説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】 車両の進行方向での道路の勾配情報に応じて、モータによる車両の駆動力のアシストを制御して、車両の円滑な走行を維持する。
【解決手段】 本発明は、ハイブリッド車両の制御装置を提供する。その制御装置は、ナビゲーション装置からの勾配情報により車両の進行方向に緩やかな傾斜があると判断され、かつアクセルペダル変化量検出手段により検出されたアクセルペダルの変化量が所定値未満である場合、車両の速度を一定に維持すべきと判定する速度維持判定手段と、ナビゲーション装置からの勾配情報に基づいて、車両の進行方向での勾配負荷を算出する勾配負荷算出手段と、勾配負荷算出手段からの勾配負荷に応じて、モータによる車両の駆動力のアシストを制御するアシスト制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関し、より具体的には、車両の進行方向での道路の勾配情報に応じて、モータによる車両の駆動力のアシストを制御する、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ハイブリッド車両のオートクルーズ制御装置を開示する。この制御装置は、路面状況に応じてモータによりエンジンを駆動補助し、あるいはモータを回生作動させて目標車速を維持することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−157305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明では、運転者がアクセル操作をしなくても目標車速を維持して走行を行なうことができるオートクルーズ制御装置を用いることが前提となっている。したがって、オートクルーズ制御装置を備えないハイブリッド車両では特許文献1に記載の発明は有効ではない。
【0005】
そこで、本発明は、オートクルーズ制御装置を備えないハイブリッド車両において、車両の進行方向での道路の勾配情報に応じて、モータによる車両の駆動力のアシストを制御して、車両の円滑な走行を維持することを目的とする。
【0006】
本発明は、オートクルーズ制御装置を備えないハイブリッド車両において、運転者の走行意図に応じて、モータによる車両の駆動力のアシストを制御して、車両の円滑な走行を維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車両を駆動するための内燃機関およびモータと、アクセルペダルの変化量を検出するアクセルペダル変化量検出手段と、地図データと当該地図データの道路の勾配情報とを格納する記憶手段および車両の現在位置を検出する現在位置検出手段を含むナビゲーション装置とを備えるハイブリッド車両の制御装置を提供する。その制御装置は、ナビゲーション装置からの勾配情報により車両の進行方向に緩やかな傾斜があると判断され、かつアクセルペダル変化量検出手段により検出されたアクセルペダルの変化量が所定値未満である場合、車両の速度を一定に維持すべきと判定する速度維持判定手段と、ナビゲーション装置からの勾配情報に基づいて、車両の進行方向での勾配負荷を算出する勾配負荷算出手段と、勾配負荷算出手段からの勾配負荷に応じて、モータによる車両の駆動力のアシストを制御するアシスト制御手段とを備える。
【0008】
本発明によれば、車両の進行方向での道路の勾配情報に基づいて算出した勾配負荷に応じて、モータによる車両の駆動力のアシストを制御することにより、オートクルーズ制御装置を備えることなく、駆動力を保持しつつ車両の円滑な走行を維持することができる。特に、緩やかな勾配(緩傾斜)の場合、運転者が勾配に気づかないうちに減速や加速をしてしまうことを防いで、運転者の意思に沿った走行を可能にする。また、モータによって車両の駆動力をアシストするので、無駄に燃料を消費することがない。
【0009】
本発明の一形態によると、速度維持判定手段により、車両の速度を一定に維持すべきと判定された場合において、勾配負荷算出手段は、勾配負荷に相当するモータによるアシスト量または回生量を算出する。
【0010】
この本発明の一形態によれば、オートクルーズ制御装置を備えることなく運転者の定速走行の意図を汲み取って、モータによる車両の駆動力のアシストあるいは回生をおこないつつ、定速走行を維持することができる。
【0011】
本発明の一形態によると、車両の進行方向が登り坂であり、アクセルペダル変化量検出手段により検出されたアクセルペダルの踏込み量が所定値以上である場合、勾配負荷算出手段は、アクセルペダルの踏込み量に対応する駆動力を算出し、当該算出した駆動力と勾配負荷との差分をモータによるアシスト量とする。
【0012】
この本発明の一形態によれば、アクセルペダルの踏込み量に応じてモータによる駆動力のアシスト量を調整するので、登り坂における運転者の走行意図に応じてモータによるアシスト量を適正化することができる。
【0013】
本発明の一形態によると、車両の進行方向が下り坂であり、アクセルペダル変化量検出手段により検出されたアクセルペダルの戻し量が所定値以上である場合、勾配負荷算出手段は、アクセルペダルの戻し量に対応する駆動力を算出し、当該算出した駆動力と勾配負荷との差分を前記モータによる回生量とする。
【0014】
この本発明の一形態によれば、アクセルペダルの踏込み量に応じてモータによる回生量を調整するので、下り坂における運転者の走行意図に応じてモータによる回生量を適正化することができる。
【0015】
本発明の一形態によると、ハイブリッド車両は、さらに大気圧を検出する大気圧検出手段と、車両の重量を検出する重量検出手段の少なくとも一方を備え、勾配負荷算出手段は、大気圧検出手段により検出された大気圧の減少量および重量検出手段により検出された車両重量の増加量の少なくともいずれか一方に応じて、前記モータによるアシスト量または回生量を補正する。
【0016】
この本発明の一形態によれば、車両重量または大気圧に応じてモータによるアシスト量または回生量を補正するので、車両重量(人数、搭載量等)や走行場所(平地か高地か等)に応じて車両走行あるいはバッテリへの充電をより適正におこなうことができる。
【0017】
本発明の一形態によると、ハイブリッド車両は、さらにバッテリの充電量を検出するバッテリ充電量検出手段と、内燃機関の駆動力制御を行う駆動力制御手段と、車両の変速機を制御する変速比制御手段を備え、バッテリ充電量検出手段により検出されたバッテリの充電量が所定の量より少ないとき、アシスト制御手段は、モータによるアシストに代わって、駆動力制御手段による内燃機関の駆動力の制御および変速比制御手段による変速機の変速比の制御の少なくともいずれか一方を指示する。
【0018】
この本発明の一形態によれば、バッテリの充電量が少ないときは、駆動力制御手段による内燃機関の駆動力の制御あるいは変速比制御手段による変速機の変速比の制御により、勾配負荷に応じた駆動力を提供して、円滑な車両走行を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のハイブリッド車両全体の構成を示すブロック図である。
【図2】ハイブリッド車両の配置例を示す図である。
【図3】本発明の制御装置とナビゲーション装置の構成例を示すブロック図である。
【図4】本発明の制御装置による制御フローの一例である。
【図5】本発明の制御装置による制御フローの一例である。
【図6】モータによるアシスト量または回生量の補正を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施形態に従う、ハイブリッド車両全体の構成を示すブロック図である。
【0021】
ハイブリッド車両100は、エンジン10あるいはモータ12により駆動する駆動系14を含む。モータ12および駆動系14はバッテリ16に接続する。エンジン10とモータ12は、それぞれ電子制御ユニット(以下、「ECU」)という)18、19によって制御される。ECU1とECU2は、中央演算処理装置(CPU)およびメモリを備えるコンピュータである。この2つのECU1、2は、本発明に係る制御装置20に接続する。制御装置20は、中央演算処理装置(CPU)およびメモリを備えるコンピュータである。制御装置20の詳細は後述する。ハイブリッド車両100は、さらにナビゲーション装置22、アクセルペダル(図示なし)の変化量を検出するアクセル開度センサ24、大気圧を検出する大気圧センサ26および車両重量を検出する重量センサ28を備える。
【0022】
図1のハイブリッド車両では、車両の走行状態に応じて、モータ12を電動機または発電機として機能させる。例えば、運転者がアクセルペダルを踏み込んで加速する場合、モータ12を電動機として機能させることにより、駆動系14の駆動をアシストする。減速時においては、モータ12を発電機として機能させることにより、モータ12により回生制動力を発生させ、車両の運動エネルギーを電気エネルギーとしてバッテリ16に充電する。
【0023】
図2は、ハイブリッド車両の配置例を示す図である。本発明の実施形態では、(a)〜(c)のいずれの配置例にも適用可能である。図2(a)では、前輪33側にエンジン10とモータ12が配置される。符号34、38は差動機(Diff)であり、符号40は変速機である。変速機40の変速比は変速比制御手段(図示なし)によって制御される。なお、図3以降の説明では、この図2(a)の配置を前提にしている。図2(b)では、後輪36側にもモータ42が配置される。前輪33側のモータ12は前輪33の駆動をアシストする。後輪36側のモータ42は後輪36の駆動をアシストする。図2(c)では、前輪33側に2つのモータ12、44が配置される。各モータ12、44が適時アシスト量を変え、前輪33の駆動を協働しながら(配分しながら)アシストする。なお、(a)〜(c)は一例であり、これらの少なくとも一部を組み合わせた配置でもよい。
【0024】
図3は、図1の制御装置20とナビゲーション装置22の構成例を示すブロック図である。各ブロックの機能は、制御装置20あるいはナビゲーション装置22が有するコンピュータによって実現される。なお、この2つの装置は1つの装置として構成してもよい。例えば、制御装置20の構成をナビゲーション装置22あるいはECU2(符号19)の中に組み込んでもよい。制御装置20は、速度維持判定手段50、勾配負荷算出手段52およびアシスト制御手段54を含む。速度維持判定手段50は、車両の速度を一定に維持すべきか否かを判定する。勾配負荷算出手段52は、車両の進行方向での勾配負荷を算出する。アシスト制御手段54は、モータ12による車両の駆動力のアシストを制御する。制御装置20は、図1に示したECU1、2(符号18、19)、アクセル開度センサ24、大気圧センサ26および重量センサ28に接続する。制御装置20は、さらにバッテリ残量(充電量)センサ30に接続する。制御装置20の動作の詳細は後述する。
【0025】
図3のナビゲーション装置22は、記憶手段56、車両の現在位置を検出する現在位置検出手段58、出力部60および入力部62を備える。出力部60はディスプレイとスピーカを含む。ナビゲーション装置22には、入力部62を介して目的地、経由地の情報が入力される。本実施例では、出力部60のディスプレイはタッチパネル機能を有する。入力部62は、該タッチパネルによって実現されている。入力部62としてマイクロフォンを介した音声入力機能を追加してもよい。
【0026】
ナビゲーション装置22の記憶手段56は、任意の記憶手段(記憶媒体、HDD等)にて実現される。記憶手段56は、地図データと当該地図データの道路の勾配情報とを格納する。地図データは、出力部60の表示画面上に地図画像を描画するのに必要なデータを含む。地図データは、さらに道路の接続状態に関する情報を示す道路データを含む。道路データには、各道路についての属性を示す属性情報が含まれる。属性情報には、道路の種別、道路の形状、道路の勾配に関する情報などが含まれる。道路の勾配情報には、勾配の程度(傾度、緩やかな傾斜、中程度の傾斜、大きい傾斜を分類するフラグなど)、勾配が続く距離などの情報が含まれる。現在位置検出手段58は、GPS信号64から車両の現在位置を算出する。車速66あるいはジャイロセンサの信号68から、他の方法(例えば、自律工法)により車両の現在位置を算出してもよい。
【0027】
ナビゲーション装置22は、リアルタイムな交通情報を所定のサーバから取得する通信機能を有する通信部(図示せず)を備えることができる。交通情報には、例えば渋滞、工事、交通規制等に関する情報が含まれる。また、記憶手段56に格納する地図データと勾配情報は、この通信機能を利用して、リアルタイムな情報として、あるいは定期的な更新情報として取得してもよい。取得した道路情報は記憶手段56に格納された後、出力部60のディスプレイに表示され、必要に応じてスピーカから音声として出力される。
【0028】
図4は、本発明の制御装置20による制御フローの一例である。図4は車両が登り坂を走行する場合の例である。図4のフローは制御装置20が内蔵するCPUにより実行される。ステップS102において、車両の進行方向での道路の緩やかな勾配(傾斜)の有無を判定する。その判定はナビゲーション装置22からの道路の勾配情報を用いておこなう。その理由は、緩やかな勾配のある道路に進行する前に必要となるアシスト制御を決定するためである。勾配情報には上述した勾配の程度などが含まれる。緩やかな勾配がない場合は、制御は終了する(70)。
【0029】
緩やかな勾配の有無の判定は、所定の勾配(A%、例えば3%)に該当するか、あるいは勾配の大きさが所定の範囲(B%以下、例えば5%以下)にあるか否かにより判定する。これにより、急勾配(登坂)を除いて、緩やかな勾配(緩傾斜)を選択する。この判定基準の内容については、任意に決めることができる。ナビゲーション装置22から進行方向に緩傾斜渋滞地区があるとの情報が得られた場合に、ステップS102で緩やかな勾配があると判定してもよい。このように、判定基準を設ける際に、アクセル開度の変化量が小さいときに速度変化を起こしてほしくない傾斜の情報を予め設定しておくのが好ましい。なお、緩やかな勾配の判定基準としては、勾配値と距離情報から現在の駆動力で登り切る(下りの場合は下り切る)までに車速が所定範囲以内で減少(下りの場合は所定範囲以内の増加)するかどうかによって判定しても良い。つまり、勾配値と距離情報から現在の駆動力で登り切る(下りの場合は下り切る)までに、車速が所定範囲以内で減少(下りの場合は所定範囲以内で増加)すると判定される坂道があれば、前方に緩やかな勾配が存在すると判定しても良い。
【0030】
さらに、ステップS102の前に、ナビゲーション装置22から進行方向での高速道路などの自動車専用道路の情報を入手して、当該道路に進入する場合に、ステップS102の判定をおこなうようにしてもよい。高速道路などでは比較的長く続く緩傾斜が多く、本発明の制御方法が有効となる状況が多いと予測されるからである。
【0031】
緩やかな勾配があると判定された場合、ステップS104において、アクセルペダルの変化量が所定値未満であるか判定する。その判定は、図3のアクセル開度センサ24により検出されたアクセルペダルの変化量を用いておこなう。所定値未満を判断の基準にしているのは、アクセルペダルの変化量が小さい場合に、運転者が定速走行を求めていると推定することができるからである。逆にアクセルペダルの変化量が大きい場合は、運転者の減速あるいは加速の意図を推定することができる。
【0032】
アクセルペダルの変化量が所定値未満である場合、ステップS106において、車両の進行方向での勾配負荷を算出する。勾配負荷とは、現在の車速で所定の勾配のある道を走行するために追加的に必要となるエンジン出力(駆動力)を意味する。すなわち、勾配負荷は平地走行に対して勾配がある分だけ余計に必要となる出力である。その算出は、ナビゲーション装置からの勾配情報等に基づいて、以下のように行う。現在の車速は、ナビゲーション装置22から得られる現在の(走行中の)車速66から求める。所定の勾配は、ステップ102で得た勾配(傾き)である。登坂での現在の車速での定速走行に必要なトータルなエンジン出力Ptuは、現在の走行(平地走行)に必要なエンジン出力Pfuよりも大きくなる。したがって、駆動力の単位として得られる勾配負荷Psu[N・m]は、トータルなエンジン出力Ptuと現在の走行での出力Pfuとの差分として式(1)により得ることができる。
Psu=Ptu−Pfu (1)
【0033】
アクセルペダルの変化量が所定値未満である場合、運転者の定速走行の意思を推認することができる。ここで、所定値とは数%(例えば、約4%)程度である。つまり、運転手が意識してアクセルペダルを操作したと判定できる変化量以下を意味する。したがって、定速走行を維持するために、(1)式で求めた勾配負荷Psu[N・m]の分だけ、モータ12によってエンジン出力をアシストする必要がある。すなわち、駆動力の単位として得られるモータによるアシスト量Pm[N・m]は、勾配負荷Psu[N・m]に等しくなる((2)式)。
Pm=Psu (2)
【0034】
このようにして得られるモータによるアシスト量Pmにより、登り坂において定速走行に必要となる出力を確保することができるので、運転者の意思に反した減速しいては渋滞の発生を回避することができる。これにより、従来のオートクルーズ制御装置を備えていない場合でも、登り坂において運転者の走行意図に沿った定速運転が可能になる。
【0035】
アクセルペダルの変化量が所定値以上である場合、ステップS108において、アクセルペダルの変化の方向を判定する。アクセルペダルが、アクセルペダルを踏み込む方向に変化している場合、ステップS110に進む。ステップS110では、アクセルペダルの踏み込み量に対応するエンジン出力Psaを算出する。次にステップS112において、最初にステップS106の場合と同様に、式(1)を用いて、定速走行に必要なトータルなエンジン出力Ptuと現在の走行での出力Pfuから勾配負荷Psu[N・m]算出する。次に、モータ12によるエンジン出力のアシスト量Pm[N・m]を、式(3)により算出する。
Pm=Psu−Psa (3)
【0036】
式(2)と(3)から明らかなように、アクセルペダルの踏み込み量に対応するエンジン出力Psaの分だけモータ12による駆動力のアシスト量Pmが小さくなる。
【0037】
アクセルペダルが所定量以上踏み込まれる場合は、運転者の増速意思あるいはより積極的な定速走行の意思を推認することができる。(3)式のモータによるアシスト量Pmを求めることにより、登り坂において出力が落ちてしまうことを回避できるので、運転者の意思に沿った走行を確保することができる。
【0038】
アクセルペダルが、アクセルペダルを戻す方向に変化している場合(アクセルペダルを解放する場合も含む)、モータ12によるアシスト制御は行わない(72)。運転者の減速走行の意思を推認できるからである。
【0039】
次に、ステップS114において、算出したアシスト量Pmが正の値を有するか判定する。本ケースは登坂を対象としているので、式(1)、(2)よりアシスト量Pmは正の値を有する場合が多いと予想される。アシスト量Pmが正の値を有さない場合は、アクセルペダルの踏み込み量が大きく(Psaが大)、式(3)で計算されるアシスト量Pmがゼロ以下になる場合である。アシスト量Pmが正の値を有さない場合、モータ12によるアシスト制御は行わない(74)。アシスト量Pmが正の値を有する場合、次のステップS116に進む。
【0040】
ステップS116において、モータ12による駆動力のアシストの是非(可能性)を判定する。バッテリ残量(充電量)センサ30(図3)により検出されたバッテリの充電量が所定の量より大きい場合、ステップS118において、ECU2(図1)に対して、モータ12によるアシスト制御を指示する。より具体的には、ECU2に対して、算出したアシスト量Pm分だけモータ12によってエンジン10の出力をアシストさせる指示を出す。なお、所定の量は任意に設定することができるが、例えば、アシスト量Pmに対応した充電量(電力)として設定することができる。
【0041】
バッテリ残量(充電量)センサ30により検出されたバッテリの充電量が所定の量より少ない場合、モータ12によるアシストはおこなわない。その代わりに、ステップS120において、ECU1(図1)に対して、エンジン10の出力制御または変速機40の変速比の制御の少なくとも一方を指示する。より具体的には、ECU1(図1)に対して、算出したアシスト量Pm分だけエンジン10の出力を増加させる指示を出す。エンジン出力は、例えば、スロットル弁の開度を大きくするおよび(または)吸気バルブのリフト量を大きくして、吸気量を増やすことにより増加させることができる。あるいは、出力トルクが増加するように変速機40の変速比を下げる(シフトダウン)指示を出す。
【0042】
図5は、本発明の制御装置20による制御フローの他の例である。図5は車両が下り坂を走行する場合の例である。図5のフローは制御装置20が内蔵するCPUにより実行される。なお、図5のフローは図4のフローと基本的に同様な部分が多いので、以下の説明では、図4と重複する場合はその記載を簡略化している。ステップS202において、車両の進行方向での道路の緩やかな勾配の有無を判定する。判定方法は図4のステップS102と同様である。緩やかな勾配がない場合は、制御は終了する(76)。なお、図4の場合と同様な理由から、ステップS202の前に、ナビゲーション装置22から進行方向の高速道路などの自動車専用道路の情報を入手して、当該道路に進入する場合に、ステップS202の判定をおこなうようにしてもよい。
【0043】
緩やかな勾配があると判定された場合、ステップS204において、アクセルペダルの変化量が所定値未満であるか判定する。その判定方法は、図4のステップS104と同様である。アクセルペダルの変化量が所定値未満である場合、ステップS206において、車両の進行方向での勾配負荷を算出する。その算出方法は、図4のステップS106と同様である。下り坂の場合、定速走行に必要なトータルなエンジン出力Ptdは、現在の走行(平地走行)の場合に必要なエンジン出力Pfdよりも小さくなる。したがって、駆動力の単位として得られる勾配負荷Psd[N・m]は、トータルなエンジン出力Ptdと現在の走行での出力Pfdとの差分として式(4)により得ることができる。
Psd=Pfd−Ptd (4)
【0044】
アクセルペダルの変化量が所定値未満である場合、運転者の定速走行の意思を推認することができる。したがって、定速走行を維持するために、(4)式で求めた勾配負荷Psd[N・m]に相当する電気量(電力)をバッテリ16に充電する(回生する)。すなわち、駆動力の単位として得られるモータによる回生Cm[N・m]は、(4)式で求めた勾配負荷Psd[N・m]に等しくなる((5)式)。
Cm=Psd (5)
【0045】
このようにして得られるモータによる回生量Cmにより、下り坂において定速走行に不要となる出力を回生に回すことができるので、運転者の意思に反した加速を回避することができる。これにより、従来のオートクルーズ制御装置を備えていない場合でも、下り坂において運転者の走行意図に沿った定速運転が可能になる。
【0046】
アクセルペダルの変化量が所定値以上である場合、ステップS208において、アクセルペダルの変化の方向を判定する。アクセルペダルが、アクセルペダルを戻す方向に変化している場合、ステップS210において、アクセルペダルの戻し量に対応するエンジン出力Psrを算出する。なお、ここでの戻しは、アクセルペダルの解放には至らない適度な量での戻しを意味する。次にステップS212において、最初にステップS206の場合と同様に、式(4)を用いて、定速走行に必要なトータルなエンジン出力Ptdと現在の走行での出力Pfdから勾配負荷Psd[N・m]算出する。次に、駆動力の単位として得られるモータ12による回生量Cm[N・m]を、式(6)により算出する。
Cm=Psd−Psr (6)
【0047】
式(5)と(6)から明らかなように、アクセルペダルの戻し量に対応するエンジン出力Psrの分だけモータ12による回生量Cmが小さくなる。
【0048】
アクセルペダルが所定量以上戻された場合、運転者の減速意思あるいはより積極的な定速維持の意思を推認することができる。(6)式のモータによる回生量Cmを求めることにより、下り坂において出力が必要以上に出てしまうことを回避でき、運転者の意思に沿った走行を確保することができる。
【0049】
アクセルペダルが、アクセルペダルを踏み込む方向に変化している場合、モータ12によるアシスト制御は行わない(78)。運転者の加速走行の意思を推認できるからである。
【0050】
アクセルペダルが開放された場合、下り坂においてエンジン10にブレーキがかかった状態になる。ステップS214において、そのエンジン・ブレーキ分の出力Pb[N・m]がモータ12による回生量Cmとなる。
【0051】
次に、ステップS216において、算出した回生量Cmが正の値を有するか判定する。本ケースは下り坂を対象としているので、式(4)、(5)より回生量Cmは正の値を有する場合が多いと予想される。回生量Cmが正の値を有さない場合は、アクセルペダルの戻し量が大きく(Psrが大)、式(6)で計算される回生量Cmがゼロ以下になる場合である。回生量Cmが正の値を有さない場合、モータ12によるアシスト制御(回生)は行わない(80)。回生量Cmが正の値を有する場合、次のステップS218に進む。
【0052】
ステップS218において、モータ12による回生の是非(可能性)を判定する。バッテリ充電量センサ30(図3)により検出されたバッテリの充電量が所定の量(上限値)より小さい場合、ステップS220において、ECU2(図1)に対して、モータ12による回生制御を指示する。より具体的には、ECU2に対して、モータ12によって算出した回生量Cm分だけバッテリ16に充電させる指示を出す。
【0053】
検出されたバッテリの充電量が所定の量(上限値)を満たしている場合、モータ12による回生はおこなわない。バッテリの充電量が既に飽和しているからである。代わって、ステップS222において、ECU1(図1)に対して、エンジン10の出力制御または変速機40の変速比の制御の少なくとも一方を指示する。より具体的には、ECU1(図1)に対して、算出したアシスト量Cm分だけエンジン10の出力を減少させる指示を出す。エンジン出力は、例えば、スロットル弁の開度を小さくするおよび(または)吸気バルブのリフト量を小さくして、吸気量を減らすことにより減少させることができる。あるいは、エンジン・ブレーキを強めるために変速機40の変速比を下げる(シフトダウン)指示を出す。
【0054】
このように、運転者が気づかないような緩やかな勾配(緩傾斜)において、運転者が意図していない減速や加速を防ぐことができる。また、運転者が緩傾斜を意識はしたものの、エンジン出力の増加量が少ない場合でも、現在の速度を維持することができるので、運転者の走行意思から大きく逸れるような走行になってしまうことを防ぐことができる。
【0055】
図6は、モータ12によるアシスト量または回生量の補正を説明するための図である。図6(a)は、車両重量と対応する補正係数の関係を示す。車両重量は重量センサ28(図1)により検出され、制御装置20に入力される。制御装置20は、以下の内容に対応した補正をおこなう。具体的には、式(1)〜(3)で算出されるアシスト量Pmまたは式(4)〜(6)で算出される回生量Cmに補正係数が乗算される。車両重量が基本重量を超えるまでは補正係数は1である。基本重量は任意に設定できるが、例えば運転者1人で他の搭載量がほとんど無い場合の車両重量が該当する。車両重量が基本重量を超えると、アシスト量の補正係数は重量の増加に応じて大きくなる。重量の増加に伴って必要となる駆動力が増加するので、その駆動力の増加に対応させるためである。逆に、回生量の補正係数は、車両重量が基本重量を超えると、重量の増加に応じて小さくなる。同様な理由から、バッテリの充電に回せる回生量が重量の増加に伴って減少するからである。
【0056】
図6(b)は、大気圧と対応する補正係数の関係を示す。大気圧は大気圧検出手段26(図1)により検出され、制御装置20に入力される。制御装置20は、以下の内容に対応した補正をおこなう。この補正係数は、図6(a)の場合と同様に、アシスト量Pmまたは回生量Cmに乗算される。大気圧が1気圧より小さくなるまでは補正係数は1である。大気圧が1気圧より小さくなるにつれてアシスト量の補正係数は大きくなる。気圧が低くなるとエンジンの吸入空気量が減り空燃比が大きくなってエンジン出力が減少するので、その減少分を補う必要があるからである。逆に、回生量の補正係数は、大気圧が1気圧より小さくなるにつれて小さくなる。同様な理由から、バッテリの充電に回せる回生量が気圧の低下に伴って減少するからである。なお、大気圧は標高が高くなるにつれて低くなるので、大気圧をモニターする代わりに、ナビゲーション装置22を介して取得した標高データを基準として同様な補正をおこなってもよい。
【0057】
上述した実施形態は一例でありこれに限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で多様な変形が可能である。本発明は、基本的にハイブリッド車両であればいかなる構成の車両にも適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 エンジン
12、42 モータ
14 駆動系
16 バッテリ
18 ECU1
19 ECU2
20 制御装置
22 ナビゲーション装置
24 アクセル開度センサ
26 大気圧センサ
28 重量センサ
30 バッテリ充電量センサ
33 前輪
34、38 差動機
36 後輪
40 変速機
60 出力部
62 入力部
100 ハイブリッド車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動するための内燃機関およびモータと、アクセルペダルの変化量を検出するアクセルペダル変化量検出手段と、地図データと当該地図データの道路の勾配情報とを格納する記憶手段および車両の現在位置を検出する現在位置検出手段を含むナビゲーション装置と、を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記ナビゲーション装置からの前記勾配情報により前記車両の進行方向に緩やかな傾斜があると判断され、かつ前記アクセルペダル変化量検出手段により検出された前記アクセルペダルの変化量が所定値未満である場合、前記車両の速度を一定に維持すべきと判定する速度維持判定手段と、
前記ナビゲーション装置からの前記勾配情報に基づいて、前記車両の進行方向での勾配負荷を算出する勾配負荷算出手段と、
前記勾配負荷算出手段からの前記勾配負荷に応じて、前記モータによる前記車両の駆動力のアシストを制御するアシスト制御手段と、
を備える、制御装置。
【請求項2】
前記速度維持判定手段により、前記車両の速度を一定に維持すべきと判定された場合において、前記勾配負荷算出手段は、前記勾配負荷に相当する前記モータによるアシスト量または回生量を算出する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記車両の進行方向が登り坂であり、前記アクセルペダル変化量検出手段により検出された前記アクセルペダルの踏込み量が所定値以上である場合、前記勾配負荷算出手段は、前記アクセルペダルの踏込み量に対応する駆動力を算出し、当該算出した駆動力と前記勾配負荷との差分を前記モータによるアシスト量とする、請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記車両の進行方向が下り坂であり、前記アクセルペダル変化量検出手段により検出された前記アクセルペダルの戻し量が所定値以上である場合、前記勾配負荷算出手段は、前記アクセルペダルの戻し量に対応する駆動力を算出し、当該算出した駆動力と前記勾配負荷との差分を前記モータによる回生量とする、請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項5】
前記ハイブリッド車両は、さらに大気圧を検出する大気圧検出手段と、前記車両の重量を検出する重量検出手段の少なくとも一方を備え、
前記勾配負荷算出手段は、前記大気圧検出手段により検出された大気圧の減少量および前記重量検出手段により検出された車両重量の増加量の少なくともいずれか一方に応じて、前記モータによるアシスト量または回生量を補正する、請求項1ないし4のいずれかに記載の制御装置。
【請求項6】
前記ハイブリッド車両は、さらにバッテリの充電量を検出するバッテリ充電量検出手段と、前記内燃機関の駆動力制御をおこなう駆動力制御手段と、前記車両の変速機の変速比を制御する変速比制御手段を備え、
前記バッテリ充電量検出手段により検出されたバッテリの充電量が所定の量より少ないとき、前記アシスト制御手段は、前記モータによるアシストに代わって、前記駆動力制御手段による前記内燃機関の駆動力の制御および前記変速比制御手段による前記変速比の制御の少なくともいずれか一方を指示する、請求項1ないし5のいずれかに記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−11648(P2011−11648A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157848(P2009−157848)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】