説明

基板処理装置

【課題】高温条件下で行なわれるSiCエピタキシャル膜の成膜処理において、複数枚の基板上にわたって均一なSiCエピタキシャル膜を成膜することができる基板処理装置を提供する。
【解決手段】本実施の形態では、異なる第1のガス供給系と第2のガス供給系を設け、第1のガス供給系からアルゴン(Ar)ガス、四塩化珪素(SiCl)ガス、プロパン(C)ガスの一部および塩化水素(HCl)ガスを供給し、第2のガス供給系から残りのプロパン(C)ガスと水素(H)ガスを供給している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を処理する基板処理装置に関し、特に、炭化珪素(以下、SiCともいう)エピタキシャル膜を基板上に成膜する基板処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2006−196807号公報(特許文献1)には、サセプタに対向する面への原料ガスに起因する堆積物の付着、および、原料ガスに対流が発生することによるSiCのエピタキシャル成長の不安定化という課題を解決するために、サセプタの基板を保持する面が下方を向くように配置した真空成膜装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−196807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭化珪素(SiC)は、特に、パワーデバイス用素子材料として注目されている。一方で、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて結晶基板やデバイスの作製が難しいことが知られている。例えば、従来の炭化珪素(SiC)エピタキシャル膜を製造する半導体製造装置では、反応室中のガス濃度分布が均一でなく、基板に成膜される膜の厚さが不均一になる問題点がある。
【0005】
本発明の目的は、高温条件下で行なわれるSiCエピタキシャル膜の成膜処理において、複数枚の基板上にわたって均一なSiCエピタキシャル膜を成膜することができる基板処理装置を提供することにある。
【0006】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0008】
本発明における基板処理装置は、所定の間隔で配列された複数枚の基板を処理する反応室と、該反応室内に設けられた被加熱体と、前記反応室内に少なくともシリコン原子含有ガス、塩素原子含有ガス、及び、炭素原子含有ガスを供給する第1のガス供給系と、前記反応室内に少なくとも炭素原子含有ガスを供給する第2のガス供給系とを備える。そして、前記被加熱体と基板との間の基板の配列領域にその一部が設けられ、基板の配列領域に1以上設けられる第1のガス供給口を有する第1のガス供給ノズルと、前記被加熱体と基板との間の基板の配列領域にその一部が設けられ、基板の配列領域に1以上設けられる第2のガス供給口を有する第2のガス供給ノズルとを備える。さらに、前記第1のガス供給系が前記反応室内に前記第1のガス供給口より少なくともシリコン原子含有ガス、塩素原子含有ガス、及び、炭素原子含有ガスを供給し、前記第2のガス供給系が前記反応室内に前記第2のガス供給口から少なくとも炭素原子含有ガスを供給して基板上に炭化珪素エピタキシャル膜を成膜するように制御するコントローラとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0010】
高温条件下で行なわれるSiCエピタキシャル膜の成膜処理において、複数枚の基板上にわたって均一なSiCエピタキシャル膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】炭化珪素エピタキシャル膜を成膜処理する本発明者が検討した成膜装置の要部構成の一例を示す模式図である。
【図2】炭化珪素エピタキシャル膜を成膜処理する本発明者が検討した成膜装置の要部構成の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態における基板処理装置の外観構成を示す斜視図である。
【図4】実施の形態における基板処理装置の処理炉の構成を示す模式図である。
【図5】半導体基板をウェハホルダで保持する様子を示す断面図である。
【図6】処理室を上部から見た断面模式図である。
【図7】実施の形態における基板処理装置の処理炉周辺の構成を示す図である。
【図8】実施の形態における基板処理装置を制御するコントローラの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0013】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0014】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0015】
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0016】
また、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0017】
<パワーMISFETに炭化珪素エピタキシャル膜を使用する利点>
数ワット以上の電力を扱える大電力用途のトランジスタをパワーMISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)といい、種々の構造のものが検討されている。パワーMISFETにおいて、オン抵抗の低減と耐圧の向上とは基板材料のバンドギャップで規定されるトレードオフの関係にある。このとき、絶縁破壊電圧強度は基板材料のバンドギャップの大きさに依存するため、基板材料としてバンドギャップの大きな材料を使用することにより耐圧の確保が容易となる。したがって、パワーMISFETとして広く用いられているシリコン素子の性能を超えるためには、シリコンよりもバンドギャップが大きな基板材料を用いることが有効である。特に、炭化珪素(炭化シリコン、SiC)は、シリコンに比べバンドギャップが約3倍と十分に大きいこと、p型およびn型の導電型を容易に形成できること、熱酸化により酸化膜を形成できることなどの特徴を有することから、高性能のパワーMISFETを実現できる可能性があり大きな注目を集めている。
【0018】
<炭化珪素エピタキシャル膜の製造上の問題点>
しかし、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて融点が高いこと、常圧下での液相を持たないこと、不純物拡散係数が小さいことなどから、シリコン(Si)に比べて、基板上へのエピタキシャル膜の作製が難しいことが知られている。例えば、シリコン(Si)からなるエピタキシャル膜の成膜温度が900℃〜1200℃であるのに対し、炭化珪素(SiC)からなるエピタキシャル膜の成膜温度が1500℃〜1700℃程度と高くなることから、炭化珪素エピタキシャル膜を形成する成膜装置では、成膜装置の耐熱構造や原料ガスの分解抑制に技術的な工夫が必要である。また、シリコン(Si)と炭素(C)の2元素で炭化珪素(SiC)の成膜反応が進むため、炭化珪素エピタキシャル膜の膜厚や組成均一性の確保やドーピングレベルの制御技術にも、シリコンからなるエピタキシャル膜を形成する成膜装置にはない工夫が必要となる。
【0019】
図1は、炭化珪素(SiC)エピタキシャル膜を半導体基板上に成膜する本発明者が検討した第1成膜装置の主要構成を示す模式図である。図1において、本発明者が検討した第1成膜装置は、処理炉20を有し、この処理炉20は、円筒形の処理室100を形成する反応管101を備えている。反応管101は、例えば、石英や炭化珪素などの耐熱性材料から構成されており、上端が閉塞し、下端が開口した円筒形状をしている。このように形成されている反応管101の内部に処理室100が存在し、この処理室100の内部にボート18が搬入されている。ボート18は、シリコン(Si)または炭化珪素(SiC)などから構成された複数の半導体基板(半導体ウェハ)WFを水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた整列状態で縦方向に積み上げて収納するように構成されている。つまり、処理室100の内部には、ボート18に収納された複数枚の半導体基板WFが配置されることになる。
【0020】
そして、ボート18に収納された複数の半導体基板WFと相対する位置にガス供給ノズル108が配置されており、このガス供給ノズル108に複数のガス供給口108aが形成されている。これらのガス供給口108aは、複数の半導体基板WFと相対する位置に設けられている。このように構成されたガス供給ノズル108は、処理室100の外部に延在するガス供給ライン110と接続されており、このガス供給ライン110には、複数の配管111a〜111eと接続されている。さらに、配管111a〜111eのそれぞれには、バルブ(バルブ112a〜112e)が設けられているとともに、配管111a〜111e内を流れるガスの流量を制御するマスフローコントローラ(マスフローコントローラ113a〜113e)が接続されている。すなわち、これらの配管111a〜111eは、バルブ(バルブ112a〜112e)とマスフローコントローラ(マスフローコントローラ113a〜113e)を介して、ガス供給源と接続されている。
【0021】
具体的に、配管111aは、バルブ112aおよびマスフローコントローラ113aを介して、アルゴン(Ar)ガス供給源と接続されており、配管111bは、バルブ112bおよびマスフローコントローラ113bを介して、四塩化珪素(SiCl)ガス供給源と接続されている。同様に、配管111cは、バルブ112cおよびマスフローコントローラ113cを介して、プロパン(C)ガス供給源と接続され、配管111dは、バルブ112dおよびマスフローコントローラ113dを介して、塩化水素(HCl)ガス供給源と接続されている。また、配管111eは、バルブ112eおよびマスフローコントローラ113eを介して、水素(H)ガス供給源と接続されている。
【0022】
このように構成されている本発明者が検討した第1成膜装置では、まず、配管111a〜111eのそれぞれから流れてくるアルゴンガス、四塩化珪素ガス、プロパンガス、塩化水素ガス、および、水素ガスをガス供給ライン110で混合する。そして、ガス供給ライン110を流れる混合ガスを処理室100内のガス供給ノズル108に導き、ガス供給ノズル108に設けられているガス供給口108aから混合ガスを噴射する。これにより、ガス供給口108aから噴射された混合ガスが、半導体基板WF上で化学反応を起こし、この結果、半導体基板WF上に炭化珪素エピタキシャル膜が形成される。
【0023】
しかし、本発明者が検討した第1成膜装置では、シリコン含有原料ガス(例えば、四塩化珪素ガス)の分解温度が問題となる。つまり、本発明者が検討した第1成膜装置の処理室構造の特徴の1つとして、ボート18に収納されたすべての半導体基板WFに均一に原料ガス(混合ガス)を供給するため、半導体基板WFにガスを誘導するガス供給ノズル108を使用している点が挙げられる。シリコン含有原料ガスは、その組成にもよるが、一般的に用いられるモノシラン(SiH)ガスでは800℃以上、塩素を含む四塩化珪素(SiCl)ガスでも1200℃程度で熱分解するとされている。
【0024】
ここで、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜は、処理室100内の温度0を1500℃〜1700℃程度にして行なわれることが一般的である。したがって、処理室100内に設けられているガス供給ノズル108の温度は、処理室100の温度と同等の温度となっている。このことから、シリコン含有原料ガス(例えば、四塩化珪素ガス)と炭素含有原料ガス(例えば、プロパンガス)がガス供給ノズル108内を通過する間にシリコン含有原料ガスおよび炭素含有原料ガスは分解してしまうことになる。この結果、ガス供給ノズル108内でシリコン含有原料ガスと炭素含有原料ガスが分解すると、ガス供給ノズル108内で固体の炭化珪素(SiC)が生成される。ガス供給ノズル108内で固体の炭化珪素(SiC)が生成されると、生成された炭化珪素(SiC)がガス供給ノズル108の内壁に堆積し、ガス供給ノズル108に設けられているガス供給口108aを閉塞させることになる。このようにして、ガス供給口108aが閉塞すると、半導体基板WF上へ届く原料ガスの濃度の低下や変動を引き起こし、複数の半導体基板WF上に均一な炭化珪素エピタキシャル膜を形成することが困難になる問題点が生じる。
【0025】
このような炭化珪素(SiC)によるガス供給口108aの閉塞を抑制するため、第1成膜装置では、シリコン含有原料ガスおよび炭素含有原料ガスなどの原料ガスと同時に、塩化水素(HCl)ガスのような塩素(Cl)を含むエッチングガスを原料ガスと同時に流すことが行なわれている。すなわち、原料ガスと同時に塩化水素(HCl)ガスのようなエッチングガスを導入することにより、ガス供給ノズル108の内壁に炭化珪素が堆積しにくくなり、炭化珪素の堆積によるガス供給口108aの閉塞を抑制することができる。ところが、気相中で炭化珪素を生成させないようにするためには、多量の塩化水素(HCl)ガスを原料ガスに添加する必要がある。この結果、例えば、ガス供給口108aの閉塞を抑制できる程度の塩化水素(HCl)ガスをガス供給ノズル108に供給した場合、ガス供給口108aから処理室100内へ射出された多量の塩化水素(HCl)ガスによって、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に寄与するシリコン(Si)が減少し、半導体基板WF上への炭化珪素エピタキシャル膜の成膜速度が低下してしまう問題点が発生する。
【0026】
このような本発明者が検討した第1成膜装置の問題点は、シリコン含有原料ガス(例えば、四塩化珪素ガス)と炭素含有原料ガス(例えば、プロパンガス)を混合して、1つのガス供給ノズル108から半導体基板WFへ供給している点にあると考えられる。すなわち、1つのガス供給ノズル108からシリコン含有原料ガス(例えば、四塩化珪素ガス)と炭素含有原料ガス(例えば、プロパンガス)を混合して供給していることから、処理室100と同じ温度になるガス供給ノズル108内でシリコン含有原料ガスと炭素含有原料ガスがそれぞれ分解し、ガス供給ノズル108内で炭化珪素が生成されてしまうと考えられる。この結果、ガス供給ノズル108に設けられたガス供給口108aが生成された炭化珪素によって閉塞すると考えられる。
【0027】
そこで、本発明者が検討した第2成膜装置の構成として、シリコン含有原料ガスと炭素含有原料ガスとを別々のガス供給ノズルで供給し、半導体基板の近傍でシリコン含有原料ガスと炭素含有原料ガスとを混合させる構成が考えられる。この場合、ガス供給ノズル内ではシリコン含有原料ガスが分解してシリコン(Si)の生成は生じるが、炭素含有原料ガスがないために、シリコン含有原料ガスを供給するガス供給ノズル内での炭化珪素の生成は起こらない。したがって、四塩化珪素(SiCl)ガスのように塩素(Cl)を含むシリコン含有原料ガスや、シリコン原料と、塩化水素(HCl)ガスのような塩素(Cl)を含むエッチングガスを少量同時に流すことにより、生成されるシリコン(Si)を容易に二塩化珪素(SiCl)としてエッチングすることができ、この結果、ガス供給口の閉塞や処理室内での炭化珪素エピタキシャル膜の成膜速度の低下を抑制できると考えられる。
【0028】
具体的に、第2成膜装置の構成について、第1成膜装置の構成と異なる点について説明する。図2は、炭化珪素(SiC)エピタキシャル膜を半導体基板上に成膜する本発明者が検討した第2成膜装置の主要構成を示す模式図である。図2において、ボート18に収納された複数の半導体基板WFと相対する位置にガス供給ノズル108とガス供給ノズル109が配置されており、このガス供給ノズル108とガス供給ノズル109のそれぞれには、複数のガス供給口108aや複数のガス供給口109aが形成されている。これらのガス供給口108aおよびガス供給口109aは、複数の半導体基板WFと相対する位置に設けられている。
【0029】
このように構成されたガス供給ノズル108は、アルゴン(Ar)ガス供給源、四塩化珪素(SiCl)ガス供給源、および、塩化水素(HCl)ガス供給源と接続されている。一方、ガス供給ノズル109は、処理室100の外部に延在するガス供給ライン114と接続されており、プロパン(C)ガス供給源、および、水素(H)ガス供給源と接続されている。
【0030】
このように図2に示す第2成膜装置では、シリコン含有原料ガスと炭素含有原料ガスとを別々のガス供給ノズル108、109で供給し、半導体基板の近傍でシリコン含有原料ガスと炭素含有原料ガスとを混合させている。この場合、ガス供給ノズル108内ではシリコン含有原料ガスが分解してシリコン(Si)の生成は生じるが、炭素含有原料ガスがないために、シリコン含有原料ガスを供給するガス供給ノズル108内での炭化珪素の生成は起こらない。したがって、四塩化珪素(SiCl)ガスのように塩素(Cl)を含むシリコン含有原料ガスや、シリコン原料と、塩化水素(HCl)ガスのような塩素(Cl)を含むエッチングガスを少量同時に流すことにより、生成されるシリコン(Si)を容易に二塩化珪素(SiCl)としてエッチングすることができ、この結果、ガス供給口108aの閉塞や処理室100内での炭化珪素エピタキシャル膜の成膜速度の低下を抑制できる。
【0031】
ところが、一般的に、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜工程では、半導体基板上での炭素(C)とシリコン(Si)の比が膜質に大きな影響を及ぼすことが知られている。したがって、上述した第2成膜装置のように、別々のガス供給ノズルから供給されるシリコン含有原料ガスと炭素含有原料ガスを半導体基板上で均一に混合させるためには、それぞれのガス供給口から半導体基板までの間にシリコン含有原料ガスと炭素含有原料ガスとを混合させるための混合距離が必要となる。しかし、上述した第2成膜装置のような構成では、それぞれのガス供給ノズルと、半導体基板との間の距離が比較的近いため、半導体基板のサイズによっては、シリコン含有原料ガスと炭素含有原料ガスの混合距離を充分に取れない場合や、原料ガスが均一に混合しないまま炭化珪素エピタキシャル膜の成膜が行なわれてしまう場合が生じる。このような場合では、半導体基板上での炭素(C)とシリコン(Si)の比が均一にならない結果、半導体基板上に形成される炭化珪素エピタキシャル膜の膜質や均一性が劣化してしまう問題点が発生する。
【0032】
以上のことから、本発明者が検討した第1成膜装置では、主に、ガス供給口の閉塞や処理室内での炭化珪素エピタキシャル膜の成膜速度の低下が問題点として顕在化する一方、本発明者が検討した第2成膜装置では、主に、半導体基板上に形成される炭化珪素エピタキシャル膜の膜質や均一性が劣化してしまう問題点が顕在化する。つまり、炭化珪素(SiC)エピタキシャル膜を半導体基板上に成膜する本発明者が検討した成膜装置(第1成膜装置や第2成膜装置)では、成膜速度の低下を抑制しつつガス供給口の閉塞を防止することと、半導体基板上に形成される炭化珪素エピタキシャル膜の膜質や均一性を向上させることを同時に実現できていない状態にある。
【0033】
そこで、本実施の形態における基板処理装置では、例えば、ガス供給ノズルの温度が原料ガスの分解温度を超えるような装置構成で炭化珪素エピタキシャル膜を成膜する際、成膜速度の低下を抑制しつつ、ガス供給口の閉塞を抑制できるとともに、半導体基板上に形成される炭化珪素エピタキシャル膜の膜質や均一性を向上させることができる工夫を施している。以下に、この工夫を施した本実施の形態における基板処理装置について説明する。
【0034】
<本実施の形態における基板処理装置の外観構成>
まず、本実施の形態における基板処理装置の外観構成について図面を参照しながら説明する。本実施の形態における基板処理装置は、例えば、半導体基板(半導体ウェハ)上に炭化珪素エピタキシャル膜を成膜する半導体製造装置である。
【0035】
図3は、本実施の形態における基板処理装置1の外観構成を示す斜視図である。図3において、本実施の形態における基板処理装置1は、バッチ式縦型成膜装置であり、主要部が配置される筐体10を有している。基板処理装置1では、例えば、シリコン(Si)または炭化珪素(SiC)などから形成される半導体基板(半導体ウェハ)を収納するポッド(フープ)11がウェハキャリアとして使用される。筐体10の正面側には、ポッドステージ12が配置されており、このポッドステージ12によってポッド11が搬送される。ポッド11には、例えば、25枚の半導体基板が収納されており、ポッド11は、蓋が閉じられた状態でポッドステージ12にセットされる。
【0036】
筐体10内の正面であって、ポッドステージ12に対向する位置には、ポッド搬送装置13が配置されている。そして、このポッド搬送装置13の近傍には、ポッド収納棚14、ポッドオープナ15、および、基板枚数検知器16が配置されている。ポッド収納棚14は、ポッドオープナ15の上方に配置され、ポッド11を複数個載置した状態で保持することができるように構成されている。基板枚数検知器16は、ポッドオープナ15に隣接して配置され、ポッド搬送装置13は、ポッドステージ12とポッド収納棚14とポッドオープナ15の間でポッド11を搬送するように構成されている。ポッドオープナ15は、ポッド11の蓋を開ける機能を有しており、基板枚数検知器16は、蓋を開けられたポッド11内に収納されている半導体基板の枚数を検知できるようになっている。
【0037】
筐体10内には、さらに、基板移載器17と、基板保持具としてのボート18が配置されている。基板移載器17は、アーム(ツイーザ)19を有し、図示しない駆動手段により、昇降可能、かつ、回転可能なように構成されている。そして、アーム19は、例えば、5枚の半導体基板を取り出すことができるように構成されており、このアーム19を動かすことにより、基板移載器17は、ポッドオープナ15の位置に置かれたポッド11とボート18の間で半導体基板を搬送することができるようになっている。
【0038】
ボート18は、例えば、カーボングラファイトや炭化珪素(SiC)などの耐熱性材料から構成されており、複数枚の半導体基板を水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた整列状態で縦方向に積み上げて保持するように構成されている。このボート18の下部には、例えば、石英や炭化珪素(SiC)などの耐熱性材料で構成された円盤状の断熱部材としてボート断熱部(図示せず)が配置されており、このボート断熱部は、ボート18に加わっている熱がボート18の下側にまで伝わりにくくするために設けられている。
【0039】
そして、筐体10の背面側上部には、処理炉20が配置されている。この処理炉20は、内部に複数の半導体基板を収納したボート18を搬入できるように構成されており、処理炉20内において、ボート18に搭載されている半導体基板上に炭化珪素エピタキシャル膜を成膜するようになっている。
【0040】
<本実施の形態における処理炉の構成>
続いて、本実施の形態における処理炉の構成について図面を参照しながら説明する。図4は本実施の形態における処理炉20の構成を示す模式図である。
【0041】
処理炉20は、円筒形の処理室100を形成する反応管101を備えている。この反応管101は、石英、または、SiCなどの耐熱性材料からなり、上端が閉塞し、下端が開口した円筒形状をしている。このように形成されている反応管101の内部に処理室100が存在し、この処理室100の内部にボート18が搬入されている。ボート18は、シリコン(Si)または炭化珪素(SiC)などから構成された複数の半導体基板(半導体ウェハ)WFを水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた整列状態で縦方向に積み上げて収納するように構成されている。つまり、処理室100の内部には、ボート18に収納された複数枚の半導体基板WFが配置されることになる。
【0042】
次に、反応管101の下方には、同心円状のマニホールド102が配設されている。このマニホールド102は、例えば、ステンレスなどからなり、上端および下端が開口した円筒形状をしている。マニホールド102は、反応管101を支持するために設けられているものである。なお、マニホールド102と反応管101との間には、シール部材としてのOリング(図示せず)が設けられている。マニホールド102が図示しない保持体に支持されることにより、反応管101は垂直に据え付けられた状態となっている。反応管101とマニホールド102により、反応容器が形成されることになる。
【0043】
処理炉20の下方には、処理炉20の下端開口部を気密封止するための炉口蓋体としてシールキャップ118が設けられている。このシールキャップ118は、例えば、ステンレスなどの金属から構成されており、円盤状の形状をしている。シールキャップ118の上面には、処理炉20の下端と当接するシール材としてのOリング(図示せず)が設けられている。シールキャップ118には、回転機構119が設けられており、この回転機構119の回転軸はシールキャップ118を貫通してボート18に接続されている。これにより、回転機構119は、回転軸を介してボート18を回転させることで、ボート18に搭載されている半導体基板WFを回転するようになっている。
【0044】
さらに、処理炉20は、加熱される被加熱体(被誘導体)103および電磁場発生部としての誘導コイル104を備えている。被加熱体103は、処理室100内に配設され、反応管101の外側に設けられた誘導コイル104により発生する電磁場で誘導加熱されるようになっており、この被加熱体103が発熱することにより、処理室100の内部が加熱されるように構成されている。
【0045】
被加熱体103の近傍には、処理室100内の温度を検出する温度検出体として図示しない温度センサが設けられている。上述した誘導コイル104と温度センサは、後述する温度制御部と電気的に接続されている。この温度制御部は、温度センサによって検出された温度情報に基づき、誘導コイル104への通電具合を調節することで、処理室100内の温度が所望の温度分布となるように制御するようになっている。
【0046】
そして、反応管101と被加熱体103の間には、例えば、誘導加熱されにくいカーボンフェルトなどで構成された断熱材105が設けられている。この断熱材105を設けることにより、被加熱体103で発生した熱が反応管101あるいは反応管101の外側へ伝達することを抑制できる。
【0047】
また、誘導コイル104の外側には、処理室100内の熱が外部に伝達することを抑制するために、例えば、水冷構造から構成される断熱壁106が反応管101を囲むように設けられている。そして、断熱壁106の外側には、誘導コイル104により発生した電磁場が外部に漏れ出ることを防止する電磁気シールド材107が設けられている。
【0048】
続いて、ボート18に収納された複数の半導体基板WFと相対する位置にガス供給ノズル108とガス供給ノズル109が配置されており、このガス供給ノズル108とガス供給ノズル109のそれぞれには、複数のガス供給口108aや複数のガス供給口109aが形成されている。これらのガス供給口108aおよびガス供給口109aは、複数の半導体基板WFと相対する位置に設けられている。
【0049】
このように構成されたガス供給ノズル108は、処理室100の外部に延在するガス供給ライン110と接続されており、このガス供給ライン110には、複数の配管111a〜111dが接続されている。さらに、配管111a〜111dのそれぞれには、バルブ(バルブ112a〜112d)が設けられているとともに、配管111a〜111d内を流れるガスの流量を制御するマスフローコントローラ(マスフローコントローラ113a〜113d)が接続されている。すなわち、これらの配管111a〜111dは、バルブ(バルブ112a〜112d)とマスフローコントローラ(マスフローコントローラ113a〜113d)を介して、ガス供給源と接続されている。
【0050】
具体的に、配管111aは、バルブ112aおよびマスフローコントローラ113aを介して、アルゴン(Ar)ガス供給源と接続されており、配管111bは、バルブ112bおよびマスフローコントローラ113bを介して、四塩化珪素(SiCl)ガス供給源と接続されている。同様に、配管111cは、バルブ112cおよびマスフローコントローラ113cを介して、プロパン(C)ガス供給源と接続されており、配管111dは、バルブ112dおよびマスフローコントローラ113dを介して、塩化水素(HCl)ガス供給源と接続されている。
【0051】
上述した構成により、例えば、アルゴン(Ar)ガス、四塩化珪素(SiCl)ガス、プロパン(C)ガス、塩化水素(HCl)ガスのそれぞれの供給流量、濃度、分圧を制御することができる。バルブ112a〜112dおよびマスフローコントローラ113a〜113dは、後述するガス流量制御部と電気的に接続されており、このガス流量制御部は、それぞれ供給するガスの流量が所定の流量となるようにバルブ112a〜112dおよびマスフローコントローラ113a〜113dを制御するようになっている。このようにして、アルゴン(Ar)ガス供給源、四塩化珪素(SiCl)ガス供給源、プロパン(C)ガス供給源、塩化水素(HCl)ガス供給源、バルブ112a〜112d、マスフローコントローラ113a〜113d、配管111a〜111d、ガス供給ライン110、ガス供給口108aを備えるガス供給ノズル108によって、第1のガス供給系が構成されることになる。
【0052】
なお、第1のガス供給系では、塩素原子含有ガスとして塩化水素(HCl)ガスを使用しているが、これに限らず、例えば、塩素(Cl)ガスを使用してもよい。また、第1のガス供給系では、シリコン原子含有ガスとして、四塩化珪素(SiCl)ガスを使用しているが、これに限らず、例えば、トリクロロシラン(SiHCl)ガス、ジクロロシラン(SiHCl)ガスを使用してもよい。さらに、第1のガス供給系では、炭素原子含有ガスとしてプロパン(C)ガスを使用しているが、これに限らず、例えば、エチレン(C)ガスやアセチレン(C)ガスを使用してもよい。また、第1のガス供給系では、キャリアガスとして、希ガスであるアルゴン(Ar)ガスを使用しているが、これに限らず、例えば、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの不活性ガスを使用してもよい。
【0053】
一方、ガス供給ノズル109は、処理室100の外部に延在するガス供給ライン114と接続されており、このガス供給ライン114には、複数の配管115a〜115bと接続されている。さらに、配管115a〜115bのそれぞれには、バルブ(バルブ116a〜116b)が設けられているとともに、配管115a〜115b内を流れるガスの流量を制御するマスフローコントローラ(マスフローコントローラ117a〜117b)が接続されている。すなわち、これらの配管115a〜115bは、バルブ(バルブ116a〜116b)とマスフローコントローラ(マスフローコントローラ117a〜117b)を介して、ガス供給源と接続されている。
【0054】
具体的に、配管115aは、バルブ116aおよびマスフローコントローラ117aを介して、プロパン(C)ガス供給源と接続されており、配管115bは、バルブ116bおよびマスフローコントローラ117bを介して、水素(H)ガス供給源と接続されている。
【0055】
上述した構成により、例えば、プロパン(C)ガス、水素(H)ガスのそれぞれの供給流量、濃度、分圧を制御することができる。バルブ116a〜116bおよびマスフローコントローラ117a〜117bは、後述するガス流量制御部と電気的に接続されており、このガス流量制御部は、それぞれ供給するガスの流量が所定の流量となるようにバルブ116a〜116bおよびマスフローコントローラ117a〜117bを制御するようになっている。このようにして、プロパン(C)ガス供給源、水素(H)ガス供給源、バルブ116a〜116b、マスフローコントローラ117a〜117b、配管115a〜115b、ガス供給ライン114、ガス供給口109aを備えるガス供給ノズル109によって、第2のガス供給系が構成されることになる。
【0056】
なお、第2のガス供給系では、炭素原子含有ガスとしてプロパン(C)ガスを使用しているが、これに限らず、例えば、エチレン(C)ガスやアセチレン(C)ガスを使用してもよい。
【0057】
次に、マニホールド102には、ガス排気管120が設けられている。このガス排気管120の下流側には、図示しない圧力検出器としての圧力センサおよび圧力調整器としてのAPC(Auto Pressure Controller)バルブ121を介して、真空ポンプなどから構成される真空排気装置122が接続されている。この圧力センサおよびAPCバルブ121には、後述する圧力制御部が電気的に接続されている。圧力制御部は、圧力センサによって検出された圧力に基づいて、APCバルブ121の開閉度を調節し、処理室100内の圧力が所定圧力となるように制御するようになっている。
【0058】
続いて、ボート18に搭載する半導体基板WFの保持形態について説明する。図5は、半導体基板(半導体ウェハ)WFをウェハホルダWH1とウェハホルダWH2で保持している状態を示す断面図である。図5に示すように、本実施の形態では、円盤状の半導体基板WFの両端をリング状のウェハホルダWH1で保持している。そして、半導体基板WFの上面側を覆うように、半導体基板WF上にウェハホルダWH2が配置されている。つまり、本実施の形態では、半導体基板WFをウェハホルダWH1とウェハホルダWH2によって保持するように構成している。具体的には、リング状のウェハホルダWH1で半導体基板WFの両端を保持しながら、半導体基板WFの下面を露出させるようにしている。一方、半導体基板WFの上面はウェハホルダWH2により覆われるようになっている。
【0059】
すなわち、リング状のウェハホルダWH1で半導体基板WFの両端を保持することにより、半導体基板WFの下面を露出しながら、半導体基板WFを保持することができる。本実施の形態では、露出させている半導体基板WFの下面を原料ガスにさらすことにより、半導体基板WFの下面に炭化珪素エピタキシャル膜を成長させるようになっているのである。このように本実施の形態では、半導体基板WFの下面が成膜面になるようにウェハホルダWH1で半導体基板WFを保持している。これは、半導体基板WFの上面を成膜面とすると、原料ガスが反応して生成された反応生成物が、半導体基板WFの上面上に降り積もって異物として半導体基板WFに付着するからである。つまり、半導体基板WFの上面を露出するように半導体基板WFを保持すると、半導体基板WFの上面上に炭化珪素エピタキシャル膜は成膜されるとともに、半導体基板WFの上方で生成された反応生成物が半導体基板WFの上面上に降り積もるため、膜質の良好な炭化珪素エピタキシャル膜が形成されにくくなるからである。したがって、本実施の形態では、半導体基板WFの下面が成膜面になるようにウェハホルダWH1で半導体基板WFを保持するとともに、半導体基板WFの上面をウェハホルダWH2で覆うように構成することにより、半導体基板WFに反応生成物からなる異物が付着しないようにしているのである。以上のように、複数の半導体基板WFのそれぞれは、図5に示すように、ウェハホルダWH1とウェハホルダWH2で下面が露出するように保持された状態で、ボート18に搭載される。
【0060】
<本実施の形態の特徴>
本実施の形態における処理炉20は上記のように構成されており、以下に、その特徴的構成について図4を参照しながら説明する。本実施の形態の特徴は、原料ガスを供給する供給ラインに工夫を設けている点にある。具体的に、本実施の形態では、異なる第1のガス供給系と第2のガス供給系を設け、第1のガス供給系からアルゴン(Ar)ガス、四塩化珪素(SiCl)ガス、プロパン(C)ガスの一部および塩化水素(HCl)ガスを供給し、第2のガス供給系から残りのプロパン(C)ガスと水素(H)ガスを供給している点にある。これにより、本実施の形態における基板処理装置では、例えば、ガス供給ノズルの温度が原料ガスの分解温度を超えるような装置構成で炭化珪素エピタキシャル膜を成膜する際、成膜速度の低下を抑制しつつ、ガス供給口の閉塞を抑制できるとともに、半導体基板上に形成される炭化珪素エピタキシャル膜の膜質や均一性を向上させることができる顕著な効果を得ることができるのである。以下に、この理由について、本実施の形態における基板処理装置と、本発明者が検討した第1成膜装置や第2成膜装置と比較しながら説明する。
【0061】
まず、本実施の形態における基板処理装置の構成と、本発明者が検討した第1成膜装置の構成を比較しながら、本実施の形態における基板処理装置の利点について説明する。
【0062】
例えば、図1に示す本発明者が検討した第1成膜装置では、1つのガス供給系だけが存在し、この1つのガス供給系からアルゴン(Ar)ガス、四塩化珪素(SiCl)ガス、プロパン(C)ガス、塩化水素(HCl)ガスおよび水素(H)ガスのすべてのガスが混合ガスとして供給されている。このとき、四塩化珪素(SiCl)ガスは、炭化珪素エピタキシャル膜を構成するシリコン(Si)を供給するためのシリコン含有原料ガスであり、プロパン(C)ガスは、炭化珪素エピタキシャル膜を構成する炭素(C)を供給するための炭素含有原料ガスである。また、塩化水素(HCl)ガスは、ガス供給ノズル108に炭化珪素が堆積することを抑制するためのエッチングガスである。さらに、水素(H)ガスは、水素還元によってシリコン含有原料ガスの分解を促進する還元ガスであり、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に必要なガスである。また、アルゴン(Ar)ガスは、キャリアガスとして機能する。
【0063】
このように構成されている本発明者が検討した第1成膜装置では、四塩化珪素(SiCl)ガスとプロパン(C)ガスとを混合してガス供給ノズル108から処理室100内へ供給しているので、ガス供給ノズル108内で固体の炭化珪素(SiC)が生成される。ガス供給ノズル108内で固体の炭化珪素(SiC)が生成されると、生成された炭化珪素(SiC)がガス供給ノズル108の内壁に堆積し、ガス供給ノズル108に設けられているガス供給口108aを閉塞させることになる。そこで、炭化珪素(SiC)によるガス供給口108aの閉塞を抑制するため、第1成膜装置では、シリコン原料および炭素原料などの原料ガスと同時に、塩化水素(HCl)のような塩素(Cl)を含むエッチングガスを原料ガスと同時に流している。すなわち、原料ガスと同時に塩化水素(HCl)のようなエッチングガスを導入することにより、ガス供給ノズル108の内壁に炭化珪素が堆積しにくくなり、炭化珪素の堆積によるガス供給口108aの閉塞を抑制することができる。ところが、気相中で炭化珪素を生成させないようにするためには、多量の塩化水素(HCl)を原料ガスに添加する必要がある。この結果、例えば、ガス供給口108aの閉塞を抑制できる程度の塩化水素(HCl)をガス供給ノズル108に供給した場合、ガス供給口108aから処理室100内へ射出された多量の塩化水素(HCl)によって、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に寄与するシリコン(Si)が減少し、半導体基板WF上への炭化珪素エピタキシャル膜の成膜速度が低下してしまう問題点が発生する。
【0064】
これに対し、本実施の形態における基板処理装置では、異なる第1のガス供給系と第2のガス供給系を設け、第1のガス供給系からアルゴン(Ar)ガス、四塩化珪素(SiCl)ガス、プロパン(C)ガスの一部および塩化水素(HCl)ガスを供給し、第2のガス供給系から残りのプロパン(C)ガスと水素(H)ガスを供給している。このように本実施の形態でも、第1のガス供給系から四塩化珪素(SiCl)ガスとプロパン(C)ガスとを混合して供給しているため、ガス供給ノズル108内で固体の炭化珪素(SiC)が生成されると考えられる。
【0065】
しかし、本実施の形態における基板処理装置では、第1のガス供給系から供給するプロパン(C)ガスの供給量は、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に必要な供給量のすべてではなく、その一部だけを供給している点がポイントである。
【0066】
本発明者が検討した第1成膜装置では、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に必要なすべてのプロパン(C)ガスを、四塩化珪素(SiCl)ガスとともに同じガス供給ノズル108から供給する構成をしている。このため、ガス供給ノズル108内でも多量の炭化珪素が堆積しやすく、ガス供給ノズル108内で生成される炭化珪素によるガス供給口108aの閉塞を抑制するためには、多量の塩化水素(HCl)ガスを供給する必要がある。
【0067】
一方、本実施の形態における基板処理装置では、第1のガス供給系から供給するプロパン(C)ガスの供給量は、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に必要な供給量のすべてではなく、その一部だけを供給し、第2のガス供給系から炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に必要な残りのプロパン(C)ガスを供給するようにしている。すなわち、四塩化珪素(SiCl)ガスとともに同じガス供給ノズル108から供給されるプロパン(C)ガスの供給量は、本発明者が検討した第1成膜装置と比べて大幅に削減される。したがって、本実施の形態によれば、四塩化珪素(SiCl)ガスと一緒に供給されるプロパン(C)ガスの供給量が削減されるので、ガス供給ノズル108内に生成される炭化珪素の絶対量を抑制できる。このことは、生成された炭化珪素によるガス供給口108aの閉塞を抑制するために供給される塩化水素(HCl)ガスの供給量を低減できることを意味する。この結果、本実施の形態によれば塩化水素(HCl)ガスの供給量を低減できるので、塩化水素(HCl)ガスによって、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に寄与するシリコン(Si)が減少し、半導体基板WF上への炭化珪素エピタキシャル膜の成膜速度が低下してしまうことを抑制できるのである。
【0068】
さらに、本実施の形態では、四塩化珪素(SiCl)ガスを供給する第1のガス供給系と、水素(H)ガスを供給する第2のガス供給系とを分けている点にも特徴がある。水素(H)ガスは、シリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)を水素還元して分解させる機能を有するガスである。この水素(H)ガスは、処理室100内に導入されたシリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)を分解して、炭化珪素エピタキシャル膜を成膜させるために必要なガスである。すなわち、シリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)は、処理室100内で一部は熱分解するが、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜を促進させるために、さらに、水素(H)ガスによる水素還元作用によって、シリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)の分解を促進させることが必要である。したがって、水素(H)ガスは、炭化珪素エピタキシャル膜を成膜するために必要なガスであるといえる。
【0069】
しかし、本発明者が検討した第1成膜装置のように、シリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)と水素(H)ガスとを同じガス供給ノズル108で供給する場合、ガス供給ノズル108内で、水素還元によるシリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)の分解が生じ、ガス供給ノズル108内での炭化珪素の生成を助長させることになる。この結果、本発明者が検討した第1成膜装置では、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に必要なすべてのプロパン(C)ガスを供給する点と、シリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)と水素(H)ガスとを同じガス供給ノズル108で供給する点との相乗効果によって、ガス供給ノズル108内に生成される炭化珪素の絶対量が増大し、それに伴って、生成された炭化珪素によるガス供給口108aの閉塞を抑制するために供給される塩化水素(HCl)ガスの供給量も必然的に多くなる。これによって、本発明者が検討した第1成膜装置では、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に寄与するシリコン(Si)が減少し、半導体基板WF上への炭化珪素エピタキシャル膜の成膜速度が低下してしまう。
【0070】
これに対し、本実施の形態では、シリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)を供給する第1のガス供給系と、水素(H)ガスを供給する第2のガス供給系とを分けている。これにより、ガス供給ノズル108内で、水素還元によるシリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)の分解を防止することができ、ガス供給ノズル108内での炭化珪素の生成を抑制することができる。この結果、本実施の形態における基板処理装置では、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に必要なすべてではなく、その一部だけのプロパン(C)ガスをシリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)とともに供給する点と、シリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)と水素(H)ガスとを別々のガス供給ノズル(ガス供給ノズル108とガス供給ノズル109)で供給する点との相乗効果によって、ガス供給ノズル108内に生成される炭化珪素の絶対量を大幅に削減することができる。これにより、生成された炭化珪素によるガス供給口108aの閉塞を抑制するために供給される塩化水素(HCl)ガスの供給量も大幅に減少する。この結果、本実施の形態における基板処理装置では、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に寄与するシリコン(Si)が減少し、半導体基板WF上への炭化珪素エピタキシャル膜の成膜速度が低下してしまうことを抑制できる。
【0071】
次に、本実施の形態における基板処理装置の構成と、本発明者が検討した第2成膜装置の構成を比較しながら、本実施の形態における基板処理装置の利点について説明する。
【0072】
例えば、図2に示す本発明者が検討した第2成膜装置では、シリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)と炭素含有原料ガス(プロパン(C)ガス)とを別々のガス供給ノズル108、109で供給し、半導体基板の近傍でシリコン含有原料ガスと炭素含有原料ガスとを混合させている。この場合、ガス供給ノズル108内ではシリコン含有原料ガスが分解してシリコン(Si)の生成は生じるが、炭素含有原料ガスがないために、シリコン含有原料ガスを供給するガス供給ノズル108内での炭化珪素の生成は起こらない。したがって、四塩化珪素(SiCl)のように塩素(Cl)を含むシリコン含有原料ガスや、シリコン含有原料ガスと、塩化水素(HCl)のような塩素(Cl)を含むエッチングガスを少量同時に流すことにより、生成されるシリコン(Si)を容易に二塩化珪素(SiCl)としてエッチングすることができ、この結果、ガス供給口108aの閉塞や処理室100内での炭化珪素エピタキシャル膜の成膜速度の低下を抑制できる。
【0073】
ところが、一般的に、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜工程では、半導体基板上での炭素(C)とシリコン(Si)の比が膜質に大きな影響を及ぼすことが知られている。したがって、上述した第2成膜装置のように、別々のガス供給ノズルから供給されるシリコン含有原料ガスと炭素含有原料ガスを半導体基板上で均一に混合させるためには、それぞれのガス供給口から半導体基板までの間にシリコン含有原料ガスと炭素含有原料ガスとを混合させるための混合距離が必要となる。しかし、上述した第2成膜装置のような構成では、それぞれのガス供給ノズルと、半導体基板との間の距離が比較的近いため、半導体基板のサイズによっては、シリコン含有原料ガスと炭素含有原料ガスの混合距離を充分に取れない場合や、原料ガスが均一に混合しないまま炭化珪素エピタキシャル膜の成膜が行なわれてしまう場合が生じる。このような場合では、半導体基板上での炭素(C)とシリコン(Si)の比が均一にならない結果、半導体基板上に形成される炭化珪素エピタキシャル膜の膜質や均一性が劣化してしまう。
【0074】
これに対し、本実施の形態における基板処理装置では、図4に示すように、異なる第1のガス供給系と第2のガス供給系を設け、第1のガス供給系からアルゴン(Ar)ガス、四塩化珪素(SiCl)ガス、プロパン(C)ガスの一部および塩化水素(HCl)ガスを供給し、第2のガス供給系から残りのプロパン(C)ガスと水素(H)ガスを供給している。このように本実施の形態における基板処理装置では、シリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)と、炭素含有原料ガス(プロパン(C)ガス)とを完全に分離して供給するものではなく、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に必要な炭素含有原料ガス(プロパン(C)ガス)のうち、一部の炭素含有原料ガス(プロパン(C)ガス)を、シリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)とともに第1のガス供給系から供給している。これにより、本実施の形態における基板処理装置では、第1のガス供給系からシリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)と、一部の炭素含有原料ガス(プロパン(C)ガス)とを混合して半導体基板上に供給することができるため、完全にシリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)と、炭素含有原料ガス(プロパン(C)ガス)とを分離して供給する本発明者が検討した第2成膜装置に比べて、半導体基板上での炭素(C)とシリコン(Si)の比の均一性を改善することができる。この結果、本実施の形態における基板処理装置によれば、半導体基板上に形成される炭化珪素エピタキシャル膜の膜質や均一性の劣化を抑制することができる。
【0075】
以上のように本実施の形態における基板処理装置の特徴は、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜を行なう際、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に必要な炭素含有原料ガスを、(1)シリコン含有原料ガスと混合して供給する第1ノズルと、(2)この第1ノズルとは異なる別の第2ノズルとに分けて供給する点にある。これにより、第1ノズル内で生成される炭化珪素によるガス供給口の閉塞を成膜速度の低下を抑制しながら防止でき、かつ、半導体基板上に形成される炭化珪素エピタキシャル膜の膜質や均一性の確保を両立できる顕著な効果を得ることができる。
【0076】
特に、第1ノズル内で生成される炭化珪素によるガス供給口の閉塞を成膜速度の低下を抑制しながら防止することを優先させる観点からは、第1ノズルから供給する炭素含有原料ガスの供給量を、第2ノズルから供給する炭素含有原料ガスの供給量よりも少なくすることが望ましい。一方、半導体基板上に形成される炭化珪素エピタキシャル膜の膜質や均一性の確保を優先させる観点からは、第1ノズルから供給する炭素含有原料ガスの供給量を、第2ノズルから供給する炭素含有原料ガスの供給量よりも多くすることが望ましい。ただし、半導体基板上に形成される炭化珪素エピタキシャル膜の膜質や均一性の確保を優先させる観点でも、第2ノズルの本数を増加させたり、第2ノズルに設けられているガス供給口の数や形状を変更することにより、第1ノズルから供給する炭素含有原料ガスの供給量と第2ノズルから供給する炭素含有原料ガスの供給量にかかわらず、目的を達成することもできると考えられる。
【0077】
例えば、図6は、第1ノズルと第2ノズルの配置例を示す模式図である。図6は、処理室100を上部から見た断面図であり、理解を容易とするために、必要な部材のみを記載している。図6に示すように、シリコン含有原料ガスと成膜に必要な炭素含有原料ガスの一部を混合して供給する第1ノズルFNと、残りの炭素含有原料ガスを供給する第2ノズルSNとが交互に配置される。このように、第1ノズルFNと第2ノズルSNとを交互に配置することにより、第1ノズルFNから供給されるシリコン含有原料ガスと、第2ノズルSNから供給される炭素含有原料ガスの残りとの混合を促進させることができる。特に、第1ノズルFNと第2ノズルSNとを合わせた本数は、例えば、3本、5本、7本などのように奇数本とすることが望ましい。第1ノズルFNと第2ノズルSNとを合わせた本数を奇数本とすることにより、中心の第2ノズルSNを中心に成膜ガスの供給を左右対称とすることができ、この結果、半導体基板(半導体ウェハ)WFに成膜される炭化珪素エピタキシャル膜の均一性を向上させることができるからである。
【0078】
なお、図6では、残りの炭素含有原料ガスを供給する第2ノズルSNを中央および両端に配置し、シリコン含有原料ガスと成膜に必要な炭素含有原料ガスの一部を混合して供給する第1ノズルFNを第2ノズルSNの間に配置しているが、第1ノズルFNを中央および両端に配置し、第2ノズルSNを第1ノズルFNの間に配置するように構成してもよい。
【0079】
ここで、第2ノズルSNを中央および両端に配置し、第1ノズルFNを第2ノズルSNの間に配置することが望ましい。このように第1ノズルFNおよび第2ノズルSNを配置することにより、第2ノズルSNから炭素含有原料ガスの残りとともに大量に供給される水素ガスの流量比(中央/両端)を調整することにより、半導体基板(半導体ウェハ)WF上のガスの流れをコントロールすることができ、面内膜厚の制御が容易となるからである。
【0080】
<本実施の形態における処理炉周辺の構成>
続いて、本実施の形態における処理炉周辺の構成について、図面を参照しながら説明する。図7は、本実施の形態における処理炉周辺の構成を示す図である。図7において、処理炉20の下方には、処理炉20の下端開口部を気密封止するための炉口蓋体としてシールキャップ118が設けられている。このシールキャップ118は、例えば、ステンレスなどの金属から構成されており、円盤状の形状をしている。シールキャップ118の上面には、処理炉20の下端と当接するシール材としてのOリング(図示せず)が設けられている。シールキャップ118には、回転機構119が設けられており、この回転機構119の回転軸130はシールキャップ118を貫通してボート18に接続されている。これにより、回転機構119は、回転軸130を介してボート18を回転させることで、ボート18に搭載されている半導体基板WFを回転するようになっている。
【0081】
また、シールキャップ118は、処理炉20の外側に設けられた昇降機構によって垂直方向に昇降されるように構成されており、これによって、シールキャップ118上に搭載されたボート18を処理炉20に対して搬入あるいは搬出することができるようになっている。上述した回転機構119および昇降機構を動作させる昇降モータ131は、後述する駆動制御部と電気的に接続されており、駆動制御部は、回転機構119や昇降モータ131が所定動作をするように制御する。
【0082】
次に、予備室としてのロードロック室132の外面に下基板133が設けられている。この下基板133には、昇降台134とスライド自在になっているガイドシャフト135および昇降台134と螺合するボール螺子136が設けられている。そして、下基板133に立設したガイドシャフト135およびボール螺子136の上端には、上基板137が設けられている。ボール螺子136は、上基板137に設けられた昇降モータ131によって回転され、ボール螺子136が回転することにより、昇降台134が昇降するようになっている。
【0083】
昇降台134には中空の昇降シャフト138が垂設され、昇降台134と昇降シャフト138の連結部は気密となっており、この昇降シャフト138は昇降台134とともに昇降するように構成されている。昇降シャフト138は、ロードロック室132の天板139を遊貫し、昇降シャフト138が貫通する天板139の貫通孔は、昇降シャフト138が天板139と接触することがないように充分な隙間が形成されている。
【0084】
ロードロック室132と昇降台134との間には、昇降シャフト138の周囲を覆うように伸縮性を有する中空伸縮体としてベローズ140が設けられており、このベローズ140によりロードロック室132が気密に保たれるようになっている。このとき、ベローズ140は、昇降台134の昇降量に対応できる充分な伸縮量を有し、ベローズ140の内径は、昇降シャフト138の外径に比べて充分に大きく、伸縮の際にベローズ140と昇降シャフト138が接触することがないように構成されている。
【0085】
昇降シャフト138の下端には、昇降基板141が水平に固着され、この昇降基板141の下面にはOリングなどのシール部材を介して駆動部カバー142が気密に取り付けられている。昇降基板141と駆動部カバー142により駆動部収納ケース143が構成され、この構成により、駆動部収納ケース143の内部は、ロードロック室132内の雰囲気と隔離される。
【0086】
駆動部収納ケース143の内部には、ボート18の回転機構119が設けられており、この回転機構119の周辺は、冷却機構144によって冷却されるようになっている。
【0087】
続いて、電力ケーブル145は、昇降シャフト138の上端から中空部を通り、回転機構119に導かれて接続されている。また、冷却機構144およびシールキャップ118には、冷却水流路146が形成されている。さらに、冷却水配管147が昇降シャフト138の上端から中空部を通り、冷却水流路146に導かれて接続されている。
【0088】
このように構成されている処理炉周辺構造において、昇降モータ131が駆動されて、ボール螺子136が回転することにより、昇降台134および昇降シャフト138を介して駆動部収納ケース143を昇降させる。そして、例えば、駆動部収納ケース143が上昇することにより、昇降基板141に気密に設けられているシールキャップ118が処理炉20の開口部である炉口148を閉塞し、ボート18に搭載された半導体基板WFの成膜処理が可能な状態となる。一方、例えば、駆動部収納ケース143が下降することにより、シールキャップ118とともにボート18が下降し、ボート18に搭載されている半導体基板WFを外部に搬出できる状態となる。
【0089】
<本実施の形態における基板処理装置の制御部の構成>
次に、本実施の形態における基板処理装置の制御部の構成について、図面を参照しながら説明する。図8は、本実施の形態における基板処理装置を制御するコントローラ200の構成を示すブロック図である。図8において、本実施の形態におけるコントローラ200は、主制御部201、温度制御部202、ガス流量制御部203、圧力制御部204、および、駆動制御部205を有している。そして、主制御部201は、温度制御部202、ガス流量制御部203、圧力制御部204、および、駆動制御部205と電気的に接続されており、主制御部201は、温度制御部202、ガス流量制御部203、圧力制御部204、および、駆動制御部205を制御するように構成されている。
【0090】
温度制御部202は、例えば、図4に示す誘導コイル104や図示しない温度センサと電気的に接続されている。そして、温度制御部202は、温度センサによって検出された温度情報に基づき、誘導コイル104への通電具合を調節することで、処理室100内の温度が所望の温度分布となるように制御するように構成されている。
【0091】
ガス流量制御部203は、例えば、図4に示すバルブ112a〜112dおよびマスフローコントローラ113a〜113dと電気的に接続されており、ガス流量制御部203は、それぞれ供給するガスの流量が所定の流量となるようにバルブ112a〜112dおよびマスフローコントローラ113a〜113dを制御するように構成されている。同様に、ガス流量制御部203は、バルブ116a〜116bおよびマスフローコントローラ117a〜117bと電気的に接続されており、このガス流量制御部203は、それぞれ供給するガスの流量が所定の流量となるようにバルブ116a〜116bおよびマスフローコントローラ117a〜117bも制御するように構成されている。
【0092】
圧力制御部204は、例えば、図示しない圧力センサおよび図4に示すAPCバルブ121と電気的に接続されている。そして、この圧力制御部204は、圧力センサによって検出された圧力に基づいて、APCバルブ121の開閉度を調節し、処理室100内の圧力が所定圧力となるように制御するように構成されている。
【0093】
駆動制御部205は、例えば、図7に示す回転機構119および昇降機構を動作させる昇降モータ131と電気的に接続されており、この駆動制御部205は、回転機構119や昇降モータ131が所定動作をするように制御している。
【0094】
以上のようにして、本実施の形態における基板処理装置がコントローラ200によって制御される。以下では、このコントローラ200による制御のもと、本実施の形態における基板処理装置によって、半導体基板上に炭化珪素エピタキシャル膜を成膜する方法について説明する。
【0095】
<本実施の形態における基板処理装置を使用した半導体装置の製造方法>
本実施の形態における基板処理装置を使用して、例えば、シリコン(Si)や炭化珪素(SiC)からなる半導体基板上に、炭化珪素エピタキシャル膜を形成する方法について説明する。なお、以下の説明におおいて、本実施の形態における基板処理装置を構成する各部の動作は、図8に示すコントローラ200によって制御される。
【0096】
まず、図3に示すように、ポッドステージ12に複数枚の半導体基板(半導体ウェハ)を収納したポッド11がセットされると、ポッド搬送装置13によって、ポッド11をポッドステージ12からポッド収納棚14へ搬送して、ポッド11をポッド収納棚14にストックする。次に、ポッド搬送装置13により、ポッド収納棚14にストックされたポッド11をポッドオープナ15に搬送してセットする。そして、ポッドオープナ15により、ポッド11の蓋を開き、基板枚数検知器16により、ポッド11に収納されている半導体基板の枚数を検知する。その後、基板移載器17により、ポッドオープナ15の位置にあるポッド11から半導体基板を取り出し、取り出した半導体基板をボート18に搭載する。
【0097】
複数枚の半導体基板がボート18に装填されると、図7に示すように、半導体基板を保持したボート18は、昇降モータ131による昇降台134および昇降シャフト138の昇降動作により、処理炉20内に搬入(ボートローディング)される。この状態において、シールキャップ118は、Oリング(図示せず)を介してマニホールド102(図4参照)の下端をシールした状態となる。
【0098】
ボート18を処理炉20内に搬入した後、図4に示すように、処理室100内が所定圧力(真空度)となるように、処理室100内の雰囲気が真空排気装置122によって排気される。このとき、処理室100内の圧力は、圧力センサ(図示せず)によって測定され、測定された圧力に基づいて、ガス排気管120に連通するAPCバルブ121がフィードバック制御される。また、誘導コイル104に電流を流すことにより、被加熱体(被誘導体)103を誘導加熱して、半導体基板および処理室100内の温度が所定温度となるように誘導コイル104に流す電流を制御する。このとき、処理室100内が所定の温度分布となるように、温度センサ(図示せず)が検出した温度情報に基づいて、誘導コイル104へ流す電流の電流量を調整する(フィードバック制御)。続いて、回転機構119によってボート18を回転することで、半導体基板が回転軸を中心として回転する。
【0099】
次に、アルゴン(Ar)ガス供給源、四塩化珪素(SiCl)ガス供給源、プロパン(C)ガス供給源、塩化水素(HCl)ガス供給源のそれぞれから、アルゴン(Ar)ガス、四塩化珪素(SiCl)ガス、プロパン(C)ガスの一部、および、塩化水素(HCl)ガスが供給される。それぞれのガス供給源から供給されたガスは、所定の流量となるように対応するマスフローコントローラ113a〜113dの開閉度が調整された後、バルブ112a〜112dが開かれ、それぞれのガスは、それぞれ、配管111a〜111dを介してガス供給ライン110に流通し、さらに、ガス供給ノズル108を通って、ガス供給口108aから処理室100内へ導入される。
【0100】
また、プロパン(C)ガス供給源、水素(H)ガス供給源のそれぞれから、プロパン(C)ガスの残り、および、水素(H)ガスが供給される。それぞれのガス供給源から供給されたガスは、所定の流量となるように対応するマスフローコントローラ117a〜117bの開閉度が調整された後、バルブ116a〜116bが開かれ、それぞれのガスは、それぞれ、配管115a〜115bを介してガス供給ライン114に流通し、さらに、ガス供給ノズル109を通って、ガス供給口109aから処理室100内へ導入される。
【0101】
ガス供給口108aおよびガス供給口109aから供給されたガスは、処理室100の被加熱体103の内側を通り、ガス排気管120を通って外部へ排気される。ガス供給口108aおよびガス供給口109aから供給されたガスは、処理室100内で分解して化学反応が生じるとともに、処理室100内を通過する際、ボート18に搭載された半導体基板の成膜面と接触し、半導体基板の成膜面に炭化珪素エピタキシャル膜が成膜される。
【0102】
その後、予め設定された時間が経過すると、上述したガスの供給が停止され、半導体基板上への炭化珪素エピタキシャル膜の成膜処理が終了する。そして、図示しない不活性ガス供給源から不活性ガスが供給され、処理室100内の被加熱体103の内側の空間が不活性ガスで置換されるとともに、処理室100内の圧力が常圧(大気圧)に復帰される。
【0103】
その後、図7に示すように、昇降モータ131によりシールキャップ118が下降され、マニホールド102(図4参照)の下端が開口される。そして、成膜処理済みの半導体基板がボート18に保持された状態で、マニホールド102(図4参照)の下端から処理炉20の外部へ搬出(ボートアンローディング)される。次に、ボート18に保持されている半導体基板が冷えるまで、ボート18を所定位置で待機させる。待機されているボート18に保持されている半導体基板が所定温度まで冷却されると、図3に示すように、基板移載器17によって、ボート18から半導体基板が取り出される。ボート18から取り出された半導体基板は、ポッドオープナ15にセットされている空のポッド11に搬送されて収納される。その後、半導体基板が収納されたポッド11は、ポッド搬送装置13によって、ポッド収納棚14あるいはポッドステージ12に搬送される。このようにして、本実施の形態における基板処理装置を使用した成膜処理動作が完了する。
【0104】
<本実施の形態における効果>
以上のようにして、本実施の形態における技術的思想によれば、少なくとも、以下に記載する複数の効果のうち、1つ以上の効果を奏する。
【0105】
(1)本実施の形態では、異なる第1のガス供給系と第2のガス供給系を設け、第1のガス供給系からアルゴン(Ar)ガス、四塩化珪素(SiCl)ガス、プロパン(C)ガスの一部および塩化水素(HCl)ガスを供給し、第2のガス供給系から残りのプロパン(C)ガスと水素(H)ガスを供給している。これにより、本実施の形態における基板処理装置では、シリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)と一緒に混合して供給される炭素含有原料ガス(プロパン(C)ガス)の供給量を少なくすることができるので、第1のガス供給系内に生成される炭化珪素の絶対量を抑制できる。このことは、生成された炭化珪素によるガス供給口の閉塞を抑制するために供給される塩化水素(HCl)ガスの供給量を低減できることを意味する。この結果、本実施の形態によれば塩化水素(HCl)ガスの供給量を低減できるので、塩化水素(HCl)ガスによって、炭化珪素エピタキシャル膜の成膜に寄与するシリコン(Si)が減少し、半導体基板上への炭化珪素エピタキシャル膜の成膜速度が低下してしまうことを抑制できる。つまり、本実施の形態によれば、例えば、ガス供給ノズルの温度が原料ガスの分解温度を超えるような装置構成で炭化珪素エピタキシャル膜を成膜する際、成膜速度の低下を抑制しつつ、ガス供給口の閉塞を抑制できる効果を得ることができる。
【0106】
(2)さらに、本実施の形態によれば、第1のガス供給系からシリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)と、一部の炭素含有原料ガス(プロパン(C)ガス)とを混合して半導体基板上に供給することができるため、完全にシリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)と、炭素含有原料ガス(プロパン(C)ガス)とを分離して供給する場合に比べて、半導体基板上での炭素(C)とシリコン(Si)の比の均一性を改善することができる。この結果、本実施の形態における基板処理装置によれば、半導体基板上に形成される炭化珪素エピタキシャル膜の膜質や均一性の劣化を抑制することができる。
【0107】
(3)また、本実施の形態によれば、四塩化珪素(SiCl)ガスを供給する第1のガス供給系と、還元ガスである水素(H)ガスを供給する第2のガス供給系とを分けているので、第1のガス供給系内で、水素還元によるシリコン含有原料ガス(四塩化珪素(SiCl)ガス)の分解を防止することができ、第1のガス供給系内での炭化珪素の生成を抑制することができる。
【0108】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0109】
本発明は少なくとも以下の実施の形態を含む。
【0110】
〔付記1〕
所定の間隔で配列された複数枚の基板を処理する反応室と、
該反応室内に設けられた被加熱体と、
前記反応室内に少なくともシリコン原子含有ガス、塩素原子含有ガス、及び、炭素原子含有ガスを供給する第1のガス供給系と、
前記反応室内に少なくとも炭素原子含有ガスを供給する第2のガス供給系と、
前記被加熱体と基板との間の基板の配列領域にその一部が設けられ、基板の配列領域に1以上設けられる第1のガス供給口を有する第1のガス供給ノズルと、
前記被加熱体と基板との間の基板の配列領域にその一部が設けられ、基板の配列領域に1以上設けられる第2のガス供給口を有する第2のガス供給ノズルと、
前記第1のガス供給系が前記反応室内に前記第1のガス供給口より少なくともシリコン原子含有ガス、塩素原子含有ガス、及び、炭素原子含有ガスを供給し、前記第2のガス供給系が前記反応室内に前記第2のガス供給口から少なくとも炭素原子含有ガスを供給して基板上に炭化珪素エピタキシャル膜を成膜するように制御するコントローラと、を備えることを特徴とする基板処理装置。
【0111】
〔付記2〕
付記1において、前記第2のガス供給系は、シリコン原子含有ガスを還元する還元ガスをさらに供給し、前記第2のガス供給ノズルは、少なくとも炭素原子含有ガス、及び、前記還元ガスを前記反応室内に供給し、前記第1のガス供給系から前記第1のガス供給ノズルに供給されるガスの中には、前記還元ガスが含まれないことを特徴とする基板処理装置。
【0112】
〔付記3〕
付記1又は付記2において、前記第1のガス供給系は、不活性ガスをキャリアガスとして用いることを特徴とする基板処理装置。
【0113】
〔付記4〕
付記3において、前記不活性ガスは、アルゴンガスであることを特徴とする基板処理装置。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、半導体装置を製造する製造業に幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0115】
1 基板処理装置
1S 半導体基板
10 筐体
11 ポッド
12 ポッドステージ
13 ポッド搬送装置
14 ポッド収納棚
15 ポッドオープナ
16 基板枚数検知器
17 基板移載器
18 ボート
19 アーム
20 処理炉
100 処理室
101 反応管
102 マニホールド
103 被加熱体
104 誘導コイル
105 断熱材
106 断熱壁
107 電磁気シールド材
108 ガス供給ノズル
108a ガス供給口
109 ガス供給ノズル
109a ガス供給口
110 ガス供給ライン
111a 配管
111b 配管
111c 配管
111d 配管
111e 配管
112a バルブ
112b バルブ
112c バルブ
112d バルブ
112e バルブ
113a マスフローコントローラ
113b マスフローコントローラ
113c マスフローコントローラ
113d マスフローコントローラ
113e マスフローコントローラ
114 ガス供給ライン
115a 配管
115b 配管
116a バルブ
116b バルブ
117a マスフローコントローラ
117b マスフローコントローラ
118 シールキャップ
119 回転機構
120 ガス排気管
121 APCバルブ
122 真空排気装置
130 回転軸
131 昇降モータ
132 ロードロック室
133 下基板
134 昇降台
135 ガイドシャフト
136 ボール螺子
137 上基板
138 昇降シャフト
139 天板
140 ベローズ
141 昇降基板
142 駆動部カバー
143 駆動部収納ケース
144 冷却機構
145 電力ケーブル
146 冷却水流路
147 冷却水配管
148 炉口
200 コントローラ
201 主制御部
202 温度制御部
203 ガス流量制御部
204 圧力制御部
205 駆動制御部
FN 第1ノズル
SN 第2ノズル
WF 半導体基板
WH1 ウェハホルダ
WH2 ウェハホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で配列された複数枚の基板を処理する反応室と、
該反応室内に設けられた被加熱体と、
前記反応室内に少なくともシリコン原子含有ガス、塩素原子含有ガス、及び、炭素原子含有ガスを供給する第1のガス供給系と、
前記反応室内に少なくとも炭素原子含有ガスを供給する第2のガス供給系と、
前記被加熱体と基板との間の基板の配列領域にその一部が設けられ、基板の配列領域に1以上設けられる第1のガス供給口を有する第1のガス供給ノズルと、
前記被加熱体と基板との間の基板の配列領域にその一部が設けられ、基板の配列領域に1以上設けられる第2のガス供給口を有する第2のガス供給ノズルと、
前記第1のガス供給系が前記反応室内に前記第1のガス供給口より少なくともシリコン原子含有ガス、塩素原子含有ガス、及び、炭素原子含有ガスを供給し、前記第2のガス供給系が前記反応室内に前記第2のガス供給口から少なくとも炭素原子含有ガスを供給して基板上に炭化珪素エピタキシャル膜を成膜するように制御するコントローラと、を備えることを特徴とする基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−178443(P2012−178443A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40385(P2011−40385)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】