で且つ前記吸気弁の開閉と同期して開閉可能な吸気制御弁と、所定の停止条件が成立したときにエンジンを停止させるための所定の停止制御を実行する停止制御手段とを備え、該停止制御が、排気・吸気行程におけるポンピングロスと、圧縮・膨張行程における負の仕事との和が最大になるように前記吸気制御弁を制御することを含むことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、エコラン制御に限らず、広範囲の用途に渡ってエンジンの停止時間を短縮することができる。
【0017】
前記吸気制御弁は、前記吸気通路内を完全閉止可能であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エンジンの停止開始から再始動可能になるまでの時間を短縮できるという、優れた効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
図1に、本実施形態に係るエンジンの制御装置の構成を概略的に示す。本実施形態において、エンジン1は車両用の多気筒ディーゼルエンジンであり(図では1気筒のみ示す)、軽油からなる燃料をインジェクタ10からシリンダ12内の燃焼室13に噴射し、ピストン24の圧縮により自着火させ、排気ガスを排気通路17を通じて排出する構造となっている。なお、本発明はディーゼルエンジンに限らずガソリンエンジン等の他の型式のエンジンにも適用可能であり、燃料としてアルコールやLPG等の液化天然ガスなどを用いるエンジンにも適用可能である。ただし、ディーゼルエンジンの場合、ピストン24の重量が大きい等の理由でエンジン停止時の振動が問題になるので、本発明はディーゼルエンジンに特に有効である。
【0021】
吸気通路11は、知られているように、互いに接続された吸気管、サージタンク、吸気マニホールド及び吸気ポート15によって区画形成される。特にその下流側端部が吸気ポート15によって区画形成され、吸気ポート15の出口が吸気弁16によって開閉される。インジェクタ12は、燃焼室13の頂部に臨んで設けられ、ピストン24の頂部に設けられたキャビティ14内に向けて燃料を噴射する。インジェクタ12には図示しないコモンレールから高圧燃料が供給され、その燃料の圧力即ち噴射圧が、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUという)100によって、エンジン運転状態に応じて制御される。なおグロープラグが燃焼室13内に臨んで設けられてもよい。
【0022】
排気通路17は、知られているように、互いに接続された排気ポート19、排気マニホールド、排気管及び触媒18によって区画形成される。特にその上流側端部が排気ポート19によって区画形成され、排気ポート19の入口が排気弁20によって開閉される。吸気弁16及び排気弁20は、本実施形態では、エンジン1に同期して回転駆動されるカムシャフト(図示せず)によって機械的に一定周期で開閉されるが、アクチュエータ等によりエンジン運転状態に応じて開弁時期及び開弁期間が制御されてもよい。触媒18は排気管の途中に設けられて排気ガス中のCO、HC、NOx、DP(ディーゼルパティキュレート)等の有害物質を除去する。
【0023】
吸気通路11には、上流側から順にエアフローメータ21、吸気絞り弁22及び吸気制御弁23が設けられている。エアフローメータ21は、これを通過する空気流量に応じた信号をECU100に出力する。吸気絞り弁22は制御可能である。吸気制御弁23については後に詳述する。このように、吸気通路11においては、吸気弁16の上流側に吸気制御弁23が設けられ、吸気制御弁23の上流側に吸気絞り弁22が設けられる。
【0024】
エンジン1には、排気環流(EGR)を行うためのEGR装置40も設けられている。EGR装置40は、吸気通路11と排気通路17とを接続するEGR通路41と、EGR通路41に設けられたEGR弁42及びEGRクーラ43とを備える。EGR通路41は、排気通路17内の排気ガスの一部(EGRガス)を吸気通路11に戻すためのものであり、EGR弁42はEGRガスの流量を調節するためのものである。またEGRクーラ43はEGRガスを冷却するためのものである。EGR通路41の下流側端部は、吸気絞り弁22の下流側の吸気通路11に接続され、本実施形態では吸気絞り弁22と吸気制御弁23との間の吸気通路11に接続されている。
【0025】
ピストン24は、シリンダ12内に往復動可能に収容されると共に、コンロッド25を介してクランク軸26に連結される。エンジン始動のためのスタータ27が設けられ、これは、エンジンの始動時に、クランク軸26の端部に設けられたリングギヤに噛み合ってクランク軸26を駆動する。
【0026】
かかるエンジンの制御装置の電気的構成について述べる。ECU100には、前述のインジェクタ10、エアフローメータ21、吸気絞り弁22、吸気制御弁23、EGR弁42、スタータ27のほか、クランク角センサ28、アクセル開度センサ30、ブレーキスイッチ31、車速センサ32が接続されている。
【0027】
インジェクタ10は、ECU100から出力されるオンオフ信号に基づいて開閉され、これによって燃料噴射を実行・停止する。吸気絞り弁22はバタフライ弁の形式であり、吸気通路11内に配設された弁体37と、弁体37を駆動するロータリソレノイド等の電動アクチュエータ38と、弁体37の開度を検出するセンサ39とを備える。吸気絞り弁22の開度はECU100によって制御される。このとき、センサ39で検出される実際の開度が、ECU100から出力される開度指示値と一致するように、電動アクチュエータ38が制御される。アクセル開度センサ30は、ドライバによるアクセルペダルの操作量(踏み込み量)に応じた信号をECU100に出力する。スタータ27はECU100から出力されるオンオフ信号に基づいてオンオフされる。
【0028】
クランク角センサ28は、クランク軸26の所定の位相間隔でパルス信号をECU100に出力する。ECU100はこのパルス信号に基づいて、クランク軸26即ちエンジン1の位相を検出すると共に、クランク軸26の回転速度即ちエンジン回転速度を演算する。ブレーキスイッチ31は、ドライバによるフットブレーキ操作に応じたオンオフ信号をECU100に出力する。ブレーキ作動時にはオンである。車速センサ32は、車両の速度(車速)に応じた信号をECU100に出力する。
【0029】
ECU100は、エンジン運転状態に応じて燃料噴射量及び燃料噴射時期を制御する。即ち、ECU100は、主に、クランク角センサ28によって得られるエンジン回転速度と、アクセル開度センサ30によって得られるアクセル開度とから、予め記憶されたマップに基づき、インジェクタ10における燃料噴射量及び燃料噴射時期を決定し、これら各値に基づいてインジェクタ10を制御する。
【0030】
また、吸気絞り弁22及びEGR弁42はECU100によって次のように制御される。即ち、EGRの非実行時には吸気絞り弁22が全開、EGR弁42が全閉とされ、他方、EGR実行時には吸気絞り弁22が排気側から吸気側への圧力差を作り出すような開度に制御され、EGR弁42がエンジン運転状態に応じたEGR流量を得られるような所定開度に制御される。
【0031】
吸気制御弁23は、吸気通路11内に配設された弁体33と、弁体33を駆動するロータリソレノイド等の電動アクチュエータ34とを備える。なお弁体33の開度を検出するセンサをさらに備えてもよい。吸気制御弁23は吸気通路11内を閉止可能であり、特に本実施形態においては、吸気絞り弁22と異なり、その全閉時に吸気通路11を完全に閉止し、吸気の通過を完全に遮断する密閉性の高い構造となっている。これに対し吸気絞り弁22は、その全閉時に吸気通路11を最大に絞るだけで、吸気の通過を許容する。また吸気制御弁23の電動アクチュエータ34は、吸気絞り弁22の電動アクチュエータよりも遥かに高速で作動可能であり、応答性が高く、弁体33を例えば1msec以内に、クランク角の単位では10°CA程度のオーダーで、開閉可能である。これにより、吸気制御弁23は吸気弁16の開閉と同期して開閉可能である。本実施形態では吸気制御弁23がバタフライ弁形式となっているが、例えばシャッター弁等の他の形式であってもよい。
【0032】
この吸気制御弁23は、ECU100から電動アクチュエータ34に出力される開度信号に応じて、全開から全閉まで、その開度が制御される。またこの吸気制御弁23は各気筒毎に設けられ、各気筒が複数の吸気通路11(特に吸気ポート15)を有する場合、これら吸気通路11毎に吸気制御弁23が設けられる。このように複数設けられた吸気制御弁26は、各気筒毎、各吸気通路11毎に個別に制御可能である。本実施形態では個々の気筒を単位として吸気制御弁26が制御される。
【0033】
本実施形態における吸気制御弁23は、通常のエンジン運転時にいわゆるインパルス過給を実行するために使用される。このインパルス過給の概要は2003年フランクフルトモーターショーにて Siemens VDO Automotive AG から9月9日にプレス発表された "Impulses for Greater Driving Fun" に詳述されている。このインパルス過給は、車両の走行中、追い越しなどでエンジンの急加速が必要なときに有効である。
【0034】
この場合、吸気制御弁23は、吸気弁16の開弁よりも遅く開弁するように、例えば吸気弁16の開弁期間の後期に開弁するように、制御される。この結果、吸気弁16の開弁開始時期から吸気制御弁23の開弁開始時期までの間に、吸気制御弁23と吸気弁16との間の吸気通路11(以下これを弁間通路35という)に負圧が形成され、この後吸気制御弁23を瞬時に開弁することで、吸気制御弁23の上流側に位置する吸気通路11内の吸気が一気に燃焼室13内に流れ込み、一種の慣性過給効果により多量の吸気を燃焼室13内に充填することが可能となる。換言すれば、このインパルス過給においては、吸気制御弁23の上下流側に形成される差圧と、吸気の慣性とを利用して、実質的な過給がなされることとなる。この過給は、前述のような吸気制御弁23の制御を開始するのと同時に開始され、即ちアクセルペダルを踏み込んだのと同時に開始されるので、タービンの立ち上りを待つターボ過給よりも応答性に優れ、車両の加速遅れを解消するのに好適である。
【0035】
ところで、本実施形態では、燃費を低減するためのエコラン制御が以下のようにして実行される。以下、エコラン制御の一例としてアイドリングストップを例にとって説明する。特に本実施形態は、エコラン制御時に上述のような吸気制御弁23を利用する点が特徴である。
【0036】
まず、比較例として、吸気制御弁23を利用しない場合のベースとなるエコラン制御を図2に基づいて説明する。
【0037】
図中、TH及びNeはそれぞれ吸気絞り弁22の開度及びエンジン回転速度(検出値)を表す。図示例では、時刻t0から、エンジンを停止するための停止制御が実行され、その後時刻t4から、エンジンを再始動するための再始動制御が実行されている。時刻t0において、後述の所定条件が成立することにより停止制御が開始されると、吸気絞り弁22が、閉弁側の所定開度TH1(例えば全閉、1/5開度など)になるように制御される。これは、後に燃料噴射が停止されエンジンが慣性により回転低下するとき、エンジンへの吸気量を制限し、振動を抑制するためである。特にディーゼルエンジンでは高圧で圧縮が行われること、ピストンが比較的重いなどの理由によりこの振動が問題となりやすい。このように吸気絞り弁22を閉じると、燃焼室13内の吸気量が少なくなるので実圧縮比を低下させ、振動を抑制し、エンジンをスムーズに停止することができる。なお、この吸気絞り弁22の閉弁制御と同時に、EGR弁42を全閉にするための閉弁制御も実行される。
【0038】
こうして吸気絞り弁22が所定開度TH1になったと同時に(時刻t1)、燃料噴射が停止される。これによりエンジンはその慣性のみで惰行回転し、回転が低下していく。エンジン回転速度Neが、エンジンの停止直前に相当するゼロ付近の値Ne1になった時(時刻t2)、ECU側ではその値Ne1が所定時間Δt2維持される。これは、クランク角センサ28がクランク軸26の所定位相間隔でパルス信号を発生するものであり、停止直前では最終のパルス信号が出るか否かをECU100側で予測できず(つまり、回転が止まってしまえばパルス信号が出ない)、回転速度を検出できないのと同時に回転停止を判断できないからである。よって、エンジン回転速度Neが所定値Ne1以上のときのみ、クランク角センサ28によるエンジン回転速度の検出を実行し、エンジン回転速度Neが所定値Ne1に達したときは、その後所定期間Δt2が経過した時t3にエンジン停止と判定することとしている。
【0039】
このエンジン停止判定によって停止制御が終了し、制御は再始動制御に移行する。時刻t3から、今度は吸気絞り弁22が開放側に制御される。これは、次回再始動時における空気量を確保すると共に、再始動時の空気量不足によるスモークを防止するためである。ここでは吸気絞り弁22が全開になるように制御される。そして、吸気絞り弁22が、再始動時の空気量が最低確保できるような所定開度TH2になったと同時に(時刻t4)、再始動可能な状態となり、再始動が許容される。図示例はこの時刻t4に直ちに再始動が開始される最短時間の場合を示し、この再始動においてスタータ27がオンされ、エンジンが再始動されてその回転が上昇していく。
【0040】
このように、ベース制御においてはエンジンの停止及び再始動制御において吸気絞り弁22を閉じる、開くなどの準備的制御が含まれており、これが、エンジン停止開始時(t0)から再始動可能となる時(t4)までの時間(以下これを再始動可能最短時間という)を短縮するのに障害となっている。
【0041】
これに対し、吸気制御弁23を利用する本実施形態のエコラン制御においては、図3に示すように、時刻t0において停止制御の開始と同時に、燃料噴射が停止され、エンジン回転が低下される。またこのとき同時に、吸気絞り弁22の開放制御が開始される。これが可能になるのは、吸気制御弁23が、吸気絞り弁22に代わってエンジンへの吸気量を制限するように制御されるからであり、特に、吸気絞り弁22の所定開度TH1相当の吸気量となるように、後述の如く制御されるからである。本実施形態によれば、吸気制御弁23が、エンジン停止開始要求があった時t1から吸気量を十分制限できるので、吸気絞り弁22の閉弁制御即ち準備的制御に要していた時間Δt1(図2参照)を省略でき、停止時間及び再始動可能最短時間を短縮することができる。また、前記比較例のように、吸気絞り弁22を一旦閉弁側に制御してその後開放側に制御するのではなく、停止制御の開始と同時に開放側に制御するので、このことによっても停止時間及び再始動可能最短時間を短縮することができる。本実施形態よれば、再始動可能最短時間が前記比較例と比べて著しく短い時間(Δt3)となる。ただし図示例では実際の再始動がエンジン停止後の時刻t4に行われている。
【0042】
図4は、本実施形態の停止制御の手順を示したフローチャートである。このフローはECU100が噴射サイクル毎に実行する。まず最初のステップS101では、ECU100がエンジン停止要求の有無を判断する。即ち、ECU100は、予め記憶されているプログラムに従って、所定の停止条件が成立したときにエンジン停止要求信号をオンする。そしてECU100は、このエンジン停止要求信号がオンである場合にエンジン停止要求有りと判断し、他方、エンジン停止要求信号がオフの場合にはエンジン停止要求無しと判断して本フローを終える。
【0043】
ここでいう所定の停止条件とは、本実施形態におけるアイドリングストップの場合、例えば車速センサ32で検出された車速がゼロであり、且つブレーキスイッチ31がオン(即ち、フットブレーキが作動されていること)であることである。なおこの条件は適宜変更が可能である。例えば、検出されたエンジン回転速度が所定時間以上所定のアイドリング速度にあること(即ち、アイドリング安定状態であること)などの条件を付加することができ、また、アイドリングストップ以外のエコランに適した条件に変更することもできる。
【0044】
ECU100は、ステップS101でエンジン停止要求有り(ステップS101:YES)と判断した場合、ステップS102に進み、インジェクタ10をオフに維持し、燃料噴射を停止する。即ち、比較例にあったような吸気絞り弁22の閉弁制御を含む準備的制御を前もって実行することなく、直ちに燃料噴射を停止する。なおステップS101とステップS102とは同一フローで実行されるので時間的には同時期に実行されるものである。
【0045】
次にECU100は、ステップS103において吸気絞り弁22を前記所定開度TH2以上の目標開度に向けて制御する開弁制御を実行する。ここでの目標開度は全開であるが、少なくとも前記所定開度TH2と等しいか或いは開き側の開度であれば、任意の開度に設定することができる。このようにここでは、比較例の再始動制御における準備的制御である吸気絞り弁22の開弁制御が前倒しされて停止制御に含められる。
【0046】
次にECU100は、ステップS104に進み、後述するような吸気制御弁23の開閉制御を実行し、本フローを終了する。かかる吸気制御弁23の開閉制御は停止制御が終了するまで、即ち、エンジン停止判定時(図3のt3)まで継続的に行われる。なぜならこの時以降はステップS101においてエンジン停止要求信号がオフとなり、エンジン停止要求無しと判断されるからである。
【0047】
このエンジン停止後、所定の再始動条件が成立したときに所定の再始動制御が実行される。この再始動条件とは、(1)吸気絞り弁22の開度が所定開度TH2以上になっていること、(2)ドライバのアクセル踏み込み操作によりアクセル開度センサ30の出力値が所定の閾値を上回ったこと、のいずれをも満たすことである。なお、(2)の代わりに、(2‘)ドライバのフットブレーキ解除操作によりブレーキスイッチ31がオフになったこと、とすることもできる。
【0048】
これから分かるように、本実施形態における吸気制御弁23の開閉制御は、燃料噴射が停止された時からエンジン回転が停止するまでの間、実行される。このようなエンジンの惰行回転は通常5〜10回転程度である。
【0049】
次に、前記ステップS104において実行される吸気制御弁23の開閉制御の一態様を図5に基づいて説明する。図5には、吸気弁16と吸気制御弁23との開弁期間がそれぞれ示されている。吸気弁16の開弁時期及び閉弁時期がそれぞれIN1,IN2で示され、吸気制御弁23の開弁時期及び閉弁時期がそれぞれIC1,IC2で示される。TDC及びBDCはそれぞれ吸気行程開始となる上死点(吸気上死点)及び圧縮行程開始となる下死点(圧縮下死点)である。
【0050】
本態様において、吸気制御弁23の開弁期間は、前記比較例(図2)で説明したような、吸気絞り弁22が閉弁側の所定開度TH1にあるときに相当する吸気量となるように、設定されている。即ち、燃料噴射停止後エンジンが回転低下するとき、エンジンへの吸気量を制限し、振動を抑制するような開弁期間である。本態様では吸気制御弁23の開弁期間が、吸気弁16の開弁期間の前期の比較的短い期間に設定されているが、前述の如くエンジンへの吸気量を制限できるのであれば、その開弁時期及び開弁期間は任意に設定することができる。この吸気制御弁23の制御によれば、その比較的短い開弁期間にのみ吸気の導入が許容されるので、燃焼室13に導入される吸気量が吸気絞り弁22に代わって制限され、エンジン回転低下中のエンジン振動を抑制することができる。また、こうすることによりポンピングロスが生じるので、エンジンの迅速な停止を助長することができる。
【0051】
次に、エンジンの再始動制御の別の態様について図6〜図8に基づいて説明する。
この態様では、図6に示すように、燃料噴射停止後エンジン回転の低下中に、前記条件(2)「アクセル開度センサ30の出力値が所定の閾値を上回ったこと」の成立のみをもって、再始動制御を開始する。即ち、前記条件(1)「吸気絞り弁22の開度が所定開度TH2以上になっていること」は再始動条件に含まれず、吸気絞り弁22の開度が所定開度TH2未満でも再始動可能である。こうすることができる理由は、吸気制御弁23によるインパルス過給によって吸気量が増加されるからである。図示例では、吸気絞り弁22の開弁制御中、その開度が所定開度TH2に達する時(t6)よりも前(t5)に、再始動制御が開始され、低下中だったエンジン回転が通常制御に従って自力運転により上昇復帰している。
【0052】
前述したように、インパルス過給によれば、吸気を過給して燃焼室13に送り込めるので、吸気絞り弁22の開度が十分でなくても再始動に必要な吸気量を確保できる可能性がある。よって吸気絞り弁22の開度が十分になるまで待つ必要がなくなり、再始動可能となる時期を早めることが可能になる。
【0053】
この場合の再始動制御のフローチャートを図7に示す。このフローはECU100が噴射サイクル毎に実行する。まず最初のステップS201では、ECU100がエンジン再始動要求の有無を判断する。即ち、ECU100は、所定の再始動条件即ち前記条件(2)(又は(2‘)とすることもできる)が成立したときにエンジン再始動要求信号をオンする。そしてECU100は、エンジン再始動要求信号がオンである場合にエンジン再始動要求有りと判断し、他方、エンジン再始動要求信号がオフの場合にはエンジン再始動要求無しと判断して本フローを終える。
【0054】
ECU100は、ステップS201でエンジン再始動要求有り(ステップS201:YES)と判断した場合、ステップS202に進み、停止制御を中止する。これによりエンジン停止要求信号はオフされ、燃料噴射が実行可能となる。
【0055】
次にECU100は、ステップS203において、検出されたエンジン回転速度が低下中か否かを判断する。低下中の場合(ステップS203:YES)、ステップS204に進み、後述するような吸気制御弁23の開閉制御を実行し、本フローを終了する。他方、低下中でない場合(ステップS203:NO)、これはエンジンが既に停止している場合に相当するので、ステップS205に進み、スタータ27によるエンジンの再始動を実行し、本フローを終了する。
【0056】
ステップS204において実行される吸気制御弁23の開閉制御の態様を図8に基づいて説明する。ここではインパルス過給を実行し、吸気量を積極的に増加させる場合なので、図5の態様とは吸気制御弁23の開弁期間が異なる。即ち、吸気制御弁23の開弁期間は、吸気弁16の開弁期間の後期に設定されている。吸気制御弁23の開弁時期IC1は、本実施形態では90°ATDCよりやや後の時期に設定されているが、変更も可能である。吸気制御弁23の閉弁時期IC2は、吸気弁16の閉弁時期IN2と同時期又はそれより前に設定され、本実施形態では同時期である。いずれにしても、吸気弁16の開弁時期及び開弁期間は、吸気量を必要十分に増加できるように設定される。
【0057】
次に、停止制御の別の態様について図9〜図11に基づいて説明する。この態様は、 図3〜図5に基づいて説明した前記態様と比較して吸気制御弁23の開弁期間が異なるだけであるので、その相違点を主に説明する。フローチャートは図4と同様である。
【0058】
図9には、本態様における吸気弁16と吸気制御弁23との開弁期間が示される。吸気制御弁23の開弁期間は、前記態様と同様、吸気絞り弁22及び吸気制御弁23が全開保持された場合に比べてエンジンへの吸気量が制限されるように設定されているが、同時に、インパルス過給を実行し、これを実行しない場合に比べて吸気量が増加されるように設定されている。これは、吸気量を制限することによって排気・吸気行程におけるポンピングロスの増加を図り、同時に、吸気量の増加によって圧縮・膨張行程における負の仕事の増加を図り、全体としてエンジンの負の仕事を増加して、停止時間ひいては再始動可能最短時間を短縮することを狙いとしたものである。
【0059】
本態様において、吸気制御弁23の開弁期間は、吸気弁16の開弁期間のほぼ後期の比較的短い期間に設定されている。吸気制御弁23の開弁時期IC1は、ほぼ90°ATDCの時期に設定されている。吸気制御弁23の閉弁時期IC2は、吸気弁16の閉弁時期IN2より前に設定されている。ただしこれらの吸気弁16の開弁期間、開弁時期及び閉弁時期は変更が可能である。
【0060】
本態様の意義を図10及び図11のPV線図を用いてより詳しく説明する。図10は、本態様のような吸気制御弁23の開閉制御を実行しない或いは吸気制御弁23自体が存在しない場合の比較例であって、可変バルブタイミング機構(VVT)の最適化等によって吸気量の最小化を図った例である。排気・吸気行程におけるポンピングロスが領域A、圧縮・膨張行程における負の仕事が領域Bで示される。この例によれば、相当量のポンピングロスが認められるものの、圧縮・膨張行程における負の仕事は殆ど無い。
【0061】
これに対し、図11に示す本態様によれば、同等のポンピングロスを確保しつつ負の仕事を増大させることができる。即ち、吸気制御弁23の開弁前は空気の流入がない状態でピストン24が下降されるため、燃焼室13と弁間通路35とが負圧となり、これがポンピングロスの増加につながる。他方、吸気制御弁23の開弁時、短時間のインパルス過給によって筒内空気量が増加され、この空気が圧縮されることで圧縮仕事が増し、膨張行程時には熱損失が増加して温度及び圧力がより低下し、圧縮・膨張行程における負の仕事が増加する。こうして、全体としてエンジンが行う負の仕事が増加することになり、これによってエンジンをより速やかに停止させることが可能になる。なお、エンジンへの吸気量は制限されているのでエンジン停止中の振動も抑制できる。
【0062】
このことから理解されるように、吸気制御弁23は、排気・吸気行程におけるポンピングロスと、圧縮・膨張行程における負の仕事との和(即ち、領域Aと領域Bとの面積の和)が最大になるように制御されるのが好ましい。また、これによってエンジンの停止時間が短縮されることに鑑みれば、エンジンの停止時間を短縮する要請のあるあらゆる場合に本態様は適用可能であり、その場合はエコラン制御に限られない。例えば、通常のユーザによるエンジン停止にも本態様は適用可能であり、この場合停止条件はイグニッションスイッチがオフになったことである。
本発明は他にも様々な実施形態を採ることができる。エコラン制御としてはアイドリングストップに限定されず、例えば全気筒のうち一部の気筒を停止する減筒運転であってもよい。この場合、休止側気筒が運転停止・再始動する際に本発明が適用可能である。エンジンはターボ過給機等を備えた過給式であってもよい。
【0063】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、また、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本実施形態に係るエンジンの制御装置の構成を概略的に示すシステム図である。
【図2】比較例のエコラン制御を示すタイムチャートである。
【図3】本実施形態のエコラン制御を示すタイムチャートである。
【図4】本実施形態における停止制御のフローチャートである。
【図5】本実施形態の停止制御における吸気制御弁の開弁期間を示す位相図である。
【図6】再始動制御の別の態様を示すタイムチャートである。
【図7】再始動制御の別の態様のフローチャートである。
【図8】再始動制御の別の態様における吸気制御弁の開弁期間を示す位相図である。
【図9】停止制御の別の態様における吸気制御弁の開弁期間を示す位相図である。
【図10】比較例のPV線図である。
【図11】停止制御の別の態様のPV線図である。
【符号の説明】
【0065】
1 エンジン
11 吸気通路
15 吸気ポート
10 インジェクタ
12 シリンダ
13 燃焼室
16 吸気弁
17 排気通路
18 触媒
19 排気ポート
20 排気弁
22 吸気絞り弁
23 吸気制御弁
27 スタータ
33 弁体
34 アクチュエータ
35 弁間通路
31 ブレーキスイッチ
32 車速センサ
100 電子制御ユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気弁の上流側の吸気通路に設けられ、該吸気通路内を閉止可能で且つ前記吸気弁の開閉と同期して開閉可能な吸気制御弁と、
所定の停止条件が成立したときにエンジンを停止させるための所定の停止制御を実行する停止制御手段とを備え、
該停止制御が、エンジンへの吸気量が制限されるように前記吸気制御弁を制御することを含むことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記停止制御がエンジンへの燃料噴射を停止することを含み、前記停止制御手段が、前記所定の停止条件が成立したと同時に燃料噴射を停止し、且つ前記吸気制御弁の制御を開始することを特徴とする請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記吸気制御弁の上流側の吸気通路に設けられた制御可能な吸気絞り弁をさらに備え、前記停止制御が、前記吸気絞り弁が閉弁側の所定開度にあるときに相当する吸気量となるように前記吸気制御弁を制御することを含むことを特徴とする請求項1又は2記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記停止制御が、排気・吸気行程におけるポンピングロスと、圧縮・膨張行程における負の仕事との和が最大になるように前記吸気制御弁を制御することを含むことを特徴とする請求項1又は2記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記停止制御の開始後に所定の再始動条件が成立したときにエンジンを再始動させるための所定の再始動制御を実行する再始動制御手段をさらに備え、該再始動制御が、エンジンへの吸気量が増加されるように前記吸気制御弁を制御することを含むことを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のエンジンの制御装置。
【請求項6】
吸気弁の上流側の吸気通路に設けられ、該吸気通路内を閉止可能で且つ前記吸気弁の開閉と同期して開閉可能な吸気制御弁と、
所定の停止条件が成立したときにエンジンを停止させるための所定の停止制御を実行する停止制御手段と、
前記停止制御の開始後に所定の再始動条件が成立したときにエンジンを再始動させるための所定の再始動制御を実行する再始動制御手段とを備え、
該再始動制御が、エンジンへの吸気量が増加されるように前記吸気制御弁を制御することを含むことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項7】
吸気弁の上流側の吸気通路に設けられ、該吸気通路内を閉止可能で且つ前記吸気弁の開閉と同期して開閉可能な吸気制御弁と、
所定の停止条件が成立したときにエンジンを停止させるための所定の停止制御を実行する停止制御手段とを備え、
該停止制御が、排気・吸気行程におけるポンピングロスと、圧縮・膨張行程における負の仕事との和が最大になるように前記吸気制御弁を制御することを含むことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項8】
前記吸気制御弁が、前記吸気通路内を完全閉止可能であることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載のエンジンの制御装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−258078(P2006−258078A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80306(P2005−80306)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】