説明

薄膜トランジスタの製造方法、薄膜トランジスタ、および表示装置

【課題】信頼性を向上させると共に、電気的特性を改善することができる薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板11上に成膜された非晶質シリコン膜20に、ガラス基板11の裏面側からレーザ光を照射することによって、縦成長モードで多結晶シリコン膜30を形成する。多結晶シリコン膜30は、溶融した半導体の表面に高い密度で形成された種結晶からガラス基板11側に向かって固化することにより形成される。これにより、多結晶シリコン膜30の表面付近には、微結晶シリコン領域を多く含む不完全結晶層32が形成される。そこで、不完全結晶層32をエッチングにより除去して、多結晶シリコン膜33を形成し、多結晶シリコン膜33を活性層とするTFTを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタの製造方法、薄膜トランジスタ、および表示装置に関し、より詳しくは、アクティブマトリクス型表示装置に好適に用いられる薄膜トランジスタの製造方法、薄膜トランジスタ、および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:以下「TFT」という)によって駆動されるアクティブマトリクス型の液晶表示装置や有機EL(Electro Luminescence)表示装置が注目を集めている。このような表示装置における表示品位を向上させるべく、非晶質シリコンからなる活性層ではなく、多結晶シリコンからなる活性層を備えるTFTが用いられている。多結晶シリコンを用いたTFTは、非晶質シリコンを用いたTFTに比べて、移動度を大きく向上させることができる。このため、多結晶シリコンを用いたTFTは、画素形成部のスイッチング素子のみならず、ゲートドライバやソースドライバなどの周辺回路を構成するTFTとしても使用されるようになってきた。このような多結晶シリコンの形成方法として、固相成長法、レーザアニール法などが知られているが、特にエキシマレーザを用いるレーザアニール法は、結晶性の高い多結晶シリコンを形成する方法として最も多く使用されている。
【0003】
しかし、レーザアニール法を用いた場合、レーザ光を照射することにより溶融したシリコン(以下、「溶融シリコン」という)と基板との温度勾配が大きくなるので、溶融シリコンは速く固化して多結晶シリコンになる。このため、レーザアニール法によって形成された多結晶シリコンの結晶粒は小さくなる。
【0004】
特許文献1は、結晶粒の大きな多結晶シリコンを形成するレーザアニール法を開示している。具体的には、まず、ガラス基板上に形成されたベースコート膜の表面に非晶質シリコン膜を成膜する。次に、ガラス基板の裏面側からXeClエキシマレーザ(以下、「レーザ光」という)を照射して非晶質シリコン膜を溶融させ、その後固化させる。このとき、ガラス基板と非晶質シリコン膜とは、レーザ光によって同時に加熱されるので、ガラス基板と非晶質シリコン膜との温度勾配が小さくなる。これにより、溶融シリコンはゆっくり固化するようになるので、結晶粒径の大きな多結晶シリコン膜が形成される。
【0005】
また、ガラス基板の表面側から非晶質シリコン膜にレーザ光を照射することによって多結晶シリコン膜を形成する場合、固化は裏面から表面に向かって進むので、例えば50nm程度の大きな段差を有する凹凸が多結晶シリコン膜の表面に形成される。このような多結晶シリコン膜の表面にゲート絶縁膜を形成すれば、ゲート絶縁膜の膜厚が凸部で局所的に薄くなる。このため、TFTの動作中にゲート絶縁膜の薄くなった箇所で絶縁破壊が生じやすくなり、TFTの信頼性が低下する。
【0006】
そこで、特許文献1に開示されているように、ガラス基板の裏面側からレーザ光を非晶質シリコン膜に照射する。非晶質シリコン膜は溶融シリコンになり、その表面の温度よりも裏面の温度が高くなる。このため、溶融シリコンの固化は、表面から始まり、裏面に向かって進む。この場合、ガラス基板の表面側からレーザ光を照射する場合と異なり、多結晶シリコン膜の表面に形成される凹凸の段差は、例えば30nm程度まで小さくなる。このような多結晶シリコン膜の表面にゲート絶縁膜を形成しても、ゲート絶縁膜の膜厚は凸部で局所的に薄くなりにくくなる。これにより、ゲート絶縁膜は絶縁破壊しにくくなり、TFTの信頼性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−330879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載されたレーザアニール法を用いて形成した多結晶シリコン膜を活性層とするTFTについて電気的特性を測定したところ、移動度は184cm2/V・sであり、S係数(subthreshold voltage swing)は0.32V/degであった。一方、ガラス基板の表面側からレーザ光を照射して形成した多結晶シリコン膜を活性層とするTFTにおける移動度は220cm2/V・sであり、S係数は0.25V/degであった。このことから、ガラス基板の裏面側からレーザ光を照射した場合には、ガラス基板の表面側から照射した場合に比べて、各電気的特性が20%程度悪くなることがわかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、信頼性を向上させると共に、電気的特性を改善することができる薄膜トランジスタの製造方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、そのような製造方法によって製造された薄膜トランジスタおよび表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、可視光領域で透明な絶縁基板上に形成された薄膜トランジスタの製造法であって、
前記絶縁基板の表面上に半導体膜を成膜する工程と、
前記絶縁基板の裏面側から前記半導体膜にレーザ光を照射することにより、微結晶半導体領域を含む不完全結晶層を表面に有する第1の多結晶半導体膜を縦成長モードで形成する工程と、
前記第1の多結晶半導体膜から前記不完全結晶層を除去して第2の多結晶半導体膜を形成する工程と、
前記第2の多結晶半導体膜をパターニングして活性層を形成する工程と、
前記活性層を覆うようにゲート絶縁膜を成膜する工程と、
前記ゲート絶縁膜の表面にゲート電極を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、
前記不完全結晶層の除去は、ドライエッチング法を用いて前記第1の多結晶半導体膜から前記不完全結晶層を除去することを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第1の発明において、
前記不完全結晶層の除去は、ウエットエッチング法を用いて前記第1の多結晶半導体膜から前記不完全結晶層を除去することを特徴とする。
【0013】
第4の発明は、第1から第3までのいずれかの発明において、
前記半導体膜は、非晶質半導体膜であることを特徴とする。
【0014】
第5の発明は、第1から第4までのいずれかの発明において、
前記レーザ光は、その一部が前記絶縁基板に吸収される波長の光であることを特徴とする。
【0015】
第6の発明は、第5の発明において、
前記レーザ光は、パルス発振XeClエキシマレーザであることを特徴とする。
【0016】
第7の発明は、第1から第6までのいずれかの発明に係る薄膜トランジスタの製造方法によって製造された薄膜トランジスタである。
【0017】
第8の発明は、第7の発明に係る薄膜トランジスタと、画像表示部とを備える表示装置であって、
前記薄膜トランジスタは、前記画像表示部のスイッチング素子として用いられていることを特徴とする。
【0018】
第9の発明は、第8の発明において、
前記画像表示部を駆動する周辺回路をさらに備え、
前記周辺回路は、前記薄膜トランジスタを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
上記第1の発明によれば、可視光領域で透明な絶縁基板上に成膜された半導体膜に、絶縁基板の裏面側からレーザ光を照射することによって、縦成長モードで第1の多結晶半導体膜を形成する。第1の多結晶半導体膜は、溶融した半導体の表面に高い密度で形成された種結晶から絶縁基板側に向かって固化することにより形成される。このようにして形成された第1の多結晶半導体膜の表面付近に、微結晶半導体を含む領域が形成されている。そこで、微結晶半導体を含む領域をエッチングにより除去して、第2の多結晶半導体膜を形成する。これにより、第1の多結晶半導体膜の表面に形成された小さな段差の凹凸が、凹凸の段差を維持したまま、第2の多結晶半導体膜の表面に転写されるので、信頼性を向上させた薄膜トランジスタを製造することができる。さらに、第2の多結晶半導体膜の結晶性が高くなるので、キャリアの移動度を高くしたり、S係数を低くしたりすることができるなど、電気的特性を改善した薄膜トランジスタを製造することができる。
【0020】
上記第2の発明によれば、第1の多結晶半導体膜の表面に形成された不完全結晶層をドライエッチング法によって除去するので、エッチング条件を調整して、膜厚の面内ばらつきが小さな第2の多結晶半導体膜を形成することができる。これにより、電気的特性が安定した薄膜トランジスタを製造することができる。
【0021】
上記第3の発明によれば、ウエットエッチング法により、第1の多結晶半導体膜の表面に形成された不完全結晶層を容易に除去することができる。これにより、薄膜トランジスタの製造方法を簡略化することができる。
【0022】
上記第4の発明によれば、非晶質半導体膜は成膜が容易な半導体膜であるので、薄膜トランジスタの製造方法を簡略化することができる。
【0023】
上記第5の発明によれば、レーザ光の一部が絶縁基板に吸収されることにより、絶縁基板の温度が高くなり、絶縁基板と溶融した半導体との温度勾配が小さくなる。このため、溶融した半導体はゆっくり固化して、結晶粒の大きな第1の多結晶半導体膜になる。これにより、電気的特性が改善された薄膜トランジスタを製造することができる。
【0024】
上記第6の発明によれば、レーザ光としてXeClエキシマレーザを用いることにより、絶縁基板に吸収されるレーザ光の割合を高くして、絶縁基板と溶融した半導体との温度勾配をより小さくすることができる。また、レーザ光はパルス発振されるので、半導体膜を全層溶融させることもない。これにより、第1の多結晶半導体膜の結晶粒をより大きくすることができるので、電気的特性がより改善された薄膜トランジスタを製造することができる。
【0025】
上記第7の発明によれば、第2の多結晶半導体膜の表面に形成される凹凸の段差は小さく、その結晶性は高い。このような第2の多結晶半導体膜を活性層とすることにより、ゲート絶縁膜の絶縁破壊を生じにくくすると共に、結晶性を高くすることができる。これにより、信頼性を向上させると共に、電気的特性を改善した薄膜トランジスタが得られる。
【0026】
上記第8の発明によれば、薄膜トランジスタを表示装置の画素形成部のスイッチング素子として用いれば、薄膜トランジスタの移動度が大きく、S係数が小さいので、スイッチング動作を高速で行なうことができる。これにより、薄膜トランジスタは、ソース配線から与えられる映像信号を、短時間で画素容量に充電できるようになるので、画素形成部の数を増やして画像表示部を高精細化することができる。
【0027】
上記第9の発明によれば、薄膜トランジスタを用いて周辺回路を構成すれば、周辺回路の動作速度を速くすることができる。これにより、周辺回路の回路規模が小さくなるので、画像表示部が形成された表示パネルの額縁部を小さくして、表示装置を小型化することができる。また、表示装置を高性能化、高画質化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)は、ベースコート膜を介して非晶質シリコン膜を成膜したガラス基板の断面図であり、(b)は、(a)に示すガラス基板の裏面側から非晶質シリコン膜にレーザ光を照射して多結晶シリコン膜を形成するレーザアニール法を示す断面図である。
【図2】図1に示すレーザアニール法によって形成された多結晶シリコン膜の断面図である。
【図3】図2に示す不完全結晶層を除去した多結晶シリコン膜の断面図である。
【図4】(a)〜(d)は、本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタの各製造工程を示す工程断面図である。
【図5】(a)〜(c)は、本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタの各製造工程を示す工程断面図である。
【図6】(a)は、アクティブマトリクス型液晶表示装置の液晶パネルを示す斜視図であり、(b)は、(a)に示す液晶パネルに含まれるTFT基板を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<1.基礎検討>
可視光領域で透明な絶縁基板であるガラス基板上に形成されたベースコート膜の表面に非晶質シリコン膜を成膜した後に、ガラス基板の裏面側から非晶質シリコン膜にレーザ光を照射(以下、「裏面照射」という)して、多結晶シリコン膜を形成する場合の問題点とその解決方法を検討する。
【0030】
図1(a)は、ベースコート膜15を介して非晶質シリコン膜20を成膜したガラス基板11の断面図であり、(b)は、(a)に示すガラス基板11の裏面側から非晶質シリコン膜20にレーザ光を照射して多結晶シリコン膜30を形成するレーザアニール法を示す断面図である。図1(a)に示すように、ガラス基板11上に窒化シリコン(SiNx)などからなるベースコート膜15を成膜し、ベースコート膜15の表面に非晶質シリコン膜20を成膜する。
【0031】
図1(b)に示すように、非晶質シリコン膜20にレーザ光を裏面照射(図1(b)の下側から照射)する。このとき、非晶質シリコン膜20が全層溶融(フルメルト)しないように、照射するレーザ光のエネルギー密度とスキャン速度を調整する。非晶質シリコン膜20は、レーザ光を照射することによって溶融シリコン21になり、さらに縦成長モードで結晶成長して多結晶シリコン膜30になる。
【0032】
このような方法で形成した多結晶シリコン膜30を活性層とするTFTを製造して、その移動度とS係数を測定した。その結果、TFTの移動度は150cm2/V・sであり、S係数は0.39V/degであった。
【0033】
一方、ガラス基板の表面側から非晶質シリコン膜にレーザ光を照射(以下、「表面照射」という)して多結晶シリコン膜を形成する。この多結晶シリコン膜を活性層とするTFTを製造して、その移動度とS係数を測定した。その結果、TFTの移動度は220cm2/V・sであり、S係数は0.25V/degであった。なお、S係数は、ゲート電圧が閾値電圧以下の状態において、ドレイン電流を1桁変化させるのに必要なゲート電圧として定義され、S係数が小さければ小さいほどオン/オフをより早く切り換えることができる。
【0034】
上記結果から、裏面照射によって形成された多結晶シリコン膜30を活性層とするTFTでは、表面照射によって形成された多結晶シリコン膜を活性層とするTFTに比べて、その電気的特性が20%程度悪くなることがわかった。
【0035】
図2は、裏面照射によって形成された多結晶シリコン膜30の構造を示す断面図である。図2に示すように、多結晶シリコン膜30の表面には、非晶質シリコン膜20(半導体膜)が結晶化されずにそのまま残った非晶質シリコンや0.1μm以下の小さな結晶粒からなる微結晶シリコンを含む領域(以下、「微結晶シリコン領域31」という)が存在する。
【0036】
この微結晶シリコン領域31は、次のようにして多結晶シリコン膜30の表面に形成されると考えられる。裏面照射によって非晶質シリコン膜20が溶融シリコン21になると、溶融シリコン21の裏面(ガラス基板11側の面)よりも温度が低い表面に、高い密度で種結晶が形成される。なお、種結晶は、肉眼では見えないほど小さいので、図2には記載されていない。溶融シリコン21は、その表面に形成された種結晶から裏面側に向かって徐々に結晶成長し、多結晶シリコン膜30になる。このとき、温度の低い表面側の結晶化が十分に進まないので、表面付近に微結晶シリコン領域31が形成されやすい。特に、微結晶シリコン領域31は、多結晶シリコン膜30の表面から10〜20μmの深さまでの間に形成されやすい。そこで、本明細書においては、多結晶シリコン膜30の表面付近に形成された、微結晶シリコン領域31を多く含む層を不完全結晶層32ということとする。
【0037】
これに対して、表面照射によって形成された多結晶シリコン膜では、種結晶は溶融シリコンの裏面(ガラス基板側)に形成される。溶融シリコンは、裏面に形成された種結晶からその表面側に向かって徐々に結晶成長し、多結晶シリコン膜になる。このため、表面照射によって形成された多結晶シリコン膜には、その裏面付近に微結晶シリコン領域が多く存在する。
【0038】
多結晶シリコン膜30を用いてTFTの活性層を形成した場合、オン電流が流れるゲート電極側の多結晶シリコン膜30の表面に微結晶シリコン領域31が多数存在するので、結晶粒界が多くなり、移動度は小さくなる。一方、表面照射によって形成した多結晶シリコン膜を用いてTFTの活性層を形成した場合、ゲート電極側の多結晶シリコン膜の表面に微結晶シリコン領域がほとんど存在しないので、結晶粒界は少なくなり、移動度は大きくなる。
【0039】
また、多結晶シリコン膜30を用いてTFTの活性層を形成した場合、ゲート電極側の多結晶シリコン膜30の表面に微結晶シリコン領域31が多数存在するので、TFTをオフした時にゲート電圧の低下に伴うオフ電流の減少割合が少なくなり、S係数は大きくなる。一方、表面照射によって形成した多結晶シリコン膜を用いてTFTの活性層を形成した場合、ゲート電極側の多結晶シリコン膜の表面に微結晶シリコン領域がほとんど存在しないので、オフ電流の減少割合が大きくなり、S係数は小さくなる。これらのことから、表面照射によって形成された多結晶シリコン膜を活性層とするTFTは、裏面照射によって形成され、表面に微結晶シリコン領域31が存在する多結晶シリコン膜30を活性層とするTFTよりも、良好な電気的特性を示すことがわかる。
【0040】
一方、上述のように、裏面照射によって形成された多結晶シリコン膜30では、その表面に形成された凹凸の段差が小さくなる。このため、裏面照射によって形成された多結晶シリコン膜30を活性層とするTFTにおいて、ゲート絶縁膜の絶縁破壊が生じにくくなり、信頼性が向上する。
【0041】
そこで、裏面照射によって多結晶シリコン膜30を形成後、その表面の不完全結晶層32を除去すれば、上述の問題点を解決できることがわかる。図3は、不完全結晶層32を除去した多結晶シリコン膜33の断面図である。図3に示すように、裏面照射によって形成された多結晶シリコン膜30の表面の不完全結晶層32をエッチングにより除去し、多結晶シリコン膜33(第2の多結晶シリコン膜)を残す。このようにして得られた多結晶シリコン膜33を活性層とするTFTでは、信頼性が向上すると共に、電気的特性が改善される。なお、裏面照射による溶融シリコン21の固化時に多結晶シリコン膜30の表面に形成される凹凸は、不完全結晶層32をエッチングによって除去した後も多結晶シリコン膜33の表面に転写され、同じ段差を維持した状態で残されている。
【0042】
<2.薄膜トランジスタの製造方法>
図4および図5は、裏面照射により結晶化した多結晶シリコン膜30を活性層とするTFT10の各製造工程を示す工程断面図である。なお、図1〜図3に示す構成要素と同じ構成要素には、同じ参照符号を付して説明する。
【0043】
図4(a)に示すように、可視光領域で透明な絶縁基板であるガラス基板11上にベースコート膜15を成膜する。ベースコート膜15は、窒化シリコンまたは酸化シリコン(SiO2)からなり、プラズマCVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法などによって成膜される。ベースコート膜の表面に、膜厚30〜70nmの非晶質シリコン膜20を成膜する。非晶質シリコン膜20は、水素(H2)ガスおよびモノシラン(SiH4)ガスを原料ガスとする減圧CVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)法などによって成膜される。
【0044】
図4(b)に示すように、ガラス基板11の裏面側(図4(b)の下側)から、レーザ光を照射して、非晶質シリコン膜20をアニールする。照射するレーザ光は、波長308nmのパルス発振XeClエキシマレーザである。縦成長モードで結晶化して多結晶シリコン膜30を形成するために、非晶質シリコン膜20が全層溶融しないように、レーザ光のエネルギー密度とスキャン速度を調整する必要がある。本実施形態においては、例えばエネルギー密度を200〜500mJ/cm2、スキャン速度を5〜10mm/secとする。なお、図4(b)に示す不完全結晶層32にも、図2に示す不完全結晶領域31が形成されているが、図4(b)では不完全結晶領域31の記載を省略した。また、本実施形態において、パルス発振レーザの代わりに、連続発振レーザを非晶質シリコン膜20に照射すれば、非晶質シリコン膜20は全層溶融してしまう。このため、本実施形態では、連続発振レーザを使用することはできない。
【0045】
波長308nmのレーザ光の約50%は、ガラス基板11に吸収されてガラス基板11を加熱するのに使われる。ガラス基板11に吸収されなかった残りの約50%のレーザ光は、非晶質シリコン膜20を加熱して溶融シリコン21に変えるのに使われる。このように、レーザ光を1回照射することにより、非晶質シリコン膜20とガラス基板11とを同時に加熱することができる。これにより、ガラス基板11と溶融シリコン21との温度勾配が小さくなるので、結晶粒径の大きな多結晶シリコン膜30を形成することができる。
【0046】
また、溶融シリコン21の温度は、裏面側で高く、その表面側で低いので、溶融シリコン21の表面に多数の種結晶が形成される。溶融シリコン21の固化は、この種結晶から裏面側に向かって徐々に進む。このようにして形成された多結晶シリコン膜30のうち、表面から深さ10〜20nmまでは、微結晶シリコン領域31を多く存在する不完全結晶層32である。また、固化は、溶融シリコン21の表面から裏面に向かって進むので、不完全結晶層32の表面に形成される凹凸の段差も小さい。
【0047】
基礎検討で検討したように、多結晶シリコン膜30の表面の不完全結晶層32をドライエッチング法によって除去し、多結晶シリコン膜33を形成する(図4(c)参照)。エッチングガスとして、四フッ化炭素(CF4)ガス、六フッ化硫黄(SF6)ガスなどのフッ素系ガス、または四塩化炭素(CCl4)ガスなどの塩素系ガスを用いる。例えば、CF4ガスを用いた場合、ガス流量を100〜300sccm、RFパワーを1000〜5000W、チャンバ内の温度を30〜50℃、チャンバ内の圧力を3〜50Paとなる条件でエッチングすることが好ましい。この場合、多結晶シリコン膜のエッチング速度は、0.5〜2nm/secなり、エッチング後の多結晶シリコン膜33の面内ばらつきを±3nm程度に抑えることができる。
【0048】
このように、ドライエッチング法を用いれば、不完全結晶層32をエッチングした後に残る多結晶シリコン膜33の膜厚が面内でほぼ均一になるので、多結晶シリコン膜33を活性層とするTFT10の電気的特性をより改善することができる。なお、不完全結晶層32をエッチングにより除去しても、その表面に形成されていた凹凸は、その段差を維持した状態で多結晶シリコン膜33の表面に転写される。しかし、裏面照射によって不完全結晶層32の表面に形成される凹凸の段差は、表面照射によって形成される凹凸の段差に比べて小さいので、多結晶シリコン膜33の表面に転写される凹凸の段差も小さくなる。
【0049】
なお、ドライエッチング法の代わりに、ウエットエッチング法を用いて不完全結晶層32を除去してもよい。不完全結晶層32をウエットエッチングするためのエッチャントとして、例えばフッ酸(HF)、硝酸(HNO3)、酢酸(CH3COOH)を含む混合液が使用される。
【0050】
図4(d)に示すように、不完全結晶層32が除去された多結晶シリコン膜33の表面に所望の形状のレジストパターン35を形成する。次に、レジストパターン35をマスクにして多結晶シリコン膜33をエッチングして、島状の活性層40を形成する。
【0051】
図5(a)に示すようにさらに、活性層40を含むガラス基板11の全面を覆うようにゲート絶縁膜50を成膜する。ゲート絶縁膜50は、例えば膜厚100nmの酸化シリコンからなり、プラズマCVD法などによって成膜される。次に、ゲート絶縁膜50の表面に、スパッタリング法によってタンタル(Ta)膜60を成膜し、フォトリソグラフィ法を用いてタンタル膜60をパターニングする。これにより、活性層40の中央部に対応するゲート絶縁膜50の位置にゲート電極70を形成する。なお、タンタル膜60の代わりに、タングステン(W)膜、チタン(Ti)膜、モリブデン(Mo)膜などの金属膜またはそれらを積層した積層金属膜を成膜してもよい。
【0052】
ゲート電極70をマスクとして、リン(P)イオンなどのn型不純物イオンをイオン注入法またはイオンドーピング法などによって活性層40にドープする。その後、ゲート電極70の上方からレーザ光を照射することによって、活性層40にドープしたn型不純物イオンを活性化する。これにより、活性層40の両端に高濃度のn型領域からなるソース領域41とドレイン領域42がそれぞれ形成され、ソース領域41とドレイン領域42に挟まれた領域はチャネル領域43になる。
【0053】
図5(c)に示すように、ゲート電極70を含むガラス基板11の全面を覆うように、層間絶縁膜80を形成する。層間絶縁膜80は、酸化シリコンからなり、例えばTEOS(Tetra Ethyl Ortho Silicate:Si(OC254)を用いたプラズマCVD法を用いて成膜される。
【0054】
層間絶縁膜80に、ソース領域41およびドレイン領域42にそれぞれ達するコンタクトホール81、82と、ゲート電極70に達するコンタクトホール(図示しない)を開孔する。コンタクトホール81、82の内部を含む層間絶縁膜80の表面に、スパッタリング法を用いて例えばアルミニウム(Al)膜(図示しない)などの金属膜を成膜する。次に、フォトリソグラフィ法を用いてアルミニウム膜をパターニングすることにより、コンタクトホール81を介してソース領域41と電気的に接続されたソース電極91、および、コンタクトホール82を介してドレイン領域42と電気的に接続されたドレイン電極92を形成する。その後、水素雰囲気中で熱処理を施すことにより、nチャネル型のTFT10が完成する。
【0055】
<2.2 効果>
本実施形態によれば、裏面照射により形成された多結晶シリコン膜30の表面の凹凸の段差を小さくすることができるので、信頼性を向上させたTFT10を製造することができる。さらに、TFT10の活性層40の結晶性が高いので、キャリアの移動度を高くしたり、S係数を低くしたりすることができるなど、TFT10の電気的特性を改善することができる。
【0056】
多結晶シリコン膜30から微結晶シリコン領域31が多く存在する不完全結晶層32を除去するためにドライエッチング法を用いれば、不完全結晶層32を均一にエッチングすることができる。これにより、面内の膜厚がほぼ均一な多結晶シリコン膜33を容易に形成することができるので、電気的特性が安定したTFT10を製造することができる。
【0057】
多結晶シリコン膜30から微結晶シリコン領域31が多く存在する不完全結晶層32を除去するためにウエットエッチング法を用いれば、不完全結晶層32を容易に除去することができるので、TFT10の製造方法を簡略化することができる。
【0058】
<2.3 変形例>
本実施形態では、レーザアニールに使用するレーザ光としてXeClエキシマレーザを使用した。しかし、XeClエキシマレーザに限定されることなく、ガラス基板11による吸収率が高い波長を有するレーザであればよい。
【0059】
本実施形態では、非晶質半導体膜および多結晶半導体膜として、それぞれ非晶質シリコン膜20および多結晶シリコン膜30を例に挙げて説明した。しかし、例えば非晶質シリコンゲルマニウム膜および多結晶シリコンゲルマニウム膜などの半導体膜にも、本実施形態を同様の適用することができる。
【0060】
本実施形態では、非晶質シリコン膜20をレーザアニール法により溶融固化させて多結晶シリコン膜30を形成した。しかし、非晶質シリコン膜20の代わりに多結晶シリコン膜を成膜し、多結晶シリコン膜をレーザアニール法により溶融固化させて多結晶シリコン膜を形成してもよい。この場合、結晶性がより高い多結晶シリコン膜を形成することができる。
【0061】
本実施形態では、ソース領域41およびドレイン領域42を形成するためにn型不純物であるリンイオンを注入したが、リンイオンの代わりに、p型不純物であるボロン(B)イオンを注入してもよい。この場合、TFTはpチャネル型のTFTになる。
【0062】
<3.液晶表示装置>
図6(a)は、アクティブマトリクス型液晶表示装置の液晶パネル100を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示す液晶パネル100に含まれるTFT基板120を示す斜視図である。図6(a)に示すように、液晶パネル100は、対向して配置された2枚のガラス基板120、140と、2枚のガラス基板120、140によって挟持された液晶層(図示しない)を封止する封止材150とを含む、フルモノリシック型のパネルである。2枚のガラス基板120、140のうち、TFTを含む複数の画素形成部がマトリクス状に形成されたガラス基板をTFT基板120といい、TFT基板120と対向して配置され、カラーフィルタ(Color Filter)などが形成されたガラス基板をCF基板140という。
【0063】
図6(b)に示すように、TFT基板120は、複数の画素形成部131が配置された画像表示部130を含む。画素形成部131には、スイッチング素子132と、スイッチング素子132に接続された画素電極133とが形成されている。画像表示部130の外側の額縁部には、ソースドライバ121、ゲートドライバ122などの周辺回路が設けられている。ゲートドライバ122は、スイッチング素子132をオン/オフさせるタイミングを制御する制御信号をゲート配線GLに出力し、ソースドライバ121は、画素形成部131に画像を表示する画像信号や画像信号を出力するタイミングを制御する制御信号をソース配線SLに出力する。
【0064】
ゲート配線GLを順に活性化して、活性化されたゲート配線GLに接続されたスイッチング素子132をオン状態にすることにより、ソース配線SLに与えられた画像信号はスイッチング素子132を介して、画素電極133に与えられる。画素電極133は、CF基板140に形成された共通電極(図示しない)と共に画素容量を形成し、与えられた画像信号を保持する。TFT基板120の下面に設けられたバックライトユニット(図示しない)から発せられたバックライト光が、画像信号に応じて画素形成部131を透過し、画像が液晶パネル100の画像表示部130に表示される。
【0065】
このような液晶パネル100において、画素形成部131のスイッチング素子132としてTFT10を用いれば、TFT10の移動度が大きく、S係数が小さいので、スイッチング動作を高速で行なうことができる。これにより、TFT10は、ソース配線SLから与えられる映像信号を短時間で画素容量に充電することができるので、画素形成部131の数を増やして液晶パネル100の画像表示部130を高精細化することができる。
【0066】
また、移動度の大きなTFT10を用いて周辺回路を構成すれば、ソースドライバ121やゲートドライバ122などの周辺回路の動作速度を速くすることができる。これにより、周辺回路の回路規模が小さくなるので、液晶パネル100の額縁部を小さくして、液晶パネル100を小型化することができる。また、液晶表示装置を高性能化、高画質化することができる。
【0067】
なお、TFT10を適用可能な表示装置として、液晶表示装置を例に挙げて説明した。しかし、TFT10を、有機EL(Electro Luminescence)表示装置やプラズマ表示装置などの表示装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
10…TFT(薄膜トランジスタ)
11…ガラス基板
20…非晶質シリコン膜(半導体膜)
30…多結晶シリコン膜(第1の多結晶シリコン膜)
31…微結晶シリコン領域(微結晶シリコンを含む領域)
32…不完全結晶層
33…多結晶シリコン膜(第2の多結晶シリコン膜)
40…活性層
50…ゲート絶縁膜
70…ゲート電極
100…液晶パネル
121…ソースドライバ
122…ゲートドライバ
130…画像表示部
132…スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光領域で透明な絶縁基板上に形成された薄膜トランジスタの製造法であって、
前記絶縁基板の表面上に半導体膜を成膜する工程と、
前記絶縁基板の裏面側から前記半導体膜にレーザ光を照射することにより、微結晶半導体領域を含む不完全結晶層を表面に有する第1の多結晶半導体膜を縦成長モードで形成する工程と、
前記第1の多結晶半導体膜から前記不完全結晶層を除去して第2の多結晶半導体膜を形成する工程と、
前記第2の多結晶半導体膜をパターニングして活性層を形成する工程と、
前記活性層を覆うようにゲート絶縁膜を成膜する工程と、
前記ゲート絶縁膜の表面にゲート電極を形成する工程とを備えることを特徴とする、薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項2】
前記不完全結晶層の除去は、ドライエッチング法を用いて前記第1の多結晶半導体膜から前記不完全結晶層を除去することを特徴とする、請求項1に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項3】
前記不完全結晶層の除去は、ウエットエッチング法を用いて前記第1の多結晶半導体膜から前記不完全結晶層を除去することを特徴とする、請求項1に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記半導体膜は、非晶質半導体膜であることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光は、その一部が前記絶縁基板に吸収される波長の光であることを特徴とする、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
前記レーザ光は、パルス発振XeClエキシマレーザであることを特徴とする、請求項5に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の薄膜トランジスタの製造方法によって製造された、薄膜トランジスタ。
【請求項8】
請求項7に記載の薄膜トランジスタと、画像表示部とを備える表示装置であって、
前記薄膜トランジスタは、前記画像表示部のスイッチング素子として用いられていることを特徴とする、表示装置。
【請求項9】
前記画像表示部を駆動する周辺回路をさらに備え、
前記周辺回路は、前記薄膜トランジスタを含むことを特徴とする、請求項8に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−15140(P2012−15140A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147101(P2010−147101)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】