説明

プラズマ処理装置

【課題】エッチング加工形状のウエハ面内における均一性が良好で、極微細加工、あるいは多層膜エッチングに好適なプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】内部を減圧可能な減圧処理室8と、該減圧処理室内に処理ガスを供給するガス供給手段9と、前記減圧処理室内にマイクロ波を供給してプラズマを生成するマイクロ波供給手段1と、前記減圧処理室内に被処理材である試料を載置して保持する試料載置電極11と、前記減圧処理室に接続され該減圧処理室内のガスを排気する真空排気手段14を備え、前記減圧処理室、ガス供給手段の処理室へのガス供給部、マイクロ波供給手段の処理室へのマイクロ波導入部、試料載置電極、および真空排気手段を前記減圧処理室の中心軸に対して同軸上に配置し、前記マイクロ波導入部は、入力されたマイクロ波の偏波面を回転させて前記処理室に供給するマイクロ波回転発生器22を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に係り、特に、ウエハ処理の面内均一性を向上することのできるプラズマ処置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エッチング用有磁場マイクロ波プラズマ処理装置は、例えば、マイクロ波を導波管、空洞共振器を介して減圧処理室に導入し、導入したマイクロ波と磁場発生用コイルにより発生された磁場との相互作用により、処理室内にプラズマを生成し、ウエハ等の被処理材をエッチング処理する。
【0003】
通常、マイクロ波の周波数は2.45GHzであり、マイクロ波は円形TE11モ−ドで導波管内を伝播し、処理室内に導入される。この円形TE11モードのマイクロ波の電界分布は、非特許文献1に記載されているように楕円分布である。また、処理室内を真空排気する真空排気手段は、特許文献1に開示されるように、処理室下部設けられた排気ダクトに接続され、該排気ダクトの一側方からのみ排気していた。この場合、処理室上部に配置したシャワープレートにより処理ガスを処理室に均等に導入しても、ウエハ上ではガスの流れに偏りが生じる。
【0004】
上述のように、円形TE11モ−ドのマイクロ波の電界強度は楕円分布であるため、プラズマ分布も楕円分布となる。このため、エッチングレートの分布が楕円分布になることが懸念される。一方、特許文献1には、マイクロ波電界を誘電体板を用いて回転させることにより、処理の均一性を向上させることが開示されている。
【0005】
また、上述した一側方からのみの排気によるウエハ面上における処理ガスの流れの偏りに関しては、特許文献2に、真空排気装置を処理室下部に設け、処理ガスを均等に排気することによりウエハ面上における処理ガスの流れの偏りを改善することが開示されている。なお、この例では、円形導波管を介してマイクロ波を処理室に導入するのではなく、同軸導波管を介してUHF帯の電波を処理室に導入している。
【0006】
図9は、従来のプラズマ処理装置の縦断面図である。図9に示すように、マグネトロン1より発振された周波数2.45GHzのマイクロ波は、図示しないアイソレータ、パワーモニタ、および整合器3を介して矩形導波管2内を矩形TE10モードで伝播する。このマイクロ波は、さらに円矩形変換器21を介して、円形導波管41内を円形TE11モードで伝播し、空洞共振器5を通過した後、石英板6、石英製シャワープレート7を介して、処理室8に導入される。
【0007】
エッチング用の処理ガスは、図示しないマスフローコントローラを介してガス配管9を通り、石英板6と石英製シャワープレート7の間を通過して、石英製シャワープレート7のガス孔より処理室8に導入される。処理室8に導入された処理ガスは、排気速度可変バルブ10により処理室8内の圧力が調整されるとともに、前記マイクロ波と磁場との相互作用により解離されてプラズマが生成される。処理室内の処理ガスは、ウエハ載置電極11の側方に配置された排気ダクト12、開閉バルブ13、および排気速度可変バルブ10を通して真空排気装置14により排気される。
【特許文献1】特公昭62−53920号
【特許文献2】特開2005−101598号
【非特許文献1】マイクロ波工学(中島将光著、森本出版、1975年、P67)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エッチング反応は、被処理材であるウエハなどにラジカル、イオン等を入射することより進行する。このため、エッチングレートは、プロセス条件にしたがって、例えばラジカル量に律速され、イオン量に律速され、あるいはイオンエネルギーに律速される。ラジカル量分布、イオン量分布等がエッチングレートの分布に与える影響度は一定ではないため、円形TE11モードのマイクロ波と一側方のみから排気する排気ダクトを用いた場合に、必ず、エッチングの均一性が悪くなり、エッチングレートの軸対称性が得られないわけではない。また、マイクロ波電界を回転させることあるいはガスの流れを均等にすることによりえられるエッチングレートの均一性改善あるいは軸対称性改善効果は明確に解明されているわけではなかった。
【0009】
近年では、半導体デバイスの集積度が向上し、微細加工すなわち加工精度の向上が要求されるとともに、エッチングレートの均一性あるいは加工寸法におけるCD値(Critical Dimension)のウエハ面内均一性等の向上の要求が厳しくなった。
【0010】
また、被エッチング材料も単層膜から多層膜に変化し、各膜毎あるいは膜の処理中にエッチング条件を変化させる多段ステップエッチングが多用されるようになった。この場合、エッチングの均一性等に影響を与える要因は各ステップ毎に異なるため、各多層膜のエッチングの完了時点でエッチング均一性、軸対称性を得ることは難しい。
【0011】
前述のように特許文献1には、マイクロ波電界の回転について開示されている。しかし、回転のためのモード変換器に使用する誘電体を導波管に設置するための構成については何らの開示もなされていない。特許文献1の場合のように、複数のマイクロ波モードが存在する状況では、マイクロ波回転用の誘電体を単に設置するのみではマイクロ波回転の効果は十分には得られない。
【0012】
誘電体を用いたマイクロ波回転の原理は、マイクロ波回路(末武、林著、オ−ム社、昭41年、P217)に開示されるように、導波管の軸に垂直な断面において、誘電体板に対して垂直方向および水平方向成分を有するマイクロ波が導入した場合における各成分の位相差に、マイクロ波の回転効率が関係することによる。一般に同一の断面サイズの導波管内では、マイクロ波モ−ドが異なる場合にはマイクロ波の波長も異なる。このため複数のマイクロ波モ−ドの存在下では、モード毎に誘電体板通過後の位相差が異なるため、マイクロ波回転の効率が最も良くなるような設計は難しい。
【0013】
このように、ウエハ面上の処理ガスの流れが排気ダクト12側に偏り、また円形TE11モードのマイクロ波の電界分布が偏る場合には、エッチングレート分布あるいは得られるCD値の分布が軸対称ではなくなり、極微細加工あるいは多層膜エッチングのプロセス条件において、処理の均一性が劣化する。
【0014】
本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたもので、エッチング加工形状のウエハ面内における均一性が良好で、極微細加工に好適なプラズマ処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0016】
内部を減圧可能な減圧処理室と、該減圧処理室内に処理ガスを供給するガス供給手段と、前記減圧処理室内にマイクロ波を供給してプラズマを生成するマイクロ波供給手段と、前記減圧処理室内に被処理材である試料を載置して保持する試料載置電極と、前記減圧処理室に接続され該減圧処理室内のガスを排気する真空排気手段を備え、前記減圧処理室、ガス供給手段の処理室へのガス供給部、マイクロ波供給手段の処理室へのマイクロ波導入部、試料載置電極、および真空排気手段を前記減圧処理室の中心軸に対して同軸上に配置し、前記マイクロ波導入部は、入力されたマイクロ波の偏波面を回転させて前記処理室に供給するマイクロ波回転発生器を備えた。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以上の構成を備えるため、エッチング加工形状のウエハ面内における均一性が良好で、極微細加工に好適なプラズマ処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、最良の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は、第1の実施形態にかかるプラズマ処置装置(空洞共振器方式の有磁場マイクロ波ドライエッチング装置)を説明する図である。図1に示すように、減圧処理室8は、真空容器16、放電管17、および石英板6を備える。処理室8の内部は、排気用開閉バルブ13を開とし真空排気装置14を駆動して減圧する。
【0019】
エッチングガス等の処理ガスは、図示しないマスフローコントロ−ラ、ガス配管9、石英板6と石英シャワープレート7の間の空隙を通過して、石英シャワープレート7のガス孔より処理室8に導入される。処理室8に導入されたエッチングガスは、真空排気装置14による排気の速度を調整する排気速度可変バルブ10を介して排気され、該排気速度可変バルブ10により処理室8内の圧力を所望の圧力に調整する。
【0020】
処理室8は、コイル18、19およびヨーク20により生成される磁場領域内にある。マグネトロン1から発振された、例えば周波数2.45GHzのマイクロ波は、図示しないアイソレータ、パワーモニタ、整合器3を経由して矩形導波管2内を矩形TE10モードで伝播し、円矩形変換器21を経由して、円形導波管4内を円形TE11モードで伝播する。その後、マイクロ波はマイクロ波回転装置22、円形導波管23を経由して、空洞共振器5に導入され、さらに石英板6、石英製シャワープレート7を経由して処理室8内に導入される。
【0021】
なお、前記マイクロ波回転装置22の入口側および出口側に配置する円形導波管4および23は、TE11モードのみを伝播するサイズの円形導波管を使用する。
【0022】
処理室8内には、導入される2.45GHzのマイクロ波と電子サイクロトロン共鳴を生じる磁束密度875ガウスの磁場領域が、処理室8の中心軸およびマイクロ波の導入方向に対し垂直に、すなわち処理室8の中心軸に対する断面方向に対し、全面に形成されている。この2.45GHzのマイクロ波と875ガウスの磁場との相互作用により、処理ガスは解離されてプラズマを生成し、生成されたプラズマより、ウエハ載置用電極11に配置されたウエハ15にエッチングを施す。
【0023】
また、ウエハ15のエッチング形状を制御するため、ウエハ載置用電極15には、図示しない整合器を介して高周波電源23が接続され、該電源により高周波電圧が印加される。また、ウエハ載置用電極15には、図示しないチラーユニットが接続され、ウエハ載置電極に温度調整された冷媒を供給してウエハ15の温度を制御する。
【0024】
なお、処理室8、ウエハ15、ウエハ載置電極15は同軸に配置される。また、エッチングガスを導入する石英製シャワープレート7のガス孔領域、真空排気部である排気バルブ13、排気速度可変バルブ10、真空排気装置14も処理室8に対し同軸に配置されている。このため、ウエハ15上でのガス流れは軸対称である。磁場を生成するコイル18、19、ヨーク20も処理室8に対し同軸で配置されているため、処理室8内の磁場プロファイルである875ガウスの電子サイクロトロン共鳴領域は処理室8に対し同軸に形成される。また、円形導波管4,23、空洞共振器5も処理室8に対し同軸に配置されているため、処理室8に導入されるマイクロ波も処理室8に対し同軸に導入される。
【0025】
このように、ガス供給手段の処理室へのガス供給部、マイクロ波供給手段の処理室へのマイクロ波導入部、試料載置電極、および真空排気手段を前記減圧処理室の中心軸に対して同軸上に配置する。さらに磁場が処理室8に対し同軸に生成され、マイクロ波も処理室8に対し同軸に導入されるため、磁場とマイクロ波との相互作用によって形成されるプラズマも処理室8に対し同軸に生成され、プラズマ中の電子およびイオンは、ウエハ15に対し同軸に輸送される。またエッチングガスの流れも処理室8に対し同軸であるため、プラズマにより生成されたラジカルおよびウエハ15からのエッチングによる反応生成物もウエハ15に対し同軸に導入、排気される。
【0026】
従って、エッチングレート、エッチング形状等のウエハ面内均一性は、図9に示す従来方式と比較して、軸対称に近づき、その結果、ウエハ処理の面内均一性がより向上する。 図9に示す従来方式のプラズマ処理装置では、円形導波管4を介して供給されたTE11モードのマイクロ波を空洞共振器5を経由して処理室1に導入している。これに対して本実施形態のプラズマ処置装置では、円形導波管4を介して供給されたTE11モードのマイクロ波をマイクロ波回転発生器22に導入し、導入されたTE11モードのマイクロ波を回転させた後、円形導波管23、空洞共振器5を経由して処理室1に導入している。
【0027】
空洞共振器5は、マイクロ波電界分布を径方向に拡大し、マイクロ波電界分布を安定化させる効果がある。これはプラズマ処理の均一性向上、プラズマの安定性向上に効果がある。
【0028】
前述のようにTE11モードのマイクロ波電界は、楕円分布であるが、TE11モードのマイクロ波を時間的に回転させることにより、マイクロ波電界分布は軸対称分布となる。軸対称分布を有するマイクロ波を処理室8に導入することにより、生成されるプラズマの分布も軸対称分布となり、更にウエハ面内処理の均一性が向上するという効果がある。 マイクロ波のモードには、円形TM01モード等の同軸の電界分布を有するモードがある。しかし本実施形態で利用する円形TE11モードは基本モード(dominant mode)であり、最も安定したモードである。従って円形TE11モードのマイクロ波を利用することにより最も安定にプラズマを生成できる。さらに、円形TE11モードのマイクロ波を回転させることにより安定かつ均一にプラズマを生成することができる。このため、ウエハ15を高均一かつ安定したエッチング処理を施すことができる。
【0029】
なお、処理室と同軸にガスを流すことによる効果あるいはマイクロ波を回転させることによる効果は、エッチング加工の微細化、加工寸法の高精度化、多層膜エッチング等が要求されることにより初めて顕在化した効果である。なお、本実施形態によるプラズマ処理装置は、塩素系ガス、HBr系ガス、フロン系ガス、希ガス、窒素ガス、酸素ガス等およびこれらの混合ガスを用いたエッチングプロセスに適用可能であり、適用可能な被エッチング材料としては、BARC等の有機系材料、SiO2、SiON、SiN、Low−k、High−k等の絶縁膜材料、αC(アモルファスカーボン)、poly−Si、Si基板やメタル材料等を上げることができる。
【0030】
処理室と同軸にガスを流すことおよびマイクロ波電界分布を回転させることの、ウエハ面内均一性向上に対する効果への感度は、エッチングプロセスのガス系、被エッチング材料および要求される加工精度、均一性により異なる。
【0031】
例えば、ウエハ面内均一性が±10%以上では、同軸にガスを流す効果もマイクロ波を回転させる効果も、比較対象となる元々のウエハ面内均一性が良くないため、改善効果を示すことが難しい。
【0032】
しかし、図9に示すような一方側のみに排気ダクト12を有する従来装置の場合、ウエハ面内均一性が±10%以下のプロセス条件では、ウエハ面内分布が排気ダクト方向に偏芯している。このため、図1に示すように同軸にガスを流す構造とすることにより、ウエハ面内分布の偏芯は改善され、ウエハ面内均一性が向上する。
【0033】
このように、同軸にガスを流すことによりウエハ面内分布の偏芯は改善される。しかし、図1に示すように円形TE11モードのマイクロ波をそのまま処理室8に導入する場合、導入するマイクロ波電界が楕円分布であることの影響を受け、ウエハ面内分布が楕円分布を示すことがある。このような場合には、図1に示すようにマイクロ波電界を回転させて処理室8に導入することにより、多層膜エッチングを含む多種多様のプロセスにおいて、ウエハ面内分布が軸対称とすることができる。これにより、エッチング特性のウエハ面内均一性が向上する。特に多層膜エッチング工程において、CD値の高精度の均一性が要求される45nmノード以降のゲートエッチングにおいて有効である。
【0034】
次に、マイクロ波電界分布の回転について、図2、図3および図4を用いて説明する。図2は、マイクロ波回転発生器22の縦断面を示す図であり、図3は、図2のA−B断面を示す図である。
【0035】
マイクロ波回転発生器22は、誘電体板24と導電体で構成された誘電体板ガイド25を備える。図2の例では、誘電体板24は石英板(比誘電率3.8)で構成し、誘電体板ガイド25はアルミニウムで構成した。マイクロ波はマグネトロン1で発振され、矩形導波管2内を矩形TE10モードで伝播した後、円矩形変換器21で円形TE11モードに変換される。円形導波管内でのマイクロ波の電界26の主振動方向は、図3に示すように、矩形導波管2内におけるマイクロ波伝播方向と同じであり、時間的に変化しない(直線偏波)。ここでマイクロ波電界の主振動方向に対し、右45度に誘電体板24を設置する。直線偏波のマイクロ波電界26は、誘電体板24に平行な電界27と垂直な電界28の合成と見なすことができる。誘電体板24に平行な電界27は、その大部分が誘電体板24の中を通過するため、誘電体板24の影響を強く受ける。また誘電体板24は比誘電率が1以上であるため、誘電体板24を通過するマイクロ波の波長は短くなる。一方、誘電体板24に垂直な電界28は、誘電体板24による影響は少なく、誘電体板24を通過するときのマイクロ波の波長は円形導波管内の波長とほぼ同じである。誘電体板24に直線偏波のマイクロ波26が入射すると、つまり誘電体板24に同時に(同位相で)誘電体板24に平行なマイクロ波電界27と垂直なマイクロ波電界28が入射すると、両者の波長が異なるため、誘電体板24通過後では、両者のマイクロ波電界の位相が異なる。
【0036】
すなわち、誘電体板24に平行なマイクロ波電界27の位相が、垂直なマイクロ波電界28の位相よりも遅れる。この位相遅れは、誘電体板24の長さHに比例する。ここで誘電体板24のマイクロ波の伝播方向の長さHを、誘電体板24に平行なマイクロ波電界27と垂直なマイクロ波電界28との位相差が90度となるように設定する。このように設定した場合、誘電体板24に平行なマイクロ波電界27と垂直なマイクロ波電界28の合成されたマイクロ波電界は時間とともに右回りに回転する(円偏波)ことになる。この場合のマイクロ波の回転周波数は、マイクロ波の周波数と同じ2.45GHzの高速回転である。
【0037】
図4は、時間的に合成されたマイクロ波電界の強度分布を示す図であり、図4に示すように軸対称分布となる。
【0038】
ところで、図1において、コイル18,19に供給する電流の向きを、磁力線が処理室8の上部(マイクロ波の導入口方向)から下部(ウエハ載置電極方向)に向かって形成されるように設定して磁場を生成すると、電子は磁力線の周りを右回りに回転する。マイクロ波電界は前述のように右回りに回転しているため、前記電子の回転方向とマイクロ波電界の回転方向が一致する。このため効率よく電子が加速され、プラズマ生成効率が向上する。
【0039】
マイクロ波の回転効率は、誘電体板24に導入される直線偏波のマイクロ波電界26の方向と誘電体板24に平行な方向との角度に関係し、図3に示す右45度が最もマイクロ波回転の効率が良い(但し、これは誘電体24でのマイクロ波の反射が少なく、反射を考慮しない場合であり、考慮した場合には、多少角度を修正する必要がある)。
【0040】
なお、誘電体板24を直線偏波のマイクロ波電界26に対し左方向に傾けて設置すると、誘電体板24通過後の合成されたマイクロ波電界は左回りに回転する。この場合、傾ける角度を−45度とした場合、最も回転効率が良い。しかし、磁力線の方向が処理室8上部から下部に向かって形成される場合には、マイクロ波電界の回転方向と電子の回転方向が逆方向となるため、プラズマ生成効率が良くない。したがって、この場合は、磁力線が処理室8下部(ウエハ載置台方向)から上部(マイクロ波導入口方向)に向かって形成されるように、コイル18,19の電流の向きを設定し、磁場を生成するとよい。
【0041】
図2に示すように、マイクロ波回転発生器22はマイクロ波の導入側と導出側が円形導波管4および23とボルト29で接続されている。マイクロ波回転発生器22を構成する誘電体板ガイド25は、その内周側に誘電体板24を挿入するための溝を軸対称に形成した筒状のガイド部材であり、前記軸対称に配置された溝の底間の距離は、誘電体板ガイド25が接続される円形導波管4、23の内径よりも大きい。このため、前記誘電体板24を誘電体板ガイドの前記溝に挿入するのみで、容易にかつ簡単に誘電体板25を設置することができる。また誘電体板ガイド25と円形導波管4,23間を複数のボルト29で接続しているので、誘電体板25の設置角度を確実に保持しておくことができる。
【0042】
また、円形導波管4および23の内径は、円形TE11モ−ドのマイクロ波のみが伝播できるサイズ、即ち71.8〜93.7mmとした。これにより確実に円形TE11モードのマイクロ波を回転することができる。また誘電体板ガイド25の内径についても、円形TE11モードのマイクロ波のみが伝播できるサイズ、即ち71.8〜93.7mmとした。これにより誘電体板ガイド25を挿入した箇所においても円形TE11モ−ド以外の複数のモ−ドが発生するリスクを低減でき、円形TE11モードのマイクロ波に確実に回転を与えて処理室8に導入できる。
【0043】
図5は、ガス流れを軸対称とし、さらに円形TE11モードのマイクロ波を導入した場合(従来技術)においてpoly−Siをエッチングした際に得られるエッチレ−トのウエハ面内分布を示す図である。なお、エッチングガスは、HBr、Cl2、O2の混合ガスを使用した。
【0044】
一般に、排気ダクトの一方側に配置した真空排気装置によりウエハ15上のガス流れが偏る場合、poly−Siエッチングレ−トのウエハ面内分布が約±10%以下の高均一になると、ガス流れの影響に起因する偏りが確認できるようになる。特に約±5%以下の高均一の場合は、確認し易くなる。これに対し、図5に示すようにガス流れを同軸対称とした場合は、エッチングレ−トは98.9nm、均一性は±4.0%であり、ガス流れに起因する偏りが観察されない。しかしながら、エッチングレ−トのウエハ面内分布は楕円分布であることが分かる。
【0045】
図6は、マイクロ波回転発生器22を用いて、マイクロ波電界分布を回転させた場合の同一プロセス条件におけるpoly−Siエッチングレ−トのウエハ面内分布を示す図である。この例の場合、エッチングレートは99.5nm/minと少し増加し、均一性は±3.0%に改善した。エッチングレートのウエハ面内分布は、軸対称分布に改善したことが分かる。
【0046】
以上、エッチングレート分布の改善について説明したが、エッチング加工寸法(CD値)あるいは加工形状のウエハ面内均一性の改善についても同様であった。すなわち、本実施形態によれば、エッチングレート、加工寸法、加工形状等のエッチング特性のウエハ面内分布を軸対称分布にすることができ、ウエハ面内均一性を向上することができる。
【0047】
なお、図1には図示していないが、ウエハ載置用電極11の電極表面には静電吸着膜が設けられ、ウエハ載置用電極11にはフィルタを介して直流電源が接続されており、ウエハ15はウエハ載置用電極11に静電吸着されている。また、ウエハ載置用電極11からウエハ15裏面に、冷却用のHeガスが導入されている。更に、ウエハ載置用電極11には冷媒が循環する溝部が設けられ、該溝部は図示しないチラーユニットに接続されている。 ウエハ15の温度は前記冷媒の温度を調整することにより制御されている。エッチング反応は化学反応であるため、ウエハ温度は重要である。エッチングレート、エッチング形状等のエッチング特性の温度感度は、エッチングガス、流量、圧力、マイクロ波出力および高周波バイアス出力等のプロセス条件、被エッチング材料、エッチングパタ−ン等により異なるが、例えばpoly−SiエッチングにおけるCD値では、約1nm/℃の温度感度がある。
【0048】
図7は、第2の実施形態にかかる空洞共振器方式の有磁場マイクロ波ドライエッチング装置を説明する図である。この図の例では図7に示すように、ウエハ載置用電極11の内周側および外周側にそれぞれ独立した冷媒溝30aおよび30bを設け、これらの冷媒溝にそれぞれ独立したチラーユニットを介して冷媒を供給する。これにより、ウエハ15面内の温度分布を制御することができる。この場合、冷媒溝30を含む電極構造は、ウエハ15温度分布が軸対称となるように構成する。
【0049】
このように、ウエハ15上のガス流れとマイクロ波電界分布を軸対称とすることにより、CD値等のエッチング特性の分布を軸対称分布とすることができる。またウエハ温度分布も軸対称分布であることを前提として、ウエハの径方向温度分布を制御することができる。この場合、あらかじめ適用プロセス条件、被エッチング材料に応じたCD等のエッチング特性の温度感度を調べておけば、ウエハ15の径方向温度分布を2つのチラーユニット(図示省略)等により制御することにより、CD等のエッチング特性をウエハ面内でより均一となるように改善して、高均一のエッチング特性を得ることができる。
【0050】
図8は、第3の実施形態にかかる空洞共振器方式の有磁場マイクロ波ドライエッチング装置を説明する図である。この図の例では、ウエハ15の温度分布が軸対称分布となるように、ウエハ載置用電極11の内周側および外周側に複数のヒータ31a,31bを埋設し、それぞれのヒータを図示しないヒータ電源に接続する。この場合、ウエハ載置用電極11には、冷媒溝(図示省略)を設け、この冷媒溝にはチラーユニット(図示省略)を接続している。これによりウエハ温度の時間応答性を向上させることができる。
【0051】
多層膜をエッチングする場合、多層膜を構成する各膜に対応してエッチング条件を順次切替えなければならないが、この図の例ではそれぞれのエッチングステップでウエハ15の径方向温度分布や絶対温度を最適化し、CD等のエッチング特性のウエハ15面内均一性を更に容易に改善し、高均一のエッチング特性を得ることができる。
【0052】
以上、有磁場マイクロ波放電を利用したドライエッチング装置を例に説明したが、他のマイクロ波を利用したプラズマ処理装置、例えばプラズマCVD装置、アッシング装置、表面改質装置等についても同様に適用できる。
【0053】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、被処理材であるウエハ15、処理室8、処理室8へのガス導入部、処理室8の真空排気部、処理室8へのマイクロ波導入部を軸対称に配置し、導入するマイクロ波電界を回転する機構を設ける。 また、マイクロ波電界を回転する機構に接続する導波管は円形TE11モードのみを伝播できる断面サイズとし、さらにマイクロ波回転発生器は、矩形状の誘電体板と、該誘電体板を嵌入して保持するための溝をその軸方向に軸対称に形成した円筒状の誘電体板ガイドを備え、該誘電体板ガイドに形成した溝の対角距離(最大距離)は前記マイクロ波回転発生器が接続される円形導波管の内径よりも大としたものである。
【0054】
これにより、エッチング加工形状のウエハ面内における均一性が良好で、極微細加工、あるいは多層膜エッチングに好適なプラズマ処理装置を簡易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】第1の実施形態にかかるプラズマ処置装置を説明する図である。
【図2】マイクロ波回転発生器の縦断面を示す図である。
【図3】図2のA−B断面を示す図である。
【図4】時間的に合成されたマイクロ波電界の強度分布を示す図である。
【図5】従来技術において得られるエッチレ−トのウエハ面内分布を示す図である。
【図6】マイクロ波電界分布を回転させた場合におけるエッチングレ−トのウエハ面内分布を示す図である。
【図7】第2の実施形態にかかるプラズマ処置装置を説明する図である。
【図8】第3の実施形態にかかるプラズマ処置装置を説明する図である。
【図9】従来のプラズマ処理装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 マグネトロン
2 矩形導波管
3 整合器
4 円形導波管
5 空洞共振器
6 石英板
7 石英製シャワープレート
8 処理室
9 ガス配管
10 排気速度可変バルブ
11 ウエハ載置電極
12 排気ダクト
13 開閉バルブ
14 真空排気装置
15 ウエハ
16 容器
17 放電管
18,19 コイル
19 コイル
20 ヨーク
21 円矩形変換器
22 マイクロ波回転発生器
23 円形導波管
24 誘電体板
25 誘電体板ガイド
26 直線偏波のマイクロ波電界
27 誘電体板に平行なマイクロ波電界
28 誘電体板に垂直なマイクロ波電界
29 ボルト
30a,30b 冷媒溝
31a,31b ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を減圧可能な減圧処理室と、
該減圧処理室内に処理ガスを供給するガス供給手段と、
前記減圧処理室内にマイクロ波を供給してプラズマを生成するマイクロ波供給手段と、
前記減圧処理室内に被処理材である試料を載置して保持する試料載置電極と、
前記減圧処理室に接続され該減圧処理室内のガスを排気する真空排気手段を備え、
前記減圧処理室、ガス供給手段の処理室へのガス供給部、マイクロ波供給手段の処理室へのマイクロ波導入部、試料載置電極、および真空排気手段を前記減圧処理室の中心軸に対して同軸上に配置し、
前記マイクロ波導入部は、入力されたマイクロ波の偏波面を回転させて前記処理室に供給するマイクロ波回転発生器を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
内部を減圧可能な減圧処理室と、
該減圧処理室内に処理ガスを供給するガス供給手段と、
前記減圧処理室内にマイクロ波を供給してプラズマを生成するマイクロ波供給手段と、
前記減圧処理室内に被処理材である試料を載置して保持する試料載置電極と、
前記減圧処理室に接続され該減圧処理室内のガスを排気する真空排気手段を備え、
前記減圧処理室、ガス供給手段の処理室へのガス供給部、マイクロ波供給手段の処理室へのマイクロ波導入部、試料載置電極、および真空排気手段を前記減圧処理室の中心軸に対して同軸上に配置し、
前記マイクロ波導入部は、直線偏波のマイクロ波を円偏波のマイクロ波に変換するマイクロ波回転発生器を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、
前記試料載置電極は、冷媒を通流させるための冷媒溝を前記中心軸に対して同心状に配置したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、
前記試料載置電極は、前記試料を加熱するためのヒータを前記中心軸に対して同心状に配置したことを特徴とするプラズマ処理装置
【請求項5】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、
マイクロ波回転発生器に接続する導波管は円形TE11モードのみを伝播可能な断面寸法を有することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項6】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、
前記マイクロ波回転発生器は、矩形状の誘電体板と、該誘電体板を嵌入して保持するための溝を導波管の軸方向に軸対称に形成した円筒状の誘電体板ガイドを備え、該誘電体板ガイドに形成した溝の対角距離は前記マイクロ波回転発生器が接続される円形導波管の内径よりも大であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項7】
請求項5記載のプラズマ処理装置において、
前記誘電体板ガイドは円形TE11モードのみを伝播可能な断面寸法を有することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項8】
内部を減圧可能な減圧処理室と、
該減圧処理室内に処理ガスを供給するガス供給手段と、
前記減圧処理室内にマイクロ波を供給してプラズマを生成するマイクロ波供給手段と、
前記減圧処理室内に被処理材である試料を載置して保持する試料載置電極と、
前記減圧処理室に接続され該減圧処理室内のガスを排気する真空排気手段を備え、
前記減圧処理室、ガス供給手段の処理室へのガス供給部、マイクロ波供給手段の処理室へのマイクロ波導入部、試料載置電極、および真空排気手段を前記減圧処理室の中心軸に対して同軸に配置し、
前記マイクロ波導入部は、直線偏波のマイクロ波を円偏波のマイクロ波に変換するマイクロ波回転発生器、および円偏波に変換されたマイクロ波の電界分布を径方向に拡大する空洞共振器を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項9】
請求項8記載のプラズマ処理装置において、
前記マイクロ波回転発生器は、矩形状の誘電体板と、該誘電体板を嵌入して保持するための溝をその軸方向に軸対称に形成した円筒状の誘電体板ガイドを備え、該誘電体板ガイドに形成した溝の底間の距離は前記マイクロ波回転発生器が接続される円形導波管の内径よりも大であることを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−50046(P2010−50046A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215634(P2008−215634)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】