説明

MEMS及びMEMSの製造方法

【課題】回路構成の設計自由度の高いMEMS及びMEMSの製造方法を提供する。
【解決手段】基板10と、基板10の一方の面側に設けられる第1半導体部21と、基板10の一方の面側に設けられる振動子31と、を備えるMEMSにおいて、第1半導体部21の側面側に設けられ、かつ基板表面に対して略垂直な第1面21aと、振動子31の側面側に設けられ、かつ基板表面に平行な方向において第1面21aと対向する第2面31aが設けられると共に、第2面31a側の表層部分は第1面21a側をゲート電極として電圧が印加された際にチャネルとなることで、第1半導体部21における第1面21aを含む部分と振動子31における第2面31aを含む部分とで電界効果トランジスタが構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS及びMEMSの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電界効果トランジスタ構造を備えたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems (微小機械電気システム))が知られている(特許文献1〜4参照)。従来知られている電界効果トランジスタ構造を備えたMEMSにおいては、ゲート電極とチャネルが、基板表面に垂直な方向において対向する構成である。そのため、回路構成の設計自由度が低いという問題がある。すなわち、ゲート電極となる層と、チャネルとなる層が、基板表面に対して積み重ねられる方向に、かつ各層の間に隙間を空けて設けられる構成となるため、例えば2つのトランジスタを接続させる回路など、複雑な回路を簡単に構成することはできない。
【0003】
ここで、MEMSによって電界効果トランジスタ構造を構成する場合には、Q値が高いというMEMS振動子の特性を活かすことができる。すなわち、例えば、チャネルをMEMS振動子に設けることによって、ある特定の周波数の振動時において、相互コンダクタンスを極めて大きくすることができる。これにより、特定の周波数の振動時にのみ、電流値を大幅に増幅できるという利点がある。そのため、各種センサやRFフィルタなどに好適に利用することができる。
【0004】
しかしながら、従来知られている電界効果トランジスタ構造を備えたMEMSの場合、MEMS振動子は、基板表面に対して垂直な方向に振動する構成であり、基板表面に対して平行に振動させる用途で用いることはできない。
【0005】
なお、基板表面に対して平行な方向に振動する振動子を備えたMEMSに関する技術も知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、かかるMEMSをセンサなどに利用する場合には、当該MEMSに増幅回路などの各種外部回路を接続する必要がある。ここで、MEMSは電気機械結合係数が小さく信号の減衰が大きいという特性を有する。また、MEMSはキャパシタンス容量が小さいという特性を有する。そのため、当該MEMSを用いてセンサなどを構成すると、外部回路のインピーダンス(浮遊容量)が高く、ノイズが大きくなり、また、信号の減衰が大きくなってしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−167814号公報
【特許文献2】特開平9−229688号公報
【特許文献3】特開2006−159300号公報
【特許文献4】特開2006−100819号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Wei−Chang Li, et al.,「QUALITY FACTOR ENHANCEMENT IN MICROMECHANICAL RESONATORS AT CRYOGENIC TEMPERATURES」 Transducers 2009, Denver, CO, USA, June 21−25, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、回路構成の設計自由度の高いMEMS及びMEMSの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0010】
すなわち、本発明のMEMSは、
基板と、
前記基板の一方の面側に設けられる第1半導体部と、
前記基板の前記一方の面側に設けられる第2半導体部と、
を備えるMEMSにおいて、
第1半導体部の側面側に設けられ、かつ前記基板表面に対して略垂直な第1面と、
第2半導体部の側面側に設けられ、かつ前記基板表面に平行な方向において第1面と対向する第2面が設けられると共に、
第2面側の表層部分は第1面側をゲート電極として電圧が印加された際にチャネルとなることで、第1半導体部における第1面を含む部分と第2半導体部における第2面を含む部分とで電界効果トランジスタが構成されることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、電界効果トランジスタ構造が、半導体部の側面側に形成されるゲート電極やチャネルによって構成される。従って、基板表面に垂直な方向において対向する層間で電界効果トランジスタ構造が構成される場合に比して、回路構成の設計自由度を高めることができる。
【0012】
第2半導体部は、第1半導体部と第2半導体部との間に駆動電圧が印加されることで前記基板表面に平行な方向に変形可能に構成されているとよい。
【0013】
これにより、第2半導体部が基板表面に平行な方向に変形することで、第1面と第2面との位置関係を変化させることができる。
【0014】
第2半導体部は、第1面と第2面との対向面の間隔が変化する方向に変形可能に構成されているとよい。
【0015】
これにより、ゲート電極とチャネルとの距離を変化させることができる。なお、本発明においては、第1面と第2面は初期状態(駆動電圧が印加されていない状態)では接触していてもよいし、第2半導体部の変形の過程で、接触するように構成されていてもよい。以下においても、同様である。
【0016】
第2面は、第2半導体部が変形した場合における応力発生部位に設けられているとよい。
【0017】
これにより、ピエゾ抵抗効果によって、第2面部分の電気抵抗が変化する。特に、チャネルとなる部位をn型半導体とすることにより、ピエゾ抵抗効果に伴い、チャネルの電気抵抗を下げることが可能となる。
【0018】
第1半導体部は、第1半導体部と第2半導体部との間に駆動電圧が印加されることで前記基板表面に平行な方向に変形可能に構成されているとよい。
【0019】
これにより、第1半導体部が基板表面に平行な方向に変形することで、第1面と第2面との位置関係を変化させることができる。なお、上記の通り、第2半導体部も基板表面に
平行な方向に変形する構成を採用することで、第1面と第2面との位置関係を、より多様に変化させることができる。
【0020】
第1半導体部は、第1面と第2面との対向面の間隔が変化する方向に変形可能に構成されているとよい。
【0021】
これにより、ゲート電極とチャネルとの距離を変化させることができる。なお、上記の通り、第2半導体部も、第1面と第2面との対向面の間隔が変化する方向に変形可能に構成することで、ゲート電極とチャネルとの距離をより効率良く変化させることができる。
【0022】
第2半導体部の側面側には、複数の第2面が設けられ、かつ各第2面に対してそれぞれ第1面が対向するように複数の第1半導体部が設けられることによって、複数の電界効果トランジスタが構成されるとよい。
【0023】
これにより、一つの第2半導体部に対して複数の電界効果トランジスタ構造が構成され、各種回路を構成することが可能となる。
【0024】
第2半導体部は、前記基板に対して複数の箇所で支持されると共に、第1半導体部と第2半導体部との間に駆動電圧が印加されることで前記基板表面に平行な方向に振動可能に構成されたリング状の振動子であるとよい。
【0025】
これにより、Q値が高いというMEMS振動子の特性を利用できる。また、リング状の振動子は、基板表面に平行な方向に振動するため、基板表面に対して平行に振動させる用途に用いることができる。
【0026】
第1半導体部は、前記基板に対して複数の箇所で支持されると共に、第1半導体部と第2半導体部との間に駆動電圧が印加されることで前記基板表面に平行な方向に振動可能に構成されたリング状の振動子であり、
リング状の第1半導体部の外周壁面と、リング状の第2半導体部の外周壁面との対向する部位が、それぞれ第1面及び第2面であるとよい。
【0027】
また、第2半導体部は、前記基板に対して複数の箇所で支持されると共に、第1半導体部と第2半導体部との間に駆動電圧が印加されることで前記基板表面に平行な方向に振動可能に構成されたディスク状の振動子であるとよい。
【0028】
これにより、Q値が高いというMEMS振動子の特性を利用できる。また、ディスク状の振動子は、基板表面に平行な方向に振動するため、基板表面に対して平行に振動させる用途に用いることができる。
【0029】
第1半導体部は、前記基板に対して複数の箇所で支持されると共に、第1半導体部と第2半導体部との間に駆動電圧が印加されることで前記基板表面に平行な方向に振動可能に構成されたディスク状の振動子であり、
ディスク状の第1半導体部の外周壁面と、ディスク状の第2半導体部の外周壁面との対向する部位が、それぞれ第1面及び第2面であるとよい。
【0030】
また、第1半導体部と第2半導体部により櫛歯状の構造体を形成しており、少なくともいずれか一方の少なくとも一部が前記基板表面に平行な方向に振動可能に構成されているとよい。
【0031】
第2半導体部には、チャネルとなる部分を挟んで、前記基板表面に平行な方向における
両側に、それぞれソース電極とドレイン電極が設けられるとよい。
【0032】
第2半導体部には、チャネルとなる部分を挟んで、第2半導体部の表面側にソース電極とドレイン電極のうちの一方が設けられ、裏面側に他方が設けられることも好適である。
【0033】
この構成を採用した場合には、チャネル幅を広くすることができるため、相互コンダクタンスを大きくすることができる。
【0034】
第1面はエッチングによって形成されるエッチング面であるとよい。また、第1面は表面が酸化された後にフッ酸により酸化膜が除去された面であることも好適である。更に、第1面はエピタキシャル成長による処理が施された面で構成されることも好適である。
【0035】
第2面はエッチングによって形成されるエッチング面であるとよい。また、第2面は表面が酸化された後にフッ酸により酸化膜が除去された面であることも好適である。更に、第2面はエピタキシャル成長による処理が施された面で構成されることも好適である。
【0036】
また、本発明のMEMSの製造方法は、
基板上に形成されたレジストパターンをマスクとしてエッチングを施すことによって、側面側に対向する部位を有する一対の半導体部を備えたMEMSを製造する製造方法であって、
前記一対の半導体部を形成するエッチング工程においては、前記対向する部位におけるエッチング界面の欠陥密度が、電界効果トランジスタの動作レベルとなるエッチングを施すことを特徴とする。
また、本発明のMEMSの製造方法は、
基板上に形成されたレジストパターンをマスクとしてエッチングを施すことによって、側面側に対向する部位を有する一対の半導体部を備えたMEMSを製造する製造方法であって、
前記対向する部位を酸化させた後に、フッ酸により酸化膜を除去することによって、前記対向する部位におけるエッチング界面の欠陥密度を、電界効果トランジスタの動作レベルとすることを特徴とする。
また、本発明のMEMSの製造方法は、
基板上に形成されたレジストパターンをマスクとしてエッチングを施すことによって、側面側に対向する部位を有する一対の半導体部を備えたMEMSを製造する製造方法であって、
前記対向する部位に対してエピタキシャル成長による処理を施すことによって、前記対向する部位におけるエッチング界面の欠陥密度を、電界効果トランジスタの動作レベルとすることを特徴とする。
【0037】
これらの製造方法により、半導体部の側面側に形成されるゲート電極やチャネルによって構成される電界効果トランジスタ構造を備えるMEMSを製造することができる。
【0038】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、回路構成の設計自由度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は本発明の実施例1に係るMEMSの斜視図である。
【図2】図2は本発明の実施例1に係るMEMSの一部破断斜視図である。
【図3】図3は本発明の実施例1に係るMEMSの製造工程図である。
【図4】図4は本発明の実施例1に係るMEMSの製造工程図である。
【図5】図5は本発明の実施例1に係るMEMSの製造工程図である。
【図6】図6は本発明の実施例1に係るMEMSの製造工程図である。
【図7】図7は本発明の実施例1に係るMEMSの断面図である。
【図8】図8は本発明の実施例1に係るMEMSの断面図である。
【図9】図9は本発明の実施例2に係るMEMSの概略構成を示す斜視図である。
【図10】図10は本発明の実施例3に係るMEMSの概略構成を示す斜視図である。
【図11】図11は本発明の実施例4に係るMEMSの概略構成を示す図である。
【図12】図12は本発明の実施例5に係るMEMSの概略構成を示す斜視図である。
【図13】図13は本発明の実施例6に係るMEMSの斜視図である。
【図14】図14は本発明の実施例6に係るMEMSの概略構成を示す斜視図である。
【図15】図15は本発明の実施例6に係るMEMSの概略構成を示す斜視図である。
【図16】図16は本発明の実施例6に係るMEMSの概略構成を示す斜視図である。
【図17】図17は本発明の実施例6に係るMEMSの概略構成を示す斜視図である。
【図18】図18は本発明の実施例7に係るMEMSの斜視図である。
【図19】図19は本発明の実施例7に係るMEMSの製造工程図である。
【図20】図20は本発明の実施例7に係るMEMSの製造工程図である。
【図21】図21は本発明の実施例7に係るMEMSの製造工程図である。
【図22】図22は本発明の実施例8に係るMEMSの概略構成を示す斜視図である。
【図23】図23は本発明の実施例9に係るMEMSの概略構成を示す斜視図である。
【図24】図24は本発明の実施例10に係るMEMSの斜視図である。
【図25】図25は本発明の実施例10に係るMEMSの断面図である。
【図26】図26は本発明の実施例10に係るMEMSの製造工程図である。
【図27】図27は本発明の実施例10に係るMEMSの製造工程図である。
【図28】図28は本発明の実施例10に係るMEMSの製造工程図である。
【図29】図29は本発明の実施例10に係るMEMSの製造工程図である。
【図30】図30は本発明の実施例10に係るMEMSの製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0042】
(実施例1)
図1〜図8を参照して、本発明の実施例1に係るMEMS(Micro Electro Mechanical Systems (微小機械電気システム))について説明する。
【0043】
<MEMSの全体構成>
特に、図1及び図2を参照して、本発明の実施例1に係るMEMSの全体構成等につい
て説明する。
【0044】
本実施例に係るMEMS100は、基板10と、基板10の一方の面側に設けられる第1半導体部21,22,23,24と、同じく基板10の一方の面側に設けられる第2半導体部としてのリング状の振動子31とを備えている。本実施例における基板10は、シリコン製の基板である。
【0045】
リング状の振動子31は4つの支持部32,33,34,35によって4箇所で支持されている。なお、振動子31は、リングの中心に対して、90°間隔で支持されている。そして、これら4つの支持部32,33,34,35のうち、隣り合う支持部の間にそれぞれ第1半導体部21,22,23,24が設けられている。なお、基板10と第1半導体部21,22,23,24との間、及び基板10と支持部32,33,34,35との間には酸化膜11が形成されている。
【0046】
ここで、第1半導体部21,22,23,24における側面、及び振動子31における側面は、いずれもエッチングによって形成される。第1半導体部21,22,23,24における各側面のうち、振動子31に対向する部位を第1面21a,22a,23a,24aと称する。また、振動子31の側面のうち、第1半導体部21,22,23,24に対向する部位を第2面31aと称する。上記の各側面は、基板10に対して略垂直な面(設計上は垂直な面)で構成される。従って、第1面21a,22a,23a,24aと第2面31aは、それぞれ基板表面に平行な方向において対向している。
【0047】
そして、本実施例においては、第1面21a,22a,23a,24a及び第2面31aは、エッチング界面の欠陥密度が、電界効果トランジスタの動作レベルとなるように構成されている。
【0048】
以上のような構成により、一つの第1半導体部と、当該第1半導体部の両側の支持部と、振動子31の一部(当該第1半導体部の第1面に対向する第2面を含む部分)によって、電界効果トランジスタ構造を構成することが可能となる。
【0049】
ここでは、その一例として、第1半導体部21と、支持部32,33と、振動子31における第1面21aに対向する部位の第2面31aを含む部分とで電界効果トランジスタ構造を構成する場合を説明する。
【0050】
この場合、例えば、第1半導体部21をゲート電極、支持部32をソース電極、支持部33をドレイン電極、第2面31a側の表層部分をチャネルとする電界効果トランジスタ構造を構成させることができる。すなわち、振動子31の本体部分をp型半導体で構成し、振動子31における支持部32との接続部付近32a、及び支持部33との接続部付近33aについてはn型半導体で構成する。そして、第1半導体部21をゲート電極、支持部32をソース電極、支持部33をドレイン電極として回路を構成する。以上の構成により、ゲート電極である第1半導体部21に電圧をかけることによって、この第1半導体部21の第1面21aに対向する第2面31aの付近がチャネルとして機能し、電界効果トランジスタ構造が構成される。
【0051】
また、本実施例においては、第1半導体部21,22,23,24のうちのいずれかを駆動電極として駆動電圧(直流電圧と交流電圧を重畳させた電圧)をかけることによって、振動子31を基板10の表面に平行な方向に振動させることができる。これにより、振動子31は、交流電圧における特定の周波数で共振し、この特定の周波数の際に、チャネル部分における相互コンダクタンスを極めて高くすることができる。従って、特定の周波数でのみ、電流値を増幅させることが可能となる。また、駆動電圧における直流電圧値を
変更することで、振動子31が共振する周波数を変更することも可能である。すなわち、直流電圧値を高くすると、共振周波数を低くすることができる。これにより、各種センサやRFフィルタなど様々なものに応用できる。
【0052】
なお、直流電圧値を高くすると、共振周波数が低くなる理由について簡単に説明する。例えば、変位によってギャップが変化するような静電型アクチュエータの場合、動作行列において、バネと同じ効果を有する項があり、電圧を高くすると電圧の大きさの2乗に比例して当該バネのバネ定数が小さくなる(ソフトスプリング効果)ことが知られている。このように、電圧を高くすると、動作行列において、バネと同じ効果を有する項の値が小さくなり、共振周波数((バネ定数÷質量)1/2÷2π)が小さくなる。
【0053】
<MEMSの製造方法>
図3〜図8を参照して、本発明の実施例1に係るMEMSの製造方法について説明する。図3〜図6は工程図を示しており、説明の便宜上、図3(a)を工程1、同図(b)を工程2、同図(c)を工程3、図4(a)を工程4、同図(b)を工程5、同図(c)を工程6、図5(a)を工程7、同図(b)を工程8、同図(c)を工程9、図6(a)を工程10、同図(b)を工程11、同図(c)を工程12と称する。これら各工程図において、図中左側は上方から見た斜視図であり、右側は同図中のXX断面図である。
【0054】
まず、SOIウエハ200を準備する。SOIウエハ200は、ベース基板となる厚さ300μmの下部Si層210と、中間層となる厚さ2μmのSiO層211と、上層である厚さ2μmの上部SOI層212とからなる3層構造の基板である。上部SOI層212の表面は、単結晶Siの主面(001)に選ばれており、伝導型はp型、比抵抗は10Ωcmである。
【0055】
<<工程1(図3(a))>>
上部SOI層212上に、スピンコーターにより3000rpm,30secの条件でレジスト213を塗布し、ベーク炉において90℃,20minの条件でベークする。その後、紫外線露光を4sec、現像を1.5min行って、面領域Rを残し、他の領域のレジストを除去する。
【0056】
<<工程2(図3(b))>>
面領域Rのレジスト213をマスクとして、シリコン深堀エッチング装置により、上部SOI層212をエッチングする。これにより、レジスト213と同じ平面形状を有する中間構造体230がSiO層211上に形成される。
【0057】
ここで、この中間構造体230は、円筒部231とこの円筒部231に接続された4つの支持部232,233,234,235とからなる。それぞれの支持部232,233,234,235は円筒部231の中心から角度を定めた場合において、隣り合う支持部間の角度がそれぞれ90°となるように、[100]及び[010]方向に沿って配置されている。
【0058】
円筒構造の面内振動は、円周方向波数nと軸方向波数mの2つの波数により決定される。本実施例における円筒部231に対する支持部232,233,234,235の配置の場合には、n=2,m=1で定められる固有振動となる。円筒部231の内径及び外径によって、固有振動の周波数が定まる。例えば、内径150μm,外径200μmの場合、n=2,m=1のモードの固有振動数はおおよそ1.6MHzとなる。
【0059】
中間構造体230を形成した後に、Fガスを用いた中性粒子ビームエッチングにより、中間構造体230における円筒部231の側壁面231aを0.2μm分だけエッチン
グする。これにより、シリコン深堀エッチング装置によるエッチングで導入された結晶欠陥が除去される。その後、レジスト213を専用の剥離液、あるいは酸素ガスを用いたアッシングにより除去する。
【0060】
<<工程3(図3(c))>>
支持部234,235に、イオンインランテーションによって、これら支持部234,235の比抵抗が0.01Ωcm以下になるようにリンを導入する。なお、リンが導入される領域234a,235aは、支持部234,235の部位だけでなく、円筒部231の一部まで多少広がっていてもよい。
【0061】
<<工程4(図4(a))>>
中間構造体230の表面を酸化して、0.1μm厚の酸化膜214を形成する。酸化方法は酸素ガスを用いたドライ酸化である。
【0062】
<<工程5(図4(b))>>
ウエハ全面に、減圧CVD法によりポリシリコン215を2μm堆積させる。
【0063】
<<工程6(図4(c))>>
ソース電極となる支持部232及びドレイン電極となる支持部233が露出するように、ポリシリコン215をエッチングにより除去する。このときのエッチング装置には反応性イオンエッチング装置を用い、エッチングマスクにはレジストを用いる。その後、ボロンを固体拡散源として用いた気相拡散法により導入し、ポリシリコン215及びソース電極となる支持部232及びドレイン電極となる支持部233を高濃度のn型半導体にする。
【0064】
<<工程7(図5(a))>>
ポリシリコン215をエッチングし、第1半導体領域216を形成する。エッチング装置には反応性イオンエッチング装置を用い、エッチングマスクにはレジストを用いる。第1半導体領域216は、中間構造体230における円筒部231の上部にオーバーハングした状態で形成する。ただし、第1半導体領域216を作製する際のレジストマスクのアライメント精度により、そのオーバーハング領域ができるだけ少ないように形成する。本実施例では、オーバーハング量は0.5μmとした。
【0065】
<<工程8(図5(b))>>
SiO層211における円筒部231の内側の部分を、ウェットエッチングにより除去する。エッチングマスクにはレジスト用いる。この工程はSiO層211に蓄えられた内部応力により、後工程で中間構造体230が破壊されるのを未然に防ぐ効果がある。
【0066】
<<工程9(図5(c))>>
上述したリング状の振動子31を形成するために、下部Si層210のうち、円筒部231の下方の部位をエッチングする。このエッチングはシリコン深堀りエッチング装置を用いて行い、マスクはレジストを用いる。
【0067】
<<工程10(図6(a))>>
ウエハをフッ酸溶液内に浸し、円筒部231の下部の酸化膜及び第1半導体領域216に被覆した酸化膜を除去する。この工程により第1半導体領域216と中間構造体230との間の酸化膜も除去される。また、中間構造体230のうち、円筒部231は4つの支持部232,233,234,235によって4箇所でのみ支持された状態となり、当該円筒部231は可動な状態となる。また、第1半導体領域216は、エッチングされずに残った酸化膜211を介して、下部Si層210上に固定されている。なお、中間構造体
230のうち、4つの支持部232,233,234,235は、第1半導体領域216と同様に、エッチングされずに残った酸化膜211を介して下部Si層210上に固定されている。
【0068】
<<工程11(図6(b))>>
ウエハを酸化炉に入れ、ドライ酸化を行う。これにより、中間構造体230表面及び第1半導体領域216の表面に酸化膜217が形成される。本実施例において、この工程によって形成される酸化膜217の厚さは0.01μmである。
【0069】
<<工程12(図6(c))>>
ウエハ表面から反応性イオンエッチング装置により酸化膜217をエッチングする。このエッチングによって、中間構造体230及び第1半導体領域216の上部に形成されていた酸化膜のみ除去される。これにより、中間構造体230と第1半導体領域216との間の酸化膜はオーバーハングした第1半導体領域216により酸化膜のエッチングから保護され、エッチングされずに残った状態となる。
【0070】
その後、アルミニウム電極218を1μmの厚さに形成する。このアルミニウム電極218のパターニングは、アルミニウム膜を蒸着により形成する際、メタルマスクを用いてアルミニウム電極218となる部分のみアルミニウム膜が形成されるようにする。アルミニウム電極218は、ゲート電極となる第1半導体領域216、ソース電極となる支持部232、及びドレイン電極となる支持部233において電気的接続部とするためのものである。従って、アルミニウム電極218の一部は、これら第1半導体領域216、支持部232,233上にそれぞれ形成されている。
【0071】
以上により、トランジスタ構造を備えたMEMSが製造される。なお、第1半導体領域216がMEMS100における第1半導体部21,22,23,24に相当し、円筒部231が振動子31に相当し、支持部232,233,234,235が支持部32,33,34,35に相当する。また、下部Si層210が基板10に相当する。
【0072】
なお、この製造方法の場合には、上記の通り、円筒部231の上部にオーバーハングした部分が形成される。かかるオーバーハングを除去する場合には、例えば、工程6と工程7との間に、化学機械研磨によってオーバーハング部分を除去する工程を加えればよい。
【0073】
なお、図7及び図8は上記製造方法により製造されたMEMSの断面図を示している。各図の(b)に、(a)中に示された外観斜視図におけるXX断面図を示している。
【0074】
<本実施例に係るMEMSの優れた点>
以上説明したように、本実施例に係るMEMSによれば、電界効果トランジスタ構造が、半導体部の側面側に形成されるゲート電極やチャネルによって構成される。従って、基板表面に垂直な方向において対向する層間で電界効果トランジスタ構造が構成される場合に比して、回路構成の設計自由度を拡げることができる。具体的な応用例については、以下に説明する。
【0075】
また、本実施例においては、リング状の振動子31が駆動電圧によって振動するように構成されている。したがって、Q値が高いというMEMS振動子の特性を利用できる。つまり、特定の周波数によって振動子31は共振し、チャネル部分の相互コンダクタンスを極めて高くすることができる。これにより、フィルタリング機能を発揮させることができる。そして、本実施例に係るリング状の振動子31は、基板10の表面に平行な方向に振動するため、基板10の表面に対して平行に振動させる用途に用いることができる。
【0076】
なお、振動子31における応力発生部位にチャネルが形成されるため、ピエゾ抵抗効果によって、チャネル部分の電気抵抗が変化する。従って、チャネルが形成される部位をn型半導体とするトランジスタを構成することによって、より一層、相互コンダクタンスを高めることができる。
【0077】
また、MEMS構造自体でトランジスタ回路が構成されて信号を増幅することができるため、電気機械結合係数が小さく信号の減衰が大きいという特性を有するMEMSの欠点も解消される。更に、増幅回路など各種外部回路を接続することなくトランジスタ回路が構成されるので、外部回路のインピーダンス(浮遊容量)によるノイズによる悪影響の問題もない。
【0078】
<その他>
本実施例においては、半導体部の側面におけるエッチング界面の欠陥密度を、電界効果トランジスタの動作レベルとする手法として、中性粒子ビームエッチングの場合を説明した。しかしながら、半導体部の側面におけるエッチング界面の欠陥密度を、電界効果トランジスタの動作レベルとする手法としては、中性粒子ビームエッチングには限られない。例えば、KOHによるウエットエッチングを採用することもできる。また、エッチングに限られず、表面を酸化した後にフッ酸による酸化膜を除去する手法やエピタキシャル成長を利用することも可能である。
【0079】
以下、上述したMEMS100を用いた各種回路の応用例(実施例2〜4)を説明する。
【0080】
(実施例2)
図9には、本発明の実施例2が示されている。本実施例においては、ソース接地接続とした増幅回路としてMEMS100を用いる場合について説明する。
【0081】
基本的な構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。なお、図9では、基板10及び酸化膜11については省略している。また、回路構成を分かり易くするために、回路図を付している。
【0082】
本実施例においては、MEMS100に2箇所のトランジスタ構造(トランジスタ部T1及びトランジスタ部T2)が構成される。
【0083】
トランジスタ部T1は増幅用トランジスタであり、第1半導体部21をゲート電極、支持部33をソース電極、支持部32をドレイン電極とするトランジスタである。なお、振動子31の側面のうち第1半導体部21の側面に対向する面(第2面)の付近にチャネルが形成される。このトランジスタ部T1は、振動子31の共振周波数において高い相互コンダクタンスを示す。
【0084】
トランジスタ部T2は負荷抵抗用トランジスタであり、第1半導体部24をゲート電極、支持部32をソース電極、支持部35をドレイン電極とするトランジスタである。なお、振動子31の側面のうち第1半導体部24の側面に対向する面(第2面)の付近にチャネルが形成される。このトランジスタ部T2は、トランジスタ部T1と逆位相のコンダクタンス特性を有しており、トランジスタ部T1の相互コンダクタンスが最も大きくなったときに最も抵抗が大きくなる。従って、振動子31の共振周波数において最も高い利得を有する回路となっている。
【0085】
トランジスタ部T1の直流ゲート電圧Vは、インダクタンス及びコンデンサからなるバイアス回路を通して供給され、電極となる支持部34から供給される基板電圧Vと共
に、トランジスタ部T1のチャネル生成とリング振動子の直流バイアスとして働く。
【0086】
交流入力信号は第1半導体部21に電気的に接続されたコンデンサを介して入力される。増幅された信号は、トランジスタ部T1のドレイン電極とトランジスタ部T2のソース電極との接続点である端子(支持部32)に電気的に接続されたコンデンサを介して出力される。
【0087】
(実施例3)
図10には、本発明の実施例3が示されている。本実施例においては、ソースフォロワ接続としたインピーダンス変換回路としてMEMS100を用いる場合について説明する。
【0088】
基本的な構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。なお、図10では、基板10及び酸化膜11については省略している。また、回路構成を分かり易くするために、回路図を付している。
【0089】
本実施例においては、MEMS100に1箇所のトランジスタ構造(トランジスタ部T1)が構成される。
【0090】
トランジスタ部T1は第1半導体部21をゲート電極、支持部33をソース電極、支持部32をドレイン電極とするトランジスタである。なお、振動子31の側面のうち第1半導体部21の側面に対向する面(第2面)の付近にチャネルが形成される。
【0091】
ドレイン電極となる支持部32には直接ドレイン電圧が供給されている。ソース電極となる支持部33は抵抗を介してグランドレベルに接地されている。トランジスタ部T1に印加する直流ゲート電圧は、支持部33に電気的に接続されたインダクタンスを介して供給され、これは支持部34から供給される基板電圧とともに、振動子31の直流バイアス(V−V)となっている。
【0092】
入力交流信号は第1半導体部21に電気的に接続されたコンデンサを介して入力され、出力は支持部33に電気的に接続されたコンデンサを介して取られる。この接続の場合、電圧増幅度はほぼ1であるが、出力抵抗が相互コンダクタンスの逆数程度になる。
【0093】
(実施例4)
図11には、本発明の実施例4が示されている。本実施例においては、トランジスタブリッジ接続とした回路としてMEMS100を用いる場合について説明する。
【0094】
基本的な構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。なお、図11(a)は本発明の実施例4に係るMEMSの概略構成を示す斜視図であり、基板10及び酸化膜11については省略している。また、回路構成を分かり易くするために、回路図を付している。また、図11(b)は等価回路図である。
【0095】
本実施例においては、MEMS100に4箇所のトランジスタ構造(トランジスタ部T1,トランジスタ部T2,トランジスタ部T3、及びトランジスタ部T4)が構成される。
【0096】
トランジスタ部T1は、第1半導体部21をゲート電極、支持部33をソース電極、支持部32をドレイン電極とするトランジスタである。なお、振動子31の側面のうち第1
半導体部21の側面に対向する面(第2面)の付近にチャネルが形成される。また、トランジスタ部T2は、第1半導体部24をゲート電極、支持部32をソース電極、支持部35をドレイン電極とするトランジスタである。なお、振動子31の側面のうち第1半導体部24の側面に対向する面(第2面)の付近にチャネルが形成される。また、トランジスタ部T3は、第1半導体部23をゲート電極、支持部35をソース電極、支持部34をドレイン電極とするトランジスタである。なお、振動子31の側面のうち第1半導体部23の側面に対向する面(第2面)の付近にチャネルが形成される。更に、トランジスタ部T4は、第1半導体部22をゲート電極、支持部34をソース電極、支持部33をドレイン電極とするトランジスタである。なお、振動子31の側面のうち第1半導体部22の側面に対向する面(第2面)の付近にチャネルが形成される。
【0097】
これら4つのトランジスタ部T1,T2,T3,T4は、図11(b)に示す等価回路図における抵抗R1,R2,R3,R4と同じ機能を発揮する。振動子31の位相差により、抵抗R1と抵抗R2は逆位相で抵抗が変化し、また抵抗R3と抵抗R4も逆位相である。
【0098】
一方、抵抗R1と抵抗R3は同位相であるため、端子となる支持部35と支持部33との間の電圧は振動周波数と同じとなる。通常のブリッジ回路と比較して、4つの抵抗が出力端子の電圧が最大になるように変化するので、大きな信号電圧を取得することができる。なお、振動子31の振動励起のためのゲート電圧は、第1半導体部21に電気的に接続されたインダクタンスを介して入力され、交流入力信号は同じく第1半導体21に電気的に接続されたコンデンサを介して入力される。
【0099】
(実施例5)
図12には、本発明の実施例5が示されている。本実施例においては、上記実施例1に示したMEMS100の応用例であり、第1半導体部のうち、ゲート電極となるものを、リング状の振動子として構成し、第1半導体部としての振動子と第2半導体部としての振動子を近接させた構成とすることで、バンド幅可変フィルタ回路を構成する場合について説明する。
【0100】
基本的な構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。なお、図12では、基板10及び酸化膜11については省略している。また、回路構成を分かり易くするために、回路図を付している。
【0101】
本実施例に係るMEMS100aにおいては、上記実施例1等で示したMEMS100における第1半導体部21に相当する第1半導体部21Xが、リング状の振動子によって構成されている。この第1半導体部21Xは4つの支持部22X,23X,24X,25Xによって4箇所で支持されている。この第1半導体部21Xの構造は、基本的に、上記実施例1等で示したMEMS100における振動子31と同様である。また、支持部22Xと支持部23Xとの間、支持部23Xと支持部24Xとの間、支持部24Xと支持部25Xとの間には、それぞれ第3半導体部41,42,43が設けられている。これら第3半導体部41,42,43の構造は、基本的に、第1半導体部22,23,24と同様である。
【0102】
本実施例においては、MEMS100aに1箇所のトランジスタ構造(トランジスタ部T1)が構成される。
【0103】
トランジスタ部T1は第1半導体部21Xをゲート電極、支持部33をソース電極、支持部32をドレイン電極とするトランジスタである。なお、振動子31の側面のうち第1
半導体部21Xの側面21Xaに対向する面(第2面31a)の付近にチャネルが形成される。
【0104】
トランジスタ部T1のドレイン電極となる支持部32には直接ドレイン電圧VDDが供給される。トランジスタ部T1のソース電極となる支持部33は抵抗Rsを介してグランドレベルに接地されている。トランジスタ直流ゲート電圧は、端子となる支持部23Xからインダクタンスを介して供給される。
【0105】
リング状の振動子31と、同じくリング状の振動子を構成する第1半導体部21Xはそれぞれ振動し、各振動子の共振周波数において高い相互コンダクタンスを示す。二つのリング振動子の共振周波数は、ばね乗数、質量などを一致させ、比較的近い周波数に設定しておく。
【0106】
振動子31の共振周波数は、端子である第1半導体部24に接続されたバイアスのインダクタンスを介して供給される直流電圧によって変動させることができる。そのため、二つの振動子(振動子31と第1半導体部21X)の相互コンダクタンスピークに幅を持たせることができ、これがバンド幅となる。
【0107】
端子である第3半導体部41と第3半導体部43とを同電位にしており、同様に端子である第1半導体部22と第1半導体部24も同電位にしている。端子である支持部34は直接グランドレベルに接地してあり、コンデンサ部T1のバックゲートの役割と振動子の電位を決定している。
【0108】
入力交流信号を送るための部品の電気的な接続部は、端子である第3半導体部41と端子である第1半導体部22に電気的に接続されたバイアスのコンデンサとの間に設ける。出力信号は端子である支持部33に電気的に接続されたコンデンサを介して取られる。この接続の場合、実施例3の場合と同様に電圧増幅度はほぼ1であるが、出力抵抗が相互コンダクタンスの逆数程度となる。
【0109】
(実施例6)
図13〜図17には、本発明の実施例6が示されている。上記実施例1〜5では、振動子がリング形状の場合について説明した。本実施例では、振動子がディスク形状の場合について説明する。
【0110】
その他の構成および作用については実施例1〜5と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0111】
本実施例に係るMEMS100bにおいては、第2半導体部がディスク状の振動子31Xによって構成されている。第2半導体部がリング状の振動子ではなく、ディスク状の振動子で構成されている点を除いては、上記実施例1に示した構成と同一の構成である。本実施例においても、振動子31Xの側面のうち、第1半導体部21,22,23,24に対向する部位である第2面31Xaは、基板10に対して略垂直な面(設計上は垂直な面)で構成される。従って、第1面21a,22a,23a,24aと第2面31Xaは、それぞれ基板表面に平行な方向において対向している。
【0112】
本実施例においては、振動子31Xがディスク形状であることから、上述したリング状の振動子21に比して剛性が高く、変形しにくいが、基本的な機能については、上述した実施例1におけるMEMS100と同一である。
【0113】
なお、本実施例に係るMEMS100bにおいても、上述した実施例2〜5に示した応
用例に適用可能であることは言うまでもない。図14は実施例2に示した回路に相当し、図15は実施例3に示した回路に相当し、図16は実施例4に示した回路に相当し、図17は実施例5に示した回路に相当する。
【0114】
(実施例7)
図18〜図21には、本発明の実施例7が示されている。上記実施例1〜6では、振動子の平面形状が円形(リング形状とディスク形状)で構成され、第1面と第2面がいずれも曲面で構成される場合を示した。本実施例では、第1面と第2面がいずれも平面で構成される場合を示す。より具体的には、第1半導体部と第2半導体部によって、櫛歯状の構造体を形成する場合を示す。
【0115】
<MEMSの全体構成>
図18を参照して、本発明の実施例7に係るMEMSの全体構成等について説明する。
【0116】
本実施例に係るMEMS100dにおいても、基板10の一方の面側に設けられる第1半導体部としての振動子21Yと、同じく基板10の一方の面側に設けられる第2半導体部31Yとを備えている。
【0117】
振動子21Yは、平面形状がT字状の平板形状を呈しており、2つの支持部22Y,23Yによって2箇所で支持されている。また、第2半導体部31Yは、平面形状がコ字状の平板形状を呈しており、振動子21Yと第2半導体部31Yによって櫛歯状の構造体を形成している。なお、基板10と振動子21Yの支持部22Y,23Yとの間、及び基板10と第2半導体部31Yとの間には酸化膜11が形成されている。
【0118】
ここで、振動子21Yにおける側面、及び第2半導体部31Yにおける側面は、いずれもエッチングによって形成される。振動子21Yにおける各側面のうち、支持部23Y側の側面を第1面21Yaと称する。また、第2半導体部31Yの側面のうち、振動子21Yにおける第1面21Yaに対向する部位を第2面31Yaと称する。上記の各側面は、基板10の表面に対して略垂直な面(設計上は垂直な面)で構成される。従って、第1面21Yaと第2面31Yaは、それぞれ基板表面に平行な方向において対向している。
【0119】
そして、本実施例においては、第1面21Ya及び第2面31Yaは、エッチング界面の欠陥密度が、電界効果トランジスタの動作レベルとなるように構成されている。
【0120】
以上のような構成により、第1半導体部としての振動子21Yの一部(第1面21Yaを含む部分)と、第2半導体部31Yの一部(第2面31Yaを含む部分)によって、電界効果トランジスタ構造を構成することが可能となる。
【0121】
例えば、振動子21Yをゲート電極、第2半導体部31Yにおける第2面31Yaの一部の表層部分をチャネルとし、当該チャネルの両側にそれぞれソース電極31Ycとドレイン電極31Ydを構成する電界効果トランジスタ構造を構成させることができる。
【0122】
なお、本実施例における振動子21Yは、その先端が基板10の表面に対して平行な方向に振り子のように振動する。従って、本実施例においても、第1面21Yaと第2面31Yaが接離する方向に振動子21Yが振動する。そして、本実施例においても、振動子21を駆動電極として駆動電圧(直流電圧と交流電圧を重畳させた電圧)をかけることによって、振動子21を振動させることができる。これにより、振動子21は、交流電圧における特定の周波数で共振し、この特定の周波数の際に、チャネル部分における相互コンダクタンスを極めて高くすることができる。従って、特定の周波数でのみ、電流値を増幅させることが可能となる。また、駆動電圧における直流電圧値を変更することで、振動子
21が共振する周波数を変更することも可能である。すなわち、直流電圧値を高くすると、共振周波数を低くすることができる。これにより、各種センサやRFフィルタなど様々なものに応用できる。
【0123】
なお、本実施例においては、振動しない第2半導体部31Y側にチャネルを形成させる場合を示したが、振動子21Y側にチャネルを形成される構成も採用し得る。この場合には、上記実施例1等の場合と同様に、ピエゾ抵抗効果を発揮させることができる。
【0124】
<MEMSの製造方法>
図19〜図21を参照して、本発明の実施例7に係るMEMSの製造方法について説明する。図19〜図21は工程図を示しており、説明の便宜上、図19(b)を工程1、同図(c)を工程2、図20(a)を工程3、同図(b)を工程4、図21(a)を工程5、同図(b)を工程6、同図(c)を工程7と称する。これら各工程図において、図中左側は上方から見た斜視図であり、右側は同図中のXX断面図である。
【0125】
まず、SOIウエハ300を準備する(図19(a))。SOIウエハ300は、ベース基板となる厚さ300μmの下部Si層310と、中間層となる厚さ2μmのSiO層311と、上層である厚さ2μmの上部SOI層312とからなる3層構造の基板である。上部SOI層312の表面は、単結晶Siの主面(001)に選ばれており、伝導型はp型、比抵抗は10Ωcmである。
【0126】
<<工程1(図19(b))>>
上部SOI層312上に、スピンコーターにより3000rpm,30secの条件でレジスト313を塗布し、ベーク炉において90℃,20minの条件でベークする。その後、紫外線露光を4sec、現像を1.5min行って、面領域R1及び面領域R2を残し、他の領域のレジストを除去する。
【0127】
<<工程2(図19(c)>>
レジスト313をマスクとして、イオンインプランテーションを行い開口部の下方領域312aの伝導タイプをn型にする。本実施例では比抵抗が0.01Ω・cm以下になるようにドーピングを行う。その後、レジスト313を除去する。
【0128】
<<工程3(図20(a))>>
シリコン深堀りエッチング法によって、上部SOI層312をエッチングし、第1中間構造体320と第2中間構造体330を形成する。なお、第1中間構造体320は、最終製品では振動子21Y(ゲート電極)となる平面形状がT字の振動子領域321を備えている。また、第2中間構造体330は、最終製品では、それぞれソース電極31Yc,ドレイン電極31Ydとなるソース電極領域331,ドレイン電極領域332を備えている。
【0129】
ここで、この工程における深堀りエッチングには中性粒子ビームエッチングを用いる。中性粒子ビームエッチングは、エッチング断面に対してダメージを与えないエッチング方法として知られている。シリコン深堀りエッチング装置によるエッチングで導入された結晶欠陥が除去され、そのエッチング界面の欠陥密度が1×1011cm−2・eV−1程度となり、電界効果トランジスタが動作する界面レベルとなる。
【0130】
なお、中性粒子ビームエッチングを用いない場合は、この工程において、酸化膜をまず100nm程度形成し、その後でフッ酸水溶液でその酸化膜を除去して、深堀りエッチングによる表面ダメージを除去する必要がある。この工程によっても界面の欠陥密度が1×1011cm−2・eV−1程度となり、電界効果トランジスタを形成できるレベルとな
る。
【0131】
<<工程4(図20(b))>>
振動子領域321の下方、及び第2中間構造体330の一部(第1中間構造体320側に突出した部位)の下方の下部Si層310をシリコン深堀りエッチングによりエッチングする。このときエッチングマスクはレジストを用いる。その後、フッ酸溶液中にウエハを入れ、下部Si層310をエッチングしたことにより露出したSiO層311をエッチングする。
【0132】
<<工程5(図21(a))>>
第1中間構造体320及び第2中間構造体330の表面にドライ酸化により酸化膜314を10nm形成する。この酸化膜314は、第1中間構造体320と第2中間構造体330との間における対向する側面にも形成される。
【0133】
<<工程6(図21(b))>>
反応性イオンエッチングにより酸化膜314の一部を基板表面からエッチングする。これにより、図示のように、Si結晶面が露出する。
【0134】
<<工程7(図21(c))>>
Si結晶面を露出させた部分に、アルミニウム電極315を1μmの厚さに形成する。アルミニウム膜のパターニングは、アルミニウム膜を蒸着により形成する際、メタルマスクを用いてアルミニウム電極315となる部分のみアルミニウム膜が形成されるようにする。アルミニウム電極315は、ゲート電極,ソース電極及びドレイン電極となる部位において電気的接続部にするためのものである。従って、アルミニウム電極315の一部は、ソース電極領域331,ドレイン電極領域332及びゲート電極となる振動子領域321上に形成されている。
【0135】
以下、上述したMEMS100dを用いた各種回路の応用例(実施例8,9)を説明する。
【0136】
(実施例8)
図22には、本発明の実施例8が示されている。本実施例においては、ソースフォロワ接続回路としてMEMS100dを用いる場合について説明する。
【0137】
基本的な構成および作用については実施例8と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。なお、図22では、基板10の一部及び酸化膜11の一部及び振動子21Yの支持部側の構成については省略している。また、回路構成を分かり易くするために、回路図を付している。
【0138】
本実施例においては、MEMS100dに1箇所のトランジスタ構造(トランジスタ部T1)が構成される。
【0139】
トランジスタ部T1は振動子21Yをゲート電極、第2半導体部31Yにおける第2面31Yaの一部の表層部分をチャネルとし、当該チャネルの両側にそれぞれソース電極31Ycとドレイン電極31Ybを構成するトランジスタである。
【0140】
ドレイン電極31Ybには直接ドレイン電圧VDDが供給されている。ソース電極31Ycは抵抗を介してグランドレベルに接地されている。トランジスタ部T1に印加する直流ゲート電圧は、振動子21Yに電気的に接続されたインダクタンスを介して供給され、これは振動子21Yの直流バイアスとなる。入力交流信号Vinは振動子21Yに電気的
に接続されたコンデンサを介して入力され、出力はソース電極31Ycに接続されたコンデンサを介して取られる。
【0141】
振動子21Yが外力等で基板10の表面に平行な方向に変位した時、その変位信号がソース電極31Ycに電気的に接続されたコンデンサを介して出力電圧Voutとして得られる。又、この振動子21Yの左右の側面と第2半導体部31Yの側面との間の間隔は、それぞれ異なっており、ある周波数で振動子21Yは共振するように構成されている。そのため、共振周波数で高い相互インダクタンスピークが得られる。
【0142】
(実施例9)
図23には、本発明の実施例9が示されている。本実施例においては、コンバータ回路としてMEMS100dを用いる場合について説明する。
【0143】
基本的な構成および作用については実施例7と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。なお、図23では、基板10の一部及び酸化膜11の一部及び振動子21Yの支持部側の構成については省略している。また、回路構成を分かり易くするために、回路図を付している。
【0144】
本実施例においては、MEMS100dに3箇所のトランジスタ構造(トランジスタ部T1,トランジスタ部T2及びトランジスタ部T3)が構成され得るように構成されている。
【0145】
トランジスタ部T1,T2,T3自体の構成については、上記実施例8の場合と同一であるので、その説明は省略する。
【0146】
本実施例においては、振動子21Yが基板10の表面に平行であって、かつ図中矢印S方向に変位することで、トランジスタ部T1,T2,T3のそれぞれにスイッチが入るように構成されている。これにより、振動子21Yの図中矢印S方向の変位がデジタル信号V1out,V2out,V3outとして得られるように構成されている。
【0147】
図中のグラフは、これらの相関関係を示したものである。左縦軸が電圧、右縦軸が変位、横軸が時間である。振動子21Yは入力電圧Vinに応じて変位する。振動子21Yが図中矢印S方向に変位して、トランジスタ部T1,T2,T3を通過するとき出力電圧V3out,V2out,V1outがグランドレベルまで低下する。通過していないとき、トランジスタのスイッチはOFFであり出力値はVDDとなる。
【0148】
各トランジスタ部T1,T2,T3のドレイン電極31Ybにはそれぞれ抵抗Rが電気的に接続されており、抵抗Rを介してドレイン電圧が印加される。各トランジスタ部T1,T2,T3におけるソース電極31Ycは直接グランドレベルに接地されている。
【0149】
直流ゲート電圧は、振動子21Yに電気的に接続されたインダクタンスを介して供給され、これは振動子21Yの直流バイアスとなる。入力交流信号Vinは振動子21Yに電気的に接続されたコンデンサを介して入力される。また、ドレイン電極31Ybと、その抵抗R5との間から出力デジタル信号を取り出すように構成されている。トランジスタのスイッチがoffの場合、トランジスタ部分は短絡とみなすことができ、出力信号にはドレイン電圧VDDが直接出力される。トランジスタのスイッチがonの場合、トランジスタは単なる抵抗とみなすことができ、そのON抵抗はドレイン電極31Ybの抵抗R5に比べ十分に小さいため、出力電圧にはグランドの値が出力される。
【0150】
(実施例10)
図24〜図30には、本発明の実施例10が示されている。上記実施例1では、第2半導体部である振動子において、チャネルとなる部分を挟んで、基板表面に平行な方向における両側に、それぞれソース電極とドレイン電極が設けられる場合を示した。これに対して、本実施例では、第2半導体部である振動子において、チャネルとなる部分を挟んで、振動子の表面側にソース電極とドレイン電極のうちの一方が設けられ、裏面側に他方が設けられる場合を示す。
【0151】
基本的な構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0152】
<MEMSの全体構成>
特に、図24及び図25を参照して、本発明の実施例10に係るMEMSの全体構成等について説明する。なお、図24は本実施例10に係るMEMSの斜視図であり、図25は図24におけるX1−X2−X3断面図である。
【0153】
本実施例に係るMEMS100eにおいても、実施例1の場合と同様に、基板10と、基板10の一方の面側に設けられる第1半導体部21,22,23,24と、同じく基板10の一方の面側に設けられる第2半導体部としてのリング状の振動子31とを備えている。また、リング状の振動子31は4つの支持部32,33,34,35によって4箇所で支持されている。なお、振動子31は、リングの中心に対して、90°間隔で支持されている。そして、これら4つの支持部32,33,34,35のうち、隣り合う支持部の間にそれぞれ第1半導体部21,22,23,24が設けられている。なお、基板10と第1半導体部21,22,23,24との間、及び基板10と支持部32,33,34,35との間には酸化膜11が形成されている。
【0154】
ここで、第1半導体部21,22,23,24における側面、及び振動子31における側面は、いずれもエッチングによって形成される。第1半導体部21,22,23,24における各側面のうち、振動子31に対向する部位を第1面21a,22a,23a,24aと称する。また、振動子31の側面のうち、第1半導体部21,22,23,24に対向する部位を第2面31aと称する。上記の各側面は、基板10に対して略垂直な面(設計上は垂直な面)で構成される。従って、第1面21a,22a,23a,24aと第2面31aは、それぞれ基板表面に平行な方向において対向している。
【0155】
そして、本実施例においては、第1面21a,22a,23a,24a及び第2面31aは、エッチング界面の欠陥密度が、電界効果トランジスタの動作レベルとなるように構成されている。
【0156】
以上のような構成により、一つの第1半導体部と、当該第1半導体部の両側の支持部と、振動子31の一部(当該第1半導体部の第1面に対向する第2面を含む部分)によって、電界効果トランジスタ構造を構成することが可能となる。
【0157】
ここでは、その一例として、第1半導体部21と、振動子31における第1面21aに対向する部位の第2面31aを含む部分とで電界効果トランジスタ構造を構成する場合を説明する。
【0158】
この場合、例えば、第1半導体部21をゲート電極、振動子31の表面における第2面31aに隣接する部分をソース電極、振動子31の裏面における第2面31aに隣接する部分をドレイン電極、第2面31a側の表層部分をチャネルとする電界効果トランジスタ構造を構成させることができる。すなわち、振動子31の本体部分をp型半導体で構成し、ソース電極となる部位とドレイン電極となる部位についてはn型半導体で構成する。こ
れにより、ゲート電極である第1半導体部21に電圧をかけることによって、この第1半導体部21の第1面21aに対向する第2面31aの付近がチャネルとして機能し、電界効果トランジスタ構造が構成される。
【0159】
また、本実施例においては、第1半導体部21,22,23,24のうちのいずれかを駆動電極として駆動電圧(直流電圧と交流電圧を重畳させた電圧)をかけることによって、振動子31を基板10の表面に平行な方向に振動させることができる。この点については、上記実施例1の場合と同様である。
【0160】
以上のような構成により、本実施例に係るMEMS100eの場合にも、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。また、上記実施例2〜9に示す構成においても、本実施例にように、チャネルとなる部分を挟んで、第2半導体部の表面側にソース電極を設けて、裏面側にドレイン電極を設ける構成を採用することもできる。また、チャネル部分となる部分を挟んで、第2半導体部の表面側にドレイン電極を設けて、裏面側にソース電極を設ける構成を採用することもできる。
【0161】
また、本実施例のように、表面と裏面にソース電極とドレイン電極(逆の場合も同様)をそれぞれ設ける場合には、ソース電極とドレイン電極を側面側に設ける場合に比べて、相互コンダクタンスを格段に大きくすることが可能となる。以下、その理由について説明する。
【0162】
MOSFETにおける相互コンダクタンスgは、チャネル幅Wとチャネル長Lとの比(W/L)の関数で表される。すなわち、チャネル幅Wを大きくすればするほど、また、チャネル長Lを小さくすればするほど、相互コンダクタンスgを大きくすることができる。
【0163】
実施例1などのように、チャネルとなる部分を挟んで、基板表面に平行な方向における両側に、それぞれソース電極とドレイン電極が設けられる場合、チャネル幅Wは振動子の厚みに相当し、チャネル長Lはソース電極とドレイン電極との間の距離に相当する。
【0164】
これに対して、本実施例のように、表面と裏面にソース電極とドレイン電極をそれぞれ設ける場合、チャネル幅Wはチャネル領域における円周方向の長さに相当し、チャネル長Lは振動子の厚みに相当する。
【0165】
MEMS振動子においては、その製法上、厚みが非常に薄くなる。従って、表面と裏面にソース電極とドレイン電極をそれぞれ設ける場合の方が(W/L)は大きくなり、相互コンダクタンスgを大きくすることが可能となる。
【0166】
<製造方法>
図26〜図30を参照して、本発明の実施例10に係るMEMSの製造方法について説明する。図26〜図30は工程図を示しており、説明の便宜上、図26(a)を工程1、同図(b)を工程2、同図(c)を工程3、図27(a)を工程4、同図(b)を工程5、同図(c)を工程6、図28(a)を工程7、同図(b)を工程8、図29(a)を工程9、同図(b)を工程10、図30(a)を工程11、同図(b)を工程12、同図(c)を工程13と称する。これら各工程図において、図中左側は上方から見た斜視図であり、右側は同図中のXX断面図である。
【0167】
まず、SOIウエハ400を準備する。SOIウエハ400は、ベース基板となる厚さ下部Si層410と、中間層となるSiO層411と、上層である上部SOI層412とからなる3層構造の基板である。上部SOI層412の表面は、単結晶Siの主面(0
01)に選ばれており、伝導型はp型である。
【0168】
<<工程1(図26(a))>>
上部SOI層412におけるソース電極となるソース電極領域Rに、リン(P)を注入する。ここで、後述するドレイン電極となるドレイン電極領域にコンタクトを取るために所定領域R1については、リンを深く注入する。
【0169】
<<工程2(図26(b))>>
最終製品において、支持部34となる領域413にホウ素(B)を注入する。最終製品である支持部34は電極として機能する。
【0170】
<<工程3(図26(c))>>
減圧CVD法によりSiOを堆積し、SiO層414を形成する。
【0171】
<<工程4(図27(a))>>
レジストパターン415を形成する。
【0172】
<<工程5(図27(b))>>
レジストパターン415をマスクとして、SiO層414を除去し、かつデバイス層の深堀りを行う。その後、レジストを除去することによって、平面形状がレジストパターン415と同じ形状を有する中間構造体430が形成される。この中間構造体430は、円筒部431とこの円筒部431に接続された4つの支持部432,433,434,435とからなる。
【0173】
<<工程6(図27(c))>>
中間構造体430の表面を酸化して、0.1μm厚の酸化膜416を形成する。
【0174】
<<工程7(図28(a))>>
減圧CVD法によりポリシリコン417を堆積させる。
【0175】
<<工程8(図28(b))>>
ソース電極となる支持部432,433,435及び電極となる支持部434の表面が露出するまで、ポリシリコン417の表面側を化学機械研磨によって除去する。
【0176】
<<工程9(図29(a))>>
ポリシリコン417の一部をエッチングすることにより、最終製品において第1半導体部21,22,23,24(本実施例では、第1半導体部21がゲート電極となる)になる第1半導体領域418を形成する。
【0177】
<<工程10(図29(b))>>
リング状の振動子31を形成するために、下部Si層410のうち、円筒部431の下方の部分をエッチングする。
【0178】
<<工程11(図30(a))>>
ウエハをフッ酸溶液内に浸し、円筒部431の下部の酸化膜及び第1半導体領域418に被覆した酸化膜を除去する。この工程により中間構造体430のうち、円筒部431は4つの支持部432,433,434,435によって4箇所でのみ支持された状態となり、当該円筒部431は可動な状態となる。また、第1半導体領域418は、エッチングされずに残った酸化膜411を介して、下部Si層410上に固定されている。なお、中間構造体430のうち、4つの支持部432,433,434,435は、第1半導体領
域418と同様に、エッチングされずに残った酸化膜411を介して下部Si層410上に固定されている。
【0179】
<<工程12(図30(b))>>
円筒部431における支持部432と支持部433との間の領域において、下部Si層410側からリン(P)を注入し、最終製品においてドレイン電極となるドレイン領域419を形成する。
【0180】
<<工程13(図30(c))>>
全体を酸化して、薄い酸化膜420を形成する。
【0181】
以上により、トランジスタ構造を備えたMEMSが製造される。
【符号の説明】
【0182】
10 基板
21,22,23,24,21X 第1半導体部
21Y 振動子
22X,23X,24X,25X 支持部
22Y,23Y 支持部
31,31X 振動子
31Y 第2半導体部
32,33,34,35 支持部
21a,22a,23a,24a 第1面
21Ya 第1面
31a 第2面
31Ya 第2面
41,42,43 第3半導体部
100,100a,100b,100c,100d,100e MEMS

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一方の面側に設けられる第1半導体部と、
前記基板の前記一方の面側に設けられる第2半導体部と、
を備えるMEMSにおいて、
第1半導体部の側面側に設けられ、かつ前記基板表面に対して略垂直な第1面と、
第2半導体部の側面側に設けられ、かつ前記基板表面に平行な方向において第1面と対向する第2面が設けられると共に、
第2面側の表層部分は第1面側をゲート電極として電圧が印加された際にチャネルとなることで、第1半導体部における第1面を含む部分と第2半導体部における第2面を含む部分とで電界効果トランジスタが構成されることを特徴とするMEMS。
【請求項2】
第2半導体部は、第1半導体部と第2半導体部との間に駆動電圧が印加されることで前記基板表面に平行な方向に変形可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のMEMS。
【請求項3】
第2半導体部は、第1面と第2面との対向面の間隔が変化する方向に変形可能に構成されていることを特徴とする請求項2に記載のMEMS。
【請求項4】
第2面は、第2半導体部が変形した場合における応力発生部位に設けられていることを特徴とする請求項3に記載のMEMS。
【請求項5】
第1半導体部は、第1半導体部と第2半導体部との間に駆動電圧が印加されることで前記基板表面に平行な方向に変形可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のMEMS。
【請求項6】
第1半導体部は、第1面と第2面との対向面の間隔が変化する方向に変形可能に構成されていることを特徴とする請求項5に記載のMEMS。
【請求項7】
第2半導体部の側面側には、複数の第2面が設けられ、かつ各第2面に対してそれぞれ第1面が対向するように複数の第1半導体部が設けられることによって、複数の電界効果トランジスタが構成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のMEMS。
【請求項8】
第2半導体部は、前記基板に対して複数の箇所で支持されると共に、第1半導体部と第2半導体部との間に駆動電圧が印加されることで前記基板表面に平行な方向に振動可能に構成されたリング状の振動子であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のMEMS。
【請求項9】
第1半導体部は、前記基板に対して複数の箇所で支持されると共に、第1半導体部と第2半導体部との間に駆動電圧が印加されることで前記基板表面に平行な方向に振動可能に構成されたリング状の振動子であり、
リング状の第1半導体部の外周壁面と、リング状の第2半導体部の外周壁面との対向する部位が、それぞれ第1面及び第2面であることを特徴とする請求項8に記載のMEMS。
【請求項10】
第2半導体部は、前記基板に対して複数の箇所で支持されると共に、第1半導体部と第2半導体部との間に駆動電圧が印加されることで前記基板表面に平行な方向に振動可能に構成されたディスク状の振動子であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記
載のMEMS。
【請求項11】
第1半導体部は、前記基板に対して複数の箇所で支持されると共に、第1半導体部と第2半導体部との間に駆動電圧が印加されることで前記基板表面に平行な方向に振動可能に構成されたディスク状の振動子であり、
ディスク状の第1半導体部の外周壁面と、ディスク状の第2半導体部の外周壁面との対向する部位が、それぞれ第1面及び第2面であることを特徴とする請求項10に記載のMEMS。
【請求項12】
第1半導体部と第2半導体部により櫛歯状の構造体を形成しており、少なくともいずれか一方の少なくとも一部が前記基板表面に平行な方向に振動可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のMEMS。
【請求項13】
第2半導体部には、チャネルとなる部分を挟んで、前記基板表面に平行な方向における両側に、それぞれソース電極とドレイン電極が設けられることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一つに記載のMEMS。
【請求項14】
第2半導体部には、チャネルとなる部分を挟んで、第2半導体部の表面側にソース電極とドレイン電極のうちの一方が設けられ、裏面側に他方が設けられることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一つに記載のMEMS。
【請求項15】
第1面はエッチングによって形成されるエッチング面であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一つに記載のMEMS。
【請求項16】
第1面は表面が酸化された後にフッ酸により酸化膜が除去された面であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一つに記載のMEMS。
【請求項17】
第1面はエピタキシャル成長による処理が施された面で構成されることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一つに記載のMEMS。
【請求項18】
第2面はエッチングによって形成されるエッチング面であることを特徴とする請求項1〜17のいずれか一つに記載のMEMS。
【請求項19】
第2面は表面が酸化された後にフッ酸により酸化膜が除去された面であることを特徴とする請求項1〜17のいずれか一つに記載のMEMS。
【請求項20】
第2面はエピタキシャル成長による処理が施された面で構成されることを特徴とする請求項1〜17のいずれか一つに記載のMEMS。
【請求項21】
基板上に形成されたレジストパターンをマスクとしてエッチングを施すことによって、側面側に対向する部位を有する一対の半導体部を備えたMEMSを製造する製造方法であって、
前記一対の半導体部を形成するエッチング工程においては、前記対向する部位におけるエッチング界面の欠陥密度が、電界効果トランジスタの動作レベルとなるエッチングを施すことを特徴とするMEMSの製造方法。
【請求項22】
基板上に形成されたレジストパターンをマスクとしてエッチングを施すことによって、側面側に対向する部位を有する一対の半導体部を備えたMEMSを製造する製造方法であって、
前記対向する部位を酸化させた後に、フッ酸により酸化膜を除去することによって、前
記対向する部位におけるエッチング界面の欠陥密度を、電界効果トランジスタの動作レベルとすることを特徴とするMEMSの製造方法。
【請求項23】
基板上に形成されたレジストパターンをマスクとしてエッチングを施すことによって、側面側に対向する部位を有する一対の半導体部を備えたMEMSを製造する製造方法であって、
前記対向する部位に対してエピタキシャル成長による処理を施すことによって、前記対向する部位におけるエッチング界面の欠陥密度を、電界効果トランジスタの動作レベルとすることを特徴とするMEMSの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2011−183539(P2011−183539A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54035(P2010−54035)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(ロボット・新技術イノベーションプログラム)「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】