説明

半導体装置

【課題】消費電力が低減された半導体装置を提供することである。
【解決手段】入力電位および基準電位が入力される差動増幅器、利得段および出力電位が出力される出力段を有する半導体装置において、該出力段にオフ状態でのリーク電流が低いトランジスタを配置することで、該利得段から供給される電位が一定に保持される半導体装置である。また、オフ状態でのリーク電流が低いトランジスタとしては、酸化物半導体層を有し、且つ酸化物半導体層にチャネル形成領域を有するトランジスタを用いることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。本明細書において、半導体装置とは、半導体素子または半導体素子を含む装置全般をいい、このような半導体素子として、例えばゲート絶縁型電界効果トランジスタが挙げられる。また、半導体素子を含む半導体回路、表示装置などの電気光学装置、及び電子機器も半導体装置に含まれるものである。
【背景技術】
【0002】
ボルテージフォロアは、入力電位と同等の電位を出力する半導体装置である。また、半導体装置の一例である半導体集積回路において、ボルテージフォロアは、電位生成回路のバッファとして用いることができる。
【0003】
また、2つのボルテージフォロアを用いることで入力された電位信号の保持を実現できる(特許文献1)。
【0004】
一方で、近年、半導体特性を示す金属酸化物(以下、酸化物半導体と呼ぶ。)が注目されている。酸化物半導体はトランジスタに適用することができる(特許文献2及び特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−096594号公報
【特許文献2】特開2007−123861号公報
【特許文献3】特開2007−096055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ボルテージフォロアを電位生成回路のバッファとして用いる場合、該電位生成回路は常に駆動させている。別言すると、該電位生成回路から常に電位信号を入力されるということであり、半導体装置の消費電力の増大に繋がる。
【0007】
そこで、上記を鑑み、本発明の一態様は、消費電力が低減された半導体装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、入力電位(以下、V_inと表記する場合がある。)および基準電位(以下、V_biasと表記する場合がある。)が入力される差動増幅器、出力電位(以下、V_outと表記する場合がある。)を出力する利得段を有する半導体装置において、該利得段にオフ状態でのリーク電流が低いトランジスタを配置することで、V_outが出力される出力端子と電気的に接続されたトランジスタにおけるゲートの電位を一定に保持することができる半導体装置である。
【0009】
本発明の一態様は、V_inおよびV_biasが入力される差動増幅器、V_inと同等のV_outを出力する出力段、該差動増幅器および該出力段の間に設けられて、且つ該差動増幅器および該出力段と電気的に接続される利得段を有する半導体装置において、該出力段にオフ状態でのリーク電流が低いトランジスタを配置することで、V_outが出力される出力端子と電気的に接続されたトランジスタにおけるゲートの電位を一定に保持することができる半導体装置である。
【0010】
オフ状態でのリーク電流が低いトランジスタとしては、例えば酸化物半導体層を有し、且つ酸化物半導体層にチャネル形成領域を有するトランジスタを用いるとよい。
【0011】
また、本明細書において、オフ状態でのリーク電流とは、トランジスタのソースを基準としてゲートに印加される電圧(Vgsまたは単にVgともいう)が、該トランジスタのしきい値電圧より低い場合にソースおよびドレイン間を流れる電流とする。したがって、「トランジスタをオフする」とは、Vgsを該トランジスタのしきい値電圧以下にすることをいう。また、オフ状態でのリーク電流は単にオフ電流ということができる。
【0012】
なお、本明細書において、「電源をオフする」とは、高電位側電源電位線(以下、Vddと表記する場合がある)と低電位側電源電位線(以下、Vssと表記する場合がある)との間に電位差を生じない状態にすることをいう。また、「電源をオンする」とは、高電位側電源電位線と低電位側電源電位線との間に電位差が生じる状態にすることをいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、オフ状態でのリーク電流が低いトランジスタをオフした後は、半導体装置の差動増幅器から供給される電位が保持されるため、入力電位を供給せずとも、該入力電位と同等の電位を出力することができる。したがって、該入力電位を生成する電位生成回路などの周辺回路を停止することができ、消費電力が低減された半導体装置を提供することができる。
【0014】
また、本発明の一態様によれば、オフ状態でのリーク電流が低いトランジスタをオフした後は、基準電位が保持されるため、基準電位を供給せずとも半導体装置を動作させることができる。したがって、該基準電位を生成する回路などの周辺回路を停止することができ、消費電力が低減された半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一態様であるボルテージフォロアの一例を説明する回路図。
【図2】従来のボルテージフォロアの一例を説明する回路図。
【図3】本発明の一態様であるボルテージフォロアの一例を説明する回路図。
【図4】本発明の一態様に係るトランジスタを説明する断面図。
【図5】本発明の一態様に係るトランジスタの作製方法を説明する断面図。
【図6】本発明の一態様に係る酸化物材料の構造を説明する図。
【図7】本発明の一態様に係る酸化物材料の構造を説明する図。
【図8】本発明の一態様に係る酸化物材料の構造を説明する図。
【図9】酸化物半導体を用いたトランジスタにおける電界効果移動度のゲート電圧依存性の計算結果を説明する図。
【図10】酸化物半導体を用いたトランジスタにおけるドレイン電流と電界効果移動度のゲート電圧依存性の計算結果を説明する図。
【図11】酸化物半導体を用いたトランジスタにおけるドレイン電流と電界効果移動度のゲート電圧依存性の計算結果を説明する図。
【図12】酸化物半導体を用いたトランジスタにおけるドレイン電流と電界効果移動度のゲート電圧依存性の計算結果を説明する図。
【図13】計算に用いたトランジスタの断面構造を説明する図。
【図14】酸化物半導体を用いたトランジスタの電気特性を示す図。
【図15】試料1であるトランジスタのBT試験後のVg−Id特性を示す図。
【図16】試料2であるトランジスタのBT試験後のVg−Id特性を示す図。
【図17】酸化物半導体を用いたトランジスタのドレイン電流と電界効果移動度のゲート電圧依存性を説明する図。
【図18】酸化物半導体を用いたトランジスタの電気特性と基板温度依存性を示す図。
【図19】試料Aおよび試料BのXRDスペクトルを示す図。
【図20】本発明の一態様に係るトランジスタを説明する上面図および断面図。
【図21】本発明の一態様に係るトランジスタを説明する上面図および断面図。
【図22】酸化物半導体を用いたトランジスタのオフ電流と測定時基板温度依存性を示す図。
【図23】本発明の一態様である半導体装置を説明する概念図。
【図24】本発明の一態様であるオペアンプの一例を説明する回路図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨およびその範囲から逸脱することなくその形態および詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する本発明の構成において、同一部分または同様な機能を有する部分には、同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0017】
なお、本明細書で説明する各図において、各構成の大きさ、膜の厚さ、または領域は、明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されない。
【0018】
また、本明細書にて用いる第1、第2、第3などの用語は、構成要素の混同を避けるために付したものであり、数的に限定するものではない。そのため、例えば、「第1の」を「第2の」または「第3の」などと適宜置き換えて説明することができる。
【0019】
本明細書において、「AはBと電気的に接続される」または「AはBに電気的に接続される」と記載する場合、A、Bが直接接続されている場合と、AとBとの間に対象物を介して接続されている場合を含む。
【0020】
本明細書において、「ソース」とは、ソース電極、およびソース電極と電気的に接続されている領域または対象物(例えば、ソース領域またはソース端子)などを含むものをいう。「ドレイン」とは、ドレイン電極、およびドレイン電極と電気的に接続されている領域または対象物(例えば、ドレイン領域またはドレイン端子)などを含むものをいう。また、トランジスタのソースおよびドレインは、トランジスタの極性や動作条件等によって替わるため、いずれがソースまたはドレインであるかを特定することが困難である。そこで、ソース端子またはドレイン端子の一方を第1端子、ソース端子またはドレイン端子の他方を第2端子と表記し、区別することとする。なお、「ゲート」と記載する場合は、ゲート電極、およびゲート電極と電気的に接続されている領域または対象物(例えば、ゲート端子)などを含むものとする。
【0021】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様である半導体装置について説明する。図23は、本発明の一態様である半導体装置の概略図である。
【0022】
図23(A)に示した半導体装置は、V_inが入力される第1の入力端子およびV_biasが入力される第2の入力端子と電気的に接続された差動増幅器12と、少なくとも第1のトランジスタ16乃至第4のトランジスタ22を含み、且つV_outが出力される出力端子と電気的に接続された利得段14を有している。差動増幅器12は、VddおよびVssと電気的に接続されている。第1のトランジスタ16の第1端子は、差動増幅器12を介して該第1の入力端子と電気的に接続されており、第1のトランジスタ16の第2端子は、第3のトランジスタ20のゲートと電気的に接続されている。第2のトランジスタ18の第1端子は、差動増幅器12を介して該第2の入力端子と電気的に接続されている。第2のトランジスタ18の第2端子は、第4のトランジスタ22のゲートと電気的に接続されている。第3のトランジスタ20の第1端子は、Vddと電気的に接続されている。第3のトランジスタ20の第2端子および第4のトランジスタ22の第1端子は、出力端子と電気的に接続されている。第4のトランジスタ22の第2端子は、Vssと電気的に接続されている。第1のトランジスタ16および第2のトランジスタ18は、オフ状態におけるリーク電流がチャネル幅1μmあたり1×10−17A以下のトランジスタである。
【0023】
また、図23(A)に示した半導体装置は、第3のトランジスタ20はpチャネル型トランジスタであり、第4のトランジスタ22はn型チャネルであるが、差動増幅器12の回路構成によって、適宜トランジスタの極性を変更することができる。
【0024】
図23(B)に示した半導体装置は、V_inが入力される第1の入力端子およびV_biasが入力される第2の入力端子と電気的に接続された差動増幅器12と、少なくとも第1のトランジスタ16乃至第4のトランジスタ22を含み、且つV_outが出力される出力端子と電気的に接続された出力段15を有し、差動増幅器12および出力段15の間に設けられ、且つ差動増幅器12および出力段15と電気的に接続された利得段13を有している。差動増幅器12および利得段13は、VddおよびVssと電気的に接続されている。第1のトランジスタ16の第1端子は、差動増幅器12および利得段13を介して該第1の入力端子と電気的に接続されており、第1のトランジスタ16の第2端子は、第3のトランジスタ20のゲートと電気的に接続されている。第2のトランジスタ18の第1端子は、差動増幅器12および利得段13を介して該第2の入力端子と電気的に接続されている。第2のトランジスタ18の第2端子は、第4のトランジスタ22のゲートと電気的に接続されている。第3のトランジスタ20の第1端子は、Vddと電気的に接続されている。第3のトランジスタ20の第2端子および第4のトランジスタ22の第1端子は、出力端子と電気的に接続されている。第4のトランジスタ22の第2端子は、Vssと電気的に接続されている。第1のトランジスタ16および第2のトランジスタ18は、オフ状態におけるリーク電流がチャネル幅1μmあたり1×10−17A以下のトランジスタである。
【0025】
また、図23(B)に示した半導体装置は、第3のトランジスタ20はpチャネル型トランジスタであり、第4のトランジスタ22はn型チャネルであるが、差動増幅器12および利得段13の回路構成によって、適宜トランジスタの極性を変更することができる。
【0026】
図23(A)および図23(B)に示した半導体装置は、第1のトランジスタ16および第2のトランジスタ18のゲートの電位を、第1のトランジスタ16および第2のトランジスタ18をオンする電位(以下、V_osgと記載する場合がある)にした状態で、V_inおよびV_biasを入力した後に、第1のトランジスタ16および第2のトランジスタ18をオフすると、第3のトランジスタ20および第4のトランジスタ22におけるゲートの電位を一定に保持することができる。これは、第1のトランジスタ16および第2のトランジスタ18はオフ状態におけるリーク電流が低いため、図23(A)および図23(B)に示した太線部であるノードをフローティングとすることができるからである。
【0027】
次に、本発明の一態様である半導体装置の一例をボルテージフォロアとして説明する。
【0028】
図1は、本発明の一態様であるボルテージフォロアの一形態例を示す。図1に示すボルテージフォロア100は、第1乃至第9のトランジスタを有している。以下に、該第1乃至第9のトランジスタの接続関係を記載する。
【0029】
第1のトランジスタ102の第1端子および第2のトランジスタ104の第1端子は、Vddと電気的に接続されており、第1のトランジスタ102の第2端子は、第1のトランジスタ102のゲート、第2のトランジスタ104のゲート、および第3のトランジスタ106の第1端子と電気的に接続されており、第2のトランジスタ104の第2端子は、第4のトランジスタ108の第1端子と電気的に接続されており、第3のトランジスタ106の第2端子および第4のトランジスタ108の第2端子は、第5のトランジスタ110の第1端子と電気的に接続されており、第5のトランジスタ110の第2端子は、Vssと電気的に接続されている。
【0030】
第6のトランジスタ112の第1端子は、Vddと電気的に接続されており、第7のトランジスタ114の第1端子は、第2のトランジスタ104の第2端子および第4のトランジスタ108の第1端子と電気的に接続されており、第7のトランジスタ114の第2端子は第6のトランジスタ112のゲートと電気的に接続されており、第8のトランジスタ116の第1端子は、第5のトランジスタ110のゲートと電気的に接続されており、第8のトランジスタ116の第2端子は、第9のトランジスタ118のゲートと電気的に接続されており、第9のトランジスタ118の第1端子は、第5のトランジスタ110の第2端子およびVssと電気的に接続されている。
【0031】
第4のトランジスタ108のゲートは、V_inが入力される第1の入力端子と電気的に接続されており、第6のトランジスタ112の第2端子および第9のトランジスタ118の第2端子は、V_outが出力される出力端子と電気的に接続されており、第5のトランジスタ110のゲートは、V_biasが入力される第2の入力端子と電気的に接続されている。
【0032】
第1のトランジスタ102、第2のトランジスタ104および第6のトランジスタ112は、pチャネル型トランジスタであり、第3のトランジスタ106、第4のトランジスタ108および第5のトランジスタ110および第9のトランジスタ118は、nチャネル型トランジスタである。
【0033】
また、第7のトランジスタ114および第8のトランジスタ116は、オフ状態におけるリーク電流(オフ電流)が、チャネル幅1μmあたり1×10−17A以下のトランジスタである。そして、該オフ電流は1×10−18A以下であることが好ましく、さらには1×10−21A以下であることが好ましく、さらには1×10−24A以下であることが好ましい。
【0034】
なお、図中においても、高電位側電源電位線はVddと表記し、低電位側電源電位線はVssと表記する(以下、同様)。
【0035】
ボルテージフォロア100において、第1のトランジスタ102、第2のトランジスタ104、第3のトランジスタ106、第4のトランジスタ108および第5のトランジスタ110を含む回路群を差動増幅器120と呼ぶことにする。
【0036】
また、ボルテージフォロア100において、第6のトランジスタ112、第7のトランジスタ114、第8のトランジスタ116および第9のトランジスタ118を含む回路群を利得段122と呼ぶことにする。なお、ボルテージフォロア100において、利得段122は、出力段としても機能する。
【0037】
ここで、従来のボルテージフォロアの動作について簡略に説明する。該動作を説明するために従来のボルテージフォロアの一形態例を図2に示す。図2に示す従来のボルテージフォロアを構成するトランジスタおよび該トランジスタの接続関係は、ボルテージフォロア100において、第7のトランジスタ114および第8のトランジスタ116を除いた回路構成に相当する。なお、従来のボルテージフォロアの動作についての説明は、ボルテージフォロア100に付した符号を用いて説明する。
【0038】
まず、従来のボルテージフォロアは、電源がオンされた状態、且つV_biasおよびV_inが十分に供給された状態において、利得段122を構成する第6のトランジスタ112のゲートに供給される電位、および第9のトランジスタ118のゲートに供給される電位によって、V_inと同等のV_outが出力される。なお、V_inが十分に供給された状態とは、V_inによって第4のトランジスタ108の第1端子および第2端子間に電流が定常的に流れている状態をいう。V_biasが十分に供給された状態とは、第5のトランジスタ110および第9のトランジスタ118の第1端子および第2端子間に電流が定常的に流れている状態をいう。
【0039】
別言すると、従来のボルテージフォロアは、電源がオンされた状態、且つV_biasおよびV_inが十分に供給された状態において、差動増幅器120から供給された電位によって、V_inと同等のV_outが出力される。
【0040】
それゆえ、V_outを得るために従来のボルテージフォロアは、V_inおよびV_biasが常に供給されている。
【0041】
次に、本発明の一態様に係るボルテージフォロア100の動作について説明する。ボルテージフォロア100は、第7のトランジスタ114および第8のトランジスタ116をオンする電位(V_osg)が、第7のトランジスタ114および第8のトランジスタ116のゲートに十分に供給された状態において、利得段122を構成する第6のトランジスタ112のゲートに供給される電位、および第9のトランジスタ118のゲートに供給される電位によって、V_inと同等のV_outが出力される。なお、V_osgが十分に供給された状態とは、第7のトランジスタ114および第8のトランジスタ116がオンされた状態をいう。
【0042】
別言すると、ボルテージフォロア100は、第7のトランジスタ114および第8のトランジスタ116がオンされた状態において、従来のボルテージフォロアと同様の動作をする。
【0043】
V_inと同等のV_outが定常的に出力された状態で、第7のトランジスタ114および第8のトランジスタ116をオフした(V_osgの供給を止めた)場合、第7のトランジスタ114および第8のトランジスタ116は、上記したオフ電流が低いトランジスタであるため、第7のトランジスタ114の第2端子および第6のトランジスタ112のゲート間(node_1とし、図1の太線部に相当する。)、ならびに第8のトランジスタ116の第2端子および第9のトランジスタ118のゲート間(node_2とし、図1の太線部に相当する。)がフローティングとなる。
【0044】
node_1の電位は、差動増幅器120から供給される電位となり、該電位は第7のトランジスタ114を介して変動しないため、node_1の電位は一定に保持される。また、node_2の電位は、V_biasと同じ電位となり、該電位は第8のトランジスタ116を介して変動しないため、node_2の電位は一定に保持される。
【0045】
それゆえ、V_inと同等のV_outを出力するために必要な第6のトランジスタ112のゲートに供給される電位、および第9のトランジスタ118のゲートに供給される電位をnode_1、およびnode_2に一定に保持させることができる。
【0046】
したがって、ボルテージフォロア100は、V_inおよびV_biasを常に供給しておく必要がなく、V_inおよびV_biasの供給を止めても、電源がオンされていれば、保持されたnode_1の電位および保持されたnode_2の電位をもとに、V_osgの供給を止める直前のV_inと同等のV_outを出力することができる。つまり、V_inおよびV_biasを生成する回路などの周辺回路を停止しても、ボルテージフォロア100を動作させることができるため、ボルテージフォロア100の消費電力を低減することができる。
【0047】
なお、本明細書では、本発明の一態様であるボルテージフォロアにおいて、V_in、V_biasおよびV_osgが十分に供給された状態の後、オフ電流の低いトランジスタをオフし、V_inおよびV_biasの供給を止めてV_inと同等のV_outを出力する動作を、低消費電力動作と呼ぶことにする。
【0048】
ボルテージフォロア100において、低消費電力動作中に出力されるV_outを変えるときは、再度、第7のトランジスタ114および第8のトランジスタ116をオンさせて、所望のV_outと同等のV_inが十分に供給された状態の後、第7のトランジスタ114および第8のトランジスタ116をオフすればよい。
【0049】
また、低消費電力動作中にボルテージフォロア100の電源をオフした場合でも、node_1の電位およびnode_2の電位は一定に保持されていることから、再度電源をオンしたとき、V_in、V_biasおよびV_osgを供給せずとも、電源をオフする直前に出力されていたV_outを再び出力することができる。したがって、ボルテージフォロア100は、再度電源をオンしたときの回路起動が、従来の回路構成に比べて早い。
【0050】
また、ボルテージフォロア100において、第5のトランジスタ110および第9のトランジスタ118は、定電流源として機能する。それゆえ、第5のトランジスタ110および第9のトランジスタ118は抵抗素子などで置き換えることができる。
【0051】
さらに、ボルテージフォロア100において、利得段122にオフ状態でのリーク電流が低いトランジスタを配し、差動増幅器から供給される電位を保持することができれば、定電流源として機能するトランジスタ(第5のトランジスタ110および第9のトランジスタ118)は、Vssと電気的に接続された構成に限定されるものではない。つまり、定電流源として機能するトランジスタは、Vddと電気的に接続されている回路構成のボルテージフォロアについても、本発明の一態様に含まれる。なお、定電流源として機能するトランジスタをVddと電気的に接続させることに伴って、差動増幅器120および利得段122を構成する他のトランジスタの接続関係は適宜変更する。
【0052】
第7のトランジスタ114および第8のトランジスタ116として適用できる上記オフ電流の値を有するトランジスタは、酸化物半導体層などのワイドギャップ半導体層にチャネル形成領域を有するトランジスタが挙げられる。さらに、該酸化物半導体は、キャリアの供与体となる水素を極めて低濃度にまで低下させることが好ましい。したがって、酸化物半導体層におけるチャネル形成領域の水素濃度は、5×1019/cm以下、さらに5×1018/cm以下であり、且つ化学量論的組成比に対して酸素の組成比が過剰であることが好ましい。なお、チャネル形成領域を構成する酸化物半導体中の水素濃度測定は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)で行ったものである。
【0053】
また、酸化物半導体層としては、少なくともインジウム(In)あるいは亜鉛(Zn)とを含む金属酸化物で形成されていることが好ましい。特にInとZnを含むことが好ましい。また、該酸化物半導体を用いたトランジスタの電気特性のばらつきを減らすためのスタビライザーとして、それらに加えてガリウム(Ga)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてスズ(Sn)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてハフニウム(Hf)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてアルミニウム(Al)を有することが好ましい。
【0054】
また、他のスタビライザーとして、ランタノイドである、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のいずれか一種あるいは複数種を有してもよい。
【0055】
なお、酸化物半導体層のキャリア濃度は1.0×1014/cm未満まで小さくすることが好ましい。キャリア濃度を小さくすることで、トランジスタのオフ電流を低くすることができる。
【0056】
ボルテージフォロア100において、第1のトランジスタ102、第2のトランジスタ104、第3のトランジスタ106、第4のトランジスタ108、第5のトランジスタ110、第6のトランジスタ112および第9のトランジスタ118は、用いる半導体材料に制限はない。例えば、シリコン半導体材料を用いて形成すればよい。
【0057】
なお、第3のトランジスタ106、第4のトランジスタ108、第5のトランジスタ110および第9のトランジスタ118として、上記した酸化物半導体などのワイドギャップ半導体をチャネル形成領域に適用したトランジスタを配してもよい。
【0058】
以上より、本発明の一態様の半導体装置であるボルテージフォロアは、従来と比べて消費電力が低減されている。また、該ボルテージフォロアを有する半導体装置においても、消費電力が低減される。
【0059】
なお、本発明の一態様の半導体装置であるボルテージフォロアは、利得段にオフ状態でのリーク電流が低いトランジスタを配置することで、差動増幅器から供給される電位が一定に保持できれば、本実施の形態に記載した回路構成に限定されない。例えば、差動増幅器および利得段において、新たにトランジスタを設けてもよい。
【0060】
なお、本実施の形態の内容または該内容の一部は、他の実施の形態の内容もしくは該内容の一部と自由に組み合わせることが可能である。
【0061】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1とは一部構成が異なる半導体装置の一構成例について説明する。
【0062】
実施の形態1で説明したボルテージフォロア100は、差動増幅器120および利得段122の2段で構成されているが、本発明の一態様であるボルテージフォロアは該構成に限定されるものではない。例えば、差動増幅器および出力段の間に利得段が設けられた構成であってもよい。
【0063】
例えば、差動増幅器230、利得段232および出力段234の3段で構成されるボルテージフォロアの一構成例であるボルテージフォロア200を図3に示す。なお、ボルテージフォロア200は、ボルテージフォロア100の変形例といえることから、図3にはボルテージフォロア100に付した符号を適宜用いることにする。
【0064】
図3に示すボルテージフォロア200は、第1乃至第13のトランジスタおよび1の容量素子を有している。以下に、該トランジスタおよび該容量素子の接続関係を記載する。
【0065】
第1のトランジスタ202の第1端子および第2のトランジスタ204の第1端子は、Vddに電気的に接続されており、第1のトランジスタ202の第2端子は、第1のトランジスタ202のゲートおよび第2のトランジスタ204のゲート、ならびに第3のトランジスタ206の第1端子と電気的に接続されており、第2のトランジスタ204の第2端子は、第4のトランジスタ208の第1端子に電気的に接続されており、第3のトランジスタ206の第2端子および第4のトランジスタ208の第2端子は、第5のトランジスタ210の第1端子と電気的に接続されており、第5のトランジスタ210の第2端子は、Vssに電気的に接続されている。
【0066】
第6のトランジスタ212の第1端子は、Vddに電気的に接続されており、第2のトランジスタ204の第2端子および第4のトランジスタ208の第1端子は、第6のトランジスタ212のゲートおよび容量素子214の一方の電極と電気的に接続されており、第6のトランジスタ212の第2端子および容量素子214の他方の電極は、第7のトランジスタ216の第1端子および第7のトランジスタ216のゲートと電気的に接続されており、第7のトランジスタ216の第2端子は、第8のトランジスタ218の第1端子と電気的に接続されており、第8のトランジスタ218の第2端子は、第8のトランジスタ218のゲートおよび第9のトランジスタ220の第1端子と電気的に接続されており、第9のトランジスタ220の第2端子は、Vssと電気的に接続されている。
【0067】
第10のトランジスタ222の第1端子はVddと電気的に接続されており、第11のトランジスタ224の第1端子は、第7のトランジスタ216のゲートと電気的に接続されており、第10のトランジスタ222のゲートは、第11のトランジスタ224の第2端子と電気的に接続されており、第12のトランジスタ226の第1端子は第8のトランジスタ218のゲートと電気的に接続されており、第12のトランジスタ226の第2端子は、第13のトランジスタ228のゲートと電気的に接続されており、第10のトランジスタ222の第2端子は、第13のトランジスタ228の第1端子と電気的に接続されており、第13のトランジスタ228の第2端子は、Vssと電気的に接続されている。
【0068】
第4のトランジスタ208のゲートは、V_inが入力される第1の入力端子と電気的に接続されており、第3のトランジスタ206のゲート、第10のトランジスタ222の第2端子および第13のトランジスタ228の第1端子は、V_outが出力される出力端子と電気的に接続されており、第5のトランジスタ210のゲートおよび第9のトランジスタ220のゲートは、V_biasが入力される第2の入力端子と電気的に接続されている。
【0069】
第1のトランジスタ202、第2のトランジスタ204、第6のトランジスタ212、第8のトランジスタ218および第13のトランジスタ228は、pチャネル型トランジスタであり、第3のトランジスタ206乃至第5のトランジスタ210、第7のトランジスタ216、および第9のトランジスタ220乃至第12のトランジスタ226は、nチャネル型トランジスタである。
【0070】
また、第11のトランジスタ224および第12のトランジスタ226は、オフ状態におけるリーク電流(オフ電流)がチャネル幅1μmあたり1×10−17A以下のトランジスタである。そして、該オフ電流は1×10−18A以下であることが好ましく、さらには1×10−21A以下であることが好ましく、さらには1×10−24A以下であることが好ましい。
【0071】
ボルテージフォロア200において、第1のトランジスタ202、第2のトランジスタ204、第3のトランジスタ206、第4のトランジスタ208および第5のトランジスタ210を含む回路群を差動増幅器230と呼ぶことにする。
【0072】
また、ボルテージフォロア200において、第6のトランジスタ212、容量素子214、および第9のトランジスタ220を含む回路群を利得段232と呼ぶことにする。
【0073】
また、ボルテージフォロア200において、第7のトランジスタ216、第8のトランジスタ218、第10のトランジスタ222、第11のトランジスタ224、第12のトランジスタ226および第13のトランジスタ228を含む回路群を出力段234と呼ぶことにする。
【0074】
ボルテージフォロア200において、第11のトランジスタ224および第12のトランジスタ226がオンされた状態では、従来のボルテージフォロアと同様にV_inと同等のV_outが出力される。
【0075】
V_inと同等のV_outが定常的に出力された状態で、第11のトランジスタ224および第12のトランジスタ226をオフした(V_osgの供給を止めた)場合、第11のトランジスタ224および第12のトランジスタ226は、上記したオフ電流が低いトランジスタであるため、第11のトランジスタ224の第2端子および第10のトランジスタ222のゲート間(node_3とし、図3の太線部に相当する。)、ならびに第12のトランジスタ226の第2端子および第13のトランジスタ228のゲート間(node_4とし、図3の太線部に相当する。)がフローティングとなる。
【0076】
node_3の電位は、利得段232から供給された電位となり、該電位は第11のトランジスタ224を介して変動しないため、node_3の電位は一定に保持される。また、node_4の電位は、V_biasをもとに利得段232から供給される電位となり、該電位は第12のトランジスタ226を介して変動しないため、node_4の電位は一定に保持される。
【0077】
したがって、ボルテージフォロア200は上記した低消費電力動作を行うことができ、ボルテージフォロア200に係る消費電力を低減することができる。
【0078】
例えば、ボルテージフォロア200において、出力段234を構成するトランジスタのチャネル幅(単にトランジスタのサイズともいえる。)が、差動増幅器230を構成するトランジスタのチャネル幅(サイズ)に対して極端に長い(大きい)場合、第10のトランジスタ222のゲート、および第13のトランジスタ228のゲートに、V_inと同等のV_outを出力するための電位を供給するまでに遅延が生じる。
【0079】
その際、差動増幅器230を構成するトランジスタのチャネル幅(サイズ)より長く(大きく)、出力段234を構成するトランジスタのチャネル幅(サイズ)より短い(小さい)トランジスタで構成された利得段232を設けることで、上記遅延の発生を抑制することができる。つまり、ボルテージフォロア200のように、利得段を設けることで遅延を抑制できるため、V_inと同等のV_outを安定して出力させることができる。
【0080】
ボルテージフォロア200において、低消費電力動作中に出力されるV_outを変えるときは、再度、第11のトランジスタ224および第12のトランジスタ226をオンさせて、所望のV_outと同等のV_inが十分に供給された状態とした後、第11のトランジスタ224および第12のトランジスタ226をオフすればよい。なお、V_inが十分に供給された状態とは、V_inによって第4のトランジスタ208の第1端子および第2端子間に電流が定常的に流れている状態をいう。
【0081】
また、低消費電力動作中にボルテージフォロア200の電源をオフした場合においても、ボルテージフォロア100と同様に、再度電源をオンしたとき、電源をオフする直前に出力されていたV_outを出力することができる。したがって、ボルテージフォロア200は、再度電源をオンしたときの回路起動が、従来の回路構成に比べて早い。
【0082】
また、ボルテージフォロア200において、第5のトランジスタ210、第9のトランジスタ220および第13のトランジスタ228は、定電流源として機能する。それゆえ、第5のトランジスタ210、第9のトランジスタ220および第13のトランジスタ228は抵抗素子などで置き換えることができる。ところで、ボルテージフォロア200は、利得段232に設けられた定電流源が抵抗素子に置き換えた場合でも、出力段234に第12のトランジスタ226を設けておくことで、node_4に電位を保持することができ、低消費電力動作させることができる。
【0083】
さらに、ボルテージフォロア200においても、出力段234にオフ状態でのリーク電流が低いトランジスタを配し、利得段232から供給される電位を保持することができれば、定電流源として機能するトランジスタ(第5のトランジスタ210および第9のトランジスタ220)は、Vssと電気的に接続された構成に限定されるものではない。つまり、定電流源として機能するトランジスタは、Vddと電気的に接続されている回路構成のボルテージフォロアについても、本発明の一態様に含まれる。なお、定電流源として機能するトランジスタをVddと電気的に接続させることに伴って、差動増幅器230および出力段234を構成する他のトランジスタの接続関係は適宜変更される。
【0084】
第11のトランジスタ224および第12のトランジスタ226として適用できる上記オフ電流の値を有するトランジスタは、実施の形態1で説明したように、酸化物半導体層などのワイドギャップ半導体層にチャネル形成領域を有するトランジスタである。そのため、第11のトランジスタ224および第12のトランジスタ226において、酸化物半導体層におけるチャネル形成領域の水素濃度は、5×1019/cm以下、さらに5×1018/cm以下であり、且つ化学量論的組成比に対して酸素の組成比が過剰であることが好ましい。また、酸化物半導体層のキャリア濃度は1.0×1014/cm未満まで小さくすることが好ましい。キャリア濃度を小さくすることで、トランジスタのオフ電流を低くすることができる。また、該酸化物半導体層は、実施の形態1で説明した金属酸化物を用いて形成すればよい。
【0085】
ボルテージフォロア200において、第1のトランジスタ202乃至第10のトランジスタ222、および第13のトランジスタ228は、用いる半導体材料に制限はない。例えば、シリコン半導体材料を用いて形成すればよい。
【0086】
なお、第3のトランジスタ206、第4のトランジスタ208、第5のトランジスタ210、第7のトランジスタ216、第9のトランジスタ220および第10のトランジスタ222として、上記した酸化物半導体などのワイドギャップ半導体をチャネル形成領域に適用したトランジスタを配してもよい。
【0087】
また、容量素子214は、導電膜で形成された一対の電極と、該一対の電極の間に設けられた絶縁膜とで構成される。容量素子214は、ボルテージフォロア200を構成するいずれかのトランジスタを形成する工程を用いて形成することができる。
【0088】
以上より、本発明の一態様の半導体装置であるボルテージフォロアは、従来に比べて消費電力が低減されている。また、該ボルテージフォロアを有する半導体装置においても、消費電力が低減される。
【0089】
なお、本発明の一態様の半導体装置であるボルテージフォロアは、出力段にオフ状態でのリーク電流が低いトランジスタを配置することで、利得段から供給される電位が一定に保持できれば、本実施の形態に記載した回路構成に限定されない。例えば、差動増幅器、利得段および出力段において、新たにトランジスタを設けてもよい。
【0090】
また、本発明の一態様の半導体装置をオペアンプ、増幅回路、コンパレータ回路等、様々な用途に応用することができる。
【0091】
例えば、本発明の一態様の半導体装置は、二つの入力間の電位差に応じて出力電位を出力するオペアンプとして用いることができる。
【0092】
オペアンプは、図3に示すボルテージフォロア200の回路構成のうち、第3のトランジスタ206のゲートに供給される電位を、V_outの代わりに新たな電位V_in1を供給する回路構成にすることで実施することができる。例えば、ボルテージフォロア200の第3のトランジスタ206のゲートは、第10のトランジスタ222の第2端子、第13のトランジスタ228の第1端子および出力端子ではなく、V_in1が入力される第3の入力端子と接続することができる(図24参照)。
【0093】
オペアンプの動作を以下に記す。第3のトランジスタ206にゲートに供給される電位(V_in1)と、第4のトランジスタ208にゲートに供給される電位(V_in)との電位差によって、第6のトランジスタ212のゲートに供給される電位は低下する。第6のトランジスタ212のゲートに供給される電位が低下すると、第6のトランジスタ212にはより高いオン電流が流れ(オン状態)、第10のトランジスタ222のゲートに供給される電位は上昇し、それに伴い、第10のトランジスタ222の第2端子の電位(出力端子の電位またはソース電位)、すなわちV_outの電位も上昇する。
【0094】
また、ボルテージフォロアと同様にオペアンプもV_in、V_in1およびV_biasを常に供給しておく必要がなく、V_in、V_in1およびV_biasの供給を止めても、電源がオンされていれば、保持されたnode_3の電位および保持されたnode_4の電位をもとに、供給を止める直前の電位を出力することができる。つまり、V_in、V_in1およびV_biasを生成する回路などの周辺回路を停止しても、オペアンプを動作させることができるため、オペアンプの消費電力を低減することができる。つまり、本発明の一態様であるオペアンプにおいても低消費電力動作をさせることができる。
【0095】
本発明の一態様であるオペアンプにおいて、低消費電力動作中に出力されるV_outを変えるときは、再度、第11のトランジスタ224および第12のトランジスタ226をオンさせて、所望の電位に変化されたV_inおよびV_in1が十分に供給された状態にした後、第11のトランジスタ224および第12のトランジスタ226をオフすればよい。
【0096】
また、低消費電力動作中に本発明の一態様であるオペアンプの電源をオフした場合においても、ボルテージフォロア100およびボルテージフォロア200と同様に、再度、電源をオンしたとき、電源をオフする直前に出力されていたV_outを再び出力することができる。したがって、本発明の一態様であるオペアンプは、再度、電源をオンしたときの回路動作の立ち上がりが、従来の回路構成に比べて早い。
【0097】
なお、本発明の一態様であるオペアンプは、利得段にオフ状態でのリーク電流が低いトランジスタを配置することで、差動増幅器から供給される電位が一定に保持されれば、本実施の形態に記載した回路構成に限定されない。例えば、利得段を複数設けてもよく、差動増幅器、利得段、および出力段において、新たにトランジスタを設けてもよい。
【0098】
以上より、本発明の一態様であるオペアンプは、従来に比べて消費電力が低減されている。また、該オペアンプを有する半導体装置においても、消費電力が低減される。
【0099】
ここで、本発明の一態様である半導体装置において、極めてオフ電流の低いトランジスタを用いる利点について説明する。
【0100】
本発明の一態様である半導体装置は、極めてオフ電流の低いトランジスタが設けられているため、電源をオフする直前に出力されていたV_outを、電源をオンしたときに再び出力することができる。これは、酸化物半導体を用いたトランジスタによって、不揮発性を実現できるためである。
【0101】
また、スピントロニクスを利用した磁気トンネル接合素子(MTJ素子)を用いることで不揮発性の半導体装置を実現できる。MTJ素子は、絶縁膜を介して上下に配置している強磁性体膜の磁化の向きが並行であれば低抵抗状態、反並行であれば高抵抗状態となることで情報を記憶する素子である。このように、MTJ素子を用いて不揮発性を実現することは、本発明の一態様である半導体装置のように酸化物半導体を用いて不揮発性を実現することと、原理が全く異なっている。
【0102】
ここで、不揮発性の半導体装置を実施するにあたり、MTJ素子を用いて実施する場合と、酸化物半導体を用いたトランジスタを用いて実施する場合について、表1に対比を示す。
【0103】
【表1】

【0104】
表1からわかるように、MTJ素子は電流駆動であり、強磁性体膜の磁化の向きを変化させることで電位の入力または保持を行う。一方、酸化物半導体を用いたトランジスタは電圧駆動であり、当該トランジスタのオン状態とオフ状態の切り替えによって電位の入力または保持を行う。
【0105】
なお、理論的には、MTJ素子を用いて実施する場合も、酸化物半導体を用いたトランジスタを用いて実施する場合も、無制限(回数的に)に不揮発性を発揮することができる。
【0106】
MTJ素子は磁性材料を使用するためキュリー温度以上にすると磁性が失われてしまうという欠点がある。また、MTJ素子は電流駆動であるため、シリコンのバイポーラデバイスと相性が良いが、バイポーラデバイスは集積化に不向きである。そして、MTJ素子は書き込み電流が微少とはいえ、集積化することによって消費電力が増大してしまうといった問題がある。
【0107】
半導体装置の高集積化を実現するには、様々な素子を積層して立体的に集積化する方法が用いられる。MTJ素子を用いる半導体装置は立体的に集積化することが難しい。一方、酸化物半導体を用いたトランジスタを有する半導体装置は、積層して立体的に集積化するに好適である。
【0108】
原理的にMTJ素子は磁界耐性に弱く強磁界にさらされると磁化の向きが狂いやすい。また、MTJ素子に用いる磁性体のナノスケール化によって生じる磁化揺らぎを制御する必要がある。
【0109】
さらに、MTJ素子は希土類元素を使用するため、MTJ素子のプロセスを金属汚染を嫌うシリコン半導体のプロセスに組み入れるには相当の注意を要する。MTJ素子は1素子当たりの材料コストから見ても高価であると考えられる。
【0110】
一方、酸化物半導体を用いたトランジスタは、チャネル形成領域を形成する半導体材料が金属酸化物であること以外は、素子構造や動作原理がシリコンMOSFETと同様である。また、酸化物半導体を用いたトランジスタは磁界の影響を受けないといった特質を有する。このことから、本発明の一態様である半導体装置は、MTJ素子を用いて不揮発性を実現する半導体装置より磁界耐性に優れている。また、本発明の一態様である半導体装置はシリコン集積回路と非常に整合性が良いといえる。
【0111】
以上より、不揮発性の半導体装置を実施するためには、極めてオフ電流の低いトランジスタ、特に酸化物半導体を用いたトランジスタを用いることが好ましい。
【0112】
なお、本実施の形態の内容または該内容の一部は、他の実施の形態の内容もしくは該内容の一部と自由に組み合わせることが可能である。
【0113】
(実施の形態3)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した半導体装置を構成するトランジスタの作製方法について説明する。
【0114】
先の実施の形態で説明したボルテージフォロアにおいて、pチャネル型トランジスタおよびnチャネル型トランジスタは、半導体材料を含む基板を用いて一般的な方法により形成すればよい。なお、本実施の形態では、図面の明瞭化のため、半導体基板には一方の極性のトランジスタが形成されているものとする。
【0115】
オフ電流の低いトランジスタは、半導体材料を含む基板を用いてpチャネル型トランジスタおよびnチャネル型トランジスタを形成した後に、これらの上に酸化物半導体を用いたトランジスタを形成する。また、pチャネル型トランジスタおよびnチャネル型トランジスタが設けられた半導体基板700を被形成基板とし、該基板上に、酸化物半導体を用いたトランジスタを設けることで、ボルテージフォロアにおけるトランジスタの占有面積を縮小することが可能であり、ボルテージフォロアの微細化が可能となる。
【0116】
なお、pチャネル型トランジスタまたはnチャネル型トランジスタが設けられた半導体基板700は、ソースおよびドレインとして機能する高濃度不純物領域701、低濃度不純物領域702、ゲート絶縁膜703、ゲート電極704、層間絶縁膜705を有する(図4参照)。
【0117】
酸化物半導体層にチャネル形成領域を有するトランジスタ710は、pチャネル型トランジスタまたはnチャネル型トランジスタが設けられた半導体基板700上に設けられた酸化物半導体層711と、酸化物半導体層711に接して離間して設けられたソース電極712aおよびドレイン電極712bと、少なくとも酸化物半導体層711のチャネル形成領域上に設けられたゲート絶縁膜713と、酸化物半導体層711に重畳してゲート絶縁膜713上に設けられたゲート電極714と、を有する(図4参照)。
【0118】
層間絶縁膜705は、酸化物半導体層711の下地絶縁膜としても機能する。
【0119】
層間絶縁膜705は、少なくとも表面に酸素を含み、酸素の一部が加熱処理により脱離する絶縁性酸化物により形成するとよい。酸素の一部が加熱処理により脱離する絶縁性酸化物としては、化学量論的組成比よりも酸素の組成比が高いものを用いることが好ましい。これは、該加熱処理により、層間絶縁膜705に接する酸化物半導体層711に酸素を供給することができるためである。
【0120】
化学量論的組成比よりも酸素の組成比が高い絶縁性酸化物として、例えば、SiOxにおいてx>2である酸化シリコンが挙げられる。ただし、これに限定されず、層間絶縁膜705は、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化ハフニウムまたは酸化イットリウムなどで形成してもよい。
【0121】
なお、層間絶縁膜705は、複数の膜が積層されて形成されていてもよい。層間絶縁膜705は、例えば、窒化シリコン膜上に酸化シリコン膜が設けられた積層構造であってもよい。
【0122】
化学量論的組成比よりも酸素の組成比が高い絶縁性酸化物では、酸素の一部が加熱処理により脱離しやすい。酸素の一部が加熱処理により脱離しやすいときのTDS分析による酸素の脱離量(酸素原子に換算した値)は、1.0×1018atoms/cm以上、好ましくは1.0×1020atoms/cm以上、より好ましくは3.0×1020atoms/cm以上であるとよい。
【0123】
ここで、TDS分析の方法について説明する。TDS分析における気体の脱離量は、TDSスペクトルの積分値に比例する。このため、酸化物におけるTDSスペクトルの積分値と標準試料の基準値から、気体の脱離量を計算することができる。標準試料の基準値は、ある特定の原子を含む試料(標準試料)におけるスペクトルの積分値に対する原子密度の割合である。
【0124】
例えば、所定の密度の水素を含むシリコンウェハ(標準試料)のTDSスペクトルと酸化物のTDSスペクトルから、酸化物の酸素分子(O)の脱離量(NO2)は、次式で求めることができる。
【0125】
【数1】

【0126】
H2は、標準試料から脱離した水素分子(H)を密度に換算した値である。SH2は、標準試料の水素分子(H)のTDSスペクトルの積分値である。すなわち、NH2/SH2を標準試料の基準値とする。SO2は、絶縁性酸化物の酸素分子(O)のTDSスペクトルの積分値である。αは、TDSスペクトル強度に影響する係数である。上記式の詳細に関しては、特開平06−275697号公報を参照されたい。
【0127】
なお、TDS分析による酸素の脱離量(酸素原子に換算した値)は、電子科学株式会社製の昇温脱離分析装置EMD−WA1000S/Wを用い、標準試料として1×1016atoms/cmの水素原子を含むシリコンウェハを用いて測定した場合の値を示している。
【0128】
なお、TDS分析において、酸素の一部は酸素原子として検出される。酸素分子と酸素原子の比率は、酸素分子のイオン化率から算出することができる。なお、前記係数αは酸素分子のイオン化率を含んでいるため、酸素分子の放出量を評価することで、酸素原子の放出量についても算出することができる。
【0129】
なお、NO2は酸素分子(O)の脱離量である。そのため、酸素原子で換算した酸素の脱離量は、酸素分子(O)の脱離量の2倍である。
【0130】
層間絶縁膜705は、スパッタリング法またはCVD法などにより形成すればよいが、好ましくはスパッタリング法を用いる。層間絶縁膜705として、酸化シリコン膜を形成する場合には、ターゲットとして石英(好ましくは合成石英)ターゲット、スパッタリングガスとしてアルゴンガスを用いればよい。または、ターゲットとしてシリコンターゲット、スパッタリングガスとして酸素を含むガスを用いてもよい。なお、酸素を含むガスとしては、アルゴンガスと酸素ガスの混合ガスでもよいし、酸素ガスのみであってもよい。
【0131】
層間絶縁膜705を形成した後、酸化物半導体層711に加工される酸化物半導体膜を形成する前に第1の加熱処理を行う。第1の加熱処理は、層間絶縁膜705中に含まれる水および水素を除去するための工程である。それゆえ、第1の加熱処理の温度は、層間絶縁膜705中に含まれる水および水素が脱離する温度(脱離量のピークを有する温度)以上pチャネル型トランジスタまたはnチャネル型トランジスタが設けられた半導体基板700の変質または変形する温度未満とするとよく、例えば、後に行う第2の加熱処理よりも低い温度とすればよい。
【0132】
そして、酸化物半導体膜を形成した後、第2の加熱処理を行う。第2の加熱処理は、該酸化物半導体膜を形成した際に混入した水および水素を該酸化物半導体膜から除去するための工程であり、さらには層間絶縁膜705を酸素の供給源として該酸化物半導体膜に酸素を供給する工程である。第2の加熱処理は、例えば、200℃以上半導体基板700の歪み点未満とすることが好ましい。ただし、第2の加熱処理を行うタイミングはこれに限定されず、該酸化物半導体膜を加工して酸化物半導体層711を形成した後に行ってもよい。このように、酸化物半導体膜の水素濃度を低くすることで、トランジスタのしきい値電圧がマイナスにシフトすることを防止できる。
【0133】
また、酸化物半導体膜に酸素を供給する工程として、酸素プラズマによる酸素ドーピング処理、またはイオンインプランテーション法などによる酸素ドーピング処理を行ってもよい。イオンインプランテーション法による酸素ドーピング処理によって、酸化物半導体膜に酸素を過剰に含ませることができる。第2の加熱処理、または第2の加熱処理後の酸素ドーピング処理によって、作製されるトランジスタ710の電気特性のばらつきを低減することができる。
【0134】
なお、第2の加熱処理においては、窒素ガス、またはヘリウム、ネオン若しくはアルゴンなどの希ガスに、水素、水、水酸基または水素化物などが含まれないことが好ましい。または、加熱処理装置に導入する窒素ガス、またはヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガスの純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上、(即ち不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。
【0135】
また、第2の加熱処理の条件、または酸化物半導体膜若しくは酸化物半導体層711の材料によっては、酸化物半導体膜若しくは酸化物半導体層711の結晶性は、単結晶構造または非単結晶構造となる場合がある。非単結晶構造とは、微結晶構造および多結晶構造を含む。例えば、結晶化率が90%以上、または80%以上の微結晶構造の酸化物半導体層である。また、非単結晶構造には、結晶領域を含まない非晶質構造および結晶領域を含む非晶質構造も含む。結晶領域を含む非晶質構造の一例としては、非晶質構造の中に微結晶部(粒径1nm以上20nm以下(代表的には2nm以上4nm以下))が混在する酸化物半導体層である。
【0136】
なお、酸化物半導体膜または酸化物半導体層711の被形成面である層間絶縁膜705の平均面荒さ(Ra)は、1nm以下、好ましくは0.3nm以下であることが好ましい。酸化物半導体膜が結晶性である場合に結晶方位を揃えることができるためである。また、酸化物半導体膜または酸化物半導体層711の被形成面である層間絶縁膜705の平坦性が向上することで、表面の平坦性が高い酸化物半導体膜または酸化物半導体層711を得ることができるため、より電界効果移動が高いトランジスタを得ることができる。
【0137】
また、非晶質構造の酸化物半導体膜または酸化物半導体層711は、比較的容易に平坦な表面を得ることができるため、これを用いてトランジスタを作製した際の界面散乱を低減でき、比較的容易に、比較的高い電界効果移動度を得ることができる。
【0138】
結晶構造(単結晶構造、結晶性を有している領域を含む非晶質構造、多結晶構造および微結晶構造)を有する酸化物半導体膜または酸化物半導体層711では、よりバルク内欠陥を低減することができ、該酸化物半導体膜または酸化物半導体層711の表面の平坦性を高めれば、非晶質構造の酸化物半導体膜以上の電界効果移動度を得ることができる。表面の平坦性を高めるためには、平坦な表面上(本実施の形態では、層間絶縁膜705)に酸化物半導体膜または酸化物半導体層711を形成することが好ましく、上記したように、平均面粗さ(Ra)が1nm以下、好ましくは0.3nm以下の表面上に形成するとよい。
【0139】
なお、ここで、平均面粗さ(Ra)とは、JISB0601:2001(ISO4287:1997)で定義されている中心線平均粗さ(Ra)を、測定面に対して適用できるよう三次元に拡張したものをいう。平均面粗さ(Ra)は、基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値で表現される。
【0140】
ここで、中心線平均粗さ(Ra)は、粗さ曲線からその中心線の方向に測定長さLの部分を抜き取り、この抜き取り部の中心線の方向をX軸縦倍率の方向(X軸に垂直な方向)をY軸とし、粗さ曲線をY=F(X)で表すとき、次の式(1)で与えられる。
【0141】
【数2】

【0142】
そして、平均面粗さ(Ra)は、測定データの示す面である測定面をZ=F(X,Y)で表すとき、基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値で表現され、次の式(2)で与えられる。
【0143】
【数3】

【0144】
ここで、指定面とは、粗さ計測の対象となる面であり、座標(X,Y)(X,Y)(X,Y)(X,Y)で表される4点により囲まれる長方形の領域とし、指定面が理想的にフラットであるとしたときの面積をSとする。
【0145】
また、基準面とは、指定面の平均の高さにおける、XY平面と平行な面のことである。つまり、指定面の高さの平均値をZとするとき、基準面の高さもZで表される。
【0146】
平均面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)にて評価可能である。
【0147】
このように、層間絶縁膜705の平均面粗さを1nm以下、好ましくは0.3nm以下とするためには、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)処理を行えばよい。CMP処理は、酸化物半導体膜の形成前に行えばよいが、第1の加熱処理の前に行うことが好ましい。
【0148】
ここで、CMP処理は、一回以上行えばよい。複数回に分けてCMP処理を行う場合には、高い研磨レートの一次研磨を行った後、低い研磨レートの仕上げ研磨を行うことが好ましい。
【0149】
また、層間絶縁膜705を平坦化させるためには、CMP処理に代えてプラズマ処理などを行ってもよい。ここで、プラズマ処理には希ガスを用いればよい。このプラズマ処理により、被処理面に不活性ガスのイオンが照射され、スパッタリング効果により被処理面の微細な凹凸が平坦化される。このようなプラズマ処理は逆スパッタとも呼ばれる。
【0150】
なお、層間絶縁膜705を平坦化するためには、前記処理の一種以上を適用すればよい。例えば、逆スパッタのみを行ってもよいし、CMP処理を行った後にドライエッチングを行ってもよい。ただし、酸化物半導体膜の被形成面である層間絶縁膜705に水を混入させないためには、ドライエッチングまたは逆スパッタを用いることが好ましい。特に、第1の加熱処理を行った後に平坦化処理を行う場合にはドライエッチングまたは逆スパッタを用いることが好ましい。
【0151】
酸化物半導体層711は、例えば、酸化物半導体膜を形成し、該酸化物半導体膜上にエッチングマスクを形成してエッチングを行うことで選択的に形成すればよい。または、インクジェット法などを用いてもよい。
【0152】
酸化物半導体膜は、四元系金属酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn系金属酸化物、In−Hf−Ga−Zn系金属酸化物、In−Al−Ga−Zn系金属酸化物、In−Sn−Al−Zn系金属酸化物、In−Sn−Hf−Zn系金属酸化物、In−Hf−Al−Zn系金属酸化物を用いることができる。または三元系金属酸化物であるIn−Ga−Zn系金属酸化物(IGZOとも表記する)、In−Al−Zn系金属酸化物、In−Sn−Zn系金属酸化物、Al−Ga−Zn系金属酸化物、Sn−Al−Zn系金属酸化物、In−Hf−Zn系金属酸化物、In−La−Zn系金属酸化物、In−Ce−Zn系金属酸化物、In−Pr−Zn系金属酸化物、In−Nd−Zn系金属酸化物、In−Sm−Zn系金属酸化物、In−Eu−Zn系金属酸化物、In−Gd−Zn系金属酸化物、In−Tb−Zn系金属酸化物、In−Dy−Zn系金属酸化物、In−Ho−Zn系金属酸化物、In−Er−Zn系金属酸化物、In−Tm−Zn系金属酸化物、In−Yb−Zn系金属酸化物、In−Lu−Zn系金属酸化物、Sn−Ga−Zn系金属酸化物、または二元系金属の酸化物であるIn−Zn系金属酸化物、Sn−Zn系金属酸化物、Al−Zn系金属酸化物、Zn−Mg系金属酸化物、Sn−Mg系金属酸化物、In−Mg系金属酸化物、In−Ga系金属酸化物、または、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などを用いて形成されていてもよい。なお、「n元系金属酸化物」はn種類の金属酸化物で構成されるものである。ここで、例えば、In−Ga−Zn系金属酸化物は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)を主成分として有する酸化物という意味であり、InとGaとZnの比率は問わない。また、InとGaとZn以外の金属元素が入っていてもよい。
【0153】
また、酸化物半導体膜は、InMO(ZnO)(m>0、且つ、mは整数でない)で表記される金属酸化物材料を用いてもよい。なお、Mは、Ga、Fe、Mn及びCoから選ばれた一の金属元素または複数の金属元素を示す。また、酸化物半導体膜として、InSnO(ZnO)(n>0、且つ、nは整数)で表記される金属酸化物材料を用いてもよい。
【0154】
例えば、原子数比がIn:Ga:Zn=1:1:1(=1/3:1/3:1/3)またはIn:Ga:Zn=2:2:1(=2/5:2/5:1/5)であるIn−Ga−Zn系金属酸化物や、その組成の近傍の金属酸化物を用いることができる。また、原子数比がIn:Sn:Zn=1:1:1(=1/3:1/3:1/3)、In:Sn:Zn=2:1:3(=1/3:1/6:1/2)またはIn:Sn:Zn=2:1:5(=1/4:1/8:5/8)であるIn−Sn−Zn系金属酸化物や、その組成の近傍の金属酸化物を用いるとよい。
【0155】
しかし、これらに限られず、必要とする半導体特性(電界効果移動度、しきい値、ばらつき等)に応じて適切な組成のものを用いればよい。また、必要とする半導体特性を得るために、キャリア密度や不純物濃度、欠陥密度、金属元素と酸素の原子数比、原子間結合距離、密度等を適切なものとすることが好ましい。
【0156】
例えば、In−Sn−Zn系金属酸化物では比較的容易に高い電界効果移動度が得られる。しかしながら、In−Ga−Zn系金属酸化物でも、バルク内欠陥密度を低減することにより電界効果移動度を上げることができる。
【0157】
なお、例えば、In、Ga、Znの原子数比がIn:Ga:Zn=a:b:c(a+b+c=1)であるIn−Ga−Zn系金属酸化物の組成が、原子数比がIn:Ga:Zn=A:B:C(A+B+C=1)であるIn−Ga−Zn系金属酸化物の組成の近傍であるとは、a、b、cが、(a―A)+(b―B)+(c―C)≦rを満たすことをいい、rとしては、例えば、0.05とすればよい。なお、他の金属酸化物においてもこの関係を満たす。
【0158】
なお、前記金属酸化物には、これらの化学量論的組成比に対し、酸素の組成比が過剰であることが好ましい。酸素を過剰に含ませると、形成される酸化物半導体膜の酸素欠損によるキャリアの生成を抑制することができる。
【0159】
なお、酸化物半導体膜に適用することができる金属酸化物は、エネルギーギャップが2eV以上、好ましくは2.5eV以上、更に好ましくは3eV以上であるとよい。このように、バンドギャップの広い金属酸化物を用いると、トランジスタのオフ電流を低減することができる。
【0160】
なお、酸化物半導体膜には、水素が含まれる。この水素は、水素原子の他、水素分子、水、水酸基、またはその他の水素化物として含まれる場合もある。酸化物半導体膜に含まれる水素は、極力少ないことが好ましい。
【0161】
なお、酸化物半導体膜のアルカリ金属およびアルカリ土類金属は少なくすることが好ましく、これらの濃度は、好ましくは1×1018atoms/cm以下、更に好ましくは2×1016atoms/cm以下とする。アルカリ金属およびアルカリ土類金属は、酸化物半導体と結合するとキャリアが生成されることがあり、トランジスタのオフ電流を増大させる原因となるからである。
【0162】
なお、酸化物半導体膜の形成方法および厚さは特に限定されず、作製するトランジスタのサイズなどに応じて決めればよい。酸化物半導体膜の形成方法としては、例えば、スパッタリング法、塗布法、印刷法、分子線エピタキシー法またはパルスレーザー蒸着法などが挙げられる。酸化物半導体膜の厚さは、3nm以上50nm以下とすればよい。これは、酸化物半導体膜の厚さを50nm以上に厚くするとノーマリーオンとなるおそれあるためである。また、トランジスタのチャネル長を30μmとしたときには、酸化物半導体膜の厚さは5nm以下とすると短チャネル効果を抑制することができる。
【0163】
一例として、スパッタリング法により、酸化物半導体膜をIn−Zn系金属酸化物で形成する場合には、ターゲットの組成を原子数比で、In/Zn=1〜100、好ましくはIn/Zn=1〜20、さらに好ましくはIn/Zn=1〜10とする。Znの原子数比を好ましい前記範囲とすることで、電界効果移動度を向上させることができる。ここで、酸素を過剰に含ませるために、化合物の原子数比In:Zn:O=X:Y:Zを、Z>1.5X+Yとすることが好ましい。
【0164】
また、スパッタリング法により、酸化物半導体膜をIn−Sn−Zn系金属酸化物で形成する場合には、用いるターゲットの組成比を、In:Sn:Znが原子数比で、1:2:2、2:1:3、1:1:1、または20:45:35などとする。なお、In−Sn−Zn系金属酸化物においても酸素を過剰に含ませることが好ましい。
【0165】
本実施の形態では、好ましい一例として、In−Ga−Zn系金属酸化物ターゲットを用いたスパッタリング法により酸化物半導体膜を形成する。ここで、スパッタリングガスとしては、希ガス(例えばアルゴン)、酸素ガスまたは希ガスと酸素ガスの混合ガスを用いればよい。
【0166】
また、In−Ga−Zn系金属酸化物ターゲットの一例としては、In:Ga:ZnO=1:1:1[mol数比]の組成比を有するターゲット、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有するターゲット、In:Ga:ZnO=1:1:4[mol数比]の組成比を有するターゲット、In:Ga:ZnO=2:1:8[mol数比]の組成比を有するターゲットである。
【0167】
なお、酸化物半導体膜を形成する際に用いるスパッタリングガスとしては、水素、水、水酸基または水素化物などが除去された高純度ガスを用いることが好ましい。スパッタリングガスを高純度ガスとするためには、処理室の内壁などに付着したガスを除去し、酸化物半導体膜を形成する前にpチャネル型トランジスタまたはnチャネル型トランジスタが設けられた半導体基板700を加熱処理すればよい。また、処理室に導入するスパッタリングガスを高純度ガスとしてもよく、このとき、アルゴンガスの純度は9N(99.9999999%)以上とし、露点を−121℃以下とし、水を0.1ppbとし、水素を0.5ppbとすればよい。酸素ガスの純度は8N(99.999999%)以上とし、露点を−112℃以下とし、水を1ppbとし、水素を1ppbとすればよい。また、pチャネル型トランジスタまたはnチャネル型トランジスタが設けられた半導体基板700を高温に保持した状態で酸化物半導体膜を形成すると、酸化物半導体膜に含まれる不純物濃度を低減することができる。ここで、pチャネル型トランジスタまたはnチャネル型トランジスタが設けられた半導体基板700の温度は、150℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは400℃以上とすればよい。なお、スパッタリング法を適用したことにより酸化物半導体膜に混入する損傷を少なくすることができる。
【0168】
酸化物半導体膜が結晶構造を有する場合には、c軸方向に配向した結晶性の酸化物半導体(C Axis Aligned Crystalline Oxide Semiconductor:CAAC−OS)膜とすることが好ましい。上記酸化物半導体膜をCAAC−OS膜とすることで、トランジスタの信頼性を高めることができる。
【0169】
なお、CAAC−OS膜とは、結晶がc軸配向し、且つab面、表面または界面の方向から見て三角形状または六角形状の原子配列を有し、c軸においては、金属原子が層状に配列し、または金属原子と酸素原子が層状に配列し、ab面(あるいは表面または界面)においては、a軸またはb軸の向きが異なる(c軸を中心に回転した)結晶を含む酸化物半導体膜をいう。
【0170】
なお、広義には、CAAC−OS膜とは、非単結晶であって、そのab面に垂直な方向から見て、三角形若しくは六角形、または正三角形若しくは正六角形の原子配列を有し、且つc軸に垂直な方向から見て、金属原子が層状に配列した相、または金属原子と酸素原子が層状に配列した相を含む酸化物半導体膜をいう。
【0171】
なお、CAAC−OS膜は単結晶ではないが、非晶質のみから形成されているものでもない。また、CAAC−OS膜は結晶化した領域(結晶領域)を含むが、一つの結晶領域と他の結晶領域の境界を明確に判別できなくてもよい。
【0172】
また、CAAC−OS膜を構成する酸素の一部が窒素で置換されていてもよい。また、CAAC−OS膜を構成する個々の結晶領域のc軸は一定の方向(例えば、CAAC−OS膜を支持する基板面またはCAAC−OS膜の表面、膜面若しくは界面などに垂直な方向)に揃えられていてもよい。または、CAAC−OS膜を構成する個々の結晶領域のab面の法線は一定の方向(例えば、基板面、表面、膜面若しくは界面などに垂直な方向)であってもよい。
【0173】
なお、CAAC−OS膜は、その組成などに応じて、導体であってもよいし、半導体であってもよいし、絶縁体であってもよい。また、CAAC−OS膜は、その組成などに応じて、可視光に対して透明であってもよいし、不透明であってもよい。
【0174】
このようなCAAC−OS膜の例として、膜状に形成され、膜表面、基板面、または界面に垂直な方向から観察すると三角形または六角形の原子配列が確認され、且つその膜の断面に金属原子または金属原子と酸素原子(あるいは窒素原子)の層状配列が観察される材料などを挙げることができる。
【0175】
このようなCAAC−OS膜に含まれる結晶構造の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明では、原則として、図6、図7および図8は上方向をc軸方向とし、c軸方向と垂直な面をab面とする。なお、単に上半分、下半分と表記する場合、ab面を境にした場合の上半分、下半分をいう。また、図6において、丸で囲まれたOは4配位のOを示し、二重丸で囲まれたOは3配位のOを示す。
【0176】
図6(A)には、1個の6配位のインジウム原子(以下、Inと記す)と、Inに近接の6個の4配位の酸素原子(以下、4配位のOと記す)と、を有する構造を示す。ここでは金属原子が1個に対して、近接の酸素原子のみ示した構造を、小グループと呼ぶ。図6(A)の構造は、八面体構造を採るが、簡単のため平面構造で示している。なお、図6(A)の上半分および下半分にはそれぞれ3個ずつ4配位のOがあり、図6(A)に示す小グループは電荷が0である。
【0177】
図6(B)は、1個の5配位のガリウム原子(以下、Gaと記す)と、Gaに近接の3個の3配位の酸素原子(以下、3配位のOと記す)と、Gaに近接の2個の4配位のOと、を有する構造を示す。3配位のOは、いずれもab面に存在する。図6(B)の上半分および下半分にはそれぞれ1個ずつ4配位のOがある。また、Inも5配位をとるため、図6(B)に示す構造をとりうる。図6(B)に示す小グループは電荷が0である。
【0178】
図6(C)は、1個の4配位の亜鉛原子(以下、Znと記す)と、Znに近接の4個の4配位のOと、を有する構造を示す。図6(C)の上半分には1個の4配位のOがあり、下半分には3個の4配位のOがある。または、図6(C)の上半分に3個の4配位のOがあり、下半分に1個の4配位があってもよい。図6(C)に示す小グループは電荷が0である。
【0179】
図6(D)に、1個の6配位のスズ原子(以下、Snと記す)と、Snに近接の6個の4配位のOと、を有する構造を示す。図6(D)の上半分には3個の4配位のOがあり、下半分には3個の4配位のOがある。図6(D)に示す小グループは電荷が+1となる。
【0180】
図6(E)に、2個のZnを含む小グループを示す。図6(E)の上半分には1個の4配位のOがあり、下半分には1個の4配位のOがある。図6(E)に示す小グループは電荷が−1となる。
【0181】
ここでは、複数の小グループの集合体を中グループと呼び、複数の中グループの集合体を大グループ(ユニットセルともいう)と呼ぶ。
【0182】
ここで、これらの小グループ同士が結合する規則について説明する。図6(A)に示す6配位のInの上半分の3個のOは下方向にそれぞれ3個の近接Inを有し、下半分の3個のOは上方向にそれぞれ3個の近接Inを有する。図6(B)に示す5配位のGaの上半分の1個のOは下方向に1個の近接Gaを有し、下半分の1個のOは上方向に1個の近接Gaを有する。図6(C)に示す4配位のZnの上半分の1個のOは下方向に1個の近接Znを有し、下半分の3個のOは上方向にそれぞれ3個の近接Znを有する。この様に、金属原子の上方向の4配位のOの数と、そのOの下方向にある近接金属原子の数は等しく、同様に金属原子の下方向の4配位の近接Oの数と、そのOの上方向にある近接金属原子の数は等しい。Oは4配位なので、下方向にある近接金属原子の数と、上方向にある近接金属原子の数の和は4になる。したがって、金属原子の上方向にある4配位のOの数と、別の金属原子の下方向にある4配位のOの数との和が4個のとき、金属原子を有する2種の小グループ同士は結合することができる。例えば、6配位の金属原子(InまたはSn)が下半分の4配位のOを介して結合する場合、4配位のOが3個であるため、5配位の金属原子(GaまたはIn)または4配位の金属原子(Zn)のいずれかと結合することになる。
【0183】
これらの配位数を有する金属原子は、c軸方向において、4配位のOを介して結合する。また、このほかにも、層構造の合計の電荷が0となるように小グループが結合して中グループを構成する。
【0184】
図7(A)に、In−Sn−Zn−O系の層構造を構成する中グループのモデル図を示す。図7(B)に、3つの中グループで構成される大グループを示す。なお、図7(C)は、図7(B)の層構造をc軸方向から観察した場合の原子配列を示す。
【0185】
図7(A)においては、簡単のため、3配位のOは省略し、4配位のOは個数のみ示し、例えば、Snの上半分および下半分にはそれぞれ3個ずつ4配位のOがあることを丸枠の3として示している。同様に、図7(A)において、Inの上半分および下半分にはそれぞれ1個ずつ4配位のOがあり、丸枠の1として示している。また、同様に、図7(A)において、下半分には1個の4配位のOがあり、上半分には3個の4配位のOがあるZnと、上半分には1個の4配位のOがあり、下半分には3個の4配位のOがあるZnとを示している。
【0186】
図7(A)において、In−Sn−Zn−O系の層構造を構成する中グループは、上から順に4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるSnが、4配位のOが1個ずつ上半分および下半分にあるInと結合し、そのInが、上半分に3個の4配位のOがあるZnと結合し、そのZnの下半分の1個の4配位のOを介してZnが、4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるInと結合し、そのInが、上半分に1個の4配位のOがあり、下半分に1個の4配位のOがあるZn2個からなる小グループと結合し、この小グループの下半分の1個の4配位のOを介して4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるSnと結合している構成である。この中グループが複数結合して大グループを構成する。
【0187】
ここで、3配位のOおよび4配位のOでは、結合1本当たりの電荷はそれぞれ−0.667、−0.5と考えることができる。例えば、In(6配位または5配位)、Zn(4配位)、Sn(5配位または6配位)の電荷は、それぞれ+3、+2、+4である。従って、Snを含む小グループは電荷が+1となる。そのため、Snを含む層構造を形成するためには、電荷+1を打ち消す電荷−1が必要となる。電荷−1をとる構造として、図6(E)に示すように、2個のZnを含む小グループが挙げられる。例えば、Snを含む小グループが1個に対し、2個のZnを含む小グループが1個あれば、電荷が打ち消されるため、層構造の合計の電荷を0とすることができる。
【0188】
具体的には、図7(B)に示した大グループが繰り返されることで、In−Sn−Zn−O系の結晶(InSnZn)を得ることができる。なお、得られるIn−Sn−Zn−O系の層構造は、InSnZn(ZnO)(mは0または自然数。)の組成式で表すことができる。
【0189】
また、このほかにも、前記例示した四元系金属酸化物、三元系金属酸化物、または二元系金属酸化物を用いた場合も同様である。
【0190】
図8(A)に、In−Ga−Zn系金属酸化物の層構造を構成する中グループのモデル図を示す。
【0191】
図8(A)において、In−Ga−Zn系金属酸化物の層構造を構成する中グループは、上から順に4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるInが、4配位のOが1個ずつ上半分にあるZnと結合し、そのZnの下半分の3個の4配位のOを介して、4配位のOが1個ずつ上半分および下半分にあるGaと結合し、そのGaの下半分の1個の4配位のOを介して、4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるInと結合している構成である。この中グループを複数結合して大グループを構成する。
【0192】
図8(B)に3つの中グループで構成される大グループを示す。なお、図8(C)は、図8(B)の層構造をc軸方向から観察した場合の原子配列を示している。
【0193】
ここで、In(6配位または5配位)、Zn(4配位)、Ga(5配位)の電荷は、それぞれ+3、+2、+3であるため、In、ZnおよびGaのいずれかを含む小グループは、電荷が0となる。そのため、これらの小グループの組み合わせであれば、中グループの合計の電荷は常に0となる。
【0194】
また、In−Ga−Zn系金属酸化物の層構造を構成する中グループは、図8(A)に示した中グループに限定されず、In、Ga、Znの配列が異なる中グループを組み合わせた大グループも取りうる。
【0195】
ここで、CAAC−OS膜の形成方法について説明する。
【0196】
まず、酸化物半導体膜をスパッタリング法、分子線エピタキシー法、原子層堆積法またはパルスレーザー蒸着法によって形成する。なお、半導体基板700を高温に保持しつつ酸化物半導体膜の形成を行うことで、非晶質領域よりも結晶領域の占める割合を大きくすることができる。このとき、半導体基板700の温度は、例えば、150℃以上700℃以下、好ましくは150℃以上450℃以下、より好ましくは200℃以上350℃以下とする。
【0197】
ここで、形成された酸化物半導体膜に対して加熱処理を行ってもよい。この加熱処理によって、非晶質領域よりも結晶領域の占める割合を大きくすることができる。この加熱処理時において、pチャネル型トランジスタまたはnチャネル型トランジスタが設けられた半導体基板700に加える温度は、例えば、200℃以上pチャネル型トランジスタおよびnチャネル型トランジスタが設けられた半導体基板700自体が変質または変形しない程度の温度未満とすればよく、150℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは400℃以上とすればよい。この加熱処理の時間は3分以上とすればよく、24時間以下とすることが好ましい。この加熱処理の時間を長くすると非晶質領域よりも結晶領域の占める割合を大きくすることができるが、生産性の低下を招くことになるからである。なお、この加熱処理は、酸化性雰囲気または不活性雰囲気で行えばよいが、これらに限定されるものではない。また、この加熱処理は減圧下でも行うことができる。
【0198】
酸化性雰囲気は、酸化性ガスを含む雰囲気である。酸化性ガスとしては、例えば、酸素、オゾンまたは亜酸化窒素などを例示することができる。酸化性雰囲気からは、酸化物半導体膜に含まれないことが好ましい成分(例えば、水および水素)が極力除去されていることが好ましい。例えば、酸素、オゾン、亜酸化窒素の純度を、8N(99.999999%)以上、好ましくは9N(99.9999999%)以上とすればよい。
【0199】
なお、酸化性雰囲気には、希ガスなどの不活性ガスが含まれていてもよい。ただし、酸化性雰囲気には、10ppm以上の酸化性ガスが含まれているものとする。
【0200】
なお、不活性雰囲気には、不活性ガス(窒素ガスまたは希ガスなど)が含まれ、酸化性ガスなどの反応性ガスが10ppm未満で含まれているものとする。
【0201】
なお、すべての加熱処理は、RTA(Rapid Thermal Anneal)装置を用いて行えばよい。RTA装置を用いることで、短時間であれば、高い温度で熱処理を行うこともできる。そのため、非晶質領域よりも結晶領域の占める割合の大きい酸化物半導体膜を形成することができ、生産性の低下を抑制することができる。
【0202】
ただし、すべての加熱処理に用いられる装置はRTA装置に限定されず、例えば、抵抗発熱体などからの熱伝導または熱輻射によって、被処理物を加熱する機構が備えられた装置を用いればよい。すべての加熱処理に用いられる加熱処理装置として、例えば、電気炉や、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置などのRTA(Rapid Thermal Anneal)装置などを挙げることができる。なお、LRTA装置は、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプまたは高圧水銀ランプなどのランプから発せられる光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する装置である。また、GRTA装置は、高温のガスを熱媒体として用いて被処理物を加熱する装置である。ここで、高温のガスは、被処理物の加熱温度よりも高いことが好ましい。
【0203】
なお、窒素の濃度が1×1017atoms/cm以上5×1019atoms/cm以下であるIn−Ga−Zn系金属酸化物を用いると、c軸配向した六方晶の結晶構造を含む金属酸化物膜が形成され、一または複数のGaおよびZnを有する層が、二層のIn−Oの結晶面(インジウムと酸素を含む結晶面)の間に配される。
【0204】
以上説明したようにCAAC−OS膜を形成することができる。
【0205】
CAAC−OS膜は、非晶質構造の酸化物半導体膜と比較して、金属と酸素の結合の秩序性が高い。すなわち、酸化物半導体膜が非晶質構造の場合には、隣接する金属によって金属原子に配位している酸素原子の数が異なるが、CAAC−OS膜では金属原子に配位している酸素原子の数はほぼ一定となる。そのため、微視的なレベルにおいても酸素欠損がほぼ見られず、水素原子(水素イオンを含む)やアルカリ金属原子などによる電荷の移動や電気伝導性の不安定さを抑制することができる。
【0206】
従って、CAAC−OS膜を用いたチャネル形成領域によってトランジスタを作製すると、トランジスタへの光照射またはバイアス−熱ストレス(BT)の付加を行った後に生じる、トランジスタのしきい値電圧の変化を抑制することができ、安定した電気的特性を有するトランジスタを作製することができる。
【0207】
次に、酸化物半導体膜上にエッチングマスクを形成してエッチングを行うことにより、酸化物半導体層711を形成する(図5(A)参照)。
【0208】
そして、酸化物半導体層711に接して離間して設けられたソース電極712aおよびドレイン電極712bを形成する(図5(B)参照)。
【0209】
ソース電極712aおよびドレイン電極712bは、例えば、スパッタリング法を用いて導電膜(例えば金属膜、または一導電型の不純物元素が添加されたシリコン膜など)を形成し、該導電膜上にエッチングマスクを形成してエッチングを行うことで選択的に形成すればよい。または、インクジェット法などを用いてもよい。なお、ソース電極712aおよびドレイン電極712bとなる導電膜は、単層で形成してもよいし、複数の層を積層して形成してもよい。例えば、Ti層によりAl層を挟持した3層の積層構造とすればよい。なお、ソース電極712aおよびドレイン電極712bは、信号線も構成する。
【0210】
次に、少なくとも酸化物半導体層711のチャネル形成領域上にゲート絶縁膜713を形成する(図5(C)参照)。
【0211】
ゲート絶縁膜713は、例えば、スパッタリング法を用いて絶縁性材料(例えば、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化窒化シリコンまたは酸化シリコンなど)膜を形成すればよい。なお、ゲート絶縁膜713は、単層で形成してもよいし、複数の層を積層して形成してもよい。ここでは、例えば、窒化シリコン層上に酸化窒化シリコン層が積層された2層の積層構造とする。なお、ゲート絶縁膜713をスパッタリング法により形成すると、酸化物半導体層711に水素および水が混入することを防ぐことができる。また、ゲート絶縁膜713を絶縁性酸化物膜とすると、酸素を供給して酸素欠損を埋めることができるため好ましい。
【0212】
なお、「窒化酸化シリコン」とは、その組成として、酸素よりも窒素の含有量が多いものをいう。なお、「酸化窒化シリコン」とは、その組成として、窒素よりも酸素の含有量が多いものをいう。
【0213】
ここで、酸化物半導体膜の加工は、ドライエッチングにより行えばよい。ドライエッチングに用いるエッチングガスとしては、例えば塩素ガス、または三塩化ホウ素ガスと塩素ガスの混合ガスを用いればよい。ただし、これに限定されず、ウエットエッチングを用いてもよいし、酸化物半導体膜を加工することができる他の手段を用いてもよい。
【0214】
ゲート絶縁膜713は、少なくとも酸化物半導体層711に接する部分に酸素を含み、酸素の一部が加熱により脱離する絶縁性酸化物により形成することが好ましい。すなわち、層間絶縁膜705の材料として例示列挙したものを用いることが好ましい。ゲート絶縁膜713の酸化物半導体層711と接する部分を酸化シリコンにより形成すると、酸化物半導体層711に酸素を供給することができ、トランジスタの低抵抗化を防止することができる。
【0215】
なお、ゲート絶縁膜713として、ハフニウムシリケート(HfSiOx(x>0))、窒素が添加されたハフニウムシリケート(HfSixOyNz(x>0、y>0、z>0))、窒素が添加されたハフニウムアルミネート(HfAlxOyNz(x>0、y>0、z>0))、酸化ハフニウム、酸化イットリウムまたは酸化ランタンなどのhigh−k材料を用いると、ゲートリーク電流を低減することができる。ここで、ゲートリーク電流とは、ゲート電極とソース電極またはドレイン電極の間に流れるリーク電流をいう。さらには、前記high−k材料により形成される層と、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化窒化アルミニウムおよび酸化ガリウムにより形成される層が積層されていてもよい。ただし、ゲート絶縁膜713を積層構造とする場合であっても、酸化物半導体層711に接する部分は、上記絶縁性酸化物であることが好ましい。さらに、酸化物半導体層711中の酸素を放出されないように該絶縁性酸化物上には、酸素を透過させにくい酸化アルミニウムなどを形成することが好ましい。例えば、ゲート絶縁膜713として、スパッタリング法で形成される酸化シリコンと、スパッタリング法で形成される酸化アルミニウムと、酸化窒化シリコンとをこの順に積層させればよい。
【0216】
また、ゲート絶縁膜713の厚さは、1nm以上300nm以下、好ましくは5nm以上50nm以下とすればよい。ゲート絶縁膜713の厚さを5nm以上とすると、ゲートリーク電流を特に小さくすることができる。
【0217】
ここで、更に、不活性ガス雰囲気下、または酸素ガス雰囲気下で第3の加熱処理(好ましくは200℃以上400℃以下、例えば250℃以上350℃以下)を行ってもよい。なお、第3の加熱処理は、第2の加熱処理と同じ条件で行うことができ、例えば、200℃以上半導体基板700の歪み点未満、好ましくは200℃以上400℃以下、さらに好ましくは250℃以上350℃以下として行えばよい。第3の加熱処理により、酸化物半導体層711中に残留する水素および水をゲート絶縁膜に拡散させることができる。さらには、第3の加熱処理を行うことで、ゲート絶縁膜713を供給源として酸化物半導体層711に酸素を供給することができる。
【0218】
また、第3の加熱処理は、酸化物半導体層711上にゲート絶縁膜713を形成した後のみならず、ゲート電極714となる導電膜を形成した後に行ってもよい。
【0219】
なお、ここで酸化物半導体層711の水素濃度は5.0×1019atoms/cm以下、好ましくは5.0×1018atoms/cm以下とするとよい。
【0220】
次に、ゲート絶縁膜713上に導電膜を形成し、該導電膜上にエッチングマスクを形成してエッチングを行うことにより、ゲート電極714を形成する。(図5(D)参照)。なお、ゲート電極714は少なくとも走査線を構成する。
【0221】
ゲート電極714は、ソース電極712aおよびドレイン電極712bと同様の材料および方法により形成すればよい。
【0222】
なお、図示していないが、ゲート電極714をマスクとして、酸化物半導体層711にドーパントを添加して、酸化物半導体層711にソース領域およびドレイン領域を形成することが好ましい。ドーパントの添加は、イオンインプランテーション法またはイオンドーピング法により行えばよい。または、ドーパントを含むガス雰囲気中でプラズマ処理を行うことでドーパントの添加を行ってもよい。また、添加するドーパントとしては、窒素、リンまたはボロンなどを用いればよい。
【0223】
なお、第5(D)に示したトランジスタ710を形成するにあたり、エッチングマスクがレジスト材料により形成されている場合には、エッチングマスクをアッシングのみで除去してもよい。
【0224】
また、図示していないが、トランジスタ710を覆う保護絶縁膜を設けてもよい。該保護絶縁膜を単層とする場合は、酸素および水素ならびに水の透過性が低い絶縁膜によって形成することが好ましく、例えば、酸化アルミニウム膜によって形成すればよい。該保護絶縁膜を積層とする場合は、化学量論的組成比よりも多くの酸素を含み、加熱により該酸素の一部を放出する絶縁性酸化物膜と、酸素および水素ならびに水の透過性が低い絶縁膜によって形成することが好ましく、例えば、層間絶縁膜705で例示列挙した絶縁性酸化物膜と酸化アルミニウム膜によって形成すればよい。なお、該保護絶縁膜として酸化アルミニウム膜を用いることで、酸化物半導体層711の酸素が外部に放出されることを抑制し、外部から酸化物半導体層711に水素および水が入ることを抑制できるため、トランジスタ710の電気特性を良好にすることができる。
【0225】
なお、保護絶縁膜を形成した後に、第2の加熱処理又は第3の加熱処理と同様の加熱処理を行ってもよい。
【0226】
以上説明したように、図4に示す、半導体基板に設けられたトランジスタ上に酸化物半導体層にチャネル形成領域を有するトランジスタを作製することができる。
【0227】
なお、上記のように作製したトランジスタは、チャネル幅1μmあたりのオフ電流値を室温下において10aA(1×10−17A)以下にすること、さらには、1aA(1×10−18A)以下、さらには1zA(1×10−21A)以下、さらには1yA/μm(1×10−24A)以下にすることが可能である。
【0228】
なお、走査線および信号線の一方または双方において、走査線および信号線を構成する導電層を銅により形成することで、走査線および信号線を低抵抗化させることができるため、好ましい。
【0229】
なお、ここで、酸化物半導体層にチャネル形成領域を有するトランジスタとして説明したトランジスタは一例であり、酸化物半導体層にチャネル形成領域を有するトランジスタはこれに限定されず、様々な形態とすることができる。
【0230】
例えば、In−Sn−Zn系金属酸化物(以下、In−Sn−Zn−O膜と記す。)を酸化物半導体膜に用いたトランジスタの一例について、図20などを用いて説明する。
【0231】
図20は、コプラナー型であるトップゲート・トップコンタクト構造のトランジスタの上面図および断面図である。図20(A)にトランジスタの上面図を示す。また、図20(B)に図20(A)の一点鎖線A−Bに対応する断面A−Bを示す。
【0232】
図20(B)に示すトランジスタは、基板500と、基板500上に設けられた下地絶縁膜502と、下地絶縁膜502の周辺に設けられた保護絶縁膜504と、下地絶縁膜502および保護絶縁膜504上に設けられた高抵抗領域506aおよび低抵抗領域506bを有する酸化物半導体膜506と、酸化物半導体膜506上に設けられたゲート絶縁膜508と、ゲート絶縁膜508を介して酸化物半導体膜506と重畳して設けられたゲート電極510と、ゲート電極510の側面と接して設けられた側壁絶縁膜512と、少なくとも低抵抗領域506bと接して設けられた一対の電極514と、少なくとも酸化物半導体膜506、ゲート電極510および一対の電極514を覆って設けられた層間絶縁膜516と、層間絶縁膜516に設けられた開口部を介して少なくとも一対の電極514の一方と接続して設けられた配線518と、を有する。
【0233】
基板500は半導体基板700に相当し、下地絶縁膜502は層間絶縁膜705に相当し、酸化シリコン膜を、酸化物半導体膜506は酸化物半導体層711に相当し、In−Sn−Zn−O膜を、一対の電極514は、ソース電極712aおよびドレイン電極712bに相当し、タングステン膜を、ゲート絶縁膜508はゲート絶縁膜713に相当し、酸化シリコン膜を、ゲート電極510はゲート電極714に相当し、窒化タンタル膜とタングステン膜との積層構造を、層間絶縁膜516としては酸化窒化シリコン膜とポリイミド膜との積層構造を、配線518としてはチタン膜、アルミニウム膜、チタン膜がこの順で形成された積層構造を、それぞれ用いればよい。なお、該トランジスタの作製方法は、本実施の形態の記載を適宜、参酌できるものとする。
【0234】
なお、図示しないが、層間絶縁膜516および配線518を覆って設けられた保護膜を有していても構わない。該保護膜を設けることで、層間絶縁膜516の表面伝導に起因して生じる微小リーク電流を低減することができ、トランジスタのオフ電流を低減することができる。
【0235】
さらに、上記とは異なるIn−Sn−Zn−O膜を酸化物半導体膜に用いたトランジスタの他の一例について示す。
【0236】
図21は、本実施の形態で作製したトランジスタの構造を示す上面図および断面図である。図21(A)はトランジスタの上面図である。また、図21(B)は図21(A)の一点鎖線C−Dに対応する断面C−Dである。
【0237】
図21(B)に示すトランジスタは、基板600と、基板600上に設けられた下地絶縁膜602と、下地絶縁膜602上に設けられた酸化物半導体膜606と、酸化物半導体膜606と接する一対の電極614と、酸化物半導体膜606および一対の電極614上に設けられたゲート絶縁膜608と、ゲート絶縁膜608を介して酸化物半導体膜606と重畳して設けられたゲート電極610と、ゲート絶縁膜608およびゲート電極610を覆って設けられた層間絶縁膜616と、層間絶縁膜616に設けられた開口部を介して一対の電極614と接続する配線618と、層間絶縁膜616および配線618を覆って設けられた保護膜620と、を有する。なお、該トランジスタの作製方法は、本実施の形態の記載を適宜、参酌できるものとする。
【0238】
基板600は半導体基板700に相当し、下地絶縁膜602は層間絶縁膜705に相当し、酸化シリコン膜を、酸化物半導体膜606は酸化物半導体層711に相当し、In−Sn−Zn−O膜を、一対の電極614はソース電極712aおよびドレイン電極712bに相当し、タングステン膜を、ゲート絶縁膜608はゲート絶縁膜713に相当し、酸化シリコン膜を、ゲート電極610はゲート電極714に相当し、窒化タンタル膜とタングステン膜との積層構造を、層間絶縁膜616としては酸化窒化シリコン膜とポリイミド膜との積層構造を、配線618としてはチタン膜、アルミニウム膜、チタン膜がこの順で形成された積層構造を、保護膜620としてはポリイミド膜を、それぞれ用いればよい。
【0239】
なお、図21(A)に示す構造のトランジスタにおいて、ゲート電極610と一対の電極614との重畳する幅をLovと呼ぶ。同様に、酸化物半導体膜606に対する一対の電極614のはみ出しをdWと呼ぶ。
【0240】
ところで、酸化物半導体に限らず、本発明の一態様の半導体装置を構成するトランジスタに適用可能な絶縁ゲート型トランジスタにおいて、実際に測定される電界効果移動度は、さまざまな理由によって本来の電界効果移動度よりも低くなる。電界効果移動度を低下させる要因としては半導体内部の欠陥や半導体と絶縁膜との界面の欠陥があるが、Levinsonモデルを用いると、半導体内部に欠陥がないと仮定した場合の電界効果移動度を理論的に導き出せる。
【0241】
半導体本来の移動度をμ、測定される電界効果移動度をμとし、半導体中に何らかのポテンシャル障壁(粒界等)が存在すると仮定すると、電界効果移動度μは式(3)で表現できる。Eはポテンシャル障壁の高さであり、kがボルツマン定数、Tは絶対温度である。
【0242】
【数4】

【0243】
また、ポテンシャル障壁が欠陥に由来すると仮定すると、Levinsonモデルでは、ポテンシャル障壁の高さEは、式(4)で表現できる。
【0244】
【数5】

【0245】
なお、eは電気素量、Nはチャネル内の単位面積当たりの平均欠陥密度、εは半導体の誘電率、nはチャネルのキャリア面密度、Coxは単位面積当たりの容量、Vg(ゲートとソースの電位差)はゲート電圧、tはチャネルの厚さである。
【0246】
また、絶縁ゲート型トランジスタに用いる半導体層において、厚さ30nm以下であれば、チャネル形成領域の厚さは半導体層の厚さと同一として差し支えない。そこで、線形領域におけるドレイン電流Idは、式(5)で表現できる。なお、Vgが該トランジスタのしきい値電圧より高い場合にソースおよびドレイン間を流れる電流を、ドレイン電流と呼ぶ。
【0247】
【数6】

【0248】
なお、Lはチャネル長、Wはチャネル幅であり、ここでは、L=W=10μmである。また、Vdはドレイン電圧である。上式の両辺をVgで割り、更に両辺の対数を取ると、式(6)で表現できる。
【0249】
【数7】

【0250】
式(6)の右辺はVgの関数である。式(6)からわかるように、縦軸をln(Id/Vg、横軸を1/Vgとして実測値をプロットして得られるグラフの直線の傾きから欠陥密度Nが求められる。すなわち、トランジスタのId―Vg特性から、欠陥密度を評価できる。酸化物半導体としてインジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)の比率が、In:Sn:Zn=1:1:1のものでは、欠陥密度Nは1×1012/cm程度である。
【0251】
このようにして求めた欠陥密度等をもとに式(3)および式(4)よりμ=120cm/Vsが導出される。欠陥のあるIn−Sn−Zn系金属酸化物で測定される電界効果移動度は40cm/Vs程度である。しかし、半導体内部および半導体と絶縁膜との界面の欠陥が無い酸化物半導体の電界効果移動度μは120cm/Vsとなると予想できる。
【0252】
ただし、酸化物半導体膜内部に欠陥がなくても、チャネル形成領域とゲート絶縁膜との界面での散乱によってトランジスタの輸送特性は影響を受ける。すなわち、ゲート絶縁膜界面からxだけ離れた場所における電界効果移動度μは、式(7)で表現される。
【0253】
【数8】

【0254】
なお、Dはゲート方向の電界、B、lは定数である。Bおよびlは、実際の測定結果より求めることができ、上記の測定結果からは、B=4.75×10cm/s、l=10nm(界面散乱が及ぶ深さ)である。Dが増加する(すなわち、ゲート電圧が高くなる)と式(7)の第2項が増加するため、電界効果移動度μは低下することがわかる。
【0255】
内部に欠陥が無い理想的な酸化物半導体をチャネル形成領域に用いたトランジスタにおける電界効果移動度μの計算結果を図9に示す。なお、計算結果は、シノプシス社製のSentaurus Deviceというソフトを使用し、酸化物半導体のバンドギャップ、電子親和力、比誘電率、厚さをそれぞれ、3.1eV、4.6eV、15、30nmとしている。これらの値は、スパッタリング法により形成された薄膜を測定して得られたものである。さらに、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極の仕事関数をそれぞれ、5.5eV、4.6eV、4.6eVとしている。また、ゲート絶縁膜の厚さは100nm、比誘電率は4.1とした。チャネル長およびチャネル幅はともに10μm、ドレイン電圧Vdは0.1Vである。
【0256】
図9で示されるように、ゲート電圧が1V強での電界効果移動度は、100cm/Vs以上のピークをつけるが、ゲート電圧がさらに高くなると、界面散乱が大きくなり、電界効果移動度が低下する。なお、界面散乱を低減するためには、酸化物半導体層の表面を原子レベルで平坦にすること(Atomic Layer Flatness)が望ましい。
【0257】
このような電界効果移動度を有する酸化物半導体を用いて微細なトランジスタを作製した場合の電気特性を計算した結果を図10乃至図12に示す。なお、該計算に用いたトランジスタの断面構造を図13に示す。図13に示すトランジスタは酸化物半導体層にnの導電型を呈する半導体領域1030aおよび半導体領域1030cを有する。半導体領域1030aおよび半導体領域1030cの抵抗率は2×10−3Ωcmとする。
【0258】
図13(A)に示すトランジスタは、下地絶縁物1010と、下地絶縁物1010に埋め込まれるように形成された酸化アルミニウムよりなる埋め込み絶縁物1020の上に形成される。トランジスタは半導体領域1030a、半導体領域1030cと、それらに挟まれ、チャネル形成領域となる真性の半導体領域1030bと、ゲート電極1050を有する。ゲート電極1050の幅を33nmとする。
【0259】
ゲート電極1050と半導体領域1030bの間には、ゲート絶縁物1040を有し、また、ゲート電極1050の両側面には側壁絶縁物1060aおよび側壁絶縁物1060b、ゲート電極1050の上部には、ゲート電極1050と他の配線との短絡を防止するための絶縁物1070を有する。側壁絶縁物の幅は5nmとする。また、半導体領域1030aおよび半導体領域1030cに接して、ソース電極1080aおよびドレイン電極1080bを有する。なお、このトランジスタにおけるチャネル幅を40nmとする。
【0260】
図13(B)に示すトランジスタは、下地絶縁物1010と、酸化アルミニウムよりなる埋め込み絶縁物1020の上に形成され、半導体領域1030a、半導体領域1030cと、それらに挟まれた真性の半導体領域1030bと、幅33nmのゲート電極1050とゲート絶縁物1040と側壁絶縁物1060aおよび側壁絶縁物1060bと絶縁物1070とソース電極1080aおよびドレイン電極1080bを有する点で図13(A)に示すトランジスタと同じである。
【0261】
図13(A)に示すトランジスタと図13(B)に示すトランジスタの相違点は、側壁絶縁物1060aおよび側壁絶縁物1060bの下の半導体領域の導電型である。図13(A)に示すトランジスタでは、側壁絶縁物1060aおよび側壁絶縁物1060bの下の半導体領域はnの導電型を呈する半導体領域1030aおよび半導体領域1030cであるが、図13(B)に示すトランジスタでは、真性の半導体領域1030bである。すなわち、図13(B)に示すトランジスタにおいて、半導体領域1030a(半導体領域1030c)とゲート電極1050がLoffだけ重ならない領域ができている。この領域をオフセット領域といい、その幅Loffをオフセット長という。図から明らかなように、オフセット長は、側壁絶縁物1060a(側壁絶縁物1060b)の幅と同じである。
【0262】
その他の計算に使用するパラメータは上述の通りである。計算には上記と同様のシノプシス社製のソフトを使用した。図10は、図13(A)に示される構造のトランジスタのドレイン電流(Id、実線)および電界効果移動度(μ、点線)のゲート電圧(Vg、ゲートとソースの電位差)依存性を示す。ドレイン電流Idは、ドレイン電圧(ドレインとソースの電位差)を+1Vとし、電界効果移動度μはドレイン電圧を+0.1Vとして計算したものである。
【0263】
図10(A)はゲート絶縁物の厚さを15nmとしたものであり、図10(B)は10nmとしたものであり、図10(C)は5nmとしたものである。ゲート絶縁物が薄くなるほど、特にオフ状態でのドレイン電流Id(オフ電流)が顕著に低下する。一方、電界効果移動度μのピーク値やオン状態でのドレイン電流Id(オン電流)には目立った変化が無い。ゲート電圧1V前後で、ドレイン電流は10μAを超えることが示された。
【0264】
図11は、図13(B)に示される構造のトランジスタで、オフセット長Loffを5nmとしたもののドレイン電流Id(実線)および電界効果移動度μ(点線)のゲート電圧Vg依存性を示す。ドレイン電流Idは、ドレイン電圧を+1Vとし、電界効果移動度μはドレイン電圧を+0.1Vとして計算したものである。図11(A)はゲート絶縁物の厚さを15nmとしたものであり、図11(B)は10nmとしたものであり、図11(C)は5nmとしたものである。
【0265】
また、図12は、図13(B)に示される構造のトランジスタで、オフセット長Loffを15nmとしたもののドレイン電流Id(実線)および電界効果移動度μ(点線)のゲート電圧依存性を示す。ドレイン電流Idは、ドレイン電圧を+1Vとし、電界効果移動度μはドレイン電圧を+0.1Vとして計算したものである。図12(A)はゲート絶縁物の厚さを15nmとしたものであり、図12(B)は10nmとしたものであり、図12(C)は5nmとしたものである。
【0266】
いずれもゲート絶縁物が薄くなるほど、オフ電流が顕著に低下する一方、電界効果移動度μのピーク値やオン電流には目立った変化が無い。
【0267】
なお、電界効果移動度μのピークは、図10では80cm/Vs程度であるが、図11では60cm/Vs程度、図12では40cm/Vs程度と、オフセット長Loffが増加するほど低下する。また、オフ電流も同様な傾向がある。一方、オン電流にはオフセット長Loffの増加にともなって減少するが、オフ電流の低下に比べるとはるかに緩やかである。また、いずれもゲート電圧1V前後で、ドレイン電流は10μAを超えることが示された。
【0268】
次に、本実施の形態で説明したトランジスタおいて、In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体層にチャネル形成領域を有するトランジスタについて説明する。
【0269】
In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体層にチャネル形成領域を有するトランジスタは、酸化物半導体層に加工前である酸化物半導体膜を形成する際に基板を加熱して形成すること、或いは酸化物半導体膜を形成した後に加熱処理を行うことで良好な特性を得ることができる。なお、主成分とは組成比で5atomic%以上含まれる元素をいう。なお、該基板は半導体基板700に相当する。
【0270】
In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜の形成後に基板を意図的に加熱することで、トランジスタの電界効果移動度を向上させることが可能となる。また、トランジスタのしきい値電圧をプラスシフトさせ、ノーマリ・オフ化させることが可能となる。
【0271】
例えば、図14(A)〜(C)は、In、Sn、Znを主成分とし、チャネル長Lが3μm、チャネル幅Wが10μmである酸化物半導体層と、厚さ100nmのゲート絶縁膜を用いたトランジスタの特性である。なお、Vdは10Vとする。
【0272】
図14(A)は基板を意図的に加熱せずにスパッタリング法でIn、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜を形成したときのトランジスタ特性である。このとき電界効果移動度は18.8cm/Vsが得られている。一方、基板を意図的に加熱してIn、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜を形成すると電界効果移動度を向上させることが可能となる。図14(B)は基板を200℃に加熱してIn、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜を形成したときのトランジスタ特性を示すが、電界効果移動度は32.2cm/Vsが得られている。
【0273】
電界効果移動度は、In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜を形成した後に加熱処理をすることによって、さらに高めることができる。図14(C)は、In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜を200℃でスパッタリング形成した後、650℃で加熱処理をしたときのトランジスタ特性を示す。このとき電界効果移動度は34.5cm/Vsが得られている。
【0274】
基板を意図的に加熱することは、スパッタリング法で形成中に水分が酸化物半導体膜中に取り込まれるのを低減する効果が実現できる。また、形成後に加熱処理をすることによっても、酸化物半導体膜から水素や水酸基若しくは水分を放出させ除去することができ、上記のように電界効果移動度を向上させることができる。このような電界効果移動度の向上は、脱水化・脱水素化による不純物の除去のみならず、高密度化により原子間距離が短くなるためとも推定される。また、酸化物半導体から不純物を除去して高純度化することで結晶化を図ることができる。このように高純度化された非単結晶酸化物半導体は、理想的には100cm/Vsを超える電界効果移動度を実現することも可能になると推定される。
【0275】
In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜に酸素イオンを注入し、加熱処理により該酸化物半導体膜に含まれる水素や水酸基もしくは水分を放出させ、その加熱処理と同時にまたはその後の加熱処理により酸化物半導体膜を結晶化させても良い。このような結晶化もしくは再結晶化の処理により結晶性の良い非単結晶酸化物半導体を得ることができる。
【0276】
基板を意図的に加熱して形成することおよび形成後に加熱処理することの一方または双方の効果は、電界効果移動度の向上のみならず、トランジスタのノーマリ・オフ化を図ることにも寄与している。基板を意図的に加熱しないで形成されたIn、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜をチャネル形成領域としたトランジスタは、しきい値電圧がマイナスシフトしてしまう傾向がある。しかし、基板を意図的に加熱して形成された酸化物半導体膜を用いた場合、このしきい値電圧のマイナスシフト化は解消される。つまり、しきい値電圧はトランジスタがノーマリ・オフとなる方向に動き、このような傾向は図14(A)と図14(B)の対比からも確認することができる。
【0277】
なお、しきい値電圧はIn、Sn及びZnの比率を変えることによっても制御することが可能であり、組成比としてIn:Sn:Zn=2:1:3とすることでトランジスタのノーマリ・オフ化を実現することができる。また、ターゲットの組成比をIn:Sn:Zn=2:1:3とすることで結晶性の高い酸化物半導体膜を得ることができる。
【0278】
意図的な基板加熱温度もしくは加熱処理温度は、150℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは400℃以上であり、より高温で形成しあるいは加熱処理することでトランジスタのノーマリ・オフ化を図ることが可能となる。
【0279】
また、意図的に基板を加熱した形成時および形成後の一方または双方において、加熱処理をすることで、ゲートバイアス・ストレスに対する安定性を高めることができる。例えば、2MV/cm、150℃、1時間印加の条件において、ドリフトがそれぞれ±1.5V未満、好ましくは1.0V未満を得ることができる。
【0280】
実際に、酸化物半導体膜の形成後に加熱処理を行っていない試料1と、650℃の加熱処理を行った試料2のトランジスタに対してBT試験を行う。
【0281】
まず基板温度を25℃とし、Vd(ソースとドレインの電位差をいう)を10Vとし、トランジスタのVg−Id特性の測定を行う。次に、基板温度を150℃とし、Vdを0.1Vとする。次に、ゲート絶縁膜608に印加される電界強度が2MV/cmとなるようにVgに20Vを印加し、そのまま1時間保持する。次に、Vgを0Vとする。次に、基板温度25℃とし、Vdを10Vとし、トランジスタのVg−Id測定を行う。これをプラスBT試験と呼ぶ。
【0282】
同様に、まず基板温度を25℃とし、Vdを10Vとし、トランジスタのVg−Id特性の測定を行う。次に、基板温度を150℃とし、Vdを0.1Vとする。次に、ゲート絶縁膜608に印加される電界強度が−2MV/cmとなるようにVgに−20Vを印加し、そのまま1時間保持した。次に、Vgを0Vとする。次に、基板温度25℃とし、Vdを10Vとし、トランジスタのVg−Id測定を行う。これをマイナスBT試験と呼ぶ。
【0283】
試料1のプラスBT試験の結果を図15(A)に、マイナスBT試験の結果を図15(B)に示す。また、試料2のプラスBT試験の結果を図16(A)に、マイナスBT試験の結果を図16(B)に示す。
【0284】
試料1のプラスBT試験およびマイナスBT試験によるしきい値電圧の変動は、それぞれ1.80Vおよび−0.42Vであった。また、試料2のプラスBT試験およびマイナスBT試験によるしきい値電圧の変動は、それぞれ0.79Vおよび0.76Vであった。
試料1および試料2のいずれも、BT試験前後におけるしきい値電圧の変動が小さく、信頼性が高いことがわかる。
【0285】
加熱処理は酸素雰囲気中で行うことができるが、まず窒素もしくは不活性ガス、または減圧下で加熱処理を行ってから酸素を含む雰囲気中で加熱処理を行ってもよい。最初に脱水化・脱水素化を行ってから酸素を酸化物半導体膜に加えることで、加熱処理の効果をより高めることができる。また、後から酸素を加えるには、酸素イオンを電界で加速して酸化物半導体膜に注入する方法を適用してもよい。
【0286】
酸化物半導体膜中および積層される膜との界面には、酸素欠損による欠陥が生成されやすいが、かかる加熱処理により酸化物半導体膜中に酸素を過剰に含ませることにより、定常的に生成される酸素欠損を過剰な酸素によって補償することが可能となる。過剰酸素は主に格子間に存在する酸素であり、その酸素濃度は1×1016/cm以上2×1020/cm以下とすれば、結晶に歪み等を与えることなく酸化物半導体膜中に含ませることができる。
【0287】
また、加熱処理によって酸化物半導体に結晶が少なくとも一部に含まれるようにすることで、より安定な酸化物半導体膜を得ることができる。例えば、組成比In:Sn:Zn=1:1:1のターゲットを用いて、基板を意図的に加熱せずにスパッタリング形成した酸化物半導体膜は、X線回折(XRD:X−Ray Diffraction)でハローパタンが観測される。この形成された酸化物半導体膜を加熱処理することによって結晶化させることができる。加熱処理温度は任意であるが、例えば650℃の加熱処理を行うことで、X線回折により明確な回折ピークを観測することができる。
【0288】
In−Sn−Zn−O膜のXRD分析を行い、XRD分析には、Bruker AXS社製X線回折装置D8 ADVANCEを用い、Out−of−Plane法で測定する。
【0289】
XRD分析を行った試料は、試料Aおよび試料Bとする。以下に試料Aおよび試料Bの作製方法を説明する。
【0290】
脱水素化処理済みの石英基板上にIn−Sn−Zn−O膜を100nmの厚さで形成する。
【0291】
In−Sn−Zn−O膜は、スパッタリング装置を用い、酸素雰囲気で電力を100W(DC)として形成した。ターゲットは、In:Sn:Zn=1:1:1[原子数比]のIn−Sn−Zn−Oターゲットを用いた。なお、形成時の基板加熱温度は200℃とした。このようにして作製した試料を試料Aとする。
【0292】
次に、試料Aと同様の方法で作製した試料に対し加熱処理を650℃の温度で行う。加熱処理は、はじめに窒素雰囲気で1時間の加熱処理を行い、温度を下げずに酸素雰囲気でさらに1時間の加熱処理を行っている。このようにして作製した試料を試料Bとする。
【0293】
図19に試料Aおよび試料BのXRDスペクトルを示す。試料Aでは、結晶由来のピークが観測されなかったが、試料Bでは、2θが35deg近傍および37deg〜38degに結晶由来のピークが観測される。
【0294】
このように、In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体は形成時に意図的に加熱することおよび形成後の一方または双方において、加熱処理することによりトランジスタの特性を向上させることができる。
【0295】
この基板加熱や加熱処理は、酸化物半導体にとって悪性の不純物である水素や水酸基を膜中に含ませないようにすること、或いは膜中から除去する作用がある。すなわち、酸化物半導体中でドナー不純物となる水素を除去することで高純度化を図ることができ、それによってトランジスタのノーマリ・オフ化を図ることができ、酸化物半導体が高純度化されることによりオフ電流を1aA/μm以下にすることができる。ここで、上記オフ電流値の単位は、チャネル幅1μmあたりの電流値を示す。
【0296】
図22に、トランジスタのオフ電流と測定時の基板温度(絶対温度)の逆数との関係を示す。ここでは、簡単のため測定時の基板温度の逆数に1000を掛けた数値(1000/T)を横軸としている。
【0297】
具体的には、図22に示すように、基板温度が125℃の場合には1aA/μm(1×10−18A/μm)以下、85℃の場合には100zA/μm(1×10−19A/μm)以下、室温(27℃)の場合には1zA/μm(1×10−21A/μm)以下にすることができる。好ましくは、125℃において0.1aA/μm(1×10−19A/μm)以下に、85℃において10zA/μm(1×10−20A/μm)以下に、室温において0.1zA/μm(1×10−22A/μm)以下にすることができる。
【0298】
もっとも、酸化物半導体膜の形成時に水素や水分が膜中に混入しないように、処理室外部からのリークや処理室内の内壁からの脱ガスを十分抑え、スパッタガスの高純度化を図ることが好ましい。例えば、スパッタガスは水分が膜中に含まれないように露点−70℃以下であるガスを用いることが好ましい。また、ターゲットそのものに水素や水分などの不純物が含まれていていないように、高純度化されたターゲットを用いることが好ましい。In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体は加熱処理によって膜中の水分を除去することができるが、In、Ga、Znを主成分とする酸化物半導体と比べて水分の放出温度が高いため、好ましくは最初から水分の含まれない膜を形成しておくことが好ましい。
【0299】
また、酸化物半導体膜の形成後に650℃の加熱処理を行った試料のトランジスタにおいて、基板温度と電気的特性の関係について評価する。
【0300】
測定に用いたトランジスタは、チャネル長Lが3μm、チャネル幅Wが10μm、Lovが0μm、dWが0μmである。なお、Vdは10Vとする。なお、基板温度は−40℃、−25℃、25℃、75℃、125℃および150℃で行うものとする。ここで、Lovは、ゲート電極と一対の電極との重畳する幅であり、dWは、酸化物半導体膜に対する一対の電極のはみ出し幅とする。
【0301】
図17に、Id(実線)および電界効果移動度(点線)のVg依存性を示す。また、図18(A)に基板温度としきい値電圧の関係を、図18(B)に基板温度と電界効果移動度の関係を示す。
【0302】
図18(A)より、基板温度が高いほどしきい値電圧は低くなることがわかる。なお、その範囲は−40℃〜150℃で1.09V〜−0.23Vである。
【0303】
また、図18(B)より、基板温度が高いほど電界効果移動度が低くなることがわかる。なお、その範囲は−40℃〜150℃で36cm/Vs〜32cm/Vsであった。従って、上述の温度範囲において電気的特性の変動が小さいことがわかる。
【0304】
上記のようなIn、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体をチャネル形成領域とするトランジスタによれば、オフ電流を1aA/μm以下に保ちつつ、電界効果移動度を30cm/Vs以上、好ましくは40cm/Vs以上、より好ましくは60cm/Vs以上とし、LSIで要求されるオン電流の値を満たすことができる。例えば、L/W=33nm/40nmのFETで、ゲート電圧2.7V、ドレイン電圧1.0Vのとき12μA以上のオン電流を流すことができる。またトランジスタの動作に求められる温度範囲においても、十分な電気的特性を確保することができる。このような特性であれば、Si半導体で作られる集積回路の中に酸化物半導体で形成されるトランジスタを混載しても、動作速度を犠牲にすることなく新たな機能を有する集積回路を実現することができる。
【0305】
なお、本実施の形態の内容または該内容の一部は、他の実施の形態の内容もしくは該内容の一部と自由に組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0306】
12 差動増幅器
13 利得段
14 利得段
15 出力段
16 第1のトランジスタ
18 第2のトランジスタ
20 第3のトランジスタ
22 第4のトランジスタ
100 ボルテージフォロア
102 第1のトランジスタ
104 第2のトランジスタ
106 第3のトランジスタ
108 第4のトランジスタ
110 第5のトランジスタ
112 第6のトランジスタ
114 第7のトランジスタ
116 第8のトランジスタ
118 第9のトランジスタ
120 差動増幅器
122 利得段
200 ボルテージフォロア
202 第1のトランジスタ
204 第2のトランジスタ
206 第3のトランジスタ
208 第4のトランジスタ
210 第5のトランジスタ
212 第6のトランジスタ
214 容量素子
216 第7のトランジスタ
218 第8のトランジスタ
220 第9のトランジスタ
222 第10のトランジスタ
224 第11のトランジスタ
226 第12のトランジスタ
228 第13のトランジスタ
230 差動増幅器
232 利得段
234 出力段
500 基板
502 下地絶縁膜
504 保護絶縁膜
506a 高抵抗領域
506b 低抵抗領域
506 酸化物半導体膜
508 ゲート絶縁膜
510 ゲート電極
512 側壁絶縁膜
514 一対の電極
516 層間絶縁膜
518 配線
600 基板
602 下地絶縁膜
606 酸化物半導体膜
608 ゲート絶縁膜
610 ゲート電極
614 一対の電極
616 層間絶縁膜
618 配線
620 保護膜
700 半導体基板
701 高濃度不純物領域
702 低濃度不純物領域
703 ゲート絶縁膜
704 ゲート電極
705 層間絶縁膜
710 トランジスタ
711 酸化物半導体層
712a ソース電極
712b ドレイン電極
713 ゲート絶縁膜
714 ゲート電極
1010 下地絶縁物
1020 埋め込み絶縁物
1030a 半導体領域
1030b 半導体領域
1030c 半導体領域
1040 ゲート絶縁物
1050 ゲート電極
1060a 側壁絶縁物
1060b 側壁絶縁物
1070 絶縁物
1080a ソース電極
1080b ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電位が入力される第1の入力端子および基準電位が入力される第2の入力端子と電気的に接続された差動増幅器と、
少なくとも第1のトランジスタ乃至第4のトランジスタを含み、且つ出力電位が出力される第1の出力端子と電気的に接続された利得段を有し、
前記差動増幅器は、高電位側電源電位線および低電位側電源電位線と電気的に接続されており、
前記第1のトランジスタの第1端子は、前記差動増幅器の第2の出力端子と電気的に接続されており、
前記第1のトランジスタの第2端子は、前記第3のトランジスタのゲートと電気的に接続されており、
前記第2のトランジスタの第1端子は、前記第2の入力端子と電気的に接続されており、
前記第2のトランジスタの第2端子は、前記第4のトランジスタのゲートと電気的に接続されており、
前記第3のトランジスタの第1端子は、前記高電位側電源電位線と電気的に接続されており、
前記第3のトランジスタの第2端子および前記第4のトランジスタの第1端子は、前記出力端子と電気的に接続されており、
前記第4のトランジスタの第2端子は、前記低電位側電源電位線と電気的に接続されており、
前記第1のトランジスタおよび前記第2のトランジスタは、オフ状態におけるリーク電流がチャネル幅1μmあたり1×10−17A以下のトランジスタであることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
入力電位が入力される第1の入力端子および基準電位が入力される第2の入力端子と電気的に接続された差動増幅器と、
少なくとも第1のトランジスタ乃至第4のトランジスタを含み、且つ出力電位が出力される第1の出力端子と電気的に接続された出力段と、
前記差動増幅器および前記出力段の間に設けられ、且つ前記差動増幅器および前記出力段と電気的に接続された利得段を有し、
前記差動増幅器および前記利得段は、高電位側電源電位線および低電位側電源電位線と電気的に接続されており、
前記第1のトランジスタの第1端子は、前記利得段の第2の出力端子と電気的に接続されており、
前記第1のトランジスタの第2端子は、前記第3のトランジスタのゲートと電気的に接続されており、
前記第2のトランジスタの第1端子は、前記利得段の第3の出力端子と電気的に接続されており、
前記第2のトランジスタの第2端子は、前記第4のトランジスタのゲートと電気的に接続されており、
前記第3のトランジスタの第1端子は、前記高電位側電源電位線と電気的に接続されており、
前記第3のトランジスタの第2端子および前記第4のトランジスタの第1端子は、前記出力端子と電気的に接続されており、
前記第4のトランジスタの第2端子は、前記低電位側電源電位線と電気的に接続されており、
前記第1のトランジスタおよび前記第2のトランジスタは、オフ状態におけるリーク電流がチャネル幅1μmあたり1×10−17A以下のトランジスタであることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記第1のトランジスタおよび前記第2のトランジスタは、酸化物半導体層を有し、且つ前記酸化物半導体層にチャネル形成領域を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
第1のトランジスタ乃至第9のトランジスタを有し、
前記第1のトランジスタの第1端子および前記第2のトランジスタの第1端子は、高電位側電源電位線に電気的に接続されており、
前記第1のトランジスタの第2端子は、前記第1のトランジスタのゲート、前記第2のトランジスタのゲートおよび第3のトランジスタの第1端子に電気的に接続されており、
前記第2のトランジスタの第2端子は、第4のトランジスタの第1端子に電気的に接続されており、
前記第3のトランジスタの第2端子および前記第4のトランジスタの第1端子は、第5のトランジスタの第1端子と電気的に接続されており、
前記第5のトランジスタの第2端子は、低電位側電源電位線に電気的に接続されており、
第6のトランジスタの第1端子は、前記高電位側電源電位線に電気的に接続されており、
第7のトランジスタの第1端子は、前記第2のトランジスタの前記第2端子および前記第4のトランジスタの第2端子と電気的に接続されており、
前記第7トランジスタの第2端子は前記第6のトランジスタのゲートと電気的に接続されており、
第8のトランジスタの第1端子は、前記第5のトランジスタのゲートと電気的に接続されており、
前記第8のトランジスタの第2端子は、第9のトランジスタのゲートと電気的に接続されており、
前記第9のトランジスタの第1端子は、前記第5のトランジスタの前記第2端子および前記低電源側電源電位と電気的に接続されており、
前記第4のトランジスタのゲートは、入力電位が入力される第1の入力端子と電気的に接続されており、
前記第3のトランジスタのゲート、前記第6のトランジスタの第2端子および前記第9のトランジスタの第2端子は、出力端子と電気的に接続されており、
前記第5のトランジスタの前記ゲートは、基準電位が入力される第2の入力端子と電気的に接続されており、
前記第1のトランジスタ、前記第2のトランジスタおよび前記第6のトランジスタは、pチャネル型トランジスタであり、
前記第3のトランジスタ乃至前記第5のトランジスタおよび前記第9のトランジスタは、nチャネル型トランジスタであり、
前記第7のトランジスタおよび前記第8のトランジスタは、オフ状態におけるリーク電流がチャネル幅1μmあたり1×10−17A以下のトランジスタであることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記第7のトランジスタおよび前記第8のトランジスタは、酸化物半導体層を有し、且つ前記酸化物半導体層にチャネル形成領域を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
第1のトランジスタ乃至第13のトランジスタおよび1の容量素子を有し、
前記第1のトランジスタの第1端子および前記第2のトランジスタの第1端子は、高電位側電源電位線に電気的に接続されており、
前記第1のトランジスタの第2端子は、前記第1のトランジスタのゲート、第2のトランジスタのゲートおよび第3のトランジスタの第1端子と電気的に接続されており、
前記第2のトランジスタの第2端子は、第4のトランジスタの第1端子に電気的に接続されており、
前記第3のトランジスタの第2端子および前記第4のトランジスタの第2端子は、第5のトランジスタの第1端子と電気的に接続されており、
前記第5のトランジスタの第2端子は、低電位側電源電位線に電気的に接続されており、
第6のトランジスタの第1端子は、前記高電位側電源電位線に電気的に接続されており、
前記第2のトランジスタの前記第2端子および前記第4のトランジスタの前記第1端子は、前記第6のトランジスタのゲートおよび容量素子の一方の電極と電気的に接続されており、
前記第6のトランジスタの第2端子および前記容量素子の他方の電極は、第7のトランジスタの第1端子および第7のトランジスタのゲートと電気的に接続されており、
前記第7のトランジスタの第2端子は、第8のトランジスタの第1端子と電気的に接続されており、
前記第8のトランジスタの第2端子は、前記第8のトランジスタのゲートおよび第9のトランジスタの第1端子と電気的に接続されており、
前記第9のトランジスタの第2端子は、前記低電位側電源電位線と電気的に接続されており、
第10のトランジスタの第1端子は、前記高電位側電源電位線と電気的に接続されており、
第11のトランジスタの第1端子は、前記第7のトランジスタの前記ゲートと電気的に接続されており、
前記第10のトランジスタのゲートは、前記第11のトランジスタの第2端子と電気的に接続されており、
第12のトランジスタの第1端子は、前記第8のトランジスタの前記ゲートと電気的に接続されており、
前記第12のトランジスタの第2端子は、第13のトランジスタのゲートと電気的に接続されており、
前記第10のトランジスタの第2端子は、前記第13のトランジスタの第1端子と電気的に接続されており、
前記第13のトランジスタの第2端子は、前記低電位側電源電位線と電気的に接続されており、
前記第4のトランジスタのゲートは、入力電位が入力される第1の入力端子と電気的に接続されており、
前記第3のトランジスタのゲート、前記第10のトランジスタの前記第2端子および前記第13のトランジスタの前記第1端子は、出力電位が出力される出力端子と電気的に接続されており、
前記第5のトランジスタのゲートおよび前記第9のトランジスタのゲートは、基準電位が入力される第2の入力端子と電気的に接続されており、
前記第1のトランジスタ、前記第2のトランジスタ、前記第6のトランジスタ、前記第8のトランジスタおよび前記第13のトランジスタは、pチャネル型トランジスタであり、
前記第3のトランジスタ乃至前記第5のトランジスタ、前記第7のトランジスタ、前記第9のトランジスタおよび前記第10のトランジスタは、nチャネル型トランジスタであり、
前記第11のトランジスタおよび前記第12のトランジスタは、オフ状態におけるリーク電流がチャネル幅1μmあたり1×10−17A以下のトランジスタであることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記第11のトランジスタおよび前記第12のトランジスタは、酸化物半導体層を有し、且つ前記酸化物半導体層にチャネル形成領域を有することを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−257212(P2012−257212A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−108215(P2012−108215)
【出願日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】