説明

車両の制御装置

【課題】クラッチの耐久性を向上可能な車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】アクセルヒルホールド時に、クラッチを開放し、ブレーキ制御手段によって車両停止状態を維持する締結要素保護制御を、アクセルペダル開度に基いて設定された要求トルクが勾配負荷トルク相当値に基づいて設定された上限トルクと下限トルクの範囲内か否かで判断し、要求トルクが上限トルクと下限トルクの範囲外となったときは、締結要素保護制御を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源と駆動輪との間の締結要素をスリップ制御する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制御装置として、特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報には、エンジンとモータの両方の駆動力を用い、モータと駆動輪との間のクラッチをスリップさせつつ発進するエンジン使用スリップモードを行う技術が開示されている。そして、勾配路でアクセル開度を調節して車両停止している、いわゆるアクセルヒルホールド状態と判断されたときは、クラッチを開放し、ブレーキ液圧を付与することでロールバックを回避しつつ、クラッチを保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−162291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、運転者の要求トルクが勾配負荷トルク相当値以下か否かでアクセルヒルホールド状態を判定しているため、運転者がアクセルペダルを離し、勾配に沿って緩やかに移動しようとしても、車両は停車状態を継続してしまい、運転性が悪化するおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、運転性を向上可能な車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
アクセルヒルホールド時に、クラッチを開放し、ブレーキによって車両停止状態を維持する締結要素保護制御を、要求トルクが勾配負荷トルク相当値に基づいて設定された上限トルクと下限トルクの範囲内か否かで判断し、範囲内であれば締結要素保護制御を実行し、範囲外であれば解除することとした。
【発明の効果】
【0007】
よって、運転者の意図に沿って締結要素保護制御を解除することができ、運転性を向上することができる。また、勾配負荷トルク相当値に応じて上限トルクと下限トルクを設定するため、勾配に応じた適切な範囲を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の後輪駆動のハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の統合コントローラにおける演算処理プログラムを示す制御ブロック図である。
【図3】図2の目標駆動力演算部にて目標駆動力演算に用いられる目標駆動力マップの一例を示す図である。
【図4】図2のモード選択部にてモードマップと推定勾配との関係を表す図である。
【図5】図2のモード選択部にて目標モードの選択に用いられる通常モードマップを示す図である。
【図6】図2のモード選択部にて目標モードの選択に用いられるMWSC対応モードマップを示す図である。
【図7】図2の目標充放電演算部にて目標充放電電力の演算に用いられる目標充放電量マップの一例を示す図である。
【図8】WSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図である。
【図9】WSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。
【図10】車速を所定状態で上昇させる際のエンジン回転数の変化を表すタイムチャートである。
【図11】実施例1の第2クラッチ保護制御処理を表すフローチャートである。
【図12】実施例1の所定範囲マップである。
【図13】勾配路においてアクセルヒルホールドするときのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例1のエンジン始動制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。尚、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0010】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。尚、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0011】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0012】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。尚、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0013】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0014】
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機であり、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。尚、詳細については後述する。
【0015】
そして、自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルギヤDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。尚、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
【0016】
ブレーキユニット900は、液圧ポンプと、複数の電磁弁を備え、要求制動トルクに相当する液圧をポンプ増圧により確保し、各輪の電磁弁の開閉制御によりホイルシリンダ圧を制御する所謂ブレーキバイワイヤ制御を可能に構成されている。各輪FR,FL,RR,RLには、ブレーキロータ901とキャリパ902が備えられ、ブレーキユニット900から供給されるブレーキ液圧により摩擦制動トルクを発生させる。尚、液圧源としてアキュムレータ等を備えたタイプでもよいし、液圧ブレーキに代えて電動キャリパを備えた構成でもよい。
【0017】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。尚、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0018】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。
【0019】
「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
【0020】
定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。また、更なるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0021】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0022】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。更に詳細なエンジン制御内容については後述する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0023】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0024】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。尚、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0025】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。尚、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0026】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められるドライバ要求制動トルクに対し回生制動トルクだけでは不足する場合、その不足分を機械制動トルク(摩擦ブレーキによる制動トルク)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。尚、ドライバ要求制動トルクに応じたブレーキ液圧に限らず、他の制御要求により任意にブレーキ液圧を発生可能なのは言うまでもない。
【0027】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、第2クラッチCL2の温度を検知する温度センサ10aと、前後加速度を検出するGセンサ10bからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0028】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御と、を行う。
【0029】
また、統合コントローラ10は、後述する推定された路面勾配に基づいて車輪に作用する勾配負荷トルク相当値を演算する勾配負荷トルク相当値演算部600と、所定の条件が成立したときにドライバのブレーキペダル操作量に係わらずブレーキ液圧を発生させる第2クラッチ保護制御部700を有する。
【0030】
勾配負荷トルク相当値とは、路面勾配によって車両に作用する重力が車両を後退させようとする際、車輪に働く負荷トルクに相当する値である。車輪に機械的制動トルクを発生させるブレーキは、ブレーキロータ901に対しキャリパ902によってブレーキパッドを押圧することで制動トルクを発生させる。よって、車両が重力により後退しようとしているときには、制動トルクの方向は車両前進方向となる。この車両前進方向と一致する制動トルクを勾配負荷トルクと定義する。この勾配負荷トルクは、路面勾配と車両のイナーシャによって決定できるため、統合コントローラ10内に予め設定された車両重量等に基づいて勾配負荷トルク相当値を演算する。尚、勾配負荷トルクをそのまま相当値としてもよいし、所定値等を加減算して相当値としてもよい。
【0031】
第2クラッチ保護制御部700では、勾配路において車両が停止した際、この車両が後退するいわゆるロールバックを回避可能な制動トルク最小値(前述の勾配負荷トルク以上の制動トルク)を演算し、所定の条件(路面勾配が所定値以上で車両停止時)が成立したときは、ブレーキコントローラ9に対し、制動トルク最小値を制御下限値として出力する。
【0032】
実施例1では、駆動輪である後輪にのみブレーキ液圧を作用させるものとする。ただし、前後輪配分等を加味して4輪にブレーキ液圧を供給する構成としてもよいし、前輪にのみブレーキ液圧を供給する構成としてもよい。
【0033】
一方、上記所定の条件が不成立となったときは、徐々に制動トルクが小さくなる指令を出力する。また、第2クラッチ保護制御部700は、所定の条件が成立したときは、ATコントローラ7に対し、第2クラッチCL2への伝達トルク容量制御出力を禁止する要求を出力する。
【0034】
以下に、図2に示すブロック図を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
【0035】
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoO(ドライバ要求トルク)を演算する。
【0036】
モード選択部200は、Gセンサ10bの検出値に基づいて路面勾配を推定する路面勾配推定演算部201を有する。路面勾配推定演算部201は、車輪速センサ19の車輪速加速度平均値等から実加速度を演算し、この演算結果とGセンサ検出値との偏差から路面勾配を推定する。
【0037】
更に、モード選択部200は、推定された路面勾配に基づいて、後述する二つのモードマップのうち、いずれかを選択するモードマップ選択部202を有する。図4はモードマップ選択部202の選択ロジックを表す概略図である。モードマップ選択部202は、通常モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g2以上になると、勾配路対応モードマップに切り換える。一方、勾配路対応モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g1(<g2)未満になると、通常モードマップに切り換える。すなわち、推定勾配に対してヒステリシスを設け、マップ切り換え時の制御ハンチングを防止する。
【0038】
次に、モードマップについて説明する。モードマップとしては、推定勾配が所定値未満のときに選択される通常モードマップと、推定勾配が所定値以上のときに選択される勾配路対応モードマップとを有する。図5は通常モードマップ、図6は勾配路対応モードマップを表す。
【0039】
通常モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
【0040】
図5の通常モードマップにおいて、HEV→WSC切換線は、所定アクセル開度APO1未満の領域では、自動変速機ATが1速段のときに、エンジンEのアイドル回転数よりも小さな回転数となる下限車速VSP1よりも低い領域に設定されている。また、所定アクセル開度APO1以上の領域では、大きな駆動力を要求されることから、下限車速VSP1よりも高い車速VSP1'領域までWSC走行モードが設定されている。尚、バッテリSOCが低く、EV走行モードを達成できないときには、発進時等であってもWSC走行モードを選択するように構成されている。
【0041】
アクセルペダル開度APOが大きいとき、その要求をアイドル回転数付近のエンジン回転数に対応したエンジントルクとモータジェネレータトルクで達成するのは困難な場合がある。ここで、エンジントルクは、エンジン回転数が上昇すればより多くのトルクを出力できる。このことから、エンジン回転数を引き上げてより大きなトルクを出力させれば、例え下限車速VSP1よりも高い車速までWSC走行モードを実行しても、短時間でWSC走行モードからHEV走行モードに遷移させることができる。この場合が図5に示す下限車速VSP1'まで広げられたWSC領域である。
【0042】
勾配路対応モードマップ内には、EV走行モード領域が設定されていない点で通常モードマップとは異なる。また、WSC走行モード領域として、アクセルペダル開度APOに応じて領域を変更せず、下限車速VSP1のみで領域が規定されている点で通常モードマップとは異なる。
【0043】
目標充放電演算部300では、図7に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。また、目標充放電量マップには、EV走行モードを許可もしくは禁止するためのEVON線(MWSCON線)がSOC=50%に設定され、EVOFF線(MWSCOFF線)がSOC=35%に設定されている。
【0044】
SOC≧50%のときは、図5の通常モードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける。
【0045】
SOC<35%のときは、図5の通常モードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける。
【0046】
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動力tFoO(ドライバ要求トルク)と、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ伝達トルク容量TCL2*と自動変速機ATの目標変速段と第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。また、動作点指令部400には、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部が設けられている。
【0047】
変速制御部500では、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量TCL2*と目標変速段を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。尚、シフトマップは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものである。
【0048】
〔WSC走行モードについて〕
次に、WSC走行モードの詳細について説明する。WSC走行モードとは、エンジンEが作動した状態を維持している点に特徴があり、ドライバ要求トルク変化に対する応答性が高い。具体的には、第1クラッチCL1を完全締結し、第2クラッチCL2をドライバ要求トルクに応じた伝達トルク容量TCL2としてスリップ制御し、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGの駆動力を用いて走行する。
【0049】
実施例1のハイブリッド車両では、トルクコンバータのように回転数差を吸収する要素が存在しないため、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2を完全締結すると、エンジンEの回転数に応じて車速が決まってしまう。エンジンEには自立回転を維持するためのアイドル回転数による下限値が存在し、このアイドル回転数は、エンジンの暖機運転等によりアイドルアップを行っていると、更に下限値が高くなる。また、ドライバ要求トルクが高い状態では素早くHEV走行モードに遷移できない場合がある。
【0050】
一方、EV走行モードでは、第1クラッチCL1を解放するため、上記エンジン回転数による下限値に伴う制限はない。しかしながら、バッテリSOCに基づく制限によってEV走行モードによる走行が困難な場合や、モータジェネレータMGのみでドライバ要求トルクを達成できない領域では、エンジンEによって安定したトルクを発生する以外に手段がない。
【0051】
そこで、上記下限値に相当する車速よりも低車速領域であって、かつ、EV走行モードによる走行が困難な場合やモータジェネレータMGのみではドライバ要求トルクを達成できない領域では、エンジン回転数を所定の下限回転数に維持し、第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジントルクを用いて走行するWSC走行モードを選択する。
【0052】
図8はWSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図、図9はWSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。WSC走行モードにおいて、運転者がアクセルペダルを操作すると、図9に基づいてアクセルペダル開度に応じた目標エンジン回転数特性が選択され、この特性に沿って車速に応じた目標エンジン回転数が設定される。そして、図8に示すエンジン動作点設定処理によって目標エンジン回転数に対応した目標エンジントルクが演算される。
【0053】
ここで、エンジンEの動作点をエンジン回転数とエンジントルクにより規定される点と定義する。図8に示すように、エンジン動作点は、エンジンEの出力効率が高い動作点を結んだ線(以下、α線)上で運転することが望まれる。
【0054】
しかし、上述のようにエンジン回転数を設定した場合、運転者のアクセルペダル操作量(ドライバ要求トルク)によってはα線から離れた動作点を選択することとなる。そこで、エンジン動作点をα線に近づけるために、目標エンジントルクは、α線を考慮した値にフィードフォワード制御される。
【0055】
一方、モータジェネレータMGは、設定されたエンジン回転数を目標回転数とする回転数フィードバック制御が実行される。今、エンジンEとモータジェネレータMGは直結状態とされていることから、モータジェネレータMGが目標回転数を維持するように制御されることで、エンジンEの回転数も自動的にフィードバック制御されることとなる。
【0056】
このとき、モータジェネレータMGが出力するトルクは、α線を考慮して決定された目標エンジントルクとドライバ要求トルクとの偏差を埋めるように自動的に制御される。モータジェネレータMGでは、上記偏差を埋めるように基礎的なトルク制御量(回生・力行)が与えられ、更に、目標エンジン回転数と一致するようにフィードバック制御される。
【0057】
あるエンジン回転数において、ドライバ要求トルクがα線上の駆動力よりも小さい場合、エンジン出力トルクを大きくした方がエンジン出力効率は上昇する。このとき、出力を上げた分のエネルギをモータジェネレータMGにより回収することで、第2クラッチCL2に入力されるトルク自体はドライバ要求トルクとしつつ、効率の良い発電が可能となる。ただし、バッテリSOCの状態によって発電可能なトルク上限値が決定されるため、バッテリSOCからの要求発電出力(SOC要求発電電力)と、現在の動作点におけるトルクとα線上のトルクとの偏差(α線発電電力)との大小関係を考慮する必要がある。
【0058】
図8(a)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも大きい場合の概略図である。SOC要求発電電力以上にはエンジン出力トルクを上昇させることができないため、α線上に動作点を移動させることはできない。ただし、より効率の高い点へ移動させることで燃費効率を改善する。
【0059】
図8(b)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも小さい場合の概略図である。SOC要求発電電力の範囲内であれば、エンジン動作点をα線上に移動させることができるため、この場合は、最も燃費効率の高い動作点を維持しつつ発電することができる。
【0060】
図8(c)は、エンジン動作点がα線よりも高い場合の概略図である。ドライバ要求トルクに応じた動作点がα線よりも高いときは、バッテリSOCに余裕があることを条件として、エンジントルクを低下させ、不足分をモータジェネレータMGの力行により補う。これにより、燃費効率を高くしつつドライバ要求トルクを達成することができる。
【0061】
次に、WSC走行モード領域を、推定勾配に応じて変更している点について説明する。図10は車速を所定状態で上昇させる際のエンジン回転数マップである。平坦路において、アクセルペダル開度がAPO1よりも大きな値の場合、WSC走行モード領域は下限車速VSP1よりも高い車速領域まで実行される。このとき、車速の上昇に伴って図9に示すマップのように徐々に目標エンジン回転数は上昇する。そして、VSP1'に相当する車速に到達すると、第2クラッチCL2のスリップ状態は解消され、HEV走行モードに遷移する。
【0062】
推定勾配が所定勾配(g1もしくはg2)より大きい勾配路において、上記と同じ車速上昇状態を維持しようとすると、それだけ大きなアクセルペダル開度となる。このとき、第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2は平坦路に比べて大きくなる。この状態で、仮に図9に示すマップのようにWSC走行モード領域を拡大してしまうと、第2クラッチCL2は強い締結力でのスリップ状態を継続することとなり、発熱量が過剰となるおそれがある。そこで、推定勾配が大きい勾配路のときに選択される図6の勾配路対応モードマップでは、WSC走行モード領域を不要に広げることなく、車速VSP1に相当する領域までとする。これにより、WSC走行モードにおける過剰な発熱を回避する。
【0063】
このようなWSC走行モードにおいて、勾配路に差し掛かり、ドライバがブレーキペダルを操作することなく、アクセルペダル操作のみで車両停止状態を維持するいわゆるアクセルヒルホールドを実施した場合について検討する。この場合、ブレーキペダルが操作されていないため、機械的制動力を発するブレーキユニット900は作動せず、第2クラッチCL2のスリップ制御が継続することで、車両停止状態を維持することとなる。すると、第2クラッチCL2の耐久性が低下してしまうという問題があった。
【0064】
そこで、実施例1では、勾配路対応モードマップ選択時において、アクセルヒルホールドが行われていると判定されたときは、ブレーキユニット900によりブレーキ液圧による制動力を発生させて車両を停止させ、第2クラッチCL2の締結容量を低下させる第2クラッチ保護制御を実行することとした。
【0065】
ここで、第2クラッチ保護制御の介入条件として、推定された勾配負荷トルク相当値以下のときに、第2クラッチ保護制御を実施する場合、運転者がアクセルペダルを開放したとしても、第2クラッチ保護制御が継続するため、車両は停止状態を維持する。しかしながら、運転者がアクセルペダルを開放し、勾配に沿って緩やかに移動しようとしても、車両は停車状態を継続してしまい、運転性が悪化するおそれがあった。
【0066】
そこで、実施例1では、ドライバ要求トルクが勾配付加トルク相当値を基準とした所定範囲内か否かに基づいて第2クラッチ保護制御を実行することとした。以下、詳細に説明する。
【0067】
〔勾配路対応モードマップ選択時における第2クラッチ保護制御処理〕
次に、勾配路対応モードマップ選択時における第2クラッチ保護制御処理について図11のフローチャートに基づいて説明する。図11は実施例1の第2クラッチ保護制御処理を表すフローチャートである。
【0068】
ステップS1では、路面勾配推定演算部201により推定された路面勾配が所定値(g1もしくはg2)以上か否かを判断し、所定値以上のときはステップS2へ進み、それ以外のときはステップS8に進む。
【0069】
ステップS2では、車速が略0か否かを判断し、略0と判断されたときはステップS3へ進み、それ以外のときはステップS8に進む。ここで、略0とは、例えば、車速が1km/h〜2km/h程度の極低車速領域にあるか否かを判断するものである。
【0070】
ステップS3では、ブレーキペダルがOFFか否かを判断し、ブレーキペダルが踏まれているときはステップS8に進み、踏まれていないときはステップS4へ進む。尚、ブレーキペダルが踏まれているか否かは、例えばブレーキストロークセンサ20のセンサ値が無効ストロークを表す所定値以上、もしくは別途ブレーキスイッチ等が設けられているときには、ブレーキスイッチのON・OFFによって判断すればよい。
【0071】
ステップS31では、ドライバのアクセルペダル操作量に応じたドライバ要求トルクが所定範囲内か否かを判断し、所定範囲内のときはステップS4に進み、所定範囲外のときはステップS8に進む。ここで、所定範囲とは、勾配負荷トルクから所定値減算した介入判定時下限トルク以上であって、勾配負荷トルクに所定値加算した介入判定時上限トルク以下の範囲を言う。図12は実施例1の所定範囲マップである。路面勾配が大きいときは、勾配負荷トルクも大きくなるため、その勾配負荷トルクに基づいて上限トルクと下限トルクとが設定されている。このマップに基づいて所定範囲を決定し、ドライバ要求トルクが所定範囲内か否かを判断する。このようにある程度の範囲を設定することで、第2クラッチCL2の伝達トルク容量のばらつきや、車両重量のばらつきがあったとしても、安定して第2クラッチ保護制御を実行することができる。
【0072】
尚、選択されたレンジ位置がDレンジの場合には、Rレンジの場合よりも大きな上限トルクが、また、小さな下限トルクが設定される。これは、DレンジとRレンジとではギヤ比が違う(Dレンジの1速段における減速比は、Rレンジにおける減速比よりも小さい)ため、Rレンジのほうがクラッチの入力負荷に余裕があるからである。
【0073】
ステップS4では、第2クラッチ保護制御の要求フラグがOFFか否かを判断し、ONのときは本制御フローを終了する。
【0074】
ステップS5では、第2クラッチ保護制御の要求フラグをONにセットする。第2クラッチ保護制御とは、ドライバがアクセルコントロールで勾配負荷トルクと釣りあうトルクを、WSC走行モードにおける第2クラッチスリップ制御によって達成しているときに、第2クラッチCL2によるトルクに代えて、勾配負荷トルク相当値以上の制動トルクに応じたブレーキ液圧を発生させる制御である。具体的には、第2クラッチCL2を開放(すなわち、第2クラッチ伝達トルク容量をゼロとする)し、ブレーキコントローラ9において演算された勾配負荷トルク相当値以上の制動トルクに応じたブレーキ液圧を発生させる。これにより、ドライバがアクセルコントロールにより勾配路面を停止していたとしても、第2クラッチCL2がスリップ状態を継続することがなく、第2クラッチCL2を保護することができる。
ステップS6では、要求フラグをOFFにリセットする。
【0075】
〔勾配路停止時タイムチャート〕
図13は、勾配路においてアクセルヒルホールドするときのタイムチャートである。このタイムチャートは、推定勾配が所定値(g1もしくはg2)より大きく勾配路対応モードマップが選択された状態において、WSC走行モードによる停車中に、運転者がアクセルペダルを勾配負荷トルク相当値に維持している状態を表す。尚、停車時は、図8(b)に示すように、エンジンEを駆動しつつモータジェネレータMGを発電状態としている。
【0076】
初期状態において、車両が勾配路に差し掛かると、勾配負荷トルクが作用する。これにより車両は停止するが、ドライバはブレーキペダルOFFのまま、アクセルペダルを勾配負荷トルク相当値に維持してアクセルヒルホールド状態としている。よって、第2クラッチCL2のクラッチ伝達トルク容量は勾配負荷トルク相当値よりも高めの値に設定された状態でスリップ制御される。
【0077】
時刻t1において、ドライバ要求トルクが所定範囲内と判断されて要求フラグがONとされ、第2クラッチ保護制御処理が実行される。具体的には、まずブレーキコントローラ9から勾配負荷トルク相当値以上の制動トルクに応じたブレーキ液圧の発生が開始される。そして、時刻t2において、第2クラッチCL2の伝達トルク容量の低下が開始される。この掛け換え制御によって、車両は駆動トルクによる車両停止状態から、制動トルクによる車両停止状態に移行する。よって、第2クラッチCL2のスリップ状態の継続が回避されるため、第2クラッチCL2の耐久性が向上すると共に、ドライバとしては駆動トルクによって車両停止している状態と何ら変わらないことから、違和感を与えることもない。更に、エンジンEの出力上昇を禁止した場合には、車両がロールバックすることなく、第2クラッチCL2の発熱を回避しつつ、無駄なエネルギ消費も抑制することができる。
【0078】
時刻t3において、ドライバがアクセルペダルを離すと、ドライバ要求トルクが加減トルクを下回るため、要求フラグがOFFとされる。しかし、アクセルペダルが離されているため、それに応じて第2クラッチCL2の伝達トルク容量も増加しない。
時刻t4において、所定時間が経過するとブレーキ液圧が低下されて制動トルクが減少し、車両が後退する。これにより、運転者の意図に沿って第2クラッチ保護制御を解除することができる。
【0079】
以上説明したように、実施例1のハイブリッド車両にあっては、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)エンジンE及びモータジェネレータMG(以下、動力源)と駆動輪との間に介装され動力源と駆動輪とを断接する第2クラッチCL2(締結要素)と、アクセルペダル開度に基づいてドライバ要求トルクを演算する目標駆動力演算部100(要求トルク演算手段)と、演算された要求トルクに基づいて第2クラッチCL2の締結トルクを制御するATコントローラ7(締結トルク制御手段)と、ブレーキペダル操作に係わらず車輪に機械的制動トルクを付与可能なブレーキユニット900(ブレーキ制御手段)と、路面勾配を検知する路面勾配推定演算部201(路面勾配検知手段)と、検知された路面勾配に基づいて車輪に作用する勾配負荷トルク相当値を演算する勾配負荷トルク相当値演算部600(勾配負荷トルク相当値演算手段)と、ドライバ要求トルクが勾配負荷トルク相当値に基づいて設定された上限トルク以下、かつ、下限トルク以上(所定範囲内)か否かを判断するステップS31(アクセルヒルホールド判定手段)と、アクセルヒルホールドによりドライバ要求トルクが所定範囲内と判定されたとき、ブレーキユニット900を用いて車輪に機械的制動トルクを付与すると共に、ATコントローラ7における締結トルクの出力を低下させる第2クラッチ保護制御(締結要素保護制御手段)と、第2クラッチ保護制御中に、ドライバ要求トルクが上限トルク及び下限トルクの範囲外かとなったときは、第2クラッチ保護制御を解除するステップS31,S7(解除手段)と、を備えた。
よって、運転者の意図に沿って第2クラッチ保護制御を解除することができ、運転性を向上することができる。また、勾配負荷トルク相当値に応じて上限トルクと下限トルクを設定するため、勾配に応じた適切な範囲を設定することができる。
【0080】
(2)ステップS31は、DレンジのときよりもRレンジのときの上限トルクを小さく設定し、DレンジのときよりもRレンジのときの下限トルクを大きく設定する。
よって、走行時における第2クラッチCL2の状態に応じた閾値を設定することで、運転性を確保することができる。
【0081】
(3)動力源であるエンジンEと、動力源であるモータジェネレータMGと、エンジンEとモータジェネレータMGとを断接する第1クラッチCL1(第1締結要素)と、モータジェネレータMGと駆動輪との間に介装されモータジェネレータMGと駆動輪とを断接する第2クラッチCL2(第2締結要素)と、エンジンEを作動させた状態で第1クラッチLC1を締結し、第2クラッチCL2をスリップ締結するWSC走行モード(エンジン使用スリップ走行制御手段)とを備え、第2クラッチ保護制御は、第2クラッチCL2を開放することとした。
WSC走行モードでは、バッテリSOCの条件に関わらず必ず達成できる走行モードであり、十分な駆動トルクを確保できるものの、アクセルヒルホールドを継続した場合には、第2クラッチCL2の耐久性が低下するおそれがある。しかしながら、第2クラッチ保護制御によって第2クラッチCL2の発熱量を抑制することが可能となり、安定した発進性能を確保しつつ耐久性を向上することができる。
【0082】
以上、本発明を実施例1に基づいて説明したが、具体的な構成は他の構成であってもよい。例えば、実施例1では、ハイブリッド車両に適用したが、発進クラッチとヒルホールド機構を備えた車両であれば、同様に適用可能である。
【0083】
また、実施例1では、ブレーキユニット900は機械的制動トルクの大きさを任意に設定可能な手段としたが、例えば、ドライバのブレーキペダル操作によって発生したホイルシリンダ圧を増圧弁の閉弁によりホイルシリンダ内に封入するタイプを用いても良い。ただし、確実にロールバックを回避するには、ドライバのブレーキペダル操作によって発生したホイルシリンダ圧が勾配負荷トルク以上である必要がある。
【0084】
また、実施例1では、FR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。
【0085】
また、実施例1では、第2クラッチ保護制御部700により第2クラッチCL2が解放されている間は、エンジンEもしくはモータジェネレータMGの出力トルクの上昇を回避する構成としたが、ドライバの違和感を軽減するために若干エンジン回転数等を上昇させることとしてもよい。この場合であっても、第2クラッチCL2は解放されているため、耐久性の低下を回避することができることに変わりはない。
【0086】
また、実施例1では、勾配路発進制御として、モードマップを切り替えることとしたが、勾配に応じた所定値をドライバ要求トルクに上乗せした値に基づいて第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2を設定するように制御してもよい。
【0087】
また、バッテリSOCに余裕がある場合には、第1クラッチCL1を開放し、エンジン作動状態のまま、第2クラッチCL2をスリップ制御するMWSC走行モード時において、第2クラッチCL2保護制御を実施することとしてもよい。
【符号の説明】
【0088】
E エンジン
CL1 第1クラッチ
MG モータジェネレータ
CL2 第2クラッチ
AT 自動変速機
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
5 第1クラッチコントローラ
6 第1クラッチ油圧ユニット
7 ATコントローラ
8 第2クラッチ油圧ユニット
9 ブレーキコントローラ
10 統合コントローラ
24 ブレーキ油圧センサ
100 目標駆動力演算部
200 モード選択部
300 目標充放電演算部
400 動作点指令部
500 変速制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と駆動輪との間に介装され前記動力源と前記駆動輪とを断接する締結要素と、
アクセルペダル開度に基づいて要求トルクを演算する要求トルク演算手段と、
前記演算された要求トルクに基づいて前記締結要素の締結トルクを制御する締結トルク制御手段と、
ブレーキペダル操作に係わらず車輪に機械的制動トルクを付与可能なブレーキ制御手段と、
路面勾配を検知する路面勾配検知手段と、
前記検知された路面勾配に基づいて車輪に作用する勾配負荷トルク相当値を演算する勾配負荷トルク相当値演算手段と、
前記要求トルクが前記勾配負荷トルク相当値に基づいて設定された上限トルク及び下限トルクの範囲内か否かを判断するアクセルヒルホールド判定手段と、
前記アクセルヒルホールド判定手段により前記要求トルクが所定範囲内と判定されたとき、前記判定時における要求トルクを記憶し、前記ブレーキ制御手段を用いて車輪に機械的制動トルクを付与すると共に、前記締結トルク制御手段における締結トルクの出力を低下させる締結要素保護制御を実行する締結要素保護制御手段と、
前記締結要素保護制御中に、前記要求トルクが前記上限トルク及び下限トルクの範囲外となったときは、前記締結要素保護制御を解除する解除手段と、
を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記締結要素保護制御手段は、前進走行時よりも後退走行時のときの上限トルクを小さく設定し、前進走行時よりも後退走行時のときの下限トルクを大きく設定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両の制御装置において、
前記動力源であるエンジンと、
前記動力源であるモータと、
前記エンジンと前記モータとの間に介装され前記エンジンと前記モータとを断接する第1締結要素と、
前記モータと駆動輪との間に介装され前記モータと前記駆動輪とを断接する第2締結要素と、
前記エンジンを作動させた状態で前記第1締結要素を締結し、前記第2締結要素をスリップ締結するエンジン使用スリップ走行制御手段と
を備え、
前記締結要素は、前記第2締結要素であることを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−91602(P2012−91602A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239179(P2010−239179)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】