説明

磁気抵抗素子

【課題】従来よりも高いMR比を持った磁気抵抗素子とその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、磁気ディスク駆動装置の磁気再生ヘッド、磁気ランダムアクセスメモリの記憶素子及び磁気センサーに用いられる磁気抵抗素子、好ましくは、トンネル磁気抵抗素子(さらに好ましくは、スピンバルブ型トンネル磁気抵抗素子)に関し、基板、トンネルバリア層、Co(コバルト)Fe(鉄)合金からなる強磁性層及びB(ボロン)を含有した非磁性金属層を有する磁気抵抗素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク駆動装置の磁気再生ヘッド、磁気ランダムアクセスメモリの記憶素子及び磁気センサーに用いられる磁気抵抗素子、好ましくは、トンネル磁気抵抗素子(さらに好ましくは、スピンバルブ型トンネル磁気抵抗素子)に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、非特許文献1及び非特許文献2には、トンネルバリア層と該トンネルバリア層の両側に設置した第一及び第二の強磁性体層からなるTMR(トンネル磁気抵抗;Tunneling Magneto Resistance)素子(以下、TMR素子という)が記載され、この素子を構成する第一及び又は第二の強磁性体層として、Co(コバルト)原子、Fe(鉄)原子及びB(ボロン)原子を含有したCoFeB合金が用いられている。 また、上述のCoFeB合金層として、多結晶構造のものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−204004号公報
【特許文献2】国際公開番号をWO2005/088745号公報
【特許文献3】特開2003−304010号公報
【特許文献4】特開2006−080116号公報
【特許文献5】米国公開US2006/0056115号公報
【特許文献6】米国特許第7252852号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】D.D.Djayaprawiraら著「Applied Physics Letters」,86,092502(2005)
【非特許文献2】湯浅新治ら著「Japanese Journal of Applied Physics」Vol.43,No.48,pp588−590,2004年4月2日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、従来技術と比較し、一層、改善された高いMR比を持った磁気抵抗素子(トンネル磁気抵抗素子、さらに好ましくは、スピンバルブ型トンネル磁気抵抗素子等)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1に、基板、トンネルバリア層、強磁性層及びB(ボロン;以下「B」と記述する)を含有した非磁性金属層を有する磁気抵抗素子を特徴とする。
【0007】
本発明は、第2に、基板、反強磁性層、強磁性層及びBを含有した非磁性金属層を有する磁化固定層、磁性層及びBを含有する非磁性金属を有する磁化自由層、並びに前記磁化固定層と前記磁化自由層との間に位置する金属酸化物を含有したトンネルバリア層を有する磁気抵抗素子を特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来のTMR素子で達成されていたMR比を大幅に改善することができた。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の磁気抵抗素子の一例の断面模式図である。
【図2】本発明の磁気抵抗素子を製造する成膜装置の一例の構成を模式的に示す図である。
【図3】図2の装置のブロック図である。
【図4】本発明の磁気抵抗素子を用いて構成されるMRAMの模式斜視図である。
【図5】本発明の磁気抵抗素子を用いて構成されるMRAMの等価回路図である。
【図6】本発明の磁気抵抗素子に係るカラム状結晶構造の模式斜視図である。
【図7】本発明の磁気抵抗素子の他の構成のTMR素子の断面図である。
【図8】本発明の磁気抵抗素子の別の一例の断面模式図である。
【図9】本発明の磁気抵抗素子の別の一例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の磁化自由層及び磁化固定層には、強磁性体層を用いることができる。該強磁性層で用いる強磁性体としては、CoとFeとBからなる合金(以下、CoFeBと記す)、CoとFeとの合金(以下、CoFeと記す)が好ましく用いられる。また、CoとFeとNiからなる合金(以下、CoFeNiと記す)、CoとFeとNiとBからなる合金(以下、CoFeNiBと記す)も好ましく用いられる。さらに、NiとFeとの合金(以下、NiFeと記す)も好ましく用いられる。本発明では、上記合金群より少なくとも1種を選択することができる。
【0011】
本発明の磁気抵抗素子において、好ましくは、前記強磁性体層及びトンネルバリア層は、それぞれ、カラム状結晶(針状結晶、柱状結晶等を含む)の集合体によって形成された多結晶構造を有する。
【0012】
図6は、トンネルバリア層として用いたMg酸化物のカラム状結晶62の集合体61からなる多結晶構造の模式斜視図である。該多結晶構造には、多結晶領域内に部分的なアモルファス領域を含む多結晶−アモルファス混合領域の構造物も包含される。該カラム条結晶は、各カラム毎において、膜厚方向で(001)結晶面が優先的に配向した単結晶であることが好ましい。また、該カラム状単結晶の平均的な直径は、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは2nm乃至5nmの範囲であり、その膜厚は、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは0.5nm乃至5nmの範囲である。
【0013】
次に、本発明の磁気抵抗素子の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、以下の工程を有する。第一工程:スパッタリング法を用いて、反強磁性層を成膜する。第二工程:スパッタリング法を用いて、前記反強磁性層の上にアモルファス構造の強磁性体層を成膜し、該強磁性体層の上にB含有の非磁性金属層を成膜し、該非磁性金属層の上にアモルファス構造の強磁性体層を成膜し、これら複数層からなる多層膜で形成した磁化固定層を成膜する。第三工程:スパッタリング法を用いて、前記磁化固定層の上に、Mg酸化物の結晶層からなるトンネルバリア層を成膜する。第四工程:スパッタリング法を用いて、前記トンネルバリア層の上に、アモルファス構造の強磁性体層を成膜し、該強磁性体層の上にB含有の非磁性金属層を成膜し、該非磁性金属層の上にアモルファス構造の強磁性体層を成膜し、これら複数層からなる多層膜で形成した磁化自由層を成膜する。第五工程:前記第四工程終了後、磁化固定層の磁場を固定するために、ランプヒータ装置や超音波加熱装置等のヒータを用いたアニーリング処理を施し、このアニーリング時に、アモルファス構造の強磁性体層から結晶構造の強磁性体層に変換することが出来る。これによって、MR比を大幅に改善することができた。
【0014】
本発明で用いられるアニーリング工程は、200℃乃至300℃(好ましくは、230℃乃至250℃)で、1時間乃至6時間(好ましくは、2時間乃至5時間)で実施される。このアニーリング工程の温度及び加熱時間に応じて、生成される結晶の結晶化度を変化させることができる。本発明では、結晶化度を対全体積当り90%以上とすることができ、特に、結晶化度100%とすることができる。
【0015】
本発明に係る前記第三工程は、Mg酸化物から成るターゲットを用いたスパッタリングによって、Mg酸化物の結晶層を成膜する工程が好ましい。特に、該ターゲットと酸化性ガスを用いた反応性スパッタリングが好ましく、該酸化性ガスとしては、酸素ガス、オゾンガス、水蒸気等が好ましく用いられる。 又、本発明では、前記第三工程において、Mg酸化物から成るターゲットに変えて、金属Mgターゲットを用いることができる。このスパッタリングによって成膜した金属Mg層は、酸素ガス、オゾンガス又は水蒸気等の酸化性ガス下で、金属Mgを酸化することによってMg酸化物層を得ることができる。 又、上記Mg酸化物層中には、微量のBを含有させることができる。
【0016】
次に、本発明の磁気抵抗素子の別の製造方法について説明する。本発明の別の製造方法は、以下の工程を有する。第一工程:スパッタリング法を用いて、反強磁性層を成膜する。第二工程:スパッタリング法を用いて、前記反強磁性層の上にアモルファス構造の強磁性体層を成膜し、該強磁性体層の上に非磁性金属層を成膜し、該非磁性金属層の上にアモルファス構造で、B含有の強磁性体層を成膜し、これら複数層からなる多層膜で形成した磁化固定層を成膜する。第三工程:スパッタリング法を用いて、前記磁化固定層の上に、Mg酸化物の結晶層からなるトンネルバリア層を成膜する。第四工程:スパッタリング法を用いて、前記トンネルバリア層の上に、アモルファス構造で、B含有の強磁性体層を成膜し、該強磁性体層の上に非磁性金属層を成膜し、該非磁性金属層の上にアモルファス構造の強磁性体層を成膜し、これら複数層からなる多層膜で形成した磁化自由層を成膜する。第五工程:前記第四工程終了後、磁化固定層の磁場を固定するために、ランプヒータ装置や超音波加熱装置等のヒータを用いたアニーリング処理(200℃乃至300℃、好ましくは、230℃乃至250℃で、1時間乃至6時間、好ましくは、2時間乃至5時間)を施し、このアニーリング時に、アモルファス構造の強磁性体層から結晶構造の強磁性体層に変換する。第六工程:前記第五工程終了後、強磁性体層中のBが非磁性金属層まで固相拡散するに十分なアニーリング(温度340℃以上、好ましくは、350℃〜360℃の高温下、数分〜数時間、好ましくは30分〜2時間)処理を施す。
【0017】
以下に、本発明の好適な実施形態を挙げてより詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の磁気抵抗素子10の積層構造の一例を示し、TMR素子12を用いた磁気抵抗素子10の積層構造を示している。この磁気抵抗素子10によれば、基板11の上にTMR素子12を用い、このTMR素子12を含め、例えば、9層の多層膜が形成されている。この9層の多層膜では、最下層の第1層(Ta層)から最上層の第9層(Ru層)に向かった多層膜構造体となっている。具体的には、PtMn層、CoFe層、非磁性BRu合金層、CoFe合金層、非磁性Mg酸化物層、CoFe合金層、非磁性BTa合金層及び非磁性Ru層の順序で磁性層及び非磁性層が積層されている。尚、各層の括弧中の数値は、各層の厚みを示し、単位はnmである。当該厚みは一例であって、これに限定されるものではない。また、PtMn層はPtとMnを含有する合金層である。
【0019】
図1において、11は、ウエハー基板、ガラス基板やサファイヤ基板などの基板である。12はTMR素子で、第一強磁性体層121、トンネルバリア層122及び第二強磁性体層123によって構成されている。13は第1層(Ta層)の下電極層(下地層)であり、14は第2層(PtMn層)の反強磁性体層である。15は第3層(CoFe層)の強磁性体層で、16は第4層(BRu合金層)の交換結合用非磁性体金属層で、121は第5層(結晶性CoFe合金層)の強磁性体層で、これら第3層、第4層及び第5層とから成る層が磁化固定層19である。実質的な磁化固定層19は、第5層の結晶性CoFe合金層から成る強磁性体層121であり、本発明に係る前記第一強磁性体層に相当する。
【0020】
122は、第6層(多結晶Mg酸化物)のトンネルバリア層で、絶縁層である。本発明に係るトンネルバリア層122は、単一の多結晶BMg酸化物層であってもよい。
【0021】
図7は、本発明の別のTMR素子12の例である。図8中の符号12、121、122及び123は、図1と同一部材である。本例では、トンネルバリア層122は、Mg酸化物層72、並びに、該層72の両側の金属Mg層71及び73からなる積層膜である。また、本発明では、上述の層71の使用を省略し、層72を結晶性強磁性体層123に隣接配置することができ、又は上述の層73の使用を省略し、層72を第二強磁性体層121に隣接配置することができる。
【0022】
図1において、123は、第7層(CoFe合金層)の結晶性強磁性体層であり、磁化自由層であり、本発明に係る前記第二強磁性体層に相当する。第7層123は、上記の他に、カラム状結晶の集合体からなる多結晶NiFeを用いた結晶性強磁性体層であってもよい。磁化自由層の強磁性体層123は、MRAMとしての適用時には、記録層として機能することが出来る。
【0023】
結晶性強磁性体層121と123とは、中間に位置するトンネルバリア層122と隣接させて設けることが好ましい。製造装置においては、これら3層は、真空を破ることなく、順次、積層される。
【0024】
17は、第8層(BTa合金層)の非磁性金属層であり、電極としても機能させることができる。18第(9層のRu層)は、層13、層14、層15、層16、層121、層122、層123及び層17からなる多層膜をドライエッチングによるパターン形成時に用いた時のハードマスク層である。この第9層のハードマスクは、磁気抵抗素子から除去されていてもよい。
【0025】
上記磁化固定層のうちの第5層である強磁性体層121(CoFe合金層)とトンネルバリア層122である第6層(多結晶Mg酸化物層)と磁化自由層である第7層の強磁性体層123(CoFe合金層)とによって、TMR素子12が形成される。
【0026】
トンネルバリア層層122(Mg酸化物層)、結晶性強磁性体層121(CoFe合金層)及び結晶性強磁性体層123は、前述の図6に図示したカラム状結晶構造61を有することが好ましい。
【0027】
次に、図2を参照して、上記の積層構造を有する磁気抵抗素子10を製造する装置と製造方法を説明する。図2は磁気抵抗素子10を製造する装置の概略的な平面図であり、本装置は複数の磁性層及び非磁性層を含む多層膜を作製することのできる装置であり、量産型スパッタリング成膜装置である。
【0028】
図2に示された磁性多層膜作製装置200は、クラスタ型製造装置であり、スパッタリング法に基づく3つの成膜チャンバを備えている。本装置200では、ロボット搬送装置(不図示)を備える搬送チャンバ202が中央位置に設置している。磁気抵抗素子製造のための製造装置200の搬送チャンバ202には、2つのロードロック・アンロードロックチャンバ205及び206が設けられ、それぞれにより基板(例えば、シリコン基板)11の搬入及び搬出が行われる。これらのロードロック・アンロードロックチャンバ205及び206を交互に、基板の搬入搬出を実施することによって、タクトタイムを短縮させ、生産性よく磁気抵抗素子を作製できる構成となっている。
【0029】
磁気抵抗素子製造のための製造装置200では、搬送チャンバ202の周囲に、3つの成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A乃至201Cと、1つのエッチングチャンバ203とが設けられている。エッチングチャンバ203では、TMR素子10の所要表面をエッチング処理する。各チャンバ201A乃至201C及び203と搬送チャンバ202との間には、開閉自在なゲートバルブ204が設けられている。尚、各チャンバ201A乃至201C及び202には、
不図示の真空排気機構、ガス導入機構、電力供給機構などが付設されている。成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A乃至201Cは、高周波スパッタリング法を用いて、基板11の上に、真空を破らずに、前述した第1層から第9層までの各膜を順次に堆積することができる。
【0030】
成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A乃至201Cの天井部には、それぞれ、適当な円周の上に配置された4基または5基のカソード31乃至35、41乃至45、51乃至54が配置される。さらに当該円周と同軸上に位置する基板ホルダ上に基板11が配置される。また、上記カソード31乃至35、41乃至45、51乃至54に装着したターゲットの背後にマグネットを配置したマグネトロンスパッタリング装置とするのが好ましい。
【0031】
上記装置においては、電力投入手段207A乃至207Cから、上記カソード31乃至35、41乃至45、51乃至54にラジオ周波数(RF周波数)のような高周波電力が印加される。高周波電力としては、0.3MHz乃至10GHzの範囲、好ましくは、5MHz乃至5GHzの範囲の周波数及び10W乃至500Wの範囲、好ましくは、100W乃至300Wの範囲の電力を用いることができる。
【0032】
上記において、例えば、カソード31にはTaターゲットが、カソード32にはPtMnターゲットが、カソード33にはCoFe合金ターゲットが、カソード34にはCoFe合金ターゲットが、カソード35にはBRu合金ターゲットがそれぞれ装着される。また、カソード41にはMg酸化物ターゲット又はMgターゲットが装着される。Mgターゲットを用いる時は、酸化性ガスとともに反応性スパッタリングを実施するための反応性スパッタリング用チャンバ(不図示)を搬送チャンバ202に接続して実施することができる。
【0033】
また、Mgターゲットを用いたスパッタリングにより多結晶金属Mg層を成膜した後、酸化性ガス(例えば、酸素ガス、オゾンガス、水蒸気)を用いた酸化チャンバ(不図示)にて、多結晶Mg酸化物層に化学変化させることができる。
【0034】
カソード51にはCoFe合金ターゲットが、カソード52にはBTa合金ターゲットが、カソード53にはBRu合金ターゲットが装着される。また、カソード54は、ターゲットを未装着とするか、又は、CoFe合金ターゲット、Taターゲット、又はRuターゲットをリザーブ用として適宜装着することができる。
【0035】
上記カソード31乃至35、41乃至45、並びに、51乃至54に装着した各ターゲットの各面内方向と基板の面内方向とは、互いに、非平行に配置することが好ましい。該非平行な配置を用いることによって、基板径より小径のターゲットを回転させながらスパッタリングすることによって、高効率で、且つ、ターゲット組成と同一組成の磁性膜及び非磁性膜を堆積させることができる。
【0036】
上記非平行な配置は、例えば、ターゲット中心軸と基板中心軸との交差角を45°以下、好ましくは5°乃至30°となる様に、両者を非平行に配置することができる。また、この時の基板は、10rpm乃至500rpmの回転速度、好ましくは、50rpm乃至200rpmの回転速度を用いることができる。
【0037】
図3は、本発明に用いられる成膜装置のブロック図である。図中、301は図2中の搬送チャンバ202に相当する搬送チャンバ、302は成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201Aに相当する成膜チャンバ、303は成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201Bに相当する成膜チャンバである。また、304は成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201Cに相当する成膜チャンバ、305はロードロック・アンロードロックチャンバ205及び206に相当するロードロック・アンロードロックチャンバである。さらに、306は記憶媒体312を内蔵した中央演算器(CPU)である。符号309乃至311は、CPU306と各処理チャンバ301乃至305とを接続するバスラインで、各処理チャンバ301乃至305の動作を制御する制御信号がCPU306より各処理チャンバ301乃至305に送信される。
【0038】
本発明の磁気抵抗素子の製造においては、例えば、ロードロック・アンロードロックチャンバ305内の基板(図示せず)は搬送チャンバ301に搬出される。この基板搬出工程は、CPU306が記憶媒体312に記憶させた制御プログラムに基づいて演算する。そして、この演算結果に基づく制御信号が、バスライン307及び311を通して、ロードロック・アンロードロックチャンバ305及び搬送チャンバ301に搭載した各種装置の実行を制御することによって実施される。上記各種装置としては、例えば、不図示のゲートバルブ、ロボット機構、搬送機構、駆動系等が挙げられ、記憶媒体312が前述した本発明の記憶媒体に相当する。
【0039】
搬送チャンバ301に搬送された基板は、成膜チャンバ302に搬出される。成膜チャンバ302に搬入された基板は、ここで、図1の第1層13、第2層14、第3層15、第4層16及び第5層121が順次積層される。この段階での第5層121のCoFe合金層は、好ましくはアモルファス構造となっているが、多結晶構造であってもよい。
【0040】
上記積層プロセスは、CPU306内で、記憶媒体312に記憶させた制御プログラムに基づいて演算された制御信号が、バスライン307,308を通して搬送チャンバ301及び成膜チャンバ302に搭載した各種装置の実行を制御することで実施される。係る各種装置としては、例えば、不図示のカソードへの電力投入機構、基板回転機構、ガス導入機構、排気機構、ゲートバルブ、ロボット機構、搬送機構、駆動系等が挙げられる。
【0041】
上記第5層までの積層膜を持った基板は、一旦、搬送チャンバ301に戻され、その後成膜チャンバ303に搬入される。成膜チャンバ303内で、上記第5層121のアモルファスCoFe合金層の上に、第6層122として、多結晶Mg酸化物層の成膜を実行する。第6層122の成膜は、CPU306内で、記憶媒体312に記憶させた制御プログラムに基づいて演算された制御信号が、バスライン307,309を通して、搬送チャンバ301及び成膜チャンバ303に搭載した各種装置の実行を制御することで実施される。上記各種装置としては、例えば、不図示のカソードへの電力投入機構、基板回転機構、ガス導入機構、排気機構、ゲートバルブ、ロボット機構、搬送機構、駆動系等が挙げられる。
【0042】
上記第6層122まで積層した基板は、再度、一旦、搬送チャンバ301に戻され、その後成膜チャンバ304に搬入される。成膜チャンバ304内で、上記第6層122の多結晶Mg酸化物層の上に、第7層123、第8層17及び第9層18が順次積層される。この段階での第7層123のCoFe合金層は、好ましくは、アモルファス構造となっているが、多結晶構造であってもよい。
【0043】
第9層までの積層は、CPU306内で、記憶媒体312に記憶させた制御プログラムに基づいて演算された制御信号が、バスライン307,310を通して、搬送チャンバ301及び成膜チャンバ304に搭載した各種装置の実行を制御することで実施される。上記各種装置としては、例えば、不図示のカソードへの電力投入機構、基板回転機構、ガス導入機構、排気機構、ゲートバルブ、ロボット機構、搬送機構、駆動系等が挙げられる。
【0044】
本発明の記憶媒体312としては、前述したように、ハードディスク媒体、光磁気ディスク媒体、フレキシブルディスク媒体、フラッシュメモリやMRAM等の不揮発性メモリ全般を挙げることができ、プログラム格納可能な媒体を含むものである。
【0045】
上記第5層121及び第7層123のアモルファスCoFe合金層のアニーリングによる多結晶化を促す、及び、第2層14のPtMn層の磁気付与を促すために、第1層乃至第9層からなる積層膜をアニーリング炉(不図示)に搬入することができる。
【0046】
上記記憶媒体312には、アニーリング炉での工程を実施するための制御プログラムが記憶されている。よって、該制御プログラムに基づく、CPU306の演算により得た制御信号によって、アニーリング炉内の各種装置(例えば、不図示のヒータ機構、排気機構、搬送機構等)を制御し、アニーリング工程を実行することができる。
【0047】
また、本発明では、上記第5層121及び第7層123として、上述のCoFe合金層に換えて他の合金層を用いることができる。具体的には、CoFeB層、CoFeTaZr層、CoTaZr層、CoFeNbZr層、CoFeZr層、FeTaC層、FeTaN層、又はFeC層などの多結晶強磁性体層を用いることができる。
【0048】
本発明では、上記第4層16のBRu層に換えて、BRh層又はBIr層などのBを含有した非磁性遷移金属を用いても、同様の効果が得られたが、これらの他に、Bを含有した、Ti、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Hf、Ta、W、Ta、Te及びからなる非磁性遷移金属群から選択された少なくとも一種を用いても、同様の効果が得られた。 また、本発明では、第4層16中のBの含有量は、10atomic%〜40atomic%の範囲に設定することができる。 また、上記第8層17のBTa合金層に換えて、Bを含有したRu、Rh、Ir、Y、Ti、Zr、Hf、V、Mo、W、Te、Ta及びRuからなる非磁性遷移金属群から選択された少なくとも一種を用いても、同様の効果が得られた。 また、本発明では、第8層17中のBの含有量は、10atomic%〜40atomic%の範囲に設定することができる。
【0049】
さらに、本発明では、上記第2層14のPtMn層に換えて、IrMn層、IrMnCr層、NiMn層、PdPtMn層、RuRhMn層やOsMn層等の各合金層が好ましく用いられる。又、その膜厚は、10乃至30nmが好ましい。
【0050】
本発明では、上記第5層121は、多結晶CoFe合金層と多結晶CoFeB層(基板側に位置させる)からなる積層膜とすることができる。
【0051】
図4は、本発明の磁気抵抗素子をメモリ素子として用いたMRAM401の模式図である。MRAM401において、402は本発明のメモリ素子、403はワード線、404はビット線である。多数のメモリ素子402のそれぞれは、複数のワード線403と複数のビット線404の各交点位置に配置され、格子状の位置関係に配置される。多数のメモリ素子402のそれぞれが1ビットの情報を記憶することができる。
【0052】
図5は、MRAM401のワード線403とビット線404の交点位置において、1ビットの情報を記憶するTMR素子10と、スイッチ機能を有するトランジスタ501とで構成した等価回路図である。
【実施例】
【0053】
図1に示した磁気抵抗素子を図2に示した成膜装置を用いて作製した。主要部であるTMR素子12の成膜条件は以下の通りである。
【0054】
強磁性体層121はCoFe組成比(atomic:原子比)60/40のターゲットを用い、Arガス圧力0.03Paで、マグネトロンDCスパッタ(チャンバ201A)により成膜した。続いて、スパッタリング装置(チャンバ201B)に換えた。MgO組成比(atomic:原子比)50/50のターゲットを用い、スパッタガスの圧力は好適範囲0.01乃至0.4Paの圧力範囲のうち、0.2Paとした。この条件で、マグネトロンRFスパッタリング(13.56MHz)により、第6層のMg酸化物層であるトンネルバリア層122を成膜した。この際、Mg酸化物層(トンネルバリア層122)は、カラム状結晶の集合体よりなる多結晶構造であった。また、この時のマグネトロンRFスパッタリング(13.56MHz)の成膜レートは、0.14nm/secであった。
【0055】
さらに続けて、スパッタリング装置(チャンバ201C)に換えて、磁化自由層(第7層のCoFe合金層)である強磁性体層123を成膜した。
【0056】
成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A乃至201Cのそ
れぞれでスパッタリング成膜を行って積層が完了した磁気抵抗素子10は、熱処理炉において約300℃及び4時間で、8kOeの磁場中で、アニーリング処理を実施した。その結果、アモルファス構造の第5層及び第7層のCoFeB層は、図7に図示したカラム状結晶72の集合体71よりなる多結晶構造となったことが確認された。このアニーリング工程により、磁気抵抗素子10は、TMR効果を持った磁気抵抗素子として作用することができる。また、このアニーリング工程により、第2層のPtMn層である反強磁性体層14には、所定の磁化が付与されていた。
【0057】
本発明の比較例として、第4層16を金属Ru層に換え、そして第10層17を金属Ta層に変えた他は、同様の磁気抵抗素子を作成した。
【0058】
実施例の磁気抵抗素子と比較例の磁気抵抗素子とのMR比を測定し、対比したところ、実施例のMR比は、比較例のMR比の1.2倍乃至1.5倍以上の数値で改善されていた。
【0059】
また、MR比は、外部磁界に応答して磁性膜または磁性多層膜の磁化方向が変化するのに伴って膜の電気抵抗も変化する磁気抵抗効果に関するパラメータで、その電気抵抗の変化率を磁気抵抗変化率(MR比)としたものである。
【0060】
図8は、本発明のトップ型磁気抵抗素子80の積層構造の一例を示す。TMR素子82を用いた磁気抵抗素子80の積層構造を示し、図1のTMR素子12と同一のものである。この磁気抵抗素子80によれば、基板81の上にTMR素子82を用い、このTMR素子82を含め、例えば、9層の多層膜が形成されている。この9層の多層膜では、最下層の第1層(BTa合金層)83から最上層の第9層(Ru層)88に向かった多層膜構造体となっている。具体的には、CoFe層823、非磁性Mg酸化物層822、CoFe層821、非磁性BRu合金層86、CoFe層85、反強磁性体層PtMn層84、非磁性Ta層87及び非磁性Ru層88の順序で磁性層及び非磁性層が積層されている。尚、各層の括弧中の数値は、各層の厚みを示し、単位はnmである。当該厚みは一例であって、これに限定されるものではない。また、反強磁性体層PtMn層はPt原子とMn原子を含有する合金層である。
【0061】
図8において、81は、ウエハー基板、ガラス基板やサファイヤ基板などの基板である。82はTMR素子で、第一強磁性体層823、トンネルバリア層822及び第二強磁性体層821によって構成されている。83は第1層(BTa層)の合金層で、下電極層(下地層)として用いることができる。84は第7層(PtMn層)の反強磁性体層である。85は第6層(CoFe層)の強磁性体層で、86は第5層(BRu合金層)の交換結合用非磁性体層で、121は第4層結晶性CoFe層)の強磁性体層で、これら第4層821、第5層86及び第6層85とから成る層が磁化固定層89である。実質的な磁化固定層89は、第4層の結晶性CoFe層から成る強磁性体層821であり、本発明に係る前記第二強磁性体層に相当する。
【0062】
822は、第3層(多結晶Mg酸化物)のトンネルバリア層で、絶縁層である。本発明に係るトンネルバリア層822は、単一の多結晶BMg酸化物層であってもよい。 また、第2層CoFe層823がCoFeB合金層であり、第4層のCoFe821がCoFeB合金層であっても、図8の素子と同様の効果を奏することができる。
【0063】
図9は、本発明に係る磁気抵抗素子90の積層構造の一例を示し、TMR素子92を用いた磁気抵抗素子90の積層構造を示している。この磁気抵抗素子90によれば、基板91の上に、このTMR素子92を含め、例えば、12層の多層膜が形成されている。この12層の多層膜では、最下層の第1層(Ta層)から最上層の第12層(Ru層)に向かった多層膜構造体となっている。具体的には、PtMn層94、CoFe層95、非磁性金属層(BRu合金)層961、第一強磁性体層であるCoFe層921、トンネルバリア層である非磁性多結晶Mg酸化物層922が積層されている。さらにその上に、第二強磁性体層である多結晶CoFe層9233、非磁性BTa合金層962、第三強磁性体層である多結晶CoFe層9232及び多結晶NiFe層9231が積層されている。さらにまた、非磁性Ta層97及び非磁性Ru層98がこの順序で積層されている。尚、各層の括弧中の数値は、各層の厚みを示し、単位はnmである。当該厚みは一例であって、これに限定されるものではない。
【0064】
また、本発明では、上述の第一強磁性体層921は、CoFe層と他の強磁性体層(例えば、CoFeB合金、CoFeNi合金等)とを加えた2層以上の積層構造としても良い。
【0065】
91は、ウエハー基板、ガラス基板やサファイヤ基板などの基板である。
【0066】
92はTMR素子で、多結晶CoFeからなる第一強磁性体層921、トンネルバリア層922、第二強磁性体層9233及び第三強磁性体層9232、9231の積層構造体によって構成されている。トンネルバリア層922は多結晶Mg酸化物層又は多結晶Mg酸化物層を有し、第二強磁性体層9232多結晶CoFe層からなる。第三強磁性体層は多結晶CoFe層9232及び多結晶NiFe層9231の積層膜からなる。
【0067】
上記第二強磁性体層9233と第三強磁性体層9232との間には、Bを含有した非磁性金属からなるからなるBTa合金中間層962が配置される。
また、第2層のPtMn層94がPtMnB合金層であってもよく、第3及び第5層のCoFe層95及びCoFe層921がCoFeB合金層であってもよく、第6層のMgO層922がBMgO合金酸化物層であってもよく、更に第7層のCoFe層9233がCoFeB合金層であっても、図9の素子と同様の効果を奏することができる。
【0068】
また、本発明は、前記中間層16、86、961及び992で用いる非磁性遷移金属としては、Ti、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Ta、Ir、Te及びRuからなる非磁性遷移金属群から選択された少なくとも一種を挙げることができる。また、本発明は、下地層83で用いる非磁性遷移金属としては、Ti、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Ta、Ir、Te及びRuからなる非磁性遷移金属群から選択された少なくとも一種を挙げることができる。 また、トンネルバリア層122、822及び922としては、前述の多結晶Mg酸化物層に変えて、B(ボロン)を含有した多結晶Mg酸化物層であっても、同等の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0069】
10、80、90 磁気抵抗素子 11、81、91 基板 12、82、92 TMR素子 121、821、921 強磁性体層 122、822、922 トンネルバリア層 123、823、9233 強磁性体層(磁化自由層) 13、93 下地層(電極) 83 B(ボロン)含有下地層(電極) 14、84、94 反強磁性層 15、85、95 強磁性体層 16、86、961 非磁性BRu合金層(交換結合用非磁性層) 17 非磁性BTa合金層(電極) 87、97 電極18、88,98 ハードマスク層 19、89、99 磁化固定層 200 磁気抵抗素子作成装置 201A乃至201C 成膜チャンバ 202 搬送チャンバ 203 エッチングチャンバ 204 ゲートバルブ 205,206 ロードロック・アンロードロックチャンバ 31乃至35,41乃至45,51乃至54 カソード 207A乃至207C 電力投入部 301 搬送チャンバ 302乃至304 成膜チャンバ 305 ロードロック・アンロードロックチャンバ 306 中央演算器(CPU) 307乃至311 バスライン 312 記憶媒体 401 MRAM 402 メモリ素子 403 ワード線 404 ビット線 501 トランジスタ 61 カラム状結晶群の集合体 62 カラム状結晶 71 金属Mg層 72 Mg酸化物層 73 金属Mg層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、トンネルバリア層、強磁性層及びBを含有した非磁性金属層を有する、ことを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記非磁性金属層は、非磁性遷移金属を含有する、ことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記非磁性遷移金属は、Ti、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Ta、Ir、Te及びRuからなる非磁性遷移金属群から選択された少なくとも一種を含有する、ことを特徴とする請求項2に記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記トンネルバリア層は、結晶性酸化マグネシウム含有層を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
基板、
反強磁性層、強磁性層及びBを含有した非磁性金属層を有する磁化固定層、
強磁性層及びBを含有する非磁性金属を有する磁化自由層、並びに
前記磁化固定層と前記磁化自由層との間に位置する金属酸化物を含有したトンネルバリア層を有する、
ことを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記非磁性金属層は、非磁性遷移金属を含有する、ことを特徴とする請求項5に記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記非磁性遷移金属は、Ti、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Ta、、Ir、Te及びRuからなる非磁性遷移金属群から選択された少なくとも一種を含有する、ことを特徴とする請求項6に記載の磁気抵抗素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−124185(P2012−124185A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39449(P2009−39449)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】