説明

車両用駆動装置

【課題】電動機の駆動や回生が不要な場合に電動機の連れ回りを防止でき、且つ、簡易な構成で断接手段の応答性を向上させることが可能な車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】シンクロメッシュ機構駆動装置70が、回転運動をする回動部材73と、直線運動をする並進部材74A、74Bと、回動部材73に接続され回動部材73を駆動する電動モータ72と、回動部材73の回転運動を並進部材74A、74Bの直線運動に変換させる運動変換機構75と、を備え、電動モータ72によって回動部材73を順方向に回転させることで、並進部材74A、74Bを一方側に移動させてシンクロメッシュ機構60A、60Bを動力遮断状態とし、電動モータ72によって回動部材73を逆方向に回転させることで、並進部材74A、74Bを他方側に移動させてシンクロメッシュ機構60A、60Bを動力伝達状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を備える車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用駆動装置として、車両左右の車軸を差動装置に連結するとともに、一方の車軸の外周に同心状に配置した電動機によって減速機構を経由して差動装置に駆動力を伝達するようにしたものが案出されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この駆動装置100は、図15に示すように、車軸駆動用の電動機102と、この電動機102の駆動回転を減速する遊星歯車式減速機112と、この遊星歯車式減速機112の出力を車両左右の車軸110A、110Bに分配する差動装置113と、を備え、差動装置113に連結された一方の車軸110Bの外周側に、遊星歯車式減速機112と電動機102が同心状に配置されている。また、車軸110Bの途中には、断接手段としてのシンクロメッシュ機構137が設けられ、シンクロメッシュ機構137を接続することにより左右の車軸110A、110Bを差動装置113と遊星歯車式減速機112を介して電動機102に接続し、シンクロメッシュ機構137の接続を解除することにより左右の車軸110A、110Bの回転が差動装置113のディファレンシャルケースに伝達されないようにすることが記載されている。
【0004】
このシンクロメッシュ機構137は、油圧により制御されるため、車両用駆動装置100には制御ピストン150と、制御ピストン150と連通する油圧回路(不図示)等が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−180309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の駆動装置100では、シンクロメッシュ機構137の断接のための油圧回路や油圧部材の追加が必要となるため構造が複雑化するおそれがあった。また、低温時には、油温が低いため作動油の粘性抵抗が大きく、シンクロメッシュ機構137の応答性を向上させることができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、電動機の駆動や回生が不要な場合に電動機の連れ回りを防止でき、且つ、簡易な構成で断接手段の応答性を向上させることが可能な車両用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
車両の車輪(例えば、後述の実施形態の後輪Wr、左後輪LWr、右後輪RWr)を駆動する電動機(例えば、後述の実施形態の電動機2A、2B、2C)と、
前記車輪と前記電動機との間の動力伝達経路上に設けられ、動力伝達状態と動力遮断状態とを切り替え可能な断接機構(例えば、後述の実施形態のシンクロメッシュ機構60A、60B、60C)と、
前記断接機構を駆動する断接機構駆動装置(例えば、後述の実施形態のシンクロメッシュ機構駆動装置70)と、を備える車両用駆動装置(例えば、後述の実施形態の車両用駆動装置1)であって、
前記断接機構駆動装置は、回転運動をする回動部材(例えば、後述の実施形態の回動部材73)と、直線運動をする並進部材(例えば、後述の実施形態の並進部材74A、74B)と、前記回動部材に接続され前記回動部材を駆動する駆動源(例えば、後述の実施形態の電動モータ72)と、前記回動部材の回転運動を前記並進部材の直線運動に変換させる運動変換機構(例えば、後述の実施形態の運動変換機構75)と、を備え、
前記駆動源によって前記回動部材を順方向に回転させることで、前記並進部材を一方側(例えば、後述の実施形態の車幅方向内側)に移動させて前記断接機構を動力遮断状態とし、
前記駆動源によって前記回動部材を逆方向に回転させることで、前記並進部材を他方側(例えば、後述の実施形態の車幅方向外側)に移動させて前記断接機構を動力伝達状態とすることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、
前記断接機構は、互いの回転軸線が平行に配置された電動機出力軸(例えば、後述の実施形態の電動機出力軸16A、16B)と車軸(例えば、後述の実施形態の車軸10A、10B)に連結され、
前記並進部材の直線運動方向は、前記両回転軸線と平行であって、
前記回動部材の回転軸線方向は、前記直線運動方向と交差することを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加えて、
前記回動部材は、車両搭載時に前記回転軸線方向が地面に対し鉛直方向とならないように配設されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加えて、
前記電動機は、前記車両の前後方向の中間位置よりも前方側若しくは後方側に偏倚して配設され、
前記回動部材と前記駆動源は、前記電動機に対し前記偏倚方向とは反対側に配設されることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の構成に加えて、
前記駆動源は、鉛直方向において前記駆動源の最下部(例えば、後述の実施形態の最下部T1)が、前記電動機及び前記断接機構を収容するケース部材(例えば、後述の実施形態の減速機ケース40)の最下部(例えば、後述の実施形態の最下部T2)よりも高い位置となるように配設されることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記並進部材は、前記運動変換機構に接続され前記直線運動方向に延びる棒状部(例えば、後述の実施形態の棒状部76)と、一端側が前記棒状部に接続され他端側が前記断接機構に接続される腕部(例えば、後述の実施形態のシフトフォーク77)と、を有し、
前記棒状部と前記腕部との接続部近傍に、前記棒状部を軸支する第1軸受部(例えば、後述の実施形態の第1軸受部44)が設けられ、
前記腕部が前記第1軸受部に当接することにより、前記並進部材の一方側(例えば、後述の実施形態の車幅方向内側)への直線運動が規制されることを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の構成に加えて、
前記棒状部と前記腕部とは金属材料で形成されるとともに溶接によって接続され、前記溶接は、前記腕部の前記第1軸受部とは反対側にのみ行なわれることを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に記載の発明は、請求項6又は7に記載の構成に加えて、
前記運動変換機構は、前記並進部材の前記棒状部(例えば、後述の実施形態の内側端部76a)に接続され、
前記運動変換機構と前記棒状部との接続部は、前記第1軸受部に対し前記腕部の反対側に設けられ、
前記運動変換機構が前記第1軸受部に当接することにより、前記並進部材の他方側(例えば、後述の実施形態の車幅方向外側)への直線運動が規制されることを特徴とする。
【0016】
また、請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の構成に加えて、
前記腕部に対し前記第1軸受部と反対側に前記棒状部の端部(例えば、後述の実施形態の外側端部76b)を軸支する第2軸受部(例えば、後述の実施形態の第2軸受部45)が設けられ、
前記第2軸受部は、前記棒状部の端部が挿入可能に凹状に形成され、
前記第2軸受部の深さは、前記運動変換機構が前記第1軸受部に当接したときに前記棒状部の端部が前記第2軸受部の底部(例えば、後述の実施形態の底部45a)に当接しないように構成されることを特徴とする。
【0017】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記車輪と前記電動機との間の前記動力伝達経路上には、前記車輪及び前記電動機の回転を変速する変速機構(例えば、後述の実施形態の遊星歯車式減速機12A、12B)が設けられ、
前記変速機構は、前記動力伝達経路上において前記断接機構よりも前記電動機側に配設されることを特徴とする。
【0018】
また、請求項11に記載の発明は、請求項9に記載の構成に加えて、
前記変速機構は、サンギヤ(例えば、後述の実施形態のサンギヤ21)、プラネタリギヤ(例えば、後述の実施形態のプラネタリギヤ22)、及びリングギヤ(例えば、後述の実施形態のリングギヤ24)を有するプラネタリ機構を有し、
前記並進部材の少なくとも一部は、前記プラネタリギヤの公転軸線を通る断面視で前記プラネタリギヤとオーバーラップする位置で、且つ前記プラネタリギヤの公転軌道の最外部(例えば、後述の実施形態の最外部M)よりも外側となる位置に配設されることを特徴とする。
【0019】
また、請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の構成に加えて、
前記プラネタリギヤは、2連ピニオンギヤから構成され、
前記リングギヤは、前記2連ピニオンギヤの小径側ピニオンギヤ(例えば、後述の実施形態の第2ピニオンギヤ27)と噛合し、大径側ピニオンギヤ(例えば、後述の実施形態の第1ピニオンギヤ26)の公転軌道の最外部よりも内側に配設されたことを特徴とする。
【0020】
上記の目的を達成するために、請求項13に記載の発明は、
車両の左車輪(例えば、後述の実施形態の左後輪LWr)を駆動する第1電動機(例えば、後述の実施形態の電動機2A)と、
車両の右車輪(例えば、後述の実施形態の右後輪RWr)を駆動する第2電動機(例えば、後述の実施形態の電動機2B)と、
前記左車輪と前記第1電動機との間の第1動力伝達経路上に設けられ、動力伝達状態と動力遮断状態とを切り替え可能な第1断接機構(例えば、後述の実施形態のシンクロメッシュ機構60A)と、
前記右車輪と前記第2電動機との間の第2動力伝達経路上に設けられ、動力伝達状態と遮断状態とを切り替え可能な第2断接機構(例えば、後述の実施形態のシンクロメッシュ機構60B)と、
前記第1断接機構と前記第2断接機構を駆動する断接機構駆動装置(例えば、後述の実施形態のシンクロメッシュ機構駆動装置70)と、を備える車両用駆動装置(例えば、後述の実施形態の車両用駆動装置1)であって、
前記断接機構駆動装置は、回転運動をする回動部材(例えば、後述の実施形態の回動部材73)と、該回動部材の回転軸線に対し対称に配設され直線運動をする第1及び第2並進部材(例えば、後述の実施形態の並進部材74A、74B)と、前記回動部材に接続され前記回動部材を駆動する駆動源(例えば、後述の実施形態の電動モータ72)と、前記回動部材の回転運動を前記第1及び第2並進部材の直線運動に変換させる運動変換機構(例えば、後述の実施形態の運動変換機構75)と、を備え、
前記駆動源によって前記回動部材を順方向に回転させることで、前記第1並進部材を一方側(例えば、後述の実施形態の車幅方向内側(左側又は右側))に移動させ、且つ前記第2並進部材を他方側(例えば、後述の実施形態の車幅方向内側(右側又は左側))に移動させて、前記第1及び第2断接機構を動力遮断状態とし、
前記駆動源によって前記回動部材を逆方向に回転させることで、前記第1並進部材を他方側(例えば、後述の実施形態の車幅方向外側(右側又は左側))に移動させ、且つ前記第2並進部材を一方側(例えば、後述の実施形態の車幅方向外側(左側又は右側))に移動させて、前記第1及び第2断接機構を動力伝達状態とすることを特徴とする。
【0021】
また、請求項14に記載の発明は、請求項13に記載の構成に加えて、
前記第1断接機構は、前記車両の車幅方向において前記第1電動機よりも前記第2電動機側に配設され、
前記第2断接機構は、前記車両の車幅方向において前記第2電動機よりも前記第1電動機側に配設され、
前記駆動源は、前記車幅方向で第1電動機と第2電動機との間に配設されることを特徴とする。
【0022】
また、請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の構成に加えて、
前記第1断接機構は、互いの回転軸線が平行に配置された第1電動機出力軸(例えば、後述の実施形態の電動機出力軸16A)と左車軸(例えば、後述の実施形態の車軸10A)とに連結され、
前記第2断接機構は、互いの回転軸線が平行に配置された第2電動機出力軸(例えば、後述の実施形態の電動機出力軸16B)と右車軸(例えば、後述の実施形態の車軸10B)とに連結され、
前記第1電動機出力軸は中空状に形成されて、その内部を前記左車軸が挿通し、
前記第2電動機出力軸は中空状に形成されて、その内部を前記右車軸が挿通し、
前記第1電動機出力軸と前記左車軸と前記第1電動機が同心状に配設され、
前記第2電動機出力軸と前記右車軸と前記第2電動機が同心状に配設されたことを特徴とする。
【0023】
また、請求項16に記載の発明は、請求項15に記載の構成に加えて、
前記左車輪と前記第1電動機との間の前記第1動力伝達経路上には、前記左車輪及び前記第1電動機の回転を変速する第1変速機構(例えば、後述の実施形態の遊星歯車式減速機12A)が設けられ、
前記右車輪と前記第2電動機との間の前記第2動力伝達経路上には、前記右車輪及び前記第2電動機の回転を変速する第2変速機構(例えば、後述の実施形態の遊星歯車式減速機12B)が設けられ、
前記第1変速機構は、前記第1動力伝達経路上において前記第1断接機構よりも前記第1電動機側で、且つ、車幅方向で前記第1断接機構と前記第1電動機との間に配設され、
前記第2変速機構は、前記第2動力伝達経路上において前記第2断接機構よりも前記第2電動機側で、且つ、車幅方向で前記第2断接機構と前記第2電動機との間に配設されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に記載の発明によれば、電動機の駆動や回生が不要な場合に断接機構駆動装置により断接機構を動力遮断状態にすることで電動機の連れ回りを防止できる。また、断接機構駆動装置を複数の部材によって構成し、それらの機械式伝達による駆動としたことで、断接機構の応答性を向上させることができる。これにより、構造の単純化が可能であり、断接機構の制御精度及び耐久性を向上させることができる。また、運動変換機構により駆動源はその位置や外形の形状を変えずに回転運動を行なうので駆動源の配置自由度が高い。
【0025】
また、請求項2に記載の発明によれば、回動部材を電動機出力軸と車軸に交差する関係とすることで、回動部材の配置自由度が高く、その回動部材に取り付けられる駆動源の配置自由度を向上させることができる。
【0026】
また、請求項3に記載の発明によれば、回動部材が車両の上下方向に突出するのを防止することで乗員空間を狭めることがなく地面との接触も回避することができる。
【0027】
また、請求項4に記載の発明によれば、電動機を後方配置する場合に、電動機より前方側に駆動源が配設されるので、後突時に駆動源を保護することができる。
【0028】
また、請求項5に記載の発明によれば、駆動源を車両下方からの外力、例えば地面、縁石との接触、小石などの飛来から防護することができる。
【0029】
また、請求項6に記載の発明によれば、断接機構の切替は並進部材を所定のストローク分移動させることで行なわれるので、第1軸受部で並進部材の一方側への直線運動を規制することで断接機構が過度に操作されることを抑制することができる。
【0030】
また、請求項7に記載の発明によれば、腕部の第1軸受部側を溶接しないことで、溶接に伴う母材の変形や接合材の付着によるストローク変化を防止することができる。
【0031】
また、請求項8に記載の発明によれば、第1軸受部で並進部材の他方側への直線運動も規制することが可能となり、断接機構を所定の範囲内で確実に操作させることができる。
【0032】
また、請求項9に記載の発明によれば、運動変換機構が第1軸受部に当接する前に棒状部の先端が第2軸受部の底部に当接することによって並進部材が他方の直線運動が規制されるのを防止することができ、運動変換機構と第1軸受部の間隔調整により容易な方法で並進部材のストローク管理を行うことができる。
【0033】
また、請求項10に記載の発明によれば、動力遮断時に車輪と一体に回転する部材を減らすことで走行抵抗を低減することができる。
【0034】
また、請求項11に記載の発明によれば、デッドスペースとなりがちなプラネタリギヤの公転軌道の外側を活用することで、駆動装置をコンパクトに形成することができる。
【0035】
また、請求項12に記載の発明によれば、プラネタリギヤを段付きの2連ピニオンギヤとすることで、公転軌道の径を小さくすることができる。また、並進部材の一部である棒状部を大径側ピニオンギヤと可及的に近接して配置することができ、駆動装置をコンパクトにすることができる。
【0036】
請求項13に記載の発明によれば、第1及び第2電動機の駆動や回生が不要な場合に断接機構駆動装置により第1及び第2断接機構を動力遮断状態にすることで第1及び第2電動機の連れ回りを防止できる。また、断接機構駆動装置を油圧式ではなく機械式としたことで、断接機構の応答性を向上させることができる。
また、単一の駆動源で左右の第1及び第2断接機構を切替可能であるので部品点数を少なくして重量を低減することができる。
また、単一の駆動源と回動部材からの駆動力を機械的に且つ対称に第1及び第2断接機構に伝える構造であるので、左右の第1及び第2断接機構を容易に同期させることができる。
【0037】
請求項14に記載の発明によれば、第1及び第2断接機構を近接して配設可能となり、第1及び第2並進部材を小型化することができる。また、その近傍に駆動源も位置するので回動部材も小型化することができ、断接機構駆動装置の小型化が可能となる。
【0038】
請求項15に記載の発明によれば、中空軸による2重構造を用いることで、第1及び第2断接機構を第1及び第2電動機の内側に配置した場合にも径方向の拡大を抑制することができる。
【0039】
請求項16に記載の発明によれば、動力遮断時に車輪と一体に回転する部材を減らすことで走行抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る車両用駆動装置を適用可能な車両の一実施形態であるハイブリッド車両の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る車両用駆動装置の一実施形態の縦断面図である。
【図3】図2及び図6のX−X線矢視図である。
【図4】(a)はシンクロメッシュ機構を接続した状態のシンクロメッシュ機構駆動装置の部分拡大図であり、(b)はシンクロメッシュ機構を開放した状態のシンクロメッシュ機構駆動装置の部分拡大図である。
【図5】変形例に係る軸受部を説明するシンクロメッシュ機構駆動装置の部分拡大図である。
【図6】シンクロメッシュ機構の拡大図である。
【図7】車両の停車中における車両用駆動装置の共線図である。
【図8】車両用駆動装置が前進加速走行する場合の車両用駆動装置の共線図である。
【図9】車両用駆動装置が前進減速走行する場合であって電動機が停止する場合の車両用駆動装置の共線図である。
【図10】車両用駆動装置が前進減速走行する場合であって電動機で回生する場合の車両用駆動装置の共線図である。
【図11】車両用駆動装置が後進加速走行する場合の車両用駆動装置の共線図である。
【図12】車両用駆動装置が後進減速走行する場合であって電動機が停止する場合の車両用駆動装置の共線図である。
【図13】車両の走行状態における電動機の状態とシンクロメッシュ機構の状態を示した図である。
【図14】変形例に係る車両用駆動装置を適用可能な車両の一実施形態であるハイブリッド車両の概略構成を示すブロック図である。
【図15】特許文献1に記載の車両用駆動装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、この発明の一実施形態の車両用駆動装置について図面を参照して説明する。
本発明にかかる車両用駆動装置1(以下、駆動装置と呼ぶ。)は、電動機2A、2Bを車軸駆動用の駆動源とするものであり、例えば、図1に示すような駆動システムの車両3に用いられる。
【0042】
図1に示す車両3は、内燃機関4と電動機5が直列に接続された駆動ユニット6を車両前部に有するハイブリッド車両であり、この駆動ユニット6の動力がトランスミッション7を介して前輪Wfに伝達される一方で、この駆動ユニット6と別に車両後部に設けられた本発明に係る駆動装置1の動力が後輪Wr(RWr、LWr)に伝達されるようになっている。前輪Wf側の駆動ユニット6の電動機5と後輪Wr側の駆動装置1の電動機2A、2Bは、PDU8(パワードライブユニット)を介してバッテリ9に接続され、バッテリ9からの電力供給と、バッテリ9へのエネルギー回生がPDU8を介して行われるようになっている。
【0043】
図2は駆動装置1の全体の縦断面図(図3のZ−Z線矢視図)を示すものであり、図3は図2及び図6のX−X線矢視図である。図2及び図3中の矢印は駆動装置1が車両3に搭載された状態における位置関係を示している。図2において、10A、10Bは、車両の後輪Wr側の左右の車軸であり、車幅方向に沿って同軸上に並んで配置される。駆動装置1の減速機ケース40は全体が略円筒状に形成され、その内部には、車軸駆動用の電動機2A、2Bと、電動機2A、2Bと後輪Wr(RWr、LWr)との動力伝達経路上にそれぞれ設けられ動力伝達状態と動力遮断状態を切替可能なシンクロメッシュ機構60A、60Bと、シンクロメッシュ機構60A、60Bを駆動するシンクロメッシュ機構駆動装置70と、が設けられている。また、電動機2A、2Bとシンクロメッシュ機構60A、60Bとの動力伝達経路上にはそれぞれ遊星歯車式減速機12A、12Bが設けられ、この電動機2A、シンクロメッシュ機構60A及び遊星歯車式減速機12Aは車軸10Aと同心状に設けられて左後輪LWrを制御し、電動機2B、シンクロメッシュ機構60B及び遊星歯車式減速機12Bは車軸10Bと同心状に設けられて右後輪RWrを制御し、これら電動機2A、シンクロメッシュ機構60A及び遊星歯車式減速機12Aと、電動機2B、シンクロメッシュ機構60B及び遊星歯車式減速機12Bは、減速機ケース40内で左右対称に配置されている。
【0044】
減速機ケース40の左右両端側内部には、それぞれ電動機2A、2Bのステータ14A、14Bが固定され、このステータ14A、14Bの内周側に環状のロータ15A、15Bが回転可能に配置されている。ロータ15A、15Bの内周部には車軸10A、10Bの外周を囲繞する電動機出力軸16A、16Bが結合され、この電動機出力軸16A、16Bが車軸10A、10Bと相対回転自在となるようにそれぞれ減速機ケース40の端部壁41A、41Bと中間壁42A、42Bに軸受Br1、Br2を介して支持されている。また、減速機ケース40の端部壁41A、41Bには、ロータ15A、15Bの回転位置情報を電動機2A、2Bの制御コントローラ(図示せず)にフィードバックするためのレゾルバ20A、20Bが設けられている。
【0045】
なお、以下の説明においては、遊星歯車式減速機12A、12Bは左右対称に配置されており、同じ作動を行なうため、以下の説明では左側の遊星歯車式減速機12Aに焦点を当てて説明する。なお、後述するシンクロメッシュ機構60A、60Bとシンクロメッシュ機構駆動装置70の並進部材74A、74Bにおいても同様に、左側のシンクロメッシュ機構60Aと並進部材74Aに焦点を当てて説明する。
【0046】
遊星歯車式減速機12Aは、図6に示すように、サンギヤ21と、このサンギヤ21に噛合される複数のプラネタリギヤ22と、これらのプラネタリギヤ22を支持するプラネタリキャリア23と、プラネタリギヤ22の外周側に噛合されるリングギヤ24と、を備え、サンギヤ21から電動機2Aの駆動力が入力され、減速された駆動力がプラネタリキャリア23を通して出力されるようになっている。
【0047】
サンギヤ21は電動機出力軸16Aに一体に形成されている。また、プラネタリギヤ22は、サンギヤ21に直接噛合される大径の第1ピニオンギヤ26と、この第1ピニオンギヤ26よりも小径の第2ピニオンギヤ27を有する2連ピニオンギヤであり、これらの第1ピニオンギヤ26と第2ピニオンギヤ27が同軸にかつ軸方向にオフセットした状態で一体に形成されている。このプラネタリギヤ22はピニオンシャフト28により公転軌道上で自転可能に支持される。プラネタリキャリア23は、このピニオンシャフト28を支持する環状プレート部29と、環状プレート部29の径方向内側端部から軸方向内側に延びて車軸10Aを覆うように車軸10Aと相対回転自在に設けられた筒状基部30と、から構成される。
【0048】
リングギヤ24は、減速機ケース40に取り付けられ小径の第2ピニオンギヤ27に常時噛合して構成され、第1ピニオンギヤ26の公転軌道の最外部M(図3参照)よりも径方向内側に配設されている。
【0049】
プラネタリキャリア23の筒状基部30の軸方向内側には、車軸10Aを覆い車軸10Aにスプライン嵌合する車輪側係合部材31が車軸10Aに相対回転不能に設けられ、プラネタリキャリア23の筒状基部30と対向する車輪側係合部材31の軸方向外側端部にはフランジ部32が形成され、フランジ部32の外径側端部からは軸方向外側に伸びて外周面にスプラインギヤ33が形成された円筒部34が設けられている。車輪側係合部材31は、後述する減速機ケース40の前方空間Sを画成する円筒壁46に軸受Br3を介して回転自在に支持されている。
【0050】
また、プラネタリキャリア23の筒状基部30の外径側には電動機側係合部材50が相対回転不能に取り付けられ、電動機側係合部材50の外周面には車輪側係合部材31のスプラインギヤ33と同径のスプラインギヤ51が形成されるとともにこのスプラインギヤ51に対して一段縮径して先細り状に傾斜するテーパ面52が設けられている。
【0051】
電動機側係合部材50のテーパ面52と車輪側係合部材31の円筒部34で形成された空間には、シンクロメッシュ機構60Aの一部が設けられ、電動機側係合部材50と車輪側係合部材31がシンクロメッシュ機構60Aを介して接続(動力伝達)状態と開放(動力遮断)状態を任意に変更し得るようになっている。
【0052】
シンクロメッシュ機構60Aは、所謂トリプルコーン式のシンクロメッシュ機構であり、電動機側係合部材50のテーパ面52と車輪側係合部材31の円筒部34の間に介装された3層の摩擦伝達部材であるアウタリング61、シンクロコーン62、及び、インナリング63と、車輪側係合部材31のスプラインギヤ33の外周に軸方向にスライド可能にスプライン嵌合されるシンクロスリーブ71と、を備えて構成される。
【0053】
このシンクロメッシュ機構60Aは、シンクロスリーブ71が後述するシンクロメッシュ機構駆動装置70によって車幅方向外側(図6中左側)に操作されたときに、アウタリング61、シンクロコーン62、インナリング63と電動機側係合部材50が隣接する各テーパ面を通して摩擦接触し、電動機側係合部材50と車輪側係合部材31の間に回転速度差がある場合に、その回転速度差を各テーパ面間の摩擦抵抗によって漸減するようになっている。そして、電動機側係合部材50と車輪側係合部材31の回転速度差が充分に低くなって、シンクロスリーブ71がさらに車幅方向外側(図6中左側)に操作されると、その内周面に形成された内スプライン(符号省略)が車輪側係合部材31のスプラインギヤ33と電動機側係合部材50のスプラインギヤ51に跨って噛合され、それによって電動機側係合部材50と車輪側係合部材31が連結することによりプラネタリキャリア23と車軸10Aが連結するようになっている。また、シンクロスリーブ71が、プラネタリキャリア23と車軸10Aが連結された状態から後述するシンクロメッシュ機構駆動装置70によって車幅方向内側(図6中右側)に操作されると、電動機側係合部材50のスプラインギヤ51との噛合が解除され、それによってプラネタリキャリア23と車軸10Aとの連結が遮断される。
【0054】
同様に、遊星歯車機構12Bもサンギヤ21と、プラネタリギヤ22と、プラネタリキャリア23と、リングギヤ24とから構成され、プラネタリキャリア23に取り付けられた電動機側係合部材50と車軸10Bに取り付けられた車輪側係合部材31との間にシンクロメッシュ機構60Bが設けられ、後述するシンクロメッシュ機構駆動装置70によってシンクロスリーブ71が操作されてシンクロメッシュ機構60Bが接続されることでプラネタリキャリア23と車軸10Bが連結され、シンクロメッシュ機構60Bが開放されることでプラネタリキャリア23と車軸10Bとの連結が遮断される。なお、車軸10Bの車輪側係合部材31には、オイルポンプ駆動用ギヤ80が車軸10Bと一体で回転するように設けられている(図2参照)。
【0055】
続いて、シンクロメッシュ機構60A、60Bを駆動するシンクロメッシュ機構駆動装置70について説明する。
シンクロメッシュ機構駆動装置70は、図2に示すように、駆動源としての電動モータ72と、電動モータ72の出力軸に連結されて回転運動をする回動部材73と、回動部材73の回転軸線に対し略直交する方向に沿って直線運動を行なう並進部材74A、74Bと、回動部材73の回転運動を並進部材74A、74Bの直線運動に変換させる運動変換機構75と、を備えて構成される。
【0056】
電動モータ72は、減速機ケース40の前方且つ中央に凹設された前方空間Sを覆うカバー43の外側に取り付けられ、電動モータ72の出力軸に連結された回動部材73が、前方空間S内に車軸10A、10Bと略直交するように配置される。なお、本実施形態では、この回動部材73の回転軸線方向は地面に対して鉛直方向とならないように前後方向に指向している。また、電動モータ72は、図3に示すように、車両の鉛直方向において電動モータ72の最下部T1が、電動機2A、2B及びシンクロメッシュ機構60A、60Bを収容する減速機ケース40の最下部T2よりも高い位置となるように配設される。
【0057】
前方空間Sには、車軸10A、10Bと略平行に配置された並進部材74A、74Bが露出し、回動部材73の回転運動を並進部材74A、74Bの直線運動に変換させる運動変換機構75が設けられている。運動変換機構75は、回動部材73を順方向に回転させることで、並進部材74A、74Bを車軸10A、10Bと略平行に且つ互いに近づけるように回動部材73側(車幅方向内側)に移動させ、回動部材73を逆方向に回転させることで、並進部材74A、74Bを車軸10A、10Bと略平行に且つ互いに離間させるように回動部材73から離れる方向(車幅方向外側)に移動させる。即ち、運動変換機構75は、回動部材73の回転により左右の並進部材74A、74Bを同時に同じストローク分だけ移動させることができる。なお、上述したように、以下の説明では、左側の並進部材74Aに焦点を当てて説明する。
【0058】
図4及び図6も参照して、並進部材74Aは、内側端部76aが運動変換機構75に接続されて直線運動方向に延びる金属性の棒状部76と、一端部が棒状部76に溶接されて他端部がシンクロスリーブ71と係合する金属性のシフトフォーク77と、を備えて構成される。棒状部76は、前方空間Sを画成する側壁に形成される第1軸受部44に内側端部76aが摺動可能に挿通され、中間壁42Aに凹設された第2軸受部45に外側端部76bが支持され、図2に示すプラネタリギヤ22の公転軸線を通る断面視でプラネタリギヤ22の第1ピニオンギヤ26とオーバーラップする位置で、且つ図3に示すように第1ピニオンギヤ26の公転軌道の最外部Mよりも外側となる位置に配設される。なお、棒状部76とシフトフォーク77との溶接は、シフトフォーク77の第1軸受部44とは反対側(第2軸受部45側)にのみ行なわれる。
【0059】
ここで、シンクロメッシュ機構駆動装置70の作用について図4を参照して説明する。図4(a)はシンクロメッシュ機構60Aを接続した状態のシンクロメッシュ機構駆動装置70の部分拡大図であり、(b)はシンクロメッシュ機構60Aを開放した状態のシンクロメッシュ機構駆動装置70の部分拡大図である。
電動モータ72を逆方向に回転させて並進部材74Aの棒状部76を回動部材73から離れる方向に移動させシンクロメッシュ機構60Aを接続したとき、図4(a)に示すように、棒状部76の内側端部76aと連結したシンクロメッシュ機構駆動装置70の接続部78は、第1軸受部44の内側端面44aに当接することで位置決めされる。
【0060】
一方、電動モータ72を順方向に回転させて並進部材74Aの棒状部76を回動部材73側に移動させ、シンクロメッシュ機構60Aを開放したとき、図4(b)に示すように、棒状部76に溶接されたシフトフォーク77の内側端面77a が、第1軸受部44の外側端面44bに当接することで位置決めされる。
【0061】
即ち、シンクロメッシュ機構60Aの接続状態と開放状態との間のストローク量をDとすると、シンクロメッシュ機構60Aの接続時におけるシフトフォーク77の内側端面77aと第1軸受部44の外側端面44bとの距離D1がストローク量Dと等しい長さに設定され、シンクロメッシュ機構60Aの開放時におけるシンクロメッシュ機構駆動装置70の接続部78と第1軸受部44の内側端面44aとの距離D2がストローク量Dと等しい長さに設定される。
【0062】
また、第2軸受部45は、シンクロメッシュ機構60Aの開放時における棒状部76の外側端部76bと底部45aとの間の距離D3が、ストローク量Dより大きく設定される。従って、シンクロメッシュ機構60Aの接続時において、シンクロメッシュ機構駆動装置70の接続部78が、第1軸受部44の内側端面44aと当接したときに棒状部76の外側端部76bが第2軸受部45の底部45aと当接することがない。
【0063】
従って、本実施形態のシンクロメッシュ機構駆動装置70によれば、第1軸受部44でシンクロメッシュ機構60Aが過度に操作されることを抑制しつつ、容易な方法で並進部材74Aのストローク管理を行うことができる。また、棒状部76とシフトフォーク77との溶接は、第1軸受部44とは反対側にのみ行なわれているので、溶接に伴うシフトフォーク77の変形や接合材の付着によるストローク変化を防止することができる。
【0064】
なお、第1及び第2軸受部44、45には、図5に示すように、テフロンブッシュ79を介在させることもできる。これにより、棒状部76の摺動抵抗を低減させて電動モータ72の負荷を低減することができる。
【0065】
同様に、並進部材74Bは、棒状部76と、シフトフォーク77とから構成され、電動モータ72を逆方向に回転させて並進部材74Bの棒状部76を回動部材73から離れる方向に移動させることでシンクロメッシュ機構60Bを接続することができ、電動モータ72を順方向に回転させて並進部材74Bの棒状部76を回動部材73側に移動させることで、シンクロメッシュ機構60Bを開放することができる。
【0066】
このように構成された駆動装置1は、電動モータ72を回動部材73が逆方向に回転するように駆動することで、運動変換機構75を介して棒状部76が回動部材73から離れる方向に移動する。そして、棒状部76に取り付けられたシフトフォーク77がシンクロスリーブ71を車輪側係合部材31のスプラインギヤ33と電動機側係合部材50のスプラインギヤ51に跨って噛合することでプラネタリキャリア23と車軸10A、10Bが連結されて動力伝達可能となり、棒状部76の内側端部76aと連結した運動変換機構75の接続部78が第1軸受部44の内側端面44aと当接して棒状部76の移動が規制される。
【0067】
また、電動モータ72を回動部材73が順方向に回転するように駆動することで、運動変換機構75を介して棒状部76が回動部材73側に移動する。そして、棒状部76に取り付けられたシフトフォーク77がシンクロスリーブ71を電動機側係合部材50のスプラインギヤ51から離脱させることでプラネタリキャリア23と車軸10A、10Bの連結が解除されて動力伝達が不能となり、棒状部76に溶接されたシフトフォーク77の内側端面77aが、第1軸受部44の外側端面44bと当接して棒状部76の移動が規制される。
【0068】
次に、このように構成された駆動装置1の制御について説明する。なお、図7〜図12は各状態における共線図を表わし、MOT(Lside)は遊星歯車式減速機12Aのサンギヤ21と一体に設けられた電動機2A、MOT(Rside)は遊星歯車式減速機12Bのサンギヤ21と一体に設けられた電動機2B、左側のCは遊星歯車式減速機12Aのプラネタリキャリア23、右側のCは遊星歯車式減速機12Bのプラネタリキャリア23、Rは遊星歯車式減速機12A、12Bのリングギヤ24を共通して表わしている。また、シンクロ(Lside)は左車輪LWrと電動機2Aとの間の動力伝達経路上に設けられたシンクロメッシュ機構60A、シンクロ(Rside)は右車輪RWrと電動機2Bとの間の動力伝達経路上に設けられたシンクロメッシュ機構60Bを表わしている。また、以下の説明において前進時の電動機2A、2Bの回転方向を正転方向とし、図中、停車中の状態から上方が正転方向の回転、下方が逆転方向の回転であり、矢印は、上方が正転方向のトルクを表し、下方が逆転方向のトルクを表す。
【0069】
図7は、車両3の停車中における共線図である。
このとき、シンクロメッシュ機構60A、60Bは開放され、電動機2A、2Bも車軸10A、10Bも停止しているため、いずれの要素にもトルクは作用していない。なお、車両3の停車中は、発進に備えてシンクロメッシュ機構60A、60Bを接続しておいてもよいが、その場合であっても電動機2A、2Bも車軸10A、10Bも停止しているため、いずれの要素にもトルクは作用しない。
【0070】
図8は、車両3が駆動装置1の電動機2A、2Bのモータトルクにより前進走行する場合、即ち駆動装置1が加速側となって車両3が前進する場合における共線図である。
停車中の状態からシンクロメッシュ機構駆動装置70でシンクロメッシュ機構60A、60Bを接続して電動機2A、2Bを正転方向に駆動することにより、減速機ケース40に固定されたリングギヤ24には正転方向のロックトルクが作用して、プラネタリキャリア23は正転方向に回転し車両3の前進加速走行がなされる。このとき、プラネタリキャリア23には、車軸10A、10Bからの走行抵抗が車両3の進行方向とは反対方向、即ち後進方向に作用している。これにより、油温に関わらずシンクロメッシュ機構60A、60Bを接続することができ、車両発進時の応答性を向上させることができる。
【0071】
図9は、車両3が駆動ユニット6により前進走行している、又は他の車両等に前進方向に牽引されている状態で電動機2A、2Bを停止する場合、即ち駆動装置1の減速時もしくはコースト(惰行)時で且つ電動機2A、2Bが停止する場合における共線図である。
図8の状態からシンクロメッシュ機構駆動装置70でシンクロメッシュ機構60A、60Bを開放するとともに電動機2A、2Bを停止することにより、車両3の前進走行に伴って後輪Wrは駆動ユニット6等の動力で空転することになる。このとき、シンクロメッシュ機構60A、60Bは開放しているので、後輪Wrの回転で電動機2A、2Bが連れまわることはない。
【0072】
図10は、車両3が駆動ユニット6により前進走行し、かつ電動機2A、2Bにより回生する場合、即ち駆動装置1の減速時もしくはコースト(惰行)時で且つ電動機2A、2Bが回生する場合における共線図である。
図8の状態からシンクロメッシュ機構60A、60Bは接続したまま電動機2A、2Bを回生すると、プラネタリキャリア23には車軸10A、10Bから前進走行を続けようとする正転方向のトルクが作用し、リングギヤ24には逆転方向のロックトルクが作用する。これにより、電動機2A、2Bで回生充電することができる。
【0073】
図11は、車両3が駆動装置1の電動機2A、2Bにより後進走行(RVS)する場合、即ち駆動装置1が後進(後退)加速する場合における共線図である。
停車中の状態からシンクロメッシュ機構駆動装置70でシンクロメッシュ機構60A、60Bを接続して電動機2A、2Bを逆転方向に駆動することにより、減速機ケース40に固定されたリングギヤ24には逆転方向のロックトルクが作用して、プラネタリキャリア23は逆転方向に回転し車両3の後進加速走行がなされる。このとき、プラネタリキャリア23には、車軸10A、10Bからの走行抵抗が車両3の進行方向とは反対方向、即ち前進方向に作用している。
【0074】
図12は、車両3が駆動ユニット6により後進走行(RVS)している場合、又は他の車両等に後進方向に牽引されている状態、即ち後進走行において駆動装置1の被駆動時における共線図である。
シンクロメッシュ機構駆動装置70でシンクロメッシュ機構60A、60Bを開放するとともに電動機2A、2Bを停止することにより、車両3の後進走行に伴って後輪Wrは駆動ユニット6等の動力で空転することになる。このとき、シンクロメッシュ機構60A、60Bは開放しているので、後輪Wrの回転で電動機2A、2Bが連れまわることはない。
【0075】
図13は、駆動装置1を搭載した車両3の走行状態における電動機2A、2Bの状態とシンクロメッシュ機構60A、60B(断接機構)の状態を示した図である。なお、フロントとは前輪Wfを駆動する駆動ユニット6、リアとは後輪Wrを駆動する駆動装置1を表わし、○が作動(駆動、回生含む)、×が非作動(停止)を意味する。また、MOT状態とは、駆動装置1の電動機2A、2Bの状態を意味する。さらにONは、シンクロメッシュ機構60A、60Bが接続されている状態を意味し、OFFは、シンクロメッシュ機構60A、60Bが開放されている状態を意味する。
【0076】
停車中は、駆動装置1の電動機2A、2Bは停止するとともに、前輪Wf側の駆動ユニット6、後輪Wr側の駆動装置1はいずれも停止している。シンクロメッシュ機構60A、60Bを開放すれば図7の状態となる。
【0077】
そして、イグニッションをONにした後、EV発進時は、後輪Wrの駆動装置1の電動機2A、2Bで駆動する。このとき、図8で説明したように、シンクロメッシュ機構60A、60Bを接続することにより、電動機2A、2Bの動力が車軸10A、10Bに伝達されEV発進がなされる。
【0078】
続いて加速時には、前輪Wf側の駆動ユニット6と後輪Wr側の駆動装置1の四輪駆動となり、このときも図8で説明したように、シンクロメッシュ機構60A、60Bが接続され、電動機2A、2Bの動力が車軸10A、10Bに伝達される。
【0079】
低・中速域のEVクルーズでは、モータ効率が良いため前輪Wf側の駆動ユニット6が非作動状態で、後輪Wr側の駆動装置1により後輪駆動となる。このときも図8で説明したように、シンクロメッシュ機構60A、60Bが接続され、電動機2A、2Bの動力が車軸10A、10Bに伝達される。
【0080】
一方、高速域の高速クルーズでは、エンジン効率が良いため前輪Wf側の駆動ユニット6による前輪駆動となる。このとき、図9で説明したように、シンクロメッシュ機構60A、60Bを開放するとともに電動機2A、2Bを停止することにより、後輪Wrは空転する。
【0081】
また、自然減速する場合も、図9で説明したように、シンクロメッシュ機構60A、60Bが開放され、電動機2A、2Bは停止し後輪Wrは空転する。
【0082】
一方、減速回生する場合、例えば前輪Wf側の駆動ユニット6の駆動力により駆動する場合は、図10で説明したように、シンクロメッシュ機構60A、60Bを接続することにより、電動機2A、2Bで回生充電がなされる。
【0083】
通常走行では、車両ブレーキ制動制御と協調して電動機2A、2Bで回生して走行エネルギーを回収するが、緊急制動の要求(ABS作動)時には、電動機2A、2Bの回生を禁止して車両ブレーキを優先する。この場合、シンクロメッシュ機構60A、60Bを開放することにより、後輪Wrは電動機2A、2Bとの連結が遮断され車両ブレーキが作動することとなる。なお、このとき電動機2A、2Bも停止させる。
【0084】
後進走行(RVS)の場合は、前輪Wf側の駆動ユニット6が停止し後輪Wr側の駆動装置1が駆動して後輪駆動となるか、又は前輪Wf側の駆動ユニット6と後輪Wr側の駆動装置1の四輪駆動となる。このとき、図11で説明したように、シンクロメッシュ機構60A、60Bを接続して電動機2A、2Bを逆転方向に駆動することにより、車両3の後進走行がなされる。
【0085】
また、前進方向側に牽引される(FWD被牽引)場合は、図9で説明したように、シンクロメッシュ機構60A、60Bを開放して電動機2A、2Bを停止することで、後輪Wrは空転する。
【0086】
また、PDU等の故障等の高電圧系故障時により電動機2A、2Bが駆動できない場合には、前輪Wf側の駆動ユニット6により前輪駆動となる。このとき、図9で説明したように、シンクロメッシュ機構60A、60Bを開放するとともに電動機2A、2Bを停止することにより、後輪Wrは空転する。
【0087】
以上説明した本実施形態に係る駆動装置1によれば、シンクロメッシュ機構駆動装置70が、回転運動をする回動部材73と、直線運動をする並進部材74A、74Bと、回動部材73に接続され回動部材73を駆動する電動モータ72と、回動部材73の回転運動を並進部材74A、74Bの直線運動に変換させる運動変換機構75と、を備え、電動モータ72によって回動部材73を順方向に回転させることで、並進部材74A、74Bを一方側に移動させてシンクロメッシュ機構60A、60Bを動力遮断状態とし、電動モータ72によって回動部材73を逆方向に回転させることで、並進部材74A、74Bを他方側に移動させてシンクロメッシュ機構60A、60Bを動力伝達状態とするので、電動機2A、2Bの駆動や回生が不要な場合にシンクロメッシュ機構駆動装置70によりシンクロメッシュ機構60A、60Bを動力遮断状態にすることで電動機2A、2Bの連れ回りを防止できる。また、シンクロメッシュ機構駆動装置70を複数の部材によって構成し、それらの機械式伝達による駆動としたことで、シンクロメッシュ機構60A、60Bの応答性を向上させることができる。これにより、構造の単純化が可能であり、シンクロメッシュ機構60A、60Bの制御精度及び耐久性を向上させることができる。また、運動変換機構75により電動モータ72はその位置や外形の形状を変えずに回転運動を行なうので電動モータ72の配置自由度が高い。
【0088】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、シンクロメッシュ機構60A、60Bは、互いの回転軸線が平行に配置された電動機出力軸16A、16Bと車軸10A、10Bに連結され、並進部材74A、74Bの直線運動方向は両回転軸線と平行であって、回動部材73の回転軸線方向は並進部材74A、74Bの直線運動方向と交差するので、回動部材73の配置自由度が高く、その回動部材73に取り付けられる電動モータ72の配置自由度を向上させることができる。
【0089】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、回動部材73は、車両搭載時に回転軸線方向が地面に対し鉛直方向とならないように配設されるので、乗員空間を狭めることがなく地面との接触も回避することができる。
【0090】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、電動機2A、2Bは、車両3の前後方向の中間位置よりも後方側に配設され、回動部材73と電動モータ72は、電動機2A、2Bに対し前側に配設されるので、後突時に電動モータ72を保護することができる。
【0091】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、電動モータ72は、鉛直方向において電動モータ72の最下部T1が、電動機2A、2B及びシンクロメッシュ機構60A、60Bを収容する減速機ケース40の最下部T2よりも高い位置となるように配設されるので、電動モータ72を車両下方からの外力、例えば地面、縁石との接触、小石などの飛来から防護することができる。
【0092】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、並進部材74A、74Bは、運動変換機構75に接続され直線運動方向に延びる棒状部76と、一端側が棒状部76に接続され他端側がシンクロメッシュ機構60A、60Bに接続されるシフトフォーク77と、を有し、棒状部76とシフトフォーク77との接続部近傍に、棒状部76を軸支する第1軸受部44が設けられ、シフトフォーク77が第1軸受部44に当接することにより、並進部材74A、74Bの一方側への直線運動が規制されるので、規制のための追加部材が不要であり、シンクロメッシュ機構60A、60Bが過度に操作されることを抑制することができる。
【0093】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、棒状部76とシフトフォーク77とは金属材料で形成されるとともに溶接によって接続され、溶接はシフトフォーク77の第1軸受部44とは反対側にのみ行なわれるので、溶接に伴う母材の変形や接合材の付着によるストローク変化を防止することができる。
【0094】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、運動変換機構75は、並進部材74A、74Bの棒状部76の内側端部76aに接続され、運動変換機構75と棒状部76との接続部78は、第1軸受部44に対しシフトフォーク77の反対側に設けられ、運動変換機構75が第1軸受部44に当接することにより、並進部材74A、74Bの他方側への直線運動が規制されるので、シンクロメッシュ機構60A、60Bを所定の範囲内で確実に操作させることができる。また、シンクロメッシュ機構60A、60Bが係合した後に余剰な力が加わらないのでシンクロメッシュ機構60A、60Bの信頼性が向上する。
【0095】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、シフトフォーク77に対し第1軸受部44と反対側に棒状部76の外側端部76bを軸支する第2軸受部45が設けられ、第2軸受部45は棒状部76の外側端部76bが挿入可能に凹状に形成され、第2軸受部45の深さは運動変換機構75の接続部78が第1軸受部44に当接したときに棒状部76の外側端部76bが第2軸受部45の底部45aに当接しないように構成されるので、シンクロメッシュ機構60A、60Bを所定の範囲内で確実に操作させることができる。
【0096】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、後輪Wrと電動機2A、2Bとの間の動力伝達経路上には、後輪Wr及び電動機2A、2Bの回転を変速する遊星歯車式減速機12A、12Bが設けられ、遊星歯車式減速機12A、12Bは、動力伝達経路上においてシンクロメッシュ機構60A、60Bよりも電動機2A、2B側に配設されるので、動力遮断時に後輪Wrと一体に回転する部材を減らすことで走行抵抗を低減することができる。
【0097】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、変速機構は、サンギヤ21、プラネタリギヤ22、及びリングギヤ24を有する遊星歯車式減速機12A、12Bを有し、棒状部76は、プラネタリギヤ22の公転軸線を通る断面視でプラネタリギヤ22とオーバーラップする位置で、且つプラネタリギヤ22の公転軌道の最外部Mよりも外側となる位置に配設されるので、デッドスペースとなりがちなプラネタリギヤ22の公転軌道の外側を活用することで、駆動装置1をコンパクトに形成することができる。
【0098】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、プラネタリギヤ22は、2連ピニオンギヤから構成され、リングギヤ24は、プラネタリギヤ22の小径の第2ピニオンギヤ27と噛合し、大径の第1ピニオンギヤ26の公転軌道の最外部Mよりも内側に配設されたので、プラネタリギヤ22の公転軌道の径を小さくすることができる。また、棒状部76を大径の第1ピニオンギヤ26と可及的に近接して配置することができ、駆動装置1をコンパクトにすることができる。
【0099】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、車両3の左後輪LWrを駆動する電動機2Aと、車両3の右後輪RWrを駆動する電動機2Bと、左後輪LWrと電動機2Aとの間の動力伝達経路上に設けられ、動力伝達状態と動力遮断状態とを切り替え可能なシンクロメッシュ機構60Aと、右後輪RWrと電動機2Bとの間の動力伝達経路上に設けられ、動力伝達状態と動力遮断状態とを切り替え可能なシンクロメッシュ機構60Bと、シンクロメッシュ機構60A、60Bを駆動するシンクロメッシュ機構駆動装置70と、を備え、シンクロメッシュ機構駆動装置70は、回転運動をする回動部材73と、回動部材73の回転軸線に対し対称に配設され直線運動をする並進部材74A、74Bと、回動部材73に接続され回動部材73を駆動する電動モータ72と、回動部材73の回転運動を並進部材74A、74Bの直線運動に変換させる運動変換機構75と、を備え、電動モータ72によって回動部材73を順方向に回転させることで、並進部材74Aを一方側に移動させるとともに並進部材74Bを他方側に移動させてシンクロメッシュ機構60A、60Bを動力遮断状態とし、電動モータ72によって回動部材73を逆方向に回転させることで、第1並進部材74Aを他方側に移動させるとともに並進部材74Bを一方側に移動させてシンクロメッシュ機構60A、60Bを動力伝達状態とするので、電動機2A、2Bの駆動や回生が不要な場合にシンクロメッシュ機構駆動装置70によりシンクロメッシュ機構60A、60Bを動力遮断状態にすることで電動機2A、2Bの連れ回りを防止できる。また、シンクロメッシュ機構駆動装置70を複数の部材によって構成し、それらの機械式伝達による駆動としたことで、シンクロメッシュ機構60A、60Bの応答性を向上させることができる。
また、単一の駆動源である電動モータ72で左右のシンクロメッシュ機構60A、60Bを切替可能であるので部品点数を少なくして重量を低減することができる。
また、単一の駆動源である電動モータ72でと回動部材73からの駆動力を機械的に且つ対称にシンクロメッシュ機構60A、60Bに伝える構造であるので、左右のシンクロメッシュ機構60A、60Bを容易に同期させることができる。
【0100】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、シンクロメッシュ機構60Aは、車両3の車幅方向において電動機2Aよりも電動機2B側に配設され、シンクロメッシュ機構60Bは、車両3の車幅方向において電動機2Bよりも電動機2A側に配設され、電動モータ72は、車幅方向で電動機2A、2Bとの間に配設されるので、シンクロメッシュ機構60A、60Bを近接して配設可能となり、並進部材74A、74Bを小型化することができる。また、その近傍に電動モータ72も位置するので回動部材73も小型化することができ、シンクロメッシュ機構駆動装置70の小型化が可能となる。
【0101】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、シンクロメッシュ機構60Aは、互いの回転軸線が平行に配置された電動機出力軸16Aと車軸10Aに連結され、シンクロメッシュ機構60Bは、互いの回転軸線が平行に配置された電動機出力軸16Bと車軸10Bに連結され、電動機出力軸16Aは中空状に形成されてその内部を車軸10Aが挿通し、電動機出力軸16Bは中空状に形成されてその内部を車軸10Bが挿通し、電動機出力軸16Aと車軸10Aと電動機2Aが同心状上に配設され、電動機出力軸16Bと車軸10Bと電動機2Bが同心状に配設されたので、シンクロメッシュ機構60A、60Bを電動機2A、2Bに対し車両3の内側に配置した場合にも径方向の拡大を抑制することができる。
【0102】
また、本実施形態に係る駆動装置1によれば、左後輪LWrと電動機2Aとの間の動力伝達経路上には左後輪LWr及び電動機2Aの回転を変速する遊星歯車式減速機12Aが設けられ、右後輪RWrと電動機2Bとの間の動力伝達経路上には右車輪RWr及び電動機2Bの回転を変速する遊星歯車式減速機12Bが設けられ、遊星歯車式減速機12Aは、動力伝達経路上においてシンクロメッシュ機構60Aよりも電動機2A側で、且つ、車幅方向でシンクロメッシュ機構60Aと電動機2Aとの間に配設され、遊星歯車式減速機12Bは、動力伝達経路上においてシンクロメッシュ機構60Bよりも電動機2B側で、且つ、車幅方向でシンクロメッシュ機構60Bと電動機2Bとの間に配設されるので、動力遮断時に後輪Wrと一体に回転する部材を減らすことで走行抵抗を低減することができる。
【0103】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
なお、本実施形態の駆動装置1は、電動機2A、2Bと車軸10A、10Bの動力伝達上にそれぞれシンクロメッシュ機構60A、60Bを設け、左後輪LWrと右後輪RWrをそれぞれ独立して駆動可能としたが、これに限定されず、図14に示すように1つの電動機2Cと1つのシンクロメッシュ機構60Cを不図示の差動装置に接続して1つの電動機2Cで車軸10A、10Bを介して車輪Wrを駆動する構成にしてもよい。なお、電動機2Cは電動機2A又は電動機2Bと、シンクロメッシュ機構60Cはシンクロメッシュ機構60A又はシンクロメッシュ機構60Bと実質的に同一の構成を有する。その他、図14中、上記実施形態と同一又は同等の構成部分には同一又は同等符号を付して説明を省略した。
【0104】
また、本実施形態では、断接機構としてシンクロメッシュ機構60A、60Bを例示したが、これに限定されず、ドグクラッチ機構等を用いてもよい。
【0105】
また、本実施形態では、回動部材73を駆動する駆動源として電動モータ72を例示したが、電動に限定されるものではない。
【0106】
また、本実施形態では、変速機構として遊星歯車式減速機12A、12Bを例示したが、これに限定されず、他の変速機構である増速機であってもよい。また、駆動装置1は、必ずしも減速機や増速機を備える必要はない。
【0107】
また、本実施形態では、電動機出力軸16A、16Bと車軸10A、10Bを同心状に配置したが、これに限定されず、電動機出力軸16A、16Bと車軸10A、10Bを別軸として構成してもよい。
【0108】
また、本実施形態では、駆動装置1を内燃機関4を備える車両3、いわゆるハイブリッド車両に適用したが、これに限定されず内燃機関を備えていない電気自動車等にも適用することができる。また、駆動装置1を車両3の後輪駆動用に適用したが、前輪駆動用に適用してもよい。この場合、駆動装置1を車両3の前後方向の中間位置よりも前方側に偏倚して配設し、電動モータ72は電動機2A、2Bの後側に配設することが電動モータ72の保護の点で好ましい。
【符号の説明】
【0109】
1 車両用駆動装置
2A、2B、2C 電動機
3 車両
10A、10B 車軸
12A、12B 遊星歯車式減速機
16A、16B 電動機出力軸
21 サンギヤ
22 プラネタリギヤ
23 プラネタリキャリア
24 リングギヤ
26 第1ピニオンギヤ(大径側ピニオンギヤ)
27 第2ピニオンギヤ(小径側ピニオンギヤ)
31 車輪側係合部材
40 減速機ケース(ケース部材)
44 第1軸受部
44a 内側端面
44b 外側端面
45 第2軸受部
45a 底部
50 電動機側係合部材
60A、60B、60C シンクロメッシュ機構
70 シンクロメッシュ機構駆動装置
71 シンクロスリーブ
72 電動モータ
73 回動部材
74A、74B 並進部材
75 運動変換機構
76 棒状部
76a 内側端部
76b 外側端部
77 シフトフォーク(腕部)
77a 内側端面
Wr 後輪
LWr 左後輪
RWr 右後輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪を駆動する電動機と、
前記車輪と前記電動機との間の動力伝達経路上に設けられ、動力伝達状態と動力遮断状態とを切り替え可能な断接機構と、
前記断接機構を駆動する断接機構駆動装置と、を備える車両用駆動装置であって、
前記断接機構駆動装置は、回転運動をする回動部材と、直線運動をする並進部材と、前記回動部材に接続され前記回動部材を駆動する駆動源と、前記回動部材の回転運動を前記並進部材の直線運動に変換させる運動変換機構と、を備え、
前記駆動源によって前記回動部材を順方向に回転させることで、前記並進部材を一方側に移動させて前記断接機構を動力遮断状態とし、
前記駆動源によって前記回動部材を逆方向に回転させることで、前記並進部材を他方側に移動させて前記断接機構を動力伝達状態とすることを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記断接機構は、互いの回転軸線が平行に配置された電動機出力軸と車軸とに連結され、
前記並進部材の直線運動方向は、前記両回転軸線と平行であって、
前記回動部材の回転軸線方向は、前記直線運動方向と交差することを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記回動部材は、車両搭載時に前記回転軸線方向が地面に対し鉛直方向とならないように配設されることを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記電動機は、前記車両の前後方向の中間位置よりも前方側若しくは後方側に偏倚して配設され、
前記回動部材と前記駆動源は、前記電動機に対し前記偏倚方向とは反対側に配設されることを特徴とする請求項3に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記駆動源は、鉛直方向において前記駆動源の最下部が、前記電動機及び前記断接機構を収容するケース部材の最下部よりも高い位置となるように配設されることを特徴とする請求項4に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記並進部材は、前記運動変換機構に接続され前記直線運動方向に延びる棒状部と、一端側が前記棒状部に接続され他端側が前記断接機構に接続される腕部と、を有し、
前記棒状部と前記腕部との接続部近傍に、前記棒状部を軸支する第1軸受部が設けられ、
前記腕部が前記第1軸受部に当接することにより、前記並進部材の一方側への直線運動が規制されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記棒状部と前記腕部とは金属材料で形成されるとともに溶接によって接続され、前記溶接は、前記腕部の前記第1軸受部とは反対側にのみ行なわれることを特徴とする請求項6に記載の車両用駆動装置。
【請求項8】
前記運動変換機構は、前記並進部材の前記棒状部に接続され、
前記運動変換機構と前記棒状部との接続部は、前記第1軸受部に対し前記腕部の反対側に設けられ、
前記運動変換機構が前記第1軸受部に当接することにより、前記並進部材の他方側への直線運動が規制されることを特徴とする請求項6又は7に記載の車両用駆動装置。
【請求項9】
前記腕部に対し前記第1軸受部と反対側に前記棒状部の端部を軸支する第2軸受部が設けられ、
前記第2軸受部は、前記棒状部の端部が挿入可能に凹状に形成され、
前記第2軸受部の深さは、前記運動変換機構が前記第1軸受部に当接したときに前記棒状部の端部が前記第2軸受部の底部に当接しないように構成されることを特徴とする請求項8に記載の車両用駆動装置。
【請求項10】
前記車輪と前記電動機との間の前記動力伝達経路上には、前記車輪及び前記電動機の回転を変速する変速機構が設けられ、
前記変速機構は、前記動力伝達経路上において前記断接機構よりも前記電動機側に配設されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の車両用駆動装置。
【請求項11】
前記変速機構は、サンギヤ、プラネタリギヤ、及びリングギヤを有するプラネタリ機構を有し、
前記並進部材の少なくとも一部は、前記プラネタリギヤの公転軸線を通る断面視で前記プラネタリギヤとオーバーラップする位置で、且つ前記プラネタリギヤの公転軌道の最外部よりも外側となる位置に配設されることを特徴とする請求項10に記載の車両用駆動装置。
【請求項12】
前記プラネタリギヤは、2連ピニオンギヤから構成され、
前記リングギヤは、前記2連ピニオンギヤの小径側ピニオンギヤと噛合し、大径側ピニオンギヤの公転軌道の最外部よりも内側に配設されたことを特徴とする請求項11に記載の車両用駆動装置。
【請求項13】
車両の左車輪を駆動する第1電動機と、
車両の右車輪を駆動する第2電動機と、
前記左車輪と前記第1電動機との間の第1動力伝達経路上に設けられ、動力伝達状態と動力遮断状態とを切り替え可能な第1断接機構と、
前記右車輪と前記第2電動機との間の第2動力伝達経路上に設けられ、動力伝達状態と動力遮断状態とを切り替え可能な第2断接機構と、
前記第1断接機構と前記第2断接機構を駆動する断接機構駆動装置と、を備える車両用駆動装置であって、
前記断接機構駆動装置は、回転運動をする回動部材と、該回動部材の回転軸線に対し対称に配設され直線運動をする第1及び第2並進部材と、前記回動部材に接続され前記回動部材を駆動する駆動源と、前記回動部材の回転運動を前記第1及び第2並進部材の直線運動に変換させる運動変換機構と、を備え、
前記駆動源によって前記回動部材を順方向に回転させることで、前記第1並進部材を一方側に移動させ、且つ前記第2並進部材を他方側に移動させて、前記第1及び第2断接機構を動力遮断状態とし、
前記駆動源によって前記回動部材を逆方向に回転させることで、前記第1並進部材を他方側に移動させ、且つ前記第2並進部材を一方側に移動させて、前記第1及び第2断接機構を動力伝達状態とすることを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項14】
前記第1断接機構は、前記車両の車幅方向において前記第1電動機よりも前記第2電動機側に配設され、
前記第2断接機構は、前記車両の車幅方向において前記第2電動機よりも前記第1電動機側に配設され、
前記駆動源は、前記車幅方向で第1電動機と第2電動機との間に配設されることを特徴とする請求項13に記載の車両用駆動装置。
【請求項15】
前記第1断接機構は、互いの回転軸線が平行に配置された第1電動機出力軸と左車軸とに連結され、
前記第2断接機構は、互いの回転軸線が平行に配置された第2電動機出力軸と右車軸とに連結され、
前記第1電動機出力軸は中空状に形成されて、その内部を前記左車軸が挿通し、
前記第2電動機出力軸は中空状に形成されて、その内部を前記右車軸が挿通し、
前記第1電動機出力軸と前記左車軸と前記第1電動機が同心状に配設され、
前記第2電動機出力軸と前記右車軸と前記第2電動機が同心状に配設されたことを特徴とする請求項14に記載の車両用駆動装置。
【請求項16】
前記左車輪と前記第1電動機との間の前記第1動力伝達経路上には、前記左車輪及び前記第1電動機の回転を変速する第1変速機構が設けられ、
前記右車輪と前記第2電動機との間の前記第2動力伝達経路上には、前記右車輪及び前記第2電動機の回転を変速する第2変速機構が設けられ、
前記第1変速機構は、前記第1動力伝達経路上において前記第1断接機構よりも前記第1電動機側で、且つ、車幅方向で前記第1断接機構と前記第1電動機との間に配設され、
前記第2変速機構は、前記第2動力伝達経路上において前記第2断接機構よりも前記第2電動機側で、且つ、車幅方向で前記第2断接機構と前記第2電動機との間に配設されることを特徴とする請求項15に記載の車両用駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2011−208704(P2011−208704A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75760(P2010−75760)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】