説明

シルセスキオキサン骨格を有する酸無水物および重合体

【課題】従来のシルセスキオキサン骨格を有する酸無水物は、分子中にフレキシブルなメチレン結合を多数有するため、ガラス転移点や熱分解温度が低く、剛直で耐熱性に優れたかご型ケイ素骨格の特性を十分に発揮させるには至らなかった。
【解決手段】式(1)で示される酸無水物。XおよびYはアルキル、シクロアルキル、アリールおよびアリールアルキルから独立して選択される基であり、Zは3価の脂環式基、または酸無水物基と共に環を形成する3価の飽和脂肪族基である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かご型シルセスキオキサン骨格を有する酸無水物、およびこれを主原料として用いて得られる、主鎖にかご型シルセスキオキサン骨格を有する新規な重合体に関する。本発明のポリマーは、電子材料、光学材料および光エレクトロニクスの分野において、絶縁膜、保護膜、液晶配向膜、光導波路などに用いられる。なお、「シルセスキオキサン」は、各ケイ素原子が3個の酸素原子と結合し、各酸素原子が2個のケイ素原子と結合している化合物を示す類名であるが、本発明においてはその一部が変形したシルセスキオキサン類似構造の化合物も含めてシルセスキオキサンとする。シルセスキオキサン構造およびその一部が変形したシルセスキオキサン類似構造の総称として、「シルセスキオキサン骨格」を用いる。以下の説明では、用語「シルセスキオキサン」を記号「PSQ」を用いて表記することがある。
【背景技術】
【0002】
PSQに関しては、これまで数多くの研究が行われてきた。例えば非特許文献1に記載されている総説によれば、ラダー構造、完全縮合型構造、および不完全縮合型構造のほか、一定の構造を示さない不定形構造などのPSQの存在が確認されている。完全縮合型構造とは、複数の環状構造からなり、閉じた空間を形成する構造であり、その閉じた空間の形状は限定されていない。不完全縮合型構造は、完全縮合型構造の少なくとも1箇所以上が塞がれておらず、空間が閉じていない構造である。
【0003】
完全縮合型構造または不完全縮合型構造を有するPSQのうち、容易に合成され単離されている化合物の種類は限定されている。その中で市販されている化合物の数はさらに限定されている。最近では、完全縮合型構造または不完全縮合型構造を有するPSQに、種々の官能基が導入されたPSQ誘導体が、ハイブリッドプラスチック社より市販されており、多くの用途が提案されている。
【0004】
しかしながら、これら市販されているPSQ誘導体は完全縮合型(いわゆるT8構造)が主流であり、また不完全縮合型もカゴが1箇所だけ閉じていない(T7構造)がほとんどであった。従って、これらのPSQ誘導体を用いるには、完全縮合型誘導体を添加剤として樹脂中にブレンドする例が多い。しかし、既存のPSQ誘導体には、樹脂との相溶性が悪く、そのために均一に混合できなかったり、塗膜にした場合に白化したり、塗膜からブリードアウトするなどの問題点があるので、その添加量に限界があった。そして、PSQが本来有する特性(難燃性、耐熱性、耐候性、耐光性、電気絶縁性、表面特性、硬度、力学的強度、耐薬品性など)を十分に付与できない例も少なくなかった。
【0005】
一方、不完全縮合型PSQ骨格を、ブレンド以外の形で樹脂中に導入した例がいくつか見受けられる。非特許文献2には側鎖にメタクリロイル基を有するかご型のPSQが開示されている。この化合物を重合させて得られたポリマーは、高い機械強度と酸素透過性を有する。さらに、非特許文献3ではT7構造の非縮合部をトリクロロシラン誘導体で閉環した後ジアミンを合成し、PSQ骨格を側鎖に有するポリイミドを合成している。しかし、これらはいずれもPSQを側鎖にしか導入できないという、T7骨格に由来する構造化学的な問題があった。
【0006】
近年、非縮合部位を2箇所有する新規なPSQ骨格(以下、ダブルデッカー骨格と略記することがある。)が見出された。この化合物は各種ジクロロシラン類とのエンドキャッピング反応により閉環し、完全縮合型PSQと類似のかご型ケイ素化合物となることが明らかとなっている。この手法を用いて合成された、式(a)で示される酸無水物が特許文献1に開示されている。


そして、この無水物を片方の原料とする縮重合によってダブルデッカー骨格が主鎖中に取り込まれたポリイミドが初めて合成された(特許文献2)。この重合体は、脂環式酸無水物を原料とするポリイミドの特性である透明性と、有機ケイ素化合物特有の耐光性を持つ優れた材料である。ところが、分子中にフレキシブルなアルキレン結合を有することから、ガラス転移点や熱分解温度が低く、剛直で耐熱性に優れたかご型ケイ素骨格の特性を十分に発揮させるには至らなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは耐熱性を改善するために、式(b)で示される、フタル酸無水物が直結したタイプの剛直な酸無水物を発明した(特許文献3)。



この酸無水物を用いたポリイミドは、200℃以上のガラス転移温度と、約500℃の熱分解温度を示し、耐熱性の改善には極めて有効な化合物である。しかし、芳香族酸無水物に起因するポリマーの着色により透明性と耐光性が劣化し、優れた光学特性が要求される光電子材料に用いるには若干問題があった。
【0008】
【非特許文献1】Chem. Rev. 95, 1409 (1995)
【非特許文献2】Macromolecules, 28, 8435, (1995)
【非特許文献3】Macromolecules,36,9122,(2003)
【特許文献1】WO2003/024870号パンフレット
【特許文献2】特開2004−331647公報
【特許文献3】特願2005−53106
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、主鎖中にダブルデッカー骨格を有する新規な重合体、およびその原料となる脂環式酸無水物基を有するPSQを提供することである。特に、分子鎖を極力剛直にすることにより耐熱性や機械強度を維持しつつ、光エレクトロニクス用材料に応々にして要求される透明・耐光性を併せ持つポリイミド、またはエポキシ樹脂を提供することである。具体的には、例えば、低誘電率の絶縁膜、耐光性、透明性などに優れた液晶配向膜や発光ダイオード封止材、または低伝送損失の光導波路材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、様々な有機ポリマー主鎖中にダブルデッカー骨格を導入し、構造制御されたかご型構造を含む有機−無機ハイブリッド材料を創製するという観点から鋭意研究した。その結果、従来知られている脂環式ポリイミドの透明性に着目し、脂環式酸無水物残基がダブルデッカー骨格に直結した新規酸無水物を合成した。さらに、この酸無水物とジアミン類との縮重合によって主鎖中にかご型ケイ素骨格が導入されたポリイミドが得られた。この酸無水物と種々のエポキシドとの架橋反応によってエポキシ樹脂を得ることにも成功した。そして、これらの重合体が、例えば、誘電特性、透明性、耐光性、耐熱性等に優れ、絶縁膜、液晶配向膜、発光ダイオードの封止剤、光導波路等の光電子材料に有用であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
本発明の酸無水物は次の[1]項に示される。
[1] 式(1)で示される酸無水物:


ここに、Xのそれぞれは炭素数1〜40のアルキル、炭素数4〜10のシクロアルキル、任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、および任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリールと炭素数1〜8のアルキレンとで構成されるアリールアルキルから独立して選択される基であり;Yは炭素数1〜40のアルキル、炭素数4〜10のシクロアルキル、任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、または任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリールと炭素数1〜8のアルキレンとで構成されるアリールアルキルであり;Zは炭素数4〜20の3価の脂環式基、または酸無水物基と共に環を形成する炭素数2〜10の3価の飽和脂肪族基であり、この脂環式基は架橋環構造の式であってもよく、その1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく;上記の炭素数1〜40のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH−は−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよく;フェニルの置換基である炭素数1〜20のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよく;そして、アリールアルキルのアルキレンにおいて、任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酸無水物を用いて得られる重合体は、主鎖に機械強度や耐熱性に優れた、剛直なかご型骨格を有する。しかも、ダブルデッカー骨格と酸無水物残基が直結しているので、耐熱性を低下させない。また、酸無水物に起因するポリイミドの透明性も芳香族系より優れている。さらに、ポリマー全体に占める有機ケイ素成分の含有量が多いので、有機残基だけで構成された同種のポリマーに比べて耐光性にも優れている。従って、従来の有機重合体に比べ、過酷な条件下で使用される層間絶縁膜やポリマー光導波路等の電子材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
最初に、本発明で用いる用語について説明する。「任意の」は、位置だけでなく個数についても任意に選択できることを意味する。任意の−CH−が−O−で置き換えられてもよいと記述するときには、連続する複数の−CH−が−O−で置き換えられる場合を含まない。任意のAがBまたはCで置き換えられてもよいという表現は、任意のAがBで置き換えられる場合および任意のAがCで置き換えられる場合に加えて、任意のAがBで置き換えられると同時に、残りのAのうちの任意のAがCで置き換えらる場合をも含むことを意味する。例えば、任意の−CH−が−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよいアルキルには、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルケニル、アルケニルオキシ、アルコキシアルケニル、アルケニルオキシアルキル、およびアルケニルオキシアルケニルが含まれる。アルキル、アルケニル、アルキレンおよびアルケニレンは、いずれも直鎖の基であってよいし、分岐された基であってもよい。シクロアルキルは架橋環構造の基であってもよいし、そうでなくてもよい。式(1)で示される化合物を化合物(1)と略称することがある。他の式で示される化合物についても同じ簡略化法により表記することがある。実施例においては、電子天秤の表示データを質量単位であるg(グラム)を用いて示した。重量%や重量比はこのような数値に基づくデータである。
【0014】
本発明は、前記の[1]項と下記の[2]〜[23]項とで構成される。
[2] Xのそれぞれが任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、シクロヘキシル、および任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニルと炭素数1〜5のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルから独立して選択される基であり;Yが炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のフッ素化アルキル、炭素数5〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、または任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニルと炭素数1〜5のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルであり;そして、炭素数1〜5のアルキレンにおいて、任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよい、[1]項に記載の酸無水物。
【0015】
[3] Xが任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、シクロヘキシル、またはフェニルと炭素数1〜5のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルであり;Yが炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のフッ素化アルキル、炭素数5〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、またはフェニルと炭素数1〜5のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルであり;そして、炭素数1〜5のアルキレンにおいて、任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよい、[1]項に記載の酸無水物。
【0016】
[4] Xがフェニル、シクロヘキシル、またはフェニルと炭素数1〜3のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルであり;Yが炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のフッ素化アルキル、炭素数5〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、またはフェニルと炭素数1〜3のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルである、[1]項に記載の酸無水物。
【0017】
[5] Xがフェニルであり;Yが炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のフッ素化アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、またはフェニルエチルである、[1]項に記載の酸無水物。
【0018】
[6] [1]項に記載の式(1)におけるZが次に示す3価の基のいずれか1つである、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の酸無水物:



ここに、環骨格との結合位置が固定されていない結合手は、Si原子と結合する遊離原子価を示し、そして環骨格との結合位置が任意であることを示す。
【0019】
[7] 式(1−1)で示される酸無水物:


ここに、Meはメチルであり、そしてPhはフェニルである。
【0020】
[8] [1]〜[7]のいずれか1項に記載の酸無水物の少なくとも1つを原料として用いる縮重合反応によって得られる重合体。
[9] [1]〜[7]のいずれか1項に記載の酸無水物の少なくとも1つとジアミンとの縮重合反応によって得られるポリイミド。
[10] [1]〜[7]のいずれか1項に記載の酸無水物の少なくとも1つを硬化剤として用いる架橋反応によって得られるエポキシ樹脂。
【0021】
[11] [10]項に記載のエポキシ樹脂を用いて得られる封止剤。
[12] [11]項に記載の封止剤を含有する発光素子。
【0022】
[13] [9]または[10]項に記載の重合体を用いて得られる薄膜。
[14] [13]項に記載の薄膜からなる絶縁膜。
[15] [13]項に記載の薄膜からなる保護膜。
[16] [13]項に記載の薄膜からなる液晶配向膜。
[17] [13]項に記載の薄膜からなる平坦化膜。
[18] [13]項に記載の薄膜からなる光導波路材料。
【0023】
[19] [14]項に記載の絶縁膜を含有する電気的固体装置。
[20] [15]項に記載の保護膜を含有する電気的固体装置。
[21] [16]項に記載の液晶配向膜を含有する液晶表示素子。
[22] [17]項に記載の平坦化膜を含有する液晶表示素子。
[23] [18]項に記載の光導波路材料を含有する光導波路。
【0024】
本発明の酸無水物は式(1)で示される。即ち、本発明の酸無水物は、酸無水物基を有する脂環式構造の基または酸無水物基と共に環を構成する飽和脂肪族基がシルセスキオキサン骨格に直結した構造を有する化合物である。


【0025】
式(1)において、Xのそれぞれは炭素数1〜40のアルキル、炭素数4〜10のシクロアルキル、任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、および任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリールと炭素数1〜8のアルキレンとで構成されるアリールアルキルから独立して選択される基である。8個のXは2つ以上の異なる基で構成されてもよいが、すべてのXが同一の基であることが好ましい。
【0026】
XまたはYが炭素数1〜40のアルキルであるとき、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH−は−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよい。このような基の例は、アルキル、フッ素化アルキル、アルコキシアルキル、アルケニル、アルケニルオキシアルキルなどである。このようなXの具体例として、メチル、エチル、t−ブチル、オクチル、デシル、3,3,3−トリフルオロプロピル、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル、3−メトキシプロピル、3−ヘプタフルオロイソプロポキシプロピル、エテニル、3−ブテニル、アリルオキシウンデシルなどが挙げられる。
【0027】
シクロアルキルの例は、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルおよびデカリルであり、シクロヘキシルが好ましい。
【0028】
XまたはYがアリールであるとき、環の任意の水素はハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよい。そしてこの炭素数1〜20のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよい。このような基の例は、フェニル、ナフチル、アントニル、フルオレニル、4−フルオロフェニル、4−クロロフェニル、4−ブロモフェニル、4−メチルフェニル、4−エチルフェニル、4−ブチルフェニル、4−オクチルフェニル、4−デシルフェニル、2,4−ジメチルフェニル、4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル、4−(2−エチルヘキシル)フェニル、4−メトキシフェニル、4−エトキシフェニル、4−ブトキシフェニル、4−ヘプチルオキシフェニル、およびメトキシエチルフェニルである。
【0029】
XまたはYが環の任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリールと炭素数1〜8のアルキレンとで構成されるアリールアルキルであるとき、この炭素数1〜20のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよい。このようなアリールの例は前記と同様である。そして、炭素数1〜8のアルキレンにおける任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよい。
【0030】
式(1)における2つのYは同じ基であるが、Yの選択範囲内の異なる基であっても構わない。2つのYが異なる基である化合物の場合には、製造コストが嵩むという欠点があるだけであり、物性に大きな違いがあるわけではない。
【0031】
式(1)におけるXとYに関して好ましい組み合わせは次の通りである。即ち、Xのそれぞれが任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、シクロヘキシル、および任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニルと炭素数1〜5のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルから独立して選択される基であり、そしてYは、炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のフッ素化アルキル、炭素数5〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、または任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニルと炭素数1〜5のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルである。そして、この炭素数1〜5のアルキレンにおける任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよい。
【0032】
式(1)におけるXとYに関してより好ましい組み合わせは次の通りである。即ち、Xが任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、シクロヘキシル、またはフェニルと炭素数1〜5のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルであり、そしてYは、炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のフッ素化アルキル、炭素数5〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、またはフェニルと炭素数1〜5のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルである。そして、この炭素数1〜5のアルキレンにおける任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよい。このようなフェニルアルキルの例は、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、フェノキシプロピル、およびベンジルオキシプロピルである。
【0033】
式(1)におけるXとYに関してさらに好ましい組み合わせは次の通りである。即ち、Xがフェニル、シクロヘキシル、またはフェニルと炭素数1〜3のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルであり、そしてYは、炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のフッ素化アルキル、炭素数5〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、またはフェニルと炭素数1〜3のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルである。
【0034】
式(1)におけるXとYに関して特に好ましい組み合わせは次の通りである。即ち、Xがフェニルであり、そしてYは、炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のフッ素化アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、またはフェニルエチルである。
【0035】
式(1)におけるZは、炭素数4〜20の3価の脂環式基、または酸無水物基と共に環を形成する炭素数2〜10の3価の飽和脂肪族基である。この脂環式基は架橋構造の環であってもよく、1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよい。Zの好ましい例を次に示す。



これらの基において、環骨格との結合位置が固定されていない結合手は、Si原子と結合する遊離原子価を示す。そしてこの遊離原子価の環骨格における位置は任意である。
【0036】
本発明の酸無水物は、通常の有機化学的手法で容易に合成が可能であるが、式(1−0)で示されるダブルデッカー型PSQと酸無水物基を有するジクロロシラン誘導体との閉環反応(エンドキャッピング反応)によって合成するのが最も一般的である。ダブルデッカー型PSQは、トリアルコキシシランを水酸化ナトリウム存在下加水分解重縮合することによって得ることができる。式(1)の化合物の一般的合成法を以下に示す。


これらの式において、Meはメチルであり、その他の記号は式(1)における記号と同じ意味を有する。
【0037】
式(1−0)の化合物を、ケイ素−水素結合を有するジクロロシラン誘導体で一旦閉環した後、環内に不飽和結合を有する酸無水物とヒドロシリル化反応させて合成する方法も有用である。反応例を以下に示す。


これらの式におけるXおよびYは、式(1)におけるXおよびYとそれぞれ同じ意味を有する。
【0038】
このようにして得られる酸無水物の少なくとも1つを原料として用い、縮重合反応または架橋反応を行うことにより本発明の重合体を得ることができる。本発明の重合体の好ましい例は、本発明の酸無水物の少なくとも1つとジアミンとの縮重合反応によって得られるポリイミドである。このとき、得られる重合体の透明性、機械強度、耐熱性などに悪影響を与えない範囲であれば、他のテトラカルボン酸二無水物を併用してもよい。これらの物性に悪影響を与えない範囲であれば、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸ジクロリドなどのジカルボン酸誘導体を併用してポリアミドイミドとしてもよい。なお、ジアミンは2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
反応例を以下に示す。Qはジアミン残基である。


【0040】
本発明の酸無水物と併用することができるテトラカルボン酸二無水物の例は、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ビス(ジカルボキシシクロヘキシル)エーテル二無水物、ビス(ジカルボキシシクロヘキシル)スルホン二無水物、ビス(ジカルボキシシクロヘキシル)メタン二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2、2',3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、および4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物である。
【0041】
これらの中の好ましい例は、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビス(ジカルボキシシクロヘキシル)メタン二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、および4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物である。これらの化合物には異性体を含むものもあるが、これらの異性体混合物であってもかまわない。これらの2種以上の化合物を併用してもよい。
【0042】
本発明のポリイミドを合成する場合において、ジアミンの残基の構造は特に限定されない。ジアミン残基の好ましい例を次に挙げる。なお、下記式中に記載のXおよびYの意味は前記の通りである。


【0043】
上記のジアミン残基の中で特に好ましい例を次に示す。


【0044】
本発明の重合体において、その主鎖がエポキシ樹脂である重合体は、分子中に式(1)で示される骨格を有する酸無水物と、各種エポキシ化合物との重付加反応で合成することができる。ここで、本発明の酸無水物はエポキシドの硬化剤として作用している。この時、エポキシ樹脂特性の多様性を発揮させるために、具体的にはビスフェノールAのジグリシジルエーテル系、グリシジルエステル系、グリシジルジアミン系化合物、または環状脂肪族エポキシド等を用いることができる。
【0045】
本発明の重合体において、重合反応、溶液保存、および薄膜形成時に用いる溶剤は、重合反応を阻害することなく、モノマーとポリマーの溶解性に優れたものであれば特に制限されない。このような溶剤の例は、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンが好ましい。さらに好ましくは、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、およびテトラヒドロフランである。これらの溶剤は、単独で用いても複数混合して使用してもよい。
【0046】
さらに必要により、塗布性改善などの目的で表面張力の低い溶剤を併用してもよい。このような溶剤の例は、乳酸アルキル、3−メチル−3−メトキシブタノール、テトラリン、イソホロン、エチレングリコールモノアルキルエーテル(エチレングリコールモノブチルエーテルなど)、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル(ジエチレングリコールモノエチルエーテルなど)、エチレングリコールモノアルキルアセテート、エチレングリコールモノフェニルアセテート、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル(プロピレングリコールモノブチルエーテルなど)、およびマロン酸ジアルキル(マロン酸ジエチルなど)である。これらの溶剤は、先の良溶剤に対して貧溶剤的なものが多い。従って、溶解成分が析出しない程度の量を添加することが好ましい。
【0047】
さらに、塗布性を改良する等の目的で用いられる界面活性剤や、帯電防止の目的等で用いられる帯電防止剤を添加することも可能である。あるいは、さらに基板との密着性を向上させるために、シランカップリング剤やチタン系のカップリング剤を配合することも可能である。
【0048】
好ましいシランカップリング剤として、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
【0049】
上述したような溶剤で本発明の重合体を溶解し、これを基板に塗布することによって薄膜を形成することができる。重合体溶液を薄膜を形成させる基板へ塗布する方法としては、通常使用されている方法が使用可能である。例えば、スピンナー法、印刷法、ディッピング法、滴下法などが使用できる。塗布の際、オリゴマー溶液の溶剤組成、濃度は重合時と同一でもよいが、反応溶剤を減圧濃縮等にて一旦除去した後、最適な濃度や溶剤組成に調整してから塗布しても全く問題はない。基板としては、ガラス基板、プラスチック基板、またはフィルム状基板などを用いることができる。
【0050】
塗布後の溶剤の乾燥のための加熱処理などにおいても、通常の絶縁膜、保護膜、液晶配向膜、光導波路形成で使用している手法と同様な方法で実施することが可能である。例えば、オ−ブン、ホットプレ−ト、赤外炉中などが使用できる。溶液を塗布した後は、比較的低温で溶剤を蒸発させた後、100〜500℃程度の温度で、好ましくは150〜450℃で加熱処理することが好ましい。加熱温度は一定でも段階的に昇温してもよい。加熱時間は重合体の種類によって異なるが、10〜180分程度が好ましく、さらに好ましくは約30〜90分である。なお、本加熱処理においては空気中、窒素雰囲気もしくは減圧条件下のいずれで行ってもよい。このようにして形成された薄膜は絶縁膜、保護膜、液晶配向膜、平坦化膜などとして有用である。膜のサイズや厚さは用途に応じて適宜設定することができる。
【0051】
絶縁膜は、LSI内部の多層配線構造において、電気を通す金属配線とそれらを電気的に絶縁する機能を有する膜などを意味する。保護膜は、LSI多層配線構造の最上部に形成され、配線内部を外部からの汚染等から保護する機能を有する膜などを意味する。本発明の絶縁膜及び保護膜は、半導体などの電気的固定装置の製造に好適に用いられる。
【0052】
平坦化膜は、凹凸面を持った物体をコーティングすることにより、その表面を平坦にさせる膜などを意味する。液晶配向膜は、液晶表示素子内部において液晶分子の一軸配向性と、界面におけるプレチルト角を発現させる機能を有する膜などを意味する。本発明の平坦化膜および液晶配向膜は、液晶表示素子の製造に好適に用いられる。
【0053】
本発明の重合体を光導波路材料として用いることもできる。光導波路材料は、光ファイバーや光配線等の光機能素子において、光信号を特定の領域に閉じこめて入射端から出射端に導く機能を有する材料などを意味する。
【0054】
光導波路は、公知の方法(特開2005−010770号公報、特開2005−029652号公報、特開2004−182909号公報など)に基づいて作製することができる。例えば、以下のような経路で作製される。まず、光学クラッド材用として用いられる重合体を基板上に塗布し、膜を形成した後、光学コア材用の重合体を塗布し、得られた塗布層上にエッチングマスクをマウントし、以下フォトリソグラフィーの手法により導波路パターンに加工する。エッチングマスクの材料としては、有機フォトレジストあるいは金属等が用いられる。次に、エッチングマスク越しに光学コア層を反応性イオンエッチングすることにより、所望の導波路パターンを形成することができる。この方法は、特にシングルモードタイプの光導波路の作製に有効である。特開平9−329721号公報には、光導波路型縮小イメージセンサーに用いるための光導波路の作製方法が記載されており、本発明の重合体はこのような光導波路の調製にも適している。
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されない。実施例で得られた化合物の物性は以下の方法で測定した。
<プロトンNMRスペクトル(1H−NMR)>
日本電子株式会社製JNM−GSX400を使用し、400MHzで溶剤にクロロホルム−dを用い、内部標準物質にテトラメチルシランを用いて室温で測定した。
<シリコンNMRスペクトル(29Si−NMR)>
日本電子株式会社製JNM−GSX400を使用し、79MHzで溶剤にクロロホルム−dを用い、内部標準物質にテトラメチルシランを用いて室温で測定した。
<熱分解温度>
セイコー電子工業社製、TG/DTA−220型を用い、空気中で毎分10℃の昇温速度で測定し、5%重量減少を示した点を分解温度とした。
<ガラス転移温度>
セイコー電子工業社製DSC−200型を用い毎分5℃の昇温速度で測定した。なお、以下の実施例では、容量を示す単位であるミリリットルを記号mLで表記する。また、電子天秤の表示データを読み取った値を質量単位gを用いて示した。
【実施例1】
【0056】
<化合物(1−1)(式(1)において、全てのXがフェニルであり、Yがメチルであり、Zがノルボルニルである酸無水物)の合成>


これらの式においてMeはメチルであり、Phはフェニルである。
【0057】
窒素ライン、冷却管、撹拌磁子、温度計を200mL−三ツ口フラスコに備え、特許文献1に記載の方法で合成した化合物(c)を11.53g(0.01mol)、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物3.28g(0.02mol)をとり、モノクロロベンゼン50mLに懸濁、撹拌した。窒素気流下、撹拌しながら80℃に加熱し、市販のKarstedt触媒10滴を一度に加えた。80℃で1時間撹拌後、温度を130〜140℃に上げて6時間撹拌後、室温まで冷却した。反応液に活性炭を少量加え、室温で30分撹拌後セライトろ過し、ろ液を減圧濃縮した。得られた白色ペースト状物質をヘキサン/酢酸エチル混合溶剤中で撹拌し、スラリー状態になったところでろ過器を用いて固体を捕集した。捕集した固体は、減圧乾燥後NMRで化学構造を確認した。ろ液は再度濃縮してこの固体捕集操作を行い、固体が得られなくなるまでこれらの一連の操作を繰り返した。白色固体の化合物(1−1)を最終的に8.00g(5.4mmol)得た。収率54%であった。
1H−NMR(CDCl);δ=0.30(s,6H), 0.86(t,2H),1.33(d,2H),1.60(t,4H),1.75〜1.83(m,4H),2.80(d,3H),3.22〜3.29(m,3H),7.21〜7.51(m,40H)
29Si−NMR(CDCl);δ=−79.31,−79.13,−79.07,−78.98,−78.21,−78.12,−22.43
NMR分析の結果、この化合物はダブルデッカー骨格由来のシス−トランス体に加えて、ヒドロシリル化に伴いノルボルネン骨格上に不斉炭素原子が新たに生成するので、立体化学的に複雑な混合物であった。
【実施例2】
【0058】
<ポリイミドの合成>
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル0.0675g(0.337mmol)をN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)2.20gに溶かし室温で撹拌した。この溶液に、実施例1で合成した化合物(1−1)を0.5000g(0.337mmol)固体のまま添加した。室温で6時間撹拌して得られたワニスを、重合体の濃度が20重量%になるまでシクロヘキサノンで希釈し、0.5ミクロンのメンブランフィルターでろ過した。この溶液をスピンナー法でガラス基板に塗布し、100℃のホットプレート上で3分間加熱した。続いて窒素雰囲気下250℃のオーブンで1時間焼成したところ淡黄色薄膜が得られた。このポリイミドのガラス転移温度187℃、熱分解温度は409℃であった。
【実施例3】
【0059】
<エポキシ樹脂の硬化>
市販のエポキシ樹脂(ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル:分子量900)5gを50mLのビーカー中で120℃に加熱、融解させた。これに、実施例1で合成した酸無水物0.5gをかき混ぜながら加えた。均一になったら120℃で1時間、次いで170℃で1時間加熱したところ、透明な硬化物が得られた。
【0060】
[比較例1]
酸無水物を、特許文献3記載の化合物(b)0.4811g(0.337mmol)に代えた以外は、実施例2と同様に合成してポリイミド薄膜を得た。このポリイミドのガラス転移温度は188℃で、本発明の酸無水物を用いた場合と同等の耐熱性を示したが、薄膜の色は暗褐色であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される酸無水物:


ここに、Xのそれぞれは炭素数1〜40のアルキル、炭素数4〜10のシクロアルキル、任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、および任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリールと炭素数1〜8のアルキレンとで構成されるアリールアルキルから独立して選択される基であり;Yは炭素数1〜40のアルキル、炭素数4〜10のシクロアルキル、任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、または任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリールと炭素数1〜8のアルキレンとで構成されるアリールアルキルであり;Zは炭素数4〜20の3価の脂環式基、または酸無水物基と共に環を形成する炭素数2〜10の3価の飽和脂肪族基であり、この脂環式基は架橋環構造の式であってもよく、その1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく;上記の炭素数1〜40のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH−は−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよく;フェニルの置換基である炭素数1〜20のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよく;そして、アリールアルキルのアルキレンにおいて、任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよい。
【請求項2】
Xのそれぞれが任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、シクロヘキシル、および任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニルと炭素数1〜5のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルから独立して選択される基であり;Yが炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のフッ素化アルキル、炭素数5〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、または任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニルと炭素数1〜5のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルであり;そして、炭素数1〜5のアルキレンにおいて、任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよい、請求項1に記載の酸無水物。
【請求項3】
Xが任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、シクロヘキシル、またはフェニルと炭素数1〜5のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルであり;Yが炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のフッ素化アルキル、炭素数5〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、またはフェニルと炭素数1〜5のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルであり;そして、炭素数1〜5のアルキレンにおいて、任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよい、請求項1に記載の酸無水物。
【請求項4】
Xがフェニル、シクロヘキシル、またはフェニルと炭素数1〜3のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルであり;Yが炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のフッ素化アルキル、炭素数5〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜4のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、またはフェニルと炭素数1〜3のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルである、請求項1に記載の酸無水物。
【請求項5】
Xがフェニルであり;Yが炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のフッ素化アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、またはフェニルエチルである、請求項1に記載の酸無水物。
【請求項6】
請求項1に記載の式(1)におけるZが次に示す3価の基のいずれか1つである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸無水物:



ここに、環骨格との結合位置が固定されていない結合手は、Si原子と結合する遊離原子価を示し、そして環骨格との結合位置が任意であることを示す。
【請求項7】
式(1−1)で示される酸無水物:


ここに、Meはメチルであり、そしてPhはフェニルである。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の酸無水物の少なくとも1つを原料として用いる縮重合反応によって得られる重合体。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の酸無水物の少なくとも1つとジアミンとの縮重合反応によって得られるポリイミド。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の酸無水物の少なくとも1つを硬化剤として用いる架橋反応によって得られるエポキシ樹脂。
【請求項11】
請求項10に記載のエポキシ樹脂を用いて得られる封止剤。
【請求項12】
請求項11に記載の封止剤を含有する発光素子。
【請求項13】
請求項9または10に記載の重合体を用いて得られる薄膜。
【請求項14】
請求項13に記載の薄膜からなる絶縁膜。
【請求項15】
請求項13に記載の薄膜からなる保護膜。
【請求項16】
請求項13に記載の薄膜からなる液晶配向膜。
【請求項17】
請求項13に記載の薄膜からなる平坦化膜。
【請求項18】
請求項13に記載の薄膜からなる光導波路材料。
【請求項19】
請求項14に記載の絶縁膜を含有する電気的固体装置。
【請求項20】
請求項15に記載の保護膜を含有する電気的固体装置。
【請求項21】
請求項16に記載の液晶配向膜を含有する液晶表示素子。
【請求項22】
請求項17に記載の平坦化膜を含有する液晶表示素子。
【請求項23】
請求項18に記載の光導波路材料を含有する光導波路。


【公開番号】特開2007−302635(P2007−302635A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134628(P2006−134628)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】