説明

テラヘルツ波素子

【課題】テラヘルツ波を発生又は検出するテラヘルツ波素子において、単色性が良いテラヘルツ波を効率良く出射する。
【解決手段】テラヘルツ波素子は、基板101の上に形成された第1の半導体層102と、第1の半導体層102の上に形成された第2の半導体層104と、第2の半導体層104の上に形成されたゲート電極106と、第2の半導体層104の上にゲート電極106を挟んで対向するように形成されたソース電極107及びドレイン電極108と、第2の半導体層104の上におけるゲート電極106とソース電極107との間及びゲート電極106とドレイン電極108との間に形成され、複数の金属膜109が周期的に配置された周期構造を有する周期金属膜109A,109Bと、ゲート電極106及び複数の金属膜109の上方に配置された第1のミラー111と、基板101の下に形成された第2のミラー112とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ(THz)帯の電磁波を発生又は検出するテラヘルツ波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ帯の電磁波(テラヘルツ波)は、近年注目されている電磁波であり、多岐にわたる応用の可能性が期待されている。現在、テラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS:Terahertz Time-Domain Spectroscopy)により、テラヘルツ波の発生又は検出を行うことが一般的である。しかしながら、テラヘルツ時間領域分光装置は、高精度な光学系の調整を必要とするだけでなく、大規模な設備を必要とする。このため、現状では、様々な分野へのテラヘルツ波の応用は困難である。
【0003】
そこで、テラヘルツ波を発生又は検出する新たな技術として、電子デバイスを用いた技術が検討されている。例えば、電界効果トランジスタを用い、チャネル電子のプラズモン共鳴を利用して、テラヘルツ波を発生又は検出する技術が報告されている。中でも、高電子移動度トランジスタ(HEMT: High Electron Mobility Transistor)を用い、2次元プラズモン共鳴を利用した技術が提案されている(例えば非特許文献1,2参照)。高電子移動度トランジスタとは、二次元電子ガス(2DEG:two-dimensional electron gas)をチャネルとした電界効果トランジスタである。
【0004】
以下に、特許文献1に記載の従来のテラヘルツ波素子の構造について、図4を参照しながら説明する。図4は、従来のテラヘルツ波素子の構造を示す断面図である。
【0005】
図4に示すように、半絶縁性のバルク層400の上に、バッファ層401及び電子供給層403が順次形成されている。バッファ層401と電子供給層403との界面には、二次元電子チャネル層402が形成されている。電子供給層403の上には、電極G1と電極G2とが交互に配置された2重回折格子型ゲート電極404が形成されている。バルク層400の側面を被覆する低誘電率膜405の上には、2重回折格子型ゲート電極404を挟んで対向するソース電極406及びドレイン電極407が形成されている。
【0006】
従来のテラヘルツ波素子では、2重回折格子型ゲート電極404によって、チャネル電子のプラズモン共鳴により発生した非放射場であるテラヘルツ帯のプラズマ波を、電磁波と結合させて、放射場であるテラヘルツ帯の電磁波(テラヘルツ波)に変換して放射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際特許公開公報WO2006/030608号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Physical Review Letters,71,2465(1993)
【非特許文献2】IEEE TRANS.ON ELECTRON DEVICES,VOL.43,NO.3,pp.380(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のテラヘルツ波素子では、以下に示す問題がある。
【0010】
従来のテラヘルツ波素子は、図4に示すように、2重回折格子型ゲート電極404、言い換えれば、電極G1及び電極G2が周期的に配置された周期構造(グレーティング,Grating)を有している。テラヘルツ波とグレーティングの偏波との関係を考慮すると、周期構造(グレーティング)の長手方向と直交する偏波のテラヘルツ波が発生する。発生したテラヘルツ波は、周期構造(グレーティング)に反射されることなく、ほぼ全透過され、外部に出射される。このため、テラヘルツ波のスペクトル幅は広帯域化され、単色性が悪いという問題がある。
【0011】
前記に鑑み、本発明の目的は、テラヘルツ波を発生又は検出するテラヘルツ波素子において、単色性が良いテラヘルツ波を効率良く出射することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明に係るテラヘルツ波素子は、基板の上に形成された第1の半導体層と、第1の半導体層の上に形成された第2の半導体層と、第2の半導体層の上に形成されたゲート電極と、第2の半導体層の上にゲート電極を挟んで対向するように形成されたソース電極及びドレイン電極と、第2の半導体層の上におけるゲート電極とソース電極との間及びゲート電極とドレイン電極との間に形成され、複数の金属膜が周期的に配置された周期構造を有する周期金属膜と、ゲート電極及び複数の金属膜の上方に配置された第1のミラーと、基板の下に形成された第2のミラーとを備えている。
【0013】
本発明に係るテラヘルツ波素子によると、ソース電極とゲート電極との間及びゲート電極とドレイン電極との間に、複数の金属膜が周期的に配置されている。言い換えれば、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極の各々と金属膜との間、並びに互いに隣り合う金属膜同士の間に、底面に第2の半導体層を露出させる開口部が周期的に配置されている。これにより、テラヘルツ波を効率良く出射させることができる。従って、高効率なテラヘルツ波素子を実現できる。
【0014】
さらに、ゲート電極及び周期金属膜の上方に、第1のミラーを配置する一方、基板の下に第2のミラーを形成する。これにより、対向する第1のミラー及び第2のミラーを有する共振器構造を形成することができる。共振器構造によってテラヘルツ波(特に、第1のミラー又は第2のミラーの鏡面に向かって放射されたテラヘルツ波)を光学的に閉じ込めることができ、共振モードによって決定される周波数を持つテラヘルツ波が増強される。従って、テラヘルツ波素子から出射されるテラヘルツ波のスペクトル幅を狭帯域化し、単色性を良くすることができる。
【0015】
以上のように、本発明に係るテラヘルツ波素子は、単色性が良いテラヘルツ波を効率良く出射することができる。
【0016】
本発明に係るテラヘルツ波素子において、第1のミラーと第2のミラーとの間隔が、光学半波長の整数倍であることが好ましい。
【0017】
第1のミラーと第2のミラーとの間隔Lを、光学半波長(λ/2)の整数倍にする(L=nλ/2,但しnは1以上の整数、λは光学波長)ことにより、第1のミラーと第2のミラーとの間、即ち、共振器構造内に、テラヘルツ波の定在波を発生させることができ、共振器構造内に存在し得るテラヘルツ波の波長が限定される。従って、テラヘルツ波素子から出射されるテラヘルツ波の単色性をより良くすることができる。
【0018】
本発明に係るテラヘルツ波素子において、第1のミラーは、格子状に配置された複数のミラー部を有し、ミラー部は、金属膜であることが好ましい。
【0019】
このように金属膜である複数のミラー部を格子状に配置することにより、第1のミラーの反射率を自在に制御することができ、より高効率なテラヘルツ波素子を実現できる。
【0020】
本発明に係るテラヘルツ波素子において、第2の半導体層及び第1の半導体層を貫通して基板中に到達し、且つ、第1の半導体層と第2の半導体層との界面に形成される2次元電子チャネル層を囲むように形成された側壁膜をさらに備え、側壁膜は、金属膜であることが好ましい。
【0021】
このようにすると、2次元電子チャネル層を囲む側壁膜を形成することができる。これにより、テラヘルツ波素子の側面に向かって放射されたテラヘルツ波を閉じ込める閉じ込め構造を形成することができ、より高効率なテラヘルツ波素子を実現できる。
【0022】
本発明に係るテラヘルツ波素子において、第1の半導体層と第2の半導体層との界面に形成される2次元電子チャネル層を囲むように、第2の半導体層及び第1の半導体層を貫通して基板中に到達する側壁孔が形成されていることが好ましい。
【0023】
このようにすると、2次元電子チャネル層を囲む側壁孔を配置することができる。これにより、テラヘルツ波素子の側面に向かって放射されたテラヘルツ波を閉じ込める閉じ込め構造を形成することができ、より高効率なテラヘルツ波素子を実現できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るテラヘルツ波素子によると、単色性が良いテラヘルツ波を効率良く出射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1(a) 及び(b) は、本発明の一実施形態に係るテラヘルツ波素子の構造を示す図であり、図1(a) は平面図であり、図1(b) は図1(a) に示すIb-Ib線における断面図である。
【図2】図2(a) 及び(b) は、本発明の一実施形態の第1の変形例に係るテラヘルツ波素子の構造を示す図であり、図2(a) は平面図であり、図2(b) は図2(a) に示すIIb-IIb線における断面図である。
【図3】図3(a) 及び(b) は、本発明の一実施形態の第2の変形例に係るテラヘルツ波素子の構造を示す図であり、図3(a) は平面図であり、図3(b) は図3(a) に示すIIIb-IIIb線における断面図である。
【図4】従来のテラヘルツ波素子の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の各実施形態は、本発明の単なる例示形態に過ぎず、本発明は、これらに限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の変形又は変更が可能であり、該変形例及び該変更例も本発明の範囲内に含まれる。図面において、各構成要素は、図示に適した寸法比率で図示されており、図示した寸法比率は、実際の寸法比率とは異なる場合がある。
【0027】
(一実施形態)
以下に、本発明の一実施形態に係るテラヘルツ波素子について、図1(a) 及び(b) を参照しながら説明する。図1(a) 及び(b) は、本実施形態に係るテラヘルツ波素子の構造を示す図であり、図1(a) は平面図であり、図1(b) は図1(a) に示すIb-Ib線における断面図である。なお、図1(a) において、樹脂膜110の図示を省略している。
【0028】
本実施形態に係るテラヘルツ波素子100は、電界効果トランジスタを備え、チャネル電子のプラズモン共鳴を利用して、テラヘルツ波を発生又は検出することができる。電界効果トランジスタは、バッファ層102と電子供給層104との界面に形成される2次元電子チャネル層103、ゲート絶縁膜105、ゲート電極106、ソース電極107及びドレイン電極108を有している。
【0029】
図1に示すように、高抵抗な基板101の上には、バッファ層102及び電子供給層104が順次形成されている。例えば、基板101はサファイア基板であり、バッファ層102はGaNからなり、電子供給層104はAl0.40Ga0.60Nからなる。
【0030】
バッファ層102と電子供給層104との界面には、2次元電子チャネル層103が形成されている。2次元電子チャネル層103は、次のようにして形成される。例えばエピタキシャル成長により、バッファ層102及び電子供給層104を順次形成すると、バッファ層102と電子供給層110との界面に、自発分極又はピエゾ分極によって高濃度の二次元電子ガス(2DEG)が発生する。この二次元電子ガスの周縁部を、例えばイオン注入により、選択的に高抵抗化(不活性化)する。これにより、図1(a) 及び(b) に示すような2次元電子チャネル層103が形成される。即ち、電界効果トランジスタ領域に、2次元電子チャネル層103が形成される。「電界効果トランジスタ領域」とは、電界効果トランジスタとして機能する領域をいう。
【0031】
電子供給層104の上には、ゲート絶縁膜105を介して、ゲート電極106が形成されている。電子供給層104の上には、ゲート電極106を挟んで対向するように、ソース電極107及びドレイン電極108が形成されている。ゲート電極106とソース電極107との間隔とゲート電極106とドレイン電極108との間隔とは、例えば、互いに同一である。ゲート電極106、ソース電極107及びドレイン電極108は、それぞれ、図1(a) に示すように、第1の方向(図1(a) の紙面の縦方向)に沿って延びている。
【0032】
ゲート電極106は、例えばチタン(Ti)膜、アルミニウム(Al)膜及びTi膜が順次積層された積層構造(Ti/Al/Ti)を有している。
【0033】
ソース電極107及びドレイン電極108は、それぞれ、Ti膜、Al膜及びTi膜が順次積層された積層構造(Ti/Al/Ti)を有している。ソース電極107及びドレイン電極108は、次のようにして形成される。例えばスパッタリングにより、電子供給層104の上に、Ti膜、Al膜及びTi膜を順次形成した後、熱処理により、電子供給層104とTi膜との界面に、オーミック接合を形成する。これにより、電子供給層104とソース電極107及びドレイン電極108とをオーミック接触させる。
【0034】
電子供給層104の上におけるゲート電極106とソース電極107との間には、ゲート絶縁膜105を介して、複数(例えば4つ)の金属膜109が周期的に配置された周期構造を有する周期金属膜109Aが形成されている。電子供給層104の上におけるゲート電極106とドレイン電極108との間には、ゲート絶縁膜105を介して、複数(例えば4つ)の金属膜109が周期的に配置された周期構造を有する周期金属膜109Bが形成されている。
【0035】
複数(例えば8つ)の金属膜109は、それぞれ、図1(a) に示すように、第1の方向(図1(a) の紙面の縦方向)、即ち、ゲート電極106、ソース電極107及びドレイン電極108のそれぞれが延びる方向に沿って延びている。
【0036】
ゲート絶縁膜105の上には、ゲート電極106及び複数の金属膜109を覆うように、樹脂膜110が形成されている。樹脂膜110の上には、上面ミラー111が形成されている。基板101の下には、下面ミラー112が形成されている。
【0037】
上面ミラー111は、図1(a) に示すように、格子状(例えば4×4)に配置された複数のミラー部111xを有している。ミラー部111xは、例えば金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)又は白金(Pt)等の金属からなる金属膜であることが好ましい。金属膜である複数のミラー部111xを格子状に配置することにより、上面ミラー111の反射率を自在に制御することができる。
【0038】
下面ミラー112は、例えばAu、Ag、Al、Pt等の金属からなる金属膜であることが好ましい。これにより、下面ミラー112を、高反射率のミラーとして機能させることができる。
【0039】
上面ミラー111と下面ミラー112との間隔Lは、光学半波長の整数倍である(L=nλ/2,但し、nは1以上の整数、λは光学波長である)ことが好ましい。光学波長は、例えば、放射されるテラヘルツ波の波長に応じて設定される。
【0040】
基板101は、テラヘルツ波の吸収係数が小さい基板であることが好ましい。テラヘルツ波の吸収係数が小さい基板として、例えば、シリコン基板が挙げられる。テラヘルツ波の吸収係数が小さい基板101を用いることにより、放射されたテラヘルツ波を減衰させることなく、テラヘルツ波素子100から出射させることができる。さらに、テラヘルツ波を基板101側から出射させることも可能である。
【0041】
以下に、本実施形態に係るテラヘルツ波素子100の基本的な動作について説明する。
【0042】
ソース電極107とドレイン電極108との間に電圧を印加すると、2次元電子チャネル層103を介して電流が流れる。2次元電子チャネル層103に電流が流れると、プラズマ波が電流に重畳するように誘起される。ゲート電極106の両側面でのプラズマ波の反射により、プラズマ波の不安定性が生じ、テラヘルツ帯のプラズモン共鳴が誘起される。このプラズマ波は、2次元電子チャネル層103中を伝搬する縦波であり、プラズマ波自体は、外部に放射されない非放射場である。なお、「ゲート電極106の両側面」とは、ゲート電極106のゲート長方向の両側面、言い換えれば、ゲート電極106におけるソース電極107と対向する側面及びゲート電極106におけるドレイン電極108と対向する側面をいう。
【0043】
本実施形態に係るテラヘルツ波素子100では、図1(a) 及び(b) に示すように、ゲート電極106とソース電極107との間に、周期構造を有する周期金属膜109Aが形成され、且つ、ゲート電極106とドレイン電極108との間に、周期構造を有する周期金属膜109Bが形成されている。これにより、非放射場であるテラヘルツ帯のプラズマ波を、空間を伝搬することが可能な電磁波と結合し、放射場であるテラヘルツ帯の電磁波(テラヘルツ波)に変換して放射することができる。
【0044】
プラズモン共鳴の周波数frは、ゲート長をLg、ゲート補正係数をβ、プラズマ波の速度をs、2次元電子チャネル層103における電子の有効質量をm*、スイング電圧をVs(=Vgs−Vth)とすると、下記に示す[数式1]で表される。
【0045】
【数1】

【0046】
上記に示す[数式1]から判るように、プラズモン共鳴の周波数frは、ゲート長Lgによって決定される。よって、ゲート電極106のゲート長Lgは、テラヘルツ帯に、プラズモン共鳴の周波数frを有するように設定される。言い換えれば、ゲート電極106のゲート長Lgは、テラヘルツ帯で、プラズモン共鳴が発生するように設定される。
【0047】
周期金属膜109A,109Bの周期Λは、下記の[数式2]で表される。
【0048】
【数2】

【0049】
但し、sはプラズマ波の速度、fは電磁波の周波数、mは次数である。
【0050】
複数の金属膜109が配置される周期Λが、上記に示す[数式2]を満たすことにより、所望の周波数fを持つ電磁波を放射させることが可能となる。具体的には例えば、周期金属膜109A,109Bの周期Λを1μm、プラズマ波の速度sを1×106m/s、次数mを1とすると、周波数fは1THzとなる。よって、周期金属膜109A,109Bの周期Λを1μm以下にすることで、1THz以上の電磁波、即ち、テラヘルツ波を放射させることが可能となる。
【0051】
なお、本実施形態では、1次モード(基本モード,次数m=1)とし、1THzのテラヘルツ波を放射する例を示したが、高次モード(次数m=2以上の自然数)としてもよい。この場合、周期金属膜109A,109Bの周期Λを1μm、プラズマ波の速度sを1×106m/sとすると、周波数fは2THzとなり、2THzのテラヘルツ波を放射することができる。しかしながら、高次モードの場合、基本モードの場合に比べて、テラヘルツ帯のプラズマ波と電磁波との結合効率が低いため、テラヘルツ波の放射効率が低くなる。
【0052】
なお、ゲート電極106の電圧を変化させることにより、二次元電子ガスの密度を変化させて、プラズマ波の速度sを制御して、テラヘルツ波の周波数fを制御することができる。
【0053】
本実施形態に係るテラヘルツ波素子100によると、ソース電極107とゲート電極106との間及びゲート電極106とドレイン電極108との間に、複数の金属膜109が周期的に配置されている。言い換えれば、ソース電極107、ゲート電極106及びドレイン電極108の各々と金属膜109との間、並びに互いに隣り合う金属膜109同士の間に、底面に電子供給層104を露出させる開口部が周期的に配置されている。これにより、テラヘルツ波を効率良く出射させることができる。従って、高効率なテラヘルツ波素子100を実現できる。
【0054】
さらに、ゲート電極106及び周期金属膜109A,109Bの上方に、上面ミラー111を配置する一方、基板101の下に下面ミラー112を形成する。これにより、対向する上面ミラー111及び下面ミラー112を有する共振器構造を形成することができる。共振器構造によってテラヘルツ波(特に、上面ミラー111又は下面ミラー112の鏡面に向かって放射されたテラヘルツ波)を光学的に閉じ込めることができ、共振モードによって決定される周波数を持つテラヘルツ波が増強される。従って、テラヘルツ波素子100から出射されるテラヘルツ波のスペクトル幅を狭帯域化し、単色性を良くすることができる。
【0055】
さらに、上面ミラー111と下面ミラー112との間隔Lを、光学半波長の整数倍にする(L=nλ/2,但しnは1以上の整数、λは光学波長)。これにより、上面ミラー111と下面ミラー112との間、即ち、共振器構造内に、テラヘルツ波の定在波を発生させることができ、共振器構造内に存在し得るテラヘルツ波の波長が限定される。従って、テラヘルツ波素子100から出射されるテラヘルツ波の単色性をより良くすることができる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態に係るテラヘルツ波素子100は、単色性が良いテラヘルツ波を効率良く出射することができる。よって、テラヘルツ波素子100を、残留物質分析装置及び非破壊検査装置等のセンシング装置、イメージング装置並びに通信装置等に利用可能である。具体的には例えば、電界効果トランジスタを2次元的に並列に配置することによって、テラヘルツ波を利用したイメージング装置等の小型化及び低コスト化が可能となる。
【0057】
(一実施形態の第1の変形例)
以下に、本発明の一実施形態の第1の変形例に係るテラヘルツ波素子について、図2(a) 及び(b) を参照しながら説明する。図2(a) 及び(b) は、本変形例に係るテラヘルツ波素子の構造を示す図であり、図2(a) は平面図であり、図2(b) は図2(a) に示すIIb-IIb線における断面図である。図2(a) 及び(b) において、一実施形態と同様の構成要素には、図1(a) 及び(b) に示す符号と同一の符号を付す。従って、本変形例では、一実施形態と共通する説明を適宜省略する。なお、図2(a) において、樹脂膜110の図示を省略している。
【0058】
本変形例と一実施形態との相違点は、次の点である。本変形例に係るテラヘルツ波素子200は、図2(a) 及び(b) に示すように、一実施形態と同様の構成要素を備え、さらに、側壁膜213を備えている。側壁膜213は、図2(a) に示すように、電子供給層104及びバッファ層102を貫通し、基板101中に到達している。側壁膜213は、図2(a) に示すように、平面形状が環状であり、2次元電子チャネル層103を囲むように形成されている。側壁膜213は、例えば金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)又は白金(Pt)等の金属からなる。
【0059】
本変形例に係るテラヘルツ波素子200によると、一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0060】
さらに、2次元電子チャネル層103を囲む側壁膜213を形成する。これにより、テラヘルツ波素子200の側面に向かって放射されたテラヘルツ波を閉じ込める閉じ込め構造を形成することができ、より高効率なテラヘルツ波素子200を実現できる。
【0061】
(一実施形態の第2の変形例)
以下に、本発明の一実施形態の第2の変形例に係るテラヘルツ波素子について、図3(a) 及び(b) を参照しながら説明する。図3(a) 及び(b) は、本変形例に係るテラヘルツ波素子の構造を示す図であり、図3(a) は平面図であり、図3(b) は図3(a) に示すIIIb-IIIb線における断面図である。図3(a) 及び(b) において、一実施形態と同様の構成要素には、図1(a) 及び(b) に示す符号と同一の符号を付す。従って、本変形例では、一実施形態と共通する説明を適宜省略する。なお、図3(a) において、樹脂膜110の図示を省略している。
【0062】
本変形例と一実施形態との相違点は、次の点である。本変形例に係るテラヘルツ波素子300は、図3(a) 及び(b) に示すように、一実施形態と同様の構成要素を備え、さらに、電子供給層104及びバッファ層102を貫通し基板101中に到達する側壁孔313が形成されている。側壁孔313は、図3(a) に示すように、2次元電子チャネル層103を囲むように形成されている。
【0063】
本変形例に係るテラヘルツ波素子300によると、一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
さらに、2次元電子チャネル層103を囲む側壁孔313を配置する。これにより、テラヘルツ波素子300の側面に向かって放射されたテラヘルツ波を閉じ込める閉じ込め構造を形成することができ、より高効率なテラヘルツ波素子300を実現できる。
【0065】
なお、一実施形態及びその第1,第2の変形例では、バッファ層102及び電子供給層104の材料が、GaN系材料である場合、具体的には、バッファ層102がGaNからなり、電子供給層104がAl0.40Ga0.60Nからなる場合を具体例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、バッファ層102及び電子供給層104の材料が、InGaAs系材料又はInP系材料であってもよい。この場合も、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0066】
なお、一実施形態及びその第1,第2の変形例では、電界効果トランジスタが、MISFET(Metal-Insulator-Semiconductor Field Effect Transistor)である場合を具体例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、MESFET(Metal-Semiconductor Field Effect Transistor )であってもよい。この場合も、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0067】
なお、一実施形態及びその第1,第2の変形例では、周期金属膜109A,109Bの周期が、1μmである場合を具体例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、単色性が良いテラヘルツ波を効率良く出射することができ、テラヘルツ波を発生又は検出するテラヘルツ波素子に有用であり、該テラヘルツ波素子を、センシング装置、イメージング装置又は通信装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
100,200,300 テラヘルツ波素子
101 基板
102 バッファ層
103 2次元電子チャネル層
104 電子供給層
105 ゲート絶縁膜
106 ゲート電極
107 ソース電極
108 ドレイン電極
109 金属膜
109A,109B 周期金属膜
110 樹脂膜
111 上面ミラー
112 下面ミラー
213 側壁膜
313 側壁孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成された第1の半導体層と、
前記第1の半導体層の上に形成された第2の半導体層と、
前記第2の半導体層の上に形成されたゲート電極と、
前記第2の半導体層の上に前記ゲート電極を挟んで対向するように形成されたソース電極及びドレイン電極と、
前記第2の半導体層の上における前記ゲート電極と前記ソース電極との間及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に形成され、複数の金属膜が周期的に配置された周期構造を有する周期金属膜と、
前記ゲート電極及び複数の前記金属膜の上方に配置された第1のミラーと、
前記基板の下に形成された第2のミラーとを備えていることを特徴とするテラヘルツ波素子。
【請求項2】
前記第1のミラーと前記第2のミラーとの間隔が、光学半波長の整数倍であることを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波素子。
【請求項3】
前記第1のミラーは、格子状に配置された複数のミラー部を有し、
前記ミラー部は、金属膜であることを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波素子。
【請求項4】
前記第2の半導体層及び前記第1の半導体層を貫通して前記基板中に到達し、且つ、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との界面に形成される2次元電子チャネル層を囲むように形成された側壁膜をさらに備え、
前記側壁膜は、金属膜であることを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波素子。
【請求項5】
前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との界面に形成される2次元電子チャネル層を囲むように、前記第2の半導体層及び前記第1の半導体層を貫通して前記基板中に到達する側壁孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−30610(P2013−30610A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165580(P2011−165580)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】