説明

水車構造物の三次元欠陥検査装置

【課題】水車におけるステーベン5の欠陥を高い精度で効率的に求める。
【解決手段】 先端部19の三次元位置と向きとを読取る三次元デジタイザ7の先端部19に距離計8を取付けて、先端部をステーベン5に対する倣い操作を行なうことによって、ステーベンの三次元形状を測定する。次に、三次元デジタイザの先端部に超音波探触子9を取付けて、ステーベンの表面の各位置へ超音波探触子を順次当接していくことによって、ステーベンに対して超音波パルスを送信してエコーを受信する。そして、超音波探触子のステーベンにおける各当接位置、エコー受信情報、及び測定した三次元形状に基づいてステーベンにおける欠陥の3次元位置と欠陥規模とを算出する。算出した三次元欠陥を三次元グラフィック表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力発電所における発電機を回転駆動する水車の水車構造の三次欠陥を検査する三次元欠陥検査装置に係わり、特に水車ケーシング内に設けられたステーベンの欠陥を三次元的に検出する水車構造物の三次元欠陥検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本国内で稼働している水力発電所に設置された発電機の製造時期は明治時代から平成時代まで様々な時期に及ぶ。したがって、この発電機を回転駆動する水車の製造時期も様々な時期に及ぶ。
【0003】
図2は、発電機に取付けられた水車の断面模式図である。図示しない発電機の軸1に複数の羽根からなるランナ2が取付けられており、このランナ2を囲むようにトロイダル型の水車ケーシング3が設けられている。水車ケーシング3には、水圧鉄管4が接続されている。水車ケーシング3の内面には、複数のステーベン5が円周上に亘って一体形成されている。水圧鉄管4から水車ケーシング3内に供給された高圧の水6は、各ステーベン5によって、効率的にランナ2に供給され、ランナ2が回転して発電機の軸1が回転し、発電機が交流電力を発電する。
【0004】
このような水車において、水車ケーシング3内部のステーベン5は運転中の水圧等の応力を受け持つ強度上重要な部材である。水車ケーシング3内部にあるステーベン5に欠陥が発生し、この欠陥が進展した場合、ステーベン5の破壊に至り、重大事故の懸念が生じる。
【0005】
このため、ステーベン5における内部欠陥、表面欠陥、及び開口欠陥の各状況を把握し、ステーベンの形状と検出した欠陥位置の断面図を作成し、断面図から最も欠陥が発生している断面を特定し、この断面位置をモデル化して破壊予測計算を行うことは水車に対する保守点検上必要なことである。また、最も応力が集中しやすいステーベン5の水車ケーシング3に対する接続部分における内部欠陥の発生状況を把握しておくことも重要な事である。
【0006】
しかしながら、ステーベン5が形成された水車の水車ケーシング3は、一般的に、発電所の建屋のコンクリートに埋設され、移動が不可能な大型構造物である。水車ケーシング3の大きさも発電機出力、水の落差、発電機の回転数によって様々な大きさがある。一般的に、検査対象であるステーベン5は水車ケーシング3に対して一体形成されており、ステーベン5の欠陥検査を行うためには水車ケーシング3の内部に入る必要がある。
【0007】
ここで、検査作業員が水車ケーシング3内に出入りするためのマンホールの大きさが問題となる。このマンホールの大きさは、例えば、直径500mm〜800mmであるので、ステーベン5の欠陥検査を行うための大型検査機器を水車ケーシング3の内部に持込めない。そのため、従来は超音波探傷器、磁気探傷器、き裂深さ計を個別に水車ケーシング3内へ持ち込んで、それぞれ個別に欠陥検査を実施して後からこれらを合成していた。
【0008】
また、ステーベン5、及び水車ケーシング3は複雑な形状をしている大型鋳造品であること、及び、表面に凹凸や、長年の運転による腐食が発生しているため重量のある検査機器を検査対象であるステーベン5及び水車ケーシング3の内面に対してマグネット等で固定できない。
【0009】
また、検査対象の機器に孔を空けて検査機器を固定することも、ステーベン5の強度低下や水車ケーシング3外への漏水原因となるので、不可能である。
【0010】
ステーベン5は複雑な三次元形状をしており、水車ケーシング3又はスピードリングに対して一体形成製品であるため平板のような形状は存在しない。したがって、ステーベン5の表面の各部に対して手作業で超音波探触子を順次押し当てていき、ステーベン5の表面から垂直方向又は斜め方向に超音波パルスを送信する超音波探傷を行った場合には、送信した超音波パルスに対するエコーが帰って来た場合、このエコーが反対面からの反射エコーであるのか、欠陥で反射された欠陥エコーであるのかの区別がつかない。さらに、この欠陥エコーのみでは、欠陥の位置を簡単に特定することは、きわめて困難である。
【0011】
なお、複雑な形状を有した被測定体に対する超音波探傷を行う「超音波探傷装置」が特許文献1に提唱されている。この超音波探傷装置においては、三次元スキャナの先端に距離センサを取付け、さらに、この先端に垂直面内及び水平面内移動可能なホルダを取付け、このホルダに超音波探触子を取付けている。
【0012】
そして、水槽内に被測定体を入れて、三次元スキャナの先端の距離センサを水槽の上方の水平面内で走査(スキャン)させることによって、被測定体の立体形状を得る。次に、超音波探触子を被測定体から一定間隔を確保した状態で被測定体上を走査(スキャン)することにより、被測定体の内部欠陥を測定する。
【0013】
また、特許文献2の「軸に焼き嵌められた未知の輪郭を有する円盤の超音波探傷検査方法及び装置」においては、タービン羽根車の検査を実施する場合に、軸に焼き嵌められた円盤の両側面に、側面までの距離を計測する距離計と超音波探傷検査ヘッドを配設して、円盤を回転することにより、距離計で円盤の形状を測定して、超音波探傷検査ヘッドの円盤側面までの距離を一定に制御する。このようにして、円盤の超音波探傷を行う。
【特許文献1】特開昭63―309852号公報
【特許文献1】特表平11−512822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述した複雑形状を有する被測定体に対する超音波探触子を用いた探傷手法においても、次のような課題があった。
【0015】
特許文献1の手法においては、超音波探触子は被測定体に当接させているのではなくて、一定間隔を開けて対向しているので、超音波の減衰を防止するために被測定体を水槽に入れている。したがって、被測定体を本来組込まれている装置から取外して、水槽まで搬送する必要があるので、前述した、発電所の水車等の施設に例えばコンクリートで埋込固定されていたり、簡単に搬送できないくらい大きい被測定体には適用できない。
【0016】
また、距離センサを被測定体の上方の水平面内で走査(スキャン)させる必要があるので、被測定体の全体形状が上方から俯瞰できることが必要であり、被測定体の形状に大きな制限がある。例えば、図2に示す多数のステーベン5が狭い間隔で水車ケーシング3に一体形成されている場合は、1つのステーベン5の形状を見渡せる位置は存在しない。
【0017】
特許文献2の手法においては、タービンを回転させることによって円盤側面の探傷を実施している。したがって、例えばステーベンのような形状、旋回方向に一様でない形状、凹凸が大きく変動する形状、の被測定体には適用できない。
【0018】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、小型軽量化した三次元デジタイザの先端部に距離計や超音波探触子を取付けることにより、簡単な操作でもって、複雑な三次元構造を有する発電所における水車のステーベンに生じる三次元欠陥を高い精度で検出できる水車構造物の三次元欠陥検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明は、発電機の軸に取付けられたランナに水を導くための水車ケーシング内に設けられたステーベンの三次元欠陥を検査する水車構造物の三次元欠陥検査装置において、移動操作される先端部の三次元位置と向きとを読取る6軸制御の三次元デジタイザと、この三次元デジタイザの先端部に測定対象までの距離を非接触で測定する距離計が取付られた状態で、この三次元デジタイザの先端部の前記ステーベンに対する倣い操作に応じて、ステーベンの三次元形状を測定する三次元形状測定手段と、三次元デジタイザの先端部に超音波探触子が取付けられた状態において、ステーベンの表面の各位置への超音波探触子の当接操作に応じて、当該ステーベンに対して超音波パルスを送信してエコーを受信する探傷手段と、超音波探触子のステーベンにおける各当接位置、エコー受信情報、及び三次元形状測定手段で測定した三次元形状に基づいてステーベンにおける欠陥の3次元位置と欠陥規模とを算出する三次元欠陥算出手段と、この算出された三次元欠陥を三次元グラフィック表示する表示手段とを備えている。
【0020】
このように構成された水車構造物の三次元欠陥検査装置においては、検査作業員が三次元デジタイザを持参して、発電所の床に設けられたマンホールから水車の水車ケーシング内に入る。三次元デジタイザの先端部に距離計を取付けてから、先端部を測定したい被測定体であるステーベンの表面を間隔を開けて倣っていけば、先端部の3次元位置、距離計の方向、及び被測定体の表面までの距離が特定されるので、被測定体の表面の測定対象点の三次元位置が定まる。よって、ステーベンの正確な三次元形状が求まる。
【0021】
次に、三次元デジタイザの先端部に超音波探触子を取付けて、検査作業員がこの超音波探触子を被測定体であるステーベンの表面に当接した状態で、ステーベンの表面をなぞっていくと、ステーベンの三次元形状における超音波パルスの入射位置、近傍の断面形状が定まるので、受信したエコーと予め求めておいた入射角度に基づいて欠陥の有無、欠陥の三次元位置、規模が算出される。
【0022】
また、別の発明は、上記発明の水車構造物の三次元欠陥検査装置において、三次元デジタイザの先端部に測定針が取付けられた状態において、ステーベンの表面に磁紛探傷試験で検出された表層部欠陥に対する当接操作に応じて、この表層部欠陥の測定されたステーベンの三次元形状内における欠陥位置を算出する表層部欠陥算出手段を備えている。
【0023】
また、別の発明は、上記発明の水車構造物の三次元欠陥検査装置において、距離計はレーザ光線を用いたレーザ距離計であり、三次元デジタイザの先端部にレーザ距離計が取付られた状態で、この三次元デジタイザの先端部のステーベンに対する倣い操作に応じて、ステーベンの表面欠陥及び表面粗さを検出する。
【0024】
このように構成された水車構造物の三次元欠陥検査装置においては、ステーベンの表面欠陥及び表面粗さをも検出可能である。
【0025】
また、別の発明においては、上記発明の水車構造物の三次元欠陥検査装置における三次元デジタイザは、ベースに対して順番に互いに異なる直交座標軸回りに回転自在に連結された第1、第2、第3のアームと、第3のアームの自由端に取付けられた向き可変機構と、この向き可変機構に取付られた先端部と、先端部の三次元の方向を可変機構から得るともに、第1、第2、第3のアームの各直交軸回りの回転角を読取ることにより、先端部の三次元位置及び三次元方向を演算する演算処理部とを有する。
【0026】
このように構成された三次元デジタイザにおいては、距離計、超音波探触子、測定針が取付けられる先端部は、この先端部の向きを三軸方向に可変する向き可変機構が組込まれているのみであるので、三次元デジタイザの全体の形状を小型化できる。
【0027】
また、別の発明は、上記発明の水車構造物の三次元欠陥検査装置の三次元デジタイザにおける向き可変機構及び第1、第2、第3の各アームは、先端部に対する移動操作における力でもって、向きを変えると共に、軸回りに回転する。このように、三次元デジタイザは検査作業員の手作業のみで動くので、モータ等の駆動機構を組み込んでないので、この三次元デジタイザを小型軽量に形成できる。
【0028】
また、別の発明は、上記発明の水車構造物の三次元欠陥検査装置において、超音波探触子として斜角探触子を採用している。このように斜角探触子を採用することにより、角部等の直接探触子を当接できない部分の欠陥を検出できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明においては、簡単で小型軽量の三次元デジタイザを用いることにより、簡単な操作でもって、複雑な三次元構造を有する発電所における水車のステーベンに生じる三次元欠陥を高い精度で検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。
【0031】
図1は本発明の一実施形態に係わる水車構造物の三次元欠陥検査装置の概略構成を示す模式図である。図2は欠陥検査対象の水車の概略構成を示す断面模式図である。
【0032】
前述したように、図2において、発電機の軸1に複数の羽根からなるランナ2が取付けられており、このランナ2を囲むように水車ケーシング3が設けられている。水車ケーシング3には、水圧鉄管4が接続されている。水車ケーシング3の内面には、複数のステーベン5が円周上に亘って一体形成されている。水圧鉄管4から水車ケーシング3内に供給された高圧の水6は、各ステーベン5によって、効率的にランナ2に導かれ、ランナ2が回転して発電機の軸1が回転し、発電機が交流電力を発電する。
【0033】
図1において、一台の6軸の三次元デジタイザ7の先端部19に対して、距離計としてのレーザ距離計8、超音波探触子としての斜角探触子9、測定針10が装着可能である。
【0034】
図3(a)は、6軸の三次元デジタイザ7の概略構成図である。基本直交座標系(x、y、z)のベースとなる基板11に第1のアーム12の一端が軸受(第1のロータリーエンコーダ)13で、z軸方向で、かつこのz軸回りに回転可能に取付けられている。この第1のアーム12の他端に関節部(第2のロータリーエンコーダ)14aを介して第2のアーム15の一端がy軸に平行する線の回りに回転可能に接続されている。
【0035】
さらに、この第2のアーム15の他端に関節部(第3のロータリーエンコーダ)14bを介して第3のアーム17の一端がx軸に平行する線の回りに回転可能に接続されている。そして、この第3のアーム17の他端には、間接部(第4のロータリーエンコーダ)16aを介して向き可変機構18が取付けられている。
【0036】
向き可変機構18において、第1の部材18aが第3のアーム17の他端に前述したように間接部(第4のロータリーエンコーダ)16aを介してα軸回りに回転可能に取付けられ、第2の部材18bが第1の部材18aに対して回転軸(第5のロータリーエンコーダ)16bでもってβ軸回りに回転可能に取付けられ、さらに、先端部19が向き可変機構18の第2の部材18bに対して回転軸(第6のロータリーエンコーダ)16cでもってγ軸回りに回転可能に取付けられている。
【0037】
α軸、β軸、γ軸は互いに直交しているので、先端部19は、第3のアーム17の他端に対して任意の三次元方向を向かわせることが可能である。第3のアーム17の他端の基本直交座標系(x、y、z)における位置は第1、第2、第3のアーム12、15、17の回転角度を調整することによって任意に指定できる。
【0038】
したがって、検査作業員は、先端部19を手で操作して、任意の三次元位置、任意の三次元方向を向かわせることができる。例えば、図4に示すように、先端部19を水車ケーシング3に一体形成されたステーベン5の表面に垂直方向に設定できる。なお、この三次元デジタイザ7の各回転可能部分13、14a、14b、16a、16b、16cには、前述したように、回転角度位置を示す合計6台のロータリーエンコーダが組込まれている。
【0039】
したがって、検査作業員が手で掴んで移動した先端部19の、図3(b)の基本直交座標系(x、y、z)の三次元位置Pと方向Dとを、位置読取装置20にて算出する。なお、この三次元デジタイザ7は駆動モータが組み込まれておらず、検査作業員の手の力で各アーム12、15、17、向き可変機構18が移動する。
【0040】
図5は三次元デジタイザ7の先端部19にレーザ距離計8を装着して、水車ケーシング3に一体形成されたステーベン5の表面形状を測定する時の測定方法を示す模式図である。このレーザ距離計8は、図6に示すように、レーザ走査制御部21の制御に基づいて、レーザ光24を幅方向に0.03mm間隔で1000箇所から順番に幅30mmに亘って出力していく。すなわち、レーザ光24を幅30mmに亘って走査するに要する走査時間は30msである。
【0041】
したがって、30mm幅を有するレーザ距離計8からレーザ走査制御部21に0.03ms毎に測定対象のステーベン5の表面からの距離が入力される。すなわち、1走査毎に、1000個の距離d1〜d1000が入力される。レーザ走査制御部21は入力された1000個の距離d1〜d1000をデータ処理装置25へ送出する。走査期間においては、先端部19の位置はレーザ距離計8の中心位置であるので、データ処理装置25は、1000個の距離d1〜d1000の入力に同期して、位置読込部20から入力されるレーザ距離計8の中心位置のデータの左右データを各距離に割り付けていく。
【0042】
検査作業員が先端部19を手で持って、レーザ距離計8の幅方向と直交する矢印方向にステーベン5の表面から例えば、65〜95mm離して、表面にほぼ平行にレーザ距離計8を移動させる。例えば、200mm〜600mm移動させた後、レーザ距離計8を幅方向に25mm〜29mm矢印と直交する方向にシフトし、そのシフト位置で、再度矢印方向に移動させる。このようにして、ステーベン5の必要な表面をレーザ距離計8で走査していく。ステーベン5の表面側の走査が終了すると、ステーベン5の裏面側の走査を実行していく。
【0043】
データ処理部25は、位置読取部20から得られた幅方向に修正された基本直交座標系(x、y、z)の各三次元位置と方向(レーザ光24の方向)と、距離とに基づいて、ステーベン5の三次元形状を算出する。
【0044】
図7に先端部19の方向が基本座標系の座標軸方向と一致しない場合における距離dの算出方法を示す。この場合、レーザ距離計8はステーベン5の表面に平行しているとみなして距離算出を実施する。なお、ステーベン5の表面を複数に分割して、各分割した部分表面に対しては、先端部19の方向を固定することによって距離算出の容易化を図ることができる。
【0045】
図1において、三次元デジタイザ7の先端部19にレーザ距離計8を取付け、レーザ走査制御部21でステーベン5の全表面を走査(スキャン)すると、三次元形状解析部26にて、位置読取部20からの各位置、レーザ走査制御部21からの各距離を用いてステーベン5の三次元形状を算出する。算出されたステーベン5の三次元形状は、三次元形状記憶部27に書込まれる。
【0046】
表面欠陥検出部28は、三次元形状記憶部27に書込まれているステーベン5の表面における表面疵や表面粗さや等の表面欠陥を検出し、その位置と共に、表面欠陥記憶部29に書込む。したがって、三次元形状解析部26、三次元形状記憶部27,表面欠陥検出部28、表面欠陥記憶部29は、図5のデータ処理部25を形成する。
【0047】
次に、三次元デジタイザ7の先端部19に超音波探触子として斜角探触子9を装着して、ステーベン5の内部欠陥を検出する手順を図8を用いて説明する。
【0048】
三次元デジタイザ7の先端部19に取付けられた斜角探触子9は、図9(a)に示すように、検査作業員によって測定対象のステーベン5の表面に当接される。この状態で、超音波送受信部(超音波測定器)30から一定周期でパルス信号が印加され、斜角探触子9からステーベン5内へ斜め方向に超音波パルス31が送出される。
【0049】
ステーベン5内に欠陥(内部欠陥)32が存在すれば、超音波パルス31が欠陥32に当接して、エコー32として斜角探触子9へ戻る。欠陥32から、遠く離れている場合は、図9(b)に示すように、超音波パルス31はステーベン5内の底壁、上壁に対して、複数回に亘って繰り返し反射された後に欠陥32に当接して、反射されて値超音波パルス31の元来た経路を逆に辿ってエコー33として斜角探触子9へ戻る。
【0050】
この場合、超音波探触子として、垂直型探触子の代りに斜角探触子9を採用する理由を図9(c)を用い説明する。ステーベン5は水車ケーシング3に対して一体形成されているので、ステーベン5の水車ケーシング3に対する付け根部分は鋭角になっている。この鋭角部分に探触子を直接当接できないので、その近傍位置に斜角探触子9を当接することにより、応力負荷が集中しやすい鋭角部分の内部に超音波パルス31を伝搬できるので、欠陥を確実に検出できる。
【0051】
検査作業員によってステーベン5の表面に当接され斜角探触子9の位置及び向きは位置読取部機20で読取られる。さらに読取られた斜角探触子9の位置がステーベン5の三次元形状記憶部27に記憶されている三次元形状のどの部分に相当するかが既知である。したがって、斜角探触子9で超音波パルス31に対するエコー33を受信した場合、超音波送受信部30で測定された超音波パルス31の送出時刻からエコー33の受信時刻までの経過時間Tにて、このエコー33がステーベン5の反対面や形状の一部面に衝突したことに起因する反射エコーであるのか、欠陥32に起因する欠陥エコーであるかを、データ処理装置25の結果から判定する。
【0052】
さらに、欠陥エコーの場合、経過時間Tと三次元形状とにより、図9(a)に示すように、斜角探触子9からの超音波パルス31が直接衝突した欠陥32か、図9(b)に示す超音波パルス31がステーベン5内の底壁、上壁に対して、複数回に亘って繰り返し反射された後に衝突した欠陥32であるかが特定できる。
【0053】
さらに、超音波パルス31の入射角、超音波パルス31の速度、経過時間T、ステーベン5の形状、欠陥エコーのレベルから、欠陥32の三次元位置及び規模が検出される。
【0054】
検査作業員は、ステーベン5の表面に当接され斜角探触子9の位置を、ステーベン5の水車ケーシング3に対する付け根部分等を含む予め定められた探傷範囲を走査する。その結果、ステーベン5の内部に存在する三次元の内部欠陥32が検出される。
【0055】
図1において、三次元デジタイザ7の先端部19に斜角探触子9を取付け、この斜角探触子9でステーベン5の前述した探傷範囲を走査すると、内部欠陥検出部34がステーベン5内に存在する欠陥32の三次元位置及び規模が検出されて、内部欠陥記憶部35に書込まれる。したがって、内部欠陥検出部34、内部欠陥記憶部35は、図8のデータ処理部25を形成する。
【0056】
次に、三次元デジタイザ7の先端部19に測定針10を装着して、図10(a)に示すに示す、ステーベン5の表面に存在するステーベンの表面に開口した開口欠陥や表面にごく近い内面(表層)に存在する欠陥等の表層部欠陥を位置検出する手順を説明する。
【0057】
この測定針10を用いて検出作業を実施する前の準備作業として、磁粉探傷を実施する。すなわち、図10(a)に示すように、ステーベン5及び水車ケーシング3を磁化した状態で磁粉を散布すると、表面に開口した疵(開口欠陥)や表面にごく近い疵に磁束漏洩部分が生じ、不連続部分(表層欠陥)に対する表面に磁粉37が残る。
【0058】
そして、検査作業員は、図10(b)に示すように、三次元デジタイザ7の先端部19を手で操作して、ステーベン5及び水車ケーシング3の表面に付着した磁粉39に測定針10を当てて、この線状の磁粉39をトレースしていく。測定針10の三次元位置は読取部20で読取られて、欠陥位置検出部38へ入力される。
【0059】
欠陥位置検出部38は入力された測定針10の三次元位置を三次元形状記憶部27に記憶されているステーベン5の3次元形状内に表層部欠陥36として位置検出して、次の表面開口欠陥記憶部39へ書込む。なお、検査作業員は、測定針10を用いた開口欠陥や表層欠陥等の表層部欠陥36の検査が終了すると、表面に残留している磁粉37を除去する。
【0060】
以上、図1におけるステーベン5及び水車ケーシング3の三次元形状の測定及び粗さの測定、内部欠陥の検出、表層部欠陥検出が終了すると、欠陥合成部40にて、上記三種類の欠陥を三次元合成する。そして、合成した三次元欠陥合成データから三次元欠陥画像作成部41で、三次元欠陥画像を作成する。この作成された三次元欠陥画像を表示器42へ表示すると共に、この三次元欠陥画像データを三次元欠陥画像機記憶部43に書込む。
【0061】
なお、三次元欠陥画像作成部41は、欠陥合成部40で合成された三次元欠陥合成データから、検査作業員が欠陥の特徴を理解しやすいように、測定対象のステーベン5及び水車ケーシング3の任意方向から見た斜視図、任意位置における断面模式図を作成可能である。
【0062】
図11(a)、(b)、(c)は三次元欠陥画像作成部41で作成して表示器42に表示したステーベン5及び水車ケーシング3の三次元欠陥画像を示す図である。図11(a)はステーベン5及び水車ケーシング3の要部を抽出した斜視図である。この例においては、水車ケーシング3のステーベン5の付け根付近において、内部欠陥32、表層部欠陥36が存在し、水車ケーシング3のステーベン5の付け根付近に表面疵又は表面粗さ44がある。さらに、水車ケーシング3の表面には表層部欠陥36が存在する。
【0063】
図11(b)は、図11(a)を矢印A方向から見た図であり、図11(c)は、図11(a)を矢印A方向から見た図である。なお、各欠陥32、36、44の危険度の程度を示す欠陥規模は例えば「赤」、「黄」、「青」の色分け表示される。
【0064】
図12は図11(b)の詳細拡大図である。水車ケーシング3のステーベン5の付け根付近において欠陥規模の大きい「赤」の内部欠陥32がある。また、水車ケーシング3の底面近傍には、欠陥規模の小さい「青」の多数の内部欠陥32がある。さらに、ステーベン5の付け根付近に欠陥規模の小さい「青」の表面疵又は表面粗さ44がある。
【0065】
図13には、各ステーベン5に対する各欠陥検出結果を示す図である。前述したように、各3ステーベン5のステーベン5の3次元欠陥画像が得られているので、ステーベン5における最大規模の内部欠陥32の発生位置を含む断面図45を作成して、表示器42の1画面に表示することにより、内部欠陥32の発生原因、内部欠陥32の進展メカニズムの解明、及び応急対策、設計改良を円滑に実施できる。さらに、現状欠陥を放置した場合における寿命予測等にも応用できる。
【0066】
特に、検査対象のステーベン5及び水車ケーシング3の3次元形状と各欠陥32、36、44の3次元位置が得られるので、ステーベン5及び水車ケーシング3をFEM(有限要素法)解析が可能となり、欠陥が生じた水車の健全度維持に寄与できる。
【0067】
また、3次元デジタイザ7においては、レーザ距離計8、斜角探触子9、測定針10が取付けられる先端部19は、この先端部19の向きを三軸方向に可変する向き可変機構18が組込まれているのみである。また、三次元デジタイザ7は検査作業員の手作業のみで動くので、モータ等の駆動機構を組み込んでない。この結果、この三次元デジタイザ7を小型軽量に形成でき、水車ケーシング3に出入りするための直径500mm〜800mmマンホールから水車ケーシング3の内部に簡単に持込むことができる。したがって、上述した手法で簡単に、詳細な欠陥の3次元位置情報が得られる。
【0068】
なお、検出可能な欠陥として、前述した内部欠陥32、表層部欠陥36、表面疵又は表面粗さ44の他に、流水による孔食、壊食(3次元での位置・深さ・形状・幅)、流水磨耗、キャビテーション、表層部欠陥36の位置・範囲・深さ、内部欠陥32の位置・範囲・深さ及び表面形状など様々な欠陥が検出できる。
【0069】
さらに、欠陥以外においても、超音波測定の特徴を生かして、ステーベン5及び水車ケーシング3の肉厚、形状等の詳細測定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態に係わる水車構造物の三次元欠陥検査装置の概略構成を示す模式図
【図2】検査対象の水車の概略構造を示す断面模式図
【図3】同実施形態装置に組み込まれた三次元デジタイザの概略構成図
【図4】同三次元デジタイザの先端部の向きを示す図
【図5】同三次元デジタイザを用いた被測定体の三次元形状の測定手順を示す図
【図6】レーザ距離計の距離測定法を示す図
【図7】レーザ距離計の距離算出法を説明するための図
【図8】同三次元デジタイザを用いた被測定体の内部欠陥の検出手順を示す図
【図9】斜角探触子の欠陥検出法を示す図
【図10】同三次元デジタイザを用いた被測定体の開口欠陥の検出手順を示す図
【図11】同実施形態の三次元欠陥検査装置の表示器に表示された三次元欠陥画像を示す図
【図12】同実施形態の三次元欠陥検査装置の表示器に表示された三次元欠陥画像を示す図
【図13】同実施形態の三次元欠陥検査装置の表示器に表示された三次元欠陥画像を示す図
【符号の説明】
【0071】
1…軸、2…ランナ、3…水車ケーシング、5…ステーベン、7…三次元デジタイザ、8…レーザ距離計、9…斜角探触子、10…測定針、11…基板、12…第1のアーム、15…第2のアーム、17…第3のアーム、18…向き可変機構、19…先端部、20…位置読取部、21…レーザ走査制御部、24…レーザ光、25…データ処理部、26…三次元形状解析部、27…三次元形状記憶部、28…表面欠陥検出部、29…表面欠陥検記憶部、30…超音波送受信部、31…超音波パルス、32…内部欠陥、33…エコー、34…内部欠陥検出部、35…内部欠陥記憶部、36…表層部欠陥、38…欠陥位置検出部、39…表面開口欠陥記憶部、40…欠陥合成部、41…三次元欠陥画像作成部、42…表示器、43…三次元欠陥画像機記憶部、44…表面疵又は表面粗さ、45…断面図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電機の軸に取付けられたランナに水を導くための水車ケーシング内に設けられたステーベンの三次元欠陥を検査する水車構造物の三次元欠陥検査装置において、
移動操作される先端部の三次元位置と向きとを読取る6軸制御の三次元デジタイザと、
この三次元デジタイザの先端部に測定対象までの距離を非接触で測定する距離計が取付られた状態で、この三次元デジタイザの先端部の前記ステーベンに対する倣い操作に応じて、前記ステーベンの三次元形状を測定する三次元形状測定手段と、
前記三次元デジタイザの先端部に超音波探触子が取付けられた状態において、前記ステーベンの表面の各位置への前記超音波探触子の当接操作に応じて、当該ステーベンに対して超音波パルスを送信してエコーを受信する探傷手段と、
前記超音波探触子の前記ステーベンにおける各当接位置、エコー受信情報、及び前記三次元形状測定手段で測定した三次元形状に基づいて前記ステーベンにおける欠陥の3次元位置と欠陥規模とを算出する三次元欠陥算出手段と、
この算出された三次元欠陥を三次元グラフィック表示する表示手段と
を備えたことを特徴とする水車構造物の三次元欠陥検査装置。
【請求項2】
前記三次元デジタイザの先端部に測定針が取付けられた状態において、前記ステーベンの表面に露出した表層部欠陥に対する当節操作に応じて、この表層部欠陥の前記測定された前記ステーベンの三次元形状内における欠陥位置を算出する表層部欠陥算出手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の水車構造物の三次元欠陥検査装置。
【請求項3】
前記距離計はレーザ光線を用いたレーザ距離計であり、
前記三次元デジタイザの先端部に前記レーザ距離計が取付られた状態で、この三次元デジタイザの先端部の前記ステーベンに対する倣い操作に応じて、前記ステーベンの表面欠陥及び表面粗さを検出する表面状態検出手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の水車構造物の三次元欠陥検査装置。
【請求項4】
前記三次元デジタイザは、ベースに対して順番に互いに異なる直交座標軸回りに回転自在に連結された第1、第2、第3のアームと、第3のアームの自由端に取付けられた向き可変機構と、この向き可変機構に取付られた先端部と、前記先端部の三次元の方向を前記可変機構から得るともに、前記第1、第2、第3のアームの各直交軸回りの回転角を読取ることにより、前記先端部の三次元位置及び三次元方向を演算する演算処理部とを有することを特徴とする請求項1記載の水車構造物の三次元欠陥検査装置。
【請求項5】
前記三次元デジタイザにおける向き可変機構及び第1、第2、第3の各アームは、前記先端部に対する移動操作における力でもって、向きを変えると共に、軸回りに回転することを特徴とする請求項4記載の水車構造物の三次元欠陥検査装置。
【請求項6】
前記超音波探触子は斜角探触子であることを特徴とする請求項1記載の水車構造物の三次元欠陥検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−145298(P2008−145298A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333512(P2006−333512)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000222071)東北発電工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】