説明

車両用制動装置

【課題】失陥時のブレーキ操作部材の無効ストロークを低減可能な車両用制動装置の提供。
【解決手段】シリンダ部311内には、プライマリピストン36が移動可能に設けられており、セカンダリピストン33との間にプライマリ室PCが形成されている。プライマリ室PCは、ABSアクチュエータ5を介してホイルシリンダWC2,WC3に接続されている。プライマリピストン36の後方には、パワー液圧源7からの駆動液圧が入力可能な駆動室DCが形成されている。プライマリ室PCは吸収リザーバ91の貯留室913に接続され、駆動室DCは吸収リザーバ91の背圧室914に接続されている。プライマリ室PCと貯留室913との間には、常閉型のカット弁92が形成されている。液圧ブレーキを開始する場合、ブレーキペダル22の操作量に応じて、パワー液圧源7により駆動液圧を発生させ、駆動室DCと背圧室914とに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ操作部材の操作によりブレーキ液圧を発生して車輪ブレーキに供給する車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用制動装置として、液圧ポンプによって発生させた液圧をブレーキペダルの操作量に基づいて調圧し、調圧された液圧を車輪ブレーキに供給して、車輪に制動力を付与している従来技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に開示された車両用制動装置によれば、ブレーキペダルの操作量に基づいて演算された目標液圧に従って車輪ブレーキに液圧が供給されるため、車両環境に応じて車輪に対する液圧ブレーキの制動力を適正に制御することができる。
また、近年、ハイブリッド車両や電気自動車の普及にともなって、回生制動と液圧制動とを併用して車輪を制動する回生協調制御の需要が増大している。特許文献1に開示された車両用制動装置は、車両の状態に応じて車輪に対する液圧ブレーキの制動力を自由に変化させることができるため、回生制動ともよく調和させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007―38698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術による車両用制動装置においては、調圧された液圧を一系統の車輪ブレーキに供給するとともに、当該液圧を加圧ピストンの後方に印加して加圧ピストンをシリンダ内に移動させ、それによって発生させた液圧を別系統の車輪ブレーキに供給している。このため、ブレーキペダルに連結された入力ピストンが加圧ピストンに対し直接に当接しないように、入力ピストンの前端と加圧ピストンの後端との間には、所定の間隔を有するように形成されている。
【0005】
したがって、上述した従来技術による車両用制動装置において、液圧ポンプが失陥した場合には、ブレーキペダルが操作されても、入力ピストンが当該所定の間隔を埋めるだけ移動しない間は車輪ブレーキに制動力が付与されない状態となり、ブレーキペダルの無効ストロークが増大する。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、失陥時のブレーキ操作部材の無効ストロークを低減可能な車両用制動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る車両用制動装置の発明の構成上の特徴は、シリンダ部とブレーキ操作部材の操作によってシリンダ部内において移動可能なマスタピストンとによりマスタ液圧室が形成され、マスタ液圧室はホイルシリンダと接続され、シリンダ部内においてマスタピストンが移動することにより、マスタ液圧室にブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させて車輪に制動力を付与するマスタシリンダを備え、ブレーキ操作部材の操作量が第1所定値に到達するまでの間は、ホイルシリンダに付与される液圧の増大を抑制する車両用制動装置において、マスタピストンの後方に形成された駆動室に駆動液圧を供給し、マスタピストンを駆動する駆動源と、所定の容量を有するハウジングと、ハウジングに液密的に嵌合し、ハウジング内を移動可能な隔壁を有し、隔壁の一側の端面とハウジングとにより貯留室が形成されるとともに、隔壁の他側の端面とハウジングとにより背圧室が形成され、貯留室がマスタ液圧室と接続されるとともに、背圧室が駆動室と接続された吸収リザーバと、マスタ液圧室と貯留室との間に設けられた常閉弁と、を備えていることである。
【0007】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1の車両用制動装置において、マスタピストンの後方には、ブレーキ操作部材と連結されるとともに、シリンダ部内において移動可能な入力ピストンが設けられ、ブレーキ操作部材が操作されていない場合に、マスタピストンと入力ピストンとの間には、ブレーキ操作部材の操作量が第1所定値よりも小さい第2所定値に対応する所定の間隔が設けられており、入力ピストンは、第2所定値に対応する所定の間隔だけ前進した後は、マスタピストンと一体となってシリンダ部内を移動することである。
【0008】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または2の車両用制動装置において、駆動源により駆動室に対して駆動液圧が供給された場合、マスタ液圧室内に発生する液圧は駆動室内の液圧と等しくなることである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る車両用制動装置によれば、吸収リザーバの貯留室がマスタ液圧室と接続されている。そのため、ブレーキ操作部材の操作量が第1所定値に到達する以前の期間に、常閉弁を開状態とするとともに、駆動室に駆動液圧を供給しないようにすれば、当該期間には、マスタピストンがシリンダ部内を移動しても、ブレーキ液がマスタ液圧室から貯留室に流入することによりマスタ液圧室内の液圧が抑制され妨げられ、ひいては車輪への制動力の付与が抑制される。したがって、車両用制動装置を回生を行う車両の制動装置に適用した場合、初期制動において、液圧ブレーキを抑制するブレーキ操作部材の無効ストローク領域を形成することができ、回生制動を好適に協調させて回生効率の向上を図ることができる。
【0010】
ここで、前述したとおり、電気系統の失陥時には無効ストロークが低減されることが望ましい。この点、請求項1に記載の発明では、マスタ液圧室と貯留室との間には常閉弁が設けられているため、車両電源が失陥した場合、常閉弁が閉弁してブレーキ液がマスタ液圧室から貯留室に流入することが妨げられる。これにより、上述したブレーキ液の貯留室への流入によるマスタ液圧室内の液圧増大の抑制が制限されるため、電気系統失陥時の無効ストロークを低減することができる。
【0011】
また、駆動源による駆動室内の液圧制御を行えば、常閉弁が開状態で固着(以下、常閉弁の開固着という)したとしても、背圧室に導入される駆動液圧によって、ブレーキ液がマスタ液圧室から貯留室に流入することが抑制され、マスタ液圧室において液圧を増大させることができる。これにより、常閉弁の開固着時の無効ストロークを低減することができる。
また、常閉弁の状態にかかわらず、駆動液圧を発生させるのみで液圧ブレーキを開始させることができるため、構成および制御方法の簡単な車両用制動装置にすることができる。
【0012】
請求項2に係る車両用制動装置によれば、マスタピストンの後方には、ブレーキ操作部材と連結されるとともに、シリンダ部内において移動可能な入力ピストンが設けられ、ブレーキ操作部材が操作されていない場合に、マスタピストンと入力ピストンとの間には、ブレーキ操作部材の操作量が第1所定値よりも小さい第2所定値に対応する所定の間隔が設けられている。
これにより、初期制動において、ブレーキ操作部材の操作量が第2所定値に到達するまでは、入力ピストンがシリンダ部内を前進しても、マスタピストンに当接することがないため、マスタ液圧室に液圧を発生させることがない。
【0013】
したがって、マスタピストンと入力ピストンとの間の間隔により、ブレーキ操作部材の無効ストローク領域の一部を受け持つことができるため、その分だけ、吸収リザーバを小型化することができる。
また、ブレーキ液圧を発生させない領域を、吸収リザーバの容量とマスタピストンと入力ピストンとの間の間隔との組み合わせによって形成できるため、それぞれに設計の自由度を発生させることができる。
【0014】
請求項3に係る車両用制動装置によれば、駆動源により駆動室に対して駆動液圧が供給された場合、マスタ液圧室内に発生する液圧が駆動室内の液圧と等しくなり、吸収リザーバの貯留室内の液圧と背圧室内の液圧とが互いに等しくなるため、常閉弁が開状態であっても、隔壁が移動することなく、マスタ液圧室から吸収リザーバへのブレーキ液の流入を確実に防ぐことができる。
尚、マスタ液圧室内に発生する液圧が駆動室内の液圧と等しくなるとは、双方の液圧が全く等しい場合のみではなく、マスタ液圧室から吸収リザーバへのブレーキ液の流入を防ぐことができる効果を有するのであれば、双方の液圧が多少異なる場合を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態による車両用制御システムを示したブロック図
【図2】図1に示した液圧ブレーキ装置を模式的に示した図
【図3】図1に示した液圧ブレーキ装置の初期制動時の状態を示した図
【図4】図1に示した液圧ブレーキ装置において液圧制動が開始された状態を示した図
【図5】図1に示した車両用制御システムにおけるブレーキ操作量と制動力の相関関係を示した図
【図6】本発明の他の実施形態のフローチャートを示した図
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1乃至図5に基づき、本発明による車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した一実施形態を説明する。図1はそのハイブリッド車の構成を示す概要図であり、図2は車両用ブレーキ装置の液圧ブレーキ装置B(本発明の車両用制動装置に該当する)の構成を示す概要図である。
ハイブリッド車は、図1に示すように、ハイブリッドシステムによって駆動輪例えば左右前輪FL,FRを駆動させる車両である。ハイブリッドシステムは、エンジン11およびモータ12の2種類の動力源を組み合わせて使用するパワートレーンである。本実施形態の場合、エンジン11およびモータ12の双方で車輪を直接駆動する方式であるパラレルハイブリッドシステムである。なお、これ以外にシリアルハイブリッドシステムがあるが、これはモータ12によって車輪が駆動され、エンジン11は発電用の動力源として機能する。本発明は、シリアルハイブリッドシステムにも適用可能である。
【0017】
このパラレルハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車において、エンジン11の駆動力は、動力分割機構13および動力伝達機構14を介して駆動輪(本実施形態では左右前輪FL,FR)に伝達されるようになっており、モータ12の駆動力は、動力伝達機構14を介して駆動輪に伝達されるようになっている。
動力分割機構13は、エンジン11の駆動力を車両駆動力と発電機駆動力に適切に分割するものである。動力伝達機構14は、走行条件に応じてエンジン11およびモータ12の駆動力を適切に統合して駆動輪に伝達するものである。動力伝達機構14はエンジン11とモータ12の伝達される駆動力比を0:100〜100:0の間で調整している。この動力伝達機構14は変速機能を有している。
【0018】
モータ12は、エンジン11の出力を補助し駆動力を高めるものであり、一方車両の制動時には発電を行いバッテリ17を充電するものである。発電機15は、エンジン11の出力により発電を行うものであり、エンジン始動時のスタータの機能を有する。これらモータ12および発電機15は、インバータ16にそれぞれ電気的に接続されている。インバータ16は、直流電源としてのバッテリ17に電気的に接続されており、モータ12および発電機15から入力した交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ17に供給したり、逆にバッテリ17からの直流電圧を交流電圧に変換してモータ12および発電機15へ出力したりするものである。
【0019】
本実施形態においては、これらモータ12、インバータ16およびバッテリ17から回生ブレーキ装置Aが構成されており、この回生ブレーキ装置Aは、ペダルストロークセンサ22aやペダル踏力センサ22bによって検出されたブレーキ操作状態に基づいた回生制動力を各車輪FL,FR,RL,RRの何れか(本実施形態では駆動源であるモータ12によって駆動される左右前輪FL,FR)に発生させるものである。
エンジン11はエンジンECU(電子制御ユニット)18によって制御されており、エンジンECU18は後述するハイブリッドECU(電子制御ユニット)19からのエンジン出力要求値に従って電子制御スロットルに開度指令を出力し、エンジン11の回転数を調整する。
【0020】
ハイブリッドECU19には、インバータ16が相互通信可能に接続されている。ハイブリッドECU19は、アクセル開度およびシフトポジション(図示しないシフトポジションセンサから入力したシフト位置信号から算出する)から必要なエンジン出力、電気モータトルクおよび発電機トルクを導出し、その導出したエンジン出力要求値をエンジンECU18に送信してエンジン11の駆動力を制御し、また導出した電気モータトルク要求値および発電機トルク要求値に従って、インバータ16を通してモータ12および発電機15を制御する。
また、ハイブリッドECU19はバッテリ17が接続されており、バッテリ17の充電状態、充電電流などを監視している。さらに、ハイブリッドECU19は、アクセルペダル(図示省略)に組み付けられて車両のアクセル開度を検出するアクセル開度センサ(図示省略)も接続されており、アクセル開度センサからアクセル開度信号を入力している。
【0021】
また、ハイブリッド車は、直接各車輪FL,FR,RL,RRに液圧制動力を付与して車両を制動させる液圧ブレーキ装置Bを備えている。液圧ブレーキ装置Bは、ブレーキペダル22の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダ3と、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ3にそのブレーキ液を補給するリザーバタンク23と、マスタシリンダ3と各車輪FL,FR,RL,RRに取り付けられたホイルシリンダWC1〜WC4との間に設けられて、制御液圧を形成するブレーキアクチュエータDを備えている。
また、各車輪FL,FR,RL,RRには、それぞれ車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srrが取り付けられており、それぞれの検出値はブレーキECU21に入力され、ブレーキアクチュエータDによる制御液圧の形成に使用される。
【0022】
液圧ブレーキ装置Bは、ブレーキペダル22(ブレーキ操作部材に該当する)の踏み込み操作をプッシュロッド24によってマスタシリンダ3に伝達し、ブレーキペダル22の操作量に応じた液圧をマスタシリンダ3にて発生し、発生した液圧をブレーキアクチュエータDを介して連結された各車輪FL,FR,RL,RRのホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与することにより、同各車輪FL,FR,RL,RRにおいて発生した液圧に対応した液圧制動力を発生させる。
【0023】
ブレーキペダル22には、ブレーキペダル22の踏み込みによるブレーキペダルストロークを検出するペダルストロークセンサ22aと、ブレーキペダル22が受ける反力を検出するペダル踏力センサ22bが設けられている。このペダルストロークセンサ22aおよびペダル踏力センサ22bはブレーキECU21に接続されており、検出信号がブレーキECU21に送信されるようになっている。
【0024】
また、ブレーキECU21には、車両の加速度を検出する車体加速度センサ25が接続されており、検出信号がブレーキECU21に送信されるようになっている。
また、ブレーキECU21はハイブリッドECU19およびブレーキアクチュエータDと接続され、ハイブリッドECU19から入力される回生ブレーキ装置Aの状態に基づいて、ブレーキアクチュエータDの作動を制御する。
【0025】
次に、図2に基づいて、マスタシリンダ3について説明する。尚、説明中において、図2における左方(ブレーキペダル22の踏込みによりプッシュロッド24が移動する方向)をマスタシリンダ3の前方、右方(ブレーキペダル22の戻りによりプッシュロッド24が移動する方向)をマスタシリンダ3の後方として説明する。マスタシリンダ3は、プライマリ室PCとセカンダリ室SCを有するタンデムマスタシリンダにより形成されている。マスタシリンダ3のシリンダボデー31の内部には、シリンダ部311が形成されている。
【0026】
セカンダリピストン33は断面形状が略コの字状に形成され、シリンダ部311の底部と対向するようにシリンダ部311内に収容されている。セカンダリピストン33の外周面は、シリンダ部311の内周面に設けられた第1シールカップ34aおよび第2シールカップ34bと当接し、シリンダ部311に対して摺動可能かつ液密的に嵌合している。これにより、第1シールカップ34aによってシールされ、シリンダ部311およびセカンダリピストン33によってセカンダリ室SCが形成されている。また、セカンダリピストン33の前方部には、セカンダリピストン33の外周面とセカンダリ室SCとを接続する第1連通ポート331が貫通している。
セカンダリピストン33の凹部332とシリンダ部311の底部との間には、セカンダリスプリング35が弾発的に介装されている。シリンダボデー31には、図示しないストッパボルトが螺着されており、セカンダリスプリング35からの付勢力を受けたセカンダリピストン33の後方部を受け止めている。
【0027】
シリンダ部311内には、セカンダリピストン33の後方に位置するように、プライマリピストン36(本発明のマスタピストンに該当する)が移動可能に収容されている。プライマリピストン36は断面形状が略H字状に形成され、その外周面は、シリンダ部311の内周面に設けられた第3シールカップ34cおよび第4シールカップ34dと当接し、シリンダ部311に対して液密的に嵌合している。
【0028】
これにより、第2シールカップ34bおよび第3シールカップ34cによってシールされ、シリンダ部311、セカンダリピストン33およびプライマリピストン36によってプライマリ室PC(本発明のマスタ液圧室に該当する)が形成されている。また、プライマリピストン36の前方部には、プライマリピストン36の外周面とプライマリ室PCとを接続する第2連通ポート361が貫通している。
【0029】
セカンダリピストン33の後端部にはスプリング支持部333が突出しており、スプリング支持部333には、プライマリスプリング40の一端部が係合している。プライマリスプリング40の他端部はプライマリピストン36の凹部362に当接しており、プライマリスプリング40は、セカンダリピストン33とプライマリピストン36との間に弾発的に介装されている。
プライマリピストン36の後方において、シリンダボデー31から半径方向内方に向けて支持壁312が突出している。プライマリスプリング40から後方への付勢力を受けるプライマリピストン36は、ブレーキペダル22が操作されていない状態において、その後端が支持壁312の前端面に当接することにより位置決めされる(図2示)。
【0030】
支持壁312には摺動孔312aが貫通しており、摺動孔312aには第1シールリング41aが装着されている。シリンダボデー31には、後方から入力ピストン43が挿入され、入力ピストン43の小径部431は摺動孔312aに移動可能に嵌合している。入力ピストン43の外周面は、第1シールリング41aに当接することにより、摺動孔312aに対して液密的に嵌合している。
小径部431はプライマリピストン36の後端と対向し、第4シールカップ34dおよび第1シール部材41aによってシールされ、シリンダボデー31、プライマリピストン36および入力ピストン43によって、プライマリピストン36の後方に駆動室DCが形成されている。
【0031】
入力ピストン43には、前方に小径部431が、軸方向の中央部に大径部432が、後方に小径の連結部433が形成されている。シリンダボデー31内には、支持壁312の後方に位置するように入力シリンダ313(シリンダ部311とともに、本発明のシリンダ部に含まれる)が形成されている。入力シリンダ313には、入力ピストン43の大径部432が摺動可能に嵌合している。大径部432の外周面には第2シールリング41bが装着されており、大径部432は入力シリンダ313に対して液密的に嵌合している。
これにより、第1シール部材41aおよび第2シール部材41bとによってシールされ、入力シリンダ313および入力ピストン43によって、円環状の反力室RCが形成されている。
【0032】
また、入力ピストン43の連結部433の外周面は、シリンダボデー31の後端壁314に形成された挿入孔315に対して摺動可能に嵌合している。連結部433は、挿入孔315に装着された第3シールリング41cに当接し、挿入孔315に対して液密的に嵌合している。これにより、第2シールリング41bおよび第3シールリング41cによってシールされ、大径部432の後方において、入力シリンダ313と入力ピストン43とによって補償室CCが形成されている。
また、入力ピストン43の内部には、小径部431の前端部と連結部433の外周面とに開口する両部連結孔434が形成されている。図2に示すように、両部連結孔434によって駆動室DCと補償室CCとが連通している。
【0033】
入力ピストン43の後方部には係合凹部435が形成されており、係合凹部435には、前述したプッシュロッド24が揺動可能かつ脱落不能に取り付けられている。これにより、入力ピストン43は、プッシュロッド24を介してブレーキペダル22に接続されている。入力ピストン43は、ブレーキペダル22に取り付けられたリタンスプリング(図示せず)による付勢力を受けて後方に牽引され、大径部432の後端面がシリンダボデー31の後端壁314と当接する。
大径部432が後端壁314と当接することにより、ブレーキペダル22が操作されておらず、入力ピストン43が最も後方にある場合の位置決めが行われる。入力ピストン43が最も後方に位置した状態において、入力ピストン43の前端部と対向したプライマリピストン36の後面との間には、間隔Sが形成されている(図2示)。
【0034】
また、シリンダボデー31の上部には、前述したリザーバタンク23が取り付けられる一対のボス316a,316bが形成されている。また、シリンダボデー31には、リザーバタンク23からセカンダリ室SCおよびプライマリ室PCへのブレーキ液の供給を可能にする一対のサプライポート317a,317bが貫通している。
また、シリンダボデー31には、セカンダリ室SCおよびプライマリ室PCをABSアクチュエータ5(後述する)と接続するための出力ポート318a,318bが形成されている。また、シリンダボデー31には、駆動室DCをパワー液圧源7(後述する)と接続するためのパワーポート318cが形成されている。さらに、シリンダボデー31には、反力室RCをパワー液圧源7と接続するためのダミーポート318dが形成されている。
【0035】
次に、図2に基づいて、ブレーキアクチュエータDに含まれたABSアクチュエータ5について説明する。ABSアクチュエータ5は、アンチスキッド制御を行うための公知のものであり、常開型の電磁弁である増圧制御弁51,52,53,54および常閉型の電磁弁である減圧制御弁55,56,57,58、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4から排出されたブレーキ液を収容する調圧リザーバ59,61、調圧リザーバ59,61内のブレーキ液をマスタシリンダ3側に戻す還流ポンプ62,63、還流ポンプ62,63を駆動するモータ66から構成されている。
【0036】
プライマリ室PCに連通した出力ポート318bには、ブレーキ配管である主管路Lpが接続されている。また、セカンダリ室SCに連通した出力ポート318aには、ブレーキ配管である主管路Lsが接続されている。主管路Lpには、一対の増圧管路Lp1,Lp2が接続されており、増圧管路Lp1,Lp2は、それぞれ右前輪FRのホイルシリンダWC2および左後輪RLのホイルシリンダWC3に接続されている。また、主管路Lsには、一対の増圧管路Ls1,Ls2が接続されており、増圧管路Ls1,Ls2は、それぞれ左前輪FLのホイルシリンダWC1および右後輪RRのホイルシリンダWC4に接続されている。
【0037】
増圧管路Lp1,Lp2には、それぞれ増圧制御弁53,54が配設されるとともに、ホイルシリンダWC2,WC3から主管路Lpへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁53a,54aが、増圧制御弁53,54に対し並列に配設されている。増圧制御弁53,54はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によりそれぞれ開閉制御される。
【0038】
また、増圧管路Ls1,Ls2には、それぞれ増圧制御弁51,52が配設されるとともに、ホイルシリンダWC1,WC4から主管路Lsへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁51a,52aが、増圧制御弁51,52に対し並列に配設されている。増圧制御弁51,52はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によりそれぞれ開閉制御される。
【0039】
増圧管路Lp1の増圧制御弁53とホイルシリンダWC2との間の部分には、減圧管路Lp3が接続されている。減圧管路Lp3は、増圧管路Lp1と調圧リザーバ61とを接続している。減圧管路Lp3には、減圧制御弁57が配設されている。減圧制御弁57はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21により開閉制御される。
また、増圧管路Lp2の増圧制御弁54とホイルシリンダWC3との間の部分には、減圧管路Lp4が接続されている。減圧管路Lp4は、増圧管路Lp2と調圧リザーバ61とを接続している。減圧管路Lp4には、減圧制御弁58が配設されている。減圧制御弁58はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21により開閉制御される。
【0040】
また、増圧管路Ls1の増圧制御弁51とホイルシリンダWC1との間の部分には、減圧管路Ls3が接続されている。減圧管路Ls3は、増圧管路Ls1と調圧リザーバ59とを接続している。減圧管路Ls3には、減圧制御弁55が配設されている。減圧制御弁55はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21により開閉制御される。
また、増圧管路Ls2の増圧制御弁52とホイルシリンダWC4との間の部分には、減圧管路Ls4が接続されている。減圧管路Ls4は、増圧管路Ls2と調圧リザーバ59とを接続している。減圧管路Ls4には、減圧制御弁56が配設されている。減圧制御弁56はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21により開閉制御される。
【0041】
調圧リザーバ61は、還流管路Lp5により主管路Lpと接続されている。還流管路Lp5には還流ポンプ63が配設されており、調圧リザーバ61と還流ポンプ63との間および還流ポンプ63と主管路Lpとの間には、調圧リザーバ61から主管路Lpへ向けたブレーキ液の流れを許容する一対の逆止弁65a,65bが配設されている。還流ポンプ63は、ブレーキECU21により制御されて、調圧リザーバ61内のブレーキ液を主管路Lpに還流させる。
【0042】
また、調圧リザーバ59は、還流管路Ls5により主管路Lsと接続されている。還流管路Ls5には還流ポンプ62が配設されており、調圧リザーバ59と還流ポンプ62との間および還流ポンプ62と主管路Lsとの間には、調圧リザーバ59から主管路Lsへ向けたブレーキ液の流れを許容する一対の逆止弁64a,64bが配設されている。還流ポンプ62はブレーキECU21により制御されて、調圧リザーバ59内のブレーキ液を主管路Lsに還流させる。
【0043】
ABSアクチュエータ5は、ブレーキECU21によって制御され、各車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srr(図1示)の検出値に基づき、マスタシリンダ3が発生した液圧を調圧してホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に供給し、アンチスキッド制御を実行する。ABSアクチュエータ5は公知のものであり、かつ、本発明の主題ではないため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0044】
一方、ブレーキアクチュエータDに含まれたパワー液圧源7は、リザーバ71、リザーバ71内のブレーキ液を吸引して吐出する一対のパワーポンプ72,73、パワーポンプ72,73を駆動するモータ74、パワーポンプ72,73から吐出されたブレーキ液の一部をリザーバ71に還流して、それぞれ調圧する電磁リニア弁であるリニア減圧弁75,76を有している。
【0045】
一側のパワーポンプ72は、吸込管路PL1によってリザーバ71に接続されている。また、パワーポンプ72の吐出口には出力管路PL3が接続されており、出力管路PL3は、前述したマスタシリンダ3のダミーポート318dへと接続されている。パワーポンプ72は、ブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって作動制御される。また、出力管路PL3のパワーポンプ72とダミーポート318dとの間の部分には、圧力センサ77が配設されている。圧力センサ77による検出値は、ブレーキECU21へと入力される。
【0046】
出力管路PL3のパワーポンプ72とダミーポート318dとの間の部分には、排出管路PL5が接続されており、排出管路PL5は出力管路PL3をリザーバ71に接続している。出力管路PL5にはリニア減圧弁75が配設されており、リニア減圧弁75はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって制御される。また、排出管路PL5には、リザーバ71からダミーポート318dへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁75aが、リニア減圧弁75に対し並列に配設されている。上述したパワーポンプ72等の要素構成によって、発生する液圧を反力室RCに供給する反力パワー系統が構成されている。
【0047】
一方、他側のパワーポンプ73は、吸込管路PL2によってリザーバ71に接続されている。また、パワーポンプ73の吐出口には出力管路PL4が接続されており、出力管路PL4はパワーポート318cへと接続されている。パワーポンプ73は、ブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって作動制御される。また、出力管路PL4のパワーポンプ73とパワーポート318cとの間の部分には、圧力センサ78が配設されている。圧力センサ78による検出値は、ブレーキECU21へと入力される。
【0048】
出力管路PL4のパワーポンプ73とパワーポート318cとの間の部分には、排出管路PL6が接続されており、排出管路PL6は出力管路PL4をリザーバ71に接続している。出力管路PL6にはリニア減圧弁76が配設されており、リニア減圧弁76はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって制御される。また、排出管路PL6には、リザーバ71からパワーポート318cへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁76aが、リニア減圧弁76に対し並列に配設されている。上述したパワーポンプ73等の要素構成によって、発生する液圧を駆動室DCに供給する駆動力パワー系統(本発明の駆動源に該当する)が構成されている。
【0049】
ブレーキECU21は、ペダルストロークセンサ22aによる検出値、ペダル踏力センサ22bによる検出値および圧力センサ77による検出値に基づき、パワーポンプ72およびリニア減圧弁75を制御する。パワー液圧源7の反力パワー系統において、パワーポンプ72がリザーバ71内のブレーキ液を吸引して吐出するとともに、リニア減圧弁75を介して吐出されたブレーキ液の一部をリザーバ71に還流させることにより調圧して、ブレーキペダル22のストローク量に応じた反力用駆動液圧を発生させる。当該反力用駆動液圧は反力室RCに印加されて、マスタシリンダ3の入力ピストン43を後方に付勢し、ブレーキペダル22のストローク量に応じた反力を発生させる。
【0050】
また、ブレーキECU21は、ペダルストロークセンサ22aによる検出値および圧力センサ78による検出値に基づき、パワーポンプ73およびリニア減圧弁76を制御する。パワー液圧源7の駆動力パワー系統において、パワーポンプ73がリザーバ71内のブレーキ液を吸引して吐出するとともに、リニア減圧弁76を介して吐出されたブレーキ液の一部をリザーバ71に還流させることにより調圧して、ブレーキペダル22のストローク量に応じたサーボ用駆動液圧(本発明の駆動液圧に該当する)を発生させる。
【0051】
当該サーボ用駆動液圧は駆動室DCに印加されて、シリンダ部311内においてプライマリピストン36を前進させる。これにより、マスタシリンダ3のプライマリ室PCおよびセカンダリ室SCに、ブレーキペダル22のストローク量に応じたブレーキ液圧を発生させて車輪FL,FR,RL,RRに制動力を付与する。
上述した内容から明らかなように、パワー液圧源7において、反力用駆動液圧とサーボ用駆動液圧は互いに独立して制御され、双方が異なる値に調圧可能とされている。
【0052】
図2に示すように、主管路Lpと出力管路PL4との間には、プライマリ室PCと駆動室DCおよびパワー液圧源7の駆動力パワー系統とを接続するように流出管路LCが形成されており、流出管路LCには、吸収リザーバ91が配設されている。吸収リザーバ91は、所定の容量を有するリザーバケース911(本発明のハウジングに該当する)内に、移動体912が移動可能に設けられている。
【0053】
移動体912(本発明の隔壁に該当する)は、リザーバケース911に対し液密的に嵌合することによって、その一側の端面(図2における上面)とリザーバケース911とにより貯留室913を形成し、他側の端面(図2における下面)とリザーバケース911とにより背圧室914を形成している。図2に示すように、貯留室913はマスタシリンダ3のプライマリ室PCと接続され、背圧室914は駆動室DCと接続されている。移動体912とリザーバケース911との間には弾性スプリング915が介装され、移動体912は弾性スプリング915によって貯留室913側へ付勢されている。
【0054】
流出管路LCのプライマリ室PCと貯留室913との間の部分には、常閉型の電磁弁であるカット弁92(本発明の常閉弁に該当する)が介装されている。カット弁92は、ブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって開閉制御される。流出管路LCには、貯留室913からプライマリ室PCへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁92aが、カット弁92に対し並列に配設されている。逆止弁92aは、カット弁92が閉状態にあって、プライマリ室PC内のブレーキ液圧が低下した時に開弁し、貯留室913内のブレーキ液をプライマリ室PC側へ戻す機能を有する。
【0055】
液圧ブレーキ装置Bにおいては、初期制動時に、ブレーキペダル22のストロークが第1所定値に到達するまでは、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与されるブレーキ液圧の増大が抑制される。ブレーキペダル22のストロークが第1所定値に到達するまでは、回生ブレーキ装置Aによる回生制動のみによって、駆動側の車輪FL、FRに制動力が付与される。
本実施形態におけるブレーキペダル22のストローク量に関する第1所定値を、液圧ブレーキ装置Bの機械的な構成と関連づけて説明すれば、第1所定値に対応する入力ピストン43のシリンダ部311内における移動量は、St=S+Tに設定されている(ブレーキペダル22のレバー比によって、ブレーキペダル22のストローク量は入力ピストン43の移動量に換算される)。
【0056】
前述したことから明らかなように、入力ピストン43の移動量Sは、ブレーキペダル22の操作を開始してから、入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接するまでの移動量に該当する。したがって、入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接した時のブレーキペダル22のストローク量が、本発明の第2所定値に該当し、その時のブレーキペダル22のストローク量に対応する入力ピストン43の移動量Sは、本発明の所定の間隔に該当する。当然、第1所定値>第2所定値の関係にあることは言うまでもない。
【0057】
また、入力ピストン43の移動量Tは、入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接してから、パワー液圧源7によって、サーボ用駆動液圧が発生されるまでの移動量に該当する。パワー液圧源7によるサーボ用駆動液圧の発生は、常に、吸収リザーバ91の貯留室913がブレーキ液によって最大に満たされる以前になるように設定される。
【0058】
上述したブレーキペダル22のストロークに関する第1所定値は不変の値ではなく、回生ブレーキ装置Aによる回生制動の状態により変化する。すなわち、回生制動の能力は、車両の仕様によって設定された最大値の範囲内においてリアルタイムに変化し、変化する回生制動の能力に応じて、液圧ブレーキが開始される時のブレーキペダル22のストローク量(第1所定値)が変化する。
【0059】
実際には、ブレーキペダル22のストローク量と踏力とにより、現在、必要な車両減速度が算出される。これに対して、回生ブレーキ装置Aによる回生制動のみによって、必要な車両減速度が得られると判断されれば、液圧ブレーキ装置Bによる車輪FL,FR,RL,RRに対する制動力の付与は行われない。また、回生制動のみでは、必要な車両減速度が得られないと判断されれば、液圧ブレーキにより車輪FL,FR,RL,RRへの制動力を補充する。
したがって、回生制動が十分に機能している場合に対し、車両が高速走行をしていたり、シフト位置がNレンジにあったり、バッテリ17が過充電にあることによって回生制動が十分に機能しない場合には、第1所定値は減少することになる。
【0060】
次に、図2乃至図5に基づいて、液圧ブレーキ装置Bの作動について説明する。最初に、車両の運転者がブレーキペダル22のストロークを開始すると、入力ピストン43がプッシュロッド24によって付勢されシリンダ部311内を前進する。しかしながら、ブレーキECU21がペダルストロークセンサ22aからの信号に基づいて、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値未満であると判定している場合、パワーポンプ73が作動されず、パワー液圧源7の駆動力パワー系統によるサーボ用駆動液圧の発生は行われない。
【0061】
前述したように、入力ピストン43の移動量がSに達するまでは、入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接しないため、シリンダ部311内をプライマリピストン36が前進することはなく、プライマリ室PCに液圧が発生することはない。また、プライマリ室PCに液圧が発生していないため、セカンダリピストン33が前進することはなく、セカンダリ室SCにも液圧は発生しない。したがって、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4にブレーキ液圧が供給されない。
前述したように、車輪FL,FR,RL,RRに液圧ブレーキが付与されていない場合、駆動側の車輪FL、FRに対し、回生ブレーキ装置Aによる回生制動のみが実行される。
また、この時入力ピストン43の前進にともない、駆動室DCの容積が減少するのであるが、駆動室DCの容積の減少量と、入力ピストン43の前進にともなう補償室CCの容積の増大量とを同等に設定してあるため、入力ピストン43の前進によって、駆動室DC内のブレーキ液が両部連結孔434を介して補償室CCに移動するのみであり、駆動室DCおよび補償室CC内における液圧の発生はない。
【0062】
一方、ブレーキペダル22がストロークされる場合、ブレーキECU21は、ペダルストロークセンサ22a、ペダル踏力センサ22bおよび圧力センサ77による検出値に基づいて、パワー液圧源7の反力パワー系統において、ブレーキペダル22のストローク量に応じた反力用駆動液圧を発生させ反力室RCに供給する。反力室RCに供給された反力用駆動液圧は、入力ピストン43を後方に付勢し、ブレーキペダル22のストローク量に応じた反力を発生させる。
【0063】
入力ピストン43が移動量S以上前進すると、入力ピストン43の前端がプライマリピストン36の後面に当接する。これ以降は、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に達するまで(換言すれば、入力ピストン43の移動量が上述したStに到達するまで)、パワー液圧源7によってサーボ用駆動液圧を発生させることはなく、入力ピストン43によってプライマリピストン36を直接に押圧して、双方が一体となって前進する(図3示)。これにより、プライマリピストン36の第2連通ポート361が第3シールカップ34cを通過して、プライマリ室PCがリザーバタンク23から遮断される。
【0064】
入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接した時点において、ブレーキECU21はカット弁92を開状態にするため、シリンダ部311内におけるプライマリピストン36の前進によって、プライマリ室PC内のブレーキ液が、弾性スプリング915の付勢力に抗して吸収リザーバ91の貯留室913に流入する。これにより、プライマリピストン36の前進にかかわらず、プライマリ室PCに液圧が発生することはない。また、プライマリ室PCに液圧が発生していないため、セカンダリピストン33が前進することはなく、セカンダリ室SCにも液圧が発生することはない。したがって、車輪FL,FR,RL,RRに液圧ブレーキが付与されることはない。
この時、プライマリピストン36の前進によって発生するプライマリスプリング40の圧縮荷重よりも、セカンダリスプリング35のセット荷重を大きくしておくことが望ましい。
この状態においても、駆動側の車輪FL、FRに対し、継続して回生ブレーキ装置Aによる回生制動のみが実行される。
【0065】
ブレーキペダル22のストローク量がさらに増大し、回生ブレーキ装置Aによる回生制動の能力が上限に達し、ブレーキECU21が、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に到達したと判定した場合、ペダルストロークセンサ22aによる検出値および圧力センサ78による検出値に基づき、パワー液圧源7の駆動力パワー系統において、ブレーキペダル22のストローク量に応じたサーボ用駆動液圧を発生させ、当該サーボ用駆動液圧を駆動室DCに供給する(図4示)。
【0066】
駆動室DCに供給されたサーボ用駆動液圧は、マスタシリンダ3のプライマリピストン36を付勢し、シリンダ部311内においてプライマリピストン36を前進させる。駆動室DCにサーボ用駆動液圧が供給された場合、プライマリピストン36は入力ピストン43から分離してシリンダ部311内を前進することになる。この時、パワー液圧源7のサーボ用駆動液圧は、流出管路LCを介して吸収リザーバ91の背圧室914にも供給されるため、リザーバケース911内における移動体912の背圧室914方向への移動が阻止される。したがって、プライマリ室PCから貯留室913へ、これ以上ブレーキ液が流入することがない。
【0067】
これにより、マスタシリンダ3のプライマリ室PCにおいて、ブレーキペダル22のストロークに応じたブレーキ液圧が発生する。また、プライマリ室PCに液圧が発生しているため、セカンダリピストン33もシリンダ部311内を前進し、セカンダリ室SCにブレーキペダル22のストロークに応じたブレーキ液圧を発生させて車輪FL,FR,RL,RRに液圧ブレーキによる制動力を付与する。
この時、第3シールカップ34cと第4シールカップ34dのプライマリピストン36に対するシール径が等しいため、駆動室DCに供給されたパワー液圧源7のサーボ用駆動液圧とプライマリ室PCに発生するブレーキ液圧はほぼ等しくなる。
また、パワー液圧源7の駆動力パワー系統がサーボ用駆動液圧の発生を開始した時点において、カット弁92を閉状態とすることにより、プライマリ室PCから吸収リザーバ91の貯留室913へのブレーキ液の流入を遮断するようにしてもよい。
【0068】
また、駆動室DCへ供給されたサーボ用駆動液圧は、両部連結孔434を介して補償室CCにも導入される。したがって、入力ピストン43の前面が駆動室DC内においてサーボ用駆動液圧を受けるが、駆動室DC内における入力ピストン43の受圧面積と、補償室CC内における入力ピストン43の大径部432の受圧面積とが等しいため、パワー液圧源7からのサーボ用駆動液圧によって入力ピストン43が前後方向に付勢されることはない。
【0069】
パワー液圧源7によるサーボ用駆動液圧の駆動室DCへの供給が開始されてからは、回生ブレーキ装置Aによる回生制動と液圧ブレーキ装置Bによる液圧制動とがともに機能していく。
また、液圧ブレーキ装置Bにおいて、車両電源が失陥した場合、カット弁92が閉状態となるため、ブレーキ液がプライマリ室PCから貯留室913に流入することが妨げられる。
【0070】
図5において示したように、上述した実施形態による液圧ブレーキ装置Bによれば、回生ブレーキ装置Aによる回生制動の状態にかかわらず、回生制動力と液圧ブレーキによる制動力とによって、常に、ブレーキペダル22のストローク量に応じて、車輪FL,FR,RL,RRに安定した車両制動力を付与することができる。
また、回生ブレーキ装置Aによる回生制動の状態に応じて、初期制動時において液圧ブレーキによる制動力を抑制することにより、常に、回生制動を十分に機能させることができる。
【0071】
本実施形態によれば、吸収リザーバ91の貯留室913がプライマリ室PCと接続されており、ブレーキペダル22の操作量が第1所定値に到達する以前にはカット弁92を開状態とするとともに、駆動室DCにサーボ用駆動液圧を供給しない。このため、入力ピストン43に押圧されてプライマリピストン36がシリンダ部311内を移動しても、ブレーキ液がプライマリ室PCから貯留室913に流入することにより液圧の増大が妨げられ、車輪FL,FR,RL,RRへの制動力の付与が抑制される。したがって、初期制動において、液圧ブレーキを抑制するブレーキペダル22の無効ストローク領域を形成することができ、回生制動を十分に機能させることができる。
【0072】
また、ブレーキペダル22の操作量が第1所定値に達すると、パワー液圧源7の駆動力パワー系統は、駆動室DCにブレーキペダル22の操作量に基づいて形成したサーボ用駆動液圧を供給することにより、背圧室914にもサーボ用駆動液圧が供給される。このため、カット弁92を閉じなくても、背圧室914に導入されたサーボ用駆動液圧によって、吸収リザーバ91の移動体912が背圧室914側へ移動することが妨げられる。したがって、それ以上、ブレーキ液がプライマリ室PCから貯留室913に流入することがなく、ブレーキペダル22の操作に応じてプライマリ室PCにおいて液圧を増大させることができる。
【0073】
また、プライマリ室PCと貯留室913との間には常閉型のカット弁92が設けられているため、車両電源が失陥した場合、カット弁92が閉状態となることにより、ブレーキ液がプライマリ室PCから貯留室913に流入することが妨げられる。したがって、回生ブレーキ装置Aおよびパワー液圧源7が機能しなくても、入力ピストン43がプライマリピストン36を直接押圧することによって、プライマリ室PCに液圧を発生させることができ、車輪FL,FR,RL,RRに十分な制動力を付与することができる。
【0074】
また、ブレーキペダル22の操作量が第1所定値に達すると、背圧室914に導入されたサーボ用駆動液圧によって、吸収リザーバ91の移動体912が背圧室914側へ移動することが妨げられる。このため、たとえ、異物の噛み込み等によって、カット弁92が開状態で固着したとしても、ブレーキ液がプライマリ室PCから貯留室913に流入することがなく、ブレーキペダル22の操作量に応じて、プライマリ室PCにおいて液圧を増大させることができる。
また、カット弁92の状態にかかわらず、サーボ用駆動液圧を発生させるのみで液圧ブレーキを開始させることができるため、構成および制御方法の簡単な液圧ブレーキ装置Bにすることができる。
【0075】
また、プライマリピストン36の後方には、ブレーキペダル22と連結されるとともに、シリンダ部311内において移動可能な入力ピストン43が設けられ、ブレーキペダル22が操作されていない場合に、プライマリピストン36の後面と入力ピストン43の前端との間には、ブレーキペダル22の操作量が第1所定値よりも小さい第2所定値に対応する所定の間隔Sが設けられている。
【0076】
これにより、初期制動において、ブレーキペダル22の操作量が第2所定値に到達するまでは、入力ピストン43がシリンダ部311内を前進しても、プライマリピストン36に当接することがないため、プライマリ室PCに液圧を発生させることがない。
したがって、プライマリピストン36の後面と入力ピストン43の前端との間の間隔Sにより、ブレーキペダル22の無効ストローク領域の一部を受け持つことができるため、その分だけ、吸収リザーバ91を小型化することができる。
また、ブレーキ液圧を発生させない領域を、吸収リザーバ91の容量と双方のピストン36,43の間の間隔Sとの組み合わせによって形成できるため、それぞれに設計の自由度を発生させることができる。
【0077】
また、パワー液圧源7の駆動力パワー系統により駆動室DCに対してサーボ用駆動液圧が供給された場合、プライマリ室PC内に発生する液圧は駆動室DC内の液圧と等しくなる。これにより、吸収リザーバ91の貯留室913と背圧室914内の液圧を互いに等しくできるため、カット弁92が開状態であったとしても、移動体912の移動をなくすことができ、プライマリ室PCから吸収リザーバ91へのブレーキ液の流入を確実に防ぐことができる。
【0078】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
本発明は、前輪駆動車、後輪駆動車、4輪駆動車を問わず適用でき、また、ブレーキ配管が前後配管であるかX配管であるかを問わず適用可能である。
また、本発明はハイブリッド車両のみではなく、電気自動車(EV)にも適用することができる。
【0079】
また、カット弁92は、パワー液圧源7の失陥時を除いて、ブレーキペダル22の操作時には常に開状態としていてもよい。
また、ブレーキ操作部材の操作量は、プッシュロッド24のストローク量あるいはマスタシリンダ3の入力ピストン43のストローク量によって検出してもよい。
また、本発明は、タンデムマスタシリンダのみではなく、シングルマスタシリンダに適用してもよい。
【0080】
また、上述した実施形態においては、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に達した場合に、サーボ用駆動液圧を発生させるようにしたが、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に達しても、サーボ用駆動液圧を発生させずに、カット弁92を閉状態にして、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に液圧を発生させてもよい。そして、カット弁92の開固着状態を検出する開固着検出手段を備え、当該開固着検出手段によりカット弁92が開固着状態にあることが検出されている場合に、サーボ用駆動液圧を発生させるようにしてもよい(図6示)。開固着検出手段としては、ブレーキペダル22の操作状態における、実車両減速度(車体加速度センサ25により検出する)やプライマリ室PCの実液圧が、それらの期待値よりも所定値以上小さい場合に、カット弁92が開固着していることを検出するものが考えられる。
【0081】
図6に基づいて、上述した他の実施形態の図1乃至図5に示した実施形態に対する相違点について説明する。ステップS601において、カット弁92を開状態としてブレーキペダル22をストロークさせ、初期制動において、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に液圧を発生させないようにする。その後、ブレーキECU21によって、ブレーキペダル22のストローク量Spが第1所定値に達したと判定されると(ステップS603)、カット弁92を閉状態にして(ステップS604)、プライマリ室PCから貯留室913へのブレーキ液の流入を抑制し、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に液圧を発生させる。この時点において、サーボ用駆動液圧は発生していない。その後、車体加速度センサ25によって検出された車両減速度G1が入力され(ステップS605)、検出された車両減速度G1がブレーキペダル22のストローク量Spによる期待値Gよりも所定値gv以上小さい場合(ステップS606)、カット弁92の開固着状態が検出され、パワー液圧源7による駆動室DCへのサーボ用駆動液圧の供給が開始される(ステップS607)。これによって、背圧室914へサーボ用駆動液圧が供給され、プライマリ室PCから貯留室913へのブレーキ液の流入が抑制されることにより、カット弁92の開固着にかかわらず、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に液圧が発生する。
【0082】
また、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に達した場合に、プライマリ室PCから吸収リザーバ91に流入したブレーキ液が貯留室913の最大容量を超えるようにし、サーボ用駆動液圧を発生させなくても、プライマリ室PCにおいて液圧が発生するようにしてもよい。この場合の第1所定値は、入力ピストン43の移動量Sと、貯留室913の所定容量と、入力ピストン43の移動量Tにより設定される。
【符号の説明】
【0083】
図面中、3はマスタシリンダ、7はパワー液圧源(駆動源)、22はブレーキペダル(ブレーキ操作部材)、36はプライマリピストン(マスタピストン)、43は入力ピストン、91は吸収リザーバ、92はカット弁(常閉弁)、311はシリンダ部、911はリザーバケース(ハウジング)、912は移動体(隔壁)、913は貯留室、914は背圧室、Bは液圧ブレーキ装置(車両用制動装置)、DCは駆動室、FL,FR,RL,RRは車輪、PCはプライマリ室(マスタ液圧室)、WC1,WC2,WC3,WC4はホイルシリンダを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ部とブレーキ操作部材の操作によって前記シリンダ部内において移動可能なマスタピストンとによりマスタ液圧室が形成され、前記マスタ液圧室はホイルシリンダと接続され、前記シリンダ部内において前記マスタピストンが移動することにより、前記マスタ液圧室に前記ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させて車輪に制動力を付与するマスタシリンダを備え、
前記ブレーキ操作部材の操作量が第1所定値に到達するまでの間は、前記ホイルシリンダに付与される液圧の増大を抑制する車両用制動装置において、
前記マスタピストンの後方に形成された駆動室に駆動液圧を供給し、前記マスタピストンを駆動する駆動源と、
所定の容量を有するハウジングと、前記ハウジングに液密的に嵌合し、前記ハウジング内を移動可能な隔壁を有し、前記隔壁の一側の端面と前記ハウジングとにより貯留室が形成されるとともに、前記隔壁の他側の端面と前記ハウジングとにより背圧室が形成され、前記貯留室が前記マスタ液圧室と接続されるとともに、前記背圧室が前記駆動室と接続された吸収リザーバと、
前記マスタ液圧室と前記貯留室との間に設けられた常閉弁と、
を備えていることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
前記マスタピストンの後方には、前記ブレーキ操作部材と連結されるとともに、前記シリンダ部内において移動可能な入力ピストンが設けられ、
前記ブレーキ操作部材が操作されていない場合に、前記マスタピストンと前記入力ピストンとの間には、前記ブレーキ操作部材の操作量が前記第1所定値よりも小さい第2所定値に対応する所定の間隔が設けられており、
前記入力ピストンは、
前記第2所定値に対応する所定の間隔だけ前進した後は、前記マスタピストンと一体となって前記シリンダ部内を移動することを特徴とする請求項1記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記駆動源により前記駆動室に対して駆動液圧が供給された場合、前記マスタ液圧室内に発生する液圧は前記駆動室内の液圧と等しくなることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−66647(P2012−66647A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211686(P2010−211686)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】