説明

内燃機関の制御装置

【課題】 ドライバビリティおよび燃費を悪化させることなくトルクを制御する。
【解決手段】 ECUは、変速機が変速制御モードで制御されており(S100にてYES)、クラッチが接続状態であり(S102にてYES)、変速機側から、空気のみでのトルク制御要求がない場合(S106にてNO)、点火時期を最遅角にした場合の正味トルクTMを算出するステップ(S110)と、最遅角時の正味トルクTMが、予め定められたTM(0)以上である場合(S112にてYES)、空気のみでのトルク制御実行フラグをセットするステップ(S108)と、空気のみでのトルク制御実行フラグがセットされている場合(S110にてYES)、点火時期によるトルク制御を禁止し、空気のみでのトルク制御を実行するステップ(S112)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に常時噛合い式のギヤトレーンからなる自動変速機に連結された内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動変速機の変速時には、変速ショックを抑制してドライバビリティを向上させるために、点火時期の遅角(リタード)や空気量を絞ることにより、内燃機関(エンジン)のトルクが低下させられる。
【0003】
特開平9−310627号公報(特許文献1)は、応答性を確保しつつ、運転性を悪化させることなくトルクダウンを行なうトルクダウン制御装置を開示する。特許文献1に記載のトルクダウン制御装置は、自動変速機の変速時におけるトルクダウン要求時に、吸入空気量制御により出力トルクを強制的に低下させる制御を行なわせると共に、吸入空気量制御の応答遅れ期間において、点火時期制御と燃料供給量制御との少なくとも一方により出力トルクを強制的に低下させる制御を行なわせる。
【0004】
この公報に記載のトルクダウン制御装置によれば、吸入空気量制御の応答遅れを、点火時期制御及び/又は燃料供給量制御で補って、トルクダウン要求に対して応答良くエンジンの出力トルクを低下させることができる。すなわち、点火時期制御及び/又は燃料供給量制御は、吸入空気量制御よりも応答性が早いということである。
【特許文献1】特開平9−310627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、特に欧州において、常時噛合い式のギヤトレーンからなる自動変速機を搭載した車両が販売されている。このような車両においては、自動変速機と内燃機関とはクラッチを介して連結されている。そのため、クラッチが接続状態である場合において、内燃機関のトルク変動をショックとして乗員が感じやすい。しかしながら、特許文献1に記載のトルクダウン制御装置のように、トルクダウン中に点火時期制御及び/又は燃料供給量制御から吸入空気量制御に切換わると、応答性が変化することに伴ないトルクの変化率が急変する。そのため、乗員にショックを感じさせ、ドライバビリティが悪化するおそれがあるという問題点があった。また、点火時期制御により点火時期の遅角が行なわれれば、それだけ燃焼効率が悪化するので、燃費が悪化するという問題点もあった。
【0006】
本発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、ドライバビリティおよび燃費を悪化させることなくトルクを制御することができる内燃機関の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る内燃機関の制御装置において、内燃機関は、常時噛合い式のギヤトレーンからなる自動変速機にクラッチを介して連結されている。制御装置は、内燃機関に導入される空気量を変化させることおよび内燃機関の点火時期を変化させることを含む方法により、内燃機関のトルクを制御するための制御手段と、自動変速機の変速時における点火時期を遅角させた場合のトルクが、予め定められたトルク(たとえばクラッチを切断状態にするときのトルク)より高い場合、点火時期を変化させる方法によるトルクの制御を禁止するための手段とを含む。
【0008】
第1の発明によると、制御手段が、空気量を変化させることおよび点火時期を変化させることを含む方法により、内燃機関のトルクを制御する。変速時に、点火時期をたとえば最遅角にした場合のトルクが、クラッチを切断状態にするときのトルクよりも高ければ、点火時期を変化させる方法によるトルクの制御が禁止される。これにより、点火時期を遅角することによりクラッチを切断状態にするときのトルクまでトルクを低下させることができなければ、点火時期を変化させる方法によるトルク制御を禁止できる。この場合、たとえば空気量を変化させる方法のみによりトルクを低下させるようにする。そのため、クラッチを切断状態にするまでの間にトルク低減方法を切換える(たとえば点火時期制御から空気量制御へ切換える)ことに伴なう制御の応答性の差異によるトルクの変化率の急変を抑制し、ショックの発生を抑制することができる。また、点火時期を変化させる方法によるトルク制御が禁止される、すなわち、点火時期の遅角制御が禁止されるので、燃費の悪化を抑制することができる。その結果、ドライバビリティおよび燃費を悪化させることなくトルクを制御することができる内燃機関の制御装置を提供することができる。
【0009】
第2の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第1の発明の構成に加え、制御手段は、自動変速機の変速時における点火時期を遅角させた場合のトルクが、予め定められたトルク(たとえばクラッチを切断状態にするときのトルク)より高い場合、空気量を変化させる方法のみにより内燃機関のトルクを制御するための空気量制御手段を含む。
【0010】
第2の発明によると、変速時に、点火時期をたとえば最遅角にした場合のトルクが、クラッチを切断状態にするときのトルクよりも高ければ、空気量を変化させる方法のみによりトルクを低下させることができる。これにより、クラッチを切断状態にするために内燃機関のトルクを低下させる際、クラッチを切断状態にするまでの間にトルク低減方法を切換える(たとえば点火時期制御から空気量制御へ切換える)ことに伴なう制御の応答性の差異によるトルクの変化率の急変を抑制し、ショックの発生を抑制することができる。
【0011】
第3の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第1または2の発明の構成に加え、遅角させる角度は、内燃機関における最遅角である。
【0012】
第3の発明によると、変速時に、点火時期を最遅角にした場合のトルクが、クラッチを切断状態にするときのトルクよりも高ければ、点火時期を変化させる方法によるトルクの制御を禁止することができる。これにより、点火時期を遅角することによりクラッチを切断状態にするときのトルクまでトルクを低下させることができなければ、点火時期を変化させる方法によるトルク制御を禁止できる。そのため、クラッチを切断状態にするまでの間にトルク低減方法を切換える(たとえば点火時期制御から空気量制御へ切換える)ことに伴なう制御の応答性の差異によるトルクの変化率の急変を抑制し、ショックの発生を抑制することができる。
【0013】
第4の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第1〜3のいずれかの発明の構成に加え、予め定められたトルクは、クラッチを切断状態にするときのトルクである。
【0014】
第4の発明によると、点火時期を遅角することによりクラッチを切断状態にするときのトルクまでトルクを低下させることができなければ、点火時期を変化させる方法によるトルク制御を禁止できる。そのため、クラッチを切断状態にするまでの間にトルク低減方法を切換える(たとえば点火時期制御から空気量制御へ切換える)ことに伴なう制御の応答性の差異によるトルクの変化率の急変を抑制し、ショックの発生を抑制することができる。
【0015】
第5の発明に係る内燃機関の制御装置において、内燃機関は、常時噛合い式のギヤトレーンからなる自動変速機にクラッチを介して連結されている。自動変速機は、第1の変速モードおよび第1の変速モードに比べて燃費の良いタイミング(例えば低い車速)でアップシフトを行なう第2の変速モードを選択可能である。制御装置は、内燃機関に導入される空気量を変化させることおよび内燃機関の点火時期を変化させることを含む方法により内燃機関のトルクを制御するための制御手段と、第2の変速モードが選択されている場合、自動変速機の変速時において、点火時期を変化させる方法によるトルクの制御を禁止するための手段とを含む。
【0016】
第5の発明によると、制御手段が、空気量を変化させることおよび内燃機関を変化させることを含む方法により内燃機関のトルクを制御する。第2の変速モードが選択されている場合、自動変速機の変速時において、点火時期を変化させる方法によるトルクの制御が禁止される。これにより、変速時にクラッチを切断状態にするために内燃機関のトルクを低下させる際、たとえば空気量を変化させる方法のみによりトルクを低下させるようにする。そのため、クラッチを切断状態にするまでの間にトルク低減方法を切換える(たとえば点火時期制御から空気量制御へ切換える)ことに伴なう制御の応答性の差異によるトルクの変化率の急変を抑制し、ショックの発生を抑制することができる。また、点火時期を変化させる方法によるトルク制御が禁止される、すなわち、点火時期の遅角制御が禁止されるので、燃費の悪化を抑制することができる。その結果、ドライバビリティおよび燃費を悪化させることなくトルクを制御することができる内燃機関の制御装置を提供することができる。
【0017】
第6の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第5の発明の構成に加え、制御手段は、第2の変速モードが選択されている場合、自動変速機の変速時において、空気量を変化させる方法のみにより内燃機関のトルクを制御するための空気量制御手段を含む。
【0018】
第6の発明によると、第2の変速モードが選択されている場合、空気量を変化させる方法のみによりトルクを低下させることができる。そのため、クラッチを切断状態にするまでの間にトルク低減方法を切換える(たとえば点火時期制御から空気量制御へ切換える)ことに伴なう制御の応答性の差異によるトルクの変化率の急変を抑制し、ショックの発生を抑制することができる。また、点火時期を変化させる方法によるトルク制御が禁止される、すなわち、点火時期の遅角制御が禁止されるので、燃費の悪化を抑制することができる。
【0019】
第7の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第1〜6のいずれかの発明の構成に加え、空気量制御手段は、内燃機関のトルクを低下するように制御するための手段を含む。
【0020】
第7の発明によると、空気量のみによりトルクが低下させられる。これにより、変速時にクラッチを切断状態にする際、内燃機関から自動変速機に伝達されていたトルクが急に遮断されることを抑制し、ショックの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0022】
<第1の実施の形態>
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る内燃機関の制御装置を搭載した車両について説明する。この車両は、エンジン100で発生した駆動力が、クラッチ200、変速機300、デファレンシャルギヤ400およびドライブシャフト402を介して車輪404に伝達されることにより走行する。エンジン100、クラッチ200および変速機300は、ECU(Electronic Control Unit)500により制御される。本実施の形態に係る内燃機関の制御装置は、たとえば、ECU500において実行されるプログラムにより発現される。
【0023】
エンジン100は、ガソリンエンジンである。クラッチ200は、エンジン100のクランクシャフト600に連結されている。クラッチ出力軸202は、スプライン310を介して変速機300の入力軸302に連結されている。
【0024】
変速機300は、常時噛合い式のギヤトレーンから構成されている。変速機300におけるギヤ段の選択は、アクチュエータ304によりシフトフォークシャフトを摺動させることにより行なわれる。アクチュエータ304は、油圧により作動するものであってもよく、電力により作動するものであってもよい。なお、ダイレクトシリンダを用いたアクチュエータによりギヤ段の選択を行なってもよい。
【0025】
ECU500は、エンジンECU502、トランスミッションECU504、ROM(Read Only Memory)506およびRAM(Random Access Memory)508を含む。エンジンECU502は、エンジン100を制御する。トランスミッションECU504は、クラッチ200および変速機300を制御する。本実施の形態において、トランスミッションECU504は、変速機300の変速時に、変速制御モードで変速機300を制御する。トランスミッションECU504は、変速制御モードで変速機300を制御することにより、例えばエンジン100の正味トルクが0N・m付近まで低下したときにクラッチ200が切断状態になるようにクラッチ200を制御する。ここで、正味トルクとは、エンジン100が実際に発生するトルク(図示トルク)からエンジン100のフリクションや補機類の負荷などを減算したトルクをいう。クラッチ200が切断状態であるときに、トランスミッションECU504は、ギヤ段を変更するように変速機300を制御する。ギヤ段の変更が完了すると、トランスミッションECU504は、クラッチ200が接続状態になるようにクラッチ200を制御する。なお、変速制御モードでのクラッチ200および変速機300の制御は、これに限らない。
【0026】
エンジンECU502とトランスミッションECU504とは、相互に信号を送受信する。本実施の形態において、トランスミッションECU504は、変速制御モードでクラッチ200および変速機300を制御する場合、変速制御モードであることを示す信号をエンジンECU502に送信する。ROM506は、ECU500が実行するプログラムやマップなどを記憶する。本実施の形態において、ROM506に記憶された変速線図または運転者のシフト操作に基づいて、トランスミッションECU504は、変速制御モードで変速機300を制御するか否かを決定する。RAM508は、ECU500の演算結果を記憶する。
【0027】
ECU500には、ポジションセンサ510、アクセル開度センサ512、ブレーキスイッチ514、エコノミーモードスイッチ516、車速センサ518、入力軸回転数センサ520、出力軸回転数センサ522、およびタイミングロータ524の外周に対向して設けられたクランクポジションセンサ526から信号が送信される。
【0028】
ポジションセンサ510は、シフトレバーのシフトポジションを検出する。アクセル開度センサ512は、アクセルペダルのアクセル開度を検出する。ブレーキスイッチ514は、ブレーキペダルが踏まれたか否かを検出する。
【0029】
エコノミーモードスイッチ516が運転者によりオン操作された場合、ECU500はエコノミーモードで車両を制御する。エコノミーモードとは、通常走行時(エコノミーモードスイッチ516オフ時)と比べて燃費の良いタイミング(例えば低い車速)でアップシフトを行ない、走行性よりも燃費を重視した走行を行なうモードをいう。
【0030】
車速センサ518は、車速を検出する。入力軸回転数センサ520は、変速機300の入力軸の回転数を検出する。出力軸回転数センサ522は、変速機300の出力軸の回転数を検出する。クランクポジションセンサ526はエンジン回転数を検出する。
【0031】
ECU500は、これらのセンサから送信された信号、ROM506に記憶されたプログラムおよびマップなどに基づいて演算処理を行なう。本実施の形態において、ECU500は、運転者のシフト操作に基づいて、変速(アップシフトおよびダウンシフト)を行なう。なお、シフト操作の代わりに、ステアリング(図示せず)に設けられたスイッチの操作に基づいて、変速を行なってもよい。
【0032】
図2を参照して、エンジン100についてさらに説明する。エンジン100に吸入される空気は、エアクリーナ102によりろ過され、吸気管104およびインテークマニホールド106を通り、インジェクタ108から噴射された燃料とともに燃焼室内に導入される。
【0033】
燃焼室内で、空気と燃料との混合気が点火プラグ110により点火され、燃焼する。混合気が燃焼することにより、エンジン100は駆動力を発生する。燃焼後の混合気、すなわち排気ガスは、エギゾーストマニホールド112に導かれ、触媒114により浄化された後、車外に排出される。
【0034】
燃焼室内に導入される空気は、スロットルバルブ116により制御される。スロットルバルブ116はモータによって駆動される電子制御式のスロットルバルブである。スロットルバルブ116の開度は、ECU500により制御される。空気の量は、エアフローメータ528により検出され、検出結果を表す信号がECU500に送信される。スロットルバルブ116の開度は、スロットル開度センサ530により検出され、検出結果を表す信号がECU500に送信される。触媒114の温度TCは、温度センサ532により検出され、検出結果を表す信号がECU500に送信される。なお、温度センサ532により触媒温度TCを検出する代わりに、エンジン回転数、負荷、水温、吸気温度などに基づいて触媒温度TCを推定してもよい。
【0035】
図3を参照して、クラッチ200についてさらに説明する。クラッチ200は、乾式単板式の摩擦クラッチである。図3に示すように、クラッチ200は、クラッチ出力軸202と、クラッチ出力軸202に配設されたクラッチディスク204と、クラッチハウジング206と、クラッチハウジング206に配設されたプレッシャプレート208と、ダイヤフラムスプリング210と、クラッチレリーズシリンダ212と、レリーズフォーク214と、レリーズスリーブ216とを含む。
【0036】
ダイヤフラムスプリング210が、プレッシャプレート208を図3において右方向に付勢することにより、クラッチディスク204が、エンジン100のクランクシャフト600に取り付けられたフライホイール602に押付けられ、クラッチが接続される。
【0037】
クラッチレリーズシリンダ212が、レリーズフォーク214を介して図3において右方向へ、レリーズスリーブ216を移動させることにより、ダイヤフラムスプリング210の内端部が図3において右方向へ移動する。ダイヤフラムスプリング210の内端部が図3において右方向へ移動すると、プレッシャプレート208が図3において左方向に移動し、クラッチディスク204とフライホイール602とが離れてクラッチが切断される。
【0038】
クラッチレリーズシリンダ212は、リザーバ218から油圧ポンプ220により汲み上げられた作動油の油圧が、クラッチソレノイドバルブ222を介して供給されることにより作動する。クラッチソレノイドバルブ222は、クラッチレリーズシリンダ212に対する油圧の供給および排出を切換える。クラッチソレノイドバルブ222は、ECU500により制御される。
【0039】
クラッチレリーズシリンダ212に油圧が供給されると、クラッチレリーズシリンダ212のピストンが図3において左方向に移動し、レリーズスリーブ216が図3において右方向へ移動してクラッチが切断される。クラッチレリーズシリンダ212のピストンの位置(クラッチストローク)は、クラッチストロークセンサ534により検出される。クラッチストロークセンサ534の検出結果を表す信号は、ECU500に送信される。
【0040】
ECU500は、クラッチストロークセンサ534から送信された信号に基づいて、クラッチ200が切断状態にあるか、接続状態にあるか、半接続状態にあるかを検出する。なお、クラッチ200を電力により作動するようにしてもよい。
【0041】
図4を参照して、本実施の形態に係る内燃機関の制御装置においてECU500が実行するプログラムの制御構造について説明する。
【0042】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、ECU500は、現在、クラッチ200および変速機300が、変速制御モードで制御されているか否かを判別する。変速制御モードであるか否かは、トランスミッションECU504がエンジンECU502に送信する信号に基づいて判別すればよい。変速制御モードで変速機300が制御されている場合(S100にてYES)、処理はS102に移される。そうでない場合(S100にNO)、処理はS104に移される。
【0043】
S102にて、ECU500は、クラッチストロークセンサ534から送信された信号に基づいて、クラッチ200が切断状態にあるか否かを判別する。クラッチ200が切断状態にある場合(S102にてYES)、処理はS104に移される。そうでない場合(S102にてNO)、処理はS106に移される。
【0044】
S104にて、ECU500は、空気のみでのトルク制御実行フラグをリセットする。S106にて、ECU500は、変速機300側から、空気のみでのトルク制御が要求されているか否かを判別する。空気のみでのトルク制御が要求されているか否かは、トランスミッションECU504からエンジンECU502に送信される信号に基づいて判別される。トランスミッションECU504は、たとえば低速時の変速において、クラッチ200の切断が開始されてから切断が完了するまでの間に、エンジントルクを緩やかに低下させ、変速ショックを抑制した変速を行なう場合、空気のみでのトルク制御を要求する。空気のみでのトルク制御を要求する場合は、トランスミッションECU504からエンジンECU502に信号が送信される。空気のみでのトルク制御が要求されている場合(S106にてYES)、処理はS108に移される。そうでない場合(S106にてNO)、処理はS110に移される。
【0045】
S108にて、ECU500は、空気のみでのトルク制御実行フラグをセットする。S110にて、ECU500は、点火時期を最遅角にした場合の正味トルクTMを算出する。最遅角とは、たとえば触媒114の温度が限界温度以下であることおよび失火しないことなどを含む条件を満たす限り、点火時期を最も遅くすることができるクランク角である。最遅角は、予め実験などにより求められる。正味トルクとは、エンジン100が実際に発生するトルク(図示トルク)から、エンジン100自体のフリクション、ポンピングロス、負荷などのトルク損失分を減算したトルクで、変速機300の入力されるトルクである。最遅角時の正味トルクTMは、ROM506に記憶されたマップに基づいて算出される。
【0046】
S112にて、ECU500は、最遅角時の正味トルクTMが、予め定められたトルクTM(0)より大きいか否かを判別する。本実施の形態において、トルクTM(0)はショック抑制やエンジン回転数吹き上がりなどを抑制できる値として例えば0N・mに設定される。0N・mは、変速時にクラッチが切断状態にされるときのトルクである。正味トルクが0N・mである場合、エンジン100から変速機300にトルクが伝達されていない状態といえ、このときにクラッチ200を切断状態にすることにより、クラッチ200の切断によるショックの発生を抑制することができる。最遅角時の正味トルクTMが、予め定められたトルクTM(0)より大きい場合(S112にてYES)、処理はS108に移される。そうでない場合(S112にてNO)、処理はS114に移される。
【0047】
なお、クラッチ200を切断状態にするために正味トルクが低下させられるにつれ、エンジン100に導入される空気量も減り、最遅角時の正味トルクTMが低下する。変速開始直後において、正味トルクと最遅角時の正味トルクとの偏差が大きい場合には、最遅角時の正味トルクTMの低下量が大きい。この場合、変速開始直後において、最遅角時の正味トルクTMが0N・mより高くても、最終的には最遅角時の正味トルクTMが0N・m以下となる場合がある。したがって、変速開始直後において、正味トルクと最遅角時の正味トルクTMとの偏差が大きい場合には、トルクTM(0)を偏差に応じて0N・mよりも高いトルクに変更してもよい。
【0048】
S114にて、ECU500は、空気のみでのトルク制御実行フラグがセットされているか否かを判別する。空気のみでのトルク制御実行フラグがセットされている場合(S114にてYES)、処理はS116に移される。そうでない場合(S114にてNO)、処理はS118に移される。
【0049】
S116にて、ECU500は、点火時期によるトルク制御を禁止し、空気のみ、すなわちスロットルバルブ116の開度のみで、エンジン100のトルクを制御する。S118にて、ECU500は、空気および点火時期により、エンジン100のトルクを制御する。
【0050】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る内燃機関の制御装置のECU500の動作について説明する。
【0051】
変速時でない場合(S100にてNO)、空気のみでのトルク制御実行フラグがリセットされている(S104)。そのため、アイドリング時、ノッキング発生時、触媒114の暖機時、アクセル操作時などに、空気および点火時期により、車両の運転状態に応じて応答性良くトルク制御が行なわれる(S110にてNO、S114)。
【0052】
変速線図に基づいて変速する必要があると判断されたり、運転者のシフト操作により変速が要求されたりすると、変速機300が変速制御モードで制御され(S100にてYES)、クラッチ200が切断状態にあるか否かが判別される(S102)。
【0053】
クラッチ200が切断状態となっておらず、接続状態(半接続状態を含む)である場合において(S102にてNO)、変速機300側から、空気のみでのトルク制御が要求されていれば(S106にてYES)、空気のみでのトルク制御実行フラグがセットされる(S108)。
【0054】
空気のみでのトルク制御実行フラグがセットされれば(S110にてYES)、点火時期によるトルク制御が禁止され、空気のみ、すなわちスロットルバルブ116の開度のみによるトルク制御が実行される(S116)。このとき、エンジン100のトルクは、変速機300側が要求するトルクに対応するように低下させられる。
【0055】
空気のみでトルク制御を行なう場合、スロットルバルブ116の開度を変化させても、空気の流量は速やかに変化しないため、応答遅れが生じる。そのため、トルクが緩やかに低下する。その結果、クラッチ200が接続状態である場合において、トルクの急変が抑制され、変速ショックが抑制される。
【0056】
トルクが十分に低下し、ギヤ段を変更するためにクラッチ200が切断されると(S102にてYES)、空気のみでのトルク制御実行フラグがリセットされる(S104)。これにより、空気および点火時期によるトルク制御に戻される(S114にてNO、S118)。これにより、車両の運転状態に応じて応答性良くトルク制御が行なわれる。なお、空気および点火時期によるトルク制御に戻されるための条件は、クラッチ200が切断状態となったという条件のみであってもよい。
【0057】
一方、変速機300側から、空気のみでのトルク制御が要求されていなければ(S106にてNO)、点火時期を最遅角にした場合の正味トルクTMが、ROM506に記憶されたマップに基づいて算出される(S110)。最遅角時の正味トルクTMが、TM(0)より大きければ(S112にてYES)、変速時にクラッチ200を切断状態にするときのトルクまで遅角制御によりトルクを低下させることができない状態であるといえる。この場合、クラッチ200を切断状態にするときのトルクまで低下させるには、さらにスロットルバルブ116により空気量を絞ることが必要となる。しかしながら、点火時期によるトルク制御と空気によるトルク制御とでは応答性が異なるため、トルクの低下率が変化し、乗員にショックを与えるおそれがある。
【0058】
したがって、最遅角時の正味トルクTMが、TM(0)より大きければ(S112にてYES)、空気のみでのトルク制御実行フラグがセットされる(S108)。これにより、点火時期によるトルク制御が禁止され、空気のみ、すなわちスロットルバルブ116の開度のみによるトルク制御が実行されて(S114にてYES、S116)、トルクが低下する。
【0059】
トルクが十分に低下し、ギヤ段を変更するためにクラッチ200が切断されると(S102にてYES)、空気のみでのトルク制御実行フラグがリセットされ(S104)、空気および点火時期によるトルク制御に戻される(S114にてNO、S118)。
【0060】
これにより、クラッチ200が切断状態となるまでは、空気のみによりトルク制御が実行されるので、クラッチ200が接続状態である場合にトルクの変化率が変化し、乗員にショックを与えることを抑制することができる。また、点火時期によるトルク制御が行なわれないので、遅角制御が行なわれない。そのため、燃焼効率の悪化が抑制されて、燃費の悪化を抑制することができる。
【0061】
以上のように、本実施の形態に係る内燃機関の制御装置のECUは、変速時にクラッチが接続状態であり、点火時期を最遅角にした場合の正味トルクTMが、TM(0)より大きければ、点火時期によるトルク制御を禁止し、空気のみによりトルク制御を行なう。これにより、クラッチ200が切断状態となるまでにトルクの変化率が変化し、乗員にショックを与えてドライバビリティが悪化することを抑制することができる。また、点火時期によるトルク制御が禁止されるため、遅角制御が禁止される。これにより、燃焼効率の悪化を抑制し、燃費の悪化を抑制することができる。
【0062】
<第2の実施の形態>
図5を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。前述の第1の実施の形態においては、最遅角時の正味トルクTMがTM(0)より大きい場合に点火時期によるトルク制御を禁止していた。本実施の形態においては、エコノミーモードが選択されている場合に、点火時期によるトルク制御を禁止する。
【0063】
その他の構造については、前述の第1の実施の形態と同じである。それらについての機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰返さない。
【0064】
図5を参照して、本実施の形態に係る内燃機関の制御装置のECU500が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、前述の第1の実施の形態と同じ処理については、同一のステップ番号を付してある。したがって、ここではそれらの詳細な説明は繰返さない。
【0065】
S200にて、ECU500は、エコノミーモードスイッチ516から送信される信号に基づいて、エコノミーモードが選択されているか否かを判別する。エコノミーモードが選択されている場合(S200にてYES)、処理はS108に移される。そうでない場合(S200にてNO)、処理はS114に移される。
【0066】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る内燃機関の制御装置のECU500の動作について説明する。
【0067】
変速機300が変速制御モードで制御されており(S100にてYES)、クラッチ200が接続状態である場合において(S102にてNO)、変速機300側から、空気のみでのトルク制御が要求されていない(S106にてNO)と想定する。
【0068】
この場合、エコノミーモードが選択されていれば(S200にてYES)、空気のみでのトルク制御実行フラグがセットされる(S108)。これにより、点火時期によるトルク制御が禁止され、空気のみ、すなわちスロットルバルブ116の開度のみによるトルク制御が実行されて(S114にてYES、S116)、トルクが低下する。
【0069】
トルクが十分に低下し、ギヤ段を変更するためにクラッチ200が切断されると(S102にてYES)、空気のみでのトルク制御実行フラグがリセットされ(S104)、空気および点火時期によるトルク制御に戻される(S114にてNO、S118)。
【0070】
これにより、クラッチ200が切断状態となるまでは、空気のみでトルク制御実行されるので、クラッチ200が接続状態である場合にトルクの変化率が変化し、乗員にショックを与えることを抑制することができる。また、点火時期によるトルク制御が行なわれないので、遅角制御が行なわれない。そのため、燃焼効率の悪化が抑制されて、燃費の悪化を抑制することができる。
【0071】
以上のように、本実施の形態に係る内燃機関の制御装置のECUは、変速時にクラッチが接続状態であり、エコノミーモードが選択されている場合、点火時期によるトルク制御を禁止し、空気のみによりトルク制御を行なう。これにより、クラッチ200が切断状態となるまでにトルクの変化率が変化し、乗員にショックを与えてドライバビリティが悪化することを抑制することができる。また、点火時期によるトルク制御が禁止されるため、遅角制御が禁止される。これにより、燃焼効率の悪化を抑制し、燃費の悪化を抑制することができる。
【0072】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置を搭載した車両を示す制御ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置により制御されるエンジンを示す制御ブロック図である。
【図3】クラッチを示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る内燃機関の制御装置のECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る内燃機関の制御装置のECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0074】
100 エンジン、108 インジェクタ、110 点火プラグ、116 スロットルバルブ、200 クラッチ、300 変速機、500 ECU、502 エンジンECU、504 トランスミッションECU、506 ROM、508 RAM、516 エコノミーモードスイッチ、528 エアフローメータ、530 スロットル開度センサ、534 クラッチストロークセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関は、常時噛合い式のギヤトレーンからなる自動変速機にクラッチを介して連結され、
前記内燃機関に導入される空気量を変化させることおよび前記内燃機関の点火時期を変化させることを含む方法により、前記内燃機関のトルクを制御するための制御手段と、
前記自動変速機の変速時における点火時期を遅角させた場合のトルクが、予め定められたトルクより高い場合、点火時期を変化させる方法によるトルクの制御を禁止するための手段とを含む、内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記自動変速機の変速時における点火時期を遅角させた場合のトルクが、前記予め定められたトルクより高い場合、空気量を変化させる方法のみにより前記内燃機関のトルクを制御するための空気量制御手段を含む、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記遅角させる角度は、前記内燃機関における最遅角である、請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記予め定められたトルクは、前記クラッチを切断状態にするときのトルクである、請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関は、常時噛合い式のギヤトレーンからなる自動変速機にクラッチを介して連結され、前記自動変速機は、第1の変速モードおよび前記第1の変速モードに比べて燃費の良いタイミングでアップシフトを行なう第2の変速モードを選択可能であり、
前記内燃機関に導入される空気量を変化させることおよび前記内燃機関の点火時期を変化させることを含む方法により、前記内燃機関のトルクを制御するための制御手段と、
前記第2の変速モードが選択されている場合、前記自動変速機の変速時において、点火時期を変化させる方法によるトルクの制御を禁止するための手段とを含む、内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記第2の変速モードが選択されている場合、前記自動変速機の変速時において、空気量を変化させる方法のみにより前記内燃機関のトルクを制御するための空気量制御手段を含む、請求項5に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記空気量制御手段は、前記内燃機関のトルクを低下するように制御するための手段を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−46209(P2006−46209A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229336(P2004−229336)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】