説明

ハイブリッド駆動源の制御システム

【課題】本発明は、過渡運転時において、ドライバビリティを確保しつつ、内燃機関の排気特性の悪化を抑制することを目的とする。
【解決手段】内燃機関とモータージェネレータとを有するハイブリッド駆動源の制御システムであって、内燃機関の運転状態が過渡運転となったときに、EGRガス量の変化速度または吸入空気量の変化速度が所定値より大きい場合、モータージェネレータによるアシスト又は回生によってエンジントルク要求変化量を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関とモータージェネレータとを有するハイブリッド駆動源の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に係る技術として、排気をEGRガスとして吸気系に導入するEGR装置が知られている。内燃機関の運転状態が過渡運転となると、吸入空気量およびEGRガス量を変更する必要がある。しかしながら、EGRガス量の変化は吸入空気量の変化よりも応答遅れが大きい。そのため、気筒内のEGR率が所望の値とならず、排気中におけるNOxの低減を十分に図れない場合がある。
【0003】
そこで、内燃機関の運転状態が過渡運転となった際に、スロットル弁の駆動速度を緩やかにし、且つ、EGR弁の駆動速度を速める技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、内燃機関とモータージェネレータとを駆動源として有するハイブリッド車両において、退避走行処理時にEGR弁が開固着したと判別された場合に、モータージェネレータを使用する技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。この場合、要求トルクが所定の閾値未満であるときは内燃機関を停止してモータージェネレータによって要求トルクを出力し、要求トルクが所定の閾値以上であるときは内燃機関を作動させると共に過剰なエンジントルクをモータージェネレータによって吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−83086号公報
【特許文献2】特開2007−76551号公報
【特許文献3】特開2006−161588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内燃機関の運転状態が過渡運転となったときに、現時点のエンジントルクと要求エンジントルクとの差(以下、エンジントルク要求変化量と称する)に応じた速度でEGRガス量を変化させ、吸入空気量をEGRガスの変化の応答遅れに応じた速度で変化させる場合がある。これによれば、エンジントルク要求変化量が大きい場合であっても、より早期にエンジントルクを要求エンジントルクまで変化させることができる。
【0007】
しかしながら、上記のように吸入空気量をEGRガスの変化の応答遅れに応じた速度で変化させた場合であっても、EGRガス量の変化速度又は吸入空気量の変化速度が過剰に大きくなると、過渡運転中における内燃機関の気筒内のEGR率を正確に制御することが困難となる。そのため、過渡運転中における気筒内の実際の空燃比と目標空燃比とのずれが大きくなり、排気特性が悪化する虞がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、過渡運転時において、ドライバビリティを確保しつつ、内燃機関の排気特性の悪化を抑制することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、内燃機関とモータージェネレータとを有するハイブリッド駆動源の制御システムであって、内燃機関の運転状態が過渡運転となったときに、EGRガス量の変化速度または吸入空気量の変化速度が所定値より大きい場合、モータージェネレータによるアシスト又は回生によってエンジントルク要求変化量を減少させるものである。
【0010】
より詳しくは、本発明に係るハイブリッド駆動源の制御システムは、
内燃機関とモータージェネレータとを有するハイブリッド駆動源の制御システムであって、
前記内燃機関の排気をEGRガスとして前記内燃機関の吸気系に導入するEGR装置と、
前記内燃機関の運転状態が過渡運転となったときに、前記内燃機関の吸気系に導入されるEGRガス量を現時点のエンジントルクと要求エンジントルクとの差に応じた速度で変化させるEGRガス量制御手段と、
前記内燃機関の運転状態が過渡運転となったときに、吸入空気量をEGRガス量の変化の応答遅れに応じた速度で変化させる吸入空気量制御手段と、
前記内燃機関の運転状態が過渡運転となったときに、EGRガス量の変化速度が所定EGRガス量変化速度より大きくなる場合または吸入空気量の変化速度が所定吸入空気量変化速度より大きくなる場合、前記モータージェネレータによるアシスト又は回生によって現時点のエンジントルクと要求エンジントルクとの差を減少させるモータージェネレータ制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
ハイブリッド駆動源においては、内燃機関の運転状態が加速運転となったときにモータージェネレータによりアシストすればエンジントルク要求変化量を減少させることが出来る。また、内燃機関の運転状態が減速運転となったときにモータージェネレータにより回生すればエンジントルク要求変化量を減少させることが出来る。
【0012】
エンジントルク要求変化量が減少すれば、EGRガス量の変化速度および吸入空気量の変化速度が低下する。そのため、過渡運転中における内燃機関の気筒内の実際の空燃比と目標空燃比とのずれが小さくなる。
【0013】
また、モータージェネレータによりアシストまたは回生することにより、内燃機関とモータージェネレータとの総トルクは早期に要求総トルクに達する。
【0014】
従って、本発明によれば、過渡運転時において、ドライバビリティを確保しつつ、排気特性の悪化を抑制することができる。
【0015】
尚、所定EGRガス量変化速度及び所定吸入空気量変化速度は、過渡運転中における気筒内の実際の空燃比と目標空燃比とのずれが許容範囲内となる閾値以下の値である。
【0016】
モータージェネレータ制御手段によってモータージェネレータによるアシスト又は回生を行う場合、EGRガス量の変化速度が所定EGRガス量変化速度以下となり且つ吸入空気量の変化速度が所定吸入空気量変化速度以下となるように、モータージェネレータを制御してもよい。
【0017】
本発明においては、内燃機関の運転状態が減速運転となったときの吸入空気量の減少速度を、内燃機関の運転状態が加速運転となったときの吸入空気量の増加速度よりも小さくしてもよい。
【0018】
吸入空気量が減少すると、吸気系内の圧力が低下するためにEGRガス量の増加を招き
易くなる。上記によれば、吸入空気量の急激な減少を抑制することができるため、減速運転時におけるEGRガス量の過剰な増加を抑制することができる。
【0019】
また、本発明においては、内燃機関の運転状態が減速運転となったときのEGRガス量の減少速度を、前記内燃機関の運転状態が加速運転となったときのEGRガス量の増加速度よりも大きくしてもよい。
【0020】
これによっても、上記と同様、減速運転時におけるEGRガス量の過剰な増加を抑制することができる。
【0021】
本発明においては、EGR通路に設けられたEGR弁の開度変更速度を制御することでEGRガス量の変化速度を制御してもよい。また、スロットル弁の開度変更速度を制御することで吸入空気量の変化速度を制御してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、過渡運転時において、ドライバビリティを確保しつつ、内燃機関の排気特性の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施例に係るハイブリッド駆動源の制御システムの概略構成を示す図。
【図2】本発明の第1実施例に係る過渡運転時の制御フローを示すフローチャート。
【図3】本発明の第2実施例に係るスロットル弁の開度変更速度を算出するためのマップ選択フローを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るハイブリッド駆動源の制御システムの具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0025】
<第1実施例>
(システムの概略構成)
図1は、本実施例に係るハイブリッド駆動源の制御システムの概略構成を示す図である。本実施例に係るハイブリッド駆動源は内燃機関1及びモータージェネレータ17を有している。内燃機関1の出力軸とモータージェネレータ17とは動力伝達機構(図示略)を介して連結されている。
【0026】
内燃機関1は、4つの気筒2を有する車両駆動用のガソリンエンジンである。気筒2内にはピストン3が摺動自在に設けられている。気筒2内上部の燃焼室には吸気ポート4と排気ポート5とが接続されている。吸気ポート4および排気ポート5の燃焼室への開口部は、それぞれ吸気弁6および排気弁7によって開閉される。
【0027】
また、内燃機関1には、気筒2内の燃焼室において混合気に点火する点火プラグ10、および、吸気ポート4内に燃料を噴射する燃料噴射弁11が設けられている。
【0028】
吸気ポート4および排気ポート5は、それぞれ吸気通路8および排気通路9に接続されている。吸気通路8にはエアフローメータ12およびスロットル弁13が設けられている。
【0029】
また、内燃機関1には、排気の一部を吸気通路8に導入するEGR装置14が設けられている。EGR装置14はEGR通路15及びEGR弁16を有している。EGR通路15は、その一端が排気通路9に接続されており、その他端が吸気通路8におけるスロットル弁13より下流側に接続されている。EGR弁16は、EGR通路15の途中に設けられており、吸気通路8に導入されるEGRガス量を制御する。
【0030】
モータージェネレータ17にはバッテリ18が電気的に接続されている。
【0031】
さらに、本システムは、内燃機関1及びモータージェネレータ17を制御する電子制御ユニット(ECU)20が設けられている。ECU20には、エアフローメータ12、クランクポジションセンサ21及びアクセル開度センサ22が電気的に接続されている。これらの出力信号がECU20に入力される。
【0032】
クランクポジションセンサ21は、内燃機関1のクランク角を検出するセンサである。また、アクセル開度センサ22は、本システムを搭載した車両のアクセル開度を検出するセンサである。
【0033】
また、ECU20には、点火プラグ10、燃料噴射弁11、スロットル弁13、EGR弁16、モータージェネレータ17及びバッテリ18が電気的に接続されている。ECU20によってこれらが制御される。モータージェネレータ17は、ECU20によって制御されることで、内燃機関1のアシストやエネルギーの回生を行う。
【0034】
(過渡運転時制御)
本実施例においては、ハイブリッド駆動源に要求される要求総トルクが変化した場合、該要求総トルクに基づいて燃費が最適となるような要求エンジントルクと要求モータートルクとが算出される。
【0035】
そして、内燃機関1においては、要求エンジントルクが変化した場合、即ちその運転状態が過渡運転となった場合、吸入空気量及びEGRガス量を要求エンジントルクに応じた量に変化させる必要がある。ここで、スロットル弁13の開度を変更することで吸入空気量を変化させ、EGR弁16の開度を変更することでEGRガス量を変化させるが、気筒2内におけるEGRガス量の変化は吸入空気量の変化に比べて応答遅れが大きい。
【0036】
そこで、本実施例では、吸入空気量の変化速度がEGRガス量の変化の応答遅れに応じた速度となるように、スロットル弁13の開度変更速度をEGR弁16の開度変更速度に応じた速度に制御する。これにより、気筒2内における吸入空気量の変化とEGRガス量の変化とを略同期させることが出来る。
【0037】
また、本実施例においては、エンジントルク要求変化量に応じた速度でEGR弁16の開度を変更する。つまり、エンジントルク要求変化量が大きいほど、EGR弁16の開度をより速く変化させる。これにより、エンジントルク要求変化量が大きいほど、EGRガス量をより速く変化させることが出来る。
【0038】
そして、このようにEGR弁16の開度を変更することで、スロットル弁13の開度も、エンジントルク要求変化量が大きいほどより速く変化させることになる。これにより、エンジントルク要求変化量が大きいほど、吸入空気量をより速く変化させることが出来る。
【0039】
このようなEGR弁16及びスロットル弁13の制御により、エンジントルク要求変化量が大きい場合であっても、エンジントルクをより早期に要求エンジントルクまで変化さ
せることが可能となる。その結果、ドライバビリティを向上させることが出来る。
【0040】
しかしながら、スロットル弁13の開度変更速度またはEGR弁16の開度変更速度が過剰に大きくなると、即ち、EGRガス量の変化速度または吸入空気量の変化速度が過剰に大きくなると、過渡運転中における気筒2内のEGR率を正確に制御することが困難となる。そのため、過渡運転中における気筒2内の実際の空燃比と目標空燃比とのずれが大きくなり、排気特性が悪化する虞がある。
【0041】
そこで、本実施例においては、エンジントルク要求変化量に応じたスロットル弁13の開度変更速度またはEGR弁16の開度変更速度が所定値より大きい場合は、モータージェネレータ17によるアシスト又は回生によってエンジントルク要求変化量を減少させる。
【0042】
以下、本実施例に係る過渡運転時の制御フローについて、図2に示すフローチャートに基づいて説明する。本フローは、ECU20に予め記憶されており、ECU20によって定期的に実行される。
【0043】
本フローでは、先ずステップS101において、アクセル開度センサ22の検出値に基づいてアクセル開度が変化したか否かが判別される。ステップS101において、肯定判定された場合、即ち加速要求又は減速要求があった場合、次にステップS102の処理が行われる。
【0044】
ステップS102においては、アクセル開度に基づいて要求総トルクTrallが算出される。
【0045】
次に、ステップS103において、燃費が最適となるトルクであるエンジントルクTrec(以下、燃費最適エンジントルクTrecと称する)及びモータージェネレータトルクTrmgc(以下、燃費最適モータージェネレータトルクTrmgcと称する)が要求総トルクTrallに基づいて算出される。燃費最適エンジントルクTrec及び燃費最適モータージェネレータトルクTrmgcと要求総トルクTrallとの関係は実験等に基づいて求めることができ、ECU20に予め記憶されている。
【0046】
次に、ステップS104において、現在のエンジントルクと燃費最適エンジントルクTrecとに基づいてエンジントルク要求変化量ΔTre0が算出される。
【0047】
次に、ステップS105において、エンジントルク要求変化量ΔTre0に基づいてEGR弁16の開度変更速度Vegr0及びスロットル弁13の開度変更速度Vthr0が算出される。ここでは、上述したように、エンジントルク要求変化量ΔTre0が大きいほど、それぞれの開度変更速度Vegr0、Vthr0がより大きい値として算出される。また、スロットル弁13の開度変更速度Vthr0が、EGRガス量の変化の応答遅れを考慮した値として算出される。エンジントルク要求変化量ΔTre0とEGR弁16の開度変更速度Vegr及びスロットル弁13の開度変更速度Vthrとの関係は実験等に基づいて定められており、ECU20に予め記憶されている。
【0048】
次に、ステップS106において、EGR弁16の開度変更速度Vegr0が所定EGR弁開度変更速度Vαよりも大きいか、または、スロットル弁13の開度変更速度Vthr0が所定スロットル弁開度変更速度Vβよりも大きいか否かが判別される。
【0049】
ここで、所定EGR弁開度変更速度Vαは、EGRガス量の変化速度が所定EGRガス量変化速度となる値であり、所定スロットル弁開度変更速度Vβは、吸入空気量の変化速
度が所定吸入空気量変化速度となる値である。また、所定EGRガス量変化速度及び所定吸入空気量変化速度は、過渡運転中における気筒2内の実際の空燃比と目標空燃比とのずれが許容範囲内となる閾値よりも小さくなる値である。所定EGR弁開度変更速度Vα及び所定スロットル弁開度変更速度Vβは実験等に基づいて求めることができ、ECU20に予め記憶されている。
【0050】
ステップS106において、否定判定された場合、次にステップS107の処理が実行され、肯定判定された場合、次にステップS108の処理が実行される。
【0051】
ステップS107においては、要求エンジントルクTreが燃費最適エンジントルクTrecに設定され、要求モータージェネレータトルクTrmgが燃費最適モータージェネレータトルクTrmgcに設定される。この場合、EGR弁16の開度及びスロットル弁13の開度が、ステップS105で算出されたそれぞれの開度変更速度Vegr0、Vthr0で変更される。
【0052】
一方、ステップS108においては、内燃機関1の機関回転数に基づいてモータージェネレータトルクの下限値Trmgmin及び上限値Trmgmaxが算出される。ここで、モータージェネレータトルクの上限値Trmgmaxは、アシストトルクの最大値である。また、モータージェネレータトルクの下限値Trmgminは、マイナスの値であって、回生トルクの最大値である。
【0053】
次に、ステップS109において、EGR弁16の開度変更速度が所定EGR弁開度変更速度Vα以下となり且つスロットル弁13の開度変更速度が所定スロットル弁開度変更速度Vβ以下となるような要求エンジントルクである第一補正エンジントルクTrea1を算出する。
【0054】
次に、ステップS110において、要求総トルクTrallから第一補正エンジントルクTrea1を減算することで、補正モータージェネレータトルクTrmga1を算出する。
【0055】
次に、ステップS111において、補正モータージェネレータトルクTrmga1がモータージェネレータトルクの下限値Trmgminよりも小さいか否かが判別される。ステップS111において、肯定判定された場合、次にステップS112の処理が実行される。尚、この場合、要求エンジントルクは減速トルクであり、要求モータージェネレータトルクは回生トルクである。
【0056】
ステップS112においては、要求総トルクTrallからモータージェネレータトルクの下限値Trmgminを減算することで、第二補正エンジントルクTrea2を算出する。
【0057】
次に、ステップS113において、要求エンジントルクTreが第二補正エンジントルクTrea2に設定され、要求モータージェネレータトルクTrmgが下限値Trmgminに設定される。
【0058】
この場合、EGR弁16の開度変更速度は所定EGR弁開度変更速度Vα以下とならず、スロットル弁13の開度変更速度は所定スロットル弁開度変更速度Vβ以下とはならない。しかしながら、この場合であっても、要求エンジントルクTreを燃費最適エンジントルクTrecとし、要求モータージェネレータトルクTrmgを燃費最適モータージェネレータトルクTrmgcとした場合よりも、モータージェネレータ17の回生トルクが増加するため、内燃機関1の減速トルクが減少する。そのため、エンジントルク要求変化
量がΔTre0よりも小さくなる。これにより、EGR弁16の開度変更速度をVegr0よりも小さくすることができ、スロットル弁13の開度変更速度をVthr0よりも小さくすることが出来る。
【0059】
また、ステップS111において、否定判定された場合、次にステップS114の処理が実行される。ステップS114においては、補正モータージェネレータトルクTrmga1がモータージェネレータトルクの上限値Trmgmaxよりも大きいか否かが判別される。ステップS114において、肯定判定された場合、次にステップS115の処理が実行される。尚、この場合、要求エンジントルクは加速トルクであり、要求モータージェネレータトルクはアシストトルクである。
【0060】
ステップS115においては、要求総トルクTrallからモータージェネレータトルクの上限値Trmgmaxを減算することで、第三補正エンジントルクTrea3を算出する。
【0061】
次に、ステップS116において、要求エンジントルクTreが第三補正エンジントルクTrea3に設定され、要求モータージェネレータトルクTrmgが上限値Trmgmaxに設定される。
【0062】
この場合も、EGR弁16開度変更速度は所定EGR弁開度変更速度Vα以下とならず、スロットル弁13の開度変更速度は所定スロットル弁開度変更速度Vβ以下とはならない。しかしながら、この場合であっても、要求エンジントルクTreを燃費最適エンジントルクTrecとし、要求モータージェネレータトルクTrmgを燃費最適モータージェネレータトルクTrmgcとした場合よりも、モータージェネレータ17のアシストトルクが増加するため、内燃機関1の加速トルクが減少する。そのため、エンジントルク要求変化量がΔTre0よりも小さくなる。これにより、EGR弁16の開度変更速度をVegr0よりも小さくすることが出来、スロットル弁13の開度変更速度をVthr0よりも小さくすることが出来る。
【0063】
また、ステップS114において、否定判定された場合、次にステップS117の処理が実行される。ステップS117においては、要求エンジントルクTreが第一補正エンジントルクTrea1に設定され、要求モータージェネレータトルクTrmgが補正モータージェネレータトルクTrmga1に設定される。
【0064】
この場合、要求エンジントルクTreを燃費最適エンジントルクTrecとし、要求モータージェネレータトルクTrmgを燃費最適モータージェネレータトルクTrmgcとした場合よりも、モータージェネレータ17のアシストトルク又は回生トルクが増加するため、内燃機関1の加速トルク又は減速トルクが減少する。そして、EGR弁16の開度変更速度が所定EGR弁開度変更速度Vα以下となり、スロットル弁13の開度変更速度が所定スロットル弁開度変更速度Vβ以下となる。
【0065】
以上説明したフローによれば、エンジントルク要求変化量ΔTre0に応じたスロットル弁13の開度変更速度Vegr0またはEGR弁16の開度変更速度Vthr0が所定値Vα、Vβより大きい場合、モータージェネレータ17によるアシストトルク又は回生トルクを増加させることによってエンジントルク要求変化量を減少させる。
【0066】
これにより、EGR弁16の開度変更速度及びスロットル弁13の開度変更速度が減少するため、EGRガス量の変化速度及び吸入空気量の変化速度が過剰に大きくなることを抑制することが出来る。そのため、過渡運転中における気筒2内のEGR率を高精度で制御することが可能となる。その結果、過渡運転中における気筒2内の実際の空燃比と目標
空燃比とのずれを抑制することが出来る。また、内燃機関1とモータージェネレータ17との総トルク自体は早期に要求総トルクに到達させることが出来る。
【0067】
従って、本実施例によれば、過渡運転時において、ドライバビリティを確保しつつ、排気特性の悪化を抑制することができる。
【0068】
尚、ステップS117の処理が行われた場合のように、エンジントルク要求変化量を減少させることにより、EGR弁16の開度変更速度を所定EGR弁開度変更速度Vα以下とし、スロットル弁13の開度変更速度を所定スロットル弁開度変更速度Vβ以下とすることが出来れば、過渡運転中における気筒2内の実際の空燃比と目標空燃比とのずれをより確実に許容範囲内とすることが出来る。
【0069】
また、上記フローにおいては、エンジントルク要求変化量ΔTre0に基づいてEGR弁16の開度変更速度Vegr0及びスロットル弁13の開度変更速度Vthr0を算出し、これらの値が所定値Vα、Vβより大きい場合に、要求エンジントルク及び要求モータージェネレータトルクを補正した。しかしながら、エンジントルク要求変化量ΔTre0に基づいてEGR弁16の開度及びスロットル弁13の開度の要求変化量を算出し、これらの値が所定値より大きいか否かにより要求エンジントルク及び要求モータージェネレータトルクを補正するか否かを判断してもよい。
【0070】
また、エンジントルク要求変化量ΔTre0に基づいてEGRガス量及び吸入空気量の要求変化速度又は要求変化量を直接算出し、これらの値が所定値より大きいか否かにより要求エンジントルク及び要求モータージェネレータトルクを補正するか否かを判断してもよい。
【0071】
(本実施例と本発明の構成との対応)
本実施例においては、EGR弁16及びその開度変更速度を制御するECU20が、本発明に係るEGRガス量制御手段に相当する。また、本実施例においては、スロットル弁13及びその開度変更速度を制御するECU20が、本発明に係る吸入空気量制御手段に相当する。
【0072】
また、本実施例においては、上記フローにおけるステップS113、S116、S117の処理によって設定された要求モータージェネレータトルクTrmgに基づいてモータージェネレータ17によるアシスト又は回生を実施するECU20が、本発明に係るモータージェネレータ制御手段に相当する。
【0073】
<第2実施例>
本実施例に係るハイブリッド駆動源の制御システムの概略構成は第1実施例と同様である。また、本実施例においても、第1実施例と同様の過渡運転時の制御が実施される。
【0074】
(スロットル弁の開度変更速度の算出)
内燃機関1の運転状態が減速運転となりスロットル弁13の開度を減少させることで吸入空気量が減少すると、スロットル弁13より下流側の吸気通路8内の圧力が低下する。この場合、吸気通路8へのEGRガスの導入が促進されることになる。そのため、減速運転時は加速運転時に比べてEGRガス量の過剰な増加を招き易い。
【0075】
そこで、本実施例においては、エンジントルク要求変化量に基づいてスロットル弁13の開度変更速度を算出するときに用いるマップを、加速運転時と減速運転時とで異なるものとする。そして、同一のエンジントルク要求変化量に対するスロットル弁13の開度変更速度を、減速運転時は加速運転時に比べて小さくする。
【0076】
これにより、減速運転時の吸入空気量の減少速度を、加速運転時の吸入空気量の増加速度よりも小さくすることが出来る。そのため、吸入空気量の急激な減少を抑制することが出来る。その結果、減速運転時におけるEGRガス量の過剰な増加を抑制することが出来る。
【0077】
従って、本実施例によれば、減速運転時における内燃機関1の排気特性の悪化をより抑制することが可能となる。
【0078】
以下、本実施例に係るスロットル弁の開度変更速度を算出するためのマップ選択フローについて図3に示すフローチャートに基づいて説明する。本フローは、ECU20に予め記憶されており、ECU20によって定期的に実行される。
【0079】
本フローでは、先ずステップS201において、アクセル開度センサ22の検出値に基づいてアクセル開度が変化したか否かが判別される。ステップS201において、肯定判定された場合、次にステップS202の処理が行われる。
【0080】
ステップS202においては、減速要求であるか否かが判別される。ステップS202において、肯定判定された場合、即ち減速要求があった場合、次にステップS203の処理が実行される。
【0081】
ステップS203においては、減速運転時用のスロットル弁の開度変更速度算出マップが選択される。
【0082】
一方、ステップS202において、否定判定された場合、即ち加速要求があった場合、次にステップS204の処理が実行される。
【0083】
ステップS204においては、加速運転時用のスロットル弁の開度変更速度算出マップが選択される。
【0084】
ここで、減速運転時用のマップにおいては、加速運転時用のマップよりも、同一のエンジントルク要求変化量に対するスロットル弁13の開度変更速度が小さい値となっている。
【0085】
<変形例>
(EGR弁の開度変更速度の算出)
上記のようなスロットル弁13の開度変更速度の制御に代えて、EGR弁16の開度変更速度を以下のように制御することによっても、同様の効果を得ることが出来る。
【0086】
本変形例においては、エンジントルク要求変化量に基づいてEGR弁16の開度変更速度を算出するときに用いるマップを、加速運転時と減速運転時とで異なるものとする。そして、同一のエンジントルク要求変化量に対するEGR弁16の開度変更速度を、減速運転時は加速運転時に比べて大きくする。
【0087】
これにより、減速運転時のEGRガス量の減少速度を、加速運転時のEGRガス量の増加速度よりも大きくすることが出来る。その結果、減速運転時におけるEGRガス量の過剰な増加を抑制することが出来る。
【0088】
上記各実施例は可能な限り組み合わせることが出来る。
【符号の説明】
【0089】
1・・・内燃機関
2・・・気筒
8・・・吸気通路
9・・・排気通路
13・・スロットル弁
14・・EGR装置
15・・EGR通路
16・・EGR弁
17・・モータージェネレータ
18・・バッテリ
20・・ECU
21・・クランクポジションセンサ
22・・アクセル開度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関とモータージェネレータとを有するハイブリッド駆動源の制御システムであって、
前記内燃機関の排気をEGRガスとして前記内燃機関の吸気系に導入するEGR装置と、
前記内燃機関の運転状態が過渡運転となったときに、前記内燃機関の吸気系に導入されるEGRガス量を現時点のエンジントルクと要求エンジントルクとの差に応じた速度で変化させるEGRガス量制御手段と、
前記内燃機関の運転状態が過渡運転となったときに、吸入空気量をEGRガス量の変化の応答遅れに応じた速度で変化させる吸入空気量制御手段と、
前記内燃機関の運転状態が過渡運転となったときに、EGRガス量の変化速度が所定EGRガス量変化速度より大きくなる場合または吸入空気量の変化速度が所定吸入空気量変化速度より大きくなる場合、前記モータージェネレータによるアシスト又は回生によって現時点のエンジントルクと要求エンジントルクとの差を減少させるモータージェネレータ制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド駆動源の制御システム。
【請求項2】
前記モータージェネレータ制御手段が、EGRガス量の変化速度が前記所定EGRガス量変化速度以下となり且つ吸入空気量の変化速度が前記所定吸入空気量変化速度以下となるように、前記モータージェネレータによるアシスト又は回生を行うことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド駆動源の制御システム。
【請求項3】
前記吸入空気量制御手段が、前記内燃機関の運転状態が減速運転となったときの吸入空気量の減少速度を、前記内燃機関の運転状態が加速運転となったときの吸入空気量の増加速度よりも小さくすることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド駆動源の制御システム。
【請求項4】
前記EGRガス量制御手段が、前記内燃機関の運転状態が減速運転となったときのEGRガス量の減少速度を、前記内燃機関の運転状態が加速運転となったときのEGRガス量の増加速度よりも大きくすることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド駆動源の制御システム。
【請求項5】
前記EGR装置が、前記内燃機関の排気系に一端が接続され、その吸気系に他端が接続されたEGR通路を有し、
前記EGRガス量制御手段が、前記EGR通路に設けられたEGR弁を有し、該EGR弁の開度変更速度を制御することでEGRガス量の変化速度を制御するものであり、
前記吸入空気量制御手段が、前記内燃機関の吸気通路に設けられたスロットル弁を有し、該スロットル弁の開度変更速度を制御することで吸入空気量の変化速度を制御するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動源の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−167838(P2010−167838A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10382(P2009−10382)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】