ベルト式無段変速機の制御装置
【課題】 燃費の向上を図ることが可能なベルト式無段変速機の制御装置を提供すること。
【解決手段】 動力源からベルト式無段変速機に入力されるトルクを制御して、所定のベルト滑りを発生させることとした。
【解決手段】 動力源からベルト式無段変速機に入力されるトルクを制御して、所定のベルト滑りを発生させることとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機の制御として、特許文献1に記載の技術が知られている。この公報には、ベルトとプーリとの間の滑りを抑制するように油圧を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−147264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のベルト式無段変速機にあっては、ベルト滑りを抑制するために高い油圧を供給する必要があり、ポンプフリクションが高く、燃費の向上を図ることが困難であった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、燃費の向上を図ることが可能なベルト式無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、動力源からベルト式無段変速機に入力されるトルクを制御して、所定のベルト滑りを発生させることとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明にあっては、プーリとベルトとの間で所定スリップ状態を発生させるため、必要な油圧を低くすることができる。また、入力されるトルクを調整することで、油圧を高めることなく過剰なベルト滑りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の統合コントローラにおける演算処理プログラムを示す制御ブロック図である。
【図3】図2の目標駆動力演算部にて目標駆動力演算に用いられる目標駆動力マップの一例を示す図である。
【図4】図2の目標充放電演算部にて目標充放電電力の演算に用いられる目標充放電量マップの一例を示す図である。
【図5】図2のモード選択部にて目標モードの選択に用いられるモードマップを示す図である。
【図6】油圧調整タイプを採用した場合のタイムチャートである。
【図7】実施例1のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図8】実施例2のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図9】実施例3のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図10】実施例4のエンジン回転数制御部の制御構成を表すブロック図である。
【図11】実施例4のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図12】実施例5のモータジェネレータ回転数制御部の制御構成を表すブロック図である。
【図13】実施例5のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図14】実施例6のエンジン回転数制御部及び伝達容量制御部の制御構成を表すブロック図である。
【図15】実施例6のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図16】実施例7のモータ回転数制御部及び伝達容量制御部の制御構成を表すブロック図である。
【図17】実施例7のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図18】実施例8のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図19】実施例9のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図20】実施例10のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図21】実施例11のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図22】実施例12のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図23】実施例13の点火タイミング制御アクチュエータとスロットルバルブアクチュエータに制御指令を出力する構成を表す制御ブロック図である。
【図24】実施例13のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図25】実施例14の加速中、且つ、変速比が1より高変速比側のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図26】実施例14の減速中、且つ、変速比が1より高変速比側のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図27】実施例14の加速中、且つ、変速比が1より低変速比側のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図28】実施例14の減速中、且つ、変速比が1より低変速比側のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図29】実施例15のベルト式無段変速機を搭載したエンジン車両を表す概略図である。
【図30】実施例15のスリップ率制御処理を表す制御ブロック図である。
【図31】実施例16のモータジェネレータ回転数制御部の制御構成を表すブロック図である。
【図32】実施例16のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例1のベルト式無段変速機の制御装置が適用された前輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、ベルト式無段変速機CVTと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左前輪FL(駆動輪)と、右前輪FR(駆動輪)と、を有する。尚、RLは左後輪、RRは右後輪である。
【0010】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、点火タイミングやスロットルバルブのバルブ開度等が制御される。尚、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0011】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により作動し、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0012】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。尚、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介してベルト式無段変速機CVTの入力軸に連結されている。
【0013】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGとベルト式無段変速機CVTとの間に介装されたクラッチであり、後述するCVTコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8aにより作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0014】
ベルト式無段変速機CVTは、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGのトルクが入力されるプライマリプーリPPと、駆動輪FL,FRにトルクを出力するセカンダリプーリSPと、これら二つのプーリの間に掛け渡されたベルトVBを有し、油圧制御によって各プーリに供給されるプーリ油圧に応じてプーリ溝幅を変更し、無段階に変速比を変更できる周知のものである。後述するCVTコントローラ7において車速やアクセル開度等に応じて自動的に変速するための制御指令が出力され、この制御指令に基づいて、プーリ油圧ユニット8bにより作り出された制御油圧によりプライマリプーリPPの油圧及びセカンダリプーリSPの押し付け力が制御されて変速する。
【0015】
実施例1のベルト式無段変速機CVTにあっては、片調圧方式を採用しており、セカンダリプーリSP側に常時ライン圧が供給される構成とされている。また、図外のステッピングモータが備えられ、ステッピングモータの位置に応じてプライマリプーリPP側の油圧が制御され、所望のプーリ溝幅(変速比)が達成される。尚、実施例1では片調圧方式であってステッピングモータを用いたメカニカルフィードバック機構を採用したが、調圧弁によってプライマリプーリPP側の油圧を制御するようにしてもよいし、両調圧方式でステッピングモータを用いた構成や、両調圧方式で調圧弁を複数備えた構成としてもよく特に限定しない。ただし、両調圧方式を採用した場合、変速比が1を境にしてロー側ではセカンダリプーリSPにライン圧が供給され、ハイ側ではプライマリプーリPPにライン圧が供給される点で異なる。本明細書では、ライン圧が供給される側のプーリを容量側のプーリとして記載する。実施例1にあっては、容量側のプーリは常にセカンダリプーリSPとなるが、他の制御方式を採用した場合には、ある状態ではプライマリプーリが容量側となり、ある状態ではセカンダリプーリが容量側となる。
【0016】
ベルト式無段変速機CVTの出力軸は、ディファレンシャルギアDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右前輪FL,FRに連結されている。尚、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いているが、乾式クラッチ等を用いてもよく特に限定しない。
【0017】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。尚、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0018】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪FR,FLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。また、更なるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0019】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、CVTコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8aと、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、CVTコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0020】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外の点火タイミング制御アクチュエータやスロットルバルブアクチュエータへ出力する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0021】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0022】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。尚、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0023】
CVTコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をCVT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8aに出力する。また、CVTコントローラ7は、車速とアクセルペダル開度に基づいて目標変速比を決定する変速比マップを有し、入力された各種センサ情報に基づいて目標変速比を決定する。また、統合コントローラ10からの伝達容量指令に応じたライン圧及びセカンダリプーリ油圧を決定する。そして、目標変速比を達成するプーリ溝幅となるよう、プーリ油圧ユニット8bにステップモータ駆動指令を出力する。尚、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0024】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦ブレーキによる制動力)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
【0025】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、プーリ溝幅から実変速比を検出する変速比センサ10aと、セカンダリプーリSPの回転数を検出するセカンダリ回転数センサ10bからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0026】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、CVTコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御及び伝達容量制御と、を行う。
【0027】
以下に、図2に示すブロック図を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、を有する。
【0028】
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
【0029】
モード選択部200は、モードマップに基づいて目標モードを選択する。図5はモードマップを表す。モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
【0030】
目標充放電演算部300では、図4に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。また、目標充放電量マップには、EV走行モードを許可もしくは禁止するためのEVON線がSOC=50%に設定され、EVOFF線がSOC=35%に設定されている。
【0031】
SOC≧50%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV走行モード領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける。SOC<35%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける。
【0032】
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動力tFoOと、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ締結容量とベルト式無段変速機CVTの目標伝達容量(ライン圧,セカンダリプーリ油圧等)と第1クラッチCL1の伝達トルク容量指令である第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。また、動作点指令部400には、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部401が設けられている。尚、実施例1における目標伝達容量は、運転者等の要求トルクに応じて設定される。
【0033】
動作点指令部400は、ベルト式無段変速機CVTのプーリ(プライマリプーリもしくはセカンダリプーリ)とベルトとの間に生じている実スリップ率を演算するスリップ率演算部402と、予め設定された所定のスリップ率(2%程度)とスリップ率演算部402において演算された実スリップ率との偏差に応じてエンジントルクもしくはモータジェネレータトルクを調整するトルク調整部403(トルク制御部に相当)とを有する。
【0034】
スリップ率演算部402では、プーリ溝幅から検出される溝幅ベースの実変速比(ベルト巻き付径)とプライマリプーリ回転数及びセカンダリプーリ回転数との回転数比から得られる回転数ベースの実変速比とからプーリとベルトとの間に生じるスリップ率を演算する。尚、スリップ率はスリップ量で設定してもよい。
【0035】
トルク調整部403では、演算されたスリップ率が所定のスリップ率よりも大きい場合(スリップが多すぎる場合)には入力トルクが小さくなるように調整し、小さい場合(スリップが少なすぎる場合)には入力トルクが大きくなるように調整する。また、実施例1では、制御指令に対する応答性の観点から、要求されたトルク調整量のうち、高周波成分である高応答分のトルク調整についてはモータジェネレータMGで行い、低周波成分である低応答分のトルク調整についてはエンジンEで行うこととしている。高応答とは、例えばトルク調整量がステップ的に入力された場合の初期の立ち上がり部分に相当し、低応答とは、例えばステップ的な入力後、定常的に要求される部分に相当する。尚、実スリップ率と所定のスリップ率との偏差に応じてエンジンEとモータジェネレータMGとを選択してもよい。また、偏差の変化勾配等に基づいてエンジンEとモータジェネレータMGとを選択してもよい。
【0036】
〔スリップ制御処理〕
次に、ベルト式無段変速機CVTにおいて所定のスリップ状態とするスリップ制御処理について説明する。一般に、ベルト式無段変速機にあっては、プーリとベルトとの間のスリップを禁止しており、スリップを生じないプーリ押し付け力を発生させる油圧(以下、クランプ油圧)を発生させ、そのクランプ油圧に加えて変速用の油圧(以下、変速油圧)を発生させている。ここで、プーリに必要な押し付け力は油圧と面積の積によって決定されるため、実施例1のようにセカンダリプーリに常時ライン圧を供給するタイプでは、プライマリプーリとセカンダリプーリの有効受圧面積を異ならせ(具体的にはプライマリプーリ側の有効受圧面積をセカンダリプーリの2倍前後に設定する)、セカンダリプーリ側でのスリップを防止しつつ、プライマリプーリ側には更に強い押し付け力を作用させて変速を可能としている。
【0037】
しかし、プーリとベルトとの間に作用する摩擦係数とスリップ率との関係を検証した結果、スリップ率が0に近い状態での摩擦係数よりもスリップ率が2%程度の摩擦係数のほうが大きいことが分かってきた。すなわち、プーリとベルトとの間のスリップを完全に抑制する方向で制御するよりも、若干スリップさせて制御した方がよりトルク伝達効率が高いことが見出された。
【0038】
上述したように、一般のベルト式無段変速機ではクランプ圧を確保する際、安全率を考慮してスリップしない油圧よりも高めの油圧をクランプ圧として設定する。しかし、ある程度のスリップをさせたほうがよい、という事実は、このクランプ圧自体も高めに設定してはいけないことを表す。言い換えると、所望のスリップ状態となる程度の油圧に制御するため、既存のベルト式無段変速機に必要と考えられていたライン圧よりもかなり低めのライン圧の設定で、摩擦係数を向上したベルト式無段変速機を実現できることになる。ベルト式無段変速機の効率悪化は、その多くがオイルポンプの負荷によってもたらされている事実からすると、オイルポンプの負荷の低減は非常に魅力的であり、同時にプーリとベルトとの摩擦係数まで増大できるのである。
【0039】
このような観点から、ベルト式無段変速機のクランプ圧(伝達容量)をスリップ率に応じて設定すれば所望のスリップ状態が得られ、オイルポンプの負荷低減、及び摩擦係数の向上の両方が得られると考えられる。そこで、実際に、実スリップ率と所望スリップ率との偏差に応じてクランプ圧を調整する制御構成(以下、油圧調整タイプ)を組んでみると、下記に示す課題が見出された。
【0040】
図6は油圧調整タイプを採用した場合のタイムチャートである。尚、図6中の伝達容量とは容量側の油圧と考えればよく、例えばライン圧もしくはセカンダリ油圧と考えて差し支えない。また、前提として伝達容量はベルト式無段変速機に入力されるトルクの増大に応じて大きくなるように設定されている。
【0041】
初期条件として、運転者のアクセルペダル開度は一定であり、所望のベルトスリップ率が得られていた状態とする。運転者がアクセルペダルを踏み込むと、エンジントルク及びモータジェネレータトルクは増大し、同時に伝達容量も引き上げられる。すなわちセカンダリプーリ油圧が高められる。すると、実スリップ率が所望のスリップ率よりも低下することになる。よって、実スリップ率を上げるべく、伝達容量を上げすぎないような指令を出力することになる。次に、実スリップ率は低下から増加へと変わり、所望のスリップ率からオーバーシュート気味に増大する。よって、次は伝達容量を上昇させてこのオーバーシュート気味の実スリップ率を下げることになる。
【0042】
このように、油圧制御によってセカンダリプーリ油圧を制御すると、制御指令に対して実際に容量が変更されるまでの応答遅れが大きく、所望のスリップ率を安定して発生させることが困難であった。所望のスリップ率を得ることは摩擦係数の増大が得られるため、魅力的であるが、一方、過剰なスリップ率が発生すると、やはりプーリとベルトの接触面が破損、ベルト破断といった原因となることに変わりはないからである。
【0043】
そこで、実施例1にあってはスリップ率の制御に当たり、油圧制御ではなく、ベルト式無段変速機に入力されるトルクを制御することで所望のスリップ状態を得ることとした。図7は実施例1のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。運転者がアクセルペダルを踏み込み、入力トルクが増大するとスリップ率が増大する。そこで、高応答のトルク調整が要求されたときは、モータジェネレータトルクが低くなるように調整する。すると、モータジェネレータMGは制御指令に対する応答が高いため、スリップ率は素早く所望のスリップ率に収束する。同様に、低応答のトルク調整が要求されたときは、エンジントルクが低くなるように調整する。これにより、スリップ率を所望のスリップ率に安定して収束させることができる。
【0044】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)ベルト式無段変速機CVTと、二つのプーリPP,SPの押し付け力を油圧により制御して所望の変速比を得るCVTコントローラ7(変速制御手段)と、プーリとベルトとの間が所定スリップ状態となるようにエンジンE及び/又はモータジェネレータMG(動力源)のトルクを調整(制御)するトルク調整部403(トルク制御手段)とを備えた。すなわち、プーリとベルトとの間で所定スリップ量を発生させるため、必要な油圧を低くすることができる。また、入力されるトルクを調整することで、油圧を高めることなく過剰なベルト滑りを抑制することができる。
【0045】
(2)エンジンEにより入力トルクを調整することで、油圧制御よりも応答性を高めることができ、安定したスリップ率を得ることができる。
【0046】
(3)モータジェネレータMG(モータ)により入力トルクを調整することで、油圧制御よりも応答性を高めることができ、安定したスリップ率を得ることができる。
【0047】
(4)高応答なトルク調整が要求されたときはモータジェネレータMGにより調整し、低応答なトルク調整が要求されたときはエンジンEにより調整することで、更にきめ細かくスリップ率制御を達成することができる。
【実施例2】
【0048】
次に、実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため異なる点についてのみ説明する。図8は実施例2のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。実施例1では、エンジンEとモータジェネレータMGとを併用した例を示したが、実施例2ではエンジンEのみでトルクを調整した点が異なる。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果が得られる。加えて、エンジンEのみで入力トルクを調整することで制御ロジックの簡略化を図ることができる。
【実施例3】
【0049】
次に、実施例3について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため異なる点についてのみ説明する。図9は実施例3のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。実施例1では、エンジンEとモータジェネレータMGとを併用した例を示したが、実施例3ではモータジェネレータMGのみでトルクを調整した点が異なる。これにより、実施例1の(1),(3)に示す効果が得られる。加えて、モータジェネレータMGのみで入力トルクを調整することで制御ロジックの簡略化を図ることができる。尚、エンジンEに比べるとモータジェネレータMGの応答は高いため、スリップ率を素早く収束できる。
【実施例4】
【0050】
次に、実施例4について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例1では、スリップ率演算部402及びトルク調整部403によりエンジントルク及び/又はモータジェネレータトルクを調整することでスリップ率を制御した。これに対し、実施例4では、スリップ率演算部402及びトルク調整部403に代えて、エンジン回転数を目標値として制御することでスリップ率を制御するエンジン回転数制御部404を備えている点が異なる。
【0051】
図10はエンジン回転数制御部404の制御構成を表すブロック図である。エンジン回転数制御部404には、目標エンジン回転数演算部4041と、回転数フィードバック制御部4042と、トルク−アクチュエータ信号変換部4043とを有する。目標エンジン回転数演算部4041では、セカンダリプーリ実回転数に溝幅ベース(プーリに対するベルト巻き付径を意味する)で演算された実変速比を掛けた値と、所望スリップ率(2%のスリップ率を得たい場合には、1.02)を掛け合わせて目標エンジン回転数を演算する。ここで、セカンダリプーリ実回転数に溝幅ベースで演算された実変速比を掛けた値とは、スリップが全く生じていない場合のプライマリプーリ回転数(エンジン回転数)である。これに所望スリップ率(2%に相当する1.02)を掛けることで、プーリとベルトとの間に所望スリップ率を生じた状態を得る。
【0052】
回転数フィードバック制御部4042では、演算された目標エンジン回転数と検出された実エンジン回転数との偏差に基づいてPI制御によりエンジントルクが演算される。すなわち、目標エンジン回転数に到達していない場合にはエンジントルクが大きくなる指令が出力され、目標エンジン回転数を超えている場合にはエンジントルクが小さくなる指令が出力される。言い換えると、目標エンジン回転数に追従するようにエンジントルクが制御されるものであり、エンジントルク自体は直接の制御対象ではなく間接的に制御される。
【0053】
トルク−アクチュエータ信号変換部4043では、指令されたエンジントルクを実現するようにアクチュエータ信号に変換されてエンジンコントローラ1に出力される。点火タイミングの変更によりトルクを制御する場合には点火タイミング制御アクチュエータ指令に変換され、スロットル開度の変更によりトルクを制御する場合にはスロットルアクチュエータ指令に変換される。
【0054】
図11は実施例4のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。アクセル開度一定の定常走行状態において、所定スリップ率が得られる目標エンジン回転数が演算され、その目標エンジン回転数を達成するようにエンジントルクが制御される。尚、モータジェネレータトルクはアクセルペダル開度等に基づいて演算された要求駆動力に応じて設定されている。アクセルペダルが踏み込まれると、モータジェネレータトルクが増大し、加速によってセカンダリプーリ回転数が上昇すると、目標エンジン回転数も上昇し、それに応じてエンジントルクも適宜制御される。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果に加えて下記の効果を得ることができる。
【0055】
(5)エンジンE(動力源)が所定スリップ率(スリップ状態)に応じた回転数となるようにエンジントルクを制御することとした。すなわち、スリップ率とは回転数に基づく値であることから、回転数ベースで制御量を決定することで、より制御精度を高めることができる。
【実施例5】
【0056】
次に、実施例5について説明する。基本的な構成は実施例4と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例5では、エンジン回転数を制御対象とした。これに対し実施例6ではモータジェネレータ回転数を制御対象としている点が異なる。実施例5では第1クラッチCL1が常時締結しており、エンジンEとモータジェネレータMGとが併用されている走行状態(HEV走行モード)を前提とした。これに対し、実施例6では第1クラッチCL1を解放し、モータジェネレータMGのみを用いた走行状態(EV走行モード)であっても実現可能である。
【0057】
図12はモータジェネレータ回転数制御部404'の制御構成を表すブロック図である。モータジェネレータ回転数制御部404'には、目標モータジェネレータ回転数演算部4041'と、回転数フィードバック制御部4042'と、トルク−アクチュエータ信号変換部4043'とを有する。制御内容はエンジントルクを制御する場合と同様であるため説明を省略する。尚、トルク−アクチュエータ信号変換部4043'では、モータジェネレータMGに流れる電流量や通電タイミングを制御することによりトルクが制御される。
【0058】
図13は実施例5のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。アクセル開度一定の定常走行状態において、所定スリップ率が得られる目標モータジェネレータ回転数が演算され、その目標モータジェネレータ回転数を達成するようにモータジェネレータトルクが制御される。尚、エンジントルクはアクセルペダル開度等に基づいて演算された要求駆動力に応じて設定されている。アクセルペダルが踏み込まれると、エンジントルクが増大し、加速によってセカンダリプーリ回転数が上昇すると、目標モータジェネレータ回転数も上昇し、それに応じてモータジェネレータトルクも適宜制御される。これにより、実施例1の(1),(3)に示す効果に加えて下記の効果を得ることができる。
【0059】
(6)モータジェネレータMG(動力源)が所定スリップ状態に応じた回転数となるようにモータジェネレータトルクを制御することとした。すなわち、スリップ率とは回転数に基づく値であることから、回転数ベースで制御量を決定することで、より制御精度を高めることができる。また、モータジェネレータMGにより制御することで、HEV走行モードに限らず、EV走行モードであっても安定したスリップ率制御を達成することができる。
【実施例6】
【0060】
次に、実施例6について説明する。基本的な構成は実施例4と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例4では、エンジン回転数制御部404によりエンジン回転数を目標値として制御することでスリップ率を制御した。これに対し、実施例6では、エンジン回転数制御部404に加えて、要求駆動力に基づいて演算されるエンジンの要求トルクと実エンジントルクに相当する指令トルクとの偏差に基づいてベルト式無段変速機CVTの伝達容量を設定する伝達容量制御部405を追加した点が異なる。
【0061】
図14はエンジン回転数制御部404及び伝達容量制御部405の制御構成を表すブロック図である。エンジン回転数制御部404は実施例4と同じであるため説明を省略する。伝達容量制御部405では、回転数フィードバック制御部4042から出力されたエンジントルクであるトルク指令と、要求駆動力に基づいて算出されたエンジンの要求トルクとが入力され、トルク指令と要求トルクとの偏差に基づいてPI制御により伝達容量が演算される。
【0062】
プーリとベルトとの間のスリップ率を制御するに当たり、エンジン回転数を制御してスリップ率を制御することで安定したスリップ率を得ることができる。しかし、スリップ率が大きすぎるときにはエンジン回転数を下げるためにエンジントルクを低下する指令が出力される。すなわち、トルクの低下に伴って運転者等が要求する駆動力(要求トルク)よりも小さなトルクしか得られず、違和感となる。
【0063】
そこで、要求トルクと実トルクとの偏差に応じた伝達容量をベルト式無段変速機CVTに対して出力することとした。例えば、要求トルクよりもトルク指令が小さい場合には、伝達容量として高めの値が出力される。すると、プーリ押し付け力が増大し、ベルトとの間でスリップを得にくい状態となる。エンジン側では、スリップが得られていないためエンジン回転数を高める必要に迫られ、それに応じてエンジントルクを上昇させる。すなわち、伝達容量を高めると、回転数制御しているエンジンEのトルクが高まる方向に制御されるのである。これにより、要求トルクを達成しつつ安定したスリップ率を得ることができる。
【0064】
図15は実施例6のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。アクセル開度一定の定常走行状態において、所定スリップ率が得られる目標エンジン回転数が演算され、その目標エンジン回転数を達成するようにエンジントルクが制御される。尚、モータジェネレータトルクはアクセルペダル開度等に基づいて演算された要求駆動力に応じて設定されているためほぼ一定である。エンジン回転数制御に基づくトルク指令と要求トルクとに偏差が生じると、偏差に応じて伝達容量が変更される。具体的には、実施例6の制御を行わない場合には伝達容量は実際のエンジントルクとモータジェネレータトルクの合計に応じて変更される。
【0065】
これに対し、実施例6の伝達容量制御を行うことで要求トルクよりも指令トルクが小さいときは伝達容量が制御無しの場合より高く設定される。これにより指令トルクは要求トルクに素早く収束する。一方、要求トルクよりも指令トルクが大きいときは伝達容量が制御無しの場合より低く設定される。これにより指令トルクは要求トルクに素早く収束する。よって、要求トルクを満足しながらもベルトのスリップ率はより安定した状態に制御される。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果、実施例4の(5)に示す効果に加えて下記の効果を得ることができる。
【0066】
(7)伝達容量(二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧)を、要求トルクと指令トルク(実トルク)との偏差に応じて設定することとした。これにより、運転者等が要求する要求トルクを実現しつつ、安定したスリップ状態を得ることができる。
【実施例7】
【0067】
次に、実施例7について説明する。基本的な構成は実施例5と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例5では、モータジェネレータ回転数制御部404'によりモータジェネレータ回転数を目標値として制御することでスリップ率を制御した。これに対し、実施例7では、モータジェネレータ回転数制御部404'に加えて、要求駆動力に基づいて演算されるモータジェネレータMGの要求トルクと実モータジェネレータトルクに相当する指令トルクとの偏差に基づいてベルト式無段変速機CVTの伝達容量を設定する伝達容量制御部405'を追加した点が異なる。
【0068】
図16はモータ回転数制御部404'及び伝達容量制御部405'の制御構成を表すブロック図である。モータジェネレータ回転数制御部404'は実施例5と同じであるため説明を省略する。伝達容量制御部405'では、回転数フィードバック制御部4042'から出力されたモータジェネレータトルクであるトルク指令と、要求駆動力に基づいて算出されたモータジェネレータMGの要求トルクとが入力され、トルク指令と要求トルクとの偏差に基づいてPI制御により伝達容量が演算される。尚、この伝達容量に関する作用については実施例6の説明と同じであるため説明を省略する。
【0069】
図17は実施例7のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。アクセル開度一定の定常走行状態において、所定スリップ率が得られる目標モータジェネレータ回転数が演算され、その目標モータジェネレータ回転数を達成するようにモータジェネレータトルクが制御される。尚、エンジントルクはアクセルペダル開度等に基づいて演算された要求駆動力に応じて設定されているためほぼ一定である。モータジェネレータ回転数制御に基づくトルク指令と要求トルクとに偏差が生じると、偏差に応じて伝達容量が変更される。具体的には、実施例7の制御を行わない場合には伝達容量は実際のエンジントルクとモータジェネレータトルクの合計に応じて変更される。
【0070】
これに対し、実施例6の伝達容量制御を行うことで要求トルクよりも指令トルクが小さいときは伝達容量が制御無しの場合より高く設定される。これにより指令トルクは要求トルクに素早く収束する。一方、要求トルクよりも指令トルクが大きいときは伝達容量が制御無しの場合より低く設定される。これにより指令トルクは要求トルクに素早く収束する。よって、要求トルクを満足しながらもベルトのスリップ率はより安定した状態に制御される。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果、実施例5の(6)に示す効果に加えて、実施例6の(7)に示す効果が得られる。
【実施例8】
【0071】
次に、実施例8について説明する。基本的な構成は実施例6と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例6では、要求トルクと指令トルクとの偏差に応じて伝達容量を決定することとした。これに対し、実施例8では上記制御構成に加えて、エンジン回転数が上昇中のときは、回転数の上昇に使用されたエネルギ分(イナーシャ分)の油圧を伝達容量に反映させないこととした。
【0072】
図18は実施例8のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。エンジン回転数が上昇していくと、その回転数上昇に使用されるトルクは、ベルト式無段変速機CVT側に出力されず、回転数の上昇に使用される。よって、回転数上昇分に使用された指令トルクと要求トルクとの偏差分については伝達容量に反映させないことで、安定したスリップ率が得られる。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果、実施例4の(5)に示す効果、実施例6の(7)に示す効果に加えて、下記に示す効果が得られる。
【0073】
(8)指令トルク(実トルク)からエンジンEのイナーシャ分を除外したトルクを用いて制御することとした。よって、実際にベルト式無段変速機CVT側に入力されるトルクに基づいた伝達容量を設定することができ、安定したスリップ率を得ることができる。尚、イナーシャ分を除外するのは、モータジェネレータMGを回転数制御する場合であっても同じように制御することで同様の作用効果が得られる。その場合には、更に実施例5の(6)に示す効果も得られる。
【実施例9】
【0074】
次に、実施例9について説明する。基本的な構成は実施例6と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例6では、要求トルクと指令トルクとの偏差に応じて伝達容量を決定することとした。これに対し、実施例9では上記制御構成に加えて、エンジン回転数が下降中のときは、回転数の下降に使用されたエネルギ分(イナーシャ分)の油圧を伝達容量に反映させないこととした。
【0075】
図19は実施例9のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。エンジン回転数が下降していくと、その回転数下降に使用されるトルクは、ベルト式無段変速機CVT側に出力されず、回転数の下降に使用される。よって、回転数下降分に使用された指令トルクと要求トルクとの偏差分については伝達容量に反映させないことで、安定したスリップ率が得られる。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果、実施例4の(5)に示す効果、実施例6の(7)に示す効果及び実施例8の(8)に示す効果が得られる。尚、イナーシャ分を除外するのは、モータジェネレータMGを回転数制御する場合であっても同じように制御することで同様の作用効果が得られる。その場合には、更に実施例5の(6)に示す効果も得られる。
【実施例10】
【0076】
次に、実施例10について説明する。基本的な構成は実施例4と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例4では、目標エンジン回転数を達成するようにエンジントルクが制御される。これに対し、実施例10では上記制御構成に加えて、エンジントルクの上限値を設定した点が異なる。エンジンEを回転数制御していると、その回転数を達成するのに必要なトルクは、運転者等が要求する要求トルクとは無関係に設定される。よって、目標エンジン回転数と実エンジン回転数との偏差が大きければ、大きなトルク指令を出力することになり、上限を設定していない場合には、運転者等の要求トルクよりも大きなトルクが出力され、違和感となるからである。このエンジントルク上限値は、運転者等の要求トルクに応じて設定される。具体的には、モータジェネレータMGのトルクとエンジントルクとの合計が要求トルクに所定の許容誤差を加算した値を超えないように設定される。
【0077】
図20は実施例10のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。エンジントルクは目標エンジン回転数に一致するように制御される。このとき、エンジントルク上限値以上のトルクが出力されない。よって、エンジントルクを直接の制御対象としていない場合であっても、運転者等の要求トルクの実現性を向上することができる。仮に、加速中において油圧が実現可能な油圧の下限に到達し(これ以上油圧を下げられない状態)、且つ、ベルトとプーリとの間の摩擦係数が最適となるスリップ率に到達しない場合、エンジン側ではスリップ率を確保すべく、過剰にトルクを上昇させようとする。これに対し、実施例10のようにエンジントルク上限値を設定しておくことで、所望のスリップ率が得られない場合であっても、エンジントルクを要求トルクから所定の許容誤差の範囲に抑制できる。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果、実施例4の(5)に示す効果に加えて、下記に示す効果が得られる。
【0078】
(9)要求トルクに応じたエンジンE(動力源)のトルク上限値を有する。よって、エンジントルクを制御したとしても、要求トルクからの乖離を抑制でき、要求トルクの実現性を向上できる。尚、実施例6に実施例10を組み合わせることもでき、その場合には、実施例6の(7)に示す効果も得られることはいうまでもない。
【実施例11】
【0079】
次に、実施例11について説明する。基本的な構成は実施例5と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例5では、目標モータジェネレータ回転数を達成するようにモータジェネレータトルクが制御される。これに対し、実施例11では上記制御構成に加えて、モータジェネレータトルクの上限値を設定した点が異なる。モータジェネレータMGを回転数制御していると、その回転数を達成するのに必要なトルクは、運転者等が要求する要求トルクとは無関係に設定される。よって、目標モータジェネレータ回転数と実モータジェネレータ回転数との偏差が大きければ、大きなトルク指令を出力することになり、上限を設定していない場合には、運転者等の要求トルクよりも大きなトルクが出力され、違和感となるからである。このモータジェネレータトルク上限値は、運転者等の要求トルクに応じて設定される。具体的には、モータジェネレータMGのトルクとエンジントルクとの合計が要求トルクに所定の許容誤差を加算した値を超えないように設定される。
【0080】
図21は実施例11のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。モータジェネレータトルクは目標モータジェネレータ回転数に一致するように制御される。このとき、モータジェネレータトルク上限値以上のトルクが出力されない。よって、モータジェネレータトルクを直接の制御対象としていない場合であっても、運転者等の要求トルクの実現性を向上することができる。仮に、加速中において油圧が実現可能な油圧の下限に到達し(これ以上油圧を下げられない状態)、且つ、ベルトとプーリとの間の摩擦係数が最適となるスリップ率に到達しない場合、モータジェネレータ側ではスリップ率を確保すべく、過剰にトルクを上昇させようとする。これに対し、実施例11のようにモータジェネレータトルク上限値を設定しておくことで、所望のスリップ率が得られない場合であっても、モータジェネレータトルクを要求トルクから所定の許容誤差の範囲に抑制できる。これにより、実施例1の(1),(3),(4)に示す効果、実施例の(6)に示す効果に加えて、下記に示す効果が得られる。
【0081】
(10)要求トルクに応じたモータジェネレータMG(動力源)のトルク上限値を有する。よって、モータジェネレータトルクを制御したとしても、要求トルクからの乖離を抑制でき、要求トルクの実現性を向上できる。尚、実施例7に実施例10を組み合わせることもでき、その場合には、実施例7に示す効果も得られることはいうまでもない。
【実施例12】
【0082】
次に、実施例12について説明する。基本的な構成は実施例5と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例5では、目標モータジェネレータ回転数を達成するようにモータジェネレータトルクが制御される。これに対し、実施例12では上記制御構成に加えて、モータジェネレータトルクの下限値を設定した点が異なる。モータジェネレータMGを回転数制御していると、その回転数を達成するのに必要なトルクは、運転者等が要求する要求トルクとは無関係に設定される。よって、目標モータジェネレータ回転数と実モータジェネレータ回転数との偏差が大きければ、大きなトルク指令を出力することになり、減速時において下限を設定していない場合には、運転者等の要求トルク(減速時に発生させるトルク)よりも大きなトルク(過剰な減速トルク)が出力され、違和感となるからである。このモータジェネレータトルク下限値は、運転者等の要求トルクに応じて設定される。具体的には、モータジェネレータMGのトルクとエンジントルクとの合計が要求トルクに所定の許容誤差を加算した値(減速側)を超えないように設定される。
【0083】
図22は実施例12のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。モータジェネレータトルクは目標モータジェネレータ回転数に一致するように制御される。このとき、モータジェネレータトルク下限値以下のトルクが出力されない。よって、モータジェネレータトルクを直接の制御対象としていない場合であっても、運転者等の要求トルクの実現性を向上することができる。仮に、減速中において油圧が実現可能な油圧の下限に到達し(これ以上油圧を下げられない状態)、且つ、ベルトとプーリとの間の摩擦係数が最適となるスリップ率に到達しない場合、モータジェネレータ側ではスリップ率を確保すべく、過剰に減速側のトルクを発生させようとする。これに対し、実施例12のようにモータジェネレータトルク下限値を設定しておくことで、所望のスリップ率が得られない場合であっても、モータジェネレータトルクを要求トルクから所定の許容誤差の範囲に抑制できる。これにより、実施例1の(1),(3),(4)に示す効果、実施例の(6)に示す効果に加えて、下記に示す効果が得られる。
【0084】
(11)要求トルクに応じたモータジェネレータMG(動力源)のトルク下限値を有する。よって、モータジェネレータトルクを制御したとしても、要求トルクからの乖離を抑制でき、過剰な減速トルクを発生させることなく、要求トルクの実現性を向上できる。尚、実施例7に実施例10を組み合わせることもでき、その場合には、実施例7に示す効果も得られることはいうまでもない。
【実施例13】
【0085】
次に、実施例13について説明する。基本的な構成は実施例2と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例2では、エンジントルクを制御することで所望のスリップ率を達成するように制御した。これに対し、実施例13では、エンジントルクを調整するに当たり、応答性を考慮して点火タイミングアクチュエータとスロットルアクチュエータとを適宜選択する点が異なる。
【0086】
図23はトルク調整部403からエンジントルクを制御するアクチュエータである点火タイミング制御アクチュエータX1とスロットルバルブアクチュエータX2に制御指令を出力する構成を表す制御ブロック図である。トルク調整部403では、予め設定された所定スリップ率(2%程度)と実スリップ率との偏差を演算し、その偏差に基づいてトルクダウン制御指令を出力する。ここで、トルクダウン制御指令を、高周波成分(高応答分)と低周波成分(低応答分)とに分離する。そして、高周波成分は点火タイミング制御アクチュエータX1に対してトルクダウン制御指令を出力し、低周波成分はスロットルバルブアクチュエータX2に対してトルクダウン制御指令を出力する。すなわち、点火タイミング制御アクチュエータX1は点火角を遅角するだけなのでイナーシャ等を考慮する必要が無く、高応答のトルクダウンを実現できるが、これだけで十分なトルクダウン量が得られるとは限らない。一方、スロットルバルブアクチュエータX2は具体的に開度を調整する上でイナーシャ等を考慮する必要があり、点火タイミング制御アクチュエータX1よりも低応答のトルクダウンしか実現できないが、大きなトルクダウン量が得られる。そこで、これら両者の利点を組み合わせた指令を行う。
【0087】
図24は実施例13のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。プーリとベルトとの間のスリップ率が所望の値よりも高くなると、入力トルクを抑制する必要があることから、エンジントルクを低下させるためにトルクダウン制御指令を出力する。このとき、高応答分については点火タイミング制御アクチュエータX1により、また、低応答分についてはスロットルバルブアクチュエータX2により実行することで、応答性を確保しつつ十分なトルクダウン量を確保する。尚、実施例13は実施例2に加えた構成として説明したが、最終的にエンジンに対してトルク制御指令を出力する何れの実施例であっても適用可能である。よって、実施例1,2,4,6,8,9,10に適宜採用でき、これら各実施例の効果に加えて下記の効果が得られる。
【0088】
(12)高応答成分については点火タイミング制御アクチュエータX1(点火タイミング変更制御)を用い、低応答成分についてはスロットルバルブアクチュエータX2(吸気量制御)を用いることで、エンジントルクを制御する際の応答性と制御量の両方を得ることができる。
【実施例14】
【0089】
次に、実施例14について説明する。基本的な構成は実施例7と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例7では特にプライマリプーリPPとセカンダリプーリSPのどちらにおいてスリップ状態を達成すべきか、という点については特に言及しなかったが、実施例14では、走行状態に応じてどちらをスリップ状態とすべきかについて設定した点が異なる。以下、走行状態ごとに説明する。
【0090】
〔加速中、且つ、変速比が1より高変速比側〕
加速中とは、プライマリプーリ側からベルトを介してセカンダリプーリ側にトルクが伝達されている状態である。また、高変速比側とは、プライマリプーリ側よりもセカンダリプーリ側のベルト巻き付径のほうが小さいことを意味する。以上から、この走行状態にあってはプライマリプーリ側が容量側であり、加速中であることからプライマリプーリ回転数はベルトの速度よりも速い状態とすることになる。よって、図25のタイムチャートに示すように、プライマリプーリとベルトとの間のスリップ率をプラス側に所定スリップ率とし、セカンダリプーリとベルトとの間のスリップ率を0相当にすることで、安定したスリップ率制御を達成できる。
【0091】
〔減速中、且つ、変速比が1より高変速比側〕
減速中とは、セカンダリプーリ側からベルトを介してプライマリプーリ側にトルクが伝達されている状態である。また、高変速比側とは、プライマリプーリ側よりもセカンダリプーリ側のベルト巻き付径のほうが小さいことを意味する。以上から、この走行状態にあってはプライマリプーリ側が容量側であり、減速中であることからプライマリプーリ回転数はベルトの速度よりも遅い状態とすることになる。よって、図26のタイムチャートに示すように、プライマリプーリとベルトとの間のスリップ率をマイナス側に所定スリップ率とし、セカンダリプーリとベルトとの間のスリップ率を0相当にすることで、安定したスリップ率制御を達成できる。
【0092】
〔加速中、且つ、変速比が1より低変速比側〕
加速中とは、プライマリプーリ側からベルトを介してセカンダリプーリ側にトルクが伝達されている状態である。また、低変速比側とは、セカンダリプーリ側よりもプライマリプーリ側のベルト巻き付径のほうが小さいことを意味する。以上から、この走行状態にあってはセカンダリプーリ側が容量側であり、加速中であることからセカンダリプーリ回転数はベルトの速度よりも速い状態とすることになる。よって、図27のタイムチャートに示すように、セカンダリプーリとベルトとの間のスリップ率をプラス側に所定スリップ率とし、プライマリプーリとベルトとの間のスリップ率を0相当にすることで、安定したスリップ率制御を達成できる。
【0093】
〔減速中、且つ、変速比が1より低変速比側〕
減速中とは、セカンダリプーリ側からベルトを介してプライマリプーリ側にトルクが伝達されている状態である。また、低変速比側とは、セカンダリプーリ側よりもプライマリプーリ側のベルト巻き付径のほうが小さいことを意味する。以上から、この走行状態にあってはセカンダリプーリ側が容量側であり、減速中であることからセカンダリプーリ回転数はベルトの速度よりも遅い状態とすることになる。よって、図28のタイムチャートに示すように、セカンダリプーリとベルトとの間のスリップ率をマイナス側に所定スリップ率とし、プライマリプーリとベルトとの間のスリップ率を0相当にすることで、安定したスリップ率制御を達成できる。
【0094】
すなわち、実施例14にあっては、下記の作用効果を得ることができる。
(13)加速中かつ変速比が1より高いときはセカンダリプーリよりもベルトの速度が速くなるようにスリップさせ、減速中かつ変速比が1より高いときはセカンダリプーリよりもベルトの速度が遅くなるようにスリップさせ、加速中かつ変速比が1以下のときはプライマリプーリよりもベルトの速度が速くなるようにスリップさせ、減速中かつ変速比が1以下のときはプライマリプーリよりもベルトの速度が遅くなるようにスリップさせる。よって、走行状態に応じて適切なスリップ状態を維持しつつ加減速を行うことができる。
【実施例15】
【0095】
次に実施例15について説明する。上述の実施例1から実施例14ではモータジェネレータを備えたハイブリッド車両に適用した例を示した。これに対し実施例15では、モータジェネレータ等を備えていない通常のエンジン車両に適用したものである。
【0096】
図29はベルト式無段変速機を搭載したエンジン車両を表す概略図である。内燃機関であるエンジンEから出力された駆動力(トルク及び回転数)は、トルクコンバータTCを介してベルト式無段変速機CVTのプライマリプーリPPに入力される。トルクコンバータTCにはロックアップクラッチLUCが備えられ、所定車速未満ではロックアップクラッチLUCを解放しトルクコンバータTCによるトルク増幅作用を使用する。また、所定車速以上ではロックアップクラッチLUCを締結してエンジンEとベルト式無段変速機CVTとが直結される。ベルト式無段変速機CVTから出力された駆動力はディファレンシャルギアを介して駆動輪FR,FLに出力される。尚、これら各構成は周知の構成であり、詳細については省略する。
【0097】
図30は実施例15のスリップ率制御処理を表す制御ブロック図である。エンジン回転数制御部150には、目標エンジン回転数演算部140と、回転数フィードバック制御部151と、運転者等の要求トルクを演算する要求トルク演算部152と、指令トルクに制限を加えるトルク制限部153と、指令トルクの低応答分をスロットルバルブアクチュエータの指令に変換するスロットル制御指令部154と、指令トルクの高応答分を点火タイミング制御アクチュエータの指令に変換する点火角制御指令部155とを有する。
【0098】
目標エンジン回転数演算部140では、セカンダリプーリ実回転数に溝幅ベース(プーリに対するベルト巻き付径を意味する)で演算された実変速比を掛けた値と、所望スリップ率(2%のスリップ率を得たい場合には、1.02)を掛け合わせて目標エンジン回転数を演算する。ここで、セカンダリプーリ実回転数に溝幅ベースで演算された実変速比を掛けた値とは、スリップが全く生じていない場合のプライマリプーリ回転数(エンジン回転数)である。これに所望スリップ率(2%に相当する1.02)を掛けることで、プーリとベルトとの間に所望スリップ率を生じた状態を得る。
【0099】
回転数フィードバック制御部151では、演算された目標エンジン回転数と検出された実エンジン回転数との偏差に基づいてPI制御によりエンジントルクの補正量が演算される。すなわち、目標エンジン回転数に到達していない場合にはエンジントルクが大きくなる補正指令が出力され、目標エンジン回転数を超えている場合にはエンジントルクが小さくなる補正指令が出力される。また、要求トルク演算部152では、アクセルペダル開度やエンジン回転数に基づいて運転者の要求トルクが演算され、この要求トルクに上述のトルク補正指令が加算される。言い換えると、運転者の要求トルクを確保しつつ、目標エンジン回転数に追従するようにエンジントルクが制御されるものである。
【0100】
トルク制限部153では、実際の指令トルクが運転者の要求トルクから乖離しないように、要求トルクに応じた上限値及び下限値が設定されており、指令トルクが上限値及び下限値の間のときはそのまま指令トルクが出力され、指令トルクが上限値もしくは下限値を超えるときは、上限値もしくは下限値が指令トルクとして出力される。
【0101】
CVTコントローラ160には、伝達容量制御部161と、その他各種制御部が設けられている。その他各種制御部には、伝達容量制御部161により決定される伝達容量を出力するためのセカンダリ圧制御部や、ライン圧を制御するライン圧制御部、メカニカルフィードバック機構を備えているときにはステップモータ指令等が出力される変速比制御部等を備える。
【0102】
伝達容量制御部161では、トルク制限部153から出力された最終的なトルク指令と、要求トルクに基づいて算出されたエンジンの要求トルクとが入力され、トルク指令と要求トルクとの偏差に基づいてPI制御により伝達容量が演算される。プーリとベルトとの間のスリップ率を制御するに当たり、エンジン回転数を制御してスリップ率を制御することで安定したスリップ率を得ることができる。しかし、スリップ率が大きすぎるときにはエンジン回転数を下げるためにエンジントルクを低下する指令が出力される。すなわち、トルクの低下に伴って運転者等が要求する駆動力(要求トルク)よりも小さなトルクしか得られず、違和感となる。
【0103】
そこで、要求トルクと実トルクとの偏差に応じた伝達容量をベルト式無段変速機CVTに対して出力することとした。例えば、要求トルクよりもトルク指令が小さい場合には、伝達容量として高めの値が出力される。すると、プーリ押し付け力が増大し、ベルトとの間でスリップを得にくい状態となる。エンジン側では、スリップが得られていないためエンジン回転数を高める必要に迫られ、それに応じてエンジントルクを上昇させる。すなわち、伝達容量を高めると、回転数制御しているエンジンEのトルクが高まる方向に制御されるのである。これにより、要求トルクを達成しつつ安定したスリップ率を得ることができる。
【0104】
上述の実施例1から14に示すハイブリッド車両では、エンジンで回転数制御をする場合、エンジンには要求トルクに応じた値を入力せず、モータジェネレータ側で要求トルクを担保していた。しかし、通常のエンジン車両では、このようにトルクを担保する構成が無いため、エンジン回転数制御の中に、要求トルクを実現しつつ、それを回転数制御によって補正することとしている。この実施例15にあっても、実施例1の(1),(2)に示す効果、実施例4の(5)に示す効果、実施例6の(7)に示す効果が得られる。また、他の実施例のうち、モータジェネレータに関する制御以外については適宜組み合わせ可能であり、その場合、組み合わせた実施例の各効果が得られる。
【0105】
以上、実施例1から15について説明したが、上記構成に限られず本発明の範囲を逸脱しない範囲で他の構成を取り得る。例えば、FF型の車両について説明したが、FR型の車両であっても構わない。また、前後進切換機構を具体的には示さなかったが、ベルト式無段変速機の入力側に前後進切換機構等を備えている場合には、その前後進切換機構に備えられた摩擦締結要素を第2クラッチCL2としてもよいし、新たに第2クラッチCL2を備えてもよい。
【実施例16】
【0106】
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例16のベルト式無段変速機の制御装置が適用された前輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、ベルト式無段変速機CVTと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左前輪FL(駆動輪)と、右前輪FR(駆動輪)と、を有する。尚、RLは左後輪、RRは右後輪である。
【0107】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、点火タイミングやスロットルバルブのバルブ開度等が制御される。尚、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0108】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により作動し、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0109】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。尚、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介してベルト式無段変速機CVTの入力軸に連結されている。
【0110】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGとベルト式無段変速機CVTとの間に介装されたクラッチであり、後述するCVTコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8aにより作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0111】
ベルト式無段変速機CVTは、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGのトルクが入力されるプライマリプーリPPと、駆動輪FL,FRにトルクを出力するセカンダリプーリSPと、これら二つのプーリの間に掛け渡されたベルトVBを有し、油圧制御によって各プーリに供給されるプーリ油圧に応じてプーリ溝幅を変更し、無段階に変速比を変更できる周知のものである。後述するCVTコントローラ7において車速やアクセル開度等に応じて自動的に変速するための制御指令が出力され、この制御指令に基づいて、プーリ油圧ユニット8bにより作り出された制御油圧によりプライマリプーリPPの油圧及びセカンダリプーリSPの押し付け力が制御されて変速する。
【0112】
実施例1のベルト式無段変速機CVTにあっては、ステッピングモータを備え、プライマリプーリPP側にライン圧ソレノイドによって調圧されたライン圧が供給され、セカンダリプーリSP側にセカンダリ圧ソレノイドによって調圧されたセカンダリ圧が供給される構成とされている。実施例16にあっては、高圧が供給される側のプーリを容量側のプーリとして記載する。
【0113】
ベルト式無段変速機CVTの出力軸は、ディファレンシャルギアDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右前輪FL,FRに連結されている。尚、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いているが、乾式クラッチ等を用いてもよく特に限定しない。
【0114】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。尚、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0115】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪FR,FLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。また、更なるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0116】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、CVTコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8aと、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、CVTコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0117】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外の点火タイミング制御アクチュエータやスロットルバルブアクチュエータへ出力する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0118】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0119】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。尚、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0120】
CVTコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をCVT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8aに出力する。また、CVTコントローラ7は、車速とアクセルペダル開度に基づいて目標変速比を決定する変速比マップを有し、入力された各種センサ情報に基づいて目標変速比を決定する。また、統合コントローラ10からの伝達容量指令に応じたライン圧及びセカンダリプーリ油圧を決定する。そして、目標変速比を達成するプーリ溝幅となるよう、プーリ油圧ユニット8bにステップモータ駆動指令を出力する。尚、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0121】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦ブレーキによる制動力)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
【0122】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、プーリ溝幅から実変速比を検出する変速比センサ10aと、セカンダリプーリSPの回転数を検出するセカンダリ回転数センサ10bからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0123】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、CVTコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御及びCVTにおける伝達容量指令,変速比指令の送信を行う。尚、各種演算は、統合コントローラ10で演算してもよいし、他のコントローラ内で演算してもよい。
【0124】
以下に、図2及び図31に示すブロック図を用いて、実施例16の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、を有する。
【0125】
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
【0126】
モード選択部200は、アクセルペダル開度APOと車速VSPを用いてモードマップに基づいて目標モードを選択する。図5はモードマップを表す。モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。また、モード選択部200には、図外の温度センサより検出したバッテリ4の温度が入力される。これにより、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリ4の温度が低温側の閾値より低温であったり、高温側の閾値より高温であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
【0127】
目標充放電演算部300では、図4に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。また、目標充放電量マップには、EV走行モードを許可もしくは禁止するためのEVON線がSOC=50%に設定され、EVOFF線がSOC=35%に設定されている。
【0128】
SOC≧50%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV走行モード領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける。SOC<35%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける。
【0129】
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動力tFoOと、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ締結容量(第2クラッチの制御指令)とベルト式無段変速機CVTの目標伝達容量(プーリ油圧等の伝達容量指令)と第1クラッチCL1の伝達トルク容量指令(第1クラッチ制御指令)である第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。例えば、目標エンジントルクは、最適燃費線であるα線に沿って出力されるように演算され、目標モータジェネレータトルクは、演算された目標エンジントルクと目標駆動力fFo0との偏差に基づき演算される。また、動作点指令部400には、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部401が設けられている。尚、実施例1における目標伝達容量は、運転者等の要求トルク(目標駆動力fFo0)に応じて設定される。
【0130】
動作点指令部400は、ベルト式無段変速機CVTのプーリ(プライマリプーリもしくはセカンダリプーリ)とベルトとの間に生じている実スリップ率を演算するスリップ率演算部402と、予め設定された所定のスリップ率(2%程度)とスリップ率演算部402において演算された実スリップ率との偏差に応じてモータジェネレータトルクを制御する駆動源制御部404''と、要求トルクと実トルクとの偏差に応じて伝達容量を制御する伝達容量制御部405'とを有する。
【0131】
図31は駆動源制御部404''と伝達容量制御部405'の制御構成を表すブロック図である。駆動源制御部404''には、目標モータ回転数演算部4041'と、回転数フィードバック制御部4042'と、トルク−電流信号変換部4043'と、を有する。
伝達容量制御部405'では、回転数フィードバック制御部4042'から出力されたトルク指令(実モータジェネレータトルクに相当)と、要求トルク(要求トルクに基づいて算出されたモータジェネレータMGの目標モータジェネレータトルクと、目標エンジントルク)が入力され、要求トルクと実モータジェネレータトルクとの偏差に基づいてPI制御により目標伝達容量が演算される。
【0132】
また、目標伝達容量は、基本値(要求トルク:目標モータジェネレータトルクと目標エンジントルクとの和に応じて設定される値)と補正率との積により演算される。このときの補正率は、実際のトルク(実エンジントルクに相当する目標エンジントルクと実モータトルクに相当するトルク指示との和)と要求トルクとの偏差(e)等によって設定され、この偏差(e)が大きいほど、補正率は低く設定される。
【0133】
この演算された目標伝達容量は、プーリPP,SPとベルトVBとの間が所定スリップ状態となるようにプーリPP,SPのうち容量側となるプライマリプーリPPの油圧を制御する油圧制御手段であるCVTコントローラ7へ出力される。
【0134】
CVTコントローラ7は、入力されたそれぞれの値から、セカンダリ油圧指令値、プライマリ油圧となるライン圧指令値、ステップモータ指示指令値を演算し、これら演算された指令値で、ベルト式無段変速機CVTを制御する。
【0135】
目標モータジェネレータ回転数演算部4041'では、セカンダリプーリ実回転数に溝幅ベース(プーリに対するベルト巻き付き径を意味する)で演算された実変速比を掛けた値と、所望スリップ率(2%のスリップ率を得たい場合には、1.02)を掛け合わせて目標モータジェネレータ回転数を演算する。ここで、セカンダリプーリ実回転数に溝幅ベースで演算された実変速比を掛けた値とは、スリップが生じていない場合のプライマリプーリ回転数(エンジン回転数)である。これに所望スリップ率(2%に相当する1.02)を掛けることで、プーリとベルトとの間に所望スリップ率が生じた状態を得る。
【0136】
回転数フィードバック制御部4042では、演算された目標モータジェネレータ回転数と、検出された実モータジェネレータ回転数との偏差に基づいてPI制御によりモータジェネレータトルクが演算される。すなわち、目標モータジェネレータ回転数に到達していない場合には、モータジェネレータトルクが大きくなる指令が出力され、目標モータジェネレータ回転数を越えている場合には、モータジェネレータトルクが小さくなる指令が出力される。言い換えると、目標モータジェネレータ回転数に追従するようにモータジェネレータトルクが制御されるものであり、モータジェネレータトルク自体は直接の制御対象ではなく間接的に制御される。
【0137】
〔スリップ制御処理〕
次に、ベルト式無段変速機CVTにおいて所定のスリップ状態とするスリップ制御処理について説明する。一般に、ベルト式無段変速機にあっては、プーリとベルトとの間のスリップを禁止しており、スリップを生じないプーリ押し付け力を発生させる油圧(以下、クランプ油圧)を発生させ、そのクランプ油圧に加えて変速用の油圧(以下、変速油圧)を発生させている。ここで、プーリに必要な押し付け力は油圧と面積の積によって決定されるため、実施例1のようにセカンダリプーリに常時ライン圧を供給するタイプでは、プライマリプーリとセカンダリプーリの有効受圧面積を異ならせ(具体的にはプライマリプーリ側の有効受圧面積をセカンダリプーリの2倍前後に設定する)、セカンダリプーリ側でのスリップを防止しつつ、プライマリプーリ側には更に強い押し付け力を作用させて変速を可能としている。
【0138】
しかし、プーリとベルトとの間に作用する摩擦係数とスリップ率との関係を検証した結果、スリップ率が0に近い状態での摩擦係数よりもスリップ率が2%程度の摩擦係数のほうが大きいことが分かってきた。すなわち、プーリとベルトとの間のスリップを完全に抑制する方向で制御するよりも、若干スリップさせて制御した方がよりトルク伝達効率が高いことが見出された。
【0139】
上述したように、一般のベルト式無段変速機ではクランプ圧を確保する際、安全率を考慮してスリップしない油圧よりも高めの油圧をクランプ圧として設定する。しかし、ある程度のスリップをさせたほうがよい、という事実は、このクランプ圧自体も高めに設定してはいけないことを表す。言い換えると、所望のスリップ状態となる程度の油圧に制御するため、既存のベルト式無段変速機に必要と考えられていたライン圧よりもかなり低めのライン圧の設定で、摩擦係数を向上したベルト式無段変速機を実現できることになる。ベルト式無段変速機の効率悪化は、その多くがオイルポンプの負荷によってもたらされている事実からすると、オイルポンプの負荷の低減は非常に魅力的であり、同時にプーリとベルトとの摩擦係数まで増大できるのである。
【0140】
このような観点から、ベルト式無段変速機のクランプ圧(伝達容量)をスリップ率に応じて設定すれば所望のスリップ状態が得られ、オイルポンプの負荷低減、及び摩擦係数の向上の両方が得られると考えられる。そこで、実際に、実スリップ率と所望スリップ率との偏差に応じてクランプ圧を調整する制御構成(以下、油圧調整タイプ)を組んでみると、下記に示す課題が見出された。
【0141】
図6は油圧調整タイプを採用した場合のタイムチャートである。尚、図6中の伝達容量とは容量側の油圧と考えればよく、例えばライン圧と考えて差し支えない。また、前提として伝達容量はベルト式無段変速機に入力されるトルクの増大に応じて大きくなるように設定されている。
【0142】
初期条件として、運転者のアクセルペダル開度は一定であり、所望のベルトスリップ率が得られていた状態とする。運転者がアクセルペダルを踏み込むと、エンジントルク及びモータジェネレータトルクは増大し、同時に伝達容量も引き上げられる。すなわちセカンダリプーリ油圧が高められる。このとき、エンジントルクとモータジェネレータトルクの合算値である入力トルクの上昇より、伝達容量の上昇のほうが大きいと、実スリップ率が所望のスリップ率よりも低下することになる。よって、実スリップ率を上げるべく、伝達容量を上げすぎないような指令を出力することになる。これにより、伝達容量の上昇率よりも入力トルクの上昇率のほうが大きくなり、実スリップ率は低下から増加へと変わり、所望のスリップ率からオーバーシュート気味に増大する。よって、次は伝達容量を入力トルク(要求トルク)より上昇させてこのオーバーシュート気味の実スリップ率を下げることになる。
【0143】
このように、油圧制御によってセカンダリプーリ油圧を制御すると、制御指令に対して実際に容量が変更されるまでの応答遅れが大きく、所望のスリップ率を安定して発生させることが困難であった。所望のスリップ率を得ることは摩擦係数の増大が得られるため、魅力的であるが、一方、過剰なスリップ率が発生すると、やはりプーリとベルトの接触面が破損、ベルト破断といった原因となることに変わりはないからである。
【0144】
そこで、スリップ率の制御に当たり、油圧制御ではなく、ベルト式無段変速機に入力されるトルクを制御することで所望のスリップ状態を得ることが考えられる。この場合、運転者がアクセルペダルを踏み込み、入力トルクが増大するとスリップ率が増大する。そこで、まず、モータジェネレータトルクが低くなるように調整する。すると、モータジェネレータMGは制御指令に対する応答が高いため、スリップ率は素早く所望のスリップ率に収束する。これにより、スリップ率を所望のスリップ率に安定して収束させることができる。
【0145】
しかし、スリップ率が大きすぎるときにはエンジン回転数及びモータジェネレータ回転数を下げるためにモータジェネレータトルクを低下する指令が出力され、このトルクの低下に伴って運転者等が要求する駆動力(要求トルク)よりも小さな駆動力しか得られず、違和感となる。
【0146】
そこで、要求トルク(目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクとの和)と実トルク(実エンジントルクと実モータジェネレータトルクとの和)との偏差に応じた伝達容量をベルト式無段変速機CVTに対して出力することとした。例えば、要求トルクよりもトルク指令が小さい場合には、伝達容量として高めの値が出力される。すると、プーリ押し付け力が増大し、ベルトとの間でスリップを得にくい状態となる。モータジェネレータ側では、スリップが得られていないためモータジェネレータ回転数を高める必要に迫られ、それに応じてモータジェネレータトルクを上昇させる。すなわち、伝達容量を高めると、回転数制御しているモータジェネレータMGのトルクが高まる方向に制御されるのである。これにより、要求トルクを達成しつつ安定したスリップ率を得ることができる。
【0147】
図32は実施例16のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。アクセル開度一定の定常走行状態において、所定スリップ率が得られる目標モータジェネレータ回転数が演算され、その目標モータジェネレータ回転数を達成するようにモータジェネレータトルクが制御される。尚、エンジントルクはアクセルペダル開度等に基づいて演算された要求駆動力に応じて設定されているため、ほぼ一定である。
時刻t1において、運転者がアクセルペダルを踏み込み、アクセルペダル開度APOが大きくなると、それに伴って目標エンジントルク及び目標モータジェネレータトルクも大きくなるように変更される。また、これら目標エンジントルク及び目標モータジェネレータトルクの和(すなわち要求トルク)がベルト式無段変速機CVTに入力されるトルクであることから、これら要求トルクに基づいて、基本的なプーリ油圧(以下、基本油圧と記載する。)が設定される。
【0148】
時刻t2において、スリップ率が予め設定された目標スリップ率(例えば2%)以上に増大すると、モータジェネレータの回転数は、目標モータジェネレータ回転数よりも高くなっていることを意味する。このスリップ率の増大を抑制するために、モータジェネレータでは、回転数を低下させるモータジェネレータの回転数フィードバック制御が実行される。
すると、モータジェネレータトルクは低下し始め、スリップ率の増大は徐々に止まる。このとき、モータジェネレータトルクに着目すると、そもそもモータジェネレータMGに要求されている目標モータジェネレータトルクよりも、実モータジェネレータトルクは小さくなる。すなわち、回転数フィードバック制御に基づくトルク指令(実モータジェネレータトルク)と要求トルク(目標モータジェネレータトルク)とに偏差が生じる。
【0149】
時刻t3において、伝達容量制御部405'では、上記トルク偏差に応じて伝達容量が変更される。具体的には、トルク偏差に応じてプーリ油圧を増大するように指令プーリ油圧が変更される。実施例16の場合、補正率を変更して指令油圧をアップする。すると、モータジェネレータMGにおけるスリップ率適正化作用、プーリ油圧アップによるトルク適正化作用が相互に補完し合い、実スリップ率が目標スリップ率に素早く収束し始める。よって、駆動輪に出力されるトルクも素早く要求トルクに応じた値が出力され、運転者に違和感を与えることが無い。
【0150】
仮に、図32中の一点鎖線で示すように、モータジェネレータ回転数フィードバック制御のみを採用し、伝達容量制御部405'におけるトルクフィードバック制御を備えていない場合、プーリ油圧を基本油圧のみで制御することになる。そうすると、モータジェネレータトルクをスリップ率が収束するまで継続的に下げる必要があり、要求トルクを出力できないことから、運転者に違和感を与えるおそれもある(図32中の一点鎖線で示す関係を参照)。
これに対し、実施例16では、スリップ率の抑制については応答性の高いモータジェネレータ回転数フィードバック制御により対応し、それによる駆動トルクの低下はベルト式無段変速機CVTの伝達容量を上昇させるトルクフィードバック制御により対応することで、スリップ率を素早く収束させると共に、伝達容量の上昇に伴って自動的かつ安定的に要求トルクを達成することができるのである。
【0151】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(14) エンジンE及び/又はモータジェネレータMG(動力源)のトルクが入力されるプライマリプーリPPと、駆動輪にトルクを出力するセカンダリプーリSPと、これら二つのプーリPP,SPの間に掛け渡されたベルトVBを有するベルト式無段変速機CVTと、二つのプーリPP,SPとベルトVBとの間がスリップ状態となるように二つのプーリPP,SPのうち容量側となるプーリの油圧を制御するCVTコントローラ7(油圧制御手段)と、スリップ状態が所定スリップ状態となるようにエンジンE及び/又はモータジェネレータMG(動力源)のトルクを調整(制御)する回転数フィードバック制御部4042(トルク制御手段)と、を備えた。
すなわち、プーリとベルトとの間で所定スリップ量を発生させるため、必要な油圧を低くすることができる。また、入力されるトルクを調整することで、油圧を高めることなく過剰なベルト滑りを抑制することができる。
【0152】
(15)モータジェネレータMG(モータ)により入力トルクを調整することで、油圧制御よりも応答性を高めることができ、安定したスリップ率を得ることができる。
【0153】
(16)伝達容量(二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧)を、要求トルクと指令トルク(実トルク)との偏差に応じて設定することとした。これにより、運転者等が要求する要求トルクを実現しつつ、安定したスリップ状態を得ることができる。
【0154】
(17)モータジェネレータMG(動力源)のトルクが入力されるプライマリプーリPPと、駆動輪にトルクを出力するセカンダリプーリSPと、これら二つのプーリの間に掛け渡されたベルトVBを有するベルト式無段変速機CVTと、プーリPP,SPとベルトVBとの間が所定スリップ状態となるモータジェネレータMG(動力源)の目標回転数を演算する目標モータ回転数演算部4041'(目標回転数演算手段)と、モータジェネレータMGが目標回転数となるように制御する回転数フィードバック制御部4042'(回転数制御手段)と、二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧を、要求トルクとモータジェネレータMGの実トルクとの偏差に応じて設定しトルクフィードバック制御を行う伝達容量制御部405'(容量側プーリ油圧設定手段)と、二つのプーリの押し付け力を前記容量側プーリ油圧に基づいて制御し、所望の変速比を得るCVTコントローラ7(変速制御手段)と、を備えた。
よって、上記(14),(15),(16)に記載の効果に加えて、伝達容量(二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧)を、要求トルクと指令トルク(実トルク)との偏差に応じて設定することで、運転者等が要求する要求トルクを実現しつつ、安定したスリップ状態を得ることができる。
【符号の説明】
【0155】
E エンジン
CL1 第1クラッチ
MG モータジェネレータ
CL2 第2クラッチ
CVT ベルト式無段変速機
10 統合コントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機の制御として、特許文献1に記載の技術が知られている。この公報には、ベルトとプーリとの間の滑りを抑制するように油圧を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−147264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のベルト式無段変速機にあっては、ベルト滑りを抑制するために高い油圧を供給する必要があり、ポンプフリクションが高く、燃費の向上を図ることが困難であった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、燃費の向上を図ることが可能なベルト式無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、動力源からベルト式無段変速機に入力されるトルクを制御して、所定のベルト滑りを発生させることとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明にあっては、プーリとベルトとの間で所定スリップ状態を発生させるため、必要な油圧を低くすることができる。また、入力されるトルクを調整することで、油圧を高めることなく過剰なベルト滑りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の統合コントローラにおける演算処理プログラムを示す制御ブロック図である。
【図3】図2の目標駆動力演算部にて目標駆動力演算に用いられる目標駆動力マップの一例を示す図である。
【図4】図2の目標充放電演算部にて目標充放電電力の演算に用いられる目標充放電量マップの一例を示す図である。
【図5】図2のモード選択部にて目標モードの選択に用いられるモードマップを示す図である。
【図6】油圧調整タイプを採用した場合のタイムチャートである。
【図7】実施例1のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図8】実施例2のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図9】実施例3のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図10】実施例4のエンジン回転数制御部の制御構成を表すブロック図である。
【図11】実施例4のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図12】実施例5のモータジェネレータ回転数制御部の制御構成を表すブロック図である。
【図13】実施例5のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図14】実施例6のエンジン回転数制御部及び伝達容量制御部の制御構成を表すブロック図である。
【図15】実施例6のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図16】実施例7のモータ回転数制御部及び伝達容量制御部の制御構成を表すブロック図である。
【図17】実施例7のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図18】実施例8のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図19】実施例9のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図20】実施例10のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図21】実施例11のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図22】実施例12のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図23】実施例13の点火タイミング制御アクチュエータとスロットルバルブアクチュエータに制御指令を出力する構成を表す制御ブロック図である。
【図24】実施例13のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図25】実施例14の加速中、且つ、変速比が1より高変速比側のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図26】実施例14の減速中、且つ、変速比が1より高変速比側のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図27】実施例14の加速中、且つ、変速比が1より低変速比側のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図28】実施例14の減速中、且つ、変速比が1より低変速比側のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【図29】実施例15のベルト式無段変速機を搭載したエンジン車両を表す概略図である。
【図30】実施例15のスリップ率制御処理を表す制御ブロック図である。
【図31】実施例16のモータジェネレータ回転数制御部の制御構成を表すブロック図である。
【図32】実施例16のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例1のベルト式無段変速機の制御装置が適用された前輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、ベルト式無段変速機CVTと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左前輪FL(駆動輪)と、右前輪FR(駆動輪)と、を有する。尚、RLは左後輪、RRは右後輪である。
【0010】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、点火タイミングやスロットルバルブのバルブ開度等が制御される。尚、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0011】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により作動し、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0012】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。尚、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介してベルト式無段変速機CVTの入力軸に連結されている。
【0013】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGとベルト式無段変速機CVTとの間に介装されたクラッチであり、後述するCVTコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8aにより作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0014】
ベルト式無段変速機CVTは、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGのトルクが入力されるプライマリプーリPPと、駆動輪FL,FRにトルクを出力するセカンダリプーリSPと、これら二つのプーリの間に掛け渡されたベルトVBを有し、油圧制御によって各プーリに供給されるプーリ油圧に応じてプーリ溝幅を変更し、無段階に変速比を変更できる周知のものである。後述するCVTコントローラ7において車速やアクセル開度等に応じて自動的に変速するための制御指令が出力され、この制御指令に基づいて、プーリ油圧ユニット8bにより作り出された制御油圧によりプライマリプーリPPの油圧及びセカンダリプーリSPの押し付け力が制御されて変速する。
【0015】
実施例1のベルト式無段変速機CVTにあっては、片調圧方式を採用しており、セカンダリプーリSP側に常時ライン圧が供給される構成とされている。また、図外のステッピングモータが備えられ、ステッピングモータの位置に応じてプライマリプーリPP側の油圧が制御され、所望のプーリ溝幅(変速比)が達成される。尚、実施例1では片調圧方式であってステッピングモータを用いたメカニカルフィードバック機構を採用したが、調圧弁によってプライマリプーリPP側の油圧を制御するようにしてもよいし、両調圧方式でステッピングモータを用いた構成や、両調圧方式で調圧弁を複数備えた構成としてもよく特に限定しない。ただし、両調圧方式を採用した場合、変速比が1を境にしてロー側ではセカンダリプーリSPにライン圧が供給され、ハイ側ではプライマリプーリPPにライン圧が供給される点で異なる。本明細書では、ライン圧が供給される側のプーリを容量側のプーリとして記載する。実施例1にあっては、容量側のプーリは常にセカンダリプーリSPとなるが、他の制御方式を採用した場合には、ある状態ではプライマリプーリが容量側となり、ある状態ではセカンダリプーリが容量側となる。
【0016】
ベルト式無段変速機CVTの出力軸は、ディファレンシャルギアDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右前輪FL,FRに連結されている。尚、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いているが、乾式クラッチ等を用いてもよく特に限定しない。
【0017】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。尚、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0018】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪FR,FLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。また、更なるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0019】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、CVTコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8aと、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、CVTコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0020】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外の点火タイミング制御アクチュエータやスロットルバルブアクチュエータへ出力する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0021】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0022】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。尚、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0023】
CVTコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をCVT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8aに出力する。また、CVTコントローラ7は、車速とアクセルペダル開度に基づいて目標変速比を決定する変速比マップを有し、入力された各種センサ情報に基づいて目標変速比を決定する。また、統合コントローラ10からの伝達容量指令に応じたライン圧及びセカンダリプーリ油圧を決定する。そして、目標変速比を達成するプーリ溝幅となるよう、プーリ油圧ユニット8bにステップモータ駆動指令を出力する。尚、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0024】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦ブレーキによる制動力)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
【0025】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、プーリ溝幅から実変速比を検出する変速比センサ10aと、セカンダリプーリSPの回転数を検出するセカンダリ回転数センサ10bからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0026】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、CVTコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御及び伝達容量制御と、を行う。
【0027】
以下に、図2に示すブロック図を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、を有する。
【0028】
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
【0029】
モード選択部200は、モードマップに基づいて目標モードを選択する。図5はモードマップを表す。モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
【0030】
目標充放電演算部300では、図4に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。また、目標充放電量マップには、EV走行モードを許可もしくは禁止するためのEVON線がSOC=50%に設定され、EVOFF線がSOC=35%に設定されている。
【0031】
SOC≧50%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV走行モード領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける。SOC<35%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける。
【0032】
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動力tFoOと、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ締結容量とベルト式無段変速機CVTの目標伝達容量(ライン圧,セカンダリプーリ油圧等)と第1クラッチCL1の伝達トルク容量指令である第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。また、動作点指令部400には、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部401が設けられている。尚、実施例1における目標伝達容量は、運転者等の要求トルクに応じて設定される。
【0033】
動作点指令部400は、ベルト式無段変速機CVTのプーリ(プライマリプーリもしくはセカンダリプーリ)とベルトとの間に生じている実スリップ率を演算するスリップ率演算部402と、予め設定された所定のスリップ率(2%程度)とスリップ率演算部402において演算された実スリップ率との偏差に応じてエンジントルクもしくはモータジェネレータトルクを調整するトルク調整部403(トルク制御部に相当)とを有する。
【0034】
スリップ率演算部402では、プーリ溝幅から検出される溝幅ベースの実変速比(ベルト巻き付径)とプライマリプーリ回転数及びセカンダリプーリ回転数との回転数比から得られる回転数ベースの実変速比とからプーリとベルトとの間に生じるスリップ率を演算する。尚、スリップ率はスリップ量で設定してもよい。
【0035】
トルク調整部403では、演算されたスリップ率が所定のスリップ率よりも大きい場合(スリップが多すぎる場合)には入力トルクが小さくなるように調整し、小さい場合(スリップが少なすぎる場合)には入力トルクが大きくなるように調整する。また、実施例1では、制御指令に対する応答性の観点から、要求されたトルク調整量のうち、高周波成分である高応答分のトルク調整についてはモータジェネレータMGで行い、低周波成分である低応答分のトルク調整についてはエンジンEで行うこととしている。高応答とは、例えばトルク調整量がステップ的に入力された場合の初期の立ち上がり部分に相当し、低応答とは、例えばステップ的な入力後、定常的に要求される部分に相当する。尚、実スリップ率と所定のスリップ率との偏差に応じてエンジンEとモータジェネレータMGとを選択してもよい。また、偏差の変化勾配等に基づいてエンジンEとモータジェネレータMGとを選択してもよい。
【0036】
〔スリップ制御処理〕
次に、ベルト式無段変速機CVTにおいて所定のスリップ状態とするスリップ制御処理について説明する。一般に、ベルト式無段変速機にあっては、プーリとベルトとの間のスリップを禁止しており、スリップを生じないプーリ押し付け力を発生させる油圧(以下、クランプ油圧)を発生させ、そのクランプ油圧に加えて変速用の油圧(以下、変速油圧)を発生させている。ここで、プーリに必要な押し付け力は油圧と面積の積によって決定されるため、実施例1のようにセカンダリプーリに常時ライン圧を供給するタイプでは、プライマリプーリとセカンダリプーリの有効受圧面積を異ならせ(具体的にはプライマリプーリ側の有効受圧面積をセカンダリプーリの2倍前後に設定する)、セカンダリプーリ側でのスリップを防止しつつ、プライマリプーリ側には更に強い押し付け力を作用させて変速を可能としている。
【0037】
しかし、プーリとベルトとの間に作用する摩擦係数とスリップ率との関係を検証した結果、スリップ率が0に近い状態での摩擦係数よりもスリップ率が2%程度の摩擦係数のほうが大きいことが分かってきた。すなわち、プーリとベルトとの間のスリップを完全に抑制する方向で制御するよりも、若干スリップさせて制御した方がよりトルク伝達効率が高いことが見出された。
【0038】
上述したように、一般のベルト式無段変速機ではクランプ圧を確保する際、安全率を考慮してスリップしない油圧よりも高めの油圧をクランプ圧として設定する。しかし、ある程度のスリップをさせたほうがよい、という事実は、このクランプ圧自体も高めに設定してはいけないことを表す。言い換えると、所望のスリップ状態となる程度の油圧に制御するため、既存のベルト式無段変速機に必要と考えられていたライン圧よりもかなり低めのライン圧の設定で、摩擦係数を向上したベルト式無段変速機を実現できることになる。ベルト式無段変速機の効率悪化は、その多くがオイルポンプの負荷によってもたらされている事実からすると、オイルポンプの負荷の低減は非常に魅力的であり、同時にプーリとベルトとの摩擦係数まで増大できるのである。
【0039】
このような観点から、ベルト式無段変速機のクランプ圧(伝達容量)をスリップ率に応じて設定すれば所望のスリップ状態が得られ、オイルポンプの負荷低減、及び摩擦係数の向上の両方が得られると考えられる。そこで、実際に、実スリップ率と所望スリップ率との偏差に応じてクランプ圧を調整する制御構成(以下、油圧調整タイプ)を組んでみると、下記に示す課題が見出された。
【0040】
図6は油圧調整タイプを採用した場合のタイムチャートである。尚、図6中の伝達容量とは容量側の油圧と考えればよく、例えばライン圧もしくはセカンダリ油圧と考えて差し支えない。また、前提として伝達容量はベルト式無段変速機に入力されるトルクの増大に応じて大きくなるように設定されている。
【0041】
初期条件として、運転者のアクセルペダル開度は一定であり、所望のベルトスリップ率が得られていた状態とする。運転者がアクセルペダルを踏み込むと、エンジントルク及びモータジェネレータトルクは増大し、同時に伝達容量も引き上げられる。すなわちセカンダリプーリ油圧が高められる。すると、実スリップ率が所望のスリップ率よりも低下することになる。よって、実スリップ率を上げるべく、伝達容量を上げすぎないような指令を出力することになる。次に、実スリップ率は低下から増加へと変わり、所望のスリップ率からオーバーシュート気味に増大する。よって、次は伝達容量を上昇させてこのオーバーシュート気味の実スリップ率を下げることになる。
【0042】
このように、油圧制御によってセカンダリプーリ油圧を制御すると、制御指令に対して実際に容量が変更されるまでの応答遅れが大きく、所望のスリップ率を安定して発生させることが困難であった。所望のスリップ率を得ることは摩擦係数の増大が得られるため、魅力的であるが、一方、過剰なスリップ率が発生すると、やはりプーリとベルトの接触面が破損、ベルト破断といった原因となることに変わりはないからである。
【0043】
そこで、実施例1にあってはスリップ率の制御に当たり、油圧制御ではなく、ベルト式無段変速機に入力されるトルクを制御することで所望のスリップ状態を得ることとした。図7は実施例1のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。運転者がアクセルペダルを踏み込み、入力トルクが増大するとスリップ率が増大する。そこで、高応答のトルク調整が要求されたときは、モータジェネレータトルクが低くなるように調整する。すると、モータジェネレータMGは制御指令に対する応答が高いため、スリップ率は素早く所望のスリップ率に収束する。同様に、低応答のトルク調整が要求されたときは、エンジントルクが低くなるように調整する。これにより、スリップ率を所望のスリップ率に安定して収束させることができる。
【0044】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)ベルト式無段変速機CVTと、二つのプーリPP,SPの押し付け力を油圧により制御して所望の変速比を得るCVTコントローラ7(変速制御手段)と、プーリとベルトとの間が所定スリップ状態となるようにエンジンE及び/又はモータジェネレータMG(動力源)のトルクを調整(制御)するトルク調整部403(トルク制御手段)とを備えた。すなわち、プーリとベルトとの間で所定スリップ量を発生させるため、必要な油圧を低くすることができる。また、入力されるトルクを調整することで、油圧を高めることなく過剰なベルト滑りを抑制することができる。
【0045】
(2)エンジンEにより入力トルクを調整することで、油圧制御よりも応答性を高めることができ、安定したスリップ率を得ることができる。
【0046】
(3)モータジェネレータMG(モータ)により入力トルクを調整することで、油圧制御よりも応答性を高めることができ、安定したスリップ率を得ることができる。
【0047】
(4)高応答なトルク調整が要求されたときはモータジェネレータMGにより調整し、低応答なトルク調整が要求されたときはエンジンEにより調整することで、更にきめ細かくスリップ率制御を達成することができる。
【実施例2】
【0048】
次に、実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため異なる点についてのみ説明する。図8は実施例2のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。実施例1では、エンジンEとモータジェネレータMGとを併用した例を示したが、実施例2ではエンジンEのみでトルクを調整した点が異なる。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果が得られる。加えて、エンジンEのみで入力トルクを調整することで制御ロジックの簡略化を図ることができる。
【実施例3】
【0049】
次に、実施例3について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため異なる点についてのみ説明する。図9は実施例3のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。実施例1では、エンジンEとモータジェネレータMGとを併用した例を示したが、実施例3ではモータジェネレータMGのみでトルクを調整した点が異なる。これにより、実施例1の(1),(3)に示す効果が得られる。加えて、モータジェネレータMGのみで入力トルクを調整することで制御ロジックの簡略化を図ることができる。尚、エンジンEに比べるとモータジェネレータMGの応答は高いため、スリップ率を素早く収束できる。
【実施例4】
【0050】
次に、実施例4について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例1では、スリップ率演算部402及びトルク調整部403によりエンジントルク及び/又はモータジェネレータトルクを調整することでスリップ率を制御した。これに対し、実施例4では、スリップ率演算部402及びトルク調整部403に代えて、エンジン回転数を目標値として制御することでスリップ率を制御するエンジン回転数制御部404を備えている点が異なる。
【0051】
図10はエンジン回転数制御部404の制御構成を表すブロック図である。エンジン回転数制御部404には、目標エンジン回転数演算部4041と、回転数フィードバック制御部4042と、トルク−アクチュエータ信号変換部4043とを有する。目標エンジン回転数演算部4041では、セカンダリプーリ実回転数に溝幅ベース(プーリに対するベルト巻き付径を意味する)で演算された実変速比を掛けた値と、所望スリップ率(2%のスリップ率を得たい場合には、1.02)を掛け合わせて目標エンジン回転数を演算する。ここで、セカンダリプーリ実回転数に溝幅ベースで演算された実変速比を掛けた値とは、スリップが全く生じていない場合のプライマリプーリ回転数(エンジン回転数)である。これに所望スリップ率(2%に相当する1.02)を掛けることで、プーリとベルトとの間に所望スリップ率を生じた状態を得る。
【0052】
回転数フィードバック制御部4042では、演算された目標エンジン回転数と検出された実エンジン回転数との偏差に基づいてPI制御によりエンジントルクが演算される。すなわち、目標エンジン回転数に到達していない場合にはエンジントルクが大きくなる指令が出力され、目標エンジン回転数を超えている場合にはエンジントルクが小さくなる指令が出力される。言い換えると、目標エンジン回転数に追従するようにエンジントルクが制御されるものであり、エンジントルク自体は直接の制御対象ではなく間接的に制御される。
【0053】
トルク−アクチュエータ信号変換部4043では、指令されたエンジントルクを実現するようにアクチュエータ信号に変換されてエンジンコントローラ1に出力される。点火タイミングの変更によりトルクを制御する場合には点火タイミング制御アクチュエータ指令に変換され、スロットル開度の変更によりトルクを制御する場合にはスロットルアクチュエータ指令に変換される。
【0054】
図11は実施例4のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。アクセル開度一定の定常走行状態において、所定スリップ率が得られる目標エンジン回転数が演算され、その目標エンジン回転数を達成するようにエンジントルクが制御される。尚、モータジェネレータトルクはアクセルペダル開度等に基づいて演算された要求駆動力に応じて設定されている。アクセルペダルが踏み込まれると、モータジェネレータトルクが増大し、加速によってセカンダリプーリ回転数が上昇すると、目標エンジン回転数も上昇し、それに応じてエンジントルクも適宜制御される。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果に加えて下記の効果を得ることができる。
【0055】
(5)エンジンE(動力源)が所定スリップ率(スリップ状態)に応じた回転数となるようにエンジントルクを制御することとした。すなわち、スリップ率とは回転数に基づく値であることから、回転数ベースで制御量を決定することで、より制御精度を高めることができる。
【実施例5】
【0056】
次に、実施例5について説明する。基本的な構成は実施例4と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例5では、エンジン回転数を制御対象とした。これに対し実施例6ではモータジェネレータ回転数を制御対象としている点が異なる。実施例5では第1クラッチCL1が常時締結しており、エンジンEとモータジェネレータMGとが併用されている走行状態(HEV走行モード)を前提とした。これに対し、実施例6では第1クラッチCL1を解放し、モータジェネレータMGのみを用いた走行状態(EV走行モード)であっても実現可能である。
【0057】
図12はモータジェネレータ回転数制御部404'の制御構成を表すブロック図である。モータジェネレータ回転数制御部404'には、目標モータジェネレータ回転数演算部4041'と、回転数フィードバック制御部4042'と、トルク−アクチュエータ信号変換部4043'とを有する。制御内容はエンジントルクを制御する場合と同様であるため説明を省略する。尚、トルク−アクチュエータ信号変換部4043'では、モータジェネレータMGに流れる電流量や通電タイミングを制御することによりトルクが制御される。
【0058】
図13は実施例5のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。アクセル開度一定の定常走行状態において、所定スリップ率が得られる目標モータジェネレータ回転数が演算され、その目標モータジェネレータ回転数を達成するようにモータジェネレータトルクが制御される。尚、エンジントルクはアクセルペダル開度等に基づいて演算された要求駆動力に応じて設定されている。アクセルペダルが踏み込まれると、エンジントルクが増大し、加速によってセカンダリプーリ回転数が上昇すると、目標モータジェネレータ回転数も上昇し、それに応じてモータジェネレータトルクも適宜制御される。これにより、実施例1の(1),(3)に示す効果に加えて下記の効果を得ることができる。
【0059】
(6)モータジェネレータMG(動力源)が所定スリップ状態に応じた回転数となるようにモータジェネレータトルクを制御することとした。すなわち、スリップ率とは回転数に基づく値であることから、回転数ベースで制御量を決定することで、より制御精度を高めることができる。また、モータジェネレータMGにより制御することで、HEV走行モードに限らず、EV走行モードであっても安定したスリップ率制御を達成することができる。
【実施例6】
【0060】
次に、実施例6について説明する。基本的な構成は実施例4と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例4では、エンジン回転数制御部404によりエンジン回転数を目標値として制御することでスリップ率を制御した。これに対し、実施例6では、エンジン回転数制御部404に加えて、要求駆動力に基づいて演算されるエンジンの要求トルクと実エンジントルクに相当する指令トルクとの偏差に基づいてベルト式無段変速機CVTの伝達容量を設定する伝達容量制御部405を追加した点が異なる。
【0061】
図14はエンジン回転数制御部404及び伝達容量制御部405の制御構成を表すブロック図である。エンジン回転数制御部404は実施例4と同じであるため説明を省略する。伝達容量制御部405では、回転数フィードバック制御部4042から出力されたエンジントルクであるトルク指令と、要求駆動力に基づいて算出されたエンジンの要求トルクとが入力され、トルク指令と要求トルクとの偏差に基づいてPI制御により伝達容量が演算される。
【0062】
プーリとベルトとの間のスリップ率を制御するに当たり、エンジン回転数を制御してスリップ率を制御することで安定したスリップ率を得ることができる。しかし、スリップ率が大きすぎるときにはエンジン回転数を下げるためにエンジントルクを低下する指令が出力される。すなわち、トルクの低下に伴って運転者等が要求する駆動力(要求トルク)よりも小さなトルクしか得られず、違和感となる。
【0063】
そこで、要求トルクと実トルクとの偏差に応じた伝達容量をベルト式無段変速機CVTに対して出力することとした。例えば、要求トルクよりもトルク指令が小さい場合には、伝達容量として高めの値が出力される。すると、プーリ押し付け力が増大し、ベルトとの間でスリップを得にくい状態となる。エンジン側では、スリップが得られていないためエンジン回転数を高める必要に迫られ、それに応じてエンジントルクを上昇させる。すなわち、伝達容量を高めると、回転数制御しているエンジンEのトルクが高まる方向に制御されるのである。これにより、要求トルクを達成しつつ安定したスリップ率を得ることができる。
【0064】
図15は実施例6のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。アクセル開度一定の定常走行状態において、所定スリップ率が得られる目標エンジン回転数が演算され、その目標エンジン回転数を達成するようにエンジントルクが制御される。尚、モータジェネレータトルクはアクセルペダル開度等に基づいて演算された要求駆動力に応じて設定されているためほぼ一定である。エンジン回転数制御に基づくトルク指令と要求トルクとに偏差が生じると、偏差に応じて伝達容量が変更される。具体的には、実施例6の制御を行わない場合には伝達容量は実際のエンジントルクとモータジェネレータトルクの合計に応じて変更される。
【0065】
これに対し、実施例6の伝達容量制御を行うことで要求トルクよりも指令トルクが小さいときは伝達容量が制御無しの場合より高く設定される。これにより指令トルクは要求トルクに素早く収束する。一方、要求トルクよりも指令トルクが大きいときは伝達容量が制御無しの場合より低く設定される。これにより指令トルクは要求トルクに素早く収束する。よって、要求トルクを満足しながらもベルトのスリップ率はより安定した状態に制御される。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果、実施例4の(5)に示す効果に加えて下記の効果を得ることができる。
【0066】
(7)伝達容量(二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧)を、要求トルクと指令トルク(実トルク)との偏差に応じて設定することとした。これにより、運転者等が要求する要求トルクを実現しつつ、安定したスリップ状態を得ることができる。
【実施例7】
【0067】
次に、実施例7について説明する。基本的な構成は実施例5と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例5では、モータジェネレータ回転数制御部404'によりモータジェネレータ回転数を目標値として制御することでスリップ率を制御した。これに対し、実施例7では、モータジェネレータ回転数制御部404'に加えて、要求駆動力に基づいて演算されるモータジェネレータMGの要求トルクと実モータジェネレータトルクに相当する指令トルクとの偏差に基づいてベルト式無段変速機CVTの伝達容量を設定する伝達容量制御部405'を追加した点が異なる。
【0068】
図16はモータ回転数制御部404'及び伝達容量制御部405'の制御構成を表すブロック図である。モータジェネレータ回転数制御部404'は実施例5と同じであるため説明を省略する。伝達容量制御部405'では、回転数フィードバック制御部4042'から出力されたモータジェネレータトルクであるトルク指令と、要求駆動力に基づいて算出されたモータジェネレータMGの要求トルクとが入力され、トルク指令と要求トルクとの偏差に基づいてPI制御により伝達容量が演算される。尚、この伝達容量に関する作用については実施例6の説明と同じであるため説明を省略する。
【0069】
図17は実施例7のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。アクセル開度一定の定常走行状態において、所定スリップ率が得られる目標モータジェネレータ回転数が演算され、その目標モータジェネレータ回転数を達成するようにモータジェネレータトルクが制御される。尚、エンジントルクはアクセルペダル開度等に基づいて演算された要求駆動力に応じて設定されているためほぼ一定である。モータジェネレータ回転数制御に基づくトルク指令と要求トルクとに偏差が生じると、偏差に応じて伝達容量が変更される。具体的には、実施例7の制御を行わない場合には伝達容量は実際のエンジントルクとモータジェネレータトルクの合計に応じて変更される。
【0070】
これに対し、実施例6の伝達容量制御を行うことで要求トルクよりも指令トルクが小さいときは伝達容量が制御無しの場合より高く設定される。これにより指令トルクは要求トルクに素早く収束する。一方、要求トルクよりも指令トルクが大きいときは伝達容量が制御無しの場合より低く設定される。これにより指令トルクは要求トルクに素早く収束する。よって、要求トルクを満足しながらもベルトのスリップ率はより安定した状態に制御される。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果、実施例5の(6)に示す効果に加えて、実施例6の(7)に示す効果が得られる。
【実施例8】
【0071】
次に、実施例8について説明する。基本的な構成は実施例6と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例6では、要求トルクと指令トルクとの偏差に応じて伝達容量を決定することとした。これに対し、実施例8では上記制御構成に加えて、エンジン回転数が上昇中のときは、回転数の上昇に使用されたエネルギ分(イナーシャ分)の油圧を伝達容量に反映させないこととした。
【0072】
図18は実施例8のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。エンジン回転数が上昇していくと、その回転数上昇に使用されるトルクは、ベルト式無段変速機CVT側に出力されず、回転数の上昇に使用される。よって、回転数上昇分に使用された指令トルクと要求トルクとの偏差分については伝達容量に反映させないことで、安定したスリップ率が得られる。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果、実施例4の(5)に示す効果、実施例6の(7)に示す効果に加えて、下記に示す効果が得られる。
【0073】
(8)指令トルク(実トルク)からエンジンEのイナーシャ分を除外したトルクを用いて制御することとした。よって、実際にベルト式無段変速機CVT側に入力されるトルクに基づいた伝達容量を設定することができ、安定したスリップ率を得ることができる。尚、イナーシャ分を除外するのは、モータジェネレータMGを回転数制御する場合であっても同じように制御することで同様の作用効果が得られる。その場合には、更に実施例5の(6)に示す効果も得られる。
【実施例9】
【0074】
次に、実施例9について説明する。基本的な構成は実施例6と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例6では、要求トルクと指令トルクとの偏差に応じて伝達容量を決定することとした。これに対し、実施例9では上記制御構成に加えて、エンジン回転数が下降中のときは、回転数の下降に使用されたエネルギ分(イナーシャ分)の油圧を伝達容量に反映させないこととした。
【0075】
図19は実施例9のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。エンジン回転数が下降していくと、その回転数下降に使用されるトルクは、ベルト式無段変速機CVT側に出力されず、回転数の下降に使用される。よって、回転数下降分に使用された指令トルクと要求トルクとの偏差分については伝達容量に反映させないことで、安定したスリップ率が得られる。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果、実施例4の(5)に示す効果、実施例6の(7)に示す効果及び実施例8の(8)に示す効果が得られる。尚、イナーシャ分を除外するのは、モータジェネレータMGを回転数制御する場合であっても同じように制御することで同様の作用効果が得られる。その場合には、更に実施例5の(6)に示す効果も得られる。
【実施例10】
【0076】
次に、実施例10について説明する。基本的な構成は実施例4と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例4では、目標エンジン回転数を達成するようにエンジントルクが制御される。これに対し、実施例10では上記制御構成に加えて、エンジントルクの上限値を設定した点が異なる。エンジンEを回転数制御していると、その回転数を達成するのに必要なトルクは、運転者等が要求する要求トルクとは無関係に設定される。よって、目標エンジン回転数と実エンジン回転数との偏差が大きければ、大きなトルク指令を出力することになり、上限を設定していない場合には、運転者等の要求トルクよりも大きなトルクが出力され、違和感となるからである。このエンジントルク上限値は、運転者等の要求トルクに応じて設定される。具体的には、モータジェネレータMGのトルクとエンジントルクとの合計が要求トルクに所定の許容誤差を加算した値を超えないように設定される。
【0077】
図20は実施例10のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。エンジントルクは目標エンジン回転数に一致するように制御される。このとき、エンジントルク上限値以上のトルクが出力されない。よって、エンジントルクを直接の制御対象としていない場合であっても、運転者等の要求トルクの実現性を向上することができる。仮に、加速中において油圧が実現可能な油圧の下限に到達し(これ以上油圧を下げられない状態)、且つ、ベルトとプーリとの間の摩擦係数が最適となるスリップ率に到達しない場合、エンジン側ではスリップ率を確保すべく、過剰にトルクを上昇させようとする。これに対し、実施例10のようにエンジントルク上限値を設定しておくことで、所望のスリップ率が得られない場合であっても、エンジントルクを要求トルクから所定の許容誤差の範囲に抑制できる。これにより、実施例1の(1),(2)に示す効果、実施例4の(5)に示す効果に加えて、下記に示す効果が得られる。
【0078】
(9)要求トルクに応じたエンジンE(動力源)のトルク上限値を有する。よって、エンジントルクを制御したとしても、要求トルクからの乖離を抑制でき、要求トルクの実現性を向上できる。尚、実施例6に実施例10を組み合わせることもでき、その場合には、実施例6の(7)に示す効果も得られることはいうまでもない。
【実施例11】
【0079】
次に、実施例11について説明する。基本的な構成は実施例5と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例5では、目標モータジェネレータ回転数を達成するようにモータジェネレータトルクが制御される。これに対し、実施例11では上記制御構成に加えて、モータジェネレータトルクの上限値を設定した点が異なる。モータジェネレータMGを回転数制御していると、その回転数を達成するのに必要なトルクは、運転者等が要求する要求トルクとは無関係に設定される。よって、目標モータジェネレータ回転数と実モータジェネレータ回転数との偏差が大きければ、大きなトルク指令を出力することになり、上限を設定していない場合には、運転者等の要求トルクよりも大きなトルクが出力され、違和感となるからである。このモータジェネレータトルク上限値は、運転者等の要求トルクに応じて設定される。具体的には、モータジェネレータMGのトルクとエンジントルクとの合計が要求トルクに所定の許容誤差を加算した値を超えないように設定される。
【0080】
図21は実施例11のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。モータジェネレータトルクは目標モータジェネレータ回転数に一致するように制御される。このとき、モータジェネレータトルク上限値以上のトルクが出力されない。よって、モータジェネレータトルクを直接の制御対象としていない場合であっても、運転者等の要求トルクの実現性を向上することができる。仮に、加速中において油圧が実現可能な油圧の下限に到達し(これ以上油圧を下げられない状態)、且つ、ベルトとプーリとの間の摩擦係数が最適となるスリップ率に到達しない場合、モータジェネレータ側ではスリップ率を確保すべく、過剰にトルクを上昇させようとする。これに対し、実施例11のようにモータジェネレータトルク上限値を設定しておくことで、所望のスリップ率が得られない場合であっても、モータジェネレータトルクを要求トルクから所定の許容誤差の範囲に抑制できる。これにより、実施例1の(1),(3),(4)に示す効果、実施例の(6)に示す効果に加えて、下記に示す効果が得られる。
【0081】
(10)要求トルクに応じたモータジェネレータMG(動力源)のトルク上限値を有する。よって、モータジェネレータトルクを制御したとしても、要求トルクからの乖離を抑制でき、要求トルクの実現性を向上できる。尚、実施例7に実施例10を組み合わせることもでき、その場合には、実施例7に示す効果も得られることはいうまでもない。
【実施例12】
【0082】
次に、実施例12について説明する。基本的な構成は実施例5と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例5では、目標モータジェネレータ回転数を達成するようにモータジェネレータトルクが制御される。これに対し、実施例12では上記制御構成に加えて、モータジェネレータトルクの下限値を設定した点が異なる。モータジェネレータMGを回転数制御していると、その回転数を達成するのに必要なトルクは、運転者等が要求する要求トルクとは無関係に設定される。よって、目標モータジェネレータ回転数と実モータジェネレータ回転数との偏差が大きければ、大きなトルク指令を出力することになり、減速時において下限を設定していない場合には、運転者等の要求トルク(減速時に発生させるトルク)よりも大きなトルク(過剰な減速トルク)が出力され、違和感となるからである。このモータジェネレータトルク下限値は、運転者等の要求トルクに応じて設定される。具体的には、モータジェネレータMGのトルクとエンジントルクとの合計が要求トルクに所定の許容誤差を加算した値(減速側)を超えないように設定される。
【0083】
図22は実施例12のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。モータジェネレータトルクは目標モータジェネレータ回転数に一致するように制御される。このとき、モータジェネレータトルク下限値以下のトルクが出力されない。よって、モータジェネレータトルクを直接の制御対象としていない場合であっても、運転者等の要求トルクの実現性を向上することができる。仮に、減速中において油圧が実現可能な油圧の下限に到達し(これ以上油圧を下げられない状態)、且つ、ベルトとプーリとの間の摩擦係数が最適となるスリップ率に到達しない場合、モータジェネレータ側ではスリップ率を確保すべく、過剰に減速側のトルクを発生させようとする。これに対し、実施例12のようにモータジェネレータトルク下限値を設定しておくことで、所望のスリップ率が得られない場合であっても、モータジェネレータトルクを要求トルクから所定の許容誤差の範囲に抑制できる。これにより、実施例1の(1),(3),(4)に示す効果、実施例の(6)に示す効果に加えて、下記に示す効果が得られる。
【0084】
(11)要求トルクに応じたモータジェネレータMG(動力源)のトルク下限値を有する。よって、モータジェネレータトルクを制御したとしても、要求トルクからの乖離を抑制でき、過剰な減速トルクを発生させることなく、要求トルクの実現性を向上できる。尚、実施例7に実施例10を組み合わせることもでき、その場合には、実施例7に示す効果も得られることはいうまでもない。
【実施例13】
【0085】
次に、実施例13について説明する。基本的な構成は実施例2と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例2では、エンジントルクを制御することで所望のスリップ率を達成するように制御した。これに対し、実施例13では、エンジントルクを調整するに当たり、応答性を考慮して点火タイミングアクチュエータとスロットルアクチュエータとを適宜選択する点が異なる。
【0086】
図23はトルク調整部403からエンジントルクを制御するアクチュエータである点火タイミング制御アクチュエータX1とスロットルバルブアクチュエータX2に制御指令を出力する構成を表す制御ブロック図である。トルク調整部403では、予め設定された所定スリップ率(2%程度)と実スリップ率との偏差を演算し、その偏差に基づいてトルクダウン制御指令を出力する。ここで、トルクダウン制御指令を、高周波成分(高応答分)と低周波成分(低応答分)とに分離する。そして、高周波成分は点火タイミング制御アクチュエータX1に対してトルクダウン制御指令を出力し、低周波成分はスロットルバルブアクチュエータX2に対してトルクダウン制御指令を出力する。すなわち、点火タイミング制御アクチュエータX1は点火角を遅角するだけなのでイナーシャ等を考慮する必要が無く、高応答のトルクダウンを実現できるが、これだけで十分なトルクダウン量が得られるとは限らない。一方、スロットルバルブアクチュエータX2は具体的に開度を調整する上でイナーシャ等を考慮する必要があり、点火タイミング制御アクチュエータX1よりも低応答のトルクダウンしか実現できないが、大きなトルクダウン量が得られる。そこで、これら両者の利点を組み合わせた指令を行う。
【0087】
図24は実施例13のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。プーリとベルトとの間のスリップ率が所望の値よりも高くなると、入力トルクを抑制する必要があることから、エンジントルクを低下させるためにトルクダウン制御指令を出力する。このとき、高応答分については点火タイミング制御アクチュエータX1により、また、低応答分についてはスロットルバルブアクチュエータX2により実行することで、応答性を確保しつつ十分なトルクダウン量を確保する。尚、実施例13は実施例2に加えた構成として説明したが、最終的にエンジンに対してトルク制御指令を出力する何れの実施例であっても適用可能である。よって、実施例1,2,4,6,8,9,10に適宜採用でき、これら各実施例の効果に加えて下記の効果が得られる。
【0088】
(12)高応答成分については点火タイミング制御アクチュエータX1(点火タイミング変更制御)を用い、低応答成分についてはスロットルバルブアクチュエータX2(吸気量制御)を用いることで、エンジントルクを制御する際の応答性と制御量の両方を得ることができる。
【実施例14】
【0089】
次に、実施例14について説明する。基本的な構成は実施例7と同じであるため異なる点についてのみ説明する。実施例7では特にプライマリプーリPPとセカンダリプーリSPのどちらにおいてスリップ状態を達成すべきか、という点については特に言及しなかったが、実施例14では、走行状態に応じてどちらをスリップ状態とすべきかについて設定した点が異なる。以下、走行状態ごとに説明する。
【0090】
〔加速中、且つ、変速比が1より高変速比側〕
加速中とは、プライマリプーリ側からベルトを介してセカンダリプーリ側にトルクが伝達されている状態である。また、高変速比側とは、プライマリプーリ側よりもセカンダリプーリ側のベルト巻き付径のほうが小さいことを意味する。以上から、この走行状態にあってはプライマリプーリ側が容量側であり、加速中であることからプライマリプーリ回転数はベルトの速度よりも速い状態とすることになる。よって、図25のタイムチャートに示すように、プライマリプーリとベルトとの間のスリップ率をプラス側に所定スリップ率とし、セカンダリプーリとベルトとの間のスリップ率を0相当にすることで、安定したスリップ率制御を達成できる。
【0091】
〔減速中、且つ、変速比が1より高変速比側〕
減速中とは、セカンダリプーリ側からベルトを介してプライマリプーリ側にトルクが伝達されている状態である。また、高変速比側とは、プライマリプーリ側よりもセカンダリプーリ側のベルト巻き付径のほうが小さいことを意味する。以上から、この走行状態にあってはプライマリプーリ側が容量側であり、減速中であることからプライマリプーリ回転数はベルトの速度よりも遅い状態とすることになる。よって、図26のタイムチャートに示すように、プライマリプーリとベルトとの間のスリップ率をマイナス側に所定スリップ率とし、セカンダリプーリとベルトとの間のスリップ率を0相当にすることで、安定したスリップ率制御を達成できる。
【0092】
〔加速中、且つ、変速比が1より低変速比側〕
加速中とは、プライマリプーリ側からベルトを介してセカンダリプーリ側にトルクが伝達されている状態である。また、低変速比側とは、セカンダリプーリ側よりもプライマリプーリ側のベルト巻き付径のほうが小さいことを意味する。以上から、この走行状態にあってはセカンダリプーリ側が容量側であり、加速中であることからセカンダリプーリ回転数はベルトの速度よりも速い状態とすることになる。よって、図27のタイムチャートに示すように、セカンダリプーリとベルトとの間のスリップ率をプラス側に所定スリップ率とし、プライマリプーリとベルトとの間のスリップ率を0相当にすることで、安定したスリップ率制御を達成できる。
【0093】
〔減速中、且つ、変速比が1より低変速比側〕
減速中とは、セカンダリプーリ側からベルトを介してプライマリプーリ側にトルクが伝達されている状態である。また、低変速比側とは、セカンダリプーリ側よりもプライマリプーリ側のベルト巻き付径のほうが小さいことを意味する。以上から、この走行状態にあってはセカンダリプーリ側が容量側であり、減速中であることからセカンダリプーリ回転数はベルトの速度よりも遅い状態とすることになる。よって、図28のタイムチャートに示すように、セカンダリプーリとベルトとの間のスリップ率をマイナス側に所定スリップ率とし、プライマリプーリとベルトとの間のスリップ率を0相当にすることで、安定したスリップ率制御を達成できる。
【0094】
すなわち、実施例14にあっては、下記の作用効果を得ることができる。
(13)加速中かつ変速比が1より高いときはセカンダリプーリよりもベルトの速度が速くなるようにスリップさせ、減速中かつ変速比が1より高いときはセカンダリプーリよりもベルトの速度が遅くなるようにスリップさせ、加速中かつ変速比が1以下のときはプライマリプーリよりもベルトの速度が速くなるようにスリップさせ、減速中かつ変速比が1以下のときはプライマリプーリよりもベルトの速度が遅くなるようにスリップさせる。よって、走行状態に応じて適切なスリップ状態を維持しつつ加減速を行うことができる。
【実施例15】
【0095】
次に実施例15について説明する。上述の実施例1から実施例14ではモータジェネレータを備えたハイブリッド車両に適用した例を示した。これに対し実施例15では、モータジェネレータ等を備えていない通常のエンジン車両に適用したものである。
【0096】
図29はベルト式無段変速機を搭載したエンジン車両を表す概略図である。内燃機関であるエンジンEから出力された駆動力(トルク及び回転数)は、トルクコンバータTCを介してベルト式無段変速機CVTのプライマリプーリPPに入力される。トルクコンバータTCにはロックアップクラッチLUCが備えられ、所定車速未満ではロックアップクラッチLUCを解放しトルクコンバータTCによるトルク増幅作用を使用する。また、所定車速以上ではロックアップクラッチLUCを締結してエンジンEとベルト式無段変速機CVTとが直結される。ベルト式無段変速機CVTから出力された駆動力はディファレンシャルギアを介して駆動輪FR,FLに出力される。尚、これら各構成は周知の構成であり、詳細については省略する。
【0097】
図30は実施例15のスリップ率制御処理を表す制御ブロック図である。エンジン回転数制御部150には、目標エンジン回転数演算部140と、回転数フィードバック制御部151と、運転者等の要求トルクを演算する要求トルク演算部152と、指令トルクに制限を加えるトルク制限部153と、指令トルクの低応答分をスロットルバルブアクチュエータの指令に変換するスロットル制御指令部154と、指令トルクの高応答分を点火タイミング制御アクチュエータの指令に変換する点火角制御指令部155とを有する。
【0098】
目標エンジン回転数演算部140では、セカンダリプーリ実回転数に溝幅ベース(プーリに対するベルト巻き付径を意味する)で演算された実変速比を掛けた値と、所望スリップ率(2%のスリップ率を得たい場合には、1.02)を掛け合わせて目標エンジン回転数を演算する。ここで、セカンダリプーリ実回転数に溝幅ベースで演算された実変速比を掛けた値とは、スリップが全く生じていない場合のプライマリプーリ回転数(エンジン回転数)である。これに所望スリップ率(2%に相当する1.02)を掛けることで、プーリとベルトとの間に所望スリップ率を生じた状態を得る。
【0099】
回転数フィードバック制御部151では、演算された目標エンジン回転数と検出された実エンジン回転数との偏差に基づいてPI制御によりエンジントルクの補正量が演算される。すなわち、目標エンジン回転数に到達していない場合にはエンジントルクが大きくなる補正指令が出力され、目標エンジン回転数を超えている場合にはエンジントルクが小さくなる補正指令が出力される。また、要求トルク演算部152では、アクセルペダル開度やエンジン回転数に基づいて運転者の要求トルクが演算され、この要求トルクに上述のトルク補正指令が加算される。言い換えると、運転者の要求トルクを確保しつつ、目標エンジン回転数に追従するようにエンジントルクが制御されるものである。
【0100】
トルク制限部153では、実際の指令トルクが運転者の要求トルクから乖離しないように、要求トルクに応じた上限値及び下限値が設定されており、指令トルクが上限値及び下限値の間のときはそのまま指令トルクが出力され、指令トルクが上限値もしくは下限値を超えるときは、上限値もしくは下限値が指令トルクとして出力される。
【0101】
CVTコントローラ160には、伝達容量制御部161と、その他各種制御部が設けられている。その他各種制御部には、伝達容量制御部161により決定される伝達容量を出力するためのセカンダリ圧制御部や、ライン圧を制御するライン圧制御部、メカニカルフィードバック機構を備えているときにはステップモータ指令等が出力される変速比制御部等を備える。
【0102】
伝達容量制御部161では、トルク制限部153から出力された最終的なトルク指令と、要求トルクに基づいて算出されたエンジンの要求トルクとが入力され、トルク指令と要求トルクとの偏差に基づいてPI制御により伝達容量が演算される。プーリとベルトとの間のスリップ率を制御するに当たり、エンジン回転数を制御してスリップ率を制御することで安定したスリップ率を得ることができる。しかし、スリップ率が大きすぎるときにはエンジン回転数を下げるためにエンジントルクを低下する指令が出力される。すなわち、トルクの低下に伴って運転者等が要求する駆動力(要求トルク)よりも小さなトルクしか得られず、違和感となる。
【0103】
そこで、要求トルクと実トルクとの偏差に応じた伝達容量をベルト式無段変速機CVTに対して出力することとした。例えば、要求トルクよりもトルク指令が小さい場合には、伝達容量として高めの値が出力される。すると、プーリ押し付け力が増大し、ベルトとの間でスリップを得にくい状態となる。エンジン側では、スリップが得られていないためエンジン回転数を高める必要に迫られ、それに応じてエンジントルクを上昇させる。すなわち、伝達容量を高めると、回転数制御しているエンジンEのトルクが高まる方向に制御されるのである。これにより、要求トルクを達成しつつ安定したスリップ率を得ることができる。
【0104】
上述の実施例1から14に示すハイブリッド車両では、エンジンで回転数制御をする場合、エンジンには要求トルクに応じた値を入力せず、モータジェネレータ側で要求トルクを担保していた。しかし、通常のエンジン車両では、このようにトルクを担保する構成が無いため、エンジン回転数制御の中に、要求トルクを実現しつつ、それを回転数制御によって補正することとしている。この実施例15にあっても、実施例1の(1),(2)に示す効果、実施例4の(5)に示す効果、実施例6の(7)に示す効果が得られる。また、他の実施例のうち、モータジェネレータに関する制御以外については適宜組み合わせ可能であり、その場合、組み合わせた実施例の各効果が得られる。
【0105】
以上、実施例1から15について説明したが、上記構成に限られず本発明の範囲を逸脱しない範囲で他の構成を取り得る。例えば、FF型の車両について説明したが、FR型の車両であっても構わない。また、前後進切換機構を具体的には示さなかったが、ベルト式無段変速機の入力側に前後進切換機構等を備えている場合には、その前後進切換機構に備えられた摩擦締結要素を第2クラッチCL2としてもよいし、新たに第2クラッチCL2を備えてもよい。
【実施例16】
【0106】
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例16のベルト式無段変速機の制御装置が適用された前輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、ベルト式無段変速機CVTと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左前輪FL(駆動輪)と、右前輪FR(駆動輪)と、を有する。尚、RLは左後輪、RRは右後輪である。
【0107】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、点火タイミングやスロットルバルブのバルブ開度等が制御される。尚、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0108】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により作動し、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0109】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。尚、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介してベルト式無段変速機CVTの入力軸に連結されている。
【0110】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGとベルト式無段変速機CVTとの間に介装されたクラッチであり、後述するCVTコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8aにより作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0111】
ベルト式無段変速機CVTは、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGのトルクが入力されるプライマリプーリPPと、駆動輪FL,FRにトルクを出力するセカンダリプーリSPと、これら二つのプーリの間に掛け渡されたベルトVBを有し、油圧制御によって各プーリに供給されるプーリ油圧に応じてプーリ溝幅を変更し、無段階に変速比を変更できる周知のものである。後述するCVTコントローラ7において車速やアクセル開度等に応じて自動的に変速するための制御指令が出力され、この制御指令に基づいて、プーリ油圧ユニット8bにより作り出された制御油圧によりプライマリプーリPPの油圧及びセカンダリプーリSPの押し付け力が制御されて変速する。
【0112】
実施例1のベルト式無段変速機CVTにあっては、ステッピングモータを備え、プライマリプーリPP側にライン圧ソレノイドによって調圧されたライン圧が供給され、セカンダリプーリSP側にセカンダリ圧ソレノイドによって調圧されたセカンダリ圧が供給される構成とされている。実施例16にあっては、高圧が供給される側のプーリを容量側のプーリとして記載する。
【0113】
ベルト式無段変速機CVTの出力軸は、ディファレンシャルギアDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右前輪FL,FRに連結されている。尚、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いているが、乾式クラッチ等を用いてもよく特に限定しない。
【0114】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。尚、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0115】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪FR,FLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。また、更なるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0116】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、CVTコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8aと、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、CVTコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0117】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外の点火タイミング制御アクチュエータやスロットルバルブアクチュエータへ出力する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0118】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0119】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。尚、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0120】
CVTコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をCVT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8aに出力する。また、CVTコントローラ7は、車速とアクセルペダル開度に基づいて目標変速比を決定する変速比マップを有し、入力された各種センサ情報に基づいて目標変速比を決定する。また、統合コントローラ10からの伝達容量指令に応じたライン圧及びセカンダリプーリ油圧を決定する。そして、目標変速比を達成するプーリ溝幅となるよう、プーリ油圧ユニット8bにステップモータ駆動指令を出力する。尚、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0121】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦ブレーキによる制動力)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
【0122】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、プーリ溝幅から実変速比を検出する変速比センサ10aと、セカンダリプーリSPの回転数を検出するセカンダリ回転数センサ10bからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0123】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、CVTコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御及びCVTにおける伝達容量指令,変速比指令の送信を行う。尚、各種演算は、統合コントローラ10で演算してもよいし、他のコントローラ内で演算してもよい。
【0124】
以下に、図2及び図31に示すブロック図を用いて、実施例16の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、を有する。
【0125】
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
【0126】
モード選択部200は、アクセルペダル開度APOと車速VSPを用いてモードマップに基づいて目標モードを選択する。図5はモードマップを表す。モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。また、モード選択部200には、図外の温度センサより検出したバッテリ4の温度が入力される。これにより、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリ4の温度が低温側の閾値より低温であったり、高温側の閾値より高温であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
【0127】
目標充放電演算部300では、図4に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。また、目標充放電量マップには、EV走行モードを許可もしくは禁止するためのEVON線がSOC=50%に設定され、EVOFF線がSOC=35%に設定されている。
【0128】
SOC≧50%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV走行モード領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける。SOC<35%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける。
【0129】
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動力tFoOと、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ締結容量(第2クラッチの制御指令)とベルト式無段変速機CVTの目標伝達容量(プーリ油圧等の伝達容量指令)と第1クラッチCL1の伝達トルク容量指令(第1クラッチ制御指令)である第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。例えば、目標エンジントルクは、最適燃費線であるα線に沿って出力されるように演算され、目標モータジェネレータトルクは、演算された目標エンジントルクと目標駆動力fFo0との偏差に基づき演算される。また、動作点指令部400には、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部401が設けられている。尚、実施例1における目標伝達容量は、運転者等の要求トルク(目標駆動力fFo0)に応じて設定される。
【0130】
動作点指令部400は、ベルト式無段変速機CVTのプーリ(プライマリプーリもしくはセカンダリプーリ)とベルトとの間に生じている実スリップ率を演算するスリップ率演算部402と、予め設定された所定のスリップ率(2%程度)とスリップ率演算部402において演算された実スリップ率との偏差に応じてモータジェネレータトルクを制御する駆動源制御部404''と、要求トルクと実トルクとの偏差に応じて伝達容量を制御する伝達容量制御部405'とを有する。
【0131】
図31は駆動源制御部404''と伝達容量制御部405'の制御構成を表すブロック図である。駆動源制御部404''には、目標モータ回転数演算部4041'と、回転数フィードバック制御部4042'と、トルク−電流信号変換部4043'と、を有する。
伝達容量制御部405'では、回転数フィードバック制御部4042'から出力されたトルク指令(実モータジェネレータトルクに相当)と、要求トルク(要求トルクに基づいて算出されたモータジェネレータMGの目標モータジェネレータトルクと、目標エンジントルク)が入力され、要求トルクと実モータジェネレータトルクとの偏差に基づいてPI制御により目標伝達容量が演算される。
【0132】
また、目標伝達容量は、基本値(要求トルク:目標モータジェネレータトルクと目標エンジントルクとの和に応じて設定される値)と補正率との積により演算される。このときの補正率は、実際のトルク(実エンジントルクに相当する目標エンジントルクと実モータトルクに相当するトルク指示との和)と要求トルクとの偏差(e)等によって設定され、この偏差(e)が大きいほど、補正率は低く設定される。
【0133】
この演算された目標伝達容量は、プーリPP,SPとベルトVBとの間が所定スリップ状態となるようにプーリPP,SPのうち容量側となるプライマリプーリPPの油圧を制御する油圧制御手段であるCVTコントローラ7へ出力される。
【0134】
CVTコントローラ7は、入力されたそれぞれの値から、セカンダリ油圧指令値、プライマリ油圧となるライン圧指令値、ステップモータ指示指令値を演算し、これら演算された指令値で、ベルト式無段変速機CVTを制御する。
【0135】
目標モータジェネレータ回転数演算部4041'では、セカンダリプーリ実回転数に溝幅ベース(プーリに対するベルト巻き付き径を意味する)で演算された実変速比を掛けた値と、所望スリップ率(2%のスリップ率を得たい場合には、1.02)を掛け合わせて目標モータジェネレータ回転数を演算する。ここで、セカンダリプーリ実回転数に溝幅ベースで演算された実変速比を掛けた値とは、スリップが生じていない場合のプライマリプーリ回転数(エンジン回転数)である。これに所望スリップ率(2%に相当する1.02)を掛けることで、プーリとベルトとの間に所望スリップ率が生じた状態を得る。
【0136】
回転数フィードバック制御部4042では、演算された目標モータジェネレータ回転数と、検出された実モータジェネレータ回転数との偏差に基づいてPI制御によりモータジェネレータトルクが演算される。すなわち、目標モータジェネレータ回転数に到達していない場合には、モータジェネレータトルクが大きくなる指令が出力され、目標モータジェネレータ回転数を越えている場合には、モータジェネレータトルクが小さくなる指令が出力される。言い換えると、目標モータジェネレータ回転数に追従するようにモータジェネレータトルクが制御されるものであり、モータジェネレータトルク自体は直接の制御対象ではなく間接的に制御される。
【0137】
〔スリップ制御処理〕
次に、ベルト式無段変速機CVTにおいて所定のスリップ状態とするスリップ制御処理について説明する。一般に、ベルト式無段変速機にあっては、プーリとベルトとの間のスリップを禁止しており、スリップを生じないプーリ押し付け力を発生させる油圧(以下、クランプ油圧)を発生させ、そのクランプ油圧に加えて変速用の油圧(以下、変速油圧)を発生させている。ここで、プーリに必要な押し付け力は油圧と面積の積によって決定されるため、実施例1のようにセカンダリプーリに常時ライン圧を供給するタイプでは、プライマリプーリとセカンダリプーリの有効受圧面積を異ならせ(具体的にはプライマリプーリ側の有効受圧面積をセカンダリプーリの2倍前後に設定する)、セカンダリプーリ側でのスリップを防止しつつ、プライマリプーリ側には更に強い押し付け力を作用させて変速を可能としている。
【0138】
しかし、プーリとベルトとの間に作用する摩擦係数とスリップ率との関係を検証した結果、スリップ率が0に近い状態での摩擦係数よりもスリップ率が2%程度の摩擦係数のほうが大きいことが分かってきた。すなわち、プーリとベルトとの間のスリップを完全に抑制する方向で制御するよりも、若干スリップさせて制御した方がよりトルク伝達効率が高いことが見出された。
【0139】
上述したように、一般のベルト式無段変速機ではクランプ圧を確保する際、安全率を考慮してスリップしない油圧よりも高めの油圧をクランプ圧として設定する。しかし、ある程度のスリップをさせたほうがよい、という事実は、このクランプ圧自体も高めに設定してはいけないことを表す。言い換えると、所望のスリップ状態となる程度の油圧に制御するため、既存のベルト式無段変速機に必要と考えられていたライン圧よりもかなり低めのライン圧の設定で、摩擦係数を向上したベルト式無段変速機を実現できることになる。ベルト式無段変速機の効率悪化は、その多くがオイルポンプの負荷によってもたらされている事実からすると、オイルポンプの負荷の低減は非常に魅力的であり、同時にプーリとベルトとの摩擦係数まで増大できるのである。
【0140】
このような観点から、ベルト式無段変速機のクランプ圧(伝達容量)をスリップ率に応じて設定すれば所望のスリップ状態が得られ、オイルポンプの負荷低減、及び摩擦係数の向上の両方が得られると考えられる。そこで、実際に、実スリップ率と所望スリップ率との偏差に応じてクランプ圧を調整する制御構成(以下、油圧調整タイプ)を組んでみると、下記に示す課題が見出された。
【0141】
図6は油圧調整タイプを採用した場合のタイムチャートである。尚、図6中の伝達容量とは容量側の油圧と考えればよく、例えばライン圧と考えて差し支えない。また、前提として伝達容量はベルト式無段変速機に入力されるトルクの増大に応じて大きくなるように設定されている。
【0142】
初期条件として、運転者のアクセルペダル開度は一定であり、所望のベルトスリップ率が得られていた状態とする。運転者がアクセルペダルを踏み込むと、エンジントルク及びモータジェネレータトルクは増大し、同時に伝達容量も引き上げられる。すなわちセカンダリプーリ油圧が高められる。このとき、エンジントルクとモータジェネレータトルクの合算値である入力トルクの上昇より、伝達容量の上昇のほうが大きいと、実スリップ率が所望のスリップ率よりも低下することになる。よって、実スリップ率を上げるべく、伝達容量を上げすぎないような指令を出力することになる。これにより、伝達容量の上昇率よりも入力トルクの上昇率のほうが大きくなり、実スリップ率は低下から増加へと変わり、所望のスリップ率からオーバーシュート気味に増大する。よって、次は伝達容量を入力トルク(要求トルク)より上昇させてこのオーバーシュート気味の実スリップ率を下げることになる。
【0143】
このように、油圧制御によってセカンダリプーリ油圧を制御すると、制御指令に対して実際に容量が変更されるまでの応答遅れが大きく、所望のスリップ率を安定して発生させることが困難であった。所望のスリップ率を得ることは摩擦係数の増大が得られるため、魅力的であるが、一方、過剰なスリップ率が発生すると、やはりプーリとベルトの接触面が破損、ベルト破断といった原因となることに変わりはないからである。
【0144】
そこで、スリップ率の制御に当たり、油圧制御ではなく、ベルト式無段変速機に入力されるトルクを制御することで所望のスリップ状態を得ることが考えられる。この場合、運転者がアクセルペダルを踏み込み、入力トルクが増大するとスリップ率が増大する。そこで、まず、モータジェネレータトルクが低くなるように調整する。すると、モータジェネレータMGは制御指令に対する応答が高いため、スリップ率は素早く所望のスリップ率に収束する。これにより、スリップ率を所望のスリップ率に安定して収束させることができる。
【0145】
しかし、スリップ率が大きすぎるときにはエンジン回転数及びモータジェネレータ回転数を下げるためにモータジェネレータトルクを低下する指令が出力され、このトルクの低下に伴って運転者等が要求する駆動力(要求トルク)よりも小さな駆動力しか得られず、違和感となる。
【0146】
そこで、要求トルク(目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクとの和)と実トルク(実エンジントルクと実モータジェネレータトルクとの和)との偏差に応じた伝達容量をベルト式無段変速機CVTに対して出力することとした。例えば、要求トルクよりもトルク指令が小さい場合には、伝達容量として高めの値が出力される。すると、プーリ押し付け力が増大し、ベルトとの間でスリップを得にくい状態となる。モータジェネレータ側では、スリップが得られていないためモータジェネレータ回転数を高める必要に迫られ、それに応じてモータジェネレータトルクを上昇させる。すなわち、伝達容量を高めると、回転数制御しているモータジェネレータMGのトルクが高まる方向に制御されるのである。これにより、要求トルクを達成しつつ安定したスリップ率を得ることができる。
【0147】
図32は実施例16のスリップ率制御処理を表すタイムチャートである。アクセル開度一定の定常走行状態において、所定スリップ率が得られる目標モータジェネレータ回転数が演算され、その目標モータジェネレータ回転数を達成するようにモータジェネレータトルクが制御される。尚、エンジントルクはアクセルペダル開度等に基づいて演算された要求駆動力に応じて設定されているため、ほぼ一定である。
時刻t1において、運転者がアクセルペダルを踏み込み、アクセルペダル開度APOが大きくなると、それに伴って目標エンジントルク及び目標モータジェネレータトルクも大きくなるように変更される。また、これら目標エンジントルク及び目標モータジェネレータトルクの和(すなわち要求トルク)がベルト式無段変速機CVTに入力されるトルクであることから、これら要求トルクに基づいて、基本的なプーリ油圧(以下、基本油圧と記載する。)が設定される。
【0148】
時刻t2において、スリップ率が予め設定された目標スリップ率(例えば2%)以上に増大すると、モータジェネレータの回転数は、目標モータジェネレータ回転数よりも高くなっていることを意味する。このスリップ率の増大を抑制するために、モータジェネレータでは、回転数を低下させるモータジェネレータの回転数フィードバック制御が実行される。
すると、モータジェネレータトルクは低下し始め、スリップ率の増大は徐々に止まる。このとき、モータジェネレータトルクに着目すると、そもそもモータジェネレータMGに要求されている目標モータジェネレータトルクよりも、実モータジェネレータトルクは小さくなる。すなわち、回転数フィードバック制御に基づくトルク指令(実モータジェネレータトルク)と要求トルク(目標モータジェネレータトルク)とに偏差が生じる。
【0149】
時刻t3において、伝達容量制御部405'では、上記トルク偏差に応じて伝達容量が変更される。具体的には、トルク偏差に応じてプーリ油圧を増大するように指令プーリ油圧が変更される。実施例16の場合、補正率を変更して指令油圧をアップする。すると、モータジェネレータMGにおけるスリップ率適正化作用、プーリ油圧アップによるトルク適正化作用が相互に補完し合い、実スリップ率が目標スリップ率に素早く収束し始める。よって、駆動輪に出力されるトルクも素早く要求トルクに応じた値が出力され、運転者に違和感を与えることが無い。
【0150】
仮に、図32中の一点鎖線で示すように、モータジェネレータ回転数フィードバック制御のみを採用し、伝達容量制御部405'におけるトルクフィードバック制御を備えていない場合、プーリ油圧を基本油圧のみで制御することになる。そうすると、モータジェネレータトルクをスリップ率が収束するまで継続的に下げる必要があり、要求トルクを出力できないことから、運転者に違和感を与えるおそれもある(図32中の一点鎖線で示す関係を参照)。
これに対し、実施例16では、スリップ率の抑制については応答性の高いモータジェネレータ回転数フィードバック制御により対応し、それによる駆動トルクの低下はベルト式無段変速機CVTの伝達容量を上昇させるトルクフィードバック制御により対応することで、スリップ率を素早く収束させると共に、伝達容量の上昇に伴って自動的かつ安定的に要求トルクを達成することができるのである。
【0151】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(14) エンジンE及び/又はモータジェネレータMG(動力源)のトルクが入力されるプライマリプーリPPと、駆動輪にトルクを出力するセカンダリプーリSPと、これら二つのプーリPP,SPの間に掛け渡されたベルトVBを有するベルト式無段変速機CVTと、二つのプーリPP,SPとベルトVBとの間がスリップ状態となるように二つのプーリPP,SPのうち容量側となるプーリの油圧を制御するCVTコントローラ7(油圧制御手段)と、スリップ状態が所定スリップ状態となるようにエンジンE及び/又はモータジェネレータMG(動力源)のトルクを調整(制御)する回転数フィードバック制御部4042(トルク制御手段)と、を備えた。
すなわち、プーリとベルトとの間で所定スリップ量を発生させるため、必要な油圧を低くすることができる。また、入力されるトルクを調整することで、油圧を高めることなく過剰なベルト滑りを抑制することができる。
【0152】
(15)モータジェネレータMG(モータ)により入力トルクを調整することで、油圧制御よりも応答性を高めることができ、安定したスリップ率を得ることができる。
【0153】
(16)伝達容量(二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧)を、要求トルクと指令トルク(実トルク)との偏差に応じて設定することとした。これにより、運転者等が要求する要求トルクを実現しつつ、安定したスリップ状態を得ることができる。
【0154】
(17)モータジェネレータMG(動力源)のトルクが入力されるプライマリプーリPPと、駆動輪にトルクを出力するセカンダリプーリSPと、これら二つのプーリの間に掛け渡されたベルトVBを有するベルト式無段変速機CVTと、プーリPP,SPとベルトVBとの間が所定スリップ状態となるモータジェネレータMG(動力源)の目標回転数を演算する目標モータ回転数演算部4041'(目標回転数演算手段)と、モータジェネレータMGが目標回転数となるように制御する回転数フィードバック制御部4042'(回転数制御手段)と、二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧を、要求トルクとモータジェネレータMGの実トルクとの偏差に応じて設定しトルクフィードバック制御を行う伝達容量制御部405'(容量側プーリ油圧設定手段)と、二つのプーリの押し付け力を前記容量側プーリ油圧に基づいて制御し、所望の変速比を得るCVTコントローラ7(変速制御手段)と、を備えた。
よって、上記(14),(15),(16)に記載の効果に加えて、伝達容量(二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧)を、要求トルクと指令トルク(実トルク)との偏差に応じて設定することで、運転者等が要求する要求トルクを実現しつつ、安定したスリップ状態を得ることができる。
【符号の説明】
【0155】
E エンジン
CL1 第1クラッチ
MG モータジェネレータ
CL2 第2クラッチ
CVT ベルト式無段変速機
10 統合コントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源のトルクが入力されるプライマリプーリと、駆動輪にトルクを出力するセカンダリプーリと、これら二つのプーリの間に掛け渡されたベルトを有するベルト式無段変速機と、
前記二つのプーリと前記ベルトとの間がスリップ状態となるように前記二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧を制御する油圧制御手段と、
前記スリップ状態が所定スリップ状態となるように前記動力源のトルクを制御するトルク制御手段と、
を備えたことを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記動力源はエンジンであることを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記トルク制御手段は、高応答成分については点火タイミング変更制御を用い、低応答成分については吸気量制御を用いることを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1つに記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記動力源はモータであることを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1つに記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記トルク制御手段は、前記動力源が前記所定スリップ状態に応じた回転数となるように前記動力源のトルクを制御することを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1つに記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記油圧制御手段は、前記二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧を、要求トルクと前記動力源の実トルクとの偏差に応じて設定する手段であることを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記油圧制御手段は、前記実トルクから前記動力源のイナーシャ分を除外したトルクを用いて制御することを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし7いずれか1つに記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記トルク制御手段は、要求トルクに応じた前記動力源のトルク上限値を有することを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項9】
請求項1ないし8いずれか1つに記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記トルク制御手段は、要求トルクに応じた前記動力源のトルク下限値を有することを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項10】
請求項1ないし9いずれか1つに記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記トルク制御手段は、
加速中かつ変速比が1より高いときは前記セカンダリプーリよりも前記ベルトの速度が速くなるようにスリップさせ、
減速中かつ変速比が1より高いときは前記セカンダリプーリよりも前記ベルトの速度が遅くなるようにスリップさせ、
加速中かつ変速比が1以下のときは前記プライマリプーリよりも前記ベルトの速度が速くなるようにスリップさせ、
減速中かつ変速比が1以下のときは前記プライマリプーリよりも前記ベルトの速度が遅くなるようにスリップさせることを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項11】
動力源のトルクが入力されるプライマリプーリと、駆動輪にトルクを出力するセカンダリプーリと、これら二つのプーリの間に掛け渡されたベルトを有するベルト式無段変速機と、
前記プーリと前記ベルトとの間が所定スリップ状態となる前記動力源の目標回転数を演算する目標回転数演算手段と、
前記動力源が前記目標回転数となるように制御する回転数制御手段と、
前記二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧を、要求トルクと前記動力源の実トルクとの偏差に応じて設定する容量側プーリ油圧設定手段と、
前記二つのプーリの押し付け力を前記容量側プーリ油圧に基づいて制御し、所望の変速比を得る変速制御手段と、
を備えたことを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項1】
動力源のトルクが入力されるプライマリプーリと、駆動輪にトルクを出力するセカンダリプーリと、これら二つのプーリの間に掛け渡されたベルトを有するベルト式無段変速機と、
前記二つのプーリと前記ベルトとの間がスリップ状態となるように前記二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧を制御する油圧制御手段と、
前記スリップ状態が所定スリップ状態となるように前記動力源のトルクを制御するトルク制御手段と、
を備えたことを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記動力源はエンジンであることを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記トルク制御手段は、高応答成分については点火タイミング変更制御を用い、低応答成分については吸気量制御を用いることを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1つに記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記動力源はモータであることを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1つに記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記トルク制御手段は、前記動力源が前記所定スリップ状態に応じた回転数となるように前記動力源のトルクを制御することを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1つに記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記油圧制御手段は、前記二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧を、要求トルクと前記動力源の実トルクとの偏差に応じて設定する手段であることを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記油圧制御手段は、前記実トルクから前記動力源のイナーシャ分を除外したトルクを用いて制御することを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし7いずれか1つに記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記トルク制御手段は、要求トルクに応じた前記動力源のトルク上限値を有することを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項9】
請求項1ないし8いずれか1つに記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記トルク制御手段は、要求トルクに応じた前記動力源のトルク下限値を有することを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項10】
請求項1ないし9いずれか1つに記載のベルト式無段変速機の制御装置において、
前記トルク制御手段は、
加速中かつ変速比が1より高いときは前記セカンダリプーリよりも前記ベルトの速度が速くなるようにスリップさせ、
減速中かつ変速比が1より高いときは前記セカンダリプーリよりも前記ベルトの速度が遅くなるようにスリップさせ、
加速中かつ変速比が1以下のときは前記プライマリプーリよりも前記ベルトの速度が速くなるようにスリップさせ、
減速中かつ変速比が1以下のときは前記プライマリプーリよりも前記ベルトの速度が遅くなるようにスリップさせることを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項11】
動力源のトルクが入力されるプライマリプーリと、駆動輪にトルクを出力するセカンダリプーリと、これら二つのプーリの間に掛け渡されたベルトを有するベルト式無段変速機と、
前記プーリと前記ベルトとの間が所定スリップ状態となる前記動力源の目標回転数を演算する目標回転数演算手段と、
前記動力源が前記目標回転数となるように制御する回転数制御手段と、
前記二つのプーリのうち容量側となるプーリの油圧を、要求トルクと前記動力源の実トルクとの偏差に応じて設定する容量側プーリ油圧設定手段と、
前記二つのプーリの押し付け力を前記容量側プーリ油圧に基づいて制御し、所望の変速比を得る変速制御手段と、
を備えたことを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公開番号】特開2010−163157(P2010−163157A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278116(P2009−278116)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
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