説明

高周波電力増幅器および携帯型無線端末

【課題】動作時の出力低下が少なく、熱雑音の影響が少なく、高周波動作が安定で、かつ信頼性に優れた高周波電力増幅器および携帯型無線端末を提供することを可能にする。
【解決手段】半導体基板上に並列に配置され、それぞれがソース電極、ゲート電極、およびドレイン電極を有する複数のMOSトランジスタと、前記複数のMOSトランジスタのうち隣接するMOSトランジスタ間に設けられた短絡した導体からなる閉ループと、を備え、前記複数のMOSトランジスタのソース電極、ゲート電極、およびドレイン電極はそれぞれ並列に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電力増幅器および携帯型無線端末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯型の無線端末の送信回路には、化合物半導体を用いたトランジスタを最終増幅段とする高周波電力増幅器が多く用いられている。しかしながら、CMOSプロセスの微細化の進展とともに、ベースバンド部のデジタル回路のみならず、フロントエンド部の高周波アナログ回路についてもCMOSで実現しようとする努力が続けられており、一部ではすでに商品化されている。化合物半導体プロセスや、Si−Geプロセスと比較して、本来ロジック回路用に用いられている標準CMOS集積回路プロセスは、単位面積あたり比較的に安価であるという特徴がある。
【0003】
高周波用電力増幅器を安価なMOS型電界効果トランジスタで構成しようとする場合、化合物半導体ではあまり問題とはならなかった点で新たな問題が生じる。それは、Si基板上のMOSトランジスタの微細化プロセスの進展により初めて可能となったトランジスタの高密度配置により、従来よりも発熱の影響が顕在化することにより生じる。特に、高周波信号を大信号に増幅する場合、トランジスタで消費される電力も大きくなり、結果的に単位時間あたりの発熱量が増大する。
【0004】
微細化プロセスを活用することにより極めて小さい面積に配置されたMOSトランジスタが発熱すると、トランジスタのチャネル温度が上昇して、トランジスタの出力電力が低下し、さらに信頼性が大幅に劣化する。一般的に、チャネル温度の上昇は、MOSトランジスタに限った問題とは言えないが、特に、MOSトランジスタではプロセスの微細化の進展により、最も顕在化しやすい。
【0005】
チャネル幅が大きいトランジスタでは、大きな電流が流れるためにチャネルでの発熱量が大きく、その結果トランジスタのチャネル温度の上昇が著しい。ちなみに、N型MOSトランジスタのキャリアである電子の移動度、および飽和速度は温度の上昇とともに、小さくなることが知られている。
【0006】
従来、電力増幅器に用いられるチャネル幅の大きな電界効果トランジスタにおいては、例えば、特許文献1の図2に示されているように、櫛歯状にゲート電極が配置されることが多い。櫛歯状にゲート電極を配置することによって、電界効果トランジスタのレイアウト面積を小さくすることができる。一方、トランジスタの発熱によって生じる温度上昇を回避するために、トランジスタを複数に分割した場合には、上記特許文献1に記載されているように、複数のゲート電極とドレイン電極の間に閉ループが形成されて、発振を生じる場合があることが知られている。
【特許文献1】特開2001−274415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、MOSトランジスタによって高周波電力増幅器を構成する場合、微細プロセスにより作成されるMOSトランジスタ特有の問題として、チャネル温度が大幅に上昇し、出力電力の低下をもたらす。チャネル温度の上昇はまた、トランジスタの劣化を加速し、信頼性を損なう。
【0008】
上記問題を回避するために、トランジスタを複数に分割し、配置を疎らにして並列接続すると、トランジスタ間に閉ループが構成され、外部回路が発生する高周波磁場による電磁気ノイズや、寄生発振の原因となる。
【0009】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであって、動作時の出力低下が少なく、熱雑音の影響が少なく、高周波動作が安定で、かつ信頼性に優れた高周波電力増幅器および携帯型無線端末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様による高周波電力増幅器は、半導体基板上に並列に配置され、それぞれがソース電極、ゲート電極、およびドレイン電極を有する複数のMOSトランジスタと、前記複数のMOSトランジスタのうち隣接するMOSトランジスタ間に設けられた短絡した導体からなる閉ループと、を備え、前記複数のMOSトランジスタのソース電極、ゲート電極、およびドレイン電極はそれぞれ並列に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、動作時の出力低下が少なく、熱雑音の影響が少なく、高周波動作が安定で、かつ信頼性に優れた高周波電力増幅器および携帯型無線端末を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態を以下、図面を参照して説明する。
【0013】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による高周波電力増幅器を図1乃至図3を参照して説明する。本実施形態の高周波電力増幅器は、複数のN型MOS型トランジスタ1を備えており、これらのトランジスタ1のレイアウトを図1に示す。図2は図1に示す切断線A−Aで切断した断面図、図3は、図2に示したこれらのトランジスタ1の等価回路を示す図である。
【0014】
これらのトランジスタ1は、P型の半導体基板、例えばP型のシリコン基板2に形成されている。本実施形態の高周波電力増幅器は、図3の等価回路に示したように、大きなドレイン電流を流すことができるように、複数のトランジスタ1を並列接続することにより構成されている。各トランジスタ1は、素子分離領域3によって分離された素子領域4に形成されている。そして、各トランジスタ1は、素子領域4に離間して形成されたN型のソース領域6およびドレイン領域5と、ソース領域6とドレイン領域5との間の素子領域4上に形成されたゲート絶縁膜7と、このゲート絶縁膜7上に形成されたゲート電極12と、ソース領域6およびドレイン領域5にそれぞれ接続されるソース電極14およびドレイン電極13と、を備えている。各トランジスタ1のゲート電極12、ドレイン電極13、およびソース電極14は、複数のトランジスタの配列された方向に延在する、ゲート電極配線12A、ドレイン電極配線13A、ソース電極配線14Aにそれぞれ接続されている。
【0015】
MOS型トランジスタでは、一般的にゲート電極の抵抗が高いため、一本のゲート電極を長くすることは、特に高速動作させる上で不利となる。そこで、チャネル幅Wの大きなトランジスタを実現するために、ゲート電極を分割し、複数のトランジスタを並列接続する必要がある。本実施形態では、発熱の影響を抑制するために、並列接続された個々のトランジスタは、隣接するトランジスタとの間が、素子分離領域3によって一定の間隔で隔てられている。素子分離領域3は、半導体基板2上に設けられた絶縁膜により形成されている。この絶縁膜の材料としては一般に二酸化珪素(SiO)が用いられている。
【0016】
本実施形態ではまた、隣接して配置されたトランジスタとトランジスタを隔てる素子分離領域3上に、ゲート電極と同一の材料層あるいは金属配線層の少なくとも一方により形成される短絡された閉ループ17が配置されている。この閉ループ17は、できる限りトランジスタに近接して配置されることが好ましい。またこの閉ループ17は、抵抗20を介して、定電圧源に接続される。本実施形態では、コンタクト18を介してP型基板2に接続されている。ここでは、コンタクト部18のコンタクト抵抗、P型基板2の基板抵抗を利用している。また、本実施形態においては、閉ループ17を挟んで隣接して配置されたトランジスタにおいては、閉ループ17に最も近接する電極は、異なる電極となっている。すなわち、閉ループ17に最も近接する電極としては、隣接して配置されたトランジスタのうち一方トランジスタにおいては、ドレイン電極であるなら、他方のトランジスタにおいてはソース電極となっており、上記一方のトランジスタにおいてはソース電極であるならば、他方のトランジスタにおいてもドレイン電極となっている。しかし、閉ループ17を挟んで隣接して配置されたトランジスタにおいては、閉ループ17に最も近接する電極は、同種の電極となっていてもよい。
【0017】
次に、本実施形態の比較例による高周波電力増幅器を図4乃至図6に示す。図4は比較例の高周波電力増幅器のMOS型トランジスタの平面図、図5は図4の切断線B−Bで切断したときの断面図を示す。また図6は、図4に示したトランジスタの等価回路である。
【0018】
この比較例の高周波電力増幅器も複数のN型MOSトランジスタを有している。そして、これらのトランジスタも、P型シリコン基板2に形成されている。また、図6の等価回路に示したように、大きなドレイン電流を流すことができるように、並列接続されている点も第1実施形態と同様である。各トランジスタは素子領域4に形成されている。そして、各トランジスタは、素子領域4に離間して形成されたN型のソース領域6およびドレイン領域5と、ソース領域6とドレイン領域5との間の素子領域4上に形成されたゲート絶縁膜7と、このゲート絶縁膜7上に形成されたゲート電極12と、ソース領域6およびドレイン領域5にそれぞれ接続されるソース電極14およびドレイン電極13と、を備えている。各トランジスタのゲート電極12、ドレイン電極13、およびソース電極14は、複数のトランジスタの配列された方向に延在する、ゲート電極配線12A、ドレイン電極配線13A、ソース電極兵船14Aにそれぞれ接続されている。
【0019】
比較例では、隣接して配置されたトランジスタどうしが、ソース領域あるいはドレイン領域のどちらかを共有している。したがって、本実施形態と異なり、トランジスタ間は素子分離領域によって分離されていない。したがって、第1実施形態の閉ループを設ける余地はない。このようなレイアウト配置は、従来の高周波用CMOSにおいて一般的に用いられており、トランジスタの設置面積を節約することができるという利点を有する。
【0020】
次に、本実施形態と比較例のトランジスタの動作温度と出力特性を比較する。ここでは、トータルのチャネル幅Wが約3000μmであるとして、室温Tでは約4Wの電力Qをトランジスタで消費するものとする。この消費電力は、熱エネルギーに変換されるので、トランジスタの温度は上昇する。温度が上昇すると、例えば電子の移動度が低下するため、トランジスタの出力は低下する。
【0021】
ここでは、トランジスタにおいて単位時間あたりの発熱量をQとすると、Qの温度依存性は次のような式で表すことができる。
【数1】

【0022】
ここで、Iはドレイン電流で温度の関数、Vはドレイン電圧で温度には依存しないものとする。また、ドレイン電流Iは移動度μに比例し、ドレイン電流Iの温度変化の原因は、主として移動度μの温度変化に起因するものと仮定する。移動度μは温度に対して次のように変化することが知られている。
【数2】

【0023】
発熱量Qの温度依存性を図7に示した。ここでは、温度依存性を表す定数μTEを−1.335とした。室温における発熱量Qが約4Wであっても、温度が上昇するに連れて、移動度μが低下するためドレイン電流Iが減少し、発熱量Qも低下する。同じプロセスを用いる限り、発熱量Qはトランジスタのチャネル幅Wのみに依存して、レイアウト密度には依存しないので、図7に示した発熱量の温度依存性を示す曲線は、第1実施形態と比較例とでは共通であると考えられる。
【0024】
次に、排熱特性について調べる。トランジスタで発熱した熱は、主にシリコン基板を伝わって外部に排出される。シリコンの熱伝導率λは、148W/mKであることが知られている。比較例の場合、図4、図5に示したようにチャネル幅W=3000μmのトランジスタを緻密に配置すると、およそ8900μmの面積Aにトランジスタをレイアウトすることができる。また、シリコン基板の厚さdを0.5mmとする。これらの値を用いて、熱抵抗Rは次の式で見積もることができる。
【数3】

【0025】
比較例の場合、熱抵抗が約380K/Wという値が得られる。この熱抵抗を用い、図7に比較例の排熱特性を示した。発熱量と排熱量がちょうど釣り合った点で、定常状態に達すると考えられる。比較例の場合、約465℃で、このときの消費電力は約1.15Wである。
【0026】
これに対して、第1実施形態においては、同じチャネル幅Wのトランジスタを、図1および図2に示したような配置により68000μmの面積にレイアウトすることができる。比較例の場合と同じ式を用いて、本実施形態の熱抵抗を見積もると約50K/Wとなる。図7に本実施形態の場合の排熱特性も示した。発熱量と排熱量がちょうど釣り合った定常状態では、本実施形態の場合、約150℃で、このときトランジスタの消費電力は約2.46Wである。
【0027】
以上の結果をまとめると、同じチャネル幅Wのトランジスタであるにも関わらず、第1実施形態と比較例との間には、下の表1に示したように違いが生じる。
【表1】

【0028】
この表より、本実施形態においては、レイアウト面積が大きいという欠点があるが、動作温度が低く、消費電力が大きい。比較例においては、レイアウト面積が小さいという特長があるが、動作温度が高く、消費電力が小さい。動作温度は、トランジスタの信頼性を支配する要因であることが知られており、動作温度が高いほど、短い時間で破壊に達する。したがって、トランジスタの信頼性という観点から、動作温度は低いことが好ましい。したがって、信頼性の確保の観点から、一定以上のレイアウト面積が必要であると考えられる。また、トランジスタのチャネル温度が高いと、熱雑音が発生する。信号と雑音の比率を大きく取るためにも、トランジスタの動作温度は低いことが好ましい。
【0029】
また、高周波電力増幅器においては、直流電圧源から投入される電力と高周波入力電力の和と、高周波出力電力の比をもって、電力付加効率が定義されている。携帯機器においては、電力源として電池が用いられる関係で、電力付加効率が高い高周波電力増幅器が要求されている。電力付加効率は、主に回路形式に支配され、利用されない電力の大部分はトランジスタにおいて消費される。仮に電力効率が一定の増幅器で用いると仮定した場合、消費電力が大きいトランジスタを増幅器に用いることにより、高周波出力電力をも大きくすることができる。
【0030】
以上述べたように、本実施形態に係るトランジスタは、比較例に係るトランジスタと比べて、高周波電力増幅器用として用いた場合、信頼性、低雑音、出力電力が優れている。
【0031】
ところで、本実施形態に示したような複数に分割したトランジスタを高周波電力増幅器に用いると、高周波において予期しない寄生発振が生じることが知られている。例えば、特開2004−336445号公報には、高出力電力増幅器用トランジスタにおいて解決すべき課題として、多数のトランジスタを並列結合する際、トランジスタ間に形成される多数の閉ループにより生じる寄生発振(閉ループ発振)が生じることが記載されている。本実施形態の場合も、複数のトランジスタを離して配置し、トランジスタ間に多数の閉ループが形成されるため、高周波帯において予期しない寄生発振が生じる恐れがある。
【0032】
しかし、本実施形態においては、このような寄生発振を抑制する目的で、図1および図2に示したように、隣接して配置されたトランジスタとトランジスタの間に、短絡した閉ループ17が配置されている。この短絡した閉ループ17は、直流的にフローティング電位となることを防ぐため、少なくとも一箇所から、抵抗を介して一定電圧に接続されることが好ましい。
【0033】
この短絡された閉ループ17は、何らかの原因によりその中を磁束が貫こうとすると、その磁束を打ち消すように閉ループ電流が流れ、磁束を打ち消す。そのため、外部回路、もしくは、増幅器を構成するトランジスタの他の部分との磁束を介した結合を弱くすることができ、磁気的な結合を介した雑音や予期し得ない寄生発振を防ぐことができる。
【0034】
次に、短絡された閉ループ17の有無によって生じる差異について図8乃至図11を参照して説明する。図8は、本実施形態と同様に隣接するトランジスタ間に短絡閉ループ17を配置した場合のレイアウトとループ電流を示す図であり、図9は図8に示す切断線C−Cで切断した断面図である。また、図10は、短絡された閉ループを配置しなかった場合のレイアウトとループ電流を示す図であり、図11は図10に示す切断線D−Dで切断した断面図である。
【0035】
まず、図10に示すように、短絡された閉ループ17を設けない場合には、隣接するトランジスタ間にループ電流21が流れると、この電流21によって図11中、矢印で示した向きに磁束23が発生する。上記ループ電流21により発生する起電力Vは、このループがもつ自己インダクタンスをLとし、ループ電流21の値をIとすると、次の式で表すことができる。
【数4】

【0036】
次に、図8に示すように、隣接するトランジスタ間に短絡された閉ループ17を設けた場合、トランジスタが形成するループの自己インダクタンスをLとし、インダクタンス短絡された閉ループ17がもつ自己インダクタンスをLとし、この二つのループの間の相互インダクタンスをMとすると、これらの間には次の関係式が成立する。
【数5】

【0037】
ここで、kは二つのループ間の磁気的な結合の強さを示す結合係数である。また、短絡された閉ループ17にループ電流22が流れたときに発生する逆起電力Vは、トランジスタが形成するループに流れるループ電流21の値をI、閉ループ17に流れる電流22の値をIとすると、次の式で表される。
【数6】

【0038】
今、短絡された閉ループ17のループ抵抗が十分小さく、発生する逆起電力をV=0と見なすことができるならば、次の関係が得られる。
【数7】

【0039】
したがって、隣接するトランジスタ間に形成されるループに発生する逆起電力Vは、このループに流れるループ電流21によって次の式で表される。
【数8】

【0040】
この式は短絡された閉ループ17を設けた場合と、設けない場合とでは、同じループ電流Iの時間変化によって発生する逆起電力Vの大きさは、(1−k)倍となることを示している。したがって、二つのループ間の相互インダクタンスMが大きいほど、言い換えると二つのループ間の結合が強いほど、逆起電力の発生を抑制する効果が大きいことがわかる。この理由は、隣接するトランジスタが形成するループにループ電流21が流れると、図9中で実線の矢印で示した向きに磁束23が発生するが、同時に短絡された閉ループ17に誘導電流22が発生することによって、図9中の一点鎖線の矢印で示した向きに磁束24が発生して打ち消しあうためである。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、シリコン基板上に形成されたMOS型トランジスタに大きな電力を投入した際にチャネルで生じる発熱を、効率的に外部に排出するため、チャネル温度の上昇を抑制し、出力の低下を防ぎ、熱雑音の影響を抑制することができる。また、隣接するトランジスタ間に形成される閉ループに誘起される逆起電力や寄生発振を抑制して、安定に動作するとともに信頼性に優れた高周波電力増幅器を得ることができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による高周波電力増幅器を図12乃至図13を参照して説明する。本実施形態の高周波電力増幅器は、複数のN型MOS型トランジスタ40を備えており、これらのトランジスタ40のレイアウトを図12に示す。図13は図12に示す切断線A−Aで切断した断面図、図14は、図12および図13に示したこれらのトランジスタ40の等価回路を示す図である。
【0043】
本実施形態によるN型MOSトランジスタ40は、第1実施形態と同様、P型半導体基板、例えばP型シリコン基板2に形成されている。大きなドレイン電流を流すことができるように、複数のトランジスタ40を並列接続することにより構成されている。各トランジスタ40は、素子分離領域3によって分離された素子領域4に形成されている。そして、各トランジスタ40は、素子領域4に離間して形成されたN型のソース領域6およびドレイン領域5と、ソース領域6とドレイン領域5との間の素子領域4上に形成されたゲート絶縁膜7と、このゲート絶縁膜7上に形成されたゲート電極12と、ソース領域6およびドレイン領域5にそれぞれ接続されるソース電極14およびドレイン電極13と、を備えている。各トランジスタ40のゲート電極12、ドレイン電極13、およびソース電極14は、複数のトランジスタの配列された方向に延在する、ゲート電極配線12A、ドレイン電極配線13A、ソース電極配線14Aにそれぞれ接続されている。
【0044】
第2実施形態においても、発熱の影響を抑制するために、並列接続された個々のトランジスタ40は、隣接するトランジスタとの間が、素子分離領域3によって一定の間隔で隔てられている。
【0045】
また、第2実施形態においても、隣接して配置されたトランジスタとトランジスタの間には短絡された閉ループ17が配置されている。第1実施形態との違いは、短絡された閉ループ17がゲート電極12と同じ配線層により形成される点である。この閉ループ17は、一度ビア25を介して別の配線層に接続され、さらにコンタクト18を介してP型基板2に接続されている。
【0046】
また、本実施形態においては、閉ループ17を挟んで隣接して配置されたトランジスタにおいては、第1実施形態と異なり、閉ループ17に最も近接する電極は同種の電極となっている。すなわち、閉ループ17に最も近接する電極としては、隣接して配置されたトランジスタのうち一方トランジスタにおいては、ドレイン電極であるなら、他方のトランジスタにおいてもドレイン電極となっており、上記一方のトランジスタにおいてはソース電極であるならば、他方のトランジスタにおいてもソース電極となっている。しかし、第1実施形態と同様に、閉ループ17を挟んで隣接して配置されたトランジスタにおいては、閉ループ17に最も近接する電極は異種の電極となっていてもよい。
【0047】
第2実施形態においては、短絡された閉ループ17を、ゲート電極12と同じ配線層を用いて形成することにより、閉ループ17の一部分はドレイン電極13またはソース電極14に平行となるように、素子領域4に形成される。このため、閉ループ17は、できる限りトランジスタに近接して配置することが可能となる。これにより、短絡された閉ループ17と、隣接するトランジスタ間に形成されるループとの間の相互インダクタンスMを大きくすることができ、磁気的な結合係数kを大きくすることができる。そのため、閉ループにループ電流が流れた場合に発生する逆起電力を大幅に低減することができる。
【0048】
また、第1実施形態と比較すると、第2実施形態では、トランジスタのチャネル部分を素子分離領域3から離して配置することが可能となる。これにより、素子分離領域3を形成するプロセスにおいて素子領域4に生じる応力がトランジスタ特性に与える影響を低減することができる。
【0049】
また、第2実施形態における一つの短絡された閉ループ17に着目すると、その両側に配置されたトランジスタのソースどうし、もしくはドレインどうしと接するように配置されている。図14(a)、(b)は、第2実施形態のレイアウト配置による効果を示す等価回路である。図14(a)は第2実施形態のレイアウト配置により、短絡された閉ループ17が、その両側に配置されたトランジスタのソースのみに近接するように配置した場合、図14(b)は第2実施形態の配置とは異なり、短絡された閉ループ17が、その両側に配置されたトランジスタのうち一方にはソースに近接し、他方はドレインに近接するように配置した場合の等価回路である。ともに、短絡された閉ループ17は、接地電位に対して抵抗20を介して接続されている。図14(b)に示した配置の場合、一方のトランジスタのドレイン電位が高周波信号により高速に変動した場合、その影響が寄生容量を介して隣接するトランジスタのソース電位に伝えられる恐れがある。これに対して、図14(a)に示した第2実施形態の配置の場合には、寄生容量を介した結合が、隣接するトランジスタのソース同士、あるいはドレイン同士を接続するため、高周波信号による電位変動の影響を受けにくい。
【0050】
本実施形態も第1実施形態と同様に、シリコン基板上に形成されたMOS型トランジスタに大きな電力を投入した際にチャネルで生じる発熱を、効率的に外部に排出するため、チャネル温度の上昇を抑制し、出力の低下を防ぎ、熱雑音の影響を抑制することができる。また、隣接するトランジスタ間に形成される閉ループに誘起される逆起電力や寄生発振を抑制して、安定に動作するとともに信頼性に優れた高周波電力増幅器を得ることができる。
【0051】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態による高周波電力増幅器を図15乃至図16を参照して説明する。本実施形態の高周波電力増幅器は、複数のN型MOS型トランジスタ50を備えており、これらのトランジスタ50のレイアウトを図15に示す。図16は図15に示す切断線A−Aで切断した断面図である。
【0052】
本実施形態によるN型MOSトランジスタ50は、第1実施形態と同様、P型半導体基板、例えばP型シリコン基板2に形成されている。大きなドレイン電流を流すことができるように、複数のトランジスタ50を並列接続することにより構成されている。各トランジスタ50は、素子領域4に形成されている。そして、各トランジスタ1は、素子領域4に離間して形成されたN型のソース領域6およびドレイン領域5と、ソース領域6とドレイン領域5との間の素子領域4上に形成されたゲート絶縁膜7と、このゲート絶縁膜7上に形成されたゲート電極12と、ソース領域6およびドレイン領域5にそれぞれ接続されるソース電極14およびドレイン電極13と、を備えている。各トランジスタ50のゲート電極12、ドレイン電極13、およびソース電極14は、複数のトランジスタの配列された方向に延在する、ゲート電極配線12A、ドレイン電極配線13A、ソース電極配線14Aにそれぞれ接続されている。
【0053】
第3実施形態においても、発熱の影響を抑制するために、並列接続された個々のトランジスタ50は、隣接するトランジスタとの間が一定の間隔で隔てられ、隣接するトランジスタ間に短絡された閉ループ17が設けられている。第1および第2実施形態においては、隣り合うトランジスタとトランジスタの間に素子分離領域が設けられ、電気的に分離されていたが、第3実施形態においては、短絡された閉ループ17はダミーのゲート電極からなっており、このダミーのゲート電極17のみにより分離されている。ダミーのゲート電極17は、ゲート電極12と同じ層で形成されており、チャネルがONしないよう一定電位に保たれている。これにより、隣り合うトランジスタは、素子分離領域を設けていないにも関わらず、電気的には分離されている。
【0054】
なお、本実施形態においては、閉ループ17を挟んで隣接して配置されたトランジスタにおいては、第2実施形態と同様に、閉ループ17に最も近接する電極は同種の電極となっている。すなわち、閉ループ17に最も近接する電極としては、隣接して配置されたトランジスタのうち一方トランジスタにおいては、ドレイン電極であるなら、他方のトランジスタにおいてもドレイン電極となっており、上記一方のトランジスタにおいてはソース電極であるならば、他方のトランジスタにおいてもソース電極となっている。しかし、閉ループ17を挟んで隣接して配置されたトランジスタにおいては、第1実施形態と同様に、閉ループ17に最も近接する電極は異種の電極となっていてもよい。
【0055】
一般に素子分離領域の材料にはSiOが用いられているが、SiOの熱伝導率は、シリコン単結晶と比較して1/100以下である。このため、SiOからなる素子分離領域を設けないほうが、放熱の観点からは優れている。したがって、第3実施形態に係るトランジスタは、高周波電力増幅器のトランジスタとして、第1および第2実施形態に係るトランジスタよりもさらに信頼性、低雑音、出力電力が優れていることが期待される。
【0056】
第3実施形態においても、隣接して配置されたトランジスタとトランジスタの間には短絡された閉ループが配置されているが、第2実施形態との構成上の違いは、短絡された閉ループが素子を分離するために設けられたダミーゲート電極17を兼ねている点である。また、閉ループ17の内部には、その直下に設けられたN型拡散層29に接続された複数のループ内コンタクト27が設けられている。このループ内コンタクト27には金属配線が接続されており、この金属配線を介してトランジスタから発生した熱を拡散層29を介して外部に放出しやすくなる。また、ループ内コンタクト27には一定の電位が印加されているとともに、ループ内コンタクト27は格子状に配列されている。
【0057】
本実施形態も第1実施形態と同様に、シリコン基板上に形成されたMOS型トランジスタに大きな電力を投入した際にチャネルで生じる発熱を、効率的に外部に排出するため、チャネル温度の上昇を抑制し、出力の低下を防ぎ、熱雑音の影響を抑制することができる。また、隣接するトランジスタ間に形成される閉ループに誘起される逆起電力や寄生発振を抑制して、安定に動作するとともに信頼性に優れた高周波電力増幅器を得ることができる。
【0058】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態による携帯型無線端末の送信回路のブロック図を図17に示す。本実施形態の携帯型無線端末は、第1乃至第3実施形態のいずれかの電力増幅器を備えている。この送信回路では、図示しないベースバンド回路から直交デジタル信号IとQを受け取り、局所発振器LOのミキサMIX1、MIX2において位相が90度異なるように高周波信号により変調される。そして、この変調された信号が加算器ADで加算された後、バンドパスフィルタBPFを通過する。バンドパスフィルタBPFを通過した信号は電力増幅器PAにより増幅され、アンテナANTから電磁波として輻射される。電力増幅器PAとして、第1乃至第3実施形態のいずれかの電力増幅器が用いられる。
【0059】
以上説明したように、第1乃至第3実施形態のいずれかの高周波電力増幅器を用いることにより、熱雑音の影響が少なく、高周波動作が安定で、かつ信頼性に優れた携帯型無線端末を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】第1実施形態による高周波電力増幅器に係るMOSトランジスタのレイアウトを示す図。
【図2】第1実施形態による高周波電力増幅器に係るMOSトランジスタの断面図。
【図3】第1実施形態による高周波電力増幅器に係るMOSトランジスタの等価回路図。
【図4】第1実施形態の比較例に係るMOSトランジスタのレイアウトを示す図。
【図5】比較例に係るMOSトランジスタの断面図。
【図6】比較例に係るMOSトランジスタの等価回路図。
【図7】第1実施形態と比較例における熱の収支と出力電力の関係を示す図。
【図8】短絡された閉ループがある場合のレイアウトとループ電流を示す図。
【図9】図8に示す切断線C−Cで切断した断面における発生される磁束を示す図。
【図10】短絡された閉ループがない場合のレイアウトとループ電流を示す図。
【図11】図10に示す切断線D−Dで切断した断面における発生される磁束を示す図。
【図12】第2実施形態による高周波電力増幅器に係るMOSトランジスタのレイアウトを示す図。
【図13】第2実施形態による高周波電力増幅器に係るMOSトランジスタの断面図。
【図14】第2実施形態による高周波電力増幅器に係るMOSトランジスタの等価回路図。
【図15】第3実施形態による高周波電力増幅器に係るMOSトランジスタのレイアウトを示す図。
【図16】第3実施形態による高周波電力増幅器に係るMOSトランジスタの断面図。
【図17】第4実施形態による携帯型無線端末の送信回路のブロック図。
【符号の説明】
【0061】
1 N型MOSトランジスタ
2 P型半導体基板
3 素子分離領域
4 素子領域
5 ドレイン領域
6 ソース領域
7 ゲート絶縁膜
12 ゲート電極
13 ドレイン電極
14 ソース電極
17 短絡された閉ループ
18 基板コンタクト
20 抵抗
21 隣接トランジスタ間を流れるループ電流
22 短絡された閉ループを流れるループ電流
23 隣接トランジスタ間を流れるループ電流により発生する磁束
24 短絡された閉ループを流れるループ電流により発生する磁束
25 短絡された閉ループと基板コンタクト間を接続するための配線用ビア
26 短絡された閉ループとソース間、あるいは短絡された閉ループとドレイン間の寄生容量
27 ループ内コンタクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に並列に配置され、それぞれがソース電極、ゲート電極、およびドレイン電極を有する複数のMOSトランジスタと、
前記複数のMOSトランジスタのうち隣接するMOSトランジスタ間に設けられた短絡した導体からなる閉ループと、
を備え、前記複数のMOSトランジスタのソース電極、ゲート電極、およびドレイン電極はそれぞれ並列に接続されていることを特徴とする高周波電力増幅器。
【請求項2】
前記閉ループは抵抗を介して定電圧源に接続されたことを特徴とする請求項1記載の高周波電力増幅器。
【請求項3】
前記複数のMOSトランジスタはそれぞれ素子分離領域によって分離された素子領域に形成され、前記閉ループは前記素子分離領域に形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の高周波電力増幅器。
【請求項4】
前記複数のMOSトランジスタはそれぞれ素子分離領域によって分離された素子領域に形成され、前記閉ループは一部分が前記素子領域に形成され残りの部分が前記素子分離領域に形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の高周波電力増幅器。
【請求項5】
前記複数のMOSトランジスタは同一の素子領域に形成され、前記閉ループは一部分がダミーのゲート電極であることを特徴とする請求項1または2記載の高周波電力増幅器。
【請求項6】
上記閉ループの少なくとも一部は上記複数のMOSトランジスタのゲート電極と同じ配線層で形成されることを特徴とする請求項4または5記載の高周波電力増幅器。
【請求項7】
前記閉ループに最も近接して配置される、隣接するMOSトランジスタの電極は、ソース電極またはドレイン電極であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の高周波電力増幅器。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の電力増幅器を送信回路に備えたことを特徴とする携帯型無線端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−244094(P2008−244094A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81705(P2007−81705)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】