説明

車両のパワートレーン制御装置

【課題】 電気制御式スロットル弁を備えた車両のパワートレーン制御装置において、摩擦締結要素の耐久性を向上する。
【解決手段】 電気制御式スロットル弁を出力特性に従って制御するエンジン出力制御手段と、レンジに応じて締結解放を切換える摩擦締結要素を備えた自動変速機とを有する車両のパワートレーン制御装置であって、レンジを判定するレンジ判定手段と、摩擦締結要素の締結状態を判定する締結状態判定手段と、両判定手段による判定結果が、走行レンジかつ摩擦締結要素が締結状態のときに所定最大トルクの第1出力特性を選択し、非走行レンジから走行レンジへ切換り、摩擦締結要素が締結状態への切換り中の間に第1出力特性よりも最大トルクを低く設定した第2出力特性を選択し、非走行レンジかつ摩擦締結要素が解放状態のときに最大トルクが第1、第2出力特性の最大トルクの中間にある第3出力特性を選択する出力特性変更手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセルペダルに機械式に連動させることなくスロットル弁の開度を制御するように構成された車両のパワートレーン制御装置に関し、車両制御の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
車両の発進時には、運転者によるシフトレバーの操作により自動変速機をNレンジやPレンジなどの非走行レンジからDレンジやRレンジなどの走行レンジへのシフトが行われる。このとき、非走行レンジでアクセルペダルを踏込んだ状態でシフトレバーが走行レンジに切り換えられて発進させる所謂レーシングセレクトが行われることがあるが、このレーシングセレクトにおいては、自動変速機のクラッチやブレーキ等の摩擦締結要素を締結する際に、エンジンの高トルクが該摩擦締結要素に伝えられ、締結途中のすべりによる摩擦や発熱等により該摩擦締結要素の耐久性が低下するという問題が生じる。
【0003】
一方、アクセルペダルに機械式に連動させることなくスロットル弁の開度を制御するようにした所謂電気制御式スロットル弁が実用化されている。これは、アクセルペダルの踏込み量(以下、「アクセル開度」という)をセンサにより検出してコントローラに入力し、該コントローラによりスロットルアクチュエータを制御してスロットル弁を開閉させる構成とされ、アクセル開度とその他の状態に応じてスロットル開度が自在に設定可能とされている。
【0004】
そして、特許文献1には、前記レーシングセレクト時にスロットル開度が小さくなるようにスロットルアクチュエータを制御することによって、摩擦締結要素の締結途中に該摩擦締結要素に作用するトルクを減少させ、摩擦締結要素の耐久性を確保する構成が開示されている。
【特許文献1】特開平11−151954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記レーシングセレクト時には、スロットル弁の閉動作の応答遅れが生じる。この応答遅れを引き起こす要因として、以下のものがある。
【0006】
即ち、シフトレバーにより非走行レンジから走行レンジに切り換えられたときに、レンジを検出するセンサからの切換信号が自動変速機用のコントローラに送信され、該コントローラはレンジの切換を認識すると共に、該自動変速機用のコントローラからエンジン用のコントローラに切換信号が送信され、該エンジン用のコントローラによりスロットルアクチュエータを制御することになるが、このようにセンサから2つのコントローラを介してスロットルアクチュエータが制御される間に通信による応答遅れが生じることになる。
【0007】
また、スロットルアクチュエータが信号を受けて、スロットル弁の開閉動作を行う際の機械的な応答遅れが生じる。
【0008】
このように応答遅れが生じる結果、前記特許文献1に記載のように、非走行レンジから走行レンジに切り換えられた際にスロットル開度が小さくなるように制御しても、実際のスロットル弁の開度は直ちに小さくならず、スロットル弁の閉動作の途中で摩擦締結要素の締結が始まる可能性がある。このとき、エンジン出力トルクはアクセルペダルの踏込みによって比較的大きくなっているので、摩擦締結要素の耐久性が低下するおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、電気制御式スロットル弁が備えられた車両のパワートレーン制御装置において、自動変速機の摩擦締結要素の耐久性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0011】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、アクセルペダルに機械式に連動させることなくスロットル弁の開度を制御するスロットルアクチュエータと、該スロットルアクチュエータを制御することによりエンジン出力を予め設定された出力特性に従って制御するエンジン出力制御手段と、非走行レンジから走行レンジに切り換えられたときに解放状態から締結状態に切り換えられる摩擦締結要素が備えられた自動変速機とを有する車両のパワートレーン制御装置であって、前記自動変速機のレンジを判定するレンジ判定手段と、前記摩擦締結要素の締結状態を判定する締結状態判定手段と、前記レンジ判定手段及び締結状態判定手段による判定結果に応じて、前記出力特性を変更する出力特性変更手段とが備えられ、該出力特性変更手段は、レンジが走行レンジと判定され、かつ前記摩擦締結要素が締結状態と判定されたときに最大トルクが所定トルクの第1出力特性を選択すると共に、レンジが非走行レンジから走行レンジへ切換ったことが判定され、前記摩擦締結要素が解放状態から締結状態への切換り中と判定されている間に前記第1出力特性よりも最大トルクが低く設定された第2出力特性を選択し、レンジが非走行レンジと判定され、かつ前記摩擦締結要素が解放状態と判定されたときに最大トルクが前記第1、第2出力特性の最大トルクの中間に設定された第3出力特性を選択することを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両のパワートレーン制御装置において、前記第3出力特性の最大トルクは、所定値以上のエンジン吹き上がり量を確保できるべく設定されていることを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両のパワートレーン制御装置において、点火進角をリタードさせることでエンジン出力トルクを低減させる点火進角リタード手段が備えられ、該点火進角リタード手段は、前記出力特性変更手段による第3出力特性から第2出力特性への変更時に点火進角を所定量リタードさせることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両のパワートレーン制御装置において、前記エンジン出力制御手段は、前記出力特性変更手段による第2出力特性から前記第1出力特性への変更時にエンジン出力トルクを漸増させることを特徴とする。
【0015】
そして、請求項5に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両のパワートレーン制御装置において、第3出力特性の最大トルクは、エンジン冷間時には温間時に比べて大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、非走行レンジで第3出力特性が選択され、非走行レンジから走行レンジに切り換えられ、摩擦締結要素が締結中の間に第2出力特性が選択され、走行レンジで摩擦締結要素の締結が完了したときに第1出力特性が選択される。このとき、第3出力特性の最大トルクが第1、第2出力特性の最大トルクの中間、つまり第1出力特性よりも最大トルクが低くなるように設定されているのでスロットル弁の応答遅れが小さくなり、第3出力特性から第2出力特性に変更されたときに速やかにエンジン出力トルクが低下することになって、摩擦締結要素の耐久性が向上することになる。
【0017】
一方、非走行レンジにおいても最大トルクが十分に小さくなるように例えば第2出力特性を設定して、応答遅れをさらに小さくすることも考えられる。
【0018】
しかしながら、非走行レンジにおいてエンジン出力トルクを余り制限しすぎると、ドライバがアクセルペダルを踏込んだにも拘らず所望の吹き上がりが得られずに違和感を与えたり、パワー不十分によりエンジンの調子が悪いという印象を与えるおそれがある。
【0019】
これに対して、請求項2に記載の発明によれば、第3出力特性の最大トルクは、第1出力特性よりは抑制されているが、所定値以上のエンジン吹き上がり量を確保できるべく設定されているので、ドライバがアクセルペダルを踏込んだときに、違和感のない吹き上がり量が得られることになる。この結果、設定された第3出力特性は、摩擦締結要素の耐久性確保と十分なエンジンの吹き上がり量の確保とを両立させることになる。
【0020】
また、請求項3に記載の発明によれば、第3出力特性から第2出力特性に変更された際のスロットル弁の応答遅れの間は、点火進角が所定量リタードするように制御されるので、応答遅れの間のエンジン出力トルクが低下し、応答遅れによるエンジン出力トルク低下の遅れ分が補われて、自動変速機の摩擦締結要素の耐久性が一層向上することになる。
【0021】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、第2出力特性から第1出力特性に変更されたときに、エンジン出力トルクを漸増させるように制御されるので、車両の急な飛び出しや変速ショックの発生が防止される。
【0022】
そして、請求項5に記載の発明によれば、エンジン冷間時には、温間時に比べて第3出力特性の最大トルクが大きくなるように設定されるので、スムーズな回転上昇が実現されて良好なエンジンの始動性が確保されると共に、非走行レンジにおける十分なエンジンの吹き上がり量が確保される。また、エンジン冷間時は、自動変速機の各摩擦締結要素を制御する作動油の粘性が高く、該摩擦締結要素の締結が遅れる傾向にあるので、第3出力特性の最大トルクが大きくなるように設定されて応答遅れが増大しても、スロットル開度が十分小さくなった後に摩擦締結要素が締結されることになって、摩擦締結要素の耐久性が低下することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施の形態に係るパワートレーン1は、直列4気筒のエンジン2と、該エンジン2に連結された自動変速機3とを有している。
【0025】
前記エンジン2は、4つの気筒#1〜#4が設けられたエンジン本体20と、吸気系統21と、排気系統22と、前記吸気系統21に配設されたスロットル弁23と、各気筒#1〜#4に臨む点火プラグ24…24とを有している。前記吸気系統21は、スロットル弁23が配設された共通吸気通路21aと、該共通吸気通路21aから分岐して各気筒#1〜#4に連通する独立吸気通路21b…21bとを有し、前記排気系統22は、各気筒#1〜#4から延びる独立排気通路22a…22aと、各独立排気通路22a…22aを下流側で合流させてなる共通排気通路22bとを有している。
【0026】
前記自動変速機3は、トルクコンバータ30と、クラッチやブレーキ等の摩擦締結要素を備えた変速機構31と、各摩擦締結要素に作動油を供給して該摩擦締結要素の締結解放を制御する油圧制御回路32とを有している。
【0027】
そして、このパワートレーン1には、前記エンジン2を制御するエンジンコントローラ4と、前記自動変速機3を制御する変速機コントローラ5とが備えられ、エンジンコントローラ4は、エンジン2の回転数を検出するエンジン回転数センサ40、エンジン水温を検出する水温センサ41、及びアクセルペダル6の踏込み量を検出するアクセル開度センサ42等からの信号を入力し、前記点火プラグ24…24、スロットル弁23の開度を制御するスロットルアクチュエータ43等に制御信号を出力すると共に、変速機コントローラ5との間で信号の授受を行う。
【0028】
また、前記変速機コントローラ5は、タービン回転数を検出するタービン回転数センサ50、及びシフトレバー7のレンジを検出するレンジセンサ51等から信号を入力すると共に、油圧制御回路32に制御信号を出力する。
【0029】
なお、前記レンジセンサ51は請求項1に記載の車両のパワートレーン制御装置のレンジ判定手段に相当し、前記タービン回転数センサ50は同じく締結状態判定手段に相当し、前記エンジンコントローラ4は請求項1に記載の車両のパワートレーン制御装置のエンジン出力制御手段、出力特性変更手段、及び請求項3に記載の車両のパワートレーン制御装置の点火進角リタード手段に相当する。
【0030】
このエンジン2においては、エンジンコントローラ4、アクセル開度センサ42、及びスロットルアクチュエータ43を備え、アクセル開度センサ42等の検出結果をエンジンコントローラ4に入力し、エンジンコントローラ4は、基本的にはアクセル開度センサ42により検出されたアクセル開度に応じたスロットル開度を実現するが、例えば車両の発進時においては、以下に説明するようなスロットル弁23の制御が行われるようになっている。
【0031】
エンジンコントローラ4には、図2に示すようなアクセル開度に応じたスロットル開度の特性(第1出力特性〜第3出力特性)が記憶され、各特性に応じてスロットル開度、即ちエンジン出力トルクが制限される。
【0032】
第1出力特性は、最大トルクθ1がスロットル全開時のエンジン出力特性に相当するように設定され、アクセル開度に応じたスロットル開度が実現されるようになっている。
【0033】
第2出力特性は、最大トルクθ2が第1出力特性の最大トルクθ1に比べて低く設定されており、アクセル開度がA2以上では最大トルクθ2が維持されるようにエンジン出力トルクが制限される。この第2出力特性の最大トルクθ2は、摩擦締結要素が締結される際に大きなトルクが作用しないように、十分に小さく設定されている。
【0034】
第3出力特性は、最大トルクθ3が第1、第2出力特性の最大トルクθ1、θ2の間に設定されており、アクセル開度がA3以上では最大トルクθ3が維持されるようにエンジン出力トルクが制限される。この第3出力特性は、所定値以上のエンジン2の吹き上がり量が確保されるように最大トルクθ3が設定されている。エンジン2の吹き上がり量は、エンジン毎に異なり、パワーの大きいエンジンでは最大トルクθ3が比較的小さくなるように設定されると共に、パワーの小さいエンジンでは最大トルクθ3が大きくなるように設定される。
【0035】
また、図3には、前記第1〜第3出力特性をエンジン回転数に応じたエンジン出力トルクの特性として表す。ここで、第2、第3出力特性は、高回転側は低回転側に比べて最大トルクが低くなるように設定されている。高回転側では低回転側に比べて摩擦締結要素に作用する負荷が大きいので、高回転側では最大トルクを抑制するのである。
【0036】
そして、車両の発進時には、図4のフローチャートに従ってスロットル制御が行われる。
【0037】
まず、ステップS1において、エンジンコントローラ4及び変速機コントローラ5は、エンジン回転数センサ40、水温センサ41、アクセル開度センサ42、及びレンジセンサ51等からの信号を入力する。そして、ステップS2で、ステップS1のレンジセンサ51による検出結果に基いて、現在のレンジがNレンジか否かを判定する。
そして、ステップS2で、現在のレンジがNレンジであると判定されたときは、ステップS3に進み、前記ステップS1で水温センサ41により検出したエンジン水温に基いて第3出力特性を設定する。このとき、図5に示すマップに基いて、エンジン水温に応じて第3出力特性の最大トルクが設定される。つまり、図2に示した第3出力特性の最大トルクθ3が、エンジン水温が低いときは高トルク側に設定され、エンジン水温が高いときは低トルク側に設定されるようになっている。
【0038】
次に、ステップS4で、前記ステップS3で設定した第3出力特性に基づくスロットル制御を実行する。ここでは、第3出力特性の最大トルクθ3を超えないようにスロットル開度を制御するようになっている。
【0039】
一方、前記ステップS2で、現在のレンジがNレンジでないと判定されたときは、ステップS5に進み、レンジセンサ51により現在のレンジを入力し、NレンジからDレンジ又はRレンジに切り換えられたか否かを判定する。
【0040】
そして、ステップS5でNレンジからDレンジ又はRレンジに切換られた状態であると判定されたとき、即ちNレンジからDレンジ又はRレンジへの変速直後であるときは、ステップS6に進み、点火進角を所定量リタードするように点火プラグ24…24に信号を出力する共に、ステップS7で第2出力特性に基くスロットル制御を実行する。
【0041】
このとき、スロットル制御は第3出力特性よりも最大トルクが低トルク側に設定された第2出力特性に変更されるが、応答遅れによりエンジン出力トルクは直ちに低下せず、前記ステップS6の点火進角リタードによりエンジン出力トルクを早期に低下させるようにしている。そして、出力特性の変更後、第2出力特性の最大トルクを超える場合はエンジン出力トルクが最大トルクに抑制されるようにスロットル開度が制御される。
【0042】
なお、スロットル弁23の応答遅れについて説明すると、シフトレバー7がDレンジ又はRレンジにシフトされたときに検出されるレンジセンサ51による切換信号が変速機コントローラ5に入力され、該コントローラ5によりレンジの切換を認識すると共に、変速機コントローラ5からエンジンコントローラ4に入力され、ここからスロットルアクチュエータ43に切換信号が入力されてスロットル弁23を動作させるが、このとき、レンジセンサ51からの信号が2つのコントローラ4,5を介してスロットルアクチュエータ43に入力される間の通信による応答遅れが生じる。また、スロットルアクチュエータ43に信号が入力されたときのスロットル弁23の開閉動作の機械的な応答遅れがある。
【0043】
次に、ステップS8に進み、タービン回転数センサ50からの信号を入力し、タービン回転数が所定の小回転数N以下か否かを判定する。そして、タービン回転数がNよりも大きいとき、即ち摩擦締結要素の締結中は、ステップS7に戻って第2出力特性に基くスロットル制御を実行する。また、タービン回転数がN以下のとき、即ち摩擦締結要素の締結が完了したときは、ステップS9に進み、スロットル開度の漸増制御を行う。なお、ここではタービン回転数が所定の小回転数N以下のときに、第2出力特性に基くスロットル制御を終了するようにしているが、タービン回転数が所定の小回転数Nより大きくなった後、所定の小時間経過後に第2出力特性に基づくスロットル制御を終了するようにしてもよい。
【0044】
ステップS9のスロットル開度の漸増制御では、徐々に最大トルクを増大させて、第2出力特性から第1出力特性に移行させる。そして、ステップS10でスロットル制御を第1出力特性に変更し、エンジン出力トルクを制限することなく、アクセル開度に応じたスロットル開度の制御を実行する。
【0045】
一方、前記ステップS5で、NレンジからDレンジ又はRレンジに切換えられた状態でないと判定されたとき、即ち元々Dレンジ又はRレンジのときは、ステップS10に進み、第1出力特性に基くスロットル制御を実行する。
【0046】
次に、図6に示すタイムチャートを用いて車両の発進時の制御を説明する。
【0047】
まず、Nレンジでアクセル開度がαの状態において、スロットル弁23は第3出力特性に従ってスロットル開度がβ(<α)になるように制御される。このとき、タービン回転数は上昇する。
【0048】
そして、シフトレバー7がNレンジからDレンジにシフトされた後、スロットル制御が第2出力特性に変更され、通信による応答遅れAを経て時刻t1でスロットル開度がβからγ(<β)になるようにスロットル弁23の閉動作を開始する。このとき、同時に点火進角のリタードが行われる。そして、スロットル弁23の開閉動作の機械的な応答遅れBを経て、時刻t2でスロットル開度γが実現され、同時に点火進角のリタードが停止される。このように点火進角のリタードが行われるので、時刻t1〜t2間のエンジン出力トルクが抑制される。
【0049】
また、時刻t3で摩擦締結要素の締結が始まり、締結中タービン回転数は低下し、時刻t4でタービン回転数がゼロになって摩擦締結要素の締結が完了する。
【0050】
なお、時刻t1〜t3では、スロットル開度を減少させたことによりタービン回転数の上昇が緩やかになる。また、時刻t4後のタービン回転数がゼロの状態は、ブレーキが踏込まれた状態である。
【0051】
そして、時刻t4でスロットル開度の漸増制御が開始され、スロットル開度をγからαに徐々に増加させる。そして、時刻t5でスロットル開度αが実現された後、第1出力特性に基くスロットル制御が行われる。
【0052】
ここで、図6に破線で示すのは、Nレンジにおいて第1出力特性が設定されている場合である。このとき、Nレンジでエンジン出力トルクは制限されないので、アクセル開度αに応じたスロットル開度αが実現され、時刻t1で第2出力特性に低下させる際に、スロットル開度がγに至るまでに大きな応答遅れB′が生じることになる。その結果、時刻t3で摩擦締結要素の締結が始まったときにスロットル開度がγよりも大きい状態にあり、これにより比較的大きなエンジン出力トルクが発生して、締結中の摩擦締結要素に大きな負荷が作用する。さらに、Nレンジのタービン回転数が大きくなり、同様に摩擦締結要素に大きな負荷が作用することになる。
【0053】
摩擦締結要素に作用する負荷は、エンジン出力トルクとタービン回転数に応じて決まり、前述の第3出力特性が設定されている場合は、このようにNレンジで第1出力特性が設定されている場合に比べて、スロットル開度差ΔTVO及びタービン回転数差ΔNtの分、摩擦締結要素の耐久性に有利である。
【0054】
一方、非走行レンジにおいても最大トルクが十分に小さくなるように例えば第2出力特性を設定して、応答遅れをさらに小さくすることも考えられる。
【0055】
しかしながら、非走行レンジにおいてエンジン出力トルクを余り制限しすぎると、ドライバがアクセルペダル6を踏込んだにも拘らず所望の吹き上がりが得られずに違和感を与えたり、パワー不十分によりエンジン2の調子が悪いという印象を与えるおそれがある。
【0056】
これに対して、第3出力特性の最大トルクθ3は、第1出力特性よりは抑制されているが、所定値以上のエンジン吹き上がり量を確保できるべく設定されているので、ドライバがアクセルペダル6を踏込んだときに、違和感のない吹き上がり量が得られることになる。この結果、設定された第3出力特性は、摩擦締結要素の耐久性確保と十分なエンジン2の吹き上がり量の確保とを両立させることになる。
【0057】
さらに、第2出力特性から第1出力特性へ変更された時、即ち、摩擦締結要素の締結完了時に、エンジン出力トルクを漸増させるように制御されるので、車両の急な飛び出しや変速ショックの発生が防止される。
【0058】
また、エンジン2の冷間時における車両の発進時のタイムチャートを図7に示す。
【0059】
図5のマップに示したように、エンジン2の冷間時は、第3出力特性の最大トルクθ3が高トルク側に変更される。この結果、スロットル弁23の閉動作開始t1からスロットル開度がγに至るt2′までのスロットル弁23の機械的な応答遅れB″が比較的大きくなる。しかしながら、自動変速機3の油圧制御回路30においては、作動油の温度が低下して粘性が高くなるので、摩擦締結要素の締結開始時刻t3′も遅れることになる。
【0060】
従って、比較的大きい応答遅れB″にも拘らず摩擦締結要素の締結開始時t3′にはスロットル開度がγの状態になるようにスロットル弁23の閉動作が完了しているので、摩擦締結要素の締結の際に大きな負荷が作用することが回避され、摩擦締結要素の耐久性の低下が防止される。そして、このように冷間時において第3出力特性の最大トルクを引き上げることにより、エンジン2の始動性が向上すると共に、エンジン2の吹き上がり量が確保されることになる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、アクセルペダルに機械式に連動させることなくスロットル弁の開度を制御するように構成された車両のパワートレーン制御装置において、自動変速機の摩擦締結要素の耐久性を向上させることを目的とし、本発明は、アクセルペダルに機械式に連動させることなくスロットル弁の開度を制御するように構成された車両のパワートレーン制御装置に関し、車両制御の技術分野に広く好適である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態に係るパワートレーンのシステム図である。
【図2】アクセル開度に対するエンジン出力トルクの特性のマップである。
【図3】エンジン回転数に対するエンジン出力トルクの特性のマップである。
【図4】車両の発進時の制御を示すフローチャートである。
【図5】エンジン水温に応じた第3出力特性の最大トルクのマップである。
【図6】車両の発進時のタイムチャートである。
【図7】エンジン冷間時における車両の発進時のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0063】
1 パワートレーン
2 エンジン
3 自動変速機
4 エンジンコントローラ
6 アクセルペダル
23 スロットル弁
43 スロットルアクチュエータ
50 タービン回転数センサ
51 レンジセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセルペダルに機械式に連動させることなくスロットル弁の開度を制御するスロットルアクチュエータと、該スロットルアクチュエータを制御することによりエンジン出力を予め設定された出力特性に従って制御するエンジン出力制御手段と、非走行レンジから走行レンジに切り換えられたときに解放状態から締結状態に切り換えられる摩擦締結要素が備えられた自動変速機とを有する車両のパワートレーン制御装置であって、
前記自動変速機のレンジを判定するレンジ判定手段と、
前記摩擦締結要素の締結状態を判定する締結状態判定手段と、
前記レンジ判定手段及び締結状態判定手段による判定結果に応じて、前記出力特性を変更する出力特性変更手段とが備えられ、
該出力特性変更手段は、レンジが走行レンジと判定され、かつ前記摩擦締結要素が締結状態と判定されたときに最大トルクが所定トルクの第1出力特性を選択すると共に、レンジが非走行レンジから走行レンジへ切換ったことが判定され、前記摩擦締結要素が解放状態から締結状態への切換り中と判定されている間に前記第1出力特性よりも最大トルクが低く設定された第2出力特性を選択し、レンジが非走行レンジと判定され、かつ前記摩擦締結要素が解放状態と判定されたときに最大トルクが前記第1、第2出力特性の最大トルクの中間に設定された第3出力特性を選択することを特徴とする車両のパワートレーン制御装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載の車両のパワートレーン制御装置において、
前記第3出力特性の最大トルクは、所定値以上のエンジン吹き上がり量を確保できるべく設定されていることを特徴とする車両のパワートレーン制御装置。
【請求項3】
前記請求項1に記載の車両のパワートレーン制御装置において、
点火進角をリタードさせることでエンジン出力トルクを低減させる点火進角リタード手段が備えられ、
該点火進角リタード手段は、前記出力特性変更手段による第3出力特性から第2出力特性への変更時に点火進角を所定量リタードさせることを特徴とする車両のパワートレーン制御装置。
【請求項4】
前記請求項1に記載の車両のパワートレーン制御装置において、
前記エンジン出力制御手段は、前記出力特性変更手段による第2出力特性から前記第1出力特性への変更時にエンジン出力トルクを漸増させることを特徴とする車両のパワートレーン制御装置。
【請求項5】
前記請求項1に記載の車両のパワートレーン制御装置において、
第3出力特性の最大トルクは、エンジン冷間時には温間時に比べて大きくなるように設定されていることを特徴とする車両のパワートレーン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−299843(P2006−299843A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119284(P2005−119284)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】