説明

基板処理装置

【課題】電圧印加手段から電圧が印加される給電部材の弾性の劣化やヘタリを評価することができる。
【解決手段】基板処理装置は、搬入口と搬出口を有するチャンバ85と、チャンバ内にガスを供給するガス供給手段12と、ガスをプラズマにするためのプラズマ発生手段と、基板を保持する基板ホルダ20と、搬入口から搬入され、搬出口へと基板ホルダを保持しながら搬送するキャリア2と、基板ホルダ20に電圧を印加するための電圧印加手段16と、給電部材13を可動して、該給電部材を基板ホルダ20に接触又は非接触させることにより、電圧印加手段16からの電圧を供給するための駆動手段18と、給電部材13に流れる電流を測定する電流測定手段17と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送可能な基板ホルダに対して、電圧を印加する電圧印加装置を用いた基板処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイス、液晶表示装置、EL表示装置、太陽電池等の各種薄膜デバイスの製造にはイオンビームスパッタリング装置やイオンビームエッチング装置、CVD装置等が広く使用されている。これらのプラズマ装置で、基板に電圧を印加して、イオン等を引き込むことで、成膜処理又はエッチング処理を行う技術が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1によれば、基板ホルダを搬送機構によって、搬送し、複数の膜を積層させる磁気記録媒体の製造装置において、基板ホルダが所定のチャンバに到達したとき、バイアス印加電源の出力軸を基板ホルダのカップリングに接触させることより、基板ホルダに電圧を印加しながら、スパッタリング成膜する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−33468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の製造装置を用いて、磁気記録媒体を大量生産する場合、バイアス印加電源の出力軸の先端部(板バネなど)と基板ホルダを接触させるので、先端部の弾性の劣化やヘタリが生じ、基板ホルダに正常に電圧を印加できなくなってしまうという問題がある。また、従来技術では、バイアス印加の給電部構造として、板バネを基板ホルダに接触させていたが、板バネも基板ホルダも板状なので、しっかり押し付けたとしても、微視的には板バネの接触させている面積に対して、変形や偏りなどで実際に接触している部分少なくなり、電圧の印加効率が悪い。最悪の場合には、微小なギャップが出来て、そこでアーク放電して板バネが溶ける等の問題も発生する恐れがあった。
従来、こうした問題を発見するため、チャンバに設けられた扉を開け、チャンバ内を大気にし、作業者が、先端部の接触状態を目視して確認する必要があった。しかしながら、こうした目視による確認作業は、あくまで作業者の経験や技能に左右されるものであった。特に、真空装置において、真空状態と大気状態とでは、板バネの接触状態が変わってしまうため、大気状態における板バネの接触状態を目視した上で、真空状態における板バネの接触状態を予測する必要があり、目視作業に熟練の経験や高い技能が必要とされていた。
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、作業者の経験や技能に左右されず、電圧印加電源からの電圧が給電される給電部材の先端部のヘタリを確実に確認可能な基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る基板処理装置は、搬入口と搬出口を有するチャンバと、前記チャンバ内にガスを供給するガス供給手段と、前記ガスをプラズマにするためのプラズマ発生手段と、基板を保持する基板ホルダと、前記搬入口から搬入され、前記搬出口へと基板ホルダを保持しながら搬送するキャリアと、前記基板ホルダに電圧を印加するための電圧印加手段と、給電部材を可動して、該給電部材を前記基板ホルダに接触又は非接触させることにより、前記電圧印加手段からの電圧を供給するための駆動手段と、前記給電部材に流れる電流を測定する電流測定手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基板ホルダと電圧印加手段との間に、電流測定手段を設けることにより、作業者の経験や技能に左右されることなく、電圧印加装置の先端部の弾性の劣化やヘタリを評価することができる。また、電圧印加装置を備えたチャンバを、大気にさらすことなく、電圧印加装置の給電部材と基板ホルダとの接触状態を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る薄膜形成装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明に係る基板処理装置の一実施形態を示す断面図である。
【図3】図2の基板ホルダ20付近を詳細に示す構成図である。
【図4】給電部材と基板ホルダとの正常な接触状態を示す図である。
【図5】図4の接触状態における電流測定手段による電流波形を説明する図である。
【図6】給電部材と基板ホルダとの不十分な接触状態を示す図である。
【図7】図6の接触状態における電流測定手段による電流波形を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。以下の実施形態では、本発明を磁気記録ディスクを製造する装置に適用した場合の例について説明する。
【0010】
図1は本発明に係る薄膜形成装置の一実施形態の構成を示す平面図である。本実施形態の薄膜形成装置は、インライン式の装置である。インライン式とは、複数のチャンバが一列に縦設され、それらのチャンバを経由して基板9の搬送路が設定されている装置の総称である。
本実施形態では、複数のチャンバ1,80,81,82,83,84,85,87,88,89,800が方形の輪郭に沿って縦設されており、これに沿って方形の搬送路が設定されている。これら複数のチャンバは真空連結されている。
【0011】
各チャンバ1,80,81,82,83,84,85,87,88,89,800は、専用又は兼用の排気手段によって排気される真空チャンバである。各チャンバ1,80,81,82,83,84,85,87,88,89,800の境界部分には、ゲートバルブ10が設けられている。基板9はキャリア2に搭載され、図1中の不図示の搬送機構によって搬送路に沿って搬送される。
【0012】
複数のチャンバ1,80,81,82,83,84,85,87,88,89,800のうち、方形の一辺に隣接して配置されたチャンバ81が、キャリア2に搭載された基板ホルダへの基板9の装着を行うロードロックチャンバである。82がキャリア2からの基板9の回収を行うアンロードロックチャンバである。
【0013】
また、方形の他の三辺に配置されたチャンバ1,80,83,84,85,88,89,800は、各種処理を行う処理チャンバである。具体的には、83は薄膜の作製前に基板9を予め加熱するプリヒートチャンバ、1は異方性付与層を作製する異方性付与層形成チャンバである。
【0014】
84は異方性付与層の上に下地層を作製する下地層形成チャンバ、88は下地層上に中間層を形成する中間層形成チャンバ、80は中間層の上に磁気記録層を形成する磁気記録層形成チャンバである。
【0015】
更に、85は磁気記録層の上に保護層を作製する保護層形成チャンバ、800はエッチングチャンバである。また、方形の角の部分のチャンバ87は基板9の搬送方向を90度転換する方向転換機構を備えた方向転換チャンバ87である。処理チャンバ89は予備のものである。
【0016】
キャリア2に搭載された基板ホルダは、基板9の周縁を数カ所で接触保持して基板9を保持するものである。搬送機構は、磁気結合方式により動力を真空側に導入してキャリア2を移動させる。キャリア2は搬送ラインに沿って並べられた多数の従動ローラに支持されながら移動する。このようなキャリア2及び搬送機構の構成としては、例えば、特開平8−274142号公報に開示された構成を採用することができる。
【0017】
図2は保護層形成チャンバ85の側面断面図を示す。本実施形態では保護層形成チャンバ85を基板処理装置として説明するが、本発明は基板に成膜する場合に基板に電圧を印加する必要になる他の真空チャンバにも使用することが可能である。なお、図2では図1と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。保護層形成チャンバ85は、磁気記録層の保護膜層をCVD成膜するものである。図2は基板ホルダ20に給電部材13を接触させた状態を示す。
【0018】
具体的には、保護層形成チャンバ85は、内部を排気する排気手段11と、内部にプロセスガス(アルゴンなどの不活性ガス、酸素などの反応性ガス)を導入するガス導入系12と、基板9の周囲に設けられたアノード(チャンバ壁面)100とを備えている。また、基板9を保持するための金属製等の導電性を有する基板ホルダ20を備えている。基板ホルダ20の材質としては、A5052等のアルミニウム合金製であり、その表面は、スパッタリング等による付着膜が剥離しゴミが発生することを防止するために、ブラスト加工が施されている。
また、基板ホルダ20に電圧を印加するための電圧印加装置150として、真空処理チャンバ85と、真空処理チャンバ85内に設けられた基板ホルダ20と、基板ホルダ20に電圧を印加するための給電部材13と、真空処理チャンバ85の外部に設けられ、かつ給電部材13を可動して、基板ホルダ20に接触又は非接触させる駆動機構18と、を備える。
【0019】
駆動機構18は、気密封止のシール部材としてのベローズ14と、ベローズ14の内側に設けられた導体棒15とを備えており、導体棒15の先端に給電部材13が固着又は一体に形成されている。この構造では、ベローズ14により導体棒15を図面上左右方向に駆動することで、給電部材13が基板ホルダ20に対して接触又は非接触となる。
【0020】
給電部材13は、弾性を有する導電性(金属)の部材(例えば、インコネル、ステンレス合金鋼、Co−Ni合金等)を板バネ状に形成してある。駆動機構18の駆動により基板ホルダ20に給電部材13が接触することで、導体棒15に接続されたパルスDC電圧印加手段16から基板ホルダ20に高圧パルスDC電圧を印加することができる。
【0021】
排気手段11は、クライオポンプ等の真空ポンプを備えており、保護層形成チャンバ85内を10−5Pa程度まで排気可能に構成されている。本実施形態では、基板9の両面に同時に成膜するため、キャリア2に保持された基板9の周囲にアノード(チャンバ壁面)100が配置されている。
【0022】
ガス導入手段12によって炭化水素ガスを導入しながら排気手段11によって保護層形成チャンバ85内を所定の圧力に保ち、この状態で、電圧印加電源(パルスDC電源)16を作動させる。この結果、プラズマが生じて基板9に成膜する。つまり、本例では、電圧印加電源16がプラズマ発生手段としての機能も兼用している。本実施形態では、カソード電源である電圧印加電源16が作動中、または作動の直前において、不図示の制御部(コンピュータ)によって給電部材13が基板ホルダ20と接触するように駆動手段18を制御する。即ち、成膜する直前に基板ホルダ20に給電部材13を接触させることにより、基板ホルダ20にパルスDC電圧を印加しながら、成膜することができる。
なお、基板処理装置は、プラズマ発生手段を、電圧印加電源16以外として、備えるようにしてもよい。本例では、プラズマ発生手段としては、対向した平行平板電極(基板ホルダ20とチャンバ100)間に電圧を印加する方式を採用したが、これ以外の方式、例えば、コイル状巻線アンテナ、直流アーク放電によるフィラメント等を別途設けてもよい。
【0023】
電流測定手段17は、給電部材13と電圧印加電源(パルスDC電源)16との間に設けられ、電流波形を測定することができる。つまり、電流測定手段17は、パルスDC電源の高周波成分(RF成分)と直流成分(DC成分)をともに測定することができる。
【0024】
次に、図3を参照して基板ホルダ20の詳細な構成を説明する。図3は基板ホルダ20の周辺を詳細に示す図である。図3(A)は正面図、図3(B)は側面図である。図3では図1、図2と同一部分には同一符号を付している。図中20aは基板ホルダ20の上端部、20bは下端部を示す。5は基板9を基板ホルダ20に保持するための爪、21はシールドである。
【0025】
基板ホルダ20を複数のチャンバ間を移動させるため、基板ホルダ20はキャリア2に搭載されている。基板ホルダ20とキャリア2とは、絶縁石300によって電気的に絶縁電位になるように構成されている。これは、様々な基板処理の際に基板電位を変更してスパッタリングやイオンビームエッチング等の基板処理をするためである。
【0026】
図3(B)に示すように、シールド21は、処理チャンバ内を、基板処理空間と排気空間とに分割している。基板処理空間とは、基板ホルダ20に保持された基板9が位置され、基板処理が行なわれる空間である。排気空間は、基板ホルダ20に保持された基板9が位置されておらず、排気手段11と接続された空間である。基板ホルダ20は、排気空間で、シールド21の下方に延設された下端部20bを有し、この下端部20bに給電部材13を接触させることにより、基板ホルダ20へバイアスを印加するものである。基板9を保持する基板ホルダ20の上端部20aに給電部材13を接触させないのは、基板処理の邪魔にならないようにしたり、或いは基板ホルダ20と給電部材13との接触により発生するゴミが基板に付着するのを減少させたりするためである。
【0027】
また、弾性を持つ給電部材13を使用したり、接触時の速度制御を行ったりすることにより、下端部20bへの接触時の衝撃を減らし、ゴミの発生を減少させている。本実施形態では、以上のように基板9にCVD成膜している間又は成膜する直前に基板ホルダ20に給電部材13を接触させることにより基板9へバイアスを印加するものである。
【0028】
図4乃至図7を参照して、給電部材と基板ホルダとの接触状態による電流値の変化を説明する。
図4は、給電部材と基板ホルダとの正常な接触状態を示す図である。図5は、図4の接触状態における電流測定手段による電流波形を説明する図である。
図6は、給電部材と基板ホルダとの不十分な接触状態を示す図である。図7は、図6の接触状態における電流測定手段による電流波形を説明する図である。
図4に示すように、正常な接触状態では、給電部材13と基板ホルダ20との接触面積が大きく、電気抵抗が小さい。また、給電部材13と基板ホルダ20の電気的関係は直接接触による分が多くを占め、給電部材13と基板ホルダ20間の隙間が形成するギャップ部分による容量結合分は少ない。そのため、図5に示すように、電流測定手段17により測定された電流波形では、DC成分におけるRF成分の比率が比較的小さい。
一方、図6に示すように不十分な接触状態では、給電部材13と基板ホルダ20との接触面積が小さく、電気抵抗が比較的大きくなる。また、給電部材13と基板ホルダ20の電気的関係は直接接触による分が少なく、給電部材13と基板ホルダ20間の隙間が形成するギャップ部分による容量結合分の比が図5に示す正常な接触状態に比べて多い。そのため、図7に示すように、電流測定手段17により測定された電流波形では、DC成分におけるRF成分の比率が比較的高い。これに対して、本発明における判定手段24は電流測定手段17による電流波形に基づいて、印加するDC電圧の立ち上がり部分と立ち下がり部分においてDC成分とRF成分の比率や差分を観測することにより、接触状態が正常か、不十分かを判定することができる。また、判定手段24により、接触状態が不十分であると判定された場合は、装置を停止したり、メンテナンスが必要である旨を作業者に報知したりすることができる。判定手段24は、DC成分におけるRF成分の比率や、DC成分とRF成分との差分に基づいて、接触状態が正常か、不十分かを判定するものである。判定をDC成分のみの値に基づいて行うことは理論的には可能であるが、放電条件による変化分が大きく、判定精度の確保が難しいが、本方法によれば(もしくは併用すれば)より精度良く、またはより簡便に判定することが可能となる。
【0029】
上述した実施形態では、基板処理装置として、CVD装置を用いたが、これに限定されるものではなく、スパッタリング装置、イオンビーム装置、エッチング装置等のプラズマ処理装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
2 キャリア
9 基板
10 ゲートバルブ
11 排気手段
12 ガス供給手段
13 給電部材
14 ベローズ
15 導体棒
16 電圧印加手段
17 電流測定手段
18 駆動手段
20 基板ホルダ
21 シールド
22 絶縁体
23 駆動手段(モータ)
85 保護層形成チャンバ
100 チャンバ





【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬入口と搬出口を有するチャンバと、
前記チャンバ内にガスを供給するガス供給手段と、
前記ガスをプラズマにするためのプラズマ発生手段と、
基板を保持する基板ホルダと、
前記搬入口から搬入され、前記搬出口へと基板ホルダを保持しながら搬送するキャリアと、
前記基板ホルダに電圧を印加するための電圧印加手段と、
給電部材を可動して、該給電部材を前記基板ホルダに接触又は非接触させることにより、前記電圧印加手段からの電圧を供給するための駆動手段と、
前記給電部材に流れる電流を測定する電流測定手段と、
を備えることを特徴とする基板処理装置。
【請求項2】
前記電圧印加手段は、直流またはパルス電圧を印加するものであることを特徴とする請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記電流測定手段は、前記給電部材と前記電圧印加手段との間に流れる高周波成分と直流成分をそれぞれ測定するものであることを特徴とする請求項2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記電流測定手段により測定された電流に基づいて、前記給電部材と前記基板ホルダとの接触状態を判定する判定手段を有することを特徴とする請求項3に記載の基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−136758(P2012−136758A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291271(P2010−291271)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】