説明

車両およびその制御方法

【課題】緊急時における旋回性能を向上させつつ車両の走行安定性を確保する。
【解決手段】ハイブリッド自動車20では、障害物検知ユニット90により車両前方に障害物が検知されていないときには、運転者による操舵ハンドル56の操舵角θと当該操舵角θに対する第1のゲインk1とを用いて一対の前輪39a,39bにおける左右トルク分配比dが設定される一方、障害物検知ユニット90により車両前方に障害物が検知されているときには、操舵角θと第1のゲインk1よりも大きい第2のゲインk2とを用いて一対の前輪39a,39cにおける左右トルク分配比dが設定される(ステップS150,S160〜S240)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の駆動輪に対して駆動力を左右独立に分配して出力可能な動力ユニットを備えた車両およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ステアリングホイールの操作に応じて制御される操舵アクチュエータを備えた車両として、車両が緊急状態にあるか否かを判別する緊急状態判別手段を有し、車両が緊急状態にあると判別された場合に、ステアリングホイールの操作に対する操舵アクチュエータの作動ゲインを通常時に比して大きくなるように変更するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。この車両によれば、操舵量が小さくても車両を大きく旋回させて緊急状態を回避できるように車両旋回性能の向上を図ることが可能となる。
【特許文献1】特開2000−177616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、緊急時に操舵量に対する操舵アクチュエータの作動ゲインを通常時に比して大きくすれば、緊急時における車両の旋回性能を向上させることができる。ただし、操舵アクチュエータの作動ゲインを変更するだけでは、緊急状態を回避すべく車両を旋回させる際の走行安定性を確保し得なくなるおそれもある。
【0004】
そこで、本発明の車両およびその制御方法は、緊急時における旋回性能を向上させつつ車両の走行安定性を確保することを目的の一つとする。また、本発明の車両およびその制御方法は、左右の駆動輪に独立に出力される駆動力を運転者による操舵量に対して応答性よく速やか変化させて、緊急時における旋回性能を向上させつつ車両の走行安定性を確保することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車両およびその制御方法は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採っている。
【0006】
本発明の車両は、複数の車輪を有する車両であって、
前記複数の車輪に含まれる一対の駆動輪に対して駆動力を左右独立に分配して出力可能な動力ユニットと、
前記複数の車輪に含まれる操舵輪を操舵するための操舵手段と、
運転者による前記操舵手段の操舵量を検出する操舵量検出手段と、
車両前方の障害物を検知する障害物検知手段と、
走行に要求される要求駆動力を設定する要求駆動力設定手段と、
前記障害物検知手段により障害物が検知されていないときには、前記検出された操舵量と該操舵量に対する第1のゲインとを用いて前記一対の駆動輪における駆動力分配比を設定する一方、前記障害物検知手段により障害物が検知されているときには、前記検出された操舵量と前記第1のゲインよりも大きい前記操舵量に対する第2のゲインとを用いて前記一対の駆動輪における駆動力分配比を設定する駆動力分配比設定手段と、
前記設定された要求駆動力に基づく駆動力が前記設定された駆動力分配比で分配されて前記駆動輪のそれぞれに出力されるように前記動力ユニットを制御する制御手段と、
を備えるものである。
【0007】
この車両は、複数の車輪のうちの一対の駆動輪に対して駆動力を左右独立に分配して出力可能な動力ユニットと、複数の車輪のうちの操舵輪を操舵するための操舵手段と、車両前方の障害物を検知する障害物検知手段とを含むものである。そして、障害物検知手段により障害物が検知されていないときには、運転者による操舵手段の操舵量と該操舵量に対する第1のゲインとを用いて一対の駆動輪における駆動力分配比が設定される一方、障害物検知手段により障害物が検知されているときには、操舵量と第1のゲインよりも大きい第2のゲインとを用いて一対の駆動輪における駆動力分配比が設定され、走行に要求される要求駆動力に基づく駆動力が設定された駆動力分配比で分配されて駆動輪のそれぞれに出力されるように動力ユニットが制御される。このように、障害物検知手段により障害物が検知された緊急時に、左右の駆動輪における駆動力分配比を定めるための操舵量に対するゲインを通常時に比べて大きくすれば、左右の駆動輪に独立に出力される駆動力を運転者による操舵量に対して応答性よく変化させることができるので、緊急時における旋回性能を向上させつつ、障害物の回避時や障害物の回避後の復帰時における走行安定性を良好に確保することが可能となる。
【0008】
この場合、前記駆動力分配比設定手段は、操舵に際して内輪となる前記駆動輪に比べて外輪となる前記駆動輪により多くの駆動力が分配されるように前記駆動力分配比を設定するものであってもよい。
【0009】
また、本発明による車両は、前記駆動輪以外の一対の車輪を駆動する第2の動力ユニットを更に備えてもよく、当該第2の動力ユニットは、内燃機関と、前記一対の車輪が接続された駆動軸と前記内燃機関の出力軸とに接続されて電力と動力の入出力を伴って前記駆動軸および前記出力軸に動力を入出力可能な電力動力入出力手段と、前記駆動軸に動力を入出力可能な電動機とを含むものであってもよい。更に、当該第2の動力ユニットは、内燃機関と、前記内燃機関の出力軸と前記一対の車輪が接続された駆動軸との間で変速比の変更を伴って動力を伝達する変速手段とを含むものであってもよい。このように、本発明による車両をいわゆる4輪駆動可能な車両として構成すれば、障害物の回避時や障害物の回避後の復帰時における走行安定性をより一層良好に確保することが可能となる。そして、これらの場合に、前記動力ユニットは、前記駆動輪のそれぞれに設けられた電動機を含むものであってもよく、本発明による車両は、これらの電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段を更に備えてもよい。このように、左右の駆動輪に対して電動機を独立に設ければ、左右の駆動輪に独立に出力される駆動力を運転者による操舵量に対して応答性よく速やか変化させて、緊急時における旋回性能を向上させつつ車両の走行安定性を確保することが可能となる。
【0010】
そして、前記一対の駆動輪は、前記複数の車輪に含まれる操舵輪としての前輪であってもよい。このように、操舵輪としての一対の前輪に対して駆動力を左右独立に分配できるようにすれば、緊急時における旋回性能と走行安定性とを極めて良好に確保することが可能となる。もちろん、前記一対の駆動輪は、前記複数の車輪に含まれる後輪であってもよい。
【0011】
また、前記障害物検知手段は、暗環境下で車両前方の障害物を検知可能な手段であってもよい。これにより、運転者による障害物の認知が遅れがちとなる暗環境下における車両の緊急回避性能を向上させて車両安全性を良好なものとすることが可能となる。
【0012】
本発明による車両の制御方法は、複数の車輪と、前記複数の車輪に含まれる一対の駆動輪に対して駆動力を左右独立に分配して出力可能な動力ユニットと、前記複数の車輪に含まれる操舵輪を操舵するための操舵手段と、運転者による前記操舵手段の操舵量を検出する操舵量検出手段と、前方の障害物を検知する障害物検知手段とを備えた車両の制御方法であって、
(a)前記障害物検知手段により障害物が検知されていないときには、前記検出された操舵量と該操舵量に対する第1のゲインとを用いて前記一対の駆動輪における駆動力分配比を設定する一方、前記障害物検知手段により障害物が検知されているときには、前記検出された操舵量と前記第1のゲインよりも大きい前記操舵量に対する第2のゲインとを用いて前記一対の駆動輪における駆動力分配比を設定するステップと、
(b)走行に要求される要求駆動力に基づく駆動力がステップ(a)で設定された駆動力分配比で分配されて前記駆動輪のそれぞれに出力されるように前記動力ユニットを制御するステップと、
を含むものである。
【0013】
この方法のように、障害物検知手段により障害物が検知された緊急時に、左右の駆動輪における駆動力分配比を定めるための操舵量に対するゲインを通常時に比べて大きくすれば、左右の駆動輪に独立に出力される駆動力を運転者による操舵量に対して応答性よく変化させることができるので、緊急時における旋回性能を向上させつつ、障害物の回避時や障害物の回避後の復帰時における走行安定性を良好に確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の第1の実施例に係るハイブリッド自動車の概略構成図である。本実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、動力分配統合機構30に接続されると共にギヤ機構37およびデファレンシャルギヤ38を介して左右一対の後輪39c,39dに接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに減速ギヤ35を介して接続されたモータMG2と、左右一対の前輪39aおよび39bそれぞれのホイール内に配置されて対応する前輪39aまたは39bに駆動力を出力するモータMG3およびMG4と、左右一対の前輪39aおよび39bを操舵するための操舵装置55と、前輪39a,39bや後輪39c,39dに制動トルクを付与するためのマスタシリンダ61や、ブレーキアクチュエータ62、ホイールシリンダ66a〜66d等を含む電子制御式油圧ブレーキユニット(ECB)60と、ハイブリッド自動車20の全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」という)70とを備える。
【0016】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油等の炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24により燃料噴射量や点火時期、吸入空気量等の制御を受けている。エンジンECU24は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0017】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、動力分配統合機構30は、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構37およびデファレンシャルギヤ38を介して、最終的には車両の後輪39c,39dに出力される。
【0018】
モータMG1およびモータMG2は、何れも発電機として作動することができると共に電動機として作動可能な周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。また、前輪側のモータMG3およびMG4は、同期発電電動機や減速機、ハブベアリング等を一体化したいわゆるインホイールモータとして構成された互いに同一のものであり、インバータ43,44を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。すなわち、前輪側のモータMG3およびMG4は、一対の前輪39a,39bに対して駆動力を左右独立に分配して出力可能な動力ユニットとして機能する。インバータ41〜44とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41〜44が共用する正極母線および負極母線として構成されており、これにより、モータMG1,MG2の何れかで発電される電力を他のモータで消費することができる。従って、バッテリ50は、モータMG1〜MG4の何れかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになり、モータMG1〜MG4との間で電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されないことになる。モータMG1〜MG4は、何れもモータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40により駆動制御される。モータECU40には、モータMG1〜MG4を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1〜MG4の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ45,46,47および48からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1〜MG4に印加される相電流等が入力されており、モータECU40からは、インバータ41〜44へのスイッチング制御信号が出力される。モータECU40は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号によってモータMG1〜MG4を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1〜MG4の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0019】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧、バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流、バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度Tb等が入力されており、バッテリECU52は、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッドECU70やエンジンECU24に出力する。なお、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量SOCをも算出する。
【0020】
また、操舵装置55は、運転者によって操作される操舵ハンドル56や、運転者による操舵ハンドルの操作量としての操舵角θを検出する操舵角センサ56a、ステアリングシャフトを介して操舵ハンドル56に連結された例えばラックアンドピニオン式の操舵ギヤボックス57、伝達比可変機能やパワーアシスト機能をもった操舵アクチュエータ58等を含む。このような操舵装置55は、操舵用電子制御ユニット(以下「操舵ECU」という)59によって制御され、かかる操舵ECU59も、ハイブリッドECU70と通信している。操舵ECU59は、操舵角センサ56aにより検出される操舵角θやハイブリッドECU70からの制御信号に基づいて操舵アクチュエータ58を制御すると共に、必要に応じて操舵装置55の状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0021】
更に、電子制御式油圧ブレーキユニット60のブレーキアクチュエータ62は、マスタシリンダ圧センサ61aにより検出されるマスタシリンダ61の圧力(マスタシリンダ圧)と車速Vとに基づいて、ハイブリッド自動車20に作用させるべき制動力のうちの当該ブレーキユニット60の分担割合に応じた制動トルクが前輪39a,39bや後輪39c,39dに作用するようにホイールシリンダ66a〜66dへの油圧を調整するものである。本実施例のブレーキアクチュエータ62は、ブレーキ用電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という)64により制御され、ブレーキECU64の制御のもと、運転者によるブレーキペダル85の踏み込み操作とは無関係に、前輪39a,39bや後輪39c,39dに制動トルクが作用するようホイールシリンダ66a〜66dの油圧を調整可能なものである。ブレーキECU64は、図示しない信号ラインを介して、各車輪39a〜39dに設けられた図示しない車輪速センサからの車輪速や、操舵角センサ56aからの操舵角を示す信号等を入力し、これらの信号に基づいて、運転者がブレーキペダル85を踏み込んだときに前輪39a,39bや後輪39c,39dの何れかがロックしてスリップするのを防止するアンチスキッド制御(ABS)や、運転者がアクセルペダル83を踏み込んだときに前輪39a,39bや後輪39c,39dの何れかが空転してスリップするのを防止するトラクションコントロール(TRC)、主としてハイブリッド自動車20の旋回走行時に車両全体の旋回方向の安定性を確保する車両安定化制御(VSC)等を実行する。ブレーキECU64も、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号に基づいてブレーキアクチュエータ62を制御すると共に、必要に応じてブレーキアクチュエータ62等の状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0022】
ハイブリッドECU70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッドECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号、シフトレバー81の操作位置であるシフトポジションSPを検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ88からの車速V等が入力ポートを介して入力される。ハイブリッドECU70は、上述したように、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52、操舵ECU59、ブレーキECU64と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0023】
また、本実施例のハイブリッド自動車20には、暗環境下においても車両前方の障害物を検知可能な障害物検知ユニット90が備えられている。障害物検知ユニット90は、例えばミリ波等の電波を利用して例えば車両重心に対して前方の左右におよそ45度の範囲内に存在する物体を検出するレーダセンサと、レーダセンサの検出信号を処理してレーダセンサにより検出された物体が路上に存在または出現した何らかの障害物であるか否かを判定したり、検知した障害物との距離等を算出したりする処理装置等を含む。そして、障害物検知ユニット90は、車両前方の障害物を検知すると、少なくともその旨を示す信号をハイブリッドECU70に出力する。なお、障害物検知ユニット90としては、車両前方を撮像する赤外カメラや、赤外カメラからの信号を画像処理してモニタに表示させたり、被撮像体が障害物であるか否かを判定したり、障害物との距離等を算出したりする処理装置等を含むいわゆる暗視装置を用いてもよい。
【0024】
上述のように構成された第1の実施例のハイブリッド自動車20では、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車両全体に要求される要求トルクT*が計算され、この要求トルクT*に対応する動力が後輪39cおよび39dに接続されたリングギヤ軸32aと、前輪39aおよび39bとに出力されるようにエンジン22とモータMG1〜MG4とが運転制御され、ハイブリッド自動車20は、基本的にいわゆるフルタイム4輪駆動車両として動作する。そして、エンジン22やモータMG1〜MG4の運転制御モードとしては、要求された動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2〜MG4とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aや前輪39aおよび39bに出力されるようにモータMG1〜MG4を駆動制御するトルク変換運転モードや、要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2〜MG4とによるトルク変換を伴って要求動力が出力されるようにモータMG1〜MG4を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2〜モータMG4から要求動力に見合う動力が出力されるように運転制御するモータ運転モード等がある。
【0025】
次に、本実施例のハイブリッド自動車20の動作について説明する。図2は、本実施例のハイブリッド自動車20のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0026】
図2の駆動制御ルーチンの開始に際して、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V、モータMG1,MG2,MG3およびMG4の回転数Nm1,Nm2,Nm3,Nm4、バッテリ50が充放電すべき充放電要求パワーPb*、バッテリ50から放電が許容されている電力の値である出力制限Wout、操舵角θ、障害物検知ユニット90からの障害物検知情報といった制御に必要なデータを入力する(ステップS100)。ここで、回転数Nm1〜Nm4は、回転位置検出センサ45〜48からのモータMG1〜MG4の回転子の回転位置に基づいて演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。また、充放電要求パワーPb*は、残容量SOCに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力し、バッテリ50の出力制限Woutは、図示しない温度センサにより検出されたバッテリ50の電池温度と残容量SOCとに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。なお、操舵角θは、操舵ECU59から通信により入力するものとしたが、操舵角センサ56aから直接入力してもよい。
【0027】
ステップS100のデータ入力処理の後、入力したアクセル開度Accおよび車速Vに基づいてハイブリッド自動車20に要求されている要求トルクT*および要求パワーP*を設定する(ステップS110)。本実施例では、アクセル開度Accおよび車速Vと要求トルクT*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度Accおよび車速Vが与えられると当該マップからこれらに対応する要求トルクT*を導出して設定するものとした。図3に要求トルク設定用マップの一例を示す。また、本実施例では、設定した要求トルクT*に車速Vを乗じたものとバッテリ50が充放電すべき充放電要求パワーPb*とロスLossとの和として要求パワーP*を設定するものとした。なお、ここでは、充放電要求パワーPb*は、放電要求を負の値とし充電要求を正の値とする。そして、ステップS110で設定した要求パワーP*に基づいてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する(ステップS120)。本実施例では、エンジン22を効率よく動作させる動作ラインと要求パワーPe*とに基づいてエンジン22の目標運転ポイントとしての目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定するものとした。図4に、エンジン22の動作ラインと目標回転数Ne*と目標トルクTe*との相関曲線とを例示する。同図に示すように、目標回転数Ne*と目標トルクTe*は、動作ラインと要求パワーPe*(Ne*×Te*)が一定となること示す相関曲線との交点から求めることができる。
【0028】
続いて、要求トルクT*を前輪39a,39b側と後輪39c,39d側とに分配するための前後トルク分配比Dを設定する(ステップS130)。前後トルク分配比Dは、要求トルクT*に対する前輪39a,39b側に出力するトルクの割合としてハイブリッド自動車20の走行状態に基づいて値1〜値0の範囲で設定可能なものである。本実施例において、通常走行時には、前後トルク分配比Dが予め定められた所定の値(例えば0.3)に設定され、前輪39a,39bと後輪39c,39dの一方にスリップが発生したスリップ発生時にはスリップが発生した車輪に出力されるトルクの割合が小さくなると共にスリップが発生していない車輪に出力されるトルクの割合が大きくなるように前後トルク分配比Dが設定される。前後トルク分配比Dを設定したならば、当該前後トルク分配比Dを要求トルクT*に乗じて前輪39a,39b側に出力すべき前輪側トルクTf*を設定すると共に、値1から前後トルク分配比Dを減じたものを要求トルクT*に乗じて後輪39c,39d側に出力すべき後輪側トルクTr*を設定する(ステップS140)。
【0029】
更に、ステップS100で入力した障害物検知情報に基づいて障害物検知ユニット90により車両前方の障害物が検知されているか否かを判定し(ステップS150)、障害物検知ユニット90により車両前方の障害物が検知されていなければ、前輪側トルクTf*を左右の前輪39a,39bに分配するための左右トルク分配比dを設定する際に操舵装置55における操舵角θに対して適用されるゲインkを通常時用の値k1(例えば、値1)に設定し(ステップS160)、設定したゲインk(=k1)を用いて、前輪39a,39bについての左右トルク分配比dを次式(1)に従った計算により設定する(ステップS170)。左右トルク分配比dは、前輪側トルクTf*に対する例えば左側の前輪39aに出力するトルクの割合であり、本実施例では、式(1)のように、通常時の分配比である値0.5に実験、解析により得られる操舵角θを変数とした関数f(θ)から定まる値にゲインkを乗じた値として設定される。関数f(θ)は、操舵に際して内輪となる前輪に比べて外輪となる前輪により多くのトルクが分配されるように定められる。すなわち、関数f(θ)は、左右トルク分配比dが左側の前輪39aに対するトルクの割合を規定するものである場合、操舵角θが右折側である正の値をとり、操舵角θが大きいほど大きな値をとるようになる。なお、左右トルク分配比dを設定するに際しては、関数f(θ)の代わりに、操舵角θに加えて車速Vやヨーレート等を更なる変数とする関数を用いてもよく、この場合、ゲインkは当該関数の操舵角θに関連する項に乗じられてもよい。
【0030】
d=0.5+k・f(θ) …(1)
【0031】
こうして前輪39a,39bについての左右トルク分配比dを設定したならば、設定した左右トルク分配比dと前輪側トルクTf*との積値を換算係数Gfで除することにより左側の前輪39aに設けられたモータMG3に対するトルク指令Tm3*を設定すると共に、値1から左右トルク分配比dを減じたものと前輪側トルクTf*との積値を換算係数Gfで除することにより右側の前輪39bに設けられたモータMG4に対するトルク指令Tm4*を設定する(ステップS180)。ここで、換算係数Gfは、前輪39a,39bに作用するトルクをモータMG3,MG4に作用するトルクに換算するための係数である。次いで、ステップS120にて設定したエンジン22の目標回転数Ne*とリングギヤ軸32aの回転数Nr(=Nm2/Ga、ただし、「Ga」は減速ギヤ35のギヤ比である)と動力分配統合機構30のギヤ比ρとに基づいて次式(2)に従った計算によりモータMG1の目標回転数Nm1*を設定すると共に、設定した目標回転数Nm1*と現在の回転数Nm1とに基づいて次式(3)に従った計算を行ってモータMG1のトルク指令Tm1*を設定する(ステップS190)。図5に動力分配統合機構30の各回転要素の回転数とトルクの力学的な関係を示す共線図を例示する。図中、左のS軸はサンギヤ31の回転数を示し、C軸はキャリア34の回転数を示し、R軸はリングギヤ32(リングギヤ軸32a)の回転数Nrを示す。サンギヤ31の回転数はモータMG1の回転数Nmでもあり、キャリア34の回転数はエンジン22の回転数Neでもあるから、モータMG1の目標回転数Nm1*はリングギヤ軸32aの回転数Nrとエンジン22の目標回転数Ne*と動力分配統合機構30のギヤ比ρとに基づいて式(2)から計算することができる。従って、モータMG1が目標回転数Nm1*で回転するようトルク指令Tm1*を設定してモータMG1を駆動制御すれば、エンジン22を目標回転数Ne*で回転させることができる。また、式(3)は、モータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(3)中、右辺第2項の「KP」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「KI」は積分項のゲインである。なお、図5におけるR軸上の2本の上向き太線矢印は、エンジン22を回転数NeおよびトルクTeの運転ポイントで定常運転したときにエンジン22から出力されるトルクTeがリングギヤ軸32aに伝達されるトルクと、モータMG2から出力されるトルクTm2がリングギヤ軸32aに作用するトルクとを示す。
【0032】
Nm1*=(Ne*・(1+ρ)−Nm2/Ga)/ρ …(2)
Tm1*=前回Tm1*+KP・(Nm1*-Nm1)+KI∫(Nm1*−Nm1)dt …(3)
【0033】
モータMG1の目標回転数Nm1*とトルク指令Tm1*とを設定したならば、バッテリ50の出力制限Woutから、モータMG1,MG3,MG4のトルク指令Tm1*,Tm3*,Tm4*と現在の回転数Nm1,Nm3,Nm4とに基づくモータMG1,MG3,MG4の消費電力(モータMG1については発電電力)を減じたものをモータMG2の回転数Nm2で除することによりモータMG2から出力してもよいトルクの上限としてのトルク制限Tmaxを次式(4)に従い計算する(ステップS200)。更に、次式(5)に従い、後輪側トルクTr*を換算係数Gr(リングギヤ軸32aの回転数/後輪39c,39dの軸の回転数)で除したものよりエンジン22からリングギヤ軸32aに直接伝達されるトルク(−Tm1*/ρ)を減じ、これを減速ギヤ35のギヤ比Gaで除することによりモータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを計算する(ステップS210)。そして、モータMG2のトルク指令Tm2*を先に計算したトルク制限Tmaxで仮モータトルクTm2tmpを制限した値として設定する(ステップS220)。このようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定することにより、バイブリッド自動車20に要求される要求トルクT*をバッテリ50の出力制限Woutの範囲内で制限したトルクとして設定することができる。なお、式(5)も、図5の共線図から容易に導き出すことができる。
【0034】
Tmax=(Wout−Tm1*・Nm1−Tm3*・Nm3−Tm4*・Nm4)/Nm2 …(4)
Tm2tmp=(Tr*/Gf+Tm1*/ρ)/Ga …(5)
【0035】
こうしてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*,モータMG1,MG2,MG3,MG4のトルク指令Tm1*,Tm2*,Tm3*,Tm4*を設定したならば、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とをエンジンECU24に、モータMG1,MG2,MG3、MG4のトルク指令Tm1*,Tm2*,Tm3*、Tm4*をモータECU40にそれぞれ送信し(ステップS230)、本ルーチンを一旦終了させる。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、エンジン22が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とにより規定される運転ポイントで運転されるようにエンジン22における燃料噴射量や点火時期等を制御する。また、トルク指令Tm1*,Tm2*,Tm3*、Tm4*を受信したモータECU40は、モータMG1〜MG4がトルク指令Tm1*〜Tm4*で駆動されるようにインバータ41,42,43,44のスイッチング素子のスイッチング制御を実行する。
【0036】
一方、ステップS150にて障害物検知ユニット90により車両前方の障害物が検知されていると判断された場合には、前輪側トルクTf*を左右の前輪39a,39bに分配するための左右トルク分配比dを設定する際に操舵装置55における操舵角θに対して適用されるゲインkを障害物検知時用の値k2(k2>k1、例えば、値1.1)に設定する(ステップS240)。そして、設定したゲインk(=k2)を用いて、前輪39a,39bについての左右トルク分配比dが上記式(1)に従った計算により設定され、上述したステップS180〜S230の処理が実行されることになる。これにより、障害物検知ユニット90によりハイブリッド自動車20の前方に何らかの障害物が検知された場合には、障害物が検知されていない通常時に比べて、操舵に際して外輪となる前輪39aまたは39bに出力されるトルクの割合が大きくなる。
【0037】
以上説明したように、本実施例のハイブリッド自動車20では、障害物検知ユニット90により車両前方に障害物が検知されていないときには、運転者による操舵ハンドル56の操舵角θと当該操舵角θに対する第1のゲインk1とを用いて一対の前輪39a,39bにおける左右トルク分配比dが設定される一方、障害物検知ユニット90により車両前方に障害物が検知されているときには、操舵角θと第1のゲインk1よりも大きい第2のゲインk2とを用いて一対の前輪39a,39cにおける左右トルク分配比dが設定される(ステップS150,S160〜S240)。そして、走行に要求される要求トルクT*に基づくトルクが設定された前後トルク分配比Dおよび左右トルク分配比dで分配されて前輪39a,39bおよび後輪39c,39dに出力されるようにエンジン22やモータMG1〜MG4が制御される。このように、走行中に障害物検知ユニット90により車両前方の障害物が検知された緊急時に、左右一対の駆動輪としての前輪39a,39bにおける左右トルク分配比dを定めるための操舵角θに対するゲインを通常時に比べて大きくすれば、左右の前輪39a,39bに独立に出力されるトルクを運転者による操舵量に対して応答性よく変化させることができるので、緊急時における旋回性能を向上させつつ、障害物の回避時や障害物の回避後の復帰時における走行安定性を良好に確保することが可能となる。
【0038】
また、一対の前輪39a、39bにトルクを左右独立に分配して出力するために前輪39a,39bのそれぞれに、バッテリ50と電力をやり取り可能な電動機としてのモータMG3,MG4を設ければ、左右の前輪39a,39bに独立に出力されるトルクを運転者による操舵量に対して応答性よく速やかに変化させて、緊急時における旋回性能を向上させつつ車両の走行安定性を確保することが可能となる。更に、本実施例のハイブリッド自動車20は、後輪39c、39dを駆動するためにエンジン22とモータMG1,MG2と3軸式の動力分配統合機構30とを含む動力出力装置を備えたいわゆる4輪駆動車両として構成されているので、これにより、障害物の回避時や障害物の回避後の復帰時における走行安定性をより一層良好に確保することが可能となる。加えて、本実施例のハイブリッド自動車20のように操舵輪としての一対の前輪39a、39bに対してトルクを左右独立に分配できるようにすれば、緊急時における旋回性能と走行安定性とを極めて良好に確保することが可能となる。また、上述のように、障害物検知ユニット90として、暗環境下で車両前方の障害物を検知可能なものを用いれば、運転者による障害物の認知が遅れがちとなる暗環境下におけるハイブリッド自動車20の緊急回避性能を向上させて車両安全性を良好なものとすることが可能となる。
【実施例2】
【0039】
次に、本発明の第2の実施例に係るハイブリッド自動車20Bについて説明する。なお、第2の実施例のハイブリッド自動車20Bを構成する要素のうち、第1の実施例のハイブリッド自動車20と共通する要素については、重複した説明を回避するために第1実施例と同一の符号を用いるものとし、詳細な説明を省略する。図6は、第2の実施例に係るハイブリッド自動車20Bの概略構成図である。本実施例のハイブリッド自動車20Bは、後輪39c,39dを駆動するための動力ユニットとして、エンジン22と、エンジン22のクランクシャフト26と一対の後輪39c,39dが接続された駆動軸との間で変速比の変更を伴って動力を伝達する無段変速機としてのCVT140とを含むものである。この場合、エンジン22からの動力は、トルクコンバータ130や前後進切換機構135、CVT140、ギヤ機構37、デファレンシャルギヤ38を介して後輪39c,39dに出力される。
【0040】
CVT140は、インプットシャフト141に接続された溝幅を変更可能なプライマリプーリ143と、同様に溝幅を変更可能であって駆動軸としてのアウトプットシャフト142に接続されたセカンダリプーリ144と、プライマリプーリ143およびセカンダリプーリ144の溝に巻き掛けられたベルト145とを有する。そして、CVT用電子制御ユニット(以下「CVTECU」という)146により駆動制御される油圧回路147からの作動油によりプライマリプーリ143およびセカンダリプーリ144の溝幅を変更することにより、インプットシャフト141に入力した動力を無段階に変速してアウトプットシャフト142に出力することが可能となる。CVTECU146には、インプットシャフト141の回転数Ninやアウトプットシャフト142の回転数Nout等が入力され、CVTECU146は、これらの情報に基づいて油圧回路147への駆動信号を生成、出力する。また、CVTECU146は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号に従ってCVT140の変速比を制御すると共に必要に応じてCVT140に関連するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0041】
トルクコンバータ130は、周知の流体式トルクコンバータとして構成されており、油圧回路147からの作動油を動力源として作動するロックアップクラッチを有している。また、前後進切換機構135は、ダブルピニオンの遊星歯車機構と図示しないブレーキB1とクラッチC1とを含む。前後進切換機構135のブレーキB1をオフすると共にクラッチC1をオンすることにより、トルクコンバータ130の出力軸の回転をそのままCVT140のインプットシャフト141に伝達してハイブリッド自動車20Bを前進させることができる。また、ブレーキB1をオンすると共にクラッチC1をオフすることにより、トルクコンバータ130の出力軸の回転を逆方向に変換してCVT140のインプットシャフト141に伝達し、ハイブリッド自動車20Bを後進させることができる。更に、ブレーキB1をオフすると共にクラッチC1をオフすることによりトルクコンバータ130の出力軸とCVT140のインプットシャフト141とを切り離すこともできる。
【0042】
また、インホイールモータとして構成されたモータMG3およびMG4は、インバータ43または44を介してエンジン22により駆動されるオルタネータ128や当該オルタネータ128への電力ラインに出力端子が接続されている高圧バッテリ(例えば定格42Vの二次電池)50aに接続され、オルタネータ128や高圧バッテリ50aからの電力により駆動される。また、モータMG3およびMG4の回生制御により発電した電力は、高圧バッテリ50aに蓄えられる。そして、本実施例のハイブリッド自動車20Bは、油圧回路147に含まれるモータや各種補機の電源として、低圧バッテリ50bを有している。低圧バッテリ50bは、電圧を変換するDC/DCコンバータ51を介して高圧バッテリ50aと接続されており、高圧バッテリ50aからの電力が電圧変換されて低圧バッテリ50bへ供給される。
【0043】
このように構成された本実施例のハイブリッド自動車20Bは、運転者のアクセルペダル83の操作に応じて主としてエンジン22からの動力を後輪39c,39dに出力して走行し、必要に応じて後輪39c,39dへの動力の出力に加えてモータMG3,MG4からの動力を前輪39a,39bに出力して4輪駆動により走行する。4輪駆動により走行する場合の例としては、例えば旋回時やアクセルペダル83が大きく踏み込まれた急加速時や車輪スリップ時等が挙げられる。また、走行中にブレーキペダル85が踏み込まれたとき等の減速時には、前後進切換機構135のブレーキB1とクラッチC1との双方をオフしてエンジン22をCVT140から切り離した上でエンジン22を停止させると共にモータMG3およびMG4を回生制御し、モータMG3およびMG4による回生を利用して前輪39a,39bに制動力を付与すると共にモータMG3およびMG4によって回生される電力を用いて高圧バッテリ50aを充電することにより、システム全体のエネルギ効率を向上させることができる。そして、かかるハイブリッド自動車20Bにおいても、第1の実施例に係るハイブリッド自動車20と同様に、走行中に障害物検知ユニット90により車両前方の障害物が検知された緊急時に、駆動輪としての前輪39a,39bにおける左右トルク分配比dを定めるための操舵角θに対するゲインを通常時に比べて大きくし、そのようなゲインと操舵角θとから定まる左右トルク分配比dに基づくトルクを左右一対の前輪39a,39bに独立に出力することにより、モータMG3およびMG4から左右の前輪39a,39bに独立に出力されるトルクを運転者による操舵量に対して応答性よく変化させることができるので、緊急時における旋回性能を向上させつつ、障害物の回避時や障害物の回避後の復帰時における走行安定性を良好に確保することが可能となる。すなわち、本発明は、いわゆるフルタイム4輪駆動車両のみならず、基本的に前輪または後輪を駆動して走行し、操縦安定性等を確保する必要がある場合に4輪を駆動する車両に適用しても極めて有効である。
【0044】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記各実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【0045】
すなわち、第1の実施例における動力分配統合機構30とモータMG2との代わりに、図7に示す変形例としてのハイブリッド自動車20Cのように、エンジン22のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と、後輪39c,39dに動力を出力する駆動軸に接続されたアウターロータ234とを有し、エンジン22の動力の一部を駆動軸に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を用いてもよい。
【0046】
また、上記各実施例や変形例において、前輪と後輪との関係を逆にして一対の後輪39c,39dに対して駆動力を左右独立に分配するようにしてもよい。更に、4輪のすべてに電動機を独立に備えた電気自動車や、一対の前輪あるいは一対の後輪にのみ電動機を左右独立に備えた電気自動車、更には、単一のエンジンあるいはモータの駆動力を機械的に左右独立に分配可能な動力ユニットを一対の前輪および/または一対の後輪に備えた車両に本発明を適用し得ることはいうまでもない。一対の前輪および一対の後輪のそれぞれに左右独立に駆動力を分配する場合には、前輪と後輪との双方について上述の左右トルク分配比の設定手順を適用することができる。そして、操舵に際して一対の駆動輪における左右トルク分配比dを設定するに際しては、内輪側のモータが負の駆動力(制動力)を出力する回生制動を行うと共に外輪側のモータが力行するように左右トルク分配比dを設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施例に係るハイブリッド自動車20の概略構成図である。
【図2】第1の実施例のハイブリッドECU70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】第1の実施例における要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図4】第1の実施例におけるエンジン22の動作ラインと目標回転数Ne*と目標トルクTe*との相関曲線とを例示する説明図である。
【図5】動力分配統合機構30における各回転要素の回転数とトルクとの力学的な関係を例示する共線図である。
【図6】本発明の第2の実施例に係るハイブリッド自動車20Bの概略構成図である。
【図7】変形例のハイブリッド自動車20Cの概略構成図である。
【符号の説明】
【0048】
20,20B,20C ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、37 ギヤ機構、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 前輪、39c,39d 後輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42,43,44 インバータ、45,46,47,48 回転位置検出センサ、50 バッテリ、50a 高圧バッテリ、50b 低圧バッテリ、51 DC/DCコンバータ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、55 操舵装置、56 操舵ハンドル、56a 操舵角センサ、57 操舵ギヤボックス、58 操舵アクチュエータ、59 操舵用電子制御ユニット(操舵ECU)、60 電子制御式油圧ブレーキユニット、61 マスタシリンダ、61a マスタシリンダ圧センサ、62 ブレーキアクチュエータ、64 ブレーキ用電子制御ユニット(ブレーキECU)、66a,66b,66c,66d ホイールシリンダ、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(ハイブリッドECU)、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、90 障害物検知ユニット、128 オルタネータ、130 トルクコンバータ、135 前後進切換機構、140 CVT、141 インプットシャフト、142 アウトプットシャフト、143 プライマリプーリ、144 セカンダリプーリ、145 ベルト、146 CVT用電子制御ユニット(CVTECU)、147 油圧回路、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ、234 アウターロータ、MG1,MG2、MG3,MG4 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪を有する車両であって、
前記複数の車輪に含まれる一対の駆動輪に対して駆動力を左右独立に分配して出力可能な動力ユニットと、
前記複数の車輪に含まれる操舵輪を操舵するための操舵手段と、
運転者による前記操舵手段の操舵量を検出する操舵量検出手段と、
車両前方の障害物を検知する障害物検知手段と、
走行に要求される要求駆動力を設定する要求駆動力設定手段と、
前記障害物検知手段により障害物が検知されていないときには、前記検出された操舵量と該操舵量に対する第1のゲインとを用いて前記一対の駆動輪における駆動力分配比を設定する一方、前記障害物検知手段により障害物が検知されているときには、前記検出された操舵量と前記第1のゲインよりも大きい前記操舵量に対する第2のゲインとを用いて前記一対の駆動輪における駆動力分配比を設定する駆動力分配比設定手段と、
前記設定された要求駆動力に基づく駆動力が前記設定された駆動力分配比で分配されて前記駆動輪のそれぞれに出力されるように前記動力ユニットを制御する制御手段と、
を備える車両。
【請求項2】
前記駆動力分配比設定手段は、操舵に際して内輪となる前記駆動輪に比べて外輪となる前記駆動輪により多くの駆動力が分配されるように前記駆動力分配比を設定する請求項1に記載の車両。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両において、
前記駆動輪以外の一対の車輪を駆動する第2の動力ユニットを更に備え、
当該第2の動力ユニットは、
内燃機関と、
前記一対の車輪が接続された駆動軸と前記内燃機関の出力軸とに接続されて電力と動力の入出力を伴って前記駆動軸および前記出力軸に動力を入出力可能な電力動力入出力手段と、
前記駆動軸に動力を入出力可能な電動機とを含む車両。
【請求項4】
請求項1または2に記載の車両において、
前記駆動輪以外の一対の車輪を駆動する第2の動力ユニットを更に備え、
当該第2の動力ユニットは、
内燃機関と、
前記内燃機関の出力軸と前記一対の車輪が接続された駆動軸との間で変速比の変更を伴って動力を伝達する変速手段とを含む車両。
【請求項5】
前記一対の駆動輪は、前記複数の車輪に含まれる操舵輪としての前輪または前記複数の車輪に含まれる後輪である請求項1から4の何れかに記載の車両。
【請求項6】
前記障害物検知手段は、暗環境下で車両前方の障害物を検知可能な手段である請求項1から5の何れかに記載の車両。
【請求項7】
複数の車輪と、前記複数の車輪に含まれる一対の駆動輪に対して駆動力を左右独立に分配して出力可能な動力ユニットと、前記複数の車輪に含まれる操舵輪を操舵するための操舵手段と、運転者による前記操舵手段の操舵量を検出する操舵量検出手段と、前方の障害物を検知する障害物検知手段とを備えた車両の制御方法であって、
(a)前記障害物検知手段により障害物が検知されていないときには、前記検出された操舵量と該操舵量に対する第1のゲインとを用いて前記一対の駆動輪における駆動力分配比を設定する一方、前記障害物検知手段により障害物が検知されているときには、前記検出された操舵量と前記第1のゲインよりも大きい前記操舵量に対する第2のゲインとを用いて前記一対の駆動輪における駆動力分配比を設定するステップと、
(b)走行に要求される要求駆動力に基づく駆動力がステップ(a)で設定された駆動力分配比で分配されて前記駆動輪のそれぞれに出力されるように前記動力ユニットを制御するステップと、
を含む車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−216860(P2007−216860A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40622(P2006−40622)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】