説明

動力出力装置およびその制御方法

【課題】電力が入出力される電池への過電圧印加を抑制する動力出力装置を提供する。
【解決手段】電力が入出力される電池と、電池電圧を検出する電圧検出手段と、電池から電力供給を受けて動力を出力するとともに発電機能を有する回転電機と、電池と回転電機との間に電気的に接続されて両者間での電力のやりとりの際に電力変換を行う電力変換装置と、電力変換装置に含まれるスイッチング素子を制御する制御部と、を備える動力出力装置であって、制御部は、電池電圧が過電圧であるか否かを閾値との比較により判定し(S10)、過電圧であると判定された場合にスイッチング素子におけるオンオフ時のスイッチング損失を増加させる電力損失増加制御を行う(S12)ように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力出力装置およびその制御方法に関し、特に、電力が入出力される電池への過電圧印加を抑制する動力出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二次電池から供給される直流電力を電力変換器で交流電力に変換して電動機に印加することにより走行用動力を出力させる電動車両が知られている。このような電動車両のうち、いわゆるハイブリッド車は、走行用動力を出力するエンジンと、エンジン出力の全部または一部の供給を受けて発電を行う発電機を併せ持っており、二次電池の残容量(SOC)が所定の制御範囲内に保たれるようにエンジン、電動機および発電機の各作動が制御されている。
【0003】
上記ハイブリッド車において、例えば、二次電池から出力される電力を受けて電動機が駆動されている力行時に車輪がロック状態になったときや、電動機が発電した電力を二次電池に充電している回生制動時に車輪がスリップ・グリップしたときなどに、車軸および減速機等を介して連結される電動機の負荷またはトルクが急変することによって、過大な電力が二次電池に流入することで過電圧が加わることがある。このような過電圧が印加されると、二次電池がダメージを受けて短寿命化する可能性がある。
【0004】
ここで、例えば特許文献1には、回生制動時に走行用モータで発電される回生電力について、バッテリに充電できない余剰電力をバッテリに並列接続された抵抗器によって熱変換することで回収し、抵抗器に異常が生じた場合にはバッテリ充電制限を緩和して上記余剰電力もバッテリで回収できるようにする技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、モータ駆動手段であるインバータのスイッチング周波数を高く切り替えてインバータでの電力消費を増大させることによって、モータによる回生電力がバッテリの入力制限を超えてしまうのを抑制する技術が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、高電流が通流するインバータのスイッチング素子であるIGBTをターンオフする際に発生し得るサージ電圧を検出し、そのサージ電圧が所定値を超えた場合に異常と判定してトルク制限指令を発し、これによりモータのトルクを制限することによって、IGBTに通流する電流を制限し、上記サージ電圧を抑制する技術が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−222395号公報
【特許文献2】特開2007−137231号公報
【特許文献3】特開2004−236371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように二次電池に過大電力が加わったとき、特許文献1に開示されるようにバッテリに並列接続された抵抗器によって二次電池に充電できない余剰電力を回収することで二次電池が過充電になることを抑制することができるが、この場合には抵抗器とそれをスイッチングするパワーデバイスが別途必要になり、コストアップや装置の大型化を招くことになる。
【0009】
また、特許文献2に開示されるようにインバータのスイッチング周波数を高く切り替えてインバータでの電力消費を増大させることによって二次電池に過大電力が加わるのを抑制することもできるが、これ以外にも有効な方法が考えられるであろう。
【0010】
さらに、特許文献3の技術は、高電流が通流するインバータのスイッチング素子であるIGBTをターンオフする際に発生するサージ電圧をモータトルク制限に伴う電流低下によって抑制するものであって、二次電池への過大電力供給を抑制するために適用できるものではない。
【0011】
本発明の目的は、電池への過大電圧印加を有効に抑制できる動力出力装置およびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る動力出力装置は、電力が入出力される電池と、電池電圧を検出する電圧検出手段と、電池から電力供給を受けて動力を出力するとともに発電機能を有する回転電機と、電池と回転電機との間に電気的に接続されて両者間での電力のやりとりの際に電力変換を行う電力変換装置と、電力変換装置に含まれるスイッチング素子を制御する制御部と、を備える動力出力装置であって、制御部は、電池電圧が過電圧であるか否かを閾値との比較により判定し、過電圧であると判定された場合にスイッチング素子におけるオンオフ時のスイッチング損失および/またはオン損失を増加させる電力損失増加制御を行うように構成されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、電池電圧が過電圧になったときにスイッチング素子におけるオンオフ時のスイッチング損失および/またはオン損失を増加させる電力損失増加制御を行う。このように、通常時は極小であることが望まれるスイッチング素子の電力損失をあえて増加させることで、スイッチング素子による電力損失量に応じて電池印加電圧を低減することができ、電池への過大電圧印加を抑制することができる。
【0014】
本発明に係る動力出力装置において、制御部は、前記スイッチング素子を駆動する駆動回路に含まれるゲート抵抗を低い抵抗値のものから高い抵抗値のものに切り替えることにより電力損失増加制御を実行してもよい。これにより、スイッチング素子のスイッチング損失を増加させることができ、それに応じて電池への過大電圧印加を抑制することができる。
【0015】
また、本発明に係る動力出力装置において、制御部は、前記スイッチング素子を駆動する駆動回路から印加されるゲート電圧を低下させることにより前記電力損失増加制御を実行してもよい。この場合には、スイッチング素子の飽和電圧が上がることによりオン損失を増加させることができ、それに応じて電池への過大電圧印加を抑制することができる。
【0016】
また、本発明に係る動力出力装置において、前記スイッチング素子の温度を検出する温度検出手段が設けられており、制御部は、スイッチング素子温度が許容温度よりも低いときに前記電力損失増加制御を実行するのが好ましい。これにより、スイッチング素子が許容温度を超えて高温になって破損するのを防止できる。
【0017】
また、本発明に係る動力出力装置において、電力変換器は複数あって各電力変換器のスイッチング素子の温度を検出する温度検出手段が設けられており、制御部は温度検出手段によって検出されるスイッチング素子温度がより低温である電力変換器で前記電力損失増加制御を実行するのが好ましい。これにより、スイッチング素子が許容温度を超えて高温になって破損するのをより有効に防止できる。
【0018】
また、本発明に係る動力出力装置において、制御部は、前記電力損失増加制御を実行するときは前記電力変換器についての冷却性能を向上させる制御を併せて実行するのが好ましい。これにより、スイッチング素子の温度上昇を抑制でき、電力損失増加制御を効率良く行うことができる。
【0019】
本発明に係る動力出力装置の制御方法は、電力が入出力される電池と、電池電圧を検出する電圧検出手段と、電池から電力供給を受けて動力を出力するとともに発電機能を有する回転電機と、電池と回転電機との間に電気的に接続されて両者間での電力のやりとりの際に内包するスイッチング素子により電力変換を行う電力変換器とを備える動力出力装置の制御方法であって、電池電圧が過電圧であるか否かを閾値との比較により判定し、過電圧であると判定された場合にスイッチング素子を駆動する駆動回路に含まれるゲート抵抗を低い抵抗値のものから高い抵抗値のものに切り替える、および/または、スイッチング素子を駆動する駆動回路から印加されるゲート電圧を低下させることにより、スイッチング素子における電力損失を増加させる電力損失増加制御を行うことを特徴とする。
【0020】
この方法によれば、本発明に係る動力出力装置と同様に、通常時は極小であることが望まれるスイッチング素子の電力損失をあえて増加させることで、スイッチング素子による電力損失量に応じて電池印加電圧を低減することができ、電池への過大電圧印加を抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る動力出力装置およびその制御方法によれば、スイッチング素子による電力損失量を増加させることで電池印加電圧を低減し、電池への過大電圧印加を抑制することができる。これにより、過電圧が印加されることで電池がダメージを受けて短寿命化するのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。なお、下記においては、本発明の実施形態がハイブリッド車両に適用される場合を例示して説明するが、これに限定されず、本発明に係る動力出力装置は回転電機またはモータジェネレータのみを走行用動力源とする電気自動車に適用されてもよい。
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態である動力出力装置を搭載したハイブリッド車両10の概略構成を示す図である。図1において、動力伝達系は実線で、電力ラインは一点鎖線で、信号ラインは点線でそれぞれ示されている。ハイブリッド車両10は、走行用の動力を出力可能なエンジン12と、回転電機である2つの3相交流同期型モータジェネレータ(以下、単に「モータ」という。)MG1,MG2と、動力分配統合機構14とを備える。
【0024】
エンジン12は、ガソリン、軽油、可燃性ガス等を燃料として動力を出力する内燃機関である。エンジン12は、エンジン用ECU(Electronic Control Unit)(以下、「エンジンECU」という。)16と電気的に接続されており、エンジンECU16からの制御信号を受けて燃料噴射、点火、吸引空気量、吸気バルブおよび排気バルブの開閉等が制御されるようになっている。エンジン12の回転数Neは、エンジン12から動力を出力する出力軸13に近接して設けられた回転位置センサ11から入力される検出値に基づいてエンジンECU16において算出される。
【0025】
動力分配統合機構14は、中心部に配置されるサンギヤ18と、サンギヤ18と同心上に配置され円環内周部に内歯を有するリングギヤ20と、サンギヤ18およびリングギヤ20の両方に噛合する複数のキャリア22とを含んで構成される遊星歯車機構からなっている。複数のキャリア22は、キャリア支持部材26の端部にそれぞれ回転可能に取り付けられている。
【0026】
動力分配統合機構14において、キャリア支持部材26に連結されるキャリア軸28にはトルク衝撃緩和用のダンパ24を介してエンジン12の出力軸13が連結され、サンギヤ18にはモータMG1のロータ29に接続される回転軸30が連結され、リングギヤ20にはリングギヤ軸32を介して減速機34が連結されている。
【0027】
上記動力分配統合機構14では、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア軸28を介してキャリア22に入力されるエンジン12からの動力がサンギヤ18側とリングギヤ20側とにそのギヤ比に応じて分配され、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア軸28を介してキャリア22に入力されるエンジン12の動力とサンギヤ18から入力されるMG1からの動力とが統合されてリングギヤ20からリングギヤ軸32を介して所定減速比のギヤ列を含む減速機34へ入力されるようになっている。
【0028】
モータMG2のロータ36に接続される回転軸38もまた減速機34に接続されており、モータMG2が電動機として機能するときにはモータMG2からの動力が減速機34へ入力されるようになっている。
【0029】
リングギヤ軸32およびモータMG2の回転軸38の少なくとも一方から入力される動力は、減速機34を介して車軸40へ伝達され、これにより車輪42が回転駆動される。一方、回生制動時に車輪42および車軸40から減速機34を介して回転軸38に動力が入力されるとき、モータMG2は発電機として機能する。ここで、回生制動時は、運転者がブレーキ操作を行って車両速度を減速した場合に限らず、運転者がアクセルペダルの踏み込みを解除して車両加速を中止した場合や、車両が下り坂を重力作用によって走行している場合等を含む。
【0030】
モータMG1,MG2は、それぞれ対応するインバータ44,46に電気的にそれぞれ接続され、各インバータ44,46は、DC/DCコンバータ(以下、単に「コンバータ」という。)48を介してバッテリ(電池)50に電気的に接続されている。バッテリ50は、リチウムイオン電池等の二次電池が好適に用いられる。また、バッテリに代えて、化学反応を伴わないキャパシタが電池に代わる蓄電装置として用いられてもよい。なお、インバータ44,46およびコンバータ48については後に詳述する。
【0031】
モータMG1,MG2が電動機として機能するとき、バッテリ50から平滑コンデンサ52を介して供給される直流電圧Vbがコンバータ48で出力電圧Vcに昇圧されてから、平滑コンデンサ54を介してインバータ44,46に入力され、インバータ44,46で交流電圧に変換されてモータMG1,MG2に入力される。
【0032】
逆に、モータMG1,MG2が発電機として機能するとき、バッテリ50が充電制限されていないことを条件に、モータMG1,MG2から出力される発電電力はインバータ44,46で交流電圧から直流電圧に変換されて後、コンバータ48で降圧してバッテリ50に充電される。また、インバータ44,46は、コンバータ48に接続される電力ライン56および接地ライン58を共通にしていることから、モータMG1,MG2のうち一方のモータで発電した電力がコンバータ48を介さずに他方のモータに供給されて回転駆動または力行させることもできる。
【0033】
さらに、モータMG1は、印加する交流電圧を調整してトルク制御することにより、エンジン回転数を連続的に変速し得る無段変速機として機能し得る。
【0034】
インバータ44,46は、モータ用ECU(以下、モータECUという。)60にそれぞれ電気的に接続されている。モータMG1,MG2は、モータECU60から送信される制御信号に基づいてそれぞれ作動制御される。また、モータMG1,MG2には、各ロータ29,36の回転角を検出する回転角センサ31,37が設けられている。各回転角センサ31,37による検出値は、モータECU60に入力されて各モータ回転数Nm1,Nm2を算出するために用いられる。
【0035】
バッテリ50には、端子間電圧Vbを検出するための電圧センサ(電圧検出手段)51と、バッテリ電流Ibを検出するための電流センサ62が設けられている。電圧センサ51の検出値であるバッテリ電圧Vbおよび電流センサ62の検出値であるバッテリ電流Ibの各情報は、バッテリ用ECU(以下、「バッテリECU」という。)64に入力される。また、バッテリECU64には、図示しない温度センサによって検出されるバッテリ温度等が入力されるようになっている。バッテリECU64は、電流センサ62により検出される充放電電流の積算値に基づいてバッテリ残容量SOC(State Of Charge)が適正な制御範囲内に維持されるように監視しており、制御範囲上限近傍では入力制限信号を、制御範囲下限近傍では出力制限および充電要求の信号を後述するハイブリッド用ECUへ送信する。また、バッテリECU64は、電圧センサ51から受信したバッテリ電圧Vbの情報をハイブリッド用ECUへ送信する。
【0036】
エンジンECU16、モータECU60およびバッテリECU64は、ハイブリッド用ECU(以下「ハイブリッドECU」という)66に電気的に接続されている。ハイブリッドECU66は、制御プログラムを実行するCPU、制御プログラム等を格納するROM、各種検出値を随時に読み出しおよび書換え可能に記憶するRAM等から構成されている。ハイブリッドECU66は、エンジン12およびモータMG1,MG2を統括的に作動制御すると共にバッテリ50の残容量SOCやバッテリ電圧Vbを管理する機能を有する。
【0037】
ハイブリッドECU66は、エンジンECU16との間で、必要に応じてエンジン制御信号を送信し、必要に応じてエンジン作動状態に関するデータ(例えばエンジン回転数Ne等)を受信する。また、ハイブリッドECU66は、モータECU60との間で、必要に応じて要求トルク指令Tr*を送信し、必要に応じてモータ作動状態に関するデータ(例えばモータ回転数Nm1,Nm2、モータ電流Ib等)を受信する。さらに、ハイブリッドECU66は、バッテリECU64からバッテリ残容量SOC、バッテリ電圧Vb、バッテリ温度、入力制限信号、および出力制限信号等のバッテリ管理に必要なデータを受信する。
【0038】
ハイブリッドECU66には、また、車速センサ68およびアクセル開度センサ70が電気的に接続されており、ハイブリッド車両10の走行速度である車速Svと、図示しないアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Acとがそれぞれ入力される。
【0039】
続いて、図2を参照して第1実施形態の動力出力装置1について説明する。図2は、動力出力装置1の構成を概略的に示す図である。動力出力装置1は、電力が入出力されるバッテリ50と、バッテリ電圧vbを検出する電圧センサ51と、電力変換器としてのインバータ46およびコンバータ48と、バッテリ50から電力供給を受けて動力を出力するとともに発電機能を有するモータMG2と、インバータ46およびコンバータ48に含まれるスイッチング素子等を制御するモータECU60とを含んで構成される。
【0040】
なお、主として発電機として機能するモータMG1とそのためのインバータ44を動力出力装置1に含めていないが、上述したようにモータMG1からも走行用動力を出力可能であるため、モータMG1とそのためのインバータ44も動力出力装置に含めてもよい。
【0041】
図2に示すように、バッテリ50とコンバータ48とを接続する電力ライン72および接地ライン74には、システムメインリレーSMR1,SMR2が設けられており、モータECU60からの制御信号を受けてオン・オフ制御されることで動力出力装置1が作動または作動停止する。
【0042】
コンバータ48は、ダイオードD1,D2がそれぞれ逆並列接続されている2つの電力用スイッチング素子E1,E2が直列接続されるとともに、リアクトルLの一方端が電力ライン72に接続され他方端がスイッチング素子E1,E2の接続中間点に接続されて構成される。モータECU60からの駆動信号S1,S2を受けてスイッチング素子E1,E2がオン・オフ制御されることで、バッテリ50から供給される直流電圧を昇圧してインバータ46へ供給し、逆に、インバータ46から供給される直流電圧をバッテリ充電用に降圧することができる。
【0043】
インバータ46は、電力ライン76および接地ライン74の間に互いに並列に設けられるU相アーム80、V相アーム82、およびW相アーム84を含む。各相アーム80〜84は、直列接続された2つのスイッチング素子と、各スイッチング素子に対して逆並列にそれぞれ接続された2つのダイオードとからそれぞれ構成される。
【0044】
詳細には、U相アーム80はスイッチング素子E3,E4およびダイオードD3,D4からなり、V相アーム82はスイッチング素子E5,E6およびダイオードD5,D6からなり、W相アーム84はスイッチング素子E7,E8およびダイオードD7,D8からなっている。そして、各相アーム80〜84の中間点がモータMG2の各相コイル端子にそれぞれ電気的に接続されている。
【0045】
インバータ46は、各スイッチング素子E3〜E8は、モータECU60からの駆動信号を受けてそれぞれオン・オフ制御されることにより、力行時にはコンバータ48から供給される直流電圧を交流変換してモータMG2に印加し、逆に、回生制動時にはモータMG2で発電される交流電力を直流変換してコンバータ48へ供給することができる。
【0046】
上記コンバータ48およびインバータ46の各スイッチング素子E1〜E8には、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が好適に用いられるが、これ以外にパワーMOSFETやパワートランジスタなどを用いることができる。
【0047】
図3に示すように、各スイッチング素子E1〜E8には、駆動回路86がそれぞれ接続されている。駆動回路86は、コレクタが駆動電源88(電圧値V1)に接続されベースにモータECU60からの駆動信号S1〜Sが入力されるnpn型トランジスタ90と、エミッタが接地されベースにモータECU60からの駆動信号S1〜Sが入力されるpnp型トランジスタ91と、エミッタ−コレクタ間で互いに接続される2つのトランジスタ90,91の中間点に一端側が接続される抵抗切替スイッチ92と、一端側が抵抗切替スイッチ92に接続可能であって他端側がスイッチング素子E1〜E8のゲートに接続される第1および第2のゲート抵抗104,106とを含んで構成される。ここで、第1のゲート抵抗104の抵抗値R1は第2のゲート抵抗106の抵抗値R2よりも大きく設定されている。また、抵抗切替スイッチ92は、ハイブリッドECU66からモータECU60を介して送信される抵抗切替信号を受けて、第1または第2のゲート抵抗104,106に接続するように切り替えられるようになっている。なお、第1および第2のゲート抵抗104,106とその切替手段を除く駆動回路の他の構成は、IGBT等のスイッチングに適用可能な公知のどのような構成のものが用いられてもよい。
【0048】
図4に示すように、各スイッチング素子E1〜E8のパッケージ上には温度センサ94が配置されており、温度センサ94によって検出されるインバータ用スイッチング素子温度Tiおよびコンバータ用スイッチング素子温度TcがモータECU60を介してハイブリッドECU66へ送信される。また、駆動回路86が実装されるプリント基板96は、スイッチング素子E1〜E8との電気的接続を容易かつ切断しにくくするために近接して配置されるのが好ましい。
【0049】
さらに、スイッチング素子E1〜E8は、絶縁性高伝熱部材(例えば、セラミック板、グリス等)97を介して冷却器98上に固定されている。冷却器98内を流れる例えばロングライフクーラント等の冷却媒体は、スイッチング素子E1〜E8で電力損失により発生した熱を伝熱部材97を介して吸熱して温度上昇したのち、ラジエータ100を通過する際に放熱することにより温度が低下し、それからポンプ102によって送り出されることにより冷却器98との間を循環流通している。ハイブリッドECU66は、ポンプ102の作動も制御可能であり、ポンプ102の回転数を上げて冷却媒体流通量を増加させることにより、スイッチング素子E1〜E8の冷却性能を向上させることができる。
【0050】
次に、上記構成からなる動力出力装置の動作および制御について図5も参照しつつ説明する。図5は、ハイブリッドECU(制御部)66において実行されるインバータ46の電力損失増加制御の処理手順を示すフローチャートである。この電力損失増加制御のプログラムは、例えば数msec毎にROMから読み出されてCPUにより実行される。ただし、コンパレータ等のハードウエア構成を用いて同様の電力損失増加制御が実現されてもよい。
【0051】
まず、バッテリ電圧Vbが閾値Vthよりも大きいか否かが判定される(ステップS10)。前記閾値Vthは、バッテリ50がダメージを受けることとなる過電圧を判定するための比較基準値であり、バッテリ50の仕様に応じて規定されるものである(以後、同様)。バッテリ電圧Vbが閾値Vthよりも大きくないと判定されると(ステップS10でNO)、そのまま処理を終了する。一方、バッテリ電圧Vbが閾値Vthよりも大きいと判定されると(ステップS10でYES)、抵抗切替信号Srを送信して抵抗切替スイッチ92を通常時の第2のゲート抵抗106から第1のゲート抵抗104へと切り替えてゲート抵抗をR1に設定する(ステップS12)。
【0052】
図6に、スイッチング素子E3〜E8の電流および電圧特性を示す。上記のように抵抗値が大きい第1のゲート抵抗104に切り替えられることで、スイッチング素子E3〜E8におけるスイッチング速度(すなわちオン速度およびオフ速度)が遅くなる。これにより、図6中に一点鎖線108で示すように、スイッチング素子E3〜E8に流れる電流Ieの立上がり及び立下りが緩やかになってターンオン期間およびターンオフ期間が長くなり、その結果、スイッチング時の電力損失すなわちスイッチング損失が大きくなる。
【0053】
このように、バッテリ電圧Vbが過電圧になったときにスイッチング素子E3〜E8におけるオンオフ時のスイッチング損失を増加させる電力損失増加制御を実行することにより、通常時は極小であることが望まれるスイッチング素子E3〜E8の電力損失をあえて増加させることで、スイッチング素子E3〜E8による電力損失量に応じてバッテリ印加電圧を低減することができ、バッテリ50への過大電圧印加を抑制することができる。
【0054】
ここで、図示していないが、ハイブリッドECU66は、ゲート抵抗の切り替えによる電力損失増加制御の実行に併せて、冷却器98によるスイッチング素子E3〜E8の冷却性能を高めるべく、冷却媒体の温度にかかわらずポンプ102の回転数を上げる制御を実行するのが好ましい。これにより、スイッチング損失増加に伴って発熱量が大きくなるスイッチング素子E3〜8の温度上昇を抑制でき、上記電力損失増加制御を効率良く行うことができる。
【0055】
それから、温度センサ94によって検出されるスイッチング素子E3〜E8の温度Tiが許容温度Timax(例えば150℃)よりも高いか否かが判定され(ステップS14)、許容温度上限Timax以下であれば(ステップS14でNO)、上記電力損失増加制御が継続される(ステップS12)。一方、スイッチング素子E3〜E8の温度Tiが許容温度Timaxを超えると(ステップS14でYES)、抵抗切替信号Srを送信して抵抗切替スイッチ92を第1のゲート抵抗104から第2のゲート抵抗106へ切り替えてゲート抵抗値を通常値であるR2に設定し(ステップS16)、処理を終了する。これにより、スイッチング素子E3〜E8が許容温度Timaxを超えて温度上昇することによる破損を防止できる。
【0056】
(第2の実施形態)
次に、図6〜8を参照して第2の実施形態の動力出力装置2について説明するが、ここでは第1の実施形態と異なる点についてのみ説明する。図7は、第2の実施形態の動力出力装置2における各スイッチング素子E1〜E8の駆動回路87を示す図である。駆動回路87は、コレクタが電源切替スイッチ93を介して第1の駆動電源88または第2の駆動電源89に接続されベースにモータECU60からの駆動信号S1〜Sが入力されるnpn型トランジスタ90と、エミッタが接地されベースにモータECU60からの駆動信号S1〜Sが入力されるpnp型トランジスタ91と、エミッタ−コレクタ間で互いに接続される2つのトランジスタ90,91の接続中間点に一端側が接続され他端側がスイッチング素子E1〜E8のゲートに接続されるゲート抵抗105とを含んで構成される。なお、第1および第2の駆動電源88,89とその切替手段を除く駆動回路の他の構成は、IGBT等のスイッチングに適用可能な公知のどのような構成のものが用いられてもよく、上記ゲート抵抗105は省略されてもよい。
【0057】
上記第1の駆動電源88の電圧値V1は、スイッチング素子E1〜E8をオン作動させるのに足りるものの、通常時に用いる第2の駆動電源89の電圧値V2よりも低く設定されている。また、電源切替スイッチ93は、ハイブリッドECU66からモータECU60を介して送信される電源切替信号Svを受けて、いずれかの駆動電源88または89に接続するように切り替えられるようになっている。その他の構成については上記動力出力装置1と同様であるので、同一要素に同一符号を付して重複することとなる説明を省略する。
【0058】
続いて、上記構成からなる動力出力装置2の動作および制御について図8も参照しつつ説明する。図8は、ハイブリッドECU66において実行されるインバータ46の電力損失増加制御の処理手順を示すフローチャートである。この電力損失増加制御のプログラムは、例えば数msec毎にROMから読み出されてCPUにより実行される。
【0059】
まず、バッテリ電圧Vbが閾値Vthよりも大きいか否かが判定される(ステップS20)。バッテリ電圧Vbが閾値Vthよりも大きくないと判定されると(ステップS20でNO)、そのまま処理を終了する。一方、バッテリ電圧Vbが閾値Vthよりも大きいと判定されると(ステップS20でYES)、電源切替信号Svを送信して電源切替スイッチ93を通常時の第2の駆動電源89から第1の駆動電源88へと切り替えてゲート電圧をV1に設定する(ステップS22)。
【0060】
上記のようにスイッチング素子E3〜E8においてゲート電圧をV2からV1に低下させると、図6に示すように、スイッチング素子E3〜E8の飽和電圧Vsatが二点鎖線110へと上昇し、その分だけスイッチング素子E3〜E8におけるオン期間中の電力損失すなわちオン損失が大きくなる。このように、スイッチング素子E3〜E8のオン損失を増加させる電力損失増加制御を実行することにより、通常時は極小であることが望まれるスイッチング素子E3〜E8の電力損失をあえて増加させることで、スイッチング素子E3〜E8による電力損失量に応じてバッテリ印加電圧を低減することができ、バッテリ50への過大電圧印加を抑制することができる。
【0061】
なお、冷却器98によるスイッチング素子E3〜E8の冷却性能を高めるべく、冷却媒体の温度にかかわらずポンプ102の回転数を上げる制御を実行するのが好ましいことは、上記第1の実施形態の場合と同様である。
【0062】
それから、温度センサ94によって検出されるスイッチング素子E3〜E8の温度Tiが許容温度Timax(例えば150℃)よりも高いかが判定され(ステップS24)、許容温度上限Timax以下であれば(ステップS24でNO)、上記電力損失増加制御が継続される(ステップS22)。一方、スイッチング素子E3〜E8の温度Tiが許容温度Timaxを超えると(ステップS24でYES)、電源切替信号Svを送信して電源切替スイッチ93を第1の駆動電源88から第2の駆動電源89に切り替えて駆動電圧を通常値であるV2に設定し(ステップS26)、処理を終了する。これにより、スイッチング素子E3〜E8が許容温度Timaxを超えて温度上昇することによる破損を防止できる。
【0063】
なお、上記第2の実施形態では駆動回路87中にゲート抵抗105を1つだけ設けるものとして説明したが、上記第1の実施形態の場合と同様に抵抗値が異なる2つの抵抗器を切替可能に設けてスイッチング損失も併せて生じさせる電力損失増加制御を実行してもよい。
【0064】
(第3の実施形態)
次に、図9のフローチャートを参照して第3の実施形態の動力出力装置における電力損失増加制御について説明する。なお、第3の実施形態の動力出力装置の構成は、第2の実施形態の動力出力装置2と同様であるため、その記述を援用することにより重複することとなる説明を省略する。
【0065】
図9を参照すると、まず、バッテリ電圧Vbが閾値Vthよりも大きいか否かが判定される(ステップS30)。バッテリ電圧Vbが閾値Vthよりも大きくないと判定されると(ステップS30でNO)、そのまま処理を終了する。
【0066】
一方、バッテリ電圧Vbが閾値Vthよりも大きいと判定されると(ステップS30でYES)、続いて、温度センサ94で検出されるインバータ46のスイッチング素子E3〜E8の温度Tiとコンバータ48のスイッチング素子E1,E2の温度Tcとを比較し(ステップS32)、より低温のスイッチング素子温度である電力変換器で下記の電力損失増加制御を実行する。ここでのスイッチング素子温度の比較では、インバータ46で4つ、コンバータ48で2つのスイッチング素子について最も低温のスイッチング素子温度同士を比較してもよいし、あるいは、それぞれ平均温度を求めて比較してもよい。
【0067】
インバータ46のスイッチング素子温度Tiがコンバータ48のスイッチング素子温度Tc以下であると判定されると(ステップS32でNO)、上記第2の実施形態の場合のステップS22〜S26と同様に、インバータ46のスイッチング素子E3〜E8においてゲート電圧低下によるオン損失増加制御を実行する(ステップS34,S35,S36)。一方、インバータ46のスイッチング素子温度Tiがコンバータ48のスイッチング素子温度Tcよりも高いと判定されると(ステップS32でYES)、上記第2の実施形態の場合のステップS22〜S26と同様のゲート電圧低下によるオン損失増加制御をコンバータ48のスイッチング素子E1,E2で実行する(ステップS40,S42,S44)。このように、より低温のスイッチング素子でオン損失増加制御を実行することで、スイッチング素子温度が許容温度を超えて高温になって破損するのをより有効に防止できる。
【0068】
なお、第3の実施形態における電力損失増加制御についても、上記第1の実施形態の場合と同様に抵抗値が異なる2つの抵抗器を切替可能に設けてスイッチング損失も併せて生じさせる電力損失増加制御を実行してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態である動力出力装置が搭載されるハイブリッド車両の全体概略構成図である。
【図2】図1の動力出力装置の概略構成を示す図である。
【図3】スイッチング素子の駆動回路を示す図である。
【図4】スイッチング素子の冷却構造を示す図である。
【図5】第1の実施形態における電力損失増加制御を示すフローチャートである。
【図6】スイッチング素子の電流および電圧の特性を示す図である。
【図7】第2の実施形態の動力出力装置におけるスイッチング素子の駆動回路を示す図である。
【図8】第2の実施形態における電力損失増加制御を示すフローチャートである。
【図9】第3の実施形態における電力損失増加制御を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
1,2 動力出力装置、10 ハイブリッド車両、11 回転位置センサ、12 エンジン、13 出力軸、14 動力分配統合機構、16 エンジンECU、18 サンギヤ、20 リングギヤ、22 キャリア、24 ダンパ、26 キャリア支持部材、28 キャリア軸、29,36 ロータ、30,38 回転軸、31,37 回転角センサ、32 リングギヤ軸、34 減速機、40 車軸、42 車輪、44,46 インバータ、48 コンバータ、50 バッテリ、51 電圧センサ、52,54 平滑コンデンサ、56,72 電力ライン、58,74 接地ライン、60 モータECU、62 電流センサ、64 バッテリECU、66 ハイブリッドECU、68 車速センサ、70 アクセル開度センサ、80 U相アーム、82 V相アーム、84 W相アーム、86,87 駆動回路、88,89 駆動電源、90 トランジスタ、92 抵抗切替スイッチ、93 電源切替スイッチ、94 温度センサ、96 プリント基板、97 伝熱部材、98 冷却器、100 ラジエータ、102 ポンプ、104,105,106 ゲート抵抗、D1−D8 ダイオード、E1−E8 スイッチング素子、MG1,MG2 モータジェネレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力が入出力される電池と、電池電圧を検出する電圧検出手段と、電池から電力供給を受けて動力を出力するとともに発電機能を有する回転電機と、電池と回転電機との間に電気的に接続されて両者間での電力のやりとりの際に電力変換を行う電力変換装置と、電力変換装置に含まれるスイッチング素子を制御する制御部と、を備える動力出力装置であって、
制御部は、電池電圧が過電圧であるか否かを閾値との比較により判定し、過電圧であると判定された場合にスイッチング素子におけるオンオフ時のスイッチング損失および/またはオン損失を増加させる電力損失増加制御を行うように構成されていることを特徴とする動力出力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力出力装置において、
制御部は、前記スイッチング素子を駆動する駆動回路に含まれるゲート抵抗を低い抵抗値のものから高い抵抗値のものに切り替えることにより前記電力損失増加制御を実行することを特徴とする動力出力装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の動力出力装置において、
制御部は、前記スイッチング素子を駆動する駆動回路から印加されるゲート電圧を低下させることにより前記電力損失増加制御を実行することを特徴とする動力出力装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の動力出力装置において、
前記スイッチング素子の温度を検出する温度検出手段が設けられており、制御部は、スイッチング素子温度が許容温度よりも低いときに前記電力損失増加制御を実行することを特徴とする動力出力装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の動力出力装置において、
電力変換器は複数あって各電力変換器のスイッチング素子の温度を検出する温度検出手段が設けられており、制御部は温度検出手段によって検出されるスイッチング素子温度がより低温の電力変換器で前記電力損失増加制御を実行することを特徴とする動力出力装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の動力出力装置において、
制御部は、前記電力損失増加制御を実行するときは前記電力変換器についての冷却性能を向上させる制御を併せて実行することを特徴とする動力出力装置。
【請求項7】
電力が入出力される電池と、電池電圧を検出する電圧検出手段と、電池から電力供給を受けて動力を出力するとともに発電機能を有する回転電機と、電池と回転電機との間に電気的に接続されて両者間での電力のやりとりの際に内包するスイッチング素子により電力変換を行う電力変換器と、を備える動力出力装置の制御方法であって、
電池電圧が過電圧であるか否かを閾値との比較により判定し、過電圧であると判定された場合にスイッチング素子を駆動する駆動回路に含まれるゲート抵抗を低い抵抗値のものから高い抵抗値のものに切り替える、および/または、スイッチング素子を駆動する駆動回路から印加されるゲート電圧を低下させることにより、スイッチング素子における電力損失を増加させる電力損失増加制御を行うことを特徴とする動力出力装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−119217(P2010−119217A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290791(P2008−290791)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】