説明

制動制御システム

【課題】 自動車におけるブレーキなどの制動装置を制御し、車速を目標速度以下に維持しつつ坂路を降板する際に快適性を維持する。
【解決手段】 制動制御システム1000において、CPU110は、坂路の登坂が開始されると、傾斜角計500によって検出される傾斜角を、登坂開始位置を基点とする位置に対応付けた傾斜角データとしてRAM130に記憶する。坂路の頂上ではトリガ位置が決定され、CPU110は、RAM130に記憶される傾斜角データに基づいて、このトリガ位置を基点とし、登坂開始位置を終点とする目標速度設定対象区間について、降坂時の目標速度を設定する。坂路降坂時には、このトリガ位置が検出されることにより速度維持モードが実行され、車両10の車速が予め設定された目標速度を超えないようにブレーキアクチュエータ200が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ダウンヒルアシストコントロール等、車両の速度を目標速度以下に維持するための制動制御システムの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、運転者が起動スイッチを入れて斜面下降モードを選択することによって動作するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された車輪自動車(以下、「従来の技術」と称する)によれば、斜面下降モードにおいて、検出される車速が閾値を超えた場合には、超えた値に応じて変化する率で制動力を増し、車速を減じることによって車速が閾値に維持されるとされている。また、この閾値を斜面の勾配に応じて設定しておき、斜面下降時に検出される傾斜角に応じて閾値を設定することも可能であるとされている。
【0003】
尚、車速を維持する際に、エンジンブレーキ、補助ブレーキ、シフトダウンの順に制動力を自動的に制御して所定の速度に近づける技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、車速を一定値に保持し、アクセル操作がない場合には車速を更に低い車速に維持する技術も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特表平10―507145号公報
【特許文献2】特開平9−207613号公報
【特許文献3】特開2004−9751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両が走行する路面の勾配は一定ではない。例えば、比較的緩やかな勾配から比較的急峻な勾配へと路面の状態が突然変化することも十分に有り得る。従来の技術では、斜面の勾配に応じて車速の閾値を設定しておくことが可能であるが、勾配の変化量が大である場合には、勾配に応じた車速の設定が車両の加速に追随できずに急激な制動が行われ、乗員に不快感を与えることがある。そのような事態を回避する目的から、車速の閾値を勾配とは無関係な固定値とすると、乗員に極めて大きな違和感を与え易い。即ち、従来の技術には、車速を維持する際に快適性が損なわれ易いという技術的な問題点がある。
【0007】
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、快適性を損なわずに車速を維持し得る制動制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明に係る制動制御システムは、車両を制動する制動手段と、前記車両が走行する坂路の傾斜角を検出する傾斜角検出手段と、前記検出された傾斜角を前記坂路上の位置に対応付けて記憶する記憶手段と、前記記憶された傾斜角に基づいて、前記車両が前記坂路を降坂する際の目標速度を予め設定する目標速度設定手段と、前記車両が前記坂路を降坂する際に前記車両の速度が前記予め設定された目標速度以下となるように前記制動手段を制御する制御手段とを具備することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る「制動手段」とは、車両を制動するための手段であり、例えば、ブレーキ或いはブレーキシステムと称される機構を含む概念である。この場合、例えば、ドラム方式又はディスク方式など液圧(例えば、油圧)制御方式を採用することも可能であり、これらを更にアンチロックブレーキシステムなど車輪のロックを防止するための制御系と組み合わせて使用することも可能である。また、本発明に係る制動手段は、放熱効果を高めるための機械的構造を有していてもよい。
【0010】
本発明に係る制動制御システムによれば、その動作時には、傾斜角検出手段によって坂路の傾斜角が検出される。
【0011】
本発明における「坂路」とは、車両が走行可能な、少なくとも一部が傾斜している道を指す概念である。また、本発明における傾斜角検出手段は、坂路の傾斜角を検出することが可能である限りにおいて如何なる態様を有していてもよいが、例えば、傾斜角計或いは傾斜角センサなど公知の技術が適用されることによって比較的容易に実現される。また、傾斜角検出手段が検出する坂路の傾斜角の精度は、本発明に係る効果が担保される限りにおいて特に限定されない。
【0012】
本発明に係る制動制御システムによれば、制御手段によって、例えば、車両が係る坂路を降坂する場合などに、車両の速度(以降、適宜「車速」と称する)を目標速度以下に維持するための制御(以降、適宜「速度維持制御」と称する)が行われる。
【0013】
速度維持制御は、例えば、運転者によって速度維持制御を実行する旨を指示する入力がなされた場合などに実行され、制御手段は、制動手段の制動力を制御して車速を目標速度以下に維持する。車速維持制御が行われる場合、例えば、車速センサ或いは車輪速センサなどによって、車速が目標速度を超えたことが検出され、車速が係る目標速度を超えないように制動手段の制動力が増加制御される。従って、「目標速度以下となるように」制動手段が制御された結果、車速は理想的には目標速度に維持される。但し、目標速度以下に維持される限りにおいて、車速は必ずしも目標速度に維持されずともよい。尚、このような制動力の制御は、車速を維持し得る限りにおいてどのような態様を有していてもよいが、例えば、制動手段に、液圧(例えば、油圧)によって制動力を制御させる方式が採用されている場合には、係る液圧の制御であってもよい。また、この場合、液圧を制御する態様は何ら限定されない。
【0014】
坂路降坂時の目標速度は、坂路の傾斜角に対して一定の車速であってもよいが、このように一定の車速であると運転者に違和感を与える可能性もあるため、目標速度設定手段によって坂路の傾斜角に応じて設定される。尚、「傾斜角に応じて」とは、何らかの対応関係がある限りにおいてどのような対応関係であるかは限定されない趣旨である。例えば、傾斜角が比較的に大きければ(即ち、勾配が急であれば)比較的に低い車速となるように、また、傾斜角が比較的に小さければ(即ち、勾配が緩やかであれば)比較的に高い車速となるように目標速度が設定される。尚、傾斜角と目標速度との対応関係は、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどに基づいて好適に定められていてもよい。
【0015】
ここで特に、車両が坂路を降坂する過程で傾斜角が検出され、目標速度が設定される場合、既に述べたように、坂路の傾斜角によっては、例えば傾斜角を検出して目標速度を設定し、現在の車速を検出して制動手段に必要な制動力を出力させるといった一連の処理が車両の急激な加速に追随できず、急激に車両が制動される事態が生じかねない。或いは、急激な制動を回避するために緩やかな減速を行っては車両の速度を目標速度に維持するという本来の意味が阻害されかねない。そこで、本発明に係る制動制御システムは、以下に説明するが如く、目標速度設定手段が、坂路を降坂する際の目標速度を予め設定しておくことによって係る問題を解決している。
【0016】
本発明に係る制動制御システムによれば、その動作時には、検出された傾斜角が坂路上の位置に対応付けられて記憶手段に記憶される。
【0017】
本発明に係る「記憶手段」とは、検出された傾斜角を一時的(揮発的)或いは長期的(不揮発的)の別によらず記憶することが可能な手段を指し、前者の場合、例えばバッファメモリやRAM(Random Access Memory)などであってもよいし、後者の場合、例えば、HD(Hard Disk)などの磁気記録媒体又はDVDなどの光情報記録媒体及びそれらに対応するドライブ装置などであってもよい。尚、傾斜角は、傾斜角検出手段の態様に応じて、傾斜角と対応関係を有する物理的又は電気的な信号として検出されており、記憶手段に記憶される際には、これら記憶手段の態様に応じて、これら信号そのもの或いはこれら信号と対応関係にある傾斜角を表すデータとして記憶される。
【0018】
ここで、「坂路上の位置」とは、検出された傾斜角と対応する坂路上の位置を規定し得る限りにおいて、どのように表されていてもよい。例えば、車両にGPS(Global Positioning System)のような、例えば緯度、経度及び高度で表される車両の絶対位置を検出可能な測位システムが搭載される場合には、係る絶対位置であってもよい。また、車速と時間から演算される走行距離に基づいて規定される坂路上の相対的な位置であってもよい。この場合、より具体的には、坂路上で任意に、或いは何らかの条件に基づいて設定される記憶開始位置からの距離によって表される相対距離であってもよい。或いは、坂路上の位置とは、一定の速度で走行中に一定のタイミングで傾斜角が検出されている場合には、単に時系列的な順序であってもよい。
【0019】
尚、傾斜角と対応付けられる位置は、このような傾斜角情報が生成されない場合と比較して坂路の傾斜状況が幾らかなりとも明確となる限りにおいて、坂路上の離散的な位置であってもよいし、連続的な位置であってもよい。連続的な位置に対応付けられる場合には、例えば、係る坂路の断面視的な形状を表す視覚的な情報を伴って傾斜角が記憶されてもよい。
【0020】
目標速度設定手段は、車両が坂路を降坂する際の目標速度を、この坂路上の位置に対応付けられた傾斜角に基づいて予め設定することが可能に構成されている。ここで、「予め設定する」とは、過去に傾斜角が検出されている坂路上の位置に車両が突入する以前に、係る位置における目標速度が設定される限りにおいて、必ずしも坂路の降坂を開始する以前に目標速度の設定が全て終了していなくともよい趣旨である。即ち、坂路を降坂している期間中に目標速度が設定されてもよい。
【0021】
このように、本発明に係る制動制御システムによれば、坂路を降坂する際の目標速度が傾斜角に応じて設定されているため、運転者に不快感を与えない。更に、目標速度は記憶される傾斜角に基づいて予め設定されているため、車両が速度維持制御を行いつつ坂路を降坂する場合に急激な制動が生じない。即ち、快適性を損なうことなく速度維持制御を実行することが可能となるのである。
【0022】
尚、目標速度を設定する対象区間(速度維持制御が所望される区間)は、坂路上で傾斜角が記憶されている区間の全てでなくてよい。例えば、係る対象区間を運転者自身が設定できるようにシステムが構成されていてもよいし、検出される傾斜角などに応じて自動的に係る対象区間が設定されてもよい。
【0023】
尚、傾斜角の記憶は、坂路を登坂する際に行われても、速度維持制御を行わずに降坂する際に行われてもよい。但し、坂路を登坂している時に傾斜角を記憶し、頂上付近で旋回して再び同じ坂路を降坂する場合には、比較的正確に目標速度を設定することが可能である。この場合、傾斜角に対応付けられた坂路上の位置が、測位システムなどによる絶対位置ではなく、記憶の開始位置から時系列的に処理される位置である場合には、坂路降坂時の目標速度は、時間軸を遡る形で、対象区間で時系列的に最も新しい位置が速度維持制御の開始位置となり、時系列的に最も古い位置が速度維持制御の終了位置となるように目標速度が設定されてもよい。
【0024】
本発明に係る制動制御システムの一の態様では、前記坂路上で前記制動手段を制御する際の基点となるトリガ位置を予め決定するトリガ位置決定手段と、前記坂路を降板する際に前記トリガ位置を検出するトリガ位置検出手段とを更に具備し、前記目標速度設定手段は、前記トリガ位置を基点として前記目標速度を設定し、前記制御手段は、前記トリガ位置が検出された場合に前記制御手段を制御する。
【0025】
この態様によれば、トリガ位置決定手段によって、坂路上でトリガ位置が決定される。
【0026】
ここで、本発明に係る「トリガ位置」とは、坂路を降坂する際に制御手段が制動手段を制御する基点となる位置であり、言い換えれば、坂路降坂時における目標速度の設定対象区間の基点である。例えば、典型的なトリガ位置とは、坂路の頂上に相当する位置である。但し、坂路の途中で所謂「踊り場」と称されるような一時的な平坦路が存在する場合に鑑みて、坂路の頂上であるか否か、即ち坂路が終了したか否かの判別は、係る頂上位置をある程度通過した後になされてもよい。この場合、時間軸を遡る形で坂路の頂上位置がトリガ位置として決定されてもよい。また、必ずしも坂路の頂上がトリガ位置として決定されなくともよい。また、トリガ位置を運転者自身が決定できるようにシステムが構成されていてもよい。
【0027】
この決定されたトリガ位置は、坂路を降坂するにあたって、トリガ位置検出手段によって検出される。ここで、トリガ位置を検出する態様は、坂路登坂終了時点よりも未来に係る坂路を降坂する際、予め決定されたトリガ位置を検出可能な限りにおいて自由であるが、トリガ位置は、例えば、トリガ位置における傾斜角の絶対値、又はトリガ位置を含みトリガ位置と相前後する適当な範囲の傾斜角推移などに基づいて検出されてもよい。また、例えば、前述した如き測位システムが備わる場合には、トリガ位置の絶対位置を表す情報に基づいてトリガ位置が検出されてもよい。
【0028】
この態様によれば、トリガ位置が検出された場合に制御手段が制動手段を制御する、即ち速度維持制御を行うため、速度維持制御を効率的に実行することが可能となる。
【0029】
トリガ位置を基点として目標速度が設定される本発明に係る制動制御システムの一の態様では、前記トリガ位置決定手段は、前記トリガ位置を決定する旨の入力が行われた場合に、該入力に対応する前記坂路上の位置を前記トリガ位置として決定する。
【0030】
この態様によれば、トリガ位置は、トリガ位置を決定する旨の入力が行われた場合に、当該入力に対応する位置として決定されるので、トリガ位置を適切に決定することが可能となる。
【0031】
例えば、係る「入力」とは、例えば、ボタン、レバー、ダイアル又はスイッチなどの物理的或いは機械的な入力手段を介して運転者などによって人為的に行われる入力を含んで規定される概念である。運転者自身によってトリガ位置が決定される場合には、運転者自身の嗜好を反映することができるため、快適性を向上させ得る。
【0032】
尚、係る入力とは、このような運転者による操作或いは外部操作により入力されることのみならず、何らかの条件が成立する場合などに、他のコントローラや装置から入力されることをも含む。即ち、運転者による外部操作が行われることなく、入力が行われてもよい。この場合、トリガ位置決定のための条件は、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによって適切に定められていてもよいし、運転者が所望の条件を入力可能に構成されていてもよい。
【0033】
トリガ位置を基点として目標速度が設定される本発明に係る制動制御システムの他の態様では、前記トリガ位置決定手段は、前記坂路の傾斜角に基づいて前記トリガ位置を決定する。
【0034】
この態様によれば、坂路の傾斜角に基づいてトリガ位置が決定されるので、効率的である。ここで、「坂路の傾斜角に基づいて」決定されるトリガ位置とは、例えば、坂路登坂時に検出される傾斜角の絶対値が所定値未満(所定値以下)となった位置であってもよいし、傾斜角の変化量が所定値以上と(所定値より大きく)なった位置であってもよい。また、坂路が複雑な形状を有する場合に備え、予めトリガ位置を決定するためのアルゴリズムが与えられていてもよい。このようなアルゴリズムとは、例えば、坂路が始まった位置の傾斜角、傾斜角の推移、及び現在の傾斜角などの各パラメータを、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによって与えられた基準と比較するようなアルゴリズムであってもよい。
【0035】
トリガ位置を基点として目標速度が設定される本発明に係る制動制御システムの他の態様では、前記トリガ位置検出手段は、前記トリガ位置を検出した旨の入力が行われた場合に、該入力に対応する前記坂路上の位置を前記トリガ位置として検出する。
【0036】
この態様によれば、トリガ位置は、トリガ位置を検出した旨の入力が行われた場合に、当該入力に対応する位置として検出される。
【0037】
例えば、係る「入力」とは、例えば、ボタン、レバー、ダイアル又はスイッチなどの物理的或いは機械的な入力手段を介して運転者などによって人為的に行われる入力を含んで規定される概念である。例えば、運転者自身がトリガ位置を記憶しているならば、運転者自身が、目前に広がる風景や目印などによって比較的正確にトリガ位置を検出することができる。また、このようにトリガ位置がマニュアル操作的に検出可能である場合、トリガ位置を自動的に検出できない場合の予備手段としても有効である。
【0038】
尚、係る入力とは、このような運転者による操作或いは外部操作により入力されることのみならず、何らかの条件が成立する場合などに、他のコントローラや装置から入力されることをも含む。即ち、運転者による外部操作が行われることなく、入力が行われてもよい。この場合、トリガ位置検出のための条件は、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによって適切に定められていてもよいし、運転者が所望の条件を入力可能に構成されていてもよい。
【0039】
トリガ位置を基点として目標速度が設定される本発明に係る制動制御システムの他の態様では、前記トリガ位置検出手段は、前記検出される傾斜角に基づいて前記トリガ位置を検出する。
【0040】
この態様によれば、坂路の傾斜角に基づいてトリガ位置が検出されるので、効率的である。ここで、「坂路の傾斜角に基づいて」検出されるトリガ位置とは、例えば、トリガ位置における傾斜角と傾斜角の絶対値が等しい位置であってもよいし、トリガ位置を含みトリガ位置と相前後する適当な範囲と、傾斜角の推移が一致する範囲が検出された場合には、係る範囲におけるトリガ位置に相当する位置であってもよい。また、坂路が複雑な形状を有する場合に備え、予めトリガ位置を検出するためのアルゴリズムが与えられていてもよい。
【0041】
本発明に係る制動制御システムの他の態様では、前記目標速度設定手段は、前記目標速度の基準となる値が前記坂路の傾斜角に応じて予め定められてなるマップに基づいて前記目標速度を設定する。
【0042】
ここで、本態様における「マップ」とは、目標速度の基準となる値(以降、適宜「基準値」と称する)が傾斜角に応じて定められている限りにおいて、如何なる形式を有していてもよいが、例えば、傾斜角及び基準値を夫々横軸及び縦軸に配してなる2次元的なマップであってもよい。この場合、目標速度の基準値は、予め係るマップ上で規定されるプロファイル(特性曲線)として与えられていてもよい。或いは、マップとは、傾斜角及び基準値が一対一に対応付けられたマトリクスとして与えられていてもよい。
【0043】
尚、「目標速度の基準値」とは、車両の運転状況或いは運転者の嗜好に応じて、傾斜角に対応する目標速度が変更されてもよいことを表す概念であり、何らの変更がなされない場合には、単に目標速度と等価な概念である。係る目標速度の基準値は、例えば、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによって、比較的多数の運転者を満足させ得る値として設定されていてもよい。
【0044】
この態様によれば、目標速度設定手段が係るマップに基づいて目標速度を設定するので、目標速度設定に関する処理負荷が軽減され、速度維持制御が一層快適に実行される。
【0045】
尚、この態様においては、前記車両が前記設定された目標速度で前記坂路を降坂している期間においてアクセルペダル及びブレーキペダルのうち少なくとも一方の操作によって前記車両の速度が変更された場合に、前記変更された速度に応じて前記マップにおける前記基準となる値を更新するマップ更新手段を更に具備していてもよい。
【0046】
速度に対する感性は、運転者に夫々固有のものである。例えば、ある傾斜角を有する坂路を目標速度の基準値で降坂している際に、係る基準値を「速い」と感じる運転者も、「遅い」と感じる運転者も当然ながら存在する。このような事情に鑑みると、目標速度が基準値のまま固定されていると不都合が生じることがある。
【0047】
そこで、アクセルペダル及びブレーキペダルのうち少なくとも一方の操作によって坂路降坂中の車速が変更された場合に、変更された後の速度をマップの基準値に反映させて更新することによって、運転者の感性にフィットした速度維持制御を実行することが可能となる。尚、基準値が更新される場合に、運転者固有の目標速度パターンが別途生成されてもよいし、基準値自体が変更されてもよい。
【0048】
本発明に係る制動制御システムの他の態様では、前記目標速度設定手段は、前記車両が後進で前記坂路を降坂する場合に、前記車両が前進で前記坂路を降坂する場合よりも相対的に低い速度を前記目標速度として設定する。
【0049】
例えば、車両が、ダート道路或いはオフロードなどと称される比較的走行条件の厳しい坂路を登坂する場合には、坂路の途中でそれ以上前進不可能な状態に陥ることがある。そのような場合には、その位置から後進によって坂路を降坂するしかないが、一般的に後進は前進よりも運転しにくいから、運転者に加わる肉体的、或いは精神的な負荷が大きくなり易い。
【0050】
この態様によれば、車両が後進で坂路を降坂する場合には、前進で降坂する場合よりも相対的に低い速度が目標速度として設定されるので、運転者に与える安心感が飛躍的に向上する。
【0051】
尚、「相対的に低い」とは、例えば、ある傾斜角に対応する目標速度が、後進で降坂する方が低いような状態を指す。このような相対的に低い目標速度は、例えば、目標速度が前述したマップのような形で与えられる場合には、後進用の基準値として与えられていてもよいし、前進用の目標速度に対して所定の減衰率を乗じることなどによって与えられてもよい。
【0052】
本発明に係る制動制御システムの他の態様では、前記坂路の凹凸を検出する凹凸検出手段を更に具備し、前記記憶手段は、前記検出された凹凸を前記坂路上の位置に対応付けて記憶し、前記目標速度設定手段は更に、前記記憶された凹凸に基づいて前記目標速度を設定する。
【0053】
この態様によれば、凹凸検出手段によって坂路上の凹凸が検出される。ここで、本発明に係る凹凸検出手段は、直接的又は間接的の別によらず坂路の凹凸を検出可能な限りにおいてその態様は限定されない。例えば、走行中の振動を検出する振動計などによって間接的に凹凸を検出してもよい。また、ロールセンサ、ロール角センサ又は加速度センサなどによって検出される2次元的又は3次元的な揺れの状態に基づいて凹凸を検出してもよい。或いは、カーナビゲーションシステムなどから取得される情報によって予め凹凸の度合い(凹凸レベル)を判断可能である場合には、そのような情報に基づいて凹凸が検出されてもよい。
【0054】
一般に、凹凸の少ない或いは小さい坂路と、凹凸の多い或いは大きい坂路とでは、同じ傾斜速度で降坂した際に運転者に与える不快感は後者の方が大きい。この態様によれば、目標速度検出手段が、検出された凹凸に基づいて目標速度を設定するので、運転者に与えられる不快感を考慮した速度維持制御が可能となって、坂路を降坂する際の快適性が担保される。
【0055】
尚、この態様においては、前記目標速度設定手段は、前記目標速度を、前記凹凸が大きくなるのに応じて相対的に小さくなるように設定してもよい。
【0056】
前述したように、一般的に凹凸が多い或いは大きい程不快感が増すから、このように凹凸が大きくなるのに応じて目標速度が相対的に小さく設定される場合、効率的に坂路の凹凸を目標速度に反映させることが可能となる。尚、このような凹凸と目標速度との対応関係は、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどに基づいて適切に定められていてもよい。
【0057】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態により明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0059】
<1:第1実施形態>
<1−1:実施形態の構成>
<1−1−1:車両の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る車両10の構成について、一部その動作を交えて説明する。ここに、図1は、車両10の模式図である。
【0060】
図1において、車両10は、本発明に係る「車両」の一例であり、四輪駆動型の車両である。車両10には、動力源であるエンジン11が備わっている。エンジン11は、例えばガソリンエンジンである。エンジン11には、エンジン11が出力する回転駆動力を、後述する駆動軸14F及び駆動軸14Rに夫々伝達すると共に、係る回転駆動力の回転を減速(変速)するためのトランスミッション12及びトランスファ(副変速機)13が接続されている。
【0061】
トランスミッション12は、複数のギア(ギア比)の中から車両10の走行状況に応じた適切なギア(ギア比)を自動的に選択可能なオートマチックトランスミッション(AT)である。トランスミッション12のシフト位置(レンジ)は、運転者がシフトレバー12aを操作することによって選択される。車両10の走行中、運転者は通常、1速(ギア比大)から4速(ギア比小)までの4段階のギアを自動的に変速するためのシフト位置である「Dレンジ」にシフトレバー12aを操作している。尚、トランスミッション12は、ギア比が相互に異なる複数のギアの中から一のギアを選択することが可能に構成されたマニュアルトランスミッション(MT)であってもよい。
【0062】
トランスファ13は、トランスミッション12から伝達される駆動力を前輪側の駆動軸14Fと後輪側の駆動軸14Rとに分配する副変速機である。トランスファ13は、トランスミッション12の回転駆動力を減速することなく伝達する高速側のハイギア列と、トランスミッション12の回転駆動力を更に減速する低速側のローギア列との2種類のギア列を備えている。運転者は、トランスファ13用のシフトレバー13aを操作することによって、このハイギア列とローギア列とを適宜切り換えて選択的に使用することができる。
【0063】
尚、トランスファ13は、その内部に差動装置(センターデファレンシャル)を備え、車両10の旋回時に前輪と後輪との間に生じる回転差を吸収する構造となっている。
【0064】
前輪側の駆動軸14Fは、フロントデファレンシャル15Fを介して左右の駆動軸16FL、16FRに連結され、駆動軸16FL及び16FRには、夫々左右の前輪となる車輪17FL、17FRが連結されている。また、後輪側の駆動軸14Rはリアデファレンシャル15Rを介して左右の駆動軸16RL、16RRに連結され、駆動軸16RL及び16RRには、夫々左右の後輪となる車輪17RL、17RRが連結されている。車両10では、エンジン11の駆動トルクがこれら機構を介して車輪17FL、17FR、17RL及び17RRに伝達されている。
【0065】
車輪17FL、17FR、17RL及び17RRには夫々制動装置300が設けられている。制動装置300は、本発明に係る「制動手段」の一例であり、不図示の制動部材をホイールシリンダ300aの液圧に応じて駆動することによって車両10の制動を行う仕組みとなっている。尚、制動装置300の態様は、車両10を制動することが可能な限りにおいてどのような態様を有していてもよく、好適にはディスクブレーキやドラムブレーキなどの態様を採る。また、車輪17FL、17FR、17RL及び17RRには、夫々後述する車輪速センサ410が備わっている。
【0066】
ホイールシリンダ300aには、マスタシリンダ19を介して作動液の液圧が伝達される構成となっており、マスタシリンダ19における液圧は、運転者によるブレーキペダル20の踏下量に応じて増減する構成となっている。従って、通常、制動装置300は、運転者のブレーキペダル操作によって、その制動力が制御されている。尚、マスタシリンダ19には、リザーバタンク21から常に一定量の作動液が供給されている。
【0067】
一方、各ホイールシリンダ300aとマスタシリンダ19とを接続する作動液の液圧系には、運転者によるブレーキペダル20の操作とは別に、ホイールシリンダ300a内の液圧を増減させることが可能なブレーキアクチュエータ200が備わっている。
【0068】
ブレーキアクチュエータ200及び制動装置300は、本発明に係る「制動制御システム」の一例たる制動制御システム1000の一部を構成しており、同じく制動制御システム1000の一部たる制御装置100によってその動作が制御されている。
【0069】
<1−1−2:制動制御システムの構成>
次に、図2を参照して、制動制御システム1000の構成について説明する。ここに、図2は、制動制御システム1000のブロック図である。尚、図2において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略することとする。
【0070】
図2において、制動制御システム1000は、制御装置100、ブレーキアクチュエータ200、制動装置300、センサ群400及び傾斜角計500を備える。
【0071】
制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)110、ROM(Read Only Memory)120及びRAM130を備える。
【0072】
CPU110は、制動制御システム1000の動作を制御する制御ユニットであり、後述する制動制御処理を実行する過程において、ブレーキアクチュエータ200を介して制動装置300の制動力を増減制御することが可能に構成された、本発明に係る「制御手段」、「目標速度設定手段」、「トリガ位置決定手段」及び「トリガ位置検出手段」の夫々一例である。
【0073】
ROM120は、制動制御プログラムが格納された不揮発性のメモリであり、係る制動制御プログラムを適宜読み出して実行することによって、CPU110は制動制御処理を実行することが可能となる。尚、ROM120には、制動制御処理に使用される基準値なども格納されている。
【0074】
RAM130は、CPU110が制動制御処理を実行する際に生じる各種データを一時的に格納することが可能に構成された揮発性のメモリであり、本発明に係る「記憶手段」の一例として機能するように構成されている。
【0075】
尚、制御装置100は、制動制御処理を実行するための処理ユニットとして構成されていてもよいが、例えば、エンジン11の動作全体を制御する不図示のECU(Engine Control Unit)の少なくとも一部として構成されていてもよい。
【0076】
センサ群400は、車輪速センサ410、シフトポジションセンサ420、選択ギア列検出センサ430、ブレーキペダルセンサ440、アクセルペダルセンサ450、駆動トルクセンサ460、前後加速度センサ470、起動スイッチ480及び左右加速度センサ490を備える。
【0077】
車輪速センサ410は、車輪17FL、17FR、17RL及び17RRに夫々配されており、対応する車輪の回転に基づいて車輪速を検出するセンサである。検出された車輪速から、車両10の車速が特定される。シフトポジションセンサ420は、シフトレバー12aの前述したシフト位置を検出するセンサである。選択ギア列検出センサ430は、トランスファ13用のシフトレバー13aのシフト位置を検出するセンサである。ブレーキペダルセンサ440は、ブレーキペダル20の踏下量を検出するセンサである。アクセルペダルセンサ450は、不図示のアクセルペダルの踏下量を検出するセンサである。駆動トルクセンサ460は、エンジン11が出力する駆動トルクを検出するセンサである。前後加速度センサ470は、車両10の前進及び後進方向の加速度を検出するセンサであり、制動手段の制動力制御に使用される他、本発明に係る「凹凸検出手段」の一例としても機能するように構成されている。起動スイッチ480は、例えば運転者によって操作が可能な位置に配設されたボタンスイッチであり、運転者が後述する速度維持制御を所望する際に押下され、所定の起動入力信号を出力することが可能に構成されている。左右加速度センサ490は、車両10の左右方向の加速度を検出するセンサであり、本発明に係る「凹凸検出手段」の他の一例として機能するように構成されている。
【0078】
傾斜角計500は、車両10が走行する路面の傾斜角を検出する装置であり、本発明に係る「傾斜角検出手段」の一例として機能するように構成されている。傾斜角計500は、液面の傾きに応じた出力信号を制御装置100に出力することが可能に構成されている。
【0079】
<1−1−3:ブレーキアクチュエータの詳細構成>
次に、図3を参照してブレーキアクチュエータ200の構成を一部その動作を交えて説明する。ここに、図3は、ブレーキアクチュエータ200のシステム系統図である。尚、図3において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明及び一部図示を省略する。また、ブレーキアクチュエータ200は、車輪17FL、17FR、17RL及び17RR各々における制動装置300毎に独立に液圧を制御し得る機構となっている。従って、図2においては一の車輪に関するブレーキアクチュエータ200の構成が示されているが、他の車輪に関しても同様な構成を有するものとする。
【0080】
図2において、管路201は、マスタシリンダ19とホイールシリンダ300aとを繋ぎ、作動液の流路となる管状部材である。管路201上には、遮断弁202及び保持弁203が配設されている。
【0081】
遮断弁202は、図2においては不図示のCPU110によってその通電状態が制御される電磁弁であり、非通電時には開弁し、通電時には閉弁するように構成されている。
【0082】
保持弁203は、CPU110によってその通電状態が制御される電磁弁であり、非通電時には開弁し、通電時には閉弁するように構成されている。保持弁203が閉弁した際、保持弁203からホイールシリンダ300a側の液圧系は閉塞されるように構成されている。
【0083】
管路201における保持弁203とホイールシリンダ300aとの間には、管路204の一方端が接続されており、他方端がリザーバ205へと接続されている。管路204には減圧弁206が備わっている。減圧弁206は、CPU110によってその通電状態が制御される電磁弁であり、非通電時には閉弁し、通電時に開弁するように構成されている。減圧弁206は、通電及び非通電の2値状態を採る駆動信号によってduty制御されており、管路204の連通状態を変化させることが可能に構成されている。
【0084】
モータ207によって回転駆動される液圧ポンプ208は、CPU110が制動力を制御する際の液圧源として機能する。液圧ポンプ208の吐出口は、管路209を介して管路201における遮断弁202と保持弁203との間に接続されている。尚、液圧ポンプ208の吐出口側には、吐出方向とは逆方向の作動液の流れを阻止する逆止弁210が設けられている。
【0085】
一方、液圧ポンプ208の吸込口側は、管路211を介してリザーバ205に接続されており、管路211には、吸込方向とは逆方向の作動液の流れを阻止する逆止弁212及び213が配設されている。
【0086】
管路211における、逆止弁212と逆止弁213との間には、管路214の一方端が接続されており、他方端がリザーバタンク21に接続されている。リザーバタンク21内の作動液は、管路214を介して液圧ポンプ208に吸い込まれる構成となっている。また管路214上には、この管路214を開閉させる吸込弁215が備わっている。
【0087】
吸込弁215は、CPU110によって通電状態が制御される電磁弁であり、非通電時には閉弁し、通電時に開弁するように構成されている。
【0088】
<1−2:実施形態の動作>
次に、上記構成を有する制動制御システム1000の動作について説明する。
【0089】
<1−2―1:ブレーキアクチュエータ200の制御>
始めに、再び図2を参照して、CPU110によるブレーキアクチュエータ200の制御について説明する。
【0090】
CPU110は、ブレーキアクチュエータ200が備える4個の電磁弁、即ち、遮断弁202、保持弁203、減圧弁206及び吸込弁215への通電を制御すると共に、液圧ポンプ208を適宜動作させることによって、制動装置300各々の制動力を制御している。
【0091】
例えば、ブレーキペダル20の踏下のみによって制動が行われる場合には、CPU110は、上記各弁に通電を行わず、液圧ポンプ208も作動させない。この場合、遮断弁202及び保持弁203は開弁状態であり、減圧弁206及び吸込弁215は閉弁状態となる。従って、作動液の流路は単にマスタシリンダ19からホイールシリンダ300aに到る流路となり、ブレーキペダル20の踏下量に応じたマスタシリンダ19の液圧変化が各ホイールシリンダ300aに伝達され、車両10が制動される。
【0092】
一方、例えば制動装置300の制動力をブレーキペダル20の操作とは無関係に減少させる場合、CPU110は、減圧弁206に通電して減圧弁206を適宜開弁させる。これにより、マスタシリンダ19からの液圧の一部は減圧弁206を介して逃がされるため、制動力が低下する。また、制動装置300の制動力をブレーキペダル20の操作とは無関係に増加させる場合、CPU110は、減圧弁206を閉弁し、液圧ポンプ208を駆動してリザーバ205に貯留された作動液を循環させることにより、ホイールシリンダ300aの液圧を増加させる。これにより、制動装置300の制動力が増加する。
【0093】
このように、CPU110は、ブレーキアクチュエータ200の各部を制御することによって、ブレーキペダル20の踏下量とは無関係に制動装置300の制動力を制動することが可能となっている。従って、制動制御システム1000によれば、車輪17FL、17FR、17RL及び17RRのうち、少なくとも一部の車輪がロックした場合であっても、各車輪に個別に最適な制動力を付与することが可能であり、制動制御システム1000は、アンチロックブレーキシステムとしても機能するように構成されている。
【0094】
<1−2−2:制動制御処理の概要>
制動制御システム1000は、CPU110の処理によって、制動制御処理を実行することが可能に構成されている。制動制御処理が実行される過程では、状況に応じて速度維持モードが実行される。
【0095】
速度維持モードは、例えば、車両10が坂路を降坂する際に、車両10の車速を傾斜角に応じて設定される目標速度以下に維持するためのモードであり、前述した速度維持制御の一例である。速度維持モードは、運転者が起動スイッチ480を押下した場合に制御装置100に出力される起動入力信号に応じて実行される。
【0096】
速度維持モードが実行される際、CPU110は、車輪速センサ410、駆動トルクセンサ460及び前後加速度センサ470各々において検出される検出値に基づいて必要な制動力を演算する。CPU110は、この制動力が得られるように液圧ポンプ208を駆動し、管路201を介してホイールシリンダ300a内の液圧を増加させることによって制動装置300の制動力を増加させる。この際、車輪速センサ410の出力は一定のクロックタイミング毎に監視されており、この車輪速から特定される車速が目標速度を超えた場合に、車速が目標速度以下となるようにCPU110が制動力を制御する。尚、車両10が坂路を降坂している場合、車速は重力の影響で自然に増加するから、速度維持モードが実行されることにより、車速は理想的には目標速度に維持される。
【0097】
速度維持モードは、主として坂路を降坂する際に実行される。この場合、基本的に車両10は、坂路の傾斜角に応じた目標速度以下で坂路を降坂することが可能である。然るに、坂路の傾斜角が余りに大きい場合、坂路降坂時に傾斜角を検出していたのでは、制御が車両10の加速に追随できず、制動装置300の制動力を急激に大きくする必要が生じかねない。これでは、速度維持モードの実行時に運転者に不快感を与えかねない。そこで、制動制御システム1000では、以下に説明するが如く、坂路降坂時の目標速度を予め設定しておくことが可能に構成されている。
【0098】
<1−2−3:制動制御処理の詳細>
次に、図4及び図5を適宜参照して、制動制御処理の詳細について説明する。ここに、図4は、制動制御処理のフローチャートである。尚、制動制御処理は、例えばエンジン11の始動時にCPU110によってROM120から制動制御プログラムが読み出されることによって実行されるものとする。また、図5は、車両10が走行する坂路の模式図である。
【0099】
図4において、始めに坂路の登坂が開始されたか否かが判別される。(ステップA10)。制動制御システム1000では、傾斜角計500によって、常に一定のタイミングで路面の傾斜角が検出されている。この傾斜角計の出力値は制御装置100に出力されており、常にCPU110によって監視されている。CPU110は、ROM120に格納されている登坂開始判定閾値との比較に基づいて、車両10が坂路の登坂を開始したか否かを判別する。尚、登坂開始判定閾値は、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによって適切な値に定められている。
【0100】
坂路の登坂が開始されていない場合(ステップA10:NO)、坂路の登坂が開始されるまでステップA10は繰り返される。坂路の登坂が開始された場合(ステップA10:YES)、傾斜角計500によって検出された傾斜角、並びに前後加速度センサ470及び左右加速度センサ490によって検出された加速度の記憶が開始される(ステップA11)。尚、係る坂路の登坂が開始されたと判別される位置は、図5における位置Aに相当する。
【0101】
傾斜角は、傾斜角の絶対値を表す傾斜角データとして、係る傾斜角が検出された坂路上の位置に対応付けて記憶される。ここで、本実施形態において、坂路上の位置は、図5における位置Aを基準とする相対的な位置として表される。具体的には、位置Aを基点として、車輪速センサ410が検出する車輪速から取得される車両10の車速と、例えばCPU110がタイマ監視する経過時間とに基づいてCPU110が走行距離を演算し、位置Aからのからの距離として坂路上の位置を記憶する。尚、制動制御システム1000が車両10の絶対位置を測定する測位システムを搭載していればそのような絶対位置として記憶されてもよい。
【0102】
一方、加速度は、前後方向及び左右方向各々について、加速度の相対的な大きさを表す加速度データとして傾斜角同様坂路上の位置に対応付けて記憶される。加速度の相対的な大きさは、予め設定された基準に従って、複数段階用意された指標値のうちいずれかとして決定される。この指標値は、例えば、値が大きい程加速度が大きいことを表し、本実施形態では、坂路の凹凸レベルが大きいことと等価として扱われる。
【0103】
坂路の登坂が開始されると、CPU110は、車両10が停止したか否かを判別する(ステップA12)。車両10が停止した場合(ステップA12:YES)、CPU110は更に、シフトポジションセンサ420から取得されるトランスミッション12のシフト位置が、Rレンジであるか否かを判別する(ステップA20)。尚、Rレンジは、車両10を後進させるためのシフト位置であり、車両10を後進させる旨の運転者の意思表示と等価なものとして扱われる。シフト位置がRレンジである場合(ステップA20:YES)、後進処理が実行される。尚、後進処理については後述する。尚、この際、更に選択ギア列検出センサ430の出力値に基づいてトランスファ13がローギア列であるか否かが判別されてもよい。トランスファ13がローギア列である場合、運転者が慎重に坂路を後進で降坂する旨の意思が明確となる。
【0104】
シフト位置がRレンジではない場合(ステップA20:NO)、処理は再びステップA11に戻され、ステップA12に至る処理が繰り返される。
【0105】
車両10が停止していないと判別された場合(ステップA12:NO)、CPU110は、坂路が終了したか否かを判別する(ステップA13)。
【0106】
ここで、坂路が終了したか否かの判別は、基本的に、検出される傾斜角の絶対値に基づいて行われる。本実施形態では、検出された傾斜角が予めROM120に格納される頂上判定閾値以下であるか否かの判別に基づいて行われる。この頂上判定閾値は、例えば、前述した登坂開始判定閾値と同じ値であってもよいし、別の値であってもよいが、ここでは登坂開始判定閾値よりも小さい値として設定されている。
【0107】
しかしながら、坂路には、図5で位置Bとして表される踊り場がある場合がある。単純に頂上判定閾値との比較のみによって判別が行われると、係る位置Bで坂路が終了したと判別される場合があって好ましくない。
【0108】
そこで、CPU110は、所定時間内に再び前述した登坂開始判定閾値が検出された場合には、係る位置(例えば、図5の位置B)を踊り場として認識し、坂路が終了していないと判別する(ステップA13:NO)。所定時間とは、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどに基づいて適切な値に定められている。
【0109】
この所定時間は、例えば、現在の車速に基づいて演算結果として取得される、頂上であると判定し得る距離だけ走行するのに要する時間であってもよい。坂路が終了していない場合には、処理はステップA11に復帰し、傾斜角の記憶が継続される。尚、ステップA13に係る判別処理の期間中も、傾斜角の記憶は継続されている。
【0110】
坂路が終了すると(ステップA13:YES)、トリガ位置が決定される(ステップA14)。トリガ位置とは、車両10が再びこの坂路を降坂する時にCPU110が速度維持モードを実行する基点となる位置である。本実施形態においては、坂路の頂上位置に、即ち、図5における位置Cに決定される。尚、前述した通り、頂上であるとの判別、即ち坂路が終了したとの判別は、係るトリガ位置を通過して一定時間走行した後になされる。例えば、図5における位置Dにおいて、車両10が坂路の頂上にいることが認識される。従って、CPU110は、ステップA13において坂路が終了したと判別された時点から、時間軸を遡るようにしてRAM130に記憶される傾斜角データを参照し、図5の位置Cに相当する位置を検索し、トリガ位置として決定する。
【0111】
トリガ位置が決定されると、CPU110は、坂路を降坂する際の目標速度を設定する(ステップA15)。この際、CPU110は、係る目標速度の設定対象区間(目標速度設定対象区間)を、決定されたトリガ位置を基点とし、坂路の登坂開始位置を終点とする区間に設定する。図5において、係る区間は位置Cから位置Aまでの区間に相当する。
【0112】
目標速度は、ROM120に格納される速度設定マップ120aに基づいて坂路の傾斜角に応じた値に設定される。ここで、図6を参照して、速度設定マップ120aについて説明する。ここに、図6は、速度設定マップ120aの模式図である。
【0113】
図6において、目標速度は、予め目標速度が傾斜角毎に対応付けられてなる標準パターンPとして与えられている。標準パターンPは、傾斜角が大きくなるのに応じて目標速度が低くなるように設定されたパターンである。尚、標準パターンPは、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによって、傾斜角に応じて、運転者が速過ぎるとも遅過ぎるとも感じることのないような適切な目標速度が与えられるように定められている。
【0114】
図4に戻り、CPU110は、RAM130に記憶される傾斜角データを参照し、夫々の傾斜角に応じた目標速度を速度設定マップ120aから取得して、対応する坂路上の位置における車両10の目標速度として設定する。この設定された目標速度は、坂路上の位置に対応づけられて、RAM130に記憶される。尚、RAM130に記憶される傾斜角データは、坂路の登坂開始位置(図5では位置A)から時系列的に蓄積されているから、目標速度が設定される際には、この時系列を逆転させ、時間軸を遡るように、トリガ位置を基点とする位置に対応付けられて目標速度が設定される。
【0115】
目標速度は基本的に坂路の傾斜角に応じて設定されるが、坂路に凹凸がある場合、相応の物理的衝撃があるために快適性が損なわれ易い。そこで、本実施形態では、上記傾斜角に応じて設定された目標速度を、更に坂路の凹凸に応じて補正することによって最終的な目標速度の設定を行っている。
【0116】
CPU110は、傾斜角に応じた目標速度の設定が終了すると、RAM130に記憶される加速度データを参照し、目標速度設定対象区間における坂路の凹凸を、係る区間上の位置毎に取得する。そして、前述した凹凸レベルに応じて、即ち、凹凸が大きい程小さい係数を乗じて、傾斜角に応じて設定された目標速度を補正する。このような補正が行われた結果、目標速度設定対象区間における最終的な目標速度の設定が終了する。この最終的に設定された目標速度は、RAM130に、傾斜角に応じて設定された目標速度に上書きされる形で記憶される。
【0117】
尚、このような坂路の凹凸は、例えば、図2においては不図示のロールセンサ又はロール角センサなどによって間接的に検出されてもよい。このような場合、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによって、これらセンサなどの出力値と実際の凹凸とが対応付けられていてもよい。或いは、坂路の凹凸は、車両10にビデオカメラや画像処理装置からなる映像処理システムなどが搭載される場合、それらから得られた画像又は映像に基づいて画像認識技術又はパターン認識技術を用いて検出されてもよい。更には、車両10がGPSなどの測位システムを有する場合には、予めこれら測位システムを介して坂路の形状を取得してもよい。
【0118】
目標速度が設定されると、CPU110は、起動入力の有無を判別する(ステップA16)。起動入力とは、運転者が速度維持モードの実行を促すために起動スイッチ480を操作することによってなされる。例えば、運転者が坂路を登坂し、頂上である程度の時間を過ごして旋回し、再び坂路を降坂しようとする場合に係る起動スイッチ480が操作される。起動スイッチ480が操作されると、起動入力信号が制御装置100に出力される。CPU110は、所定の時間間隔で起動入力信号の有無を監視しており、起動入力信号の有無に基づいて起動入力の有無を判別する。
【0119】
起動入力が無い場合(ステップA16:NO)、起動入力があるまでステップA16が繰り返される。起動入力が有った場合(ステップA16:YES)、CPU110は、トリガ位置が検出されたか否かを判別する(ステップA17)。
【0120】
CPU110は、トリガ位置情報に基づいてトリガ位置を探索する。CPU110は、トリガ位置が決定された際、係るトリガ位置と相前後する一定の領域について、傾斜角の推移をトリガ位置との相対距離に対応付け、トリガ位置情報としてRAM130に記憶している。CPU110は、起動入力が検出された後、傾斜角計500が検出する傾斜角の推移を監視し、トリガ位置情報によって規定される傾斜角の推移と比較することによって、トリガ位置が検出されたか否かを判別する。
【0121】
車両10の現在位置から過去一定量にわたっての傾斜角の推移が、トリガ情報によって規定される傾斜角の推移と一致しない場合には、CPU110は、トリガ位置が検出されないものとしてトリガ位置の探索を継続する(ステップA17:NO)。
【0122】
一方、傾斜角の推移が、トリガ情報によって規定される推移と一致した場合、トリガ位置が検出されたと判別される(ステップA17:YES)。
【0123】
尚、坂路の頂上に相当する領域からトリガ位置に至る経路では傾斜角の変化がほとんど無い。従って、誤検出を避けるために本実施形態では、実際のトリガ位置を通過し、目標速度設定対象区間内で相応の傾斜角変化が検出された時点で、トリガ位置を通過したことが検出され、トリガ位置が検出されたと判別される。
【0124】
トリガ位置が検出されると、速度維持モードが実行される(ステップA18)。ステップA18では、車輪速センサ410の出力が監視され、車速が予め設定された目標速度のうち、現在位置に対応する速度を超えないようにCPU110がブレーキアクチュエータ200を適宜制御し、その結果車速が目標速度以下に維持される。
【0125】
CPU110は、速度維持モードの実行を開始すると、目標速度設定対象区間が終了したか否かを判別する(ステップA19)。目標速度設定対象区間とは、即ちトリガ位置から坂路登坂開始位置までの区間であり、目標速度が設定されている区間であるから、トリガ位置からの距離に基づいてCPU110は容易にして係る判別を実行することが可能である。目標速度設定対象区間が終了していない場合(ステップA19:NO)、速度維持モードに従った坂路の降坂が継続される。目標速度設定対象区間が終了した場合(ステップA19:YES)、再び坂路を登坂する場合に備えて処理はステップA10に復帰する。
【0126】
ここで、図7を参照して、ステップA20において実行される後進処理の詳細について説明する。ここに、図7は、後進処理のフローチャートである。尚、同図において、図4と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略することとする。尚、後進処理は、主として坂路の途中で登坂が不可能となり、坂路を後進で降坂する必要が生じた場合などに効果的である。
【0127】
図7において、先ず、起動入力の有無が判別される(ステップA16)。起動入力が無い場合(ステップA16:NO)、起動入力が検出されるまで処理は保留され、起動入力が検出されると(ステップA16:YES)、降坂時の目標速度が設定される(ステップA15)。
【0128】
ここで、目標速度が設定されるに際しては、現在位置を基点とし、坂路登坂開始位置を終点とする目標速度設定対象区間が設定され、傾斜角及び坂路の凹凸に応じた目標速度が現在位置からの距離(即ち、目標速度設定対象区間内の位置)に対応付けて設定される。尚、本実施形態に係る制動制御処理では、同じ傾斜角であれば、後進の方が前進よりも車速が低くなるように目標速度が設定される。具体的には、補正用の減衰率がROM120より取得され、傾斜角及び凹凸に応じて設定された目標速度に乗じられることによって目標速度が設定される。尚、これとは別に、予め速度設定マップ120aに後進時の目標速度が設定されていてもよい。
【0129】
目標速度の設定が終了すると、CPU110は、ブレーキペダルセンサ440の出力値に基づいてブレーキペダル20の踏下量を検出し、制動装置300が解除されたか否かを判別する(ステップB11)。制動装置300が解除されない場合(ステップB11:NO)、CPU110は制動装置300が解除されるまで待機すると共に、制動装置300が解除された場合(ステップB11:YES)、速度維持モードを実行する(ステップA18)。速度維持モードの実行中は、目標速度設定対象区間が終了したか否かが判別され(ステップA19)、目標速度設定対象区間が終了していない場合(ステップA19:NO)、速度維持モードが継続されると共に、目標速度設定対象区間が終了した場合(ステップA19:YES)、後進処理が終了する。後進処理が終了すると、図4におけるステップA10に処理が復帰する。
【0130】
以上説明したように、本実施形態に係る制動制御システム1000によれば、坂路を降坂する際の目標速度が係る坂路を登坂した際に検出された傾斜角に基づいて予め設定されるため、坂路の傾斜状況が例え急峻であっても、或いは不測の事態として後進で坂路を降坂する必要が生じても、速度を維持する際に急激な制動が生じることがない。即ち、快適性を損なうことなく速度を維持することができるのである。また、坂路を降坂する際の目標速度は、坂路の凹凸に応じて適宜補正されているため、単に傾斜角に応じて目標速度が設定されるよりも、一層快適性が担保されている。
【0131】
尚、本実施形態に係る制動制御システム1000では、検出される傾斜角は坂路上の位置に対応付けられてRAM130に記憶されているが、このように傾斜角を記憶する手段は、RAM130などのバッファ的なメモリとは異なる不揮発性の記憶媒体であってもよい。例えば、HDやDVDなどの記録媒体であってもよい。この場合、それらに準じるドライブ装置が備わっていればよい。このように比較的大容量且つ不揮発性の記憶手段が備わる場合には、過去に車両10が走行した坂路に関する傾斜角のデータを比較的大量に保存しておくことが可能となる。従って、車両10が走行を重ねる程に利便性が向上するので好適である。
【0132】
尚、本実施形態では、坂路の傾斜角に応じて自動的にトリガ位置が決定されるが、トリガ位置は、例えば運転者の操作によって手動的に設定されてもよい。この場合、運転者が適宜操作スイッチなどを操作し、トリガ位置を決定できるので、より運転者の嗜好を反映した坂路の降坂が実現されるので好適である。更に、このようなトリガ位置の決定とは別に、或いはトリガ位置の決定に加えて、トリガ位置の検出が運転者によって実現されてもよい。例えば、運転者が自身で設定したトリガ位置を記憶し、降坂時に同一位置でトリガを検出した旨を表す入力を行うことによって、上述した本発明に係る効果は担保される。また、トリガ位置の検出を手動で行う場合、登坂時とは異なる角度でトリガ位置に進入することなどによって万が一トリガ位置が自動的に検出されなくても確実にトリガ位置を検出できる点で好適である。
【0133】
<2:第2実施形態>
上述した第1実施形態では、目標速度は速度設定マップ120上では傾斜角に応じて予め規定された標準パターンPとして与えられているが、例えば、運転者の速度に対する感性は様々であるから、坂路を降坂する際に係る標準パターンPに基づいて設定される値が、速いと認識される場合も、遅いと認識される場合もある。そのような問題に対処し得る本発明の第2実施形態について、図8を参照して説明する。ここに、図8は、速度設定マップ120bの模式図である。尚、第2実施形態に係る説明において、第1実施形態と重複する部分については同一の符号を付して説明を行うものとする。
【0134】
図8において、速度設定マップ120bは、第1実施形態に係る速度設定マップ120aがROM120から読み出された後、RAM130にコピーされてなるマップである。従って、速度設定マップ120bは、書換え可能な点で速度設定マップ120aと異なっている。
【0135】
速度設定マップ120bにも速度設定マップ120aと同様に、標準パターンPが設定されている。但し、この標準パターンPは、運転者個々の感性を反映したものではないため、CPU110は適宜この標準パターンPを書き換えて、運転者固有のパターンである固有パターンPpを生成することが可能に構成されている。即ち、CPU110は、本発明に係る「マップ更新手段」の一例として機能するように構成されている。
【0136】
具体的には、速度維持モード実行中に運転者がアクセルペダル又はブレーキペダル20を操作して加速或いは減速を行った場合に、アクセルペダルセンサ450又はブレーキペダルセンサ440からの出力信号に基づいて固有パターンPpが生成される。
【0137】
例えば、傾斜角R1である坂路を予め標準パターンに基づいて設定された目標速度V1で降坂中に、ブレーキペダルセンサ440の踏下が検出された場合、CPU110は、車輪速センサ410から取得される車速を、坂路の傾斜角に対応付け、実測車速データとしてRAM130にバッファリングする。坂路降坂終了後に、CPU110は、バッファリングしてある実測車速データを参照し、標準パターンPを更新して、固有パターンPpを生成し、RAM130に記憶する。この固有パターンPpとは、例えば、傾斜角R1の時に車速V1p(V1p<V1)となるようなパターンである。尚、固有パターンPpを更新する際、標準パターンPは消去されてもされなくてもよい。また、このような固有パターンは相互に異なる複数個生成されてもよい。
【0138】
また、アクセルペダルが操作されて速度維持モード中に車両10が目標速度よりも加速した場合には、例えば、図8において、標準パターンを挟んで図示の固有パターンPpとは反対側の領域に固有パターンが生成されるが、このような加速側の更新に際しては、予め上限パターンPmが設定されている。目標速度は、この上限パターンPmを超えた領域には設定されない。例えば、傾斜角R1の時、目標車速の上限値はV1m(V1m>V1)に設定されている。尚、目標車速の下限値は特に設定されておらず、例えば、運転者によっては、極めて低い車速で坂路を降坂することも可能となっている。
【0139】
このように、運転者の感性を反映させることによって、更に快適に坂路の降坂を行うことも可能である。
【0140】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う制動制御システムもまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明の第1実施形態に係る制動制御システムを搭載した車両の模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る制動制御システムの模式図である。
【図3】図1の車両におけるブレーキアクチュエータのシステム系統図である。
【図4】図2の制動制御システムにおいて実行される制動制御処理のフローチャートである。
【図5】図1の車両が走行する坂路の模式図である。
【図6】図4の制動制御処理において実行される速度維持モードの目標速度を設定するための速度設定マップの模式図である。
【図7】図4の制動制御処理の一部として実行される後進処理のフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態に係り、図6に示される速度設定マップの他の模式図である。
【符号の説明】
【0142】
10…車両、20…ブレーキペダル、100…制御装置、110…CPU、120…ROM、120a…速度設定マップ、120b…速度設定マップ、130…RAM、200…ブレーキアクチュエータ、300…制動装置、400…センサ群、500…傾斜角計、1000…制動制御システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を制動する制動手段と、
前記車両が走行する坂路の傾斜角を検出する傾斜角検出手段と、
前記検出された傾斜角を前記坂路上の位置に対応付けて記憶する記憶手段と、
前記記憶された傾斜角に基づいて、前記車両が前記坂路を降坂する際の目標速度を予め設定する目標速度設定手段と、
前記車両が前記坂路を降坂する際に前記車両の速度が前記予め設定された目標速度以下となるように前記制動手段を制御する制御手段と
を具備することを特徴とする制動制御システム。
【請求項2】
前記坂路上で前記制動手段を制御する際の基点となるトリガ位置を予め決定するトリガ位置決定手段と、
前記坂路を降板する際に前記トリガ位置を検出するトリガ位置検出手段と
を更に具備し、
前記目標速度設定手段は、前記トリガ位置を基点として前記目標速度を設定し、
前記制御手段は、前記トリガ位置が検出された場合に前記制御手段を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の制動制御システム。
【請求項3】
前記トリガ位置決定手段は、前記トリガ位置を決定する旨の入力が行われた場合に、該入力に対応する前記坂路上の位置を前記トリガ位置として決定する
ことを特徴とする請求項2に記載の制動制御システム。
【請求項4】
前記トリガ位置決定手段は、前記坂路の傾斜角に基づいて前記トリガ位置を決定する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の制動制御システム。
【請求項5】
前記トリガ位置検出手段は、前記トリガ位置を検出した旨の入力が行われた場合に、該入力に対応する前記坂路上の位置を前記トリガ位置として検出する
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の制動制御システム。
【請求項6】
前記トリガ位置検出手段は、前記検出される傾斜角に基づいて前記トリガ位置を検出する
ことを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載の制動制御システム。
【請求項7】
前記目標速度設定手段は、前記目標速度の基準となる値が前記坂路の傾斜角に応じて予め定められてなるマップに基づいて前記目標速度を設定する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の制動制御システム。
【請求項8】
前記車両が前記設定された目標速度で前記坂路を降坂している期間においてアクセルペダル及びブレーキペダルのうち少なくとも一方の操作によって前記車両の速度が変更された場合に、前記変更された速度に応じて前記マップにおける前記基準となる値を更新するマップ更新手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項7に記載の制動制御システム。
【請求項9】
前記目標速度設定手段は、前記車両が後進で前記坂路を降坂する場合に、前記車両が前進で前記坂路を降坂する場合よりも相対的に低い速度を前記目標速度として設定する
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の制動制御システム。
【請求項10】
前記坂路の凹凸を検出する凹凸検出手段を更に具備し、
前記記憶手段は、前記検出された凹凸を前記坂路上の位置に対応付けて記憶し、
前記目標速度設定手段は更に、前記記憶された凹凸に基づいて前記目標速度を設定する
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の制動制御システム。
【請求項11】
前記目標速度設定手段は、前記目標速度を、前記凹凸が大きくなるのに応じて相対的に小さくなるように設定する
ことを特徴とする請求項10に記載の制動制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−213294(P2006−213294A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30969(P2005−30969)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】