説明

ディーゼルエンジンの制御装置

【課題】低負荷時における燃費向上と高負荷時における比出力向上との両立を図る。
【解決手段】シリンダ内を往復動するピストン(9)と、駆動量に応じて圧縮比を可変に制御し得る圧縮比可変機構と、過給機(21)と、駆動量に応じてこの過給機の発生する過給圧を可変に制御し得る過給圧可変機構(36)とを有するディーゼルエンジンにおいて、燃焼室の壁面の一部または全部を断熱及び蓄熱の効果が高い非金属材料で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は往復動ピストンと過給機とを有するディーゼルエンジン(内燃機関)の制御装置、特に冷却損失低減技術と、それに伴って増大する排気エネルギーを利用した過給システムの効率向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
断熱エンジンのアイディアを利用して、燃焼室の壁面の一部または全部にセラミックなどの断熱材料を貼り、冷却損失を低減することにより、低負荷時におけるエンジンの熱効率を高めるものがある(特許文献1参照)。
【特許文献1】「遮熱エンジンの燃焼と燃焼室」,機械学会講演論文,1996年,No.96−1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、セラミックは高負荷時のような高温下で熱伝達率が上昇するため、燃焼室内の吸気の温度が上昇し、圧縮終わりの温度で200℃以上の上昇となる。ディーゼルエンジンにおいて、このような温度上昇が生じたのでは、噴射燃料の着火までの時間が短縮されて拡散燃焼の割合が増大するため、排気エネルギーが増大する結果となり、ターボコンパウンドのコンセプトが検討されたが、システムが複雑になる欠点があった(図30参照)。
【0004】
そこで本発明は、断熱エンジンのアイデアと圧縮比可変エンジンと過給機とを組み合わせることにより、低負荷時における燃費向上と高負荷時における比出力向上との両立を図る装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、シリンダ内を往復動するピストン(9)と、駆動量に応じて圧縮比を可変に制御し得る圧縮比可変機構と、過給機(21)と、駆動量に応じてこの過給機の発生する過給圧を可変に制御し得る過給圧可変機構(36)とを有するディーゼルエンジンにおいて、燃焼室の壁面の一部または全部を断熱及び蓄熱の効果が高い非金属材料で構成する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、シリンダ内を往復動するピストン(9)と、駆動量に応じて圧縮比を可変に制御し得る圧縮比可変機構と、過給機(21)と、駆動量に応じてこの過給機の発生する過給圧を可変に制御し得る過給圧可変機構(36)とを有するエンジンにおいて、燃焼室(62)の壁面の一部または全部を断熱及び蓄熱の効果が高い非金属材料で構成するので、低負荷時に冷却損失を低減し排気エネルギーを増大して過給効率を向上させる一方で、高負荷時には圧縮比を相対的に低下させてノッキングの発生を抑制すると共に、膨張比の低下による排気エネルギー(温度、圧力)の増大により高負荷時にも過給効率を向上させ、これにより、低負荷時における燃費向上と高負荷時における比出力向上との両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0008】
図1は複リンク型レシプロ式エンジンの概略構成図である。
【0009】
このエンジンは圧縮比可変機構、具体的にはピストン行程を変化させて圧縮比を変更する機構を備えている。なお、圧縮比可変機構を備えるこのエンジンは、本出願人が先に提案したものであるが、例えば特開2001−227367号公報等によって公知となっているので、その概要のみを説明する。
【0010】
クランクシャフト2には、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック1内の主軸受(図示しない)に回転可能に支持されるクランクジャーナル3が各気筒毎に設けられている。各クランクジャーナル3は、その軸心Oがクランクシャフト2の軸心(回転中心)と一致しており、クランクシャフト2の回転軸部を構成している。
【0011】
また、クランクシャフト2は、軸心Oから偏心して各気筒毎に設けられたクランクピン4と、クランクピン4をクランクジャーナル3へ連結するクランクアーム4aと、軸心Oに対してクランクピン4と反対側に配置され、主としてピストン運動の回転1次振動成分を低減するカウンターウェイト4bとを有している。クランクアーム4aとカウンターウェイト4bとは、この実施形態では一体的に形成されている。
【0012】
そして本実施形態では、各気筒毎に形成されたシリンダ10に摺動可能に嵌合するピストン9と、上記のクランクピン4とが、複数のリンク部材、すなわちアッパーリンク6とロアーリンク5とにより機械的に連携されている。アッパーリンク6の上端側は、ピストン9に固定的に設けられたピストンピン8に、軸心Oc周りに相対回転可能に外嵌している。また、アッパーリンク6の下端側とロアーリンク5の、ほぼ二等分された一方の本体5aとは、両者を挿通する連結ピン7によって、軸心Od周りに相対回転可能に連結されている。
【0013】
ロアーリンク5は、クランクピン4を狭持するように、2つの本体5a、5bを取付けて構成されており、この狭持部分でクランクピン4と軸心Oe周りに相対回転可能に装着されている。ほぼ2等分された他方のロアーリンク本体5bと制御リンク(サードリンク)11の上端側とは、両者を挿通する連結ピン12によって軸心Of周りに相対回転可能に連結されている。
【0014】
この制御リンク11の下端側は、シリンダブロック1に回動可能に支持される、偏心カム部14を有するコントロールシャフト13に、その軸心Ob周りに揺動可能に外嵌,支持されている。すなわち、コントロールシャフト13の外周には偏心カム部14が回転可能に設けられており、偏心カム部14の軸心Oaは、コントロールシャフト13の軸心Obに対して所定量偏心している。この偏心カム部14は、ウォームギア15を介して圧縮比制御アクチュエータ16によって、機関の運転状態に応じて回動制御されるとともに、任意の回動位置で保持されるようになっている。
【0015】
このような構成により、クランクシャフト2の回転に伴って、クランクピン4,ロアーリンク5,アッパーリンク6及びピストンピン8を介してピストン9がシリンダ10内を昇降するとともに、ロアーリンク5に連結する制御リンク11が、下端側の揺動軸心Obを支点として揺動する。
【0016】
また、上記の圧縮比制御アクチュエータ16により偏心カム部14を回動制御することにより、制御リンク11の揺動軸心となるコントロールシャフト13の軸心Obが偏心カム部14の軸心Oa周りに回転し、つまり制御リンク11の揺動中心位置Obが機関本体(及びクランクシャフト回転中心O)に対して移動する。これにより、ピストン9の行程が変化して、エンジンの各気筒の圧縮比が可変制御される。参考として、図2に、ピストン上死点位置における3つのリンク6、5、11の姿勢を模式的に示すと、図2左側は高圧縮比位置での、図2右側は低圧縮比位置での各リンク姿勢である。
【0017】
以上をまとめると、圧縮比可変機構が通常のクランク機構と異なる点は、ピストン9とクランクシャフト2がアッパーリンク6,ロアーリンク5の2つのリンクを介して連結され、さらにこのロアーリンク5には、その挙動を制約する制御リンク11が連結され、制御リンク11はさらに、偏心カム部14を有するコントロールシャフト13によって、その回転(揺動)中心を変えられる点にある。この圧縮比可変機構の最大の特長はコントロールシャフト13の角位置制御により、ピストン9の上死点位置を変えられる点にあり、いわゆる可変圧縮比機構としての機能を発揮する。また、ピストンストローク特性が単振動に近づけられるため、バランサシャフトが不要(4気筒)となるような振動低減効果があるが、その反面、従来のピストンストローク特性に比べると、後述するように上死点付近のピストン速度が遅くなるため、冷却損失が増大する傾向にある。
【0018】
図3は、断熱ピストン及び断熱ライナーの各構造を示す一部断面図である。すなわち、図3右側に示したように、ピストン9冠面にセラミック等の断熱材料(非金属材料)からなるコーティング層55を溶射等で層状に所定厚さとなるまで形成すると共に、シリンダライナー56を設け、このシリンダライナー56を同じくセラミック等の断熱材料(非金属材料)で構成する。圧縮比が固定のエンジンに対してこのような断熱ピストン及び断熱ライナーとした構成により冷却損失を低減しエンジンの熱効率を高め得ることは良く知られているのであるが、本発明は、駆動量に応じて圧縮比を可変に制御し得る圧縮比可変機構を有するエンジンに対して断熱ピストン及び断熱ライナーを適用したものである。なお、図3左側には通常のピストンの場合を示しており、燃焼による熱はピストン9よりピストンリング51、52を介してシリンダ10へと逃げるのであるが、断熱ピストン及び断熱ライナーの場合には、熱の伝達がセラミック等のコーティング層55で遮断されている。
【0019】
図4右側は第2実施形態のシリンダの一部を切り欠いたピストン9の概略斜視図で、ピストン9とシリンダライナー71の構造を示している。比較のため図4左側にはピストン9とシリンダ10の従来の構造を示している。
【0020】
ここで、シリンダライナー71を複合材料で傾斜配合とし、つまりシリンダライナー71をライナー上部71aとライナー下部71bのほぼ2つに分割し、ピストン上死点側に位置するライナー上部71aを断熱領域として、これに対してピストン下死点側に位置するライナー下部71bを高熱伝導・熱伝達領域として構成する。すなわち、ライナー上部71aはセラミック主体の断熱構造、ライナー下部71bはカーボンナノチューブ材をピストンと摺動する内周側表面に一部コーティング又は混合させ、熱伝導・伝達率をピストン下死点側で大きくしている。この場合、ライナー上部71aとライナー下部71bの境界の位置をいずれにするかはエンジン仕様毎に異なるので、適合により定める。
【0021】
なお、ピストン9冠面にセラミック等の断熱材料(非金属材料)からなるコーティング層55を溶射等で層状に所定厚さとなるまで形成する点は図3に示した第1実施形態と同じである。
【0022】
このように複合材料で傾斜配合としたシリンダライナー71を構成すると、ピストンリングの冷却がピストン9下死点側で行なえるため、ピストン9上死点側のライナー上部71aの表面温度が上昇しても、潤滑上の問題等を防止、つまりピストンリングの高温化によるコーキングによってピストン9がシリンダ(シリンダライナー71)の壁面にスティック(固着)することを防止できる。
【0023】
しかしながら、断熱材料としてのセラミックは同時に蓄熱材料でもあるため、図1に示した圧縮比可変エンジンである場合においても、熱負荷の高い条件で圧縮温度が上昇しノッキングの発生が懸念されることとなる。
【0024】
この場合に、断熱ピストン及び断熱ライナーを適用したエンジンが圧縮比可変エンジンであるので、第1、第2の実施形態では、図5に示したように、圧縮比制御システムを構成する。すなわち、エンジンの負荷と回転速度Neの信号が入力されるエンジンコントローラ39では、その入力されるエンジンの負荷と回転速度Neから目標圧縮比のマップ40を参照することにより、そのときの負荷と回転速度Neに応じた目標圧縮比を算出し、この目標圧縮比が得られるように、圧縮比制御アクチュエータ16に与える制御量(圧縮比可変機構への駆動量)を制御する。
【0025】
図6は目標圧縮比のマップ40の内容を示すものである。すなわち、図6に示したように、低回転速度の全負荷領域では燃焼室62(図5参照)の壁面(セラミック部分)の温度が高温となり、ノックが発生しやすい条件であるため、目標圧縮比εmとしてはこの場合、8を設定している。もちろん、冷却水温が低いエンジン暖機完了前の条件では高い目標圧縮比εm(例えば10)にしても良い。一方、R/L(平坦路走行時)など、部分負荷領域ではノックが発生しにくいため、燃費の向上を狙い目標圧縮比εmとしては14程度まで高く設定する。全負荷領域も高回転速度になればノックが発生しにくくなるため、熱効率向上による出力アップを狙いとして、目標圧縮比εmを比較的高い値とする。
【0026】
このように、目標圧縮比のマップ40では、低負荷時に目標圧縮比εmを大きく、高負荷時になると目標圧縮比εmを低負荷時よりも相対的に小さく設定し、また、高回転速度時に目標圧縮比εmを大きく、低回転速度時になると目標圧縮比εmを高回転速度時よりも相対的に小さく設定している。
【0027】
さて、平坦路走行状態(低負荷状態)にあっても、それ以前の登坂走行の履歴(平坦路に入ってからの時間など)によっては、燃焼室温度が高く、低下までに時間がかかることが考えられる。そのような場合には、直前の所定時間におけるトルク(負荷)の履歴など、負荷条件の履歴を検出することにより、間接的に燃焼室の温度状態を推定すればよい。
【0028】
これについて図7、図8を参照して説明すると、図8は高負荷状態(例えば登坂走行など)からt2のタイミングで低負荷状態(例えば平坦路での定常走行など)に切換わり、t5のタイミングで再び高負荷状態に切換わった場合に、燃焼室壁面の温度Tw、エンジントルク、点火時期(点火時期指令値IT)、圧縮比、ノックセンサ出力がどのように変化するのかを示している。高負荷状態での目標圧縮比は所定値ε1と小さいのであるが、高負荷状態が継続すると、燃焼室壁面の温度Twが目標温度レベルを大きく超えて上昇する。このとき、つまり燃焼室壁面の温度Twが目標温度レベルを大きく超えて上昇しているのに、t2のタイミングで低負荷状態に切換わったからといって、即座に低負荷状態での目標圧縮比(ε2)へと大きくしたのでは、ノッキングが生じかねない。言い替えると、低負荷状態に移行する直前で燃焼室壁面の温度Twが目標温度レベルを超えているときには、高負荷状態での目標圧縮比(ε1)から低負荷状態での目標圧縮比(ε2)への切換を、燃焼室壁面の温度Twが目標温度レベルに落ち着くまでの間、遅らせる必要がある。
【0029】
この場合に、低負荷状態に切換わるt2のタイミングより、過去に遡る所定の期間をレファレンスタイムとして予め定めておき、このレファレンスタイム間のエンジントルクの平均値を算出すれば、このレファレンスタイム間のエンジントルク平均値から高負荷状態での燃焼室壁面の温度Twを推定することができる。すなわち、レファレンスタイム間のエンジントルク平均値が基準値のとき、高負荷状態での燃焼室壁面の温度Twが目標温度レベルと一致し、レファレンスタイム間のエンジントルク平均値が基準値を超えて大きくなるほど、高負荷状態での燃焼室壁面温度Twの目標温度レベルからの温度差が大きくなるものと推定する。従って、図10に示したように、レファレンスタイム間のエンジントルク平均値が基準値のとき、高負荷状態での目標圧縮比(ε1)から低負荷状態での目標圧縮比(ε2)への切換を即座に行わせるため、遅れ時間τsをゼロとし、レファレンスタイム間のエンジントルク平均値が基準値を超えて大きくなるほど、高負荷状態での目標圧縮比(ε1)から低負荷状態での目標圧縮比(ε2)への切換を遅らせる時間τsを長くする。図8は高負荷状態での目標圧縮比から低負荷状態での目標圧縮比への切換を遅らせる時間τsがt2のタイミングよりt3のタイミングまでである場合である。
【0030】
このように、高負荷状態から低負荷状態への切換直前に、燃焼室壁面の温度Twが目標温度レベルを超えているときには、高負荷状態での目標圧縮比から低負荷状態での目標圧縮比への切換を遅らせることで、燃焼室壁面の温度Twが目標温度レベルを超えている状態で高負荷状態から低負荷状態へと切換わった直後に高負荷状態での目標圧縮比から低負荷状態での目標圧縮比へとステップ切換することに伴うノッキングの発生を有効に回避することができる。
【0031】
次に、t3からは低負荷状態での目標圧縮比(ε2)へと戻すため、目標圧縮比を徐々に大きくする処理を行い、t2から所定時間τ0が経過したt4のタイミングで低負荷状態での目標圧縮比(ε2)と一致させる。そして、t5のタイミングで低負荷状態より高負荷状態へと切換わったときにはノック回避のため、目標圧縮比を高負荷状態での目標圧縮比(ε1)へと即座に切換える。実際には圧縮比制御アクチュエータ16の応答遅れがあるので、実圧縮比が高負荷状態での目標圧縮比(ε1)に落ち着くのがt6のタイミングまで遅れており、この圧縮比の制御応答遅れにより、t5からt6の間でノックセンサの出力レベルが大きくなっている。なお、目標圧縮比と実圧縮比とはほぼ同じ動きをするのであるが、このように過渡時にだけずれることがあり、図8のt5〜t6の間は特に実圧縮比の動きを示している。
【0032】
図7、図8では燃焼室壁面の温度Twをレファレンスタイム間のエンジントルク平均値に基づいて推定する場合で説明したが、これに限られるものでなく、図5に示したように、シリンダ10の壁面(セラミック部分)の温度、つまり燃焼室62の壁面温度を検出する壁温センサ63が設けておき、燃焼室壁面の温度を直接測定するようにしてもかまわない。
【0033】
一方、点火時期については次のように制御する。すなわち、図8においてt2のタイミングで高負荷状態での点火時期(IT1)から低負荷状態での点火時期(IT2)へとステップ的に進角する。t3からt4までの目標圧縮比の漸増に対応して、点火時期を低負荷状態での点火時期(IT2)より遅角側に所定値IT3まで補正してゆき、その後は所定値IT3を保持させる。t5で低負荷状態より高負荷状態へと切換えられると、点火時期を所定値IT3より高負荷状態での点火時期(IT1)へとステップ的に遅角する。
【0034】
エンジンコントローラ39により実行されるこの制御を以下のフローチャートに従って詳述する。
【0035】
図9のフローチャートは圧縮比指令値を算出するためのもので、一定時間毎(たとえば10ms毎)に実行する。
【0036】
ステップ1では、エンジンの負荷と回転速度Neから図6を内容とする目標圧縮比のマップを参照することにより、目標圧縮比εmを算出する。
【0037】
ステップ2、3では今回に低負荷状態(例えば定常走行状態)にあるか否か、前回は高負荷状態であったか否かをみる。今回に低負荷状態にあり前回は高負荷状態であった、つまり、高負荷状態より低負荷状態へと切換わったタイミングであるときにはステップ4に進み、レファレンスタイム間のエンジントルク平均値を算出し、ステップ5でこの算出したレファレンスタイム間のエンジントルク平均値から図10を内容とするテーブルを参照することにより、遅れ時間τsを算出する。遅れ時間τsは、前述のように運転条件が低負荷状態に切換わっていても、高負荷状態での目標圧縮比をそのまま維持する時間を定めるものである。
【0038】
ステップ6では圧縮比指令値の前回値εz(つまり高負荷状態での目標圧縮比)を圧縮比指令値εに入れ、ステップ7でタイマを起動する(タイマ値t1=0)。このタイマは、運転条件が高負荷状態より低負荷状態に切換わってからの経過時間を計測するためのものである。
【0039】
次回には、今回に低負荷状態にあり前回も低負荷状態であった、つまり低負荷状態を継続することになる。このときにはステップ2、3よりステップ8に進み、タイマ値t1と、ステップ5で算出済みの遅れ時間τsとを比較する。当初はタイマ値t1は遅れ時間τsより小さいので、ステップ9に進み圧縮比指令値εを維持する(前回値εzを今回値εとする)。低負荷状態でタイマ値t1が遅れ時間τsに達する直前まではステップ2、3、8よりステップ9へと流れることになり、ステップ9の操作を繰り返す。つまり、高負荷状態での目標圧縮比を維持する。
【0040】
やがて、タイマ値t1が遅れ時間τsに達したときには、ステップ8よりステップ10に進み、タイマ値t1と所定時間τ0とを比較する。所定時間τ0は低負荷状態での圧縮比へと復帰させる時間を定めるためのものである。ステップ10に進んできた当初はタイマ値t1が所定時間τsより小さいので、ステップ11に進み、圧縮比指令値εを所定値だけ大きくする、つまり次式により圧縮比指令値εを増大側に更新する。
【0041】
ε=εz+Δε …(1)
ただし、εz:εの前回値、
Δε:制御周期当たり(10ms当たり)の増加量、
タイマ値t1が所定時間τ0に達する直前まで、ステップ2、3、8、10よりステップ11に流れることになり、ステップ11の操作を繰り返す。これにより、圧縮比指令値εが徐々に大きくなってゆく(漸増)。
【0042】
タイマ値t1が所定時間τ0に達したときには、ステップ2、3、8、10よりステップ12に進み、ステップ1で算出済みの目標圧縮比εmを圧縮比指令値εに入れる。これにより、高負荷状態での目標圧縮比より低負荷状態での目標圧縮比への切換が完了する。
【0043】
一方、ステップ2で今回に低負荷状態(例えば定常走行状態)にないときにはステップ10に進み、ステップ1で算出済みの目標圧縮比εmをそのまま圧縮比指令値εに移す。例えば低負荷状態でタイマ値t1が所定時間τ0を経過した後に高負荷状態に切換わったとすれば、このときステップ2よりステップ10へと進むことになり、高負荷状態での目標圧縮比へと即座に切換えられる。
【0044】
このようにして算出された圧縮比指令値εが得られるようにエンジンコントローラ39が圧縮比制御アクチュエータ16を駆動する。
【0045】
図11のフローチャートは点火時期指令値を算出するためのもので、一定時間毎(たとえば10ms毎)に実行する。図11のフローでは図9のフローで算出済みの値を用いるため、図11のフローは図9のフローに続けて実行する。
【0046】
ステップ21ではエンジンの負荷と回転速度NEから所定の点火時期のマップを参照することにより、点火時期ITmを算出する。
【0047】
ステップ22、23、24では運転条件が低負荷状態(たとえば定常走行状態)にあるか否か、図9のフローにより算出済みのタイマ値t1が図9のフローにより算出済みの遅れ時間τs以上であるか否か、図9のフローにより算出済みのタイマ値t1が図9のステップ10で設定されている所定時間τ0以上であるか否かをみる。
【0048】
まず、低負荷状態でタイマ値t1が遅れ時間τsに達する直前まではステップ22、23よりステップ27に進み、ステップ21で算出済みの点火時期ITmをそのまま点火時期指令値ITに移す。
【0049】
次に、低負荷状態でタイマ値t1が遅れ時間τsに達したときからタイマ値t1が所定時間τ0に達する直前まではステップ22、23、24よりステップ25に進み、点火時期指令値ITを所定値だけ小さくする、つまり次式により点火時期指令値ITを減少側(遅角側)に更新する。
【0050】
IT=ITz−ΔIT …(2)
ただし、ITz:ITの前回値、
ΔIT:制御周期当たり(10ms当たり)の減少量、
点火時期指令値ITの単位は圧縮上死点から進角側に計測した値[degBTDC]であるため、点火時期指令値ITが大きくなれば点火時期が進角側に、この逆に点火時期指令値ITが小さくなれば点火時期が遅角側に移動することを意味する。
【0051】
タイマ値t1が所定時間τ0に達する直前まで、ステップ22、23、24よりステップ25に流れることになり、ステップ25の操作を繰り返す。これにより、点火時期指令値ITが徐々に小さくなってゆく(遅角されてゆく)。
【0052】
タイマ値t1が所定時間τ0に達したときには、ステップ22、23、24よりステップ26に進み点火時期指令値ITを維持する(前回値ITzを今回値ITとする)。低負荷状態でタイマ値t1が所定時間τsに達した以降はステップ22、23、24よりステップ26へと流れることになり、ステップ26の操作を繰り返す。つまり、タイマ値t1が所定時間τ0に達したときに算出した点火時期指令値ITを維持する。
【0053】
一方、ステップ22で今回に低負荷状態(例えば定常走行状態)にないときにはステップ27に進み、ステップ21で算出済みの点火時期ITmをそのまま点火時期指令値ITに移す。例えば低負荷状態でタイマ値t1が所定時間τ0を経過した後に高負荷状態に切換わったとすれば、このときステップ22よりステップ27へと進むことになり、高負荷状態での点火時期へと即座に切換えられる。
【0054】
このようにして算出された点火時期指令値ITで点火されるようにエンジンコントローラ39が点火装置41(図5参照)を制御する。
【0055】
ここで、第1、第2の実施形態の作用効果を説明する。
【0056】
第1、第2の実施形態)によれば、シリンダ10内を往復動するピストン9と、駆動量に応じて圧縮比を可変に制御し得る圧縮比可変機構とを有するエンジンにおいて、燃焼室62の壁面の一部(ピストン、シリンダ、ヘッド、吸排気弁の少なくとも一部)を断熱及び蓄熱の効果が高い非金属材料で構成するので、熱負荷の高くない条件で冷却損失を低減して、エンジンの熱効率を高めることができる。
【0057】
第1、第2の実施形態によれば、低負荷時に目標圧縮比を大きく、高負荷時になると目標圧縮比を低負荷時よりも相対的に小さく設定した目標圧縮比のマップ40(図6参照)を有し、エンジンの負荷からこの目標圧縮比のマップを参照することにより、目標圧縮比εmを算出し(図9のステップ1参照)、この算出した目標圧縮比εmが得られるように圧縮比制御アクチュエータ16に与える制御量(圧縮比可変機構への駆動量)を制御するので、低負荷時の高い圧縮比の維持によって冷却損失低減による熱効率を向上できる一方、高負荷時のノック発生を抑制できる。これにより、当初の狙いである断熱による燃費向上が可能となった。
【0058】
第1、第2の実施形態によれば、高回転速度時に目標圧縮比を大きく、低回転速度時になると目標圧縮比を高回転速度時よりも相対的に小さく設定した目標圧縮比のマップ40(図6参照)を有し、エンジンの回転速度Neからこの目標圧縮比のマップを参照することにより、目標圧縮比εmを算出し(図9のステップ1参照)、この算出した目標圧縮比εmが得られるように圧縮比制御アクチュエータ16に与える制御量(圧縮比可変機構への駆動量)を制御するので、低回転速度時のノック発生を抑制すると共に、ノックの発生しにくい高回転速度時に熱効率を向上させ出力アップ図ることができる。
【0059】
また、ピストンストローク特性を単振動に近づけると、バランサシャフトが不要(4気筒)となるような振動低減効果があるものの、その反面、従来のピストンストローク特性に比べて上死点付近のピストン速度が遅くなるため、冷却損失が増大する傾向にあるのであるが、第1、第2の実施形態によれば、燃焼室62の壁面の一部を断熱及び蓄熱の効果が高い非金属材料で構成しているので、冷却損失の増大を回避できることとなった。
【0060】
第1、第2の実施形態では、さらに次の構成のいずれかを付加することができる。
〈1〉ノックセンサ61(ノック検出装置)を備え、このノックセンサ61により検出されるノック発生頻度またはノックセンサ61の検出レベルが所定値以上になったとき、図9により算出した圧縮比指令値ε(目標圧縮比)を減少補正する。
〈2〉壁温センサ63(壁面温度検出手段)を備え、この壁温センサ63により検出される燃焼室壁面の温度が所定値よりも高い場合に、図9により算出した圧縮比指令値ε(目標圧縮比)を減少補正する。
〈3〉負荷を含む運転条件の履歴から算出したノック余裕度の指数を算出し、このノック余裕度の指数に基づいてノックが発生すると予測するときには図9により算出した圧縮比指令値ε(目標圧縮比)を減少補正する。
【0061】
次に、図12は第3実施形態の目標圧縮比のマップ特性で、第1、第2の実施形態の図6と置き換わるものである。
【0062】
第3実施形態は、図3、図4に示した断熱ピストン及び断熱ライナーを図1に示した圧縮比可変エンジンに適用している点で第1、第2の実施形態と同じであり、圧縮比と点火時期の制御方法で第1、第2の実施形態と相違する。すなわち、第3実施形態は、熱負荷の高くない条件に対応したエンジンの負荷と回転速度Neとをパラメータとする第1の目標圧縮比のマップと、熱負荷の高い条件に対応したエンジンの負荷と回転速度Neとをパラメータとする第2の目標圧縮比のマップとを有し、エンジンの負荷と回転速度Neが同じとき、第1の目標圧縮比のマップを参照することにより求まる目標圧縮比を、第2の目標圧縮比のマップを参照することにより求まる目標圧縮比よりも高くしてあり、熱負荷の高くない条件で第1の目標圧縮比のマップを、熱負荷の高い条件で第2の目標圧縮比のマップを選択し、エンジンの負荷と回転速度Neからこの選択した各目標圧縮比のマップを参照することにより目標圧縮比を算出し、この算出した目標圧縮比が得られるように圧縮比制御アクチュエータ16に与える制御量(圧縮比可変機構への駆動量)を制御するものである。この場合、熱負荷の高くない条件であるのか、それとも熱負荷の高い条件になったのかを、シリンダ10の壁面(セラミック部分)の温度(燃焼室壁面の温度)に基づいて判定する。ここで、シリンダ10の壁面(セラミック部分)の温度を検出するには壁温センサ63を設けておけばよい(図5参照)。
【0063】
以下、第3実施形態を詳述する。
【0064】
図12は熱負荷の高くない条件と熱負荷の高い条件とに対応した目標圧縮比のマップ特性である。図12のうち左側には熱負荷の高くない条件、例えば燃焼室壁面温度が150℃以下となるときの、これに対して右側には熱負荷の高い条件、例えば燃焼室壁面温度が150℃を超えるときの特性を示している。
【0065】
まず、第1と第2の2つの各目標圧縮比のマップにおいて、エンジンの負荷と回転速度Neに対する目標圧縮比の傾向は第1、第2の実施形態と同じである。すなわち、図12に示したように、低負荷時に目標圧縮比εmを高く、高負荷時になると目標圧縮比εmを低負荷時よりも相対的に低く設定している。また、高回転速度時に目標圧縮比εmを高く、低回転速度時になると目標圧縮比εmを高回転速度時よりも相対的に低く設定している。
【0066】
ただし、同じ運転条件(負荷と回転速度Neから定まる)でも、熱負荷の高くない条件と熱負荷の高い条件とで目標圧縮比εmの値を異ならせている。すなわち、同じ負荷と回転速度Neからで比較すると、図12右側に示す熱負荷の高い条件のほうがノッキングが発生し易くなるので、図12左側に示す熱負荷の高くない条件のほうが図12右側に示す熱負荷の高い条件より目標圧縮比εmを相対的に大きく設定している。
【0067】
一方、図12の特性を第1、第2の実施形態の図6の特性と比較すると、図12右側に示す熱負荷の高い条件において目標圧縮比εmの特性を第1、第2の実施形態と同じにしており、これに対して図12左側に示す熱負荷の高くない条件において第3実施形態のほうが第1、第2の実施形態より目標圧縮比εmを高くしている。このようにすることで、第3実施形態によれば、全開出力時等熱負荷の高い条件での吸気温度の上昇によるノッキング発生を抑制すると共に、ノッキングの発生しにくい熱負荷の高くない条件で熱効率を向上させ出力アップを図ることができる。
【0068】
このように、熱負荷が高い条件にあるのかそれとも熱負荷が高くない条件にあるのかにより第1と第2の2つの目標圧縮比のマップを切換えて用いるようにしていても、何らかの原因によりノッキングが発生することがあるので、次には主に熱負荷の高い条件においてノッキングが発生した場合の圧縮比制御方法を図13のモデル図を参照して説明する。
【0069】
図13において、熱負荷が高い条件にあるt11のタイミングでノックセンサ出力がスライスレベルを超えた、つまりノッキングが発生したとすると、このときには点火時期を、ノッキングが発生する直前の値(IT4)から、所定値IT5(<IT4)へと所定値だけステップ的に小さくし(遅角補正し)、ノッキングがそれ以上継続しないようにする。さらに、t11のタイミングより目標圧縮比をノッキングが発生する直前での値(ε4)から所定値ε5(<ε4)へと徐々に小さくする。この目標圧縮比の減少補正により、ノッキングに対して余裕が生じるため、目標圧縮比の減少補正に対応して、点火時期をトレースノック限界(IT6)まで徐徐に進角側へと復帰させる。
【0070】
図14のフローチャートは、図13に示したモデル波形図のうち特に圧縮比についての制御を実現するためのものである。このフローチャートは、前述の図9、図11と相違して時系列的な流れを示している。
【0071】
ステップ31では、エンジンの負荷と回転速度Ne、ノックセンサ61出力、壁温センサ63により検出される燃焼室壁面温度Twを読み込む。
【0072】
ステップ32では目標圧縮比εmを算出する。この目標圧縮比εmの算出については図15のフローにより説明する。図15(図14のステップ32のサブルーチン)においてステップ41では、燃焼室壁面温度Twと判定値(ここでは150℃)を比較する。燃焼室壁面温度Twが判定値の150℃以下のとき、つまり熱負荷が高くない条件であるときには、ステップ42に進んで図9左側を内容とする第1の目標圧縮比のマップを選択し、ステップ43でそのときのエンジン回転速度Neと負荷(エンジントルク)とからこの第1の目標圧縮比のマップを参照することにより、熱負荷が高くない条件での目標圧縮比εm1を算出し、ステップ44でこの目標圧縮比εm1を目標圧縮比εmに移す。
【0073】
一方、燃焼室壁面温度Twが判定値の150℃を超えているとき、つまり熱負荷が高い条件であるときには、ステップ41よりステップ45に進んで、図9右側を内容とする第2の目標圧縮比のマップを選択し、ステップ46でそのときのエンジン回転速度Neと負荷(エンジントルク)とからこの第2の目標圧縮比のマップを参照することにより、熱負荷が高い条件での目標圧縮比εm2を算出し、ステップ47でこの目標圧縮比εm2を目標圧縮比εmに移す。
【0074】
このようにして熱負荷が高い条件でのあるいは熱負荷が高くない条件での各目標圧縮比の算出を終了したら図14に戻りステップ33に進む。
【0075】
ステップ33では燃焼室壁面温度Twと目標温度レベルT0(図8参照)を比較する。目標温度レベルT0は、ノッキングが発生するか否かを判定するためのものである。燃焼室壁面温度Twが目標温度レベルT0未満であるときにはノッキングが発生する可能性がないと判断し、そのまま今回の処理を終了する。
【0076】
燃焼室壁面温度Twが目標温度レベルT0以上であるときには、ノッキングが発生する可能性があると判断し、ステップ34に進み、ノックセンサ出力に基づいてノック発生頻度σを算出し、ステップ35でこのノック発生頻度σと燃焼室壁面温度Twとに基づいて目標圧縮比の範囲を算出する。
【0077】
ここで、目標圧縮比の範囲は基準圧縮比を中心として上下に所定幅ずつの許容値を設けたものである。基準圧縮比は、図16に示したように基準の燃焼室壁面温度のとき、ノック発生頻度σが大きくなるほど小さくなる値である。基準圧縮比を、ノック発生頻度σが大きくなるほど小さくするのは、ノック発生頻度をスライスレベルへと小さくするためである。また、燃焼室壁面温度が基準の燃焼室壁面温度より高くなると、ノック発生頻度σが基準の燃焼室壁面温度に対するノック発生頻度よりも大きくなる。そこで、燃焼室壁面温度Twが基準の燃焼室壁面温度よりも高いときには、基準圧縮比を基準の燃焼室壁面温度に対する基準圧縮比よりも小さくしている。
【0078】
図14に戻り、ステップ36では、ステップ32で算出している目標圧縮比εmがこの目標圧縮比の範囲内にあるか否かをみる。圧縮比可変機構や燃料噴射装置に製作バラツキや経時劣化がなければ、ステップ32で算出している目標圧縮比εmがこの目標圧縮比の範囲内に収まるので、そのまま処理を終了する。
【0079】
ところが、圧縮比可変機構には製作バラツキがあり、また経時劣化が生じる。これらの製作バラツキや経時劣化によって実際の圧縮比が目標圧縮比εmより大きくなっていると、ノック発生頻度σがスライスレベルを超えて大きくなる。あるいは、燃料噴射装置の製作バラツキや経時劣化によって燃料噴射弁からの燃料噴射量に供給過多が生じているときには燃焼室壁面温度Twが目標温度レベルT0を超えて高くなる。従って、こうした事態が生じているときには、ノック発生頻度σと燃焼室壁面温度とに基づいて算出される目標圧縮比の範囲、つまり基準圧縮比は、目標圧縮比εmよりもずっと小さな値を指示することになり、目標圧縮比εmが目標圧縮比の範囲内に収まらず、目標圧縮比の範囲の上限を超えるものとなる。このときにはステップ37に進んで目標圧縮比εmを減量側に補正する。例えば、ステップ32で求めた目標圧縮比εmから所定値を差し引いた値を改めて目標圧縮比εmとする。
【0080】
ステップ38では、このようにして補正した後の目標圧縮比εmが得られるように圧縮比制御アクチュエータ16を作動する。
【0081】
圧縮比制御アクチュエータ16の作動後には再びステップ39で、補正後の目標圧縮比εmが目標圧縮比の範囲内にあるか否かをみる。補正後の目標圧縮比εmが目標圧縮比の範囲内に収まっていなければ、ステップ37、38に戻り、補正後の目標圧縮比εmから所定値を差し引いた値を改めて補正後の目標圧縮比εmとし、このようにして補正した後の目標圧縮比εmが得られるように圧縮比制御アクチュエータ16を再び作動する。それでも、ステップ39で補正後の目標圧縮比εmが目標圧縮比の範囲内に収まっていなければ、ステップ37、38に戻り、ステップ37、38の操作を繰り返す。このステップ37、38の操作の繰り返しによりやがて補正後の目標圧縮比εmが目標圧縮比の範囲内に収まることとなる。このときには、ステップ39よりENDに進む。
【0082】
ここで、第3実施形態の作用効果を説明する。
【0083】
第3実施形態によれば、熱負荷の高くない条件に対応したエンジンの負荷と回転速度Neとをパラメータとする第1の目標圧縮比のマップ(図12左側参照)と、熱負荷の高い条件に対応したエンジンの負荷と回転速度Neとをパラメータとする第2の目標圧縮比のマップ(図12右側参照)とを有し、エンジンの負荷と回転速度Neが同じとき、第1の目標圧縮比のマップを参照することにより求まる目標圧縮比(εm1)を、第2の目標圧縮比のマップを参照することにより求まる目標圧縮比(εm2)よりも高くしてあり(図12参照)、熱負荷の高くない条件で第1の目標圧縮比のマップを、熱負荷の高い条件で第2の目標圧縮比のマップを選択し(図15のステップ41、42、45参照)、エンジンの負荷と回転速度Neからこの選択した各目標圧縮比のマップを参照することにより目標圧縮比εm(εm1、εm2)を算出し(図15のステップ41、42、43、44、45、46、47参照)、この算出した目標圧縮比εmが得られるように圧縮比制御アクチュエータ16に与える制御量(圧縮比可変機構への駆動量)を制御するので、熱負荷の高くない条件での高い圧縮比の維持によって冷却損失低減による熱効率を向上できる一方、熱負荷の高い条件でのノック発生を抑制できる。
【0084】
圧縮比可変機構の製作バラツキや経時劣化によって実際の圧縮比が目標圧縮比εmより大きくなっていると、ノック発生頻度σがスライスレベルを超えて大きくなる。あるいは、燃料噴射装置の製作バラツキや経時劣化によって燃料噴射弁からの燃料噴射量に供給過多が生じているときには燃焼室壁面温度Twが目標温度レベルT0を超えて高くなる。従って、こうした事態が生じているときには、ノック発生頻度σと燃焼室壁面温度Twとに基づいて算出される目標圧縮比の範囲、つまり基準圧縮比は、目標圧縮比εmよりもずっと小さな値を指示することになり、目標圧縮比εmが目標圧縮比の範囲内に収まらず、目標圧縮比の範囲の上限を超えるものとなるのであるが、第3実施形態によれば、ガソリンエンジンを対象として、ノックセンサ61(ノック検出装置)と壁温センサ63(燃焼室壁面温度検出手段)とを備え、ノックセンサ61により検出されるノック発生頻度σと、壁温センサ63により検出される燃焼室壁面の温度Twとから適正な目標圧縮比の範囲を算出し(図14のステップ35参照)、目標圧縮比のマップにより設定される目標圧縮比εm(εm1、εm2)がこの算出した目標圧縮比の範囲に収まるように圧縮比制御アクチュエータ16に与える制御量(圧縮比可変機構への駆動量)を制御する(図14のステップ36、37、38、39参照)ので、圧縮比可変機構や燃料噴射装置に製作バラツキや経時劣化があっても、実際の圧縮比を目標圧縮比の範囲内に収めることができる。
【0085】
ここまでガソリンエンジンを対象とする場合で述べたが、次にはディーゼルエンジンを対象とする場合で述べる。
【0086】
第4実施形態は、断熱ピストンと複リンク型レシプロ式エンジンとターボ過給機と圧縮比制御とを組み合わせたディーゼルエンジンである。このうち、図17は第4実施形態の圧縮比と過給圧の制御システムの全体構成図で、ターボ過給機を備えないガソリンエンジンに対する図5と置き換わるものである。ただし、図17にはピストンクランク機構の全体を図示していないが、図5、図1と同じである。また、断熱ピストンについては図3または図4と同じである。
【0087】
図17において、ターボ過給機21はコンプレッサ21aと排気タービン21bとを同軸で連結したものある。すなわち、吸入空気はコンプレッサ21aにより加圧され、吸気弁27が開いたときに吸気ポート26よりシリンダ10内に入り、シリンダ10内で燃焼したガスは排気弁28が開いたときに排気通路29へと排出され、排気のエネルギーが排気タービン21bによって回収されることとなる。排気タービン21bをバイパスする通路35に排気バイパス弁36(過給圧可変機構)が設けられ、この排気バイパス弁36の開度を制御することで過給圧が制御される。なお、過給圧可変機構はこれに限られるものでなく、可変ノズルベーンを備えるターボ過給機では、可変ノズルベーンが過給圧可変機構となる。
【0088】
壁温センサ63からの燃焼室壁面温度Twが、エンジン回転速度、エンジン負荷、冷却水温の信号と共に入力されるエンジンコントローラ39では、エンジンの暖機完了後において、エンジン回転速度とエンジン負荷により定まる運転条件に応じた目標過給圧となるように排気バイパス弁36の開度を制御すると共に、熱負荷により定まる条件とエンジン回転速度とエンジン負荷により定まる運転条件に応じた目標圧縮比となるように圧縮比制御アクチュエータ16を制御する。
【0089】
ここで、目標圧縮比は、図19に示したように、無過給エンジンに対する特性である図6と同様にしてエンジン回転速度とエンジントルクとに応じて予め設定している。ただし、ターボ過給機を備えている第4実施形態では、図18に示したようにエンジン回転速度Neとエンジン負荷に応じて予め定めた目標過給圧のマップを有しており、この図18に示す目標過給圧のマップを用いた過給圧制御状態のもとでノッキングが生じることがないように(特に低回転速度高負荷時において)、目標過給圧に応じた目標圧縮比を設定する必要がある。すなわち、無過給状態での特性である図6の特性に対して過給圧が加わる分の補正を施したものが、ターボ過給機を有するエンジンに対する特性である図19の特性となるのであり、図19の特性は図6の特性とは異なったものとなる。図18、図19に具体的な特性は示していないが、最終的には目標過給圧、目標圧縮比とも適合により定めることとなる。なお、目標過給圧の特性としては、例えば、エンジン回転速度が同一であれば、エンジン負荷が大きくなるほど大きな値の目標過給圧を設定することが考えられる。
【0090】
このように、目標圧縮比を目標過給圧と関連づけて設定した場合の第4実施形態の作用を図20、図21を参照して説明すると、図20、図21は、急加速時にタービン上流排気圧力(T/C上流排圧)、タービン回転速度(T/C回転数)、過給圧、圧縮比がどのように変化するのかを示している。急加速直前の低負荷状態では高圧縮比の状態にあり、この状態より急加速を行うと、燃料噴射量が急激に増えるためタービン上流排気圧力が急上昇するのであるが、高負荷状態となるにつれて目標圧縮比が低下してゆくため、排気圧力はあるところでピークを採った後に緩やかに低下している。このため、タービン回転速度の上昇も緩やかなものであり、このタービン回転速度とタービン上流排気圧力とにより定まる実過給圧の上昇も緩やかである。このように、加速を行って高負荷状態に至っても、目標圧縮比を低下させてノッキングを回避しつつ過給を行うことができるのである。
【0091】
ここで、第4実施形態の作用効果を説明する。
【0092】
図22は第4実施形態の効果をまとめたものである。すなわち、ターボ過給機21を有するディーゼルエンジンに図3、図4に示した断熱ピストンを採用しているため、低負荷時には冷却損失が減少して排気エネルギーが増大する。その一方で、高負荷時には断熱ピストンの蓄熱効果により、圧縮温度が上昇するためノッキングが生じ得るが、このノッキングに対しては図1に示した複リンク型レシプロ式エンジンをディーゼルエンジンに採用すると共に圧縮比可変機構を用いて圧縮比制御を行い目標圧縮比を下げることで回避することができる。このとき、膨張比の低下を伴うため、結果として高負荷時においても排気エネルギーが増大する。このように、低負荷時、高負荷時とも排気エネルギーが増大することは、過給効率が向上することを意味する。
【0093】
断熱ピストンと圧縮比固定の従来のレシプロ式エンジンとを組み合わせた場合には、右上に示したように、高負荷時の断熱ピストンによる蓄熱効果により、充填効率が低下して、エンジントルクの低下を招くことになるのであるが、断熱ピストンと複リンク型レシプロ式エンジンとターボ過給機と圧縮比制御とを組み合わせた本発明のディーゼルエンジンによれば、ノック回避を目的とした目標圧縮比の低下により膨張比の低下を伴うため排気エネルギーが増大する、という副次効果が得られることから、高負荷時においても、過給性能が向上しエンジントルクが増大する、という効果が生じるのである。
【0094】
このように、第4実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、シリンダ内を往復動するピストン9と、駆動量に応じて圧縮比を可変に制御し得る圧縮比可変機構と、過給機21と、排気バイパス弁36(過給圧可変機構)とを有するエンジンにおいて、燃焼室62の壁面の一部または全部を断熱及び蓄熱の効果が高い非金属材料で構成するので、低負荷時に冷却損失を低減し排気エネルギーを増大して過給効率を向上させる一方で、高負荷時には圧縮比を相対的に低下させてノッキングの発生を抑制すると共に、膨張比の低下による排気エネルギー(温度、圧力)の増大により高負荷時にも過給効率を向上させ、これにより、低負荷時における燃費向上と高負荷時における比出力向上との両立を図ることができる。
【0095】
次に、図23は第5実施形態の目標圧縮比の特性で、第4実施形態の図19と置き換わるものである。すなわち、第5実施形態は、断熱ピストンと複リンク型レシプロ式エンジンとターボ過給機と圧縮比制御とを組み合わせたディーゼルエンジンにおいて、目標圧縮比を、図23に示したように、熱負荷の高くない条件と熱負荷の高い条件とで目標圧縮比のマップを切換えるようにしたものである。
【0096】
目標圧縮比の設定方法は、第4実施形態と同様である。すなわち、図18に示したようにエンジン回転速度Neとエンジン負荷に応じて予め定めた目標過給圧のマップを有しており、この図18に示す目標過給圧のマップを用いた過給圧制御状態のもとでノッキングが生じることがないように(特に低回転速度高負荷時において)、目標過給圧に応じた目標圧縮比を設定する必要があるので、無過給状態での特性であった図12の特性に対して過給圧が加わる分の補正を施したものが、ターボ過給機を有するエンジンに対する特性である図23の特性となるのであり、図23の特性は図12の特性とは異なったものとなる。図23に具体的な特性は示していないが、最終的には第4実施形態同様に適合により定めることとなる。
【0097】
次に、第5実施形態において、ノックが生じたときの制御について説明する。
【0098】
第5実施形態においてノックが生じたときのモデル図は、無過給エンジンに対するモデル図である図13と基本的に同じであるので、図示していない。従って、ここでは、図13を第5実施形態においてノックが生じたときのモデル図であるとみなして説明する。熱負荷が高い条件にあるt11のタイミングでノックセンサ出力がスライスレベルを超えた、つまりノッキングが発生したとすると、このときには点火時期を、ノッキングが発生する直前の値(IT4)から、所定値IT5(<IT4)へと所定値だけステップ的に小さくし(遅角補正し)、ノッキングがそれ以上継続しないようにする。さらに、t11のタイミングより目標圧縮比をノッキングが発生する直前での値(ε4)から所定値ε5(<ε4)へと徐々に小さくする。この目標圧縮比の減少補正により、ノッキングに対して余裕が生じるため、目標圧縮比の減少補正に対応して、点火時期をトレースノック限界(IT6)まで徐徐に進角側へと復帰させる。
【0099】
図24のフローチャートは、図13に示したモデル波形図のうち特に圧縮比についての制御を実現するためのものである。このフローチャートは、無過給エンジンに対する図14と同じく時系列的な流れを示している。
【0100】
ステップ51では、エンジンの負荷と回転速度Ne、壁温センサ63により検出される燃焼室壁面温度Tw、過給圧センサ32(過給圧検出装置)により検出される実際の過給圧を読み込む。
【0101】
ステップ52では目標圧縮比εmを算出する。この目標圧縮比εmの算出については図25のフローにより説明する。図25(図24のステップ52のサブルーチン)においてステップ61では、燃焼室壁面温度Twと判定値(ここでは150℃)を比較する。燃焼室壁面温度Twが判定値の150℃以下のとき、つまり熱負荷が高くない条件であるときには、ステップ62に進んで図23左側を内容とする第1の目標圧縮比のマップを選択し、ステップ63でそのときのエンジン回転速度Neと負荷(エンジントルク)とからこの第1の目標圧縮比のマップを参照することにより、熱負荷が高くない条件での目標圧縮比εm1を算出し、ステップ64でこの目標圧縮比εm1を目標圧縮比εmに移す。
【0102】
一方、燃焼室壁面温度Twが判定値の150℃を超えているとき、つまり熱負荷が高い条件であるときには、ステップ61よりステップ65に進んで、図23右側を内容とする第2の目標圧縮比のマップを選択し、ステップ66でそのときのエンジン回転速度Neと負荷(エンジントルク)とからこの第2の目標圧縮比のマップを参照することにより、熱負荷が高い条件での目標圧縮比εm2を算出し、ステップ67でこの目標圧縮比εm2を目標圧縮比εmに移す。
【0103】
このようにして熱負荷が高い条件でのあるいは熱負荷が高くない条件での各目標圧縮比の算出を終了したら図24に戻りステップ53に進む。
【0104】
ステップ53では燃焼室壁面温度Twと目標温度レベルT0(図8参照)を比較する。目標温度レベルT0は、ノッキングが発生するか否かを判定するためのものである。燃焼室壁面温度Twが目標温度レベルT0未満であるときにはノッキングが発生する可能性がないと判断し、そのまま今回の処理を終了する。
【0105】
燃焼室壁面温度Twが目標温度レベルT0以上であるときには、ノッキングが発生する可能性があると判断し、ステップ54に進み、実過給圧と燃焼室壁面温度Twとに基づいて目標圧縮比の範囲を算出する。
【0106】
ここで、目標圧縮比の範囲は基準圧縮比を中心として上下に所定幅ずつの許容値を設けたものである。基準圧縮比は、図26に示したように基準の燃焼室壁面温度のとき、実過給圧が大きくなるほど小さくなる値である。基準圧縮比を、実過給圧が大きくなるほど小さくするのは、実過給圧が高くなるほどノッキングが生じやすくなるので、これを避けるため実過給圧が高くなるほど圧縮比を小さくする必要があるためである。また、燃焼室壁面温度が基準の燃焼室壁面温度より高くなると、それだけノッキングが生じやすくなる。そこで、燃焼室壁面温度Twが基準の燃焼室壁面温度よりも高いときには、基準圧縮比を基準の燃焼室壁面温度に対する基準圧縮比よりも小さくしている。
【0107】
図24に戻り、ステップ55〜58は、図14のステップ36〜39と同様である。すなわち、ステップ55では、ステップ52で算出している目標圧縮比εmがこの目標圧縮比の範囲内にあるか否かをみる。圧縮比可変機構、ターボ過給機21や燃料噴射装置に製作バラツキや経時劣化がなければ、ステップ52で算出している目標圧縮比εmがこの目標圧縮比の範囲内に収まるので、そのまま処理を終了する。
【0108】
ところが、圧縮比可変機構、ターボ過給機21には製作バラツキがあり、また経時劣化が生じる。これらの製作バラツキや経時劣化によって実際の圧縮比が目標圧縮比εmより大きくなっていると、ノッキングが生じやすくなる。あるいは、燃料噴射装置の製作バラツキや経時劣化によって燃料噴射弁からの燃料噴射量に供給過多が生じているときには燃焼室壁面温度Twが目標温度レベルT0を超えて高くなる。従って、こうした事態が生じているときには、実過給圧と燃焼室壁面温度とに基づいて算出される目標圧縮比の範囲、つまり基準圧縮比は、目標圧縮比εmよりもずっと小さな値を指示することになり、目標圧縮比εmが目標圧縮比の範囲内に収まらず、目標圧縮比の範囲の上限を超えるものとなる。このときにはステップ56に進んで目標圧縮比εmを減量側に補正する。例えば、ステップ52で求めた目標圧縮比εmから所定値を差し引いた値を改めて目標圧縮比εmとする。
【0109】
ステップ57では、このようにして補正した後の目標圧縮比εmが得られるように圧縮比制御アクチュエータ16を作動する。
【0110】
圧縮比制御アクチュエータ16の作動後には再びステップ58で、補正後の目標圧縮比εmが目標圧縮比の範囲内にあるか否かをみる。補正後の目標圧縮比εmが目標圧縮比の範囲内に収まっていなければ、ステップ56、57に戻り、補正後の目標圧縮比εmから所定値を差し引いた値を改めて補正後の目標圧縮比εmとし、このようにして補正した後の目標圧縮比εmが得られるように圧縮比制御アクチュエータ16を再び作動する。それでも、ステップ58で補正後の目標圧縮比εmが目標圧縮比の範囲内に収まっていなければ、ステップ56、57に戻り、ステップ56、57の操作を繰り返す。このステップ56、57の操作の繰り返しによりやがて補正後の目標圧縮比εmが目標圧縮比の範囲内に収まることとなる。このときには、ステップ58よりENDに進む。
【0111】
ここで、第5実施形態の作用効果を説明する。
【0112】
圧縮比可変機構、ターボ過給機21の製作バラツキや経時劣化によって実過給圧が高くなるほどノッキングが生じやすくなる。あるいは、燃料噴射装置の製作バラツキや経時劣化によって燃料噴射弁からの燃料噴射量に供給過多が生じているときには燃焼室壁面温度Twが目標温度レベルT0を超えて高くなる。従って、こうした事態が生じているときには、実過給圧と燃焼室壁面温度Twとに基づいて算出される目標圧縮比の範囲、つまり基準圧縮比は、目標圧縮比εmよりもずっと小さな値を指示することになり、目標圧縮比εmが目標圧縮比の範囲内に収まらず、目標圧縮比の範囲の上限を超えるものとなるのであるが、第5実施形態(請求項7記載の発明)によれば、過給圧センサ32(過給圧検出装置)と壁温センサ63(燃焼室壁面温度検出手段)とを備え、過給圧センサ32により検出される実過給圧と、壁温センサ63により検出される燃焼室壁面の温度Twとから適正な目標圧縮比の範囲を算出し(図24のステップ54参照)、目標圧縮比のマップにより設定される目標圧縮比εm(εm1、εm2)がこの算出した目標圧縮比の範囲に収まるように圧縮比制御アクチュエータ16に与える制御量(圧縮比可変機構への駆動量)を制御する(図24のステップ55、56、57、58参照)ので、圧縮比可変機構、ターボ過給機21や燃料噴射装置に製作バラツキや経時劣化があっても、実際の圧縮比を目標圧縮比の範囲内に収めることができる。
【0113】
第4、第5の実施形態では、さらに次の構成のいずれかを付加することができる。
〈4〉ノックセンサ61(ノック検出装置)を備え、このノックセンサ61により検出されるノック発生頻度またはノックセンサ61の検出レベルが所定値以上になったとき、図19または図23により設定してある目標圧縮比を減少補正する。
〈5〉壁温センサ63(壁面温度検出手段)を備え、この壁温センサ63により検出される燃焼室壁面の温度が所定値よりも高い場合に、図19または図23により設定してある目標圧縮比を減少補正する。
〈6〉負荷を含む運転条件の履歴から算出したノック余裕度の指数を算出し、このノック余裕度の指数に基づいてノックが発生すると予測するときには図19または図23により設定してある目標圧縮比を減少補正する。
【0114】
第4、第5の実施形態のディーゼルエンジンにおいて、圧縮比可変機構はコントロールシャフト13の角位置制御により、ピストン9の上死点位置を変えられる機能の他、図27に示したようにピストンストローク特性を単振動に近づけることができるため、バランサシャフトが不要(4気筒)となるような振動低減効果があるが、前述したように、従来のピストンストローク特性に比べると、上死点付近のピストン速度が遅くなるため、冷却損失が増大する傾向にあった。これに対しては、断熱ピストン及び断熱ライナーを適用することによって、冷却損失が増大することを防止できることは前述した。
【0115】
その一方で、このような上死点付近のストローク特性は、高圧縮比になって燃焼室が扁平となった場合の火炎伝播では時間がかかることになるのであるが、その反面で燃焼期間が長くとれるメリットがある。特に、本発明のように図3、図4に示した断熱ピストンを適用して高い圧縮比を狙う場合、燃焼室の扁平度は一層大きくなるため(直噴ディーゼルエンジンについて図28参照)、燃焼期間を長くすることに対して特に効果的となる。
【0116】
なお、ディーゼルエンジンの燃料噴射装置としては、図29に示したコモンレール式の燃料噴射装置を用いればよい。コモンレール式の燃料噴射装置の構成は周知であるので、ここでは詳述しない。
【0117】
実施形態では、燃焼室61の壁面の一部を断熱及び蓄熱の効果が高い材料で構成する場合で説明したが、燃焼室61の壁面の全部を断熱及び蓄熱の効果が高い材料で構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の一実施形態の圧縮比可変エンジンの概略構成図。
【図2】圧縮比可変エンジンにおける高圧縮比位置、低圧縮比位置での各リンクの姿勢図。
【図3】通常のピストンと本発明の第1実施形態の断熱ピストン及び断熱ライナーとの各構造を示す一部断面図。
【図4】第2実施形態のシリンダライナーの一部を切欠いて示すピストンの概略斜視図。
【図5】第1、第2の実施形態の圧縮比制御システムの全体構成図。
【図6】第1、第2の実施形態の目標圧縮比のマップ特性図。
【図7】第1、第2の実施形態による平坦路移行直前までのエンジントルクの変化を示す波形図。
【図8】第1、第2の実施形態の作用を示す波形図。
【図9】第1、第2の実施形態の圧縮比指令値の算出を説明するためのフローチャート。
【図10】レファレンスタイム間のエンジントルク平均値に対する遅れ時間の特性図。
【図11】第1、第2の実施形態の点火時期指令値の算出を説明するためのフローチャート。
【図12】第3実施形態の目標圧縮比のマップ特性図。
【図13】第3実施形態のノック回避時の目標圧縮比、点火時期の変化を示す波形図。
【図14】第3実施形態の圧縮比制御を説明するためのフローチャート。
【図15】目標圧縮比の算出を説明するためのフローチャート。
【図16】基準圧縮比の特性図。
【図17】第4実施形態の圧縮比と過給圧の制御システムの全体構成図。
【図18】第4実施形態の目標過給圧のマップ特性図。
【図19】第4実施形態の目標圧縮比のマップ特性図。
【図20】第4実施形態の急加速時の作用を説明するための波形図。
【図21】第4実施形態の急加速時の作用を説明するための波形図。
【図22】第4実施形態の効果を示す図。
【図23】第5実施形態の目標圧縮比のマップ特性図。
【図24】第5実施形態の圧縮比制御を説明するためのフローチャート。
【図25】第5実施形態の目標圧縮比の算出を説明するためのフローチャート。
【図26】第5実施形態の基準圧縮比の特性図。
【図27】従来と本発明とを比較して示すピストンスロークの特性図。
【図28】圧縮比と燃焼室の扁平度合の関係を示す特性図。
【図29】コモンレール式燃料噴射装置の概略構成図。
【図30】従来の断熱ピストンの問題点の説明図。
【符号の説明】
【0119】
5 ロアーリンク(第一のリンク)
6 アッパーリンク(第二のリンク)
9 ピストン
10 シリンダ
11 制御リンク(第三のリンク)
13 コントロールシャフト
21 ターボ過給機(過給機)
32 過給圧センサ(過給圧検出装置)
36 排気バイパス弁(過給圧可変機構)
39 エンジンコントロールユニット
55 コーティング層
56 シリンダライナー
61 ノックセンサ(ノック検出装置)
63 壁温センサ(燃焼室壁面温度検出手段)
71 シリンダライナー
71a ライナー上部
71b ライナー下部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を往復動するピストンと、
駆動量に応じて圧縮比を可変に制御し得る圧縮比可変機構と、
過給機と、
駆動量に応じてこの過給機の発生する過給圧を可変に制御し得る過給圧可変機構と
を有するディーゼルエンジンにおいて、
燃焼室の壁面の一部または全部を断熱及び蓄熱の効果が高い非金属材料で構成する
ことを特徴とするディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記過給機は排気タービンと吸気コンプレッサを同軸配置したターボ過給機であることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項3】
目標過給圧のマップを有し、
この目標過給圧に応じた目標圧縮比を設定してあり、
前記目標過給圧が得られるように前記過給圧可変機構への駆動量を制御する制御手段と、
前記設定してある目標圧縮比が得られるように前記圧縮比可変機構への駆動量を制御する制御手段と
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項4】
ノック検出装置を備え、
このノック検出装置により検出されるノック発生頻度またはノック検出装置の検出レベルが所定値以上になったとき、前記設定してある目標圧縮比を減少補正することを特徴とする請求項3に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記燃焼室壁面の温度を検出する壁面温度検出手段を備え、
この壁面温度検出手段により検出される燃焼室壁面の温度が所定値よりも高い場合に前記設定してある目標圧縮比を減少補正することを特徴とする請求項3に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項6】
負荷を含む運転条件の履歴から算出したノック余裕度の指数を算出し、このノック余裕度の指数に基づいてノックが発生すると予測するときには前記設定してある目標圧縮比を減少補正することを特徴とする請求項3に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項7】
過給圧検出装置と、
前記燃焼室壁面の温度を検出する燃焼室壁面温度検出手段と
を備え、
過給圧検出装置により検出される実過給圧と、燃焼室壁面温度検出手段により検出される燃焼室壁面の温度とから適正な目標圧縮比の範囲を算出し、前記設定してある目標圧縮比がこの算出した目標圧縮比の範囲に収まるように前記圧縮比可変機構への駆動量を制御することを特徴とする請求項3に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項8】
前記圧縮比可変機構は、ピストンとクランクシャフトが、ピストンピンを介して連結される第一のリンクと、
第一のリンクに揺動可能に連結され、クランク軸に回転可能に装着された第二のリンクと
を介して連結される一方、
第二のリンクと揺動可能に連結され、シリンダブロックに設けられた支点を中心に揺動する第三のリンクと、
第三のリンクの回転中心を変え得ると共に偏心カム部を有するコントロールシャフトと、
前記駆動量に応じて偏心カム部を回動可能なアクチュエータと
を有することを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項9】
ピストンストローク特性を単振動に近づけることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2008−95651(P2008−95651A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281169(P2006−281169)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】