説明

磁気抵抗素子の製造法及びその記憶媒体

【課題】従来よりも高いMR比を持った磁気抵抗素子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板の上に、スパッタリング法を用いて、磁化固定層、磁化自由層及びトンネルバリア層を成膜する工程において、磁化固定層成膜工程は、Co原子、Fe原子及びB原子を含有する第1ターゲットと、Co原子及びFe原子を含有し、該第1ターゲット中のB原子含有量と相違する含有量の第2ターゲットと、を用いたコ−スパッタリング法により、Co原子、Fe原子及びB原子を含有する強磁性体層を成膜する
ことを特徴とする磁気抵抗素子の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク駆動装置の磁気再生ヘッド、磁気ランダムアクセスメモリの記憶素子及び磁気センサーに用いられる磁気抵抗素子、好ましくは、トンネル磁気抵抗素子(さらに好ましくは、スピンバルブ型トンネル磁気抵抗素子)の製造法及びその記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4及び非特許文献5には、単結晶又は多結晶からなる結晶性酸化マグネシウム膜をトンネルバリヤ膜として用いたTMR(トンネル磁気抵抗;Tunneling Magneto Resistance)効果素子(以下、TMR素子という)が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−318465号公報
【特許文献2】国際公開番号をWO2005/088745号公報
【特許文献3】特開2006−08116号公報
【特許文献4】米国公開US2006/0056115号公報
【非特許文献1】D.D.Djayaprawiraら著「Applied Physics Letters」,86,092502(2005)
【非特許文献2】C.L.Plattら著「J.Appl.Phys.」81(8),15 April 1997
【非特許文献3】W.H.Butlerら著「The American Physical Society」(Physical Review Vol.63,054416)8,January 2001
【非特許文献4】湯浅新治ら著「Japanese Journal of Applied Physics」Vol.43,No.48,pp588−590,2004年4月2日発行
【非特許文献5】S.P.Parkinら著「2004 Nature Publishing Group」Letters,pp862−887,2004年10月31日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、従来技術と比較し、一層、改善された高いMR比を持った磁気抵抗素子(トンネル磁気抵抗素子、さらに好ましくは、スピンバルブ型トンネル磁気抵抗素子等)の製造法及びその記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の特徴は、第1に、基板の上に、スパッタリング法を用いて、磁化固定層、磁化自由層及び該磁化固定層と該磁化自由層との間に位置するトンネルバリア層を成膜する工程を有する磁気抵抗素子の製造法において、前記磁化固定層を成膜する工程は、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有する第1ターゲットと、Co(コバルト)原子及びFe(鉄)原子を含有し、該第1ターゲット中のB(ボロン)原子含有量と相違する含有量の第2ターゲット(但し、B原子含有量ゼロの場合を含む)と、を同時に用いたコ−スパッタリング(co−sputtering)法により、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有する強磁性体層を成膜する成膜工程を有する磁気抵抗素子の製造法である。
【0006】
本発明は、第2に、基板の上に、スパッタリング法を用いて、磁化固定層、磁化自由層及び該磁化固定層と該磁化自由層との間に位置するトンネルバリア層を成膜する工程を有する磁気抵抗素子の製造法において、前記磁化固定層を成膜する工程は、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有する第1ターゲットと、Co(コバルト)原子及びFe(鉄)原子を含有し、該第1ターゲット中のB(ボロン)原子含有量と相違する含有量の第2ターゲット(但し、B原子含有量ゼロの場合を含む)と、を用いたコ−スパッタリング法により、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有するアモルファス強磁性体層を成膜する成膜工程、及び該アモルファス強磁性体層を結晶性強磁性体層に相変化させる相変化工程を有する磁気抵抗素子の製造法である。
【0007】
本発明は、第3に、基板の上に、スパッタリング法を用いて、磁化固定層、磁化自由層及び該磁化固定層と該磁化自由層との間に位置するトンネルバリア層を成膜する工程を用いて、磁気抵抗素子の製造を実行する制御プログラムを記憶する記憶媒体において、前記磁気固定層を成膜する工程を実行するための制御プログラムは、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有する第1ターゲットと、Co(コバルト)原子及びFe(鉄)原子を含有し、該第1ターゲット中のB(ボロン)原子含有量と相違する含有量の第2ターゲット(但し、B原子含有量ゼロの場合を含む)と、を用いたコ−スパッタリング法により、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有する強磁性体層を成膜する成膜工程を実行するための制御プログラムを有する記憶媒体である。
【0008】
本発明は、第4に、基板の上に、スパッタリング法を用いて、磁化固定層、磁化自由層及び該磁化固定層と該磁化自由層との間に位置するトンネルバリア層を成膜する工程を用いて、磁気抵抗素子の製造を実行する制御プログラムを有する記憶媒体において、前記磁化固定層を成膜する工程を実行するための制御プログラムは、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有する第1ターゲットと、Co(コバルト)原子及びFe(鉄)原子を含有し、該第1ターゲット中のB(ボロン)原子含有量と相違する含有量の第2ターゲット(但し、B原子含有量ゼロの場合を含む)と、を用いたコ−スパッタリング法により、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有するアモルファス強磁性体層を成膜する成膜工程、及び該アモルファス強磁性体層を結晶性強磁性体層に相変化させる相変化工程を実行するための制御プログラムを有する記憶媒体である。
【0009】
前記本発明の第2及び第4の特徴において、前記相変化工程は、アニールリング工程を有する。
【0010】
前記本発明の第1〜第4の特徴において、前記トンネルバリア層を成膜する工程は、酸化マグネシウムを含有するターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性酸化マグネシウム層を成膜する工程を有する。
【0011】
前記本発明の第1〜第4の特徴において、前記トンネルバリア層を成膜する工程は、マグネシウム金属を含有するターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性マグネシウム金属層を成膜する成膜工程、及び該結晶性マグネシウム金属層を結晶性酸化マグネシウム層に酸化する酸化工程を有する。
【0012】
前記本発明の第1〜第4の特徴において、前記トンネルバリア層を成膜する工程は、ボロンマグネシウム酸化物を含有するターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性ボロンマグネシウム酸化物層を成膜する工程を有する。
【0013】
前記本発明の第1〜第4の特徴において、前記トンネルバリア層を成膜する工程は、ボロンマグネシウム合金を含有するターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性ボロンマグネシウム合金層を成膜する成膜工程、及び該結晶性ボロンマグネシウム合金層を結晶性ボロンマグネシウム酸化物層に酸化する酸化工程を有する。
【0014】
本発明で用いる記憶媒体としては、ハードディスク媒体、光磁気ディスク媒体、フレキシブルディスク媒体、フラッシュメモリやMRAM等の不揮発性メモリ全般を挙げることができ、プログラム格納可能な媒体を含むものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来のTMR素子で達成されていたMR比を大幅に改善することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。 図1は、本発明に係る磁気抵抗素子10の積層構造の一例を示し、TMR素子12を用いた磁気抵抗素子10の積層構造を示している。この磁気抵抗素子10によれば、基板11の上にTMR素子12を用い、このTMR素子12を含め、例えば、12層の多層膜が形成されている。この12層の多層膜では、最下層の第1層「Ta(タンタル)」から最上層の第12層「Ru(ルテニウム)」に向かった多層膜構造体となっている。
【0017】
図1に図示したとおり、図中の「PtMn(15)」14、「CoFe(2.5)」15、非磁性金属層「Ru(0.85)」161、2種ターゲットを用いたコ−スパッタリング法による成膜法で成膜した第一強磁性体層である「CoFeB(3.0)」121、トンネルバリア層である非磁性多結晶「MgO(1.5)又はBMgO(1.5)」122、第二強磁性体層である多結晶「CoFeB(1.5)」1233、非磁性金属層「Ta(0.85)」162、積層膜構造である第三強磁性体層の多結晶「CoFe(1.5)」1232と「NiFe(1.5)」1231、非磁性「Ta(10)」17及び非磁性「Ru(7)」18の順序で、磁性層及び非磁性層が積層されている。
【0018】
また、本発明では、上述の第一強磁性体層は、上記した2種ターゲットを用いたコ−スパッタリング法による成膜法で成膜したCoFeB層121とシングルターゲットを用いたスパッタリング法による成膜法で成膜した別の強磁性体層とを加えた2層以上の積層構造としても良い。又、本発明では、前記第二強磁性体層の「CoFeB(1.5)」1233をB(ボロン)原子を含まない「CoFe(1.5)」1233に変更してもよい。又、本発明では、前記第三強磁性体層の「CoFe(1.5)」1232をB(ボロン)原子を含む「CoFeB(1.5)」1232に変更してもよい。又、本発明では、前記第三強磁性体層の「NiFe(1.5)」1231をB(ボロン)原子を含む「NiFeB(1.5)」1231に変更してもよい。
【0019】
11は、ウエハー基板、ガラス基板やサファイヤ基板などの基板である。12は、TMR素子で、多結晶CoFeB(コバルト鉄ボロン)合金を含有した第一強磁性体層121、多結晶MgO(酸化マグネシウム)又は多結晶BMgO(ボロンマグネシウム酸化物)を含有したトンネルバリヤ層122、多結晶CoFeB(コバルト鉄ボロン)合金を含有した第二強磁性体層1233、多結晶CoFe(コバルト鉄)合金・多結晶NiFe(ニッケル鉄)合金の積層膜(CoFe層1232・NiCo層1231)の第三強磁性体層と、の12層積層膜構造体よって構成されている。
【0020】
上記第二強磁性体層と第三強磁性体層との間に、Ta(タンタル)、Ru(ルテニウム)等の非磁性金属やAl(酸化アルミニウム)、SiO(酸化ケイ素)、Si(窒化シリコン)等の非磁性絶縁物を用いた非磁性層162が配置される。また、本発明によれば、CoFe層1232のための上記多結晶CoFe(コバルト鉄)合金には、他の原子、例えば、B(ボロン)、Pt(白金)等を微量含有(5 atomic% 以下、好ましくは、0.01〜1 atomic% )させることができる。13は、第1層(Ta:タンタル層)の下電極層(下地層)であり、14は、第2層(PtMn層)の反強磁性体層である。15は第3層(CoFe層)の強磁性体層で、161は第4層(Ru層)の交換結合用非磁性体層である。
【0021】
第5層のCoFeB層121は、例えば、原子組成比70/30のCoFe合金ターゲットと、該原子組成比と相違する原子組成比である60/20/20のCoFeB合金ターゲットを用いたコ−スパッタリング法により成膜され、続く、200℃〜350℃の温度でのアニーリング工程に付される。上記コ−スパッタリング法による成膜直後のCoFeB層121は、アモルファスであることが好ましいが、ナノクリスタル、マイクロクリスタル(微結晶)、又は多結晶であってもよい。アモルフアスCoFeB層121は、200℃〜350℃の温度でのアニーリング工程により、結晶化され、好ましくは、ナノクリスタル、マイクロクリスタル(微結晶)、又は多結晶に相変化させることができる。本発明では、上記原子組成比のターゲットには限定されず、適宜、選択した原子組成比のターゲットを用いることができる。特に、2種ターゲット中のB(ボロン)原子含有量を互いに相違させた組合せからなる2種ターゲット用いることができる。その別の例としては、第1別例の原子組成比70/20/10のCoFeB合金ターゲットと、原子組成比60/20/20のCoFeB合金ターゲットとの組合せ、や第2別例の原子組成比70/25/5のCoFeB合金ターゲットと、原子組成比50/25/25のCoFeB合金ターゲットとの組合せ等を用いることができる。結晶性CoFeB層121でのボロン含有量は、0.1atomic%〜60atmic%、好ましくは10atomic%〜50atmic%の範囲に設定される。更に、本発明は、上記2種ターゲット中にCoFeB以外の原子、例えば、Pt(白金)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)等を微量含有(5 atomic% 以下、好ましくは、0.01〜1 atomic% )させることができる。又、本発明のコ−スパッタリング法は、上記2種ターゲットを同時にスパッタリングすることが好ましいが、この同時の時間の前又は後の時間において、夫々、2種ターゲットのうちの1種を用いて、単独でのスパッタリング工程を有していてもよい。上述の第3層、第4層及び第5層とから成る層は、磁化固定層19である。実質的な磁化固定層19は、第5層の結晶性CoFeB層121の強磁性体層。122は、第6層(MgO:多結晶酸化マグネシウム、又はBMgO:ボロンマグネシウム酸化物)のトンネルバリア層で、絶縁層である。本発明で用いたトンネルバリア層122は、単一の多結晶酸化マグネシウム層又は多結晶ボロンマグネシウム酸化物層であってもよい。
【0022】
また、本発明は、図6に図示したとおり、多結晶MgO(酸化マグネシウム)層又は多結晶BMgO(ボロンマグネシウム酸化物)層1221、多結晶Mg(金属マグネシウム)層1222及び多結晶MgO(酸化マグネシウム)層又は多結晶BMgO(ボロンマグネシウム酸化物)層1223の積層構造とすることができる。また、本発明では、図6に図示した積層膜1221、1222及び1223から成る3層を複数設けた積層構造体であってもよい。
【0023】
図8は、本発明の別のTMR素子12の例である。図8中の符号12、121、122、1231、1232及び1233は、上述のものと同一部材である。本実施例では、トンネルバリア層122は、多結晶MgO(酸化マグネシウム)層、又は多結晶BMgO(ボロンマグネシウム酸化物)層82と、該層82の両側のMg(金属マグネシウム金属)層又はBMg(ボロンマグネシウム合金)81及び83と、からなる積層膜である。 また、本発明では、層81の使用が省略され、層82が結晶性CoFeB層1233に隣接配置させることができる。又は、層83の使用が省略され、層82が結晶性CoFeB層121に隣接配置させることができる。
【0024】
図7は、71は、多結晶MgO(酸化マグネシウム)層のカラム状結晶72の集合体からなる多結晶構造の模式斜視図である。
BMgO(ボロンマグネシウム酸化物)層に関しても、図7に図示したカラム状結晶72からなる集合体71と同様のものが確認された。
カラム状結晶72は、針状結晶又は柱状結晶等の概念を包含する概念である。また、多結晶領域のうちの一部に、カラム状結晶72の集合体71間の部分的なアモルファス領域を含む多結晶−アモルファス混合領域の構造物であっても良い。
本発明で用いた酸化マグネシウム、又はボロンマグネシウム酸化物のカラム状結晶は、各カラム毎において、膜厚方向で、(001)結晶面が優先的に配向した単結晶であることが好ましい。
【0025】
また、本発明で用いたBMgO(ボロンマグネシウム酸化物)は、一般式BMg(0.7≦Z/[X+Y]≦1.3であり、好ましくは、0.8≦Z/[X+Y]<1.0である)で示される。
本発明では、化学論量のBMgO(ボロンマグネシウム酸化物)を用いるのが好ましいが、酸素欠損のBMgO(ボロンマグネシウム酸化物)であっても、高いMR比を得ることができる。
また、本発明で用いたMgO(酸化マグネシウム)は、一般式Mg(0.7≦Z/Y≦1.3であり、好ましくは、0.8≦Z/Y<1.0である)で示される。
本発明では、化学論量のMgO(酸化マグネシウム)を用いるのが好ましいが、酸素欠損のMgO(酸化マグネシウム)であっても、高いMR比を得ることができる。
【0026】
第7層、第9層及び第10層は、夫々、結晶性CoFeB層1233からなる強磁性体層、結晶性CoFe層1232からなる強磁性体層及びNiFe層1231からなる強磁性体層である。該第7層、第9層及び第10層からなる積層膜は、磁化自由層として機能することが出来る。該第7層と該第9層との間に、非磁性金属層である第8層のTa(タンタル)層162が配置される。第8層は、Ta(タンタル)層162の他に、Ru(ルテニウム)やIr(イリジウム)等の非磁性金属、Al(酸化アルミニウム)、SiO(酸化シリコン)やSi(窒化シリコン)等の非磁性絶縁物を用いることができ、膜厚は、50nm以下、好ましくは、0.1nm〜40nmの範囲に設定することが出来る。第7層を構成する結晶性CoFeB層1233は、CoFeB合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜することができる。第9層を構成する結晶性CoFe層1232は、CoFe合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜することができる。第10層を構成する結晶性NiFe層1231は、NiFe合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜することができる。
【0027】
上記した結晶性CoFeB層121と、CoFeB層1233と、CoFe層1232とNiFe層1231とは、前述の図7に図示したカラム状結晶構造72からなる集合体71と同一の構造の結晶構造のものであってもよい。結晶性CoFeB層121とCoFeB層1233とは、中間に位置するトンネルバリア層122と隣接させて設けることが好ましい。製造装置においては、これら3層は、真空を破ることなく、順次、積層される。17は、第11層(Ta:タンタル)の電極層である。18は、第12層(Ru:ルテニウム)のハードマスク層である。第12層は、ハードマスクとして用いられた際には、磁気抵抗素子から除去されていてもよい。
【0028】
図1において、各層の括弧中の数値は、各層の厚みを示し、単位は「nm(ナノメートル)」である。当該厚みは一例であって、これに限定されるものではない。
【0029】
次に、図2を参照して、上記の積層構造を有する磁気抵抗素子10を製造する装置と製造方法を説明する。図2は磁気抵抗素子10を製造する装置の概略的な平面図であり、本装置は複数の磁性層及び非磁性層を含む多層膜を作製することのできる装置であり、量産型スパッタリング成膜装置である。
【0030】
図2に示された磁性多層膜作製装置200は、クラスタ型製造装置であり、スパッタリング法に基づく3つの成膜チャンバを備えている。本装置200では、図示しないロボット搬送装置を備える搬送チャンバ202が中央位置に設置している。磁気抵抗素子製造のための製造装置200の搬送チャンバ202には、2つのロードロック・アンロードロックチャンバ205及び206が設けられ、それぞれにより基板(例えば、シリコン基板を用いる)11の搬入及び搬出が行われる。これらのロードロック・アンロードロックチャンバ205及び206を交互に、基板の搬入搬出を実施することによって、タクトタイムを短縮させ、生産性よく磁気抵抗素子を作製できる構成となっている。
【0031】
磁気抵抗素子製造のための製造装置200では、搬送チャンバ202の周囲に、3つの成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A、201B及び201Cと、1つのエッチングチャンバ203とが設けられている。エッチングチャンバ203では、磁気抵抗素子10の所要表面をエッチング処理する。各チャンバ201A、201B、201C及び203と搬送チャンバ202との間には、開閉自在なゲートバルブ204が設けられている。なお、各チャンバ201A、201B、201C及、202には、図示しない真空排気機構、ガス導入機構、電力供給機構などが付設されている。
【0032】
磁気抵抗素子製造のための製造装置200は、成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A、201B及び201Cを備えている。これら装置201A、201B及び201Cの各々には、高周波スパッタリング法を用いて、基板11の上に、真空を破らずに、前述した第1層から第9層までの各膜を順次に堆積することができる。成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A、201B及び201Cの天井部には、それぞれ、適当な円周の上に配置された4基または5基のカソード(31、32、33、34及び35)、カソード(41、42、43、44及び45)、カソード(51、52、53及び54)が配置される。さらに当該円周と同軸上に位置する基板ホルダ上に基板11が配置される。 上記カソード(31、32、33、34及び35)、カソード(41、42、43、44及び45)及びカソード(51、52、53及び54)には、装着したターゲットは、背後に、マグネットを配置したマグネトロンスパッタリング装置とするのが好ましい。 また、電力投入手段207A、207Bおよび207Cから、上記カソードにラジオ周波数(RF周波数)のような高周波電力が印加される。 高周波電力としては、0.3MHz〜10GHzの範囲、好ましくは、5MHz〜5GHzの範囲の周波数及び10W(ワット)〜500W(ワット)の範囲、好ましくは、100W(ワット)〜300W(ワット)の範囲の電力を用いることができる。
【0033】
上記において、例えば、カソード31には、Ta(タンタル)ターゲットが装着される。カソード32には、PtMn(白金マンガン合金)ターゲットが装着される。カソード33には、CoFeBターゲットが装着される。カソード34には、CoFe(コバルト鉄合金)ターゲットが装着される。カソード35には、Ru(ルテニウム)ターゲットが装着される。 上記CoFeB層121は、カソード33に装着したCoFeBターゲットとカソード34に装着したCoFeターゲットの2種ターゲットを用いたコ−スパッタリング法により成膜することができる。
【0034】
カソード51には、MgO(酸化マグネシウム合金)ターゲットが装着される。カソード52には、BMgO(ボロンマグネシウム酸化物)ターゲットが装着される。また、カソード53にMg(金属マグネシウム)ターゲットが装着され、カソード54には、BMg(ボロンマグネシウム合金)ターゲットが装着される。図8に図示した構造のTMR素子122は、このカソード53又は54を用いることによって作成することができる。
【0035】
カソード41には、第9層のためのCoFe(コバルト鉄合金)ターゲットが装着される。カソード42には、第7層のためのCoFeB(コバルト鉄ボロン合金)ターゲットが装着される。カソード43には、第8層及び第11層のためのTa(タンタル)ターゲットが装着される。カソード44は、第12層のためのRu(ルテニウム)ターゲットが装着される。カソード45には、第10層のためのNiFe(ニッケル鉄)ターゲットが装着される。
【0036】
上記カソード(31、32、33、34及び35)、カソード(41、42、43、44及び45)、並びに、カソード(51、52、53及び54)に装着した各ターゲットの各面内方向と基板の面内方向とは、互いに、非平行に配置することが、好ましい。該非平行な配置を用いることによって、基板径より小径のターゲットを回転させながら、スパッタリングすることによって、高効率で、かつ、ターゲット組成と同一組成の磁性膜及び非磁性膜を堆積させることができる。 上記非平行な配置は、例えば、ターゲット中心軸と基板中心軸との交差角を45°以下、好ましくは5°〜30°となる様に、両者を非平行に配置することができる。 また、この際の基板は、10rpm〜500rpmの回転数、好ましくは、50rpm〜200rpmの回転数を用いることができる。
【0037】
本発明の主要な素子部であるTMR素子12の成膜条件を述べる。CoFeB層121は、CoFe組成比(atomic:原子比)70/30のCoFeターゲットと、CoFeB組成比(atomic:原子比)60/20/20のターゲットと、を同時ターゲットとして用いた。CoFeB層121は、Ar(アルゴンガス)をスパッタガスとし、その圧力を0.03Paとした。CoFeB層121の成膜は、マグネトロンDCスパッタ( 成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A)により成膜レート0.64nm /secで成膜した。この時のCoFeB層(CoFeB層121)は、アモルファス構造を有していた。続いて、スパッタリング装置( 成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201C)に換えて、MgO組成比(atomic:原子比)50/50のMgOターゲット、又はBMgO組成比(atomic:原子比)25/25/50のBMgOターゲットを用いた。スパッタガスとしてAr(アルゴンガス)を用い、好適範囲0.01〜0.4Paの圧力範囲のうち、0.2Paの圧力を用いて、マグネトロンRFスパッタリング(13.56MHz)により、第6層のMgO層、又はBMgO層であるトンネルバリア層122を成膜した。この際、MgO層、又はBMgO層(トンネルバリア層122)は、図7に図示したカラム状結晶72の集合体71よりなる多結晶構造であった。また、この際のマグネトロンRFスパッタリング(13.56MHz)の成膜レートは、0.14nm /secであった。又、本発明では、結晶性酸化マグネシウム層は、金属マグネシウム含有ターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性(好ましくは、多結晶)金属マグネシウム層を成膜し、該金属マグネシウムを酸化性ガス(酸素ガス、オゾンガス、水蒸気等)導入の酸化チャンバ(図示せず)内で、酸化して、結晶性(好ましくは、多結晶)酸化マグネシウム層を得ることができる。又、本発明では、結晶性ボロンマグネシウム酸化物層は、ボロンマグネシウム合金含有ターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性(好ましくは、多結晶)ボロンマグネシウム層を成膜し、該ボロンマグネシウム合金を酸化性ガス(酸素ガス、オゾンガス、水蒸気等)導入の酸化チャンバ(図示せず)内で、酸化して、結晶性(好ましくは、多結晶)ボロンマグネシウム酸化物層を得ることができる。本実施例は、上記工程から、さらに続けて、基板をスパッタリング装置( 成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201B)に導入して、磁化自由層(第7層のCoFeB層1233、第8層のTa層162、第9層のCoFe層1232及び第10層のNiFe層1231)である強磁性体層を成膜した。 CoFeB層1233と、CoFe層1232と、NiFe層1231とは、Ar(アルゴンガス)をスパッタガスとし、その圧力を0.03Paとした。CoFeB層1233と、CoFe層1232層と、NiFe層1231との成膜は、マグネトロンDCスパッタ( 成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201B)によりスパッタレート0.64nm /secで成膜した。この際、CoFeB層1233と、CoFe層1232層と、NiFe層1231とは、夫々、CoFeB組成比(atomic)25/25/50、CoFe組成比(atomic)50/50及びNiFe組成比(atomic)40/60のターゲットを用いた。この成膜直後において、CoFeB層1233、CoFe層1232と、NiFe層1231とは、アモルファス構造であった。
【0038】
この実施例では、MgO膜及びBMgO膜の成膜速度は0.14nm /secであったが、0.01nm〜1.0nm /secの範囲で成膜しても問題ない。
【0039】
成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A、201B及び201Cのそれぞれでスパッタリング成膜を行って積層が完了した磁気抵抗素子10は、熱処理炉において、アニーリング処理を実施した。このとき、アニーリング温度及び時間は、約300℃及び4時間で、8kOeの磁場中で、アニーリングを実施した。この結果、アモルファス構造のCoFeB層121、BoF
eB層1233、CoFe層1232及びNiFe層1231は、図7に図示したカラム状結晶72の集合体71よりなる多結晶構造であったことが確認された。このアニーリング工程により、磁気抵抗素子10は、TMR効果を持った磁気抵抗素子として作用することができる。また、このアニーリング工程により、第2層のPtMn層である反強磁性体層14には、所定の磁化が付与されていた。
【0040】
図3は、本発明装置のブロック図である。図中、301は図2中の搬送チャンバ202に相当する搬送チャンバ、302は成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201Aに相当する成膜チャンバ、303は成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201Bに相当する成膜チャンバ、304は成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201Cに相当する成膜チャンバ、305はロードロック・アンロードロックチャンバ205及び206に相当するロードロック・アンロードロックチャンバ、306は記憶媒体312を内蔵した中央演算器(CPU)である。符号309〜311は、CPU306と各処理チャンバ301〜305とを接続するバスラインで、各処理チャンバ301〜305の動作を制御する制御信号がCPU306より各処理チャンバ301〜305に送信される。
【0041】
本発明の一実施例では、ロードロック・アンロードロックチャンバ305内の基板(図示せず)は、搬送チャンバ301に搬出される。この基板搬出工程は、CPU306が記憶媒体312に記憶させた制御プルグラムに基づいて演算し、この演算結果に基づく制御信号が、バスライン307及び311を通して、ロードロック・アンロードロックチャンバ305及び搬送チャンバ301に搭載した各種装置(例えば、図示していないゲートバルブ、ロボット機構、搬送機構、駆動系等)の実行を制御することによって実施される。
【0042】
搬送チャンバ301に搬送された基板は、成膜チャンバ302に搬出される。成膜チャンバ302に搬入された基板は、ここで、図1の第1層(Ta層13)、第2層(PtMn層14)、第3層(CoFe層15)、第4層(Ru層161)及び第5層(CoFeB層121)が順次積層される。この段階での第5層のCoFeB層121は、好ましくは、アモルファス構造となっている。別の実施例では、この段階での第5層のCoFeB層121は、多結晶構造であってもよい。
上記第1層から第5層までの積層プロセスは、CPU306内で、記憶媒体312に記憶させた制御プルグラムに基づいて演算された制御信号が、バスライン307及び308を通して、搬送チャンバ301及び成膜チャンバ302に搭載した各種装置(例えば、図示していないカソードへの電力投入機構、基板回転機構、ガス導入機構、排気機構、ゲートバルブ、ロボット機構、搬送機構、駆動系等)の実行を制御することによって実施される。
【0043】
上記第5層までの積層膜を持った基板は、一旦、搬送チャンバ301に戻され、その後成膜チャンバ303に搬入される。
成膜チャンバ303内で、上記第5層のアモルファスCoFeB121層の上に、第6層として、多結晶酸化マグネシウム層122、又は多結晶ボロンマグネシウム酸化物層122の成膜を実行する。
第6層の酸化マグネシウム層122、又は多結晶ボロンマグネシウム酸化物層122の成膜は、CPU306内で、記憶媒体312に記憶させた制御プルグラムに基づいて演算された制御信号が、バスライン307及び309を通して、搬送チャンバ301及び成膜チャンバ303に搭載した各種装置(例えば、図示していないカソードへの電力投入機構、基板回転機構、ガス導入機構、排気機構、ゲートバルブ、ロボット機構、搬送機構、駆動系等)の実行を制御することによって実施される。
【0044】
上記第6層の酸化マグネシウム層122、又は多結晶ボロンマグネシウム酸化物層122までの積層膜を持った基板は、再度、一旦、搬送チャンバ301に戻され、その後成膜チャンバ304に搬入される。
成膜チャンバ304内で、上記第6層の多結晶酸化マグネシウム層122、又は多結晶ボロンマグネシウム酸化物層122の上に、第7層(CoFeB層1233)、第8層(Ta層162)、第9層(CoFe層1232)、第10層(NiFe層1231)、第11層(Ta層17)及び第12層(Ru層18)が順次積層される。この段階での第7層のCoFeB層1233、第9層のCoFe層1232及び第10層のNiFe層1231は、好ましくは、アモルファス構造となっている。別の実施例では、この段階でのCoFeB層1233、第9層のCoFe層1232及び第10層のNiFe層1231は、多結晶構造であってもよい。
【0045】
上記第7層(CoFeB層1232)から第12層(Ru層18)までの積層成膜工程は、CPU306内で、記憶媒体312に記憶させた制御プルグラムに基づいて演算された制御信号が、バスライン307及び310を通して、搬送チャンバ301及び成膜チャンバ304に搭載した各種装置(例えば、図示していないカソードへの電力投入機構、基板回転機構、ガス導入機構、排気機構、ゲートバルブ、ロボット機構、搬送機構、駆動系等)の実行を制御することによって実施される。
この際、本実施例では、第8層のTa層162及び第11層のTa層17は、カソード43に装着した同一のターゲットを用いて成膜した。
【0046】
本発明で用いる記憶媒体312としては、ハードディスク媒体、光磁気ディスク媒体、フレキシブルディスク媒体、フラッシュメモリやMRAM等の不揮発性メモリ全般を挙げることができ、プログラム格納可能な媒体を含むものである。
【0047】
また、本発明は、成膜直後の上記第5層(CoFeB層121)、第7層(CoFeB層1233)、第9層(CoFe層1232)及び第10層(NiFe層1231)のアモルファス状態をアニーリングにより、図7に図示した多結晶構造とすることができる。このため、本発明の製造法では、成膜直後の磁気抵抗素子10をアニーリング炉(図示せず)に搬入し、ここで、第5層(CoFeB層121)、第7層(CoFeB層1233)、第9層(CoFe層1231)及び第10層(NiFe層1231)のアモルファス状態を結晶状態に相変化させることができる。 又、この際、第2層であるPtMn層14に磁気を付与することができる。 上記記憶媒体312には、アニーリング炉での工程を実施するための制御プログラムが記憶されていて、該制御プログラムに基づく、CPU306の演算により得た制御信号によって、アニーリング炉内の各種装置(図示せず、例えば、ヒータ機構、排気機構、搬送機構等)を制御し、アニーリング工程を実行することができる。
【0048】
本発明の比較例として、上記第8層のTa層162、第9層のCoFe層1232及び第10層のNiFe層1231の使用を省略した他は、上記実施例と同様の方法を用いて、磁気抵抗素子を作成した。
本発明の磁気抵抗素子と上記比較用磁気抵抗素子とのMR比を測定し、対比したところ、本発明の磁気抵抗素子のMR比は、比較用磁気抵抗素子のMR比と比較し、1.2倍〜1.5倍以上の数値で改善されていた。
尚、MR比は、外部磁界に応答して磁性膜または磁性多層膜の磁化方向が変化するのに伴って、膜の電気抵抗も変化する現象(磁気抵抗効果 「Magneto-Resistive
effect:MR効果」)に関するパラメータで、その電気抵抗の変化率を磁気抵抗変化率(MR比)としたものである。
上述の実施例で用いた第6層の多結晶酸化マグネシウム層に換えて、第6層として多結晶ボロンマグネシウム酸化物層を用いた他は、全く同様の方法で磁気抵抗素子を作成し、MR比を測定したところ、上述の多結晶酸化マグネシウム層を用いた実施例と比較して、一層、顕著に改善されたMR比(多結晶酸化マグネシウム層を用いた実施例によるMR比に対し、1.5倍以上のMR比)が得られた。又、上記実施例において、第7層のCoFeB層1233をCoFe(原子組成比50/50)に変更したほかは、全く同様の方法を用いて、磁気抵抗素子を作成素子を作成したところ、上記実施例と同様の効果が得られた。 又、上記実施例において、第9層のCoFe層1232をCoFeB(原子組成比;50/30/20)に変更したほかは、全く同様の方法を用いて、磁気抵抗素子を作成素子を作成したところ、上記実施例と同様の効果が得られた。 又、上記実施例において、第10層のNiFe層1231をNiFeB(原子組成比;50/30/20)に変更したほかは、全く同様の方法を用いて、磁気抵抗素子を作成素子を作成したところ、上記実施例と同様の効果が得られた。 又、上記実施例において、第6層のMgO層122をBMgO層122に変更したほかは、全く同様の方法を用いて、磁気抵抗素子を作成素子を作成したところ、上記実施例と比較し、1.5倍以上の改善された結果が得られた。 比較例として、磁化固定層のCoFeB層121をCoFeB(原子組成比;60/20/20)の単一ターゲットを用いたスパッタリング法により成膜した他は、上記実施例と全く同様の方法を用いて、磁気抵抗素子を作成素子を作成し、MR比を測定したところ、本発明の磁気抵抗素子により得たMR比の1/2以下と全く低い測定結果であった。
【0049】
また、本発明では、上記第5層のCoFeB層121に換えて、CoFeTaZr(コバルト鉄タンタルジルコニウム)合金層、CoTaZr(コバルタンタルジルコニウム)合金層、CoFeNbZr(コバルト鉄ニオブジルコニウム)合金層、CoFeZr(コバルト鉄ジルコニウム)合金層、FeTaC(鉄タンタル炭素)合金層、FeTaN(鉄タンタル窒素)合金層、又はFeC(鉄炭素)合金層などの結晶性強磁性体層を用いることができる。
【0050】
また、本発明では、上記第4層161のRu(ルテニウム)層に換えて、Rh(ロジウム)層又はIr(イリジウム)層を用いることができる。
【0051】
また、本発明では、上記第2層のPtMn14(白金マンガン合金)層に換えて、IrMn(イリジウムマンガン合金)層、IrMnCr(イリジウムマンガンクロム合金)層、NiMn(ニッケルマンガン合金)層、PdPtMn(鉛白金マンガン合金)層、RuRhMn(ルテニウムロジウムマンガン合金)層やOsMn(オスニウムマンガン)等も好ましく用いられる。又、その膜厚は、10〜30nmが好ましい。
【0052】
図4は、本発明の磁気抵抗素子をメモリ素子として用いたMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory:強誘電体メモリ)401の模式図である。MRAM401において、402は本発明のメモリ素子、403はワード線、404はビット線である。多数のメモリ素子402のそれぞれは、複数のワード線403と複数のビット線404の各交点位置に配置され、格子状の位置関係に配置される。多数のメモリ素子402のそれぞれが1ビットの情報を記憶することができる。
【0053】
図5は、MRAM401のワード線403とビット線404の交点位置において、1ビットの情報を記憶するTMR素子10と、スイッチ機能を有するトランジスタ501とで構成した等価回路図である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、量産可能で実用性が高く、かつ超高集積化が可能なMRAMのメモリ素子として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の磁気抵抗素子の断面図である。
【図2】本発明の磁気抵抗素子のための製造装置の模式図である。
【図3】本発明装置のブロック図である。
【図4】本発明のMRAMの模式斜視図である。
【図5】本発明のMRAMの等価回路図である。
【図6】本発明の別のトンネルバリア層の断面図である。
【図7】本発明で用いたカラム状結晶構造の模式斜視図である。
【図8】本発明の別のTMR素子の断面図である。
【符号の説明】
【0056】
10 磁気抵抗素子11 基板12 TMR素子部121 CoFeB強磁性体層(第5層)122 トンネルバリア層(第6層)1231 NiFe強磁性体層(第10層;磁化自由層)1232 CoFe強磁性体層(第9層;磁化自由層)1233 CoFeB強磁性体層(第7層;磁化自由層)13 下電極層(第1層;下地層)14 反強磁性層(第2層)15 強磁性体層(第3層)161 交換結合用非磁性層(第4層)162 非磁性中間層(第8層)17 上電極層(第11層)18 ハードマスク層(第12層)19 磁化固定層200 磁気抵抗素子作成装置201A成膜チャンバ201B成膜チャンバ201C成膜チャンバ202 搬送チャンバ203 エッチングチャンバ204 ゲートバルブ205 ロードロック・アンロードロックチャンバ206 ロードロック・アンロードロックチャンバ31〜35 カソード41〜45 カソード51〜54 カソード207A 電力投入部207B 電力投入部207C 電力投入部301 搬送チャンバ302 303 304 成膜チャンバ305 ロードロック・アンロードロックチャンバ306 中央演算器(CPU)307〜311 バスライン312 記憶媒体401 MRAM402 メモリ素子403 ワード線404 ビット線501 トランジスタ71 カラム状結晶群の集合体72 カラム状結晶81 Mg(マグネシウム金属)層82 MgO(酸化マグネシウム)層83 Mg(マグネシウム金属)層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、スパッタリング法を用いて、磁化固定層、磁化自由層及び該磁化固定層と該磁化自由層との間に位置するトンネルバリア層を成膜する工程を有する磁気抵抗素子の製造法において、
前記磁化固定層を成膜する工程は、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有する第1ターゲットと、Co(コバルト)原子及びFe(鉄)原子を含有し、該第1ターゲット中のB(ボロン)原子含有量と相違する含有量の第2ターゲット(但し、B原子含有量ゼロの場合を含む)と、を用いたコ−スパッタリング法により、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有する強磁性体層を成膜する成膜工程を有する、
ことを特徴とする磁気抵抗素子の製造法。
【請求項2】
基板の上に、スパッタリング法を用いて、磁化固定層、磁化自由層及び該磁化固定層と該磁化自由層との間に位置するトンネルバリア層を成膜する工程を有する磁気抵抗素子の製造法において、
前記磁化固定層を成膜する工程は、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有する第1ターゲットと、Co(コバルト)原子及びFe(鉄)原子を含有し、該第1ターゲット中のB(ボロン)原子含有量と相違する含有量の第2ターゲット(但し、B原子含有量ゼロの場合を含む)と、を用いたコ−スパッタリング法により、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有するアモルファス強磁性体層を成膜する成膜工程、及び該アモルファス強磁性体層を結晶性強磁性体層に相変化させる相変化工程を有する、
ことを特徴とする磁気抵抗素子の製造法。
【請求項3】
前記相変化工程は、アニールリング工程を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の磁気抵抗素子の製造法。
【請求項4】
前記トンネルバリア層を成膜する工程は、酸化マグネシウムを含有するターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性酸化マグネシウム層を成膜する工程を有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗素子の製造法。
【請求項5】
前記トンネルバリア層を成膜する工程は、マグネシウム金属を含有するターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性マグネシウム金属層を成膜する成膜工程、及び該結晶性マグネシウム金属層を結晶性酸化マグネシウム層に酸化する酸化工程を有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗素子の製造法。
【請求項6】
前記トンネルバリア層を成膜する工程は、ボロンマグネシウム酸化物を含有するターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性ボロンマグネシウム酸化物層を成膜する工程を有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗素子の製造法。
【請求項7】
前記トンネルバリア層を成膜する工程は、ボロンマグネシウム合金を含有するターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性ボロンマグネシウム合金層を成膜する成膜工程、及び該結晶性ボロンマグネシウム合金層を結晶性ボロンマグネシウム酸化物層に酸化する酸化工程を有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗素子の製造法。
【請求項8】
基板の上に、スパッタリング法を用いて、磁化固定層、磁化自由層及び該磁化固定層と該磁化自由層との間に位置するトンネルバリア層を成膜する工程を用いて、磁気抵抗素子の製造を実行する制御プログラムを記憶する記憶媒体において、
前記磁気固定層を成膜する工程を実行するための制御プログラムは、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有する第1ターゲットと、Co(コバルト)原子及びFe(鉄)原子を含有し、該第1ターゲット中のB(ボロン)原子含有量と相違する含有量の第2ターゲット(但し、B原子含有量ゼロの場合を含む)と、を用いたコ−スパッタリング法により、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有する強磁性体層を成膜する成膜工程を実行するための制御プログラムを有する、
ことを特徴とする記憶媒体。
【請求項9】
基板の上に、スパッタリング法を用いて、磁化固定層、磁化自由層及び該磁化固定層と該磁化自由層との間に位置するトンネルバリア層を成膜する工程を用いて、磁気抵抗素子の製造を実行する制御プログラムを有する記憶媒体において、
前記磁化固定層を成膜する工程を実行するための制御プログラムは、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有する第1ターゲットと、Co(コバルト)原子及びFe(鉄)原子を含有し、該第1ターゲット中のB(ボロン)原子含有量と相違する含有量の第2ターゲット(但し、B原子含有量ゼロの場合を含む)と、を用いたコ−スパッタリング法により、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有するアモルファス強磁性体層を成膜する成膜工程、及び該アモルファス強磁性体層を結晶性強磁性体層に相変化させる相変化工程を実行するための制御プログラムを有する、
ことを特徴とする記憶媒体。
【請求項10】
前記相変化工程は、アニールリング工程を有する、ことを特徴とする請求項9に記載の記憶媒体。
【請求項11】
前記トンネルバリア層を成膜する工程は、酸化マグネシウムを含有するターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性酸化マグネシウム層を成膜する工程を有する、ことを特徴とする請求項8又は9に記載の記憶媒体。
【請求項12】
前記トンネルバリア層を成膜する工程は、マグネシウム金属を含有するターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性マグネシウム金属層を成膜する成膜工程、及び該結晶性マグネシウム金属層を結晶性酸化マグネシウム層に酸化する酸化工程を有する、ことを特徴とする請求項請求項8又は9に記載の記憶媒体。
【請求項13】
前記トンネルバリア層を成膜する工程は、ボロンマグネシウム酸化物を含有するターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性ボロンマグネシウム酸化物層を成膜する工程を有する、ことを特徴とする請求項請求項8又は9に記載の記憶媒体。
【請求項14】
前記トンネルバリア層を成膜する工程は、ボロンマグネシウム合金を含有するターゲットを用いたスパッタリング法により、結晶性ボロンマグネシウム合金層を成膜する成膜工程、及び該結晶性ボロンマグネシウム合金層を結晶性ボロンマグネシウム酸化物層に酸化する酸化工程を有する、ことを特徴とする請求項請求項8又は9に記載の記憶媒体。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−80806(P2010−80806A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249533(P2008−249533)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】