説明

電動車の制御装置

【課題】回生制動中に摩擦クラッチが滑り状態となったとき、ショック無く、且つ、滑り発生から早期に摩擦クラッチを締結状態に移行させることで、車両減速度や回生量への低下影響を最小に抑えることができる電動車の制御装置を提供すること。
【解決手段】モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRの間に油圧締結による第2クラッチCL2を介装し、制動要求時、モータジェネレータMGを発電モードとし、第2クラッチCL2を経過して左右後輪RL,RRに回生制動トルクを付与する回生制動制御手段を備えたFRハイブリッド車の制御装置である。回生制動制御手段(図4)は、回生制動制御中、第2クラッチCL2が滑り状態であることを検出したら、第2クラッチCL2の差回転を小さくするようにモータジェネレータMGの回転数を制御し、第2クラッチCL2の差回転を小さくした後、第2クラッチCL2への油圧指令値を増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータジェネレータと駆動輪の間に油圧締結による摩擦クラッチを介装し、制動要求時、摩擦クラッチを経過して駆動輪に回生制動トルクを付与する電動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動車における回生制動制御装置としては、複数の締結要素の締結・開放により複数の変速段を達成する自動変速機と、該自動変速機の入力側に設けられ、回生トルクを付与するモータジェネレータを備え、自動変速機が変速するとき、モータジェネレータによる回生トルクを制限するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008−94332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の電動車における回生制動制御装置にあっては、回生制動中、自動変速機内の締結要素(摩擦クラッチ)への供給油量が一時的に不足した場合、摩擦クラッチの滑りが増大し、滑り状態の摩擦クラッチを介して伝達される回生制動トルクが低下する。このため、摩擦クラッチの滑り発生時点から、供給油量の不足が解消され、締結油圧の高まりにより摩擦クラッチの滑りが収束し、摩擦クラッチが締結状態まで復帰するまでの間、長時間にわたって回生制動トルクが低下したままとなる。この結果、所望の車両減速度を確保できないし、所望の回生量も確保できない、という問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、回生制動中に摩擦クラッチが滑り状態となったとき、ショック無く、且つ、滑り発生から早期に摩擦クラッチを締結状態に移行させることで、車両減速度や回生量への低下影響を最小に抑えることができる電動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の電動車の制御装置では、モータジェネレータと駆動輪の間に油圧締結による摩擦クラッチを介装し、制動要求時、前記モータジェネレータを発電モードとし、前記摩擦クラッチを経過して前記駆動輪に回生制動トルクを付与する回生制動制御手段を備えている。
そして、前記回生制動制御手段は、回生制動制御中、前記摩擦クラッチが滑り状態であることを検出したら、前記摩擦クラッチの差回転を小さくするように前記モータジェネレータの回転数を制御し、前記摩擦クラッチの差回転を小さくした後、前記摩擦クラッチへの油圧指令値を増大させる。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明の電動車の制御装置にあっては、回生制動制御手段において、回生制動制御中、摩擦クラッチが滑り状態であることを検出したら、摩擦クラッチの差回転を小さくするようにモータジェネレータの回転数が制御される。そして、摩擦クラッチの差回転を小さくした後、摩擦クラッチへの油圧指令値が増大される。
すなわち、回生制動中、摩擦クラッチへの供給油量が一時的に不足し、油圧の低下により摩擦クラッチが滑り状態となった場合、まず、作動油圧が復帰するまで待つ必要がある。そして、作動油圧が復帰することで締結トルクが発生すると、摩擦クラッチの滑り状態を収束させながら締結状態に移行させることになる。このため、例えば、油圧指令値を維持したままとすると、摩擦クラッチが滑り状態においては、動摩擦係数(<静摩擦係数)であるため、締結状態に移行するまでに長時間を要する。一方、時間短縮を目指し、油圧指令値を増大すると、滑り収束タイミングとクラッチ締結タイミングがずれ、伝達トルクが変動することによりショックが発生する。
これに対し、作動油圧が復帰するまでの待ち時間を利用し、応答性の高いモータジェネレータによる回転数制御により、摩擦クラッチの滑り状態を抑えた後、油圧指令値を増大するという制御を採用した。このため、先行する滑り収束制御から締結制御へと移行することで、滑り収束とクラッチ締結のタイミングズレによるショックが解消される。さらに、作動油圧が復帰すると、油圧指令値の増大により発生する油圧と静摩擦係数(あるいは静摩擦係数相当値)により、応答良く摩擦クラッチが締結状態に移行する。
この結果、回生制動中に摩擦クラッチが滑り状態となったとき、ショック無く、且つ、滑り発生から早期に摩擦クラッチを締結状態に移行させることで、車両減速度や回生量への低下影響を最小に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の電動車の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(電動車の一例)を示す全体システム図である。
【0009】
実施例1におけるFRハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジンEngと、フライホイールFWと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、機械式オイルポンプO/Pと、第2クラッチCL2(摩擦クラッチ)と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪、M/O/Pは電動オイルポンプである。
【0010】
前記エンジンEngは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、エンジンコントローラ1からのエンジン制御指令に基づいて、エンジン始動制御やエンジン停止制御やスロットルバルブのバルブ開度制御が行われる。なお、エンジン出力軸には、フライホイールFWが設けられている。
【0011】
前記第1クラッチCL1は、前記エンジンEngとモータジェネレータMGの間に介装されたクラッチであり、第1クラッチコントローラ5からの第1クラッチ制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された第1クラッチ制御油圧により、半クラッチ状態を含み締結・開放が制御される。
【0012】
前記モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、モータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータがエンジンEngや駆動輪から回転エネルギを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、ダンパーを介して自動変速機ATの変速機入力軸に連結されている。
【0013】
前記機械式オイルポンプO/Pは、前記自動変速機ATの変速機入力軸からの回転駆動力により作動するポンプであり、例えば、ギアポンプやベーンポンプ等が用いられる。オイルポンプとしては、機械式オイルポンプO/P以外にモータの回転駆動力に作動する電動オイルポンプM/O/Pが設けられていて、機械式オイルポンプO/Pと電動オイルポンプM/O/Pを、第2クラッチCL2への締結圧を作り出す油圧源としている。そして、この油圧源は、機械式オイルポンプO/Pからの吐出油量が十分であるときは、電動オイルポンプM/O/Pを停止し、機械式オイルポンプO/Pからの吐出油圧が低下すると、電動オイルポンプM/O/Pのモータを作動させ、電動オイルポンプM/O/Pからの作動油吐出に切り替えられる。
【0014】
前記第2クラッチCL2は、前記モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRの間に介装されたクラッチであり、ATコントローラ7からの第2クラッチ制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結とスリップ開放を含み締結・開放が制御される。なお、第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに付設されるAT油圧コントロールバルブユニットCVUに内蔵している。
【0015】
前記自動変速機ATは、例えば、前進7速/後退1速等の有段階の変速段を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える有段変速機であり、前記第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、トルク伝達経路に配置される最適なクラッチやブレーキを選択している。そして、前記自動変速機ATの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0016】
前記第1クラッチCL1としては、例えば、ピストン14aを有する油圧アクチュエータ14により締結・開放が制御される乾式単板クラッチが用いられる。前記第2クラッチCL2としては、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられる。このハイブリッド駆動系は、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて、電気自動車走行モード(以下、「EVモード」という。)とハイブリッド車走行モード(以下、「HEVモード」という。)の2つの走行モードを有する。「EVモード」は、第1クラッチCL1を開放状態とし、モータジェネレータMGの動力のみで走行するモードである。「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態とし、エンジンEngとモータジェネレータMGの動力で走行するモードである。
【0017】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。
実施例1におけるFRハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、情報交換が互いに可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0018】
前記エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報と、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、エンジンEngのスロットルバルブアクチュエータ等へ出力する。
【0019】
前記モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報と、統合コントローラ10からの目標MGトルク指令および目標MG回転数指令と、他の必要情報を入力する。そして、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電容量をあらわすバッテリSOCを監視していて、このバッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いられると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0020】
前記第1クラッチコントローラ5は、油圧アクチュエータ14のピストン14aのストローク位置を検出する第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの目標CL1トルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVU内の第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。
【0021】
前記ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と、車速センサ17と、他のセンサ類18(変速機入力回転数センサ、インヒビタースイッチ等)からの情報を入力する。そして、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点がシフトマップ上で存在する位置により最適な変速段を検索し、検索された変速段を得る制御指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVUに出力する。なお、シフトマップとは、アクセル開度と車速に応じてアップシフト線とダウンシフト線を書き込んだマップをいう。上記自動変速制御に加えて、統合コントローラ10から目標CL2トルク指令を入力した場合、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVU内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する第2クラッチ制御を行う。
【0022】
前記ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19と、ブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの回生協調制御指令と、他の必要情報を入力する。そして、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(液圧制動力やモータ制動力)で補うように、回生協調ブレーキ制御を行う。
【0023】
前記統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21、油圧源からの吐出油路中に設けられたポンプ吐出圧センサ22、第2クラッチ入力軸回転数センサ23、第2クラッチ出力軸回転数センサ24、他のセンサ・スイッチ類からの必要情報およびCAN通信線11を介して情報を入力する。そして、エンジンコントローラ1へ目標エンジントルク指令、モータコントローラ2へ目標MGトルク指令および目標MG回転数指令、第1クラッチコントローラ5へ目標CL1トルク指令、ATコントローラ7へ目標CL2トルク指令、ブレーキコントローラ9へ回生協調制御指令を出力する。
【0024】
図2は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラ10にて実行される演算処理を示す制御ブロック図である。図3は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラ10でのモード選択処理を行う際に用いられるEV-HEV選択マップを示す図である。以下、図2及び図3に基づき、実施例1の統合コントローラ10にて実行される演算処理を説明する。
【0025】
前記統合コントローラ10は、図2に示すように、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400とを有する。
【0026】
前記目標駆動力演算部100では、目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
【0027】
前記モード選択部200では、図3に示すEV-HEV選択マップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPとから、「EVモード」または「HEVモード」を目標走行モードとして選択する。但し、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEVモード」を目標走行モードとする。
【0028】
前記目標充放電演算部300では、目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。
【0029】
前記動作点指令部400では、アクセル開度APOと、目標駆動力tFoOと、目標走行モードと、車速VSPと、目標充放電電力tP等の入力情報に基づき、動作点到達目標として、目標エンジントルクと目標MGトルクと目標MG回転数と目標CL1トルクと目標CL2トルクを演算する。そして、目標エンジントルク指令と目標MGトルク指令と目標MG回転数指令と目標CL1トルク指令と目標CL2トルク指令を、CAN通信線11を介して各コントローラ1,2,5,7に出力する。
【0030】
図4は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両のブレーキコントローラ9にて実行される回生制動制御処理の流れを示すフローチャートである(回生制動制御手段)。なお、このフローチャートは所定の処理周期毎に実行される。以下、図4の各ステップについて説明する。
【0031】
ステップS1では、制動操作時、要求制動トルクを摩擦制動分と回生制動分に配分する協調回生制動制御中であるか否かを判断し、YES(協調回生中)の場合はステップS2へ進み、NO(協調回生中以外)の場合はエンドへ進む。
【0032】
ステップS2では、ステップS1での協調回生中であるとの判断に続き、第2クラッチCL2の滑り状態が検出されたか否かを判断し、YES(CL2滑り検出時)の場合はステップS3へ進み、NO(CL2滑り非検出時)の場合はステップS10へ進む。
ここで、第2クラッチCL2の滑り状態は、第2クラッチ入力軸回転数センサ23からの第2クラッチ入力軸回転数と、第2クラッチ出力軸回転数センサ24からの第2クラッチ出力軸回転数のCL2差回転が、予め設定された滑り判定閾値以上の場合、第2クラッチCL2が滑り状態であると検出される。
【0033】
ステップS3では、ステップS2でのCL2滑り検出時であるとの判断、あるいは、ステップS5でのCL2差回転閾値を超えているとの判断に続き、第2クラッチCL2の差回転を無くす、すなわち、滑り状態から復帰させるように、モータジェネレータMGを回転数制御し、ステップS4へ進む。
このモータジェネレータMGの回転数制御では、第2クラッチCL2の滑りにより低下した実入力軸回転数に対し短時間にて出力軸回転数に戻す目標入力軸回転数を設定し(図5の回転数特性参照)、実入力軸回転数が目標入力軸回転数に一致するように、モータジェネレータMGの実MGトルクが高められる(図5のMGトルク特性参照)。
【0034】
ステップS4では、ステップS3でのMG回転数制御に続き、摩擦ブレーキが分担する摩擦制動分の配分量を増大するように、摩擦ブレーキへの制動力指令値を増大し、ステップS5へ進む。
ここで、摩擦ブレーキへの制動力指令値は、要求制動トルクから、第2クラッチCL2への入力トルク、回転数の変化、イナーシャから推定したクラッチ推定トルク分を差し引いた値とする(図5の目標制動トルク特性参照)。
【0035】
ステップS5では、ステップS4での摩擦ブレーキへの配分量増大に続き、第2クラッチCL2の入出力軸差回転が、予め設定されたCL2差回転閾値以内に収束したか否かを判断し、YES(CL2差回転閾値以内)の場合はステップS6へ進み、NO(CL2差回転閾値を超えている)の場合はステップS3へ戻る。
ここで、CL2差回転閾値は、第2クラッチCL2の油圧指令値に対する実油圧の応答遅れ時間を考慮して設定される。すなわち、CL2差回転がゼロに収束するタイミングと、第2クラッチCL2の実油圧が油圧指令値まで上昇するタイミングが、ほぼ一致するように設定される(図5の回転数特性とCL2油圧特性を参照)。
【0036】
ステップS6では、ステップS5でのCL2差回転閾値以内に収束したとの判断、あるいは、ステップS7での油圧源の油圧が所定値未満であるとの判断に続き、第2クラッチCL2への油圧指令値を、回生トルク指令値に安全分を上乗せした値に増大し、ステップS7へ進む。
【0037】
ステップS7では、ステップS6でのCL2油圧指令値増大に続き、電動オイルポンプM/O/Pに切り替わった油圧源からの油圧が上昇し、ポンプ吐出圧センサ22により検出された油圧源油圧(ポンプ吐出圧)が所定値以上の油圧になったか否かを判断し、YES(油圧源油圧≧所定値)の場合はステップS8へ進み、NO(油圧源油圧<所定値)の場合はステップS6へ戻る。
ここで、所定値は、第2クラッチCL2の締結を確保できる油圧(油圧指令値に相当する油圧)に設定される。
【0038】
ステップS8では、ステップS7での油圧源油圧≧所定値であるとの判断に続き、モータジェネレータMGを回転数制御からトルク制御(通常の回生指令)へと復帰させ、ステップS9へ進む。
【0039】
ステップS9では、ステップS8でのMGトルク制御に続き、第2クラッチCL2への増大した油圧指令値を、回生目標値相当の値へと復帰させ、エンドへ移行する。
このステップS9では、同時に、ステップS4にて摩擦ブレーキが分担する摩擦制動分の配分量を増大する指令を、元の摩擦制動分の配分量とする指令に復帰させる。
【0040】
ステップS10では、ステップS2でのCL2滑り非検出時であるとの判断に続き、通常の協調回生制御を継続し、エンドへ進む。
【0041】
次に、作用を説明する。
まず、「回生制動制御中に摩擦クラッチが滑り状態となったときの比較例の課題」の説明を行い、続いて、実施例1のFRハイブリッド車両の制御装置における作用を、「回生制動制御中に摩擦クラッチが滑り状態となったときの回生制動制御作用」、「協調回生制動制御による摩擦ブレーキへの配分量増大作用」、「実施例1の回生制動制御における油圧指令値の増大制御作用と復帰制御作用」に分けて説明する。
【0042】
[回生制動制御中に摩擦クラッチが滑り状態となったときの比較例の課題]
例えば、エンジン車の場合、車両停止時においてもエンジンがアイドル回転数により駆動されているため、駆動系の回転力により作動する機械式オイルポンプからの吐出油圧が確保され、駆動トルクや制動トルクの伝達経路に設けられた油圧締結による摩擦クラッチの締結状態を維持することが可能である。
【0043】
しかし、電動車(ハイブリッド車や電気自動車等)の場合には、車両減速時には減速に応じて走行用モータが減速されるし、車両が停止すると走行用モータも停止されるため、駆動系の回転力により作動する機械式オイルポンプからの吐出油量が不足する。したがって、電動車の場合には、機械式オイルポンプ以外に電動オイルポンプを装備していて、機械式オイルポンプからの吐出油圧が低下すると、電動オイルポンプからの作動油吐出に切り替える油圧源の構成としている。
【0044】
このように、油圧源として、機械式オイルポンプと電動オイルポンプを切り替える比較例のシステムにおいては、車両減速の途中である回生制動中に機械式オイルポンプからの吐出油量が不足すると、機械式オイルポンプから電動オイルポンプに切り替えられるが、この切り替え過渡期において摩擦クラッチへの締結油圧が低下し、摩擦クラッチが滑り状態となる場合がある。この回生制動中における摩擦クラッチの滑り発生に対しては、少なくとも作動油圧が復帰するまで待つ必要がある。そして、作動油圧が復帰することで締結トルクが発生すると、摩擦クラッチを再締結することになる。
【0045】
このため、例えば、油圧指令値を維持したままとすると、作動油圧が復帰するまで待った後、油圧力により摩擦クラッチの滑り状態を収束させながら締結状態に移行することになる。また、摩擦クラッチが滑り状態においては、動摩擦係数(<静摩擦係数)であるため、摩擦クラッチが締結状態に移行するまでに長時間を要する。この結果、回生制動の途中で、車両減速度が低下する状態が続き、ドライバー等の乗員に違和感を与えることになるし、所望の回生量が確保できなくなる。特に、エンジンとモータジェネレータを併載したハイブリッド車両の場合、回生量の低下がそのままエンジンの燃費低下に繋がる。
【0046】
一方、例えば、時間短縮を目指し、油圧指令値を増大すると、作動油圧が復帰するまで待った後、高い油圧力により摩擦クラッチが一気に締結状態に移行することになる。つまり、摩擦クラッチの滑り状態が収束しないうちに摩擦クラッチが締結されてしまうことになり、滑り収束タイミングとクラッチ締結タイミングがずれ、伝達トルクが変動することにより、回生制動の途中で車両が前後に揺らされるショックが発生する。
【0047】
[回生制動制御中に摩擦クラッチが滑り状態となったときの回生制動制御作用]
図5は、実施例1のFRハイブリッド車両において協調回生制動による車両減速の途中で第2クラッチCL2が滑り状態となったときの目標制動トルク・回転数・MGトルク・CL2油圧・MG制御の各特性を示すタイムチャートである。以下、図4および図5を用いクラッチ油圧不足時の回生制動制御作用を説明する。
【0048】
ブレーキペダル踏み込み操作による減速時、協調による回生制動実行中であるが、第2クラッチCL2の滑りが検出されないとき、図4に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS10→エンドへと進む流れが繰り返される。すなわち、ブレーキペダル踏み込み操作量にあらわれる要求制動トルクを、各輪に設けられた摩擦ブレーキにて分担する摩擦制動分と、モータジェネレータMGの発電により分担する回生制動分に配分する通常の協調回生制動制御を実行する。
【0049】
この協調による回生制動実行中に、第2クラッチCL2の滑りが検出されると、図4に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5へと進み、ステップS5での第2クラッチCL2の差回転収束条件が成立しない限り、ステップS3→ステップS4→ステップS5へと進む流れが繰り返される。すなわち、ステップS3においては、第2クラッチCL2の差回転を無くすように、モータジェネレータMGを回転数制御する。ステップS4においては、摩擦ブレーキが分担する摩擦制動分の配分量を増大するように、摩擦ブレーキへの制動力指令値を増大する。
【0050】
そして、ステップS5での第2クラッチCL2の差回転収束条件が成立すると、図4に示すフローチャートにおいて、ステップS5からステップS6→ステップS7へと進み、ステップS7での油圧源油圧条件が成立しない限り、ステップS6→ステップS7へと進む流れが繰り返される。すなわち、ステップS6においては、第2クラッチCL2への油圧指令値を、回生トルク指令値に安全分を上乗せした値に増大する。
【0051】
そして、ステップS7での油圧源油圧条件が成立すると、図4に示すフローチャートにおいて、ステップS7からステップS8→ステップS9→エンドへと進む。すなわち、ステップS8においては、モータジェネレータMGの制御を、回転数制御からトルク制御へと復帰させる。ステップS9では、第2クラッチCL2への増大した油圧指令値を、回生目標値相当の値へと復帰させると共に、摩擦ブレーキが分担する増大させた摩擦制動分の配分量を、元の摩擦制動分の配分量とする指令に復帰させる。
【0052】
そして、第2クラッチCL2の滑りが収束し、第2クラッチCL2の滑りが検出されなくなると、図4に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS10→エンドへと進む流れが繰り返され、再び、通常の協調回生制動制御が実行される。
【0053】
上記のように、実施例1にあっては、回生制動制御中、油圧源を電動オイルポンプM/O/Pに切り替えることに伴い、図5の時刻t1にて、第2クラッチCL2が滑り状態であることが検出されると、第2クラッチCL2の差回転を小さくするようにモータジェネレータMGの回転数制御が開始されると共に、摩擦ブレーキが分担する摩擦制動分の配分量を増大する制御が開始される。
【0054】
そして、図5の時刻t2にて、第2クラッチCL2の入出力軸差回転が、予め設定されたCL2差回転閾値以内に収束したと判断されると、第2クラッチCL2への油圧指令値が、回生トルク指令値に安全分を上乗せした値に増大される。
【0055】
そして、図5の時刻t3にて、油圧源油圧が所定値以上、つまり、第2クラッチCL2の締結を確保できる油圧に回復したと判断されると、モータジェネレータMGの制御をトルク制御へと復帰させ、第2クラッチCL2への油圧指令値を回生目標値相当の値へと復帰させ、摩擦ブレーキへの指令を元の摩擦制動分の配分量とする指令に復帰させる。
【0056】
上記のように、実施例1では、モータジェネレータMGによる回転数制御にて第2クラッチCL2の滑り状態を抑えた後、第2クラッチCL2への油圧指令値を増大するという制御を採用した。このため、作動油圧が復帰するまでの待ち時間を利用し、応答性の高いモータジェネレータMGによる回転数制御により、第2クラッチCL2の滑り状態を抑えることができる。したがって、単に油圧指令値を増大する場合のような、滑り収束タイミングとクラッチ締結タイミングのズレによるショックが解消される。さらに、作動油圧が復帰すると、油圧指令値の増大により発生する油圧と静摩擦係数(あるいは静摩擦係数相当値)により、応答良く第2クラッチCL2が締結状態に移行する。このように、滑り収束制御と締結制御を切り分け、滑り収束制御側については、応答性が高く、且つ、油圧の有無に無関係なモータジェネレータMGによる回転数制御に委ねたことで、第2クラッチCL2が滑り状態となってから締結状態に復帰するまでに要する時間を、比較例に比べ大幅に短縮することができる。この結果、回生制動中に第2クラッチCL2が滑り状態となった場合、車両減速度や回生量への低下影響を最小限に抑えることができる。
【0057】
[協調回生制動制御による摩擦ブレーキへの配分量増大作用]
実施例1は、制動操作時、要求制動トルクを摩擦制動分と回生制動分に配分する協調回生制動制御を行う。そして、図5の目標制動トルク特性に示すように、第2クラッチCL2が滑り状態で回生制動分が減少する時刻t1から時刻t3までの間、要求制動トルクを維持するように摩擦制動分の配分を増加させる。
すなわち、第2クラッチCL2が滑っている場合でも、滑り締結によるクラッチ推定トルク分は、第2クラッチCL2を介して左右後輪RL,RRへ伝達されるため、図5の目標制動トルク特性に示すように、回生制動分の減少分を補填することで要求制動トルクを維持する作用を示す。
したがって、第2クラッチCL2の滑りにより回生制動分が減少しても、その減少分を摩擦制動分の配分増加により補填することで、第2クラッチCL2が滑っている間でも要求制動トルクが維持されることになり、一定の車両減速度による安定した制動性能を確保することができる。
【0058】
[実施例1の回生制動制御における油圧指令値の増大制御作用と復帰制御作用]
実施例1の回生制動制御では、モータジェネレータMGの回転数制御により第2クラッチCL2の差回転が閾値以内に収束すると、第2クラッチCL2への油圧指令値の増大を開始するようにしている。
すなわち、モータジェネレータMGの制御応答性に比べ、第2クラッチCL2の油圧応答性は劣るため、油圧源が滑り検出直前状態に復帰したことを確認して第2クラッチCL2への油圧指令値の増大を開始すると、モータジェネレータMGをトルク制御に戻した後、第2クラッチCL2が再滑りを生じることがある。
これに対し、実施例1では、油圧源が復帰する前に第2クラッチCL2への油圧指令値の増大を開始することで、モータジェネレータMGをトルク制御に戻した後、第2クラッチCL2が再滑りすることを防止できる。
【0059】
実施例1の回生制動制御では、第1クラッチCL1への油圧指令値を、回生制動トルク指令値より大きな値としている。
すなわち、第2クラッチCL2の油圧応答性は劣るため、第2クラッチCL2への油圧指令値を回生制動トルク指令値まで増大させると、第2クラッチCL2の実油圧が回生制動トルク指令値レベルまで立ち上がるのが遅れてしまう。
これに対し、実施例1では、第1クラッチCL1への油圧指令値を回生制動トルク指令値より大きな値とすることで、回生制動トルク指令値まで増大させる場合に比べ、応答良く第2クラッチCL2を締結状態へ移行させることができる。
【0060】
そして、第2クラッチCL2の差回転が閾値以内に収束するタイミングで、第2クラッチCL2への油圧指令値の増大を開始し、且つ、油圧指令値を回生制動トルク指令値より大きな値まで増大とすることで、油圧源が復帰するタイミングで第2クラッチCL2を締結状態へ移行させることが可能となる。つまり、図5において、時刻t1から時刻t3までの滑り状態の第2クラッチCL2を締結状態へ移行完了するのに要する時間を、油圧源の油圧が復帰するまでに要する時間にほぼ一致させることができる。
【0061】
実施例1の第2クラッチCL2は、駆動系回転力により作動する機械式オイルポンプO/Pからの吐出油圧が低下すると、電動オイルポンプM/O/Pからの作動油吐出に切り替える油圧源を有し、回生制動制御において、第2クラッチCL2への油圧指令値を増大中に、油圧源からの吐出油圧が確保されると、モータジェネレータMGを回転数制御からトルク制御に復帰させると共に、第2クラッチCL2への油圧指令値を回生目標値相当の値に復帰させるようにしている。
すなわち、油圧源からの吐出油圧が確保されても第2クラッチCL2への油圧指令値を増大させたままにしておくと、電動オイルポンプM/O/Pから無駄な吐出量が生じる。また、次回のエンジン始動制御や変速制御等において、第2クラッチCL2をスリップさせる制御に移行する場合に、高圧側から締結圧を低減させてのスリップ制御となり、スリップ制御への移行に時間を要する。
これに対し、実施例1では、油圧源からの吐出油圧が確保されると、油圧指令値を回生量に応じた値(伝達トルクに応じた値)に戻すことで、電動オイルポンプM/O/Pからの無駄な吐出を抑えることができる。また、第2クラッチCL2の締結トルクを回生量に応じたトルクに戻しておくことで、その後、第2クラッチCL2をスリップさせる制御に移行する場合にスムーズにスリップ制御へ移行することができる。
【0062】
次に、効果を説明する。
実施例1のFRハイブリッド車の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0063】
(1) モータジェネレータMGと駆動輪(左右後輪RL,RR)の間に油圧締結による摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)を介装し、制動要求時、前記モータジェネレータMGを発電モードとし、前記摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)を経過して前記駆動輪(左右後輪RL,RR)に回生制動トルクを付与する回生制動制御手段を備えた電動車(FRハイブリッド車)の制御装置において、前記回生制動制御手段(図4)は、回生制動制御中、前記摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)が滑り状態であることを検出したら、前記摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)の差回転を小さくするように前記モータジェネレータMGの回転数を制御し、前記摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)の差回転を小さくした後、前記摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)への油圧指令値を増大させる。このため、回生制動中に摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)が滑り状態となったとき、ショック無く、且つ、滑り発生から早期に摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)を締結状態に移行させることで、車両減速度や回生量への低下影響を最小に抑えることができる。
【0064】
(2) 前記回生制動制御手段(図4)は、制動操作時、要求制動トルクを摩擦制動分と回生制動分に配分する協調回生制動制御を行う手段であり、前記摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)が滑り状態で回生制動分が減少する間、要求制動トルクを維持するように摩擦制動分の配分を増加させる。このため、摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)が滑っている間でも要求制動トルクが維持されることになり、一定の車両減速度による安定した制動性能を確保することができる。
【0065】
(3) 前記回生制動制御手段(図4)は、前記モータジェネレータMGの回転数制御により前記摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)の差回転が閾値以内に収束すると、前記摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)への油圧指令値の増大を開始する。このため、油圧源が復帰する前に第2クラッチCL2への油圧指令値の増大が開始されることになり、モータジェネレータMGをトルク制御に戻した後、第2クラッチCL2が再滑りすることを防止できる。
【0066】
(4) 前記回生制動制御手段(図4)は、前記摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)への油圧指令値を、回生制動トルク指令値より大きな値とした。このため、回生制動トルク指令値まで増大させる場合に比べ、応答良く第2クラッチCL2を締結状態へ移行させることができる。
【0067】
(5) 前記摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)は、駆動系回転力により作動する機械式オイルポンO/Pからの吐出油圧が低下すると、電動オイルポンプM/O/Pからの作動油吐出に切り替える油圧源を有し、前記回生制動制御手段(図4)は、前記摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)への油圧指令値を増大中に、前記油圧源からの吐出油圧が確保されると、前記モータジェネレータMGを回転数制御からトルク制御に復帰させると共に、前記摩擦クラッチ(第2クラッチCL2)への油圧指令値を回生目標値相当の値に復帰させる。このため、電動オイルポンプM/O/Pからの無駄な吐出を抑えることができると共に、その後、第2クラッチCL2をスリップさせる制御に移行する場合にスムーズにスリップ制御へ移行することができる。
【0068】
以上、本発明の電動車の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0069】
実施例1では、摩擦ブレーキと回生ブレーキの協調による回生制動制御の例を示した。しかし、例えば、協調回生制動制御を行わず、減速要求時に回生ブレーキでのみ車両減速を行うような例としても良い。
【0070】
実施例1では、油圧源に機械式オイルポンプと電動オイルポンプを有する例を示し、ポンプ切り替えにより摩擦クラッチが滑り状態となるものを例示した。しかし、油圧源に1つのオイルポンプを有し、回生制動中に何らかの原因により一時的に油圧の低下があるような例にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
実施例1では、FRハイブリッド車への適用例を示したが、FFハイブリッド車や電気自動車や燃料電池車等のような、他の電動車に対しても適用することができる。実施例1では、摩擦クラッチとして、自動変速機に内蔵された摩擦締結要素(第2クラッチ)を用いる例を示した。しかし、自動変速機の上流位置や下流位置に独立に摩擦クラッチを設けても良い。また、自動変速機を有さずモータジェネレータと駆動輪の間に摩擦クラッチのみを介装したシステムにも適用できる。要するに、モータジェネレータと駆動輪の間に油圧締結による摩擦クラッチを介装した電動車であれば適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(電動車の一例)を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラ10にて実行される演算処理を示す制御ブロック図である。
【図3】実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラ10でのモード選択処理を行う際に用いられるEV-HEV選択マップを示す図である。
【図4】実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両のブレーキコントローラ9にて実行される回生制動制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例1のFRハイブリッド車両において協調回生制動による車両減速の途中で第2クラッチCL2が滑り状態となったときの目標制動トルク・回転数・MGトルク・CL2油圧・MG制御の各特性を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0073】
Eng エンジン
FW フライホイール
CL1 第1クラッチ
MG モータジェネレータ
O/P 機械式オイルポンプ(油圧源)
M/O/P 電動オイルポンプ(油圧源)
CL2 第2クラッチ(摩擦クラッチ)
AT 自動変速機
PS プロペラシャフト
DF ディファレンシャル
DSL 左ドライブシャフト
DSR 右ドライブシャフト
RL 左後輪(駆動輪)
RR 右後輪(駆動輪)
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
5 第1クラッチコントローラ
6 第1クラッチ油圧ユニット
7 ATコントローラ
8 第2クラッチ油圧ユニット
9 ブレーキコントローラ
10 統合コントローラ
11 CAN通信線
12 エンジン回転数センサ
13 レゾルバ
14 油圧アクチュエータ
14a ピストン
15 第1クラッチストロークセンサ
16 アクセル開度センサ
17 車速センサ
18 インヒビタースイッチ
19 車輪速センサ
20 ブレーキスイッチセンサ
21 モータ回転数センサ
22 ポンプ吐出圧センサ
23 第2クラッチ入力軸回転数センサ
24 第2クラッチ出力軸回転数センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータジェネレータと駆動輪の間に油圧締結による摩擦クラッチを介装し、制動要求時、前記モータジェネレータを発電モードとし、前記摩擦クラッチを経過して前記駆動輪に回生制動トルクを付与する回生制動制御手段を備えた電動車の制御装置において、
前記回生制動制御手段は、回生制動制御中、前記摩擦クラッチが滑り状態であることを検出したら、前記摩擦クラッチの差回転を小さくするように前記モータジェネレータの回転数を制御し、前記摩擦クラッチの差回転を小さくした後、前記摩擦クラッチへの油圧指令値を増大させることを特徴とする電動車の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電動車の制御装置において、
前記回生制動制御手段は、制動操作時、要求制動トルクを摩擦制動分と回生制動分に配分する協調回生制動制御を行う手段であり、前記摩擦クラッチが滑り状態で回生制動分が減少する間、要求制動トルクを維持するように摩擦制動分の配分を増加させることを特徴とする電動車の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された電動車の制御装置において、
前記回生制動制御手段は、前記モータジェネレータの回転数制御により前記摩擦クラッチの差回転が閾値以内に収束すると、前記摩擦クラッチへの油圧指令値の増大を開始することを特徴とする電動車の制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか1項に記載された電動車の制御装置において、
前記回生制動制御手段は、前記摩擦クラッチへの油圧指令値を、回生制動トルク指令値より大きな値としたことを特徴とする電動車の制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか1項に記載された電動車の制御装置において、
前記摩擦クラッチは、駆動系回転力により作動する機械式オイルポンプからの吐出油圧が低下すると、電動オイルポンプからの作動油吐出に切り替える油圧源を有し、
前記回生制動制御手段は、前記摩擦クラッチへの油圧指令値を増大中に、前記油圧源からの吐出油圧が確保されると、前記モータジェネレータを回転数制御からトルク制御に復帰させると共に、前記摩擦クラッチへの油圧指令値を回生目標値相当の値に復帰させることを特徴とする電動車の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−111195(P2010−111195A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284052(P2008−284052)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】