説明

車外監視装置、及び、この車外監視装置を備えた走行制御装置

【課題】誤認識を排除し、撮像手段とレーダ手段から取得できる可能な限りの多くの情報を用いて精度の良い制御を可能とする。
【解決手段】フュージョン立体物確認部18は、フュージョン立体物設定部17から入力される画像立体物単体のフュージョン立体物、ミリ波立体物単体のフュージョン立体物、画像立体物とミリ波立体物との組み合わせによるフュージョン立体物の全ての立体物に判定を行い、画像情報を基に予め定めておいた横方向の応答性遅れによるゴースト判定、壁反射によるマルチパスによるゴースト判定、及び、先行車からの反射波によるゴースト判定の条件を満たすミリ波立体物単体のフュージョン立体物を虚像であると判断する。この虚像との判定結果は設定時間維持される。こうして虚像と判断された立体物は、その後の制御対象からは除かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に画像情報とレーダ情報とに基づいて車両前方の立体物を認識する車外監視装置、及び、この車外監視装置を備えた走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ステレオカメラや単眼カメラ等の撮像手段と、ミリ波レーダや赤外線レーザレーダ等のレーダ手段とを用いて車両前方の車外環境を認識し、認識した車外環境に基づいて自車両の走行制御を行う様々な走行制御装置が実用化されている。こうした、撮像手段とレーダ手段とを有する制御においては、それぞれから送られてくる情報を整合して制御するために様々な手法が採用されている。
【0003】
例えば、特開2003−252147号公報には、画像処理による対象物までの算出距離と、レーダ測距による対象物までの算出距離とを用いて障害物を検出する車両用障害物検出装置であって、対象物の所定時間あたりの移動量を画像処理により算出し、また、対象物の所定時間あたりの移動量をレーダ測距により算出して、これら2つの移動量が整合しない場合には、対象物を障害物と判断しないようにする車両用障害物検出装置が開示されている。
【特許文献1】特開2003−252147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、撮像手段やレーダ手段は、それぞれの特性により、撮像手段で得られる情報の方が信頼性が高い場合や、レーダ手段で得られる情報の方が信頼性が高い場合がある。従って、撮像手段で得られた情報とレーダ手段で得られた情報の全てを用いて走行制御する方が精度の良い制御を行うことが可能である。しかしながら、上述の特許文献1に開示される手法では、撮像手段とレーダ手段とに共通する立体物のみしか用いて制御ができなくなるため情報量が少なくなり、精度の良い制御ができないという問題がある。一方、撮像手段で得られる情報、或いは、レーダ手段で得られる情報には、それぞれに固有の誤認識が生じる場合もあり、これらを可能な限り排除して制御を行う必要がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、誤認識を排除し、撮像手段とレーダ手段から取得できる可能な限りの多くの情報を用いて精度の良い制御を可能とする車外監視装置、及び、この車外監視装置を備えた走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、撮像手段で撮像した画像情報に基づいて車外の立体物認識を行う画像立体物認識手段と、レーダ手段で検出した距離情報に基づいて車外の立体物認識を行うレーダ立体物認識手段と、少なくとも上記画像立体物認識手段で認識した上記車外の立体物情報に基づいて、上記レーダ立体物認識手段で認識した上記車外の立体物の中から予め設定する虚像判定条件を満足する立体物を虚像と判定する虚像判定手段と、上記画像立体物認識手段で認識した車外の立体物と上記レーダ立体物認識手段で認識した車外の立体物と上記虚像判定手段で判定した虚像に基づいて最終的な車外の立体物認識を行う最終立体物認識手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車外監視装置、及び、その車外監視装置を備えた走行制御装置は、誤認識を排除し、撮像手段とレーダ手段から取得できる可能な限りの多くの情報を用いて精度の良い制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1〜図6は本発明の実施の形態を示し、図1は車両に搭載した車両用運転支援装置の概略構成図、図2は車外監視装置の要部を示す機能ブロック図、図3は先行車推定プログラムのフローチャート、図4は認識した立体物の確認処理のフローチャート、図5はフュージョン立体物の概念図、図6は様々な虚像の説明図である。
【0009】
図1において、符号1は自動車等の車両(自車両)で、この車両1には、走行制御装置の一例としての車間距離自動維持運転システム(ACC(Adaptive Cruise Control)システム)2が搭載されている。このACCシステム2は、主として、ステレオカメラ3と、ミリ波送受信部4と、車外監視装置5と、走行制御ユニット6とを有して構成されている。そして、ACCシステム2は、定速走行制御状態のときは運転者が設定した車速を保持した状態で走行し、追従走行制御状態のときは目標車速を先行車の車速に設定し、先行車に対して一定車間距離を保持した状態で走行する。
【0010】
ステレオカメラ3は、撮像手段としてのものであり、ステレオ光学系として例えば電荷結合素子(CCD)等の個体撮像素子を用いた左右1組のCCDカメラで構成され、これら左右のCCDカメラは、それぞれ車室内の天井前方に一定の間隔をもって取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像し、画像情報を車外監視装置5に入力する。
【0011】
ミリ波送受信部4は、レーダ手段としてのものであり、自車両1の先端に設けられ、前方に所定にミリ波(例えば30G Hz 〜100G Hz の電波)を送信するとともに、反射して戻ってくるミリ波を受信し、送受信データを車外監視装置5に入力する。
【0012】
また、自車両1には、車速を検出する車速センサ7が設けられており、この車速は車外監視装置5と走行制御ユニット6とに入力される。更に、自車両1には、ハンドル角を検出するハンドル角センサ8、ヨーレートを検出するヨーレートセンサ9が設けられており、これらハンドル角の信号とヨーレートの信号は車外監視装置5に入力される。
【0013】
車外監視装置5は、図2に示すように、ステレオ画像処理部15と、測距処理部16と、フュージョン立体物設定部17と、フュージョン立体物確認部18と、自車進行路推定部19と、走行領域内立体物判定部20と、先行車認識部21とを有して主要に構成されている。
【0014】
尚、本実施の形態において用いられる座標系は、自車両1の左右(幅)方向をX座標、自車両1の上下方向をY座標、自車両1の前後方向をZ座標とする自車両1を基準とする実空間の3次元座標系を用いて各処理を行う。この場合、ステレオカメラ3を成す2台のCCDカメラの中央の真下の道路面を原点として、自車両1の右側がX軸の+側、自車両1の上方がY軸の+側、自車両1の前方がZ軸の+側として設定される。
【0015】
ステレオ画像処理部15は、画像立体物認識手段としてのものであり、ステレオカメラ3からの画像を、例えば以下のように処理することで、白線認識、側壁認識、立体物認識等を行う。すなわち、ステレオ画像処理部15は、先ず、ステレオカメラ3のCCDカメラで自車両の進行方向を撮像した1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって画像全体に渡る距離情報を求める処理を行って、三次元の距離分布を表す距離画像を生成する。そして、このデータを基に、周知のグルーピング処理や、予め記憶しておいた3次元的な進路形状データ、側壁データ、立体物データ等と比較し、画像上の白線、道路に沿って存在するガードレールや縁石等の側壁、車両等の立体物を抽出(検出)する。こうして抽出された白線、側壁、立体物に係る各データは、それぞれのデータ毎に異なったナンバーが割り当てられる。また、更に立体物データに関しては、自車両1からの距離の相対的な変化量と自車両1の車速との関係から、自車両1に向かって移動する逆方向移動物と、停止している停止物と、自車両1と略同方向に移動する順方向移動物の3種類に分類される。
【0016】
また、ステレオ画像処理部15は、画像情報に基づき、逆光状態か、霧状態か、雨状態か、ステレオカメラ3が目隠しされた状態を、画像の認識が不安定になると想定される状態とし、画像HALTとして判定する。これらの状態の判定は、それぞれ周知の方法を用いて判定され、例えば、走行環境が霧状態か否かの判定は、先行車のテールランプやブレーキランプとその周辺の光幕領域を抽出し、対象までの距離を測定し、先行車両のテールランプやブレーキランプの領域とその周辺の光幕領域の輝度比と距離データとから霧状態を判定する。その他、白線輝度の変化量から霧状態を判断する方法や、また、画像データの変化から霧濃度の変化を検出するようにしても良い。更に、例えば、逆光状態、雨状態の判定は、特開2001−88574号公報に示す方法等で検出できる。また、ステレオカメラ3が目隠しされた状態は、例えば、画像中のエッジ数が予め設定しておいた閾値よい少ない場合に目隠し状態と判定することができる。
【0017】
測距処理部16は、レーダ立体物認識手段としてのものであり、ミリ波送受信部4からの送受信データを、例えば以下のように処理することで立体物認識を行う。すなわち、測距処理部16では、送信波が目標で反射されて戻ってくるまでの時間差をもとに、自車両1から目標までの相対距離を計測する。そして、距離値の分布状態から、同一の距離値が連続する部分を1つの立体物として抽出する。
【0018】
ここで、測距処理部16には前回抽出され登録された立体物(以下、ミリ波立体物と称す)に係るデータが格納されており、測距処理部16は、新たな立体物(以下、検出ミリ波立体物と称す)を抽出すると、ミリ波立体物との対応判定を行う。すなわち、測距処理部16では、検出ミリ波立体物とミリ波立体物とについての同一確率Pを算出し、同一確率Pが閾値以上ならば対応と判定する。本実施の形態において、同一確率Pは、例えば、検出ミリ波立体物とミリ波立体物との間のZ座標、X座標、及び、Z方向速度の同一確率Pz,Px,Pvを求め、それらを統合することで算出される。
【0019】
具体的に説明すると、ある検出ミリ波立体物nとあるミリ波立体物mとの間のZ座標、X座標、Z方向速度の差がΔZ、ΔX、ΔVであるときの同一確率Pz,Px,Pvは、標準偏差σz,σx,σvの正規分布の累積分布関数によって、例えば、
【数1】

【数2】

【数3】

【0020】
により算出される。そして、これら検出ミリ波立体物nとミリ波立体物mとの間の各同一確率Pz,Px,Pvを統合した同一確率Pが、
P=Pz×Px×Pv …(4)
によって求められる。
【0021】
測距処理部16では、このような演算を検出ミリ波立体物とミリ波立体物との全ての組合わせに対して行い、同一確率Pが閾値(例えば30%)以上且つ最大となる組み合わせを選出する。そして、測距処理部16では、検出立体物が対応したミリ波立体物を上述の検出ミリ波立体物で更新してミリ波立体物として継続登録するとともに、対応しなかった検出ミリ波立体物のデータを新たなミリ波立体物として登録する。さらに、検出ミリ波立体物に対応しなかったミリ波立体物のデータについては、所定の消去要件のもとで消去する。
【0022】
フュージョン立体物設定部17は、ステレオ画像処理部15から各立体物(以下、画像立体物と称する)に係る情報が入力されるとともに、測距処理部16から各ミリ波立体物に係る情報が入力され、これらを融合することで、フュージョン立体物を設定する。
【0023】
具体的に説明すると、フュージョン立体物設定部17は、先ず、各画像立体物と各ミリ波立体物との対応判定を行う。すなわち、フュージョン立体物設定部17では、各画像立体物のZ座標、X座標、及び、Z方向速度と、各ミリ波立体物のZ座標、X座標、及び、Z方向速度とを用いて、例えば上述の式(1)〜(4)により、各組み合わせによる同一確率Pを演算する。これにより、画像立体物とミリ波立体物とが対応する場合には、これらの同一確率Pが最大且つ閾値以上となる組み合わせが決定される。
【0024】
そして、フュージョン立体物設定部17は、画像立体物とミリ波立体物との融合による各フュージョン立体物を得る。すなわち、フュージョン立体物設定部17は、例えば図5に示すように、画像立体物単体のフュージョン立体物(図5中に四角で表示)、ミリ波立体物単体のフュージョン立体物(図5中に丸で表示)、或いは、画像立体物とミリ波立体物との組み合わせによるフュージョン立体物(図5中に四角と丸で表示)の何れかからなる各フュージョン立体物を得る。
【0025】
ここで、各フュージョン立体物は、当該フュージョン立体物の自車両1との間の距離、X座標、速度、幅等の各情報や、Z方向速度で判定される移動状況(順方向移動物、停止物、或いは、対向車)等の情報を有する。この場合において、画像立体物とミリ波立体物との組み合わせによるフュージョン立体物では、自車両1との距離の設定に際してはミリ波立体物の情報が優先的に採用され、X座標の設定に際しては画像立体物の情報が優先的に採用され、速度の設定に際してはミリ波立体物の情報が優先的に採用され、幅の設定に際しては画像立体物の情報が優先的に採用される。
【0026】
このようにして新たなフュージョン立体物が設定されると、フュージョン立体物設定部17は、前回登録されたフュージョン立体物との一致判定を行い、一致したフュージョン立体物についてはその登録情報を新たなフュージョン立体物の情報に基づいて更新することで継続登録する。また、フュージョン立体物設定部17では、一致しなかった新たなフュージョン立体物に関しての新規登録を行うとともに、一致しなかった過去のフュージョン立体物に関しては即消去する。
【0027】
フュージョン立体物確認部18は、ステレオ画像処理部15から画像HALTの信号、壁の存在状況の信号が入力され、フュージョン立体物設定部17から画像立体物単体のフュージョン立体物、ミリ波立体物単体のフュージョン立体物、或いは、画像立体物とミリ波立体物との組み合わせによるフュージョン立体物のそれぞれの信号が距離、速度情報と共に入力され、先行車認識部21から先行車の認識状態が入力される。
【0028】
そして、これらの信号に基づいて、後述の認識した立体物の確認処理のフローチャートに従って、フュージョン立体物設定部17から入力される全てのフュージョン立体物について判定を行って、ミリ波立体物単体のフュージョン立体物の中から予め設定する虚像判定条件を満足する立体物を虚像と判定する。この判定の結果、虚像と判定したミリ波立体物単体のフュージョン立体物は、虚像であることを示す信号を加えて、走行領域内立体物判定部20に出力される。尚、走行領域内立体物判定部20に対しては、フュージョン立体物設定部17で設定した全ての立体物がそれぞれの情報と共に出力される。
【0029】
ここで、上述の予め設定する虚像判定条件は、以下の3つの条件が設定されている。
(1)前回、画像立体物とミリ波立体物との組み合わせによるフュージョン立体物であって、今回、画像立体物単体のフュージョン立体物とミリ波立体物単体のフュージョン立体物とに分離している場合、画像立体物単体のフュージョン立体物が予め設定した幅(例えば1〜2m)の立体物を予め設定した回数を超えて認識しており信頼性が高いと判断できる場合には、このミリ波立体物単体のフュージョン立体物を虚像と判定する。すなわち、図6(a)に示すような、横方向の応答性遅れによるゴースト判定(誤判定)とみなす。この場合、この条件が解除されても、虚像と判定されたミリ波立体物単体のフュージョン立体物は、例えば約5秒間、虚像との判定を維持させる。
【0030】
(2)画像立体物とミリ波立体物との組み合わせによるフュージョン立体物が存在し、このフュージョン立体物と壁との間に、このフュージョン立体物と略同じ距離で且つ略同じ速度で移動するミリ波立体物単体のフュージョン立体物が存在するとき、このミリ波立体物単体のフュージョン立体物を虚像と判定する。すなわち、図6(b)に示すような、壁反射によるマルチパスによるゴースト判定(誤判定)とみなす。この場合、この条件が解除されても、虚像と判定されたミリ波立体物単体のフュージョン立体物は、例えば約2秒間、虚像との判定を維持させる。
【0031】
(3)先行車認識部21で認識されている先行車が、画像立体物単体のフュージョン立体物、或いは、画像立体物とミリ波立体物との組み合わせによるフュージョン立体物であって、この先行車と自車両1との間にミリ波立体物単体のフュージョン立体物が存在するとき、このミリ波立体物単体のフュージョン立体物を虚像と判定する。すなわち、図6(c)に示すような、先行車からの反射波によるゴースト判定(誤判定)とみなす。この場合、この条件が解除されても、虚像と判定されたミリ波立体物単体のフュージョン立体物は、例えば約3秒間、虚像との判定を維持させる。
【0032】
このように、本実施の形態によれば、フュージョン立体物確認部18は、虚像判定手段として設けられ、フュージョン立体物設定部17とフュージョン立体物確認部18とにより最終立体物認識手段が構成されている。
【0033】
自車進行路推定部19は、車速センサ7からの車速信号、ハンドル角センサ8からのハンドル角信号、ヨーレートセンサ9からのヨーレート信号等が入力されるとともに、ステレオ画像処理部15から白線データや側壁データ等が入力される。
【0034】
この場合、自車進行路推定部18では、先ず、例えば以下の4通りにより自車進行路の推定を行う。
a.白線に基づく自車進行路推定…左右両方、若しくは、左右どちらか片側の白線データが得られており、これら白線データから自車両1が走行している車線の形状が推定できる場合、自車進行路は、自車両1の幅や、自車両1の現在の車線内の位置を考慮して、白線と並行して形成される。
【0035】
b.ガードレール、縁石等の側壁データに基づく自車進行路推定…左右両方、若しくは、左右どちらか片側の側壁データが得られており、これら側壁データから自車両1が走行している車線の形状が推定できる場合、自車進行路は、自車両1の幅や、自車両1の現在の車線内の位置を考慮して、側壁と並行して形成される。
【0036】
c.先行車軌跡に基づく自車進行路推定…先行車の過去の走行軌跡を基に、自車進行路を推定する。
【0037】
d.自車両1の走行軌跡に基づく自車走行路推定…自車両1の運転状態を基に、自車進行路を推定する。例えば、ヨーレートγ、車速V、ハンドル角θHを基に、以下の手順で自車進行路を推定する。
【0038】
まず、ヨーレートセンサ9が有効か判定され、ヨーレートセンサ9が有効であれば、
Cua=γ/V …(5)
により現在の旋回曲率Cuaが算出される。
【0039】
一方、ヨーレートセンサ9が無効であれば、ハンドル角θHから求められる操舵角δが、所定値(例えば0.57度)以上で転舵が行われているか否か判定され、操舵角δが0.57度以上で操舵が行われている場合は、操舵角δと自車速Vを用いて、例えば
Re=(1+A・V2)・(L/δ) …(6)
Cua=1/Re …(7)
により現在の旋回曲率Cuaが算出される。ここで、Reは旋回半径、Aは車両のスタビリティファクタ、Lはホイールベースである。
【0040】
また、操舵角δが0.57度より小さい場合は、現在の旋回曲率Cuaは0(直進走行状態)とされる。
【0041】
こうして、得られる現在の旋回曲率Cuaを加えた過去所定時間(例えば約0.3秒間)の旋回曲率から平均旋回曲率を算出し、自車進行路を推定する。
【0042】
尚、ヨーレートセンサ9が有効であって、上述の(5)式により現在の旋回曲率Cuaが算出される場合であっても、操舵角δが0.57度より小さい場合は、現在の旋回曲率Cuaは0(直進走行状態)に補正するようにしても良い。
【0043】
走行領域内立体物判定部20は、ステレオ画像処理部15から白線情報が入力され、フュージョン立体物確認部18から上述の立体物が各情報(移動速度、位置座標、虚像情報等)と共に入力され、自車進行路推定部19から自車進行路が入力される。
【0044】
そして、走行領域内立体物判定部20は、虚像と判定された立体物を除いた各立体物毎に、立体物が存在する位置における自車両の走行領域を自車進行路に基づき推定し(例えば、自車進行路から設定幅の領域を自車両の走行領域と推定し)、この走行領域と立体物位置とを比較して、それぞれの立体物が走行領域内にあるか否か判定する。
【0045】
先行車認識部20は、先行車認識手段としてのものであり、走行領域内立体物判定部19から、走行領域内に存在する順方向に走行する車両の情報が入力され、これらの立体物の中から、自車両1に最も近い車両を先行車として認識し、走行制御ユニット6に出力する。
【0046】
一方、定速走行スイッチ10は、定速走行時の目標車速を設定する車速セットスイッチ、主に目標車速を下降側へ変更設定するコーストスイッチ、主に目標車速を上昇側へ変更設定するリジュームスイッチ等で構成されている。更に、この定速走行操作レバーの近傍には、走行制御のON/OFFを行うメインスイッチ(図示せず)が配設されている。
【0047】
運転者が図示しないメインスイッチをONし、定速走行操作レバーにより、希望する速度をセットすると、定速走行スイッチ10からの信号が走行制御ユニット6に入力され、走行制御ユニット6は、車速センサ7で検出した車速が運転者のセットした設定車速に収束するように、スロットルアクチュエータ11を駆動させてスロットル弁12の開度をフィードバック制御し、自車両1を自動的に定速状態で走行させる。
【0048】
また、走行制御ユニット6は、定速走行制御を行っている際に、車外監視装置5にて先行車を認識し、先行車の速度が自車両1の設定した目標速度以下の場合には、先行車に対して一定の車間距離を保持した状態で走行する追従走行制御へ自動的に切換える。
【0049】
車両の走行制御が追従走行制御へ移行すると、走行制御ユニット6は、車外監視装置5で求めた自車両1と先行車との車間距離及び先行車速と、車速センサ7で検出した自車速とに基づき適切な車間距離の目標値を設定する。そして、車間距離が目標値になるように、スロットルアクチュエータ11へ駆動信号を出力して、スロットル弁12の開度をフィードバック制御し、先行車に対して一定車間距離を保持した状態で追従走行させる。
【0050】
次に、車外監視装置5で実行される先行車推定プログラムを、図3のフローチャートで説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で必要パラメータを読み込み、S102に進んで、上述の如く、ステレオ画像処理部15、測距処理部16、フュージョン立体物設定部17により立体物認識処理を行う。
【0051】
次に、S103に進み、フュージョン立体物確認部18において、後述の認識した立体物の確認処理を行う。すなわち、S102で認識した全てのフュージョン立体物について判定を行って、ミリ波立体物単体のフュージョン立体物の中から予め設定する虚像判定条件を満足する立体物を虚像と判定する。この判定の結果、虚像と判定したミリ波立体物単体のフュージョン立体物は、虚像であることを示す信号が付加される。
【0052】
次いで、S104に進み、前述の如く、自車進行路推定部19で自車進行路の推定を行い、S105に進んで、走行領域内立体物判定部20において、虚像と判定された立体物を除いた各立体物毎に、立体物が存在する位置における自車両の走行領域を自車進行路に基づき推定し(例えば、自車進行路から設定幅の領域を自車両の走行領域と推定し)、この走行領域と立体物位置とを比較して、それぞれの立体物が走行領域内にあるか否か判定する。
【0053】
その後、S106に進み、先行車認識部21において先行車の推定を行い結果を出力してプログラムを抜ける。
【0054】
次に、上述のS103で実行する認識した立体物の確認処理を図4のフローチャートで説明する。尚、このプログラムは、認識した立体物の全てに対して実行される。
まず、S201で判定対象の立体物がミリ波立体物単体のフュージョン立体物か否か判定し、ミリ波立体物単体のフュージョン立体物でない場合は、S202に進み、予め各立体物毎に設定しておくゴースト判定用カウンタCtimeをリセット(Ctime=0)してS203に進む。
【0055】
S203では、ゴースト判定用カウンタCtimeが0よりも大きいか否か判定し、ゴースト判定用カウンタCtimeが0(Ctime=0)の場合、S204に進み、判定対象の立体物は虚像ではなく正常認識によるものと判定してルーチンを抜ける。逆に、ゴースト判定用カウンタCtimeが0よりも大きい(Ctime>0)場合、S205に進み、判定対象の立体物は虚像であり誤認識によるものと判定してルーチンを抜ける。
【0056】
一方、上述のS201で判定対象の立体物がミリ波立体物単体のフュージョン立体物の場合はS206に進み、画像による認識が不安定な状態、すなわち、画像HALTか否か判定される。この判定の結果、画像HALTの信号が発せられている場合には、画像による認識を用いてミリ波立体物単体のフュージョン立体物の虚像判定を行うことはできないので前述のS202に進む。逆に、S206の判定の結果、画像HALTの信号がない場合には、ミリ波立体物単体のフュージョン立体物の虚像判定を行うべくS207以降へと進む。
【0057】
そして、S207に進むと、まず、横方向の応答性遅れによるゴースト判定によりセットされる第1のカウンタt1、壁反射によるマルチパスによるゴースト判定によりセットされる第2のカウンタt2、先行車からの反射波によるゴースト判定によりセットされる第3のカウンタt3を全てクリアする(t1=t2=t3=0)。
【0058】
次いで、S208に進み、前回のゴースト判定用カウンタCtimeが格納される第4のカウンタt4が1以上(t4≧1)か否か判定し、第4のカウンタt4が1以上でない場合(すなわち、t4=0の場合)には、S210にジャンプし、第4のカウンタt4が1以上の場合にはS209に進んで、第4のカウンタt4を1デクリメント(t4=t4−1)してS210に進む。
【0059】
S210では、判定対象の立体物に対して、横方向の応答性遅れによるゴースト判定を実行する。すなわち、前述の如く、前回、画像立体物とミリ波立体物との組み合わせによるフュージョン立体物であって、今回、画像立体物単体のフュージョン立体物とミリ波立体物単体のフュージョン立体物とに分離している場合、画像立体物単体のフュージョン立体物が予め設定した幅(例えば1〜2m)の立体物を予め設定した回数を超えて認識しており信頼性が高いと判断できる場合には、このミリ波立体物単体のフュージョン立体物(判定対象の立体物)を虚像と判定する(図6(a))。この場合、この条件が解除されても、虚像と判定されたミリ波立体物単体のフュージョン立体物は、例えば約5秒間、虚像との判定を維持させる。従って、t1=50に設定する。
【0060】
次いで、S211に進み、判定対象の立体物に対して、壁反射によるマルチパスによるゴースト判定を実行する。すなわち、前述の如く、画像立体物とミリ波立体物との組み合わせによるフュージョン立体物が存在し、このフュージョン立体物と壁との間に、このフュージョン立体物と略同じ距離で且つ略同じ速度で移動するミリ波立体物単体のフュージョン立体物が存在するとき、このミリ波立体物単体のフュージョン立体物(判定対象の立体物)を虚像と判定する(図6(b))。この場合、この条件が解除されても、虚像と判定されたミリ波立体物単体のフュージョン立体物は、例えば約2秒間、虚像との判定を維持させる。従って、t2=20に設定する。
【0061】
次に、S212に進み、判定対象の立体物に対して、先行車からの反射波によるゴースト判定を実行する。すなわち、前述の如く、先行車認識部21で認識されている先行車が、画像立体物単体のフュージョン立体物、或いは、画像立体物とミリ波立体物との組み合わせによるフュージョン立体物であって、この先行車と自車両1との間にミリ波立体物単体のフュージョン立体物が存在するとき、このミリ波立体物単体のフュージョン立体物(判定対象の立体物)を虚像と判定する(図6(c))。この場合、この条件が解除されても、虚像と判定されたミリ波立体物単体のフュージョン立体物は、例えば約3秒間、虚像との判定を維持させる。従って、t3=30に設定する。
【0062】
尚、第1のカウンタt1、第2のカウンタt2、第3のカウンタt3はそれぞれ値を変えているのは、短く設定されているほど、早く虚像との判定から復帰できるようにチューニングするためである。従って、本実施形態で示すカウンタ値の組合せに限定するものではなく、他の値の組合せで設定するものであっても、もちろん良い。
【0063】
次いで、S213に進み、第1のカウンタt1、第2のカウンタt2、第3のカウンタt3、及び、第4のカウンタt4の中で最大値のものをゴースト判定用カウンタCtimeに代入する。
【0064】
そして、S214に進み、次回の判定で、今回のゴースト判定用カウンタCtimeを参照できるように、第4のカウンタt4に今回のゴースト判定用カウンタCtimeを代入(t4=Ctime)する。
【0065】
その後、S203に進み、ゴースト判定用カウンタCtimeが0よりも大きいか否か判定し、ゴースト判定用カウンタCtimeが0(Ctime=0)の場合、換言すれば、t1=t2=t3=t4=0であれば、S204に進み、判定対象の立体物は虚像ではなく正常認識によるものと判定してルーチンを抜ける。
【0066】
逆に、ゴースト判定用カウンタCtimeが0よりも大きい(Ctime>0)場合、すなわち、第1、第2、第3のカウンタt1、t2、t3が設定されており、S210、S211、S212の少なくとも何れかで虚像と判定されている場合や、S210、S211、S212の何れによっても虚像と判定されていなくとも、前に虚像であると判定されて設定された第4のカウンタt4が0にカウントダウンされておらず、設定時間が経過していない場合においては、S205に進み、判定対象の立体物は虚像であり誤認識によるものと判定してルーチンを抜ける。
【0067】
このように、本発明の実施の形態によれば、ミリ波レーダに固有の虚像現象を、ステレオカメラ3からの画像情報を基に確実に排除するようになっているので、ミリ波レーダによる情報とステレオカメラ3からの画像情報の2種類の立体物情報を用いて立体物を認識する場合において、認識精度を向上することができ、この精度の良い立体物情報を用いて精度良く走行制御することが可能となっている。
【0068】
また、ミリ波レーダによる情報とステレオカメラ3からの画像情報の2種類の立体物情報を用いて立体物を認識するため、判定対象とする情報量を不必要に狭めることなく正確に維持することが可能となる。
【0069】
更に、横方向の応答性遅れによるゴースト判定、壁反射によるマルチパスによるゴースト判定、及び、先行車からの反射波によるゴースト判定は、それぞれの条件が非成立となっても、一定時間保持されるため、制御が不安定になることがない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】車両に搭載した車両用運転支援装置の概略構成図
【図2】車外監視装置の要部を示す機能ブロック図
【図3】先行車推定プログラムのフローチャート
【図4】認識した立体物の確認処理のフローチャート
【図5】フュージョン立体物の概念図
【図6】様々な虚像の説明図
【符号の説明】
【0071】
1 自車両
2 ACCシステム(走行制御装置)
3 ステレオカメラ(撮像手段)
4 ミリ波送受信部(レーダ手段)
5 車外監視装置
6 走行制御ユニット
15 ステレオ画像処理部(画像立体物認識手段)
16 測距処理部(レーダ立体物認識手段)
17 フュージョン立体物設定部(最終立体物認識手段)
18 フュージョン立体物確認部(虚像判定手段、最終立体物認識手段)
19 自車走行領域推定部
20 走行領域内立体物判定部
21 先行車認識部(先行車認識手段)
代理人 弁理士 伊 藤 進

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像手段で撮像した画像情報に基づいて車外の立体物認識を行う画像立体物認識手段と、
レーダ手段で検出した距離情報に基づいて車外の立体物認識を行うレーダ立体物認識手段と、
少なくとも上記画像立体物認識手段で認識した上記車外の立体物情報に基づいて、上記レーダ立体物認識手段で認識した上記車外の立体物の中から予め設定する虚像判定条件を満足する立体物を虚像と判定する虚像判定手段と、
上記画像立体物認識手段で認識した車外の立体物と上記レーダ立体物認識手段で認識した車外の立体物と上記虚像判定手段で判定した虚像に基づいて最終的な車外の立体物認識を行う最終立体物認識手段とを備えたことを特徴とする車外監視装置。
【請求項2】
上記虚像判定手段の上記虚像判定条件は、前回、上記画像立体物認識手段と上記レーダ立体物認識手段とにより共に認識していた立体物であって、今回、上記画像立体物認識手段でのみ認識する立体物と上記レーダ立体物認識手段でのみ認識する立体物とに分離している場合、上記画像立体物認識手段が予め設定した信頼度を有する際には、上記レーダ立体物認識手段でのみ認識する立体物を少なくとも虚像と判定することを特徴とする請求項1記載の車外監視装置。
【請求項3】
上記虚像判定手段は、上記画像立体物認識手段で認識する立体物が予め設定した幅の立体物を予め設定した回数を超えて認識した場合に上記予め設定した信頼度を有すると判断することを特徴とする請求項2記載の車外監視装置。
【請求項4】
上記虚像判定手段の上記虚像判定条件は、上記画像立体物認識手段と上記レーダ立体物認識手段とにより共に認識する立体物が存在し、該立体物と上記画像立体物認識手段で認識した壁との間に、上記共に認識する立体物と略同じ距離で且つ略同じ速度で移動する上記レーダ立体物認識手段でのみ認識する立体物が存在する場合には、該レーダ立体物認識手段でのみ認識する立体物を少なくとも虚像と判定することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の車外監視装置。
【請求項5】
自車両の前方を走行する先行車を認識する先行車認識手段を有し、上記虚像判定手段の上記虚像判定条件は、上記先行車を少なくとも上記画像立体物認識手段により認識している場合、上記先行車と上記自車両との間に上記レーダ立体物認識手段でのみ認識する立体物が存在する場合には、該レーダ立体物認識手段でのみ認識する立体物を少なくとも虚像と判定することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の車外監視装置。
【請求項6】
上記虚像判定手段は、虚像と判定した立体物が上記虚像判定条件が非成立となった後も予め設定する時間が経過するまで、上記虚像と判定した立体物が虚像であるとの判定を維持することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の車外監視装置。
【請求項7】
上記請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の車外監視装置を備え、該車外監視装置の上記最終立体物認識手段による上記最終的な車外の立体物の情報を用いて走行制御することを特徴とする走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−47057(P2006−47057A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227029(P2004−227029)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】