説明

エンジン制御システム及びそれを搭載した車両

【課題】 下流側排気センサに起因する制御の乱れを抑制することができる。
【解決手段】 エンジンECU50は、駆動軸17とエンジン20とモータMG1,MG2とがクラッチを介さずに機械的に接続され、駆動軸17に対するエンジン20の動力及びモータMG1,MG2の動力の入出力を制御するハイブリッド自動車10に搭載されている。このエンジンECU50では、エンジン20の排気浄化触媒の上流側に設置された排気センサのセンサ出力値に基づいて空燃比制御を実行する。また、下流側に設置された排気センサのセンサ出力値に基づいて排気浄化触媒の浄化に関わる制御を実行するが、エンジン20が所定の無負荷運転状態又は小空気量運転状態のときには、下流側の排気センサの周囲のガス交換が十分に行われず下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気を正確に反映していないことがあるため、この制御を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御システム及びそれを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動軸に対するエンジン及びモータの動力の入出力を制御するハイブリッド自動車では、種々のエンジン制御が実行されている。このようなエンジン制御の一つとして、特許文献1では、エンジンの排気エミッションを低減させるために、混合気の空燃比が理論空燃比となるように空燃比フィードバック制御を実行している。この空燃比フィードバック制御においては、エンジンの排気を浄化する排気浄化触媒の上流に設置した上流側排気センサの出力値に基づいて制御を行うが、この上流側排気センサの経時変化や製造誤差などが原因となって、空燃比フィードバック補正係数の中心値にズレが生じることがある。そこで、このズレを補正するための空燃比学習値を求めるようにし、この空燃比学習値を空燃比フィードバック制御に反映させている。また、特許文献2のように、経時に伴い排気浄化触媒が劣化して浄化機能が低下することから、触媒劣化の診断を行うこともある。このような空燃比学習や触媒劣化診断は、排気浄化触媒の下流に設置した下流側排気センサの出力値に基づいて行われる。
【特許文献1】特開2000−291471号公報
【特許文献2】特開2000−104615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、エンジンとモータと駆動軸とがクラッチ機構を介さずに機械的に接続されているハイブリッド自動車では、ロードロード(Road Load)の設定中やレーシング状態のときには、エンジンは無負荷運転状態又は低負荷運転状態となり、下流側排気センサの周囲のガス交換が十分に行われず下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気中の酸素濃度を正確に反映していないことがあり、その結果、空燃比学習や触媒劣化診断を十分な精度で行えないことがあった。
【0004】
具体的には、ロードロード設定中は、通常の自動車ではシフトポジションをニュートラルにして行うが、この種のハイブリッド自動車ではクラッチ機構がないためエンジンの回転数制御を行い、アイドル運転時の吸入空気量をわずかに上回る程度の空気量となるようにしている。また、レーシング状態のときには、通常の自動車ではアクセル開度が大きくなるにつれてエンジン回転数を5000〜6000rpm程度まで上げることができるが、この種のハイブリッド自動車ではアクセル開度が大きくなるにつれてエンジン回転数を大きくするとモータが過回転するおそれがあるため、エンジンの回転数を2500〜3000rpm程度にしている。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、下流側排気センサに起因する制御の乱れを抑制することができるエンジン制御システムを提供することを目的の一つとする。また、そのようなエンジン制御システムを搭載した車両を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のエンジン制御システムは、
駆動軸に対するエンジンの動力及びモータの動力の入出力を制御するハイブリッド自動車に搭載されるエンジン制御システムであって、
前記エンジンの排気を浄化する排気浄化触媒と、
前記排気浄化触媒の下流側に設置された下流側排気センサと、
前記下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気を正確に反映しないことのある所定の運転状態であるか否かを判定する運転状態判定手段と、
前記運転状態判定手段によって前記所定の運転状態であると判定されたとき前記下流側排気センサのセンサ出力値に基づく制御の少なくとも一部を禁止する制御禁止手段と、
を備えたものである。
【0008】
このエンジン制御システムは、駆動軸に対するエンジンの動力及びモータの動力の入出力を制御するハイブリッド自動車に搭載されるものである。このエンジン制御システムでは、下流側排気センサのセンサ出力値に基づく制御を実行するが、下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気を正確に反映しないことのある所定の運転状態のときには、この下流側排気センサのセンサ出力値に基づく制御の少なくとも一部を禁止する。したがって、下流側排気センサに起因する制御の乱れを抑制することができる。
【0009】
なお、制御禁止制御手段は、所定の運転状態であると判定されたとき、下流側排気センサのセンサ出力値に基づく制御をすべて禁止してもよいし、一部を禁止し残りを実行してもよい。また、「下流側排気センサ」は、排気中に含まれる成分の濃度(例えば酸素濃度)に応じて出力値が変化するセンサであり、例えば、出力値が空燃比と略リニアな関係となるA/Fセンサであってもよいし、出力値が理論空燃比を境に大きく変化するO2センサであってもよい。
【0010】
本発明のエンジン制御システムは、駆動軸とエンジンとモータとがクラッチを介さずに機械的に接続され、前記駆動軸に対する前記エンジンの動力及び前記モータの動力の入出力を制御するハイブリッド自動車に搭載されるエンジン制御システムであって、
前記エンジンの排気を浄化する排気浄化触媒と、
前記排気浄化触媒の上流側に設置された上流側排気センサと、
前記排気浄化触媒の下流側に設置された下流側排気センサと、
前記上流側排気センサのセンサ出力値に基づいて前記エンジンの空燃比制御を実行する空燃比制御手段と、
前記下流側排気センサのセンサ出力値に基づいて前記排気浄化触媒の浄化に関わる制御を実行する浄化関連制御実行手段と、
前記下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気を正確に反映しないことのある所定の運転状態か否かを判定する運転状態判定手段と、
前記運転状態判定手段によって前記所定の運転状態であると判定されたとき前記浄化関連制御実行手段による制御を禁止する制御禁止手段と、
を備えたものとしてもよい。
【0011】
このエンジン制御システムは、駆動軸とエンジンとモータとがクラッチを介さずに機械的に接続され、駆動軸に対するエンジンの動力及びモータの動力の入出力を制御するハイブリッド自動車に搭載されるものである。このエンジン制御システムでは、上流側排気センサのセンサ出力値に基づいてエンジンの空燃比制御を実行する。また、下流側排気センサのセンサ出力値に基づいて排気浄化触媒の浄化に関わる制御を実行するが、下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気を正確に反映しないことのある所定の運転状態のときには、この排気浄化触媒の浄化に関わる制御を禁止する。したがって、下流側排気センサに起因する制御の乱れを抑制することができる。
【0012】
ここで、「上流側排気センサ」及び「下流側排気センサ」は、排気中に含まれる成分の濃度(例えば酸素濃度)に応じて出力値が変化するセンサであり、例えば、出力値が空燃比と略リニアな関係となるA/Fセンサであってもよいし、出力値が理論空燃比を境に大きく変化するO2センサであってもよい。
【0013】
本発明のエンジン制御システムにおいて、前記浄化関連制御実行手段は、前記下流側排気センサのセンサ出力値に基づいて前記空燃比制御に反映される空燃比学習値の更新を行う手段であってもよい。こうすれば、上流側排気センサの出力値に基づく空燃比制御において上流側排気センサの経時変化や個体差などが原因となってズレが生じたときに、下流側排気センサの出力値に基づいてそのズレを補正する学習値を算出して空燃比制御に反映させることができる。また、所定の運転状態のときには、下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気を正確に反映していないことがあるため、空燃比学習値の更新を禁止することにより、下流側排気センサに起因する空燃比制御の乱れを抑制することができる。
【0014】
本発明のエンジン制御システムにおいて、前記浄化関連制御実行手段は、前記下流側排気センサのセンサ出力値に基づいて前記排気浄化触媒の劣化診断を行う手段であってもよい。こうすれば、所定の運転状態のときには、下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気を正確に反映していないことがあるため、排気触媒の劣化診断を禁止することにより、下流側排気センサに起因する制御の乱れを抑制することができる。
【0015】
本発明のエンジン制御システムにおいて、前記所定の運転状態を、前記エンジンが所定の無負荷運転状態又は小空気量運転状態としてもよい。所定の無負荷運転状態又は小空気量運転状態のときには、下流側排気センサの周囲のガス交換が十分に行われず下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気を正確に反映しないことがあるため、本発明を適用する意義が高い。
【0016】
本発明のエンジン制御システムにおいて、前記所定の運転状態を、ロードロード設定中の状態としてもよい。ハイブリッド自動車ではロードロード設定中はエンジンが無負荷運転状態又は小空気量運転状態になり、下流側排気センサの周囲のガス交換が十分に行われず下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気を正確に反映しないことがあるため、本発明を適用する意義が高い。
【0017】
本発明のエンジン制御システムにおいて、前記所定の運転状態を、レーシング状態としてもよい。ハイブリッド自動車ではレーシング状態ではエンジンが無負荷運転状態又は小空気量運転状態になり、下流側排気センサの周囲のガス交換が十分に行われず下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気を正確に反映しないことがあるため、本発明を適用する意義が高い。
【0018】
本発明の車両は、上述したいずれかのエンジン制御システムを搭載し、前記駆動軸が車軸に接続されてなるものである。この車両では、上述したいずれかのエンジン制御システムを搭載しているから、本発明のエンジン制御システムが奏する効果、例えば、下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気を正確に反映しないことのある所定の運転状態のときには、この下流側排気センサのセンサ出力値に基づく制御の少なくとも一部を禁止して下流側排気センサに起因する制御の乱れを抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明の一実施形態であるハイブリッド自動車10の構成の概略を示す構成図であり、図2は実施形態のハイブリッド自動車10が搭載するエンジン20の構成の概略を示す構成図である。この実施形態のハイブリッド自動車10は、図1に示すように、燃料を燃焼した燃焼エネルギを運動エネルギに変換するエンジン20と、エンジンシステム全体をコントロールするエンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)50と、エンジン20の出力軸としてのクランクシャフト27に接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1,MG2と、モータMG1,MG2の発電及び駆動を制御するモータ用電子制御ユニット(モータECU)14と、モータMG1,MG2と電力のやりとりを行うバッテリ45と、動力分配統合機構30に接続された軸にチェーンベルト15を介して接続された駆動軸17と、ハイブリッドシステム全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット(ハイブリッドECU)70とを備える。なお、駆動軸17はデファレンシャルギヤ18を介して駆動輪19,19の車軸19aに接続されている。また、ハイブリッド自動車10は、図2に示すように、更にエンジン20の下流側に、排気を浄化する触媒コンバータ60、混合気の空燃比に応じて出力値が変化する上流側排気センサ65、空燃比がリッチかリーンかに応じて出力値が変化する下流側排気センサ66などを備える。
【0020】
エンジン20は、例えばガソリンなどの炭化水素系の燃料により動力を出力可能な内燃機関として構成されており、図2に示すように、エアクリーナ21により清浄された空気をスロットルバルブ22を介して吸入すると共にインジェクタ23からガソリンを噴射して吸入された空気とガソリンとを混合し、この混合気を吸気バルブ24を介して燃焼室に吸入し、点火プラグ25による電気火花によって爆発燃焼させた燃焼エネルギにより押し下げられるピストン26の往復運動をクランクシャフト27が回転する運動エネルギに変換する。このクランクシャフト27には10°CAごとにパルスを出力するクランク角センサ67が取り付けられている。スロットルバルブ22は、吸気管の断面に対する傾斜角度(開度)が変化することにより吸気管を通過する空気量を調節するバルブであり、アクチュエータ22aにより電気的に開度が変化するように構成されている。このアクチュエータ22aは、ロータリ式電磁ソレノイドによって構成されている。そして、スロットルバルブ22は、このソレノイドに対する印加電圧をデュ−ティ制御することにより回動されて開度調節される。このスロットルバルブ22の開度は、スロットルポジションセンサ22bからエンジンECU50へ出力される。エンジン20からの排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する触媒コンバータ60を介して車外へ排出される。
【0021】
触媒コンバータ60は、排気管64に接続され排気浄化触媒61が充填されたものである。排気浄化触媒61として用いられる三元触媒は、白金(Pt)やパラジウム(Pd)などの酸化触媒と、ロジウム(Rh)などの還元触媒と、セリア(CeO2)などの助触媒などで構成される。そして、酸化触媒の作用により排気に含まれるCOやHCが水(H2O)や二酸化炭素(CO2)に浄化され、還元触媒の作用により排気に含まれるNOxが窒素(N2)や酸素(O2)などに浄化される。この三元触媒では、混合気の空燃比が理論空燃比近傍のいわゆるウインドウ領域のときに還元触媒によるNOxの吸着・分解反応とその際に生成する酸化成分によるHC,COの酸化反応とがバランスよく進み、HC、CO、NOxのすべてに対して高い浄化率を示す。ここで、CeO2は、セリウム(Ce)の価数が3価と4価との間で可逆的に変化する性質を持つため、排気がリーン雰囲気のときには3価から4価に変化して排気から酸素を吸蔵し、排気がリッチ雰囲気のときには4価から3価に変化して排気へ酸素を放出する。これにより、酸化触媒や還元触媒の近傍の雰囲気が大きく変動することがないので、結果的にウインドウ領域が拡がる。
【0022】
上流側排気センサ65は、排気管64のうち触媒コンバータ60の上流に設置され空燃比に応じて出力値が変化するA/Fセンサであり、本実施形態では空燃比に応じてセンサ出力が略リニアに変化する全領域空燃比センサを採用している。A/Fセンサの出力特性の一例を図7に示す。この図7から明らかなように、この上流側排気センサ65は、出力電圧から直接空燃比を求めることができる。なお、上流側排気センサ65は、電気的にエンジンECU50に接続されている。
【0023】
下流側排気センサ66は、排気管64のうち触媒コンバータ60の下流に設置され空燃比がリッチかリーンかに応じて出力値が急激に変化するO2センサであり、本実施形態では電解質であるジルコニアを大気に接触する基準電極と排気に接触する測定電極とで挟み両電極の酸素濃度差に応じた起電力を生じるジルコニア酸素センサを採用している。O2センサの出力特性の一例を図8に示す。この図8から明らかなように、この下流側排気センサ66は理論空燃比(A/F=14.5〜14.7)を境に出力電圧がリッチ側で約1V、リーン側で約0Vとなるため、適切なスライスレベル(例えば0.50V)を設定して出力電圧とスライスレベルとの大小を比較することにより触媒コンバータ60の下流に排出される排気がリッチなのかリーンなのかを判別することができる。なお、この下流側排気センサ66は、電気的にエンジンECU50に接続されている。
【0024】
エンジンECU50は、CPU51を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、処理プログラムを記憶したROM52と、一時的にデータを記憶するRAM53と、入出力ポート(図示せず)とを備える。このエンジンECU50は、エンジン20の状態を検出する種々のセンサからの信号が入力ポートを介して入力されている。具体的には、エンジンECU50には、スロットルポジションセンサ22bからのスロットル開度、エンジン20の吸入空気量を検出するエアフローメータ28からの吸入空気量、冷却水温センサ59からのエンジン20の冷却水温、上流側排気センサ65からの信号、下流側排気センサ66からの信号、クランク角センサ67からのパルス信号などが入力ポートを介して入力されている。また、エンジンECU50からは、エンジン20を駆動するための種々の制御信号が図示しない出力ポートを介して出力されている。具体的には、エンジンECU50からは、スロットルバルブ22を駆動するアクチュエータ22aへの駆動信号、インジェクタ23への駆動信号、点火プラグ25に電気火花を発生させるイグナイタと一体化されたイグニションコイル29への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、エンジンECU50は、ハイブリッドECU70と電気的に接続され、ハイブリッドECU70からの制御信号によりエンジン20を運転制御すると共に必要に応じてエンジン20の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0025】
動力分配統合機構30は、図1に示すように、モータMG1に接続されたサンギヤ31、モータMG2に接続されたリングギヤ32、サンギヤ31及びリングギヤ32と噛合する複数のピニオンギヤ33及びエンジン20のクランクシャフト27に接続されピニオンギヤ33を自転且つ公転自在に保持するキャリヤ34を回転要素として差動作用を行う遊星歯車機構として構成されている。この動力分配統合機構30は、モータMG1が発電機として機能するときにはエンジン20からの動力をモータMG1側と駆動軸側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG2が電動機として機能するときにはエンジン20からの動力とモータMG2からの動力を統合して駆動軸に出力する。
【0026】
モータMG1及びモータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ45と電力のやりとりを行う。インバータ41,42とバッテリ45とを接続する電力ライン58は、各インバータ41,42が共用する正極母線及び負極母線として構成されており、モータMG1,MG2の一方で発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。また、バッテリ45は、モータMG1,MG2から生じた電力により充電されたりモータMG1,MG2に不足する電力を供給したりする。モータMG1,MG2は、共にモータECU14により運転制御されている。モータECU14は、モータMG1,MG2を運転制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流等が入力されており、モータECU14からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力される。モータECU14は、回転位置検出センサ43,44から入力した信号に基づいて図示しない回転数算出ルーチンによりモータMG1,MG2のロータの回転数Nm1,Nm2を計算している。この回転数Nm1,Nm2は、モータMG1がサンギヤ31に接続されていると共にモータMG2がリングギヤ32に接続されていることから、それぞれサンギヤ軸31aの回転数Ns及びリングギヤ軸32aの回転数Nrと一致する。モータECU14は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号によってモータMG1,MG2を運転制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0027】
バッテリ45は、ここではニッケル水素バッテリを採用しており、モータMG1,MG2へ電力を供給したり減速時にモータMG1,MG2からの回生エネルギを電力として蓄えたりする役割を果たす。バッテリECU46には、バッテリ45を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ45の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧、バッテリ45の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流、バッテリ45に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度などが入力されており、必要に応じてバッテリ45の状態に関するデータを通信によりハイブリッドECU70に出力する。なお、バッテリECU46では、バッテリ45を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値や電圧センサにより検出された端子間電圧に基づいて残容量(SOC(State of Charge))も演算している。
【0028】
ハイブリッドECU70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、各種処理プログラムを記憶したROM74と、一時的にデータを記憶するRAM76と、入出力ポート(図示せず)とを備える。ハイブリッドECU70には、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力される。ハイブリッドECU70は、エンジンECU50やモータECU14と各種制御信号やデータのやりとりを行っている。
【0029】
次に、こうして構成された本実施形態のハイブリッド自動車10のハイブリッドECU70によって実行されるハイブリッド制御ルーチンについて、図3のフローチャートに基づいて説明する。ハイブリッド制御ルーチンは、ハイブリッドECU70のROM74に記憶され、所定タイミングごとに繰り返し実行される。このルーチンが実行されると、ハイブリッドECU70のCPU72は、まず、アクセル開度Accや車速V、バッテリECU46により演算されるSOCなど制御に必要な信号を入力し(ステップS100)、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいてリングギヤ軸32aに要求される要求動力Pr*を設定する(ステップS110)。ここで、要求動力Pr*は、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め求めてトルク設定マップとしてハイブリッドECU70のROM74に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると、トルク設定マップから対応する要求トルクTr*を導出し、これとリングギヤ軸32aの回転数Nr(車速Vと換算係数rを乗じたもの)との積として算出するものとした。なお、トルク設定マップの一例を図4に示す。
【0030】
続いて、バッテリ45の充放電量Pb*(充電側を正とする)を設定する(ステップS120)。バッテリ45の充放電量Pb*は、基本的にはバッテリ45のSOCが適正値(例えば60〜70%)となるように設定される。要求動力Pr*と充放電量Pb*とが設定されると、両者の和をとりエンジン20が出力すべきエンジン目標出力Pe*を設定する(ステップS130)。
【0031】
続いて、エンジン目標出力Pe*を出力可能なエンジン20の運転ポイント(トルクと回転数により定まるポイント)のうちエンジン20が最も効率よく運転できる最適運転ポイントをエンジン20の目標トルクTe*、目標回転数Ne*として設定する(ステップS140)。エンジン目標出力Pe*を出力可能な運転ポイントのうちエンジン20が効率よく運転できる最適運転ポイントを目標回転数Ne*と目標トルクTe*として設定する様子を図5に示す。図中、曲線Aはエンジン最適動作ラインであり、曲線Bはエンジン目標出力Pe*における動力一定曲線である。ここで、動力はトルクと回転数の積で表されるから、動力一定曲線Bは反比例型のグラフになる。図示するように、エンジン最適動作ラインAとエンジン目標出力Pe*の動力一定曲線Bとの交点である最適運転ポイントでエンジン20を運転すれば、エンジン20からエンジン目標出力Pe*を効率よく出力することができる。ここでは、エンジン目標出力Pe*と最適運転ポイントの関係を予め実験などにより求めてマップとしてハイブリッドECU70のROM74に記憶しておき、エンジン目標出力Pe*が与えられるとマップから対応する最適運転ポイントの回転数とトルクとを導出して目標回転数Ne*と目標トルクTe*として設定するものとした。なお、エンジン目標出力Pe*が、最小要求動力Pref(エンジン20がこれを下回る動力を出力するとすればハイブリッド自動車10のシステム全体の効率が低下することを考慮して経験的に定められた値)を下回る場合には、エンジン20の目標出力Pe*をゼロに再設定する。
【0032】
さて、目標トルクTe*と目標回転数Ne*とが設定されると、エンジン20の目標回転数Ne*とリングギヤ軸32aの回転数Nrと動力分配統合機構30のギヤ比ρ(サンギヤ31の歯数/リングギヤ32の歯数)とにより次式(1)を用いてモータMG1の目標回転数Nm1*を設定し(ステップS150)、エンジン20の目標トルクTe*と動力分配統合機構30のギヤ比ρとにより次式(2)を用いてモータMG1の目標トルクTm1*を設定すると共にエンジン20の目標トルクTe*と動力分配統合機構30のギヤ比ρと要求トルクTr*とにより次式(3)を用いてモータMG2の目標トルクTm2*を設定する(ステップS160)。
Nm1*=(1+ρ)×Ne*/ρ−Nr/ρ … (1)
Tm1*=−Te*×ρ/(1+ρ) … (2)
Tm2*=Tr*−Te*×1/(1+ρ) … (3)
【0033】
図6はこのときの共線図である。この共線図では縦軸は各回転軸の回転数を表し横軸は各ギヤのギヤ比を表す。サンギヤ軸31a(図中のS)とリングギヤ軸32a(図中のR)を両端に取り、この区間を1:ρに内分する位置をキャリヤ軸つまりクランクシャフト27(図中のC)とし、各位置S,C,Rに対応して回転数Ns,Nc,Nrをプロットする。動力分配統合機構30は遊星歯車機構であるため、このようにプロットされた3点は同一直線上に並ぶという性質を有しており、この直線を動作共線という。したがって、動作共線を用いることにより3つの回転軸のうち2つの回転軸の回転数から残余の回転軸の回転数を求めることができる。リングギヤ軸32aの回転数Nr(モータMG2の回転数Nm2)は車速Vに基づいて決まるので、キャリヤ軸の回転数Nc(エンジン20の回転数Ne)が決まればサンギヤ軸31aの回転数Ns(モータMG1の回転数Nm1)が比例配分によって決まり、前式(1)のようになる。また、各回転軸のトルクを動作共線に働く力に置き換えて示すと、動作共線が剛体として釣り合いが保たれるという性質を有している。ここで、エンジン20のクランクシャフト27に作用するトルクTeを位置Cで動作共線に上向きのベクトルとして表し、リングギヤ軸32aに作用するトルクTrを位置Rで下向きのベクトルとして表す。なお、ベクトルの方向は作用させるトルクの方向を表す。このとき、剛体に作用する力の分配法則に基づいてトルクTeを両端の位置S,Rに分配すると、位置Sでの分配トルクTesは上向きでTe×ρ/(1+ρ)という大きさとなり、位置Rでの分配トルクTerは上向きでTe×1/(1+ρ)という大きさになる。この状態で動作共線が剛体として釣り合いがとれているから、モータMG1に作用すべきトルクTm1は分配トルクTesと方向が逆で大きさが同じトルクとなり、モータMG2に作用すべきトルクTm2はトルクTrと分配トルクTerとの差分のトルクとなる。
【0034】
さて、エンジン20の目標トルクTe*、モータMG1の目標回転数Nm1*および目標トルクTm1*、モータMG2の目標トルクTm2*を設定したあと、各種の目標値をエンジンECU50,モータECU14に指令し(ステップS170)、本ルーチンを終了する。エンジンECU50やモータECU14は、ハイブリッドECU70から入力したこれらの目標値に基づいてエンジン20やモータMG、1MG2の運転制御を行う。
【0035】
次に、エンジンECU50によるエンジン制御について説明する。エンジンECU50は、エンジン20が目標回転数Ne*で回転して目標トルクTe*を出力するような空気量を決定し、その空気量に見合ったスロットル開度となるようにアクチュエータ22aによりスロットルバルブ22を作動する。また、エアフローメータ28により検出される単位時間あたりの吸入空気量Qをエンジン回転数Neで除して得られる筒内空気量(Q/Ne)に基づいて空燃比制御を実行して燃料噴射量Finjを演算し、この燃料噴射量Finjに見合った燃料噴射時間だけインジェクタ23を開弁して燃料を噴射し、その後吸気バルブ24から吸入された混合気に着火すべくイグニションコイル29に高電圧を印加して点火プラグ25に火花を発生させる、という制御を実行する。これにより、燃焼エネルギが発生してピストン26が上下動し、この上下動が回転運動となってクランクシャフト27に伝達される。
【0036】
ここで、エンジンECU50の空燃比制御について、図9及び図10に基づいて詳説する。図9は、上流側排気センサ65のセンサ出力値VAFに基づいて実行されるメイン空燃比制御ルーチンのフローチャートであり、図10は、下流側排気センサ66のセンサ出力値VOに基づいて実行されるサブ空燃比制御ルーチンのフローチャートである。
【0037】
まず、メイン空燃比制御ルーチンについて説明する。メイン空燃比制御ルーチンは、エンジンECU50によって所定のクランク角ごとに繰り返し実行される。このルーチンが開始されると、エンジンECU50は、まず、フィードバック条件が成立するか否かを判定する(ステップS200)。ここで、フィードバック条件としては、冷却水温センサ59によって検出された冷却水温が所定温度以上であること、エンジン始動中でないこと、エンジン始動後の燃料増量中でない等の複数の条件が挙げられ、これらの条件をすべて満足するときにフィードバック条件が成立すると判定される。フィードバック条件が成立しないときには、フィードバック制御ではなくオープンループ制御を実行し(ステップS228)、本ルーチンを終了する。オープンループ制御では、例えば筒内空気量(Q/Ne)と理論空燃比とから算出される目標燃料量F*をそのまま燃料噴射量Finjとしてインジェクタ23を駆動する。
【0038】
一方、ステップS200でフィードバック条件が成立したときには、上流側排気センサ65のセンサ出力値VAFを読み込み(ステップS202)、更に後述するサブ空燃比制御により算出される上流側排気センサ出力補正量DVを読み込む(ステップS204)。そして、上流側排気センサ出力補正量DVがゼロか否かを判定し(ステップS206)、上流側排気センサ出力補正量DVがゼロのときには、サブ空燃比制御が実行されていないとみなしてセンサ出力値VAFに上流側排気センサ出力補正学習値DVlrnを加算した値を新たなセンサ出力値VAFとし(ステップS208)、上流側排気センサ出力補正量DVがゼロでないときには、サブ空燃比制御が実行されたとみなし、センサ出力値VAFに上流側排気センサ出力補正量DVを加算した値を新たなセンサ出力値VAFとする(ステップS210)。この補正により、サブ空燃比フィードバック制御において目標電圧に達するまで、メイン空燃比フィードバック制御による空燃比変動の中心が徐々にシフトしていくことになる。なお、補正量DVは、エンジンECU50のRAM53の揮発性領域に保存されているためハイブリッド自動車10のキーオフにより初期値ゼロにリセットされるが、学習値DVlrnは、RAM53の不揮発性領域に保存されているためハイブリッド自動車10がキーオフされても消えることはない。
【0039】
さて、ステップS208又はステップS210のあと、補正後のセンサ出力値VAFを図7の出力特性に照らしてこれに対応する実空燃比を求める(ステップS212)。続いて、単位時間あたりの吸入空気量Qをクランク角センサ67から得られるエンジン回転数Neで除した値Q/Neを筒内空気量としてRAM53に保存し(ステップS214)、この筒内空気量を理論空燃比で除した値を目標燃料量F*とする(ステップS216)。なお、筒内空気量については、今回から数えて過去n回分のデータをRAM53に保存するものとする。次に、今回よりn回前の筒内空気量をRAM53から読み出しこの筒内空気量をステップS212で求めた実空燃比で除した値を実使用燃料量Fとする(ステップS218)。このようにn回前の筒内空気量を用いるのは、今回上流側排気センサ65のセンサ出力値VAFから求めた実空燃比は実際の燃焼との時間差を考慮すると今回の値ではなくn回前の値(nは実験等により経験的に求められる整数)とみるべきだからである。
【0040】
次に、実使用燃料量Fと目標燃料量F*との偏差ΔFを算出し(ステップS220)、フィードバック燃料補正量DFを次式(4)により求める(ステップS222)。ここで、式(4)の右辺第1項は比例項でK1pは比例項ゲインであり、右辺第2項は積分項でK1iは積分項ゲインである。その後、燃料噴射量Finjを次式(5)により求め(ステップS224)、この燃料噴射量Finjに見合った燃料噴射時間だけインジェクタ23を開弁して燃料を噴射し(ステップS226)、本ルーチンを終了する。ここで、式(5)の乗算補正係数αは冷却水温センサ59からの冷却水温等の基本的な運転状態パラメータによって定まる係数であり、加算補正量βは燃料の壁面付着量の変化等によって定まる補正量である。
DF=K1p×ΔF+K1i×ΣΔF …(4)
Finj=F*×α+DF+β …(5)
【0041】
続いて、サブ空燃比制御ルーチンについて説明する。このルーチンは、メイン空燃比制御ルーチンよりも長い周期ごとに繰り返し実行される。このルーチンが開始されると、エンジンECU50は、ステップS200と同様、フィードバック条件が成立するか否かを判定する(ステップS300)。そして、フィードバック条件が成立しないときには、上流側排気センサ出力補正量DVにゼロを設定し(ステップS320)、本ルーチンを終了する。なお、この補正量DVの初期値はゼロである。一方、ステップS300でフィードバック条件が成立したときには、下流側排気センサ66のセンサ出力値VOを読み込み(ステップS302)、このセンサ出力値VOと目標センサ出力電圧VO*(本実施形態では0.50V)の偏差ΔVOを算出し(ステップS304)、上流側排気センサ出力補正量DVを次式(6)により算出する(ステップS306)。ここで、次式(6)の右辺第1項は比例項でK2pは比例項ゲインであり、右辺第2項は積分項でK2iは積分項ゲインである。
DV=K2p×ΔVO+K2i×ΣΔVO …(6)
【0042】
その後、偏差ΔVOが予め定められた所定値未満で収束しているか否かを判定する(ステップS308)。ここで、所定値は、予め実験等によりこのフィードバック制御を繰り返し実行したときの収束値に基づいて設定されている。そして、ΔVOが所定値未満で収束していたときには、ロードロード設定中フラグF1がゼロか否かを判定し(ステップS310)、このロードロード設定中フラグF1がゼロのときには、レーシング要求フラグF2がゼロか否かを判定し(ステップS312)、このレーシング要求フラグF2がゼロのときには、その他のサブ学習条件が成立しているか否かを判定する(ステップS314)。ここで、ロードロード設定中フラグF1は、ハイブリッドECU70からエンジンECU50へロードロード設定中である旨の信号が送信されているときに値1にセットされ、それ以外のときにゼロにリセットされるフラグであり、レーシング要求フラグF2は、ハイブリッドECU70からエンジンECU50へレーシング要求がなされているときに値1にセットされそれ以外のときにゼロにリセットされるフラグである。また、その他のサブ学習条件としては、例えば冷却水温センサ59からの冷却水温が所定水温以上であるとか、メイン空燃比フィードバック制御(ステップS202〜S226)が実行中である等が挙げられる。
【0043】
そして、ロードロード設定中フラグF1及びレーシング要求フラグF2が共にゼロでその他のサブ学習条件も成立していたときには、上流側排気センサ出力補正の学習値DVlrnを今回の上流側排気センサ出力補正量DVに更新し(ステップS316)、本ルーチンを終了する。一方、ステップ308で偏差ΔVOが所定値未満で収束していないか、ステップS310でロードロード設定中フラグF1が値1であるか、ステップS312でレーシング要求フラグF2が値1であるか、その他のサブ学習条件のいずれかが不成立だったときには、学習値DVlrnを更新することなく、そのまま本ルーチンを終了する。
【0044】
ここで、ロードロード設定について図11に基づいて説明する。図11はロードロード設定中の様子を表す説明図である。シャシダイナモメータ110は、10モード等のパターン走行試験を室内で行うとき等に利用される装置である。パターン走行試験は、シャシダイナモメータ110の回転ローラ112の上にハイブリッド自動車10の駆動輪19,19を載せ従動輪を固定した状態で行うが、実際の路上走行状態と同じ状態にするために、回転ローラ112には走行抵抗(ロードロード)に相当する負荷が加えられる。この負荷を設定するときに、ロードロード設定中であることがハイブリッドECU70に入力されると、ハイブリッドECU70からエンジンECU50へロードロード設定中である旨の信号が送信されるため、ロードロード設定中フラグF1が値1にセットされる。ロードロード設定中は、シャシダイナモメータ110の回転ローラ112によりハイブリッド自動車10の車速が100km/hとなるまで駆動輪19,19を回転させ、その後駆動輪19,19を惰性で回転させてから停止するまでの様子を調べることにより、車速Vと負荷Nの関係式(例えばN=aV2+bV+c)を求める。このときの様子を図11のグラフに示す。ここで、ハイブリッド自動車10は、上述したようにモータMG1,MG2及びエンジン20をギヤの噛合により接続する動力分配統合機構30を有しており、この動力分配統合機構30のリングギヤ軸32aはクラッチを介さずに駆動軸17と接続されている。このため、ロードロード設定中は、エンジン20、モータMG1,MG2及び動力分配統合機構30を保護すべく、車速100km/hではエンジン回転数が2500rpm程度となるように制御し、停止時にはエンジン回転数がアイドル回転数となるように制御し、車速100km/hからゼロまでの区間では車速に応じてエンジン回転数が2500rpm程度からアイドル回転数までの間に制御する。
【0045】
図12はロードロード設定中のときの共線図である。図12において、例えば点線のようにモータMG2の回転数Nm2(=リングギヤ軸32aの回転数Nr)が大きいときにエンジン回転数NeがゼロだとするとモータMG1の回転数Nm1(=サンギヤ軸31aの回転数Ns)が負側に大きくなりすぎて過回転になるため、実線のようにエンジン回転数Neをアイドル回転数から2500rpm程度までの間に制御してモータMG1の回転数Nm1の過回転を防止する。このとき、エンジン20はアイドル運転状態(無負荷状態)であるかアイドル時よりわずかに吸入空気量が多い小空気量状態であるから、排気は少量であり、下流側排気センサ66のガス交換性が悪化するためセンサ出力値VOは実際の排気を反映しにくくなる。したがって、ロードロード設定中フラグF1が値1にセットされているときには、下流側排気センサ66のセンサ出力値VOに基づく上流側排気センサ出力補正の学習値DVlrnの更新を禁止して、誤学習が行われるのを防止している。なお、ロードロード設定は、出荷検査のとき等に実施される。
【0046】
次に、レーシング状態について説明する。停車中に運転者がアクセルペダル83をあおると、エンジン回転数もそれにつれて上がる。この状態をレーシング状態という。ここで、ハイブリッド自動車10は、上述したようにモータMG1,MG2及びエンジン20をギヤの噛合により接続する動力分配統合機構30を有しており、この動力分配統合機構30のリングギヤ軸32aはクラッチを介さずに駆動軸17と接続されている。このため、レーシング状態では、エンジン回転数が高くなりすぎると、エンジン20に連れ回されるモータMG1が過回転になるおそれがあるため、エンジン回転数を2500〜3000rpm程度までしか回さないように制御している。ここで、図13はレーシング状態の共線図である。図13において、例えば点線のようにエンジン回転数Neを高くするとモータMG1の回転数Nm1が正側に大きくなりすぎて過回転になるため、実線のようにエンジン回転数Neを2500〜3000rpm程度までに抑えてモータMG1の回転数Nm1の過回転を防止する。このときも、エンジン20はアイドル運転状態(無負荷状態)であるかアイドル時よりわずかに吸入空気量が多い小空気量状態であるから、排気は少量であり、下流側排気センサ66のガス交換性が悪化するためセンサ出力値VOは実際の排気を反映しにくくなる。したがって、レーシング要求フラグF2が値1にセットされているときには、下流側排気センサ66のセンサ出力値VOに基づく上流側排気センサ出力補正の学習値DVlrnの更新を禁止して、誤学習が行われるのを防止している。
【0047】
以上詳述した本実施形態によれば、ハイブリッド自動車10がロードロード設定中のときやレーシング状態のときのようにエンジン20が無負荷運転状態又は小空気量運転状態のときには、下流側排気センサ66の周囲のガス交換が十分に行われずセンサ出力値VOが実際の排気を正確に反映していないことがあるため、下流側排気センサ66のセンサ出力値VOに基づく上流側排気センサ出力補正の学習値DVlrnの更新を禁止して、誤学習が行われるのを防止している。この結果、下流側排気センサ66に起因する制御の乱れを抑制することができる。
【0048】
また、上流側排気センサ65としてA/Fセンサを用いているが、このA/Fセンサのセンサ出力値VAFから実空燃比が得られるため、得られた実空燃比が目標空燃比に合致するようメイン空燃比制御を行うことにより精度よく空燃比を制御することができる。一方、下流側排気センサ66としてO2センサを用いているが、O2センサは経時変化が少なく応答性がよいため、このO2センサのセンサ出力値VO2に基づいてA/Fセンサの個体差や経時変化に伴うズレを解消することにより精度よく迅速にA/Fセンサのセンサ出力値を補正することができる。
【0049】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0050】
例えば、上述した実施形態では、下流側排気センサ66のセンサ出力値VOに基づいて空燃比制御に反映される空燃比学習値の更新を行う場合を例に挙げて説明したが、下流側排気センサ66のセンサ出力値VOに基づいて排気浄化触媒61の劣化診断を行うものであってもよい。具体的には、上流側排気センサ65にもO2センサを採用し、上流側排気センサ65のセンサ出力がリッチ側のときには燃料噴射量を徐々に減らすように制御しリーン側のときには燃料噴射量を徐々に増やすように制御する。そして、一定時間内で、上流側排気センサ65のセンサ出力がリッチ・リーンに反転する反転回数Xと、下流側排気センサ66のセンサ出力がリッチ・リーンに反転する反転回数Yとを求め、比X/Yに基づいて触媒劣化の診断を行う。例えば、比X/Yが所定のしきい値以下のときには下流側排気センサ66の触媒劣化ありと判定する。このとき、ロードロード設定中フラグF1が値1のときやレーシング要求フラグF2が値1のときなどのようにエンジン50が無負荷運転状態又は小空気量運転状態のときには、下流側排気センサ66の周囲のガス交換が十分に行われずセンサ出力値VOが実際の排気を正確に反映していないことがあり、その結果反転回数Yの精度が低くなっていることがあるため、触媒劣化の診断を禁止するようにする。こうすれば、下流側排気センサ66に起因する診断の乱れを抑制することができる。
【0051】
また、上述した実施形態では、パラレル型とシリアル型とを混成したハイブリッド自動車に本発明のエンジン制御システムを適用した例を説明したが、駆動軸とエンジンとモータとがクラッチを介さずに機械的に接続され、駆動軸に対するエンジンの動力及びモータの動力の入出力を制御するハイブリッド自動車であれば特にこれに限定されず、例えばパラレル型のハイブリッド車に本発明を適用してもよいし、シリーズ型のハイブリッド車に本発明を適用してもよい。
【0052】
更に、上述した実施形態では、モータMG2の動力をリングギヤ軸32aに出力するものについて説明したが、図14に示すように、モータMG2の動力をリングギヤ軸32aが接続された車軸(駆動輪19,19)とは異なる車軸(図14における車輪119,119に接続された車軸)に接続するものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ハイブリッド自動車の構成の概略を示す構成図である。
【図2】エンジンの構成の概略を示す構成図である。
【図3】ハイブリッド制御ルーチンのフローチャートである。
【図4】アクセル開度と車速と目標トルクとの関係を示すマップである。
【図5】最適運転ポイントを設定する様子を表す説明図である。
【図6】代表的な動作共線の説明図である。
【図7】A/Fセンサの出力特性の一例を表す説明図である。
【図8】O2センサの出力特性の一例を表す説明図である。
【図9】メイン空燃比制御ルーチンのフローチャートである。
【図10】サブ空燃比制御ルーチンのフローチャートである。
【図11】ロードロード設定中の様子を表す説明図である。
【図12】ロードロード設定中のときの共線図である。
【図13】レーシング状態のときの共線図である。
【図14】他のハイブリッド自動車の構成の概略を示す構成図である。
【符号の説明】
【0054】
10 ハイブリッド自動車、14 モータECU、15 チェーンベルト、17 駆動軸、18 デファレンシャルギヤ、19 駆動輪、19a 車軸、20 エンジン、21 エアクリーナ、22 スロットルバルブ、22a アクチュエータ、22b スロットルポジションセンサ、23 インジェクタ、24 吸気バルブ、25 点火プラグ、26 ピストン、27 クランクシャフト、28 エアフローメータ、29 イグニションコイル、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、31a サンギヤ軸、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリヤ、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、45 バッテリ、50 エンジンECU、58 電力ライン、59 冷却水温センサ、60 触媒コンバータ、61 排気浄化触媒、64 排気管、65 上流側排気センサ、66 下流側排気センサ、67 クランク角センサ、70 ハイブリッドECU、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、110 シャシダイナモメータ、112 回転ローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に対するエンジンの動力及びモータの動力の入出力を制御するハイブリッド自動車に搭載されるエンジン制御システムであって、
前記エンジンの排気を浄化する排気浄化触媒と、
前記排気浄化触媒の下流側に設置された下流側排気センサと、
前記下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気を正確に反映しないことのある所定の運転状態か否かを判定する運転状態判定手段と、
前記運転状態判定手段によって前記所定の運転状態であると判定されたとき前記下流側排気センサのセンサ出力値に基づく制御の少なくとも一部を禁止する制御禁止手段と、
を備えたエンジン制御システム。
【請求項2】
駆動軸とエンジンとモータとがクラッチを介さずに機械的に接続され、前記駆動軸に対する前記エンジンの動力及び前記モータの動力の入出力を制御するハイブリッド自動車に搭載されるエンジン制御システムであって、
前記エンジンの排気を浄化する排気浄化触媒と、
前記排気浄化触媒の上流側に設置された上流側排気センサと、
前記排気浄化触媒の下流側に設置された下流側排気センサと、
前記上流側排気センサのセンサ出力値に基づいて前記エンジンの空燃比制御を実行する空燃比制御手段と、
前記下流側排気センサのセンサ出力値に基づいて前記排気浄化触媒の浄化に関わる制御を実行する浄化関連制御実行手段と、
前記下流側排気センサのセンサ出力値が実際の排気を正確に反映しないことのある所定の運転状態か否かを判定する運転状態判定手段と、
前記運転状態判定手段によって前記所定の運転状態であると判定されたとき前記浄化関連制御実行手段による制御を禁止する制御禁止手段と、
を備えたエンジン制御システム。
【請求項3】
前記浄化関連制御実行手段は、前記下流側排気センサのセンサ出力値に基づいて前記空燃比制御に反映される空燃比学習値の更新を行う手段である、請求項2に記載のエンジン制御システム。
【請求項4】
前記浄化関連制御実行手段は、前記下流側排気センサのセンサ出力値に基づいて前記排気浄化触媒の劣化診断を行う手段である、請求項2に記載のエンジン制御システム。
【請求項5】
前記所定の運転状態は、前記エンジンが所定の無負荷運転状態又は小空気量無負荷運転状態である、請求項1〜4のいずれかに記載のエンジン制御システム。
【請求項6】
前記所定の運転状態は、ロードロード設定中の状態である、請求項1〜4のいずれかに記載のエンジン制御システム。
【請求項7】
前記所定の運転状態は、レーシング状態である、請求項1〜4のいずれかに記載のエンジン制御システム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載のエンジン制御システムを搭載し、前記駆動軸が車軸に連結されている車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−63822(P2006−63822A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244764(P2004−244764)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】