説明

車両の制御装置

【課題】減速燃料カット中に実行されるブリッピング制御に起因して、触媒床温が過度に上昇することを抑制することのできる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】この車両の制御装置は、内燃機関10から駆動力が伝達される有段式の自動変速機40と、同自動変速機40の変速操作に際し出力軸11とインプットシャフト43とを自動的に断接する機械式のロックアップ機構45と、排気通路31に設けられた排気浄化触媒32とを備え、減速燃料カット中に自動変速機40のダウンシフトが実行されるとき、一時的に燃料噴射を再開して機関回転速度NEを上昇させるブリッピング制御を実行する。そして、排気浄化触媒32の触媒床温θを監視する監視手段と、監視される触媒床温θがブリッピング制御の実行に際して排気浄化触媒32の排気浄化機能を低下させる温度とならように触媒床温θの上昇を抑制する抑制処理を実行する抑制手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の駆動力を自動変速機を介して駆動輪に伝達する車両にあって、減速燃料カット中のダウンシフトに際しブリッピング制御を実行する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機では変速歯車機構の動力伝達経路を切り替えることでその変速段が異なる複数の変速段に切り替えられる。また、こうした自動変速機を搭載する車両では、トルクコンバータにおいて伝達損失が存在するため、例えば手動式変速機を搭載する車両と比較して燃費の悪化が避けられないものとなっている。そこで、内燃機関の出力軸と自動変速機の入力軸とをトルクコンバータを介することなく機械的に連結するクラッチ、すなわちロックアップ機構を備え、同機構を高速段のみならず全変速段において適宜機能させるようにしたいわゆるフルロックアップを行う車両が実用化されている。また、トルクコンバータに代えて自動的に駆動される機械式のクラッチを備え、同クラッチによって内燃機関の出力軸と自動変速機の入力軸とを自動的に断接するようにした車両も提案されている。こうした車両では、クラッチを係合することにより内燃機関の出力軸と自動変速機の入力軸とを機械的に連結することができるため、上述したような伝達損失は発生せず、燃費の向上を図ることができ、しかもダウンシフト時に併せてクラッチを断接することにより手動式変速機を搭載した車両と同等のエンジンブレーキ性能を得ることができるようになる。
【0003】
また、こうした車両の多くには、運転者が自動変速機の変速段を任意に切り替える機能、いわゆるマニュアルシフトセレクト機能が付加されている。この機能を有する車両では、そのフロアに設けられたシフトレバー、ステアリングホイールの背面に設けられたパドル式のシフトスイッチ、あるいは同ホイールのスポークに設けられた押下式のシフトスイッチ等々を操作することにより、容易に自動変速機の変速段を変更することができるため、運転者の意思に即した柔軟な車両走行特性を得ることができるようになる。
【0004】
ところで、こうした車両の自動変速機において、マニュアルシフトセレクト機能を通じてダウンシフトが行われる際には、上述したようなロックアップ機構等、機械式のクラッチが係合状態から解放状態とされた後に、自動変速機における変速歯車機構の動力伝達経路が切り替えられる。このようにクラッチが解放されて変速段が切り替えられると、自動変速機の入力軸の回転速度が内燃機関の出力軸の回転速度よりも一時的に上昇してこれらの間に回転速度差が生じる。そして、こうした状況下でクラッチが再度係合されると、それに伴って大きな変速ショックが発生するようになる。
【0005】
そこで従来、例えば特許文献1に記載されるように、こうしたダウンシフトが行われる際には、スロットルバルブを開操作して吸入空気量を増大させるとともに、燃料噴射量を一時的に増量する、あるいは減速時の燃料カット中であればその燃料噴射を一時的に再開するなどして機関回転速度を上昇させる制御、すなわちブリッピング制御を実行することにより、内燃機関の出力軸と自動変速機の入力軸との回転速度差を減少させてダウンシフト時の変速ショックを緩和するようにした装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−256189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような車両では、例えば車両減速時において短期間のうちにダウンシフトを繰り返すとともにそれに合わせてブリッピング制御を実行することで変速ショックの発生を抑えつつ手動変速機を搭載する車両と同様にエンジンブレーキによる安定した制動を行うことができる。
【0008】
ところが、このように短期間の間に頻繁にダウンシフトが行われ、これに伴いブリッピング制御がその都度実行されると、以下のような不都合が懸念される。
すなわち、排気通路に設けられた排気浄化触媒はその担体に酸素を吸蔵する機能を有しているため、車両減速時のような燃料カット中においてはこの担体に吸蔵される酸素の量が増加するようになる。そして、ブリッピング制御の実行により噴射された燃料の一部が燃焼に供されることなく排気系に排出されると、これが排気浄化触媒の担体に吸蔵された酸素と反応して燃焼することにより、同触媒の温度(触媒床温)が過度に上昇することがある。酸素過多雰囲気下においてこのように触媒床温が過度に上昇すると、排気浄化触媒の活性化物質であるプラチナ等の貴金属はその金属粒子同士が凝集して肥大化する、いわゆるシンタリングが発生する結果、排気浄化触媒の機能を低下させてしまうこととなる。特に、ブリッピング制御においては、ノッキングの発生や内燃機関のトルクが必要以上に上昇することを抑えるために点火時期を遅角するとともに、こうした点火時期の遅角に伴う排気温度の上昇を抑制する目的で燃料噴射量の増量補正がなされることも多い。このように燃料噴射量が増量補正されると、排気温度の上昇は抑えられるとはいえ、排気浄化触媒において燃焼する燃料の未燃成分は増大するため、触媒床温の温度上昇を更に助長させてしまうこととなる。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、減速燃料カット中に実行されるブリッピング制御に起因して、触媒床温が過度に上昇することを抑制することのできる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関から駆動力が伝達される有段式の自動変速機と、同自動変速機の変速操作に際し前記内燃機関の出力軸と前記自動変速機の入力軸とを自動的に断接する機械式のクラッチと、排気通路に設けられた排気浄化触媒とを備え、減速燃料カット中に前記自動変速機のダウンシフトが実行されるとき一時的に燃料噴射を再開して機関回転速度を上昇させるブリッピング制御を実行する車両の制御装置において、前記排気浄化触媒の触媒床温を監視する監視手段と、前記監視される触媒床温が前記ブリッピング制御の実行に際して前記排気浄化触媒の排気浄化機能を低下させる温度とならないように前記触媒床温の上昇を抑制する抑制処理を実行する抑制手段とを備えることを要旨としている。
【0011】
この発明によれば、減速燃料カット中に頻繁にダウンシフトが行われる場合であっても、併せて触媒床温の上昇を抑制する抑制処理が実行されるため、ブリッピング制御の実行に起因して触媒床温が過度に上昇することを抑制することができるようになる。その結果、排気浄化触媒にシンタリングが発生することに起因する排気浄化機能の低下についてこれを好適に回避することができる。なお、触媒床温についてはこれを排気浄化触媒に取り付けられた温度センサを通じて直接検出してもよいし、機関回転速度や燃料噴射量等の機関運転状態に基づいて推定するようにしてもよい。
【0012】
またこの抑制処理は、請求項2に記載の発明によるように、例えばこれを排気浄化触媒の触媒床温が所定の判定温度を上回ることを条件として実行することができる。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両の制御装置において、前記抑制手段は、前記抑制処理として前記ブリッピング制御を禁止することを要旨としている。
【0013】
この発明によれば、ブリッピング制御が禁止され同制御に伴う燃料噴射が行われなくなるため、排気系に排出された燃料の未燃成分が排気浄化触媒で反応することによる触媒床温の過度な上昇を抑制することができるようになる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両の制御装置において、前記抑制手段は前記抑制処理として前記ブリッピング制御時の燃料噴射量を減量することを要旨としている。
【0015】
この発明によれば、ブリッピング制御時の燃料噴射量を減量するため、排気系に排出される燃料の未燃成分を減少させることができ、ひいては排気浄化触媒上で未燃成分が反応することによる触媒床温の過度な上昇を抑制することができるようになる。また、ブリッピング制御を禁止して燃料噴射を全く実行しない場合とは異なり、機関回転速度を上昇させて内燃機関の出力軸と自動変速機の入力軸との回転速度差を減少させることができるため、変速ショックの抑制効果も併せて得ることができる。すなわち、触媒床温の過度な上昇を抑制しつつ、変速ショックを低減することができるようになる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の車両の制御装置において、前記ブリッピング制御時の点火時期を遅角するとともに燃料噴射量を増量補正する補正手段を更に備え、前記抑制手段は前記抑制処理として前記補正手段による燃料噴射量の増量補正量を制限することを要旨としている。
【0017】
ブリッピング制御において内燃機関の出力軸の回転速度、すなわち機関回転速度を自動変速機の入力軸の回転速度に合わせるべく、燃料噴射量を設定して燃料噴射を実行した場合、ノッキングが発生したり、内燃機関のトルクが必要以上に上昇して燃料カットを再開する際のショックが増大したりすることがある。このため、ブリッピング制御に際しては、こうしたノッキングやショックの発生を抑制するために、点火時期を遅角させる場合がある。そしてこのように点火時期を遅角させる場合には、これに伴う排気温度の上昇を抑えるために併せて燃料噴射量が増量補正される。このように点火時期及び燃料噴射量を補正することにより、ノッキングや燃料カット再開時におけるショックの発生を抑制することができるものの、ブリッピング制御時の燃料噴射量が増量補正されるため排気系に排出される燃料の未燃成分が増大し、これが排気浄化触媒において燃焼することにより触媒床温の温度上昇を助長してしまうおそれがある。
【0018】
この点、上記発明によれば、こうした燃料噴射量の増量補正量を制限することにより、排気系に排出される未燃燃料の量を減少させることができ、これが排気浄化触媒において燃焼することによる触媒床温の過度な温度上昇を抑制することができるようになる。なお、燃料噴射量の増量補正量を制限する際の具体的な態様としては、増量補正量を減少させるものはもとより、燃料噴射量の増量補正そのものを禁止するものも含まれる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両の制御装置において、前記抑制手段は前記抑制処理として前記ブリッピング制御による燃料噴射が実行されていない減速燃料カット中の吸入空気量を増大させることを要旨としている。
【0020】
この発明によれば、減速燃料カット中に吸入空気量を増大させるようにしているため、燃料カット中において排気浄化触媒を多くの排気、すなわち吸入空気によって冷却することができ、排気浄化触媒の過度な温度上昇を抑制することができるようになる。なお、吸入空気量を増大させるための具体的な構成としては、吸気通路に設けられたスロットルバルブの開度を増大させる、あるいは吸気バルブの最大リフト量やリフト期間を変更可能な可変動弁機構を備える内燃機関であれば、それら最大リフト量やリフト期間が増大するように可変動弁機構を制御する、といった構成を挙げることができる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の車両の制御装置において、前記監視手段は前記ブリッピング制御の実行直前における触媒床温を初期触媒床温とするとともに同ブリッピング制御時の燃料噴射量を予め算出してこれに基づいて触媒床温の温度上昇量を算出し、同温度上昇量を前記初期触媒床温に加算することにより前記ブリッピング制御の実行後における触媒床温を前記ブリッピング制御の実行に先立って推定することを要旨としている。
【0022】
例えば、ブリッピング制御の実行直前における触媒床温が排気浄化触媒の排気浄化機能を低下させる温度を下回っていることをもって、ブリッピング制御を実行するようにした場合、そのブリッピング制御時の燃料噴射量によっては、触媒床温が大きく上昇して排気浄化触媒の排気浄化機能を低下させる温度を上回ってしまうことが懸念される。一方、ブリッピング制御の実行に伴う触媒床温の上昇量を予め余裕をもって設定し、その予め定めた上昇量に基づいて触媒床温が過度に上昇する可能性が僅かでもあると判断された場合には、ブリッピング制御を禁止する等、抑制処理を実行する構成とすれば、こうした状況を確実に回避することはできる。しかしながら、この場合には抑制処理が必要以上の頻度をもって実行されてしまうこととなる。
【0023】
この点、上記発明では、ブリッピング制御の実行後における触媒床温を同制御の実行に先立って推定するようにしている。したがって、この予め求められたブリッピング制御の実行後における触媒床温に基づいて、上記抑制処理の禁止を含め、同処理の実行態様を設定することができ、触媒床温が過度に上昇することを適切に抑制することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態について、その車載内燃機関及び自動変速機、並びにそれらの周辺構成を示す模式図。
【図2】同実施形態にかかる減速時の車両制御についてその処理手順を示すフローチャート。
【図3】吸入空気量と触媒床温の低下速度との関係を示すグラフ。
【図4】総燃料増加量と触媒床温の上昇量との関係を示すグラフ。
【図5】同実施形態の減速時の車両制御の動作例を示すタイミングチャート。
【図6】本発明の第2実施形態にかかる減速時の車両制御についてその処理手順を示すフローチャート。
【図7】本発明の第3実施形態にかかる減速時の車両制御についてその処理手順を示すフローチャート。
【図8】同実施形態の減速時の車両制御の動作例を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、図1〜図5を参照して、本発明の第1実施形態について詳細に説明する。
図1に、この実施形態にかかる制御装置及びその適用対象となる車両Vを示す。同図1に示されるように、車両Vには、内燃機関10の他、トルクコンバータ41及び変速歯車機構42を含む6段変速式の自動変速機40が搭載されている。内燃機関10の駆動力は自動変速機40等、車両Vの駆動系を介してその駆動輪46に伝達される。内燃機関10の燃焼室(図示略)には、吸気通路21及び排気通路31がそれぞれ接続されている。吸気通路21には吸入空気量をその開度(スロットル開度TA)に応じて調量するスロットルバルブ22が設けられる一方、排気通路31には排気を浄化するための排気浄化触媒32が設けられている。これら内燃機関10及び自動変速機40は電子制御装置50によって統括して制御される。
【0026】
自動変速機40には、その入力軸(インプットシャフト43)と内燃機関10の出力軸11との連結を機械的に断接する摩擦クラッチを備えたロックアップ機構45が設けられている。ロックアップ機構45は、摩擦クラッチの他、これを油圧によって係合状態と解放状態とに切り替える油圧系(図示略)を備えている。この油圧系には摩擦クラッチの係合・解放状態を切り替えるための制御バルブが設けられている。この制御バルブは電子制御装置50によって開閉制御される。このロックアップ機構45が係合状態になると、内燃機関10の駆動力は、その出力軸11からトルクコンバータ41を介することなく自動変速機40のインプットシャフト43に直接伝達され、同インプットシャフト43から変速歯車機構42に伝達されるようになる。なお、本実施形態では、このロックアップ機構45として、ロックアップ実行条件が満たされれば変速段が1速から6速のどの変速段であってもこれを作動させる、いわゆるフルロックアップ式のものを採用している。
【0027】
また、自動変速機40は、その変速段の切り替えがオートシフトセレクトモード(Aモード)及びマニュアルシフトセレクトモード(Mモード)の二つの形態をもって行われる。ここで、Aモードでは、基本的に車速及びアクセルペダル1の操作量(アクセル開度ACCP)に基づいて変速段が自動的に変更される。一方、Mモードでは、車両Vのフロアに設けられたシフトレバーやステアリングホイールの背面に設けられたパドル式のシフトスイッチ(いずれも図示略)を運転者が操作することにより、自動変速機40の指示変速段が設定され、同指示変速段となるように変速歯車機構42が制御される。すなわち、運転者の意思に即して変速段が任意に変更される。例えば車両減速時には、シフトレバーやシフトスイッチを操作して自動変速機40をMモードに移行させ、ロックアップ機構45を解放状態として変速歯車機構42により変速段を低速段に変更するとともに、その変更後にロックアップ機構45を速やかに係合状態とする、といったダウンシフトにかかる一連の処理を短期間の間で繰り返すことにより、手動変速機を搭載する車両と同様のエンジンブレーキ性能を得ることが可能になる。
【0028】
ちなみに、こうしたシフトレバーやシフトスイッチの操作がなされず自動変速機40をAモードとしたまま車両を減速させる場合には、機関回転速度がストールに至らない下限回転速度になるまで変速は行われない。すなわち、機関回転速度が下限回転速度になるまで変速段は例えば6速のまま維持され、機関回転速度が下限回転速度となったときにはじめて変速段が6速から5速に変更され、その変更後に機関回転速度が再び下限回転速度まで低下したときに変速段が5速から4速に変更される、といった変速制御が実行される。このように自動変速機40の変速段を制御することにより、車両減速中において長期間にわたる燃料カットを実行することができ、燃費の向上を図ることができるようになる。
【0029】
電子制御装置50には、アクセル開度ACCPを検出するアクセルポジションセンサ51、吸入空気量GAを検出するエアフローメータ52、自動変速機40(変速歯車機構42)のインプットシャフト43の回転速度(入力回転速度NT)を検出するインプット回転速度センサ53、車速の算出等に用いられるアウトプットシャフト44の回転速度を検出するアウトプット回転速度センサ54、シフトレバーやシフトスイッチの操作に基づく信号をそれぞれ出力するシフトセンサ55,56、機関回転速度NEを検出する回転速度センサ57等の各種センサが接続されている。電子制御装置50はこれらセンサの検出信号を適宜取り込むことにより、スロットル開度TA、燃料噴射量、点火時期、減速時の燃料カット等々の内燃機関10にかかる制御、及びロックアップ機構45の係合・解放状態の切り替えや変速歯車機構42による変速段の切り替え等の自動変速機40にかかる制御をそれぞれ実行する。
【0030】
ところで、先に述べたように、減速燃料カット中のダウンシフトに際し、入力回転速度NTが機関回転速度NEを大きく上回っている状況下でロックアップ機構45を係合状態とすると変速ショックが発生するおそれがある。このため、電子制御装置50はこれを抑制すべくブリッピング制御を実行する。すなわち、電子制御装置50は、シフトレバーやシフトスイッチが操作されるとロックアップ機構45を解放状態とし、スロットル開度TAを増大させるとともに燃料噴射を一時的に再開させる。そして、電子制御装置50は、こうしたブリッピング制御の実行と併せて変速歯車機構42の変速段を低速段に変更し、その変更後にロックアップ機構45を速やかに係合状態に移行させる。ここで、減速燃料カット中にシフトダウンとそれに伴うブリッピング制御が短期間の間に頻繁に繰り返された場合、排気浄化触媒32の触媒床温θが過度に上昇することがある点については既に述べたとおりである。
【0031】
そこで、本実施形態にかかる車両の制御装置では、減速燃料カット中のダウンシフトに際して触媒床温θを監視し、この監視される触媒床温θが相対的に高くなるときには、その上昇を抑制する処理(抑制処理)を実行するようにしている。以下、この抑制処理を含め、減速燃料カット中における車両制御、特に内燃機関10の制御に関係する一連の処理について、図2を参照して説明する。なおこの一連の処理は、機関運転中に所定の演算周期Δtをもって電子制御装置50により繰り返し実行される。
【0032】
まず、ステップS110にて、燃料カット中であるか否かが判定される。燃料カット中でない旨判定されると、ステップS200にて、そのときの機関運転状態、具体的には機関回転速度NEとアクセル開度ACCPとに基づいて触媒床温θを算出して本処理が終了される。電子制御装置50のメモリには、定常運転時、すなわち機関回転速度NE及びアクセル開度ACCPが一定に保持された時の定常時触媒床温と機関回転速度NE及びアクセル開度ACCPとの関係を示す演算用マップが記憶されている。電子制御装置50は、この演算用マップを参照してそのときどきの機関回転速度NE及びアクセル開度ACCPに対応する定常時触媒床温を求め、それらを徐変演算することにより触媒床温θを算出する。
【0033】
一方、燃料カット中である旨判定されたときは、ステップS120にてダウンシフトタイミングか否かが、すなわち前回の演算周期t(i−1)から今回の演算周期t(i)の期間において、シフトセンサ55,56の検出信号に基づいて設定される自動変速機40の指示変速段が高速段側から低速段側へ変更されたか否かが判定される。
【0034】
ここで、タウンシフトタイミングではない旨判定された場合には、ステップS210にて触媒床温θの低下速度θ’が吸入空気量GAに基づいて算出される。電子制御装置50のメモリには、触媒床温θの低下速度θ’と吸入空気量GAとの関係が演算用マップとして記憶されている。図3はこの演算用マップにおける上記関係を示すグラフである。吸入空気量GAが多い場合には、吸入空気による排気浄化触媒32の冷却効果が大きくなるため、同図3に示されるように、吸入空気量GAが多いときほど触媒床温θの低下速度θ’は大きな値として算出される。
【0035】
そして、ステップS220にて、この低下速度θ’に演算周期Δtが乗算され、この乗算値(θ’・Δt)が前回の演算周期における触媒床温θから減算されて、これが今回の演算周期における新たな触媒床温θとして設定される。
【0036】
一方、ステップS110にて燃料カット中である旨判定され、且つステップS120にてダウンシフトタイミングである旨判定されたときには、ステップS130にてブリッピング制御を実行するときの基本燃料噴射量Q1が算出される。ここで、基本燃料噴射量Q1は、ダウンシフト時における機関回転速度NEと入力回転速度NTとの回転速度差ΔNを減少させることができる量に設定される。具体的には、電子制御装置50は、まずダウンシフトに伴って生じる上記回転速度差ΔNを、ダウンシフト直前の機関回転速度NE、ダウンシフトに伴う変速段の変化、車速等々に基づいて算出する。そして、この回転速度差ΔNを減少させるべく、同回転速度差ΔNが大きいときほどスロットル開度TAが大きくなるようにスロットルバルブ22が制御される。そして、こうしたスロットル開度TAの変更により増大した吸入空気量GAに基づいて、空燃比が例えば理論空燃比となるように基本燃料噴射量Q1が算出される。なおこの場合、上述したように空燃比の目標値を理論空燃比とする他、燃料カットからの燃料噴射の再開に伴って壁面燃料付着量が増大する点を考慮し、空燃比の目標値を理論空燃比よりもリッチ側に設定することもできる。すなわち、基本燃料噴射量Q1の算出に際し、目標とする空燃比は、理論空燃比をその基準とするものの、種々の状況に応じて理論空燃比から適宜変更される。
【0037】
また、このようにして算出された基本燃料噴射量Q1に基づいて燃料噴射を実行した場合、上述した回転速度差ΔNを減少させることはできるものの、ノッキングが発生したり、内燃機関10のトルクが必要以上に上昇し燃料カットを再開する際のショックが増大したりすることがある。このため、電子制御装置50は、こうしたノッキングやショックの発生を抑制するために、機関回転速度NE及び基本燃料噴射量Q1等に基づいて設定される通常の時期よりも点火時期を遅角させる。更に電子制御装置50は、こうした点火時期の遅角に伴う排気温度の上昇を抑えるために、併せて燃料噴射量を増量補正する。ステップS130に続くステップS140では、こうした増量補正を行うための補正量Q2が点火時期の遅角量等に基づいて算出される。
【0038】
次に、ステップS150にて、補正量Q2とブリッピング制御において燃料噴射が実行される時間とに基づいて総燃料増加量ΣQ2が算出され、更にその総燃料増加量ΣQ2に基づいて触媒床温θの上昇量Δθが算出される。なお、基本燃料噴射量Q1を増量補正することなく同基本燃料噴射量Q1のみに基づいて燃料噴射を行った場合でも、排気には燃料の未燃成分が含まれているため、これが排気浄化触媒32で燃焼することで触媒床温θは上昇する。しかしながら、基本燃料噴射量Q1は基本的に空燃比を理論空燃比とすべく設定される量であるため、排気に含まれる燃料の未燃成分は少ない。したがって、基本燃料噴射量Q1が変化してもそれに伴う触媒床温θの変化は比較的小さいものとなる。一方、この基本燃料噴射量Q1を増量補正する補正量Q2については、その多くが未燃成分として排気通路31に排出されるため、この補正量Q2が多いときほど触媒床温θは温度上昇することとなる。このため、本実施形態では、この補正量Q2の積算値である総燃料増加量ΣQ2に基づいて触媒床温θの上昇量Δθを算出するようにしている。
【0039】
電子制御装置50のメモリには、この触媒床温θの上昇量Δθと総燃料増加量ΣQ2との関係が演算用マップとして記憶されている。図4はこの演算用マップにおける上記関係を示すグラフである。総燃料増加量ΣQ2が多いときほど、ブリッピング制御時において排気通路31に排出される未燃成分の排出量は増大し、触媒床温θが上昇するようになる。このため、同図4に示すように、総燃料増加量ΣQ2が多いときほど、触媒床温θの上昇量Δθは大きくなる。
【0040】
そして、ステップS160にて、この上昇量Δθが前回の演算周期、すなわちダウンシフトタイミング直前に算出された触媒床温θに加算され、その加算値が今回の演算周期における触媒床温θとして設定される。すなわち、ブリッピング制御の燃料噴射を実行するとした場合の触媒床温θがその燃料噴射の実行前に推定される。
【0041】
次に、ステップS170にて、触媒床温θが判定温度θKよりも高いか否かが判定される。ここで、判定温度θKは、排気浄化触媒32に上述したようなシンタリングが発生する温度、すなわち排気浄化機能が低下する温度として、試験等を通じて予め適合のうえ電子制御装置50のメモリに記憶されている。このステップS170にて触媒床温θが判定温度θK以下である旨判定されたとき、ブリッピング制御を実行しても触媒床温θはその判定温度θKには達しないと判断され、ステップS190にてブリッピング制御が実行される。
【0042】
一方、ステップS170にて触媒床温θが判定温度θKよりも高い旨判定されたとき、ステップS180にてブリッピング制御が禁止され、燃料カットが継続して行われる。このようにブリッピング制御が禁止されることにより、触媒床温θが判定温度θKよりも高くなって排気浄化触媒32の排気浄化機能が低下してしまうことを抑制することができるようになる。なお、ステップS180では、ブリッピング制御に伴う燃料噴射が禁止されるため、ステップS160において触媒床温θを推定する際に加算された上昇量Δθを触媒床温θから減算して現在の触媒床温θとして再設定する。
【0043】
次に、図5を参照して、上述した一連の処理を実行した場合における、指示変速段、燃料噴射、機関回転速度NE、触媒床温θ等々の推移の一例について説明する。
同図5に示すタイミングt1にて、ダウンシフト、すなわち指示変速段が6速から5速に変更されると、このタイミングt1においてブリッピング制御を実行するとした場合の触媒床温θが推定される。そして、この推定された触媒床温θが判定温度θK以下である場合には、ブリッピング制御が実行される。すなわち、機関回転速度NEと入力回転速度NTとの回転速度差ΔNに応じてスロットル開度TAが現在の開度(例えば「全閉」)よりも開き側に変更されるとともに、燃料噴射が実行される。これにより、機関回転速度NEが上昇して入力回転速度NTとの回転速度差ΔNが減少するため、ロックアップ機構45を再び係合状態とすることに伴う変速ショックの発生を抑制することができる。なお、このようにブリッピング制御が実行されると、燃料の未燃成分が排気浄化触媒32で燃焼することにより、実際の触媒床温(図中の破線)は、推定される触媒床温θに対し遅れをもって徐々に上昇するようになる。
【0044】
タイミングt1〜t2の期間では、燃料カットが実行されていることにより、機関回転速度NEは徐々に低下し、また触媒床温θも徐々に低下する。
タイミングt2及びタイミングt3では、ダウンシフトに際し、上述したタイミングt1と同様にブリッピング制御が実行される。
【0045】
ここでタイミングt3にてブリッピング制御が実行される直前の触媒床温θは、タイミングt2にてブリッピング制御が実行される直前の触媒床温θに比べて高くなる。これは、タイミングt2にてブリッピング制御が実行されたことに伴う触媒床温θの上昇量Δθが、タイミングt2〜t3の期間において燃料カットが実行されていることに伴う触媒床温θの低下量よりも大きいためである。すなわち、触媒床温θがタイミングt2の触媒床温θと同程度にまで低下する前に、タイミングt3にてダウンシフトに伴うブリッピング制御が実行されるためである。そしてこのようにダウンシフトに伴うブリッピング制御が短い期間の間に繰り返して実行されると(タイミングt1,t2,t3)、触媒床温θは徐々に上昇するようになる。但し、このように触媒床温θは徐々に高くなるものの判定温度θKを上回ることはない。
【0046】
一方、タイミングt4にて、ダウンシフト、すなわち指示変速段が3速から2速に変更されると、同様にしてブリッピング制御に伴う燃料噴射を実行するとした場合の触媒床温θが推定され、この推定された触媒床温θが判定温度θKよりも高くなる旨判定されたときには、ブリッピング制御が禁止される。その結果、内燃機関10の出力軸11には変速歯車機構42からトルクコンバータ41を介して回転力が伝達されるようになり、機関回転速度NEはブリッピング制御を実行する場合とは異なり徐々に上昇するようになる。また、ブリッピング制御が禁止されるため、排気通路31に燃料の未燃成分が排出されることはないため、排気浄化触媒32は吸入空気によって冷却され、触媒床温θは徐々に低下するようになる。
【0047】
なお、タイミングt4において仮にブリッピング制御を実行したとすると、図5において二点鎖線にて示すように、実際の触媒床温は判定温度θKを上回るようになり、排気浄化触媒32における排気浄化機能の低下を招くこととなる。
【0048】
そして、タイミングt5にて、アクセルペダル1が踏み込まれると、燃料カットは中断され、スロットル開度TAがアクセル開度ACCPに基づいて制御される。そして、空燃比が理論空燃比となるように燃料噴射量が吸入空気量GAに基づいて設定される。このように空燃比が理論空燃比となるように燃料噴射量が制御されると、排気浄化触媒32における酸素吸蔵量は燃料カット中と比較して減少するため、触媒床温θが過度に温度上昇してしまうことはない。
【0049】
以上説明した本実施形態によれば以下の効果を奏することができる。
(1)減速燃料カット中に頻繁にダウンシフトが行われる場合であっても、ブリッピング制御の実行によって触媒床温θが判定温度θKを上回ると推定されるときは、触媒床温θの上昇を抑制する抑制処理としてブリッピング制御が禁止されるため、こうしたブリッピング制御の実行に起因して触媒床温θが過度に上昇することを抑制することができるようになる。その結果、排気浄化触媒32にシンタリングが発生することに起因するその排気浄化機能の低下についてこれを好適に回避することができる。
【0050】
(2)ブリッピング制御時に噴射される燃料のうち、基本燃料噴射量Q1を増量補正するための補正量Q2が多くなるほど、空燃比がリッチとなって排気通路31に排出される燃料の未燃成分の量が増大するようになる。本実施形態では、この補正量Q2の積算値、すなわち総燃料増加量ΣQ2に基づいてブリッピング制御を実行するとした場合の触媒床温θの上昇量Δθを算出するようにしているため、ブリッピング制御の実行後における触媒床温θをより正確に求めることができる。
【0051】
(3)ブリッピング制御の実行直前における触媒床温θを算出するとともに増量補正を行うための補正量Q2とブリッピング制御において燃料噴射が実行される時間とに基づいて総燃料増加量ΣQ2が算出され、更にその総燃料増加量ΣQ2に基づいて触媒床温θの上昇量Δθが算出される。そして、この上昇量Δθをブリッピング制御の実行直前における触媒床温θに加算することにより、ブリッピング制御の実行後における触媒床温θをブリッピング制御の実行に先立って推定するようにしている。これにより、ブリッピング制御の実行後における触媒床温θに基づいて、ブリッピング制御の実行の可否を設定することができ、触媒床温θが過度に上昇することを適切に抑制することができるようになる。
【0052】
(第2実施形態)
図6を参照して、本発明の第2実施形態について、先の第1実施形態との相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する構成については、その説明を割愛する。
【0053】
第1実施形態にかかる車両の制御装置では、減速燃料カット中のダウンシフトに際して触媒床温θを監視し、この監視される触媒床温θが判定温度θKよりも高くなるときにはブリッピング制御を禁止するようにした。これに対して、本実施形態では、第1実施形態に加えて、判定温度θK(本実施形態におけるθK1)よりも低い判定温度θK2を設定し、触媒床温θがこの判定温度θK2よりも高いときには、ブリッピング制御時における燃料噴射量を減量するようにしている。以下、こうした一連の処理について、図6を参照して説明する。
【0054】
また、本実施形態におけるこの一連の処理は、先の第1実施形態の同制御(図2)のうちステップS170以降の処理を図6に示す内容に置換したものであり、その他の処理については第1実施形態と同様である。
【0055】
まず、図2のステップS160にて触媒床温θが算出され、本実施形態における図6のステップS310にて、触媒床温θが判定温度θK1よりも高いか否かが判定される。このステップS310にて触媒床温θが判定温度θK1よりも高い旨判定されたとき、ステップS320にて、第1実施形態と同様にブリッピング制御が禁止され本処理が終了される。なお、ステップS320では、ブリッピング制御に伴う燃料噴射が禁止されるため、先の図2のステップS160において触媒床温θを推定する際に加算された上昇量Δθを触媒床温θから減算して現在の触媒床温θとして再設定する。
【0056】
一方、ステップS310にて触媒床温θが判定温度θK1以下である旨判定されたとき、ステップS330にて触媒床温θが判定温度θK2よりも高いか否かが判定される。ここで、判定温度θK2は、排気浄化機能の低下については殆ど無視できるものの、触媒床温θの変動によって同触媒床温θが先の判定温度θK1に達する可能性が高いと想定される温度として、試験等を通じて予め適合のうえ電子制御装置50のメモリに記憶されている。
【0057】
ステップS330にて、触媒床温θが判定温度θK2以下である旨判定されたとき、触媒床温θは、ブリッピング制御を実行しても触媒床温θはその判定温度θK2には達しないと判断され、ステップS350にてブリッピング制御が実行される。一方、ステップS330にて、触媒床温θが判定温度θK2よりも高い旨判定されたとき、ブリッピング制御を実行するものの、ブリッピング制御におけるスロットル開度TAの開き側への開き度合いが制限される。すなわち、ブリッピング制御に起因する吸入空気量GAが制限され、これに伴い基本燃料噴射量Q1も通常のブリッピング制御時における場合と比較して減量される(ステップS340)。このようにブリッピング制御時の基本燃料噴射量Q1を減量することにより、触媒床温θの上昇を抑えつつ、ブリッピング制御による燃料噴射の機会についてもこれを確保することができるようになる。なお、ステップS340では、ブリッピング制御時の燃料噴射量が減量されているため、このときの触媒床温θは、以下のようにして再設定される。まず、図2のステップS160において触媒床温θを推定する際に加算された上昇量Δθを現在の触媒床温θから減算する。次に、ステップS150にて算出された総燃料増加量ΣQ2に補正係数K(K<1)を乗算することにより補正し、この補正後の総燃料増加量K・ΣQ2に基づいて上昇量Δθを算出する。そして、この上昇量Δθを触媒床温θに加算することにより現在の触媒床温θが再設定される。なお、この補正係数Kは、ステップS340におけるブリッピング制御時の燃料噴射量の減量度合いに応じて設定される。
【0058】
なお、上記一連の処理を実行した場合における機関回転速度NE及び触媒床温θの推移を先の図5に一点鎖線にて示す。同図に示されるように、十分ではないものの、機関回転速度NEを上昇させることにより、この機関回転速度NEと入力回転速度NTとの回転速度差ΔNは減少し、また触媒床温θについてもその過度な上昇が抑制されるようになる。
【0059】
以上にて説明した本実施形態によれば、先の第1実施形態による前記(1)〜(3)の効果に加え、以下の効果を奏することができる。
(4)触媒床温θが判定温度θK1以下であり且つ判定温度θK2よりも高い旨判定されたとき、ブリッピング制御時の基本燃料噴射量Q1を減量するようにしている。その結果、排気通路31に排出される燃料の未燃成分を減少させることができ、排気浄化触媒32上で未燃成分が反応することによる触媒床温θの過度な上昇を抑制することができるようになる。また、ブリッピング制御を禁止して燃料噴射を全く実行しない場合とは異なり、機関回転速度NEを上昇させて機関回転速度NEと入力回転速度NTとの回転速度差ΔNを減少させることができるようになるため、変速ショックの抑制効果も併せて得ることができる。従って、触媒床温θの過度な上昇を抑制しつつ、変速ショックを低減することができるようになる。
【0060】
(第3実施形態)
図7及び図8を参照して、本発明の第3実施形態について、先の第1実施形態との相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する構成についてはその説明を割愛する。
【0061】
第1実施形態にかかる車両の制御装置では、触媒床温θを監視し、この監視される触媒床温θが減速燃料カット中のダウンシフトに際して判定温度θKよりも高くなるときにはブリッピング制御を禁止するようにした。これに対して、本実施形態では、第1実施形態に加えて、触媒床温θが判定温度θKよりも高いときには、ブリッピング制御の禁止に加え、スロットル開度TAを開き側に変更することにより、吸入空気量GAを増大させるようにしている。以下、こうした一連の処理について、図7を参照して説明する。
【0062】
また、本実施形態におけるこの一連の処理は、先の第1実施形態において示した図2のうちステップS170以降の処理及びステップS220以降の処理を図7に示す内容に置換したものであり、その他の処理については第1実施形態と同様である。
【0063】
まず、図2のステップS170にて触媒床温θが判定温度θKよりも高い旨判定されたとき、本実施形態における図7のステップS410にて、ブリッピング制御による燃料噴射が実行されていない期間、すなわち減速燃料カット中の吸入空気量GAを増大させるべく、スロットル開度TAが現在の開度(例えば「全閉」)よりも開き側に変更される。その後、ステップS420にて、ブリッピング制御、具体的には燃料噴射が禁止される。なお、このとき、ブリッピング制御に伴う燃料噴射が禁止されるため、ステップS160において触媒床温θを推定する際に加算された上昇量Δθを触媒床温θから減算して現在の触媒床温θとして再設定する。
【0064】
一方、ステップS170にて、触媒床温θが判定温度θK以下である旨判定されたとき、第1実施形態と同様にステップS190にてブリッピング制御が実行される。すなわち、ブリッピング制御に応じてスロットル開度TAが設定される。
【0065】
また、図2のステップS220にて、燃料カット中であり且つダウンシフトタイミングではないときの触媒床温θが算出された後、図7のステップS430にて、その触媒床温θが判定温度θSよりも高いか否かが判定される。ここで、判定温度θSは、ブリッピング制御を実行することができるまで触媒床温θが冷却されたか否かを判定するための値として、試験等を通じて予め適合のうえ電子制御装置50に記憶されている。なお当然ながら、この判定温度θSと先の判定温度θKとについては(θK>θS)なる大小関係が成立している。そして、ステップS430にて触媒床温θが判定温度θSよりも高い旨判定されたときは、触媒床温θが十分に低下していないと判断され、本処理が終了される。一方、ステップS430にて触媒床温θが判定温度θS以下である旨判定されたとき、触媒床温θが低下してブリッピング制御の実行が可能であると判断され、ステップS440にて、開き側に変更されていたスロットル開度TAが閉め側(例えば「全閉」)に変更され、本処理が終了される。
【0066】
次に、図8を参照して、上述した一連の処理を実行した場合における、指示変速段、燃料噴射、機関回転速度NE、触媒床温θ等々の推移の一例について説明する。
同図8に示すタイミングt11及びタイミングt12における燃料カット中のダウンシフト時は、第1実施形態のタイミングt1及びタイミングt2と同様にブリッピング制御が実行される。そして、タイミングt13にて、ダウンシフト、すなわち指示変速段が4速から3速に変更されると、このタイミングt13においてブリッピング制御を実行するとした場合の触媒床温θが算出される。そして、この推定された触媒床温θが判定温度θKよりも高くなる旨判定されたときには、スロットル開度TAが開き側に変更されるとともに、ブリッピング制御が禁止される。その結果、排気浄化触媒32が吸入空気によって冷却され、触媒床温θが急激に低下するようになる。また、内燃機関10の出力軸11には変速歯車機構42からトルクコンバータ41を介して回転力が伝達されるようになり、機関回転速度NEはブリッピング制御を実行する場合とは異なり徐々に上昇するようになる。
【0067】
タイミングt14にて、ダウンシフト、すなわち指示変速段が3速から2速に変更されると、このタイミングt14においてブリッピング制御を実行するとした場合の触媒床温θが推定される。そして、この推定された触媒床温θが判定温度θK以下である場合には、ブリッピング制御が実行される。これにより、機関回転速度NEが上昇するとともに、排気浄化触媒32で燃料の未燃成分が燃焼することにより、実際の触媒床温(図中の破線)は、推定される触媒床温θに対し遅れをもって徐々に上昇するようになる。
【0068】
なお、タイミングt13及びタイミングt14について、まずタイミングt13にて、スロットル開度TAを開き側に変更しないとすると、図8において二点鎖線にて示すように、触媒床温θは、緩やかに低下するようになる。この場合、次回の燃料カット中のダウンシフトタイミング時には、触媒床温θが判定温度θKを上回るようになるため、タイミングt14ではブリッピング制御を実行することができない。これに対して本実施形態では、触媒床温θが判定温度θKよりも高い旨判定されたとき、スロットル開度TAが開き側に変更されるようにしているため、触媒床温θが判定温度θSを下回るまで低下するようになり、次回の燃料カット中のダウンシフト時に速やかにブリッピング制御が実行されるようになる。
【0069】
そして、タイミングt15にて、アクセルペダル1が踏み込まれると、燃料カットは中断され、スロットル開度TAがアクセル開度ACCPに基づいて制御される。そして、空燃比が理論空燃比となるように燃料噴射量が吸入空気量GAに基づいて設定される。このように空燃比が理論空燃比となるように燃料噴射量が制御されると、排気浄化触媒32における酸素吸蔵量は燃料カット中と比較して減少するため、触媒床温θが過度に温度上昇してしまうことはない。
【0070】
以上にて説明した本実施形態によれば、先の第1実施形態による前記(1)〜(3)の効果に加え、以下の効果を奏することができる。
(5)ブリッピング制御を実行するとした場合の触媒床温θが判定温度θKよりも高い旨判定されたとき、スロットル開度TAを開き側に変更して、吸入空気量GAを増大させるようにしている。これにより、燃料カット中において排気浄化触媒32を多くの排気、すなわち吸入空気によって冷却することができ、排気浄化触媒32の過度な温度上昇を抑制することができるようになる。
【0071】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記各実施形態に限られるものではなく、例えば以下に示す態様をもって実施することもできる。また以下の各変形例は、上記実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0072】
・第1実施形態では、減速燃料カット中のダウンシフト時に、触媒床温θが判定温度θKよりも高い旨判定されたとき、ブリッピング制御そのものを禁止するようにしたが、これをブリッピング制御時の燃料噴射量、すなわち基本燃料噴射量Q1及び補正量Q2のいずれか一方、あるいは基本燃料噴射量Q1及び補正量Q2の双方を減量する、または補正量Q2による基本燃料噴射量Q1の増量補正を禁止するようにしてもよい。こうした構成であっても、上述した(1)または(4)及び(2)、(3)の作用効果を奏することはできる。
【0073】
・第2実施形態では、減速燃料カット中のダウンシフト時に、触媒床温θが判定温度θK1よりも高い旨判定されたとき、ブリッピング制御そのものを禁止し、触媒床温θが判定温度θK2よりも高い旨判定されたとき、ブリッピング制御時の基本燃料噴射量Q1を減量するようにしたが、これを触媒床温θが判定温度θK1よりも高い旨判定されたとき、補正量Q2による基本燃料噴射量Q1の増量補正を禁止し、すなわち補正量Q2を「0」とし、触媒床温θが判定温度θK2よりも高い旨判定されたときには、増量補正を行うもののその補正量Q2を減量するといった構成を採用することもできる。更に、触媒床温θが判定温度θK1よりも高い旨判定されたとき、基本燃料噴射量Q1を減量補正し、触媒床温θが判定温度θK2よりも高い旨判定されたときには、更に補正量Q2を減量するといった構成を採用してもよい。これら構成にあっても、上述した(1)〜(4)の作用効果を奏することはできる。
【0074】
・第2実施形態及び上記各変形例において基本燃料噴射量Q1やこれを増量補正するための補正量Q2を減量する際には、例えば基本燃料噴射量Q1を減量度合いを大きくし、補正量Q2の減量度合いを小さくする等、重み付けをつけて、それらの減量度合いを設定することもできる。
【0075】
・第2実施形態及び上記各変形例における基本燃料噴射量Q1及び補正量Q2の減量について、これを触媒床温θに応じて変更することもできる。すなわち、推定された触媒床温θが高いときほど、ブリッピング制御におけるスロットル開度TAの開き度合いを小さくして基本燃料噴射量Q1を通常要求時よりも少なくしたり、触媒床温θが高いときほど、補正量Q2の減量度合いを大きくするようにしてもよい。こうした構成であっても、上述した(2)〜(4)の作用効果を奏することはできる。
【0076】
・第3実施形態では、触媒床温θが判定温度θKよりも高いとき、スロットル開度TAを開き側に変更した後、ブリッピング制御を禁止するようにしたが、ブリッピング制御の禁止に代えて、ブリッピング制御時の基本燃料噴射量Q1を減量する、または補正量Q2による増量補正を禁止する、あるいは補正量Q2を減量する、といった構成を採用することもできる。
【0077】
・第3実施形態では、触媒床温θが判定温度θKよりも高いときスロットル開度TAを開き側に変更するとともにブリッピング制御を禁止するようにしたが、ブリッピング制御を禁止することなくスロットル開度TAの変更のみを実行するようにしてもよい。
【0078】
・上記各実施形態では、ブリッピング制御において点火時期の遅角処理及び燃料噴射量の増量補正処理を行うようにしたが、内燃機関10の圧縮比等々の諸元によってはこれら点火時期の遅角処理や燃料噴射量の増量補正処理を必ずしも行う必要はない。ちなみに、触媒床温θの上昇は、基本燃料噴射量Q1を補正量Q2により増量補正することに伴う燃料未燃成分の排出が主要因ではあるものの、燃料カット中は排気浄化触媒32の酸素吸蔵量が増大するため、こうした増量補正が行われない場合であっても、触媒床温θの過度な上昇は発生し得る。なおこの場合、ブリッピング制御に伴う触媒床温θの上昇量Δθは、ブリッピング制御により燃料噴射が実行される期間における基本燃料噴射量Q1の積算値ΣQ1に基づいて算出することができる。こうした構成にあっても、(1)〜(5)の効果を奏することはできる。
【0079】
・上記各実施形態では、触媒床温θと判定温度θK(θK1),θK2との比較結果に基づいてブリッピング制御の禁止、同制御時における燃料噴射量の減量、吸入空気量GAの増大といった、触媒床温θの上昇を抑制する抑制処理を実行するようにした。しかしながら、こうした比較を行うことなく、例えば、触媒床温θが高いときほど燃料噴射量の減量度合いを大きくする、あるいは触媒床温θが高いときほど吸入空気量GAの増大度合いを大きくする、といった態様で上記抑制処理を実行することもできる。
【0080】
・上記各実施形態では、ブリッピング制御に伴う増量補正の総燃料増加量ΣQ2に基づいて触媒床温θの上昇量Δθを算出するようにしたが、ブリッピング制御時の基本燃料噴射量Q1とブリッピング制御において燃料噴射が実行される時間とに基づいて基本燃料噴射量Q1の積算値ΣQ1を算出し、この積算値ΣQ1に基づいて触媒床温θの上昇量Δθを算出するようにしてもよい。また、この積算値ΣQ1と総燃料増加量ΣQ2とを加算した加算値ΣQTに基づいて触媒床温θの上昇量Δθを算出するようにしてもよい。
【0081】
・上記各実施形態では、吸入空気量GAを増大させるために、スロットル開度TAを開き側に変更するようにしたが、吸気バルブの最大リフト量やリフト期間を変更可能な可変動弁機構を備える内燃機関であれば、吸入空気量GAを増大させるために、可変動弁機構を制御して、それら最大リフト量やリフト期間を増大させることもできる。
【0082】
・上記各実施形態では、ブリッピング制御時を除く期間での触媒床温θを機関回転速度NE、アクセル開度ACCP、吸入空気量等の機関運転状態に基づいて推定するようにしたが、排気浄化触媒32に直接設けられた触媒床温センサにより直接検出したり、排気通路31において排気浄化触媒32の下流側に設けられた排気温センサの検出値に基づいて推定したりすることもできる。
【0083】
・上記各実施形態では、トルクコンバータ41と、所定のロックアップ条件が成立したときにロックアップを行うロックアップ機構45とを有する自動変速機40を搭載した車両を例示したが、いわゆるシーケンシャルマニュアルトランスミッション、マルチモードマニュアルトランスミッション等と称される変速機及びその入力軸と内燃機関の出力軸とを断接するクラッチを備え、それら変速機の変速操作及びクラッチの断接操作を運転者のシフト操作に基づいて自動的に行うことの可能な車両であっても本発明を適用することができる。
【0084】
・上記各実施形態では、変速比が6段階に切り替えられる6段変速式の自動変速機40としたが、その変速段は6段階に限られない。すなわち、5段以下及び7段以上とすることもできる。
【0085】
・上記各実施形態では、変速段が1速から6速のどの変速段であってもロックアップ機構45を作動させるフルロックアップ式のものを採用したが、ロックアップ機構45を作動させる態様はこれに限られない。すなわち、高速段のみ同機構45を作動させるものにも適用される。
【符号の説明】
【0086】
V…車両、1…アクセルペダル、10…内燃機関、11…出力軸、21…吸気通路、22…スロットルバルブ、31…排気通路、32…排気浄化触媒、40…自動変速機、41…トルクコンバータ、42…変速歯車機構、43…インプットシャフト、44…アウトプットシャフト、45…ロックアップ機構、46…駆動輪、50…電子制御装置、51…アクセルポジションセンサ、52…エアフロメータ、53…インプット回転速度センサ、54…アウトプット回転速度センサ、55…シフトセンサ、56…シフトセンサ、57…回転速度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から駆動力が伝達される有段式の自動変速機と、同自動変速機の変速操作に際し前記内燃機関の出力軸と前記自動変速機の入力軸とを自動的に断接する機械式のクラッチと、排気通路に設けられた排気浄化触媒とを備え、減速燃料カット中に前記自動変速機のダウンシフトが実行されるとき一時的に燃料噴射を再開して機関回転速度を上昇させるブリッピング制御を実行する車両の制御装置において、
前記排気浄化触媒の触媒床温を監視する監視手段と、前記監視される触媒床温が前記ブリッピング制御の実行に際して前記排気浄化触媒の排気浄化機能を低下させる温度とならないように前記触媒床温の上昇を抑制する抑制処理を実行する抑制手段とを備える
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記抑制手段は前記監視される触媒床温が所定の判定温度を上回るか否かを判定する判定手段を含み、同触媒床温が前記判定温度を上回る旨判定されるときに前記抑制処理を実行する
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記抑制手段は前記抑制処理として前記ブリッピング制御を禁止する
請求項1又は請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記抑制手段は前記抑制処理として前記ブリッピング制御時の燃料噴射量を減量する
請求項1又は請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の制御装置において、
前記ブリッピング制御時の点火時期を遅角するとともに燃料噴射量を増量補正する補正手段を更に備え、
前記抑制手段は前記抑制処理として前記補正手段による燃料噴射量の増量補正量を制限する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
前記抑制手段は前記抑制処理として前記ブリッピング制御による燃料噴射が実行されていない減速燃料カット中の吸入空気量を増大させる
請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記監視手段は前記ブリッピング制御の実行直前における触媒床温を初期触媒床温とするとともに同ブリッピング制御時の燃料噴射量を予め算出してこれに基づいて触媒床温の温度上昇量を算出し、同温度上昇量を前記初期触媒床温に加算することにより前記ブリッピング制御の実行後における触媒床温を前記ブリッピング制御の実行に先立って推定する
請求項1〜6のいずれか一項に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−117310(P2011−117310A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272728(P2009−272728)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】