MOCVD装置
【目的】
シングルドメインの高品質且つ平坦な結晶層を成長できるフローチャネル方式のMOCVD装置を提供する。
【解決手段】
基板と平行に基板側から不活性ガスを噴出する第1のチャネル、材料ガスを噴出する第2のチャネル及び不活性ガスを噴出する第3のチャネルがこの順で層状に構成されたノズルを備え、第2のチャネルには、酸素含有化合物を噴出する第1のサブチャネル及び有機金属化合物を噴出する第2のサブチャネルが基板と平行方向に交互に並んで配置され、ノズルから噴出されたガスは、少なくとも基板端まで当該ノズル端から延長された天板および底板で構成されたフローチャネルで誘導される。
シングルドメインの高品質且つ平坦な結晶層を成長できるフローチャネル方式のMOCVD装置を提供する。
【解決手段】
基板と平行に基板側から不活性ガスを噴出する第1のチャネル、材料ガスを噴出する第2のチャネル及び不活性ガスを噴出する第3のチャネルがこの順で層状に構成されたノズルを備え、第2のチャネルには、酸素含有化合物を噴出する第1のサブチャネル及び有機金属化合物を噴出する第2のサブチャネルが基板と平行方向に交互に並んで配置され、ノズルから噴出されたガスは、少なくとも基板端まで当該ノズル端から延長された天板および底板で構成されたフローチャネルで誘導される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)装置、特に、水平ガス流式(フローチャネル方式)のMOCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、室温で3.37eVのバンドギャップエネルギーを有する直接遷移型の半導体で、青ないし紫外領域の光素子用の材料として期待されている。特に、励起子の束縛エネルギーが60meV、また屈折率n=2.0と半導体発光素子に極めて適した物性を有している。また、発光素子、受光素子に限らず、表面弾性波(SAW)デバイス、圧電素子等にも広く応用が可能である。さらに、原材料が安価であるとともに、環境や人体に無害であるという特徴を有している。
【0003】
ところで、レーザーダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)そして電子デバイス等の産業分野で半導体単結晶成長方法としてMOCVD法が幅広く用いられている。これらの分野で求められる半導体結晶層は、欠陥密度や転位密度が低くシングルドメインの半導体単結晶層が必要とされる。また、電導性制御や発光効率向上のために残留不純物濃度の低い結晶が要求される。更には、多層積層構造とするため、半導体単結晶層の平坦性も高いレベルで要求される。MOCVD法に用いられる装置(MOCVD装置)は、現在に至るまで多様な改善がなされてきた。
【0004】
しかし、従来開発されてきたAlGaAs、InGaAlP、InGaN等の半導体結晶が非酸化物系半導体結晶であるのに対して、ZnO系半導体結晶は酸化物系結晶である。その酸素源にはO2(酸素)、H2O(水蒸気)、ROH(低級アルコール類)、N2O(笑気ガス)などが用いられる。特に酸素を含まない有機金属化合物は、O2(酸素)、H2O(水蒸気)、ROH(低級アルコール類)とは室温から反応するため、ZnO系結晶のエピタキシャル結晶成長は容易ではない。即ち、MOCVD装置にも成長材料に合わせた改良が必要となる。
【0005】
従来の水平ガス流式(フローチャネル式)MOCVD装置としては、例えば、特許文献1乃至6に開示されているものがある。上記したAlGaAs、InGaAlP、InGaN等の非酸化物系半導体結晶の成長においては、材料ガスとしてIII族系有機金属材料及びV族系材料が主体に用いられる。これらの材料ガスは双方を混合して加熱しなければ容易に反応・結晶化しない。また有機金属材料との反応性は、As水素化物、P水素化物、N水素化物の順に悪くなる。このような物性のため、かかる従来のフローチャネル式MOCVD装置においては、III族ガスとV族ガスを噴出口部(ノズル)に至る前に混合するタイプや、V族材料ガスを基板側に流して加熱分解を促進するタイプなどの構造が開発されてきた(例えば、特許文献1、3)。また、細孔よりIII族ガスとV族ガスを吹き出し混合供給するタイプもある(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04−254491号公報
【特許文献2】特開昭63−243000号公報
【特許文献3】特開2003−51457号公報
【特許文献4】特開平02−229476号公報
【特許文献5】特開2005−197326号公報
【特許文献6】特開2000−100726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体発光素子を製造するには、基板上に、少なくともn型半導体層、発光層、p型半導体層を積層する。特殊な素子を除いては、前記半導体層は基板上に低欠陥、低転位、シングルドメインで且つ平坦に積層でき、また結晶組成、不純物濃度分布が均一であることが、素子性能の向上、素子製造歩留まりの向上に必要である。
【0008】
ところが、水平ガス流式(フローチャネル式)のMOCVD装置でZnO系結晶の結晶成長を行う場合、酸素を含まない有機金属化合物と、反応性の高い酸素含有化合物であるO2(酸素)、H2O(水蒸気)、ROH(低級アルコール類)を用いた結晶成長においては、板状(ディスク状)、柱状(ロッド状)、針状(ウイスカー状)結晶が成長し易く、低欠陥、低転位、シングルドメインで且つ平坦な結晶層は成長できなかった。
【0009】
このような相互反応性が高い組み合わせの材料ガスを使用する場合においても、結晶性が良好なシングルドメインの結晶層が得られ、且つ平坦な結晶層を成長できるMOCVD装置が必要である。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、シングルドメインの高品質な結晶層が得られ、且つ平坦な結晶層を成長できるフローチャネル方式のMOCVD装置を提供することにある。また、高性能かつ高信頼性の半導体素子、特に、発光効率及び素子寿命に優れた高性能な半導体発光素子を製造可能なMOCVD装置を提供することにある。さらに、製造歩留まりが高く、量産性に優れた半導体素子を製造可能なMOCVD装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の結晶成長装置は、酸素を含まない有機金属化合物と酸素含有化合物を用いたMOCVD法により、基板上に結晶層を成長する結晶成長装置であって、
基板と平行に基板側から不活性ガスを噴出する第1のチャネル、材料ガスを噴出する第2のチャネル及び不活性ガスを噴出する第3のチャネルが層状に構成されたノズルを備え、
上記第2のチャネルには、上記酸素含有化合物を噴出する第1のサブチャネル及び上記有機金属化合物を噴出する第2のサブチャネルが基板と平行方向に交互に並んで配置され、
上記ノズルから噴出されたガスは、少なくとも基板端まで上記ノズル端から延長された天板および底板で構成されたフローチャネルで誘導されることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のフローチャネル方式のMOCVD装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】(a)は、本発明によるチャネルフローノズル及び反応室部の詳細な構成を示す模式的な断面図であり、(b)は、図2(a)に示す線B−Bからみた平面図である。
【図3】(a)は本発明の実施例1によるノズルの断面構造を示す模式的な断面図であり、(b),(c)はノズルからの材料ガスフローの状態を示す模式的な平面図及び断面図、である。
【図4a−4c】図4(a)〜(c)はそれぞれ図3(a)〜(c)と同様な図であるが、本発明の実施例2により、材料ガスフローのサブチャネル間に、隔壁ガスとしての不活性ガスフローサブチャネルが設けられた場合を示す図である。
【図4d−4e】は図4(d),(e)は、サブチャネルCH2Cを袋小路構造のガスチャネルとして設けた場合のノズル、及びガスフローを模式的に示す断面図である。
【図5】実施例3による、1−2層間隔壁板がノズルの噴出口端からフロー上流方向に後退した構造を有するノズル及び反応室部の構成、隔壁板構造、材料ガスフローの状態を示す図である。
【図6】実施例4による、2−3層間隔壁板がノズルの噴出口端からフロー上流方向に後退した構造を有するノズル及び反応室部の構成、隔壁板構造、材料ガスフローの状態を示す図である。
【図7a−7c】図7(a)〜(c)を示し、実施例5による、隔壁板の一部がフロー上流方向に後退した構造を有するノズル及び反応室部の構成、隔壁板構造を示す図である。
【図7d−7g】図7(d)〜(g)を示し、図7(a)〜(c)に示す構成におけるガスフローの状態を示す断面図である。
【図8a−8b】図8(a)、(b)を示し、実施例6による、層間隔壁板に開口部(スリット)を有するノズル及び反応室部の構成、隔壁板構造を示す図である。
【図8c−8f】図8(c)〜(f)を示し、図8(a)、(b)に示す構成におけるガスフローの状態を示す断面図である。
【図9a−9c】図9(a)〜(c)を示し、実施例7による、層間隔壁板に開口部(チャネル孔)を有するノズル及び反応室部の構成、隔壁板構造を示す図である。
【図9d−9g】図9(d)〜(g)を示し、図9(a)〜(c)に示す構成におけるガスフローの状態を示す断面図である。
【図10】実施例8による、反応室部の底板上に後方乱流発生器(ボルテックスジェネレータ)が設けられた構成を示す図である。
【図11a】図11(a)を示し、実施例9による、上記実施例の多層・多チャネルノズルを適用したパレット型リアクタの構成を示す模式的な断面図である。
【図11b】図11(b)を示し、図11(a)に示すパレット型リアクタの構成を模式的に示す平面図及びノズルの構成を示す模式的な平面図である。
【図12】本発明による実施例(成長例1〜3)の結晶成長シーケンスを示す図である。
【図13】成長層比較例の成長に用いた従来の材料ガス分離方式のMOCVD装置のノズル及び反応室部の構造の概略を模式的に示す断面
【図14a】本発明によるMOCVD装置を用いて結晶成長した成長層(成長例2)のAFM像(5μm□視野像)を示す図である。
【図14b】本発明によるMOCVD装置を用いて結晶成長した成長層(成長例2)のAFM像(1μm□視野像)を示す図である。
【図14c】本発明によるMOCVD装置を用いて結晶成長した成長層(成長例2)の微分干渉顕微鏡像を示す図である。
【図14d】本発明によるMOCVD装置を用いて結晶成長した成長層(成長例2)のSEM像を示す図である。
【図15】本発明(成長例2)による成長層XRD(100)ωロッキングカーブを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下においては、酸素を含まない有機金属化合物と、反応性の高い酸素含有(金属元素を含まない)化合物とを材料ガスとして用い、シングルドメインで高品質な結晶性を有し、かつ平坦性に優れたな酸化亜鉛(ZnO)系半導体結晶層を成長することが可能なフローチャネル方式のMOCVD装置について図面を参照して詳細に説明する。また、本実施形態に係る実施例のMOCVD装置により形成された半導体素子として、半導体発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を例に説明する。
【0014】
図1は、本発明のフローチャネル方式のMOCVD装置5の構成を模式的に示している。MOCVD装置5の装置構成の詳細について以下に説明する。
【0015】
[装置構成]
MOCVD装置5は、ガス供給部5A、反応容器部5B及び排気部5Cから構成されている。より詳細には、ガス供給部5Aは、有機金属化合物材料を気化して供給する部分と、有機金属ガス及び酸素源ガスからなる材料ガスを供給する部分と、当該材料ガスを輸送する機能で構成されている。反応容器部5Bは、供給された有機金属ガス及び酸素源ガスを基板に供給するノズルと、基板を加熱するヒーターと、基板に半導体結晶層が均一に成長するように基板を回転させる基板回転機構で構成されている。また、排気部5Cは、反応容器内の圧力調整と材料ガスを排気する機構から構成されている。
【0016】
常温で液体(または固体)である有機金属化合物材料は、気化し蒸気として供給する。本実施例においては、亜鉛(Zn)源としてDMZn(ジメチル亜鉛)、マグネシウム(Mg)源としてCp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム:biscyclopentadienyl magnesium)、ガリウム(Ga)源としてTEGa(トリエチルガリウム)をそれぞれ用いた。
【0017】
まず、DMZnの供給について説明する。図1に示すように、窒素ガス106を流量調整装置(マスフローコントローラ)100D、100E にて所定の流量とし、ラン配管2b(以下、ラン・ライン2b(Line 2b)ともいう。)107D、ベント配管(以下、ベント・ライン(Vent)ともいう。)107Eに流す。次に、DMZn蒸気発生器101Aに窒素ガスを送り、所定の濃度のDMZn蒸気が飽和した窒素ガス(以下、DMZn材料ガスともいう。)を取り出す。成長時には、上記DMZn材料ガスは供給弁101Cを介してベント配管107Eに供給され、排気される。なお、DMZn蒸気発生器101Aには流量調整装置、バブリングガス供給弁、DMZn格納容器、送気弁、圧力調整装置が収められている。なお、DMZn格納容器は恒温槽によって一定温度に保たれている。
【0018】
また、その他の有機金属化合物材料Cp2Mg、TEGaについても同様である。すなわち、これらの材料をそれぞれ格納する蒸気発生器102A(Cp2Mg),103A(TEGa)に流量調整装置100Eを経た所定の流量の窒素ガスが送気され、成長時にはそれぞれ供給弁102C、103Cを介してラン・ライン2b(Line 2b)107Dに供給される。また、成長待機時には排気弁102B、103Bを介してベント・ライン(Vent)107Eに供給され、排気される。これらの蒸気発生器102A,103Aに収められている格納容器もまた恒温槽によって一定温度に保たれている。
【0019】
また、酸素源としての液体材料であるH2O(水蒸気)は蒸気発生器104Aに流量調整装置100Eを経た所定の流量の窒素ガスが送気され、成長時には供給弁104Cを介してラン・ライン2a(Line 2a)107Cに供給される。また、成長待機時には排気弁104Bを介してベント・ライン(Vent)107Eに供給され、排気される。蒸気発生器104Aに収められている格納容器もまた恒温槽によって一定温度に保たれている。
【0020】
また、酸素(O2)ガスについても同様であり、成長時には供給弁105Cを介してラン・ライン2a(Line 2a)107Cに供給される。また、成長待機時には排気弁105Bを介してベント・ライン(Vent)107Eに供給され、排気される。
【0021】
上記したように、有機金属化合物ガスはラン・ライン2b(Line 2b)107Dを通して、H2O(水蒸気)及び酸素(O2)ガスはラン・ライン2a(Line 2a)107Cを通して反応容器110に供給される。すなわち、ラン・ライン2a(Line 2a)107C及びラン・ライン2b(Line 2b)107Dにはそれぞれ流量調整装置100C、100Dによって流量調整されたキャリアガス(窒素)が送気され、液体または固体材料蒸気(有機金属化合物ガス)と気体材料(H2O,O2)ガス(以下、"材料ガス"ともいう。)が反応容器110内のチャネルフローノズル10に供給される。
【0022】
また、ライン1(Line 1)107B、ライン3(Line 3)107Aには、それぞれ流量調整装置100B、100Aによって流量調整された窒素ガス(又は、いわゆる不活性ガス)が送気され、反応容器110内のチャネルフローノズル10に供給される。
【0023】
排気部5Cは、容器内圧力調整装置116と排気ポンプ117とで構成されており、容器内圧力調整装置116によって反応容器110内の圧力を1kPaないし120kPa程度まで調整できる構造となっている。
【0024】
反応容器110内には、チャネルフローノズル10及び反応室部20から構成されている。反応室部20には、下面壁(以下、リアクタ底板又は単に底板ともいう。)21、上面壁(以下、リアクタ天板又は単に天板ともいう。)22、側面壁23、ZnO系結晶を成長させる基板30、基板30を保持すると同時にヒーターの熱放射を均一に基板30に伝達するサセプタ113、サセプタ113を加熱するヒーター114が設けられている。サセプタ113は、回転機構(又はモータ)115により、5rpm〜90rpm程度に回転できる構造となっている。また基板30は、ヒーター114により室温から1100℃程度まで加熱できる構造となっている。なお、サセプタ113の外径はφ60mmである。
【0025】
なお、本発明の実施形態における基板温度とは、基板30を載置するサセプタ113の表面の温度を指している。すなわち、MOCVD法の場合、サセプタ113から基板30への熱伝達は直接接触、およびサセプタ113と基板30との間に存在するガスにより行なわれる。本実施例で用いた成長圧力1kPa〜120kPa(Pa:パスカル)の間では、基板30の表面温度はサセプタ113の表面温度より0℃〜10℃低い程度である。
[結晶成長材料]
本発明の実施形態においては、有機金属化合物材料(または有機金属材料)として、構成分子内に酸素を含まない材料を用いた。酸素を含まない有機金属材料は、水蒸気(酸素材料又は酸素源)との反応性が高く、低成長圧力、あるいは水蒸気と有機金属(MO)の流量比(FH2O/FMO 比)又はVI/II比が低い領域においてもZnO系結晶の成長を可能とする。
【0026】
本実施例及び比較例においては、DMZn、Cp2Mg、TEGa(半導体材料用高純度品)を用いたが、II族材料として、DEZn(ジエチル亜鉛)、MtCp2Mg(ビスメチルペンタジエニルマグネシウム:bisdimethylcyclopentadienyl magnesium)、EtCp2Mg(ビスエチルペンタジエニルマグネシウム:Bis-ethylcyclopentadienyl magnesium)等を用いることができる。また、III族材料として、TMGa(トリメチルガリウム)、TMAl(トリメチルアルミニウム)、TEAl(トリエチルアルミニウム)、TIBA(トリイソブチルアルミニウム)などを利用することができる。
【0027】
酸素材料(以下、酸素源という。)としては、有機金属材料を酸化させる作用のある化合物を用いることができる。また、極性酸素材料(極性酸素源)が適している。特に、H2O(水蒸気)は、分子内に水素原子が結合した側と孤立電子対側でδ+、δ-に大きく分極しており、酸化物結晶表面への吸着能力が優れている。
【0028】
また、H2O分子は、水素原子結合手と孤立電子対で4面体構造をとり、sp3型混成軌道の閃亜鉛鉱構造(Zincblende/Cubic)、ウルツ鉱構造(Wurtzeite/Hexagonal)の酸化物結晶の成長では、優先的に酸素サイトに配向吸着する優れた酸素源である。他の酸素源として、同様に、双極子モーメントが大きくO原子がsp3型混成軌道を採る低級アルコール類でも良い。すなわち、具体的には、酸素源として、H2O(水蒸気)以外に、低級アルコール類、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールの炭素数が1〜5の低級アルコール類が利用できる。なお、本実施例にはH2O(超純水)を用いた。
【0029】
p型不純物材料としては、結晶成長過程において閃亜鉛鉱構造、ウルツ鉱構造のO(酸素)サイトに置換し易い化合物が適している。特に、NH3は、上記H2Oと同様な作用があり適している。具体的には、p型不純物材料として、NH3(アンモニア)、(CH3)2NNH2(ジメチルヒドラジン)、(CH3)NHNH2(モノメチルヒドラジン)などのヒドラジン類、PH3(フォスフィン)、R1PH2、R2PH、R3Pなどのアルキル燐化合物、AsH3(アルシン)、R1PH2、R2PH、R3Pなどのアルキル砒素化合物などを利用できる。
【0030】
キャリアガスとしては、上記した結晶成長材料と反応しない、いわゆる不活性ガスが適している。また、H2O(水蒸気)、NH3など結晶成長材料の基板表面への吸着を妨げないガスが良い。具体的には、キャリアガス及び雰囲気ガスとして、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、Ar(アルゴン)、Kr(クリプトン)、Xe(キセノン)またはN2(窒素)などのいわゆる不活性ガスを利用できる。
【0031】
[基板]
ZnO(酸化亜鉛)基板は、ウルツ鉱(ウルツァイト)構造の結晶で、代表的な基板切り出し面には、{0001}面であるc面、{11−20}面であるa面、{10−10}面であるm面、{10−12}面であるr面がある。また、c面には、Zn極性面(+c面)とO極性面(−c面)がある。
【0032】
以下に説明する実施例及び比較例においては、水熱合成法(hydrothermal method)で製造されたインゴットより切出された2インチφ(直径2インチ)のZnO単結晶基板を用いた。なお、高温熱処理(1000℃以上)等の処理により基板由来の不純物である残留Liの濃度を低減した基板を用いた。
【0033】
また、ZnO単結晶基板10として、基板主面(結晶成長面)がZn極性面(+c面)である基板(以下、c面ZnO単結晶基板ともいう。)が好ましい。下記実施例及び比較例においては、結晶成長面がZn極性面である基板を用いた。また、基板主面(結晶成長面)がa軸およびm軸の何れかに傾いた基板であることが好ましい。下記実施例及び比較例においては、具体的には、(0001)面が [10−10]方向に0.5°傾いた基板((0001)0.5°off to [10−10])、いわゆる0.5°オフ基板(あるいは、c面がm軸方向に0.5°傾いた基板)を用いた。
【0034】
尚、MOCVD法では(000−1)面であるO極性面、またいわゆるジャスト基板であっても問題無く成長が可能である。例えば、サファイア上のZnO成長(ZnO on Apphire)の場合は酸素(O)極性で成長する。
【0035】
また、以下に説明する実施例および比較例においては、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用いた。すなわち、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のダメージ層の薄いZnO単結晶基板を選別した。当該選別した基板にエッチングを行い、ダメージ層を除去した。当該エッチングにより良好な表面平坦性が得られた。
【0036】
エッチング液として、EDTA・2Na(エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム)0.2mol/L溶液とEDA(エチレンジアミン)の99%溶液を20:1の比で混ぜた混合溶液を用いた。このエッチング液(EDTA・2Na:EDA=20:1)のエッチングレートは0.7μm/h(である。なお、当該エッチング液は、特開2007−1787に開示されている。また、エッチング液の混合比は5:1〜30:1程度で良好にエッチングを行うことができる。
【0037】
上記エッチング液に、室温で、20min(分)間浸し表面層をエッチングした。その後、水洗にてエッチング液を除去し、有機溶剤洗浄(アセトンまたはアルコール)にて脱水した。最後に、有機溶剤を加熱し、蒸気雰囲気中にて乾燥した。なお、温度および時間等のエッチング条件は、基板表面処理、保管状態により異なる。
【実施例1】
【0038】
[フローチャネルの詳細構成]
1.1 リアクタ・フローチャネルの構成
図2(a)は、本発明のフローチャネル方式のMOCVD装置におけるチャネルフローノズル10及び反応室部20の詳細な構成を示す模式的な断面図であり、図2(b)は、チャネルフローノズル10及び反応室部20の模式的な上面図である。なお、チャネルフローノズル10及び反応室部20は、ガスフロー方向に平行な中心線F−Fに関して対称であり、図2(b)の平面図においては、図の簡便さ及び理解の容易さのため、当該対称線F−Fに関して片側半分の部分のみ示している。また、図2(a)は、図2(b)に示す線C−Cに関し、矢印方向からみた断面図である。
【0039】
図2(a),(b)に示すように、反応室部20においては、リアクタ・フローチャネル20Aが構成されている。より詳細には、リアクタ底板21、サセプタ113の上面及び基板30の上面は同一面(水平面)であるように構成されており、これらがリアクタ・フローチャネル(以下、単に、フローチャネルともいう。)20Aの底面21Aを構成している。そして、その底面21A、上面壁(以下、リアクタ天板又は単に天板ともいう。)22及び側面壁23によって、チャネルフローノズル10から噴出されたガスの流路であるフローチャネル20Aが画定されている。
【0040】
そして、リアクタ底板21及びリアクタ天板22は少なくとも基板30のガスフロー下流端まで延在している。すなわち、ノズル10から噴出されたガスは、少なくとも基板30のガスフロー下流端まで延在したリアクタ底板21及びリアクタ天板22によって誘導され、フローチャネル20A内のガスフローが形成される。
【0041】
図2(a)は、天板22がノズル10の噴出口端(K)から排気口(J)に向かって(すなわち、ガスフローの上流から下流に向かって)下方に傾斜して、フローチャネル20Aの高さ及び断面積が減少する形状とした場合について示している。このような構造により基板面上でのガス流を安定化させることができる。例えば、フローチャネル20A内を流れるガス、特にはサセプタ113近傍のガスはサセプタ113により、例えば約800℃まで加熱される。このとき、熱膨張によりガスの体積は2〜3倍程度に膨張する。この体積膨張により基板表面のガスフローが不安定になる。天板22を傾斜させると、フローチャネル20Aを流れるガス流は常に基板面に向かう。従って、基板面上を流れるガスの不安定化を抑制することができる。
【0042】
なお、基板30の中心上の天板22の高さは、フローチャネル式リアクタにおいてガスが安定に流れる高さとした。より具体的には、フローチャネル20Aの幅Wに対して、基板(直径2インチ)30の中心上の高さ(平均高さ)Hwが低く過ぎたり、高すぎたりすると、ガス流の偏流が発生する。経験的に下記の式に従う範疇ならば概ね良好なガスフローが得られる。なお、ここで、kは安定係数であり、0.04≦k≦0.15であることが好ましい。
【0043】
Hw = W × k
1.2 ノズル10の構成
チャネルフローノズル10は、チャネル型のノズルであり、水平な3層の層流をフローチャネル20Aに供給するように構成されている。より詳細には、ノズル10は、水冷ジャケット11、上面壁14及び側面壁19によって囲まれた構造を有している。さらに、ノズル10には、第1の隔壁板(1−2層間隔壁板)12及び第2の隔壁板(2−3層間隔壁板)13が設けられ、3つのガスフローチャネルが形成されている。これら3つのチャネルは互いに独立している。すなわち、ノズル10内においてガスフローが混合することが無いように上下面及びフロー方向に平行な側面によって閉じられた構造を有している。なお、水冷ジャケット11の上面がノズル10の下面壁を構成している。
【0044】
さらに詳細には、水冷ジャケット11及び隔壁板12の間にノズル・チャネルCH1(第1のチャネル)、隔壁板12及び隔壁板13の間にノズル・チャネルCH2(第2のチャネル)、隔壁板13及びノズル10の上面壁14の間にノズル・チャネルCH3(第3のチャネル)が設けられている。ライン1〜3(Line 1-3)からノズル10に供給されたガスはノズル・チャネルCH1,CH2,CH3(以下、単に、チャネルCHn(n=1,2,3)ともいう。)によって3層の層流としてノズル10から噴出される。なお、隔壁板12及び13、ノズル10の上面壁14、水冷ジャケット11の上面は互いに平行であるように形成されており、平行な3層の層流(Flow 1-3)がノズル10から水平に噴出される。
【0045】
さらに、材料ガスチャネルであるチャネルCH2を構成する隔壁板12及び隔壁板13の間には、さらに隔壁板15(サブチャネル隔壁板)が設けられ、互いに独立したノズル・サブチャネル(以下、単に、サブチャネルともいう。)CH2A及びCH2Bがそれぞれ複数設けられている。また、ノズル・サブチャネルCH2A及びCH2B内を流れるガスフローはノズル10内において混合することが無いように構成されている。
【0046】
ライン1(Line 1)107Bからの窒素ガスはノズル・チャネルCH1に供給され、噴出口からフロー1(Flow 1、底層(ボトム)フローともいう。)として噴出される。また、ライン3(Line 3)107Aからの窒素ガスはノズル・チャネルCH3に供給され、噴出口からフロー3(Flow 3、上層(トップ)フローともいう。)として噴出される。また、ラン・ライン2a(Line 2a)107CからのH2O(水蒸気)及び酸素(O2)ガスはサブチャネルCH2Aに供給され、噴出口からフロー2a(Flow 2a)として噴出される。ラン・ライン2b(Line 2b)107Dからの有機金属化合物ガスはサブチャネルCH2Bに供給され、噴出口からフロー2b(Flow 2b)として噴出される。フロー2a(Flow 2a)及びフロー2bはフロー2(Flow 2、中間(ミドル)フローともいう。)を構成する。
【0047】
このように、ノズル10がチャネルCH1〜3及びサブチャネルCH2A,CH2Bを有するように構成したのは、材料ガスを空間的に分離して運び、材料ガスの拡散または混合を防ぐためである。すなわち、酸素を含まない有機金属化合物(DMZn等)は酸素(O2)、水蒸気(H2O)、ROH(低級アルコール類)とは室温から反応し、酸化する。特に水蒸気との反応性は最も高い。すなわち、これらの材料ガスは接触した直後から酸化反応が開始する。また温度が高くなるに従い、その反応速度は急激に高くなる。例えば、基板手前で材料ガスが相互拡散又は混合した場合、生成した結晶種(最小単位のZnO、中間生成物)は、失活(低エネルギー化)しエピタキシャル結晶成長を阻害し、あるいは材料の枯渇等の問題を起こす。つまり、上記した材料ガスを用いて良好な結晶性のZnO結晶を成長するには、材料ガスを空間分離して運び、基板のごく近傍の表面で、且つガス温度が高い領域のみで材料ガスを拡散または混合させ、反応及び結晶化させることが重要である。
【0048】
さらに、フロー1(Flow 1)は、基板手前の加熱されたフローチャネル下面部にてフロー2(Flow 2)から吹き出した材料ガスが加熱され、基板手前で反応することを防ぐ。また、基板上で材料ガスが拡散し反応する層としての機能を有する。また、フロー3(Flow 3)は、材料ガスを流しても結晶成長に使用されない空間領域であるので、その使用されない材料ガスを置換する機能を有する。これは、材料ガスの使用効率を上げると共に、結晶成長に寄与しない部分のフローチャネル空間で生成する結晶種の発生を防ぐことに役立つ。
【0049】
ノズル10のガス噴出口端面および投影面は、噴出口から噴出するガスで占有されるように、つまり、ノズル10のガス噴出口端の断面がガスフロー1〜3の断面のみからなるように構成されている。すなわち、ガス噴出口端の断面をみた場合に、ガスを吹き出さない面(デッドスペース)がない(面積がゼロ)又は僅かであることが肝要である。なお、図2(a),(b)の断面図に示すように、ノズル10の下面壁11、上面壁14、側面壁19は、それぞれフローチャネル21Aの下面壁21、上面壁(天板)22、側面壁23と連続的な面(デッドスペースがない)として接続されている。従って、噴出口端の断面における各隔壁板の端部の断面積がゼロ(デッドスペースがない)であればよい。
【0050】
具体的には、ガスを仕切る隔壁板の端部がフロー下流方向に狭まり、その先端(噴出口端)の断面積がゼロであるテーパー状に加工してデッドスペースが発生しない構造としている。すなわち、隔壁板12及び隔壁板13(図2(a))、隔壁板15(図2(b))の端部は噴出口部分においてテーパー形状を有している。ただし、隔壁板端部厚みが0.5mm以下程度ならば問題はない。例えば、隔壁板が厚く端部が垂直面の場合、各噴出口から吹き出したガスは乱流を発生し直ちに相互拡散が進む。酸素を含まない有機金属化合物と反応性が高い酸素含有化合物(酸素、水蒸気、アルコール類)を用いる場合は、噴出口端部で材料ガスの相互拡散や混合を極力抑制する構造が必要である。
【0051】
1.2 噴出口の構造及びガスフロー
図3(a),(b),(c)を参照して本発明の実施例1による噴出口部の構造及びガスフローについて詳細に説明する。図3(a)は、ノズル10の断面構造、すなわち図2(b)の線D―Dにおける、反応室部20から見た断面の構造を模式的に示している。なお、図2(b)に示した対称線F−Fに関して対称な片側半分の部分のみを示している。
【0052】
図3(a)に示すように、材料ガスを噴出する第2のチャネルCH2は、酸素含有化合物(水蒸気)を噴出するサブチャネルCH2A(Flow 2a)と有機金属化合物を噴出するサブチャネルCH2B(Flow 2b)とが基板表面と平行な方向に交互に配置された2系統のサブチャネルを有するように構成され、これらの材料ガスは基板30の表面に平行(水平)な方向に沿って分離されて噴出される。
【0053】
図3(b)は、特にノズル10の噴出口近傍部分から基板30の中心部分、すなわち図2(b)の線D―Dないし線E―Eの部分の上面図である。ここで、破線の四分円はサセプタ113及び基板30を示している。また、図中の線K−Kはノズル10の噴出口端Kの位置を示している。図3(c)は、図3Bに対応する部分の断面図であり、材料ガスフロー(GF)、熱拡散領域(TD)及び拡散反応層(DR)を模式的に示している。
【0054】
図3(b),(c)に模式的に示すように、ノズル10の噴出口からフローチャネル20Aに噴出されたガスフロー2a(Flow 2a、水蒸気)及びガスフロー2b(Flow 2b、有機金属ガス)は分離して基板30の方向に流れ、フローチャネル20A内で徐々に拡散し、混合したフロー領域(図中、破線で囲まれた領域2a+2bとして示す。)を形成する。さらに、これらのガスはフロー1(Flow 1、拡散反応層DR)内に拡散する(図3(c))。
【0055】
この構造により、有機金属化合物ガスと水蒸気とを分離して流すことができ、基板面上で相互反応を起こさせることが可能となる。より詳細には、分離して流れた材料ガスが、サセプタによって加熱されたフロー1(拡散反応層DR)内に拡散し、基板表面で分解反応し、エピタキシャル結晶成長が行われる。また、基板回転により基板は、有機金属材料ガスフロー領域と水蒸気ガスフロー領域を交互に通過することで、能動的に混合されるのでエピタキシャル結晶成長が行われる。換言すれば、基板領域上においても有機金属ガスと水蒸気は完全に混合する必要はない。
【0056】
なお、本実施例のノズルを用いた場合、後述する「ルール1」を適用することが好ましい。
【実施例2】
【0057】
図4(a),(b),(c)を参照して実施例2の構成及びガスフローについて詳細に説明する。図4(a)は、反応室部20から見たノズル10及び反応室部20の断面構造を模式的に示している。
【0058】
図4(a),(b)に示すように、本実施例においては、水蒸気フローを形成するサブチャネルCH2A(Flow 2a)及び有機金属化合物ガスフローを形成するサブチャネルCH2B(Flow 2b)に加えて、隔壁ガスとしての不活性ガス(窒素)フローを形成するサブチャネルCH2C(Flow 2c)が設けられている。すなわち、隣接するサブチャネルCH2A及びサブチャネルCH2Bの間にはサブチャネルCH2Cが設けられ、3系統のサブチャネルとして構成されている。かかる構成により、水蒸気フロー(Flow 2a)と、有機金属化合物ガスフロー(Flow 2b)との混合が抑制されている。
【0059】
より詳細には、図4(b),(c)に模式的に示すように、ノズル10の噴出口からフローチャネル20Aに噴出されたガスフロー2a(Flow 2a、水蒸気)及びガスフロー2b(Flow 2b、有機金属ガス)は、サブチャネルCH2Cからの隔壁ガス(窒素ガス)フローによって隔てられて基板30上に流れる。
【0060】
尚、サブチャネルCH2Cへ流す隔壁ガスは、専用の隔壁ガス(窒素ガス)供給ラインをガス供給部5Aに追加して設けることで供給することができる。あるいは、ノズルチャネルCH1又はCH3からサブチャネルCH2Cに隔壁ガス(窒素ガス)を供給するようにできる。図4(d),(e)は、それぞれノズル10の断面図、ノズル10及び反応室部20内のガスフローを模式的に示す断面図である。より詳細には、図4(d)は、図4(e)のD−D線からガスフロー上流方向をみたノズル断面であり、ガスフロー方向に垂直なノズル構造を模式的に示す断面図である。なお、ノズル10のガスフロー方向に平行な対称線M−Mに関して対称な片側半分の部分のみを示している。また、図4(e)は、図4(d)に示すE−E線から隔壁板12方向をみた断面図である。
【0061】
図4(e)に示すように、サブチャネルCH2Cは、ノズル10のガス噴出口先端部(K)からノズル10内の途中(線J−Jで示す)に至る袋小路構造のガスチャネルとして設けられ、図4(d),(e)に示すように、2−3層間隔壁板13には、チャネルCH3に連通した開口であるスリット形状の細孔又は連通部(以下、単にスリット開口という)13Sが設けられている。すなわち、チャネルCH3からの窒素ガスフロー(Flow 3)がスリット開口13Sを経てサブチャネルCH2Cに隔壁ガスとして供給されるように構成されている。かかる構成の場合、図4(a),(b)に示すサブチャネルCH2Cを設け、サブチャネルCH2C専用の隔壁ガス供給ラインを設ける場合に比べ、ノズル10内のガス供給路の構成が簡略化できる。なお、2−3層間隔壁板13にスリット開口を設ける場合について例示したが、1−2層間隔壁板12にスリット開口を設け、チャネルCH1からのガスフロー(Flow 1)がそのスリット開口を経てサブチャネルCH2Cに隔壁ガスとして供給されるように構成してもよい。
【0062】
この構造により、有機金属材料ガスと酸素源ガスの隣接面での相互反応を抑制することができる。特に、成長温度が600℃〜700℃程度以上の高温域での成長においては、ガスが加熱され拡散速度が速くなるので、隔壁ガスによる材料ガスの相互拡散防止は、良好な結晶性のZnO結晶成長には有効な方法である。なお、上記した専用の隔壁ガス供給ラインを追加する場合は、後述する開口流量比の「ルール1」を適用することが好ましい。また、1−2層間隔壁板12にスリット開口を設けてサブチャネルCH2Cに隔壁ガスを供給する場合は「ルール2」を適用し、2−3層間隔壁板13にスリット開口を設けてサブチャネルCH2Cに隔壁ガスを供給する場合は「ルール3」を適用する。
【実施例3】
【0063】
図5(a)〜(e)を参照して実施例3の構成及びガスフローについて詳細に説明する。図5(a)は、ノズル10及び反応室部20の構成を示す模式的な断面図である。図5(b),(c)は、それぞれ図5(a)に示す線E1及びE2からみたノズル10の部分的な平面図である。また、図5(d)は、図5(a)に示す線A−Aからみた部分断面図であり、材料ガスフロー(Flow 2a、2b)の状態を模式的に示している。
【0064】
図5(a)に示すように、本実施例においては、隔壁板(1−2層間隔壁板)12がノズル10の噴出口端(K)から距離P1だけフロー上流方向に後退した構造を有している。より詳細には、図5(b),(c)に示すように、隔壁板(2−3層間隔壁板)13は噴出口端Kまで延在しているが、1−2層間隔壁板12は噴出口端Kから距離P1の位置で途切れている。従って、図5(d)に示すように、材料ガスフローであるフロー2(Flow 2a,2b)は、当該地点から底層フローであるフロー1(Flow 1)によって押し上げられ、断面積が縮小される(図中、矢印で模式的に示している。)。これにより、材料ガスフロー(Flow 2a,2b)間の接触面積が低減され、隣接する材料ガス間の相互拡散を抑制することができる。また、1−2層間隔壁板12を噴出口端Kから後退させているので、材料ガスの反応開始点を遠ざける(距離Q1)ことができ、材料ガスの上流部における反応を抑制できるとともに、噴出口がヒーター輻射熱で加熱されるのを防ぐことができる。なお、層間隔壁板12の後退距離P1はノズル・チャネルCH2の高さと同等以上が好ましく、更に好ましくは2倍以上5倍以下がよい。後退距離P1が短いと、ノズル端での乱流発生の原因となり、また5倍より長いと材料ガスがノズル・チャネルCH1の窒素ガスと混合し、断面積の縮小効果が低減する、従ってQ1も短くなる。
【0065】
図5(e)の部分断面図は、さらに実施例2(図4(a)〜(c))の場合と同様に、サブチャネルCH2Cにより、隔壁ガス(窒素ガス)フロー(Flow 2c)を設けた場合のガスフロー2(Flow 2a,2b,2c)がフロー1(Flow 1)によって押し上げられ、断面積が縮小される様子を模式的に示している。この場合、さらに隔壁ガスによる材料ガスの相互拡散防止が図られる。本実施例のノズルを用いた場合、後述する開口流量比の「ルール2」を適用する。
【実施例4】
【0066】
図6(a)〜(d)を参照して実施例4の構成及びガスフローについて詳細に説明する。図6(a)は、ノズル10及び反応室部20の構成を示す模式的な断面図であり、図6(b)は図5(b)同様のチャネルフローノズル10の一部を示す部分平面図である。図6(c)は、図6(a)に示す線A−A方向からみた部分断面図であり、材料ガスフロー(Flow 2a、2b)の状態を模式的に示している。
【0067】
図6(a)に示すように、本実施例においては、1−2層間隔壁板12に代わり、2−3層間隔壁板13がノズル10の噴出口端Kから距離P2だけフロー上流方向に後退した構造を有している。より詳細には、図6(b)に示すように、1−2層間隔壁板12は噴出口端Kまで延在しているが、2−3層間隔壁板13は噴出口端Kから距離P2の位置で途切れている。従って、図6(c)に示すように、材料ガスフローであるフロー2(Flow 2a,2b)は、当該地点から上層フローであるフロー3(Flow 3)によって押し下げられ、断面積が縮小される。これにより、材料ガスフロー(Flow 2a,2b)の接触断面積が低減され、隣接する材料ガスの相互拡散、相互反応を抑制することができる。さらに、基板30の表面に材料ガスフローを近づける(距離Q2)ことができ、材料ガスの供給効率を向上させることができる。
【0068】
また、図6(d)は、さらに隔壁ガス(窒素ガス)フロー(Flow 2c)を設けた場合に、ガスフロー2(Flow 2a,2b,2c)がフロー1(Flow 1)によって押し下げられる様子を模式的に示している。この場合、さらに隔壁ガスによる材料ガスの相互拡散防止を図ることができる。本実施例のノズルを用いた場合、後述する開口流量比の「ルール3」を適用する。
【実施例5】
【0069】
図7(a)〜(g)を参照して実施例5の構成及びガスフローについて詳細に説明する。図7(a)は、ノズル10及び反応室部20の構成を示す模式的な断面図であり、図7(b),(c)は、図5(b),(c)同様の、線E1及びE2からみたノズル10の一部を示す平面図である。なお、図面の明快さのため、線E1及びE2は省いている。
【0070】
図7(b),(c)に示すように、本実施例においては、1−2層間隔壁板12及び2−3層間隔壁板13のそれぞれ一部を交互に後退させた構造を有している。より詳細には、図7(b)に示すように、サブチャネルCH2A(Flow 2a)のみにおいて2−3層間隔壁板13を後退させ(噴出口端Kから距離P3)、その部分においては1−2層間隔壁板12は噴出口端Kまで延在している。従って、図7(b)〜(d)に示すように、当該部分においてフロー2a(Flow 2a)は、上層フローであるフロー3(Flow 3)によって基板面方向に押し下げられる。一方、図7(c)に示すように、サブチャネルCH2B(Flow 2b)のみにおいて1−2層間隔壁板12を後退させ、その部分においては2−3層間隔壁板13を噴出口端Kまで延在している。従って、図7(c),(d)に示すように、当該部分においてフロー2b(Flow 2b)は、フロー1(Flow 1)によって押し上げられ、断面積が縮小される。
【0071】
この構造によれば、上記実施例と同様な材料ガスの相互拡散防止効果に加え、基板30上を流れるフロー1(Flow 1)への材料ガスの拡散状態(濃度)、混合状態を制御することができる。つまり、供給する材料ガス流量を変更することなく、材料ガスの拡散濃度を空間的に自由に調整することが可能となる。なお、かかる構造を用いず、単に、供給する材料ガス流量を増減する方法では、ノズル端で乱流が発生し、サブチャネルCH2AとCH2Bのガスが混合してしまうために、成長層の結晶性が低下する。また、乱流により成長速度が変化したり、材料ガスの過不足が発生する場合がある。なお、隔壁板(又はその一部)を後退させることによる、材料ガスの相互拡散防止、乱流防止等の効果は前述の実施例及び後述の実施例において共通である。
【0072】
図7(e)〜(g)は、本実施例の改変例を模式的に示している。すなわち、図7(e)は、サブチャネルCH2Cを設け、隔壁ガス(窒素ガス)フロー(Flow 2c)を採用した場合である。この場合、さらに隔壁ガスによる材料ガスの相互拡散防止が図られる。また、図7(f)は、一方のサブチャネル(図ではサブチャネルCH2A、Flow 2a)について、1−2層間隔壁板12のみを後退させた場合を示し、図7(g)は、一方のサブチャネル(図ではサブチャネルCH2A、Flow 2a)について、2−3層間隔壁板13のみを後退させた場合を示している。これら改変例の場合においても、材料ガスの相互拡散防止効果、基板領域上での材料ガスの拡散状態(濃度)、相互混合状態を制御することができる。
【0073】
1−2層間隔壁板12及び2−3層間隔壁板13の一方又は両方の一部を後退させる構成は、有機金属化合物及び酸素源材料の反応性に応じて適宜選択することができる。本実施例の図7(d)、(e)のノズルを用いた場合、後述する開口流量比の「ルール4」を適用する。また図7(f)のノズルを用いた場合、開口流量比の「ルール2」を適用し、図7(g)のノズルを用いた場合、開口流量比の「ルール3」を適用する。
【実施例6】
【0074】
図8(a)〜(d)を参照して実施例6の構成及びガスフローについて詳細に説明する。図8(a)は、ノズル10及び反応室部20の構成を示す模式的な断面図であり、図8(b)は、チャネルCH3から2−3層間隔壁板13側をみた場合の平面図である。図8(c)は、図8(a)に示す線A−Aにおける部分断面図であり、ガスフローの状態を模式的に示している。図8(d)〜(f)は、本実施例の改変例を示す図8(c)同様の部分断面図である。
【0075】
図8(a),(b)に示すように、2−3層間隔壁板13には、幅(フロー方向の長さ)W4の開口部(スリット)18が設けられている。図8(a)〜(c)に示すように、スリット18から流入するフロー3(Flow 3)によって材料ガスフロー(中間フロー、Flow 2)は押し上げられ、断面積が縮小される。また、隔壁部13A(フロー方向の長さP4)は、材料ガスフローの整流板として機能し、ガスフローの合流乱れを抑制でき、材料ガスフローの安定性を高めることができる。また、隣接する材料ガス間の相互拡散を抑制することができる。
【0076】
また、図8(d)に示すように、隔壁ガス(窒素ガス)フロー(Flow 2c)を形成するサブチャネルCH2C(Flow 2c)を、隣接するサブチャネルCH2A及びサブチャネルCH2Bの間に設け、3系統のサブチャネルとして構成してもよい。この場合、上記したように、さらに隔壁ガスによる材料ガスの相互拡散防止を図ることができる。
【0077】
なお、2−3層間隔壁板13にスリット18を設けた場合について説明したが、1−2層間隔壁板12に設けることができる。この場合、基板面に対する材料ガスの流路を遠ざけることができる。あるいは両者に設けた構成としてもよい。フローの間の隔壁板の所望位置に所望の大きさのスリット及び整流板を設けることによってガスフローの合流乱れの抑制、材料ガスの流路の制御を行うことができる。また、図8(a)に模式的に示すように、隔壁板12又は13のスリット18の形成端(開口部端)をテーパー状に加工してスリット18から流入するフローを乱さない構造とするのが好ましい。層間隔壁部13Aの長さP4は、ノズル・チャネルCH2の高さと同等以上が好ましく、更に好ましくは2倍以上5倍以下がよい。長さP4が短いと整流効果が得られず、また5倍より長いと材料ガスがノズル・チャネルCH3の窒素ガスと混合し、断面積の縮小効果が低減する。またスリット幅W4は、ノズル・チャネルCH2の高さと同等以上4倍以下が好ましい。幅W4が短いとノズル・チャネルCH3の窒素ガスがチャネルCH2に勢いよく流入し混合してしまう。また4倍より広いとノズル端までの距離が長くなり、材料ガスがノズル・チャネルCH3の窒素ガスと混合し、断面積の縮小効果が低減する。
【0078】
図8(d)〜(f)は、本実施例の改変例を模式的に示している。すなわち、図8(d)は、サブチャネルCH2Cを設け、隔壁ガス(窒素ガス)フロー(Flow 2c)を採用した場合である。また、図8(e)は、スリット18を1−2層間隔壁板12に設けた場合を示し、図8(f)は、さらにサブチャネルCH2Cを設け、隔壁ガスフロー(Flow 2c)を採用した場合を示している。これら改変例の場合においても、材料ガスの相互拡散防止効果、基板領域上での材料ガスの拡散状態(濃度)、相互混合状態を制御することができる。本実施例の図8(c)、(d)のノズルを用いた場合、後述する開口流量比の「ルール3」を適用する。また図8(e)、(f)のノズルを用いた場合、開口流量比の「ルール2」を適用する。
【実施例7】
【0079】
図9(a)〜(g)を参照して実施例7の構成及びガスフローについて詳細に説明する。図9(a)は、ノズル10及び反応室部20の構成を示す模式的な断面図であり、図9(b),(c)は、それぞれチャネルCH3から2−3層間隔壁板13側をみた場合及びチャネルCH2から1−2層間隔壁板12側をみた場合の平面図である。図9(d)は、図9(a)に示す線A−Aにおける部分断面図であり、ガスフローの状態を模式的に示している。図9(e)〜(g)は、本実施例の改変例を示す図9(d)同様の部分断面図である。
【0080】
図9(b)に示すように、2−3層間隔壁板13には、サブチャネルCH2A(Flow 2a)に対応する領域に長さ(ガスフロー方向)W2の開口部(以下、チャネル孔ともいう。)18Aが設けられている。また、図9(c)に示すように、1−2層間隔壁板12には、サブチャネルCH2B(Flow 2b)に対応する領域に、チャネル孔18Aと同一長さ(ガスフロー方向)W2のチャネル孔18Bが設けられている。図9(d)に示すように、チャネル孔18A及びチャネル孔18Bから流入するフロー3(Flow 3)及びフロー1(Flow 1)によって材料ガスフロー(中間フロー、Flow 2)はそれぞれ押し上げられる、及び押し下げられる。
【0081】
この構造によれば、チャネル孔18A及びチャネル孔18Bよりもフロー下流の隔壁板部分が整流板として機能するため、ガスフローの安定性が高くなる。また、上記実施例と同様な材料ガスの相互拡散防止効果に加え、基板30上に流れる材料ガスの拡散状態(濃度)、混合状態を制御することができる。つまり、材料ガスの拡散濃度を空間的に自由に調整することが可能となる
なお、1−2層間隔壁板12及び2−3層間隔壁板13の一方のみにチャネル孔を設ける構成としてもよい、また、チャネル孔18A及びチャネル孔18Bの位置、長さを互いに異ならせてもよい。用いられる材料ガス(有機金属ガス、酸素源ガス)のそれぞれの反応性等に応じて適宜選択すればよい。
【0082】
図9(e)〜(g)は、本実施例の改変例を模式的に示している。すなわち、図9(e)は、さらにサブチャネルCH2Cを設け、隔壁ガス(窒素ガス)フロー(Flow 2c)を採用した場合である。また、図9(f)は、チャネル孔18Aを1−2層間隔壁板12のみに設けた場合を示し、図9(g)は、チャネル孔18Aを2−3層間隔壁板13のみに設けた場合を示している。これら改変例の場合においても、材料ガスの相互拡散防止効果、基板領域上での材料ガスの拡散状態(濃度)、相互混合状態を制御することができる。本実施例の図9(d)、(e)のノズルを用いた場合、後述する開口流量比の「ルール4」を適用する。また図9(f)のノズルを用いた場合、開口流量比の「ルール2」を適用し、図9(g)のノズルを用いた場合、開口流量比の「ルール3」を適用する。
【実施例8】
【0083】
図10(a)は、実施例8のノズル10及び反応室部20の構成を示す模式的な断面図であり、図10(b)は模式的な上面図である。
【0084】
本実施例においては、反応室部20の底板21上に(すなわち、反応室部20のフローチャネル21Aの底面上に)、基板よりも上流側に後方乱流発生器(ボルテックスジェネレータ)35が設けられている。ボルテックスジェネレータ35は、複数の、例えば板状の突起体から構成され、サブチャネルCH2A及びCH2Bによるフロー2a、2b(Flow 2a,Flow 2b)に対応した位置、例えば各サブチャネルの中心線上の下流位置に設けられている。
【0085】
ガス拡散反応層で材料ガスの相互拡散が不十分になる場合であっても、ボルテックスジェネレータ35によって基板面上のガス混合を促進することができる。
【0086】
なお、ボルテックスジェネレータ35は、ポール状、凸凹状又は翼体等であっても良い。また、設置位置も上記に限らない。反応室部20の天板22(すなわち、フローチャネル21Aの上面)に設けても良い。また、サセプタ113の縁に設けても良い。
【実施例9】
【0087】
図11(a),(b)は、上記した実施例の多層・多チャネル噴出口部をパレット型リアクタに適用した例を示す。図11(a)は、本実施例のパレット型リアクタ120の構成を示す模式的な断面図である。図11(b)は模式的な上面図である。
【0088】
図11(b)の左側の部分は図11(a)に示す線A−A(すなわち、チャネルCH1)から水冷ジャケット11及び反応室部20の底板21側をみた場合の平面図である。この図に示すように、リアクタ120は、同心円上に8枚の基板30を配置することができるパレット型の多数枚成長リアクタである。
【0089】
また、図11(a)に示すように、ライン1,2a,2b,3からの各ガスが、同心円状の配管群41を介してノズル10のチャネルCH1,CH2(CH2A,CH2B),CH3に供給される。
【0090】
図11(b)の右側の部分は、図11(a)に示す線C−C(すなわち、チャネルCH2)から1−2層間隔壁板12側をみた場合のノズル10の拡大平面図である。この図に示すように、1−2層間隔壁板12及び2−3層間隔壁板13の間には放射状に隔壁板15が設けられ、放射状のサブフローを形成するサブチャネルCH2A,CH2Bが構成されている。
【0091】
このように、上記した構成をパレット型リアクタに適用すれば、上記実施例の効果を有する多数枚成長が可能なMOCVD装置を実現することができる。また、図11(b)において破線で囲んだ扇形部分を取り出して、扇形リアクタを実現することも可能である。より具体的には、上記したリアクタの場合、基板1枚に対応するリアクタ部分は、中心角(θ)がθ=45°(=360°/8)の扇形である。従って、一般的には、中心角がθN(=360°/N)のN個の扇形リアクタ部からなる円形リアクタによりN枚の多数枚成長装置を構成することができる。あるいは、所定の中心角(θ)の扇形形状を有し、放射状に形成されたノズル・チャネル及びノズル・サブチャネルを有する扇形リアクタを構成することができる。なお、上記した場合では、当該扇形リアクタ部分の中心角(θ)は45°であるがこれには限らない。
【0092】
[結晶成長例及び比較例]
1.1 実施例で使用したフローチャネルのサイズ
本実施例で使用したフローチャネルのサイズは以下のようであった(図2(a)、(b)参照)。
(1) ノズル・チャネル幅:Wn=70mm(フローチャネル幅と同じ)
(2) ノズル・チャネル高さ:Hn=9mm
ここで、各ノズル・チャネルCH1,CH2,CH3の高さは、H1=1mm,H2=3mm、H3=5mmである。
(3) ノズル端Kから基板端までの距離Lw:15mm
(4) 基板中心上の高さ:Hw=4mm
(5)・サブチャネルCH2Aの幅:Wa=5mm
・サブチャネルCH2Bの幅:Wb=5mm
なお、サブチャネルCH2Cを設けた場合は、以下とする。
・サブチャネルCH2Aの幅:Wa=4mm
・サブチャネルCH2Bの幅:Wb=4mm
・サブチャネルCH2Cの幅:Wc=1mm
1.2 ノズル・チャネルの流量バランス
ノズル10の各ノズル・チャネルから噴出されるガスの流量及び流量バランスについて、以下のように定義する。
【0093】
まず、各ノズル・チャネルの開口比dSn(n=1〜3)を以下の式で求める。それぞれの記号の意味は、ノズル・チャネルCH1の開口面積S1、ノズル・チャネルCH2の開口面積S2、ノズル・チャネルCH3の開口面積S3、ノズル・チャネルCH1の開口比dS1、ノズル・チャネルCH2の開口比dS2、ノズル・チャネルCH3の開口比dS3である。
dS1=S1/(S1+S2+S3) ・・・(式1)
dS2=S2/(S1+S2+S3) ・・・(式2)
dS3=S3/(S1+S2+S3) ・・・(式3)
次に、各ノズル・チャネルの流量比dFn(n=1〜3)を以下の式で求める。それぞれの記号の意味は、ノズル・チャネルCH1の流量F1、ノズル・チャネルCH2の流量F2、ノズル・チャネルCH3の流量F3、ノズル・チャネルCH1の流量比dF1、ノズル・チャネルCH2の流量比dF2、ノズル・チャネルCH3の流量比dF3である。
dF1=F1/(F1+F2+F3) ・・・(式4)
dF2=F2/(F1+F2+F3) ・・・(式5)
dF3=F3/(F1+F2+F3) ・・・(式6)
最後に、各ノズル・チャネルの開口流量比Dn(n=1〜3)を以下の式で求める。それぞれの記号の意味は、ノズル・チャネルCH1の開口流量比D1、ノズル・チャネルCH2の開口流量比D2、ノズル・チャネルCH3の開口流量比D3である。
D1=dF1/dS1 ・・・(式7)
D2=dF2/dS2 ・・・(式8)
D3=dF3/dS3 ・・・(式9)
開口流量比が1ならば、ノズル・チャネルから噴出するガスは開口面積と等しい面積でフローチャネル20Aへ流れる。開口流量比が1未満ならば、開口面積より縮小し、開口流量比が1より大きいと拡大してフローチャネル20Aへ流れる。
【0094】
フローチャネル式リアクタにおいてチャネル内を流れるガスフローが、ヒーター加熱(基板面またはサセプタ面)を受け熱膨張乱流を発生する現象を抑制することが肝要である。従って、上面壁22が下流方向に傾斜したフローチャネル(図2(a)参照)において、実施例1及び2では、開口流量比D1〜D3が、D1≦D2≦D3(ルール1)となる関係が好ましい。当該関係にある場合、フローチャネル20Aを流れるガスには、基板表面に向かうベクトル成分が形成され、熱膨張乱流によるフロー不安定化を抑制することができる。
【0095】
また、実施例3、実施例5の図7(f)、実施例6の図8(e),(f)、実施例7の図9(f)のノズル構造においては、ノズル・チャネルCH1の窒素ガスでCH2の材料ガスの断面積を縮小するので、D2≦D1(ルール2)である必要がある。
【0096】
同様に、実施例4、実施例5の図7(g)、実施例6の図8(c),(d)、実施例7の図9(g)のノズル構造においては、ノズル・チャネルCH3の窒素ガスでCH2の材料ガスの断面積を縮小するので、D2≦D3(ルール3)である必要がある。
【0097】
さらに、実施例5の図7(d),(e)、実施例7の図9(d),(e)のノズル構造においては、ノズル・チャネルCH1及びCH3の窒素ガスでCH2の材料ガスの断面積を縮小するので、D2≦D1且つD2≦D3(ルール4)である必要がある。
【0098】
1.3 結晶成長の例
[成長例1(実施例1の構成)]
上記した実施例1(図2(a)、(b)、図3(a)〜(c))のノズル10及びフローチャネルを用いてZnO基板結晶上にZnOエピタキシャル単結晶層を成長した。図12に示す結晶成長シーケンスを参照して成長方法について以下に詳細に説明する。
【0099】
まず、表面層をエッチングしたZnO単結晶基板30をサセプタ113にセットし、真空に排気後、下記流量でノズル10へ送気を開始し、反応容器圧力を10kPaに調整した(時刻T=T1)。なお、ZnO基板30を30rpmの回転数で回転した。
【0100】
第1〜第3チャネル(CH1〜CH3)のガス流量について下記に示す。
・総ガス流量=9000cc/min
・CH3(Flow 3 (Top)):窒素ガス、5000cc/min
・CH2A(Flow 2a (Oxide)):窒素ガス(+H2O)、1500cc/min
・CH2B(Flow 2b (MO)):窒素ガス(+DMZn)、1500cc/min
・CH1(Flow 1 (Bottom)):窒素ガス、1000cc/min
・開口流量比 D1:D2:D3=1:1:1
なお、材料ガスチャネル(CH2A、CH2B)から供給するガス流量は、水蒸気やDMZn等の材料ガスを供給する場合であっても常に一定流量に保った。
【0101】
次に、反応容器110内の圧力を10kPaから80kPaに上昇させた(T=T2)。圧力が80kPaに安定した後、基板温度をRT(室温)から775℃まで昇温した。また、基板温度上昇開始と同時に、サブチャネルCH2AからH2O(水蒸気)を800μmol/minの流量でZnO基板に供給を開始した(T=T3)。
【0102】
制御温度へ到達(T=T4)した後、1分間待ち、サブチャネルCH2BからDMZnを10μmol/minの流量でZnO基板30に供給を開始し、結晶成長を開始した(T=T5)。120分間成長(成長時間EG)した後、DMZnの供給を停止して成長を終了した(T=T6)。以上の操作によって、厚さ約1.0μmのZnO単結晶層を形成した。
【0103】
成長終了後、圧力を80kPaに保ったまま、基板温度が200℃に低下するまで水蒸気(H2O)を流しながら冷却した(T=T7〜T8)。その後、圧力をポンプ真空(〜10-1Pa程度)まで減圧し、同時にH2Oの供給を停止した。基板温度が室温になるまで待ち成長を終了した。
【0104】
[成長例2(実施例6の構成)]
上記した実施例6(図8(d))において示した構成、すなわち層間隔壁板スリット付き型のノズル10を用いてZnO基板結晶上にZnOエピタキシャル単結晶層を成長した。結晶成長方法は、ガス流量以外は上記した成長例1の場合と同様であった。以下に、ノズル10の各チャネル(CH1〜CH3)のガス流量について示す。
【0105】
尚、材料ガスの断面積が1/2になるように各ガス流量を調整した。また、この事例の場合、サブチャネルCH2Cは袋小路タイプ(図4(d),(e)参照)とし、サブチャネルCH2A、CH2B及びCH2Cに流入するガスはチャネルCH3に供給したガスを用いた。なお、フローチャネル20A及びノズル10の各サイズは、上記1.1(1)〜(5)を参照のこと。また、本実施例で設定した各ノズル・チャネルへ流すガス流量は以下で計算した。
(i) 総ガス流量:9000cc/min
(ii) ノズル・チャネル総面積:(1+3+5)mm×70mm=630mm2
(iii) ノズル・チャネルCH3の流量の算出
ノズル・チャネルCH3の断面積:S3=5×70=350mm2
サブチャネルCH2Cの断面積:3×1×14=42mm2
サブチャネルCH2AとCH2Bを押しのける断面積:3×(1/2)×(70−14)=84mm2
CH3より流すガスの受け持ち断面積:350+42+84=476mm2
CH3より流すガス流量:F3=9000×476/630=6800cc/min
(iv) ノズル・チャネルCH2A及びCH2Bの流量算出
ノズル・チャネルCH2の断面積:S2=3×70=210mm2
サブチャネルCH2A及びCH2Bの断面積:3×(1/2)×(70−14)=84mm2
CH2A+CH2Bの流量:F2=9000×84/630=1200cc/min
ここで、CH2AとCH2Bの断面積は等しいので
CH2Aより流すガス流量:1200/2=600cc/min
CH2Bより流すガス流量:1200/2=600cc/min
(v)ノズル・チャネルCH1の流量の算出
ノズル・チャネルCH1の断面積:S1=1×70=70mm2
CH1より流すガス流量:F1=9000×70/630=1000cc/min
(vi) 開口流量比の算出
開口流量比は(式1)〜(式9)により算出した。
D1:D2:D3=1:0.4:1.36
よって、D2≦D3の関係になっていることを確認した。
【0106】
[成長例3(実施例7の構成)]
上記した実施例7(図9(e))において示した構成、すなわち層間隔壁板チャネル孔付き型のノズル10を用いてZnO基板結晶上にZnOエピタキシャル単結晶層を成長した。なお、ガスの空間分離性が高く、材料ガスが混ざり難いので、乱流発生装置(ボルテックスジェネレータ)としてサセプタ周囲にφ1mm高さ0.3mm程度の突起を設けた。また、結晶成長方法は、ガス流量以外は上記した成長例1の場合と同様であった。以下に、ノズル10各チャネル(CH1〜CH3)のガス流量について示す。なお、流量の算出方法等は、上記した成長例2の場合と同様である。
【0107】
尚、材料ガスの断面積が1/2になるように各ガス流量は調整した。この事例の場合、層間隔壁ガスおよび、第2a噴出口へ流入するガスは第3噴出口へ供給したガスが用いられる。また第2b噴出口へ流入するガスは第1噴出口へ供給したガスが用いられる。
【0108】
尚、材料ガスの断面積が1/2になるように各ガス流量を調整した。また、この事例の場合、サブチャネルCH2Cは袋小路タイプとし、サブチャネルCH2A及びCH2Cに流入するガスはチャネルCH3に供給したガスを用い、CH2Bに流入するガスはチャネルCH1に供給したガスを用いた。
(i) 総ガス流量:9000cc/min
(ii) ノズル・チャネルの総面積:(1+3+5)×70=630mm2
(iii) ノズル・チャネルCH3の流量の算出
ノズル・チャネルCH3の断面積:S3=5×70=350mm2
サブチャネルCH2Cの断面積:3×1×14=42mm2
サブチャネルCH2Aを押しのける断面積:3×(1/2)×(70−14)÷2=42mm2
CH3より流すガスの受け持ち断面積:350+42+42=434mm2
CH3より流すガス流量:F3=9000×434/630=6200cc/min
(iv) ノズル・チャネルCH2A及びCH2Bの流量算出
ノズル・チャネルCH2の断面積:S2=3×70=210mm2
サブチャネルCH2A及びCH2Bの断面積:3×(1/2)×(70−14)=84mm2
CH2A+CH2Bの流量:F2=9000×84/630=1200cc/min
ここで、CH2AとCH2Bの断面積は等しいので
CH2Aより流すガス流量:1200/2=600cc/min
CH2Bより流すガス流量:1200/2=600cc/min
(v)ノズル・チャネルCH1の流量の算出
サブチャネルCH2Bを押しのける断面積:3×(1/2)×(70−14)÷2=42mm2
ノズル・チャネルCH1の断面積:S1=1×70=70mm2
CH1より流すガスの受け持ち断面積:70+42=112mm2
CH1より流すガス流量:F1=9000×112/630=1600cc/min
(vi) 開口流量比の算出
開口流量比は(式1)〜(式9)により算出した。
D1:D2:D3=1.6:0.4:1.24
よって、D2≦D1且つD2≦D3の関係になっていることを確認した。
【0109】
[比較例(成長層比較例)]
本発明による成長層(成長例1〜3)と比較のため、従来方式のMOCVD装置により成長を行いその成長層(成長層比較例)と比較を行った。図13(a),(b)は、従来の材料ガス分離方式のMOCVD装置のノズル130及び反応室部(フローチャネル)140の構造の概略を模式的に示している。より詳細には、ノズル130には、第1噴出口(第1チャネル:1-CH)、第2噴出口(第2チャネル:2-CH)、第3噴出口(第3チャネル:3-CH)が設けられている。第1チャネル(1-CH)の高さを2mm、第2チャネル(2-CH)の高さを2mm、第3チャネル(3-CH)噴出口の高さ5mmとし、第1チャネルには水蒸気を供給し、第2チャネルにはDMZnを供給し、第3には窒素を供給した。下記にそれらのガス流量を示す。なお、その他の成長方法、成長条件等は成長例(実施例)の場合と同様であった。
・第3チャネル(Flow3 (Top)):窒素ガス、5000cc/min
・第2チャネル(Flow2 (MO)):窒素ガス(+DMZn)、2000cc/min
・第1チャネル(Flow1 (Oxide)):窒素ガス(+H2O)、2000cc/min
・総ガス流量=9000cc/min
第1チャネル及び第2チャネルから供給するガス流量は、水蒸気やDMZn等の材料ガスを供給する場合であっても常に一定流量に保った。また、窒素ガスは残留O2濃度≦0.1ppm未満品を用いた。
【0110】
[成長例1〜3(本実施例)及び比較例の結果]
上記した本発明の実施例によるフローチャネル方式のMOCVD装置を用いて結晶成長した成長層(成長例1〜3)及び比較例の成長層の評価結果を下記の表1に示す。なお、上記した結晶成長層について、以下の方法により評価・分析を行った。
【0111】
表面モフォロジは、微分偏光顕微鏡、SEM(Scanning Electron Microscope)及びAFM(Atomic Force Microscope)により評価を行った。結晶配向性及び平坦性は、RHEED(reflection high-energy electron diffraction)により評価を行った。また、結晶配向性及び欠陥・転位密度については、X線回折(XRD:X-Ray Diffractometer)で評価した。結晶中の不純物濃度については、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により評価した。
【0112】
なお、XRD分析において、上記実施例および比較例ではc面ZnO単結晶基板10上にZnO系結晶層を成長したので、XRDの2θ測定およびω(ロッキングカーブ)測定を行い、c軸長については(002)2θで、配向性(チルティング、ツイスティングの程度)については(002)ω、(100)ω の半値幅(FWHM:full width at half maximum)で評価した。もっとも、1μm程度以下の薄膜の場合、(002)ω測定値は基板のX線回折強度が強く、また成長層のX線回折強度が弱いため、正確に評価できない。一方で、(100)ω測定は、c軸を基準に89°で入射・回折させることで薄膜(30nm程度)でも感度良く配向性を評価できる。以上より、ZnO系結晶層のXRD評価は、(100)ωのFWHM値を指標とした。
【0113】
【表1】
【0114】
また、図14a〜図14dはそれぞれ、本発明による成長例2の成長層のAFM像(5μm□視野像)、AFM像(1μm□視野像)、微分干渉顕微鏡像、SEM像を示す。また、図15はXRD(100)ωロッキングカーブを示す。
【0115】
表1及び図14a〜図14dに示すように、本発明によるMOCVD装置を用いて結晶成長した成長層の全て(成長例1〜3)においてZn極性面である(0001)面のZnO基板上にシングルドメインで且つ平坦性の高いZnO単結晶が成長されたことを確認した。AFMの□1μm視野像においては、ステップ&テラス状のモフォロジーであった。また、XRDによる(100)ω回折のFWHM(半値幅)はZnO基板と同程度の30arcsecと良好な値を得た。これに対して、従来のMOCVD装置を用いて成長したZnO結晶層は不透明で白濁しており多結晶状であった。これらの結果は、本発明の装置、方法で成長したZnOエピタキシャル結晶層の欠陥及び転位密度が非常に低いことを示している。なお、上記においては、代表的な3種類の噴出口構造による成長結果(成長例1〜3)しか示していないが、他の噴出口構造においても良好なZnO結晶成長が得られた。
【0116】
なお、上記した実施例は適宜組み合わせ、又は改変して適用することができる。また、上記した数値等は例示に過ぎない。
【0117】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、高品質、且つ平坦な結晶層を成長できるフローチャネル方式のMOCVD装置を提供することができる。特に、材料ガスの相互拡散を抑制できるとともに、基板領域上での材料ガスの拡散状態(濃度)、相互混合状態を制御することができる。また、供給する材料ガスの流量を変更することなく、材料ガスの拡散濃度、拡散状態を空間的に自由に調整することが可能である。従って、例えば、ZnO系化合物半導体などの成長において、相互反応性が高い材料ガスを組み合わせて使用する場合においても、結晶性が良好なシングルドメインの結晶層が得られ、且つ平坦な結晶層を成長できるMOCVD装置を提供することができる。従って、高性能かつ高信頼性の半導体素子、特に、発光効率及び素子寿命に優れた高性能な半導体発光素子を製造可能なMOCVD装置を提供することができる。さらに、製造歩留まり及び量産性に優れた半導体素子を製造可能なMOCVD装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0118】
5 MOCVD装置
10 ノズル
20 反応室部
20A フローチャネル
22 リアクタ天板
12 第1の隔壁板(1−2層間隔壁板)
13 第2の隔壁板(2−3層間隔壁板)
15 第3の隔壁板(サブチャネル隔壁板)
18 隔壁板スリット
18B チャネル孔
30 基板
35 ボルテックスジェネレータ
113 サセプタ
CH1,CH2,CH3 ノズル・チャネル
CH2A,CH2B ノズル・サブチャネル
【技術分野】
【0001】
本発明は、MOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)装置、特に、水平ガス流式(フローチャネル方式)のMOCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、室温で3.37eVのバンドギャップエネルギーを有する直接遷移型の半導体で、青ないし紫外領域の光素子用の材料として期待されている。特に、励起子の束縛エネルギーが60meV、また屈折率n=2.0と半導体発光素子に極めて適した物性を有している。また、発光素子、受光素子に限らず、表面弾性波(SAW)デバイス、圧電素子等にも広く応用が可能である。さらに、原材料が安価であるとともに、環境や人体に無害であるという特徴を有している。
【0003】
ところで、レーザーダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)そして電子デバイス等の産業分野で半導体単結晶成長方法としてMOCVD法が幅広く用いられている。これらの分野で求められる半導体結晶層は、欠陥密度や転位密度が低くシングルドメインの半導体単結晶層が必要とされる。また、電導性制御や発光効率向上のために残留不純物濃度の低い結晶が要求される。更には、多層積層構造とするため、半導体単結晶層の平坦性も高いレベルで要求される。MOCVD法に用いられる装置(MOCVD装置)は、現在に至るまで多様な改善がなされてきた。
【0004】
しかし、従来開発されてきたAlGaAs、InGaAlP、InGaN等の半導体結晶が非酸化物系半導体結晶であるのに対して、ZnO系半導体結晶は酸化物系結晶である。その酸素源にはO2(酸素)、H2O(水蒸気)、ROH(低級アルコール類)、N2O(笑気ガス)などが用いられる。特に酸素を含まない有機金属化合物は、O2(酸素)、H2O(水蒸気)、ROH(低級アルコール類)とは室温から反応するため、ZnO系結晶のエピタキシャル結晶成長は容易ではない。即ち、MOCVD装置にも成長材料に合わせた改良が必要となる。
【0005】
従来の水平ガス流式(フローチャネル式)MOCVD装置としては、例えば、特許文献1乃至6に開示されているものがある。上記したAlGaAs、InGaAlP、InGaN等の非酸化物系半導体結晶の成長においては、材料ガスとしてIII族系有機金属材料及びV族系材料が主体に用いられる。これらの材料ガスは双方を混合して加熱しなければ容易に反応・結晶化しない。また有機金属材料との反応性は、As水素化物、P水素化物、N水素化物の順に悪くなる。このような物性のため、かかる従来のフローチャネル式MOCVD装置においては、III族ガスとV族ガスを噴出口部(ノズル)に至る前に混合するタイプや、V族材料ガスを基板側に流して加熱分解を促進するタイプなどの構造が開発されてきた(例えば、特許文献1、3)。また、細孔よりIII族ガスとV族ガスを吹き出し混合供給するタイプもある(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04−254491号公報
【特許文献2】特開昭63−243000号公報
【特許文献3】特開2003−51457号公報
【特許文献4】特開平02−229476号公報
【特許文献5】特開2005−197326号公報
【特許文献6】特開2000−100726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体発光素子を製造するには、基板上に、少なくともn型半導体層、発光層、p型半導体層を積層する。特殊な素子を除いては、前記半導体層は基板上に低欠陥、低転位、シングルドメインで且つ平坦に積層でき、また結晶組成、不純物濃度分布が均一であることが、素子性能の向上、素子製造歩留まりの向上に必要である。
【0008】
ところが、水平ガス流式(フローチャネル式)のMOCVD装置でZnO系結晶の結晶成長を行う場合、酸素を含まない有機金属化合物と、反応性の高い酸素含有化合物であるO2(酸素)、H2O(水蒸気)、ROH(低級アルコール類)を用いた結晶成長においては、板状(ディスク状)、柱状(ロッド状)、針状(ウイスカー状)結晶が成長し易く、低欠陥、低転位、シングルドメインで且つ平坦な結晶層は成長できなかった。
【0009】
このような相互反応性が高い組み合わせの材料ガスを使用する場合においても、結晶性が良好なシングルドメインの結晶層が得られ、且つ平坦な結晶層を成長できるMOCVD装置が必要である。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、シングルドメインの高品質な結晶層が得られ、且つ平坦な結晶層を成長できるフローチャネル方式のMOCVD装置を提供することにある。また、高性能かつ高信頼性の半導体素子、特に、発光効率及び素子寿命に優れた高性能な半導体発光素子を製造可能なMOCVD装置を提供することにある。さらに、製造歩留まりが高く、量産性に優れた半導体素子を製造可能なMOCVD装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の結晶成長装置は、酸素を含まない有機金属化合物と酸素含有化合物を用いたMOCVD法により、基板上に結晶層を成長する結晶成長装置であって、
基板と平行に基板側から不活性ガスを噴出する第1のチャネル、材料ガスを噴出する第2のチャネル及び不活性ガスを噴出する第3のチャネルが層状に構成されたノズルを備え、
上記第2のチャネルには、上記酸素含有化合物を噴出する第1のサブチャネル及び上記有機金属化合物を噴出する第2のサブチャネルが基板と平行方向に交互に並んで配置され、
上記ノズルから噴出されたガスは、少なくとも基板端まで上記ノズル端から延長された天板および底板で構成されたフローチャネルで誘導されることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のフローチャネル方式のMOCVD装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】(a)は、本発明によるチャネルフローノズル及び反応室部の詳細な構成を示す模式的な断面図であり、(b)は、図2(a)に示す線B−Bからみた平面図である。
【図3】(a)は本発明の実施例1によるノズルの断面構造を示す模式的な断面図であり、(b),(c)はノズルからの材料ガスフローの状態を示す模式的な平面図及び断面図、である。
【図4a−4c】図4(a)〜(c)はそれぞれ図3(a)〜(c)と同様な図であるが、本発明の実施例2により、材料ガスフローのサブチャネル間に、隔壁ガスとしての不活性ガスフローサブチャネルが設けられた場合を示す図である。
【図4d−4e】は図4(d),(e)は、サブチャネルCH2Cを袋小路構造のガスチャネルとして設けた場合のノズル、及びガスフローを模式的に示す断面図である。
【図5】実施例3による、1−2層間隔壁板がノズルの噴出口端からフロー上流方向に後退した構造を有するノズル及び反応室部の構成、隔壁板構造、材料ガスフローの状態を示す図である。
【図6】実施例4による、2−3層間隔壁板がノズルの噴出口端からフロー上流方向に後退した構造を有するノズル及び反応室部の構成、隔壁板構造、材料ガスフローの状態を示す図である。
【図7a−7c】図7(a)〜(c)を示し、実施例5による、隔壁板の一部がフロー上流方向に後退した構造を有するノズル及び反応室部の構成、隔壁板構造を示す図である。
【図7d−7g】図7(d)〜(g)を示し、図7(a)〜(c)に示す構成におけるガスフローの状態を示す断面図である。
【図8a−8b】図8(a)、(b)を示し、実施例6による、層間隔壁板に開口部(スリット)を有するノズル及び反応室部の構成、隔壁板構造を示す図である。
【図8c−8f】図8(c)〜(f)を示し、図8(a)、(b)に示す構成におけるガスフローの状態を示す断面図である。
【図9a−9c】図9(a)〜(c)を示し、実施例7による、層間隔壁板に開口部(チャネル孔)を有するノズル及び反応室部の構成、隔壁板構造を示す図である。
【図9d−9g】図9(d)〜(g)を示し、図9(a)〜(c)に示す構成におけるガスフローの状態を示す断面図である。
【図10】実施例8による、反応室部の底板上に後方乱流発生器(ボルテックスジェネレータ)が設けられた構成を示す図である。
【図11a】図11(a)を示し、実施例9による、上記実施例の多層・多チャネルノズルを適用したパレット型リアクタの構成を示す模式的な断面図である。
【図11b】図11(b)を示し、図11(a)に示すパレット型リアクタの構成を模式的に示す平面図及びノズルの構成を示す模式的な平面図である。
【図12】本発明による実施例(成長例1〜3)の結晶成長シーケンスを示す図である。
【図13】成長層比較例の成長に用いた従来の材料ガス分離方式のMOCVD装置のノズル及び反応室部の構造の概略を模式的に示す断面
【図14a】本発明によるMOCVD装置を用いて結晶成長した成長層(成長例2)のAFM像(5μm□視野像)を示す図である。
【図14b】本発明によるMOCVD装置を用いて結晶成長した成長層(成長例2)のAFM像(1μm□視野像)を示す図である。
【図14c】本発明によるMOCVD装置を用いて結晶成長した成長層(成長例2)の微分干渉顕微鏡像を示す図である。
【図14d】本発明によるMOCVD装置を用いて結晶成長した成長層(成長例2)のSEM像を示す図である。
【図15】本発明(成長例2)による成長層XRD(100)ωロッキングカーブを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下においては、酸素を含まない有機金属化合物と、反応性の高い酸素含有(金属元素を含まない)化合物とを材料ガスとして用い、シングルドメインで高品質な結晶性を有し、かつ平坦性に優れたな酸化亜鉛(ZnO)系半導体結晶層を成長することが可能なフローチャネル方式のMOCVD装置について図面を参照して詳細に説明する。また、本実施形態に係る実施例のMOCVD装置により形成された半導体素子として、半導体発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を例に説明する。
【0014】
図1は、本発明のフローチャネル方式のMOCVD装置5の構成を模式的に示している。MOCVD装置5の装置構成の詳細について以下に説明する。
【0015】
[装置構成]
MOCVD装置5は、ガス供給部5A、反応容器部5B及び排気部5Cから構成されている。より詳細には、ガス供給部5Aは、有機金属化合物材料を気化して供給する部分と、有機金属ガス及び酸素源ガスからなる材料ガスを供給する部分と、当該材料ガスを輸送する機能で構成されている。反応容器部5Bは、供給された有機金属ガス及び酸素源ガスを基板に供給するノズルと、基板を加熱するヒーターと、基板に半導体結晶層が均一に成長するように基板を回転させる基板回転機構で構成されている。また、排気部5Cは、反応容器内の圧力調整と材料ガスを排気する機構から構成されている。
【0016】
常温で液体(または固体)である有機金属化合物材料は、気化し蒸気として供給する。本実施例においては、亜鉛(Zn)源としてDMZn(ジメチル亜鉛)、マグネシウム(Mg)源としてCp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム:biscyclopentadienyl magnesium)、ガリウム(Ga)源としてTEGa(トリエチルガリウム)をそれぞれ用いた。
【0017】
まず、DMZnの供給について説明する。図1に示すように、窒素ガス106を流量調整装置(マスフローコントローラ)100D、100E にて所定の流量とし、ラン配管2b(以下、ラン・ライン2b(Line 2b)ともいう。)107D、ベント配管(以下、ベント・ライン(Vent)ともいう。)107Eに流す。次に、DMZn蒸気発生器101Aに窒素ガスを送り、所定の濃度のDMZn蒸気が飽和した窒素ガス(以下、DMZn材料ガスともいう。)を取り出す。成長時には、上記DMZn材料ガスは供給弁101Cを介してベント配管107Eに供給され、排気される。なお、DMZn蒸気発生器101Aには流量調整装置、バブリングガス供給弁、DMZn格納容器、送気弁、圧力調整装置が収められている。なお、DMZn格納容器は恒温槽によって一定温度に保たれている。
【0018】
また、その他の有機金属化合物材料Cp2Mg、TEGaについても同様である。すなわち、これらの材料をそれぞれ格納する蒸気発生器102A(Cp2Mg),103A(TEGa)に流量調整装置100Eを経た所定の流量の窒素ガスが送気され、成長時にはそれぞれ供給弁102C、103Cを介してラン・ライン2b(Line 2b)107Dに供給される。また、成長待機時には排気弁102B、103Bを介してベント・ライン(Vent)107Eに供給され、排気される。これらの蒸気発生器102A,103Aに収められている格納容器もまた恒温槽によって一定温度に保たれている。
【0019】
また、酸素源としての液体材料であるH2O(水蒸気)は蒸気発生器104Aに流量調整装置100Eを経た所定の流量の窒素ガスが送気され、成長時には供給弁104Cを介してラン・ライン2a(Line 2a)107Cに供給される。また、成長待機時には排気弁104Bを介してベント・ライン(Vent)107Eに供給され、排気される。蒸気発生器104Aに収められている格納容器もまた恒温槽によって一定温度に保たれている。
【0020】
また、酸素(O2)ガスについても同様であり、成長時には供給弁105Cを介してラン・ライン2a(Line 2a)107Cに供給される。また、成長待機時には排気弁105Bを介してベント・ライン(Vent)107Eに供給され、排気される。
【0021】
上記したように、有機金属化合物ガスはラン・ライン2b(Line 2b)107Dを通して、H2O(水蒸気)及び酸素(O2)ガスはラン・ライン2a(Line 2a)107Cを通して反応容器110に供給される。すなわち、ラン・ライン2a(Line 2a)107C及びラン・ライン2b(Line 2b)107Dにはそれぞれ流量調整装置100C、100Dによって流量調整されたキャリアガス(窒素)が送気され、液体または固体材料蒸気(有機金属化合物ガス)と気体材料(H2O,O2)ガス(以下、"材料ガス"ともいう。)が反応容器110内のチャネルフローノズル10に供給される。
【0022】
また、ライン1(Line 1)107B、ライン3(Line 3)107Aには、それぞれ流量調整装置100B、100Aによって流量調整された窒素ガス(又は、いわゆる不活性ガス)が送気され、反応容器110内のチャネルフローノズル10に供給される。
【0023】
排気部5Cは、容器内圧力調整装置116と排気ポンプ117とで構成されており、容器内圧力調整装置116によって反応容器110内の圧力を1kPaないし120kPa程度まで調整できる構造となっている。
【0024】
反応容器110内には、チャネルフローノズル10及び反応室部20から構成されている。反応室部20には、下面壁(以下、リアクタ底板又は単に底板ともいう。)21、上面壁(以下、リアクタ天板又は単に天板ともいう。)22、側面壁23、ZnO系結晶を成長させる基板30、基板30を保持すると同時にヒーターの熱放射を均一に基板30に伝達するサセプタ113、サセプタ113を加熱するヒーター114が設けられている。サセプタ113は、回転機構(又はモータ)115により、5rpm〜90rpm程度に回転できる構造となっている。また基板30は、ヒーター114により室温から1100℃程度まで加熱できる構造となっている。なお、サセプタ113の外径はφ60mmである。
【0025】
なお、本発明の実施形態における基板温度とは、基板30を載置するサセプタ113の表面の温度を指している。すなわち、MOCVD法の場合、サセプタ113から基板30への熱伝達は直接接触、およびサセプタ113と基板30との間に存在するガスにより行なわれる。本実施例で用いた成長圧力1kPa〜120kPa(Pa:パスカル)の間では、基板30の表面温度はサセプタ113の表面温度より0℃〜10℃低い程度である。
[結晶成長材料]
本発明の実施形態においては、有機金属化合物材料(または有機金属材料)として、構成分子内に酸素を含まない材料を用いた。酸素を含まない有機金属材料は、水蒸気(酸素材料又は酸素源)との反応性が高く、低成長圧力、あるいは水蒸気と有機金属(MO)の流量比(FH2O/FMO 比)又はVI/II比が低い領域においてもZnO系結晶の成長を可能とする。
【0026】
本実施例及び比較例においては、DMZn、Cp2Mg、TEGa(半導体材料用高純度品)を用いたが、II族材料として、DEZn(ジエチル亜鉛)、MtCp2Mg(ビスメチルペンタジエニルマグネシウム:bisdimethylcyclopentadienyl magnesium)、EtCp2Mg(ビスエチルペンタジエニルマグネシウム:Bis-ethylcyclopentadienyl magnesium)等を用いることができる。また、III族材料として、TMGa(トリメチルガリウム)、TMAl(トリメチルアルミニウム)、TEAl(トリエチルアルミニウム)、TIBA(トリイソブチルアルミニウム)などを利用することができる。
【0027】
酸素材料(以下、酸素源という。)としては、有機金属材料を酸化させる作用のある化合物を用いることができる。また、極性酸素材料(極性酸素源)が適している。特に、H2O(水蒸気)は、分子内に水素原子が結合した側と孤立電子対側でδ+、δ-に大きく分極しており、酸化物結晶表面への吸着能力が優れている。
【0028】
また、H2O分子は、水素原子結合手と孤立電子対で4面体構造をとり、sp3型混成軌道の閃亜鉛鉱構造(Zincblende/Cubic)、ウルツ鉱構造(Wurtzeite/Hexagonal)の酸化物結晶の成長では、優先的に酸素サイトに配向吸着する優れた酸素源である。他の酸素源として、同様に、双極子モーメントが大きくO原子がsp3型混成軌道を採る低級アルコール類でも良い。すなわち、具体的には、酸素源として、H2O(水蒸気)以外に、低級アルコール類、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールの炭素数が1〜5の低級アルコール類が利用できる。なお、本実施例にはH2O(超純水)を用いた。
【0029】
p型不純物材料としては、結晶成長過程において閃亜鉛鉱構造、ウルツ鉱構造のO(酸素)サイトに置換し易い化合物が適している。特に、NH3は、上記H2Oと同様な作用があり適している。具体的には、p型不純物材料として、NH3(アンモニア)、(CH3)2NNH2(ジメチルヒドラジン)、(CH3)NHNH2(モノメチルヒドラジン)などのヒドラジン類、PH3(フォスフィン)、R1PH2、R2PH、R3Pなどのアルキル燐化合物、AsH3(アルシン)、R1PH2、R2PH、R3Pなどのアルキル砒素化合物などを利用できる。
【0030】
キャリアガスとしては、上記した結晶成長材料と反応しない、いわゆる不活性ガスが適している。また、H2O(水蒸気)、NH3など結晶成長材料の基板表面への吸着を妨げないガスが良い。具体的には、キャリアガス及び雰囲気ガスとして、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、Ar(アルゴン)、Kr(クリプトン)、Xe(キセノン)またはN2(窒素)などのいわゆる不活性ガスを利用できる。
【0031】
[基板]
ZnO(酸化亜鉛)基板は、ウルツ鉱(ウルツァイト)構造の結晶で、代表的な基板切り出し面には、{0001}面であるc面、{11−20}面であるa面、{10−10}面であるm面、{10−12}面であるr面がある。また、c面には、Zn極性面(+c面)とO極性面(−c面)がある。
【0032】
以下に説明する実施例及び比較例においては、水熱合成法(hydrothermal method)で製造されたインゴットより切出された2インチφ(直径2インチ)のZnO単結晶基板を用いた。なお、高温熱処理(1000℃以上)等の処理により基板由来の不純物である残留Liの濃度を低減した基板を用いた。
【0033】
また、ZnO単結晶基板10として、基板主面(結晶成長面)がZn極性面(+c面)である基板(以下、c面ZnO単結晶基板ともいう。)が好ましい。下記実施例及び比較例においては、結晶成長面がZn極性面である基板を用いた。また、基板主面(結晶成長面)がa軸およびm軸の何れかに傾いた基板であることが好ましい。下記実施例及び比較例においては、具体的には、(0001)面が [10−10]方向に0.5°傾いた基板((0001)0.5°off to [10−10])、いわゆる0.5°オフ基板(あるいは、c面がm軸方向に0.5°傾いた基板)を用いた。
【0034】
尚、MOCVD法では(000−1)面であるO極性面、またいわゆるジャスト基板であっても問題無く成長が可能である。例えば、サファイア上のZnO成長(ZnO on Apphire)の場合は酸素(O)極性で成長する。
【0035】
また、以下に説明する実施例および比較例においては、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用いた。すなわち、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のダメージ層の薄いZnO単結晶基板を選別した。当該選別した基板にエッチングを行い、ダメージ層を除去した。当該エッチングにより良好な表面平坦性が得られた。
【0036】
エッチング液として、EDTA・2Na(エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム)0.2mol/L溶液とEDA(エチレンジアミン)の99%溶液を20:1の比で混ぜた混合溶液を用いた。このエッチング液(EDTA・2Na:EDA=20:1)のエッチングレートは0.7μm/h(である。なお、当該エッチング液は、特開2007−1787に開示されている。また、エッチング液の混合比は5:1〜30:1程度で良好にエッチングを行うことができる。
【0037】
上記エッチング液に、室温で、20min(分)間浸し表面層をエッチングした。その後、水洗にてエッチング液を除去し、有機溶剤洗浄(アセトンまたはアルコール)にて脱水した。最後に、有機溶剤を加熱し、蒸気雰囲気中にて乾燥した。なお、温度および時間等のエッチング条件は、基板表面処理、保管状態により異なる。
【実施例1】
【0038】
[フローチャネルの詳細構成]
1.1 リアクタ・フローチャネルの構成
図2(a)は、本発明のフローチャネル方式のMOCVD装置におけるチャネルフローノズル10及び反応室部20の詳細な構成を示す模式的な断面図であり、図2(b)は、チャネルフローノズル10及び反応室部20の模式的な上面図である。なお、チャネルフローノズル10及び反応室部20は、ガスフロー方向に平行な中心線F−Fに関して対称であり、図2(b)の平面図においては、図の簡便さ及び理解の容易さのため、当該対称線F−Fに関して片側半分の部分のみ示している。また、図2(a)は、図2(b)に示す線C−Cに関し、矢印方向からみた断面図である。
【0039】
図2(a),(b)に示すように、反応室部20においては、リアクタ・フローチャネル20Aが構成されている。より詳細には、リアクタ底板21、サセプタ113の上面及び基板30の上面は同一面(水平面)であるように構成されており、これらがリアクタ・フローチャネル(以下、単に、フローチャネルともいう。)20Aの底面21Aを構成している。そして、その底面21A、上面壁(以下、リアクタ天板又は単に天板ともいう。)22及び側面壁23によって、チャネルフローノズル10から噴出されたガスの流路であるフローチャネル20Aが画定されている。
【0040】
そして、リアクタ底板21及びリアクタ天板22は少なくとも基板30のガスフロー下流端まで延在している。すなわち、ノズル10から噴出されたガスは、少なくとも基板30のガスフロー下流端まで延在したリアクタ底板21及びリアクタ天板22によって誘導され、フローチャネル20A内のガスフローが形成される。
【0041】
図2(a)は、天板22がノズル10の噴出口端(K)から排気口(J)に向かって(すなわち、ガスフローの上流から下流に向かって)下方に傾斜して、フローチャネル20Aの高さ及び断面積が減少する形状とした場合について示している。このような構造により基板面上でのガス流を安定化させることができる。例えば、フローチャネル20A内を流れるガス、特にはサセプタ113近傍のガスはサセプタ113により、例えば約800℃まで加熱される。このとき、熱膨張によりガスの体積は2〜3倍程度に膨張する。この体積膨張により基板表面のガスフローが不安定になる。天板22を傾斜させると、フローチャネル20Aを流れるガス流は常に基板面に向かう。従って、基板面上を流れるガスの不安定化を抑制することができる。
【0042】
なお、基板30の中心上の天板22の高さは、フローチャネル式リアクタにおいてガスが安定に流れる高さとした。より具体的には、フローチャネル20Aの幅Wに対して、基板(直径2インチ)30の中心上の高さ(平均高さ)Hwが低く過ぎたり、高すぎたりすると、ガス流の偏流が発生する。経験的に下記の式に従う範疇ならば概ね良好なガスフローが得られる。なお、ここで、kは安定係数であり、0.04≦k≦0.15であることが好ましい。
【0043】
Hw = W × k
1.2 ノズル10の構成
チャネルフローノズル10は、チャネル型のノズルであり、水平な3層の層流をフローチャネル20Aに供給するように構成されている。より詳細には、ノズル10は、水冷ジャケット11、上面壁14及び側面壁19によって囲まれた構造を有している。さらに、ノズル10には、第1の隔壁板(1−2層間隔壁板)12及び第2の隔壁板(2−3層間隔壁板)13が設けられ、3つのガスフローチャネルが形成されている。これら3つのチャネルは互いに独立している。すなわち、ノズル10内においてガスフローが混合することが無いように上下面及びフロー方向に平行な側面によって閉じられた構造を有している。なお、水冷ジャケット11の上面がノズル10の下面壁を構成している。
【0044】
さらに詳細には、水冷ジャケット11及び隔壁板12の間にノズル・チャネルCH1(第1のチャネル)、隔壁板12及び隔壁板13の間にノズル・チャネルCH2(第2のチャネル)、隔壁板13及びノズル10の上面壁14の間にノズル・チャネルCH3(第3のチャネル)が設けられている。ライン1〜3(Line 1-3)からノズル10に供給されたガスはノズル・チャネルCH1,CH2,CH3(以下、単に、チャネルCHn(n=1,2,3)ともいう。)によって3層の層流としてノズル10から噴出される。なお、隔壁板12及び13、ノズル10の上面壁14、水冷ジャケット11の上面は互いに平行であるように形成されており、平行な3層の層流(Flow 1-3)がノズル10から水平に噴出される。
【0045】
さらに、材料ガスチャネルであるチャネルCH2を構成する隔壁板12及び隔壁板13の間には、さらに隔壁板15(サブチャネル隔壁板)が設けられ、互いに独立したノズル・サブチャネル(以下、単に、サブチャネルともいう。)CH2A及びCH2Bがそれぞれ複数設けられている。また、ノズル・サブチャネルCH2A及びCH2B内を流れるガスフローはノズル10内において混合することが無いように構成されている。
【0046】
ライン1(Line 1)107Bからの窒素ガスはノズル・チャネルCH1に供給され、噴出口からフロー1(Flow 1、底層(ボトム)フローともいう。)として噴出される。また、ライン3(Line 3)107Aからの窒素ガスはノズル・チャネルCH3に供給され、噴出口からフロー3(Flow 3、上層(トップ)フローともいう。)として噴出される。また、ラン・ライン2a(Line 2a)107CからのH2O(水蒸気)及び酸素(O2)ガスはサブチャネルCH2Aに供給され、噴出口からフロー2a(Flow 2a)として噴出される。ラン・ライン2b(Line 2b)107Dからの有機金属化合物ガスはサブチャネルCH2Bに供給され、噴出口からフロー2b(Flow 2b)として噴出される。フロー2a(Flow 2a)及びフロー2bはフロー2(Flow 2、中間(ミドル)フローともいう。)を構成する。
【0047】
このように、ノズル10がチャネルCH1〜3及びサブチャネルCH2A,CH2Bを有するように構成したのは、材料ガスを空間的に分離して運び、材料ガスの拡散または混合を防ぐためである。すなわち、酸素を含まない有機金属化合物(DMZn等)は酸素(O2)、水蒸気(H2O)、ROH(低級アルコール類)とは室温から反応し、酸化する。特に水蒸気との反応性は最も高い。すなわち、これらの材料ガスは接触した直後から酸化反応が開始する。また温度が高くなるに従い、その反応速度は急激に高くなる。例えば、基板手前で材料ガスが相互拡散又は混合した場合、生成した結晶種(最小単位のZnO、中間生成物)は、失活(低エネルギー化)しエピタキシャル結晶成長を阻害し、あるいは材料の枯渇等の問題を起こす。つまり、上記した材料ガスを用いて良好な結晶性のZnO結晶を成長するには、材料ガスを空間分離して運び、基板のごく近傍の表面で、且つガス温度が高い領域のみで材料ガスを拡散または混合させ、反応及び結晶化させることが重要である。
【0048】
さらに、フロー1(Flow 1)は、基板手前の加熱されたフローチャネル下面部にてフロー2(Flow 2)から吹き出した材料ガスが加熱され、基板手前で反応することを防ぐ。また、基板上で材料ガスが拡散し反応する層としての機能を有する。また、フロー3(Flow 3)は、材料ガスを流しても結晶成長に使用されない空間領域であるので、その使用されない材料ガスを置換する機能を有する。これは、材料ガスの使用効率を上げると共に、結晶成長に寄与しない部分のフローチャネル空間で生成する結晶種の発生を防ぐことに役立つ。
【0049】
ノズル10のガス噴出口端面および投影面は、噴出口から噴出するガスで占有されるように、つまり、ノズル10のガス噴出口端の断面がガスフロー1〜3の断面のみからなるように構成されている。すなわち、ガス噴出口端の断面をみた場合に、ガスを吹き出さない面(デッドスペース)がない(面積がゼロ)又は僅かであることが肝要である。なお、図2(a),(b)の断面図に示すように、ノズル10の下面壁11、上面壁14、側面壁19は、それぞれフローチャネル21Aの下面壁21、上面壁(天板)22、側面壁23と連続的な面(デッドスペースがない)として接続されている。従って、噴出口端の断面における各隔壁板の端部の断面積がゼロ(デッドスペースがない)であればよい。
【0050】
具体的には、ガスを仕切る隔壁板の端部がフロー下流方向に狭まり、その先端(噴出口端)の断面積がゼロであるテーパー状に加工してデッドスペースが発生しない構造としている。すなわち、隔壁板12及び隔壁板13(図2(a))、隔壁板15(図2(b))の端部は噴出口部分においてテーパー形状を有している。ただし、隔壁板端部厚みが0.5mm以下程度ならば問題はない。例えば、隔壁板が厚く端部が垂直面の場合、各噴出口から吹き出したガスは乱流を発生し直ちに相互拡散が進む。酸素を含まない有機金属化合物と反応性が高い酸素含有化合物(酸素、水蒸気、アルコール類)を用いる場合は、噴出口端部で材料ガスの相互拡散や混合を極力抑制する構造が必要である。
【0051】
1.2 噴出口の構造及びガスフロー
図3(a),(b),(c)を参照して本発明の実施例1による噴出口部の構造及びガスフローについて詳細に説明する。図3(a)は、ノズル10の断面構造、すなわち図2(b)の線D―Dにおける、反応室部20から見た断面の構造を模式的に示している。なお、図2(b)に示した対称線F−Fに関して対称な片側半分の部分のみを示している。
【0052】
図3(a)に示すように、材料ガスを噴出する第2のチャネルCH2は、酸素含有化合物(水蒸気)を噴出するサブチャネルCH2A(Flow 2a)と有機金属化合物を噴出するサブチャネルCH2B(Flow 2b)とが基板表面と平行な方向に交互に配置された2系統のサブチャネルを有するように構成され、これらの材料ガスは基板30の表面に平行(水平)な方向に沿って分離されて噴出される。
【0053】
図3(b)は、特にノズル10の噴出口近傍部分から基板30の中心部分、すなわち図2(b)の線D―Dないし線E―Eの部分の上面図である。ここで、破線の四分円はサセプタ113及び基板30を示している。また、図中の線K−Kはノズル10の噴出口端Kの位置を示している。図3(c)は、図3Bに対応する部分の断面図であり、材料ガスフロー(GF)、熱拡散領域(TD)及び拡散反応層(DR)を模式的に示している。
【0054】
図3(b),(c)に模式的に示すように、ノズル10の噴出口からフローチャネル20Aに噴出されたガスフロー2a(Flow 2a、水蒸気)及びガスフロー2b(Flow 2b、有機金属ガス)は分離して基板30の方向に流れ、フローチャネル20A内で徐々に拡散し、混合したフロー領域(図中、破線で囲まれた領域2a+2bとして示す。)を形成する。さらに、これらのガスはフロー1(Flow 1、拡散反応層DR)内に拡散する(図3(c))。
【0055】
この構造により、有機金属化合物ガスと水蒸気とを分離して流すことができ、基板面上で相互反応を起こさせることが可能となる。より詳細には、分離して流れた材料ガスが、サセプタによって加熱されたフロー1(拡散反応層DR)内に拡散し、基板表面で分解反応し、エピタキシャル結晶成長が行われる。また、基板回転により基板は、有機金属材料ガスフロー領域と水蒸気ガスフロー領域を交互に通過することで、能動的に混合されるのでエピタキシャル結晶成長が行われる。換言すれば、基板領域上においても有機金属ガスと水蒸気は完全に混合する必要はない。
【0056】
なお、本実施例のノズルを用いた場合、後述する「ルール1」を適用することが好ましい。
【実施例2】
【0057】
図4(a),(b),(c)を参照して実施例2の構成及びガスフローについて詳細に説明する。図4(a)は、反応室部20から見たノズル10及び反応室部20の断面構造を模式的に示している。
【0058】
図4(a),(b)に示すように、本実施例においては、水蒸気フローを形成するサブチャネルCH2A(Flow 2a)及び有機金属化合物ガスフローを形成するサブチャネルCH2B(Flow 2b)に加えて、隔壁ガスとしての不活性ガス(窒素)フローを形成するサブチャネルCH2C(Flow 2c)が設けられている。すなわち、隣接するサブチャネルCH2A及びサブチャネルCH2Bの間にはサブチャネルCH2Cが設けられ、3系統のサブチャネルとして構成されている。かかる構成により、水蒸気フロー(Flow 2a)と、有機金属化合物ガスフロー(Flow 2b)との混合が抑制されている。
【0059】
より詳細には、図4(b),(c)に模式的に示すように、ノズル10の噴出口からフローチャネル20Aに噴出されたガスフロー2a(Flow 2a、水蒸気)及びガスフロー2b(Flow 2b、有機金属ガス)は、サブチャネルCH2Cからの隔壁ガス(窒素ガス)フローによって隔てられて基板30上に流れる。
【0060】
尚、サブチャネルCH2Cへ流す隔壁ガスは、専用の隔壁ガス(窒素ガス)供給ラインをガス供給部5Aに追加して設けることで供給することができる。あるいは、ノズルチャネルCH1又はCH3からサブチャネルCH2Cに隔壁ガス(窒素ガス)を供給するようにできる。図4(d),(e)は、それぞれノズル10の断面図、ノズル10及び反応室部20内のガスフローを模式的に示す断面図である。より詳細には、図4(d)は、図4(e)のD−D線からガスフロー上流方向をみたノズル断面であり、ガスフロー方向に垂直なノズル構造を模式的に示す断面図である。なお、ノズル10のガスフロー方向に平行な対称線M−Mに関して対称な片側半分の部分のみを示している。また、図4(e)は、図4(d)に示すE−E線から隔壁板12方向をみた断面図である。
【0061】
図4(e)に示すように、サブチャネルCH2Cは、ノズル10のガス噴出口先端部(K)からノズル10内の途中(線J−Jで示す)に至る袋小路構造のガスチャネルとして設けられ、図4(d),(e)に示すように、2−3層間隔壁板13には、チャネルCH3に連通した開口であるスリット形状の細孔又は連通部(以下、単にスリット開口という)13Sが設けられている。すなわち、チャネルCH3からの窒素ガスフロー(Flow 3)がスリット開口13Sを経てサブチャネルCH2Cに隔壁ガスとして供給されるように構成されている。かかる構成の場合、図4(a),(b)に示すサブチャネルCH2Cを設け、サブチャネルCH2C専用の隔壁ガス供給ラインを設ける場合に比べ、ノズル10内のガス供給路の構成が簡略化できる。なお、2−3層間隔壁板13にスリット開口を設ける場合について例示したが、1−2層間隔壁板12にスリット開口を設け、チャネルCH1からのガスフロー(Flow 1)がそのスリット開口を経てサブチャネルCH2Cに隔壁ガスとして供給されるように構成してもよい。
【0062】
この構造により、有機金属材料ガスと酸素源ガスの隣接面での相互反応を抑制することができる。特に、成長温度が600℃〜700℃程度以上の高温域での成長においては、ガスが加熱され拡散速度が速くなるので、隔壁ガスによる材料ガスの相互拡散防止は、良好な結晶性のZnO結晶成長には有効な方法である。なお、上記した専用の隔壁ガス供給ラインを追加する場合は、後述する開口流量比の「ルール1」を適用することが好ましい。また、1−2層間隔壁板12にスリット開口を設けてサブチャネルCH2Cに隔壁ガスを供給する場合は「ルール2」を適用し、2−3層間隔壁板13にスリット開口を設けてサブチャネルCH2Cに隔壁ガスを供給する場合は「ルール3」を適用する。
【実施例3】
【0063】
図5(a)〜(e)を参照して実施例3の構成及びガスフローについて詳細に説明する。図5(a)は、ノズル10及び反応室部20の構成を示す模式的な断面図である。図5(b),(c)は、それぞれ図5(a)に示す線E1及びE2からみたノズル10の部分的な平面図である。また、図5(d)は、図5(a)に示す線A−Aからみた部分断面図であり、材料ガスフロー(Flow 2a、2b)の状態を模式的に示している。
【0064】
図5(a)に示すように、本実施例においては、隔壁板(1−2層間隔壁板)12がノズル10の噴出口端(K)から距離P1だけフロー上流方向に後退した構造を有している。より詳細には、図5(b),(c)に示すように、隔壁板(2−3層間隔壁板)13は噴出口端Kまで延在しているが、1−2層間隔壁板12は噴出口端Kから距離P1の位置で途切れている。従って、図5(d)に示すように、材料ガスフローであるフロー2(Flow 2a,2b)は、当該地点から底層フローであるフロー1(Flow 1)によって押し上げられ、断面積が縮小される(図中、矢印で模式的に示している。)。これにより、材料ガスフロー(Flow 2a,2b)間の接触面積が低減され、隣接する材料ガス間の相互拡散を抑制することができる。また、1−2層間隔壁板12を噴出口端Kから後退させているので、材料ガスの反応開始点を遠ざける(距離Q1)ことができ、材料ガスの上流部における反応を抑制できるとともに、噴出口がヒーター輻射熱で加熱されるのを防ぐことができる。なお、層間隔壁板12の後退距離P1はノズル・チャネルCH2の高さと同等以上が好ましく、更に好ましくは2倍以上5倍以下がよい。後退距離P1が短いと、ノズル端での乱流発生の原因となり、また5倍より長いと材料ガスがノズル・チャネルCH1の窒素ガスと混合し、断面積の縮小効果が低減する、従ってQ1も短くなる。
【0065】
図5(e)の部分断面図は、さらに実施例2(図4(a)〜(c))の場合と同様に、サブチャネルCH2Cにより、隔壁ガス(窒素ガス)フロー(Flow 2c)を設けた場合のガスフロー2(Flow 2a,2b,2c)がフロー1(Flow 1)によって押し上げられ、断面積が縮小される様子を模式的に示している。この場合、さらに隔壁ガスによる材料ガスの相互拡散防止が図られる。本実施例のノズルを用いた場合、後述する開口流量比の「ルール2」を適用する。
【実施例4】
【0066】
図6(a)〜(d)を参照して実施例4の構成及びガスフローについて詳細に説明する。図6(a)は、ノズル10及び反応室部20の構成を示す模式的な断面図であり、図6(b)は図5(b)同様のチャネルフローノズル10の一部を示す部分平面図である。図6(c)は、図6(a)に示す線A−A方向からみた部分断面図であり、材料ガスフロー(Flow 2a、2b)の状態を模式的に示している。
【0067】
図6(a)に示すように、本実施例においては、1−2層間隔壁板12に代わり、2−3層間隔壁板13がノズル10の噴出口端Kから距離P2だけフロー上流方向に後退した構造を有している。より詳細には、図6(b)に示すように、1−2層間隔壁板12は噴出口端Kまで延在しているが、2−3層間隔壁板13は噴出口端Kから距離P2の位置で途切れている。従って、図6(c)に示すように、材料ガスフローであるフロー2(Flow 2a,2b)は、当該地点から上層フローであるフロー3(Flow 3)によって押し下げられ、断面積が縮小される。これにより、材料ガスフロー(Flow 2a,2b)の接触断面積が低減され、隣接する材料ガスの相互拡散、相互反応を抑制することができる。さらに、基板30の表面に材料ガスフローを近づける(距離Q2)ことができ、材料ガスの供給効率を向上させることができる。
【0068】
また、図6(d)は、さらに隔壁ガス(窒素ガス)フロー(Flow 2c)を設けた場合に、ガスフロー2(Flow 2a,2b,2c)がフロー1(Flow 1)によって押し下げられる様子を模式的に示している。この場合、さらに隔壁ガスによる材料ガスの相互拡散防止を図ることができる。本実施例のノズルを用いた場合、後述する開口流量比の「ルール3」を適用する。
【実施例5】
【0069】
図7(a)〜(g)を参照して実施例5の構成及びガスフローについて詳細に説明する。図7(a)は、ノズル10及び反応室部20の構成を示す模式的な断面図であり、図7(b),(c)は、図5(b),(c)同様の、線E1及びE2からみたノズル10の一部を示す平面図である。なお、図面の明快さのため、線E1及びE2は省いている。
【0070】
図7(b),(c)に示すように、本実施例においては、1−2層間隔壁板12及び2−3層間隔壁板13のそれぞれ一部を交互に後退させた構造を有している。より詳細には、図7(b)に示すように、サブチャネルCH2A(Flow 2a)のみにおいて2−3層間隔壁板13を後退させ(噴出口端Kから距離P3)、その部分においては1−2層間隔壁板12は噴出口端Kまで延在している。従って、図7(b)〜(d)に示すように、当該部分においてフロー2a(Flow 2a)は、上層フローであるフロー3(Flow 3)によって基板面方向に押し下げられる。一方、図7(c)に示すように、サブチャネルCH2B(Flow 2b)のみにおいて1−2層間隔壁板12を後退させ、その部分においては2−3層間隔壁板13を噴出口端Kまで延在している。従って、図7(c),(d)に示すように、当該部分においてフロー2b(Flow 2b)は、フロー1(Flow 1)によって押し上げられ、断面積が縮小される。
【0071】
この構造によれば、上記実施例と同様な材料ガスの相互拡散防止効果に加え、基板30上を流れるフロー1(Flow 1)への材料ガスの拡散状態(濃度)、混合状態を制御することができる。つまり、供給する材料ガス流量を変更することなく、材料ガスの拡散濃度を空間的に自由に調整することが可能となる。なお、かかる構造を用いず、単に、供給する材料ガス流量を増減する方法では、ノズル端で乱流が発生し、サブチャネルCH2AとCH2Bのガスが混合してしまうために、成長層の結晶性が低下する。また、乱流により成長速度が変化したり、材料ガスの過不足が発生する場合がある。なお、隔壁板(又はその一部)を後退させることによる、材料ガスの相互拡散防止、乱流防止等の効果は前述の実施例及び後述の実施例において共通である。
【0072】
図7(e)〜(g)は、本実施例の改変例を模式的に示している。すなわち、図7(e)は、サブチャネルCH2Cを設け、隔壁ガス(窒素ガス)フロー(Flow 2c)を採用した場合である。この場合、さらに隔壁ガスによる材料ガスの相互拡散防止が図られる。また、図7(f)は、一方のサブチャネル(図ではサブチャネルCH2A、Flow 2a)について、1−2層間隔壁板12のみを後退させた場合を示し、図7(g)は、一方のサブチャネル(図ではサブチャネルCH2A、Flow 2a)について、2−3層間隔壁板13のみを後退させた場合を示している。これら改変例の場合においても、材料ガスの相互拡散防止効果、基板領域上での材料ガスの拡散状態(濃度)、相互混合状態を制御することができる。
【0073】
1−2層間隔壁板12及び2−3層間隔壁板13の一方又は両方の一部を後退させる構成は、有機金属化合物及び酸素源材料の反応性に応じて適宜選択することができる。本実施例の図7(d)、(e)のノズルを用いた場合、後述する開口流量比の「ルール4」を適用する。また図7(f)のノズルを用いた場合、開口流量比の「ルール2」を適用し、図7(g)のノズルを用いた場合、開口流量比の「ルール3」を適用する。
【実施例6】
【0074】
図8(a)〜(d)を参照して実施例6の構成及びガスフローについて詳細に説明する。図8(a)は、ノズル10及び反応室部20の構成を示す模式的な断面図であり、図8(b)は、チャネルCH3から2−3層間隔壁板13側をみた場合の平面図である。図8(c)は、図8(a)に示す線A−Aにおける部分断面図であり、ガスフローの状態を模式的に示している。図8(d)〜(f)は、本実施例の改変例を示す図8(c)同様の部分断面図である。
【0075】
図8(a),(b)に示すように、2−3層間隔壁板13には、幅(フロー方向の長さ)W4の開口部(スリット)18が設けられている。図8(a)〜(c)に示すように、スリット18から流入するフロー3(Flow 3)によって材料ガスフロー(中間フロー、Flow 2)は押し上げられ、断面積が縮小される。また、隔壁部13A(フロー方向の長さP4)は、材料ガスフローの整流板として機能し、ガスフローの合流乱れを抑制でき、材料ガスフローの安定性を高めることができる。また、隣接する材料ガス間の相互拡散を抑制することができる。
【0076】
また、図8(d)に示すように、隔壁ガス(窒素ガス)フロー(Flow 2c)を形成するサブチャネルCH2C(Flow 2c)を、隣接するサブチャネルCH2A及びサブチャネルCH2Bの間に設け、3系統のサブチャネルとして構成してもよい。この場合、上記したように、さらに隔壁ガスによる材料ガスの相互拡散防止を図ることができる。
【0077】
なお、2−3層間隔壁板13にスリット18を設けた場合について説明したが、1−2層間隔壁板12に設けることができる。この場合、基板面に対する材料ガスの流路を遠ざけることができる。あるいは両者に設けた構成としてもよい。フローの間の隔壁板の所望位置に所望の大きさのスリット及び整流板を設けることによってガスフローの合流乱れの抑制、材料ガスの流路の制御を行うことができる。また、図8(a)に模式的に示すように、隔壁板12又は13のスリット18の形成端(開口部端)をテーパー状に加工してスリット18から流入するフローを乱さない構造とするのが好ましい。層間隔壁部13Aの長さP4は、ノズル・チャネルCH2の高さと同等以上が好ましく、更に好ましくは2倍以上5倍以下がよい。長さP4が短いと整流効果が得られず、また5倍より長いと材料ガスがノズル・チャネルCH3の窒素ガスと混合し、断面積の縮小効果が低減する。またスリット幅W4は、ノズル・チャネルCH2の高さと同等以上4倍以下が好ましい。幅W4が短いとノズル・チャネルCH3の窒素ガスがチャネルCH2に勢いよく流入し混合してしまう。また4倍より広いとノズル端までの距離が長くなり、材料ガスがノズル・チャネルCH3の窒素ガスと混合し、断面積の縮小効果が低減する。
【0078】
図8(d)〜(f)は、本実施例の改変例を模式的に示している。すなわち、図8(d)は、サブチャネルCH2Cを設け、隔壁ガス(窒素ガス)フロー(Flow 2c)を採用した場合である。また、図8(e)は、スリット18を1−2層間隔壁板12に設けた場合を示し、図8(f)は、さらにサブチャネルCH2Cを設け、隔壁ガスフロー(Flow 2c)を採用した場合を示している。これら改変例の場合においても、材料ガスの相互拡散防止効果、基板領域上での材料ガスの拡散状態(濃度)、相互混合状態を制御することができる。本実施例の図8(c)、(d)のノズルを用いた場合、後述する開口流量比の「ルール3」を適用する。また図8(e)、(f)のノズルを用いた場合、開口流量比の「ルール2」を適用する。
【実施例7】
【0079】
図9(a)〜(g)を参照して実施例7の構成及びガスフローについて詳細に説明する。図9(a)は、ノズル10及び反応室部20の構成を示す模式的な断面図であり、図9(b),(c)は、それぞれチャネルCH3から2−3層間隔壁板13側をみた場合及びチャネルCH2から1−2層間隔壁板12側をみた場合の平面図である。図9(d)は、図9(a)に示す線A−Aにおける部分断面図であり、ガスフローの状態を模式的に示している。図9(e)〜(g)は、本実施例の改変例を示す図9(d)同様の部分断面図である。
【0080】
図9(b)に示すように、2−3層間隔壁板13には、サブチャネルCH2A(Flow 2a)に対応する領域に長さ(ガスフロー方向)W2の開口部(以下、チャネル孔ともいう。)18Aが設けられている。また、図9(c)に示すように、1−2層間隔壁板12には、サブチャネルCH2B(Flow 2b)に対応する領域に、チャネル孔18Aと同一長さ(ガスフロー方向)W2のチャネル孔18Bが設けられている。図9(d)に示すように、チャネル孔18A及びチャネル孔18Bから流入するフロー3(Flow 3)及びフロー1(Flow 1)によって材料ガスフロー(中間フロー、Flow 2)はそれぞれ押し上げられる、及び押し下げられる。
【0081】
この構造によれば、チャネル孔18A及びチャネル孔18Bよりもフロー下流の隔壁板部分が整流板として機能するため、ガスフローの安定性が高くなる。また、上記実施例と同様な材料ガスの相互拡散防止効果に加え、基板30上に流れる材料ガスの拡散状態(濃度)、混合状態を制御することができる。つまり、材料ガスの拡散濃度を空間的に自由に調整することが可能となる
なお、1−2層間隔壁板12及び2−3層間隔壁板13の一方のみにチャネル孔を設ける構成としてもよい、また、チャネル孔18A及びチャネル孔18Bの位置、長さを互いに異ならせてもよい。用いられる材料ガス(有機金属ガス、酸素源ガス)のそれぞれの反応性等に応じて適宜選択すればよい。
【0082】
図9(e)〜(g)は、本実施例の改変例を模式的に示している。すなわち、図9(e)は、さらにサブチャネルCH2Cを設け、隔壁ガス(窒素ガス)フロー(Flow 2c)を採用した場合である。また、図9(f)は、チャネル孔18Aを1−2層間隔壁板12のみに設けた場合を示し、図9(g)は、チャネル孔18Aを2−3層間隔壁板13のみに設けた場合を示している。これら改変例の場合においても、材料ガスの相互拡散防止効果、基板領域上での材料ガスの拡散状態(濃度)、相互混合状態を制御することができる。本実施例の図9(d)、(e)のノズルを用いた場合、後述する開口流量比の「ルール4」を適用する。また図9(f)のノズルを用いた場合、開口流量比の「ルール2」を適用し、図9(g)のノズルを用いた場合、開口流量比の「ルール3」を適用する。
【実施例8】
【0083】
図10(a)は、実施例8のノズル10及び反応室部20の構成を示す模式的な断面図であり、図10(b)は模式的な上面図である。
【0084】
本実施例においては、反応室部20の底板21上に(すなわち、反応室部20のフローチャネル21Aの底面上に)、基板よりも上流側に後方乱流発生器(ボルテックスジェネレータ)35が設けられている。ボルテックスジェネレータ35は、複数の、例えば板状の突起体から構成され、サブチャネルCH2A及びCH2Bによるフロー2a、2b(Flow 2a,Flow 2b)に対応した位置、例えば各サブチャネルの中心線上の下流位置に設けられている。
【0085】
ガス拡散反応層で材料ガスの相互拡散が不十分になる場合であっても、ボルテックスジェネレータ35によって基板面上のガス混合を促進することができる。
【0086】
なお、ボルテックスジェネレータ35は、ポール状、凸凹状又は翼体等であっても良い。また、設置位置も上記に限らない。反応室部20の天板22(すなわち、フローチャネル21Aの上面)に設けても良い。また、サセプタ113の縁に設けても良い。
【実施例9】
【0087】
図11(a),(b)は、上記した実施例の多層・多チャネル噴出口部をパレット型リアクタに適用した例を示す。図11(a)は、本実施例のパレット型リアクタ120の構成を示す模式的な断面図である。図11(b)は模式的な上面図である。
【0088】
図11(b)の左側の部分は図11(a)に示す線A−A(すなわち、チャネルCH1)から水冷ジャケット11及び反応室部20の底板21側をみた場合の平面図である。この図に示すように、リアクタ120は、同心円上に8枚の基板30を配置することができるパレット型の多数枚成長リアクタである。
【0089】
また、図11(a)に示すように、ライン1,2a,2b,3からの各ガスが、同心円状の配管群41を介してノズル10のチャネルCH1,CH2(CH2A,CH2B),CH3に供給される。
【0090】
図11(b)の右側の部分は、図11(a)に示す線C−C(すなわち、チャネルCH2)から1−2層間隔壁板12側をみた場合のノズル10の拡大平面図である。この図に示すように、1−2層間隔壁板12及び2−3層間隔壁板13の間には放射状に隔壁板15が設けられ、放射状のサブフローを形成するサブチャネルCH2A,CH2Bが構成されている。
【0091】
このように、上記した構成をパレット型リアクタに適用すれば、上記実施例の効果を有する多数枚成長が可能なMOCVD装置を実現することができる。また、図11(b)において破線で囲んだ扇形部分を取り出して、扇形リアクタを実現することも可能である。より具体的には、上記したリアクタの場合、基板1枚に対応するリアクタ部分は、中心角(θ)がθ=45°(=360°/8)の扇形である。従って、一般的には、中心角がθN(=360°/N)のN個の扇形リアクタ部からなる円形リアクタによりN枚の多数枚成長装置を構成することができる。あるいは、所定の中心角(θ)の扇形形状を有し、放射状に形成されたノズル・チャネル及びノズル・サブチャネルを有する扇形リアクタを構成することができる。なお、上記した場合では、当該扇形リアクタ部分の中心角(θ)は45°であるがこれには限らない。
【0092】
[結晶成長例及び比較例]
1.1 実施例で使用したフローチャネルのサイズ
本実施例で使用したフローチャネルのサイズは以下のようであった(図2(a)、(b)参照)。
(1) ノズル・チャネル幅:Wn=70mm(フローチャネル幅と同じ)
(2) ノズル・チャネル高さ:Hn=9mm
ここで、各ノズル・チャネルCH1,CH2,CH3の高さは、H1=1mm,H2=3mm、H3=5mmである。
(3) ノズル端Kから基板端までの距離Lw:15mm
(4) 基板中心上の高さ:Hw=4mm
(5)・サブチャネルCH2Aの幅:Wa=5mm
・サブチャネルCH2Bの幅:Wb=5mm
なお、サブチャネルCH2Cを設けた場合は、以下とする。
・サブチャネルCH2Aの幅:Wa=4mm
・サブチャネルCH2Bの幅:Wb=4mm
・サブチャネルCH2Cの幅:Wc=1mm
1.2 ノズル・チャネルの流量バランス
ノズル10の各ノズル・チャネルから噴出されるガスの流量及び流量バランスについて、以下のように定義する。
【0093】
まず、各ノズル・チャネルの開口比dSn(n=1〜3)を以下の式で求める。それぞれの記号の意味は、ノズル・チャネルCH1の開口面積S1、ノズル・チャネルCH2の開口面積S2、ノズル・チャネルCH3の開口面積S3、ノズル・チャネルCH1の開口比dS1、ノズル・チャネルCH2の開口比dS2、ノズル・チャネルCH3の開口比dS3である。
dS1=S1/(S1+S2+S3) ・・・(式1)
dS2=S2/(S1+S2+S3) ・・・(式2)
dS3=S3/(S1+S2+S3) ・・・(式3)
次に、各ノズル・チャネルの流量比dFn(n=1〜3)を以下の式で求める。それぞれの記号の意味は、ノズル・チャネルCH1の流量F1、ノズル・チャネルCH2の流量F2、ノズル・チャネルCH3の流量F3、ノズル・チャネルCH1の流量比dF1、ノズル・チャネルCH2の流量比dF2、ノズル・チャネルCH3の流量比dF3である。
dF1=F1/(F1+F2+F3) ・・・(式4)
dF2=F2/(F1+F2+F3) ・・・(式5)
dF3=F3/(F1+F2+F3) ・・・(式6)
最後に、各ノズル・チャネルの開口流量比Dn(n=1〜3)を以下の式で求める。それぞれの記号の意味は、ノズル・チャネルCH1の開口流量比D1、ノズル・チャネルCH2の開口流量比D2、ノズル・チャネルCH3の開口流量比D3である。
D1=dF1/dS1 ・・・(式7)
D2=dF2/dS2 ・・・(式8)
D3=dF3/dS3 ・・・(式9)
開口流量比が1ならば、ノズル・チャネルから噴出するガスは開口面積と等しい面積でフローチャネル20Aへ流れる。開口流量比が1未満ならば、開口面積より縮小し、開口流量比が1より大きいと拡大してフローチャネル20Aへ流れる。
【0094】
フローチャネル式リアクタにおいてチャネル内を流れるガスフローが、ヒーター加熱(基板面またはサセプタ面)を受け熱膨張乱流を発生する現象を抑制することが肝要である。従って、上面壁22が下流方向に傾斜したフローチャネル(図2(a)参照)において、実施例1及び2では、開口流量比D1〜D3が、D1≦D2≦D3(ルール1)となる関係が好ましい。当該関係にある場合、フローチャネル20Aを流れるガスには、基板表面に向かうベクトル成分が形成され、熱膨張乱流によるフロー不安定化を抑制することができる。
【0095】
また、実施例3、実施例5の図7(f)、実施例6の図8(e),(f)、実施例7の図9(f)のノズル構造においては、ノズル・チャネルCH1の窒素ガスでCH2の材料ガスの断面積を縮小するので、D2≦D1(ルール2)である必要がある。
【0096】
同様に、実施例4、実施例5の図7(g)、実施例6の図8(c),(d)、実施例7の図9(g)のノズル構造においては、ノズル・チャネルCH3の窒素ガスでCH2の材料ガスの断面積を縮小するので、D2≦D3(ルール3)である必要がある。
【0097】
さらに、実施例5の図7(d),(e)、実施例7の図9(d),(e)のノズル構造においては、ノズル・チャネルCH1及びCH3の窒素ガスでCH2の材料ガスの断面積を縮小するので、D2≦D1且つD2≦D3(ルール4)である必要がある。
【0098】
1.3 結晶成長の例
[成長例1(実施例1の構成)]
上記した実施例1(図2(a)、(b)、図3(a)〜(c))のノズル10及びフローチャネルを用いてZnO基板結晶上にZnOエピタキシャル単結晶層を成長した。図12に示す結晶成長シーケンスを参照して成長方法について以下に詳細に説明する。
【0099】
まず、表面層をエッチングしたZnO単結晶基板30をサセプタ113にセットし、真空に排気後、下記流量でノズル10へ送気を開始し、反応容器圧力を10kPaに調整した(時刻T=T1)。なお、ZnO基板30を30rpmの回転数で回転した。
【0100】
第1〜第3チャネル(CH1〜CH3)のガス流量について下記に示す。
・総ガス流量=9000cc/min
・CH3(Flow 3 (Top)):窒素ガス、5000cc/min
・CH2A(Flow 2a (Oxide)):窒素ガス(+H2O)、1500cc/min
・CH2B(Flow 2b (MO)):窒素ガス(+DMZn)、1500cc/min
・CH1(Flow 1 (Bottom)):窒素ガス、1000cc/min
・開口流量比 D1:D2:D3=1:1:1
なお、材料ガスチャネル(CH2A、CH2B)から供給するガス流量は、水蒸気やDMZn等の材料ガスを供給する場合であっても常に一定流量に保った。
【0101】
次に、反応容器110内の圧力を10kPaから80kPaに上昇させた(T=T2)。圧力が80kPaに安定した後、基板温度をRT(室温)から775℃まで昇温した。また、基板温度上昇開始と同時に、サブチャネルCH2AからH2O(水蒸気)を800μmol/minの流量でZnO基板に供給を開始した(T=T3)。
【0102】
制御温度へ到達(T=T4)した後、1分間待ち、サブチャネルCH2BからDMZnを10μmol/minの流量でZnO基板30に供給を開始し、結晶成長を開始した(T=T5)。120分間成長(成長時間EG)した後、DMZnの供給を停止して成長を終了した(T=T6)。以上の操作によって、厚さ約1.0μmのZnO単結晶層を形成した。
【0103】
成長終了後、圧力を80kPaに保ったまま、基板温度が200℃に低下するまで水蒸気(H2O)を流しながら冷却した(T=T7〜T8)。その後、圧力をポンプ真空(〜10-1Pa程度)まで減圧し、同時にH2Oの供給を停止した。基板温度が室温になるまで待ち成長を終了した。
【0104】
[成長例2(実施例6の構成)]
上記した実施例6(図8(d))において示した構成、すなわち層間隔壁板スリット付き型のノズル10を用いてZnO基板結晶上にZnOエピタキシャル単結晶層を成長した。結晶成長方法は、ガス流量以外は上記した成長例1の場合と同様であった。以下に、ノズル10の各チャネル(CH1〜CH3)のガス流量について示す。
【0105】
尚、材料ガスの断面積が1/2になるように各ガス流量を調整した。また、この事例の場合、サブチャネルCH2Cは袋小路タイプ(図4(d),(e)参照)とし、サブチャネルCH2A、CH2B及びCH2Cに流入するガスはチャネルCH3に供給したガスを用いた。なお、フローチャネル20A及びノズル10の各サイズは、上記1.1(1)〜(5)を参照のこと。また、本実施例で設定した各ノズル・チャネルへ流すガス流量は以下で計算した。
(i) 総ガス流量:9000cc/min
(ii) ノズル・チャネル総面積:(1+3+5)mm×70mm=630mm2
(iii) ノズル・チャネルCH3の流量の算出
ノズル・チャネルCH3の断面積:S3=5×70=350mm2
サブチャネルCH2Cの断面積:3×1×14=42mm2
サブチャネルCH2AとCH2Bを押しのける断面積:3×(1/2)×(70−14)=84mm2
CH3より流すガスの受け持ち断面積:350+42+84=476mm2
CH3より流すガス流量:F3=9000×476/630=6800cc/min
(iv) ノズル・チャネルCH2A及びCH2Bの流量算出
ノズル・チャネルCH2の断面積:S2=3×70=210mm2
サブチャネルCH2A及びCH2Bの断面積:3×(1/2)×(70−14)=84mm2
CH2A+CH2Bの流量:F2=9000×84/630=1200cc/min
ここで、CH2AとCH2Bの断面積は等しいので
CH2Aより流すガス流量:1200/2=600cc/min
CH2Bより流すガス流量:1200/2=600cc/min
(v)ノズル・チャネルCH1の流量の算出
ノズル・チャネルCH1の断面積:S1=1×70=70mm2
CH1より流すガス流量:F1=9000×70/630=1000cc/min
(vi) 開口流量比の算出
開口流量比は(式1)〜(式9)により算出した。
D1:D2:D3=1:0.4:1.36
よって、D2≦D3の関係になっていることを確認した。
【0106】
[成長例3(実施例7の構成)]
上記した実施例7(図9(e))において示した構成、すなわち層間隔壁板チャネル孔付き型のノズル10を用いてZnO基板結晶上にZnOエピタキシャル単結晶層を成長した。なお、ガスの空間分離性が高く、材料ガスが混ざり難いので、乱流発生装置(ボルテックスジェネレータ)としてサセプタ周囲にφ1mm高さ0.3mm程度の突起を設けた。また、結晶成長方法は、ガス流量以外は上記した成長例1の場合と同様であった。以下に、ノズル10各チャネル(CH1〜CH3)のガス流量について示す。なお、流量の算出方法等は、上記した成長例2の場合と同様である。
【0107】
尚、材料ガスの断面積が1/2になるように各ガス流量は調整した。この事例の場合、層間隔壁ガスおよび、第2a噴出口へ流入するガスは第3噴出口へ供給したガスが用いられる。また第2b噴出口へ流入するガスは第1噴出口へ供給したガスが用いられる。
【0108】
尚、材料ガスの断面積が1/2になるように各ガス流量を調整した。また、この事例の場合、サブチャネルCH2Cは袋小路タイプとし、サブチャネルCH2A及びCH2Cに流入するガスはチャネルCH3に供給したガスを用い、CH2Bに流入するガスはチャネルCH1に供給したガスを用いた。
(i) 総ガス流量:9000cc/min
(ii) ノズル・チャネルの総面積:(1+3+5)×70=630mm2
(iii) ノズル・チャネルCH3の流量の算出
ノズル・チャネルCH3の断面積:S3=5×70=350mm2
サブチャネルCH2Cの断面積:3×1×14=42mm2
サブチャネルCH2Aを押しのける断面積:3×(1/2)×(70−14)÷2=42mm2
CH3より流すガスの受け持ち断面積:350+42+42=434mm2
CH3より流すガス流量:F3=9000×434/630=6200cc/min
(iv) ノズル・チャネルCH2A及びCH2Bの流量算出
ノズル・チャネルCH2の断面積:S2=3×70=210mm2
サブチャネルCH2A及びCH2Bの断面積:3×(1/2)×(70−14)=84mm2
CH2A+CH2Bの流量:F2=9000×84/630=1200cc/min
ここで、CH2AとCH2Bの断面積は等しいので
CH2Aより流すガス流量:1200/2=600cc/min
CH2Bより流すガス流量:1200/2=600cc/min
(v)ノズル・チャネルCH1の流量の算出
サブチャネルCH2Bを押しのける断面積:3×(1/2)×(70−14)÷2=42mm2
ノズル・チャネルCH1の断面積:S1=1×70=70mm2
CH1より流すガスの受け持ち断面積:70+42=112mm2
CH1より流すガス流量:F1=9000×112/630=1600cc/min
(vi) 開口流量比の算出
開口流量比は(式1)〜(式9)により算出した。
D1:D2:D3=1.6:0.4:1.24
よって、D2≦D1且つD2≦D3の関係になっていることを確認した。
【0109】
[比較例(成長層比較例)]
本発明による成長層(成長例1〜3)と比較のため、従来方式のMOCVD装置により成長を行いその成長層(成長層比較例)と比較を行った。図13(a),(b)は、従来の材料ガス分離方式のMOCVD装置のノズル130及び反応室部(フローチャネル)140の構造の概略を模式的に示している。より詳細には、ノズル130には、第1噴出口(第1チャネル:1-CH)、第2噴出口(第2チャネル:2-CH)、第3噴出口(第3チャネル:3-CH)が設けられている。第1チャネル(1-CH)の高さを2mm、第2チャネル(2-CH)の高さを2mm、第3チャネル(3-CH)噴出口の高さ5mmとし、第1チャネルには水蒸気を供給し、第2チャネルにはDMZnを供給し、第3には窒素を供給した。下記にそれらのガス流量を示す。なお、その他の成長方法、成長条件等は成長例(実施例)の場合と同様であった。
・第3チャネル(Flow3 (Top)):窒素ガス、5000cc/min
・第2チャネル(Flow2 (MO)):窒素ガス(+DMZn)、2000cc/min
・第1チャネル(Flow1 (Oxide)):窒素ガス(+H2O)、2000cc/min
・総ガス流量=9000cc/min
第1チャネル及び第2チャネルから供給するガス流量は、水蒸気やDMZn等の材料ガスを供給する場合であっても常に一定流量に保った。また、窒素ガスは残留O2濃度≦0.1ppm未満品を用いた。
【0110】
[成長例1〜3(本実施例)及び比較例の結果]
上記した本発明の実施例によるフローチャネル方式のMOCVD装置を用いて結晶成長した成長層(成長例1〜3)及び比較例の成長層の評価結果を下記の表1に示す。なお、上記した結晶成長層について、以下の方法により評価・分析を行った。
【0111】
表面モフォロジは、微分偏光顕微鏡、SEM(Scanning Electron Microscope)及びAFM(Atomic Force Microscope)により評価を行った。結晶配向性及び平坦性は、RHEED(reflection high-energy electron diffraction)により評価を行った。また、結晶配向性及び欠陥・転位密度については、X線回折(XRD:X-Ray Diffractometer)で評価した。結晶中の不純物濃度については、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により評価した。
【0112】
なお、XRD分析において、上記実施例および比較例ではc面ZnO単結晶基板10上にZnO系結晶層を成長したので、XRDの2θ測定およびω(ロッキングカーブ)測定を行い、c軸長については(002)2θで、配向性(チルティング、ツイスティングの程度)については(002)ω、(100)ω の半値幅(FWHM:full width at half maximum)で評価した。もっとも、1μm程度以下の薄膜の場合、(002)ω測定値は基板のX線回折強度が強く、また成長層のX線回折強度が弱いため、正確に評価できない。一方で、(100)ω測定は、c軸を基準に89°で入射・回折させることで薄膜(30nm程度)でも感度良く配向性を評価できる。以上より、ZnO系結晶層のXRD評価は、(100)ωのFWHM値を指標とした。
【0113】
【表1】
【0114】
また、図14a〜図14dはそれぞれ、本発明による成長例2の成長層のAFM像(5μm□視野像)、AFM像(1μm□視野像)、微分干渉顕微鏡像、SEM像を示す。また、図15はXRD(100)ωロッキングカーブを示す。
【0115】
表1及び図14a〜図14dに示すように、本発明によるMOCVD装置を用いて結晶成長した成長層の全て(成長例1〜3)においてZn極性面である(0001)面のZnO基板上にシングルドメインで且つ平坦性の高いZnO単結晶が成長されたことを確認した。AFMの□1μm視野像においては、ステップ&テラス状のモフォロジーであった。また、XRDによる(100)ω回折のFWHM(半値幅)はZnO基板と同程度の30arcsecと良好な値を得た。これに対して、従来のMOCVD装置を用いて成長したZnO結晶層は不透明で白濁しており多結晶状であった。これらの結果は、本発明の装置、方法で成長したZnOエピタキシャル結晶層の欠陥及び転位密度が非常に低いことを示している。なお、上記においては、代表的な3種類の噴出口構造による成長結果(成長例1〜3)しか示していないが、他の噴出口構造においても良好なZnO結晶成長が得られた。
【0116】
なお、上記した実施例は適宜組み合わせ、又は改変して適用することができる。また、上記した数値等は例示に過ぎない。
【0117】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、高品質、且つ平坦な結晶層を成長できるフローチャネル方式のMOCVD装置を提供することができる。特に、材料ガスの相互拡散を抑制できるとともに、基板領域上での材料ガスの拡散状態(濃度)、相互混合状態を制御することができる。また、供給する材料ガスの流量を変更することなく、材料ガスの拡散濃度、拡散状態を空間的に自由に調整することが可能である。従って、例えば、ZnO系化合物半導体などの成長において、相互反応性が高い材料ガスを組み合わせて使用する場合においても、結晶性が良好なシングルドメインの結晶層が得られ、且つ平坦な結晶層を成長できるMOCVD装置を提供することができる。従って、高性能かつ高信頼性の半導体素子、特に、発光効率及び素子寿命に優れた高性能な半導体発光素子を製造可能なMOCVD装置を提供することができる。さらに、製造歩留まり及び量産性に優れた半導体素子を製造可能なMOCVD装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0118】
5 MOCVD装置
10 ノズル
20 反応室部
20A フローチャネル
22 リアクタ天板
12 第1の隔壁板(1−2層間隔壁板)
13 第2の隔壁板(2−3層間隔壁板)
15 第3の隔壁板(サブチャネル隔壁板)
18 隔壁板スリット
18B チャネル孔
30 基板
35 ボルテックスジェネレータ
113 サセプタ
CH1,CH2,CH3 ノズル・チャネル
CH2A,CH2B ノズル・サブチャネル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を含まない有機金属化合物と酸素含有化合物を用いたMOCVD法により、基板上に結晶層を成長する結晶成長装置であって、
基板と平行に基板側から不活性ガスを噴出する第1のチャネル、材料ガスを噴出する第2のチャネル及び不活性ガスを噴出する第3のチャネルがこの順で層状に構成されたノズルを備え、
前記第2のチャネルには、前記酸素含有化合物を噴出する第1のサブチャネル及び前記有機金属化合物を噴出する第2のサブチャネルが前記基板と平行方向に交互に並んで配置され、
前記ノズルから噴出されたガスは、少なくとも前記基板端まで前記ノズル端から延長された天板および底板で構成されたフローチャネルで誘導されることを特徴とする結晶成長装置。
【請求項2】
前記ノズルは、前記第1のチャネル及び前記第2のチャネルを分離する第1の隔壁板と、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルを分離する第2の隔壁板と、前記第1のサブチャネル及び前記第2のサブチャネルを分離する第3の隔壁板と、を有し、
前記ノズルの噴出口端の断面における前記第1の隔壁板、前記第2の隔壁板及び前記第3の隔壁板の断面積はゼロであることを特徴とする請求項1に記載の結晶成長装置。
【請求項3】
前記第1の隔壁板、前記第2の隔壁板及び前記第3の隔壁板は、前記ノズルの噴出口部において前記ノズルのガスフロー下流方向に狭まるテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の結晶成長装置。
【請求項4】
前記第1のサブチャネル及び前記第2のサブチャネルの間に不活性ガスを噴出する第3のサブチャネルが設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項5】
前記ノズルは、前記第1のチャネル及び第2のチャネルを分離する第1の隔壁板と、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルを分離する第2の隔壁板と、を有し、
前記第1の隔壁板及び前記第2の隔壁板のうち少なくとも1の隔壁板は、前記ノズルのガスフロー上流方向に後退し、前記第2のチャネルとの間に開口部が形成された構造を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項6】
前記少なくとも1の隔壁板は、前記第1のサブチャネル又は前記第2のサブチャネルに対応した部分の一部において前記ノズルのガスフロー上流方向に後退し、前記第1のサブチャネル又は前記第2のサブチャネルとの間の前記一部に開口部が形成された構造を有することを特徴とする請求項5に記載の結晶成長装置。
【請求項7】
前記ノズルは、前記第1のチャネル及び第2のチャネルを分離する第1の隔壁板と、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルを分離する第2の隔壁板と、を有し、
前記第1の隔壁板及び前記第2の隔壁板のうち少なくとも1の隔壁板は、ガスフロー上流部の一部において隣接するチャネルに開口した開口部を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項8】
前記開口部は、前記第1のサブチャネル及び/又は前記第2のサブチャネルに対応した部分の一部において開口した開口部を有することを特徴とする請求項7に記載の結晶成長装置。
【請求項9】
前記ノズルは、前記第1のチャネル及び第2のチャネルを分離する第1の隔壁板と、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルを分離する第2の隔壁板と、を有し、
前記第3のサブチャネルは、前記ノズルのガス噴出口において開口する袋小路構造のチャネルとして設けられるとともに、前記第1の隔壁板又は前記第2の隔壁板に前記第3のサブチャネルに連通した連通部が設けられ、前記連通部を介して前記第1のチャネル又は前記第3のチャネルのガスフローが前記第3のサブチャネルに流入することを特徴とする請求項4に記載の結晶成長装置。
【請求項10】
前記ノズルのガスフローの垂直面における前記第1のチャネル、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルの断面積である開口面積の総和に対する前記第1、前記第2及び前記第3のチャネルの各開口面積の比を第1、第2及び第3の開口比(それぞれdS1、dS2及びdS3)とし、前記第1のチャネル、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルのガス流量の総和に対する前記第1、前記第2及び前記第3のチャネルの各流量比を第1、第2及び第3の流量比(それぞれdF1、dF2及びdF3)とし、各チャネルの前記開口比に対する前記流量比の比率を開口流量比D1(=dF1/dS1)、D2(=dF2/dS2)、D3(=dF3/dS3)としたとき、
前記第1、前記第2及び前記第3のチャネルの前記開口面積及び前記ガス流量は、前記開口流量比がD1≦D2≦D3を満たすように選ばれていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項11】
前記ノズルのガスフローの垂直面における前記第1のチャネル、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルの断面積である開口面積の総和に対する前記第1、前記第2及び前記第3のチャネルの各開口面積の比を第1、第2及び第3の開口比(それぞれdS1、dS2及びdS3)とし、前記第1のチャネル、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルのガス流量の総和に対する前記第1、前記第2及び前記第3のチャネルの各流量比を第1、第2及び第3の流量比(それぞれdF1、dF2及びdF3)とし、各チャネルの前記開口比に対する前記流量比の比率を開口流量比D1(=dF1/dS1)、D2(=dF2/dS2)、D3(=dF3/dS3)としたとき、
前記開口部を介して前記第1のチャネル及び/又は前記第3のチャネルから流入するガスフローによって前記第1のサブチャネル及び/又は前記第2のサブチャネルのフロー断面積が縮小されるように前記開口流量比D1、D2及びD3が選ばれていることを特徴とする請求項5ないし8のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項12】
前記酸素含有化合物は、水蒸気(H2O)、低級アルコール類(R−OH)の何れか1つ以上を含むことを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項13】
前記有機金属化合物は、ジメチル亜鉛(DMZn)、ジエチル亜鉛(DEZn)、ビスメチルペンタジエニルマグネシウム(MeCp2Mg)、ビスエチルペンタジエニルマグネシウム(EtCp2Mg)、トリメチルガリウム(TMGa)、トリエチルガリウム(TEGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリエチルアルミニウム(TEAl)、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)の何れか1以上を含むことを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項14】
前記ノズルは所定の中心角の扇形形状を有し、前記第1、前記第2及び前記第3のチャネル、及び前記第1及び前記第2のサブチャネルは前記扇形形状に応じた放射状に形成されたノズル・チャネルであることを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項1】
酸素を含まない有機金属化合物と酸素含有化合物を用いたMOCVD法により、基板上に結晶層を成長する結晶成長装置であって、
基板と平行に基板側から不活性ガスを噴出する第1のチャネル、材料ガスを噴出する第2のチャネル及び不活性ガスを噴出する第3のチャネルがこの順で層状に構成されたノズルを備え、
前記第2のチャネルには、前記酸素含有化合物を噴出する第1のサブチャネル及び前記有機金属化合物を噴出する第2のサブチャネルが前記基板と平行方向に交互に並んで配置され、
前記ノズルから噴出されたガスは、少なくとも前記基板端まで前記ノズル端から延長された天板および底板で構成されたフローチャネルで誘導されることを特徴とする結晶成長装置。
【請求項2】
前記ノズルは、前記第1のチャネル及び前記第2のチャネルを分離する第1の隔壁板と、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルを分離する第2の隔壁板と、前記第1のサブチャネル及び前記第2のサブチャネルを分離する第3の隔壁板と、を有し、
前記ノズルの噴出口端の断面における前記第1の隔壁板、前記第2の隔壁板及び前記第3の隔壁板の断面積はゼロであることを特徴とする請求項1に記載の結晶成長装置。
【請求項3】
前記第1の隔壁板、前記第2の隔壁板及び前記第3の隔壁板は、前記ノズルの噴出口部において前記ノズルのガスフロー下流方向に狭まるテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の結晶成長装置。
【請求項4】
前記第1のサブチャネル及び前記第2のサブチャネルの間に不活性ガスを噴出する第3のサブチャネルが設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項5】
前記ノズルは、前記第1のチャネル及び第2のチャネルを分離する第1の隔壁板と、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルを分離する第2の隔壁板と、を有し、
前記第1の隔壁板及び前記第2の隔壁板のうち少なくとも1の隔壁板は、前記ノズルのガスフロー上流方向に後退し、前記第2のチャネルとの間に開口部が形成された構造を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項6】
前記少なくとも1の隔壁板は、前記第1のサブチャネル又は前記第2のサブチャネルに対応した部分の一部において前記ノズルのガスフロー上流方向に後退し、前記第1のサブチャネル又は前記第2のサブチャネルとの間の前記一部に開口部が形成された構造を有することを特徴とする請求項5に記載の結晶成長装置。
【請求項7】
前記ノズルは、前記第1のチャネル及び第2のチャネルを分離する第1の隔壁板と、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルを分離する第2の隔壁板と、を有し、
前記第1の隔壁板及び前記第2の隔壁板のうち少なくとも1の隔壁板は、ガスフロー上流部の一部において隣接するチャネルに開口した開口部を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項8】
前記開口部は、前記第1のサブチャネル及び/又は前記第2のサブチャネルに対応した部分の一部において開口した開口部を有することを特徴とする請求項7に記載の結晶成長装置。
【請求項9】
前記ノズルは、前記第1のチャネル及び第2のチャネルを分離する第1の隔壁板と、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルを分離する第2の隔壁板と、を有し、
前記第3のサブチャネルは、前記ノズルのガス噴出口において開口する袋小路構造のチャネルとして設けられるとともに、前記第1の隔壁板又は前記第2の隔壁板に前記第3のサブチャネルに連通した連通部が設けられ、前記連通部を介して前記第1のチャネル又は前記第3のチャネルのガスフローが前記第3のサブチャネルに流入することを特徴とする請求項4に記載の結晶成長装置。
【請求項10】
前記ノズルのガスフローの垂直面における前記第1のチャネル、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルの断面積である開口面積の総和に対する前記第1、前記第2及び前記第3のチャネルの各開口面積の比を第1、第2及び第3の開口比(それぞれdS1、dS2及びdS3)とし、前記第1のチャネル、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルのガス流量の総和に対する前記第1、前記第2及び前記第3のチャネルの各流量比を第1、第2及び第3の流量比(それぞれdF1、dF2及びdF3)とし、各チャネルの前記開口比に対する前記流量比の比率を開口流量比D1(=dF1/dS1)、D2(=dF2/dS2)、D3(=dF3/dS3)としたとき、
前記第1、前記第2及び前記第3のチャネルの前記開口面積及び前記ガス流量は、前記開口流量比がD1≦D2≦D3を満たすように選ばれていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項11】
前記ノズルのガスフローの垂直面における前記第1のチャネル、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルの断面積である開口面積の総和に対する前記第1、前記第2及び前記第3のチャネルの各開口面積の比を第1、第2及び第3の開口比(それぞれdS1、dS2及びdS3)とし、前記第1のチャネル、前記第2のチャネル及び前記第3のチャネルのガス流量の総和に対する前記第1、前記第2及び前記第3のチャネルの各流量比を第1、第2及び第3の流量比(それぞれdF1、dF2及びdF3)とし、各チャネルの前記開口比に対する前記流量比の比率を開口流量比D1(=dF1/dS1)、D2(=dF2/dS2)、D3(=dF3/dS3)としたとき、
前記開口部を介して前記第1のチャネル及び/又は前記第3のチャネルから流入するガスフローによって前記第1のサブチャネル及び/又は前記第2のサブチャネルのフロー断面積が縮小されるように前記開口流量比D1、D2及びD3が選ばれていることを特徴とする請求項5ないし8のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項12】
前記酸素含有化合物は、水蒸気(H2O)、低級アルコール類(R−OH)の何れか1つ以上を含むことを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項13】
前記有機金属化合物は、ジメチル亜鉛(DMZn)、ジエチル亜鉛(DEZn)、ビスメチルペンタジエニルマグネシウム(MeCp2Mg)、ビスエチルペンタジエニルマグネシウム(EtCp2Mg)、トリメチルガリウム(TMGa)、トリエチルガリウム(TEGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリエチルアルミニウム(TEAl)、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)の何れか1以上を含むことを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【請求項14】
前記ノズルは所定の中心角の扇形形状を有し、前記第1、前記第2及び前記第3のチャネル、及び前記第1及び前記第2のサブチャネルは前記扇形形状に応じた放射状に形成されたノズル・チャネルであることを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1に記載の結晶成長装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4a−4c】
【図4d−4e】
【図5】
【図6】
【図7a−7c】
【図7d−7g】
【図8a−8b】
【図8c−8f】
【図9a−9c】
【図9d−9g】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12】
【図13】
【図15】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図14d】
【図2】
【図3】
【図4a−4c】
【図4d−4e】
【図5】
【図6】
【図7a−7c】
【図7d−7g】
【図8a−8b】
【図8c−8f】
【図9a−9c】
【図9d−9g】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12】
【図13】
【図15】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図14d】
【公開番号】特開2011−199154(P2011−199154A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66445(P2010−66445)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
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